説明

電極を備えた透明基材

【課題】電極を備えた透明基材を提供する。
【解決手段】特にはガラス製であり、特には太陽電池用の電極を備え、厚さが多くとも500nm、特には多くとも400nm、多くとも300nm、又は、多くとも200nmのモリブデンMoに基づいた導電層を含んで成る透明基材が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極を備えた、特にガラス製の透明基材に関する。この導電性基材は、太陽電池の一部を形成することを最も特に意図する。
【背景技術】
【0002】
事実、太陽電池は、この種の導電性基材を組み入れ、次いで、該導電性基材が、一般的に、銅Cu、インジウムIn、及び、セレンSe、及び/又は、硫黄Sに基づいた黄銅鉱から作製した吸収剤層でコーティングされることが公知である。それは、例えば、CuInS(登録商標)eタイプの材料であることができる。この種の材料は、略語CISとして知られる。
【0003】
この種の用途について、電極は、通常、モリブデンMoに基づいている。というのも、この材料はいくつかの利点、即ち、(1)良い電気導体であること(約5.2mWcmの比較的低い比抵抗)、(2)高融点(2,610℃)であるので、必要な高熱処理にさらすことができること、(3)セレン及び硫黄に対して、ある程度まで、良い抵抗性を示すこと、を有すためである。吸収剤層の堆積は、通常、電極がセレン又は硫黄を含む雰囲気と接触しなければならないことを意味するが、その雰囲気においては、ほとんどの金属が劣化する傾向にある。対照的に、モリブデンは、特にセレンと表面で反応し、MoSeを形成する。しかしながら、それは、その性質、特に電気的な性質のほとんどを維持し、CIS層と適切な電気的接触を維持する。最後に、モリブデンは、CIS層によく付着する材料であり、その結晶の成長を促進させる傾向さえある。
【0004】
しかしながら、モリブデンは、産業上の製造を考えたときに、大きな障害がある。即ち、それは高価な材料である。これは、Mo層が、通常、(磁界をかけることで促進された)スパッタリングによって堆積されるためである。現在、Moターゲットは高価である。所望のレベルの導電率、即ち、S又はSeを含む雰囲気において処理した後、2Ω/□未満、好ましくは1Ω/□、又は、0.5Ω/□未満の表面抵抗(resistance per square)を得るために,一般的には、およそ700nm〜1μmの厚いMo層が必要とされるので、このことはなおさら無視できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それゆえ、本発明の目的は、太陽電池への使用を意図する、電極を備えた基材を得ることであり、該電極は公知のMo電極よりも製造するのに容易であり、及び/又は、高価でなく、しかし、その性能、特に電気的な性能は、予想される用途について、同等、又は、少なくとも十分である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の主題は、第一に、特にガラス製の透明基材であり、それは電極、特に太陽電池に適した電極を備え、多くとも500nm、特には多くとも400nm、多くとも300nm、又は、多くとも200nmのモリブデンMoに基づいた導電層を含んで成る。好ましくは、それは、少なくとも20nm、又は、少なくとも50nm、少なくとも80nm、若しくは、少なくとも100nmの厚さとする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】セレン化工程の後、ガラスを顕微鏡で1000倍に拡大した写真である。
【図2】セレン化試験の後、多層コーティングしたガラスの一部について、例5を1000倍に拡大した顕微鏡写真に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の文脈内において、“層”という用語は、特に、(連続層をエッチングすること、又は、例えばマスクシステムによって、所望のパターンを有する不連続層を直接堆積させることの何れかによる)パターンを有する連続層、又は、不連続層のどちらかを意味すると解される。これは本出願に関係するすべての層に適用する。
【0009】
本発明の手法は、別の金属を選んで、モリブデンを完全に排除することにあるわけではない。というのも、特にセレン又は硫黄と接触するときに、上記の熱処理の間、主な劣化(Moに起こり得る劣化の問題は、それを被覆する吸収剤層に関して、同様に影響がある)もなく、十分に抵抗性のあるとみなされる金属がまったくないためである。しかしながら、該手法は、モリブデンの厚さを相当に減少させることになり、即ち、通常使用するよりも、はるかに薄い厚さ(即ち1μmよりもはるかに薄い)が、結果として、原料コストに関してのかなりの節約とともに、所望の電気的性質を得るには、相当に十分であるということが、すべての予想に反して見出された。モリブデン層の厚さを減少させることには、もう1つの利点がある。即ち、これらの比較的薄い層は、堆積パラメータを用いて、スパッタリングによって堆積させることが可能であり、その結果、厚い層を用いるこの特別の場合に生ずることのある離層を問題としないで、層に高い応力を加えるということが見出された。より薄い層はまた、ピンホールとして知られる欠陥もほとんどない傾向がある。
【0010】
確実により薄いモリブデン層の有効性を維持するために、本発明は、好ましくは、代わりになるものとして、又は、組み合せて使用される、(しかしながら選択的なままである)いくつかの変化形に役立つ。
【0011】
第1の変化形によれば、バリヤー層と呼ばれる層が、有利には、基材と電極の間に挿入される。その主な機能は、基材から電極へ、及び、吸収剤層までの化学種の拡散(あるいはまた、相互に、電極から基材への化学種の拡散)による移動に対して、バリヤーを形成することである。基材がガラス製であるときに、ガラスから拡散しやすい化学種、並びに、電極及び吸収剤層を劣化させやすい化学種は、特にアルカリ金属である。このようなバリヤー層を提供することで、電極又は黄銅鉱製の吸収剤層が劣化するという恐れなく、フロート法によって得られた標準のシリカ−ソーダライムガラスを、基材として使用することが可能となる。本発明の文脈内において、これは、小さい厚さについては、わずかな劣化でさえ、相当により厚い層の場合よりも影響が大きいので、モリブデン層が薄いほどますます重要となる。
【0012】
有利には、このバリヤー層は、以下の化合物、即ち、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素、窒化アルミニウム又は酸窒化アルミニウム、酸化ケイ素又は酸窒化ケイ素のうちの少なくとも1つから選択した誘電材料に基づいている。(場合によって、Al又はホウ素種の少数金属を含む)窒化ケイ素が、特に効果的であることが示された。これは非常に不活性な材料であり、実際、熱処理に対してセンシティブでなく、アルカリ金属の拡散に対して十分なバリヤーを提供する。
【0013】
好ましくは、バリヤー層は少なくとも20nm、特には少なくとも100nm、少なくとも120nm、又は、少なくとも150nmの厚さ、及び、多くとも300nm、特には多くとも250nm、又は、多くとも200nmの厚さとする。
【0014】
第2の変化形によれば、厚いMo層ほど導電性でない場合、全体として、同じくらいに導電性のある電極を得るために、Mo層の厚さにおける減少を“補う”ことが望ましい場合がある。本発明に従った解決法は、電極において、Moに基づいた層に、少なくとも1つの他の異なる種類の導電層を加えることにある。有利には、この“補足(complementary)”導電層は、モリブデンよりも薄い層として(スパッタリングによって)堆積させるのに高価でない材料から作製するように選択される。
【0015】
補足導電層、又は、それがいくつかある場合、補足導電層を組み合せたものは、好ましくは少なくとも10nm、特には少なくとも40nmの厚さとする。好ましくは、それは多くとも300nmの厚さとし、有利には、その厚さは50〜200nm又は300nmの範囲になるように選択される。
【0016】
この第2変化形のうちの第1実施態様によれば、電極は、金属又は少なくとも2つの金属の合金に基づいたMと呼ばれる少なくとも1つの補足導電層を含んで成る。これらは特には以下の金属又は合金、即ち、Cu、Ag、Al、Ta、Ni、Cr、NiCr、鋼であってよい。この(これらの)補足金属層をモリブデンに基づいた層の下に配置することが有利である。即ち、セレン又は硫黄に対して、これらの部材は特には腐食性であるが、モリブデンは適切な抵抗性があるので、この構成において、モリブデン層が、これらの金属層をセレン又は硫黄との接触から隔離する。
【0017】
第1実施態様に代わるものとして、又は、それに関連した、第2変化形のうちの第2実施態様によれば、電極は、金属窒化物に基づいたM’Nと呼ばれる少なくとも1つの補足導電層を含んで成る。これは、特には以下の金属、即ち、Ta、Zr、Nb、Ti、Mo、Hfのうちの少なくとも1つの窒化物であってよい。この層はモリブデンに基づいた層の下、又は、上に配置してもよい(又は、2つの層であって、1つは前記層の下に、もう1つは前記層の上にあってもよい)。該窒化物は、窒素に関して、化学量論的(stoichiometric)、亜化学量論的(substoichiometric)又は過化学量論的(superstoichiometric)であってもよい。化学量論的量は、特には、金属ターゲットを使用して、反応性スパッタリングによって、該層を堆積させるときに、スパッタリングチャンバー内の窒素比率を変化させることで調節することができる。
【0018】
1つの特に有利な実施態様は、層MとMoに基づいた層の間に、層M’Nを提供することによって、最初の2つを組み合せることにある。これは、この構成において、窒化物層M’Nは、導電層としてだけではなく、2つの金属層(MとMo)の間で、化学種が相互拡散するのを防ぐ(又は、少なくとも十分に減少させる)層としても働くためである。TiN、TaN、ZrN、NbN及びMoN層が、モリブデン層への銅の拡散を防ぐことに効果的であることがわかっている。また、HfN層が、モリブデン層へのアルミニウムの拡散を防ぐことに特に効果的であることも示されている(HfNなどに基づいたこの種の組成は、窒化物の化学量論性を損なわない。本明細書に記載する残りの窒化物の組成物すべてについてと同様に、亜化学量論的、又は、過化学量論的な窒化物のどちらであってもよい)。
【0019】
例えば、以下の順序の層、即ち、
M/Mo/M’N
M/M’N/Mo
M/Mo
M’N/Mo
Mo/M’N
を含んでなる、本発明に従った電極の構成を有することが可能である。
【0020】
金属Mの層が銀に基づく場合、それが、下方の層(例えば、1つの構成におけるSi種のバリヤー層、即ち、バリヤー層/M層/M’N層/Mo層)に、前記バリヤー層と前記銀に基づいた層の間に、酸化亜鉛に基づいた核形成層を挿入することによって、しっかりと付着することを確実にすることが好ましい。さらに多層のより良い密着を確実にするために、該銀層の上部に酸化亜鉛に基づいた第2の層を提供することもまた有利なことがある。ZnOに基づいた1つの層又は複数の層は、場合によって、ZnOは(Al、Bなどで)ドープされ、少なくとも5nm、例えば7〜20nmの厚さとなるように例えば選択される。
【0021】
好ましくは、電極の導電層厚さの合計は600nm以下、特には500nm又は400nm以下とする。
【0022】
有利には、電極は表面抵抗を2Ω/□以下、特には1Ω/□以下、好ましくは0.50Ω/□、又は、0.45Ω/□以下とする。これらの値は太陽電池の電極に適している。
【0023】
好ましい変化形によれば、本発明は、太陽電池の外観を改良することを目的としている。これは、太陽電池が建物の壁又は屋根に取り付けられるとき、建物の“内側”のその外観(外側については、電極が鏡を形成する)が、ときに魅力的でないことがあるためである。反射における測色学的応答(colorimetric response)は改良することができる。
【0024】
本発明によるこの副次的問題に対する第1の解決法は、実電極の“下に”光学的な目的のために、多層コーティングに上記のバリヤー層を含めることにある。光学コーティングは、異なる屈折率を有する誘電材料のうちの少なくとも2つの層から成る。したがって、層と層の間で、厚さ及び屈折率の差を変えることにより、反射における多層コーティング基材の測色学的応答は、干渉によってかなり細かく調節することができる。
【0025】
好ましくは、このコーティングは、高屈折率(例えば1.9〜2.3)を有する層と低屈折率(例えば1.4〜1.7)を有する層の交互配列を含んで成る。このコーティングの実施態様は、例えば、Si/SiO、又、はSi/SiO/Siである。
【0026】
第1の解決法に代わるものとして、又は、それに関連した、第2の解決法は、窒化物M’Nに基づいた少なくとも1つの層を含む電極を使用し、且つ、窒素の化学量論的量をわずかに変更することにある。これは、わずかに亜化学量論的、又は、過化学量論的な窒化物は、同じ電気的性質を維持するが、基材の測色学的応答をある程度まで変化させることができるということが見出されたためである。2つの解決法を組み合せることによって、測色学的応答を調節する際の選択肢の数が増える。
【0027】
最初の2つの解決法のうち、少なくとも1つに代わるものとして、又は、それに関連した、第3の解決法は、可視光領域において吸収性の薄層を電極の下に、特にはそれをバリヤー層と電極の間に入れることによって、配置することにある。例えば、これはTiNタイプの金属窒化物層であってもよく、好ましくは、2〜15nmの範囲内にある厚さを有する。したがって、該タイプの一連の層、即ち、ガラス/バリヤー層(Si/薄い吸収剤層(TiN/SiO/Moなど)など)を有することが可能であり、つまり、この場合には、吸収剤層はSi/SiO光学コーティングの“中間に”存在する。
【0028】
したがって、このコーティングと電極を備えた基材を得ることが可能であって、反射において、(L、a、b)表色系で、マイナスのaとb値を有する該基材は、青緑の色に相当し、又は、わずかにプラスのa値とマイナスのb値を有する該基材は、ピンクの色に相当する。
【0029】
本発明の主題はまた、上に規定し、電極の上部に黄銅鉱の吸収剤層をコーティングした基材にもある。
【0030】
本発明の主題はまた、太陽電池を作製するための前記基材にもある。
【0031】
次に、本発明は、太陽電池用電極の制限しない実施例を用いて、詳細に説明され、多層コーティングしたガラス基材の顕微鏡写真によって、図1及び図2において説明される。
【0032】
それぞれの例は、厚さ2mmの透明なシリカ−ソーダライムガラスの基材を使用する(一般的には、ガラス基材は1〜4mm、又は、1〜3mmの厚さとする)。
【0033】
すべての層は、磁界促進スパッタリング(magnetic-field-enhanced sputtering)によって、ガラス基材上に堆積させた。即ち、
(1)金属層は、不活性雰囲気において、対応する金属ターゲットを使用し、
(2)金属窒化物層は、不活性ガスと窒素の混合物を含む反応性雰囲気において、対応する金属ターゲットを使用し、
(3)窒化ケイ素層は、不活性ガスと窒素の混合物を含む反応性雰囲気において、AlをドープしたSiターゲットを使用し、
(4)酸化ケイ素層は、AlをドープしたSiターゲットと、不活性ガスと酸素の混合物を含んで成る反応性雰囲気を使用した。
【0034】
該層を以下の方法で試験した。即ち、
(1)すべての層を堆積させた後、4点法によって表面抵抗R□(1)を測定すること。
(2)いわゆる“ブロンズ(bronze)”試験、即ち、この試験は、空気中350℃で10分間、すべての層を備えたガラスを加熱することにある。該試験は、ナトリウムが、ガラスから電極に拡散したかどうかを調べることを意図するものである。該試験の最後に、表面抵抗R□(2)を、再度4点法によって測定する。加えて、顕微鏡を(100倍、及び、1000倍の倍率で)使用して、熱処理によって欠陥(ピンホール)等が生じたかどうかを確認する。
(3)いわゆる“セレン化(selenization)”試験、即ち、この試験は、セレン雰囲気中において、10分間、すべての層を備えたガラス基材を、さらに加熱することにある。セレン温度は200〜240℃の間とし、ガラス温度は325〜365℃の間とする。該試験の最後に、表面抵抗R□(3)を再度測定し、これからセレン化前の値とセレン化後の値とで、抵抗率(表面抵抗)の差、ΔR□(3)を算出する。
【0035】
このセレン化試験は、事実、実際におけるよりも非常に“厳しい”ということに注意すべきである。これは、ここで本発明が、第一に電極の製造にのみ関係するためである。しかしながら、完全な状態の太陽電池を製造するとき、このセレン化工程は、CIS層を堆積させた後、直ちに実施される。即ち、太陽電池の通常の製造サイクルにおいては、電極は黄銅鉱層によってセレンとの直接の接触から“保護”される。
【0036】
電極が十分であるとみなされるには、
(1)ガラス中のナトリウムが電極へ拡散するのを妨げられること、
(2)電極が“ブロンズ”試験及び“セレン化”試験に対して、ある程度の抵抗性、即ち、欠陥がほとんどなく、且つ、十分な表面抵抗を有すること、
(3)電極がCIS層によく付着すること、及び、
(4)電極が特にレーザーによって、容易にエッチングできること、
が有利であると考えられる。
【実施例】
【0037】
例1〜7
例1
この例は、バリヤー層とモリブデンの単一層電極を、ガラス/Si(200nm)/Mo(500nm)の順序で使用する。図1は、セレン化工程の後、ガラスを顕微鏡で1000倍に拡大した写真である。顕微鏡写真によって、欠陥が少ししかなく、その上、小さいことが示される。電極の品質は良好であるとみなされる。
【0038】
例1a
この例は、例1と同じであるが、著しくより薄いMo層を有する多層スタックを、ガラス/Si(200nm)/Mo(200nm)の順序で使用する。
【0039】
例2
この例は、バリヤー層と2層電極(即ち、金属M層/Mo層)を、ガラス/Si(200nm)/Ag(50nm)/Mo(175nm)の順序で使用する。
【0040】
例3
この例は、例2と同じであるが、別のタイプの金属M層を有する構成、即ち、ガラス/Si(200nm)/Al(100nm)/Mo(175nm)を使用する。
【0041】
例4
この例は、バリヤー層と、金属/金属窒化物/Moの3層電極を、ガラス/Si(200nm)/Cu(100nm)/TiN(100nm)/Mo(175nm)の順序で使用する。
【0042】
例5
これは例4と同じであるが、銅層の厚さが異なる構成、即ち、ガラス/Si(200nm)/Cu(50nm)/TiN(100nm)/Mo(175nm)である。
【0043】
図2は、セレン化試験の後、多層コーティングしたガラスの一部について、この例5を1000倍に拡大した顕微鏡写真に相当する。欠陥は少ししか確認することができず、非常に小さい。この顕微鏡写真は、図1の顕微鏡写真とかなり類似している。
【0044】
例6
この例は、バリヤー層と3層電極を、ガラス/Si(200nm)/Ag(50nm)/TiN(100nm)/Mo(175nm)の順序で使用する。それは例2に対応するが、加えてTiN層を有する。
【0045】
例7
さらに、この例は、バリヤー層と3層電極を、ガラス/Si(200nm)/Al(100nm)/TiN(100nm)/Mo(175nm)の順序で使用する。それは例3に対応するが、加えてTiN層を有する。
【0046】
下表1に、例1〜7のそれぞれについて、R□(1)とR□(2)の値と、ブロンズ試験後の欠陥の数(“欠陥”)と、ΔR□(3)の値を与える。これらの用語は上で説明された。
【0047】
【表1】

【0048】
このデータから、以下の結論を引き出すことができる。
【0049】
1Ω/□よりも著しく小さいR□値は、200nm未満のモリブデンを使用して得ることができ、それは、金属窒化物層、及び/又は、適当な厚さの金属層と関連している(全体で、2層又は3層電極は、400nm又は500nm未満の合計厚さとする)。
【0050】
Siバリヤー層は効果的であり、電極がナトリウムの拡散によって劣化することを妨げる。というのも、すべての例において、R□(1)とR□(2)の値が同じ、又は、ほとんど同じためである。それゆえ、Siバリヤー層はまた、CIS吸収層が劣化することも妨げる。
【0051】
(例1、即ち、バリヤー層と組み合せた500nmの)Mo単一電極を有するように選択することもまた可能である。それは良い結果を与える。電極を200nmのMoのみから構成し、1Ω/□未満の表面抵抗とすることさえ可能である。これは、これまで真実であると考えられていた、極めてより厚いMo層を有することが必要でないということを証明する。
【0052】
例8〜11b
これらの例の目的は、反射における電極の側色学的応答を調節することである。
【0053】
これらすべての例において、モリブデン層は、厚さを400nm又は500nmとする。ガラス面での側色学的応答の観点からは、モリブデン層が少なくとも50〜100nmの厚さを超えるとまったく効果がない。というのも、その時には、完全に不透明な鏡層となるためである。即ち、Mo層が175nm又は200nmの場合、同じ結果となる。
【0054】
例8
この例は、ガラス/Si(200nm)/TiN(100nm)/Mo(400nm)の多層スタックを使用し、TiN層は、20vol%の窒素を含む反応性雰囲気において、反応性スパッタリングによって堆積させた。
【0055】
例8a
これは例8と同じ構成であるが、この場合においては、TiN層を40vol%の窒素を含む雰囲気で堆積させた。
【0056】
例8b
これは例8と同じ構成であるが、この場合においては、TiN層を70vol%の窒素を含む雰囲気で堆積させた。
【0057】
下表に、これら3つの例について、(L、a、b)表色系におけるaとbの値(該値はガラス面で測定した)と、R□値(“ブロンズ”試験前に行った測定)を与える。
【0058】
【表2】

【0059】
TiNの化学量論的量における変化(それは堆積する間の窒素量に依存する)は、電極の電気的性質を著しくは変化させない。もう一方で、aの値に大きな変化と、bの値にさらに大きな変化を与える。したがって、例8は大きなプラスのbで赤く色づくが、例8bはわずかにマイナスのbで青緑になる。
【0060】
窒素に関して、例8はわずかに亜化学量論的なTiN層を有し、例8aはほぼ化学量論的なTiN層を有し、一方、例8bは過化学量論的な傾向がある。
【0061】
例9
この例において、高屈折率/低屈折率の光学コーティングを形成するために、屈折率を約2とするSiバリヤー層を、屈折率を約1.45とするSiOに基づいた付加的な層と組み合せる。
【0062】
該構成は、ガラス/Si(200nm)/SiO(20nm)/TiN(100nm)/Mo(400nm)である。TiN層は20vol%の窒素を含む雰囲気において堆積させた。
【0063】
例9a
例9を繰り返し行うが、今度は40vol%の窒素がTiNの堆積雰囲気にある状態で行った。
【0064】
例9b
例9を繰り返し行うが、今度は70vol%の窒素がTiNの堆積雰囲気にある状態で行った。
【0065】
下表に、これら3つの例について、上で説明したa、b及びR□の値を与える。
【0066】
【表3】

【0067】
例10
今度は、使用する窒化物層をNbNから作製し、ガラス/Si(200nm)/SiO(30nm)/NbN(100nm)/Mo(500nm)の構成とした。該NbN層は、20vol%の窒素を含む雰囲気において堆積させた。
【0068】
例10a
例10を繰り返し行うが、この場合においては、NbN層を40vol%の窒素を含む雰囲気で堆積させた。
【0069】
例10b
例10を繰り返し行うが、この場合においては、NbN層を70vol%の窒素を含む雰囲気で堆積させた。
【0070】
下表に、これら3つの例について、すでに説明したa、b及びR□の値を与える。
【0071】
【表4】

【0072】
この場合においては、NbNは、より亜化学量論的、又は、過化学量論的であるが、aとbの値がマイナスであり、そのことは強度が変化する魅力的な青緑色に対応する。
【0073】
例11
この例は、例10、10a、10bの一連の層を繰り返し行うが、SiとSiOの厚さが異なる。
【0074】
該構成は、ガラス/Si(150nm)/SiO(90nm)/NbN(100nm)/Mo(500nm)である。
【0075】
例11a
この例は、例11を繰り返し行うが、この場合においては、40vol%の窒素を含む雰囲気でNbN層を堆積させた。
【0076】
例11b
この例は、例11を繰り返し行うが、この場合においては、70vol%の窒素を含む雰囲気でNbN層を堆積させた。
【0077】
下表に、これら3つの例について、すでに説明したa、b及びR□の値を与える。
【0078】
【表5】

【0079】
その結果、これらの例はピンクであり、この色もまた魅力的であると思われる。
【0080】
例12
この例は、ガラス/Si(150nm)/SiO(65nm)/Si(15nm)/Mo(500nm)の順序の層とする。
【0081】
したがって、それは高屈折率/低屈折率/高屈折率の3層光学コーティングにバリヤー層を組み入れている。
【0082】
下表に、先の例と同様に、この例について同じデータを与える。
【0083】
【表6】

【0084】
その結果、この例は青緑色を弱くもする。
【0085】
最後に、その結果、本発明による電極の色は、窒化物層の化学量論的量を変化させることによって、及び/又は、有利にはバリヤー層を含めて、少なくとも2つの層にフィルターを加えることによって、細かく調節することができる。さらには、この第2の一連の例によるaとbの値は、一度“ブロンズ”試験を通過すれば、ほとんど変化しない(±2未満)ことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に太陽電池用の電極を備え、厚さが多くとも500nm、特には多くとも400nm、多くとも300nm、又は、多くとも200nmのモリブデンMoに基づいた導電層を含んで成ることを特徴とする、特にガラス製の透明基材。
【請求項2】
モリブデンに基づいた層が、少なくとも20nm、特には少なくとも50nm、又は、少なくとも80nmの厚さであることを特徴とする、請求項1に記載の基材。
【請求項3】
特にアルカリ金属に対してバリヤーとして働く、少なくとも1つのバリヤー層を備え、該バリヤー層が前記基材と前記電極の間に挿入されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2の何れか1項に記載の基材。
【請求項4】
該バリヤー層が、以下の化合物、即ち、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素、窒化アルミニウム又は酸窒化アルミニウム、酸化ケイ素又は酸炭化ケイ素のうちの少なくとも1つから選択された誘電材料に基づくことを特徴とする、請求項3に記載の基材。
【請求項5】
該バリヤー層が、少なくとも20nm、特には少なくとも100nm、及び、好ましくは多くとも300nm、特には多くとも250nm、又は、多くとも200nmの厚さであることを特徴とする、請求項3又は請求項4の何れか1項に記載の基材。
【請求項6】
該電極が、モリブデンに基づいた層とは異なる、少なくとも1つの補足(complementary)導電層を含んで成ることを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の基材。
【請求項7】
該補足導電層、又は、少なくとも2つある場合にはそれらのうちの少なくとも1つが、少なくとも10nm、特には少なくとも40nm、及び、好ましくは多くとも300nmの厚さであり、好ましくは厚さが50〜200nmの間であることを特徴とする、請求項6に記載の基材。
【請求項8】
該電極が、金属又は金属合金に基づいた少なくとも1つの補足導電層Mを含んで成り、特には以下の金属又は合金、即ち、Cu、Ag、Al、Ta、Ni、Cr、NiCr、鋼のうちの1つから選択されたことを特徴とする、請求項6又は請求項7の何れか1項に記載の基材。
【請求項9】
該電極が、モリブデンに基づいた導電層Moの下に、金属又は金属合金に基づいた少なくとも1つの補足導電層Mを含んで成ることを特徴とする、請求項6〜8の何れか1項に記載の基材。
【請求項10】
該電極が、以下の金属、即ち、Ta、Zr、Nb、Ti、Mo、Hfのうちの少なくとも1つの窒化物に基づいた、少なくとも1つの補足導電層M’Nを含んで成り、前記窒化物が、窒素に関して、亜化学量論的(substoichiometric)、化学量論的(stoichiometric)、又は、過化学量論的(superstoichiometric)であることを特徴とする、請求項6〜9の何れか1項に記載の基材。
【請求項11】
該層M’Nが、モリブデンに基づいた層Moの下、及び/又は、上にあることを特徴とする、請求項10に記載の基材。
【請求項12】
該層M’Nが、層MとMoに基づいた層との間に配置されたことを特徴とする、請求項8及び請求項10に記載の基材。
【請求項13】
該電極が、以下の順序の層、即ち、M/Mo/M’N、M/M’N/Mo、M/Mo、M’N/Mo、Mo/M’Nのうちの1つを含んで成ることを特徴とする、請求項8及び/又は請求項10に記載の基材。
【請求項14】
該電極の導電層厚さの合計が、600nm以下、特には500nm以下であることを特徴とする、請求項1〜13の何れか1項に記載の基材。
【請求項15】
該電極が、2Ω/□以下、特には1Ω/□以下、好ましくは0.50Ω/□、又は、0.45Ω/□以下の表面抵抗(resistance per square)R□を有することを特徴とする、請求項1〜14の何れか1項に記載の基材。
【請求項16】
該バリヤー層が、光学的な目的のために多層コーティングの一部を形成し、該多層コーティングが異なる屈折率を有する誘電材料のうちの少なくとも2つの層から成ることを特徴とする、請求項3に記載の基材。
【請求項17】
該多層コーティングが、1.9〜2.3の高屈折率を有する層と、1.4〜1.7の低屈折率を有する層の交互配列を、特にはSi/SiO、又は、Si/SiO/Siの順序で含んで成ることを特徴とする、請求項16に記載の基材。
【請求項18】
光学コーティングの組成が、反射における該基材の測色学的応答(colorimetric response)を、特にはマイナスのaとbの値で青緑に、又は、わずかにプラスのa値とマイナスのb値でピンクに、少なくとも部分的に調節することを特徴とする、請求項16又は請求項17に記載の基材。
【請求項19】
窒化物層M’Nの窒素の化学量論的量が、反射における該基材の測色学的応答を、特にはマイナスのaとbの値で青緑に、又は、プラスのa値とマイナスのb値でピンクに、少なくとも部分的に調節することを特徴とする、請求項10に記載の基材。
【請求項20】
可視光領域において吸収性の、特にはTiNから作製され、好ましくは厚さが2〜15nmである薄層が、反射における該基材の測色学的応答を、特にはマイナスのaとbの値で青緑に、又は、わずかにプラスのa値とマイナスのb値でピンクに、少なくとも部分的に調節するために、該バリヤー層と該電極の間に挿入されたことを特徴とする、請求項3に記載の基材。
【請求項21】
該電極の上部に黄銅鉱の吸収剤層を含んで成ることを特徴とする、請求項1〜20の何れか1項に記載の基材。
【請求項22】
太陽電池電極としての、請求項1〜20の何れか1項に記載の該基材の使用。
【請求項23】
太陽電池を作製するための請求項21に記載の該基材の使用。
【請求項24】
請求項21に記載の該基材を含んで成ることを特徴とする、太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−48297(P2013−48297A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−256761(P2012−256761)
【出願日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【分割の表示】特願2010−53008(P2010−53008)の分割
【原出願日】平成14年1月23日(2002.1.23)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】