説明

電極枠体

【課題】荷電粒子ビーム引出し用電極の電極棒を交換する際の作業効率を改善する。
【解決手段】引出し用電極は、スリット状開口部4を有するスリット電極1により構成される。スリット電極1は電極枠体2および電極棒5より構成される。電極枠体2は一体構造であり、荷電粒子ビームを通過させる開口部3、及び溝状の電極支持部を有している。電極棒5は、開口部3を跨いで電極枠体2上に配列され、両端を電極支持部により支持されて、スリット状開口部4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム照射装置のイオン源や電子ビーム照射装置の電子源といった荷電粒子ビーム発生装置で用いられるビーム引出し用の電極を構成する電極枠体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、イオンビーム照射装置のイオン源よりイオンビームを引き出す為の引出し電極系として、複数のスリット状開口部(長方形状の開口部)を有するスリット電極が用いられている。このようなスリット電極のスリット状開口部はプラズマに曝されたり、引き出されたイオンビームが衝突したりして、高温に加熱される。
【0003】
スリット状開口部が高温に加熱されると、それによって熱変形が生じる。熱変形によるスリット状開口部の歪みが大きくなると、例えば、所望するビーム量を有するイオンビームの引出しが行なえなくなる。その結果、部品の交換が必要となる。
【0004】
部品の交換といっても、スリット電極全体を交換すると費用が高額となる。その為、複数のスリット状開口部を構成する部品のうち、特に歪みが大きい部品だけを交換したいという要望がある。
【0005】
このような要望に応えるべく、これまでに特許文献1に記載のスリット電極が考案されてきた。
【0006】
特許文献1にはスリット電極のスリット状開口部を構成する部材を部分的に交換することが可能なスリット電極が開示されている。
【0007】
特許文献1の図2にはイオン源の引出し電極系で使用されるプラズマ電極(加速電極とも言う)の構成が開示されている。このプラズマ電極では、電極枠体の開口部に複数本の電極棒を配置することで、各電極棒間にスリット状開口部が形成されている。各電極棒は、電極枠体に形成された貫通穴を介して電極枠体の外部より個別に抜き差しされることで、電極枠体への取り付けや取り外しが行われている。
【0008】
また、特許文献1の図3には引出し電極系を構成する抑制電極と接地電極の例が示されている。図2の例と同様に、電極枠体の開口部に複数本の電極棒を配置することでスリット状開口部が構成されている。この図3の例においては、電極枠体は2つの枠体から構成されており、各枠体に設けられた穴に電極棒の端部を挿入した状態で、2つの枠体を組み合わせることでスリット電極の組立が行われる。反対に、スリット電極の分解時には、2つの枠体を分解して、各枠体の穴より複数本の電極棒が取り外される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平7−34358号公報(図2、図3、(2)4 33行目〜(3)5 40行目)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
通常、スリット電極を構成する電極棒は1本だけが歪んでしまうのではなく、ある領域に配置されている複数本の電極棒に歪みが生じてしまう。その為、これらをまとめて交換することが必要とされる。
【0011】
しかしながら、特許文献1の図2に記載される電極の構成では、電極棒をその長さ方向に沿って1本ずつ電極枠体に対して抜き差しして交換することになるので、時間がかかってしまう。
【0012】
また、特許文献1の図3に記載される電極の構成では、複数本の電極棒をまとめて交換できるが、交換対象とする電極棒の本数に関わらず、常に電極枠体を分解しなければならないので、作業効率が悪い。特に、イオン源の寸法が大きなものになると、電極枠体も大きなものとなるので、分解作業に多大な時間や労力を要することになる。
【0013】
本発明では引出し用電極のスリット状開口部を形成する電極棒を交換する際の作業効率を改善することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の電極枠体は、荷電粒子ビーム引出し用の電極を構成する電極枠体であって、前記電極枠体は略中央部に荷電粒子ビームを通過させる開口部を備えているとともに、前記電極枠体を一方向からみたとき、前記開口部周りの一部に前記開口部を跨いで配置される電極棒の両端を支持する電極棒支持部が形成されていることを特徴としている。
【0015】
このような構成を採用すると、電極棒をその長さ方向と略直交する方向から電極枠体に簡単に取り付けることができる。また、電極枠体を分解する必要がないので、電極棒の交換に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0016】
より具体的には、前記電極棒支持部は前記電極枠体の表面上に形成されており、当該表面より溝状に凹んでいる。
【0017】
また、前記電極棒支持部は前記開口部に連結していることが望ましい。
【0018】
そのうえ、前記電極棒支持部上方には蓋体が取り付けられることが望まれる。
【0019】
一方で、荷電粒子ビーム発生装置としては上記の電極枠体から構成されるビーム引出し用電極を備えている。
【発明の効果】
【0020】
電極棒をその長さ方向と略直交する方向から電極枠体に取り付けることができるので、交換作業が簡便となる。また、電極棒の交換時に電極枠体を分解する必要がないので、電極棒の交換に要する時間を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のスリット電極の一例を表す平面図である。
【図2】図1のスリット電極から蓋体および電極棒を取り除いた時の様子を表す平面図である。
【図3】図2の要部拡大図であり、電極棒が電極棒支持部に配置される時の様子を表す。
【図4】図2の要部拡大図であり、電極棒支持部上に蓋体を配置した時の様子を表す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の実施形態において、各図に描かれているX、Y、Zの各軸は互いに直交している。
【0023】
図1には本発明のスリット電極1の一例が描かれている。このスリット電極1は、主に開口部3を有する電極枠体2と開口部3内に配置された複数本の電極棒5(図中、ハッチングされている部材)とで構成されている。
【0024】
各電極棒5は、長手方向がX方向に沿うように電極枠体2に支持されているとともに、概ねY方向に沿って略等しい間隔を空けて並設されている。
【0025】
概ねY方向に沿って並設された各電極棒5の間やY方向の端部に位置する各電極棒5と電極枠体2との間には、スリット状開口部4が形成されている。なお、図1、後述する図7および図8では、図面の簡略化の為、電極棒5とスリット状開口部4の符号を一部にしか付記していない。
【0026】
図1に示されるスリット電極1から電極棒5と蓋体6とを取り除いた時の様子が図2に描かれている。複数本の電極棒5は、電極枠体2の開口部3を挟んでX方向に沿って対向配置された図2に記載の電極棒支持部7に、その長手方向における両端部が支持されている。この電極棒支持部7は、一例として、電極枠体2の開口部3に隣接する端部を矩形状に切り欠くことで形成されている。
【0027】
図2に記載される電極棒支持部7の上面には、図1に記載の蓋体6がZ方向側より取り付けられる。蓋体6には図示されない貫通穴が形成されており、Z方向側より止めネジ8を蓋体6の貫通穴に挿通し、電極枠体2のネジ穴9に螺合することで、蓋体6の取り付けが行われる。
【0028】
図1に記載の蓋体6は、電極棒5が並設された方向(おおよそ図中のY方向)に沿って複数に分割されているが、これらを分割せずに1つの蓋体6としても良い。1つの蓋体6の場合、蓋体6の取り付け作業が簡便となる。また、蓋体6には熱膨張が生じるので、熱膨張率が小さいモリブデンやタングステンのような高融点材料を蓋体6に使用することが望まれる。
【0029】
蓋体6に熱膨張が発生した場合、1つの大きな蓋体6だと、熱膨張による蓋体6の伸びも大きくなる。一方で、蓋体6を分割しておくと、1つの大きな蓋体6に比べて蓋体6の熱膨張による伸びを許容できうる程度の小さなものにすることができる。また、蓋体6を分割して設けておくと、熱変形の大きい蓋体のみを交換することができるので、部材交換による費用を低額に抑えることが期待できる。
【0030】
図3は、図2の要部拡大図であり、電極棒5が電極棒支持部7に配置される時の様子が描かれている。X方向及びY方向において、電極棒5の寸法とX方向に配置された一対の電極棒支持部7間の寸法との関係は、R1X<LX<R2X、LY≦RYとなるように設定されている。Z方向においては、電極棒5は電極棒支持部7内に収まるように互いの寸法関係が設定されている。ただし、これに限られない。例えば、電極棒支持部7の上方を覆う蓋体6の一部にザグリを設けておき、ここに電極棒5の一部が収納されるように構成しておく場合、電極棒5は電極棒支持部7内に収まらなくても良い。
【0031】
図3では、電極棒支持部7を電極枠体2に形成していた。その場合、電極棒支持部7を構成する特別な部材が必要ないので、その分の部材費用を安くすることが期待できる。
【0032】
しかしながら、電極棒支持部7が形成される近辺は、プラズマに曝されたり、イオンビームが衝突したりして比較的高温に加熱される。その為、電極棒支持部7が熱変形してしまう可能性がある。電極棒支持部7が熱変形した場合、図3の例では電極枠体2を交換しなければならない。イオン源の大きさにもよるが、電極枠体2は比較的大型な部材となる為、その分、部材費用が高い。
【0033】
図4は、図2の要部拡大図であり、電極棒支持部7上に蓋体6を配置した時の様子が描かれている。この図より理解できるように蓋体6を電極棒支持部7の上面に配置した場合、電極棒5の長手方向であるX方向において、電極棒支持部7に開放端部13が形成される。このような構成によって、電極棒5端部の電極棒支持部7からの抜け落ちが防止される。
【0034】
本発明が適用される電極枠体2に形成される開口部3は長方形状である必要はなく、それ以外の形状であっても良い。例えば、円形状や楕円形状、多角形状のものであっても良く、開口部3に電極棒5を配置した際に、イオンビームを通過させるスリット状開口部4が形成されるものであれば、どのような形状であっても良い。
【0035】
電極棒5の材質としては、高温に加熱されることから高融点材料(例えば、モリブデン、タングステン)が用いられることが考えられる。
【0036】
上述した実施形態では、イオンビーム照射装置に用いられるイオン源のイオンビーム引出し用の電極に本発明の電極枠体が適用される例について述べてきたが、電子ビーム照射装置で用いられる電子源の電子ビーム引出し用の電極に本発明の電極枠体を適用させても良い。電子源においてもイオン源と同じく、電子ビームの引出し時に電極部が加熱される問題が生じるので、本発明の電極枠体を適用させることができる。
【0037】
前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0038】
1・・・スリット電極
2・・・電極枠体
3・・・開口部
4・・・スリット状開口部
5・・・電極棒
6・・・蓋体
7・・・電極棒支持部
8・・・止めネジ
9・・・ネジ穴
13・・・開放端部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビーム引出し用の電極を構成する電極枠体であって、
前記電極枠体は略中央部に荷電粒子ビームを通過させる開口部を備えているとともに、
前記電極枠体を一方向からみたとき、前記開口部周りの一部に前記開口部を跨いで配置される電極棒の両端部を支持する電極棒支持部が形成されていることを特徴とする電極枠体。
【請求項2】
前記電極棒支持部は前記電極枠体の表面上に形成されており、当該表面より溝状に凹んでいることを特徴とする請求項1記載の電極枠体。
【請求項3】
前記電極棒支持部は前記開口部に連結していることを特徴とする請求項1または2記載の電極枠体。
【請求項4】
前記電極棒支持部上方には蓋体が取り付けられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電極枠体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の電極枠体から構成される引出し用電極を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム発生装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−69661(P2013−69661A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−51870(P2012−51870)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【分割の表示】特願2011−206510(P2011−206510)の分割
【原出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】