説明

電極式パン粉製造用パンの製造方法及び電極面塗布に好適な離型油組成物

【課題】パン粉製造のための電極式パン焼成における製品のロス、すなわち、パン生地の電極板への残留量及び焦げを大幅に低減させる優れた工業的方法を提供する。
【解決手段】電極式パン焼成型の内側対向面に、25℃において5000〜500000pS/mの導電率を有する離型油組成物の均一な薄い離型層を形成させた二枚の電極板を配置し、両極板間にパン粉製造用パンの発酵生地を入れて、電極に通電しパン粉製造用パンを焼成してパン粉製造用パンの製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極式パン粉を製造用パンの製造方法に関し、特に、電極板を使用し通電してパンを焼成する良質のパン粉を得るための製造方法及び離型油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油で揚げられるカツの表面等にまぶされるパン粉は、焼成されたパンを粉末化して製造される。パン粉製造用パンの製造方法には、電極式と焙焼式がある。通常の焙焼式は、直火又は電気オーブンで発酵させた生地をパン焼成型により、例えば、200℃の温度で30分程度焼成して製造される。本発明は、電極式パン粉製造用パンの製造方法の改善及びこれに使用する離型油組成物に関するものである。
【0003】
電極式パン粉製造方法は、例えば、510mm(縦)×120mm(横)×410mm(高さ)の直角六面体の天井面が解放されたプラスチック製の直方体成形型を使用し、縦と高さで形成される対向する2枚の側板の内側面に金属製電極板(500mm×435mm×厚さ0.7mm)を密接配置し、両極板間に発酵させたパン生地を入れ、例えば、150〜200ボルト(V)の交流電圧、5〜20アンペアで電流を流す。通電によってパン生地は加熱され、水分が蒸散すると電流密度が徐々に低下し、水分がなくなって電流がゼロになったときパン焼きが完了する。通電時間は、15〜20分程度の焼成時間である。そのパンの焼成は、焙焼式に比べて短時間且つ安全であり、工業的には極めて望ましい製造法である。しかし、焼成後に取り出される焼成パンは型離れが悪く、焼成パンがカスとして極板に多量に残留するので歩留まりが悪く、また極板の清浄化掃除のために労力と時間を要するので、その不都合の解決が要望されている。
【0004】
パン生地の型離れを改善する方法として植物油あるいは乳化剤や植物ワックスを配合した植物油を離型油として生地が接触する電極板面に塗布することが試みられた。しかし、この場合には、生地の生焼けや電極板と生地の間でスパークが発生して生地の表面にコゲを形成するという別の問題が提起された。また、生焼けやコゲの発生を抑える程度の離型油の塗布量では、電極板への生地の付着残量を低下させることはできない。
【0005】
焙焼式のパンはオーブンの熱で焼成するため、例えば食パンの耳と言われるように、焼成天板に接しているパン生地は固くなるが、電極式のパンは通電により焼成されるため、どちらかといえば、蒸しパンのように、焼成電極板に接しているパン生地はベトベトしている。このため、離型性が悪い。
【0006】
電極式では、例えば、510mm(縦)×120mm(横)×410mm(高さ)の直角六面体の天井面が解放されたプラスチック製の直方体成形型を使用し、電極板2枚で生地を挟み、生地重量4950gを入れ焼成した場合、1型あたり約4.5%のロスが発生している。この場合、生産量にもよるが、毎月数トン〜数十トンのロスが工場で発生しているという事例があり、パン粉製造において発生するロスは看過出来ない。
【0007】
従来、油または離型油に導電性を付与することはあまり知られておらず、通常の離型油を使用した場合は、電極式パンでは離型性が悪い。離型性が悪い場合の解決手段としては、基本的に塗布量を多くして離型性を向上させると、多量の塗布量のため電極板と生地との隙間が大きくなり、通電性が悪くなって生焼けを生じ、あるいは、電気スパークが発生してパン表面にコゲが形成される。コゲ又は生焼けが発生すると間引き作業の手間や間引き時に余計な生地もロスしてしまうことから離型油を塗る前よりもロスが多くなる。
【0008】
電極式によるパン製造方法と電極板にカスが付着することは以前から知られている。これを解決する方法として、電極板の選定やカスの洗浄性を効率化する自動機械化が検討されているようであるが、近年、風味や食感が重視されて、各種のパン粉が製造されるようになったため、更に多量のカスが付着するようになってきている。
【0009】
離型油については、食パン用や洋菓子用に離型膜を形成して離型させる方法や静電塗布機を使用する目的でレシチンの添加や導電率を調整する方法は知られている。しかし、電極式パン粉製造において電極板に離型油を塗りカスの付着を防止すること、更に、離型油に導電性を持たせ、カスの付着やコゲの発生等のロスのない製品の製造方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭56―46754号公報
【特許文献2】特開平1―257424号公報
【特許文献3】特開平11―000097号公報
【特許文献4】特開平09―154521号公報
【特許文献5】特開2006―129786号公報
【特許文献6】特開2001―299197号公報
【特許文献7】特開2000―184849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の課題は、パン粉製造用の電極式パンの製造において、電極に付着する生地かすやコゲ・生焼け等の可及的低減された実質的にロスのない工業的に優れた焼成方法を提供することにある。また、電極板面に適用される離型油が所望の導電率を有し、均一な離型膜を形成する離型油組成物を提供することである。
【0012】
本発明者等は、電極式パン粉製造用パンの製造における上記のような問題点を解消すべく、特に、電極板に塗布する離型油に着目して、多くの離型油について試作研究を重ね、比較的大きな導電率を有する離型油組成物が、極めて望ましい結果を与えることを知った。すなわち、本発明は、電極板を用いる電極式パン生地を通電焼成するパン粉用パンの製造において、特定の導電率範囲の離型油組成物を電極表面に塗布するとき、焼成されたパンの電極面への残留量(カス)が大幅に低減し、生焼けを防止しスパークによる焦げが抑制される型離れのよいパン粉用パンの製造方法を提供する。また、電極面に塗布してそのような良好な型離れ効果が得られる離型油組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、電極式パン焼成型の内側対向面に、25℃において5000〜500000pS/mの導電率を有する離型油組成物の均一な薄い離型層を形成させた二枚の電極板を配置し、両極板間にパン粉製造用パンの発酵生地を入れて、電極に通電しパン粉製造用パンを焼成することを特徴とするパン粉製造用パンの製造方法を要旨とするものである。
【0014】
本発明の方法において、型内に固定配置される電極板の内側対向面に塗布される離型剤は、25℃において5000〜500000ピコジーメンス(pS/m)の範囲内の導電率を有する離型油組成物であって、そのような特定組成物を極板に単位面積100cm当たり0.01〜1.0gの範囲内量で均一に塗布することが極めて重要であって、かかる離型剤により上記課題が解消される。離型油組成物の導電率が、5000pS/m未満では、離型不良あるいは通電性が劣るため生焼けや電極板とパン生地の間でスパークが発生しパン生地が焦げた状態になりロスが余計に発生する状態であり、また、500000pS/mを超えると、パン生地に添加剤(レシチンやグリセリン脂肪酸エステル等)由来の着色や風味が悪化するので、良好な結果が得られない。上記導電率は、例えば、米国EMCEE社製デジタル式導電率測定器(モデル:1152)を使用して簡単に測定することができる。
【0015】
上記導電率を有する離型油組成物の電極面への塗布は、薄い均一な離型層が形成されることが重要であって、その塗布方法に制約はないが、エア霧化式と電気霧化式のいずれの静電式塗油装置も好ましく使用できる。エア霧化式静電式塗油装置は、例えば、Burford 社から販売されてMODEL 7200、及び電気霧化式静電式塗油装置は、ルブテック社製のフードスタット(FOODSTAT)が代表的である。離型油組成物は、これらの霧化式静電塗油装置を使用して、電極面に100cm当たり0.01〜1.0gの範囲量が均一塗布される。0.01g未満では、電極板に生地カスが付着し残るので好ましくなく、また、1.0gを超えると、通電性が劣るため生焼けや電極板とパン生地の間でスパークが発生しパン生地が焦げた状態になりロスが余計に発生するので採用できない。好ましい範囲量は、0.02〜0.2gである。このように、板表面への塗布量が多すぎても少なすぎても望ましい結果を得ることができない。
【0016】
本発明の方法に用いられる離型油組成物は、ベース離型油にレシチン単独又はレシチンと油溶性乳化剤との混合物を添加配合して調製される。ベース離型油としては、常温で液状の油脂が好ましく、例えば、米油,菜種油,大豆油,ごま油,オリーブ油,パームオレイン,綿実油,ひまわり油及びコーン油等の植物性油脂や各種の魚油類,中鎖脂肪酸トリグリセライド等が包含される。これらの離型油は、単独でもよいし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。実用的に好ましい油脂類は、製品の風味を考慮すれば、菜種油,米油,コーン油,及び中鎖脂肪酸トリグリセライドである。また、本発明に係る離型油には、ベース油に他の動物性油脂、例えば、ラードや牛脂、豚その他の魚油などの少量を添加することができる。本発明における離型油組成物の導電率の向上には中鎖脂肪酸トリグリセライドが特に好ましく使用される。
【0017】
本発明の方法に使用される上記離型油組成物には、レシチン単独又はレシチンと油溶性乳化剤との混合物がベース離型油に添加混合される。これらの離型油組成物は、離型油に添加されて実質的に透明な液に溶解することが重要である。レシチンは、動植物界に広く存在する界面活性能を有する数種の燐脂質の混合物であって、構成成分は抽出対象物によって異なるが、いずれのレシチンも好適に使用できる。
【0018】
レシチンと組み合わせて混合使用される油溶性乳化剤は、食品衛生法で食品として使用が認められている界面活性剤類であって、例えば、蔗糖脂肪酸エステル類,ソルビタン脂肪酸エステル類,プロピレングリコール脂肪酸エステル類あるいはグリセリン脂肪酸エステル類等が包含される。これらのエステル類を構成する脂肪酸類の炭素原子数Cは、例えば、8〜22程度の脂肪酸類が好ましい。また、飽和脂肪酸より常温で液状の不飽和脂肪酸のエステル類も好適に使用される。
【0019】
ベースとなる離型油に添加されるこれらのレシチン及びレシチンと油溶性乳化剤混合物は、例えば、1〜10の範囲内のHLBを有する比較的親油性の強い方が好ましい。レシチンと混合使用される油溶性乳化剤は、レシチン100質量部に対して300重量部以下、好ましくは、1〜50質量部の範囲で、離型油組成物の導電率が、25℃において5000〜500000pS/mの範囲内に調整される。
【0020】
ベース離型油に添加されるレシチン又はレシチンと油溶性乳化剤の合計量は、離型油100質量部当たり0.1〜50質量部である。添加量が0.1質量部以下では、導電率が不足し、微細な噴霧粒子の形成が得られ難く、離型膜がむらに成り易い。また、50質量部を超えると、レシチンによるパン粉への着色と風味が悪化するので好ましくない。生地の組成や噴霧の条件、あるいは食型の形状及びベース離型油の種類と組成構成に関連するが、レシチンの望ましい使用量は、1〜30質量部で、特に、2〜25質量部が好ましく、離型油組成物は容易に最適の導電率25℃において5000〜500000pS/mに調製される。導電率を向上させる素材として、エタノールも考えられるが、多くを用いると発火の危険性があり好ましくない。
【0021】
電極板表面への離型油組成物の適用は、面全体に均一な導電膜が形成されるならばいかなる方法であってもよいが、静電塗油装置が好ましく採用される。この装置によって液状離型油組成物は、微細粉として噴出され、薄い均一な離型油膜を電極表面に塗布形成される。その塗付率は極めて高く、組成物のロスは極めて小さい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法は、電極式でパン粉を製造する食パンの製造において、焼成されたパンのカスの電極板への付着量が抑制され、パン生地の生焼け防止、スパークによる焦げが抑制されるので、高い歩留まりが得られ、工業的に極めて優れた実用的効果が達成される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、具体例により、本発明の方法を更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
使用した電極式焼成型:
510mm(縦)×120mm(横)×410mm(高さ)を有する直方六面体の天面のないプラスチック製電極式焼成型
電極:
500mm×435mmの板状のチタン製板2枚
【0025】
離型油組成物の調製:
食用菜種油100gにレシチン(日清オイリオグループ社製の商品名:日清レシチンDX)に中鎖脂肪酸トリグリセライド及びグリセリン脂肪酸エステルを加えて加温溶解させたのち、室温まで冷却して離型油組成物を調製した。それぞれの混合量を下掲表1及び表2に示すと共に、調製された各組成物の25℃における導電率を表中に併記した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
離型油組成物の塗布:
ルブテック社製の静電塗油装置フードスタットを用い、次の条件で電極板のそれぞれの片面に離型油組成物を塗布乾燥して離型層を形成させた。塗付量は、極板1枚当たり約0.5〜5.0gの範囲内の量(100cm 当たり 0.023〜0.23gに相当する)である。ノズル〜コンベアー距離を20cmの高さにセットし、使用ポンプ0.584cc/rev、インバーターで塗布量の調整を行い、コンベアで電極板を流し離型膜を形成させた。


【0029】
発酵パン生地の調製:
強力粉 2925g,砂糖 177g,ドライイースト 30g,水 1827g,塩 39g及びバター 114gをボールに入れ、ミキサーで均一に混合し捏ねる。これを丸めて38℃・湿度75%のオーブンで70分間発酵させ、ガス抜きをして生地をスキッパーで550gずつに9分割する。分割された各生地を丸めて15分のベンチタイム(分割・丸めで傷められた生地を休ませる時間)後、ガス抜きをして再び丸め、焼成型に並べて入れて38℃・湿度75%のオーブンで70分発酵させる。
【0030】
パンの焼成:
上記のように準備された焼成型の電極に200Vの交流電源を印加し、15分間通電してパン生地を焼成する。それぞれの離型油組成物におけるパンの焼成後の電極面への生地の残量、焦げの状態を調べ、結果を下表にまとめて示した。

【0031】
上表から分かるように、離型油使用量が少ない場合は、カスの付着量が多くなり、離型油使用量が多いと、生焼け及びコゲがパンの表面に付着した。導電率を25℃において5000〜500000pS/mに保つことにより、カスの付着が少なく、コゲのないパン粉が得られた。また、離型油を塗ることで、焼成時に生地が滑りやすくなり、従来よりも生地が縦に伸びやすくなった、このため、パン粉の剣立ちが良くなり、商品価値も上がることが明確に理解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極式パン焼成型の内側対向面に、25℃において5000〜500000pS/mの導電率を有する離型油組成物の均一な薄い離型層を形成させた二枚の電極板を配置し、両極板間にパン粉製造用パンの発酵生地を入れて、電極に通電しパン粉製造用パンを焼成することを特徴とするパン粉製造用パンの製造方法。
【請求項2】
前記離型油組成物が、食用油脂にレシチン又はレシチンと油溶性乳化剤及び植物ワックスよりなる群から選択される物質を該油脂100質量部当たり0.5〜100質量部を配合して25℃において5000〜500000pS/mの導電率に調整される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記離型油組成物が、静電塗油装置を用いて電極面に0.01〜1.0g/100cmの範囲量静電塗付される請求項1又は2に記載の方法。