説明

電極材料、及びそれを用いたリチウムイオン電池

【課題】製造コストが安く、硫化水素発生量の少ない硫化物系固体電解質と理論容量が高い正極活物質を用いて得られる電極材料を提供する。
【解決手段】硫黄、及び硫黄原子を含む化合物の少なくとも1つ、導電性物質、並びにリチウム原子、リン原子及び硫黄原子を含む固体電解質を含む電極材料であって、固体31PNMRスペクトルにおいて、前記固体電解質が86.1±0.6ppm及び83.0±1.0ppmの少なくとも一方にピークを有し、前記ピークに含まれるリン原子の割合が、全てのピークに含まれるリン原子に対して62mol%以上である電極材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料、及びそれを用いたリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現行のリチウムイオン電池には、電解質として有機系電解液が主に用いられている。しかしながら、上記有機系電解液は高いイオン伝導度を示すものの、電解液が可燃性の液体であることから、漏洩、発火等の危険性が懸念されていた。
このような懸念から、次世代リチウムイオン電池用電解質として、より安全性の高い固体電解質の開発が期待されている。
【0003】
漏洩、発火等の危険性がない電池として、イオウ元素、リチウム元素及びリン元素を主成分として含有する硫化物系固体電解質を用いた全固体リチウム電池の研究がなされている。
この全固体リチウム電池の正極にはコバルト酸リチウム(LiCoO:LCO)、負極にはカーボンを用いることが一般的であるが(特許文献1)、LCO等の正極活物質は電気容量が低く、高容量の全固体リチウム電池を実現させることは不可能であった。
【0004】
全固体リチウム電池の電気容量を高めるために、理論容量が1672mAh/gである硫黄を正極に用いる方法が検討されているが、硫黄は電気伝導性が小さいため、正極に硫黄を用いる場合には、何らかの方法によって導電性を確保する必要があった。
【0005】
硫黄の導電性を確保するために、炭素の細孔に硫黄を真空加熱含浸する方法が提案され(特許文献2)、当該方法で得られる硫黄−炭素複合体に、チオリシコンLi3.25Ge0.250.75を混合した正極材料を作製し、同じチオリシコン(Li3.25Ge0.250.75)の固体電解質を用いた全固体リチウム電池が開示されている。これは、チオリシコンのイオン伝導度は10−3S/cm程度であり、理論容量の大きな硫黄と導電性を確保するための炭素とイオン伝導度の高いチオリシコンからなる正極を用いることで、高容量化全固体リチウム電池を実現しようとしたものと考えられる。
固体電解質のイオン伝導度が高くないと電極中のイオンの伝導スピードが遅くなり、電池性能が低くなるという欠点をイオン伝導度の高いチオシリコンを用いることで防いでいる。しかし、チオリシコンはGeを含むため、原料費が高いととともに、その製造方法が急冷法により製造する必要があるため、製造コストが高くなるという欠点がある。また、電池性能も高くないという欠点があった。
【0006】
原料比が安価であり、かつ製造コストも安く、かつイオン伝導度も高い固体電解質としてLi11結晶構造を有する固体電解質があるが(例えば特許文献3)、当該固体電解質は硫化水素の発生量が多いという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−257878号公報
【特許文献2】特開2010−95390号公報
【特許文献3】特開2005−228570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、製造コストが安く、硫化水素発生量の少ない硫化物系固体電解質と理論容量が高い正極活物質を用いて得られる電極材料を提供することである。
本発明の目的は、全固体リチウム電体の電池性能を高めることができる電極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の電極材料等が提供される。
1.硫黄、及び硫黄原子を含む化合物の少なくとも1つ、導電性物質、並びにリチウム原子、リン原子及び硫黄原子を含む固体電解質を含む電極材料であって、
固体31PNMRスペクトルにおいて、前記固体電解質が86.1±0.6ppm及び83.0±1.0ppmの少なくとも一方にピークを有し、前記ピークに含まれるリン原子の割合が、全てのピークに含まれるリン原子に対して62mol%以上である電極材料。
2.固体31PNMRスペクトルにおいて、前記固体電解質が91.0±0.6ppm及び90.5±0.6ppmの少なくとも一方にピークを有し、前記ピークに含まれるリン原子の割合が、全てのピークに含まれるリン原子に対して15mol%未満である1に記載の電極材料。
3.Li11構造のガラスセラミックス固体電解質50mgを直径10mmのステンレス製の金型に投入し、加圧成型してなる固体電解質層;1又は2に記載の電極材料を固体電解質層上に7.2mg投入し加圧成型してなる正極;及び正極とは反対側の固体電解質層上の、インジウム箔(厚さ0.3mm、9.5mmφ)及びリチウム箔(厚さ0.2mm、9.5mmφ)からなる負極からなる3層構造としたリチウムイオン電池において、
放電の電流密度0.500mA/cm、充放電電位範囲0.5−2.2V、充放電温度25℃で定電流充放電試験を行った結果の硫黄あたりの放電容量が1000mAh/g以上である1又は2に記載の電極材料。
4.Li11構造のガラスセラミックス固体電解質50mgを直径10mmのステンレス製の金型に投入し、加圧成型してなる固体電解質層;1又は2に記載の電極材料を固体電解質層上に7.2mg投入し加圧成型してなる正極;及び正極とは反対側の固体電解質層上の、インジウム箔(厚さ0.3mm、9.5mmφ)及びリチウム箔(厚さ0.2mm、9.5mmφ)からなる負極からなる3層構造としたリチウムイオン電池において、
充放電の電流密度0.500mA/cm、充放電電位範囲0.5−2.2V、充放電温度25℃で定電流充放電試験を繰り返し行ったときの1回目の放電容量に対し、30回目の放電容量の割合(維持率)が80%以上である1〜3のいずれかに記載の電極材料。
5.1〜4のいずれかに記載の電極材料を含む電極。
6.1〜4のいずれかに記載の電極材料を用いて製造した電極。
7.5又は6に記載の電極、及び固体電解質からなる電解質層を含むリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造コストが安く、硫化水素発生量の少ない硫化物系固体電解質と理論容量が高い正極活物質を用いて得られる電極材料が提供できる。
本発明によれば、全固体リチウム電体の電池性能を高めることができる電極材料が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の正極材料の固体31PNMRの測定結果を示す図である。
【図2】実施例2の正極材料の固体31PNMRの測定結果を示す図である。
【図3】比較例1の正極材料の固体31PNMRの測定結果を示す図である。
【図4】比較例2の正極材料の固体31PNMRの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[電極材料]
本発明の電極材料は、硫黄、及び硫黄原子を含む化合物の少なくとも1つ、導電性物質、並びにリチウム原子、リン原子及び硫黄原子を含む固体電解質を含む電極材料である。
本発明の電極材料は、固体31PNMRスペクトルにおいて、電極材料中の固体電解質が86.1±0.6ppm及び83.0±1.0ppmの少なくとも一方にピークを有し、当該ピークに含まれるリン原子の割合が、全てのピークに含まれるリン原子に対して62mol%以上である。
尚、86.1±0.6ppm及び83.0±1.0ppmのピークを生じるリン原子の比率とは、固体31PNMRスペクトルにより測定されるリン原子の全量に対して、特定のピークに含まれるリン原子の比率を意味する。また、上記において、「全てのピーク」とは、例えばピークの最大強度に対して、3%以上の強度があるピーク強度を有する全てのピークを意味する。
【0013】
電極材料中の固体電解質が、固体31PNMRスペクトルにおいて、86.1±0.6ppm及び83.0±1.0ppmの少なくとも一方にピークを有することは、PS3−構造体を有していることを示す。
また、86.1±0.6ppm及び83.0±1.0ppmのピークに含まれるリン原子の割合が、全てのピークに含まれるリン原子に対して62mol%以上であることは、上記PS3−構造体が全体の構造体の62mol%以上であると推測される。86.1±0.6ppm及び83.0±1.0ppmのピークに含まれるリン原子の割合は、好ましくは65mol%以上であり、より好ましくは70mol%以上である。
【0014】
本発明の電極材料では、リチウム原子、リン原子及び硫黄原子を含む固体電解質がPS3−構造体を有し、且つ当該PS3−構造体が全構造体の62mol%以上であることにより、高いイオン伝導度を示すことができ、加水分解もし難くなる。
また、上記固体電解質を本発明の電極材料の材料に用いて製造しても構造体の変化が少ない。
【0015】
本発明の電極材料は、好ましくはリチウム原子、リン原子及び硫黄原子を含む固体電解質が、固体31PNMRスペクトルにおいて、さらに91.0±0.6ppm及び90.5±0.6ppmの少なくとも一方にピークを有し、当該ピークに含まれるリン原子の割合が、全てのピークに含まれるリン原子に対して20mol%未満である。91.0±0.6ppm及び90.5±0.6ppmの少なくとも一方にピークを有することは、P4−構造体を有していることを示す。
上記91.0±0.6ppm及び90.5±0.6ppmに含まれるリン原子の割合は、より好ましくは18mol%未満であり、さらに好ましくは15mol%未満である。
【0016】
本発明の電極材料において、L:硫黄単体及び/又は硫黄原子を含む化合物、M:導電性物質、並びにN:リチウム原子、リン原子及び硫黄原子を含む固体電解質の含有割合は、好ましくはL:M:N=0.4〜165:0.1〜76:10(重量比)であり、より好ましくはL:M:N=3〜19:1〜12:10(重量比)であり、さらに好ましくはL:M:N=3〜16:1.5〜13:10(重量比)である。
尚、Lは硫黄単体及び硫黄原子を含む化合物の合計重量を表わし、Mは導電性物質の合計重量を表わし、Nはリチウム原子、リン原子及び硫黄原子を含む固体電解質の合計重量を表わす。
本発明の電極材料が、上記範囲を逸脱して固体電解質の含有量が多い場合、電極の質量当たりの充放電容量が小さくなるおそれがある。一方、本発明の電極材料が、上記範囲を逸脱して固体電解質の含有量が少ない場合、イオン伝導性が悪くなるおそれがある。
また、本発明の電極材料が、上記範囲を逸脱して導電性物質の含有量が多い場合、電気容量が小さくなるおそれがある。一方、本発明の電極材料が、上記範囲を逸脱して導電性物質の含有量が少ない場合、電気抵抗が高くなるおそれがある。
【0017】
以下、本発明の電極材料の各構成材料について説明する。
[硫黄、及び硫黄原子を含む化合物]
本発明の電極材料が含む硫黄としては、特に限定はないが、好ましくは純度が95%以上の硫黄単体であり、より好ましくは純度が96%以上の硫黄単体であり、特に好ましくは純度が97%以上の硫黄単体である。
硫黄の純度が95%未満の場合、不可逆容量の原因となるおそれがある。
硫黄単体の結晶系としては、α硫黄(斜方晶系)、β硫黄(単斜晶系)、γ硫黄(単斜晶系)、無定形硫黄等が挙げられ、これらは単独でも2種以上でも併用可能である。
【0018】
硫黄原子を含む化合物は、リチウムイオン電池に電極材料として用いることができる、いわゆる活物質といわれる化合物であり、例えば、LiS、Li、Li、Li等を挙げることができる。
【0019】
本発明の電極材料は、硫黄、及び硫黄原子を含む化合物の少なくとも1つを含めばよく、硫黄単体のみを含む場合、硫黄原子を含む化合物のみを含む場合、硫黄単体と硫黄原子を含む化合物の両方を含む場合がある。
これらの場合において、2種以上の硫黄単体を含んでもよく、2種以上の硫黄原子を含む化合物を含んでもよい。
【0020】
[導電性物質]
導電性物質は、電気伝導率が1.0×10S/m以上の物質であり、好ましくは1.0×10S/m以上の物質であり、より好ましくは1.0×10S/m以上の物質である。
上記導電性物質は、細孔を有することが好ましい。細孔を有することにより、硫黄や硫黄系化合物を細孔内に含めることができ、硫黄等と導電性物質の接触面積を増やすことができると共に、硫黄等の比表面積を大きくすることができる。
導電性物質の形状は特に限定されず、粒子状導電性物質であってもよく、板状導電性物質であってもよく、棒状導電性物質であってもよい。例えば、板状導電性物質としてはグラフェンが挙げられ、棒状導電性物質としては、例えば、カーボンナノチューブ等であり、粒子状導電性物質としては、表面積が大きく、細孔容量が大きく、かつ電子伝導性が高いケッチェンブラックや活性炭が挙げられる。
【0021】
導電性物質としては、炭素、金属粉末、金属化合物等が挙げられ、好ましくは炭素が挙げられる。本発明の電極材料が導電性物質として炭素を含む場合、炭素は、導電度が高く、且つ軽いために、質量当りのエネルギー密度が高い電池を得ることができる。
より好ましくは、導電性物質は、細孔を有する多孔質炭素である。
導電性物質である多孔質炭素としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック;黒鉛、炭素繊維、活性炭等の炭素が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
導電性物質は、好ましくは細孔を有し、当該細孔容量が0.5cc/g以上4.0cc/g以下である導電性物質である。当該細孔容量は、より好ましくは0.6cc/g以上3.95cc/g以下であり、特に好ましくは0.75cc/g以上3.9cc/g以下である。また、導電性物質は、好ましくは細孔を有し、当該平均細孔直径が100nm以下である導電性物質である。当該平均細孔直径は、より好ましくは1nm以上100nm以下であり、さらに好ましくは1nm以上18nm以下であり、最も好ましくは2nm以上17nm以下である。
導電性物質が細孔を有することで、硫黄及び/又は硫黄原子を含む化合物と複合化することができ、電極材料の電子伝導性を高めることができる。
導電性物質の細孔容量が0.5cc/g未満の場合、導電性物質内部の硫黄系化合物含有量が少なくなるおそれがあり、電気容量が高いリチウムイオン電池を得ることが困難になるおそれがある。一方、導電性物質の細孔容量が4.0cc/g超の場合、硫黄系化合物と複合化しても電子伝導性が十分に確保できないおそれがある。
導電性物質の平均細孔直径が1nm未満の場合、細孔内に硫黄系化合物を含浸させることが困難となるおそれがある。一方、導電性物質の平均細孔直径が100nm超である場合、細孔内に含浸した硫黄系化合物が活物質として十分に機能しないおそれがある。
【0023】
導電性物質が多孔質炭素である場合の当該多孔質炭素のBET比表面積は、平均細孔直径が小さい場合(1〜15nm)には200m/g以上4500m/g以下であることが好ましく、平均細孔直径が大きい場合(15〜18nm)には、100m/g以上2500m/g以下であることが好ましい。
例えば硫黄と多孔質炭素を複合化した硫黄−多孔質炭素複合体が、固体電解質との接触面積を確保するためには、多孔質炭素の比表面積は大きい方がよいが、大きすぎると、平均細孔直径が小さくなるため、硫黄を細孔内に含有させにくい。多孔質炭素の比表面積が小さいと、平均細孔直径は大きくなり、硫黄の含有が容易になるが、含有された硫黄の粒子径が大きくなってしまい、細孔内に含有された硫黄が活物質として十分に機能しないおそれがある。よって、多孔質炭素のBET比表面積は、平均細孔直径が小さい場合(1〜15nm)には450m/g以上4500m/g以下であることがより好ましく、特に650m/g以上4000m/g以下であることが好ましい。平均細孔直径が大きい場合(15〜18nm)には、400m/g以上2000m/g以下であることがより好ましく、特に、600m/g以上1800m/g以下であることが好ましい。
【0024】
導電性物質のBET比表面積、細孔直径、細孔容量及び平均細孔直径は、以下の方法で測定することができる。以下、導電性物質が多孔質炭素の場合を例に説明するが、下記測定方法は、導電性物質が多孔質炭素の場合に限定されない。
BET比表面積、細孔直径、細孔容量及び平均細孔直径は、多孔質炭素を液体窒素温度下において、多孔質炭素に窒素ガスを吸着して得られる窒素吸着等温線を用いて求めることができる。
具体的には、窒素吸着等温線を用いて、Brenauer−Emmet−Telle(BET)法により比表面積を求めることができる。また、窒素吸着等温線(吸着側)を用いて、Barret−Joyner−Halenda(BJH)法により細孔直径、細孔容量を求めることができる。また、平均細孔直径は、細孔構造を円筒型であると仮定して、全細孔容積とBET比表面積から計算される。
測定装置としては、例えば、Quantacrome社製の比表面積・細孔分布測定装置(Autosorb−3)を用いて測定できる。測定の前処理は、例えば、200℃3時間の加熱真空排気等が挙げられる。
【0025】
[硫黄系化合物−導電性物質複合体]
本発明の電極材料が含む硫黄、及び硫黄原子を含む化合物の少なくとも1つ(硫黄系化合物)と導電性物質は、好ましくは硫黄系化合物−導電性物質複合体として含む。「硫黄系化合物−導電性物質複合体」とは、硫黄、及び/又は硫黄原子を含む化合物を導電性物質の表面に蒸着させたもの、硫黄、及び/又は硫黄原子を含む化合物を溶解させて導電性物質に表面と接触させてから固体化させたもの、硫黄原子を含む化合物を導電性物質の存在下で合成して導電性物質と一体化させたものであり、例えば硫黄及び/又は硫黄原子を含む化合物と導電性物質をメカニカルミリング処理等の力学的な作用により一体化させたものは含まれない。
尚、導電性物質の表面とは、導電性物質が細孔を有する場合には当該細孔表面が含まれる。
【0026】
硫黄系化合物と導電性物質が複合化した硫黄系化合物−導電性物質複合体において、硫黄系化合物の含有量は例えば5〜90wt%であり、好ましくは40〜90wt%であり、より好ましくは50〜80wt%である。
また、硫黄系化合物−導電性物質複合体の弾性回復を伴う空間率εrは、成形性と電池性能のバランスから、好ましくは硫黄系化合物−多孔質炭素複合体の0.005〜0.15であり、より好ましくは0.01〜0.1であり、特に好ましくは0.01〜0.05である。
【0027】
硫黄系化合物−導電性物質複合体の製造方法としては、硫黄系化合物と導電性物質を、例えば遊星ボールミル、転動ボールミル、振動ボールミル等のボールミル;リングローラーミル等の竪型ローラーミル;ハンマーミル、ケージミル等の高速回転ミル;ジェットミル等の気流式ミル等の各種ミルにて混合する方法の他、硫黄系化合物と導電性物質の混合物を硫黄系化合物の融点以上で加熱する方法が挙げられる。
これら製造方法のうち、遊星ボールミルを用いて混合する方法、又は硫黄系化合物と導電性物質の混合物を硫黄系化合物の融点以上で加熱する方法が好ましい。
【0028】
硫黄系化合物−導電性物質複合体を、硫黄系化合物と導電性物質の混合物を硫黄系化合物の融点以上で加熱して製造する場合、加熱雰囲気は不活性雰囲気でも空気中でもよい。また、加熱時の圧力は例えば常圧〜5MPaであり、好ましくは常圧から1MPa、より好ましくは常圧から0.9MPaである。尚、常圧とは大気圧を意味し、101325Pa付近の圧力を意味する。
加熱温度は硫黄系化合物の融点以上であればよいが、好ましくは112℃〜440℃である。加熱保持時間は例えば1分〜48時間であり、好ましくは10分〜12時間であり、より好ましくは15分〜10時間である。
【0029】
[固体電解質]
本発明の電極材料が含む固体電解質は、リチウム原子、リン原子及び硫黄原子を含む硫化物系固体電解質であり、例えば硫化リチウム及び五硫化二リン、又は硫化リチウム、単体リン及び単体硫黄から製造できるほか、硫化リチウム、五硫化二リン、単体リン及び/又は単体の硫黄等の原料からも製造できる。
硫化物系固体電解質はさらに難燃処理を施した硫化物系固体電解質でもよい。
【0030】
固体電解質は、例えばガラス、ガラスセラミックス、又はガラスとガラスセラミックスの混合物のいずれでもよい。ガラスとガラスセラミックスの混合物は、1つの粒子中にガラスとガラスセラミックスが混合していることを意味する。本発明の電極材料中に上記複数種の固体電解質が存在していてもよく、1種類の固体電解質であってもよい。
また、固体電解質の形状は特に限定されず、粒子状体でも、板状体でも、棒状体であってもよい。
【0031】
本発明の電極材料の固体電解質は、好ましくは下記式(1)で表わされるリチウムイオン伝導性無機固体電解質である。
Li (1)
式(1)において、MはB、Zn、Si、Cu、又はGaから選択される元素を示す。
a〜dは各元素の組成比を示し、a:b:c:dは1〜12:0〜0.2:1:0〜9を満たし、好ましくはb=0であり、より好ましくはb=0であって、a、c及びdの比(a:c:d)がa:c:d=1〜9:1:3〜7であり、さらに好ましくは、b=0であって、a:c:d=2〜4.5:1:3.5〜5である。
各元素の組成比は、固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0032】
式(1)で表わされるリチウムイオン伝導性無機固体電解質である硫化物系固体電解質は、硫化リチウム、五硫化二リン、単体リン及び/又は単体硫黄等の原料から製造することができる。
硫化リチウムは、特に制限なく工業的に入手可能なものが使用できるが、高純度の硫化リチウムが好ましい。
高純度硫化リチウムは、好ましくは硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が0.15質量%以下である硫化リチウムであり、より好ましくは硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が0.1質量%以下の硫化リチウムである。また、高純度硫化リチウムは、好ましくはN−メチルアミノ酪酸リチウムの含有量が0.15質量%以下である硫化リチウムであり、より好ましくはN−メチルアミノ酪酸リチウムの含有量が0.1質量%以下の硫化リチウムである。
硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が0.15質量%以下であると、溶融急冷法やメカニカルミリング法で得られる固体電解質は、ガラス状電解質(完全非晶質)となる。一方、硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が0.15質量%を越えると、得られる電解質は、最初から結晶化物となるおそれがあり、この結晶化物のイオン伝導度は低い。さらに、この結晶化物について熱処理を施しても結晶化物には変化がなく、高イオン伝導度の硫化物系固体電解質を得ることができないおそれがある。
また、N−メチルアミノ酪酸リチウムの含有量が0.15質量%以下であると、N−メチルアミノ酪酸リチウムの劣化物がリチウムイオン電池のサイクル性能を低下させることがない。このように不純物が低減された硫化リチウムを用いると、高イオン伝導性電解質が得られる。
【0033】
硫化リチウムの製造方法としては、少なくとも上記不純物を低減できる方法であれば特に制限はない。例えば、以下の方法a〜cで製造された硫化リチウムを精製することにより得ることができる。以下の製造法の中では、特にa又はbの方法が好ましい。
a.非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを0〜150℃で反応させて、水硫化リチウムを生成し、次いでこの反応液を150〜200℃で脱硫化水素化する方法(特開平7−330312号公報参照)。
b.非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを150〜200℃で反応させ、直接硫化リチウムを生成する方法(特開平7−330312号公報参照)。
c.水酸化リチウムとガス状硫黄源を130〜445℃の温度で反応させる方法(特開平9−283156号公報参照)。
【0034】
上記のようにして得られた硫化リチウムの精製方法としては、特に制限はない。好ましい精製法としては、例えば、国際公開WO2005/40039号に記載された精製法等が挙げられる。具体的には、上記のようにして得られた硫化リチウムを、有機溶媒を用い、100℃以上の温度で洗浄する。
洗浄に用いる有機溶媒は、非プロトン性極性溶媒であることが好ましく、さらに、硫化リチウム製造に使用する非プロトン性有機溶媒と洗浄に用いる非プロトン性極性有機溶媒とが同一であることがより好ましい。
洗浄に好ましく用いられる非プロトン性極性有機溶媒としては、例えば、アミド化合物、ラクタム化合物、尿素化合物、有機硫黄化合物、環式有機リン化合物等の非プロトン性の極性有機化合物が挙げられ、単独溶媒、又は混合溶媒として好適に使用することができる。特に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)は、良好な溶媒に選択される。
洗浄に使用する有機溶媒の量は特に限定されず、また、洗浄の回数も特に限定されないが、2回以上であることが好ましい。洗浄は、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが好ましい。
洗浄された硫化リチウムを、洗浄に使用した有機溶媒の沸点以上の温度で、窒素等の不活性ガス気流下、常圧又は減圧下で、5分以上、好ましくは約2〜3時間以上乾燥することにより、本発明で用いられる硫化リチウムを得ることができる。
【0035】
五硫化二リン(P)は、工業的に製造され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。また、Pに代えて、相当するモル比の単体リン(P)及び単体硫黄(S)を用いることもできる。単体リン(P)及び単体硫黄(S)は、工業的に生産され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。
硫化リチウムと、五硫化二リン又は単体リン及び単体硫黄の混合モル比は、通常50:50〜85:15であり、好ましくは60:40〜80:20であり、特に好ましくはLiS:P=68:32〜78:22(モル比)である。
【0036】
硫化物系ガラス固体電解質の製造方法としては、溶融急冷法やメカニカルミリング法(MM法)がある。
溶融急冷法による場合、PとLiSを所定量乳鉢にて混合しペレット状にしたものを、カーボンコートした石英管中に入れ真空封入する。所定の反応温度で反応させた後、氷中に投入し急冷することにより、硫化物系ガラス固体電解質が得られる。
この際の反応温度は、好ましくは400℃〜1000℃、より好ましくは、800℃〜900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間〜12時間、より好ましくは、1〜12時間である。
上記反応物の急冷温度は、通常10℃以下、好ましくは0℃以下であり、その冷却速度は、通常1〜10000K/sec程度、好ましくは10〜10000K/secである。
【0037】
MM法による場合、PとLiSを所定量乳鉢にて混合し、例えば、各種ボールミル等を使用して所定時間反応させることにより、硫化物系ガラス固体電解質が得られる。
上記原料を用いたMM法は、室温で反応を行うことができる。MM法によれば、室温でガラス固体電解質を製造できるため、原料の熱分解が起らず、仕込み組成のガラス固体電解質を得ることができるという利点がある。また、MM法では、ガラス固体電解質の製造と同時に、ガラス固体電解質を微粉末化できるという利点もある。
MM法は回転ボールミル、転動ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル等種々の形式を用いることができる。
MM法の条件としては、例えば、遊星型ボールミル機を使用した場合、回転速度を数十〜数百回転/分とし、0.5時間〜100時間処理すればよい。
以上、溶融急冷法及びMM法による硫化物系ガラス固体電解質の具体例を説明したが、温度条件や処理時間等の製造条件は、使用設備等に合わせて適宜調整することができる。
【0038】
その後、得られた硫化物系ガラス固体電解質を、必要に応じて所定の温度で熱処理することで、硫化物系結晶化ガラス(ガラスセラミックス)固体電解質を生成させることができる。
硫化物系結晶化ガラス固体電解質を生成させる熱処理温度は、好ましくは180℃〜330℃、より好ましくは、200℃〜320℃、特に好ましくは、210℃〜310℃である。
熱処理時間は、180℃以上210℃以下の温度の場合は、3〜240時間が好ましく、特に4〜230時間が好ましい。また、210℃より高く330℃以下の温度の場合は、0.1〜240時間が好ましく、特に0.2〜235時間が好ましく、さらに、0.3〜230時間が好ましい。
【0039】
[その他の成分]
本発明の電極材料は、硫黄系化合物、導電性物質、並びにリチウム原子、リン原子及び硫黄原子を含む固体電解質を含めばよく、これら成分から実質的になってもよく、これら成分のみからなってもよい。
本発明において、「実質的になる」とは、例えば硫黄系化合物、導電性物質、並びにリチウム原子、リン原子及び硫黄原子を含む固体電解質の含有量が90重量%以上、95重量%以上、97重量%以上、98重量%以上、又は99重量%以上であることを意味する。
本発明の電極材料は、本発明の効果を損なわない範囲で、バインダー樹脂及び各種添加剤等をさらに含んでもよい。
【0040】
[電極材料の製造方法]
本発明の電極材料は、例えば硫黄、及び硫黄原子を含む化合物の少なくとも1つ(硫黄系化合物)、導電性物質、並びにリチウム原子、リン原子及び硫黄原子を含む固体電解質を混合することにより製造できる。
これらを混合するにあたり、硫黄系化合物と導電性物質が、硫黄系化合物−導電性物質複合体であることが好ましい。また、混合比は上記の通りである。
【0041】
上記混合は、例えば混錬機;遊星ボールミル、転動ボールミル、振動ボールミル等のボールミル;リングローラーミル等の竪型ローラーミル;ハンマーミル、ケージミル等の高速回転ミル;ジェットミル等の気流式ミルを用いて混合する方法や、フィルミックス等での湿式混合、メカノフュージョン等での乾式混合等が挙げられ、好ましくはミルを用いて混合する。
【0042】
混合時間は、例えば10分〜100時間であり、好ましくは30分〜72時間であり、より好ましくは1時間〜50時間である。
混合雰囲気は、好ましくは露点−60℃以下の不活性ガス(窒素、アルゴン等)雰囲気下、又はドライエアー雰囲気下である。
上記に加え、ミルを用いて混合する場合は、その回転数は、例えば100rpm〜750rpmであり、好ましくは150rpm〜600rpm、より好ましくは200rpm〜500rpmである。
【0043】
[電極]
本発明の電極材料は、電極の材料として好適に使用でき、正極材料として特に好適に使用することができる。本発明の電極材料を用いることにより、電池の理論容量を高めることができる。
本発明の電極は、本発明の電極材料を含めばよく、電極材料のみからなってもよい。また、本発明の電極は、電極材料の他に、導電助剤、バインダー、他の固体電解質等を含んでもよい。
【0044】
導電助剤は、公知のものを使用することができ、例えば複合電極材料の導電物質と同様のものが使用できる。
電極が導電助剤を含む場合、電極中の導電助剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは、0.01質量%以上50質量%以下である。
導電助剤の含有量が多すぎると電気容量が小さくなるおそれがあり、導電助剤の量が少ないと(又は含まない)と電気抵抗が高くなるおそれがある。
【0045】
バインダーは、公知のものが使用できる。
電極がバインダーを含む場合、電極中のバインダーの含有量は、好ましくは0.01質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以上10質量%以下である。
バインダーの含有量が多すぎると電気容量が小さくなるおそれがあり、バインダーの量が少ないと(又は含まない)と結着が弱くなるおそれがある。
【0046】
固体電解質としては、本発明の電極材料が含む固体電解質の他に、例えばポリマー系固体電解質及び酸化物系固体電解質が挙げられる。
(1)ポリマー系固体電解質
ポリマー系固体電解質としては、例えば、特開2010−262860号公報に開示のフッ素樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、これらの誘導体、これらの共重合体等のポリマー電解質として用いられる材料が挙げられる。
上記フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン(VdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、これらの誘導体等を構成単位として含む樹脂が挙げられ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のホモポリマー、VdFとHFPとの共重合体(以下、この共重合体を「P(VdF−HFP)」と示す場合がある。)等の2元共重合体や3元共重合体等が挙げられる。
【0047】
(2)酸化物系固体電解質
酸化物系固体電解質としては、LiN、LISICON類;Thio−LISICON類;NASICON型構造を有するLiTi12、さらにこれらを結晶化させた電解質;La0.55Li0.35TiO等のペロブスカイト構造を有する結晶等を用いることができる。
【0048】
[電極の形成方法]
本発明の電極は、本発明の電極材料を通常の方法でプレス成形して、シート状の電極とする方法等により形成できる。例えば、電極材料の固体電解質が、ガラス状固体電解質であり、ガラス転移温度以上の温度で加熱しながらプレスし、当該ガラス状固体電解質の一部又は全部を互いに融着させてもよく、結晶化温度以上に加熱してガラス状固体電解質の一部又は全部をガラスセラミック化して電極としてもよい。
尚、ガラス状固体電解質と比較してガラスセラミックス固体電解質のイオン伝導度が高い場合には、ガラスセラミック化することが好ましい。
ガラス状固体電解質の一部又は全部を融着させれば、ガラス状固体電解質粒子間の界面抵抗を低くすることができる場合がある。
また、本発明の電極材料を集電体上に膜状に形成して電極とする方法が挙げられる。製膜方法としては、エアロゾルデポジション法、スクリーン印刷法、コールドスプレー法等が挙げられる。さらに、溶媒に分散又は一部を溶解させてスラリー状にして塗布する方法が挙げられる。必要に応じてバインダーを混合してもよい。
【0049】
上記集電体としては、ステンレス鋼、金、白金、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、アルミニウム又はこれらの合金等からなる板状体、箔状体、網目状体等が使用できる。
電極層として用いる場合は、電池設計に応じて、適宜に層厚みを選定すればよい。
【0050】
[リチウム電池]
本発明のリチウム電池は、正極層及び負極層の少なくとも一方が本発明の電極であり、例えば負極層、固体電解質層及び正極層がこの順に積層した積層体であればよく、さらに集電体を有してもよい。
【0051】
固体電解質層は、上述した固体電解質からなる層であり、好ましくは固体電解質粒子が互いに融着している層である。ここで融着とは、固体電解質粒子の一部が溶解し、溶解した部分が他の個体電解質粒子と一体化することを意味する。また、固体電解質層は、固体電解質の板状体であってもよく、当該板状体固体電解質層は、固体電解質粒子の一部又は全部が溶解し、互いに結合して板状体になっている場合を含む。
固体電解質層の厚さは、好ましくは0.001mm以上1mm以下である。
【0052】
本発明のリチウムイオン電池は、公知の方法により製造することができ、例えば、塗布法、静電法(静電スプレー法、静電スクリーン法等)により製造することができる。
【0053】
本発明のリチウムイオン電池は、放電容量及び容量維持率に優れる電池である。
例えば本発明のリチウムイオン電池は、充放電の電流密度0.500mA/cm、充放電電位範囲0.5−2.2V、充放電温度25℃で定電流充放電試験を行った場合に、1回目の放電の際の硫黄当たりの放電容量が1000mAh/g以上であることが好ましく、より好ましくは1200mAh/g以上、さらに好ましくは1300mAh/g以上、最も好ましくは1400mAh/g以上である。
また、上記の充放電試験を30回繰り返した場合の、30回目の放電の際の硫黄当たりの放電容量は好ましくは、1000mAh/g以上、より好ましくは1100mAh/g以上、さらに好ましくは1200mAh/g以上、最も好ましくは1250mAh/g以上である。
【0054】
本発明のリチウムイオン電池は、特に容量維持率に優れる。例えば、上記充放電試験の1回目の放電容量をY[mAh/g]とし、30回目の放電容量をX[mAh/g]とした場合に、容量維持率[%]は100×X/Yで表わされ、当該容量維持率が80%以上であることが好ましく、82%以上がより好ましく、83%以上が更に好ましく、85%以上が最も好ましい。
【0055】
本発明の電極材料を用いて得られるリチウムイオン電池は、例えば下記製造方法によりリチウムイオン電池を製造した場合に、上記性能(放電容量及び容量維持率)を示すことができる。但し、本発明のリチウムイオン電池は、下記製造方法により製造されたリチウムイオン電池に限定されない。
【0056】
(1)電池の製造方法
後述する方法で得られるLi11構造のガラスセラミックス50mgを直径10mmのステンレス製の金型に投入し、平らに均した後(電解質層の層厚が均等になるようにした後)、RIKEN製の油圧プレス機(P−6)で電解質層の上面から10MPa(表示値)の圧力を加えて加圧成型する。
次に、本発明の電極材料7.2mgを電解質層の上面に投入し平らに均した後(正極層の層厚が均等になるようにした後)、RIKEN製の油圧プレス機(P−6)で正極層の上面から22MPaの圧力を加えて加圧成型する。
次に電解質層の正極層とは反対側の面にインジウム箔(厚さ0.3mm、9.5mmφ)とリチウム箔(厚さ0.2mm、9.5mmφ)、チタン箔(厚さ0.02mm、10mmφ)を投入する。ここで、電解質層、インジウム箔、リチウム箔、チタン箔の順番に積層されるように投入する。
次に、RIKEN製の油圧プレス機(P−6)でチタン箔の上面から8MPaの圧力を加えて加圧成型する。
次に、正極層の電解質層と接している面と反対側の面にチタン箔(厚さ0.02mm、10mmφ)を投入する。
【0057】
(2)電解質の製造方法
Li11構造のガラスセラミックスは下記方法により製造したガラスセラミックスを用いる。
(i)硫化リチウム(LiS)の製造
硫化リチウムは、特開平7−330312号公報の第1の態様(2工程法)の方法に従って製造する。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温する。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込む。
続いて、この反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した硫化水素の一部を脱硫化水素化する。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めるが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出す。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持する。脱硫化水素反応が終了後(約80分)反応を終了し、硫化リチウムを得る。
【0058】
(ii)硫化リチウムの精製
上記(i)で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションし、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌する。その温度のままNMPをデカンテーションする。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返す。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥する。得られた硫化リチウム中の不純物含有量を測定する。
尚、亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)並びにチオ硫酸リチウム(Li)の各硫黄酸化物、及びN−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)の含有量は、イオンクロマトグラフ法により定量した。硫黄酸化物の総含有量は例えば0.13質量%であり、LMABは0.07質量%である。
【0059】
(iii)ガラスの製造
(ii)のLiSとP(アルドリッチ製)を出発原料に用いる。これらをモル比70:30に調整した混合物約1gと、直径10mmのアルミナ製ボール10ケとを45mLのアルミナ製容器に入れ、遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P−7)にて、窒素中、室温(25℃)にて、回転速度を370rpmとし、20時間メカニカルミリング処理することで、白黄色の粉末であるリチウム・リン系硫化物ガラス固体電解質を得っる。このもののガラス転移温度について、DSC(示差走査熱量測定)による測定は、例えば220℃である。
【0060】
(iv)結晶化
(iii)の固体電解質ガラス粒子をグローブボックス内Ar雰囲気下でSUS製チューブに密閉し、300℃、2時間の加熱処理を施し電解質ガラスセラミックス(硫化物系固体電解質:平均粒径14.52μm)を得る。このガラスセラミックス粒子のX線回折測定では、2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測される。
このガラスセラミックス粒子のイオン伝導度は、例えば1.3×10−3S/cmである。イオン伝導度は交流インピーダンス法により測定した結果から算出できる。
【実施例】
【0061】
[固体電解質の調製]
製造例1
(1)硫化リチウム(LiS)の製造
硫化リチウムは、特開平7−330312号公報の第1の態様(2工程法)の方法に従って製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。
続いて、この反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した硫化水素の一部を脱硫化水素化した。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。脱硫化水素反応が終了後(約80分)反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0062】
(2)硫化リチウムの精製
上記(1)で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥し、精製硫化リチウムを得た。
得られた精製硫化リチウムの不純物含有量をイオンクロマトグラフ法により測定したところ、亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)及びチオ硫酸リチウム(Li)の各硫黄酸化物の総含有量が0.13質量%であり、N−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)の含有量は0.07質量%であった。
【0063】
(3)LiS:P[モル比]=70:30である固体電解質の調製
上記で製造したLiSとP(アルドリッチ製)をモル比で70:30となるように混合し、得られた混合物約1gを直径10mmのアルミナ製ボール10個と共に45mLのアルミナ製容器に入れ密閉した。
密閉したアルミナ容器を、遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P−7)にて、窒素中、室温(25℃)にて、回転速度を370rpmとし、20時間メカニカルミリング処理することで、白黄色の粉末であるリチウム・リン系硫化物ガラス固体電解質を得た。このときの回収率は83%であった
得られた固体電解質ガラス粒子のガラス転移温度をDSC(示差走査熱量測定)により測定したところ、220℃であった。また、固体電解質ガラス粒子のX線回折測定(CuKα:λ=1.5418Å)を行った結果、原料LiSのピークは観測されず、固体電解質ガラスに起因するハローパターンであった。
【0064】
得られた固体電解質ガラス粒子をグローブボックス内Ar雰囲気下でSUS製チューブに密閉し、300℃、2時間の加熱処理を施し、LiS:P[モル比]=70:30である電解質ガラスセラミックス(硫化物系固体電解質:平均粒径14.52μm)を得た。このガラスセラミックス粒子のX線回折測定では、2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された。
このガラスセラミックス粒子のイオン伝導度は、1.3×10−3S/cmであった。イオン伝導度は交流インピーダンス法により測定した結果から、算出した。
【0065】
製造例2
LiSとP(アルドリッチ製)をモル比で75:25となるように混合し、300℃で2時間の加熱処理を実施しなかった他は製造例1と同様にして、固体電解質ガラス粒子を製造した(平均粒径68μm)。
尚、固体電解質ガラス粒子の回収率は82%であり、X線回折測定(CuKα:λ=1.5418Å)では、原料LiSのピークは観測されず、固体電解質ガラスに起因するハローパターンであった。また、得られたガラス粒子のイオン伝導度は、0.3×10−3S/cmであった。
【0066】
実施例1
[電極材料(正極材料)の調製]
硫黄(アルドリッチ製、純度99.998%)0.400gと多孔質炭素(ケッチェンブラック(KB)EC600JD、ライオン社製)0.400gを乳鉢で混合した後、この混合物を密閉性のステンレス容器に入れ、電気炉にて加熱処理し、硫黄と多孔質炭素の複合体を得た。
上記加熱処理は、室温から10℃/分にて150℃まで昇温し、150℃で6時間保持した後、300℃まで10℃/分で昇温し、300℃で2.75時間保持し、その後自然冷却することで実施した。
【0067】
硫黄と多孔質炭素の複合体0.5gと製造例2で調製した硫化物系固体電解質粉末0.5gをミルポットに入れ、遊星型ボールミル(フリッチュ製:型番P−7)でアルゴン中、室温(25℃)にて、回転速度を370rpmとし、5時間メカニカルミリング処理することで正極材料を得た。
【0068】
得られた正極材料について、以下の条件で固体31PNMRスペクトルの測定を実施した。
装置:日本電子株式会社製 JNM−CMXP302NMR装置
観測核:31
観測周波数:121.339MHz
測定温度:室温
測定法:MAS法
パルス系列:シングルパルス
90°パルス幅:4μs
マジック角回転の回転数:8600Hz
FID測定後、次のパルス印加までの待ち時間:100〜2000s
(最大のスピン−格子緩和時間の5倍以上になるよう設定)
積算回数:64回
【0069】
尚、上記の固体31PNMRスペクトルの測定において、化学シフトは、外部基準として(NHHPO(化学シフト1.33ppm)を用い決定した。また、試料充填時の空気中の水分による変質を防ぐため、乾燥窒素を連続的に流しているドライボックス中で密閉性の試料管に試料を充填した。
【0070】
上記条件で試料を測定して得られる固体31PNMRスペクトルについて、表1に示す70〜120ppmに観測される共鳴線を、非線形最小二乗法を用いて6本のガウス曲線に分離し、各曲線の面積比からリンの比率を算出した。また、当該波形分離した結果を図1に示す。
具体的には、表1のピーク1−6の面積比率をそれぞれI104、I91.0、I90.5、I86.1、83.0、I98.1とし、それぞれのピークに帰属されるリンの固体電解質全体のPに占める比率xを以下の式で計算した。結果を表2に示す。
[%]=100×(I83.0+I86.1)/(I83.0+I86.1+I90.5+I91.0+I98.1+I104
【0071】
表2から分かるように、実施例1の正極材料中の固体電解質は、PS3−(ガラス)に帰属する83.0±1.0ppmにピーク(表1のピーク5に対応)を有し、当該ピークに含まれるリン原子の割合が、全てのピークに含まれるリン原子に対して78.7mol%(PS3−(全体)に対応)である。
尚、後述する比較例1の正極材料中の固体電解質は、PS3−(結晶)に帰属する86.1±0.6ppmにピーク及びPS3−(ガラス)に帰属する83.0±1.0ppmにピーク(表1のピーク5に対応)を有するものの、これらピークに含まれるリン原子の割合は、全てのピークに含まれるリン原子に対して54.9mol%(PS3−(全体)に対応)である。
【0072】
【表1】

【0073】
[リチウムイオン電池の製造]
製造例1で調製した硫化物系固体電解質50mgを直径10mmのステンレス製の金型に投入して、層厚が均等になるように平らに均した後、油圧プレス機(RIKEN製P−6)で上面から10MPa(表示値)の圧力を加えて加圧成型して電解質層を形成した。次に、調製した正極材料7.2mgを電解質層の上面に投入し、層厚が均等になるように平らに均した後、油圧プレス機(RIKEN製P−6)で上面から22MPaの圧力を加えて加圧成型して正極層を形成した。
電解質層の正極層とは反対側の面にインジウム箔(厚さ0.3mm、9.5mmφ)、リチウム箔(厚さ0.2mm、9.5mmφ)及びチタン箔(厚さ0.02mm、10mmφ)を、電解質層、インジウム箔、リチウム箔及びチタン箔が、この順番に積層されるように投入した。油圧プレス機(RIKEN製P−6)でチタン箔の上面から8MPaの圧力を加えて加圧成型して負極層とした。
正極層の電解質層と接している面と反対側の面にチタン箔(厚さ0.02mm、10mmφ)を投入して、正極層、固体電解質層及び負極層の3層構造(チタン箔は集電体)のリチウムイオン電池を作製した。
【0074】
作製したリチウムイオン電池について、充放電の電流密度0.500mA/cm、充放電電位範囲0.5−2.2V、充放電温度25℃で定電流充放電試験を行い、1回目の充電で放電できる放電容量を測定した(1st放電容量)。同様にこの充電と放電を30サイクル行ったときに放電できる放電容量も測定した(30th放電容量)。放電容量の測定結果を表3に示す。
【0075】
実施例2
多孔質炭素(ケッチェンブラック)の代わりに活性炭(関西熱化学、MSC30)を用いて正極材料を製造した他は、実施例1と同様にして正極材料を製造し、且つ評価し、リチウムイオン電池を製造し、且つ評価した。結果を表2及び3に示す。
【0076】
比較例1
製造例2で調製した硫化物系固体電解質粉末の代わりに、製造例1で調製した硫化物系固体電解質粉末を用いて正極材料を製造した他は、実施例1と同様にして正極材料を製造し、且つ評価し、リチウムイオン電池を製造し、且つ評価した。結果を表2及び3に示す。
【0077】
比較例2
製造例2で調製した硫化物系固体電解質粉末の代わりに、製造例1で調製した硫化物系固体電解質粉末を用いて正極材料を製造した他は、実施例2と同様にして正極材料を製造し、且つ評価し、リチウムイオン電池を製造し、且つ評価した。結果を表2及び3に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の電極材料は、リチウムイオン電池の正極として好適である。本発明のリチウムイオン電池は、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを電力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の電池として用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄、及び硫黄原子を含む化合物の少なくとも1つ、導電性物質、並びにリチウム原子、リン原子及び硫黄原子を含む固体電解質を含む電極材料であって、
固体31PNMRスペクトルにおいて、前記固体電解質が86.1±0.6ppm及び83.0±1.0ppmの少なくとも一方にピークを有し、前記ピークに含まれるリン原子の割合が、全てのピークに含まれるリン原子に対して62mol%以上である電極材料。
【請求項2】
固体31PNMRスペクトルにおいて、前記固体電解質が91.0±0.6ppm及び90.5±0.6ppmの少なくとも一方にピークを有し、前記ピークに含まれるリン原子の割合が、全てのピークに含まれるリン原子に対して15mol%未満である請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
Li11構造のガラスセラミックス固体電解質50mgを直径10mmのステンレス製の金型に投入し、加圧成型してなる固体電解質層;請求項1又は2に記載の電極材料を固体電解質層上に7.2mg投入し加圧成型してなる正極;及び正極とは反対側の固体電解質層上の、インジウム箔(厚さ0.3mm、9.5mmφ)及びリチウム箔(厚さ0.2mm、9.5mmφ)からなる負極からなる3層構造としたリチウムイオン電池において、
放電の電流密度0.500mA/cm、充放電電位範囲0.5−2.2V、充放電温度25℃で定電流充放電試験を行った結果の硫黄あたりの放電容量が1000mAh/g以上である請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項4】
Li11構造のガラスセラミックス固体電解質50mgを直径10mmのステンレス製の金型に投入し、加圧成型してなる固体電解質層;請求項1又は2に記載の電極材料を固体電解質層上に7.2mg投入し加圧成型してなる正極;及び正極とは反対側の固体電解質層上の、インジウム箔(厚さ0.3mm、9.5mmφ)及びリチウム箔(厚さ0.2mm、9.5mmφ)からなる負極からなる3層構造としたリチウムイオン電池において、
充放電の電流密度0.500mA/cm、充放電電位範囲0.5−2.2V、充放電温度25℃で定電流充放電試験を繰り返し行ったときの1回目の放電容量に対し、30回目の放電容量の割合(維持率)が80%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の電極材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電極材料を含む電極。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の電極材料を用いて製造した電極。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の電極、及び固体電解質からなる電解質層を含むリチウムイオン電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−110051(P2013−110051A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255756(P2011−255756)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】