電極切替装置
【課題】複数の測線に対応可能な電極切替装置を提供する。
【解決手段】測線7上の複数の測点8にそれぞれ設置された電極の中から測定に使用する電流電極3と電位電極4を選択し、選択した電流電極3に通じる導線を送信装置13に接続すると共に、選択した電位電極4に通じる導線を受信装置14に接続する電極切替装置であって、導線を接続する接続端子10を複数の測線7に対応する数だけ設けて複数の測線7の電極を接続可能とし、複数の測線7の中から測定に使用する1本の測線7を選択して接続を切替える測線選択部19と、測定に使用する測点8を選択して接続を切替える測点選択部20を備えている。
【解決手段】測線7上の複数の測点8にそれぞれ設置された電極の中から測定に使用する電流電極3と電位電極4を選択し、選択した電流電極3に通じる導線を送信装置13に接続すると共に、選択した電位電極4に通じる導線を受信装置14に接続する電極切替装置であって、導線を接続する接続端子10を複数の測線7に対応する数だけ設けて複数の測線7の電極を接続可能とし、複数の測線7の中から測定に使用する1本の測線7を選択して接続を切替える測線選択部19と、測定に使用する測点8を選択して接続を切替える測点選択部20を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の電気探査に使用する電極切替装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、地盤に設置した多数の電極の中から測定に使用する電流電極と電位電極を選択し、送信装置又は受信装置との接続を切替える電極切替装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤の電気探査法では、一対の電流電極と一対の電位電極を地表に設置しておき、送信機(直流電源)を一対の電流電極に接続すると共に、受信機(電圧計)を一対の電位電極に接続し、電流電極から流す直流電流の値とそれによって電位電極間に生じる電位差を計測して比抵抗を求め、この比抵抗に基づいて地盤を探査する。
【0003】
電流電極と電位電極の間の距離(電極間距離)が短ければ測定データには浅部地層の比抵抗が反映され、電極間距離が長ければ測定データには深部地層の比抵抗の影響が含まれるようになる。このため、電極間距離を変化させて測定することで、深さ方向の比抵抗の変化を知ることができる。そして、このような測定を効率良く行うために、多数の電極を1本の測線に沿って予め設置しておき、その中から測定に使用する電流電極と電位電極を選択してその組み合わせを順番に変えながら測定することが行われている。
【0004】
1本の測線に沿って設置された多数の電極の中から使用する一対の電流電極と電位電極を選択し、選択した電流電極と送信機との接続、および選択した電位電極と受信機との接続を操作する装置として、例えば特開2001−21662号に開示された電極切替装置がある。
【0005】
この電極切替装置を図17及び図18に示す。電極切替装置は、電流送信部(送信機)の2つの端子C1,C2と電位受信部(受信機)の2つの端子P1,P2に対応した4つのリレー装置を有している。各リレー装置は、端子の数、換言すると電極の数と同じ数のリレーを有しており、その中から1つのリレーを選択してオン操作することで、多数の電極の中から1つの電極を選択して電流送信部又は電位受信部に接続させる。そして、オン操作するリレーを順次変えることで、電流送信部又は電位受信部に接続させる電極を順次変化させることができる。
【特許文献1】特開2001−21662号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の電極切替装置では、測線が1本の場合には対応可能であったが、測線が2本以上の場合には対応していなかった。このため、複数の測線について測定を行う場合には、1本の測線について測定を行った後、測定が終了した測線から測定が終了していない別の測線に電極を設置し直すと共にそれらの配線等もし直して測定を繰り返し行っていた。このため、測定の作業効率が極めて悪かった。
【0007】
本発明は、複数の測線に対応可能な電極切替装置を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発明は、測線上の複数の測点にそれぞれ設置された電極の中から測定に使用する電流電極と電位電極を選択し、選択した電流電極に通じる導線を送信装置に接続すると共に、選択した電位電極に通じる導線を受信装置に接続する電極切替装置において、導線を接続する接続端子を複数の測線に対応する数だけ設けて複数の測線の電極を接続可能とし、複数の測線の中から測定に使用する1本の測線を選択して接続を切替える測線選択部と、測定に使用する測点を選択して接続を切替える測点選択部を備えるものである。
【0009】
したがって、測線が複数あっても各測点の測点の電極を送信装置又は受信装置に選択的に接続することができる。1本の測線に複数の測点があり、そのような測線が複数あったとしても、即ち、多数の電極が縦横に設置されていたとしても、その電極が属する測線と当該測線中の測点の位置とを指定することで、その電極を特定することができる。したがって、測線選択部によって測線を選択し、測点選択部によって当該測線中の測点を選択することで、電極を特定して送信装置又は受信装置に接続することができる。また、測線選択部と電極に通じる導線を接続する接続端子との増加によって測線の増加に対応できる。
【0010】
ここで、請求項2記載の電極切替装置のように、測点には電流電極と電位電極を兼用する兼用電極が設置されており、測線選択部と測点選択部を、兼用電極を送信装置又は受信装置に接続する経路の途中に設けていても良く、また、請求項3記載の電極切替装置のように、測点には電流電極と電位電極が別々に設置されており、測線選択部と測点選択部を、電流電極を送信装置に接続する経路の途中と電位電極を受信装置に接続する経路の途中のそれぞれに設けていても良い。即ち、電流電極と電位電極として共通の電極を使用する場合でも、別々の電極を使用する場合でも、電極と送信装置又は受信装置との接続の切替を行うことができる。
【0011】
また、請求項4記載の電極切替装置は、測点選択部が測点の中から遠電極とする測点を選択し、選択した遠電極測点の接続状態を維持するものである。したがって、遠電極を必要とする二極法又は三極法の電極配置に対応することができる。
【0012】
さらに、請求項5記載の電極切替装置は、測点選択部が、全ての測点を順番に選択して接続を切替えるものである。したがって、四極法の電極配置に対応することができる。
【発明の効果】
【0013】
しかして、請求項1記載の発明では、上述のように発明電極切替装置を構成しているので、測線が複数あっても対応することができる。また、測線選択部と接続端子との増加によって測線の増加に対応することができるので、測線の増加への対応が容易である。さらに、測線を増加させる場合であっても測点選択部を増加させる必要がないので、その分だけ必要な部品点数の増加を抑えることができ、装置の大型化、重量化を抑えることができる。
【0014】
ここで、請求項2記載の電極切替装置のように、測点には電流電極と電位電極を兼用する兼用電極が設置されており、測線選択部と測点選択部を、兼用電極を送信装置又は受信装置に接続する経路の途中に設けていても良く、また、請求項3記載の電極切替装置のように、測点には電流電極と電位電極が別々に設置されており、測線選択部と測点選択部を、電流電極を送信装置に接続する経路の途中と電位電極を受信装置に接続する経路の途中のそれぞれに設けていても良い。即ち、電流電極と電位電極として同じ電極を使用する場合でも、別々の電極を使用する場合でも、電極と送信装置又は受信装置との接続の切替を良好に行うことができる。このため、汎用性が高い電極切替装置を提供することができる。
【0015】
また、請求項4記載の電極切替装置では、測点選択部が測点の中から遠電極とする測点を選択し、選択した遠電極測点の接続状態を維持するので、二極法又は三極法の電極配置の場合に電極と送信装置又は受信装置との接続の切替を行うことができる。
【0016】
さらに、請求項5記載の電極切替装置では、測点選択部が全ての測点を順番に選択して接続を切替えるので、四極法の電極配置の場合に電極と送信装置又は受信装置との接続の切替を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
まず最初に、本発明の電極切替装置を備える地盤探査装置について説明する。図1〜図7に、地盤探査装置の実施形態の一例を示す。地盤探査装置1は、地盤2に設置された一対の電流電極3及び一対の電位電極4と、電流電極3間に一定周期で電流を供給して電位電極4間の電位差を測定する測定部5と、電流の波形に対する電位差の波形の抵抗及び位相差を求める処理部6を備え、測定部5は電流の周期の周波数を変えて測定を複数回行うものであり、処理部6は、測定部5の複数回の測定に基づき周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係を求めるものである。測定部5と処理部6は制御部28によって同期され制御されている。また、本実施形態では、予め求めておいた地盤2別の周波数と抵抗との関係データ及び周波数と位相差との関係データを記憶した記憶手段29を備えており、処理部6は、記憶手段29に記憶されている関係データと求めた関係とを対比して測定対象地盤2を判別するものである。
【0019】
地盤2には、測線7に沿って多数の電流電極3と電位電極4が設置されており、多数の電流電極3の中から2個(一対)を選択して使用すると共に、多数の電位電極4の中から2個(一対)を選択して使用する。1本の測線7に対し、例えば60箇所の測点8が設定されており、各測点8には電流電極3と電位電極4が別々に設置されている。同一測点8の電流電極3と電位電極4は、測線7に直交する方向に並べて配置されている。電極3,4の各々は別々の導線によって測定部5の電極切替装置9の各接続端子10に接続されている。即ち、60個の電流電極3と60個の電位電極4はそれぞれ60本の導線を束ねた多芯ケーブル11によって電極切替装置9の対応する接続端子10に接続されている。測定部5は設置された電極3,4の中から使用する一対の電流電極3と一対の電位電極4の組合せを順次切り替えて測定を行う。例えば、四極法のDipole-Dipole法の電極配置で測定を行う。測線7として、例えば4本の測線7が設定されている。
【0020】
図3に電流電極3を示す。電流電極3は、例えばステンレス製の電極であり、地表から例えば30〜40cmの深さまで差し込まれる。電流電極3の太さは例えば15mmである。また、図4に電位電極4を示す。電位電極4は、例えば鉛製の電極であり、地表から例えば30から40cmの深さまで差し込まれる。電位電極4の太さは例えば15mmである。電位電極4の周囲には導電性ゲル材(アースFC硬化剤)12が充填されており、分極が生じ難くなっている。
【0021】
測定部5は送信装置13と受信装置14と本発明の電極切替装置9を備えている。送信装置13は、端子15間に一定周期で定電流を供給し、電流値と電流の送信周波数を調節することができる。電流値は例えば1mA〜400mAの範囲で、送信周波数は例えば0.01Hz〜10kHzの範囲で、それぞれ調節することができる。ただし、調節できる範囲はこれらに限るものではない。また、送信装置13は、定電流として、例えば正弦波電流を供給する。電流値は、測定条件等に応じて適宜選択される。
【0022】
受信装置14は、電流検出回路16と受信増幅回路17とA/D変換器18を備えている。また、電位電極4からの信号を受け付ける受信チャネルとして、例えば4つのチャネルを有している。受信増幅回路17は受信チャネル数に対応して、例えば4つ設けられている。また、A/D変換器18は、増幅の程度に応じて、例えば3つ(0dB,20dB,40dB)設けられている。
【0023】
本発明の電極切替装置9の実施形態の一例を図5及び図6に示す。電極切替装置9は、測線7上の複数の測点8にそれぞれ設置された電極の中から測定に使用する電流電極3と電位電極4を選択し、選択した電流電極3に通じる導線を送信装置13に接続すると共に、選択した電位電極4に通じる導線を受信装置14に接続するものである。導線を接続する接続端子10を複数の測線7に対応する数だけ設けて複数の測線7の電極3,4を接続可能としている。また、複数の測線7の中から測定に使用する1本の測線7を選択して接続を切替える測線選択部19と、測定に使用する測点8を選択して接続を切替える測点選択部20を備えている。本実施形態では、測点8には電流電極3と電位電極4が別々に設置されており、測線選択部19と測点選択部20は、電流電極3を送信装置13に接続する経路の途中と電位電極4を受信装置14に接続する経路の途中のそれぞれに設けられている。
【0024】
電流電極3用の接続端子10と電位電極4用の接続端子10は、それぞれ240(=60×4)個ずつ設けられており、最大4本分の測線7(A測線7〜D測線7)の電流電極3と電位電極4を接続することができる。即ち、測点8の数と同じ数の接続端子10が1組となり、接続可能とする測線7の最大数と同じ組数の接続端子10が設けられている。また、1組の接続端子10には、最大60個の電極を接続することができる。各接続端子10には、各測線7の多芯ケーブル11の導線が1本ずつ接続されている。ここで電流電極3を例に説明すると、各測線7とも、1番目の測点8の電流電極3に通じる導線は1番目の接続端子10に、2番目の測点8の電流電極3に通じる導線は2番目の接続端子10に、…、n番目の測点8の電流電極3に通じる導線はn番目の接続端子10に、…、60番目の測点8の電流電極3に通じる導線は60番目の接続端子10に、それぞれ接続されている。電位電極4についても同様である。
【0025】
なお、接続端子10の数は240個ずつに限るものではない。例えば、図5及び図6に破線で示すように、拡張用の接続端子10を電流電極3用と電位電極4用にそれぞれ120(60×2)個ずつ設けておき、測線7の数を必要に応じて6本まで増加できるようにしても良い。また、その他の数でも良い。
【0026】
測線選択部19は、測点8の数と同じ数だけ設けられた本線21と、各本線21を測線7の数と同じ数に分岐させた分岐線22と、分岐線22の途中に設けられたリレー23を備えている。分岐線22は接続端子10に接続されている。リレー23は測線7毎に組み分け(A組〜D組)されており、同じ組のリレー23は同時にオンオフ操作される。4つの組のうち、1つの組が択一的に選択されてオン操作される。例えば、A測線7を選択する場合にはA組のリレー23が全てオン操作され、他の組のリレー23は全てオフ操作される。B測線7、C測線7、D測線7を選択する場合も同様である。測線選択部19は電流電極3用のものと電位電極4用のものとで同じ構造である。
【0027】
図5に示す電流電極3用の測点選択部20は、測定に使用する電流電極3の数に合わせて2つのスイッチ回路24を備えている。また、図6に示す電位電極4用の測点選択部20は、受信チャネル分の電位電極4の数に合わせて8つのスイッチ回路24を備えている。スイッチ回路24を図7に示す。スイッチ回路24は、端子25と各本線21を接続する分岐線26と、各分岐線26の途中に設けられたリレー27を備えている。本実施形態では、測点8の数に対応して60本の本線21を有しているので、60個のリレー27を有している。各リレー27は択一的にオン操作される。例えば、1番目の測点8の電流電極3を端子25に接続する場合には、1番目の本線21に接続された分岐線26に設けられているリレー27をオン操作する。2番目〜60番目の測点8の電流電極3を端子25に接続する場合も同様であり、また、電位電極4についても同様である。
【0028】
例えば、A測線7の1,2番目の測点8の電流電極3と、3,4番目の測点8の電位電極4(1ch)と、5,6番目の測点8の電位電極4(2ch)と、7,8番目の測点8の電位電極4(3ch)と、9,10番目の測点8の電位電極4(4ch)を使用する場合には、以下のリレー23,27をオン操作する。図5の電流電極3側(送信装置13側)については、測点選択部20の一方のスイッチ回路24の1番目のリレー27と、他方のスイッチ回路24の2番目のリレー27をオン操作すると共に、測線選択部19のA組のリレー23を全てオン操作する。また、図6の電位電極4側(受信装置14側)については、測線選択部19の1chの一方のスイッチ回路24の3番目のリレー27と他方のスイッチ回路24の4番目のリレー27、2chの一方のスイッチ回路24の5番目のリレー27と他方のスイッチ回路24の6番目のリレー27、3chの一方のスイッチ回路24の7番目のリレー27と他方のスイッチ回路24の8番目のリレー27、4chの一方のスイッチ回路24の9番目のリレー27と他方のスイッチ回路24の10番目のリレー27をオン操作すると共に、測線選択部19のA組のリレー23を全てオン操作する。
【0029】
各リレー23,27は、制御部28によって切替操作される。
【0030】
電極切替装置9は、送信装置13の端子15と電流検出回路16の端子30を接続している。また、電極切替装置9は、受信チャネル毎に電位電極4と受信装置14の受信増幅回路17の端子31とを接続している。電流検出回路16と受信増幅回路17は、3つのA/D変換器18を介して処理部6に接続されている。その接続にはUSB端子が使用されている。
【0031】
処理部6は、抵抗及び位相差算出手段32、関係算出手段33、判別手段34を備えている。本実施形態では、処理部6と制御部28をコンピュータによって実現している。即ち、少なくとも1つのCPUやMPUなどの中央演算装置と、データの入出力を行うインターフェースと、プログラムやデータを記憶する記憶装置等を備えるコンピュータと所定の制御ないし演算プログラムによって、抵抗及び位相差算出手段32、関係算出手段33、判別手段34、制御部28を実現している。即ち、中央演算装置は、記憶装置に記憶されたOS等の制御プログラム、周波数と抵抗との関係データ及び周波数と位相差との関係やそれらの関係に基づいて岩盤を判別する方法などの手順を規定したプログラム及び所要データ等により、抵抗及び位相差算出手段32、関係算出手段33、判別手段34、制御部28を実現している。また、コンピュータには、例えばディスプレイやプリンター等の出力装置35が接続されている。コンピュータとして、例えば作動周波数1.4GHzクラスのCPUを搭載するパーソナルコンピュータの使用が可能である。また、そのOSとしては、一般に市販され広く普及している例えばWindows(登録商標)等の使用が可能である。
【0032】
抵抗及び位相差算出手段32は、送信装置13が送信した電流の信号波形と、測定部5によって測定された電位電極4間の電位差の信号波形とを比較し、電流の信号波形に対する電位差の信号波形の抵抗及び位相差を求める。測定部5は電流の周波数fを変化させて測定を複数回繰り返し行い、抵抗及び位相差算出手段32は繰り返し行われる測定毎に抵抗及び位相差を算出する。算出した抵抗R及び位相差θは電流の周波数fとともに関係算出手段33に送信される。
【0033】
関係算出手段33は、抵抗及び位相差算出手段32から供給されたデータに基づいて周波数fと抵抗Rとの関係及び周波数fと位相差θとの関係を求める。周波数fと抵抗Rとの関係及び周波数fと位相差θとの関係の一例を図8に示す。いま、測定部5が周波数fを変えた測定を10回繰り返したとすると、得られたデータ(周波数,抵抗)は、(f1,R1)、(f2,R2)、(f3,R3)、…、(f10,R10)となるので、縦軸に抵抗Rを、横軸に周波数fをとってグラフ化すると、図8に示す関係が得られる。同様に、得られたデータ(周波数,位相差)は、(f1,θ1)、(f2,θ2)、(f3,θ3)、…、(f10,θ10)となるので、縦軸に位相差θを、横軸に周波数fをとってグラフ化すると、図8に示す関係が得られる。周波数fと抵抗Rとの関係を表す抵抗グラフは途中で傾斜をもつ形状となり、周波数fと位相差θとの関係を表す位相差グラフは抵抗グラフの最大傾斜の周波数でピークを示す山形形状となり、地盤2の状況・含水率等に応じてその形状が変化する(図9、図10)。
【0034】
関係算出手段33が求めた周波数fと抵抗Rとの関係及び周波数fと位相差θとの関係は判別手段34に出力される。判別手段34は、周波数fと抵抗Rとの関係及び周波数fと位相差θとの関係に基づいて測定対象の地盤2を判別する。ここでは、周波数fと位相差θとの関係に関して、位相差のピーク周波数に基づいて測定対象地盤2を判別する。ここで、位相差のピーク周波数には、その周波数の値fmaxと当該周波数fmaxにおける位相差の大きさθmaxとが含まれる。記憶手段29には予め求めておいた地盤別の周波数と位相差との関係データ(ここではfmaxとθmax)が記憶されており、判別手段34は記憶手段29に記憶されている関係データとの対比によって測定対象地盤2の判定を行う。また、これに加えて周波数fと抵抗Rとの関係にも基づいて測定対象地盤2を判別する。記憶手段29には予め求めておいた地盤別の周波数と抵抗との関係データが記憶されており、判別手段34は記憶手段29に記憶されている関係データとの対比によって測定対象地盤2の判定を行う。例えば、fmaxと、θmaxと、周波数と抵抗との関係とが一致又は近似する場合に、測定対象地盤2が対比しているサンプル地盤であると判断する。
【0035】
記憶手段29としては、例えばハードディスク、メモリ、DVD、CD、MO、フロッピーディスク(登録商標)等の使用が可能である。
【0036】
地盤探査装置1は、例えば測定現場に設置されている。ただし、必ずしも地盤探査装置1の全てを測定現場に設置する必要はなく、例えば電極3,4及び測定部5を測定現場に設置すると共に、処理部6及び制御部28を例えば研究所等の遠隔地に設置し、これらを例えばインターネット、専用線、無線通信線等の電気通信回線を使用して接続しても良い。なお、この場合には、制御部28とは別に測定部5専用の制御部を測定部5に設けることが好ましい。このような構成の地盤探査装置1は、特に、地盤2を長期間にわたりモニタリングする場合等の使用に適している。即ち、例えば高レベル放射性廃棄物の地層処分、石油や液化天然ガス等の液体の地下岩盤貯蔵、地下発電所等、大規模地下空間の掘削に伴う空洞周辺岩盤全域の水理的な挙動を長期間モニタリングする場合の地盤探査装置1としての使用に特に適している。また、リモートアクセスにより研究所などの遠隔地から現場に設置した装置を制御することが可能で、リアルタイムに現場の地下水挙動等を把握することができる。
【0037】
この地盤探査装置1によれば、(1)広帯域(例えば0.01Hz〜10kHz)中任意の周波数の正弦波印加電流に対する地盤の電気特性(抵抗及び位相差)を測定することができる。(2)最大60点の測点8に対応し、あらゆる電極配置の組み合わせに対応することができる。また、例えば4chの受信回路を有し、例えばdipole-dipole法では1組の電流電極(送信電極)3対に対し4箇所4組の電位電極(受信電極)4対での信号を同時に計測することができる。(3)送信装置13が送信する電流の周波数の切替、電極切替装置9のリレー23,27の切替、送信装置13の送信電流のレベル・受信装置14の受信ゲインの調整などの一連の測定操作は、コンピュータによる制御で全て自動的に行うことができる。等の効果がある。
【0038】
次に、地盤探査方法について説明する。この方法は、測定対象地盤2に設置した一対の電流電極3間に一定周期で電流を供給して測定対象地盤2に設置した電位電極4間の電位差を測定し、電流の波形に対する電位差の波形の抵抗及び位相差を求め、電流の周期の周波数を変えて測定を複数回行い周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係を求め、上述の2つの関係に基づいて測定対象地盤2を判別するものである。
【0039】
本実施形態では、受信装置14は4チャネル(1ch〜4ch)の受信チャネルを有しているが、説明を簡単にし理解を容易にするために、まず最初に4チャネル有ることを考慮しないで説明し、その後4チャネル有ることを考慮した場合について説明する。また、同様の理由から、まず最初に使用する電流電極3と電位電極4を変化させることを考慮しないで説明し、その後使用する電流電極3と電位電極4を変化させることを考慮して説明する。
【0040】
測定部5の送信装置13が例えば周波数f1で電流を送信すると、電流電極3間に正弦波の電流が周波数f1で流される。同時に、電流は受信装置14の電流検出回路16にも供給され、基準抵抗で電圧信号としてA/D変換器18を通じて処理部6の抵抗及び位相差算出手段32に出力される。
【0041】
電流電極3間に定電流が流されると、電位電極4間の電位差が変化する。一対の電位電極4によって測定された電位差信号は受信装置14の受信増幅回路17に供給され、増幅された後、A/D変換器18を通じて処理部6の抵抗及び位相差算出手段32に出力される。測定部5は、処理部6に電流信号と電位差信号を出力したことを制御部28に知らせる。
【0042】
処理部6の抵抗及び位相差算出手段32は、受信装置14から供給された電位差信号と定電流信号とを比較し、電流の波形に対する電位差の波形の抵抗R1及び位相差θ1を求める。そして、抵抗及び位相差算出手段32は求めた抵抗R1及び位相差θ1を電流の周波数f1とともに関係算出手段33に送信する。
【0043】
一方、測定部5は、電流信号と測定した電位差信号を処理部6に出力した後、制御部28の命令に受けて、電流の周波数を変化(f1→f2)させて上述の測定を繰り返し行う。これにより、周波数を変えた測定用電流信号と測定した電位差信号が処理部6の抵抗及び位相差算出手段32に供給される。そして、電流の周波数をf2に変えて上述の測定を行った結果、抵抗及び位相差算出手段32が算出した抵抗がR2、位相差がθ2であったとすると、データとしてf2とR2及びθ2が関係算出手段33に送信される。
【0044】
そして、測定部5による周波数を変えた繰り返しの測定が終了すると、関係算出手段33は制御部28の命令を受けて周波数fと抵抗Rとの関係及び周波数fと位相差θとの関係を求める。例えば周波数がf1、f2、…、f10のとき、抵抗がR1、R2、…、R10、位相差がθ1、θ2、…、θ10であったとすると、図8に示すような関係が求められる。
【0045】
周波数と位相差との関係を図9及び図10に示す。図9に示すように、位相差グラフは地盤2中に分極現象を発生する粘土鉱物が多く含まれるほど大きくなる(図9のA→B→Cの順)。また、図10に示すように、分極現象を発生する粘土鉱物を含む地盤2の性質(間隙率、鉱物の配列構造)、物理的な性質(例えば含水率)等により、位相差グラフのピーク周波数の値fmaxは変化する。このため、地盤2の種類が変われば位相差グラフも変化する。また、周波数と抵抗との関係を示す抵抗グラフも地盤2の種類が変われば変化する。したがって、測定によって図8に示すような関係を求めることで、地盤2を判別することができる。
【0046】
本実施形態では、各種サンプル地盤2について予め周波数と位相差との関係及び周波数と抵抗との関係を求めておき、それらを関係データとして記憶手段29に記憶してあるので、判別手段34は記憶手段29にアクセスし、記憶されている関係データと関係算出手段33が算出した周波数と位相差との関係及び周波数と抵抗との関係を対比し、測定対象地盤2を判別する。例えば、位相差グラフのピーク周波数の値fmaxと、当該周波数における位相差の大きさθmaxと、周波数と抵抗との関係とに基づいて測定対象地盤2を判別する。例えば、fmaxと、θmax、周波数と抵抗との関係とが一致又は近似するサンプル地盤2を、測定対象地盤2と判断する。このようにすることで、高精度の判別を行うことができる。特に、周波数と位相差との関係及び周波数と抵抗との関係という2つの関係に基づいて判別を行うので、非常に高精度の判別を行うことができる。
【0047】
なお、周波数fと位相差θとの関係には、(1)fmaxとθmaxの組み合わせ、の他に、(2)fmaxのみ、(3)θmaxのみ、(4)これらと位相差グラフの形状との組み合わせ、(5)位相差グラフの形状のみ、が含まれる。
【0048】
したがって、例えば地盤判別の精度にそれ程高い精度が要求されない場合等には、fmaxとθmaxのうち、いずれか一方にのみ基づいて地盤2を判別しても良い。また、例えば地盤2中に含まれる粘土鉱物の多少を判別することを目的にする場合等には、θmaxに基づいて地盤2の判別を行っても良い。さらに、例えば粘土鉱物を含む地盤2の性質(間隙率、鉱物の配列構造)、物理的な性質(例えば含水率)等を判別することを目的にする場合等には、fmaxに基づいて地盤2の判別を行っても良い。
【0049】
また、周波数と位相差との関係については、位相差グラフの形状に基づいて地盤2を判別しても良い。例えば、各種サンプル地盤2について予め周波数と位相差との関係を求めて位相差グラフを求めておき、これらを関係データとして記憶手段29に記憶しておく。判別手段34は記憶手段29にアクセスし、記憶されている関係データと関係算出手段33が求めた周波数と位相差との関係(ここでは位相差グラフの形状)を対比し、測定対象地盤2を判別する。例えば、位相差グラフの形状が一致又は近似するサンプル地盤を、測定対象地盤2と判断する。このようにすることで、高精度の判別を行うことができる。同様に、周波数と抵抗との関係についても、抵抗グラフの形状に基づいて地盤2を判別しても良い。
【0050】
また、抵抗及び位相差グラフの形状に基づいて地盤2を判別する場合には、抵抗及び位相差グラフのフィッティングにより直流比抵抗R0、チャージアビリティm等を求め、これらに基づいて判別を行っても良い。
【0051】
即ち、地盤2のスペクトルIP(Induced-Polarization:分極)現象を説明する等価な電気回路モデルの一つとして、Cole-Coleモデル(コールコールモデル;Patron,1978)がある。これは数学的には複素数であり4つの未知数を含む数式1で示される。
【0052】
【数1】
【0053】
ここに、R0は直流比抵抗、mはチャージアビリティ(chargeability)、τは緩和の時定数(sec)、cは周波数依存係数、ωは角周波数、iは√(-1)である。
【0054】
4つの未知数とは数式1中のR0、m、τ、cのことであり、数学的には最小二乗法により観測した位相差(および抵抗)データに最もよく整合する“解”として求めることができる。物理的なイメージを、図12に示す。図12は、時間領域でみたIP現象の概念図である。なお、図12(a)は送信電流波形を、(b)は受信電位波形をそれぞれ示している。
【0055】
R0は直流電流に対する電位より求まる比抵抗(=測定電位/直流電流)である。mは地盤2の充電効果(電荷を蓄える性質)の強さを表す指標で、過渡応答の積分値に関連する。τは分極現象の時間的な長さに関連し、時間領域でIP現象を見た場合、電流を流している期間に地盤2に蓄えられた電荷が電流遮断後に地盤2から流れる電流により観測される電位波形、すなわち“過渡応答”の時間的な長さに関連する。cは分極の支配過程に伴う係数で、分極現象が単一の支配過程による場合はc=1となる(そうでない場合cは1以下になる)。分極現象の支配過程としては、鉱石と地下水中のイオンとの電荷の移動過程、電気二重層の充電・放電過程、電気二重層の構造が変化するのに伴いイオンの拡散過程などがある(電気二重層とは鉱物粒子(固体)とそれを取り巻く地下水(液体)との境界面に形成されるイオン濃度が高い領域をいう)。
【0056】
位相差グラフは、地盤2の含水率等によりfmaxとθmaxが変化するだけではなく、グラフの山形の曲線形状(太さや対称性)も変化する。上記4つのパラメータからIP特性をより詳細に数値的な指標として表すことができる。即ち、上記4つのパラメータを求め、これに基づいて測定対象地盤2の判別を行うことができる。例えば、各種サンプル地盤2について予め上記4つのパラメータを求めておき、これらを関係データとして記憶手段29に記憶しておく。判別手段34は記憶手段29にアクセスし、記憶されている関係データと関係算出手段33が求めた周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係(ここでは、上記4つのパラメータ)を対比し、測定対象地盤2を判別する。例えば、上記4つのパラメータが一致又は近似するサンプル地盤2を、測定対象地盤2と判断する。このようにすることで、さらに高精度の判別を行うことができる。
【0057】
なお、図12に示すような時間領域で計測した過渡応答曲線からIP特性を求めることも可能ではある。しかし、この場合には次のような欠点がある。即ち、実際ノイズがあるフィールドでは、図12(b)で示すような過渡応答を計測するのはかなり困難である。また、測定システムそのものの周波数特性の補正を正確に行うのは困難である。これらに対し、測定に使用する定電流の周波数を変えて複数回測定を繰り返す手法(周波数領域での計測)は、ノイズに強く単一周波数ごとに確実にデータを計測していくことができる。
【0058】
本実施形態では受信装置14は4チャネルの受信チャネルを有しているので、同時に4箇所4対の電位電極4間の電位差を測定できる。このため、4箇所の電位差信号が一度に受信装置14から抵抗及び位相差算出手段32に供給され、抵抗及び位相差算出手段32は4箇所の抵抗及び位相差を一度に算出する。そして、算出された4箇所の抵抗及び位相差は一度に関係算出手段33に供給され、関係算出手段33は4箇所についての周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係を並行して求める。求められた4箇所についての周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係は判別手段34に一度に供給され、判別手段34では、4箇所について地盤2の判別を一度に行う。このように、受信チャネルを4チャネル有することで、一度に4箇所についての処理を行うことができるので、短時間で電気探査を終了することができる。
【0059】
次に、電流電極3と電位電極4の組み合わせを変えて測定を行う場合について説明する。例えば、以下の(1)〜(3)の順序で測定を行う。
【0060】
(1)まず、1つの測線7を選択し、1つの組み合わせの電流電極3に対し、電位電極4の組み合わせを変化させて測定を行う。電流電極3以外の測点8の電位電極4について、その組み合わせを変えて測定を行う(図13(a))。なお、図13の黒三角形は電位電極4となる測点8を、斜線の三角形は電流電極3となる測点8を、白色の三角形は測定に使用しない測点8を示している。また、C1,P1a等の文字は端子25を示している。
【0061】
(2)次に、電流電極3の組み合わせを変えて(1)の測定を繰り返す。全ての電流電極3の組み合わせについて測定を行う。これにより1つの測線7についての測定が終了する。(図13(b))
【0062】
(3)次に、測線7を変えて(1)と(2)の測定を繰り返し行う。そして、全ての測線7について測定を行う。
【0063】
表1に、1つの測線7についての電極3,4の組み合わせの変化を示す。なお、表1中の電極3,4についての番号は、測点8を意味する。例えば、番号1の電流電極3は、各測線7に設けられている60箇所の測点8のうち1番目の測点8の電流電極3を意味し、番号60の電位電極4は、各測線7に設けられている60箇所の測点8のうち60番目の測点8の電位電極4を意味する。
【0064】
【表1】
【0065】
4本の測線7のうち、最初にA測線7について測定を行う。例えば1回目の測定では1,2番目の測点8の電流電極3を選択し、電位電極4の組み合わせを変化させて測定を行う(表1のA)。なお、4チャネルを使用して測定を行うので、8回目の測定では1チャネルのみを使用する。
【0066】
そして、1,2番目の測点8の電流電極3に対し、3〜60番目の測点8の電位電極4を使用した測定が終了した後、電流電極3を1,3番目の測点8の電流電極3に変えて、2,4〜60番目の測点8の電位電極4を使用して測定を行う(表1のB)。そして、1,3番目の測点8の電流電極3に対し、2,4〜60番目の測点8の電位電極4を使用した測定が終了した後、さらに、電流電極3の組み合わせを変えて測定を行い、全ての電流電極3の組み合わせについて測定を行う(表1のC)。これにより、A測線7についての測定が終了する。次に、同様の測定をB測線7→C測線7→D測線7についても行う。これにより、測定が終了する。
【0067】
このように4本の測線7について測定を行うことで、地盤2についての周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差の関係を三次元的に求めることができる。そのイメージを図14に示す。なお、図14には、測線7が1本しか記載されていないが、測線7を複数設けることで地盤2中の周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係の空間分布を求めることができ、地盤2を三次元的に探査することができる。測定部5はコンピュータ制御によって自動的に電極切替装置9のリレー23,27を切替えるので、迅速に測定を行うことができ、電極2,3の組み合わせが多数あっても測定に要する期間を短くできる。
【0068】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0069】
例えば、上述の説明では、四極法のDipole-Dipole法の電極配置を例に説明したが、Dipole-Dipole法に限るものでなく、Wenner法、Eltran法、シュランベルジャー法でも良い。また、四極法に限るものではなく、二極法、三極法の電極配置でも良い。
【0070】
なお、二極法の場合には、60個の電流電極3のうちいずれか1つを電流遠電極として固定的に使用すると共に、60個の電位電極4のうちいずれか1つを電位遠電極として固定的に使用することが考えられる。例えば、59番目の電流電極3(59番目の測点8の電流電極3をいう、以下同様)を電流遠電極として固定的に使用し、60番目の電位電極4(60番目の測点8の電位電極4をいう、以下同様)を電位遠電極として固定的に使用する。即ち、測線7が切り替わっても、例えば59番目の電流電極3と60番目の電位電極4は常に遠電極となる。この場合、電極切替装置9の電流電極3用の測点選択部20の2つのスイッチ回路24のうち、片方のスイッチ回路(例えばC2端子25側の回路)24の59番目のリレー27(59番目の本線21に接続された分岐線26に設けられているリレー27をいう、以下同様)をオン状態に維持すると共に、電位電極4用の測点選択部20の8つのスイッチ回路24のうち、1ch〜4chの片方のスイッチ回路(例えばP2a、P2b、P2c、P2d端子25側の回路)24の60番目のリレー27をオン状態に維持する。
【0071】
また、三極法の場合には、60個の電流電極3のうちいずれか1つを電流遠電極として固定的に使用することが考えられる。例えば、60番目の電流電極3を電流遠電極として固定的に使用する。即ち、測線7が切り替わっても、例えば60番目の電流電極4は常に遠電極となる。この場合、電極切替装置9の電流電極3用の測点選択部20の2つのスイッチ回路24のうち、片方のスイッチ回路(例えばC2端子25側の回路)24の60番目のリレー27をオン状態に維持する。
【0072】
また、上述の説明では、測点8には電流電極3と電位電極4が別々に設置されていたが、必ずしもこの構成に限るものではなく、測点8に電流電極3と電位電極4を兼用する兼用電極を設置しても良い。
【0073】
兼用電極を設置した場合の電極切替装置9を図11に示す。この電極切替装置9の測線選択部19と測点選択部20は、兼用電極を送信装置13又は前記受信装置14に接続する経路の途中に設けられている。即ち、上述の電極切替装置9では、図5及び図6に示すように測線選択部19と測点選択部20を電流電極3用のものと電位電極4用のものとに分けていたが、図11の電極切替装置9では、測線選択部19と測点選択部20とを共通にしている。測線選択部19は、図5又は図6の測線選択部19と同じ構成である。測点選択部20は、測定に同時使用する電流電極3と電位電極4の合計数に合わせて10個のスイッチ回路24を備えている。より具体的には、送信装置13に接続する2つのスイッチ回路24(C1端子25用とC2端子25用)と、受信装置14の1chに接続する2つのスイッチ回路24(P1a端子25用とP2a端子25用)、2chに接続する2つのスイッチ回路24(P1b端子25用とP2b端子25用)、3chに接続する2つのスイッチ回路24(P1c端子25用とP2c端子25用)、4chに接続する2つのスイッチ回路24(P1d端子25用とP2d端子25用)を備えている。各スイッチ回路24は図7のスイッチ回路24と同じである。また、兼用電極を使用することで電極3,4の数が全体として1/2になるので、接続端子10の数も1/2となる。
【0074】
例えば、A測線7の1,2番目の兼用電極を電流電極3として、3,4番目の兼用電極を電位電極4(1ch)として、5,6番目の兼用電極を電位電極4(2ch)として、7,8番目の兼用電極を電位電極4(3ch)として、9,10番目の兼用電極を電位電極4(4ch)としてそれぞれ使用する場合には、以下のリレー23,27をオン操作する。例えば、測点選択部20のC1用スイッチ回路24(C1端子25用のスイッチ回路24をいう、以下同様)の1番目のリレー27、C2用スイッチ回路24の2番目のリレー27、P1a用スイッチ回路24の3番目のリレー27、P2a用スイッチ回路24の4番目のリレー27、P1b用スイッチ回路24の5番目のリレー27、P2b用スイッチ回路24の6番目のリレー27、P1c用スイッチ回路24の7番目のリレー27、P2c用スイッチ回路24の8番目のリレー27、P1d用スイッチ回路24の9番目のリレー27、P2d用スイッチ回路24の10番目のリレー27をオン操作すると共に、測線選択部19のA組のリレー23を全てオン操作する。
【0075】
兼用電極を使用する場合には、必要な電極の数を半分にできると共に、電極切替装置9の構成が簡単なものになり、電極の設置等の準備作業が容易になると共に、電極切替装置9の製造コストを安くすることができる。
【0076】
また、上述の説明では、測線7として4本の測線7を設定していたが、設定する測線7の数は4本に限るものではない。例えば1本、2本、3本、5本以上でも良い。
【0077】
また、上述の説明では、1本の測線7に60箇所の測点8を設けたが、1本の測線7に設ける測点8の数は60箇所に限るものではない。なお、測点8の数の増減に応じて電極切替装置9の接続端子10や本線21、リレー23,27等の数を増減させても良いが、測点8の数が電極切替装置9の接続端子10や本線21、リレー23,27等の数よりも少ない場合には、測点8に対応する接続端子10や本線21、リレー23,27等を使用し、余った接続端子10、本線21、リレー23,27等は不使用にすれば良い。
【0078】
さらに、上述の説明では、地盤探査装置1が判別手段34を備えていたが、判別手段34を省略すると共に、関係算出手段33によって求められた周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係を出力装置35に出力するようにしても良い。
【0079】
また、上述の説明では、周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係の2つの関係に基づいて地盤2を判別していたが、必ずしもこれに限るものではなく、周波数と位相差の関係に基づいて地盤2を判別するようにしても良い。この場合には、判別の精度をある程度高く維持しつつ、計算量の減少により迅速に測定を行うことができる。
【0080】
また、上述の説明では、本発明の電極切替装置9を、周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係に基づいて地盤2を判別する地盤探査装置1及び地盤探査方法に適用する場合について説明していたが、適用可能な地盤探査装置及び地盤探査方法はこれらに限るものではない。例えば、比抵抗に基づいて地盤2を判定する地盤探査装置及び地盤探査方法でも良く、その他の地盤探査装置及び地盤探査方法でも良い。つまり、複数の測線上に設置されている多数の電極の中から測定に使用する電流電極と電位電極とを選択し、選択した電極の組み合わせを順次切替えて測定を繰り返し行う地盤探査装置及び地盤探査方法であれば適用可能である。
【0081】
さらに、電極3,4として、地下貯蔵空洞等のロックボルトを利用しても良い。
【実施例1】
【0082】
周波数と位相差との関係に基づいて地盤2を判別できることを確認するために、実験を行った。実験には、一定量の石炭灰に水量を調整し(含水率で2〜50%)混ぜて締め硬めた試料を使用した。当該試料には、粘土サイズの微少粒子が多く含まれていた。周波数毎の位相差に加え、抵抗も測定した。
【0083】
実験の結果を図15に示す。図15の(a)は含水率2%の試料、(b)は含水率6%の試料、(c)は含水率10%の試料、(d)は含水率15%の試料、(e)は含水率20%の試料、(f)は含水率30%の試料、(g)は含水率40%の試料、(h)は含水率50%の試料、をそれぞれ使用した結果である。また、各図において、下向きの矢印は位相差グラフのピーク周波数を示す。
【0084】
図15からも明らかなように、ピーク周波数(矢印)の値(臨界周波数fmax)は含水率が大きくなるにしたがって高周波数側にシフトする傾向にあることを確認できた。また、ピーク周波数の位相差の大きさθmaxは含水率が大きくなるにしたがって増加する傾向にあること、含水率が10%より小さくなるとθmaxが極端に減少することを確認できた。さらに、位相差グラフの形状は含水率によって異なることを確認できた。これらの結果、周波数と位相差の関係に基づいて、地盤2の含水率を判別できることを確認できた。即ち、fmax、θmax、fmaxとθmax(2つの組み合わせ)、グラフ形状、fmaxとグラフ形状(2つの組み合わせ)、θmaxとグラフ形状(2つの組み合わせ)、fmaxとθmaxとグラフ形状(3つの組み合わせ)、のいずれかによって地盤2の含水率を判別できることを確認できた。また、抵抗グラフの形状も図15(a)〜(h)で変化しているので、抵抗グラフの形状も併せて判断することで、より高精度の判別が可能であることを確認できた。
【実施例2】
【0085】
周波数と位相差との関係に基づいて地盤2を高精度に判別できることを確認するために、実験を行った。実験には、泥岩試料と砂岩試料を使用した。比較のため、比抵抗についても測定した。
【0086】
実験の結果を図16に示す。図16の(a)は泥岩試料、(b)は粗粒砂岩試料である。泥岩試料と砂岩試料とを比較すると、比抵抗グラフ同士のよりも、位相差グラフ同士の差の方が大きいことがわかった。この結果、比抵抗グラフに基づいて判別を行うよりも位相差グラフに基づいて判別を行った方が、泥岩試料と砂岩試料との区別が容易であり、より高精度に判別できることを確認できた。また、比抵抗グラフについても泥岩試料と砂岩試料とでは差があるので、位相差グラフと比抵抗グラフの両者に基づいて判別を行うことで、さらに高精度に判別できることを確認できた。
【0087】
図16(a)は、直流比抵抗R0=195.5、チャージアビリティm=0.5620、緩和の時定数τ=7.3430E−03、周波数依存係数c=0.6324、(b)は、直流比抵抗R0=374.9、チャージアビリティm=0.0984、緩和の時定数τ=0.5747、周波数依存係数c=0.1505である。
【0088】
なお、図16の理論値のグラフは以下のように求めた。即ち、上述のCole-Coleモデルを表す数式1にはIP現象の強度や性質を示す指標となる4つの未知数R0、m、τ、cがあったが、数学的には最小二乗法により、観測した位相差、比抵抗データに最もよく整合する“解”として求めることができる。数学的に具体的な解法は、以下の通りである。
【0089】
試料と等価な理論モデルのインピーダンスZは、周波数ωとモデルパラメータP1,P2,・・・Pnの関数であり、周波数ωiにおける実測インピーダンスをとすれば数式2で表すことが出来る。
【0090】
【数2】
【0091】
Zは非線形関数であるので、多変数関数のテーラー展開を利用して線形化近似すると数式3が得られる。
【0092】
【数3】
【0093】
ここで、P0jは真の等価モデルのパラメータ値、Pjは初期推測モデルとして与えたパラメータ値でありその差をΔPjとおけば数式4となる。
【0094】
【数4】
【0095】
いま、Z0i、Ziは複素数であり、その絶対値|Z|と位相角θとを用いて、数式5と表されることから、対数変換を行って絶対値と位相角とを分離して取扱う。すなわち、数式6であり、数式7,8となる。
【0096】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0097】
このとき,データ数がn個、パラメータPjがm個の場合(n≧m)、Aは2n行m列の行列を構成している。したがって、数式9,数式10,数式11とおけば、数式12と表される。
【0098】
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【0099】
最小二乗法を用いてbからyを安定に求めるために、正則化一般逆行列を作用させた数式13を用いる。
【0100】
【数13】
ここで、Iは恒等行列、λはダンピングファクタなどと呼ばれる正の定数である。
【0101】
P0jはyiとの数式14の関係から求められ、計算はRMS残差が小さくなるまで反復して行う。
【数14】
【0102】
なお、回帰分析の分散分析において、観測値(実験data)と理論値(数式による計算値)との残差の平方和(平方和sum of squares)を自由度で割ったものが平均平方 Mean Square、この√をとったものが、root mean square (RMS)となり、数式15で表します。
【数15】
ここで、ρaifは測定値、ρaicは計算値、Nは全測定データ数である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の電極切替装置を適用した地盤探査装置の実施形態の一例を示すブロック図である。
【図2】同地盤探査装置の測定部を示すブロック図である。
【図3】電流電極を設置した地盤の断面図である。
【図4】電位電極を設置した地盤の断面図である。
【図5】本発明の電極切替装置の実施形態の一例を示し、電流電極側の測線選択部と測点選択部のブロック図である。
【図6】本発明の電極切替装置の実施形態の一例を示し、電位電極側の測線選択部と測点選択部のブロック図である。
【図7】測点選択部のスイッチ回路を示す図である。
【図8】周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係を示す概念図である。
【図9】位相差グラフが地盤に含まれる粘土鉱物の量によって変化する様子を示す図である。
【図10】位相差グラフが地盤の含水率等によって変化する様子を示す図である。
【図11】電極切替装置の他の実施形態を示すブロック図である。
【図12】時間領域でみたIP現象の概念を示し、(a)は送信電流波形を示す図、(b)は受信電位波形を示す図である。
【図13】スペクトルIP法による測定の概念を示し、(a)は電流電極を固定して電位電極を順番に変化させながら測定を行う様子を示す概念図、(b)は電流電極を変化させて(a)の測定を繰り返し行う様子を示す概念図である。
【図14】地盤の周波数と位相差との関係を三次元的に求める概念を示す図である。
【図15】周波数と位相差との関係に基づいて地盤を判別できること確認する実験の結果を示し、(a)は含水率2%の試料を使用した結果を示すグラフ、(b)は含水率6%の試料を使用した結果を示すグラフ、(c)は含水率10%の試料を使用した結果を示すグラフ、(d)は含水率15%の試料を使用した結果を示すグラフ、(e)は含水率20%の試料を使用した結果を示すグラフ、(f)は含水率30%の試料を使用した結果を示すグラフ、(g)は含水率40%の試料を使用した結果を示すグラフ、(h)は含水率50%の試料を使用した結果を示すグラフである。
【図16】周波数と位相差との関係に基づいて地盤を高精度に判別できることを確認する実験の結果を示し、(a)は泥岩試料を使用した結果を示すグラフ、(b)は粗粒砂岩試料を使用した結果を示すグラフである。
【図17】従来の電極切替装置の原理を示す図である。
【図18】従来の電極切替装置の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0104】
7 測線
8 測点
3 電流電極
4 電位電極
13 送信装置
14 受信装置
9 電極切替装置
10 接続端子
19 測線選択部
20 測点選択部
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の電気探査に使用する電極切替装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、地盤に設置した多数の電極の中から測定に使用する電流電極と電位電極を選択し、送信装置又は受信装置との接続を切替える電極切替装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤の電気探査法では、一対の電流電極と一対の電位電極を地表に設置しておき、送信機(直流電源)を一対の電流電極に接続すると共に、受信機(電圧計)を一対の電位電極に接続し、電流電極から流す直流電流の値とそれによって電位電極間に生じる電位差を計測して比抵抗を求め、この比抵抗に基づいて地盤を探査する。
【0003】
電流電極と電位電極の間の距離(電極間距離)が短ければ測定データには浅部地層の比抵抗が反映され、電極間距離が長ければ測定データには深部地層の比抵抗の影響が含まれるようになる。このため、電極間距離を変化させて測定することで、深さ方向の比抵抗の変化を知ることができる。そして、このような測定を効率良く行うために、多数の電極を1本の測線に沿って予め設置しておき、その中から測定に使用する電流電極と電位電極を選択してその組み合わせを順番に変えながら測定することが行われている。
【0004】
1本の測線に沿って設置された多数の電極の中から使用する一対の電流電極と電位電極を選択し、選択した電流電極と送信機との接続、および選択した電位電極と受信機との接続を操作する装置として、例えば特開2001−21662号に開示された電極切替装置がある。
【0005】
この電極切替装置を図17及び図18に示す。電極切替装置は、電流送信部(送信機)の2つの端子C1,C2と電位受信部(受信機)の2つの端子P1,P2に対応した4つのリレー装置を有している。各リレー装置は、端子の数、換言すると電極の数と同じ数のリレーを有しており、その中から1つのリレーを選択してオン操作することで、多数の電極の中から1つの電極を選択して電流送信部又は電位受信部に接続させる。そして、オン操作するリレーを順次変えることで、電流送信部又は電位受信部に接続させる電極を順次変化させることができる。
【特許文献1】特開2001−21662号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の電極切替装置では、測線が1本の場合には対応可能であったが、測線が2本以上の場合には対応していなかった。このため、複数の測線について測定を行う場合には、1本の測線について測定を行った後、測定が終了した測線から測定が終了していない別の測線に電極を設置し直すと共にそれらの配線等もし直して測定を繰り返し行っていた。このため、測定の作業効率が極めて悪かった。
【0007】
本発明は、複数の測線に対応可能な電極切替装置を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発明は、測線上の複数の測点にそれぞれ設置された電極の中から測定に使用する電流電極と電位電極を選択し、選択した電流電極に通じる導線を送信装置に接続すると共に、選択した電位電極に通じる導線を受信装置に接続する電極切替装置において、導線を接続する接続端子を複数の測線に対応する数だけ設けて複数の測線の電極を接続可能とし、複数の測線の中から測定に使用する1本の測線を選択して接続を切替える測線選択部と、測定に使用する測点を選択して接続を切替える測点選択部を備えるものである。
【0009】
したがって、測線が複数あっても各測点の測点の電極を送信装置又は受信装置に選択的に接続することができる。1本の測線に複数の測点があり、そのような測線が複数あったとしても、即ち、多数の電極が縦横に設置されていたとしても、その電極が属する測線と当該測線中の測点の位置とを指定することで、その電極を特定することができる。したがって、測線選択部によって測線を選択し、測点選択部によって当該測線中の測点を選択することで、電極を特定して送信装置又は受信装置に接続することができる。また、測線選択部と電極に通じる導線を接続する接続端子との増加によって測線の増加に対応できる。
【0010】
ここで、請求項2記載の電極切替装置のように、測点には電流電極と電位電極を兼用する兼用電極が設置されており、測線選択部と測点選択部を、兼用電極を送信装置又は受信装置に接続する経路の途中に設けていても良く、また、請求項3記載の電極切替装置のように、測点には電流電極と電位電極が別々に設置されており、測線選択部と測点選択部を、電流電極を送信装置に接続する経路の途中と電位電極を受信装置に接続する経路の途中のそれぞれに設けていても良い。即ち、電流電極と電位電極として共通の電極を使用する場合でも、別々の電極を使用する場合でも、電極と送信装置又は受信装置との接続の切替を行うことができる。
【0011】
また、請求項4記載の電極切替装置は、測点選択部が測点の中から遠電極とする測点を選択し、選択した遠電極測点の接続状態を維持するものである。したがって、遠電極を必要とする二極法又は三極法の電極配置に対応することができる。
【0012】
さらに、請求項5記載の電極切替装置は、測点選択部が、全ての測点を順番に選択して接続を切替えるものである。したがって、四極法の電極配置に対応することができる。
【発明の効果】
【0013】
しかして、請求項1記載の発明では、上述のように発明電極切替装置を構成しているので、測線が複数あっても対応することができる。また、測線選択部と接続端子との増加によって測線の増加に対応することができるので、測線の増加への対応が容易である。さらに、測線を増加させる場合であっても測点選択部を増加させる必要がないので、その分だけ必要な部品点数の増加を抑えることができ、装置の大型化、重量化を抑えることができる。
【0014】
ここで、請求項2記載の電極切替装置のように、測点には電流電極と電位電極を兼用する兼用電極が設置されており、測線選択部と測点選択部を、兼用電極を送信装置又は受信装置に接続する経路の途中に設けていても良く、また、請求項3記載の電極切替装置のように、測点には電流電極と電位電極が別々に設置されており、測線選択部と測点選択部を、電流電極を送信装置に接続する経路の途中と電位電極を受信装置に接続する経路の途中のそれぞれに設けていても良い。即ち、電流電極と電位電極として同じ電極を使用する場合でも、別々の電極を使用する場合でも、電極と送信装置又は受信装置との接続の切替を良好に行うことができる。このため、汎用性が高い電極切替装置を提供することができる。
【0015】
また、請求項4記載の電極切替装置では、測点選択部が測点の中から遠電極とする測点を選択し、選択した遠電極測点の接続状態を維持するので、二極法又は三極法の電極配置の場合に電極と送信装置又は受信装置との接続の切替を行うことができる。
【0016】
さらに、請求項5記載の電極切替装置では、測点選択部が全ての測点を順番に選択して接続を切替えるので、四極法の電極配置の場合に電極と送信装置又は受信装置との接続の切替を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
まず最初に、本発明の電極切替装置を備える地盤探査装置について説明する。図1〜図7に、地盤探査装置の実施形態の一例を示す。地盤探査装置1は、地盤2に設置された一対の電流電極3及び一対の電位電極4と、電流電極3間に一定周期で電流を供給して電位電極4間の電位差を測定する測定部5と、電流の波形に対する電位差の波形の抵抗及び位相差を求める処理部6を備え、測定部5は電流の周期の周波数を変えて測定を複数回行うものであり、処理部6は、測定部5の複数回の測定に基づき周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係を求めるものである。測定部5と処理部6は制御部28によって同期され制御されている。また、本実施形態では、予め求めておいた地盤2別の周波数と抵抗との関係データ及び周波数と位相差との関係データを記憶した記憶手段29を備えており、処理部6は、記憶手段29に記憶されている関係データと求めた関係とを対比して測定対象地盤2を判別するものである。
【0019】
地盤2には、測線7に沿って多数の電流電極3と電位電極4が設置されており、多数の電流電極3の中から2個(一対)を選択して使用すると共に、多数の電位電極4の中から2個(一対)を選択して使用する。1本の測線7に対し、例えば60箇所の測点8が設定されており、各測点8には電流電極3と電位電極4が別々に設置されている。同一測点8の電流電極3と電位電極4は、測線7に直交する方向に並べて配置されている。電極3,4の各々は別々の導線によって測定部5の電極切替装置9の各接続端子10に接続されている。即ち、60個の電流電極3と60個の電位電極4はそれぞれ60本の導線を束ねた多芯ケーブル11によって電極切替装置9の対応する接続端子10に接続されている。測定部5は設置された電極3,4の中から使用する一対の電流電極3と一対の電位電極4の組合せを順次切り替えて測定を行う。例えば、四極法のDipole-Dipole法の電極配置で測定を行う。測線7として、例えば4本の測線7が設定されている。
【0020】
図3に電流電極3を示す。電流電極3は、例えばステンレス製の電極であり、地表から例えば30〜40cmの深さまで差し込まれる。電流電極3の太さは例えば15mmである。また、図4に電位電極4を示す。電位電極4は、例えば鉛製の電極であり、地表から例えば30から40cmの深さまで差し込まれる。電位電極4の太さは例えば15mmである。電位電極4の周囲には導電性ゲル材(アースFC硬化剤)12が充填されており、分極が生じ難くなっている。
【0021】
測定部5は送信装置13と受信装置14と本発明の電極切替装置9を備えている。送信装置13は、端子15間に一定周期で定電流を供給し、電流値と電流の送信周波数を調節することができる。電流値は例えば1mA〜400mAの範囲で、送信周波数は例えば0.01Hz〜10kHzの範囲で、それぞれ調節することができる。ただし、調節できる範囲はこれらに限るものではない。また、送信装置13は、定電流として、例えば正弦波電流を供給する。電流値は、測定条件等に応じて適宜選択される。
【0022】
受信装置14は、電流検出回路16と受信増幅回路17とA/D変換器18を備えている。また、電位電極4からの信号を受け付ける受信チャネルとして、例えば4つのチャネルを有している。受信増幅回路17は受信チャネル数に対応して、例えば4つ設けられている。また、A/D変換器18は、増幅の程度に応じて、例えば3つ(0dB,20dB,40dB)設けられている。
【0023】
本発明の電極切替装置9の実施形態の一例を図5及び図6に示す。電極切替装置9は、測線7上の複数の測点8にそれぞれ設置された電極の中から測定に使用する電流電極3と電位電極4を選択し、選択した電流電極3に通じる導線を送信装置13に接続すると共に、選択した電位電極4に通じる導線を受信装置14に接続するものである。導線を接続する接続端子10を複数の測線7に対応する数だけ設けて複数の測線7の電極3,4を接続可能としている。また、複数の測線7の中から測定に使用する1本の測線7を選択して接続を切替える測線選択部19と、測定に使用する測点8を選択して接続を切替える測点選択部20を備えている。本実施形態では、測点8には電流電極3と電位電極4が別々に設置されており、測線選択部19と測点選択部20は、電流電極3を送信装置13に接続する経路の途中と電位電極4を受信装置14に接続する経路の途中のそれぞれに設けられている。
【0024】
電流電極3用の接続端子10と電位電極4用の接続端子10は、それぞれ240(=60×4)個ずつ設けられており、最大4本分の測線7(A測線7〜D測線7)の電流電極3と電位電極4を接続することができる。即ち、測点8の数と同じ数の接続端子10が1組となり、接続可能とする測線7の最大数と同じ組数の接続端子10が設けられている。また、1組の接続端子10には、最大60個の電極を接続することができる。各接続端子10には、各測線7の多芯ケーブル11の導線が1本ずつ接続されている。ここで電流電極3を例に説明すると、各測線7とも、1番目の測点8の電流電極3に通じる導線は1番目の接続端子10に、2番目の測点8の電流電極3に通じる導線は2番目の接続端子10に、…、n番目の測点8の電流電極3に通じる導線はn番目の接続端子10に、…、60番目の測点8の電流電極3に通じる導線は60番目の接続端子10に、それぞれ接続されている。電位電極4についても同様である。
【0025】
なお、接続端子10の数は240個ずつに限るものではない。例えば、図5及び図6に破線で示すように、拡張用の接続端子10を電流電極3用と電位電極4用にそれぞれ120(60×2)個ずつ設けておき、測線7の数を必要に応じて6本まで増加できるようにしても良い。また、その他の数でも良い。
【0026】
測線選択部19は、測点8の数と同じ数だけ設けられた本線21と、各本線21を測線7の数と同じ数に分岐させた分岐線22と、分岐線22の途中に設けられたリレー23を備えている。分岐線22は接続端子10に接続されている。リレー23は測線7毎に組み分け(A組〜D組)されており、同じ組のリレー23は同時にオンオフ操作される。4つの組のうち、1つの組が択一的に選択されてオン操作される。例えば、A測線7を選択する場合にはA組のリレー23が全てオン操作され、他の組のリレー23は全てオフ操作される。B測線7、C測線7、D測線7を選択する場合も同様である。測線選択部19は電流電極3用のものと電位電極4用のものとで同じ構造である。
【0027】
図5に示す電流電極3用の測点選択部20は、測定に使用する電流電極3の数に合わせて2つのスイッチ回路24を備えている。また、図6に示す電位電極4用の測点選択部20は、受信チャネル分の電位電極4の数に合わせて8つのスイッチ回路24を備えている。スイッチ回路24を図7に示す。スイッチ回路24は、端子25と各本線21を接続する分岐線26と、各分岐線26の途中に設けられたリレー27を備えている。本実施形態では、測点8の数に対応して60本の本線21を有しているので、60個のリレー27を有している。各リレー27は択一的にオン操作される。例えば、1番目の測点8の電流電極3を端子25に接続する場合には、1番目の本線21に接続された分岐線26に設けられているリレー27をオン操作する。2番目〜60番目の測点8の電流電極3を端子25に接続する場合も同様であり、また、電位電極4についても同様である。
【0028】
例えば、A測線7の1,2番目の測点8の電流電極3と、3,4番目の測点8の電位電極4(1ch)と、5,6番目の測点8の電位電極4(2ch)と、7,8番目の測点8の電位電極4(3ch)と、9,10番目の測点8の電位電極4(4ch)を使用する場合には、以下のリレー23,27をオン操作する。図5の電流電極3側(送信装置13側)については、測点選択部20の一方のスイッチ回路24の1番目のリレー27と、他方のスイッチ回路24の2番目のリレー27をオン操作すると共に、測線選択部19のA組のリレー23を全てオン操作する。また、図6の電位電極4側(受信装置14側)については、測線選択部19の1chの一方のスイッチ回路24の3番目のリレー27と他方のスイッチ回路24の4番目のリレー27、2chの一方のスイッチ回路24の5番目のリレー27と他方のスイッチ回路24の6番目のリレー27、3chの一方のスイッチ回路24の7番目のリレー27と他方のスイッチ回路24の8番目のリレー27、4chの一方のスイッチ回路24の9番目のリレー27と他方のスイッチ回路24の10番目のリレー27をオン操作すると共に、測線選択部19のA組のリレー23を全てオン操作する。
【0029】
各リレー23,27は、制御部28によって切替操作される。
【0030】
電極切替装置9は、送信装置13の端子15と電流検出回路16の端子30を接続している。また、電極切替装置9は、受信チャネル毎に電位電極4と受信装置14の受信増幅回路17の端子31とを接続している。電流検出回路16と受信増幅回路17は、3つのA/D変換器18を介して処理部6に接続されている。その接続にはUSB端子が使用されている。
【0031】
処理部6は、抵抗及び位相差算出手段32、関係算出手段33、判別手段34を備えている。本実施形態では、処理部6と制御部28をコンピュータによって実現している。即ち、少なくとも1つのCPUやMPUなどの中央演算装置と、データの入出力を行うインターフェースと、プログラムやデータを記憶する記憶装置等を備えるコンピュータと所定の制御ないし演算プログラムによって、抵抗及び位相差算出手段32、関係算出手段33、判別手段34、制御部28を実現している。即ち、中央演算装置は、記憶装置に記憶されたOS等の制御プログラム、周波数と抵抗との関係データ及び周波数と位相差との関係やそれらの関係に基づいて岩盤を判別する方法などの手順を規定したプログラム及び所要データ等により、抵抗及び位相差算出手段32、関係算出手段33、判別手段34、制御部28を実現している。また、コンピュータには、例えばディスプレイやプリンター等の出力装置35が接続されている。コンピュータとして、例えば作動周波数1.4GHzクラスのCPUを搭載するパーソナルコンピュータの使用が可能である。また、そのOSとしては、一般に市販され広く普及している例えばWindows(登録商標)等の使用が可能である。
【0032】
抵抗及び位相差算出手段32は、送信装置13が送信した電流の信号波形と、測定部5によって測定された電位電極4間の電位差の信号波形とを比較し、電流の信号波形に対する電位差の信号波形の抵抗及び位相差を求める。測定部5は電流の周波数fを変化させて測定を複数回繰り返し行い、抵抗及び位相差算出手段32は繰り返し行われる測定毎に抵抗及び位相差を算出する。算出した抵抗R及び位相差θは電流の周波数fとともに関係算出手段33に送信される。
【0033】
関係算出手段33は、抵抗及び位相差算出手段32から供給されたデータに基づいて周波数fと抵抗Rとの関係及び周波数fと位相差θとの関係を求める。周波数fと抵抗Rとの関係及び周波数fと位相差θとの関係の一例を図8に示す。いま、測定部5が周波数fを変えた測定を10回繰り返したとすると、得られたデータ(周波数,抵抗)は、(f1,R1)、(f2,R2)、(f3,R3)、…、(f10,R10)となるので、縦軸に抵抗Rを、横軸に周波数fをとってグラフ化すると、図8に示す関係が得られる。同様に、得られたデータ(周波数,位相差)は、(f1,θ1)、(f2,θ2)、(f3,θ3)、…、(f10,θ10)となるので、縦軸に位相差θを、横軸に周波数fをとってグラフ化すると、図8に示す関係が得られる。周波数fと抵抗Rとの関係を表す抵抗グラフは途中で傾斜をもつ形状となり、周波数fと位相差θとの関係を表す位相差グラフは抵抗グラフの最大傾斜の周波数でピークを示す山形形状となり、地盤2の状況・含水率等に応じてその形状が変化する(図9、図10)。
【0034】
関係算出手段33が求めた周波数fと抵抗Rとの関係及び周波数fと位相差θとの関係は判別手段34に出力される。判別手段34は、周波数fと抵抗Rとの関係及び周波数fと位相差θとの関係に基づいて測定対象の地盤2を判別する。ここでは、周波数fと位相差θとの関係に関して、位相差のピーク周波数に基づいて測定対象地盤2を判別する。ここで、位相差のピーク周波数には、その周波数の値fmaxと当該周波数fmaxにおける位相差の大きさθmaxとが含まれる。記憶手段29には予め求めておいた地盤別の周波数と位相差との関係データ(ここではfmaxとθmax)が記憶されており、判別手段34は記憶手段29に記憶されている関係データとの対比によって測定対象地盤2の判定を行う。また、これに加えて周波数fと抵抗Rとの関係にも基づいて測定対象地盤2を判別する。記憶手段29には予め求めておいた地盤別の周波数と抵抗との関係データが記憶されており、判別手段34は記憶手段29に記憶されている関係データとの対比によって測定対象地盤2の判定を行う。例えば、fmaxと、θmaxと、周波数と抵抗との関係とが一致又は近似する場合に、測定対象地盤2が対比しているサンプル地盤であると判断する。
【0035】
記憶手段29としては、例えばハードディスク、メモリ、DVD、CD、MO、フロッピーディスク(登録商標)等の使用が可能である。
【0036】
地盤探査装置1は、例えば測定現場に設置されている。ただし、必ずしも地盤探査装置1の全てを測定現場に設置する必要はなく、例えば電極3,4及び測定部5を測定現場に設置すると共に、処理部6及び制御部28を例えば研究所等の遠隔地に設置し、これらを例えばインターネット、専用線、無線通信線等の電気通信回線を使用して接続しても良い。なお、この場合には、制御部28とは別に測定部5専用の制御部を測定部5に設けることが好ましい。このような構成の地盤探査装置1は、特に、地盤2を長期間にわたりモニタリングする場合等の使用に適している。即ち、例えば高レベル放射性廃棄物の地層処分、石油や液化天然ガス等の液体の地下岩盤貯蔵、地下発電所等、大規模地下空間の掘削に伴う空洞周辺岩盤全域の水理的な挙動を長期間モニタリングする場合の地盤探査装置1としての使用に特に適している。また、リモートアクセスにより研究所などの遠隔地から現場に設置した装置を制御することが可能で、リアルタイムに現場の地下水挙動等を把握することができる。
【0037】
この地盤探査装置1によれば、(1)広帯域(例えば0.01Hz〜10kHz)中任意の周波数の正弦波印加電流に対する地盤の電気特性(抵抗及び位相差)を測定することができる。(2)最大60点の測点8に対応し、あらゆる電極配置の組み合わせに対応することができる。また、例えば4chの受信回路を有し、例えばdipole-dipole法では1組の電流電極(送信電極)3対に対し4箇所4組の電位電極(受信電極)4対での信号を同時に計測することができる。(3)送信装置13が送信する電流の周波数の切替、電極切替装置9のリレー23,27の切替、送信装置13の送信電流のレベル・受信装置14の受信ゲインの調整などの一連の測定操作は、コンピュータによる制御で全て自動的に行うことができる。等の効果がある。
【0038】
次に、地盤探査方法について説明する。この方法は、測定対象地盤2に設置した一対の電流電極3間に一定周期で電流を供給して測定対象地盤2に設置した電位電極4間の電位差を測定し、電流の波形に対する電位差の波形の抵抗及び位相差を求め、電流の周期の周波数を変えて測定を複数回行い周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係を求め、上述の2つの関係に基づいて測定対象地盤2を判別するものである。
【0039】
本実施形態では、受信装置14は4チャネル(1ch〜4ch)の受信チャネルを有しているが、説明を簡単にし理解を容易にするために、まず最初に4チャネル有ることを考慮しないで説明し、その後4チャネル有ることを考慮した場合について説明する。また、同様の理由から、まず最初に使用する電流電極3と電位電極4を変化させることを考慮しないで説明し、その後使用する電流電極3と電位電極4を変化させることを考慮して説明する。
【0040】
測定部5の送信装置13が例えば周波数f1で電流を送信すると、電流電極3間に正弦波の電流が周波数f1で流される。同時に、電流は受信装置14の電流検出回路16にも供給され、基準抵抗で電圧信号としてA/D変換器18を通じて処理部6の抵抗及び位相差算出手段32に出力される。
【0041】
電流電極3間に定電流が流されると、電位電極4間の電位差が変化する。一対の電位電極4によって測定された電位差信号は受信装置14の受信増幅回路17に供給され、増幅された後、A/D変換器18を通じて処理部6の抵抗及び位相差算出手段32に出力される。測定部5は、処理部6に電流信号と電位差信号を出力したことを制御部28に知らせる。
【0042】
処理部6の抵抗及び位相差算出手段32は、受信装置14から供給された電位差信号と定電流信号とを比較し、電流の波形に対する電位差の波形の抵抗R1及び位相差θ1を求める。そして、抵抗及び位相差算出手段32は求めた抵抗R1及び位相差θ1を電流の周波数f1とともに関係算出手段33に送信する。
【0043】
一方、測定部5は、電流信号と測定した電位差信号を処理部6に出力した後、制御部28の命令に受けて、電流の周波数を変化(f1→f2)させて上述の測定を繰り返し行う。これにより、周波数を変えた測定用電流信号と測定した電位差信号が処理部6の抵抗及び位相差算出手段32に供給される。そして、電流の周波数をf2に変えて上述の測定を行った結果、抵抗及び位相差算出手段32が算出した抵抗がR2、位相差がθ2であったとすると、データとしてf2とR2及びθ2が関係算出手段33に送信される。
【0044】
そして、測定部5による周波数を変えた繰り返しの測定が終了すると、関係算出手段33は制御部28の命令を受けて周波数fと抵抗Rとの関係及び周波数fと位相差θとの関係を求める。例えば周波数がf1、f2、…、f10のとき、抵抗がR1、R2、…、R10、位相差がθ1、θ2、…、θ10であったとすると、図8に示すような関係が求められる。
【0045】
周波数と位相差との関係を図9及び図10に示す。図9に示すように、位相差グラフは地盤2中に分極現象を発生する粘土鉱物が多く含まれるほど大きくなる(図9のA→B→Cの順)。また、図10に示すように、分極現象を発生する粘土鉱物を含む地盤2の性質(間隙率、鉱物の配列構造)、物理的な性質(例えば含水率)等により、位相差グラフのピーク周波数の値fmaxは変化する。このため、地盤2の種類が変われば位相差グラフも変化する。また、周波数と抵抗との関係を示す抵抗グラフも地盤2の種類が変われば変化する。したがって、測定によって図8に示すような関係を求めることで、地盤2を判別することができる。
【0046】
本実施形態では、各種サンプル地盤2について予め周波数と位相差との関係及び周波数と抵抗との関係を求めておき、それらを関係データとして記憶手段29に記憶してあるので、判別手段34は記憶手段29にアクセスし、記憶されている関係データと関係算出手段33が算出した周波数と位相差との関係及び周波数と抵抗との関係を対比し、測定対象地盤2を判別する。例えば、位相差グラフのピーク周波数の値fmaxと、当該周波数における位相差の大きさθmaxと、周波数と抵抗との関係とに基づいて測定対象地盤2を判別する。例えば、fmaxと、θmax、周波数と抵抗との関係とが一致又は近似するサンプル地盤2を、測定対象地盤2と判断する。このようにすることで、高精度の判別を行うことができる。特に、周波数と位相差との関係及び周波数と抵抗との関係という2つの関係に基づいて判別を行うので、非常に高精度の判別を行うことができる。
【0047】
なお、周波数fと位相差θとの関係には、(1)fmaxとθmaxの組み合わせ、の他に、(2)fmaxのみ、(3)θmaxのみ、(4)これらと位相差グラフの形状との組み合わせ、(5)位相差グラフの形状のみ、が含まれる。
【0048】
したがって、例えば地盤判別の精度にそれ程高い精度が要求されない場合等には、fmaxとθmaxのうち、いずれか一方にのみ基づいて地盤2を判別しても良い。また、例えば地盤2中に含まれる粘土鉱物の多少を判別することを目的にする場合等には、θmaxに基づいて地盤2の判別を行っても良い。さらに、例えば粘土鉱物を含む地盤2の性質(間隙率、鉱物の配列構造)、物理的な性質(例えば含水率)等を判別することを目的にする場合等には、fmaxに基づいて地盤2の判別を行っても良い。
【0049】
また、周波数と位相差との関係については、位相差グラフの形状に基づいて地盤2を判別しても良い。例えば、各種サンプル地盤2について予め周波数と位相差との関係を求めて位相差グラフを求めておき、これらを関係データとして記憶手段29に記憶しておく。判別手段34は記憶手段29にアクセスし、記憶されている関係データと関係算出手段33が求めた周波数と位相差との関係(ここでは位相差グラフの形状)を対比し、測定対象地盤2を判別する。例えば、位相差グラフの形状が一致又は近似するサンプル地盤を、測定対象地盤2と判断する。このようにすることで、高精度の判別を行うことができる。同様に、周波数と抵抗との関係についても、抵抗グラフの形状に基づいて地盤2を判別しても良い。
【0050】
また、抵抗及び位相差グラフの形状に基づいて地盤2を判別する場合には、抵抗及び位相差グラフのフィッティングにより直流比抵抗R0、チャージアビリティm等を求め、これらに基づいて判別を行っても良い。
【0051】
即ち、地盤2のスペクトルIP(Induced-Polarization:分極)現象を説明する等価な電気回路モデルの一つとして、Cole-Coleモデル(コールコールモデル;Patron,1978)がある。これは数学的には複素数であり4つの未知数を含む数式1で示される。
【0052】
【数1】
【0053】
ここに、R0は直流比抵抗、mはチャージアビリティ(chargeability)、τは緩和の時定数(sec)、cは周波数依存係数、ωは角周波数、iは√(-1)である。
【0054】
4つの未知数とは数式1中のR0、m、τ、cのことであり、数学的には最小二乗法により観測した位相差(および抵抗)データに最もよく整合する“解”として求めることができる。物理的なイメージを、図12に示す。図12は、時間領域でみたIP現象の概念図である。なお、図12(a)は送信電流波形を、(b)は受信電位波形をそれぞれ示している。
【0055】
R0は直流電流に対する電位より求まる比抵抗(=測定電位/直流電流)である。mは地盤2の充電効果(電荷を蓄える性質)の強さを表す指標で、過渡応答の積分値に関連する。τは分極現象の時間的な長さに関連し、時間領域でIP現象を見た場合、電流を流している期間に地盤2に蓄えられた電荷が電流遮断後に地盤2から流れる電流により観測される電位波形、すなわち“過渡応答”の時間的な長さに関連する。cは分極の支配過程に伴う係数で、分極現象が単一の支配過程による場合はc=1となる(そうでない場合cは1以下になる)。分極現象の支配過程としては、鉱石と地下水中のイオンとの電荷の移動過程、電気二重層の充電・放電過程、電気二重層の構造が変化するのに伴いイオンの拡散過程などがある(電気二重層とは鉱物粒子(固体)とそれを取り巻く地下水(液体)との境界面に形成されるイオン濃度が高い領域をいう)。
【0056】
位相差グラフは、地盤2の含水率等によりfmaxとθmaxが変化するだけではなく、グラフの山形の曲線形状(太さや対称性)も変化する。上記4つのパラメータからIP特性をより詳細に数値的な指標として表すことができる。即ち、上記4つのパラメータを求め、これに基づいて測定対象地盤2の判別を行うことができる。例えば、各種サンプル地盤2について予め上記4つのパラメータを求めておき、これらを関係データとして記憶手段29に記憶しておく。判別手段34は記憶手段29にアクセスし、記憶されている関係データと関係算出手段33が求めた周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係(ここでは、上記4つのパラメータ)を対比し、測定対象地盤2を判別する。例えば、上記4つのパラメータが一致又は近似するサンプル地盤2を、測定対象地盤2と判断する。このようにすることで、さらに高精度の判別を行うことができる。
【0057】
なお、図12に示すような時間領域で計測した過渡応答曲線からIP特性を求めることも可能ではある。しかし、この場合には次のような欠点がある。即ち、実際ノイズがあるフィールドでは、図12(b)で示すような過渡応答を計測するのはかなり困難である。また、測定システムそのものの周波数特性の補正を正確に行うのは困難である。これらに対し、測定に使用する定電流の周波数を変えて複数回測定を繰り返す手法(周波数領域での計測)は、ノイズに強く単一周波数ごとに確実にデータを計測していくことができる。
【0058】
本実施形態では受信装置14は4チャネルの受信チャネルを有しているので、同時に4箇所4対の電位電極4間の電位差を測定できる。このため、4箇所の電位差信号が一度に受信装置14から抵抗及び位相差算出手段32に供給され、抵抗及び位相差算出手段32は4箇所の抵抗及び位相差を一度に算出する。そして、算出された4箇所の抵抗及び位相差は一度に関係算出手段33に供給され、関係算出手段33は4箇所についての周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係を並行して求める。求められた4箇所についての周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係は判別手段34に一度に供給され、判別手段34では、4箇所について地盤2の判別を一度に行う。このように、受信チャネルを4チャネル有することで、一度に4箇所についての処理を行うことができるので、短時間で電気探査を終了することができる。
【0059】
次に、電流電極3と電位電極4の組み合わせを変えて測定を行う場合について説明する。例えば、以下の(1)〜(3)の順序で測定を行う。
【0060】
(1)まず、1つの測線7を選択し、1つの組み合わせの電流電極3に対し、電位電極4の組み合わせを変化させて測定を行う。電流電極3以外の測点8の電位電極4について、その組み合わせを変えて測定を行う(図13(a))。なお、図13の黒三角形は電位電極4となる測点8を、斜線の三角形は電流電極3となる測点8を、白色の三角形は測定に使用しない測点8を示している。また、C1,P1a等の文字は端子25を示している。
【0061】
(2)次に、電流電極3の組み合わせを変えて(1)の測定を繰り返す。全ての電流電極3の組み合わせについて測定を行う。これにより1つの測線7についての測定が終了する。(図13(b))
【0062】
(3)次に、測線7を変えて(1)と(2)の測定を繰り返し行う。そして、全ての測線7について測定を行う。
【0063】
表1に、1つの測線7についての電極3,4の組み合わせの変化を示す。なお、表1中の電極3,4についての番号は、測点8を意味する。例えば、番号1の電流電極3は、各測線7に設けられている60箇所の測点8のうち1番目の測点8の電流電極3を意味し、番号60の電位電極4は、各測線7に設けられている60箇所の測点8のうち60番目の測点8の電位電極4を意味する。
【0064】
【表1】
【0065】
4本の測線7のうち、最初にA測線7について測定を行う。例えば1回目の測定では1,2番目の測点8の電流電極3を選択し、電位電極4の組み合わせを変化させて測定を行う(表1のA)。なお、4チャネルを使用して測定を行うので、8回目の測定では1チャネルのみを使用する。
【0066】
そして、1,2番目の測点8の電流電極3に対し、3〜60番目の測点8の電位電極4を使用した測定が終了した後、電流電極3を1,3番目の測点8の電流電極3に変えて、2,4〜60番目の測点8の電位電極4を使用して測定を行う(表1のB)。そして、1,3番目の測点8の電流電極3に対し、2,4〜60番目の測点8の電位電極4を使用した測定が終了した後、さらに、電流電極3の組み合わせを変えて測定を行い、全ての電流電極3の組み合わせについて測定を行う(表1のC)。これにより、A測線7についての測定が終了する。次に、同様の測定をB測線7→C測線7→D測線7についても行う。これにより、測定が終了する。
【0067】
このように4本の測線7について測定を行うことで、地盤2についての周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差の関係を三次元的に求めることができる。そのイメージを図14に示す。なお、図14には、測線7が1本しか記載されていないが、測線7を複数設けることで地盤2中の周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係の空間分布を求めることができ、地盤2を三次元的に探査することができる。測定部5はコンピュータ制御によって自動的に電極切替装置9のリレー23,27を切替えるので、迅速に測定を行うことができ、電極2,3の組み合わせが多数あっても測定に要する期間を短くできる。
【0068】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0069】
例えば、上述の説明では、四極法のDipole-Dipole法の電極配置を例に説明したが、Dipole-Dipole法に限るものでなく、Wenner法、Eltran法、シュランベルジャー法でも良い。また、四極法に限るものではなく、二極法、三極法の電極配置でも良い。
【0070】
なお、二極法の場合には、60個の電流電極3のうちいずれか1つを電流遠電極として固定的に使用すると共に、60個の電位電極4のうちいずれか1つを電位遠電極として固定的に使用することが考えられる。例えば、59番目の電流電極3(59番目の測点8の電流電極3をいう、以下同様)を電流遠電極として固定的に使用し、60番目の電位電極4(60番目の測点8の電位電極4をいう、以下同様)を電位遠電極として固定的に使用する。即ち、測線7が切り替わっても、例えば59番目の電流電極3と60番目の電位電極4は常に遠電極となる。この場合、電極切替装置9の電流電極3用の測点選択部20の2つのスイッチ回路24のうち、片方のスイッチ回路(例えばC2端子25側の回路)24の59番目のリレー27(59番目の本線21に接続された分岐線26に設けられているリレー27をいう、以下同様)をオン状態に維持すると共に、電位電極4用の測点選択部20の8つのスイッチ回路24のうち、1ch〜4chの片方のスイッチ回路(例えばP2a、P2b、P2c、P2d端子25側の回路)24の60番目のリレー27をオン状態に維持する。
【0071】
また、三極法の場合には、60個の電流電極3のうちいずれか1つを電流遠電極として固定的に使用することが考えられる。例えば、60番目の電流電極3を電流遠電極として固定的に使用する。即ち、測線7が切り替わっても、例えば60番目の電流電極4は常に遠電極となる。この場合、電極切替装置9の電流電極3用の測点選択部20の2つのスイッチ回路24のうち、片方のスイッチ回路(例えばC2端子25側の回路)24の60番目のリレー27をオン状態に維持する。
【0072】
また、上述の説明では、測点8には電流電極3と電位電極4が別々に設置されていたが、必ずしもこの構成に限るものではなく、測点8に電流電極3と電位電極4を兼用する兼用電極を設置しても良い。
【0073】
兼用電極を設置した場合の電極切替装置9を図11に示す。この電極切替装置9の測線選択部19と測点選択部20は、兼用電極を送信装置13又は前記受信装置14に接続する経路の途中に設けられている。即ち、上述の電極切替装置9では、図5及び図6に示すように測線選択部19と測点選択部20を電流電極3用のものと電位電極4用のものとに分けていたが、図11の電極切替装置9では、測線選択部19と測点選択部20とを共通にしている。測線選択部19は、図5又は図6の測線選択部19と同じ構成である。測点選択部20は、測定に同時使用する電流電極3と電位電極4の合計数に合わせて10個のスイッチ回路24を備えている。より具体的には、送信装置13に接続する2つのスイッチ回路24(C1端子25用とC2端子25用)と、受信装置14の1chに接続する2つのスイッチ回路24(P1a端子25用とP2a端子25用)、2chに接続する2つのスイッチ回路24(P1b端子25用とP2b端子25用)、3chに接続する2つのスイッチ回路24(P1c端子25用とP2c端子25用)、4chに接続する2つのスイッチ回路24(P1d端子25用とP2d端子25用)を備えている。各スイッチ回路24は図7のスイッチ回路24と同じである。また、兼用電極を使用することで電極3,4の数が全体として1/2になるので、接続端子10の数も1/2となる。
【0074】
例えば、A測線7の1,2番目の兼用電極を電流電極3として、3,4番目の兼用電極を電位電極4(1ch)として、5,6番目の兼用電極を電位電極4(2ch)として、7,8番目の兼用電極を電位電極4(3ch)として、9,10番目の兼用電極を電位電極4(4ch)としてそれぞれ使用する場合には、以下のリレー23,27をオン操作する。例えば、測点選択部20のC1用スイッチ回路24(C1端子25用のスイッチ回路24をいう、以下同様)の1番目のリレー27、C2用スイッチ回路24の2番目のリレー27、P1a用スイッチ回路24の3番目のリレー27、P2a用スイッチ回路24の4番目のリレー27、P1b用スイッチ回路24の5番目のリレー27、P2b用スイッチ回路24の6番目のリレー27、P1c用スイッチ回路24の7番目のリレー27、P2c用スイッチ回路24の8番目のリレー27、P1d用スイッチ回路24の9番目のリレー27、P2d用スイッチ回路24の10番目のリレー27をオン操作すると共に、測線選択部19のA組のリレー23を全てオン操作する。
【0075】
兼用電極を使用する場合には、必要な電極の数を半分にできると共に、電極切替装置9の構成が簡単なものになり、電極の設置等の準備作業が容易になると共に、電極切替装置9の製造コストを安くすることができる。
【0076】
また、上述の説明では、測線7として4本の測線7を設定していたが、設定する測線7の数は4本に限るものではない。例えば1本、2本、3本、5本以上でも良い。
【0077】
また、上述の説明では、1本の測線7に60箇所の測点8を設けたが、1本の測線7に設ける測点8の数は60箇所に限るものではない。なお、測点8の数の増減に応じて電極切替装置9の接続端子10や本線21、リレー23,27等の数を増減させても良いが、測点8の数が電極切替装置9の接続端子10や本線21、リレー23,27等の数よりも少ない場合には、測点8に対応する接続端子10や本線21、リレー23,27等を使用し、余った接続端子10、本線21、リレー23,27等は不使用にすれば良い。
【0078】
さらに、上述の説明では、地盤探査装置1が判別手段34を備えていたが、判別手段34を省略すると共に、関係算出手段33によって求められた周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係を出力装置35に出力するようにしても良い。
【0079】
また、上述の説明では、周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係の2つの関係に基づいて地盤2を判別していたが、必ずしもこれに限るものではなく、周波数と位相差の関係に基づいて地盤2を判別するようにしても良い。この場合には、判別の精度をある程度高く維持しつつ、計算量の減少により迅速に測定を行うことができる。
【0080】
また、上述の説明では、本発明の電極切替装置9を、周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係に基づいて地盤2を判別する地盤探査装置1及び地盤探査方法に適用する場合について説明していたが、適用可能な地盤探査装置及び地盤探査方法はこれらに限るものではない。例えば、比抵抗に基づいて地盤2を判定する地盤探査装置及び地盤探査方法でも良く、その他の地盤探査装置及び地盤探査方法でも良い。つまり、複数の測線上に設置されている多数の電極の中から測定に使用する電流電極と電位電極とを選択し、選択した電極の組み合わせを順次切替えて測定を繰り返し行う地盤探査装置及び地盤探査方法であれば適用可能である。
【0081】
さらに、電極3,4として、地下貯蔵空洞等のロックボルトを利用しても良い。
【実施例1】
【0082】
周波数と位相差との関係に基づいて地盤2を判別できることを確認するために、実験を行った。実験には、一定量の石炭灰に水量を調整し(含水率で2〜50%)混ぜて締め硬めた試料を使用した。当該試料には、粘土サイズの微少粒子が多く含まれていた。周波数毎の位相差に加え、抵抗も測定した。
【0083】
実験の結果を図15に示す。図15の(a)は含水率2%の試料、(b)は含水率6%の試料、(c)は含水率10%の試料、(d)は含水率15%の試料、(e)は含水率20%の試料、(f)は含水率30%の試料、(g)は含水率40%の試料、(h)は含水率50%の試料、をそれぞれ使用した結果である。また、各図において、下向きの矢印は位相差グラフのピーク周波数を示す。
【0084】
図15からも明らかなように、ピーク周波数(矢印)の値(臨界周波数fmax)は含水率が大きくなるにしたがって高周波数側にシフトする傾向にあることを確認できた。また、ピーク周波数の位相差の大きさθmaxは含水率が大きくなるにしたがって増加する傾向にあること、含水率が10%より小さくなるとθmaxが極端に減少することを確認できた。さらに、位相差グラフの形状は含水率によって異なることを確認できた。これらの結果、周波数と位相差の関係に基づいて、地盤2の含水率を判別できることを確認できた。即ち、fmax、θmax、fmaxとθmax(2つの組み合わせ)、グラフ形状、fmaxとグラフ形状(2つの組み合わせ)、θmaxとグラフ形状(2つの組み合わせ)、fmaxとθmaxとグラフ形状(3つの組み合わせ)、のいずれかによって地盤2の含水率を判別できることを確認できた。また、抵抗グラフの形状も図15(a)〜(h)で変化しているので、抵抗グラフの形状も併せて判断することで、より高精度の判別が可能であることを確認できた。
【実施例2】
【0085】
周波数と位相差との関係に基づいて地盤2を高精度に判別できることを確認するために、実験を行った。実験には、泥岩試料と砂岩試料を使用した。比較のため、比抵抗についても測定した。
【0086】
実験の結果を図16に示す。図16の(a)は泥岩試料、(b)は粗粒砂岩試料である。泥岩試料と砂岩試料とを比較すると、比抵抗グラフ同士のよりも、位相差グラフ同士の差の方が大きいことがわかった。この結果、比抵抗グラフに基づいて判別を行うよりも位相差グラフに基づいて判別を行った方が、泥岩試料と砂岩試料との区別が容易であり、より高精度に判別できることを確認できた。また、比抵抗グラフについても泥岩試料と砂岩試料とでは差があるので、位相差グラフと比抵抗グラフの両者に基づいて判別を行うことで、さらに高精度に判別できることを確認できた。
【0087】
図16(a)は、直流比抵抗R0=195.5、チャージアビリティm=0.5620、緩和の時定数τ=7.3430E−03、周波数依存係数c=0.6324、(b)は、直流比抵抗R0=374.9、チャージアビリティm=0.0984、緩和の時定数τ=0.5747、周波数依存係数c=0.1505である。
【0088】
なお、図16の理論値のグラフは以下のように求めた。即ち、上述のCole-Coleモデルを表す数式1にはIP現象の強度や性質を示す指標となる4つの未知数R0、m、τ、cがあったが、数学的には最小二乗法により、観測した位相差、比抵抗データに最もよく整合する“解”として求めることができる。数学的に具体的な解法は、以下の通りである。
【0089】
試料と等価な理論モデルのインピーダンスZは、周波数ωとモデルパラメータP1,P2,・・・Pnの関数であり、周波数ωiにおける実測インピーダンスをとすれば数式2で表すことが出来る。
【0090】
【数2】
【0091】
Zは非線形関数であるので、多変数関数のテーラー展開を利用して線形化近似すると数式3が得られる。
【0092】
【数3】
【0093】
ここで、P0jは真の等価モデルのパラメータ値、Pjは初期推測モデルとして与えたパラメータ値でありその差をΔPjとおけば数式4となる。
【0094】
【数4】
【0095】
いま、Z0i、Ziは複素数であり、その絶対値|Z|と位相角θとを用いて、数式5と表されることから、対数変換を行って絶対値と位相角とを分離して取扱う。すなわち、数式6であり、数式7,8となる。
【0096】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0097】
このとき,データ数がn個、パラメータPjがm個の場合(n≧m)、Aは2n行m列の行列を構成している。したがって、数式9,数式10,数式11とおけば、数式12と表される。
【0098】
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【0099】
最小二乗法を用いてbからyを安定に求めるために、正則化一般逆行列を作用させた数式13を用いる。
【0100】
【数13】
ここで、Iは恒等行列、λはダンピングファクタなどと呼ばれる正の定数である。
【0101】
P0jはyiとの数式14の関係から求められ、計算はRMS残差が小さくなるまで反復して行う。
【数14】
【0102】
なお、回帰分析の分散分析において、観測値(実験data)と理論値(数式による計算値)との残差の平方和(平方和sum of squares)を自由度で割ったものが平均平方 Mean Square、この√をとったものが、root mean square (RMS)となり、数式15で表します。
【数15】
ここで、ρaifは測定値、ρaicは計算値、Nは全測定データ数である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の電極切替装置を適用した地盤探査装置の実施形態の一例を示すブロック図である。
【図2】同地盤探査装置の測定部を示すブロック図である。
【図3】電流電極を設置した地盤の断面図である。
【図4】電位電極を設置した地盤の断面図である。
【図5】本発明の電極切替装置の実施形態の一例を示し、電流電極側の測線選択部と測点選択部のブロック図である。
【図6】本発明の電極切替装置の実施形態の一例を示し、電位電極側の測線選択部と測点選択部のブロック図である。
【図7】測点選択部のスイッチ回路を示す図である。
【図8】周波数と抵抗との関係及び周波数と位相差との関係を示す概念図である。
【図9】位相差グラフが地盤に含まれる粘土鉱物の量によって変化する様子を示す図である。
【図10】位相差グラフが地盤の含水率等によって変化する様子を示す図である。
【図11】電極切替装置の他の実施形態を示すブロック図である。
【図12】時間領域でみたIP現象の概念を示し、(a)は送信電流波形を示す図、(b)は受信電位波形を示す図である。
【図13】スペクトルIP法による測定の概念を示し、(a)は電流電極を固定して電位電極を順番に変化させながら測定を行う様子を示す概念図、(b)は電流電極を変化させて(a)の測定を繰り返し行う様子を示す概念図である。
【図14】地盤の周波数と位相差との関係を三次元的に求める概念を示す図である。
【図15】周波数と位相差との関係に基づいて地盤を判別できること確認する実験の結果を示し、(a)は含水率2%の試料を使用した結果を示すグラフ、(b)は含水率6%の試料を使用した結果を示すグラフ、(c)は含水率10%の試料を使用した結果を示すグラフ、(d)は含水率15%の試料を使用した結果を示すグラフ、(e)は含水率20%の試料を使用した結果を示すグラフ、(f)は含水率30%の試料を使用した結果を示すグラフ、(g)は含水率40%の試料を使用した結果を示すグラフ、(h)は含水率50%の試料を使用した結果を示すグラフである。
【図16】周波数と位相差との関係に基づいて地盤を高精度に判別できることを確認する実験の結果を示し、(a)は泥岩試料を使用した結果を示すグラフ、(b)は粗粒砂岩試料を使用した結果を示すグラフである。
【図17】従来の電極切替装置の原理を示す図である。
【図18】従来の電極切替装置の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0104】
7 測線
8 測点
3 電流電極
4 電位電極
13 送信装置
14 受信装置
9 電極切替装置
10 接続端子
19 測線選択部
20 測点選択部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測線上の複数の測点にそれぞれ設置された電極の中から測定に使用する電流電極と電位電極を選択し、選択した電流電極に通じる導線を送信装置に接続すると共に、選択した電位電極に通じる導線を受信装置に接続する電極切替装置において、前記導線を接続する接続端子を複数の測線に対応する数だけ設けて複数の測線の電極を接続可能とし、複数の測線の中から測定に使用する1本の測線を選択して接続を切替える測線選択部と、測定に使用する測点を選択して接続を切替える測点選択部を備えることを特徴とする電極切替装置。
【請求項2】
前記測点には電流電極と電位電極を兼用する兼用電極が設置されており、前記測線選択部と前記測点選択部は、前記兼用電極を前記送信装置又は前記受信装置に接続する経路の途中に設けられていることを特徴とする請求項1記載の電極切替装置。
【請求項3】
前記測点には電流電極と電位電極が別々に設置されており、前記測線選択部と前記測点選択部は、前記電流電極を前記送信装置に接続する経路の途中と前記電位電極を前記受信装置に接続する経路の途中のそれぞれに設けられていることを特徴とする請求項1記載の電極切替装置。
【請求項4】
前記測点選択部は前記測点の中から遠電極とする測点を選択し、選択した遠電極測点の接続状態を維持することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の電極切替装置。
【請求項5】
前記測点選択部は、全ての測点を順番に選択して接続を切替えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の電極切替装置。
【請求項1】
測線上の複数の測点にそれぞれ設置された電極の中から測定に使用する電流電極と電位電極を選択し、選択した電流電極に通じる導線を送信装置に接続すると共に、選択した電位電極に通じる導線を受信装置に接続する電極切替装置において、前記導線を接続する接続端子を複数の測線に対応する数だけ設けて複数の測線の電極を接続可能とし、複数の測線の中から測定に使用する1本の測線を選択して接続を切替える測線選択部と、測定に使用する測点を選択して接続を切替える測点選択部を備えることを特徴とする電極切替装置。
【請求項2】
前記測点には電流電極と電位電極を兼用する兼用電極が設置されており、前記測線選択部と前記測点選択部は、前記兼用電極を前記送信装置又は前記受信装置に接続する経路の途中に設けられていることを特徴とする請求項1記載の電極切替装置。
【請求項3】
前記測点には電流電極と電位電極が別々に設置されており、前記測線選択部と前記測点選択部は、前記電流電極を前記送信装置に接続する経路の途中と前記電位電極を前記受信装置に接続する経路の途中のそれぞれに設けられていることを特徴とする請求項1記載の電極切替装置。
【請求項4】
前記測点選択部は前記測点の中から遠電極とする測点を選択し、選択した遠電極測点の接続状態を維持することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の電極切替装置。
【請求項5】
前記測点選択部は、全ての測点を順番に選択して接続を切替えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の電極切替装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図14】
【公開番号】特開2006−177807(P2006−177807A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372116(P2004−372116)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
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