説明

電極層の製造方法

【課題】 厚さ分布が小さく且つ端に亀裂がない電極層を製造する方法を提供する。
【解決手段】 一対の逆方向に回転するロールに、2つのロール間の隙間をTD方向で所定の長さに調整するように、シリコーンチューブなどからなる端部整流部材を二つ備えさせ、該長さ調整された隙間に電極活物質及び結着材を含んでなる電極材料粉末を供給して該電極材料粉末を加圧することによって電極層を製造する。得られた電極層と集電体とを積層させて電極を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極層の製造方法および電極層製造装置、並びに電極の製造方法に関する。より詳しくは、厚さ分布が小さく且つ端に亀裂がない電極層を製造する方法および該方法を実施するための製造装置並びに電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電極層の製造方法としては、電極材料粉末をロールプレスしてシート状成形体とする乾式方法が知られている。例えば、特許文献1には、炭素微粉、導電性助剤及びバインダからなる原料を混合、混練して混練物とした後、この混練物をロールプレスで所定の厚さのシート状成形体とする電極の製造方法が開示されている(図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−230158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のロールプレスによって得られる電極層は、端部に圧着されていない電極材料粉末があったり、端から亀裂が入ることがあった。本発明の目的は、厚さ分布が小さく且つ端に亀裂がない電極層を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために検討した結果、従来の方法においては、ホッパーからロール両端部への電極材料粉末の供給がホッパーサイド板との摩擦に起因して淀んで少なくなっていること、また、電極材料粉末が加圧の際に側方へ逃げていること、およびこれらによって端部の電極材料粉末には圧力が十分にかからず圧着不足になっていることを見出した。そこで、本発明者らは、2つのロール間の隙間をTD方向で所定の長さに規制するように2つの端部整流部材をロールの隙間に備えさせ、該長さ調整された隙間に電極材料粉末を供給して加圧することに想到した。そして、この方法によって、厚さ分布が小さく且つ端に亀裂がない電極層を製造できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいてさらに検討を進め、完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
(1)一対の逆方向に回転するロールに、2つのロール間の隙間をTD方向で所定の長さに調整するように2つの端部整流部材を備えさせ、該長さ調整された隙間に電極活物質及び結着材を含んでなる電極材料粉末を供給して該電極材料粉末を加圧することを含む電極層の製造方法。
(2)端部整流部材が、接するロール面の進行方向と同じ方向に動く、上記(1)に記載の電極層の製造方法。
(3)端部整流部材の速度が、接するロール面の速度と同じである、上記(2)に記載の電極層の製造方法。
(4)端部整流部材がシリコーンチューブである、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の電極層の製造方法。
【0007】
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の方法で電極層を製造し、該電極層と集電体とを積層させることを含む電極の製造方法。
(6)一対の逆方向に回転するロールと2つの端部整流部材とを備え、2つのロール間の隙間を該端部整流部材によってTD方向で所定の長さに調整することができ、且つ、該長さ調整された隙間に電極活物質及び結着材を含んでなる電極材料粉末を供給して該電極材料粉末を加圧することができる、電極層製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、厚さ分布が小さく且つ端に亀裂がない電極層を製造することができる。この効果は、端部整流部材によって端部への電極材料粉末の供給が円滑になり、また端部整流部材が電極材料粉末の側方への逃げを抑えることによるものであると推定される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る電極層製造装置の一態様を示す、ロール軸方向から見た概要図(a)および下から見た概要図(b)である。
【図2】従来の電極層製造装置の一態様を示す概要図である。
【図3】本発明に係る電極層製造装置の別の一態様を示す、上から見た示す概要図である。
【図4】本発明に係る電極層製造装置の別の一態様を示す、上から見た示す概要図(a)およびロール軸方向から見た概要図(b)である。
【図5】本発明に係る電極層製造装置の別の一態様を示す、上から見た示す概要図(a)およびロール軸方向から見た概要図(b)である。
【図6】実施例1で製造された電極層の幅(TD)方向の厚さ分布を示す図である。
【図7】実施例1で製造された電極層の流れ(MD)方向の厚さ分布を示す図である。
【図8】比較例1で製造された電極層の幅(TD)方向の厚さ分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る電極層の製造方法について、図面を参照しながら具体的に説明する。
本発明の電極層の製造方法は、一対の逆方向に回転するロールに、2つのロール間の隙間をTD方向で所定の長さに調整するように2つの端部整流部材を備えさせ、該長さ調整された隙間に電極活物質及び結着材を含んでなる電極材料粉末を供給して該電極材料粉末を加圧することを含む。
【0011】
(電極材料粉末)
本発明に用いられる電極材料粉末は、電極活物質及び結着材を含んでなる。
【0012】
(電極活物質)
電極材料粉末に含有される電極活物質は、電気化学素子用電極内で電子の受け渡しをする物質である。電極活物質には主としてリチウムイオン二次電池用活物質、電気二重層キャパシタ用活物質やリチウムイオンキャパシタ用活物質がある。
【0013】
又、リチウムイオン二次電池用電極活物質には、正極用、負極用がある。
リチウムイオン二次電池用正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な金属酸化物が挙げられる。かかる金属酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、燐酸鉄リチウム、燐酸マンガンリチウム、燐酸バナジウムリチウム、バナジン酸鉄リチウム、ニッケル−マンガン−コバルト酸リチウム、ニッケル−コバルト酸リチウム、ニッケル−マンガン酸リチウム、鉄−マンガン酸リチウム、鉄−マンガン−コバルト酸リチウム、珪酸鉄リチウム、珪酸鉄−マンガンリチウム、酸化バナジウム、バナジン酸銅、酸化ニオブ、硫化チタン、酸化モリブデン、硫化モリブデン、等を挙げることができる。さらに、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリキノンなどのポリマーが挙げられる。これらのうち、リチウム含有金属酸化物を用いることが好ましい。なお、上記にて例示した正極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0014】
リチウムイオン二次電池用負極活物質としては、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、活性炭、熱分解炭素などの低結晶性炭素(非晶質炭素)、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、あるいはこれら物理的性質の異なる炭素の複合化炭素材料、錫やケイ素等の合金系材料、ケイ素酸化物、錫酸化物、バナジウム酸化物、チタン酸リチウム等の酸化物、ポリアセン等が挙げられる。なお、上記に例示した負極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0015】
リチウムイオン二次電池用電極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、高密度な電極を形成させやすい。
リチウムイオン二次電池用電極活物質の体積平均粒子径は、正極用、負極用ともに通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは0.8〜20μmである。
リチウムイオン二次電池用電極活物質のタップ密度は、特に制限されないが、正極用では2g/cm3以上、負極用では0.6g/cm3以上のものが好適に用いられる。
【0016】
リチウムイオンキャパシタ用電極活物質には、正極用と負極用がある。
リチウムイオンキャパシタ用正極活物質としては、アニオンおよび/またはカチオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な活性炭、ポリアセン系有機半導体(PAS)、カーボンナノチューブ、カーボンウィスカー、グラファイト等が挙げられる。中でも活性炭、カーボンナノチューブが好ましい。
【0017】
リチウムイオンキャパシタ用負極活物質としては、リチウムイオン二次電池用負極活物質として例示した材料をいずれも使用することができる。
【0018】
リチウムイオンキャパシタ用電極活物質の体積平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、更に好ましくは0.8〜20μmである。
リチウムイオンキャパシタ用電極活物質として活性炭を用いる場合、活性炭の比表面積は、通常30m2/g以上、好ましくは500〜3,000m2/g、より好ましくは1,500〜2,600m2/gである。比表面積が約2,000m2/gまでは比表面積が大きくなるほど活性炭の単位重量あたりの静電容量は増加する傾向にあるが、それ以降は静電容量は然程増加せず、かえって電極層の密度が低下し、静電容量密度が低下する傾向にある。また、活性炭が有する細孔のサイズは電解質イオンのサイズに適合していることがリチウムイオンキャパシタとしての特徴である急速充放電特性の面で好ましい。従って、電極活物質を適宜選択することで、所望の容量密度、入出力特性を有する電極層を得ることができる。
【0019】
電気二重層キャパシタ用電極活物質としては、リチウムイオンキャパシタ用正極活物質として例示された材料を、正極用および負極用として使用することができる。中でも、活性炭が好ましい。
【0020】
(結着材)
電極材料粉末に含有される結着材は、電極活物質を相互に結着させる物質である。好適な結着材は、溶媒に分散する性質のある分散型結着材である。分散型結着材として、例えば、シリコーン系重合体、フッ素系重合体、共役ジエン系重合体、アクリレート系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子化合物が挙げられ、フッ素系重合体、共役ジエン系重合体及びアクリレート系重合体が好ましく、共役ジエン系重合体及びアクリレート系重合体が、耐電圧を高くでき、かつ電気化学素子のエネルギー密度を高くすることができる点でより好ましい。
【0021】
共役ジエン系重合体は、共役ジエンの単独重合体もしくは共役ジエンを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物である。前記単量体混合物における共役ジエンの割合は通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。共役ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエン単独重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル・共役ジエン共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル・共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。
【0022】
アクリレート系重合体は、一般式(1):CH2=CR1−COOR2(式中、R1は水素原子またはメチル基を、R2はアルキル基またはシクロアルキル基を表す。R2はさらにエーテル基、水酸基、カルボン酸基、フッ素基、リン酸基、エポキシ基、アミノ基を有していてもよい。)で表される化合物由来の単量体単位を含む重合体、具体的には、一般式(1)で表される化合物の単独重合体、または前記一般式(1)で表される化合物を含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。一般式(1)で表される化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、および(メタ)アクリル酸トリデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸等のカルボン酸含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸パーフロロオクチルエチル等のフッ素基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸リン酸エチル等のリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;等が挙げられる。
これら(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、および(メタ)アクリル酸n―ブチルやアルキル基の炭素数が6〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。これらを選択することにより、電解液に対する膨潤性を低くすることが可能となり、サイクル特性を向上させることができる。
【0023】
さらに、アクリレート系重合体においては、例えば、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類、芳香族ビニル系単量体、アミド系単量体、オレフィン類、ジエン系単量体、ビニルケトン類、複素環含有ビニル化合物などの、共重合可能な単量体を共重合させることができる。また、α,β−不飽和ニトリル化合物や酸成分を有するビニル化合物を共重合させることができる。
【0024】
アクリレート系重合体中における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合は、好ましくは50〜95重量%であり、より好ましくは60〜90重量%である。(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合を上記範囲とすることにより、電極とした際における柔軟性を向上させることができ、割れに対する耐性を高いものとすることができる。
【0025】
α,β−不飽和ニトリル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
アクリレート系重合体中におけるα,β−不飽和ニトリル化合物単位の含有割合は、通常0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜20重量%の範囲である。α,β−不飽和ニトリル化合物単位の含有割合を上記範囲とすることによって、結着材としての結着力をより高めることができる。
【0026】
酸成分を有するビニル化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましく、メタクリル酸、イタコン酸がより好ましく、特に、メタクリル酸とイタコン酸とを併用して用いることが好ましい。
アクリレート系重合体中における酸成分を有するビニル化合物単位の含有割合は、好ましくは1.0〜10重量%であり、より好ましくは5.0〜1.5重量%である。酸成分を有するビニル化合物単位の含有割合を上記範囲とすることにより、スラリーとした際における安定性を向上させることができる。
【0027】
分散型結着材の形状は、特に制限はないが、粒子状であることが好ましい。粒子状の分散型結着材は、結着性が良好であり、また、作製した電極の容量の低下や充放電の繰り返しによる劣化を抑えることができる。粒子状の分散型結着材としては、例えば、ラテックスのごとき結着材の粒子が水に分散した状態のものや、このような分散液を乾燥して得られる粒子状のものが挙げられる。
分散型結着材の体積平均粒子径は、好ましくは0.001〜100μm、より好ましくは10〜1000nm、さらに好ましくは50〜500nmである。分散型結着材粒子の平均粒子径を上記範囲とすることにより、スラリーとした際における安定性を良好なものとしながら、得られる電極としての強度及び柔軟性が良好となる。
【0028】
結着材の量は、電極活物質100重量部に対して、乾燥重量基準で通常は0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜15重量部である。結着材の量がこの範囲にあると、得られる電極層と集電体との密着性が充分に確保でき、かつ、内部抵抗を低くすることができる。
【0029】
電極材料粉末は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、分散剤、導電材および添加剤などが挙げられる。特に、分散剤、導電材を含んでいることが好ましい。
【0030】
電極材料粉末に用いられる分散剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩; アルギン酸プロピレングリコールエステルなどのアルギン酸エステル; アルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸塩;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩; ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。これらの分散剤の使用量は、本発明の効果を損ねない範囲であれば格別な限定はないが、電極活物質100重量部に対して、通常は0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.8〜2重量部の範囲である。
【0031】
電極材料粉末に用いられる導電材としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(アクゾノーベル ケミカルズ ベスローテン フェンノートシャップ社の登録商標)などの導電性カーボンブラックが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックが好ましい。
【0032】
導電材の体積平均粒子径は、電極活物質の体積平均粒子径よりも小さいものが好ましく、その範囲は通常0.001〜10μm、好ましくは0.05〜5μm、より好ましくは0.01〜1μmである。導電材の体積平均粒子径がこの範囲にあると、より少ない使用量で高い導電性が得られる。これらの導電材は、単独で、あるいは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
導電材を電極材料粉末に含有させる場合、導電材の含有割合は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。導電材の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる電気化学素子の電気容量を高く保ちながら、内部抵抗を十分に低減することが可能となる。
【0034】
(複合粒子)
本発明において、電極材料は、電極活物質、結着材、及びその他必要に応じ添加される成分を含んでなる複合粒子であることが好ましい。電極材料が複合粒子であることにより、得られる電気化学素子用電極の強度を高くしたり、内部抵抗を低減したりすることができる。
本発明でいう複合粒子とは、電極活物質、結着材および必要に応じ添加される上記導電材等他の成分を用いて造粒することにより得られ、少なくとも電極活物質、結着材を含んでなるが、前記のそれぞれが個別に独立した粒子として存在するのではなく、構成成分である電極活物質、結着材を含む2成分以上によって一粒子を形成するものである。具体的には、前記2成分以上の個々の粒子の複数個が結合して二次粒子を形成しており、複数個(好ましくは数個〜数十個)の電極活物質が、結着材によって結着されて粒子を形成しているものが好ましい。
【0035】
複合粒子の形状は、流動性の観点から実質的に球形であることが好ましい。すなわち、複合粒子の短軸径をLs、長軸径をLl、La=(Ls+Ll)/2とし、(1−(Ll−Ls)/La)×100の値を球形度(%)としたとき、球形度が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。ここで、短軸径Lsおよび長軸径Llは、走査型電子顕微鏡写真像より測定される値である。
【0036】
複合粒子の体積平均粒子径は、通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜200μm、より好ましくは30〜150μmの範囲である。複合粒子の体積平均粒子径をこの範囲にすることにより、所望の厚みの電極層を容易に得ることができるため好ましい。
なお、複合粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、SALD−3100;島津製作所製)にて測定し、算出される体積平均粒子径である。
また、複合粒子としての構造は特に限定されないが、結着材が複合粒子の表面に偏在することなく、複合粒子内に均一に分散する構造が好ましい。
【0037】
(端部整流部材)
本発明に用いられる端部整流部材は、2つの端部整流部材によって、2つのロール間の隙間をTD方向で所定の長さに調整できるものである。端部整流部材によって、電極材料粉末の流れを整えて、ロール間の隙間への電極材料粉末の供給量を整えることができる。また、ロール間で電極材料粉末を加圧した際に、電極材料粉末がロールの側方へ逃げることを抑制できる。
【0038】
本発明の電極層の製造方法に用いられる図1の製造装置では、紐状の端部整流部材6及び6’を、ロール1及び2の隙間に備えている。紐状の端部整流部材6及び6’をロール間に挟み込んで、ロール間の隙間をTD方向で所定の長さに規制する。端部整流部材6及び6’は、ロール面の進行方向と同じ方向にロール面の速度と同じ速度でロール間を移動させることが好ましい。紐状の端部整流部材は、紐の芯部などに中空を有するもの、例えばチューブ状になっていてもよい。紐状の端部整流部材の外径は、ローラ間の隙間を所定の長さでずれずに規制でき、かつローラ間の隙間で破断しない範囲で適宜選択される。
【0039】
端部整流部材の形状は、図1に示した紐状のものに限られず、例えば、チューブ、リング(図3)、ベルト(図4)、円盤(図5)などが挙げられる。これらのうち、チューブ状のものが好ましい。
図3はリング状の端部整流部材8を備えた製造装置を示すものである。一方のローラの外周面にリング状の端部整流部材8を巻きつけ、ロール間の隙間をTD方向で所定の長さに規制している。端部整流部材8は、ロール面の進行方向と同じ方向にロール面の速度と同じ速度でロール間を移動する。リング状の端部整流部材の外径は、ローラ間の隙間を所定の長さでずれずに規制でき、かつローラ間の隙間で破断しない範囲で適宜選択される。
【0040】
図4は無端ベルト状の端部整流部材9を備えた製造装置を示すものである。端部整流部材9は、二つの平行に配置されたベルト軸受けに巻き付けられている。端部整流部材9をローラの側面に設け、ローラ間の隙間をローラ側面から覆い、電極材料粉末の側方への逃げを防止する。また、端部整流部材9は、ローラ側面の進行方向(矢印方向)に沿ってベルトが移動(白抜き矢印方向)するので、ホッパーから電極材料粉末を端部に円滑に誘引できる。なお、図4(b)は、装置を左に90度回転した状態で表示しており、2つのロールの左方が上、2つのロールの右方が下であり、電極材料粉末は左方から供給される。
【0041】
図5は円盤状の端部整流部材10を備えた製造装置を示すものである。円盤状の端部整流部材10はローラの直径よりも大きい直径を有している。端部整流部材10を一方のローラの側面に設け、ローラ間の隙間をローラ側面から覆い、電極材料粉末の側方への逃げを防止する。なお、ローラ11は、端部整流部材10の縁を押さえ、端部整流部材10による整流効果を補助するものである。ローラ11は、端部整流部材10の回転方向に沿って回転するようになっている。なお、図5(b)は、装置を左に90度回転した状態で表示しており、2つのロールの左方が上、2つのロールの右方が下であり、電極材料粉末は左方から供給される。
【0042】
端部整流部材の材料は特に限定されないが、可撓性及び/又は弾性を有するものが好ましく、更に耐久性を有するものがより好ましい。例えば、樹脂、ゴム等が挙げられ、中でも樹脂が好ましく、シリコーンが特に好ましい。
【0043】
端部整流部材として、紐状のものを用いる場合には、端部整流部材をローラ間の隙間に誘導する部材を用いることが好ましい。例えば、図1に示す誘導管7では、ローラ間の隙間の手前まで、その中空部分に紐状端部整流部材6を通している。この誘導管は、ロール上部に図1に示すようなホッパーサイド板3を備えている場合には、ホッパーサイド板3に固定することもできる。ホッパーサイド板とは、ロールのTD方向への粉末の漏れを減らすために設置されるものである。
【0044】
本発明の電極層の製造方法では、端部整流部材で長さ調整されたロール間の隙間に電極材料粉末を供給して該電極材料粉末4を加圧し、電極層5を得ている。
【0045】
ここで、ロール1の周速は、通常0.1〜100m/分、好ましくは1〜50m/分である。ロール2の周速は、通常0.1〜100m/分、好ましくは1〜50m/分である。
ロール1とロール2の間隔は、通常10〜500μm、好ましくは30〜300μmである。
ロール1及びロール2のロール表面温度は、通常0〜200℃、好ましくは20〜150℃、より好ましくは50〜120℃である。ロール表面温度が、この範囲にあると厚さ精度が向上する。
ロール1及びロール2の直径は、通常10〜1000mm、好ましくは20〜500mmである。
ロール1とロール2との間にかける圧力は、通常0.01〜20kN/cm、好ましくは0.1〜10kN/cm、より好ましくは0.5〜5kN/cmである。線圧がこの範囲にあると、クラック、しわを防ぐことができる。
【0046】
供給する電極材料粉末の温度は特に限定されないが、通常、0〜200℃であり、好ましくは20〜150℃である。供給する電極材料粉末の温度がこの範囲にあると、得られる電極層の中心部の孔の形成を防ぐことができ、成形性が良好になる。
【0047】
本発明の電極層の製造方法では、端部整流部材で長さ調整された隙間に電極材料粉末を供給することによって、粉末が側方へ逃げず、圧力を加えることができる。さらに、端部整流部材が、接するロール面の進行方向と同じ方向に動くことによって、電極材料粉末がそれに同伴され、端部での電極材料粉末の供給量の低下が抑制される。これらにより、端に亀裂がない電極層を高い厚さ精度で製造することができる。
【0048】
本発明で得られた電極層を、集電体と積層させることによって電極を得ることができる。
本発明に用いられる集電体は、電極層から電流を取り出すために使用するものである。集電体を材料としては、例えば、金属、炭素、導電性高分子等が挙げられ、中でも金属が好ましい。より具体的には、正極用集電体としては、アルミニウム、ステンレスなど、負極用集電体としては、ステンレス、銅、ニッケルなどが挙げられる。また、集電体は貫通孔を有しない構造であってもよいが、本発明の方法は、特に貫通孔を有する集電体に適している。貫通孔を有する集電体としては、例えばエキスパンドメタル、パンチングメタル、金属網、発泡体、エッチングにより貫通孔を付与したエッチング箔、エンボスロールを用いて突起付与および貫通孔を付与された突起付き集電体などが挙げられる。
【実施例】
【0049】
次に、実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は特に断りのない限り重量基準である。
【0050】
(製造例1)
電極活物質(比表面積2000m2/g及び重量平均粒径5μmの活性炭)100部、導電材(アセチレンブラック「デンカブラック粉状」:電気化学工業(株)製)5部、分散型結着材(数平均粒径0.15μm、ガラス転移温度−40℃の架橋型アクリレート系重合体の40%水分散体:「AD211」;日本ゼオン(株)製)7.5部、溶解型樹脂(カルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液「DN−800H」:ダイセル化学工業(株)製)93.3部、及びイオン交換水231.8部をT.K.ホモミクサー(特殊機化工業(株)製)で攪拌混合して、固形分25%のスラリーを得た。次いで、スラリーをスプレー乾燥機(大川原化工機(株)製ピン型アトマイザー付)を用いて150℃の熱風で噴霧乾燥し、重量平均粒径50μmの球状の複合粒子を得た。この複合粒子の重量平均粒径は、粉体測定装置(パウダテスタPT−R:ホソカワミクロン(株)製)を用いて測定した。
【0051】
(実施例1)
図1に示すようなホッパーサイド板3を備えるロールプレス機(ヒラノ技研工業(株)製、ロール径250mm)のホッパーサイド板に、チューブを通す誘導管7を図1に示すように取り付け、端部整流部材としてチューブ(シリコーンチューブ、外径1.5mm、内径0.5mm)をロール間に食い込ませた。
製造例1で得られた複合粒子からなる電極材料粉末を25℃に予熱し、幅200mmのホッパーからロールプレス機に供給し、ロール温度140℃、ロール間隔150μm、ロール圧力35kN/ロール幅、ロール周速2m/minの条件で、ロール加圧成形し電極層(幅20cm、厚さ0.27mm)を得た。電極層の幅方向の厚さ分布を図6に、電極層の流れ方向の厚さ分布を図7に示す。電極層の幅方向の厚さ分布は±10μm以内であった。また、電極層の流れ方向の厚さ分布も±10μm以内であった。
【0052】
(比較例1)
端部整流部材を用いなかった以外は実施例1と同様にして電極層(幅20cm、厚さ1.01mm)を得た。得られた電極層の幅方向の厚さ分布を図8に示す。得られた電極層は厚さ分布が大きく、端に亀裂が生じていた。
【0053】
以上の結果から、本発明の電極層の製造方法によれば、厚さ分布が小さく且つ端に亀裂がない電極層が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0054】
1’、2’、1、2:ロール
3’、3:ホッパーサイド板
4’:電極材料粉末
5’:電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の逆方向に回転するロールに、2つのロール間の隙間をTD方向で所定の長さに調整するように2つの端部整流部材を備えさせ、該長さ調整された隙間に電極活物質及び結着材を含んでなる電極材料粉末を供給して該電極材料粉末を加圧することを含む電極層の製造方法。
【請求項2】
端部整流部材が、接するロール面の進行方向と同じ方向に動く、請求項1に記載の電極層の製造方法。
【請求項3】
端部整流部材の速度が、接するロール面の速度と同じである、請求項2に記載の電極層の製造方法。
【請求項4】
端部整流部材がシリコーンチューブである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極層の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法で電極層を製造し、該電極層と集電体とを積層させることを含む電極の製造方法。
【請求項6】
一対の逆方向に回転するロールと2つの端部整流部材とを備え、2つのロール間の隙間を該端部整流部材によってTD方向で所定の長さに調整することができ、且つ、該長さ調整された隙間に電極活物質及び結着材を含んでなる電極材料粉末を供給して該電極材料粉末を加圧することができる、電極層製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−65400(P2013−65400A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201870(P2011−201870)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】