説明

電極の製造方法及びこれを用いたリチウムイオン二次電池の製造方法

【課題】容量維持率が低下させることなく単位面積当たりの容量(Ah/cm)を向上させ得る電極の製造方法を提供する。
【解決手段】集電体及び前記集電体上に設けられた複数本の凸状の線状活物質部で形成された活物質層を有する電極の製造方法であって、(1)集電体の面上に幅W及び高さH1〜n(nは2以上の整数)を有する複数本の略平行な凸状の線状活物質部を間隔Sで形成して得た電極と、対極と、電解質層と、を積層した構造を有するテストセルn個を作製するテストセル作製工程と、(2)工程(1)で作製した前記テストセルn個の容量維持率を測定し、最も高い容量維持率を有するテストセルの線状活物質部の高さを最適高さHxと決定する最適高さ決定工程と、(3)集電体の面上に幅W及び高さHxを有する複数本の略平行な凸状の線状活物質部を形成して電極を作製する電極作製工程と、を有する電極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の製造方法及びこれを用いたリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正極、負極、電解質(電解液)及びセパレータ等で構成されているリチウムイオン二次電池は、軽量、大容量かつ高速充放電可能であるため、現在、ノートパソコンや携帯電話等のモバイル機器や自動車等の分野において広く普及しているが、更なる大容量化及び高速充放電のために、様々な研究がなされている。
【0003】
この大容量化及び高速充放電のためには、正極及び負極にそれぞれ含まれる正極活物質及び負極活物質と電解質との反応が律速となるところ、電解質のリチウムイオン伝導度が低いため、正極と負極との間隔をできるだけ狭く、かつ、正極及び負極の電極面積をできるだけ大きくすること、特に正極活物質及び負極活物質と電解質との接触面積を増大させることが重要である。
【0004】
この点に着目し、例えば、特許文献1(特開2011−70788号公報)においては、低コスト、高安全性、高エネルギー密度・高出力を実現する全固体電池構造を提供することを意図して、凹凸構造を有する活物質層を含む3次元構造の電極を有する全固体電池の製造方法が提案されている。
【0005】
即ち、上記特許文献1においては、基材の表面に第1の活物質を含む塗布液を塗布して所定の凹凸パターンを有する第1活物質層を形成する第1活物質層形成工程と、前記第1活物質層形成工程の後に、前記基材の表面に前記第1活物質層が積層されてなる積層体の表面に高分子電解質を含む塗布液を塗布して、該積層体表面の前記凹凸パターンに略追従した凹凸を有する固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程と、固体電解質層形成工程の後に、前記固体電解質層の表面に第2の活物質を含む塗布液を塗布して、前記固体電解質層と接する面と反対側の面が略平坦な第2活物質層を形成する第2活物質層形成工程とを備えることを特徴とする全固体電池の製造方法が提案されている(特許文献1、請求項1等を参照)。
【0006】
そして、凹凸パターンを有する活物質層の形成については、具体的には、活物質を含む塗布液をノズルから吐出させて基材である集電体の表面に塗布して凹凸パターンを有する活物質層を形成する方法が提案されている。
【0007】
このようなノズルディスペンス方式による塗布技術は研究が進んでおり、塗布液の組成を適宜調整した上で、基材表面に対してノズルを所定方向に相対移動させて、ライン状に塗布液を基材表面に塗布する。このような構成によれば、ラインの幅や高さの安定したパターンを形成することが可能であり、良好な性能を有する電池を安定して製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−70788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のような特許文献1において得られる電池においては、単位面積当たりの容量(Ah/cm)を向上させるには、単純に考えれば、塗布液の塗布量を増大させてラインの幅及び高さをそれぞれ大きくすればよいが、充放電特性に関する容量維持率が低下してしまうという問題がある。
【0010】
これに対し、本発明者は、幅を変えずに高さを大きくすることで、容量を増加させながら容量維持率を低下させないことができるとの知見を得た。なお、本発明者らは、ライン(活物質層)の高さによる電池の内部抵抗の変化が比較的小さいことを実験で確認している。そこで、本発明の目的は、最終的に得られる電池において、容量維持率を低下させることなく単位面積当たりの容量(Ah/cm)を向上させ得る電極の製造方法を提供することにある。更に本発明の目的は、かかる電極の製造方法を用いたリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、
集電体及び前記集電体上に設けられた複数本の凸状の線状活物質部で形成された活物質層を有する電極の製造方法であって、
(1)集電体の面上に幅W及び高さH1〜n(nは2以上の整数)を有する複数本の略平行な凸状の線状活物質部を間隔Sで形成して得た電極と、対極と、電解質層と、を積層した構造を有するテストセルn個を作製するテストセル作製工程と、
(2)前記工程(1)で作製した前記テストセルn個の容量維持率を測定し、最も高い容量維持率を有するテストセルの線状活物質部の高さを最適高さHxと決定する最適高さ決定工程と、
(3)集電体の面上に幅W及び高さHxを有する複数本の略平行な凸状の線状活物質部を形成して電極を作製する電極作製工程と、
を有することを特徴とする電極の製造方法を提供する。
【0012】
このような構成を有する本発明の電極の製造方法によれば、凸状の線状活物質部で構成された凹凸構造パターンの活物質層を有する電極において、線状活物質部の幅を変化させずに高さのみを増大させることにより、容量維持率を低下させずに単位面積当たりの容量を増大させることができる。かかる本発明の電極の製造方法は、線状活物質部の幅が規定されている場合に、規格容量に応じて線状活物質部の高さを決定する方法として好適である。
【0013】
また、本発明は、上記本発明の電極の製造方法を用いた電池の製造方法にも関する。具体的には、本発明は、
上記本発明の電極の製造方法により第1電極を得る第1電極形成工程と、
第2集電体の面上に複数本の略平行な凸状の線状第2活物質部を形成して第2電極を得る第2電極形成工程と、
前記第1活物質部と前記第2活物質部とが対向するように、セパレータを介在させて前記第1電極と前記第2電極とを積層して積層体を得る積層体形成工程と、
前記第1電極と前記第2対極との間に電解液を充填するとともに前記セパレータに前記電解液を含浸させる電解液充填工程と、
を有すること、
を特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法を提供する。
【0014】
このような構成を有する本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法によれば、凸状の線状活物質部で構成された凹凸構造パターンの活物質層を有する電極において、線状活物質部の幅を変化させずに高さのみを増大させることにより、リチウムイオン二次電池の容量維持率を低下させずに単位面積当たりの容量を増大させることができる。かかる本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、線状活物質部の幅が規定されていて、規格容量に応じて線状活物質部の高さを決定しなければならない場合に、好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、最終的に得られる電池において、容量維持率をあまり低下させることなく単位面積当たりの容量(Ah/cm)を向上させ得る電極の製造方法、及び当該電極の製造方法を用いたリチウムイオン二次電池の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の電極の製造方法の一実施形態において作製したコイン型のテストセルの構造を示す一部断面概略側面図である。
【図2】図1に示すテストセル1において、ノズルディスペンス法により凸状負極活物質部12aからなる負極活物質層12を形成して負極Aを形成する様子を示す模式図である。
【図3】テストセル1及び2並びに参考セル1及び2を0.1Cから5CまでのCレートの範囲で充放電した場合の容量維持率(%)を示すグラフである。
【図4】テストセル1、3及び4を0.1Cから10CまでのCレートの範囲で充放電した場合の容量維持率(%)を示すグラフである。
【図5】テストセル5〜8を0.1Cから100CまでのCレートの範囲で充放電した場合の容量維持率(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の電極の製造方法の一実施形態について説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略することもある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために、必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もある。
【0018】
本実施形態では、図1に示す構造のコイン型のリチウムイオン二次電池をテストセルとして複数個作製し、線状負極活物質部の最適高さを決定し、この最適高さを有する線状負極活物質部を有する負極を製造する場合について説明する。
【0019】
(1)テストセル作製工程
本実施形態においては、図1に示すリチウムイオン二次電池からなるn(nは2以上の整数)個のテストセル1を作製する。図1は、本発明の負極の製造方法の一実施形態において作製したコイン型のテストセル1の構造を示す一部断面概略側面図である。
【0020】
このテストセル1を作製するためには、まず、負極集電体10の面上に幅W及び高さHを有する複数本の略平行な凸状の線状負極活物質部12aからなる負極活物質層12を形成して得た負極Aと、対極である正極Cと、を、セパレータ20を介在させて積層し、負極Aと正極Cとの間に電解液(図示せず)を充填するとともにセパレータ20に電解液を含浸させて電解質層を形成する。これにより、負極A、セパレータ20を含む電解質層及び正極が積層された構成を有するテストセル1を作製する。
【0021】
負極Aは、負極集電体10の面上に、いわゆるノズルディスペンス法により、複数本の略平行な凸状の線状負極活物質部12aを間隔Sで形成して線状負極活物質部12aからなる負極活物質層12を形成することによって得る。図2は、図1に示すテストセル1において、ノズルディスペンス法により凸状負極活物質部12aからなる負極活物質層12を形成して負極Aを形成する様子を示す模式図である。
【0022】
図2の(a)は、ノズルディスペンス法によって負極活物質層12を構成する線状負極活物質部12aが形成される様子を模式的に示す側面図(即ち、負極集電体10の主面に対して略平行なX方向からみた場合にみえる図)であり、図2の(b)は、ノズルディスペンス法によって負極活物質層12を構成する線状負極活物質部12aが形成される様子を模式的に示す斜視図である。
【0023】
線状負極活物部12aは、図2に示すように、例えば(ア)負極活物質を含む負極活物質材料(塗布液)を間隔Sで線状に吐出するノズルを負極集電体10に対して相対移動させ、負極集電体10上に負極活物質材料からなる複数本の凸状の線状負極活物質部12aを形成する塗布工程(即ち、ノズルディスペンス法を用いた塗布工程)、及び、(イ)線状負極活物質部12aを乾燥させる乾燥工程により形成することができる。
【0024】
より具体的には、上記(ア)の塗布工程では、図2の(a)に示すように、負極集電体10を矢印Yの方向に搬送させることにより、ノズル40を負極集電体10に対して相対移動させる。搬送される負極集電体10の表面には、ノズル40から、ペースト状乃至はスラリー状の負極活物質材料が線状負極活物質部12aを形成するように吐出される。本実施形態においては、ノズル40の位置は固定されており、負極集電体10が搬送されることにより、ノズル40が負極集電体10に対して相対移動される。
【0025】
本実施形態では、塗布液である負極活物質材料を吐出するための吐出口が複数設けられたノズル40を、負極集電体10上方に配置し、その吐出口から一定量の負極活物質材料を吐出させながら、負極集電体10をノズル40に対して相対的に矢印Yの方向に一定速度で搬送させる。こうすることで、負極集電体10上には、Y方向に沿って負極活物質材料からなる複数本の線状の凸状活物質部12aが形成されてストライプ状のラインアンドスペースのパターン形状となるように塗布される。
【0026】
ノズル40に複数本の吐出口を設ければ一方向における一回の相対移動で複数本の線状の線状負極活物質部12aが形成されてストライプ状とすることができ、負極集電体10の搬送を続けることにより、負極集電体10の全面にストライプ状に線状の凸状負極活物質部12aを形成することができる。
【0027】
上記のように形成された負極活物質材料からなる複数本の線状の線状活物質部12aは、まだ溶剤等を含むいわば塗布膜の状態であるため、線状活物質部12aが設けられた負極集電体10は、例えば乾燥手段である送風機等の下側領域を通り抜けるように搬送され、ドライエアーによって乾燥工程が実施される。これにより、負極集電体10と、負極集電体10の表面に形成された線状活物質部12aからなる負極活物質層12と、を含む負極Aが得られる。
【0028】
乾燥工程の乾燥温度及び乾燥時間は、当業者であれば適宜選択することができる。乾燥温度は、線状活物質部12aを乾燥させてその形状を固定させ得る範囲であればよく、例えば5℃〜150℃の範囲内、好ましくは常温(23℃)〜80℃の範囲内の温度であればよい。また、乾燥時間は、負極集電体10の搬送速度によって制御することもできる。
【0029】
このようにして形成する線状負極活物質部12aの幅Wは、作製しようとするリチウムイオン二次電池の規格にもよるが、例えば10〜200μmであればよい。また、線状負極活物質部12aの高さHは、後述する高さ変更(テストセル作製)工程で、種々の値に変化させるが、10〜200μmであればよい。このような範囲であれば、線状負極活物質部12aの抵抗の増大及び充放電容量の低下を抑制することができる。
【0030】
ここで、ペースト状乃至はスラリー状の負極活物質材料は、負極活物質と、導電助剤(任意)と、結着剤と、溶剤等と、を常法により攪拌・混合(混練)して得られる混合物で構成され、ノズル40から吐出できる範囲で種々の粘度を有すればよい。本実施形態においては、例えば、せん断速度1s−1で、下限10Pa・s、上限10000Pa・s程度であるのが好ましい。なお、各成分は溶剤に溶解していても分散していてもよい(一部が溶解して残部が分散している場合も含む。)。
【0031】
また、上記塗布工程に用いる負極活物質材料の固形分割合は、負極活物質材料がノズル40から吐出できるように種々の固形分割合を有することができるが、前記混合物の湿潤点における固形分割合よりも小さな固形分割合を有しており、例えば60質量%であるのが好ましい。
【0032】
これらの粘度及び固形分割合は、負極活物質、導電助剤、結着材及び溶剤等の成分の種類や配合量、寸法又は形状等によっても異なるが、上記負極活物質と、上記導電助剤と、結着材と、溶剤等と、を常法により攪拌・混合(混練)する際の混練時間の長さによって、調整することができる。
【0033】
ここで、線状負極活物質部12aに含まれる負極活物質としては、後述する電極作製工程において用いるものと同じものを用いる。この負極活物質としては、本発明の技術分野で常用されるものを使用でき、例えば、金属、金属繊維、炭素材料、酸化物、窒化物、珪素、珪素化合物、錫、錫化合物、各種合金材料等が挙げられる。これらのなかでも、容量密度の大きさ等を考慮すると、酸化物、炭素材料、珪素、珪素化合物、錫、錫化合物等が好ましい。酸化物としては、例えば、式:LiTi12で表されるチタン酸リチウム等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、各種天然黒鉛(グラファイト)、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、各種人造黒鉛、非晶質炭素等が挙げられる。珪素化合物としては、例えば、珪素含有合金、珪素含有無機化合物、珪素含有有機化合物、固溶体等が挙げられる。珪素化合物の具体例としては、例えば、SiO(0.05<a<1.95)で表される酸化珪素、珪素とFe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn及びTiから選ばれる少なくとも1種の元素とを含む合金、珪素、酸化珪素又は合金に含まれる珪素の一部がB、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、N及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素で置換された珪素化合物又は珪素含有合金、これらの固溶体等が挙げられる。錫化合物としては、例えば、SnO(0<b<2)、SnO、SnSiO、NiSn、MgSn等が挙げられる。負極活物質は1種を単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
また、線状負極活物質部12aは、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、本発明の技術分野で常用されるものを使用でき、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウム等の金属粉末類、酸化亜鉛等の導電性ウィスカー類、酸化チタン等の導電性金属酸化物、フェニレン誘導体等の有機導電性材料等が挙げられる。導電剤は1種を単独で使用でき又は必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
結着剤としても、本発明の技術分野で常用されるものを使用でき、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルホン、ポリヘキサフルオロプロピレン、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンジエン共重合体、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエン等から選ばれるモノマー化合物の共重合体を結着剤として用いてもよい。結着剤は1種を単独で使用でき又は必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0036】
溶剤としては、多くの電解液に含まれ得る六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等を分解しないように、水を除く有機溶媒を用いるのが好ましい。かかる有機溶媒としては、本発明の技術分野で常用されるものを使用でき、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアミン、アセトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。有機溶媒は1種を単独で使用でき又は2種以上を混合して使用できる。
【0037】
また、負極集電体10としては、本発明の属する技術分野において公知の材料を用いることができるが、例えばアルミニウム箔等の金属膜であればよい。また、図示しないが、この負極集電体10は、絶縁性の基材の表面に形成されていてもよい。このような基材としては絶縁性材料で形成された平板状部材を用いればよく、かかる絶縁性材料としては、例えば樹脂、ガラス又はセラミックス等が挙げられる。また、基材は可撓性を有するフレキシブル基板であってもよい。
【0038】
次に、正極Cとしては、上記の負極Aを負極集電体上に線状負極活物質部からなる負極活物質層を形成したのと同様に、正極集電体上に正極活物質材料を含む凸状の線状正極活物質部からなる正極活物質層が設けて形成してもよいが、本実施形態においては、正極Cとして、リチウム金属からなる正極Cを用いる。
【0039】
なお、正極集電体と凸状の線状正極活物質部からなる正極活物質層とで正極Cを構成する場合、正極集電体としては、本発明の属する技術分野において公知の材料を用いることができ、例えば銅箔等の金属膜で挙げられる。また、負極集電体10と同様に、正極集電体は、絶縁性の基材の表面に形成されていてもよい。このような基材としては絶縁性材料で形成された平板状部材を用いればよく、かかる絶縁性材料としては、例えば樹脂、ガラス又はセラミックス等が挙げられる。また、基材は可撓性を有するフレキシブル基板であってもよい。
【0040】
また、正極集電体と凸状の線状正極活物質部からなる正極活物質層とで正極Cを構成する場合、線状正極活物質部が含む正極活物質(粉末)としては、例えば、リチウム含有複合金属酸化物、カルコゲン化合物、二酸化マンガン等が挙げられる。リチウム含有複合金属酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物又は該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。ここで、異種元素としては、例えば、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、B等が挙げられ、Mn、Al、Co、Ni、Mg等が好ましい。異種元素は1種でも又は2種以上でもよい。これらのなかでも、リチウム含有複合金属酸化物を好ましく使用できる。リチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1−y、LiCo1−y、LiNi1−y、LiMn、LiMn2−y、LiMPO、LiMPOF(前記各式中、例えば、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種。0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3)、LiMeO(式中、Me=MxMyMz;Me及びMは遷移金属、x+y+z=1)等が挙げられる。リチウム含有複合金属酸化物の具体例としては、例えば、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.8Co0.15Al0.05等が挙げられる。ここで、上記各式中リチウムのモル比を示すx値は、充放電により増減する。また、カルコゲン化合物としては、例えば二硫化チタン、二硫化モリブデン等が挙げられる。正極活物質は1種を単独で使用でき2種以上を併用してもよい。正極活物質層16には、負極活物質層12に関して上記に記載した導電助剤を含めてもよい。
【0041】
次に、上記のようにして作製した負極Aと、正極Cと、を、セパレータ20を介在させて積層した状態で、有底円筒形で開口部が内側に湾曲した、例えばステンレス製の金属容器22内に挿入する。このとき、負極Aと正極Cとの間に密閉空間を形成され得るように、金属容器22の外周側面部にはガスケット26を押し込んでおく。そして、金属容器22内において負極Aと正極Cとの間に電解液(図示せず)を充填し、電解液はセパレータ20に含浸される。
【0042】
ここで、セパレータ20としては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独又は併用することができる。セパレータ20を構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0043】
また、セパレータ20には、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。
【0044】
電解液としては、リチウム塩と有機溶媒とを含む従来公知の電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)及びリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)等が挙げられる。また、有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネート等が挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0045】
ガスケット26としては、例えばポリプロピレン又はブチルゴム等の絶縁体で構成された従来公知のガスケットを用いればよい。
【0046】
上記のように電解液を金属容器22内に充填した後、例えばステンレス製の金属蓋24を、ガスケット26の内側において負極A上に被せ、金属容器22の開口部周辺部を内側にカシメ処理することにより内部封止し、このようにしてコイン型のテストセル1を作製する。
【0047】
次に、線状負極活物質部12aの高さHを複数の値に変更する以外は、上記と同様の方法及び条件で、複数のテストセルを作製し、異なる高さHを有する線状負極活物質部12aを具備する(n−1)個のテストセルを作製し、合計n個のテストセルを作製する。
【0048】
(2)最適高さ決定工程
ついで、上記工程(1)で作製した種々の高さHの線状負極活物質部12aを有するn個のテストセルについて、容量維持率を測定し、最も高い容量維持率を有するテストセルの高さを最適高さHxと決定する。
【0049】
ここで、容量維持率の測定は、定電流充放電測定法により行うことができる。定電流充放電測定法は、Cレートを含めて種々の条件で行うことができる。なお、Cレートの「1C」とは、負極活物質の質量に対応した理論容量より予測した電池容量(Ah)を1時間で放電できる電流量を意味し、例えば「2C」は2倍の30分間(=1/2時間)で放電できる電流量を、「5C」は5倍の12分間(=1/5時間)で放電できる電流量を、それぞれ意味する。
【0050】
このようにして、上記工程(1)で作製したn個のテストセルから、幅W及び間隔Sを有する線状負極活物質部12aにとって最適な高さHxを決定することができる。
【0051】
(3)負極作製工程
本実施形態においては、上記工程(1)で作製したテストセル1を構成する線状負極活物質部12aと同じ組成を有し、かつ、幅W及び上記のようにして得た最適な高さHxを有する複数本の略平行な凸状の線状負極活物質部を、負極集電体上に例えば間隔Sで形成し、負極を作製する。なお、ここでは間隔Sは限定されないが、負極活物質材料の組成や間隔に依存する可能性があるため、テストセルの構成に合わせてもよい。
【0052】
この負極の作製は、従来公知の方法で作製することができ、例えば上記工程(1)でテストセルの負極Aを作製したのと同様に、ノズルディスペンス法により作製してもよく、また、その他のスピンコート法やスプレーコート法によって線状負極活物質部を形成してもよい。
【0053】
このようにして得られる本実施形態の負極は、凸状の線状負極活物質部で構成された凹凸構造パターンの負極活物質層を有し、容量維持率を低下させずに単位面積当たりの容量を増大させたものである。かかる本実施形態の負極の製造方法は、線状負極活物質部の幅と、複数本の線状負極活物質部を形成できるスペースと、が規定されている場合に、規格容量に応じて線状負極活物質部の高さをする面積との幅とを決定する方法として好適である。
【0054】
以上の実施形態の電極製造で得られた負極を用い、リチウムイオン二次電池を作製することができる。このリチウムイオン二次電池は、電池の容量維持率を低下させずに単位面積当たりの容量を増大させたものである。このリチウムイオン二次電池は、上記の実施形態の電極製造で得られた負極を用いる以外は、従来公知の方法により作製すればよい。
【0055】
以上、本発明の電極の製造方法の一実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0056】
例えば、上記実施形態においては、テストセルによって線状負極活物質部の最適な高さを決定する場合について説明したが、線状正極活物質部の最適な高さを決定する場合にも適用することができる。その場合、負極としては一定の組成及び寸法のものを用い、正極として一定の幅及び異なる高さを有する線状正極活物質部を有する複数の正極を用い、複数のテストセルを作製すればよい。そうすれば、最適な高さを有する線状負極活物質部を含む負極及び最適な高さを有する線状正極活物質部を含む正極を得ることができ、当該負極及び正極を有するリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0057】
また、上記実施形態においては、テストセルを、負極集電体の面上に幅W及び高さHを有する複数本の略平行な凸状の線状負極活物質部を形成して得た負極と、対極である正極と、を、セパレータを介在させて積層し、負極と正極との間に電解液を充填するとともにセパレータに電解液を含浸させ、電解質層にセパレータが含まれるような構造を有するテストセルを作製したが、セパレータの無い全固体電池型のテストセルを作製してもよい。
【0058】
また、上記実施形態においては、コイン型セルを作製する場合について説明したが、テストセルとしては種々の形態のセルを作製してもよい。例えば、角型セルであっても円筒型セルであってもよい。したがって、本発明により得られるリチウムイオン二次電池も種々の形態を有し得る。また、上記実施形態においては、テストセルの対極としてリチウム金属のみからなる正極を用いたが、正極集電体と正極活物質層とで構成された正極を用いてもよく、この正極活物質層は、上記実施形態の負極活物質層と同様に、複数の凸状の線状正極活物質部で構成されていてもよい。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0060】
(1)テストセル作製工程
質量比8:1:1の割合で、負極活物質であるチタン酸リチウム(LiTi12、石原産業(株)製)、導電助剤であるアセチレンブラック及び結着剤であるポリフッ化ビニリデンを混合し、更に、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンを混合し、50質量%以上の固形分濃度のスラリー状の負極活物質材料を調製した。
得られた負極活物質材料を、負極集電体であるアルミニウム箔上にノズルディスペンス法を採用したマイクロ印刷装置(大日本スクリーン製造(株)製)を用いて塗布し、80℃で5時間以上真空乾燥することにより乾燥し、図2に示すような態様で、幅Wが100μmで高さHが50μmの凸状の線状負極活物質部を形成し、凹凸構造を有する負極を作製した。隣接する線状負極活物質部の間隔Sは100μmとした。なお、線状負極活物質部の幅W及び高さH並びに間隔Sは、レーザー顕微鏡及び走査型電子顕微鏡を用いて観察して測定した。
上記負極と、対極であるリチウム金属からなる正極と、エチレンカーボネート及びジエチレンカーボネートの1:1(質量比)混合溶媒にLiPFを1mol/dm−3溶解させた電解液と、ポリプロピレン製のセパレータと、を用い、上記実施形態で述べた方法により図1に示す構造を有するコイン型のテストセル1を作製した。
【0061】
次に、凸状の線状負極活物質部の高さHを、100μm、70μm、90μm、65μm、110μm、150μm又は200μmに変更した以外は、上記工程(1)と同様にして、コイン型のテストセル2〜8を作製した。即ち、本実施例においては、8つの異なる線状負極活物質部の高さHを有する8個のテストセルを作製した。
【0062】
(2)最適高さ決定工程
次に、上記工程(1)で作製したテストセル1〜8の容量維持率を定電流充放電測定法により測定した。本実施例においては、充電及び放電ともに、0.1Cから5C又は0.1Cから10C又は0.1Cから100CまでのCレートの範囲で行い、カットオフ電圧を、充電時3V、放電時1Vとすることによって行った。その結果を図3〜図5のグラフに示した。図3〜図5のグラフにおいて、縦軸は容量維持率(%)を示し、横軸はCレートを示すものとした。
本実施形態においては、図3〜図5に示すグラフに基づき、容量維持率が急激に低下する高さの手前の高さを有するテストセル2の線状負極活物質部の高さH(=100μm)を最適高さHxと決定した。
【0063】
(3)負極作製工程
ついで、上記工程(1)と同様にして、負極活物質材料を負極集電体であるアルミニウム箔上に塗布、乾燥し、幅Wが100μmで高さHxが100μmの凸状の線状負極活物質部を形成し、本実施例の負極を作製した。
【0064】
なお、参考のために、凸状の線状負極活物質部の幅Wを150μm、高さHを100μmに変更した以外は、上記工程(1)と同様にして、コイン型の参考セル1を作製した。また、凸状の線状負極活物質部の断面を図2に示す略半楕円状ではなく略矩形状とし、幅Wを100μm、高さHを100μmに変更した以外は、上記工程(1)と同様にして、コイン型の参考セル2を作製した。これらの参考セル1及び2の容量維持率を上記工程(3)と同様にして測定し、図3に示した。参考セル1では容量維持率が大きく低下し、参考セル2では容量維持率の低下はほとんど見られなかった。
【0065】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、各工程において適用する塗布方法は上記に限定されるものではなく、当該工程の目的に適うものであれば他の塗布方法を適用してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1・・・テストセル、
A・・・負極、
10・・・負極集電体、
12・・・負極活物質層、
12a・・・線状負極活物質部、
C・・・正極、
16・・・正極活物質層、
16a・・・線状正極活物質部、
18・・・正極集電体、
22・・・金属蓋、
24・・・金属容器、
26・・・ガスケット
40・・・ノズル。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体及び前記集電体上に設けられた複数本の凸状の線状活物質部で形成された活物質層を有する電極の製造方法であって、
(1)集電体の面上に幅W及び高さH1〜n(nは2以上の整数)を有する複数本の略平行な凸状の線状活物質部を間隔Sで形成して得た電極と、対極と、電解質層と、を積層した構造を有するテストセルn個を作製するテストセル作製工程と、
(2)前記工程(1)で作製した前記テストセルn個の容量維持率を測定し、最も高い容量維持率を有するテストセルの線状活物質部の高さを最適高さHxと決定する最適高さ決定工程と、
(3)集電体の面上に幅W及び高さHxを有する複数本の略平行な凸状の線状活物質部を形成して電極を作製する電極作製工程と、
を有することを特徴とする電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極の製造方法により第1電極を得る第1電極形成工程と、
第2集電体の面上に複数本の略平行な凸状の線状第2活物質部を形成して第2電極を得る第2電極形成工程と、
前記第1活物質部と前記第2活物質部とが対向するように、セパレータを介在させて前記第1電極と前記第2電極とを積層して積層体を得る積層体形成工程と、
前記第1電極と前記第2対極との間に電解液を充填するとともに前記セパレータに前記電解液を含浸させる電解液充填工程と、
を有すること、
を特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電極の製造方法により第1電極を得る第1電極形成工程と、
第2集電体の面上に複数本の略平行な凸状の線状第2活物質部を形成して第2電極を得る第2電極形成工程と、
前記第1電極の前記第1活物質部側又は前記第2電極の前記第2活物質部側に、電解質層を形成する電解質層形成工程と、
前記第1電極と前記電解質層と前記第2電極との積層体を得る積層体形成工程と、
を有すること、
を特徴とする全固体電池の製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−69510(P2013−69510A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206451(P2011−206451)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】