説明

電極棒

【課題】電極板に着脱でき、電極板の転用を可能にするとともに、電極棒と電極板の間の抵抗を小さくして効率的に電流を通電することを可能にする電極棒を提供することを目的とする。
【解決手段】ケーシングの外側から内側に貫通形成された電極棒挿入孔に挿入した状態で、ケーシング内に設けられた電極板に接続して設置される電極棒18、19であって、先端18a、19aから軸線O2方向に沿って後端18b、19b側に延び、電極板の端部側を挿入して電極板に着脱可能に接続するための電極板保持スリット35と、この電極板保持スリット35に交差して先端18a、19aから軸線O2方向に沿って後端18b、19b側に延び、電極棒18、19の先端18a、19a側の変位を許容するための歪み吸収スリット36とを備えて、先端18a、19a側を少なくとも4つ以上に分割形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解水製造装置や燃料電池などに用いて好適な電極棒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品製造分野等では、電解水製造装置で種々の電解質水溶液を電気分解して電解殺菌水(電解水)を製造し、この電解殺菌水を殺菌消毒などに用いている。例えば、塩化ナトリウム水溶液、塩酸水溶液などの塩素イオンを含有する電解質水溶液を電気分解すると、電解酸化作用により塩素ガスが発生し、この塩素ガスが水に溶解して次亜塩素酸が生成される。そして、このように生成した次亜塩素酸を含む電解殺菌水は、次亜塩素酸ソーダを水に溶解して調製した殺菌水と比較し、低塩素濃度であっても優れた殺菌効果を発揮し、また、使用する度に微妙な濃度調整を行う必要がないなどの多くの利点を有している。
【0003】
一方、電解水製造装置は、電解質水溶液を電気分解するための電解槽を備えて構成されている。また、複数の電極板を直列配置した複極式(直列式)の電解槽が多用されており、この複極式電解槽は、複数の電極板がケーシング内に間隔をあけて並設され、軸線方向一端側の電極板に陽極の電極棒を、他端側の電極板に陰極の電極棒をそれぞれ溶接して配設し、一端側の電極板(陽極)から中間の電極板を経由し、他端側の電極板(陰極)に向けて通電するように構成されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
【0004】
また、電極板と電極棒との接続に関しては、電極棒の端部に1本のスリットを形成し、電極板をこのスリット(電極板保持スリット)と嵌合した上で両者を電気溶接する技術もある(例えば、特許文献5の図3参照)。
【0005】
そして、このような電解水製造装置においては、給水設備から電解槽のケーシング内に電解質水溶液を供給して順次流通させながら電解質水溶液に電流を流すことにより、電解酸化作用で塩素ガスを発生させる。そして、電解槽から取り出した塩素ガス(又は塩素ガスが混濁した液体)に水を混合することにより、水中に次亜塩素酸が生成されて電解殺菌水が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−167699号公報
【特許文献2】特開平11−169856号公報
【特許文献3】特開2008−178809号公報
【特許文献4】特開2002−126737号公報
【特許文献5】特開2003−33765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の電解槽及び電解水製造装置においては、電極板に電極棒を溶接して電解槽が構成されているため、溶接の作業負担が大きく、また、全体の外寸が大きくなり保管スペースを要する等の問題があった。
【0008】
また、電極棒を電極板に溶接して構成した場合には、当該溶接するべき電極板は、溶接のための厚みが必要になるため、中間の電極板よりも厚さを必要とする。例えば、中間の電極板の厚さが0.5mmである場合であっても、電極棒を溶接する電極版の厚さは1.0mmが必要になり、両者の互換性はなくなる。このため、電極棒を溶接した電極板を他の電解槽の中間の電極板などに転用することができない。しかも、溶接すれば、電極棒も再利用して使い回すことが困難になる。
【0009】
さらに、特許文献5のように、電極棒の端部に1本のスリットを形成し、電極板をこのスリットと嵌合した上で両者を電気溶接する技術にあっては、電気溶接する以上、上記と同様の問題が残っており、また、電気溶接をせずに電極棒と電極板とを1本のスリットにより嵌合しただけでは、電極棒と電極板の接触面積及び接触圧が小さくなってしまい、電流を効率的に通電することができない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の電極棒は、ケーシングの外側から内側に貫通形成された電極棒挿入孔に挿入した状態で、前記ケーシング内に設けられた電極板に接続して設置される電極棒であって、先端から軸線方向に沿って後端側に延び、前記電極板の端部側を挿入して前記電極板に着脱可能に接続するための電極板保持スリットと、該電極板保持スリットに交差して先端から軸線方向に沿って後端側に延び、電極棒の先端側の変位を許容するための歪み吸収スリットとを備えて、先端側が少なくとも4つ以上に分割形成され、前記電極棒挿入孔に挿入し、前記電極板保持スリットに前記電極板の端部側を挿入するとともに先端側が前記電極棒挿入孔の内面に押圧されて前記電極板を着脱可能に保持するように構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の電極棒は、請求項1記載の電極棒において、前記電極板保持スリットに対し、前記歪み吸収スリットの軸線方向の長さを小にして形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の電極棒においては、電極板の端部側を電極板保持スリットに挿入して電極棒を電極板に接続するように構成されているため、容易に電極板に対して着脱することが可能になる。また、このように電極棒を電極板に対して容易に着脱することができることで、複数の電極板を自在に使い回すことが可能になる。すなわち、電極棒が着脱できることで、陽極、陰極、中間の電極板に同じ電極板を使うことが可能になり、例えば他の電解槽の電極板として転用することが可能になる。
【0013】
さらに、歪み吸収スリットを設けることにより、各分割片を弾性変形させることが可能になる。そして、電極棒を電極棒挿入孔に挿入して電極棒の先端側が電極棒挿入孔の内面に押圧されるとともに、電極棒の先端側だけでなく、電極板保持スリットの根元側にも大きな応力が発生する。これにより、電極板と電極棒の接触面積を十分に確保しつつ、接触圧を大きくすることが可能になり、電極棒と電極板の間の抵抗を小さくして効率的に電流を通電することが可能になる。
【0014】
請求項2記載の電極棒においては、電極板保持スリットよりも歪み吸収スリットの長さを小さくすることにより、確実に電極板を差し込んだ部分に満遍なく応力が発生し、電極板と電極棒の接触面積を十分に確保しつつ、接触圧を大きくすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電解水製造装置を示す図である。
【図2】電解槽を示す斜視図である。
【図3】電解槽の分解斜視図である。
【図4】図2のX1−X1線矢視図である。
【図5】図2のX2−X2線矢視図である。
【図6】ケーシング部材の正面視図である。
【図7】図5のX1−X1線矢視図である。
【図8】本発明の一実施形態にかかる電極棒を示す斜視図である。
【図9】歪み吸収スリットを備えていない電極棒を示す斜視図である。
【図10】シミュレーションで用いた電極棒(図8と図9に示した両電極棒)及び電極板を示す斜視図である。
【図11】シミュレーションにおける解析モデルを示す斜視図である。
【図12】各電極棒の応力分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図13】各電極棒の変位分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図14】各電極棒の接触圧力分布のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1から図14を参照し、本発明の一実施形態に係る電極棒について説明する。本実施形態は、電解質水溶液を電気分解して電解水を製造する電解水製造装置の電極棒に関し、特に、次亜塩素酸を含む電解殺菌水を製造するための電解水製造装置の電極棒に関するものである。
【0017】
本実施形態の電解水製造装置Aは、図1に示すように、塩酸水溶液、塩化ナトリウム水溶液などの原液W1を貯留するタンク1と、原液W1と処理水W2を混合した電解質水溶液W3が供給され、この電解質水溶液W3を電気分解する電解槽2と、タンク1から電解槽2に向けて原液W1を送液するための第1ポンプ3と、タンク1と電解槽2の間に処理水W2を送液して原液W1を所定濃度に稀釈し、電解質水溶液W3を生成するための第2ポンプ4と、電解槽2に電力を供給するための電解電源5と、電解槽2で電解質水溶液W3を電気分解して発生した塩素ガス(あるいは塩素ガスが混合した液体)W4と処理水W2を混合して電解殺菌水W5を生成する第1混合器6と、第1混合器6で生成した電解殺菌水W5に処理水W2を混合して電解殺菌水(W5’)を所定濃度に調整する第2混合器7とを備えて構成されている。
【0018】
また、この電解水製造装置Aにおいては、電解槽2と第1ポンプ3と第2ポンプ4と電解電源5と第1混合器6を筐体8内に納めて構成されている。
【0019】
本実施形態の電解槽2は、複数の電極板を直列配置した複極式の電解槽であり、図2から図7に示すように、一対のケーシング部材10、11を着脱可能に組み付けて、内部に電解室12を形成するケーシング13と、複数の電極板14、15、16と、複数のスペーサ17と、各ケーシング部材10、11に取り付けられ、電解電源5から電極板14、16に電力を供給する一対の電極棒18、19とを備えて構成されている。
【0020】
ケーシング13は、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂を用いて形成したものであり、一対のケーシング部材10、11がそれぞれ、正面視で略方形状に形成されている。また、各ケーシング部材10、11は、一面10a、11aから他面10b、11b側に凹む方形状の凹所10c、11cを備えて形成されている。そして、一対のケーシング部材10、11は、図6に示すように一面10a、11aの外周側に接着剤20を塗布し、図2から図5、図7に示すように、互いの一面10a、11a同士を接着して一体に組み付けられ、このように一体に組み付けるとともに互いの凹所10c、11cによって電解室12を形成するように構成されている。
【0021】
さらに、各ケーシング部材10、11には、図2から図7に示すように、上端側の幅方向略中央に、一面10a、11aから他面10b、11bに向かう横方向に延びる軸線O1方向に中心軸方向を配して、筒状の配管接続部21、22が一体形成されている。また、図2、図3及び図6に示すように、一面10a、11aの上端側の幅方向略中央には、一面10a、11aから他面10b、11b側に凹み、且つ配管接続部21、22と凹所10c、11cを連通させるように上下方向に延びる取出溝23、24が形成されている。さらに、一面10a、11aの下端側の幅方向略中央には、一面10a、11aから他面10b、11b側に凹み、且つ凹所10c、11cと外部を連通させるように上下方向に延びる供給溝25、26が形成されている。
【0022】
そして、一対のケーシング部材10、11を一体に組み付けるとともに、互いの配管接続部21、22の内孔同士が連通し、また、互いの取出溝23、24同士、供給溝25、26同士が繋がって配管接続部21、22の内孔と電解室12を連通させる取出孔27と、互いの供給溝25、26同士が繋がって電解室12と外部を連通させる供給孔28が形成される。
【0023】
また、各ケーシング部材10、11には、図3、図6及び図7に示すように、上端面から凹所10c、11c(電解室12)に貫通する電極棒挿入孔30、31が形成されている。さらに、この電極棒挿入孔30、31は、上端側から凹所10c、11cに向かうに従い漸次その径が小となるテーパー部30a、31aと、上端面からテーパー部30a、31aまでの部分に設けられ、テーパー部30a、31aよりも大径且つ一定の径で断面円形状に形成されたフランジ係合部30b、31bとを備えて形成されている。また、本実施形態の電解槽2においては、図3及び図7に示すように、各ケーシング部材10、11の電極棒挿入孔30、31の直下に配されるスペーサ17が切欠部17aを備えて形成されており、このスペーサ17の切欠部17aが電極棒挿入孔30、31の一部を構成して、図2及び図7に示すように、各電極棒挿入孔30、31がケーシング13の外側から内側に(すなわち、外部から電解室12に)貫通形成される。
【0024】
複数の電極板14、15、16はそれぞれ、図2、図3、図6及び図7に示すように、方形板状に形成されており、正面視において、ケーシング部材10、11の凹所10c、11cの正面視形状と同形同大で形成されている。また、本実施形態では、電解槽2が3枚の電極板14、15、16を備えて構成されており、一対のケーシング部材10、11を組み付けて形成される電解室12内に、これら3枚の電極板14、15、16が軸線O1方向に所定の間隔をあけて収容されている。このとき、コ字状に形成した一対のスペーサ17が、互いの開口側を対向させつつ隣り合う電極板同士(14と15、15と16)の間に介設され、電極板14、15、16とともにこれらスペーサ17を電解室12内に収容されている。さらに、このとき、一対のケーシング部材10、11の軸線O1方向の両外側にそれぞれ配される電極板14、16は、各ケーシング部材10、11の上端側に形成した電極棒挿入孔30、31の直下に上端(端部)が配されるように位置決めされて、凹所10c、11c内に設置されている。
【0025】
一方、本実施形態の電極棒18、19は、図8に示すように、略円柱棒状の電極本体部33と、絶縁性を有し、筒状に形成され、電極本体部33の軸線O2方向後端側を内孔に挿入して取り付けられた絶縁被覆部34とを備えて構成されている。また、電極本体部33は、先端18a、19a側の電極部33aに対し、後端18b、19b側の電源接続部33bが小径で形成されている。絶縁被覆部34は、電極部33aの後端側を被覆する大径部34aと、外周面に雄ネジの螺刻が施され、電源接続部33bを被覆する小径部34bとを備えて形成されている。さらに、絶縁被覆部34は、大径部34aと小径部34bの軸線O2方向の間に、径方向外側に突出し、周方向に繋がる環状のフランジ部34cを備えて形成されている。
【0026】
また、電極本体部33の電極部33aは、その先端18a、19a側に、先端18a、19aから軸線O2方向に沿って後端18b、19b側に延び、電極板14、16の端部側を挿入して電極板14、16に着脱可能に接続するための電極板保持スリット35と、この電極板保持スリット35に直交して先端18a、19aから軸線O2方向に沿って後端18b、19b側に延び、電極部33aの先端18a、19a側の変位(歪み)を許容するための歪み吸収スリット36とを備えて形成されている。すなわち、電極部33aひいては電極棒18、19は、その先端18a、19a側が十字状に交差して設けられた電極板保持スリット35と歪み吸収スリット36により、4分割して形成されている。
【0027】
さらに、本実施形態の電極棒18、19においては、電極板保持スリット35に対し、歪み吸収スリット36の軸線O2方向の長さを小にして形成されている。
【0028】
そして、上記構成からなる本実施形態の電極棒18、19は、図2、図3及び図7に示すように、電極本体部33の電極部33aを電極棒挿入孔30、31のテーパー部30a、31aに挿入するとともに、Oリング47を設置したフランジ係合部30b、31bにフランジ部34cを係合させてケーシング部材10、11に取り付けられている。このとき、電極部33aの先端18a、19a側に形成された電極板保持スリット35に電極板14、16の端部側を挿入するとともに先端18a、19a側が電極棒挿入孔30、31のテーパー部30a、31aの内面に押圧され、電極部33aの各分割片37〜40が電極板14、16を圧接して保持する。また、電極棒18、19を電極棒挿入孔30、31から外側に引き出すとともに先端18a、19a側の押圧状態が解除され、且つ電極板14、16の保持状態が解除される。これにより、本実施形態の電極棒18、19は、電極棒挿入孔30、31に挿入するとともに電極板14、16に着脱可能に接続される。
【0029】
また、このように設置した電極棒18、19は、図3から図5、図7に示すように、2つの貫通孔41、42を備えた固定板43を用いてケーシング部材10、11に固定して取り付けられている。すなわち、ケーシング部材10、11の上端面から上方に突出した電源接続部33b及びこの電源接続部33bを被覆する小径部34bを一方の貫通孔41に挿通し、ナット44を小径部34bの雄ネジに螺合させ、さらに、他方の貫通孔42にボルト(あるいはピン)45を挿通してケーシング部材10、11に締結することによって、電極棒18、19が固定板43を介してケーシング部材10、11に固設されている。
【0030】
これにより、本実施形態の電極棒18、19においては、従来の電極棒のように溶接して電極板14、16に取り付ける場合と比較し、電極板保持スリット35に電極板14、16の端部側を挿入し、電極部33aの各分割片37〜40で圧接保持させて電極板14、16に接続するように構成されているため、容易に電極板14、16及びケーシング部材10、11に対して着脱することが可能になる。
【0031】
そして、このように電極棒18、19を電極板14、16に対して容易に着脱することができることで、複数の電極板14、15、16を自在に使い回すことが可能になる。すなわち、従来では、電極棒が電極板14、16に溶接されているため、電極棒を溶接した電極板14、16は、電流を陽極から陰極に向かって流す際に中間に設ける電極板15として転用することができなくなるが、本実施形態では、電極棒18、19が着脱できることで、陽極、陰極、中間の電極板14、15、16に同じ電極板を使うことが可能になる。また、他の電解槽2の電極板14、15、16として転用することも可能になる。
【0032】
ここで、図9に示すように、歪み吸収スリット36を設けず、電極本体部33の電極部33aに電極板保持スリット35のみを設け、先端50a側を2分割して電極棒50を構成した場合であっても、2つの分割片51、52で電極板14、16の端部側を圧接して電極棒50を着脱可能に接続することが可能である。
【0033】
一方、電極棒18、19と電極板14、16の接触面積を大きくするほど、また、電極棒18、19と電極板14、16の接触圧を大きくするほど、抵抗が小さくなって、電極棒18、19と電極板14、16の間の抵抗を小さくして効率的に電流を通電することが可能になる。これに対し、図10に示す本実施形態の電極棒18(19)(モデル1)と、電極棒50(モデル2)とに対してシミュレーションを行い、両者の違いを確認した。
【0034】
このシミュレーションでは、計算ソフトとして、SolidWorks2009 SP4 Premiumのシミュレーションソルバー(COSMOS)を使用した。また、解析モデルは、図11に示すように、スケールを1:1とし、要素を0.5mmピッチで5.5万要素のテトラ形状とした。さらに、拘束条件は、電極棒18、50の根元部分18b、50bと電極板14(16)の先端部14aを完全拘束とし、荷重条件は、電極棒18、50の先端18a、50a部分に等分布荷重で10Nを荷重し、重量を無視した。これは、電極棒挿入孔30(31)のテーパー部30a(31a)へ電極棒18、50を差し込むときの先端18a、50aにかかる荷重を模擬したものである。また、接触条件は、電極棒18、50と電極板14が接する部分のそれぞれ2箇所ずつ、計4箇所で設定し、摩擦係数を0.3とした。
【0035】
図12は、各電極棒18、50に作用する応力の分布、図13は、各電極棒18、50に生じる変位の分布、図14は、各電極棒18、50に作用する接触圧力の分布のシミュレーション結果を示している。
【0036】
そして、図12に示すように、モデル1(電極棒18)では、歪み吸収スリット36(電極板保持スリット35)の根元側に応力が集中し、先端18a側には大きな応力が発生していない。一方、モデル2(電極棒50)では、先端50a側にのみ応力が集中している。また、図13に示すように、モデル1の変位は、モデル2よりも大きく、特にX方向の変位に関しては、歪み吸収スリット36があることにより、かなり大きくなる。また、Y方向の変位は、モデル1、モデル2ともに先端18a、50a側に変位が集中する。そして、図14に示すように、接触圧力は、応力分布と同様、モデル1は中心部の圧力が高く、外周部の圧力が小さくなっている。また、モデル2は、接触圧力が均等にかかっている。
【0037】
このように、歪み吸収スリット36を設けていないモデル2においては、電極棒挿入孔30(31)のテーパー部30a(31a)の内面に押圧される先端50a側のみに応力が集中し、電極板保持スリット35の根元側の応力が著しく小さくなる。このため、モデル2では、分割片51、52の先端50a側が電極板保持スリット35の間隔を狭くするように、根元側が電極板保持スリット35の間隔を広げるように、分割片51、52が軸線O2直交方向に凸の円弧状に変形することになる。これにより、モデル2においては、電極板保持スリット35の根元側と電極板14(16)が離れ、接触面積及び接触圧が小さくなってしまう。
【0038】
これに対し、歪み吸収スリット36を設けたモデル1においては、電極棒挿入孔30(31)のテーパー部30a(31a)の内面に押圧される先端18a側だけでなく、電極板保持スリット35の根元側にも大きな応力が発生する。これは、歪み吸収スリット36によって各分割片37〜40が弾性変形することによるものであり、電極板14を差し込んだ部分に満遍なく応力が発生することで、電極板14と電極棒18の接触面積を十分に確保しつつ、接触圧を大きくすることが可能になる。これにより、本実施形態の電極棒18、19は、歪み吸収スリット36を備えることにより、電極棒18、19と電極板14、16の間の抵抗を小さくして効率的に電流を通電することが可能になる。
【0039】
さらに、このとき、電極板保持スリット35よりも歪み吸収スリット36の長さを小さくすることにより、各分割片37〜40が大きく変位して電極板14に沿う方向に隣り合う分割片同士(37と38、39と40)の先端18a側が接触することがない。すなわち、各分割片37〜40が変位してモデル2のように2分割した形になってしまうことがない。このため、確実に電極板14を差し込んだ部分に満遍なく応力が発生し、電極板14、16と電極棒18、19の接触面積を十分に確保しつつ、接触圧を大きくすることが可能になる。
【0040】
また、このように電極棒18、19を電極板14、16に溶接しなくても十分な接触面積及び接触圧を確保でき、電流を効率的に通電できるため、溶接作業が不要になる。しかも溶接するべき電極板14、16と中間の電極板15とを同一の仕様にすることができるため、複数の電極板14、15、16を自在に使い回すことが可能になる。また、溶接が不要になるため、電極棒18、19も再利用して使い回すことが可能になる。特に、歪み吸収スリット36の作用により、長期間運転した後でも電極棒自身の変形が最小限に抑えられるため、電極棒18、19は再利用に適する。
【0041】
以上、本発明に係る電極棒の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、電極棒18、19が次亜塩素酸を含む電解殺菌水を製造するための電解水製造装置Aの電極棒であるものとして説明を行ったが、本発明の電極棒は、例えば、燃料電池の電極板に接続して設ける電極棒に適用してもよく、必ずしも電解水製造装置Aの電極棒18、19に限定しなくてもよい。
【0042】
また、本実施形態では、電極棒18、19が十字状に交差する電極板保持スリット35と歪み吸収スリット36を備えて、その先端18a、19a側が4分割して形成されているものとしたが、複数の歪み吸収スリットを備えていてもよい。すなわち、本発明の電極棒は、歪み吸収スリットを備えて4つ以上に分割されていればよい。
【符号の説明】
【0043】
1 タンク
2 電解槽
3 第1ポンプ
4 第2ポンプ
5 電解電源
6 第1混合器
7 第2混合器
8 筐体
10 ケーシング部材
10a 一面
10b 他面
10c 凹所
11 ケーシング部材
11a 一面
11b 他面
11c 凹所
12 電解室
13 ケーシング
14 電極板
15 電極板
16 電極板
17 スペーサ
17a 切欠部
18 電極棒
18a 先端
18b 後端
19 電極棒
19a 先端
19b 後端
20 接着剤
21 配管接続部
22 配管接続部
23 取出溝
24 取出溝
25 供給溝
26 供給溝
27 取出孔
28 供給孔
30 電極棒挿入孔
30a テーパー部
30b フランジ係合部
31 電極棒挿入孔
31a テーパー部
31b フランジ係合部
33 電極本体部
33a 電極部
33b 電源接続部
34 絶縁被覆部
34a 大径部
34b 小径部
34c フランジ部
35 電極板保持スリット
36 歪み吸収スリット
37 分割片
38 分割片
39 分割片
40 分割片
41 貫通孔
42 貫通孔
43 固定板
44 ナット
45 ボルト
47 Oリング
50 電極棒
50a 先端
50b 根元(後端)
51 分割片
52 分割片
A 電解水製造装置
O1 ケーシングの軸線
O2 電極棒の軸線
W1 原液
W2 処理水
W3 電解質水溶液
W4 塩素ガス
W5 電解殺菌水
W5’ 電解殺菌水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングの外側から内側に貫通形成された電極棒挿入孔に挿入した状態で、前記ケーシング内に設けられた電極板に接続して設置される電極棒であって、
先端から軸線方向に沿って後端側に延び、前記電極板の端部側を挿入して前記電極板に着脱可能に接続するための電極板保持スリットと、該電極板保持スリットに交差して先端から軸線方向に沿って後端側に延び、電極棒の先端側の変位を許容するための歪み吸収スリットとを備えて、先端側が少なくとも4つ以上に分割形成され、
前記電極棒挿入孔に挿入し、前記電極板保持スリットに前記電極板の端部側を挿入するとともに先端側が前記電極棒挿入孔の内面に押圧されて前記電極板を着脱可能に保持するように構成されていることを特徴とする電極棒。
【請求項2】
請求項1記載の電極棒において、
前記電極板保持スリットに対し、前記歪み吸収スリットの軸線方向の長さを小にして形成されていることを特徴とする電極棒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−26014(P2012−26014A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168134(P2010−168134)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】