説明

電極層および誘電体層を含む積層体ユニット

本発明にかかる積層体ユニットは、溶融石英によって形成された支持基板と、支持基板上に、異方性および導電性を有し、かつ、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させることができるBiSrCaCuで表わされる化学量論組成を有するBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)によって形成され、c軸方向に配向された電極層と、電極層上で、SrBiTi15で表わされる組成を有するビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させて形成され、c軸方向に配向された誘電体層を備えている。このように構成された積層体ユニットは、c軸方向に配向されたビスマス層状化合物を含む誘電体層を有しているから、たとえば、誘電体層上に、上部電極を設けて、薄膜コンデンサを作製し、電極層と上部電極との間に電圧を印加したときに、電界の方向が誘電体層に含まれているビスマス層状化合物のc軸とほぼ一致し、したがって、誘電体層に含まれているビスマス層状化合物の強誘電体としての性質を抑制して、常誘電体としての性質を十分に発揮させることが可能になるから、小型で、かつ、大容量の誘電特性に優れた薄膜コンデンサを作製することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電極層および誘電体層を含む積層体ユニットに関するものであり、とくに、小型で、かつ、大容量の誘電特性に優れた薄膜コンデンサを作製するのに好適であるとともに、高輝度の無機EL(inorganic electro−luminescence)デバイスを作製するのに適した積層体ユニットに関するものである。
【背景技術】
近年、CPU(Central Processing Unit)に代表されるLSI(Large Scale Integrated circuit)の動作周波数はますます向上している。動作周波数の高いLSIは、非常に電源ノイズが発生しやすく、電源ノイズが発生すると、電源配線の寄生抵抗および寄生インダクタンスの影響によって、電圧降下が生じるため、LSIを誤動作させる原因となる。
電源ノイズに起因するこのような電圧降下を防止するため、一般に、LSIの電源端子間には、デカップリングコンデンサが接続される。LSIの電源端子間に、デカップリングコンデンサを接続すれば、電源配線のインピーダンスが低下するため、電源ノイズに起因する電圧降下を効果的に抑制することができる。
電源配線に要求されるインピーダンスは、LSIの動作電圧に比例するとともに、LSIの集積度、スイッチング電流および動作周波数に反比例する。したがって、集積度が高く、動作電圧が低く、動作周波数が高い近年のLSIにおいては、電源配線に要求されるインピーダンスは非常に小さい。
このようなインピーダンスを達成するためには、デカップリングコンデンサを大容量化するとともに、LSIの電源端子とデカップリングコンデンサとを接続する配線のインダクタンスを十分に小さくする必要がある。
大容量のデカップリングコンデンサとしては、電解コンデンサや積層セラミックコンデンサが一般に用いられる。しかしながら、電解コンデンサや積層セラミックコンデンサは比較的サイズが大きいため、LSIとの一体化が困難である。したがって、LSIとは別個に、回路基板に実装する必要が生じ、LSIの電源端子とデカップリングコンデンサとを接続する配線が必然的に長くなってしまう。その結果、デカップリングコンデンサとして、電解コンデンサや積層セラミックコンデンサを用いた場合には、LSIの電源端子とデカップリングコンデンサとを接続する配線のインダクタンスを小さくすることが困難であるという問題があった。
LSIの電源端子とデカップリングコンデンサとを接続する配線をより短くするためには、電解コンデンサや積層セラミックコンデンサよりも小型な薄膜コンデンサを用いることが好適である。
日本国公開特許公報第2001−15382号は、誘電体の材料として、PZT、PLZT、(Ba,Sr)TiO(BST)、Taなどを用いた小型で、容量の大きい薄膜コンデンサを開示している。
しかしながら、これらの材料によって、形成された薄膜コンデンサは、温度特性が劣るという欠点を有している。たとえば、BSTの誘電率は、−1000〜−4000ppm/℃の温度依存性を有しているため、誘電体の材料として、BSTを用いた場合には、80℃での静電容量が、20℃での静電容量と比べて、−6〜−24%も変化する。したがって、BSTを用いて、形成された薄膜コンデンサは、電力消費に伴う発熱によって、周囲の温度がしばしば80℃以上に達することがある動作周波数の高いLSI用のデカップリングコンデンサとしては、適当ではない。
さらに、これらの材料によって、形成された誘電体薄膜は、その厚みが薄くなると、誘電率が低下するだけでなく、たとえば、100kV/cmの電界を加えた場合に、静電容量が大きく低下するという問題があり、これらの材料を、薄膜コンデンサの誘電体材料として、用いた場合には、小型で、かつ、大容量の薄膜コンデンサを得ることは困難である。
加えて、これらの材料によって、形成された誘電体薄膜は、表面平滑性が低いため、その厚みを薄くすると、絶縁不良などが生じやすくなるという問題もある。
このような問題を解決するためには、薄膜コンデンサの誘電体として、ビスマス層状化合物を用いることが考えられる。ビスマス層状化合物については、竹中正著「ビスマス層状構造強誘電体セラミックスの粒子配向とその圧電・焦電材料への応用」、京都大学工学博士論文(1984)の第3章の第23〜36頁に記載されている。
ビスマス層状化合物は結晶構造に異方性を有しており、基本的に、強誘電体としての性質を示すが、ある配向軸方向については、強誘電体としての性質が小さく、常誘電体としての性質を示すことが知られている。
ビスマス層状化合物が持つ強誘電体としての性質は、ビスマス層状化合物を、薄膜コンデンサの誘電体として利用する場合には、誘電率の変動をもたらすため、好ましくなく、ビスマス層状化合物の常誘電体としての性質が十分に発揮されることが好ましい。
よって、ビスマス層状化合物の強誘電体としての性質が小さく、常誘電体としての性質を示す配向軸方向に、ビスマス層状化合物が配向された誘電体層を備え、小型で、かつ、大容量の誘電特性に優れた薄膜コンデンサの開発が望まれている。
他方、高輝度の無機EL(inorganic electro−luminescence)デバイスを作製するには、電極と、無機EL素子との間に、絶縁性の高い絶縁層を設けることが要求されており、ビスマス層状化合物の強誘電体としての性質が小さく、常誘電体としての性質を示す配向軸方向に、ビスマス層状化合物が配向された誘電体層を備えた高輝度の無機ELデバイスの開発が望まれている。
【発明の開示】
したがって、本発明は、小型で、かつ、大容量の誘電特性に優れた薄膜コンデンサを作製するのに好適であるとともに、高輝度の無機EL(inorganic electro−luminescence)デバイスを作製するのに適した積層体ユニットを提供することを目的とするものである。
本発明のかかる目的およびその他の目的は、その上で、結晶がエピタキシャル成長しない材料によって、形成された支持基板上に、異方性および導電性を有し、かつ、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させることができる材料により、形成され、[001]方位に配向された電極層と、前記電極層上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させて、形成され、[001]方位に配向されたビスマス層状化合物を含む誘電体材料よりなる誘電体層とが、この順に、積層された積層体ユニットによって達成される。
ここに、[001]方位とは、立方晶、正方晶、単斜晶および斜方晶における[001]方位のことをいう。
本発明によれば、電極層は、異方性および導電性を有し、かつ、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させることができる材料により、形成され、[001]方位に配向されているから、バッファ層としても機能し、したがって、電極層上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させて、確実に、[001]方位に配向したビスマス層状化合物を含む誘電体層を形成することが可能になる。
したがって、本発明によれば、誘電体層に含まれるビスマス層状化合物のc軸を、電極層に対して、垂直に配向させることが可能になるから、たとえば、誘電体層上に、上部電極を設け、電極層と上部電極との間に電圧を印加した場合に、電界の方向が、誘電体層に含まれるビスマス層状化合物のc軸とほぼ一致し、したがって、誘電体層に含まれるビスマス層状化合物の強誘電体としての性質を抑制して、常誘電体としての性質を十分に発揮させることが可能になるから、小型で、かつ、大容量の薄膜コンデンサを作製することが可能になる。
さらに、c軸配向性が向上されたビスマス層状化合物を含む誘電体材料よりなる誘電体層は高い絶縁性を有しているから、誘電体層を薄膜化することができ、したがって、本発明によれば、薄膜コンデンサを、より一層小型化することが可能になる。
また、本発明によれば、c軸配向性が向上されたビスマス層状化合物を含む誘電体材料よりなる誘電体層は高い絶縁性を有しているから、本発明にかかる積層体ユニットの誘電体層上に、無機EL素子を配置するとともに、無機EL素子上に、別の電極を配置し、電極層と別の電極との間に電圧を加えることによって、無機EL素子を、所望のように、発光させることが可能になり、高輝度の無機ELデバイスを作製することができる。
本発明において、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料は、不可避的な不純物を含んでいてもよい。
本発明において、支持基板は、その上で、結晶がエピタキシャル成長しない材料によって、形成されていれば足り、その材料はとくに限定されるものではなく、支持基板として、溶融石英などのアモルファス性基板、セラミックスなどの多結晶基板、耐熱ガラス基板、樹脂基板などを用いることができる。
本発明において、積層体ユニットは、支持基板上に、[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向された電極層を備えている。
本発明において、電極層は、異方性および導電性を有し、かつ、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させることができる材料によって形成され、[001]方位に配向されている。したがって、電極層は、電極としての機能と、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させて、[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向されたビスマス層状化合物を含む誘電体層を確実に形成できるように保証するバッファ層としての機能を有している。
溶融石英などによって形成された支持基板上に、白金などからなる電極層を直接形成する場合には、電極層が、[111]方位に配向しやすいため、電極層上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料よりなる誘電体層をエピタキシャル成長させて、ビスマス層状化合物を[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向させることが困難になる。しかしながら、本発明においては、電極層は、異方性および導電性を有し、かつ、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させることができる材料によって形成されているから、電極層を[001]方位に配向することができ、したがって、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させて、誘電体層を形成し、誘電体層に含まれたビスマス層状化合物を、確実に、[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向させることが可能になる。
本発明において、電極層を形成するための材料は、異方性および導電性を有し、かつ、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させることができる材料であれば、とくに限定されるものではないが、酸化物超伝導体が、電極層を形成するために、好ましく使用される。
酸化物超伝導体の中でも、CuO面を有する銅酸化物超伝導体が、電極層を形成するために、とくに好ましく使用される。
本発明において、電極層を形成するために、とくに好ましく使用されるCuO面を有する銅酸化物超伝導体の例としては、化学量論的組成式:BiSrCan−1Cu2n+4で示されるBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)、化学量論的組成式:YBaCu−δで示されるYBCO(イットリウム・ビスマス・カッパー・オキサイド)が挙げられる。
本発明において、電極層に含まれている異方性および導電性を有する材料の[001]方位の配向度、すなわち、c軸配向度Fが100%であることは必ずしも必要でなく、c軸配向度Fが80%以上であればよい。c軸配向度Fが90%であることが好ましく、c軸配向度Fが95%以上であると、より好ましい。
異方性および導電性を有する材料のc軸配向度Fは、次式(1)によって定義される。
F(%)=(P−P)/(1−P)×100 …(1)
式(1)において、Pは、完全にランダムな配向をしている異方性および導電性を有する材料のc軸配向比、すなわち、完全にランダムな配向をしている異方性および導電性を有する材料の(001)面からの反射強度I(001)の合計ΣI(001)と、その異方性および導電性を有する材料の各結晶面(hkl)からの反射強度I(hkl)の合計ΣI(hkl)との比({ΣI(001)/ΣI(hkl)})であり、Pは、X線回折強度を用いて算出された異方性および導電性を有する材料のc軸配向比、すなわち、異方性および導電性を有する材料の(001)面からの反射強度I(001)の合計ΣI(001)と、異方性および導電性を有する材料の各結晶面(hkl)からの反射強度I(hkl)の合計ΣI(hkl)との比({ΣI(001)/ΣI(hkl)})である。ここに、h、k、lは、それぞれ、0以上の任意の整数値を取ることができる。
ここに、Pは既知の定数であるから、(001)面からの反射強度I(001)の合計ΣI(001)と、各結晶面(hkl)からの反射強度I(hkl)の合計ΣI(hkl)が等しいとき、すなわち、P=1のときに、異方性および導電性を有する材料のc軸配向度Fは100%となる。
本発明において、電極層は、真空蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法(PLD)、有機金属化学気相成長法(metal−organic chemical vapor deposition:MOCVD)、有機金属分解法(metal−organic decomposition:MOD)やゾル・ゲル法などの液相法(CSD法)などの各種薄膜形成法を用いて、形成することができる。
本発明において、積層体ユニットは、電極層上に、[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向されたビスマス層状化合物を含む誘電体材料よりなる誘電体層を備えている。
本発明において、誘電体層は、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料を、電極層上で、エピタキシャル成長させることによって形成される。
誘電体層は、[001]方位に配向されている電極層上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させて、形成されるから、誘電体層に含まれているビスマス層状化合物を、確実に、[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向させることができ、したがって、本発明にかかる積層体ユニットを用いて、薄膜コンデンサを構成したときに、誘電体層に含まれるビスマス層状化合物は、強誘電体としてではなく、常誘電体として機能するから、小型で、かつ、大容量の誘電特性に優れた薄膜コンデンサを、他のデバイスとともに、半導体ウェハに組み込むことが可能になる。
誘電体層を形成するビスマス層状化合物としては、コンデンサ材料としての特性に優れたビスマス層状化合物が選ばれる。
ビスマス層状化合物は、化学量論的組成式:(Bi2+(Am−3m+12−、あるいは、Bim−13m+3で表わされる組成を有している。ここに、化学量論的組成式中の記号mは正の整数であり、記号Aは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、鉛(Pb)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)およびビスマス(Bi)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、記号Bは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である。記号Aおよび/またはBを2つ以上の元素で構成する場合、それらの比率は任意である。
第1図に示されるように、ビスマス層状化合物は、それぞれがABO1aで構成される(m−1)個のペロブスカイト格子が連なった層状ペロブスカイト層1と、(Bi2+層2とが、交互に積層された層状構造を有している。
層状ペロブスカイト層1と(Bi2+層2の積層数は、とくに限定されるものではなく、少なくとも一対の(Bi2+層2と、これらに挟まれた一つの層状ペロブスカイト層1を備えていれば十分である。
ビスマス層状化合物のc軸とは、一対の(Bi2+層2同士を結ぶ方向、すなわち、[001]方位を意味する。
これらのビスマス層状化合物のうち、コンデンサ材料としての特性に優れたビスマス層状化合物が、誘電体層を形成するために用いられる。
本発明において、誘電体層を形成するために用いられるビスマス層状化合物は、コンデンサ材料としての特性に優れたビスマス層状化合物であれば、とくに限定されるものではないが、化学量論組成式において、m=4の化学量論的組成式:(Bi2+(A13、あるいは、Bi15で表わされるビスマス層状化合物がコンデンサ材料としての特性に優れ、好ましく使用される。
本発明において、誘電体層に含まれているビスマス層状化合物の[001]方位の配向度、すなわち、c軸配向度Fが100%であることは必ずしも必要でなく、c軸配向度Fが80%以上であればよい。c軸配向度Fが90%であることが好ましく、c軸配向度Fが95%以上であると、より好ましい。
ビスマス層状化合物のc軸配向度Fは、式(1)によって定義される。
このように、ビスマス層状化合物を、[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向させることによって、誘電体層の誘電特性を大幅に向上させることが可能になる。
すなわち、本発明にかかる積層体ユニットの誘電体層上に、たとえば、上部電極を形成して、薄膜コンデンサを作製した場合、誘電体層の膜厚をたとえば100nm以下にしても、比較的高い誘電率と低い損失(tanδ)を有する薄膜コンデンサを得ることができ、リーク特性に優れ、耐圧が向上し、誘電率の温度特性に優れ、表面平滑性にも優れた薄膜コンデンサを得ることが可能になる。
本発明において、とくに好ましくは、誘電体層に含まれるビスマス層状化合物が、化学量論的組成式:CaSr(1−x)BiTi15で表わされる組成を有している。ここに、0≦x≦1である。このような組成を有するビスマス層状化合物を用いると、比較的大きな誘電率を有する誘電体層が得られるとともに、その温度特性がさらに向上する。
本発明において、誘電体層に含まれるビスマス層状化合物の化学量論的組成式中の記号AまたはBで表わされる元素の一部が、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素Re(イットリウム(Y)または希土類元素)によって置換されていることが好ましい。
元素Reによって、置換する場合には、好ましい置換量は、mの値により異なるが、たとえば、m=3のときは、化学量論的組成式:Bi2−xRe12において、好ましくは、0.4≦x≦1.8であり、より好ましくは、1.0≦x≦1.4である。元素Reによる置換量をこの範囲に設定すれば、誘電体層のキュリー温度(強誘電体から常誘電体への相転移温度)を、好ましくは、−100℃以上、100℃以下、より好ましくは、−50℃以上、50℃以下に収めることが可能となる。キュリー点が−100℃ないし+100℃であると、誘電体層の誘電率が向上する。キュリー温度は、DSC(示差走査熱量測定)などによって測定することができる。なお、キュリー点が室温(25℃)未満になると、tanδがさらに減少し、その結果、損失Q値がさらに上昇する。
また、m=4の場合には、化学量論的組成式:Bi3−xRe15において、好ましくは、0.01≦x≦2.0であり、より好ましくは、0.1≦x≦1.0である。
本発明にかかる積層体ユニットの誘電体層は、優れたリーク特性を有しているが、ビスマス層状化合物の化学量論的組成式中の記号AまたはBで表わされる元素の一部が、元素Reによって、置換されている場合には、誘電体層のリーク特性を一層向上させることができ、好ましい。
たとえば、ビスマス層状化合物の化学量論的組成式中の記号AまたはBで表わされる元素の一部が、元素Reによって、置換されていない場合においても、本発明にかかる積層体ユニットの誘電体層は、電界強度50kV/cmで測定したときのリーク電流を、好ましくは、1×10−7A/cm以下、より好ましくは、5×10−8A/cm以下に抑制することができ、しかも、ショート率を、好ましくは、10%以下、より好ましくは、5%以下にすることができるが、ビスマス層状化合物の化学量論的組成式中の記号AまたはBで表わされる元素の一部が、元素Reによって、置換されている場合には、同条件で測定したときのリーク電流を、好ましくは、5×10−8A/cm以下、より好ましくは、1×10−8A/cm以下にすることができ、ショート率を、好ましくは、5%以下、より好ましくは、3%以下にすることができる。
本発明において、誘電体層は、真空蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法(PLD)、有機金属化学気相成長法(metal−organic chemical vapor deposition:MOCVD)、有機金属分解法(metal−organic decomposition:MOD)やゾル・ゲル法などの液相法(CSD法)などの各種薄膜形成法を用いて、形成することができる。とくに低温で、誘電体層を形成する必要がある場合には、プラズマCVD、光CVD、レーザーCVD、光CSD、レーザーCSD法を用いることが好ましい。
本発明にかかる電極層および誘電体層を含む積層体ユニットは、薄膜コンデンサの構成部品としてだけでなく、無機EL素子を発光させるための積層体ユニットとして用いることもできる。すなわち、無機EL素子を発光させるためには、電極層と、無機EL素子との間に、絶縁層が必要であるが、c軸配向性が向上されたビスマス層状化合物を含む誘電体材料よりなる誘電体層は高い絶縁性を有しており、したがって、誘電体層上に、無機EL素子を配置するとともに、無機EL素子上に、別の電極を配置し、電極層と別の電極との間に電圧を加えることによって、無機EL素子を、所望のように、発光させることが可能になる。
本発明の前記およびその他の目的や特徴は、添付図面に基づいた以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
第1図は、ビスマス層状化合物の構造を模式的に示す図である。
第2図は、本発明の好ましい実施態様にかかる積層体ユニットの略一部断面図である。
第3図は、本発明の好ましい実施態様にかかる積層体ユニットを用いて、作製された薄膜コンデンサの略一部断面図である。
発明の好ましい実施態様の説明
以下、添付図面に基づき、本発明の好ましい実施態様につき、詳細に説明を加える。
第2図は、本発明の好ましい実施態様にかかる積層体ユニットの略一部断面図である。
第2図に示されるように、本実施態様にかかる積層体ユニット1は、支持基板2上に、電極層3および誘電体層4が、この順に、積層されて、形成されている。
本実施態様において、積層体ユニット1の支持基板2は、溶融石英によって形成されている。
第2図に示されるように、本実施態様にかかる積層体ユニット1は、支持基板2上に、電極層3を備えている。
本実施態様においては、電極層3は、化学量論的組成式:BiSrCaCuによって表わされる組成を有するBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)によって、形成され、[001]方位に配向されている。
化学量論的組成式:BiSrCaCuによって表わされる組成を有するBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)は、異方性および導電性を有し、かつ、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させることができる性質を有している。
したがって、電極層3は、電極としての機能と、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させて、[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向されたビスマス層状化合物を含む誘電体層4を確実に形成できるように保証するバッファ層としての機能を有している。
溶融石英などによって形成された支持基板2上に、白金などからなる電極層を直接形成する場合には、電極層が、[111]方位に配向しやすいため、電極層上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料よりなる誘電体層をエピタキシャル成長させて、ビスマス層状化合物を[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向させることは困難になる。しかしながら、本実施態様においては、電極層3は、化学量論的組成式:BiSrCaCuによって表わされる組成を有するBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)によって形成され、異方性および導電性を有し、かつ、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させることができる材料によって形成されているから、電極層3を[001]方位に配向することができ、したがって、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させて、誘電体層4を形成し、誘電体層4に含まれたビスマス層状化合物を、確実に、[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向させることが可能になる。
本実施態様において、化学量論的組成式:BiSrCaCuによって表わされる組成を有するBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)よりなる電極層3は、たとえば、パルスレーザー蒸着法(PLD)によって形成される。
パルスレーザー蒸着法(PLD)を用いて、化学量論的組成式:BiSrCaCuによって表わされる組成を有するBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)よりなる電極層3を形成する場合には、たとえば、原料として、BiSrCaCuによって表わされる組成を有するBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)をターゲットとして用い、支持基板2の温度を650℃に保持して、100nmの厚さを有し、[001]方位に配向された電極層3が形成される。
第2図に示されるように、本実施態様にかかる積層体ユニット1は、電極層3上に形成された誘電体層4を備えている。
本実施態様において、誘電体層4は、ビスマス層状化合物の化学量論的組成式において、m=4、A=Bi+Srとした化学量論的組成式:SrBiTi15で表わされ、コンデンサ材料としての特性に優れたビスマス層状化合物を含む誘電体材料によって形成されている。
本実施態様においては、誘電体層4は、有機金属分解法(metal−organic decomposition:MOD)によって、電極層3上に形成される。
具体的には、2−エチルヘキサン酸Srのトルエン溶液と、2−エチルヘキサン酸Biの2−エチルヘキサン酸溶液と、2−エチルヘキサン酸Tiのトルエン溶液を、2−エチルヘキサン酸Srが1モル、2−エチルヘキサン酸Biが4モル、2−エチルヘキサン酸Tiが4モルとなるように、化学量論比で混合し、トルエンで希釈して、得た原料溶液を、スピンコーティング法によって、電極層3上に塗布し、乾燥後、得られた誘電体層4を結晶化させない温度条件で、仮焼成する。
次いで、仮焼成した誘電体層4上に、スピンコーティング法によって、同じ原料溶液を塗布して、乾燥し、仮焼成し、この操作を繰り返す。
仮焼成が完了すると、誘電体層4が本焼成され、必要な厚さの誘電体層4、たとえば、100nmの厚さの誘電体層4が得られるまで、塗布、乾燥、仮焼成、塗布、乾燥、仮焼成および本焼成よりなる一連の操作が繰り返される。
この過程で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料はエピタキシャル成長し、[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向された誘電体層4が形成される。
本実施態様によれば、積層体ユニット1は、溶融石英よりなる支持基板2上に、電極層3および誘電体層4が積層された構造を有しており、電極層3は、異方性および導電性を有し、かつ、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させることができる性質を有し、化学量論的組成式:BiSrCaCuによって表わされる組成を有するBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)によって形成されているから、電極層3はバッファ層としても機能し、したがって、電極層3上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させて、[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向されたビスマス層状化合物を含む誘電体材料よりなる誘電体層4を、確実に形成することが可能になる。
したがって、本実施態様によれば、積層体ユニット1は、[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向されたビスマス層状化合物を含む誘電体材料によって形成された誘電体層4を有しているから、たとえば、本実施態様にかかる積層体ユニット1の誘電体層4上に、上部電極を設けて、薄膜コンデンサを作製し、電極層3と上部電極との間に電圧を印加したときに、電界の方向が誘電体層4に含まれているビスマス層状化合物のc軸とほぼ一致し、したがって、誘電体層4に含まれているビスマス層状化合物の強誘電体としての性質を抑制して、常誘電体としての性質を十分に発揮させることが可能になるから、小型で、かつ、大容量の薄膜コンデンサを作製することが可能になる。
さらに、本実施態様によれば、積層体ユニット1は、[001]方位に、すなわち、c軸方向に配向されたビスマス層状化合物を含む誘電体材料によって形成された誘電体層4を有し、c軸配向性が向上されたビスマス層状化合物を含む誘電体層4は高い絶縁性を有しているから、誘電体層4を薄膜化することができ、したがって、薄膜コンデンサを、より一層小型化することが可能になる。
第3図は、本発明の好ましい実施態様にかかる積層体ユニット1を用いて、作製された薄膜コンデンサの略一部断面図である。
第3図に示されるように、薄膜コンデンサ10は、第2図に示された積層体ユニット1と、積層体ユニット1の誘電体層4上に形成された上部電極層11を備えている。
本実施態様において、積層体ユニット1の支持基板2は、薄膜コンデンサ10全体の機械的強度を確保する機能を有している。
また、積層体ユニット1の電極層3は、薄膜コンデンサ10の一方の電極としての機能を有するとともに、誘電体層4に含まれたビスマス層状化合物のc軸を、電界に対して、実質的に平行に配向させるためのバッファ層としての機能を有している。
本実施態様において、積層体ユニット1の誘電体層4は、薄膜コンデンサ10の誘電体層としての機能を有している。
本実施態様においては、積層体ユニット1の誘電体層4上に、薄膜コンデンサ10の他方の電極として、機能する上部電極層11が形成されている。
上部電極層11を形成するための材料は、導電性を有していれば、とくに限定されるものではなく、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)などの金属およびこれらを主成分とする合金や、NdO、NbO、RhO、OsO、IrO、RuO、SrMoO、SrRuO、CaRuO、SrVO、SrCrO、SrCoO、LaNiO、NbドープSrTiOなどの導電性酸化物およびこれらの混合物、ITOなどの導電性ガラスなどを用いて、上部電極層11を形成することができる。さらに、積層体ユニット1の電極層3とは異なり、上部電極層11を形成するための材料としては、誘電体層4を形成する材料との格子整合性を考慮する必要がなく、室温における成膜も可能であるから、鉄(Fe)、コバルト(Co)などの卑金属や、WSi、MoSiなどの合金を用いて、上部電極層11を形成することもできる。上部電極層11の厚さとしては、薄膜コンデンサ10の他方の電極としての機能を確保可能であれば、とくに限定されるものではなく、たとえば、10ないし10000nm程度に設定することができる。
上部電極層11の形成方法は、とくに限定されるものではなく、真空蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法(PLD)、有機金属化学気相成長法(metal−organic chemical vapor deposition:MOCVD)、有機金属分解法(metal−organic decomposition:MOD)やゾル・ゲル法などの液相法(CSD法)などの各種薄膜形成法を用いて、形成することができる。これらのうちでは、成膜速度の面から、スパッタリング法が好ましい。
以上のように構成された薄膜コンデンサ10においては、誘電体層4に含まれたビスマス層状化合物は、そのc軸が、電極層3および上部電極層11に対して、実質的に垂直方向に配向されている。したがって、電極層3と上部電極層11との間に電界が印加されたとき、電界の方向が、誘電体層4に含まれたビスマス層状化合物のc軸とほぼ一致するから、誘電体層4に含まれたビスマス層状化合物の強誘電体としての性質を抑制して、常誘電体としての性質を十分に発揮させることが可能になり、小型で、かつ、大容量の薄膜コンデンサ10を得ることが可能になる。
このような特性を有する薄膜コンデンサ10は、デカップリングコンデンサ、とくに、動作周波数の高いLSI用のデカップリングコンデンサとして、好ましく利用することができる。
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
たとえば、前記実施態様においては、積層体ユニット1は、支持基板2上に、化学量論的組成式:BiSrCaCuによって表わされる組成を有するBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)によって形成された電極層3および化学量論的組成式:SrBiTi15で表わされ、コンデンサ材料としての特性に優れたビスマス層状化合物を含む誘電体材料によって形成された誘電体層4が、この順に、積層されて、形成されているが、積層体ユニット1は、誘電体層4上に、さらに、それぞれが、少なくとも、電極層3および誘電体層4を含む複数の単位積層体が、積層されて形成されていてもよく、最上の単位積層体の誘電体層4上に、上部電極を形成することによって、薄膜コンデンサを形成するようにしてもよい。ただし、積層体ユニット1が、誘電体層4上に、さらに、複数の単位積層体が積層されて形成されている場合に、単位積層体に含まれる電極層が、誘電体層4上で、導電性材料の結晶をエピタキシャル成長させて、形成されていないときは、電極層上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させても、ビスマス層状化合物を[001]方位に配向させることが困難で、[001]方位に配向されたビスマス層状化合物を含む誘電体材料よりなる誘電体層4を形成することが困難であるから、単位積層体を、電極層、電極層上に形成され、[001]方位に配向されたバッファ層およびビスマス層状化合物を含む誘電体材料によって形成され、バッファ層上に形成された誘電体層4によって構成することが要求される。さらに、電極層3および誘電体層4によって構成された1または2以上の単位積層体と、電極層、電極層上に形成され、[001]方位に配向されたバッファ層およびビスマス層状化合物を含む誘電体材料によって形成され、バッファ層上に形成された誘電体層4によって構成された1または2以上の単位積層体を、誘電体層4上に、任意の順序で、積層し、最上の単位積層体の誘電体層4上に、上部電極を形成することによって、薄膜コンデンサを形成するようにしてもよい。
さらに、前記実施態様においては、積層体ユニット1の支持基板2は、溶融石英によって形成されているが、溶融石英によって形成された支持基板2を用いることは必ずしも必要でなく、その上で、結晶がエピタキシャル成長しない材料であれば、支持基板2を形成するための材料はとくに限定されるものではなく、たとえば、溶融石英によって形成された支持基板2に代えて、他のアモルファス性基板を用いることもできるし、さらには、セラミックスなどの多結晶基板や耐熱ガラス基板、樹脂基板など用いることもできる。
また、前記実施態様においては、積層体ユニット1は、支持基板2上に、化学量論的組成式:BiSrCaCuで表わされるBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)によって形成され、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させるためのバッファ層としても機能する電極層3を備えているが、電極層3を、化学量論的組成式:BiSrCaCuで表わされるBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)によって形成することは必ずしも必要でなく、電極層3を形成する材料は、異方性および導電性を有し、かつ、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させることができる材料であれば、とくに限定されるものではない。異方性および導電性を有し、かつ、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させることができる材料としては、酸化物超伝導体が好ましく用いられ、CuO面を有する銅酸化物超伝導体がとくに好ましく用いられる。CuO面を有する銅酸化物超伝導体の例としては、化学量論的組成式:BiSrCan−1Cu2n+4で示されるBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)の他に、化学量論的組成式:YBaCu−δで表わされるYBCO(イットリウム・ビスマス・カッパー・オキサイド)が挙げられる。
さらに、前記実施態様においては、積層体ユニット1の電極層3は、パルスレーザー蒸着法(PLD)によって形成されているが、電極層3を、パルスレーザー蒸着法(PLD)によって形成することは必ずしも必要でなく、電極層3を、真空蒸着法、スパッタリング法、有機金属化学気相成長法(metal−organic chemical vapor deposition:MOCVD)、有機金属分解法(metal−organic decomposition:MOD)やゾル・ゲル法などの液相法(CSD法)などの他の薄膜形成法を用いて、形成することもできる。
また、前記実施態様においては、積層体ユニット1は、電極層3上に、ビスマス層状化合物の化学量論的組成式において、m=4、A=Bi+Srとした化学量論的組成式:SrBiTi15で表わされる組成を有するビスマス層状化合物を含む誘電体材料によって形成された誘電体層4を備えているが、電極層3上に、ビスマス層状化合物の化学量論的組成式において、m=4、A=Bi+Srとした化学量論的組成式:SrBiTi15で表わされる組成を有するビスマス層状化合物を含む誘電体材料によって、誘電体層4を形成することは必ずしも必要でなく、mが4以外のビスマス層状化合物を含む誘電体材料によって、誘電体層4を形成することもでき、さらに、構成元素を異にする他のビスマス層状化合物を含む誘電体材料によって、誘電体層4を形成することもできる。
さらに、前記実施態様においては、積層体ユニット1の誘電体層4は、有機金属分解法(metal−organic decomposition:MOD)によって形成されているが、誘電体層4を、有機金属分解法によって形成することは必ずしも必要でなく、真空蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法(PLD)、有機金属化学気相成長法(metal−organic chemical vapor deposition:MOCVD)、ゾル・ゲル法などの他の液相法(CSD法)などの他の薄膜形成法によって、誘電体層4を形成することもできる。
また、前記実施態様においては、積層体ユニット1は、薄膜コンデンサの構成部品として、用いられているが、積層体ユニット1は、薄膜コンデンサの構成部品としてだけでなく、無機EL(inorganic electro−luminescence)素子を発光させるための積層体ユニットとして用いることもできる。すなわち、無機EL素子を発光させるためには、電極層3と、無機EL素子との間に、絶縁層が必要であるが、 c軸配向性が向上されたビスマス層状化合物を含む誘電体材料よりなる誘電体層4は高い絶縁性を有しており、したがって、誘電体層4上に、無機EL素子を配置するとともに、無機EL素子上に、別の電極を配置し、無機EL素子に電圧を加えることによって、無機EL素子を、所望のように、発光させることが可能になる。
本発明によれば、小型で、かつ、大容量の誘電特性に優れた薄膜コンデンサを作製するのに好適であるとともに、高輝度の無機EL(inorganic electro−luminescence)デバイスを作製するのに適した積層体ユニットを提供することが可能になる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
その上で、結晶がエピタキシャル成長しない材料によって、形成された支持基板上に、異方性および導電性を有し、かつ、その上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させることができる材料により、形成され、[001]方位に配向された電極層と、前記電極層上で、ビスマス層状化合物を含む誘電体材料をエピタキシャル成長させて、形成され、[001]方位に配向されたビスマス層状化合物を含む誘電体材料よりなる誘電体層とが、この順に、積層されたことを特徴とする積層体ユニット。
【請求項2】
前記支持基板が、アモルファス性基板、多結晶基板および耐熱ガラス基板よりなる群から選ばれた材料によって形成されていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の積層体ユニット。
【請求項3】
前記電極層が、酸化物超伝導体によって形成されていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の積層体ユニット。
【請求項4】
前記電極層が、酸化物超伝導体によって形成されていることを特徴とする請求の範囲第2項に記載の積層体ユニット。
【請求項5】
前記電極層が、CuO面を有する銅酸化物超伝導体によって形成されていることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の積層体ユニット。
【請求項6】
前記電極層が、CuO面を有する銅酸化物超伝導体によって形成されていることを特徴とする請求の範囲第4項に記載の積層体ユニット。
【請求項7】
前記電極層が、化学量論的組成式:BiSrCan−1Cun+4で表わされるBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)および化学量論的組成式:YBaCu−δで表わされるYBCO(イットリウム・ビスマス・カッパー・オキサイド)よりなる群から選ばれたCuO面を有する銅酸化物超伝導体によって形成されていることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の積層体ユニット。
【請求項8】
前記電極層が、化学量論的組成式:BiSrCan−1Cun+4で表わされるBSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・カッパー・オキサイド)および化学量論的組成式:YBaCu−δで表わされるYBCO(イットリウム・ビスマス・カッパー・オキサイド)よりなる群から選ばれたCuO面を有する銅酸化物超伝導体によって形成されていることを特徴とする請求の範囲第6項に記載の積層体ユニット。
【請求項9】
前記誘電体層が、化学量論的組成式:(Bi2+(Am−13m+12−、あるいは、Bim−13m+3で表わされる組成を有するビスマス層状化合物(記号mは正の整数であり、記号Aは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、鉛(Pb)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)およびビスマス(Bi)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、記号Bは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である。記号Aおよび/またはBを2つ以上の元素で構成する場合、それらの比率は任意である。)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の積層体ユニット。
【請求項10】
前記誘電体層が、化学量論的組成式:(Bi2+(Am−13m+12−、あるいは、Bim−13m+3で表わされる組成を有するビスマス層状化合物(記号mは正の整数であり、記号Aは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、鉛(Pb)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)およびビスマス(Bi)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、記号Bは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である。記号Aおよび/またはBを2つ以上の元素で構成する場合、それらの比率は任意である。)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第2項に記載の積層体ユニット。
【請求項11】
前記誘電体層が、化学量論的組成式:(Bi2+(Am−13m+12−、あるいは、Bim−13m+3で表わされる組成を有するビスマス層状化合物(記号mは正の整数であり、記号Aは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、鉛(Pb)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)およびビスマス(Bi)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、記号Bは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である。記号Aおよび/またはBを2つ以上の元素で構成する場合、それらの比率は任意である。)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の積層体ユニット。
【請求項12】
前記誘電体層が、化学量論的組成式:(Bi2+(Am−13m+12−、あるいは、Bim−13m+3で表わされる組成を有するビスマス層状化合物(記号mは正の整数であり、記号Aは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、鉛(Pb)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)およびビスマス(Bi)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、記号Bは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である。記号Aおよび/またはBを2つ以上の元素で構成する場合、それらの比率は任意である。)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第4項に記載の積層体ユニット。
【請求項13】
前記誘電体層が、化学量論的組成式:(Bi2+(Am−13m+12−、あるいは、Bim−13m+3で表わされる組成を有するビスマス層状化合物(記号mは正の整数であり、記号Aは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、鉛(Pb)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)およびビスマス(Bi)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、記号Bは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である。記号Aおよび/またはBを2つ以上の元素で構成する場合、それらの比率は任意である。)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の積層体ユニット。
【請求項14】
前記誘電体層が、化学量論的組成式:(Bi2+(Am−13m+12−、あるいは、Bim−13m+3で表わされる組成を有するビスマス層状化合物(記号mは正の整数であり、記号Aは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、鉛(Pb)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)およびビスマス(Bi)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、記号Bは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である。記号Aおよび/またはBを2つ以上の元素で構成する場合、それらの比率は任意である。)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第6項に記載の積層体ユニット。
【請求項15】
前記誘電体層が、化学量論的組成式:(Bi2+(Am−13m+12−、あるいは、Bim−13m+3で表わされる組成を有するビスマス層状化合物(記号mは正の整数であり、記号Aは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、鉛(Pb)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)およびビスマス(Bi)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、記号Bは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である。記号Aおよび/またはBを2つ以上の元素で構成する場合、それらの比率は任意である。)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第7項に記載の積層体ユニット。
【請求項16】
前記誘電体層が、化学量論的組成式:(Bi2+(Am−13m+12−、あるいは、Bim−13m+3で表わされる組成を有するビスマス層状化合物(記号mは正の整数であり、記号Aは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、鉛(Pb)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)およびビスマス(Bi)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、記号Bは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である。記号Aおよび/またはBを2つ以上の元素で構成する場合、それらの比率は任意である。)を含んでいることを特徴とする請求の範囲第8項に記載の積層体ユニット。
【請求項17】
前記誘電体層が、真空蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法、有機金属化学気相成長法および有機金属分解法を含む液相法よりなる群から選ばれた薄膜形成法によって形成されたことを特徴とする請求の範囲第9項に記載の積層体ユニット。
【請求項18】
前記誘電体層が、真空蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法、有機金属化学気相成長法および有機金属分解法を含む液相法よりなる群から選ばれた薄膜形成法によって形成されたことを特徴とする請求の範囲第10項に記載の積層体ユニット。
【請求項19】
前記誘電体層が、真空蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法、有機金属化学気相成長法および有機金属分解法を含む液相法よりなる群から選ばれた薄膜形成法によって形成されたことを特徴とする請求の範囲第11項に記載の積層体ユニット。
【請求項20】
前記誘電体層が、真空蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法、有機金属化学気相成長法および有機金属分解法を含む液相法よりなる群から選ばれた薄膜形成法によって形成されたことを特徴とする請求の範囲第12項に記載の積層体ユニット。
【請求項21】
前記誘電体層が、真空蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法、有機金属化学気相成長法および有機金属分解法を含む液相法よりなる群から選ばれた薄膜形成法によって形成されたことを特徴とする請求の範囲第13項に記載の積層体ユニット。
【請求項22】
前記誘電体層が、真空蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法、有機金属化学気相成長法および有機金属分解法を含む液相法よりなる群から選ばれた薄膜形成法によって形成されたことを特徴とする請求の範囲第14項に記載の積層体ユニット。
【請求項23】
前記誘電体層が、真空蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法、有機金属化学気相成長法および有機金属分解法を含む液相法よりなる群から選ばれた薄膜形成法によって形成されたことを特徴とする請求の範囲第15項に記載の積層体ユニット。
【請求項24】
前記誘電体層が、真空蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法、有機金属化学気相成長法および有機金属分解法を含む液相法よりなる群から選ばれた薄膜形成法によって形成されたことを特徴とする請求の範囲第16項に記載の積層体ユニット。

【国際公開番号】WO2004/077462
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502843(P2005−502843)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001836
【国際出願日】平成16年2月18日(2004.2.18)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】