説明

電極保護膜形成剤

【課題】高電圧充放電サイクル特性及び貯蔵特性に優れた電極保護膜形成剤を提供する。
【解決手段】脂環式化合物の2個以上の水素原子を一般式(1)で表される重合性官能基で置換した化合物を含有する負極保護膜形成剤。化合物は、その環又は環の側鎖を構成する原子の一部が、酸素、窒素及び硫黄原子からなる群より選ばれる事が好ましい。


[R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜3のアルキレン鎖又はアルキル基]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池又はリチウムイオンキャパシタに有用な電極保護膜形成剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池等の非水電解液二次電池は、高電圧、高エネルギー密度という特徴を持つことから、携帯情報機器分野等において広く利用され、その需要が急速に拡大しており、現在、携帯電話、ノート型パソコンを始めとするモバイル情報化機器用の標準電池としてのポジションが確立されている。当然ながら、携帯機器等の高性能化と多機能化に伴い、その電源としての非水電解液二次電池に対しても更なる高性能化(例えば、高容量化と高エネルギー密度化)が求められている。この要求に応えるために種々の方法、例えば、電極の充填率の向上による高密度化、現行の活物質(特に正極)の利用深度の向上、新規高容量の活物質の開発等が行われている。そして、現実に非水電解液二次電池がこれらの方法によって確実に高容量化されている。
【0003】
しかし、電池の容量やエネルギー密度が向上する一方で、充放電サイクル特性や高温貯蔵時における膨れ等の問題については十分な解決策は未だ見出されていない。
【0004】
従来、電池の充放電サイクル特性の低下や電池の膨れ等の問題を解決する技術は種々提案されている。例えば特許文献1及び特許文献2では、電解液に添加剤として負極で保護膜を形成する炭酸ビニレンやエチレンサルファイトなどの化合物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−45545号公報
【特許文献2】特開平11−121032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2で提案されているこれらの化合物を用いても、充放電サイクル特性や高温貯蔵特性は十分であるとは言い難い。
本発明は、高電圧充放電サイクル特性及び高温貯蔵特性に優れたリチウム二次電池又はリチウムイオンキャパシタ用の電極保護膜形成剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。即ち、本発明は、脂環式化合物(C)の2個以上の水素原子を一般式(1)で表される重合性官能基(a)で置換した化合物(A)を含有する負極保護膜形成剤(B);該負極保護膜形成剤(B)を含有する負極と、正極からなる電極;該負極保護膜形成剤(B)を含有する電解液;該電極及び/又は該電解液を有するリチウム二次電池;該電極及び/又は該電解液を有するリチウムイオンキャパシタ;該負極保護膜形成剤(B)を負極又は電解液に含有させて、電圧を印加することにより電極活物質表面に保護膜を形成することを特徴とする電極保護膜の形成方法である。
【化1】

[式中、R、R及びRはいずれか1つが炭素数1〜3のアルキレン鎖であり、残りの2つはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。]
【発明の効果】
【0008】
本発明の負極保護膜形成剤(B)は、充放電サイクル特性及び高温貯蔵特性を向上させることができる。
本発明の負極保護膜形成剤(B)を含有する電極又は電解液を使用することで、充放電サイクル性能及び高温貯蔵特性に優れたリチウム二次電池又はリチウムイオンキャパシタを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
負極保護膜形成剤(B)
負極保護膜形成剤(B)は化合物(A)を含有し、必要により化合物(D)を含有する。
化合物(A)は脂環式化合物(C)の2個以上の水素原子を上記一般式(1)で表される重合性官能基(a)で置換した化合物である。
【0010】
上記一般式(1)における、R、R及びRはいずれか1つが炭素数1〜3のアルキレン鎖であり、残りの2つはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。
【0011】
炭素数1〜3のアルキレン鎖としては、メチレン基、エチレン基、1,2−プロピレン基及び1,3−プロピレン基等があげられる。
これらの内、サイクル特性の観点から好ましいのはメチレン基である。
【0012】
炭素数1〜3のアルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基及びiso―プロピル基等があげられる。
これらの内、サイクル特性の観点から好ましいのはメチル基である。
【0013】
被膜形成反応の反応性の観点から、R、R及びRの好ましい組合せとしては以下の(1)〜(4)が挙げられる。
(1)R=メチレン基、R=水素原子、R=水素原子
(2)R=水素原子、R=メチレン基、R=水素原子
(3)R=水素原子、R=水素原子、R=メチレン基
(4)R=メチレン基、R=水素原子、R=メチル基
これらの内で更に好ましいのは(1)または(2)の組合せである。
【0014】
化合物(A)は脂環式化合物(C)の2〜4個の水素原子を重合性官能基(a)で置換した化合物であることが好ましい。サイクル特性の観点から重合性官能基(a)の置換数は2又は3であることがさらに好ましい。
【0015】
脂環式化合物(C)の分子量は70〜1000が好ましい。
脂環式化合物(C)の環を構成する原子の数は5〜18であることが好ましく、合成上の観点からより好ましくは5,6,9,12,15,18であり、さらに好ましくは6,9,12,15である。
【0016】
脂環式化合物(C)としてはその環の一部又はその環の側鎖を構成する原子の一部が、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子である脂環式化合物(C1)、ヘテロ原子を有さない脂環式化合物(C2)が挙げられるが、(C1)が好ましい。
【0017】
脂環式化合物(C1)としては、環の一部が酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる原子で構成される脂環式化合物(C11)、環の側鎖を構成する原子の一部が酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる原子で構成される脂環式化合物(C12)が挙げられる。
脂環式化合物(C11)としては一般式(2)で表される脂環式化合物(C111)、それ以外の脂環式化合物(C112)が挙げられるが、(C111)が好ましい。
脂環式化合物(C1)、(C2)、(C11)、(C12)、(C111)、(C112)の2個以上の水素原子を重合性官能基(a)で置換した化合物を各、化合物(A1)、(A2)、(A11)、(A12)、(A111)、(A112)と記載することとする。
【0018】
【化2】

一般式(2)中、Xは同じであっても異なっていてもよく、NH、酸素原子又は硫黄原子であり、2つ以上はNHである。
nは1〜7の整数であり、サイクル特性の観点から好ましくは1〜5である。
【0019】
脂環式化合物(C111)の具体例としてはピペラジン、1,3,7−トリアザシクロノナン、3,7−ジアザ−1−オキサシクロノナン、3,7−ジアザ−1−チオシクロノナン、1,3,7,10−テトラアザシクロドデカン、4,10−ジアザ−12−クラウン−4−エーテル、4,10−ジアザ−1,7−ジチオ−12−クラウン−4−エーテル、4,7−ジアザ−12−クラウン−4−エーテル、4,7−ジアザ−1,10−ジチオ−12−クラウン−4−エーテル、4,10−ジアザ−15−クラウン−5−エーテル、4,7,13−トリアザ−15−クラウン−5−エーテル、4,7,10,13−テトラアザ−15−クラウン−5−エーテル、1,4,7,10,13−ペンタアザ−15−クラウン−5−エーテル、4,13−ジアザ−18−クラウン−6−エーテル、4,7,13−トリアザ−18−クラウン−6−エーテル及び4,7,13,16−テトラアザ−18−クラウン−6−エーテル等があげられる。
この内でサイクル特性の観点から好ましくはピペラジン、1,3,7−トリアザシクロノナン、1,3,7,10−テトラアザシクロドデカン、4,10−ジアザ−12−クラウン−4−エーテル、4,10−ジアザ−15−クラウン−5−エーテル、4,13−ジアザ−18−クラウン−6−エーテル、及び4,7,13−トリアザ−18−クラウン−6−エーテルであり、さらに好ましくはピペラジン、4,10−ジアザ−12−クラウン−4−エーテル、4,10−ジアザ−15−クラウン−5−エーテル及び4,13−ジアザ−18−クラウン−6−エーテルである。
【0020】
脂環式化合物(C112)の具体例としてはテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキサン、ピロリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、テトラヒドロチオフェン、及び1,3,5−トリチアンなどが挙げられる。
【0021】
脂環式化合物(C1)のうち、環の側鎖の一部が酸素原子、窒素原子、硫黄原子である脂環式化合物(C12)としてはシクロペンタン誘導体又はシクロヘキサン誘導体が挙げられる。シクロペンタン誘導体の具体例としては1,3−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジチオール、1,3−シクロペンタンジアミン、1,3−シクロペンタンジメタノール、1,3−ジ(2−ヒドロキシエチル)シクロペンタン及び1,3−ジ(3−ヒドロキシプロピル)シクロペンタンが挙げられる。シクロヘキサン誘導体の具体例としては1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジチオール、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3,5−シクロヘキサントリオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3,5−シクロヘキサントリメタノール、1,4−ジ(2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサン及び1,4−ジ(3−ヒドロキシプロピル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0022】
脂環式化合物(C)のうち、ヘテロ原子を有さない脂環式化合物(C2)としてはシクロペンタン誘導体又はシクロヘキサン誘導体が挙げられる。シクロペンタン誘導体の具体例としてはシクロペンタン、メチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、1,3−ジメチルシクロペンタン、1,3−ジエチルシクロペンタン、1,3−シクロペンタンジメタノール、及び1−エチル−3−エチルシクロペンタンが挙げられる。シクロヘキサン誘導体の具体例としてはシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジエチルシクロヘキサン及び1,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。
【0023】
化合物(A1)のうち、化合物(A111)の具体例としてはN,N’−ジ(3−カルボキシアリル)ピペラジンジリチウム、N,N’−ジ(3−カルボキシアリル)−1,3,7−トリアザシクロノナンジリチウム、N,N’,N’’−トリ(3−カルボキシアリル)−1,3,7−トリアザシクロノナントリリチウム、N,N’−ジ(3−カルボキシアリル)ピペラジンジリチウム、N,N’−ジ(3−カルボキシアリル)−4,10−ジアザ−12−クラウン−4−エーテルジリチウム、N,N’−ジ(3−カルボキシアリル)−4,10−ジアザ−15−クラウン−5−エーテルジリチウム、N,N’−ジ(3−カルボキシアリル)−4,13−ジアザ−18−クラウン−6−エーテルジリチウム及びN,N’−ジ{3−(2−メチレンプロピオン酸)}ピペラジンジリチウムが挙げられる。
【0024】
化合物(A1)のうち、化合物(A112)の具体例としてはN、N’−ジ(3−カルボキシアリル)イミダゾリンジリチウム及びN、N’−ジ{3−(2−メチレンプロピオン酸)}イミダゾリンジリチウム等が挙げられる。この内でサイクル特性の観点から好ましくはN、N’−ジ(3−カルボキシアリル)イミダゾリンジリチウムである。
【0025】
化合物(A1)のうち、(A12)の具体例としては1,3−シクロペンタンジオールジ(3−カルボキシアリル)エーテルジリチウム、1,3−シクロペンタンジメタノールジ(3−カルボキシアリル)エーテルジリチウム、1,3−シクロヘキサンジメタノールジ(3−カルボキシアリル)エーテルジリチウム、1,4−シクロヘキサンジオールジ(3−カルボキシアリル)エーテルジリチウム、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(3−カルボキシアリル)エーテルジリチウム及び1,4−シクロヘキサンジメタノールジ{3−(2−メチレンプロピオン酸)}エーテルジリチウム等が挙げられる。この内でサイクル特性の観点から好ましくは1,3−シクロペンタンジオールジ(3−カルボキシアリル)エーテルジリチウム、1,4−シクロヘキサンジオールジ(3−カルボキシアリル)エーテルジリチウム、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(3−カルボキシアリル)エーテルジリチウム及び1,4−シクロヘキサンジメタノールジ{3−(2−メチレンプロピオン酸)}エーテルジリチウムでありさらに好ましくは1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(3−カルボキシアリル)エーテルジリチウムである。
【0026】
化合物(A2)の具体例としては1,3−ジ(3−カルボキシアリル)シクロペンタンジリチウム、1,4−ジ(3−カルボキシアリル)シクロヘキサンジリチウム及び1,3,5−トリ(3−カルボキシアリル)シクロヘキサントリリチウム等が挙げられる。この内でサイクル特性の観点から好ましくは1,4−ジ(3−カルボキシアリル)シクロヘキサンジリチウムである。
【0027】
本発明における化合物(A)は、通常の方法で製造することができる。例えば、有機溶媒中で、無触媒又は触媒の存在下、水酸基又は2級アミンを有する脂環式化合物と、重合性官能基(a)を有するハロゲン化アルキルを反応させた後、水酸化リチウム水溶液中で加水分解する方法が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、ニトリル系有機溶媒(アセトニトリル、プロピオノニトリル及びベンゾニトリル等)、ケトン系有機溶媒(アセトン及びメチルエチルケトン等)、アミド系有機溶媒(ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミド等)、エーテル系有機溶媒(ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン及びジオキサン等)、エステル系有機溶媒(酢酸エチル及びマレイン酸ジエチル等)、硫黄含有有機溶剤(ジメチルスルホキシド及びスルホラン等)、ハロゲン化炭化水素(クロロホルム及びジクロロメタン等)、炭化水素(ヘキサン、ヘプタン、トルエン及びキシレン等)及びこれらの溶媒の二種以上の混合物が挙げられる。触媒としては、アルカリ金属水酸化物(例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等)、アルカリ金属炭酸塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等)及びアルカリ金属水素化物(水素化ナトリウム及び水素化カリウム等)等が挙げられる。反応温度は通常10〜150℃、反応時間は通常0.5〜24時間である。反応終了後は、必要により触媒を中和し、吸着剤で処理して触媒を除去・精製することができる。
【0028】
重合性不飽和二重結合を有するハロゲン化アルキルとしては、例えば、4−ブロモ−2−ブテン酸メチルエステル、4−ブロモ−2−ブテン酸エチルエステル、4−ブロモ−3−メチル−2−ブテン酸メチルエステル、4−ブロモ−2−メチル2−ブテン酸メチルエステル、2−(ブロモメチル)アクリル酸メチルエステル及び2−(ブロモメチル)クロトン酸メチルエステル等が挙げられる。
【0029】
本発明の負極保護膜形成剤(B)は、(A)に加え更に化合物(D)を含有することができる。(D)を含有することにより、負極保護膜の安定性が向上し充放電サイクル特性を更に向上させることができる。
【0030】
化合物(D)は、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト及びα−ブロモ−γ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。これらの内、サイクル特性の観点から好ましいのはビニレンカーボネートである。
【0031】
負極保護膜形成剤(B)における化合物(A)の含有量は、(B)の重量を基準として、10〜100重量%であることが好ましく、更に好ましくは50〜100重量%である。
負極保護膜形成剤(B)における化合物(D)の含有量は、(B)の重量を基準として、0〜90重量%であることが好ましく、更に好ましくは0〜50重量%である。
【0032】
負極保護膜形成剤(B)は電極や電解液に含有させて、電極に電圧を印加することにより(B)が負極活物質表面で重合し被膜を形成する。この被膜が、電極表面での電解液の分解を抑制する保護膜となり、充放電サイクル特性及び高温保存特性を向上させる。
リチウム二次電池やリチウムイオンキャパシタの電極又は電解質に(B)を含有させた場合、初回充電時に上記保護膜が形成されるが、リチウム二次電池やリチウムイオンキャパシタの電極として、別途電極表面(負極活物質表面)に(B)の重合被膜を形成させた電極を使用することもできる。
【0033】
電極
本発明の電極は、負極保護膜形成剤(B)、活物質(E)及び結着剤(F)を含有する。
【0034】
活物質(E)としては負極活物質(E1)、リチウム二次電池用正極活物質(E2)及びリチウムイオンキャパシタ用正極活物質(E3)が挙げられる。
負極活物質(E1)としては、黒鉛、アモルファス炭素、高分子化合物焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス)、炭素繊維、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール)、スズ、シリコン、及び金属合金(例えばリチウム−スズ合金、リチウム−シリコン合金、リチウム−アルミニウム合金及びリチウム−アルミニウム−マンガン合金等)等が挙げられる。
リチウム二次電池用正極活物質(E2)としてはリチウムと遷移金属との複合酸化物(例えばLiCoO、LiNiO、LiMnO及びLiMn)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)、及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリフッ化ビニリデン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン及びポリカルバゾール)等が挙げられる。
リチウムイオンキャパシタ用正極活物質(E3)としては活性炭、炭素繊維及び導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール)等が挙げられる。
【0035】
結着剤(F)としてはデンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフロオロエチレン、ポリエチレン及びポリプロピレン等の高分子化合物が挙げられる。
【0036】
本発明の電極は、更にルイス塩基(G)を含有することができる。(G)を含有することにより、化合物(A)の保存安定性が向上する。
ルイス塩基(G)としては、例えばトリアゾール誘導体(1,2,3−ベンゾトリアゾール、5−メチル−1,2,3−ベンゾトリアゾール、5,6−ジメチル−1,2,3−ベンゾトリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メチル−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−エチル−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−プロピル−1,2,4−トリアゾール及び3−アミノ−5−ブチル−1,2,4−トリアゾール等)が挙げられる。これらは市販品を入手することが出来る。これらの内、充放電サイクル特性の観点から好ましいのは、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールである。
【0037】
本発明の電極は更に導電助剤(H)を含有することができる。
導電助剤(H)としては黒鉛(例えば天然黒鉛及び人工黒鉛)、カーボンブラック類(例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック及びサーマルブラック)及び金属粉末(例えばアルミニウム粉及びニッケル粉)、導電性金属酸化物(例えば酸化亜鉛及び酸化チタン)等が挙げられる。
【0038】
本発明の電極における、負極保護膜形成剤(B)、活物質(E)、結着剤(F)、ルイス塩基(G)及び導電剤(H)のそれぞれの好ましい含有量は(B)、(E)、(F)の合計重量に基づいて以下の通りである。 負極保護膜形成剤(B)の含有量は、充放電サイクル特性、電池容量及び高貯蔵特性の観点から、好ましくは0.5〜5重量%であり、更に好ましくは1〜3重量%である。
活物質(E)の含有量は、充放電サイクル特性の観点から、好ましくは70〜98重量%であり、更に好ましくは90〜98重量%である。
結着剤(F)の含有量は、充放電サイクル特性の観点から、好ましくは0.5〜29重量%であり、更に好ましくは1〜10重量%である。
ルイス塩基(G)の含有量は、電池容量、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から、好ましくは0〜7.5重量%であり、更に好ましくは0.5〜3重量%である。
導電剤(H)の含有量は、電池出力の観点から、好ましくは0〜29重量%であり、更に好ましくは0〜10重量%である。
【0039】
本発明の電極は、例えば負極保護膜形成剤(B)、活物質(E)、結着剤(F)並びに必要によりルイス塩基(G)及び導電剤(H)を、水又は溶媒に30〜60重量%の濃度で分散してスラリー化したものを、集電体にバーコーター等の塗工装置で塗布後、乾燥して溶媒を除去して、必要によりプレス機でプレスすることにより得られる。
ここで、活物質(E)としてリチウム二次電池用正極活物質(E2)を用いることによりリチウム二次電池用の正極が得られ、活物質(E)としてリチウムイオンキャパシタ用正極活物質(E3)を用いることによりリチウムイオンキャパシタ用の正極が得られる。また、活物質(E)として負極用活物質(E1)を用いることによりリチウム二次電池用の負極が得られ、リチウム二次電池用負極にリチウムをドーピングすることによりリチウムイオンキャパシタ用負極が得られる。
【0040】
溶媒としては、例えば1−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン及びテトラヒドロフラン等が挙げられる。
集電体としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等が挙げられる。
【0041】
電解液
本発明の電解液は、負極保護膜形成剤(B)、電解質(I)及び非水溶媒(J)を含有し、リチウム二次電池用及びリチウムイオンキャパシタ用の電解液として有用である。
【0042】
電解質(I)としては、通常の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF及びLiClO等の無機酸のリチウム塩、LiN(CFSO、LiN(CSO及びLiC(CFSO等の有機酸のリチウム塩が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiPFである。
【0043】
非水溶媒(J)としては、通常の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0044】
ラクトン化合物としては、5員環(γ−ブチロラクトン及びγ−バレロラクトン等)及び6員環のラクトン化合物(δ−バレロラクトン等)等を挙げることができる。
【0045】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びブチレンカーボネート等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート及びジ−n−プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0046】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン及び1,4−ジオキサン等が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2−ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0047】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2−エトキシ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オン、2−トリフルオロエトキシ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オン及び2−メトキシエトキシ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オン等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等が挙げられる。
非水溶媒(J)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
非水溶媒(J)の内、電池出力及び充放電リサイクル特性の観点から好ましいのは、ラクトン化合物、鎖状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル及びリン酸エステル、更に好ましいのはラクトン化合物及び鎖状炭酸エステル、特に好ましいのはラクトン化合物、とりわけ好ましいのは5員環又は6員環のラクトン化合物、最も好ましいのは5員環のラクトン化合物である。
【0049】
炭酸エステル化合物に比べ電位窓が狭いため、従来リチウム電池用途では使用できなかったラクトン化合物も本発明においては保護膜形成剤による保護膜が存在するため溶媒として使用することができ、ラクトン化合物は炭酸エステル化合物と比較して耐熱保存安定性に優れるため、高温貯蔵特性を向上させることができる。
【0050】
本発明の電解液は、更に前記ルイス塩基(G)を含有することができる。(G)を含有することにより、化合物(A)の保存安定性が向上する。
【0051】
本発明の電解液における負極保護膜形成剤(B)、電解質(I)、非水溶媒(J)及びルイス塩基(G)のそれぞれ好ましい含有量又は濃度は必須成分(B)、(I)、(J)の合計重量又は体積に基づいて以下の通りである。
【0052】
(B)の含有量は、充放電サイクル特性、電池容量及び高貯蔵特性の観点から好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは0.05〜1重量%である。 (G)の含有量は、電池容量、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましくは0〜10重量%、更に好ましくは0.01〜10重量%、特に好ましくは0.05〜1重量%である。
電解液中の電解質(I)の濃度は、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましくは3〜50重量%であり、さらに好ましくは7〜30重量%である。
非水溶媒(J)の含有量は、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましくは70〜99重量%であり、更に好ましくは93〜99重量%である。
【0053】
本発明の電解液は、更に過充電防止剤、脱水剤及び容量安定化剤等の添加剤を含有してもよい。
過充電防止剤としては、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン及びt−アミルベンゼン等の芳香族化合物等が挙げられる。過充電防止剤の使用量は、(B)、(I)、(J)の合計重量に基づいて、通常0〜5重量%、好ましくは0〜3重量%である。
【0054】
脱水剤としては、ゼオライト、シリカゲル及び酸化カルシウム等が挙げられる。脱水剤の使用量は、(B)、(I)、(J)の合計重量に基づいて、通常0〜5重量%、好ましくは0〜3重量%である。
【0055】
容量安定化剤としては、フルオロエチレンカーボネート、無水コハク酸、1−メチル−2−ピペリドン、ヘプタン及びフルオロベンゼン等が挙げられる。容量安定化剤の使用量は、(B)、(I)、(J)の合計重量に基づいて、通常0〜5重量%、好ましくは0〜3重量%である。
【0056】
本発明のリチウム二次電池は、正極、負極及びセパレータを収納した電池缶内に電解液を注入して電池缶を密封する際に、正極又は負極として本発明の電極(正極はリチウム二次電池用の正極)を用いるか、電解液に本発明の電解液を用いるか、又はこれらの併用により得られる。
【0057】
リチウム二次電池におけるセパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製フィルムの微多孔膜、多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンとの多層フィルム、ポリエステル繊維、アラミド繊維及びガラス繊維等からなる不織布並びにこれらの表面にシリカ、アルミナ及びチタニア等のセラミック微粒子を付着させたものが挙げられる。
【0058】
リチウム二次電池における電池缶としては、ステンレススチール、鉄、アルミニウム及びニッケルメッキスチール等の金属材料を用いることができるが、電池用途に応じてプラスチック材料を用いることもできる。また電池缶は、用途に応じて円筒型、コイン型、角型又はその他任意の形状にすることができる。
【0059】
本発明のリチウムイオンキャパシタは、本発明のリチウム二次電池の基本構成において、正極をリチウムイオンキャパシタ用の正極に代え、電池缶をキャパシタ缶に代えることにより得られる。キャパシタ缶の材質及び形状としては、電池缶で例示したものと同様のものが挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0061】
<製造例1>
N,N’−ジ(4−ブタ−2−エン酸)ピペラジンジリチウム(A111−1)の合成;
攪拌機、温度計及び冷却管を取り付けたフラスコに、ピペラジン[東京化成工業(株)製]0.24部(2.8mmol部)、4−ブロモ−2−ブテン酸メチルエステル[東京化成工業(株)製]1部(5.6mmol部)及びアセトニトリル10部を仕込み、攪拌しながら均一に溶解させた後、攪拌下室温で24時間反応させた。アセトニトリルを減圧(10mmHg)下に除去後、アセトンを溶剤としたアルミナカラム[150mesh、Brockman1,standard grade、アルドリッチ(株)製]によって反応物を精製した。生成物を10%水酸化リチウム水溶液0.91部に加え室温で6時間攪拌した後、水を減圧(10mmHg)下に除去し(A111−1)0.51部(1.9mmol部)を得た(収率68%)。
【0062】
<製造例2>
N,N’−ジ(3−カルボキシアリル)−4,10−ジアザ−15−クラウン−5−エーテルジリチウム(A111−2)の合成;
ピペラジン0.24部のかわりに4,10−ジアザ−15−クラウン−5−エーテル[東京化成工業(株)製]0.61部(2.8mmol部)を加えたこと以外は実施例1と同様の方法で(A111−2)0.83部(2.1mmol部)を得た(収率75%)。
【0063】
<製造例3>
N,N’−ジ{3−(2−メチレン)プロピオン酸}−ピペラジンジリチウム(A111−3)の合成;
4−ブロモ−2−ブテン酸メチルエステル1部のかわりに2−(ブロモメチル)アクリル酸メチル[東京化成工業(株)製]1部(5.6mmol部)を加えたこと以外は実施例1と同様の方法で(A111−3)0.53部(2.0mmol部)を得た(収率71%)。
【0064】
<製造例4>
1,3−シクロペンタンジオールジ(4−ブタ−2−エン酸)エーテルジリチウム(A12−1)の合成;
撹拌機、温度計及び冷却管を取り付けたフラスコに、1,3−シクロペンタンジオール[東京化成工業(株)製]0.28部(2.8mmol部)、4−ブロモ−2−ブテン酸メチルエステル[東京化成工業(株)製]1部(5.6mmol部)、水酸化カリウム0.31部(5.6mmol部)及びトルエン5部を仕込み、撹拌しながら均一に溶解させた後、2時間かけて65℃まで昇温し更に4時間撹拌して、エーテル化反応を行った。放冷後、水20部を加え水層を分離した。更に有機層を水20部で洗浄した。トルエンを減圧(10mmHg)下に除去後、ヘキサンを溶剤としたアルミナカラム[150mesh、Brockman1,standard grade、アルドリッチ(株)製]によって反応物を精製した。生成物を10%水酸化リチウム水溶液0.87部に加え室温で6時間攪拌した後、水を減圧(10mmHg)下に除去し(A12−1)0.51部(1.8mmol部)を得た(収率65%)。
【0065】
<製造例5>
1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(4−ブタ−2−エン酸)エーテルジリチウム(A12−2)の合成;
1,3−シクロペンタンジオール0.28部のかわりに1,4−シクロヘキサンジメタノール[東京化成工業(株)製]0.40部(2.8mmol部)を加えたこと以外は実施例3と同様の方法で(A12−2)0.65部(2.0mmol部)を得た(収率72%)。
【0066】
<製造例6>
ブロモクロトン酸t−ブチルの合成;
撹拌機、温度計及び冷却管を取り付けたフラスコに、クロトン酸t−ブチル[東京化成工業(株)製]1部(7.0mmol部)、N−ブロモスクシンイミド[東京化成工業(株)製]1.25部(7.0mmol部)及びジクロロメタン5部を仕込み、撹拌しながら均一に溶解させた後、2時間かけて50℃まで昇温し更に4時間撹拌して、臭素化反応を行った。放冷後、水10部を加え水層を分離した。更に有機層を水20部で洗浄した。ジクロロメタンを減圧(10mmHg)下に除去後、ヘキサンを溶剤としたアルミナカラム[150mesh、Brockman1,standard grade、アルドリッチ(株)製]によって反応物を精製しブロモクロトン酸t-ブチル1.0部(4.6mmol部)を得た(収率65%)。
【0067】
1,4−ジ(3−カルボキシアリル)シクロヘキサンジリチウム(A2−1);
撹拌機、温度計及び冷却管を取り付けたフラスコに、ブロモクロトン酸t−ブチル1.0部(4.6mmol部)、Mg0.1部(4.6mmol)及びTHF5部を仕込み、室温で溶液が白濁するまで2時間攪拌した。反応溶液に1,4−ジブロモシクロヘキサン0.55部(2.3mmol)を加えさらに室温で1時間攪拌した。攪拌後、水10部を加え水層を分離した。更に有機層を水20部で洗浄した。THFを減圧(10mmHg)下に除去後、ヘキサンを溶剤としたアルミナカラム[150mesh、Brockman1,standard grade、アルドリッチ(株)製]によって反応物を精製した。生成物を10%水酸化リチウム水溶液0.06部に加え室温で6時間攪拌した後、水を減圧(10mmHg)下に除去し(A2−1)0.07部(0.27mmol部)を得た(収率12%)。
【0068】
負極保護膜形成剤(B)の調製
表1に示した割合で化合物(A),化合物(D)を混合し実施例1〜8の負極保護膜形成剤(B)を調製した。
【0069】
【表1】

【0070】
<実施例9〜20>
負極保護膜形成剤(B)を含有する負極と、正極からなるリチウムイオン電池用電極を下記のように作成した。
[リチウムイオン電池用正極の作製]
表2に示した処方に基づいて正極を以下の方法で作製した。
LiCoO粉末90.0部、ケチェンブラック[アルドリッチ社製]5部、ポリフッ化ビニリデン[アルドリッチ社製]5部及び表2に示した部数の(G)を乳鉢で十分に混合した後、1−メチル−2−ピロリドン[東京化成工業(株)製]70.0部を添加し、更に乳鉢で十分に混合してスラリーを得た。得られたスラリーを、大気中でワイヤーバーを用いて厚さ20μmのアルミニウム電解箔上の片面に塗布し、100℃で15分間乾燥させた後、更に減圧下(10mmHg)、80℃で5分間乾燥して、15.95mmφに打ち抜き、実施例9〜20のリチウムイオン電池用正極を作製した。
【0071】
[リチウムイオン電池用負極の作製]
表2に示した処方に基づいて負極保護膜形成剤(B)及びルイス塩基(G)を添加した負極を以下の方法で作製した。
平均粒子径約8〜12μmの黒鉛粉末92.5部、ポリフッ化ビニリデン7.5部、1−メチル−2−ピロリドン[東京化成工業(株)製]200部及び表1に示した部数の(B)及び(G)を乳鉢で十分に混合しスラリーを得た。得られたスラリーを、厚さ20μmの銅箔の片面に塗布し、100℃で15分間乾燥して溶媒を蒸発させた後、16.15mmφに打ち抜き、プレス機で厚さ30μmにして実施例9〜20のリチウムイオン電池用負極を作製した。
【0072】
<比較例1>
負極保護膜形成剤(B)及びルイス塩基(G)の代わりに炭酸ビニレン1.0部を添加すること以外は実施例9と同様の方法で比較例1のリチウムイオン電池用負極、及び正極を作製した。
【0073】
<比較例2>
負極保護膜形成剤(B)及びルイス塩基(G)の代わりにフルオロエチレンカーボネート1.0部を添加すること以外は実施例9と同様の方法で比較例2のリチウムイオン電池用負極、及び正極を作製した。
【0074】
<実施例21〜32>
負極保護膜形成剤(B)を含有する負極と、正極からなるリチウムイオンキャパシタ用電極を下記のように作成した。
[リチウムイオンキャパシタ用正極の作製]
表3に示した処方に基づいて正極を以下の方法で作製した。
活性炭粉末90.0部、ケチェンブラック[アルドリッチ社製]5.0部、ポリフッ化ビニリデン[アルドリッチ社製]5.0部、及び表3に示した部数の(G)を乳鉢で十分に混合した後、1−メチル−2−ピロリドン[東京化成工業(株)製]70.0部、を添加し、更に乳鉢で十分に混合してスラリーを得た。得られたスラリーを、大気中でワイヤーバーを用いて厚さ20μmのアルミニウム電解箔上の片面に塗布し、100℃で15分間乾燥させた後、更に減圧下(10mmHg)、80℃で5分間乾燥して、15.95mmφに打ち抜き、実施例21〜32のリチウムイオンキャパシタ用正極を作製した。
【0075】
[リチウムイオンキャパシタ用負極の作製]
表3に示した処方に基づいて負極保護膜形成剤(B)及び(G)を添加した負極を以下の方法で作製した。
平均粒子径約8〜12μmの黒鉛粉末92.5部、ポリフッ化ビニリデン7.5部、1−メチル−2−ピロリドン[東京化成工業(株)製]200部及び表3に示した部数の(B)及び(G)を乳鉢で十分に混合しスラリーを得た。得られたスラリーを、厚さ20μmの銅箔の片面に塗布し、100℃で15分間乾燥して溶媒を蒸発させた後、16.15mmφに打ち抜き、プレス機で厚さ30μmにした。得られた電極と、リチウム金属箔を、セパレータ(ポリプロピレン製不織布)で挟んでビーカーセルにセットし、負極理論容量の約75%のリチウムイオンを約10時間かけて負極に吸蔵させ、実施例21〜32のリチウムイオンキャパシタ用負極を作製した。
【0076】
<比較例3>
負極保護膜形成剤(B)及びルイス塩基(G)の代わりに炭酸ビニレン1.0部を添加すること以外は実施例21と同様の方法で比較例3のリチウムイオンキャパシタ用負極、及び正極を作製した。
【0077】
<比較例4>
負極保護膜形成剤(B)及びルイス塩基(G)の代わりにフルオロエチレンカーボネート1.0部を添加すること以外は実施例21と同様の方法で比較例4のリチウムイオンキャパシタ用負極、及び正極を作製した。
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
[評価]
電極の評価
(1)リチウム二次電池の作製
2032型コインセル内の両端に、実施例9〜20、比較例1及び2の正極及び負極をそれぞれの塗布面が向き合うように配置して、電極間にセパレータ(ポリプロピレン製不織布)を挿入し、二次電池用セルを作製した。エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(体積比率1:1)に、LiPFを1mol/Lの割合で溶解させた電解液を作製したセルに注液密封し、以下の方法で高電圧充放電サイクル特性及び高温保存特性を評価した結果を表4に示す。
【0081】
(2)リチウムイオンキャパシタの作製
ポリプロピレンのアルミラミネートフィルムからなる収納ケースに、実施例21〜32、比較例3及び4の正極及び負極を、それぞれの塗布面が向き合うように配置して、電極間にセパレータ(ポリプロピレン製不織布)を挿入し、キャパシタ用セルを作製した。エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(体積比率1:1)に、LiPFを1mol/Lの割合で溶解させた電解液を作製したセルに注液密封し、以下の方法で高電圧充放電サイクル特性及び高温保存特性を評価した結果を表4に示す。
【0082】
【表4】

【0083】
<実施例33〜44>
[電解液の作成]
表5に示した重量割合で負極保護膜形成剤(B)、ルイス塩基(G)及び非水溶媒(J)を配合し、そこに1mol/Lの濃度になるように電解質としてのLiPFを溶解させ実施例33〜44の電解液を調製した。
【0084】
<比較例5、6>
表5に示した重量割合で比較化合物(炭酸ビニレン、フルオロエチレンカーボネート)及び非水溶媒(J)を配合し、そこに1mol/Lの濃度になるように電解質としてのLiPFを溶解させ比較例5,6の電解液を調製した。
【0085】
【表5】

【0086】
[リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタの作製]
(1)リチウムイオン電池の作製
(1−1)正極の作製
LiCoO粉末9.0部、ケチェンブラック[アルドリッチ社製]0.5部及びポリフッ化ビニリデン[アルドリッチ社製]0.5部を乳鉢で十分に混合した後、1−メチル−2−ピロリドン[東京化成工業(株)製]7.0部を添加し、更に乳鉢で十分に混合してスラリーを得た。得られたスラリーを、大気中でワイヤーバーを用いて厚さ20μmのアルミニウム電解箔上の片面に塗布し、100℃で15分間乾燥させた後、更に減圧下(10mmHg)、80℃で5分間乾燥して、15.95mmφに打ち抜き、膜厚30μmのリチウムイオン電池用の正極を作製した。
【0087】
(1−2)負極の作製
平均粒子径約8〜12μmの黒鉛粉末92.5部、ポリフッ化ビニリデン7.5部及び1−メチル−2−ピロリドン[東京化成工業(株)製]200部を乳鉢で十分に混合しスラリーを得た。得られたスラリーを、厚さ20μmの銅箔の片面に塗布し、100℃で15分間乾燥して溶媒を蒸発させた後、16.15mmφに打ち抜き、プレス機で厚さ30μmにしてリチウムイオン電池用の負極を作製した。
【0088】
(1−3)二次電池用セルの作製
2032型コインセル内の両端に、上記正極及び負極を、それぞれの塗布面が向き合うように配置して、電極間にセパレータ(ポリプロピレン製不織布)を挿入し、二次電池用セルを作製した。
【0089】
(2)リチウムイオンキャパシタの作製
(2−1)正極の作製
正極活物質として、アルカリ賦活法によって得られた比表面積が約2200m/gである活性炭を用いた。活性炭粉末、アセチレンブラック及びポリフッ化ビニリデンを、それぞれ重量比80:10:10の割合となるように混合し、この混合物を、溶媒であるN−メチルピロリドン中に添加し、撹拌混合してスラリーを得た。このスラリーを、厚さ30μmのアルミニウム箔の上にドクターブレード法で塗布し、仮乾燥した後、電極サイズが20mm×30mmとなるように切り取った。電極の厚みは約50μmであった。セルの組み立て前には、真空中で120℃、10時間乾燥しリチウムイオンキャパシタ用の正極を作製した。
【0090】
(2−2)負極の作製
平均粒子径約8〜12μmの黒鉛粉末80部、アセチレンブラック10部、及びポリフッ化ビニリデン10部を混合し、この混合物を溶媒であるN−メチルピロリドンに添加して撹拌混合し、スラリーを得た。このスラリーを、厚さ18μmの銅箔の上にドクターブレード法で塗布し、仮乾燥した後、電極サイズが20mm×30mmとなるように切り取った。電極の厚みは、約50μmであった。セルの組み立て前に、真空中で120℃、5時間乾燥しリチウムイオンキャパシタ用の負極を作製した。
【0091】
(2−3)負極へのリチウムのドーピング
上記のようにして得られた負極に、以下のようにしてリチウムをドーピングさせた。負極と、リチウム金属箔を、セパレータ(ポリプロピレン製不織布)で挟んでビーカーセルにセットし、所定量のリチウムイオンを約10時間かけて負極に吸蔵させた。リチウムのドープ量は、負極理論容量の約75%とした。
【0092】
(2−4)キャパシタセルの組み立て
上記のようにして得られた正極と負極の間に、セパレータ(ポリプロピレン製不織布)を挿入し、これに電解液を含浸させ、ポリプロピレンのアルミラミネートフィルムからなる収納ケースに入れて密封しリチウムイオンキャパシタを作製した。
【0093】
[電解液の評価]
実施例33〜44及び比較例5、6で調製した電解液を、それぞれ上記二次電池用セルに注液後密封し、以下の方法で高電圧充放電サイクル特性及び高温保存特性を評価した結果と、キャパシタセルに注液後密封し、以下の方法で高電圧充放電サイクル特性及び高温保存特性を評価した結果を表6に示す。
【0094】
【表6】

【0095】
<高電圧充放電サイクル特性の評価>
充放電測定装置「バッテリーアナライザー1470型」[東陽テクニカ(株)製]を用いて、0.1Cの電流で電圧4.5Vまで充電し、10分間の休止後、0.1Cの電流で電池電圧を3.5Vまで放電し、この充放電を繰り返した。この時の初回充電時の電池容量と50サイクル目充電時の電池容量を測定し、下記式から充放電サイクル特性を算出する。数値が大きい程、充放電サイクル特性が良好であることを示す。
高電圧充放電サイクル特性(%)=(50サイクル目充電時の電池容量/初回充電時の電池容量)×100
【0096】
<高温保存特性の評価>
充放電測定装置「バッテリーアナライザー1470型」[東陽テクニカ(株)製]を用いて、0.1Cの電流で電圧4.5Vまで充電し、10分間の休止後、0.1Cの電流で電圧3.5Vまで放電し容量を測定する(初回電池容量)。更に0.1Cの電流で電圧4.5Vまで充電し、85℃で7日間保存後、0.1Cの電流で3.5Vまで放電を行い電池容量を測定する(高温保存後電池容量)。下記式から高温保存特性を算出する。数値が大きいほど、高温保存特性が良好であることを示す。
高温保存特性(%)=(高温保存後電池容量/初回電池容量)×100
【0097】
本発明の負極保護膜形成剤を用いて作製したリチウム二次電池は、充放電サイクル性能および高温貯蔵特性に優れている。充放電サイクル性能、高温貯蔵特性が向上する原因としては、負極表面で電極保護膜形成剤の高分子皮膜が形成され、電解液の分解を抑制するためと考える。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の負極保護膜形成剤(B)を使用した電極及び電解液は高電圧下でのサイクル特性及び高温貯蔵安定性が優れているため、特にリチウム二次電池用又はリチウムイオンキャパシタ用の電極及び電解液として有用であり、電気自動車用として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式化合物(C)の2個以上の水素原子を一般式(1)で表される重合性官能基(a)で置換した化合物(A)を含有する負極保護膜形成剤(B)。
【化1】

[式中、R、R及びRはいずれか1つが炭素数1〜3のアルキレン鎖であり、残りの2つはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。]
【請求項2】
化合物(A)が重合性官能基(a)を2〜4個有する化合物である請求項1に記載の負極保護膜形成剤(B)。
【請求項3】
化合物(A)が、その環を構成する原子の一部又はその環の側鎖を構成する原子の一部が、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子である化合物(A1)である請求項2に記載の負極保護膜形成剤(B)。
【請求項4】
化合物(A1)が一般式(2)で表される化合物の窒素原子に結合した水素原子を重合性官能基(a)で置換した化合物である請求項3に記載の負極保護膜形成剤(B)。
【化2】

[式中、Xは同じであっても異なっていてもよく、NH、酸素原子又は硫黄原子であり、2つ以上はNHであり、nは1〜7の整数である。]
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の負極保護膜形成剤(B)を含有する負極と、正極からなる電極。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の負極保護膜形成剤(B)を含有する電解液。
【請求項7】
請求項5に記載の電極及び/又は請求項6に記載の電解液を有するリチウム二次電池。
【請求項8】
請求項5に記載の電極及び/又は請求項6に記載の電解液を有するリチウムイオンキャパシタ。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の負極保護膜形成剤(B)により形成された膜(b)で被覆された電極活物質を有するリチウム二次電池。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の負極保護膜形成剤(B)により形成された膜(b)で被覆された電極活物質を有するリチウムイオンキャパシタ。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の負極保護膜形成剤(B)を負極又は電解液に含有させて、電圧を印加することにより電極活物質表面に保護膜を形成することを特徴とする電極保護膜の形成方法。

【公開番号】特開2012−256515(P2012−256515A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128889(P2011−128889)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】