説明

電極形成用金めっき浴及びそれを用いた電極形成方法

【課題】異方性導電接着剤や、相手金属と共晶を形成させる電極接合に適した硬度と形状を有する電極を形成させるために用いる電極形成用めっき浴及びそれを用いた電極形成方法を提供する。
【解決手段】(a)亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウム塩が金濃度として1〜20g/Lと、
(b)Tl化合物、Pb化合物又はAs化合物からなる結晶調整剤が金属濃度として0.1〜100mg/Lと、
(c)亜硫酸ナトリウムが5〜150g/Lと、
(d)無機酸塩、カルボン酸塩又はヒドロキシカルボン酸塩が塩濃度として1〜60g/Lと、
(e)所定の置換芳香族化合物が0.1〜200mmol/Lと、
を含有する電極形成用金めっき浴を用いて、めっきすることにより電極を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハに電極を形成させる際に好適に用いられる非シアン系の電解金めっき浴及びそれを用いた電極の形成方法に関する。特に、電極の中でも、異方性導電接着剤を用いる電極接合や、相手金属と共晶を形成させる電極接合に適した金バンプを半導体ウエハ上に形成させる際に好適に用いられる電極形成用金めっき浴及びそれを用いた電極形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非シアン系電解金めっき浴は、一般に金塩として亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムが用いられる。これら金塩と、前記金塩に由来して生成する金錯体の安定化剤として作用する水溶性アミンと、めっき皮膜の結晶調整剤としての微量のTl、Pb、又はAsの各化合物と、電解質と、緩衝剤とからなる金めっき浴が知られている。
【0003】
かかる金めっき浴を用いる電解めっきにより電子回路基板に用いられる電極が形成される。その中でも半導体ウエハ上の集積回路に形成される金バンプは、近年、半導体ウエハの回路形成電極として広く利用されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
図3は、ウエハ上に形成される従来の金バンプ断面に関する一例を示す構成図である。
【0005】
ウエハ上への金バンプの形成は、一般に次のように行われる。まず、ウエハ201上に短軸柱状のAl電極203がスパッタリング等により形成される。ウエハ201には、シリコンウエハ又はGaAs等の化合物ウエハが用いられる。次いで、パターンニングされたパッシベーション膜205がウエハ上に形成される。Al電極203の上方のパッシベーション膜205には、開口部205aが形成される。その後、スパッタリングによりTiW等の皮膜からなるUBM(Under Bump Metal)層207が形成される。このUBM層207により、パッシベーション膜205及びその開口部205aに露出しているAl電極203が被覆される。UBM層207上には金スパッタ膜209が形成され、更に金スパッタ膜209上には、レジスト膜211によりマスクが形成される。Al電極203の上方のレジスト膜211には、開口部211aが形成されている。レジスト膜211の開口部211a内の金スパッタ膜209上面には、電解金めっきにより金バンプ213が形成される。その後、レジスト膜211が除去される。続いて、金バンプ213で被覆されていない金スパッタ膜209の部分及び同UBM膜207の部分が除去される。これにより、パッシベーション膜205が露出し、金バンプ213がAl電極203上方に形成されたウエハが得られる。
【0006】
ウエハ上に形成される金バンプは、その後の工程でウエハと接合されるべき基板の電極と接合される(電極接合)。電極接合には、導電粒子が分散されたフィルム状の異方性導電接着剤を用いる電極接合や、相手金属と共晶を形成させる電極接合がある。
【0007】
近年、半導体パッケージの製造工程を簡略化し、電極接合を確実に行うことを目的として、電極と基板との電極接合に、フィルム状の異方性導電接着剤を用いて両者を熱圧着する前者の接合方法が多用されている。異方性導電接着剤は、ニッケル被覆後、金被覆された樹脂粒子等の導電粒子がエポキシ樹脂等に均一に分散されたものである。
【0008】
図3中、213aは、金バンプ213が基板と接合される金バンプ接合面である。この金バンプ接合面213aは、中央がウエハ面に対して上方に突き出た凸型になっている。また、バンプ接合面が凹型の場合や、周縁部を切り欠く形状の場合もある。バンプ接合面213aがこれらの形状の場合、異方性導電接着剤中の導電粒子がバンプ接合面の凹部や周縁部に落ち込みやすい。そのため、導電粒子は金バンプ接合面213aに均一に分散配置されず、金バンプ接合面213aの一部に偏在化する。その結果、接合時には金バンプ接合面と基板との接合面積が減少して金バンプと基板との接合力が弱まる。そのため、その後の組み立て工程において断線や接合不良による電気的欠陥が生じる。
【0009】
従って、異方性導電接着剤を用いて電極接合を行う場合には、特に接合面が平坦な電極を形成させることが必要となる。
【0010】
また、電極接合に用いられる異方性導電接着剤中の導電粒子や金バンプと共晶を形成する相手金属の硬度は一様に特定することが出来ない。そのため、様々な不具合が発生する。
【0011】
例えば、異方性導電接着剤中の導電粒子に比べて電極の硬度が低い場合には、熱圧着時に導電粒子が電極に埋まってしまう。その結果、電極接合の際に電極と基板との間において導電粒子が熱圧着されず、電極と基板との電極接合が不十分になる。一方、異方性導電接着剤中の導電粒子に比べて電極の硬度が高すぎると、熱圧着時に導電粒子が押しつぶされて電極と基板とが電極接合しない。
また、相手金属と共晶を形成させる電極接合の場合には共晶を形成する相手金属に比べて電極の硬度が高すぎると、電極が相手金属にめり込むことができず十分な共晶を形成しない。その結果、断線や接合不良による電気的欠陥を生じさせる。
【0012】
従って、異方性導電接着剤や、相手金属と形成した共晶で電極接合を行う場合、適切な硬度を有する電極を選択的に形成させることが必要となる。
【0013】
従来の電解金めっき浴を用いて電極を形成させる場合には、異方性導電接着剤を用いた方法と共晶形成による方法の両方に対応した電極接合が困難となっている。即ち、接合面を平坦に維持し、且つ熱処理を施した後に所望の硬度を有した電極を得ることができない。ここでいう所望の硬度とは異方性導電接着剤を用いた電極接合では50〜120HV、相手金属と形成した共晶で電極接合を行う場合は35〜60HVであり、この硬度は熱処理を施した後の硬度をいう。
【0014】
以上のように、電極の形状と硬度は、電極と基板との接合性に大きな影響を及ぼす。従って、電極は電気伝導性、耐酸化性等に優れていることに加え、所定の形状、硬度を有していることが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−092156号公報
【特許文献2】特開2006−322037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、めっき皮膜の外観が均一であり、且つ異方性導電接着剤を用いる電極接合や、相手金属と共晶を形成させる電極接合に適した形状を有し、熱処理により所望の硬度とすることが出来る電極を形成させるための電極形成用金めっき浴を提供することにある。本発明の他の目的は、このめっき浴を用いる電解めっきにより、めっき皮膜の外観が均一であり、且つ所定の形状、硬度を有する電極を形成させるめっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は上記課題を解決すべく検討を行った結果、電極を形成させる際のめっき浴に所定の置換芳香族化合物を配合し、伝導塩として亜硫酸ナトリウムを配合することにより、めっき皮膜の外観が均一であり、接合面が平坦な電極が得られることを見出した。かかる電極は熱処理後の硬度を、電極と基板との電極接合に適する35〜120HVの範囲で任意に調整することが出来るものである。
【0018】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0019】
〔1〕
(a)亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムが金濃度として1〜20g/Lと、
(b)Tl化合物、Pb化合物、As化合物、から選択される1種又は2種以上の化合物が金属濃度として0.1〜100mg/Lと、
(c)伝導塩として亜硫酸ナトリウムが5〜150g/Lと、
(d)無機酸塩、カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、から選択される1種又は2種以上の化合物が塩濃度として1〜60g/Lと、
(e)安息香酸類、芳香族カルボン酸類、芳香族スルホン酸類、ピリジン類、及びこれらの塩、から選択される1種又は2種以上の置換芳香族化合物が0.1〜200mmol/Lと、
を含有する電極形成用金めっき浴。
【0020】
本発明には以下に記載する発明も含まれる。
【0021】
〔2〕
安息香酸類が、2−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,3,4−トリヒドロキシ安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸、2−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、4−アミノ安息香酸、2−ニトロ安息香酸、3−ニトロ安息香酸、4−ニトロ安息香酸、2,4−ジニトロ安息香酸、2,6−ジニトロ安息香酸、3,5−ジニトロ安息香酸、から選択される1種又は2種以上である〔1〕記載の電極形成用金めっき浴。
【0022】
〔3〕
芳香族カルボン酸類(安息香酸類を除く)が、DL−4−ヒドロキシマンデル酸、ピロメリット酸、メタニル酸、2−ヒドロキシ−m−トルイル酸、イソバニリン酸、1−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、から選択される1種又は2種以上である 〔1〕に記載の電極形成用金めっき浴。
【0023】
〔4〕
芳香族スルホン酸が、1−ナフトール−8−スルホン酸、2−ナフトール−7−スルホン酸、2−ナフトール−6,8−ジスルホン酸、2−アミノ−5−ナフトール−7−スルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,7−ナフタレンジスルホン酸、ガンマ酸、ナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸、メタニル酸、アミノJ酸、クロセイン酸、から選択される1種又は2種以上である〔1〕に記載の電極形成用金めっき浴。
【0024】
〔5〕
ピリジン類が、2−ピリジンカルボン酸、3−ピリジンカルボン酸、4−ピリジンカルボン酸、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン、から選択される1種又は2種以上である〔1〕に記載の電極形成用金めっき浴。
【0025】
〔6〕
〔1〕〜〔5〕の何れかに記載の電極形成用金めっき浴を用いてウエハをめっきすることにより、レジスト膜の開口部内に電極を形成した後、前記ウエハを150〜400℃で5分間以上熱処理することにより、硬度が35〜120HVで、接合面の高低差が2μm以内の電極をウエハに形成する電極形成方法。
【0026】
〔7〕
電流密度が0.2〜2.0A/dm、液温が40〜70℃で電解金めっきをする〔6〕に記載の電極形成方法。
【0027】
〔8〕
電極が金バンプである〔6〕に記載の電極形成方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明のめっき浴を用いて形成する電極は、平坦な接合面と所定の硬度を有しているので、半導体製造工程において異方性導電接着剤を介した電極接合や、相手金属と共晶を形成させる電極接合が簡単かつ確実に行える。加えて、断線や接合不良を生じる割合が極めて低い。特に、電極の熱処理後硬度を異方性導電接着剤による電極接合や、相手金属との共晶を形成させる電極接合に適した35〜120HVの範囲で任意の値に制御することができる。そのため、このめっき浴は金バンプの形成に好適である。
【0029】
本発明のめっき浴を用いて形成する電極は、めっき皮膜が均一であり、電気伝導性、耐酸化性等に優れている。
【0030】
本発明のめっき浴を用いて形成する電極は接合面のみならず、レジスト膜と接する電極の側面にも膨らみが生じない。そのため、レジスト膜の開口部形状に沿った電極が形成できる。従って、側面が平面で構成された角柱状、多角柱状の電極や、均一径の円柱状電極を形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の金めっき浴を用いて形成される金バンプ断面に関する一例を示す構成図である。
【図2】実施例1の金バンプ外観を示す金属顕微鏡による図面代用写真である。
【図3】従来の金めっき浴を用いて形成される金バンプ断面に関する一例を示す構成図である。
【図4】比較例1の金バンプ外観を示す金属顕微鏡による図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の電極形成用金めっき浴の必須成分につき成分毎に説明する。
【0033】
(1)亜硫酸金アルカリ塩、亜硫酸金アンモニウム(金源)
本発明の電極形成用金めっき浴に使用する亜硫酸金アルカリ塩としては、公知の亜硫酸金アルカリ塩を制限することなく使用できる。例えば、亜硫酸金(I)ナトリウムや亜硫酸金(I)カリウム等が挙げられる。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を併用しても良い。
【0034】
亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムの配合量は、金濃度として1〜20g/Lで、10〜16g/Lが好ましい。1g/L未満であると、めっき皮膜の厚さが不均一になる。20g/Lを超えると、めっき皮膜の特性等は問題ないが、製造コストが高くなる。
【0035】
(2)Tl化合物、Pb化合物、As化合物(結晶調整剤)
本発明の電極形成用金めっき浴に使用する結晶調整剤としては、蟻酸タリウム、マロン酸タリウム、硫酸タリウム、及び硝酸タリウム等のTl化合物; クエン酸鉛、硝酸鉛、及びアルカンスルホン酸鉛等のPb化合物; 三酸化二砒素等のAs化合物が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
結晶調整剤の配合量は、金属濃度として0.1〜100mg/Lで、0.5〜50mg/Lが好ましく、10〜35mg/Lが特に好ましい。0.1mg/L未満であると、めっき付きまわり、めっき浴の安定性及び耐久性が悪化する。また、めっき浴の構成成分が分解する場合もある。100mg/Lを超えると、めっき付きまわりの悪化、およびめっき皮膜に外観ムラが生じる。
【0037】
(3)亜硫酸ナトリウム(伝導塩)
本発明の電極形成用金めっき浴においては、伝導塩として亜硫酸ナトリウムを使用する。亜硫酸ナトリウムの配合量は、5〜150g/Lで、10〜80g/Lが好ましく、30〜60g/Lが特に好ましい。5g/L未満であると、電極形状の膨らみが充分に抑制されず、接合面が平坦な電極が得られない。また、めっき付きまわりが不均一となりめっき浴安定性が悪化する。その結果、めっき浴の構成成分が分解する場合もある。150g/Lを超えると、限界電流密度が低下してヤケめっきとなる。
【0038】
(4)無機塩、カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸(緩衝剤)
本発明の電極形成用金めっき浴に使用する緩衝剤としては、公知のものが使用できる。例えば、リン酸塩やホウ酸塩等の無機酸塩、クエン酸塩、フタル酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩等の有機酸(カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸)塩等が挙げられる。
【0039】
緩衝剤の配合量は、1〜60g/Lで、5〜40g/Lが好ましく、10〜30g/Lが特に好ましい。1g/L未満であると、pHが低下してめっき浴安定性が悪化し、めっき浴の構成成分が分解する場合もある。60g/Lを超えると、限界電流密度が低下してヤケめっきとなる。
【0040】
(5)置換芳香族化合物
本発明の電極形成用金めっき浴に配合する置換芳香族化合物は、20℃の水に0.1〜200mmol/L溶解する化合物が選ばれる。
【0041】
例えば、2−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,3,4−トリヒドロキシ安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸、2−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、4−アミノ安息香酸、2−ニトロ安息香酸、3−ニトロ安息香酸、4−ニトロ安息香酸、2,4−ジニトロ安息香酸、2,6−ジニトロ安息香酸、3,5−ジニトロ安息香酸等の安息香酸類及びその塩、
DL−4−ヒドロキシマンデル酸、ピロメリット酸、メタニル酸、2−ヒドロキシ−m−トルイル酸、イソバニリン酸、1−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族カルボン酸類(安息香酸類を除く)及びその塩、
1−ナフトール−8−スルホン酸、2−ナフトール−7−スルホン酸、2−ナフトール−6,8−ジスルホン酸、2−アミノ−5−ナフトール−7−スルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,7−ナフタレンジスルホン酸、ガンマ酸、ナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸、メタニル酸、アミノJ酸、クロセイン酸等の芳香族スルホン酸類及びその塩、
2−ピリジンカルボン酸、3−ピリジンカルボン酸、4−ピリジンカルボン酸、キノリン酸、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン等のピリジン類及びその塩が挙げられる。
【0042】
置換芳香族化合物の配合量は、0.1〜200mmol/Lで、0.2〜150mmol/Lが好ましい。0.1mmol/L未満であると、接合面が平坦な電極が得られない。200mmol/Lを超える場合には、めっき液に溶解しないか、限界電流密度が低下してヤケめっきとなる。
【0043】
置換芳香族化合物の配合量を上記範囲内で調整することにより、熱処理後の電極の硬度を35〜120HVの範囲で調整することが可能となる。なお、置換芳香族化合物の配合量が多いほど電極の硬度は高くなる。
【0044】
本発明の電極形成用金めっき浴には、本発明の目的を損なわない範囲でpH調整剤等の他の成分を適宜使用してもよい。pH調整剤としては、例えば、酸としては硫酸、亜硫酸水、りん酸等、アルカリとしては水酸化ナトリウム、アンモニア水等が挙げられる。
【0045】
本発明の電極形成用金めっき浴を用いるめっきにより半導体ウエハへ電極を形成させるには、常法に従ってめっき操作を行えば良い。以下、本発明の電極形成用金めっき浴を用いて半導体ウエハへ金バンプを形成させる方法について説明する。
【0046】
図1は、本発明の電極形成用金めっき浴を用いてウエハ上に形成される金バンプ断面に関する一例を示す構成図である。図1中、11はウエハで、シリコンウエハ、又はGaAs等の公知の化合物ウエハが用いられる。まず、ウエハ11上に短軸柱状のAl電極13をスパッタリング等で形成させる。次いで、パターンニングされたパッシベーション膜15を形成させる。パッシベーション膜15には、Al電極13の上方に開口部15aを形成させる。その後、スパッタリングによりTiW等の皮膜からなるUBM層17を形成させる。このUBM層17により、パッシベーション膜15及びその開口部15aを通して露出しているAl電極13を被覆させる。UBM層17上には金スパッタ膜19を形成させ、更に金スパッタ膜19上には、レジスト膜21によりマスクを形成させる。レジスト膜21には、Al電極13の上方に開口部21aが形成されている。上記工程は公知の方法により行うことが出来る。本発明の電極形成用めっき浴を用いて、開口部21aを形成したウエハのめっきを行う。これにより、レジスト膜21の開口部21a内には、金バンプ23が形成される。その後、レジスト膜21を公知の方法により除去し、続いて金バンプ23で被覆されていない金スパッタ膜19の部分及び同UBM膜17の部分を公知の方法により除去する。これにより、パッシベーション膜15が露出し、金バンプ23が形成されたウエハが得られる。
【0047】
上記により形成する金バンプ接合面23aは平坦で、バンプ接合面の高低差(後述)は2μm以下である。
【0048】
マスク剤には、ノボラック系ポジ型フォトレジストを使用することができる。市販品としては、例えばLA−900、HA−900(以上、東京応化工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0049】
めっき温度は通常40〜70℃で、50〜65℃が好ましい。めっき浴温度が40〜70℃の範囲外の場合は、めっき皮膜が析出しにくい場合がある。また、めっき浴が不安定となり、めっき浴構成成分が分解する場合もある。
【0050】
めっきに使用する設定電流密度はめっき液の組成、温度等の条件により適切な範囲が異なるので適宜決定すればよい。例えば、金濃度が8〜15g/L、60℃のめっき浴温度の条件下において、2.0A/dm以下、好ましくは0.2〜1.2A/dmである。設定電流密度が上記範囲を外れると作業性が悪くなる場合がある。また、めっき皮膜外観やめっき皮膜特性に異常が生じる場合がある。更には、著しくめっき浴が不安定となり、めっき浴構成成分の分解を生じる場合もある。
【0051】
本発明の電極形成用金めっき浴のpHは、7.0以上で、7.2〜10.0が好ましい。7.0未満であると、著しくめっき浴が不安定となり、めっき浴構成成分の分解を生じる場合もある。10.0を超える場合は、マスク材がめっき浴に溶解し、所望の金バンプが形成されない場合がある。
【0052】
本発明の電極形成用金めっき浴は、金源およびめっき浴を構成するその他の成分を補充管理することにより、2ターン(めっき浴中の金量全てをめっきに消費した場合を1ターンとする)以上の使用を行うことも出来る。
【0053】
本発明の電極形成用金めっき浴は、素地がメタライズされ、導通のとれるものであれば被めっき物を選ばない。ノボラック系ポジ型フォトレジストをマスク材に使用してパターンニングしたシリコンウエハ上やGa/Asウエハなどの化合物ウエハの回路上に金バンプを形成させる際に特に好適に使用することができる。
【0054】
次いで、電極が形成されるウエハの熱処理を行う。熱処理は、150〜400℃で5分間以上加熱することにより行う。より好ましい熱処理は、200〜350℃で20〜30分間加熱することにより行う。熱処理は、チャンバー内部を設定温度に一定時間保持できるファインオーブン等を用いて行う。この熱処理により、電極の硬度は35〜120HVになる。
【実施例】
【0055】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0056】
(実施例1〜49、比較例1〜10)
表1〜6に示す配合にて非シアン系電解金めっき浴を調整した。各原料の配合濃度の単位は特に断りのない限り(g/L)である。但し、Na3Au(SO32は金元素の濃度を示してある。
【0057】
被めっき物としてノボラック系ポジ型フォトレジストでパターンニングされたバンプ開口部を有するシリコンウエハ(素地断面組成は金スパッタ膜/TiW/SiO)を用いた。60℃に保持した各めっき浴1L中に、上記のバンプ開口部を有するシリコンウエハを浸漬し、0.8A/dmで35分間めっきを施すことにより18μmの膜厚を有するめっき皮膜を形成させた。なお、非シアン系電解金めっき浴の電流効率は定常のめっき操作条件下では通常、100%である。
【0058】
その後、マスク剤を除去し、形成させたバンプの形状、浴安定性、めっき皮膜外観、皮膜硬度(未熱処理、200℃×30分、300℃×30分熱処理後)につき下記方法および基準にて評価を行った。結果を表1〜6に示す。
【0059】
〔バンプ形状の評価(μm)〕
図1に示すように、シリコンウエハ上にノボラック系ポジ型フォトレジストを使用して、一辺が100μmの正方形開口部を有するパターンニングを行った。電解金めっき浴を用いてめっきを施した後、ノボラック系ポジ型フォトレジストをメチルエチルケトンにより溶解させた。得られた金バンプについて、キーエンス社製レーザー顕微鏡VK−9710を用いてバンプ接合面の最高点(ウエハ表面とバンプ接合面との距離の最大点)とバンプ接合面の最下点(ウエハ表面とバンプ接合面との距離の最小点)の差を高低差として計測し、平滑さの指標とした。なお、通常、バンプめっき用途において求められる高低差は3μm以下で、2μm以下が望ましいとされる。
【0060】
〔浴安定性〕
被めっき物へめっきを施した後の、めっき浴の様子を観察し、下記基準にて評価した。
×:めっき浴中に金の沈殿が肉眼で判るレベルで観察された。
○:めっき浴中に金の沈殿は観察されなかった。
【0061】
〔めっき皮膜外観〕
被めっき物上に形成された金バンプの表面皮膜外観を観察し、下記基準にて評価した。
×:色調が赤い、デンドライト状析出が見られる、ムラが認められる、またはヤケが発生している。
○:均一外観である。
【0062】
〔皮膜硬度(ビッカース硬さ;HV)〕
被めっき物上に形成される特定部位の金バンプの皮膜硬さ(未熱処理、200℃×30分熱処理後、300℃×30分熱処理後)を、ミツトヨ社製微小硬さ試験機HM−221にて測定した。なお、測定には、一辺が100μmの正方形バンプを用い、測定条件は、測定圧子を25gf荷重で10秒保持する条件によった。
【0063】
〔総合評価〕
上記各評価結果から、下記評価基準にて評価した。
○:形成された金めっき皮膜(金バンプ) およびめっき処理後の非シアン系電解金めっき浴に関する上記評価結果が、全て良好な結果であった。
×:形成された金めっき皮膜(金バンプ) およびめっき処理後の非シアン系電解金めっき浴に関する上記評価結果に、好ましくない結果が含まれた。
【0064】
(比較例9)
実施例1の置換芳香族化合物A:50(mmol/L)を、プロピオン酸(脂肪族カルボン酸)100(mmol/L)に変え、実施例1に準じてめっき皮膜を形成させた。得られた金バンプの皮膜硬度(200℃で30分熱処理後)は55HV、(300℃で30分熱処理後)は51HV、高低差は3.7μmであり、めっき皮膜は不均一な外観となった。
【0065】
(比較例10)
実施例1の置換芳香族化合物A:50(mmol/L)を、ヒドロキシメタンスルホン酸(脂肪族スルホン酸)100(mmol/L)に変え、実施例1に準じてめっき皮膜を形成させた。得られた金バンプの皮膜硬度(200℃で30分熱処理後)は52HV、(300℃で30分熱処理後)は46HV高低差は4.0μmであり、めっき皮膜は不均一な外観となった。
【0066】
本発明の電極形成用金めっき浴を用いて形成させた金バンプ(実施例1〜49)の接合面の高低差はいずれも2μm以下であった。一方、本発明の電極形成用金めっき浴を用いずに形成させた金バンプ(比較例1、9、10)の接合面の高低差は2μmを超えた。
【0067】
本発明の電極形成用金めっき浴を用いて形成させた金バンプ(実施例1〜49)の熱処理後の硬度はいずれも35〜120HVであった。また、置換芳香族化合物の濃度を変化させることで、熱処理後の硬度を35〜120HVの範囲で任意に選択できた。
【0068】
本発明の電極形成用金めっき浴を用いて形成させた金バンプ(実施例1〜49)のめっき皮膜外観はいずれも均一で良好であった。一方、本発明の電極形成用金めっき浴を用いずに形成させた金バンプ(比較例1〜8)のめっき皮膜外観は色調が赤い、デンドライト状析出が見られる、ムラが認められる又はヤケが発生している。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【符号の説明】
【0069】
11 ウエハ
13 Al電極
15 パッシベーション膜
15a パッシベーション膜の開口部
17 UBM層
19 金スパッタ膜
21 レジスト膜
21a レジスト膜の開口部
23 金バンプ
23a 金バンプの接合面
201 ウエハ
203 Al電極
205 パッシベーション膜
205a パッシベーション膜の開口部
207 UBM層
209 金スパッタ膜
211 レジスト膜
211a レジスト膜の開口部
213 金バンプ
213a 金バンプの接合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムが金濃度として1〜20g/Lと、
(b)Tl化合物、Pb化合物、As化合物、から選択される1種又は2種以上の化合物が金属濃度として0.1〜100mg/Lと、
(c)伝導塩として亜硫酸ナトリウムが5〜150g/Lと、
(d)無機酸塩、カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、から選択される1種又は2種以上の化合物が塩濃度として1〜60g/Lと、
(e)安息香酸類、芳香族カルボン酸類、芳香族スルホン酸類、ピリジン類、及びこれらの塩、から選択される1種又は2種以上の置換芳香族化合物が0.1〜200mmol/Lと、
を含有する電極形成用金めっき浴。
【請求項2】
安息香酸類が、2−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,3,4−トリヒドロキシ安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸、2−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、4−アミノ安息香酸、2−ニトロ安息香酸、3−ニトロ安息香酸、4−ニトロ安息香酸、2,4−ジニトロ安息香酸、2,6−ジニトロ安息香酸、3,5−ジニトロ安息香酸、から選択される1種又は2種以上である請求項1記載の電極形成用金めっき浴。
【請求項3】
芳香族カルボン酸類(安息香酸類を除く)が、DL−4−ヒドロキシマンデル酸、ピロメリット酸、メタニル酸、2−ヒドロキシ−m−トルイル酸、イソバニリン酸、1−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、から選択される1種又は2種以上である請求項1に記載の電極形成用金めっき浴。
【請求項4】
芳香族スルホン酸が、1−ナフトール−8−スルホン酸、2−ナフトール−7−スルホン酸、2−ナフトール−6,8−ジスルホン酸、2−アミノ−5−ナフトール−7−スルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,7−ナフタレンジスルホン酸、ガンマ酸、ナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸、メタニル酸、アミノJ酸、クロセイン酸、から選択される1種又は2種以上である請求項1に記載の電極形成用金めっき浴。
【請求項5】
ピリジン類が、2−ピリジンカルボン酸、3−ピリジンカルボン酸、4−ピリジンカルボン酸、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン、から選択される1種又は2種以上である請求項1に記載の電極形成用金めっき浴。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の電極形成用金めっき浴を用いてウエハをめっきすることにより、レジスト膜の開口部内に電極を形成した後、前記ウエハを150〜400℃で5分間以上熱処理することにより、硬度が35〜120HVで、接合面の高低差が2μm以内の電極をウエハに形成する電極形成方法。
【請求項7】
電流密度が0.2〜2.0A/dm、液温が40〜70℃で電解金めっきをする請求項6に記載の電極形成方法。
【請求項8】
電極が金バンプである請求項6に記載の電極形成方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−12314(P2011−12314A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158059(P2009−158059)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000228198)エヌ・イーケムキャット株式会社 (87)
【Fターム(参考)】