説明

電極アレイデバイスで電気化学的に孤立Pd(0)触媒反応を行う方法

電極アレイデバイス上での電気化学的孤立Pd(0)触媒反応を行う方法を開示する。Pd(0)触媒反応は、ヘック反応であることが好ましい。具体的には、複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法であって、複数の電極と金属又は導電性電極表面上のマトリックス又は被覆材料を有する電極アレイデバイスを準備すること;閉じ込め剤と遷移金属触媒を含む電極アレイデバイスを浸す溶液を準備すること;及び電圧又は電流を用いて電極アレイデバイス上の一又は複数の電極にバイアスをかけて、孤立Pd(0)触媒反応のために要求される遷移金属触媒を再形成することを含んで成る方法であり、閉じ込め剤は各選択電極表面を取り囲むボリュームに遷移金属触媒の拡散を制限する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極アレイデバイス(又は配列機器:array device)上で、電気化学的に孤立(隔離又は単離:isolated)Pd(0)触媒反応を行う方法を提供する。好ましくは、Pd(0)触媒反応はヘック反応である。具体的には、本発明の方法は、複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法であって、複数の電極と金属又は導電性電極表面上にマトリックス又は被覆(又はコーティング)材料を有する電極アレイデバイスを準備すること、遷移金属触媒と閉じ込め剤(コンフィニング剤:confining agent)を含んで成り、前記電極アレイデバイスを浸す溶液を準備すること、及び前記電極アレイデバイス上で電圧又は電流により1又は複数の電極にバイアスをかけて、孤立Pd(0)触媒反応に必要な前記遷移金属触媒を再生することを含んで成り、そ前記閉じ込め剤が各選択電極表面を取り囲むボリューム(又は体積:volume)内に前記遷移金属触媒の拡散を制限する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
電子的にアドレス可能なチップに基づく分子ライブラリー(Lipshutz et al., Nature Genetics, 21:20, 1999;Pirrung, Chem. Rev. 97:473, 1997; Webb et al., J. Steroid Biochem. Mol. Biology, 85:183, 2003; Shih et al., J. Virological Methods, 111:55, 2003)については、長年にわたって望まれているが、まだ作られていない。CombiMatrix Corporationの科学者は、個別にアドレス可能な微小電極を内蔵する活性半導体電極アレイを利用して、オリゴヌクレオチド及びポリペプチド分子を合成している(米国特許第6,093,302号; WO/0053625; Oleinikov et al., J. Proteome Res., 2:313, 2003; Sullivan et al., Anal. Chem., 71:369, 1999; Zhang et al., Anal. Chim. Acta, 421:175, 2000; 及びHintsche et al., Electroanal. 12:660, 2000)。
【0003】
この方法では、ライブラリー中の分子の独特のセットの各々を、次に、それらの挙動をモニタリングするために使用可能な独特の電極又は電極セットの近くに配置することができる(Dill et al., Analytica Chimica Acta, 444:69, 2001)。これは、電極を有するデバイスを多孔性ポリマーで被覆後、それらの電極を利用して、モノマーをチップに結合させ、更に、その後、そのモノマーで反応を行うことが可能な試薬を発生させることで、達成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヘック反応は、新たな炭素-炭素結合を効率的に形成することを可能とする強力な合成手段である。電極アレイデバイスでのヘック反応の利用性(又はアベイラビリティー)により、電極表面の近くのボリューム内に構築することができる分子の種類(型又はタイプ)が大幅に拡大されると思われる。そのような手段は、電極アレイデバイスの小ボリュームでの大規模な並行する電気化学的合成を可能にし、まだ並行して合成されていない、互いに異なる化合物の多様性に富んだライブラリーを含むアレイを作り出すと思われる。そのようなコンビナトリアルライブラリーを、迅速に、小ボリュームで、非常に多様に合成することができる。よって、当技術分野では、コンビナトリアルライブラリーの大規模スクリーニングのために、単一固体電極アレイデバイスに多様な化学ライブラリーを迅速に作ることができるようにする必要がある。当技術分野におけるこの必要性に対処するために、本発明を行った。
【0005】
更に、ヘック反応は、Pd(0)触媒による触媒反応であるため、電極アレイデバイスにおいて部位選択的反応に独特の攻撃を示す。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法であって、
(a)複数の電極と金属又は導電性電極表面上にマトリックス又は被覆材料を有する電極アレイデバイスを準備すること、
(b)閉じ込め剤と遷移金属触媒を含み、前記電極アレイデバイスを浸す溶液を準備すること、及び
(c)前記電極アレイデバイス上の1又は複数の電極に電圧又は電流によりバイアスをかけて、Pd(0)触媒反応の間に消費された前記遷移金属触媒を再生することを含んで成る方法であり、
閉じ込め剤が前記遷移金属触媒の拡散を、各選択電極表面を取り囲むボリュームに制限する方法を提供する。
【0007】
好ましくは、孤立Pd(0)触媒反応は、ヘック反応(Heck reaction)、鈴木カップリング反応(Suzuki coupling reaction)、NHR求核試薬のRS−求核試薬とのハロゲン化アリールの置換、臭化アリールのアルミノアセチレンAl(C≡C−R)Na塩へのカップリング、エステルエノラート(esterenolate)とのハロゲン化アリールの置換、アルキル基鈴木カップリング(アリールホウ素試薬とハロゲン化アルキル)、スティルカップリング(Stille coupling)(R−XとR’SnR”)、ハロゲン化アリールトリフラートへのアルキン−BF塩カップリング、ビニル−BF塩又はアルキン−BF塩カップリング、アルコールアリルエーテルを作るためのアルコールとアルキル/アリルカーボネートとの反応、αアミノアセチレンのケテンへの変換、Ar−Xと酸塩化物のアセチルケトンへの変換、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0008】
好ましくは、孤立Pd(0)触媒反応のための遷移金属触媒は、パラジウム(Pd)又は白金(Pt)触媒系である。最も好ましくは、Pd触媒は、ホスフィンリガンド、ホスファイトリガンド、ヒ素誘導体、トリフェニルホスフィンリガンド、及びそれらの組合せからなる群から選択される安定剤で安定化される。最も好ましくは、Pd触媒は、トリフェニルホスフィンリガンドにより安定化される。
【0009】
好ましくは、閉じ込め剤は、Pd(0)をもとのPd(II)に変換するのに十分な、溶液に添加される酸化剤である。最も好ましくは、閉じ込め剤は、置換又は非置換アリルアルキルカーボネート、アリルアセテート、O、過酸化物、キニーネ、及びそれらの組合せからなる群から選択される酸化剤である。より好ましくは、閉じ込め剤は、アルキル部分がC1−6アルキル基であり得る置換又は非置換アリルアルキルカーボネートである。好ましくは、バイアスをかける工程は、2.4V以下の電圧を使用した。好ましくは、バイアスをかける工程は、約1秒間〜3分間行われた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明の詳細な説明
例示的な試験では、Pd(II)は、電極アレイデバイスの選択電極で、Pd(0)に還元された。更に、反応物を選択電極の周囲の領域に閉じ込めるために、閉じ込め剤を必要とした。好ましい閉じ込め剤はアリルメチルカーボネート(又は炭酸アリルメチル)であった。これは、好ましい閉じ込め剤である、アリルメチルカーボネートを用いないで行った反応では、蛍光シグナルが選択電極部位から大きく広がったためである。
【0011】
所定の電極で発生した試薬は、その試薬を消費する電極の上方の溶液中に基質を配置することによって電極の周囲の領域に閉じ込められた。要するに、この方法は、電極アレイデバイス上のボリュームに閉じ込められる酸及び塩基の発生(生成又は形成)との関連で説明された(例えば、Montgomery 米国特許第6,093,302号参照、参照することで、この開示は本発明に組み込まれる)。これまでの研究では、Pd(II)試薬は、電気化学的に生成され、電極の周囲の領域に閉じ込められた(Tesfu et al., J. Am. Chem. Soc. 126:6212, 2004)。このPd(II)試薬は、電極アレイデバイスの電極を陽極として利用して、電極アレイデバイスの上方の溶液に添加されるPd(0)試薬を酸化することで発生させられた。発生させられたPd(II)試薬は、エチルビニルエーテルを使用することにより、Pd(II)試薬が発生する電極部位に閉じ込められた。この方法の実現可能性は、電極アレイの選択電極においてワッカー酸化を行うことにより示された。
【0012】
本発明は、(各々、別々にアドレス可能な)複数の電極部位を有するマイクロアレイデバイスの事前選択部位でPd(II)試薬をPd(0)試薬に還元するために、電極が陰極として使用可能か否かを確認したいという願望が動機となった。本発明により解決された問題は、発生させられたPd(0)試薬を、そのPd(0)試薬が1つの電極に閉じ込められ、隣接電極で反応を触媒しないように、効率的に閉じ込める戦略を見い出すことであった。これは選択電極部位でヘック反応(Pd(0)触媒反応)を行えるようにしながら、非選択電極部位での反応を避けるために必要である。
【0013】
従来のワッカー酸化の場合、Pd(II)は化学量論的酸化剤として用いられた。そのため、電極アレイの選択電極で発生された試薬の大部分は、反応によって消費された。(電極アレイデバイスを浸す)溶液に添加されたエチルビニルエーテルは、余分な(又は過剰の)試薬を除去することによって生じたPd(II)を効果的に閉じ込めた。提案されたヘック反応又は他のPd(0)触媒反応の場合はそうではない。この場合、反応ではPd(0)触媒を消費しなかった。発生させられた試薬の全てが、その試薬を必要としない電極アレイデバイスの領域に移動しないようにするために、閉じ込め剤を必要とした。言い換えれば、ヘック反応では、通常の媒介の電気分解に見られるような、通常は化学量論的な反応を触媒的に行う電気分解反応を用いるよりむしろ、電極アレイベース環境を用いて、通常触媒的な反応を化学量論的に行わなければならず、それによって、触媒をアレイの選択電極上の事前選択部位に閉じ込める。
【0014】
本発明は、複数の電極上で並行してヘック反応を行う方法であって、
(a)複数の電極と金属又は導電性電極表面上にマトリックス又は被覆材料を有する電極アレイデバイスを準備すること、
(b)閉じ込め剤と遷移金属触媒を含み、前記電極アレイデバイスを浸す溶液を準備すること、
(c)ヘック反応中に消費される前記遷移金属触媒を再生するために、前記電極アレイデバイス上の1又は複数の電極に電圧又は電流によりバイアスをかけることを含んで成る方法であり、
前記閉じ込め剤が前記遷移金属触媒の拡散を各選択電極表面を取り囲むボリュームに制限する方法を提供する。
【0015】
本発明は更に、複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法であって、
(a)複数の電極と金属又は導電性電極表面上にマトリックス又は被覆材料を有する電極アレイデバイスを準備すること、
(b)閉じ込め剤と遷移金属触媒を含み、前記電極アレイデバイスを浸す溶液を準備すること、
(c)Pd(0)触媒反応中に消費される前記遷移金属触媒を再生するために、前記電極アレイデバイス上で電圧又は電流により1又は複数の電極にバイアスをかけることを含んで成る方法であり、
前記閉じ込め剤が前記遷移金属触媒の拡散を各選択電極表面を取り囲むボリュームに制限する方法を提供する。
【0016】
好ましくは、孤立Pd(0)触媒反応は、ヘック反応、鈴木カップリング反応、NHR求核試薬のRS−求核試薬でのハロゲン化アリールの置換、臭化アリールのアルミノアセチレンAl(C≡C−R)Na塩へのカップリング、エステルエノラートとのハロゲン化アリールの置換、アルキル基鈴木カップリング(アリールホウ素試薬とハロゲン化アルキル)、スティルカップリング(R−XとR’SnR”)、ハロゲン化アリールトリフラートへのアルキン−BF塩カップリング、ビニル−BF塩又はアルキン−BF塩カップリング、アルコールアリルエーテルを作るためのアルコールとアルキル/アリルカーボネートとの反応、αアミノアセチレンのケテンへの変換、Ar−Xと酸塩化物のアセチルケトンへの変換、及びそれらの組合せからなる群から選択される。好ましくは、Pd触媒は、ホスフィンリガンド、ホスファイトリガンド、ヒ素誘導体、トリフェニルホスフィンリガンド、及びそれらの組合せからなる群から選択される安定剤で安定化される。最も好ましくは、Pd触媒は、トリフェニルホスフィンリガンドにより安定化される。
【0017】
好ましくは、閉じ込め剤は、Pd(0)をもとのPd(II)に変換するのに十分な、溶液に添加される酸化剤である。最も好ましくは、閉じ込め剤は、置換又は非置換炭酸アリルアルキル、酢酸アリル、O、過酸化物、キニーネ、及びそれらの組合せからなる群から選択される酸化剤である。より好ましくは、閉じ込め剤は、アルキル部分がC1−6アルキル基であり得る置換又は非置換炭酸アリルアルキルである。好ましくは、バイアスをかける工程は2.4V以下の電圧を使用した。好ましくは、バイアスをかける工程は約1秒間〜3分間行われた。
【0018】
好ましくは、ヘック反応のための遷移金属触媒は、パラジウム(Pd)又は白金(Pt)触媒系である。
【0019】
用語「置換(された)」又は「置換」とは、閉じ込め剤の部分との関連で、(1)一価の基による少なくとも1つの炭素上の1つの水素の置換、(2)二価の基による少なくとも1つの炭素上の2つの水素の置換、(3)三価の基による少なくとも1つの末端炭素(メチル基)上の3つの水素の置換、(4)二価、三価、又は四価の基による少なくとも1つの炭素及び関連する水素(例えば、メチレン基)の置換、並びに(5)それらの組合せからなる群から独立して選択される部分を意味する。価数要件に合わせることにより置換を限定する。置換アルキル、置換アルケニル、置換アルキニル、置換シクロアルキル、置換シクロアルケニル、置換シクロアルキニル、置換アリール基、置換複素環、及び置換多環式基という場合、置換は、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、複素環、及び多環式基上で生ずる。
【0020】
アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、複素環、及び多環式基上で置換される基は、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、複素環、多環式基、ハロ、ヘテロ原子基、オキシ、オキソ、カルボニル、アミド、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、オキシカルボニル、アシルオキシカルボニル、アルコキシカルボニルオキシ、カルボキシ、イミノ、アミノ、2級アミノ、3級アミノ、ヒドラジ、ヒドラジノ、ヒドラゾノ、ヒドロキシイミノ、アジド、アゾキシ、アルカゾキシ、シアノ、イソシアノ、シアナト、イソシアナト、チオシアナト、フルミナト、イソチオシアナト、イソセレノシアナト、セレノシアナト、カルボキシアミド、アシルイミノ、ニトロソ、アミノオキシ、カルボキシミドイル、ヒドラゾノイル、オキシム、アシルヒドラジノ、アミジノ、スルフィド、チオール、スルホキシド、チオスルホキシド、スルホン、チオスルホン、硫酸、チオ硫酸、ヒドロキシル、ホルミル、ヒドロキシペルオキシ、ヒドロペルオキシ、ペルオキソ酸、カルバモイル、トリメチルシリル、ニトリロ、ニトロ、aci−ニトロ、ニトロソ、セミカルバゾノ、オキサモイル、ペンタゾリル、セレノ、チオオキシ、スルファモイル、スルフェナモイル、スルフェノ、スルフィナモイル、スルフィノ、スルフィニル、スルホ、スルホアミノ、スルホナト、スルホニル、スルホニルジオキシ、ヒドロチオール、テトラゾリル、チオカルバモイル、チオカルバゾノ、チオカルボジアゾノ、チオカルボノヒドラジド、チオカルボニル、チオカルボキシ、チオシアナト、チオホルミル、チオアシル、チオセミカルバジド、チオスルフィノ、チオスルホ、チオウレイド、チオキソ、トリアザノ、トリアゼノ、トリアジニル、トリチオ、トリチオスルホ、スルフィンイミド酸、スルホンイミド酸、スルフィノヒドラゾン酸、スルホノヒドラゾン酸、スルフィノヒドロキシム酸、スルホノヒドロキシム酸、及びリン酸エステル、ならびにそれらの組合せからなる群から独立して選択される。
【0021】
置換の例として、エタンの1つの水素のヒドロキシルによる置換によりエタノールが得られ、プロパンの中央の炭素上の2つの水素のオキソによる置換によりアセトン(ジメチルケトン)が得られる。さらなる例として、プロパンの中央の炭素(メテニル基)のオキシ基(−O−)による置換によりジメチルエーテル(CH−O−CH)が得られる。さらなる例として、ベンゼンの1つの水素のフェニル基による置換によりビフェニルが得られる。
【0022】
上述のように、ヘテロ原子基は、アルキル、アルケニル、又はアルキニル基内部でメチレン基(:CH)の代わりに用いることができ、そうすることによって、環ではなく直鎖又は分岐置換構造を形成する、又はシクロアルキル、シクロアルケニル、又はシクロアルキニル環内部のメチレンの代わりに用いることができ、そうすることによって、複素環を形成する。さらなる例として、ニトリロ(−N=)は、ベンゼン上の炭素及び関連水素のうちの1つと置換して、ピリジンを得ることができ、又はかつオキシ基を置換して、ピランを得ることができる。
【0023】
用語「非置換(の)」とは、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、又はアリール基上の水素又は炭素は、置換されていないことを意味する。
【0024】
トリフェニルホスフィンをパラジウムのリガンドとして使用することは、陰極(電極)で発生させられたPd(O)が、電極アレイデバイス上に析出することを避けるために重要であることが示された。少量のDMFを反応混合物に添加して、ヘック反応を更に進行させることが好ましい。しかし、この反応は、溶媒としてDMF/HOを用いて行うことができなかった。学説にとらわれないでいうと、DMFによってもたらされる開裂は、Pd(O)の炭酸アリルメチルとの反応又は陰極での水の還元のいずれかから発生させられる塩基によって起こると予想される。更に、閉じ込め剤の存在が必要であった。炭酸アリルメチルを用いない反応では、蛍光が選択電極部位から大きく広がった。
【0025】
我々は、−2.4Vより高い電圧又は3分より長い反応時間では、電極アレイデバイスの生成物スポットの強度が減少することを見出した。より厳しい条件又はより長い反応時間では、電極アレイデバイスから新たに形成されたピレン生成物の開裂が生じたようであった。学説にとらわれないでいうと、Pd(O)の炭酸アリルメチルとの反応(Tsuji and Minami, Acc. Chem. Res. 20:140, 1987)又は陰極での水の還元のいずれかから生ずる塩基のために、この開裂は起こった。
【0026】
次の実施例は、ヘック反応(即ち、好ましいPd(0)触媒反応)が電気化学的にアドレス可能な電極アレイデバイスの事前選択部位で行われたという結論を裏付ける。試験により電極アレイデバイスでのPd(O)試薬の有用性を強調し、特定のアドレス可能な電極の近くに存する分子を選択的に構築するために遷移金属触媒を使用する可能性を初めて示す。
【実施例】
【0027】
実施例1
この実施例では、本発明の方法の実現可能性を調べた。図2に概要を記述した実験を行った。まず、ヨウ化アリールを、多糖類で被覆した電極アレイデバイス(Combimatrix Corporation, Mukilteo, WA)の表面に配置した後、その電極アレイデバイスを、1−ピレンメチルアクリレート、酢酸パラジウム、トリフェニルホスフィンリガンド、及び炭酸アリルメチルを含む電解質溶液に浸漬した。選択陰極を用いて、酢酸パラジウムを所望のPd(O)触媒に還元した。もし、還元に成功したら、生成したPd(O)触媒が表面に結合したヨウ化アリールと1−ピレンメチルアクリレートとの間のヘック反応を引き起こすが、それは陰極として活性化された電極の電極部位に限られる。成功したヘック反応は、電極アレイデバイスの表面に蛍光ピレン部分を配置するが認められ、それは電極を囲む領域のみに限られる。これにより反応の成功をモニタリングすることができる。
【0028】
その反応に続いて、活性Pd(O)触媒を炭酸アリルメチルにより除去して、Pd(II)π−アリル複合体を生成して、触媒工程を停止した。選択電極部位又は別の選択電極部位のいずれかでのPd(O)触媒の再形成には、より多くのPd(OAc)試薬の還元又はπ−アリルPd(II)複合体の還元のいずれかが必要になる(Hayakawa et al., Nucleosides Nucleotides, 17:441, 1988)。Pd(II)が選択電極で還元される速度と、溶液中の炭酸アリルメチルの濃度とのバランスをとることにより、ヘック反応を選択電極(即ち、陰極として働くもの)を囲む領域のみに制限した。
【0029】
実施例2
電気化学的に生じるヘック反応を可能にする反応条件を決定するために、一連の液相ヘック反応を行った。この線に沿って重要な2つの発見をした。第1に、4−ヨード安息香酸メチルと1−ピレンメチルアクリレートとの間のヘック反応は、トリエチルアミン及び臭化テトラブチルアンモニウムを含む9:1 DMF:HO溶液中のPd(OAc)を用いるとゆっくりと進行した(18時間/82%収率)。一方、陰極を挿入し、Pd(OAc)を電気化学的に還元した場合、その反応はわずか3時間の間に完了まで進行した。第2に、DMF溶媒をアセトニトリルに交換すると、ヘック反応は、陰極の不在下では全く進行しなかった(18時間後0%)。対応する電気化学的反応は12時間で完了まで進行した(76%収率)。よって、反応の溶媒としてアセトニトリルを用いることで、確実に、ヘック反応が作用陰極のない電極アレイデバイスの部位で自発的に起こらないようになると思われる。電極アレイデバイスで、より効率的なDMF反応条件が最終的に必要であったとしても、特に、電極アレイデバイスでは、選択基質に直接隣接する電極で高濃度の触媒が生成されるため、非電気化学的バックグラウンド反応は、無視できるほどゆっくりであると考えられた。
【0030】
従来のワッカー酸化試験で使用された同じ方法を用いて、電極アレイデバイスにヨウ化アリールを配置することにより、電極アレイデバイスに基づく試験を開始した(図3)(Tesfu et al., J. Am. Chem. Soc. 126:6212, 2004)。この目的のため、ビタミンB12を還元するために、電極アレイデバイスの電極全てを陰極として利用した。これにより塩基が効率的に生成した。その塩基は、電極アレイデバイスを被覆する多糖類ポリマーのヒドロキシル基と4−ヨード安息香酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステルとの間のエステル化反応を触媒する働きをした。この方法の効果は、電極アレイデバイスの電極付近のヨウ化アリール基質を濃縮することであった。
【0031】
その後、Pd(OAc)、トリフェニル−ホスフィン、トリエチルアミン、炭酸アリルメチル、及び臭化テトラブチルアンモニウム電解質を含む2:7:1 DMF/MeCN/HO溶液中に、電極アレイデバイスを浸漬することにより、ヘック反応を行った。選択電極を、陰極として−2.4Vの電圧(陽極としてのPt補助電極に対して)で作動させて、中央にドットを有する、アレイ上にボックスパターンの電極を作り出した。それらの電極(Pt表面)を、0.5秒作動後、0.1秒停止を3分間繰り返した。
【0032】
反応後、電極アレイデバイスをヘキサンで洗浄して、反応しなかったピレン(基質を含む)を除去し、その後、蛍光顕微鏡を用いて、電極アレイデバイスを画像化した。その結果を図1に示す。図1は、電極アレイデバイスの1028個の電極のうちの81個の電極の拡大図を示す。図中の明るいスポットは、電極アレイデバイス表面のピレンによって形成されたものであり、選択又は活性化電極と完全に一致する。暗いスポットは、活性化されていない電極であり、電極アレイデバイスのバックグラウンド蛍光をブロックしている。結果として、閉じ込め剤又は除去剤は大きな効果を示し、ヘック反応は選択電極領域のみに制限された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、蛍光スキャナー装置(Axon Instruments)での電極アレイ表面を示し、電極を陰極として用いて、Pd(II)をPd(0)に還元して、1−ピレンメチルアクリレートを選択電極部位に配置した。Pd(0)は、その選択電極(中央の電極と四角形パターンを形成するように選択)の表面上で、基質とヨウ化アリールとの間のヘック反応を引き起こした。明るいスポットは、インジケーター(又は指示剤)として1−ピレンメチルアクリレートを有する選択電極である。
【図2】図2は、実施例1で実施された試験の設計を示す。
【図3】図3は、試験の合成スキームを示す。第1工程では、これまでの研究で使用された方法と同じ方法を用いて、ヨウ化アリールをチップ表面に配置する(Tesfu et al., J. Am. Chem. Soc. 126:6212, 2004)。この目的のために、ビタミンB12を還元するため、電極アレイデバイスの電極全てを陰極として利用した。これにより塩基が効率的に生成した。その塩基は、電極アレイデバイスを被覆する多糖類ポリマーのヒドロキシル基と4−ヨード安息香酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステルとの間のエステル化反応を触媒する働きをした。この方法の効果は、電極アレイデバイスの電極付近のヨウ化アリール基質を濃縮することであった。順序どおり第2工程はヘック反応である。ヘック反応は、電極アレイデバイスを、Pd(OAc)、トリフェニル−ホスフィン、トリエチルアミン、炭酸アリルメチル、及び臭化テトラブチルアンモニウム電解質を含む2:7:1 DMF/MeCN/HO溶液中に浸漬することにより行われる。選択電極を、−2.4Vの電圧(陽極としてのPt補助電極に対して)で陰極として作動させて、中央にドットを有する、アレイ上にボックスパターンの電極を作り出した。それらの電極(Pt表面)を、0.5秒作動後、0.1秒停止を、3分間繰り返した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法であって、
(a)複数の電極と金属又は導電性電極表面上にマトリックス又は被覆材料を有する電極アレイデバイスを準備すること、
(b)閉じ込め剤と遷移金属触媒を含み、前記電極アレイデバイスを浸す溶液を準備すること、及び
(c)前記電極アレイデバイス上の1又は複数の電極に電圧又は電流によりバイアスをかけて、Pd(0)触媒反応の間に消費される前記遷移金属触媒を再生することを含んで成る方法であり、
閉じ込め剤は、前記遷移金属触媒の拡散を、各選択電極表面を取り囲むボリュームに制限する方法。
【請求項2】
孤立Pd(0)触媒反応は、ヘック反応、鈴木カップリング反応、NHR求核試薬のRS−求核試薬とのハロゲン化アリールの置換、臭化アリールのアルミノアセチレンAl(C≡C−R)Na塩へのカップリング、エステルエノラートとのハロゲン化アリールの置換、アルキル基鈴木カップリング(アリールホウ素試薬とハロゲン化アルキル)、スティルカップリング(R−XとR’SnR”)、ハロゲン化アリールトリフラートへのアルキン−BF塩カップリング、ビニル−BF塩又はアルキン−BF塩カップリング、アルコールアリルエーテルを作るためのアルコールとアルキル/アリルカーボネートとの反応、αアミノアセチレンのケテンへの変換、Ar−Xと酸塩化物のアセチルケトンへの変換、及びそれらの組合せからなる群から選択される請求項1に記載の複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法。
【請求項3】
孤立Pd(0)触媒反応のための遷移金属触媒は、パラジウム(Pd)又は白金(Pt)触媒系である請求項2に記載の複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法。
【請求項4】
Pd触媒は、ホスフィンリガンド、ホスファイトリガンド、ヒ素誘導体、トリフェニルホスフィンリガンド、及びそれらの組合せからなる群から選択される安定剤で安定化される請求項3に記載の複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法。
【請求項5】
Pd触媒は、トリフェニルホスフィンリガンドにより安定化される請求項4に記載の複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法。
【請求項6】
閉じ込め剤は、Pd(0)をもとのPd(II)に変換するために十分な、溶液に添加される酸化剤である請求項1に記載の複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法。
【請求項7】
閉じ込め剤は、置換又は非置換アリルアルキルカーボネート、アリルアセテート、O、過酸化物、キニーネ、及びそれらの組合せからなる群から選択される酸化剤である請求項6に記載の複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法。
【請求項8】
閉じ込め剤は、アルキル部分がC1−6アルキル基であり得る置換又は非置換アリルアルキルカーボネートである請求項6に記載の複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法。
【請求項9】
バイアスをかける工程は、2.4V以下の電圧を使用する請求項1に記載の複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法。
【請求項10】
バイアスをかける工程は、約1秒間〜3分間行われ請求項1に記載の複数の電極上で孤立Pd(0)触媒反応を行う方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2008−535778(P2008−535778A)
【公表日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550482(P2007−550482)
【出願日】平成18年1月7日(2006.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2006/000407
【国際公開番号】WO2006/074335
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(399019412)コンビマトリックス・コーポレイション (6)
【氏名又は名称原語表記】CombiMatrix Corporation
【出願人】(597025806)ワシントン・ユニバーシティ (26)
【氏名又は名称原語表記】Washington University School of Medicine
【Fターム(参考)】