説明

電極シートおよびその製造方法、並びにそれを用いた蓄電デバイス

【課題】 特殊な集電体を用いることなく、生産性と良好な特性の発現を両立させた電極シートおよびそれを用いた蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】 正極電極シート9および負極電極シート10に、集電体と活物質層の両方を貫通する複数の切り込み8を設ける。前記切り込み8を囲う円の直径を、活物質層の最も広い面が収まる最小面積の長方形の長手方向寸法の2分の1以下とし、前記切り込み8の開口部に内接する円の最大の直径を1mm以下とすることで、電極シートの機械強度を損なうことなく電気的な特性を改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリットキャパシタなどの蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタ、あるいはリチウムイオンキャパシタに代表される蓄電デバイスは、石油埋蔵量問題および地球温暖化等環境への配慮から、電気自動車などのモータ駆動用のエネルギー源、あるいはエネルギー回生システムのキーデバイスとして、さらには無停電電源装置、風力発電、太陽光発電への応用など、様々な新しい用途への適用が検討されており、次世代のデバイスとして大きな期待を寄せられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、リチウム含有遷移金属酸化物を主成分とする正極、リチウムイオンを吸蔵し脱離しうる炭素材料を主成分とする負極、およびリチウム塩を含む有機系電解液とから構成されている。リチウムイオン二次電池を充電すると、正極からリチウムイオンが脱離して負極の炭素材料に吸蔵され、放電したときは逆に負極からリチウムイオンが脱離して正極の金属酸化物に吸蔵される。
【0004】
しかし、リチウムイオン二次電池は内部抵抗が高く、低抵抗化が困難であり、さらに構成材料が一般的に高価なものが多く、低コスト化しにくいという短所がある。
【0005】
一方でリチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン二次電池と比較して内部抵抗が格段に低く、内部抵抗が同程度の電気二重層キャパシタよりもエネルギーを多く蓄積できるため、リチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタの中間的な特性が必要とされるエネルギー領域で有力なデバイスである。
【0006】
リチウムイオンキャパシタは、正極に活性炭を、負極にリチウムイオンを吸蔵・脱離しうる炭素材料をそれぞれ用いている。充放電時に負極においてリチウムイオンの吸蔵、脱離反応を伴うことから、キャパシタ内部で実際に生じる両電極間の電位差は、負極にリチウム金属を用いた場合により近い、より卑な値にて推移するので、正極、負極に活性炭を用いた従来の電気二重層キャパシタより耐電圧が高い。キャパシタが蓄積できるエネルギーは、電圧の2乗に比例するため、容量が同一であれば、リチウムイオンキャパシタは電気二重層キャパシタよりも高エネルギーを蓄積できる。
【0007】
ところで、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低くするには負極にリチウムイオンを含有(ドープ)させる技術が必要とされている。リチウムイオンキャパシタにおいても、高いパワー密度が要求される分野においては更なる低抵抗化が必要であり、そのためのドープ技術は必須である。しかし、リチウムイオンをドープさせる工程は長時間を要するため、製造所要時間の短縮を阻害する要因となっており、これまでも多くの方法が提案されてきた。
【0008】
特許文献1には、正極集電体および負極集電体が、それぞれに表裏面を貫通する孔を備え、負極活物質がリチウムを可逆的に担持可能であり、負極由来のリチウムが負極あるいは正極と対向して配置されたリチウムとの電気化学的接触により電極の表裏間を移動し担持され、かつ該リチウムの対向面積が負極面積の40%以下である有機電解質電池が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、正極集電体および負極集電体がそれぞれ表裏面を貫通する孔を備えるとともにその気孔率が1%以上30%以下であり、負極活物質がリチウムを可逆的に担持可能であり、負極由来のリチウムを、正極あるいは負極と対向して配置されたリチウムと負極を電気化学的に接触することにより、該リチウムの全部あるいは一部を、該リチウムに隣接する負極には直接に、その他の負極には少なくとも1層以上の正極を透過させて担持させた有機電解質電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第98/033227号
【特許文献2】国際公開第2000/007255号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記文献のような表裏面を貫通する孔を備えた集電体は、特殊な方法で開孔することが多く、集電体が高コスト化する。
【0012】
また、表裏面を貫通する孔は開孔面積が大きくかつ数の多い方がドープは早く進行するが、後の工程で電極物質層を特殊な方法で形成する必要がある。さらに、表裏面を貫通する孔によって集電体自体の強度が下がり、例えば集電体をロールで巻き取りながら電極物質を塗布する工程においては、高速処理が困難になる。すなわち、量産性が悪くなり高コスト化を招きやすい。
【0013】
さらに、集電体の上には活物質層が形成されるため、貫通する孔を備えた集電体であっても、その貫通する孔は活物質層により塞がれている。リチウムイオンは非常に小さいため、貫通する孔の数が多く、開口部も大きければ、リチウムイオンは貫通する穴を通過してドープが進行するが、貫通する孔の数が少なく、開口部も小さい場合は、ドープの進行が阻害される。
【0014】
すなわち、強度の低下した特殊な集電体に特殊な方法で時間をかけて電極シートを形成するにもかかわらず、ドープに要する時間はさほど改善されることが無く、単に高コスト化が進んでしまうだけという課題があった。
【0015】
すなわち、本発明の課題は、特殊な集電体を用いることなく、生産性と良好な特性の発現を両立させた電極シートおよびそれを用いた蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記を鑑み、本発明による電極シートは、集電体に活物質層を形成してなり、前記集電体と前記活物質層の両方を貫通する複数の切り込み8を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明による電極シートは、前記電極シートの前記集電体の活物質層で覆われた部分に、前記複数の切り込み8以外に前記集電体を貫通する孔または溝が存在しないことを特徴とする。
【0018】
また、本発明による電極シートは、前記切り込み8全体を囲う円の直径が、活物質層の最も広い面が収まる最小面積の長方形の長手方向寸法の2分の1以下であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明による電極シートは、前記切り込み8の開口部に内接する円の最大の直径が1mm以下であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明による蓄電デバイスの製造方法は、集電体と活物質層の両方を貫通する複数の切り込み8を形成する工程を少なくとも含むことを特徴とする。
【0021】
また、本発明による蓄電デバイスは、上記の電極シートにより構成された正極電極シートおよび負極電極シートを、セパレータを介して交互に積層してユニットをなし、該ユニットにリチウムイオン供給源を前記負極電極シートに対向させて配置し、密閉容器に封入してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
集電体に活物質層を形成した電極シートに切り込み8を形成するため、集電体に貫通する孔を設ける必要が無く、安価な集電体が使用できる。また、リチウムイオンは電極シートを貫通する切り込み8を通過するので、ドーピング工程におけるリチウムイオンの拡散が容易となる。すなわち、リチウムイオンのドープ時間を短縮できる。さらに、貫通する孔によって集電体の強度が損なわれることがないので、一般的な塗工方法で活物質層を形成できる。
【0023】
すなわち、量産段階においても製造装置が低価格で確保でき、活物質層の形成速度を上げることも可能であり、量産性が向上する。従って、製品の低コスト化が可能となる。
【0024】
以上から、本発明により、特殊な集電体を用いることなく、生産性と良好な特性の発現を両立させた電極シートおよびそれを用いた蓄電デバイスが得られる。また、集電体を貫通する孔によって箔の導電性が失われることが無いので、内部抵抗の低い蓄電デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による電極シートの例を示す平面図で、図1(a)は正極電極シートの平面図、図1(b)は負極電極シートの平面図である。
【図2】本発明における切り込み8の長さおよび幅の定義を示す平面図である。
【図3】本発明による蓄電デバイスの構造を示す断面図である。
【図4】本発明による電極シートの第2の実施例を示す平面図で、図4(a)は正極電極シートの平面図、図3(b)は負極電極シートの平面図である。
【図5】本発明による電極シートの第3の実施例を示す平面図で、図5(a)は正極電極シートの平面図、図4(b)は負極電極シートの平面図である。
【図6】比較例1の電極シートの構造を示す図で、図6(a)は正極電極シートの平面図、図6(b)は負極電極シートの平面図である。
【図7】比較例2の電極シートの構造を示す図で、図7(a)は正極電極シートの平面図、図7(b)は負極電極シートの平面図である。
【図8】比較例3の電極シートの構造を示す図で、図8(a)は正極電極シートの平面図、図8(b)は正極電極シートの平面図でる。
【図9】電極シートが変形して不具合が生じた例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。本発明による蓄電デバイスは、リチウムイオンを負極にドープさせることを特徴とするものであるから、ハイブリットキャパシタまたは二次電池であることが好ましい。
【0027】
図1は、本発明による電極シートの例を示す平面図で、図1(a)は正極電極シートの平面図、図1(b)は負極電極シートの平面図であり、図1(a)において、正極集電体4の表面に正極活物質層1を形成し、正極活物質層1と正極集電体4の両方を貫通するように複数の切り込み8を形成し、正極電極シート9とする。このとき、正極集電体4の表面で正極活物質層1がない部分に切り込み8が入っても構わない。
【0028】
図1(b)においても同様に、負極集電体5の表面に負極活物質層2を形成し、負極活物質層2と負極集電体5の両者を貫通するように複数の切り込み8を形成し、負極電極シート10とする。負極電極シート10においても、負極集電体5の表面で負極活物質層2がない部分に切り込み8が入っても構わない。
【0029】
正極電極シート9および負極電極シート10に形成する個々の切り込み8は、直線・曲線を問わず、どのような形状でも構わない。図2は、本発明における切り込み8の長さおよび幅の定義を示す平面図でる。図2に示すように、本発明においては、個々の切り込み8の長さDを、その切り込み8全体を囲うことが可能な円の直径と定義する。また、切り込み8の幅Wは、電極シート面上で個々の切り込み8の開口部内に内接する最大の円の直径と定義する。
【0030】
このとき、切り込み8の長さの最大値を、図2の点線で示されるような長方形、すなわち、活物質層の最も広い面が収まる最小面積の長方形の、長手方向寸法の2分の1以下とすることが好ましい。2分の1よりも大きいと、電極シートの機械的強度が低下し、量産性が低下する。また、切り込み8の幅は1mm以下とすることが好ましい。1mm以上になると切り込み8形成時に活物質層が大きく破壊される恐れがあり、蓄電デバイスの特性および信頼性が損なわれる可能性がある。
【0031】
本発明による電極シートに使用する正極集電体には、アルミニウム、ステンレス等を用いることができる。正極活物質層の低抵抗化かつ低コスト化には、一般的にアルミ電解コンデンサや電気二重層キャパシタに用いられているアルミエッチング箔を使用することが好ましい。アルミエッチング箔は汎用品であることから低コスト化できるだけでなく、表面をエッチング処理することで比表面積を増やしているため、正極活物質層との接触面積が増えて抵抗が減少し、出力特性が向上する。アルミエッチング箔以外には、リチウムイオン二次電池などに使用されている圧延箔、電解箔等を用いることができる。
【0032】
本発明による電極シートに使用する正極活物質層の主成分である正極活物質は、アニオンまたはカチオンを可逆的に担持できる物質から形成される。例えば、分極性を有するフェノール樹脂系活性炭、ヤシガラ系活性炭、石油コークス系活性炭やポリアセンなどの炭素材料を用いることができる。またリチウムイオン二次電池の正極材料などを用いても良い。
【0033】
本発明による電極シートに使用する負極集電体には、ステンレス、銅、ニッケル等、一般にリチウムイオン二次電池などに使用されている種々の材質をそれぞれ用いることができる。また、集電体には圧延箔、電解箔および、表裏面を貫通する孔を備えた貫通箔、エキスパンドメタルなど網状の箔(以下、多孔ラス箔)を用いることができる。
【0034】
本発明による電極シートに使用する負極活物質層の主成分である負極活物質は、リチウムイオンを可逆的にドープできる物質から形成される。例えば、リチウムイオン二次電池の負極に用いられる黒鉛材料や、難黒鉛化炭素材料、コークスなどの炭素材料、ポリアセン系物質等を挙げることができる。低抵抗化や低コスト化を考慮すると、黒鉛材料や、難黒鉛化炭素材料がより好ましい。
【0035】
正極活物質層および負極活物質層には、必要により導電助剤やバインダが添加される。導電助剤としては、黒鉛、カーボンブラック、ケッチェンブラック、気相成長カーボンやカーボンナノチューブなどが挙げられ、特にカーボンブラック、黒鉛が好ましい。バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を用いることもできる。
【0036】
図3は、本発明による蓄電デバイスの構造を示す断面図である。図3において、正極電極シート9は、正極集電体4と、アニオン又はカチオンを可逆的に担持可能かつ、リチウムを可逆的に吸蔵・脱離可能な活物質を有する正極活物質層1を備えており、負極電極シート10は、負極集電体5と、アニオン又はカチオンを可逆的に担持可能かつ、リチウムを可逆的に吸蔵・脱離可能な活物質を有する負極活物質層2を備えている。
【0037】
この正極電極シート9と負極電極シート10を、セパレータ3を介して負極電極シートまたは正極電極シートが最外部になるよう交互に積層し、ユニットを構成する。各々の電極シートの枚数は、目的とする製品の容量に合わせて調整する。ユニット最外部にはリチウムイオン供給源であるリチウム金属7が、セパレータ3を介して負極活物質層2の面に対向して配置される。セパレータ3は、正極電極シート9と負極電極シート10の間と、ユニットと袋状容器11の間に配置される。
【0038】
このとき、各々の正極電極シート9から延出させた電極板同士をアルミ線で溶接して正極電極シート群とし、取り出し電極として正極端子12を接続して正極電極シート9同士を電気的に接続する。負極についても同様に、各々の負極電極シート10から延出させた電極板同士を銅線で溶接して負極電極シート群とし、取り出し電極として負極端子13を接続して負極電極シート10同士を電気的に接続する。また、上記のユニットを積層して、その最外部両側にドープ用電極14を接続したリチウム金属7を配置し、アルミラミネートフィルムで形成した袋状容器11に収容した。この時、正極端子12、負極端子13、ドープ用電極14が袋状容器11の外に出るようにした。
【0039】
リチウムイオン供給源には、リチウム金属またはリチウム−アルミニウム合金のようにリチウムイオンを供給できる物質を使用できる。リチウムイオン供給源のサイズは、負極活物質層と同サイズもしくはそれより1〜2mm小さいのがリチウムイオンを負極活物質層にドープさせるうえで好ましい。厚みはリチウムイオンのドープ量によって変更できるが、5μm以上、400μm以下であるのが好ましい。400μmより厚くなると、リチウムイオン供給源が残存する可能性が高くなり、また、5μm未満だと強度が著しく低下するためハンドリングが難しくなるためである。
【0040】
なお、リチウムイオン供給源は通常それ自身が導電性を有しており、負極と電気的に接続すればリチウムイオンを溶出させることができる。しかし、リチウムイオン供給源の表面および内部において材質を理想的に均一化することはできないため、リチウムイオンの溶出程度が部分的に異なり、その結果、リチウムイオン供給源の一部が島状に分離し、電気的な接続が切れてしまい溶出せずに残留するので、リチウムイオン供給源に集電体と同様の導体を貼付け、リチウムイオン供給源の部分的な分離を防止する。その導体としては負極集電体と同じ材質、構造のものを用いることができる。
【0041】
このユニットを、リチウムイオンを含有する非水系溶液である電解液6に含浸させると、リチウムイオン供給源から負極活物質層にリチウムイオンがドープされ、リチウムイオンキャパシタ15が得られる。 本発明において、あらかじめ負極活物質層にリチウムイオンをドープさせる手段は特に限定されない。例えば、電気化学的にリチウムイオンを負極活物質層にドープさせても良いし、負極活物質層とリチウム金属を物理的に短絡させても構わない。
【0042】
電解液には、リチウムイオンを含有する非水系の溶液を使用する。リチウムイオンを含有する非水系の溶液から構成される電解液の溶媒は、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチルラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、スルホラン等が挙げられる。さらに、これらの溶媒を2種類以上混合した混合溶媒も用いることができる。この中で、少なくともプロピレンカーボネートとエチレンカーボネートいずれかを有することが、特性上好ましい。
【0043】
また、上記溶媒に溶解させる電解質は、電離してリチウムイオンを生成するものであれば良く、例えば、LiI、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF等が挙げられる。これらの溶質は、上記溶媒中に0.5mol/L以上、2.0mol/L以下とすることが特性上好ましい。
【0044】
なお、電極シート枚数が多く、負極電極シートの一部がリチウム金属7から離れすぎる場合は、1個のユニット中の負極電極シートおよび正極電極シートの枚数を少なくしてユニット数を増やせばよい。ユニット数を増やすことでリチウム供給元が増え、かつリチウム金属7から離れすぎる負極電極シートがなくなるため、リチウムイオンのドープ状態が良好に進行する。
【0045】
以上の実施形態によれば、正極電極シートが正極集電体と正極活物質層の両方を貫通する複数の切り込み8を有し、さらに前記負極電極シートも負極集電体と負極活物質層の両方を貫通する複数の切り込み8を有していることにより、リチウムイオンを短時間で負極にドープさせる事ができ、内部抵抗を低減できる。
【0046】
また、切り込み8が電極シートを貫通する切り込み8となっていることにより、集電体のみに貫通する孔が有り、活物質層にそのような孔がない場合よりも、リチウムイオンの拡散が容易となる。そのため、所定量のリチウムイオンをドープさせる時間を、集電体のみに貫通する孔が有る場合よりも、少なくとも同等以下にすることが可能となる。
【0047】
また、集電体に活物質層を形成した後の電極シートに切り込み8を形成するため、集電体が最初から貫通する孔を有している必要が無く、安価な集電体が使用できる。従って、集電体が活物質に覆われている部分においては、電極シートを貫通する切り込み8以外の貫通する孔がなくても構わない。
【0048】
さらに、集電体に貫通する孔が無い状態であれば、活物質の形成方法として、一般的な塗工方法を用いることが出来るため、製造装置の低価格化も可能となり、また、箔の強度も高くなるため活物質層形成時の速度を上げることが可能となり量産性も向上することから製品の低コスト化が可能となる。従って、本発明により、特性が良好、かつ低コスト化、生産性向上が図られた蓄電デバイスが得られる。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の実施例を説明する。本実施例において、実施例1〜3、比較例1および比較例3は集電体に箔を用いたリチウムイオンキャパシタであり、比較例2は多孔ラス箔を用いたリチウムイオンキャパシタである。
【0050】
(実施例1)
実施例1として、図1に示す電極シートを用いたリチウムイオンキャパシタを作成した。図1において、正極電極シート9は、正極集電体4すなわちエッチング処理により表面が粗面化された厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に、正極スラリーを塗布して形成した。
【0051】
正極スラリーは、正極活物質である比表面積1500m/gのフェノール系活性炭の粉末を92質量部と、導電剤として黒鉛を8質量部混合した粉末に対し、バインダとしてスチレンブタジエンゴム3質量部、カルボキシルメチルセルロース3質量部、溶媒として水200質量部となるように加え、混練して得た。
【0052】
上記の正極スラリーを、エッチング処理により両表面が粗面化された厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に均一塗布して乾燥させた後、もう片方の面も同様に塗布し乾燥させた。その後、この正極活物質層1の厚みが正極集電体4の両側でそれぞれ30μmとなるように圧延プレスし、正極電極シート9を得た。正極電極シート9の端面の一部に正極集電体4をタブ状に延出して取り出せるよう形成した。正極集電体4の両面には正極活物質層1を形成せず、アルミニウム箔を露出させた状態とした。
【0053】
正極電極シート9と同様に、負極電極シート10は、負極集電体5である厚さ10μmの銅箔の両面に負極スラリーを塗布して形成した。負極スラリーは、負極活物質である難黒鉛化材料粉末88質量部と、導電剤としてアセチレンブラック6質量部混合した粉末に対し、バインダとしてスチレンブタジエンゴム5質量部、カルボキシルメチルセルロース4質量部、溶媒として水200質量部となるように加え、混練して得た。
【0054】
上記の負極スラリーを、厚さ10μmの銅箔の両面に上記の負極スラリーを片面に均一塗布して乾燥させた後に、もう片方の面も同様に塗布し乾燥させた。その後、この負極活物質層2の厚みが負極集電体5の両側でそれぞれ20μmとなるように圧延プレスし、負極電極シート10を得た。負極電極シート10の端面の一部は負極集電体5がタブ状に延出して取り出せるように電極板を形成しており、負極集電体5の両面には負極活物質層2を形成せず、銅箔を露出させた状態とした。
【0055】
上記により得られた正極電極シート9と負極電極シート10に、それぞれの電極シートの長手方向寸法の半分以下の長さである17mmの切り込み8を、図1(a)および図1(b)に示すように14箇所に形成した。詳細には、正極または負極電極シートの長手方向に対して同一直線上に2箇所の切り込み8を2mmの間隔を空けて配置して1組とし、切り込み8の組を電極シートの短手方向に4mm間隔で7組配置することとした。切り込み8は、正極または負極電極シートに金属刃を当接し、電極を貫通するまで加圧して形成した。形成した切り込み8の幅は刃を押し当てた面で最大0.2mm、その反対面で最大0.1mmであった。
【0056】
上記の正極電極シート9と負極電極シート10を、図3に示すようにセパレータ3を介して負極電極シートまたは正極電極シートが最外部になるよう交互に積層してユニットを構成した。セパレータ3は、厚さ30μmの天然セルロース材の薄板を使用した。それぞれの寸法は、正極電極シート9および負極電極シート10を40mm×30mm(いずれも箔の露出部分を除く)とし、セパレータ3の寸法を41mm×31mmとし、正極電極シート9および負極電極シート10の電極板部分を除いた形状よりも少しだけ大きくなるように構成した。
【0057】
本実施例においては、正極電極シート9を4枚、負極電極シート10を5枚、セパレータ3を10枚交互に積層して1ユニットとした。積層順は、セパレータ3、負極電極シート10、セパレータ3、正極電極シート9、セパレータ3の順であり、正極電極シート9と負極電極シート10の間にセパレータ3が入り、かつユニットの最上部と最下部にそれぞれセパレータ3が必ず配置される順序とした。
【0058】
作製したユニットを、真空乾燥機を用いて130℃で6時間減圧処理した後、各々の正極電極シート9から延出させた電極板同士をアルミ線で溶接して正極電極シート群とし、取り出し電極として正極端子12を接続して正極電極シート9同士を電気的に接続した。同様に、各々の負極電極シート10から延出させた電極板同士を銅線で溶接して負極電極シート群とし、取り出し電極として負極端子13を接続して負極電極シート10同士を電気的に接続した。
【0059】
また、上記のユニットを積層して、その最外部両側にドープ用端子14を接続したリチウム金属7を配置し、アルミラミネートフィルムで形成した袋状容器11に収容した。この時、正極端子12、負極端子13、ドープ用電極14が袋状容器11の外に出るようにした。
【0060】
正極端子12、負極端子13、ドープ用電極14が袋状容器11から延出させた状態で、袋状容器11に電解液6を注入し、容器を密閉してリチウムイオンキャパシタ15の原形を得た。ここで、電解液6は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1対1の割合で混合した混合溶媒に、1mol/LのLiPFを溶解させた非水電解液である。
【0061】
上記のリチウムイオンキャパシタ15の原形に対して、その内部に入れたリチウム金属7から負極活物質層2に対して、450mAh/g相当のリチウムイオンをドープしてリチウムイオンキャパシタを完成させた。この時、負極端子13とドープ用電極14の間に10Ωの抵抗を接続して放電によるドープを進行させると共に、放電電流をモニターして積算することで、リチウムイオンドープ量が450mAh/gに到達することを確認した。また、従来例等との比較のために、この時のドープ時間を測定した。
【0062】
以上の手順により得られたリチウムイオンキャパシタを以下の手順で評価した。はじめに、リチウムイオンをドープした後、正極端子12と負極端子13間の1kHzにおける等価直列抵抗(ESR)を、LCRメーターにより測定した。次に、放電時の電圧降下を測定して直流抵抗を算出した。具体的には、正極端子12と負極端子13の間の電圧が3.8Vに到達するまで80mAの定電流で充電した後、端子間電圧3.8Vの状態を1時間保持し、セル電圧が2.2Vになるまで、80mAで放電した。放電開始時の電圧降下ΔVを測定し、直流抵抗をΔV÷80(mA)より算出した。
【0063】
(実施例2)
図4は、本発明による電極シートの第2の実施例を示す平面図で、図4(a)は正極電極シートの平面図、図3(b)は負極電極シートの平面図である。図4(a)および図4(b)に示すように、正極電極シート9と負極電極シート10に、長さ17mmの切り込み8を26箇所形成した。詳細には、電極シートの長手方向に対しては同一直線上に2箇所の切り込み8が2mmの間隔を空けて配置され、その2箇所の切り込み8を1組とした場合に、それが電極シートの短手方向に2mm間隔で13組配置した。実施例1と同様、切り込み8は、正極または負極電極シートに金属刃を当接し、電極を貫通するまで加圧して形成した。形成した切り込み8の幅は刃を押し当てた面で最大0.2mm、その反対面で最大0.1mmであった。
【0064】
正極電極シートと負極電極シートそれぞれに形成される切り込み8の数を26箇所とし、他は実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタ15の原形を作製し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0065】
(実施例3)
図5は、本発明による電極シートの第3の実施例を示す平面図で、図5(a)は正極電極シートの平面図、図4(b)は負極電極シートの平面図である。図5(a)および図5(b)に示すように、正極電極シート9と負極電極シート10への切り込み8を52箇所形成した。詳細には、各切り込み8の長さをそれぞれの電極シートの長手方向寸法の25%以下の長さである8mmとし、電極シートの長手方向に対しては同一直線上に4箇所の切り込み8が2mmの間隔を空けて配置され、その4箇所の切り込み8を1組とした場合に、それが電極シートの短手方向に2mm間隔で13組配置されるようにした。実施例1と同様、切り込み8は、正極または負極電極シートに金属刃を当接し、電極を貫通するまで加圧して形成した。形成した切り込み8の幅は刃を押し当てた面で最大0.2mm、その反対面で最大0.1mmであった。
【0066】
正極電極シートと負極電極シートそれぞれに形成される切り込み8の数を52箇所とし、他は実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタ15の原形を作製し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0067】
(比較例1)
図6は、比較例1の電極シートの構造を示す図で、図6(a)は正極電極シートの平面図、図6(b)は負極電極シートの平面図である。本比較例の全体的な構造は実施例1と同じであるが、正極電極シート9、および負極電極シート10には切り込み8がない。
【0068】
正極電極シートと負極電極シートに切り込み8を形成せず、他は実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタ15の原形を作製し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0069】
(比較例2)
図7は、比較例2の電極シートの構造を示す図で、図7(a)は正極電極シートの平面図、図7(b)は負極電極シートの平面図である。正極電極シート9、および負極電極シート10に用いる正極集電体4および負極集電体5を多孔ラス箔とした。ラス箔開孔部は長径約0.6mm、短径約0.3mmの楕円形で、開孔部間の金属部分の幅は0.1mmから0.3mm程度である。多孔ラス箔には開孔部があるので、先の実施例1〜3の様に電極シートに切り込み8を形成する必要はないが、開孔部は活物質により塞がれた状態となる。
【0070】
正極集電体4として厚み30μmのアルミニウム多孔ラス箔を、負極集電体5として厚み25μmの銅多孔ラス箔をそれぞれ用いた点と、電極シートに切り込み8を形成しない点以外は実施例1と同じ構造、工法でリチウムイオンキャパシタ15の原形を作製し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0071】
(比較例3)
図8は、比較例3の電極シートの構造を示す図で、図8(a)は正極電極シートの平面図、図8(b)は正極電極シートの平面図である。正極電極シート9、および負極電極シート10に形成する切り込み8の長さが異なる。
本比較例では、正極集電体4と負極電極シート10への切り込み8を7箇所形成した。切り込み8の長さは、それぞれの電極シートの長手方向寸法の90%の長さに相当する36mmとし、電極シートの短手方向にその切り込み8を7箇所、4mm間隔で形成した。
【0072】
正極電極シートと負極電極シートそれぞれに形成される切り込み8の長さが36mmであり、切り込み8の数が7箇所となった点以外は実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタ15の原形を作製した。このリチウムイオンキャパシタの原形に対して、実施例1と同様に負極端子13とドープ用電極14を10Ωの抵抗で接続することにより、リチウム金属から負極活物質層に450mAh/g相当のリチウムイオンをドープし、このドープ時間を測定した。また、リチウムイオンドープ後のESR、直流抵抗も実施例1と同様に測定した。
【0073】
実施例1、2、3と比較例1、2、3を合わせて、ドープ時間、ESR、直流抵抗の測定結果を表1に示す。この値は、作製した20個のリチウムイオンキャパシタの平均値を示している。また、工程不良率は上記の20個の製品を製造する際に工程中で不良が発生した割合である。
【0074】
【表1】

【0075】
表1より、切り込み8が入っていた実施例1、2、3のいずれもが電極シートに切り込み8の無い比較例1よりもドープ時間が短縮され、特性的にも、ESR低下、直流抵抗低下等の改善がなされたことがわかる。
【0076】
集電体に多孔ラス箔を使用した比較例2は、実施例1、2、3と比較してドープ時間が同等以下であるものの、ESR、直流抵抗のどちらも増大する。これはラス箔が貫通する孔を多数有するために金属部分が少なくなり集電体としての抵抗が増大したからである。また、工程不良率が実施例よりもやや高い。これはラス箔の機械的強度が低くために電極シートのハンドリング時に折れ、曲がり等の変形を起こしやすいことに起因している。
【0077】
切り込み8の部分を長くした比較例3は、実施例1、2、3と比較してドープ時間、特性のいずれも優れているが、工程不良率が高い。これは、電極シートの変形が大きくなるためである。図9は、電極シートが変形して不具合が生じた例を示す平面図である。切り込み8の部分の長さが長すぎると、図9に示すように電極の変形が大きくなりやすい。その結果、電極箔のハンドリングが難しくなり、工程中不良が増大する。
【0078】
実施例1〜3、および比較例3において電極シートに形成する切り込み8の幅に関しては、選択する治具、工法により様々な幅が実現できることは明らかであるが、切り込み8の幅が大きくなるほど活物質量が減ってしまい、蓄電デバイスとしての容量を低下させてしまうため、本発明による蓄電デバイスは切り込み8の幅を最大1mmとすることが好ましい。
【0079】
以上のように、本発明によれば、特殊な集電体を用いることなく、生産性と良好な特性の発現を両立させた電極シートおよびそれを用いた蓄電デバイスが得られる。
【符号の説明】
【0080】
1 正極活物質層
2 負極活物質層
3 セパレータ
4 正極集電体
5 負極集電体
6 電解液
7 リチウム金属
8 切り込み
9 正極電極シート
10 負極電極シート
11 袋状容器
12 正極端子
13 負極端子
14 ドープ用端子
15 リチウムイオンキャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体に活物質層を形成してなり、前記集電体と前記活物質層の両方を貫通する複数の切り込みを有することを特徴とする電極シート。
【請求項2】
前記電極シートの集電体の活物質層で覆われた部分に、前記複数の切り込み以外に前記集電体を貫通する孔、溝が存在しないことを特徴とする、請求項1に記載の電極シート。
【請求項3】
前記切り込み全体を囲う円の直径が、前記活物質層の最も広い面が収まる最小面積の長方形の長手方向寸法の2分の1以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の電極シート。
【請求項4】
前記切り込みの開口部に内接する円の最大の直径が1mm以下であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の電極シート。
【請求項5】
集電体と活物質層の両方を貫通する複数の切り込みを形成する工程を少なくとも含むことを特徴とする、電極シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の電極シートにより構成される正極電極シートおよび負極電極シートを、セパレータを介して交互に積層してユニットをなし、該ユニットにリチウム供給源を前記負極電極シートに対向させて配置し、密閉容器に封入してなることを特徴とする蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−89606(P2013−89606A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225421(P2011−225421)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】