説明

電極板の製造装置

【課題】塗膜の実際の乾燥状態を実質的にリアルタイムで把握できるようにし、乾燥装置の全域にわたって常時望ましい乾燥進行状態に維持できるようにした電極板の製造装置を提供する。
【解決手段】少なくとも活物質と結着剤と溶剤を含有する活物質層形成用の塗膜が表面に塗工された集電体形成用の基材シートを、非接触状態にて空中走行させつつ、塗膜の乾燥を進行させる乾燥装置を備えた電極板の製造装置において、乾燥装置に、塗膜の表面状態を非接触にて検知可能な表面状態検知手段を、基材シートの走行方向に複数設けたことを特徴とする電極板の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体形成用の基材シートとその上に活物質層とを有する電極板の製造装置に関し、とくに、基材シート上に塗工された活物質層の塗膜を望ましい進行状態で乾燥できるようにした乾燥装置を備えた電極板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池や燃料電池には、一般に、所定形状の活物質層を表面に有する集電体形成用の基材シートからなる電極板が複数積層される構成が採られる。このような電極板を製造するに際しては、通常、比較的寸法が不安定な基材シートを走行させながら、その表面上に、少なくとも活物質と結着剤と溶剤を含有する活物質層形成用の塗膜が塗工され、塗工された塗膜が乾燥装置内で乾燥されて基材シートに固着される。この塗膜の乾燥においては、一般に最適な乾燥進行特性が存在することが知られており(例えば、特許文献1)、乾燥条件が、この最適な乾燥進行特性から大きく外れると、溶剤が蒸発された乾燥後の塗膜の基材シートからの剥離強度が低下したり、乾燥後の塗膜中で結着剤が塗膜の厚み方向に偏在し(とくに、塗膜の外表面側に析出し)、目標とする電極特性、ひいては、目標とする電池特性が得られにくくなる、という問題を生じる。
【0003】
塗膜の乾燥には、赤外線ヒーターなどのヒーターを用いることも可能であるが、ノズルから所定温度に加熱した熱風を吹き出す熱風乾燥による場合が多く、その場合、乾燥装置の熱風オーブンの長さは20〜50mにも及ぶことがある。このような長尺の乾燥装置において、上述の最適な乾燥進行特性を実現するためには、例えば特許文献1に記載されているように、熱風オーブンを長手方向に幾つかのゾーンに区画し、各ゾーンの雰囲気温度や熱風吹き出しノズルからの吹き出し風速を所望の範囲内に設定することが望まれる。特許文献1では、乾燥工程を乾燥初期、乾燥中期、乾燥後期に分け、それぞれに対して塗膜中の溶剤残量を適切な範囲に設定するとともに、とくに乾燥中期における雰囲気温度とノズルからの吹き出し風速とを適切な範囲に設定するようにしている。
【0004】
このように、乾燥工程を乾燥初期、乾燥中期、乾燥後期に分けるのは、次のような理由による。例えば、基材シート上に塗工された活物質層形成用の塗膜を、基材シートを走行させながら乾燥装置内で乾燥させる乾燥形態を考えると、乾燥装置内の雰囲気温度(塗膜の温度)と乾燥時間(乾燥装置内における滞在時間[走行時間])との間の好ましい関係は、通常、図1に示すようになる。すなわち、乾燥初期では温度が比較的急速に立ち上がる領域となり、乾燥中期ではほぼ一定の温度または緩やかに上昇する温度領域となり、乾燥後期では再び比較的急速に立ち上がる領域となって所定の最高温度へと達する領域となる。前述のような、塗膜中で結着剤が塗膜の厚み方向に偏在する乾燥状態になるのを回避するためには、特に、図1に示すような乾燥中期におけるほぼ一定の温度または緩やかに上昇する温度領域を所定時間以上与えることが必要であることが知られている。中でも、この温度領域Aを所定時間持たせた上で、乾燥中期から乾燥後期に切り替えるタイミングBを適切なタイミングにすること(つまり、早すぎず、遅すぎないタイミングにすること)が、結着剤が偏在せず所望の乾燥状態の塗膜を得る上で最も重要であると言われている。このタイミングBが早すぎると、乾燥中期に必要な乾燥時間が確保できないことになり、遅すぎると、乾燥中期で乾燥が進み過ぎたり、乾燥工程全体が不必要に長くなったり、乾燥装置の全長が不必要に長くなったりする。また、乾燥初期においては、比較的急速に温度を立ち上げることは可能ではあるが、昇温速度が速すぎると、乾燥中期に入る時点での温度が乾燥中期に要求される温度の許容範囲を超えやすくなり、乾燥中期が所定の許容範囲内の温度からスタートされなくなって、適切な塗膜の乾燥状態が得られにくくなる。逆に昇温速度が遅すぎると、乾燥中期をスタートさせるまでの時間が長くなりすぎるか、乾燥初期に要する乾燥装置の長さが長くなりすぎ、いずれも製造効率上好ましくない。乾燥後期においても同様に、比較的急速に温度を立ち上げることは可能ではあるが、昇温速度が速すぎると、最終設定温度の許容範囲を超えやすくなり、最終的に適切な塗膜の乾燥状態が得られにくくなる。逆に昇温速度が遅すぎると、乾燥工程全体が長くなりすぎたり、乾燥装置全長が長くなりすぎたりし、やはり、製造効率上好ましくない。そして、このような乾燥工程を全体にわたって見てみると、とくに乾燥中期に要求される温度と乾燥時間は、条件の変動代に関する許容範囲が狭い。すなわち、乾燥中期には、所定の略一定の乾燥温度と乾燥時間が要求され、その条件を変更できる余地は少ない。したがって、全体として効率の良い製造を行うためには、すなわち、必要最小限の乾燥工程時間(乾燥装置全長)にて所望の乾燥を行うためには、乾燥中期における条件については所定の条件に維持しつつ、如何に適切かつ迅速に乾燥初期から乾燥中期に入り、如何に適切なタイミングで乾燥中期から乾燥後期に移行できるかが、最も重要な課題であると考えられる。
【0005】
前述の特許文献1に記載の乾燥条件の設定は、上記のように不具合を回避しつつ塗膜を望ましい乾燥進行特性にて乾燥していく方法として、理屈に合った方法と言える。しかし、この特許文献1に記載されている方法は、基本的に、乾燥初期、乾燥中期、乾燥後期における溶剤残量の各目標範囲を予め前提として決定し、各範囲内に入るように、各乾燥条件を設定する方法であり、あくまで条件を設定することにとどまっている方法である。したがって、最適な設定条件の範囲を決定するには、必ず予め試験等によって最適な条件の範囲を実際に見出しておく必要がある。最適な条件の範囲が全く変動しないものであれば、一旦試験等によって最適な条件の範囲を実際に見つけ出せれば、それに基づいて、毎回最適な条件を設定すればよいことになるが、現実には、季節や、製造品種の違い等により、最適な乾燥条件の範囲は変動してしまう。したがって、実際には、乾燥装置の各ゾーンに対し最適と思われる乾燥条件を設定したにもかかわらず、乾燥装置の各ゾーンの覗き窓から塗膜の乾燥状態を目視で判定し(現実には、塗膜の表面の色等を目視で判定し)、所望の乾燥状態になっていると判断された場合には、そのままの設定条件で運転を続行し、所望の乾燥状態から外れたと判断された場合には、設定条件を変更して所望の乾燥状態になるように運転しているのが実情である。そのため、製造される製品の品質が不安定になって変動するおそれがあり、目視に基づいて条件を設定変更すべきタイミングを失ってしまうと、大量のロスを発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4571841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、上記のような実情に鑑み、塗膜の実際の乾燥状態を実質的にリアルタイムで把握できるようにし、乾燥装置の全域にわたって常時望ましい乾燥進行状態に維持できるようにした電極板の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る電極板の製造装置は、少なくとも活物質と結着剤と溶剤を含有する活物質層形成用の塗膜が表面に塗工された集電体形成用の基材シートを走行させつつ、前記塗膜の乾燥を進行させる乾燥装置を備えた電極板の製造装置において、前記乾燥装置に、前記塗膜の表面状態を非接触にて検知可能な表面状態検知手段を、前記基材シートの走行方向に複数設けたことを特徴とするものからなる。
【0009】
このような本発明に係る電極板の製造装置においては、乾燥装置内を走行中の基材シート上の塗膜の乾燥状態に対応する塗膜の表面状態が、非接触の表面状態検知手段によって実際に検知され、かつ、表面状態検知手段が基材シートの走行方向に複数設けられているので、基材シートの走行に伴って塗膜の乾燥が乾燥装置内でどのように進行されているのかが実際にかつ実質的にリアルタイムに検知される。したがって、実際の乾燥状態が正確にかつ確実に検知情報として認識できることになり、それに基づいて乾燥条件を設定あるいは制御することにより、容易にその時点での最適な乾燥条件に設定あるいは制御することが可能になる。その結果、たとえ、季節や製造品種の違い等により最適な乾燥条件の範囲が変動したとしても、実際の乾燥結果からフィードバック可能な最適な乾燥条件として常時確実に維持することが可能になり、常時望ましい乾燥を行うことが可能になる。
【0010】
上記本発明に係る電極板の製造装置において、塗膜の表面状態を非接触にて検知可能な表面状態検知手段としては、例えば、塗膜の表面温度を検知可能なセンサー(非接触温度センサー)、塗膜の表面光沢または輝度を検知可能なセンサー(非接触光沢または輝度センサー)、塗膜の表面からの反射光を検知可能なセンサー(例えば、レーザー光等の反射センサー)、塗膜の表面から放出される赤外線のエネルギーを測定することで塗膜に含まれる水分を検知可能な非接触水分計、塗膜の表面の画像を撮像し該画像から表面状態を定量可能な画像処理手段(例えば、CCDカメラと画像処理装置を組み合わせた手段)、のいずれかを用いることができる。上記非接触水分計としては、例えば、水分で吸収されやすい特定の波長の赤外線のエネルギーを測定するものが例示でき、中でも、上記特定波長に加え、水分で吸収されにくい波長(参照波長)の赤外線のエネルギーも測定し、特定波長の赤外線のエネルギーとの比率から、水分(水分の量や濃度)を算出するものがより好ましい。
【0011】
上記において、塗膜の乾燥進行状態と塗膜の表面温度の変化特性とは密接な関係にあり、前述の図1に示したような塗膜表面温度変化特性とすることにより、塗膜の望ましい乾燥が行われる。中でも、乾燥中期の開始時の条件、終了時の条件、および開始から終了までの乾燥時間を図1に示したような望ましい条件とすることにより、結着剤が偏在せず、所望の乾燥状態の塗膜が得られやすくなる。また、塗膜の乾燥進行状態は、塗膜の表面光沢または輝度、あるいは塗膜の表面からの反射光の変化特性とも密接な関係にあり、これら特性の変化を検知することでも、塗膜の実際の乾燥進行状態を実質的にリアルタイムの検知情報として認識することが可能になる。中でも、乾燥中期における結着剤の偏在に関しては、塗膜の表面側に結着剤が偏在してくると、塗膜の表面光沢または輝度、あるいは塗膜の表面からの反射光が変化するので、それら特性の変化を検知することで、適切に乾燥が進行しているか否かを認識することが可能になる。また、画像処理手段でも同様に、塗膜の実際の乾燥進行状態を検知、認識可能である。さらに、塗膜の表面から放出される赤外線のエネルギーを測定する非接触水分計を用いる場合には、塗膜の含水率を測定、検知することが可能であり、この塗膜の含水率の変化特性と、図1に示したような塗膜表面温度変化特性とは(したがって、塗膜の乾燥進行状態とは)、例えば図2に示すような密接な関係にあることが、オフライン試験によって確認されている。したがって、図2における各タイミングでの含水率a、b、c、d、eを満足させれば、図1に示したと同等の望ましい乾燥条件とすることが可能になる。逆に言えば、複数の非接触水分計で含水率を検知すれば、塗膜の実際の乾燥進行状態を検知、認識可能になる。
【0012】
このような表面状態検知手段は、上記基材シートの幅方向に対しても複数設けられていてもよい。基材シートの幅方向に対しても複数設けておくことにより、前述の基材シートの走行方向における乾燥進行状態とともに、基材シートの幅方向における乾燥状態のばらつきまで検知することが可能になり、全幅にわたって常時望ましい乾燥を行うことが可能になる。
【0013】
また、本発明は、片面塗工、両面塗工のいずれにも適用できる。すなわち、乾燥前の塗膜が基材シートの片面に塗工されており、基材シートの該塗膜塗工側に対して前記表面状態検知手段が設けられている構成とすることもできるし、乾燥前の塗膜が基材シートの両面に塗工されており、基材シートの両面側に対して前記表面状態検知手段が設けられている構成とすることもできる。また、上記乾燥装置内における基材シートの走行形態としては、非接触状態にて空中走行される形態とすることもできるし、例えば片面塗工の場合には、後述の実施形態にも示すように、下面側に支持・搬送ローラ等を設けて基材シートの下面側については接触支持形態とすることもできる。
【0014】
また、本発明に係る電極板の製造装置においては、上記乾燥装置に、上記塗膜を乾燥させるための条件を個別に制御可能な乾燥条件制御手段が、少なくとも基材シート走行方向に対して複数(例えば、個別制御が望まれるゾーン毎に)設けられていることが好ましい。このような複数の乾燥条件制御手段が設けられていると、乾燥装置内の各ゾーン毎により高精度に乾燥条件を制御できるので、基材シート走行方向における塗膜の乾燥進行状態をより望ましい状態に制御できるようになる。
【0015】
また、本発明においては、上記乾燥装置内の基材シート走行方向における予め把握された塗膜の目標乾燥進行特性を記憶または設定する手段を備えており、上記乾燥条件制御手段は、該目標乾燥進行特性と前記表面状態検知手段による検知状態との差を参照して塗膜を乾燥させるための条件を制御可能に構成されていることが好ましい。このように構成すれば、より確実に目標とする乾燥状態、とくに乾燥の進行状態が実現される。この目標乾燥進行特性は、塗膜の表面状態の変化特性として、予め試験等により求めておけばよい。
【0016】
また、上記乾燥条件制御手段が、基材シートの両面側に対して、個別制御可能に設けられている構成とすることもできる。このような両面個別制御は、とくに前述の塗膜を基材シートの両面に塗工する場合に有効であり、各面の塗膜をそれぞれ最適な条件で乾燥することが可能になる。ただし、このような両面個別制御では、片面塗工の場合にあっても、塗膜表面側からの乾燥条件と、塗膜の基材シート側からの乾燥条件とを、より細かに制御できることになるので、とくに高精度で乾燥条件を制御することが要求される場合には、有効に活用可能である。
【0017】
また、本発明に係る電極板の製造装置において、乾燥装置内での基材シートの非接触状態での空中走行形態については、とくには限定されないが、オーブンの形態を採る乾燥装置が比較的長尺であることを考慮すると、基材シートはエアフローティング状態で走行されることが好ましい。例えば、上記乾燥装置内における上記基材シートの走行パスの上下に、該基材シートをエアフローティング状態に保持するエア吹出ノズルが、基材シート走行方向に配列されている構成とすることができる。
【0018】
このとき、基材シートは剛直なものではなく可撓性を有するものであるから、エアフローティング状態に保持されつつ走行される基材シートは走行方向において波打ちやすくなる。したがって、そのような波打ちやすい特性を前提として安定した走行を実現するためには、例えば、上側のエア吹出ノズルと下側のエア吹出ノズルが基材シート走行方向において千鳥状に配列されている構成を採用することができる。このように構成すれば、上側のエア吹出ノズルのエア吹出口と下側のエア吹出ノズルのエア吹出口が基材シート走行方向に交互に配置され、基材シートは、上側のエア吹出ノズルのエア吹出口に対応する位置では下方に向けて波打ち、下側のエア吹出ノズルのエア吹出口に対応する位置では上方に向けて波打つが、その波打ち状態は、意図的に形成されたものであり、各エア吹出口の位置に対応して安定した波打ち形状に保たれるから、乾燥装置内で安定した基材シートの非接触空中走行が維持可能となる。
【0019】
上記のようなエア吹出ノズルを用いた乾燥装置の場合、エア吹出ノズルからの吹き出しエアの温度または風速、またはそれらの両方が、エア吹出ノズル毎に、あるいは、乾燥装置の基材シート走行方向におけるゾーン毎に、個別に制御可能に構成されていることが好ましい。このように構成すれば、目標とする塗膜の乾燥進行特性に応じて、より細かに乾燥条件を制御することが可能になり、より望ましい乾燥の実現が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明に係る電極板の製造装置によれば、乾燥装置内を非接触状態にて走行中の基材シート上の塗膜を乾燥するに際し、塗膜の実際の乾燥進行状態を、乾燥状態に対応する塗膜の表面状態として、非接触の表面状態検知手段によって実質的にリアルタイムにて正確にかつ確実に検知することができるので、その検知結果に基づいて塗膜乾燥を常時望ましい乾燥進行特性で行うことが可能になる。その結果、製品ロスを発生させることなく、望ましい品質の電極板を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】乾燥装置内における塗膜の温度と乾燥時間との好ましい関係を示す特性図である。
【図2】図1の乾燥進行特性と塗膜の含水率変化特性との関係を示す特性図である。
【図3】塗膜乾燥前の状態を示す電極板形成材の概略断面図である。
【図4】本発明の一実施態様に係る電極板の製造装置の要部概略構成図である。
【図5】図4の装置における上下エア吹出ノズルによるエアフローティング状態を強調して例示した乾燥装置の部分概略縦断面図である。
【図6】表面状態検知手段を基材シートの幅方向に複数設ける場合の一例を示す、基材シートの部分平面図である。
【図7】本発明の別の実施態様に係る電極板の製造装置の要部概略構成図である。
【図8】本発明のさらに別の実施態様に係る電極板の製造装置の要部概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
まず、本発明において乾燥対象となる塗膜の乾燥前の状態について、その断面の例を図3に模式的に示す。図3において、1は電極板形成材を示しており、電極板形成材1は、可撓性を有し比較的寸法が不安定なアルミ箔や銅箔等からなる集電体形成用の基材シート2と、基材シート2の片面あるいは両面に(図示例は、片面に)塗工された活物質層形成用の塗膜3からなる。塗膜3は、少なくとも、粒状の活物質4と、それよりは小サイズの粒状の結着剤5と、塗工時にこれらをスラリー状に保つ溶剤6を含有しており、乾燥により、溶剤6の大部分が蒸発されて、活物質4周りに存在する結着剤5により活物質4同士が固定されるとともにその活物質層が基材シート2に固着され、シート状の電極板形成材1が連続的に製造される。このシート状の電極板形成材1は、実際に使用される電極板の寸法に応じて裁断され、リチウムイオン電池や燃料電池等の製造に供される。
【0023】
上記のような電極板形成材1は、例えば、図4に示すような電極板製造装置11によって製造される。図4に示す電極板製造装置11においては、基材シート2は、ロール状に巻き上げられたものから巻戻し機12で巻き戻され、コーター13にて、基材シート2の表面に図3に示したような塗膜3が塗布ノズル14を介して塗工される。塗膜3が塗工された基材シート2は、熱風オーブンタイプの乾燥装置15に送られ、乾燥装置15内で上下エア吹出ノズル16、17から吹き出される所定温度の熱風により塗膜3の乾燥が行われる。図4には、基材シート走行方向に断続的に塗工された塗膜3を図示しているが、連続的な塗膜として塗工することも可能である。乾燥装置15で塗膜3の乾燥が終了した電極板形成材1は、必要に応じて乾燥後の塗膜の厚さ等を測定した後、巻取り機で巻き取られる(図示略)。片面ずつ塗膜3の塗工、乾燥を行う場合には、巻き取ったロール状物を再び巻戻し機12に装着し、巻き戻される基材シート2の上下面が逆になるようにセットされて上記同様の処理が繰り返されればよい。
【0024】
本発明においては、上記乾燥装置15に、塗膜3の表面状態を非接触にて検知可能な表面状態検知手段21が、基材シート2の塗膜3の塗工面側に対して、基材シート2の走行方向に複数設けられる。図4に示す乾燥装置15の概略構成においては、乾燥装置15はその入口側から、図1または図2に記載した乾燥初期、乾燥中期、乾燥後期用のゾーン22,23,24に区画されている。これら乾燥初期、乾燥中期、乾燥後期用の各ゾーン22,23,24は、各々、さらに複数の小ゾーンに区画されていてもよい。図示例では、基材シート2の走行方向に見て乾燥初期、乾燥中期、乾燥後期用の各ゾーン22,23,24の終端近傍に、それぞれ、表面状態検知手段21が配置されており、乾燥初期の終端または/および乾燥中期の始端の塗膜3の表面状態、乾燥中期の終端または/および乾燥後期の始端の塗膜3の表面状態、乾燥後期の終端の塗膜3の表面状態が検知できるようになっている。ただし、表面状態検知手段21は、前述の図1や図2に示したような好ましい乾燥進行特性を実現するために必要な検知情報が得られる限り、図4に示した配置には限定されない。また、より数多くの表面状態検知手段21を基材シート2の走行方向に配列することもできる。
【0025】
各表面状態検知手段21による検知情報は、制御装置25に送られ、制御装置25では、各表面状態検知手段21の位置における塗膜3の乾燥状態が目標とする範囲に入っているか否かが判断可能となっている。例えば、表面状態検知手段21が塗膜3の表面温度を検知可能な非接触温度センサーである場合には、制御装置25で各温度センサーからの検知情報(検知温度)が目標とする範囲に入っているか否かが判断される(例えば、図1に示したような温度特性の許容範囲に入っているか否かが判断される)。そして、制御装置25ではさらに、上記判断に応じた制御信号、例えば、各ゾーン22,23,24毎についてエア吹出ノズル16、17から吹き出される熱風の温度の制御信号(必要に応じて、吹き出し風速も加えられた制御信号)、あるいは、個々のエア吹出ノズル16、17毎について吹き出される熱風の温度の制御信号(必要に応じて、吹き出し風速も加えられた制御信号)が出力できるようになっている。この出力に基づいて、例えば、各ゾーン22,23,24毎の温度や各エア吹出ノズル16、17毎の温度が制御され(あるいは、温度制御に加えて吹き出し風速制御が行われ)、その制御により塗膜3の温度を図1に示したような温度特性に制御することが可能になる。この塗膜3の温度制御により、塗膜3の乾燥装置15内における乾燥の進行が、図1や図2に示したような望ましい乾燥進行特性に制御されることになる。
【0026】
表面状態検知手段21として、温度センサー以外に、前述したような塗膜の表面光沢または輝度を検知可能な非接触光沢または輝度センサーや、塗膜の表面からの反射光を検知可能なセンサー、塗膜の表面から放出される赤外線のエネルギーを測定することで塗膜に含まれる水分を検知可能な非接触水分計、塗膜の表面の画像を撮像し該画像から表面状態を定量可能な画像処理手段を用いる場合においても、望ましい乾燥進行特性に対応する表面光沢または輝度あるいは反射光、含水率、塗膜表面画像の望ましい変化特性さえ予め把握しておけば、その望ましい変化特性と実際の検知情報を比較し、その比較に基づいて上記同様に各ゾーン22,23,24毎の温度や各エア吹出ノズル16、17毎の温度を制御することにより(あるいは、温度制御に加えて吹き出し風速を制御することにより)、実際の塗膜乾燥進行状態を望ましい乾燥進行特性に制御することが可能になる。塗膜3が望ましい乾燥進行特性で乾燥されることにより、結着剤5が塗膜3内に均一に分散され、塗膜3が基材シート2に強固に固着された望ましい仕上がり状態の電極板形成材1が得られ、その電極板形成材1から望ましい特性の電極板が製造される。なお、上記の望ましい変化特性は、例えば、予めオフライン試験によって求めておくことが可能である。
【0027】
上記乾燥装置15においては、上下エア吹出ノズル16、17が、例えば図5に示すように基材シート2の走行方向に千鳥状に(交互に)配列された形態を採用できる。基材シート2自体は、薄いシート状物であり、エアフローティング状態で走行される際にばたつきやすいものであるが、上下エア吹出ノズル16、17の交互配置により、図5に誇張して示すように強制的に波打ち状態で走行されることになり、この波打ち状態が安定して維持されることから、基材シート2のばたつきが抑えられ、安定した走行が実現される。上下エア吹出ノズル16、17のエア吹き出し風速については、走行される基材シート2の自重等も考慮しつつ、基材シート2の安定走行実現のために、互いに異なる風速に制御することも可能である。また、図4に例示したような片面塗工状態にて塗膜3の乾燥を行う場合には、塗膜3の乾燥に直接的に寄与する上側エア吹出ノズル16からの吹き出しエアの温度と、裏面側から基材シート2を介して間接的に塗膜3の乾燥に寄与する下側エア吹出ノズル17からの吹き出しエアの温度とを、互いに異なる温度に制御することも可能である。さらに、基材シート2の両面に塗膜3を塗工した状態で乾燥を行う場合には、例えば、上下エア吹出ノズル16、17からの吹き出しエアの温度を同じ温度に制御し、基材シート2の走行安定化の面から、エア吹き出し風速のみを互いに異なる風速に制御する制御形態を採用することも可能である。
【0028】
また、図6に示すように、上述した表面状態検知手段21は、基材シート2の幅方向に対しても複数配置することが可能である。このような表面状態検知手段21の幅方向複数配置構成は、とくに、塗膜3の塗工幅が大きい場合や、さらに塗膜3が複数条に塗工される場合には、塗膜3の乾燥状態が幅方向にばらつくことが予想されるので、ばらつきの範囲を許容範囲内に納めるのに有効である。また、上下エア吹出ノズル16、17が、エア吹き出し温度や風速がノズル長手方向(塗膜幅方向)に変更可能に構成されている場合には、幅方向に複数配置された表面状態検知手段21からの検知情報をフィードバックすることにより、塗膜3の乾燥状態が幅方向に均一に所望の状態になるように、より高精度に制御することが可能になる。
【0029】
図7は、本発明の別の実施態様に係る電極板の製造装置30を示しており、片面塗工の場合の一例を示している。本実施態様では、例えば、基材シート2の走行方向に見て、乾燥装置15aの乾燥初期用のゾーン22aにおいて(場合によっては、さらに下流側のゾーンまで含めて)、基材シート2の下面側(塗膜3の塗工されていない面側)が複数配列された支持・搬送用ローラ31で支持され、基材シート2の上面側で、前述したのと同様に上側のエア吹出ノズル16からの吹き出しエアによって塗膜3が乾燥されるようになっている。その他の構成は、実質的に図4に示した構成と同じであるので、図4と同じ部材に図4で付したのと同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0030】
このような態様は、例えば、片面塗工の形態において、乾燥初期の段階で塗膜3に大きな熱量を与えたくない場合等に有効なものである。熱量を低下させる具体的な方策としてエア吹出ノズル16からの吹き出し風速を下げるわけであるが、風速を下げても基材シート2自体は支持・搬送用ローラ31で支持されるため、高い走行安定性が確保されることになる。
【0031】
図8は、本発明のさらに別の実施態様に係る電極板の製造装置40を示しており、両面塗工の場合の一例を示している。本実施態様では、図4に示した装置に比べ、乾燥装置15bの手前で塗布ノズル41によって基材シート2の下面側にも塗膜3aが塗工され、両面塗工の状態で基材シート2が乾燥装置15b内に導入される。上下のエア吹出ノズル16,17は、図4に示したのと同様に配設され、基材シート2はエアフローティング状態で走行される。乾燥装置15b内では、基材シート2の上面側に塗工された塗膜3の乾燥状態が図4に示したのと同様に表面状態検知手段21によって検知され、さらに本実施態様では、基材シート2の下面側に塗工された塗膜3aの乾燥状態が、走行基材シート2の下方に配置された表面状態検知手段42によって検知される。その他の構成は、実質的に図4に示した構成と同じであるので、図4と同じ部材に図4で付したのと同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0032】
このような実施態様においては、表面状態検知手段21によって検知される上面側に塗工された塗膜3の乾燥状態と、表面状態検知手段42によって検知される下面側に塗工された塗膜3aの乾燥状態が同じになるように乾燥が進行されることにより、表裏塗膜の乾燥品質の同一化(均一化)をはかることができ、所望の品質の両面塗工タイプの電極板が得られる。
【0033】
このように、本発明は、片面塗工、両面塗工のいずれにも適用できる。片面塗工時は前述したエアフローティング方式、ロールサポート方式を自由に選択できるため、乾燥装置全体で与える熱量の選択範囲も広域にわたる。例えば、エア吹出ノズル16からの吹き出し風速範囲としては3〜20m/sec、温度範囲として60〜180℃の範囲内から選択できる。一方、両面同時塗工の場合は、乾燥装置内で基材シート2の両面に塗膜が塗布された状態であるため、エアフローティング方式しか選択できない。また、基材シート2の両面に塗膜が塗布された状態であるため、乾燥装置内を走行する電極板形成材の重さは、片面塗工の場合と比較して重く、エアフローティング方式で電極板形成材を浮かすため、下面側へのエア吹出ノズル17からの吹き出し風速を大きくしなくてはならない。具体的には、例えば、吹き出し風速の範囲としては8〜30m/sec、温度範囲としては60〜180℃が挙げられる。また、乾燥装置内での電極板形成材の走行軌道を安定化させるために、例えば、下面側への吹き出し風速を上面側への吹き出し風速よりも大きくするような方策を採らなくてはならない。しかしこの場合、上下面側で熱量差が発生するので、その結果上下面の塗膜の乾燥品質が異なってしまうという不具合の発生するおそれがある。
【0034】
このような不具合発生を回避する方策として、例えば、上面側よりも下面側の方が乾燥が早い場合、上下面側の乾燥品質を均一化(熱量均一化)させるために、以下のような方策を採ることができる。
(1)下面側への吹き出し熱風の温度と、上面側への吹き出し熱風の温度を変更する。例えば、乾燥状態を検出する表面状態検知手段の値に応じて、下面側への吹き出し熱風の温度を5〜40℃下げる。
(2)下面側への吹き出し熱風の流速を下げる。具体的には、エア吹出ノズルから吹き出される熱風の流速や方向を調節する。例えば、1つのノズルの中で、吹き出し方向の異なる吹き出し口を備えるタイプのノズルを用い、それらからのエアが平行流、拡散流、集合流となるように、吹き出し方向を切り替え、基材シートの揚力は変えずに、エア吹き出しの方向と流速を変えるようにする。そうすることで、エア吹出ノズルと基材シートとの間隔を一定に保ったままで、吹き出しエアの流速を下げ、熱風の熱量を下げることができ、下面側の乾燥を遅らせることができる。
【0035】
このように、上記(1)、(2)の方策により、基材シート2の両面に塗膜が塗布された電極板形成材の乾燥状態を、上下面を個別に調節することができるので、上下面の塗膜の乾燥品質を同じにすることができる。
【0036】
また、別の方法として、
(3)上面側に対し補助ヒーターを取り付けてもよい。補助ヒーターとしては、赤外線ヒーターや誘導加熱ヒーターを用いることができる。このような補助ヒーターを上面側のエア吹出ノズル間に取り付けることで、上面側に対して不要な風速を与えることなく(上面に不要な力を与えることなく)、望ましい付加熱量を与えることができる。補助ヒーターの温度範囲としては、例えば、塗膜における溶媒が溶剤系の場合には80〜200℃の範囲、水系の場合には60〜800℃の範囲から適宜選択すればよい。赤外線ヒーターの場合の熱源としては、電気の他、蒸気や熱媒油の方式も選択可能である。
【0037】
さらに別の方法として、
(4)上下面側への吹き出し熱風のガス濃度を変えてもよい。乾燥装置が熱風循環方式(吹き出し風量を全量排気するのではなく、ある割合を再度循環して熱交換し、吹き出す方式)である場合には、塗膜から揮発した溶剤がエアに含まれ、それが循環されてエア吹き出しノズルから吹き出しエアとともに吹き出されることになるので、吹き出される熱風中の溶剤の濃度を、例えば上面側では5〜50ppm、下面側では500〜1500ppmと異なる濃度にすることで、下面側の風速が大きい場合であっても、下面側の乾燥を進行しにくくして.上下面の塗膜の乾燥品質を同じにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る電極板の製造装置は、基材シートを空中走行させつつ塗膜の乾燥を行うようにしたあらゆる電極板の製造に適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 電極板形成材
2 基材シート
3、3a 塗膜
4 活物質
5 結着剤
6 溶剤
11、30、40 電極板製造装置
12 巻戻し機
13 コーター
14、41 塗布ノズル
15、15a、15b 乾燥装置
16、17 エア吹出ノズル
21、42 表面状態検知手段
22、22a 乾燥初期用ゾーン
23 乾燥中期用ゾーン
24 乾燥後期用ゾーン
25 制御装置
31 支持・搬送用ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも活物質と結着剤と溶剤を含有する活物質層形成用の塗膜が表面に塗工された集電体形成用の基材シートを走行させつつ、前記塗膜の乾燥を進行させる乾燥装置を備えた電極板の製造装置において、前記乾燥装置に、前記塗膜の表面状態を非接触にて検知可能な表面状態検知手段を、前記基材シートの走行方向に複数設けたことを特徴とする電極板の製造装置。
【請求項2】
前記表面状態検知手段が、前記塗膜の表面温度を検知可能なセンサー、前記塗膜の表面光沢または輝度を検知可能なセンサー、前記塗膜の表面からの反射光を検知可能なセンサー、前記塗膜の表面から放出される赤外線のエネルギーを測定することで前記塗膜に含まれる水分を検知可能な非接触水分計、前記塗膜の表面の画像を撮像し該画像から表面状態を定量可能な画像処理手段のいずれかからなる、請求項1に記載の電極板の製造装置。
【請求項3】
前記乾燥装置内において、前記基材シートが非接触状態にて空中走行される、請求項1または2に記載の電極板の製造装置。
【請求項4】
前記表面状態検知手段が、前記基材シートの幅方向に対しても複数設けられている、請求項1〜3のいずれかに記載の電極板の製造装置。
【請求項5】
乾燥前の前記塗膜が前記基材シートの両面に塗工されており、前記基材シートの両面側に対して前記表面状態検知手段が設けられている、請求項1〜4のいずれかに記載の電極板の製造装置。
【請求項6】
前記乾燥装置には、前記塗膜を乾燥させるための条件を個別に制御可能な乾燥条件制御手段が、少なくとも基材シート走行方向に対して複数設けられている、請求項1〜5のいずれかに記載の電極板の製造装置。
【請求項7】
前記乾燥装置内の基材シート走行方向における予め把握された前記塗膜の目標乾燥進行特性を記憶または設定する手段を備えており、前記乾燥条件制御手段は、該目標乾燥進行特性と前記表面状態検知手段による検知状態との差を参照して前記塗膜を乾燥させるための条件を制御可能に構成されている、請求項6に記載の電極板の製造装置。
【請求項8】
前記乾燥条件制御手段が、前記基材シートの両面側に対して、個別制御可能に設けられている、請求項6または7に記載の電極板の製造装置
【請求項9】
前記乾燥装置内における前記基材シートの走行パスの上下に、該基材シートをエアフローティング状態に保持するエア吹出ノズルが、基材シート走行方向に配列されている、請求項1〜8のいずれかに記載の電極板の製造装置。
【請求項10】
上側のエア吹出ノズルと下側のエア吹出ノズルが基材シート走行方向において千鳥状に配列されている、請求項9に記載の電極板の製造装置。
【請求項11】
エア吹出ノズルからの吹き出しエアの温度または風速、またはそれらの両方が、エア吹出ノズル毎に、あるいは、前記乾燥装置の基材シート走行方向におけるゾーン毎に、個別に制御可能に構成されている、請求項9または10に記載の電極板の製造装置。
【請求項12】
前記乾燥装置内には、補助ヒータがさらに含まれており、前記補助ヒータが前記乾燥条件制御手段により個別に制御可能に構成されている、請求項6〜11のいずれかに記載の電極板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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