説明

電極ユニットおよび誘電泳動装置

【課題】流通面積を確保しつつ、細胞により確実に誘電泳動力を作用させ、誘電泳動特性を精度よく短時間で測定する。
【解決手段】細胞懸濁液を流通させる流路3の内面に、流通方向に略平行間隔をあけて異なる極性の高周波電圧が加えられる複数の電極6,7を交互に配置してなる電極群を少なくとも流路3を挟んで対向する位置に配置してなる電極ユニット4を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極ユニットおよび誘電泳動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、誘電泳動クロマトグラフィ用の電極としては、ガラス基板にクロム等の金属薄膜を蒸着したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この電極は、流路の一面に設けられていて、高周波電圧を加えることにより流路内に該高周波不平等電界を形成し、該高周波不平等電界中を通過する細胞に作用する誘電泳動力の大きさによって、流路内における細胞の滞留時間が変化することを利用して、細胞の誘電泳動特性を測定することを可能にしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特許第3097932号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の電極は、微細加工技術を必要とするため流路の一面に平面状に配列されており、誘電泳動力が作用する電極からの距離は500μm程度であるために、装置が極めて薄くならざるを得ないという不都合がある。すなわち、電極から離れた位置を流動する細胞には誘電泳動力が作用し難く、流路の幅を大きくすると、誘電泳動特性を精度よく測定することができないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、流通面積を確保しつつ、細胞により確実に誘電泳動力を作用させ、誘電泳動特性を精度よく短時間で測定することを可能とする電極ユニットおよび誘電泳動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、細胞懸濁液を流通させる流路の内面に、流通方向に略平行間隔をあけて異なる極性の高周波電圧が加えられる複数の電極を交互に配置してなる電極群を少なくとも流路を挟んで対向する位置に配置してなる電極ユニットを提供する。
【0007】
本発明によれば、流路を挟んで対向する位置に配置された電極群からそれぞれ高周波不平等電界を形成するので、従来、流路の一面に微細加工技術によって形成した電極と比較すると、2倍の幅の流路を確保することができる。すなわち、流路幅を2倍にしても、流路内を流通する細胞に対して高周波不平等電界を作用させ、誘電泳動力を発生させることができる。その結果、より多くの細胞懸濁液を流路に流通させて細胞の誘電泳動特性を迅速に測定することができる。また、細胞は通常いずれかの電極に近接する位置を流動するので誘電泳動力を発生させ易く、誘電泳動特性を精度よく測定することができる。
【0008】
上記発明においては、前記電極ユニットが、細胞懸濁液を流通させる流路の内面に配置され、流通方向に軸方向を一致させ、かつ、軸方向に略平行間隔をあけて交互に配置された一対の同径のコイル状に形成されていることが好ましい。
このように構成することで、軸方向に略平行間隔をあけて同径のコイル状の電極を交互に配置することにより、流路の内面を全周にわたって被覆し、かつ、隣接する電極間に異なる極性の高周波電圧を容易に加えて半径方向に電位傾度の異なる高周波不平等電界を簡易に構成することができる。これにより、流路のどの位置を流通している細胞に対しても、高周波不平等電界を作用させることができる。
【0009】
この場合において、本発明によれば、電極をコイル状に形成することで、微細加工技術によって平面状に形成された従来の電極と比較して、製造容易であり、空間を有効に利用することができ、小さい体積で面積を確保して、装置のコンパクト化を図りながら、誘電泳動特性の測定の測定精度を向上することができる。
また、電極をコイル状にすることで、2つの電極を流通方向にずらして交互に配置することができ、流通方向に同一の電位となる部位と逆方向の電位となる部位を、簡単に交互に周期的に配置することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記一対の電極間の隙間に、前記電極と同径のコイル状の絶縁材が配置されていてもよい。
このようにすることで、異なる極性の異なる電極どうしが直接的に接触してショートしまうことを絶縁材によって防止することができる。
【0011】
また、本発明は、細胞懸濁液を流通させる流路と、請求項1または請求項2に記載の電極ユニットと、前記流路内の前記電極ユニットにおける細胞の通過時間を測定する通過時間測定部を備える誘電泳動装置を提供する。
電極ユニットに加える高周波電圧の周波数を変更すると、細胞の有する誘電泳動特性によって電極ユニット内における細胞の滞留時間が変動するので、通過時間測定部によって電極ユニットにおける細胞の通過時間を測定することにより、細胞の誘電泳動特性を間接的に測定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流通面積を確保しつつ、細胞により確実に誘電泳動力を作用させ、誘電泳動特性を精度よく短時間で測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る電極ユニットおよび誘電泳動装置1について、図1〜図4を参照して説明する。
本実施形態に係る誘電泳動装置1は、誘電泳動クロマトグラフィ装置であって、図1および図2に示されるように、細胞懸濁液Aを貯留する容器2と、該容器2に接続された管状の流路3と、該流路3の内壁に沿って配置される管状の電極ユニット4と、流路3を流通してきた細胞を検出し、細胞の流路3内における滞留時間を測定する通過時間測定部5とを備えている。
【0014】
容器2には、例えば、ヒトから採取した脂肪組織を消化酵素液とともに攪拌することにより単離させた脂肪由来細胞を含む細胞懸濁液Aが貯留されている。
電極ユニット4は、図2に示されるように、導電性の材料からなるワイヤをコイル状に加工してなる2個一対の同径のコイル電極6,7と、該コイル電極6,7の軸方向に隣接するワイヤ間の隙間を埋めるように配置された電気絶縁性のコイル状の2個の絶縁材8と、コイル電極6,7に高周波電圧を加える電圧供給部9とを備えている。
【0015】
図3(a)に示される2個のコイル電極6,7は、軸方向に位相をずらして組み合わせられている。これにより、2個のコイル電極6,7は図3(b)に示されるように、2条コイルバネのように配置されている。すなわち、各コイル電極6,7を構成するワイヤは、互いに他のコイル電極のワイヤと軸方向に間隔をあけて隣接するように配置されている。
【0016】
また、絶縁材8も、図4(a)に示されるように、2個のコイル状のものを軸方向に位相をずらして組み合わせられて2条のコイルバネのように配置されたものを、図4(b)に示されるように、2個のコイル電極の隙間に配置されている。これにより、電極ユニット4が構成されている。
【0017】
電圧供給部9は、2個のコイル電極6,7にそれぞれ逆方向の極性の高周波電圧を加えるようになっている。これにより、軸方向に隣接するワイヤ間には該ワイヤから遠ざかるに従って、すなわち、半径方向の中心に向かって漸次傾度が小さくなる高周波不平等電界が発生するようになっている。
コイル電極6,7の径寸法は直径約1mmである。隣接するワイヤ間の距離は約100μmである。
【0018】
電圧供給部9からコイル電極6,7に加えられる高周波電圧の周波数は、所定の帯域にわたって変更できるようになっている。
細胞は、流路3内に形成される高周波不平等電界の周波数に応じて異なる誘電泳動特性を有している。したがって、細胞が正の誘電泳動特性を有する周波数の高周波不平等電界が流路3内に発生している場合には、細胞はコイル電極6,7によって半径方向外方に引き寄せられて、近接する流路3の内壁に近い位置を流動する。
【0019】
流路3内には、図2に矢印で示されるように、流速分布が発生しているので、内壁近傍を流通する細胞は電極ユニット4内に長時間にわたって滞留させられることになる。
一方、細胞が負の誘電泳動特性を有する周波数の高周波不平等電界が流路3内に発生している場合には、細胞はコイル電極6,7から半径方向内方に遠ざけられ、流路3の中央近傍を流動する。流路3の中央近傍は、図2示されるように速い流速で流動しているので、細胞は電極ユニット4内から短時間の内に流出させられることになる。
【0020】
これを利用して、コイル電極6,7に加える高周波電圧の周波数を変更しながら、電極ユニット4内の滞留時間を測定することにより、細胞の誘電泳動特性を測定することができるようになっている。
通過時間測定部5は、電極ユニット4の上流側および下流側にそれぞれ設けられた細胞検出器10a,10bと、上流側の細胞検出器10aにより細胞が検出された時刻から、下流側の細胞検出器10bにより細胞が検出された時刻までの所要時間を測定する計時部11とを備えている。
【0021】
このように構成された本実施形態に係る電極ユニット4および誘電泳動装置1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る誘電泳動装置1を用いて、細胞懸濁液A内に含まれる細胞の誘電泳動特性を測定するには、容器2内に細胞懸濁液Aを収容しておき、電圧供給部9を作動させて電極ユニット4に高周波電圧を加えた状態で、容器2内の細胞懸濁液Aを流路3内に流入させる。
【0022】
コイル電極6,7には、半径方向内方に向かって徐々に傾度が低くなる高周波不平等電界が発生する。したがって、電極ユニット4の半径方向内方には、半径方向の中心に向かって漸次傾度が低くなり、中心で最低となる高周波不平等電界が発生する。
容器2から流路3内に流入した細胞は、まず、上流側の細胞検出器10aにより検出されることによりその検出時刻が計時部11に記憶される。次いで、電極ユニット4内に流入することにより、高周波不平等電界の影響を受ける。
【0023】
細胞が、その高周波電圧の周波数において正の誘電泳動特性を有する場合には、電位傾度の高くなる方向、すなわち、コイル電極6,7に近接する方向に引き寄せられるように半径方向外方に移動する。逆に、細胞が、加えられた高周波電圧の周波数において負の誘電泳動特性を有する場合には、コイル電極6,7から離れて流路3の半径方向の中心位置近傍に保持される。
【0024】
流路3内には、細胞懸濁液Aの粘性によって半径方向に沿って図2に示される流速分布が発生しているので、流路3の内壁近傍を流通する細胞は、比較的長時間にわたって電極ユニット4内に滞留され、流路3の中央近傍を流通する細胞は、比較的短時間の内に電極ユニット4から放出される。
【0025】
そして、電極ユニット4を通過してきた細胞は、下流側の細胞検出器10bにより検出されることによりその検出時刻を記憶され、計時部11によって電極ユニット4の通過時間が測定される。測定された通過時間は、電極ユニット4に加えた高周波電圧の周波数と対応づけて記憶される。
【0026】
電極ユニット4に加える高周波電圧の周波数を変更しながら上記工程を繰り返し行うことにより、細胞の誘電泳動特性を簡易に測定することができる。
この場合において、本実施形態に係る電極ユニット4および誘電泳動装置1によれば、コイル状に形成したワイヤからなるコイル電極6,7を備えることで、従来の平面状に形成された電極と比較して、空間を有効に利用することができ、小さい体積で面積を確保して、装置のコンパクト化を図りながら、分離能力を高めることができるという利点がある。
【0027】
また、本実施形態に係る電極ユニット4によれば、ワイヤをコイル状に加工した2個のコイル電極6,7を用いることで、流路3の長手方向に沿って、かつ、流路3の内壁全周にわたって配置される電極を簡易に構成することができる。特に、2個のコイル電極6,7を軸方向に位相をずらして配置するだけで、逆の極性の高周波電圧を加えるワイヤを簡易に軸方向に交互に配置することができる。そして、各コイル電極6,7間にコイル状の絶縁材8を配置するだけで、コイル電極6,7間の電気的な絶縁を図り、ショートを防止することができるという利点がある。
【0028】
また、コイル電極6,7間の隙間が絶縁材8によって埋められているので、コイル電極6,7に引き寄せられた細胞が隙間に入り込んでしまう不都合を防止して、誘電泳動特性の測定精度をさらに向上することができる。
【0029】
なお、本実施形態に係る電極ユニット4および誘電泳動装置1においては、円筒状のコイル電極6,7を採用したが、これに限定されるものではなく、多角筒状のコイル電極を採用することとしてもよい。また、コイル状の絶縁材8をコイル電極6,7間に配置することとしたが、これに代えて、コイル電極6,7間に絶縁性の充填材を充填することにしてもよい。
【0030】
また、コイル電極6,7に代えて、流路3を挟む上下面、あるいは左右面、もしくは全面に、従来の微細加工技術により製造した電極群を配置することにしてもよい。この場合、製造容易性はコイル電極6,7と比較して劣るが、流路3内のあらゆる位置に配置されている細胞に対して高周波不平等電界を有効に作用させることができ、誘電泳動特性の測定精度を向上することができるとともに、測定時間を短縮して効率的に誘電泳動特性を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る誘電泳動装置を示す模式的な全体構成図である。
【図2】図1の誘電泳動装置に備えられた本実施形態に係る電極ユニットを示す縦断面図である。
【図3】図2の電極ユニットを構成する2つのコイル電極の(a)組合せ前、(b)組合せ後の状態をそれぞれ示す図である。
【図4】図3(b)の組み合わせられたコイル電極間の隙間へのコイル状の絶縁材の(a)組合せ前、(b)組合せ後の状態をそれぞれ示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 誘電泳動装置
3 流路
4 電極ユニット
5 通過時間測定部
6,7 コイル電極(電極)
8 絶縁材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液を流通させる流路の内面に、流通方向に略平行間隔をあけて異なる極性の高周波電圧が加えられる複数の電極を交互に配置してなる電極群を少なくとも流路を挟んで対向する位置に配置してなる電極ユニット。
【請求項2】
前記電極ユニットが、細胞懸濁液を流通させる流路の内面に配置され、流通方向に軸方向を一致させ、かつ、軸方向に略平行間隔をあけて交互に配置された一対の同径のコイル状に形成されている請求項1に記載の電極ユニット。
【請求項3】
前記一対の電極間の隙間に、前記電極と同径のコイル状の絶縁材が配置されている請求項1に記載の電極ユニット。
【請求項4】
細胞懸濁液を流通させる流路と、請求項1または請求項2に記載の電極ユニットと、前記流路内の前記電極ユニットにおける細胞の通過時間を測定する通過時間測定部を備える誘電泳動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−8086(P2010−8086A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164635(P2008−164635)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)