説明

電極保護体

【課題】 電極カートリッジを分析装置から外した状態でも、イオン選択性電極を適切に保護し、電極の劣化や損傷を抑えて、使用可能な状態を維持する電極保護体を提供する。
【解決手段】 電極カートリッジ50の測定槽51に挿入可能なプラグ部11を設け、測定槽51にプラグ部11を挿入して、測定槽51の内周側に露出しているイオン選択性電極をなす電極膜52a、54aに対し、プラグ部11外周を接触させることなく、電極膜より上側の測定槽51内周と電極膜より下側の測定槽51底部にそれぞれ環状のシール体を密着させて、測定槽51とプラグ部11との間の空間を、二つのシール体に挟まれた電極膜存在部分とそれ以外とに区画し、電極膜52a、54aをシール体に挟まれた空隙部分のみに接する状態とすることから、電極膜が外部の空気に触れて乾燥状態に至ることが無く、イオン選択性電極52、54の使用可能な状態を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン選択性電極(Ion Selective Electrode;ISE)を用いて、測定対象溶液中の特定のイオンの濃度を測定する分析装置における、カートリッジとして着脱可能に取扱われるイオン選択性電極を、分析装置から取外された非使用状態で保護する保護体に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床診断等の用途で、血液や尿などの生体サンプル中に含まれるナトリウムやカリウム、塩素などの特定のイオン成分を分析する電解質分析装置が利用されている。こうした分析装置としては、特定イオンに対応するイオン選択性電極と比較電極が設けられた測定槽や流路に、血液等の測定対象溶液を注入し、この溶液に接したイオン選択性電極と比較電極との間にあらわれる起電力を検出して、溶液中の特定イオンの濃度を算出、測定するタイプの自動分析装置が、最も多用されている。
こうした従来のイオン選択性電極を利用する分析装置の一例として、国際公開WO2011/034169号公報や特開2011−122823号公報に開示されるものがある。
【0003】
こうした従来の分析装置の主要部分である、イオン選択性電極の使用回数には限界があり、最終的には適切に測定が行えなくなる、すなわち、イオン選択性電極は部品としての寿命を有しており、一定期間又は一定使用回数ごとに交換を余儀なくされることから、前記国際公開WO2011/034169号公報(特許文献1)に示されるように、電極を含む装置所定範囲部分を電極カートリッジとして、容易に交換できる構成としたものが一般的である。
【0004】
このような従来の分析装置で実行されるイオン濃度の測定動作の一例を簡略に説明する。なお、分析装置は、イオン濃度の測定が可能な状態では、通常、一つの測定対象溶液について、複数の特定イオン、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオンのイオン濃度を同時に測定する。
【0005】
一連の測定動作としては、まず、プローブが、希釈液の収容位置まで回転駆動され、所定量の希釈液を吸引する。続いて、プローブは、測定対象溶液の収容位置まで回転駆動され、所定量の測定対象溶液を吸引する。
【0006】
さらに、プローブは、電極カートリッジの設置位置まで回転駆動され、あらかじめ残留液等がない状態とされた電極カートリッジの測定槽内に、プローブから測定対象溶液と希釈液が吐出される。この時、プローブによって測定対象溶液と希釈液との混合溶液の攪拌動作が実行される。
【0007】
この後、プローブが洗浄位置まで移動し、プローブが精製水により洗浄されるのと並行して、電極カートリッジの混合溶液に含まれるイオン濃度の測定が開始される。イオン濃度の測定は、各々のイオン選択性電極について実行され、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオンのそれぞれ対応するイオン選択性電極と比較電極との間に出現する起電力を測定する。
測定終了後、電極カートリッジの混合溶液はプローブに吸引され、廃棄される。廃棄後、プローブは新たに洗浄位置まで移動し、前記同様に精製水により洗浄される。
【0008】
次に、プローブは基準液の収容位置まで回転駆動され、所定量の基準液を吸引する。さらに、プローブは、イオン選択性電極カートリッジの設置位置まで回転駆動され、電極カートリッジの測定槽にプローブから基準液の一部が吐出され、測定槽のすすぎ洗いに使用される。そして、測定槽内の基準液が排出孔を通じて排出された後、プローブに残る基準液が測定槽内に吐出され、同時にプローブによって基準液の攪拌動作が行われる。
【0009】
この攪拌動作終了から所定時間後、基準液についてのイオン濃度の測定が、各々のイオン選択性電極について実行され、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオンのそれぞれ対応するイオン選択性電極と比較電極との間に出現する起電力を測定する。この測定の後、分析装置は、測定対象溶液中の特定イオンの濃度値を算出し、被検査対象溶液に対する特定イオンの測定動作が完了となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開WO2011/034169号公報
【特許文献2】特開2011−122823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の分析装置は前記各特許文献に示される構成となっており、このうち、前記特許文献1に示されるような、交換可能な分析装置の電極カートリッジにおいては、イオン選択性電極の高分子からなる電極膜が、測定対象溶液が注入される測定槽に面して、溶液中の特定イオンに反応可能な構造となっているが、この電極膜は、乾燥に弱いという問題を有している。
【0012】
このイオン選択性電極が設けられた電極カートリッジについては、交換使用にあたり分析装置に取付ける以前の未使用状態では、合成樹脂材等のパッケージにより覆われて密封され、外部の空気から隔離された状態となっているので問題はなく、また、パッケージが開封された後、電極カートリッジが分析装置に装着された状態では、通常は測定槽に何らかの液分が入っており、測定槽に面する電極膜にはこうした液分が接した状態となっていることが多く、電極膜の乾燥を防ぐことができる状態にある。
【0013】
ただし、電極カートリッジは、分析装置に装着して短時間使用した後、いったん分析装置本体から取外してしばらく保管した後、再度分析装置に装着して使用に供するような場合もあり得る。この電極カートリッジを分析装置から取外した場合、電極膜を覆うものが存在しなくなるために、電極膜が外部の空気に触れるおそれがあるなど、電極膜の乾燥からの保護を図ることが難しく、電極膜の乾燥による電極の劣化を招く危険性が高いという課題を有していた。
【0014】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、電極カートリッジを分析装置から外した状態でも、イオン選択性電極を適切に保護し、電極の劣化や損傷を抑えて、使用可能な状態を維持する電極保護体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る電極保護体は、イオン選択性電極を用いた電解質の分析装置において、測定対象溶液が注入される測定槽にイオン選択性電極と比較電極とが露出状態とされる構造をなして、着脱可能に設けられる電極カートリッジに対し、当該電極カートリッジの測定槽に挿入可能な棒状のプラグ部と、当該プラグ部と一体に形成され、プラグ部を前記電極カートリッジの測定槽に挿入した状態で電極カートリッジの外側に位置する基体部と、前記プラグ部の先端部、及び当該先端部から所定寸法離れたプラグ部外周位置にそれぞれ取付固定される弾性変形可能な環状のシール体とを備え、前記プラグ部は、プラグ部先端が測定槽の最奥部に達する挿入状態で、外周面が測定槽内周面より内側に離隔して位置する太さとされると共に、プラグ部先端部のシール体を電極より下側に位置させ、且つ、プラグ部先端部から所定寸法離れたシール体を電極より上側に位置させ、前記シール体のうち、プラグ部先端部のものは、未変形状態で前記測定槽内周面より小さい外形で、且つ、プラグ部先端が測定槽の最奥部に達する挿入状態で、測定槽の最奥部の底面に弾性変形を伴いつつ全周で密着する配置とされ、前記シール体のうち、プラグ部先端部から所定寸法離れたものは、未変形状態で前記測定槽内周面より大きく、測定槽への挿入状態では弾性変形して測定槽内周面に全周で密着する外形とされるものである。
【0016】
このように本発明によれば、電極カートリッジの測定槽をなす凹部に挿入可能なプラグ部を設け、測定槽にプラグ部を挿入して、測定槽の内周側に露出しているイオン選択性電極をなす電極膜に対し、プラグ部外周を接触させることなく、電極膜より上側の測定槽内周と電極膜より下側の測定槽底部にそれぞれ環状のシール体を密着させて、測定槽とプラグ部との間の空間を、二つのシール体に挟まれた電極膜存在部分とそれ以外とに区画し、電極膜をシール体に挟まれた空隙部分のみに接する状態とすることにより、電極膜を外部から隔離でき、電極膜が外部の空気に触れて乾燥状態に至ることが無く、電極カートリッジを分析装置から取外した状態においても、イオン選択性電極の機能を劣化させることなく使用可能な状態を維持でき、いったん使用した電極カートリッジの適切な保管が実現することとなる。
【0017】
また、本発明に係る電極保護体は必要に応じて、前記プラグ部に、プラグ部先端部のシール体よりさらに先端側に一方の開口部分を有して、プラグ部長手方向に貫通する孔が設けられるものである。
【0018】
このように本発明によれば、プラグ部に貫通孔が設けられ、プラグ部を電極カートリッジの測定槽に挿入する際、測定槽内の空気がプラグ部の先端側から孔を経て外部に流出して、測定槽内の圧力が過剰に高くなるのを抑制したり、また、プラグ部を測定槽から抜脱する際に、測定槽内に空気がプラグ部の孔を経て外部から流入して、測定槽内の圧力が過剰に低くなるのを抑制したりすることにより、プラグ部の測定槽への挿入時に、誤って電極膜に測定槽側から圧力が加わって電極膜の破損に繋がる事態や、プラグ部の孔からの抜脱時に、測定槽の圧力が下がった分、電極膜に外側から相対的に高い圧力が加わって電極膜の破損に繋がる事態をそれぞれ避けることができ、電極カートリッジに対するプラグ部の挿脱に関わりなく、電極膜の状態を安定的に維持できる。
【0019】
また、本発明に係る電極保護体は必要に応じて、前記基体部が、前記電極カートリッジの外周に重なる略筒状部分を有すると共に、当該略筒状部分の先端部の少なくとも一部が、電極カートリッジにおける電極外側の接続端子位置を越えて延長形成されるものである。
【0020】
このように本発明によれば、基体部をその先端が電極カートリッジの電極位置に達する長さとして形成し、電極カートリッジへの保護体装着状態で、電極カートリッジの外周部分に露出する電極の接続端子を、基体部先端部で覆うことにより、電極カートリッジ外周の接続端子が基体部先端部で保護され、電極カートリッジの分析装置からの取外し状態で、接続端子が他の物体と接触して破損したり、他の物体に傷を付けたりすることを確実に防止できる。
【0021】
また、本発明に係る電極保護体は必要に応じて、前記基体部が、外周面を略円筒面状に形成される電極カートリッジに対応させて、前記略筒状部分を円筒状とされ、前記基体部に、略筒状部分の内径と電極カートリッジの外径の差より大きい突出量で略筒状部分の内周から突出する凸状部として形成され、電極カートリッジの外周端部に穿設される溝又は切欠きに挿入可能とされるガイドが設けられるものである。
【0022】
このように本発明によれば、基体部に、電極カートリッジ側の溝又は切欠きに係合する凸状の位置決め用ガイドが設けられて、基体部のガイドの位置を電極カートリッジの溝又は切欠きに合わせてはじめて、プラグ部及び基体部を電極カートリッジへの装着状態にできることにより、基体部を常に一定の向きで電極カートリッジ外周に位置させられることとなり、例えばプラグ部の測定槽への挿入に合わせて基体部の下端部所定箇所を確実に電極の接続端子外側に位置させることができ、プラグ部の挿入後に基体部を回転させて位置合せを行う必要が無く、そうした作業の際に接続端子に誤って手が触れる事態を避けられる他、プラグ部のシール体に周方向の摩擦を生じさせず、シール体に負担を与えずに済むこととなる。
【0023】
また、本発明に係る電極保護体は必要に応じて、前記基体部が、外周面を略円筒面状に形成される電極カートリッジに対応させて、前記略筒状部分を円筒状とされ、前記基体部に、略筒状部分の内径と電極カートリッジの外径の差より大きい突出量で電極カートリッジの外周面から突出する凸部を挿入可能な、プラグ部長手方向と平行に連続する溝又は切欠きが穿設されるものである。
【0024】
このように本発明によれば、基体部に、電極カートリッジ側の凸部を係合させる位置決め用の溝又は切欠きが設けられて、基体部の溝又は切欠きの位置を電極カートリッジの凸部に合わせてはじめて、プラグ部及び基体部を電極カートリッジへの装着状態にできることにより、基体部を常に一定の向きで電極カートリッジ外周に位置させられることとなり、例えばプラグ部の測定槽への挿入に合わせて基体部の下端部所定箇所を確実に電極部の接続端子外側に位置させることができ、プラグ部の挿入後に基体部を回転させて位置合せを行う必要が無く、そうした作業の際に接続端子に誤って手が触れる事態を避けられる他、プラグ部のシール体に周方向の摩擦を生じさせず、シール体に負担を与えずに済むこととなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る電極保護体の上方からの斜視図及び下方からの斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電極保護体の平面図及び正面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る電極保護体の底面図及び図2のA−A断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る電極保護体を適用する電極カートリッジの平面図及び正面図である。
【図5】図4のB−B断面図及びC−C断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る電極保護体の電極カートリッジへの装着直前状態説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る電極保護体の電極カートリッジへの装着状態説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る電極保護体の電極カートリッジへの装着状態拡大断面図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る電極保護体の、三つの電極を有する電極カートリッジへの対応構造説明図、及び二つの電極を有する電極カートリッジへの対応構造説明図である。
【図10】本発明の他の実施形態に係る電極保護体の電極カートリッジへの装着状態拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る電極保護体を前記図1ないし図8に基づいて説明する。
前記各図において本実施形態に係る電極保護体1は、電極カートリッジ50の中央の測定槽51に挿入可能な大きさの棒状のプラグ部11と、このプラグ部11と一体に形成され、プラグ部11を外側から取囲む配置とされる基体部12と、プラグ部11の先端部、及びこの先端部から所定寸法離れた位置にそれぞれ固定される弾性変形可能な前記シール体としてのOリング13、14とを備える構成である。
【0027】
本実施形態の電極保護体1の装着対象となる電極カートリッジ50は、図4及び図5に示すように、測定対象溶液等を注入するための測定槽51と、この測定槽51内に電極膜52aが面する配置で測定槽51の周囲に設けられる比較電極52と、同じく測定槽51内に電極膜53a、54a、55aが面する配置とされ、特定イオンの濃度の測定に使用する複数のイオン選択性電極53、54、55とを有し、分析装置の電極カートリッジ収容部に常に特定の位置関係として着脱自在に収容されて、分析装置で上下方向又は回転方向に駆動されるプローブにより測定槽51に液体を吐出され、又は測定槽51から液体を吸引される仕組みとなっている。
【0028】
この電極カートリッジ50における、測定対象溶液等の液体が注入される測定槽51は、円断面形状の凹部として形成され、略円筒形状のカートリッジ筐体の中心軸に沿うように配置される構成である。測定槽51の最奥部(底部)はすり鉢状に傾斜した底面51aとして形成されると共に、残留液等を強制的に排出可能とする排出孔51bを中央に穿設される構成である。
【0029】
なお、電極カートリッジ50下端部における排出孔51bの下側開口周縁部には、横向きに開口する切欠き部51cが設けられており、仮に、排出孔51bの下側開口に下から例えば指などが押付けられた状態となっても、容易に塞がれることのない切欠き部51cに基づく空隙が空気の流通路となって、排出孔51bが閉塞されるのを防ぎ、排出孔51bへ空気が出入り可能な状態を維持することができる。
【0030】
前記プラグ部11は、棒状体、詳細には、分析装置から取外した状態の電極カートリッジ50における測定槽51への挿入状態で、測定槽51の円筒面状の内周面より内側に外周面が位置する太さの略円柱状体とされる構成である。このプラグ部11には、プラグ部最先端部分に一方の開口部分を有して、プラグ部長手方向に貫通する空気流通用の貫通孔11aが穿設される構成である。
【0031】
また、プラグ部11の先端部、及びこの先端部から所定寸法上側に離れた位置には、それぞれ前記シール体としてのOリング13、14が固定状態で配設される。
前記基体部12は、プラグ部11一端部と連結一体化される略円板状部分と、この略円板状部分の周縁部からプラグ部11と同じ向きに突出し、プラグ部11と所定間隔をなしてこれを取囲む略円筒状部分とを有してなる構成である。
【0032】
この基体部12の略円板状部分中央部には、前記貫通孔11aの他方の開口部分が位置すると共に、その周囲に、複数の突起部12fが所定間隔で形成されている。仮に、貫通孔開口部分の上側から例えば指などが押付けられた状態となっても、容易に塞がれることのない各突起部12f間の空隙が空気の流通路となって、貫通孔11aが閉塞されるのを防ぎ、貫通孔11aへ空気が出入り可能な状態を維持することができる。
【0033】
この突起部12fと、前記電極カートリッジ50の切欠き部51cとが設けられることで、電極保護体1のプラグ部11を電極カートリッジ50の測定槽51に対し挿入するために、仮に基体部12の貫通孔開口部分と電極カートリッジ50の排出孔51bの下側開口部分とにそれぞれ指を押当てて、電極保護体1と電極カートリッジ50とを指で挟んで押付けるようにした場合でも、貫通孔11aや排出孔51bが指で塞がれることはなく、測定槽51内の空気が貫通孔11aや排出孔51bを通じて流出可能であり、測定槽51内の圧力変化で電極膜52a、53a、54a、55aに影響が及ぶ事態を回避できる。
【0034】
基体部12の略円筒状部分は、略円筒面状に形成される電極カートリッジ50の外周面に対応したものであり、プラグ部11が電極カートリッジ50の測定槽51に挿入される状態で、同時に電極カートリッジ50の外周面に沿った状態となって、電極カートリッジ50の外周面に一部接触しつつ、プラグ部11の挿脱においてプラグ部11を電極カートリッジ50の中央(測定槽51)に無理なく位置させる役割を果す。
【0035】
また、基体部12は、その略円筒状部分の突出長さを、電極カートリッジ50の外側への装着状態で電極位置近傍に達する所定長さとして突出形成され、さらに一部が先端部12aとして各電極52、53、54、55の外側の接続端子52b、53b、54b、55b位置を越える長さに突出形成されて、この基体部12の四つの先端部12aで、各接続端子52b、53b、54b、55bの周囲を覆って保護する仕組みである。
【0036】
この基体部12の内周側には、電極カートリッジ50との位置決め用のガイド12bとなる凸部が設けられ、このガイド12bが電極カートリッジ50側に設けられた切欠き56に嵌合する場合のみ、プラグ部11及び基体部12を電極カートリッジ50に装着可能となる。
【0037】
さらに、基体部12の内周側には、電極カートリッジ50との位置決め用の溝部12cがプラグ長手方向と平行に連続させて穿設され、この溝部12cが電極カートリッジ50外周に設けられた凸部57と係合する場合のみ、プラグ部11及び基体部12を電極カートリッジ50に装着可能となる。こうしてガイド12bと溝部12cを用いることで、基体部12の電極カートリッジ50への装着位置関係を常に一通りのみとり得るように制限できる仕組みである。
【0038】
加えて、基体部12のプラグ部11と連結一体化される略円板状部分の周縁部には、略円筒状部分とは別に、略円筒状部分と同じ向き及び逆向きにそれぞれ突出して形成されるつまみ部12dが二つ配設されている。基体部12の電極カートリッジ50への装着状態では、このつまみ部12d先端の爪部12eが電極カートリッジ50の端部に設けられた段差部分に係合することで、プラグ部11及び基体部12が電極カートリッジ50に対し容易に外れない状態とする仕組みである。一方、これら二つのつまみ部12dを指で強く摘むことで、つまみ部12d先端の爪部12eが電極カートリッジ50の端部に設けられた段差部分から外れて、プラグ部11及び基体部12の電極カートリッジ50からの離脱が許容されることとなる。
【0039】
前記Oリング13、14は、弾性変形する可撓材製の円環状体として形成され、プラグ部11の二箇所にそれぞれずれないように固定配設される構成である。
これらOリングのうち、プラグ部11先端部のOリング13は、測定槽51内周面より小さく、電極膜52a、53a、54a、55aに接触しない大きさとされる一方、プラグ部11先端が測定槽51の最奥部に達する挿入状態で、測定槽51の最奥部のすり鉢状に傾斜した底面51aに弾性変形を伴いつつ、全周で密着可能となる構成である。このOリング13を装着されるプラグ部11先端には、Oリング13が外れるのを防止するための拡径部11bが形成される。
【0040】
前記Oリングのうち、プラグ部11先端部から所定寸法離れた上側位置のOリング14は、プラグ部11の測定槽51への挿入前状態で測定槽51内周面より大きい外径とされ、挿入状態では弾性変形して測定槽51内周面に全周で密着可能となる構成である。
【0041】
次に、本実施形態に係る電極保護体のカートリッジへの装着状態について説明する。まず、使用者が電極保護体1のプラグ部11を電極カートリッジ50の測定槽51に向けると共に、基体部12のガイド12bを電極カートリッジ50の切欠き56に、基体部12の溝部12cを電極カートリッジ50の凸部57にそれぞれ合わせて、電極保護体1を電極カートリッジ50に押付けると、基体部12のガイドが電極カートリッジ50の切欠き56に係合し、また、基体部12の溝部12cが電極カートリッジ50の凸部57を挿入された状態になるのと並行して、プラグ部11が測定槽51に挿入されると共に、基体部12が電極カートリッジ50の外周面に沿って進んで重なる領域を増大させていく。
【0042】
なお、基体部12のガイド12bが電極カートリッジ50の切欠き56からずれ、また、基体部12の溝部12cも電極カートリッジ50の凸部57から離れている状態では、電極保護体1を電極カートリッジ50に押付けても、基体部12のガイド12bが電極カートリッジ50の端部に接触し、且つ、電極カートリッジ50の凸部57が基体部12の端部に接触して、電極保護体1の電極カートリッジ50側への進行を阻止することから、電極保護体1を電極カートリッジ50に対し装着状態とすることはできない。
【0043】
プラグ部11が測定槽51に挿入される状態では、プラグ部11先端部から所定寸法離れた上側位置のOリング14が、プラグ部11の測定槽51への挿入に伴って、周囲の測定槽内周面から相対的に圧縮力を受ける形となって弾性変形して、測定槽内周面に全周で密着した状態で測定槽内を進むこととなる。一方、プラグ部11外周面やその先端部のOリング13は、測定槽51内周面より小さく、電極膜52a、53a、54a、55aに接触しない外径寸法とされていることに加え、基体部12と電極カートリッジ50の外周部との接触で、プラグ部11は測定槽51に対しほとんど傾かない状態に維持されることから、プラグ部11外周面やOリング13は測定槽内周面と接触することなく測定槽51内を進行する。
このため、測定槽51の内周側に露出している電極の電極膜52a、53a、54a、55aに対し、Oリング13を含むプラグ部11各部が接触することはない。
【0044】
プラグ部11を測定槽51に挿入する過程で、上側位置のOリング14が、測定槽内周面に全周で密着した状態で測定槽51を進行することで、測定槽51内の空気は測定槽51の底面側へ寄せられて押し縮められる状態となるが、プラグ部11には貫通孔11aが設けられているため、測定槽51内の空気はプラグ部11の先端側から貫通孔11aを経て外部に流出することとなり、測定槽51内の圧力が過剰に高くなるのを抑制することができ、電極膜52a、53a、54a、55aに測定槽51側から圧力が加わってこれら電極膜の破損に繋がる事態を避けられる。
【0045】
プラグ部11先端が測定槽51の最奥部に達すると、プラグ部11先端部のOリング13は、測定槽51の最奥部のすり鉢状に傾斜した底面51aに弾性変形を伴いつつ、全周で密着して、このOリング13より先の部分、例えば、プラグ部11の貫通孔11aや測定槽底面中央の排出孔51bなど、から空気がOリング13を越えて進入するのを防ぐこととなる。
【0046】
一方、プラグ部11先端部から所定寸法離れた上側位置のOリング14は、プラグ部11の挿入に際して、弾性変形して測定槽51内周面に全周で密着する状態を維持しつつ、測定槽51の電極膜露出箇所より上位置に達して、このOリング14より上側の部分から空気がOリング14を越えて進入するのを防ぐこととなる。
【0047】
こうして、電極膜52a、53a、54a、55aより下側の測定槽51底面と電極膜52a、53a、54a、55aより上側の測定槽51内周にそれぞれ環状のOリング13、14を密着させて、測定槽51とプラグ部11との間の空間を、二つのOリング13、14に挟まれた電極膜存在部分とそれ以外とに区画し、電極膜52a、53a、54a、55aをOリング13、14に挟まれた空隙部分のみに接する状態とすることで、電極膜52a、53a、54a、55aを外部から隔離でき、電極膜52a、53a、54a、55aが外部の空気に触れて乾燥状態に至るのを防止できる。
【0048】
さらに、電極カートリッジ50の外周側では、基体部12の先端部12aが電極カートリッジ50における電極52の外側の接続端子52b、53b、54b、55b位置に達してこれを覆う状態となっており、先端部12aで接続端子52b、53b、54b、55bを保護できる。
【0049】
このようにプラグ部11先端が測定槽51の最奥部に達し、基体部12の先端部12aが接続端子52b、53b、54b、55b位置に達すると、つまみ部12dの爪部12eが電極カートリッジ50の端部の段差部分に係合して、電極保護体1が電極カートリッジ50から容易に外れないように固定された状態となる。こうして、電極保護体1は、イオン選択性電極の機能を劣化させることなく使用可能な状態を維持でき、電極カートリッジの保管が適切に行える。
【0050】
逆に、電極保護体1を電極カートリッジ50に装着している状態から、電極保護体1を取外す場合は、両方のつまみ部12dを指で強く摘むと、つまみ部12dの爪部12eが電極カートリッジ50の端部の段差部分から外側に外れて、電極保護体1を電極カートリッジ50に対し離隔させる向きに動かせる状態となる。そのままつまみ部12dを摘んで電極保護体1を引くと、電極保護体1が電極カートリッジ50に装着された状態から徐々に外れていく。基体部12から突出するつまみ部12dを摘むことで、電極保護体1全体の電極カートリッジ50からの取外しが容易に行え、カートリッジ側へ余分な力が加わることもない。
【0051】
この時、プラグ部11も測定槽51から抜ける状態となり、その過程で、上側位置のOリング14が、測定槽内周面に全周で密着した状態で測定槽51を進行することで、測定槽51内の空気が膨張させられて圧力を低下させる状態となるが、プラグ部11の先端で開口する貫通孔11aを通じて、測定槽51内に空気が外部から流入することができ、測定槽51内の圧力が過剰に低くなるのを抑制できる。
【0052】
これにより、プラグ部11が測定槽51から抜ける時に測定槽51の圧力が下がるのに伴って、電極膜52a、53a、54a、55aに外側から相対的に高い圧力が加わって電極膜52a、53a、54a、55aの破損に繋がるような事態を避けることができる。電極保護体1を電極カートリッジ50から完全に取外したら、電極カートリッジ50を分析装置に再度取付けて使用に供することができる。
【0053】
このように、本実施形態に係る電極保護体は、電極カートリッジ50の測定槽51に挿入可能なプラグ部11を設け、測定槽51にプラグ部11を挿入して、測定槽51の内周側に露出している各電極の電極膜52a、53a、54a、55aに対し、プラグ部11外周を接触させることなく、電極膜52a、53a、54a、55aより上側の測定槽51内周と電極膜52a、53a、54a、55aより下側の測定槽51底部にそれぞれ環状のOリング13、14を密着させて、測定槽51とプラグ部11との間の空間を、二つのOリング13、14に挟まれた電極膜存在部分とそれ以外とに区画し、電極膜52a、53a、54a、55aをOリング13、14に挟まれた空隙部分のみに接する状態とすることから、電極膜52a、53a、54a、55aを外部から隔離でき、電極膜52a、53a、54a、55aが外部の空気に触れて乾燥状態に至ることが無く、電極カートリッジ50を分析装置から取外した状態においても、イオン選択性電極の機能を劣化させることなく使用可能な状態を維持でき、カートリッジの適切な保管が実現する。
【0054】
なお、前記実施形態に係る電極保護体においては、イオン選択性電極53、54、55が三つと比較電極52が一つある電極カートリッジ50に対応する構成とされるが、これに限らず、電解質分析の用途に応じて、電極カートリッジ50のイオン選択性電極を少なくしたもの、例えば、図9(A)に示すようにイオン選択性電極53、54を二つとしたものや、図9(B)に示すようにイオン選択性電極53を一つのみとしたものに対応させる構成とすることもできる。これらの例の場合、各電極は同じ高さ位置となるので、プラグ部11は変更の必要はなく、基体部12の突出した先端部12aの配置位置を、電極カートリッジ50におけるイオン選択性電極や比較電極の位置関係に合わせて調整することで対応できる。
【0055】
また、前記実施形態に係る電極保護体においては、電極カートリッジ50における複数の電極52、53、54、55が同じ高さ位置に配置される構造に対応して、プラグ部11における上下二つのOリング13、14を、電極カートリッジ50への装着状態で必要最小限の間隔で電極膜52a、53a、54a、55aの上下に位置するように配置する構成としているが、これに限らず、図10に示すように、電極カートリッジ50における複数の電極58、59が異なる高さにずらして配置される場合には、電極カートリッジ50への装着状態でいずれの電極膜58a、59aもOリング15、16間に位置して外部から隔離されるように、プラグ部11における上下二つのOリング15、16の配置間隔を電極カートリッジ50の電極配置に対応して適宜広げて設定する構成とすることもでき、電極カートリッジ50の構造によらず、前記実施形態同様に、イオン選択性電極を劣化から保護できる。
【符号の説明】
【0056】
1 電極保護体
11 プラグ部
11a 貫通孔
11b 拡径部
12 基体部
12a 先端部
12b ガイド
12c 溝部
12d つまみ部
12e 爪部
12f 突起部
13、14 Oリング
15、16 Oリング
50 電極カートリッジ
51 測定槽
51a 底面
51b 排出孔
51c 切欠き部
52 比較電極
53、54、55 イオン選択性電極
52a、53a 電極膜
54a、55a 電極膜
52b、53b 接続端子
54b、55b 接続端子
56 切欠き
57 凸部
58、59 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン選択性電極を用いた電解質の分析装置において、測定対象溶液が注入される測定槽にイオン選択性電極と比較電極とが露出状態とされる構造をなして、着脱可能に設けられる電極カートリッジに対し、
当該電極カートリッジの測定槽に挿入可能な棒状のプラグ部と、
当該プラグ部と一体に形成され、プラグ部を前記電極カートリッジの測定槽に挿入した状態で電極カートリッジの外側に位置する基体部と、
前記プラグ部の先端部、及び当該先端部から所定寸法離れたプラグ部外周位置にそれぞれ取付固定される弾性変形可能な環状のシール体とを備え、
前記プラグ部は、プラグ部先端が測定槽の最奥部に達する挿入状態で、外周面が測定槽内周面より内側に離隔して位置する太さとされると共に、プラグ部先端部のシール体を電極より下側に位置させ、且つ、プラグ部先端部から所定寸法離れたシール体を電極より上側に位置させ、
前記シール体のうち、プラグ部先端部のものは、未変形状態で前記測定槽内周面より小さい外形で、且つ、プラグ部先端が測定槽の最奥部に達する挿入状態で、測定槽の最奥部の底面に弾性変形を伴いつつ全周で密着する配置とされ、
前記シール体のうち、プラグ部先端部から所定寸法離れたものは、未変形状態で前記測定槽内周面より大きく、測定槽への挿入状態では弾性変形して測定槽内周面に全周で密着する外形とされることを
特徴とする電極保護体。
【請求項2】
前記請求項1に記載の電極保護体において、
前記プラグ部に、プラグ部先端部のシール体よりさらに先端側に一方の開口部分を有して、プラグ部長手方向に貫通する孔が設けられることを
特徴とする電極保護体。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の電極保護体において、
前記基体部が、前記電極カートリッジの外周に重なる略筒状部分を有すると共に、当該略筒状部分の先端部の少なくとも一部が、電極カートリッジにおける電極外側の接続端子位置を越えて延長形成されることを
特徴とする電極保護体。
【請求項4】
前記請求項3に記載の電極保護体において、
前記基体部が、外周面を略円筒面状に形成される電極カートリッジに対応させて、前記略筒状部分を円筒状とされ、
前記基体部に、略筒状部分の内径と電極カートリッジの外径の差より大きい突出量で略筒状部分の内周から突出する凸状部として形成され、電極カートリッジの外周端部に穿設される溝又は切欠きに挿入可能とされるガイドが設けられることを
特徴とする電極保護体。
【請求項5】
前記請求項3に記載の電極保護体において、
前記基体部が、外周面を略円筒面状に形成される電極カートリッジに対応させて、前記略筒状部分を円筒状とされ、
前記基体部に、略筒状部分の内径と電極カートリッジの外径の差より大きい突出量で電極カートリッジの外周面から突出する凸部を挿入可能な、プラグ部長手方向と平行に連続する溝又は切欠きが穿設されることを
特徴とする電極保護体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−64702(P2013−64702A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204884(P2011−204884)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)