説明

電極構造およびリチウムイオン二次電池

【課題】充放電時の電極活物質の膨脹収縮に起因する、電極活物質の崩壊や電極からの電極活物質の脱落を抑制し、サイクル特性の向上したリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】特にAl、Si、Sn等の金属、合金を含む活物質と、該活物質を弾性保持させた網目状導電性部材とを含む電極を用いる事を特徴とする。該網目状導電性部材は集電体として機能し、保持する電極活物質が充放電による体積変化の大きいものであったとしても、活物質層の崩壊、脱落による劣化を抑制する事ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極構造およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、及び高いエネルギーを有することが求められている。従って、全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、上記の通り、他の二次電池と比較して電圧が高く、容量が大きく、劣化要因が少ないことなどの特徴がある。よって、近年、これらの長所を生かして携帯電話やパーソナルコンピュータ、ビデオカメラ等、各種携帯用機器を中心に広く世の中に普及している。一方で、環境問題がクローズアップされるに従い、自動車の動力源として電気の重要性が増してきており、いわゆる電動車と呼ばれるハイブリッド自動車、燃料電池自動車、電気自動車などが開発され、一部販売もされている。電気を貯蔵する電池の性能は、これら電動車の性能を決定する上で非常に重要な役割を果たすため、多くの研究開発者により鋭意、研究開発が進められている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダを用いて正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、バインダを用いて負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
【0005】
そして、リチウムイオン二次電池の作動原理は、いわゆる「ロッキングチェア型」と呼ばれており、正極・負極の各活物質へリチウムイオンが出入りすることによって発電・充電される。現在量産されているリチウムイオン二次電池は、正極にリチウム金属複合酸化物、負極に炭素材料を用いているものが多い。特に電気自動車など大出力を長時間維持する必要のある適用の場合、各活物質に貯蔵できるリチウムの量、すなわち容量が大きいことが望まれる。このため、より容量の大きい活物質材料の実用化が検討されている。
【0006】
従来、かかる活物質材料としては、充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素・黒鉛系材料が用いられてきた。しかし、炭素・黒鉛系の負極材料ではリチウムイオンの黒鉛結晶中への吸蔵・放出により充放電がなされるため、最大リチウム導入化合物であるLiCから得られる理論容量372mAh/g以上の充放電容量が得られないという欠点がある。このため、炭素・黒鉛系負極材料で車両用途の実用化レベルを満足する容量、エネルギー密度を得るのは困難であると予想される。
【0007】
これに対し、負極にリチウムと合金化する材料を用いた電池は、従来の炭素・黒鉛系負極材料よりもエネルギー密度が向上するため、車両用途における負極材料として期待されている。例えば、シリコンはリチウムを最大理論容量4200mAh/g(Li22Si相当)まで吸蔵することができるため、同372mAh/g(LiC相当)である炭素材料よりはるかに多くのリチウムを吸蔵可能である。
【0008】
しかし、負極にリチウムと合金化する材料を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電時の正極および負極の膨張収縮が大きい。例えば、リチウムイオンを吸蔵した場合の体積膨張は、黒鉛では約1.2倍であるのに対し、Si材料では約4倍にも達する。従って、電極として形成したときの電極活物質の崩壊や電極からの脱落による劣化が大きく、サイクル特性が十分とは言えず、実用的な寿命を実現するのが困難である。また、電極間の電解液不足が生じ、充放電の容量の低下を招きやすいといった欠点を有する。
【0009】
このようなSi材料などの体積膨張を改善する方法として、電極活物質と電解質との界面へ混合層を付与する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−77529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1においては、電極活物質の保持方法は、従来と同様にバインダによって集電体に保持する方法である。そのため、電極として形成したときの電極活物質の崩壊や電極からの脱落による劣化が大きく、サイクル特性が十分とは言えず、実用的な寿命を実現することが困難であった。また、電極活物質自体が膨張・収縮することによって、電極自体の体積の変化が大きかった。
【0012】
そこで本発明の目的は、充放電時の電極活物質の膨脹収縮に起因する、電極活物質の崩壊や電極からの電極活物質の脱落を抑制し、電極自体の体積変化が抑制し、サイクル特性が向上したリチウムイオン二次電池に供される電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した。その結果、電極において、電極活物質を網目状導電性部材で弾性保持することによって、電極活物質の膨脹収縮による体積変化に対応することができ、電極の体積変化を抑制することができる。そのことによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、電極活物質を網目状導電性部材で弾性保持することによって、電極活物質の膨脹収縮の体積変化に対応することができる。そのことによって、電極自体の体積変化を抑制することができる。したがって、本発明の電極をリチウムイオン二次電池に適用しても、充放電時の電極活物質の膨脹収縮に起因する、電極活物質の崩壊や電極からの電極活物質の脱落を抑制する。また、電極自体の体積変化が抑制される。そして、ひいては、サイクル特性が向上したリチウムイオン二次電池およびそれを積層してなる組電池ならびにそれを搭載する車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、正極と、負極と、正極および負極に挟持されてなる電解質層と、を含み、正極および/または負極は、網目状導電性部材によって弾性保持した電極活物質を含む、単電池の断面図を模式的に表した図である。
【図2】図2Aは、網目状導電性部材によって弾性保持した電極活物質を含む電極の実施形態の一を模式的に表した図であり、図2Bは、三次元網目構造を有する網目状部材の少なくとも一部に、導電部材を塗布され、導電性が付与された形態を示す図である。
【図3】図3Aは、網目構造を有する導電部材を模式的に表す図であり、図3Bは、導電部材1つ、1つを模式的に表す図である。
【図4】図4Aは、別に網目構造を有するシート状の導電部材を、電極活物質を弾性保持する網目状部材の上に積層し、網目状導電性部材32を形成した形態を上から見た図である。図4Bは、図4Aの断面図である。
【図5】図5は、本発明における網目状部材によって弾性保持した電極活物質を含む電極の実施形態の一を模式的に表した図である。
【図6】図6は、規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状部材に、導電部材を含有した形態を模式的に表した図である。
【図7】図7は、リチウムイオン二次電池の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【図8】図8は、本発明の第2の電池を複数個接続して得られる組電池を示す斜視図である。
【図9】図9は、本発明の第3の組電池を搭載する自動車の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<本発明の第1>
本発明の第1は、電極活物質と、前記電極活物質を弾性保持する網目状導電性部材と、を含む、電極である。
【0017】
体積変化が大きい電極活物質の体積膨張を改善する方法として、上記特許文献1に挙げた技術以外にも、例えば電極活物質自体を体積変化の小さいものに合金化する方法などが考えられる。また、電極活物質自体に被覆処理を行って体積変化を抑制する方法も考えられる。
【0018】
しかしながら、いずれの方法も、電極活物質をバインダによって集電体に弾性保持する方法である。このように体積変化が大きい電極活物質をバインダによって保持すると、バインダが、電極活物質の体積変化に追随できず(対応できず)、電極活物質が崩壊したり電極から脱落したりして、電池が劣化するという問題がやはり生じてしまう。また、実際電池として使う際には容量の制限があるため、電極自体の体積変化が大きくなってしまうと問題となる。
【0019】
一方で、体積変化が大きい電極活物質の体積膨張を改善する方法として、電極活物質自体に工夫を施すのではなく、電極活物質との接合力を強化すべく、集電体としてパンチングメタル、網状金属繊維焼結体などを用いる方法が考えられる。また、集電体の表面を複合化・粗面化する方法を用いる方法が考えられる。
【0020】
しかしながら、集電体自体の変形能力(弾性歪限界、破断伸び等)は高々数%のため、体積変化の大きい電極活物質の保持能力としては必ずしも十分とはいえず、電極活物質が崩壊したり電極から脱落したりして、電池が劣化するという問題がやはり生じてしまう。また、電極自体の体積変化が大きく、電池が劣化するという問題がやはり生じてしまう。
【0021】
このように、従来の電極は、集電体に電極活物質を結着させ、電極としての形状を維持する構造となっていたため、電極活物質の体積変化に比して集電体(電極活物質を保持する部材)の変形能力が小さく、変形を繰り返す過程で電極活物質が脱落するという問題点があった。
【0022】
一方で、車両用途の実用化レベルを満足する容量、エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池の開発が急務である以上、上記問題点を解決する画期的な「電極崩壊防止機構の創出」が必要と考えた。
【0023】
本発明者は、かかる問題点を解決すべく鋭意検討を行った。その過程の中で、一般的な集電体(集電箔)の機能について着目した。集電体の機能は、「電気を集電する集電機能」と、「電極活物質等を保持する電極構造維持機能」の2つに大別することができる。発明者は、現在集電体が担っているこれら2つの機能を、1つのものに担わせるのではなく、別々のものに担わせることで、電極としてより自由な構造がとれないか、鋭意検討を行った。
【0024】
その結果、電極において、電極活物質を網目状導電性部材で弾性保持することによって、電極活物質の膨脹収縮による体積変化に対応することができ、電極自体の体積変化を抑制でき、上記課題を解決できることを見出した。
【0025】
すなわち、本発明は、電極活物質と、前記電極活物質を弾性保持する網目状導電性部材と、を含む、電極である。
【0026】
かかる構成によれば、本発明の電極をリチウムイオン二次電池に適用しても、充放電時の電極活物質の膨脹収縮に起因する、電極活物質の崩壊や電極からの電極活物質の脱落を抑制する。また、電極活物質を網目状導電性部材で弾性保持することによって、電極活物質の膨脹収縮による体積変化に対応することができる。また、網目状導電性部材が電極活物質を弾性保持するため、電極活物質の膨潤と収縮による電極自体の体積変化も抑える役割を持たせることも出来る。そして、ひいては、サイクル特性が向上したリチウムイオン二次電池およびそれを積層してなる組電池ならびにそれを搭載した車両を提供することができる。
【0027】
本発明による効果はこれだけではない。上記の通り、集電体が担っている2つの機能のうち、「電極構造維持機能」を網目状導電性部材に担わせることで、従来のバインダを使用しなくてもよくなる。そうであるので、電極の部品点数の削減にも繋がる。また、バインダを使用しないことによって、電極のリサイクル性の向上に繋がる。さらには、リサイクル性が向上することによって、環境にも優しい。
【0028】
加えて、電極の材料として用いられうるLi、Co、Ni、Mn等はレアメタルである(Coは、埋蔵量にも大きな課題がある)が、自動車搭載用に用いるためには大量に必要となる。しかしながら、リサイクル性が向上することによって、実用化に向けて有意となる。
【0029】
以下、適宜図面を参照しながら、さらに具体的に説明するが、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。
【0030】
図1は、正極12と、負極14と、正極12および負極14に挟持されてなる電解質層13と、を含み、正極12および/または負極14は、網目状導電性部材によって弾性保持した電極活物質を含む、単電池16の断面図を模式的に表した図である。なお、本明細書中、正極12・負極14を総称して「電極」と称する場合もあるし、正極12・負極14のいずれかを「電極」と称する場合もある。また、本明細書中、正極活物質・負極活物質を総称して「電極活物質」と称する場合もあるし、正極活物質・負極活物質のいずれかを「電極活物質」と称する場合もある。
【0031】
上記の通り、本発明の電極は、網目状導電性部材によって弾性保持された電極活物質を含む。この際、正極12のみが、網目状導電性部材によって弾性保持された電極活物質を含んでもよいし、負極14のみが、網目状導電性部材によって弾性保持された電極活物質を含んでもよい。無論、電極(正極12および負極14)のいずれもが、網目状導電性部材によって弾性保持した電極活物質を含んでもよい。好ましくは、少なくとも負極14が、網目状導電性部材によって弾性保持した電極活物質を含む。正極12のみが網目状導電性部材によって弾性保持した電極活物質を含むと、特に、バインダレスにより、リサイクル性が向上するとの観点で好ましい。また、負極14のみが網目状導電性部材によって弾性保持した電極活物質を含むと、電極活物質の崩壊や電極からの電極活物質の脱落を抑制することできる点で好ましい。また、バインダレスにより、リサイクル性が向上するとの観点でも好ましい。また、正極12および負極14のいずれもが、網目状導電性部材によって弾性保持した電極活物質を含むと、電池全体の部品数を減少することができる点で好ましい。無論、電極活物質の崩壊や電極からの電極活物質の脱落を抑制することでき、さらに、リサイクル性が向上するとの観点でも好ましい。
【0032】
[電極(正極・負極)]
本発明の電極(正極12および/または負極14)は、網目状導電性部材によって弾性保持された電極活物質を含む。
【0033】
本発明の電極の厚さも特に制限はないが、ある程度の電極活物質の量を弾性保持して容量を確保するとともに、活物質層全体まで電解質が行き渡り、リチウムイオンのパスを確保する観点から、好ましくは1〜500μm、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜50μm程度である。
【0034】
(電極活物質)
電極活物質の形状にも特に制限されず、角板状、円盤状、粒子状など如何なる形状のものも好ましく使用できるが、形成や取り扱いの容易さという観点で、粒子状であることが好ましい。
【0035】
負極活物質としては、以下に制限されることはないが、具体的には、炭素材料、Al、Si、Ge、Sn、Pb、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、N、Sb、Bi、O、S、Se、Teおよびこれらを含む合金等が挙げられる。中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できる観点から、負極活物質が、Al、Si、Ge、Sn、Pb、In、Znおよびこれらを含む合金からなる群より選択される少なくとも1種であると好ましく、Si、Snまたはこれらを含む合金を含むことがより好ましい。中でも、Siはリチウムを最大理論容量4200mAh/g(Li22Si相当)まで吸蔵することができ、車両用途の実用化レベルを満足する容量、エネルギー密度を得ることができるため好ましい。
【0036】
本発明によれば、充放電時の体積変化が大きなSiを負極活物質として用いたとしても、それを網目状導電性部材で弾性保持することによって、電極活物質の膨脹収縮による体積変化に対応することができる。よって、電極として形成したときの電極活物質の崩壊や電極からの脱落を有意に防止し、電極自体の体積変化が抑制され、サイクル特性を向上させ、実用的な寿命を実現することができる。つまり、Si、Snやこれらを基材とする合金を用いた電極の長寿命化が可能になる。その他、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、金属材料、リチウム−チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム−遷移金属複合酸化物、およびその他の従来公知の負極活物質が使用可能である。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。
【0037】
負極活物質の平均粒子径は網目状導電性部材に弾性保持されうる大きさであれば、特に制限はされず、好ましくは0.05〜100μmで、より好ましくは0.2〜20μmであり、さらに好ましくは、0.5〜10μmである。
【0038】
正極活物質としては、以下に制限されることはないが、好ましくは下記化学式(1)に示すリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物である。
【0039】
LiNiCoMn (1)
上記式において、0<a≦1.2、0≦b≦0.9、0≦c≦0.6、0.25≦d≦0.6、0≦e≦0.3、1.5≦f≦2.2、0≦g≦0.5である。MはAlまたは、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Gaからなる群から選択される少なくとも1種類であり、Xは、F、Cl、Sの少なくとも一種類である。これら正極活物質の組成は、ICP、原子吸光法、蛍光X線法、キレート滴定、パーティクルアナライザーにより測定できる。
【0040】
具体的に、例えば、リチウム−マンガン複合酸化物(LiMnなど)、リチウム−ニッケル複合酸化物、リチウム−コバルト複合酸化物、リチウム−鉄複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト複合酸化物、リチウム−マンガン−コバルト複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物、リチウム−金属リン酸化合物、リチウム−マンガンリン酸化物、リチウム−ニッケルリン酸化物、リチウム−コバルトリン酸化物、リチウム−鉄リン酸化物、およびリチウム−遷移金属硫酸化合物などが例示される。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。
【0041】
正極活物質の平均粒子径は、網目状導電性部材に弾性保持されうる大きさであれば、特に制限はされず、好ましくは0.05〜100μmで、より好ましくは0.2〜20μmであり、さらに好ましくは、0.5〜10μmである。
【0042】
なお、前記「平均粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。また、「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0043】
(網目状導電性部材)
本発明における電極においては、電極活物質を弾性保持する部材が網目状であるため、この網目構造が、電極活物質と絡んで保持し、従来の集電体が担っていた、電極活物質を支持する部材としての機能を果たすことができる。また、本発明における電極においては、保持する対象である電極活物質が体積変化の大きいものであったとしても、体積変化に対応することができ、電極活物質が崩壊したり電極から脱落したりして、電池が劣化するという問題を解消できる。また、電極自体の体積変化が抑制され、電池が劣化するという問題を解消できる。
【0044】
網目状導電性部材に電極活物質を弾性保持させる量にも特に制限はないが、1つの電極を構成する網目状導電性部材100体積部に対して、好ましくは5〜5000体積部、より好ましくは50〜500体積部である。かかる範囲であれば、電極の容量を確保するとともに、過剰な弾性保持量により粒子相互の干渉を防ぐという効果がある。
【0045】
本発明に用いられうる網目状導電性部材を構成する材料としても、特に制限はされず、電極活物質を弾性保持できるようなものであれば、どのようなものも使用可能である。ただ、電極材料の体積変化を形状変化で吸収するという観点で、バネ弾性を有するもの、ゴム弾性を有するものなどが好ましく、より好ましくは、ゴム弾性を有するものである。中でも、高分子材料が好ましい。高分子材料で形成することにより、金属材料や無機材料を基材とする部材では得られない柔軟性、弾性、可撓性を得ることができる。高分子材料としては、エラストマーであることが好ましく、エラストマーの中でも、弾性域・破断伸びが大きいとの観点でゴム、耐薬品性、耐熱性が良好との観点で熱可塑性エラストマーが好ましい。なお、かかる材料自体を有していない場合は、別の導電性を有する部材を用いて、導電性を付与してもよい。
【0046】
本発明に用いられうる網目状導電性部材を構成する材料の破断伸びにも特に制限はないが、電極活物質の体積変化によく対応することができるという観点で、100%以上が好ましい。ただ、Si合金など電極活物質の体積変化率を考慮すると、より好ましくは200〜500%、さらに好ましくは200〜400%である。破断伸びの測定方法としては、本明細書においては、Instron社製万能材料試験機 5867型を用いて、荷重速度:20mm/min、標点間距離:50mmの条件で引張試験を行う際の値をいうものとする。
【0047】
ゴムとしても特に制限されず、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、フッ素ゴム(FKM,FFKM)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(VMQ,FVMQ)、ウレタンゴム(AU,EU)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、天然ゴム(NR),イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、多硫化ゴム(T)、ノルボルネンゴム(NOR)などが挙げられる。
【0048】
熱可塑性エラストマーとしても特に制限されず、スチレン系(SBC)、オレフィン系(TPO)、塩ビ系(TPVC)、ウレタン系(PU)、エステル系(TPEE)、アミド系(TPAE)などが挙げられる。中でも、耐薬品性が良好という観点で(例えば、電解質としてジエチルカーボネート、ジメチルエーテル等の有機溶媒を使用する場合など)、オレフィン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0049】
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしても特に制限されないが、ポリエチレンオキサイドを含むと好ましい。その理由は、ポリエチレンオキサイドのリチウムイオン伝導性によって、電極活物質表面近傍へのリチウムイオンの移動をより容易にする効果あるからである。
【0050】
上記網目状導電性部材を構成する材料は、単独でも混合物の形態であってもよい。
【0051】
本発明に用いられうる網目状導電性部材は、導電性を有する。上記の通り、網目状導電性部材は、その網目状の部材自体が導電性を有していてもよいし、他に導電性を有する部材を用いて導電性が付与されてもよい。
【0052】
他に導電性を有する部材を用いて付与する方法にも特に制限はないが、網目状部材の少なくとも一部に、導電部材を塗布、積層または含有させることによって、付与することができる。導電性が付与されると、電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。導電性の付与の方法については、後述する。
【0053】
以下、さらに本発明の電極をいくつかの好適な実施形態に分けて詳説する。
【0054】
図2Aは、本発明における網目状導電性部材によって弾性保持された電極活物質(12a、14a)を含む電極の実施形態の一を模式的に表した図である。本発明による、網目状導電性部材によって弾性保持する電極活物質は、正極活物質12aでもよいし、負極活物質14aでもよいため、(12a、14a)と示す。図2Aに示す通り、網目状導電性部材32は、三次元網目構造を有していると好ましく、前記網目状導電性部材32が、三次元網目構造の弾性部材であってもよい。網目状導電性部材32が三次元網目構造を有すると、大きさが一様ではない電極活物質(12a、14a)を、効率よく弾性保持することができる点で好ましい。
【0055】
三次元網目構造を有する網目状導電性部材32としては、特に制限されないが、三次元網目構造を有する網目状部材自体に導電性があってもよいし(図2A)、弾性を有する不織布、弾性を有する織布、弾性を有する繊維に、導電性が付与された形態などであってもよい。
【0056】
導電性を付与する方法には特に制限はないが、三次元網目構造を有する網目状部材の少なくとも一部に、導電部材を塗布する、積層するまたは含有させることによって、付与することができる。なお、本明細書中、「網目状部材」と称する際、網目を構成する部材の全体を示す場合もあるし、網目を構成する部材の1本、1本を示す場合もある。
【0057】
導電部材31としては、特に制限されないが、従来公知の導電助剤、各種金属、導電性無機化合物あるいは導電性高分子を適用することができる。ここで、導電助剤とは、導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤は特に制限されず、従来公知のものを利用することができる。例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。電極において導電助剤を含むと、電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。また、各種金属としては、導電性を付与できるものであれば特に限定はされないが、例えば、銅、アルミニウム、ステンレスやこれらの合金等がよい。中でも、特に超塑性を有する合金が好ましい。その理由は、体積膨張時の伸長の際に導電部材31が、網目状部材との結合を維持したまま変形できるため、導電部材31が寸断されず、導電構造を維持できるからである。超塑性を有する合金としては、アルミ−マグネシウム、アルミ−亜鉛、アルミ−ジルコニウムなどを主成分とした各種アルミ合金や、Ni基合金などが挙げられるが、中でも、例えば特開2003−129204に示されるような22%Al−78%Zn合金等の合金が好ましい。その理由は、アルミ・銅はいずれも電極集電体として用いられ、系の中で安定している金属であるからである。また、導電性無機化合物としては、カーボンファイバーの焼結体、カーボンナノチューブのような繊維状・針状結晶の連続体などが挙げられる。また、導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリチオフェン類が挙げられる。
【0058】
導電部材31を塗布する方法にも特に制限はないが、例えば、各種金属を、めっき、含浸、スパッタなどの表面処理などをすることなどが考えられる。電極活物質(12a、14a)の体積収縮時には、電極活物質を弾性保持する部材も収縮するが、本発明においては、電極活物質(12a、14a)を弾性保持するため、伸長した導電部材31がその長さを維持したままで電極活物質(12a、14a)を弾性保持しながら収縮が可能である。導電部材31が塗布されることによって、電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。また、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する部材の表面に導電層が設けられていることにより、より確実な電極活物質粒子の保持および導通を同時に達成できるので、従来の電極と比較してバインダや導電助剤の量を減らすことができる。
【0059】
導電性が付与される部分は、網目状部材の一部であってもよいし、全体であってもよいが、導電部材31が電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状部材よりも剛性が高い場合、好ましくは図2Bに示すような、一部であることが好ましい。図2Bは、三次元網目構造を有する網目状部材の少なくとも一部に、導電部材を塗布され、導電性が付与された形態を示す図である。図2Bに示すように、三次元網目構造を有している網目状部材30が、網目状導電性部材32の基材として構成されていてもよい。図2Bに示すように、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状部材30の全面でなく一部に塗布(被覆)することによって、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状部材30による導電部材31に及ぼす影響を軽減することができる。また、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状部材30の柔軟性と導電部材31による導電性を有意に生かすことができる。
【0060】
電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状部材30の一部に塗布する方法としては特に制限はない。例えば2つの弾性を有する繊維を用意して、1つの全体に導電部材31を塗布(被覆)し、もう1つは何らの処理を施さず、これら2つの繊維を混合して、不織布や織布を作製することなどがある。他には、例えば、弾性を有する繊維を用意して、導電部材31を塗布(被覆)したくない部分にマスキングを行い、全体に塗布(被覆)した後、それを除去する方法がある。
【0061】
電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状部材30の一部に塗布(被覆)する際の、被覆率にも特に制限はないが、導電性を確保し、電池の出力特性を効果的に向上させるためには、1つの電極中の電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状部材30全体の30〜100%程度が好ましく、より好ましくは50〜90%である。
【0062】
また、導電部材31を積層する方法にも特に制限はない。例えば、図3Aに示すように、別に網目構造を有する導電部材31(例えば、各種金属、導電性無機化合物、導電性高分子など)を作製し、それを、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状部材30上に積層する方法などが好ましい。なお、導電部材31は、図3Aに示すようにシート状に形成したものも含まれるし、図3Bに示すように、1つ、1つを示す場合もある。
【0063】
図4Aは、図3Aに示すような別に網目構造を有するシート状の導電部材31を、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状部材30の上に積層し、網目状導電性部材32を形成した形態を上から見た図である。この際、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状部材30の中に、導電部材31を含有させておいてもよい。このようにするとこで、より確実な導通を確保でき、さらに導電助剤の量を減らすことができる。図4Bは、図4Aの断面図である。図4で示すように、導電部材31を積層することによって、電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。また、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状部材30とは別に形成された導電構造を用いて電極を組み立てるため、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状部材30の形成が容易である。
【0064】
また、導電部材31(導電助剤、各種金属、導電性無機化合物、導電性高分子など)を含有する方法にも特に制限はない。例えば、三次元網目構造を有する網目状部材30を作製する際に、図3Bに示すような導電部材31を一緒に、混合して練り込んで作製する方法が挙げられる。導電部材31を含有することによって、電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。また、三次元網目構造を有する網目状部材30の内部に導電構造を形成するため、塗布の場合と同様に、より確実な電極活物質の弾性保持と導通を同時に達成できるので、従来の電極と比較してバインダや導電助剤の量を減らすことができる。混合して練り込んで作製する具体的な方法を説明すると、例えば押出機やバンバリーミキサーなどの混練機を用いて溶融混練すればよい。
【0065】
導電部材31を積層する場合、導電部材31の厚みにも特に制限はないが、導電性を有意に確保するために、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは0.5〜20μm、さらに好ましくは1〜10μmである。
【0066】
三次元網目構造を構成する網目の大きさにも特に制限はないが、上記の通り、従来の集電体が担っていた、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する網目状導電性部材32としての機能を果たすため、電極活物質(12a、14a)を弾性保持でき、かつ、脱落しない十分な大きさであることが必要である。かかる大きさも当業者であれば適宜設計を変更して調節することができる。ただ、電極活物質(12a、14a)表面での反応性を考慮すると、適度な空間を持って、三次元網目構造が形成されることがよい。
【0067】
また、三次元網目構造を形成する網(1本、1本)の大きさ(つまり、例えば、繊維径)にも特に制限はないが、前述のオーダーの径の粒子を弾性保持でき、かつリチウムイオンが出入りするのに十分な粒子表面積を確保する観点で、好ましくは0.01〜50μm、より好ましくは0.04〜10μm、さらに好ましくは0.1〜2μmである。
【0068】
三次元網目構造を有する網目状導電性部材32に、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する方法としても特に制限はされず、従来公知の知見を参照し、あるいは組み合わせて行うことができるが、以下に好適な方法を例示する。
【0069】
例えば、弾性を有する不織布のような三次元網目構造を有する網目状導電性部材32を用意する。そして、その網目状導電性部材32上に電極活物質(12a、14a)を配置する。そして、従来の電極塗布装置のようなローラーを有する塗布装置を使用して、網目状導電性部材32上に配置された電極活物質(12a、14a)を埋め込む。このとき、網目状導電性部材32の形状弾性保持と粒子の飛散低減のため、網目状導電性部材32の裏打ちとして金属箔などを用いることも可能である。または、電極活物質(12a、14a)を溶液(例えば、N−メチルピロリドンなど)に添加し、ゾルを作製する。その中に、弾性を有する不織布のような三次元網目構造を有する網目状導電性部材32を含浸し、引き上げて、乾燥させる。その他、網目状導電性部材32の片面を減圧して反対側から粒子を吸着・弾性保持させる方法も可能である。
【0070】
図5は、本発明における網目状導電性部材32によって弾性保持された電極活物質(12a、14a)を含む電極の実施形態の一を模式的に表した図である。図5に示す通り、網目状導電性部材32が、規則的に通孔を設けてなる構造を有すると好ましい。図5においては、前記網目状導電性部材32が、規則的に通孔を設けてなる弾性部材である。
【0071】
網目状導電性部材32が、規則的に通孔を設けてなる構造を有すると、弾性保持される電極活物質(12a、14a)の大きさが均一となるため、所望の性能を得やすいとの観点で好ましい(通孔の大きさがそろっていて、弾性保持される電極活物質(12a、14a)の大きさを揃える効果がある)。つまりは、電極形成時に一定の粒子径の電極活物質(12a、14a)を弾性保持することになり、ミクロレベルで見たときの部位による劣化の偏りが少なくなり、性能の安定化に寄与する点で好ましい。
【0072】
規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状導電性部材32としては、特に制限されないが、弾性を有する規則的に配列された微細孔を有する膜、弾性を有する薄板に導電性が付与された形態などが考えられる。
【0073】
規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状導電性部材32を製造する方法の具体例を以下に挙げる。例えば、メソポーラス構造を有する導電性高分子膜を、モノマーを電解重合させる方法が挙げられる(例えば、特開2005−353930号公報を参照)。無論、この方法に限られないことは言うまでもない。この方法は、上記の三次元網目構造を作製する際にも参考にすることができる。
【0074】
規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状導電性部材32は、導電性を有する。導電性を付与する方法には特に制限はないが、規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状部材自体が導電性を有していてもよいし、他の導電性を有する部材を用いて、導電性を付与させてもよい。つまり、規則的に通孔を設けてなる構造を有している網目状部材30が、網目状導電性部材32の基材として構成されてもよい。
【0075】
他の導電性を有する部材を用いて、導電性を付与させる方法としては、規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状部材30の少なくとも一部に、導電部材31を塗布、積層また含有させることによって、付与することができる。より詳しくは、規則的に通孔を設けてなる構造を有している弾性部材が、網目状導電性部材の基材として構成されている。
【0076】
導電部材31を積層する方法にも特に制限はない。上記と同様に、図3Aで示すような、別に網目構造を有する導電部材31(例えば、各種金属、導電性無機化合物、導電性高分子など)を作製し、それを、規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状部材30に積層する方法などが好ましい。この際、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状部材30の中に、図3Bに示すような導電部材31を含有させておいてもよい。このようにすると、より確実な導通を確保でき、さらに導電助剤の量を減らすことができる。導電部材31を積層することによって、電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。また、活物質粒子の弾性保持をより確実にする効果がある。
【0077】
導電部材31(導電助剤、各種金属、導電性無機化合物、導電性高分子など)を含有する方法にも特に制限はない。例えば、規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状部材30を作製する際に、図3Bで示すような導電部材31を一緒に混合して練り込んで作製する方法が挙げられる。導電部材31を含有することによって、電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。混合して練り込んで作製する具体的な方法を説明すると、例えば押出機やバンバリーミキサーなどの混練機を用いて溶融混練すればよい。図6は、規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状部材30に、導電部材31を含有した形態を模式的に表した図である。
【0078】
規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状導電性部材32の通孔の大きさは、Li脱着時の電極活物質(12a、14a)の体積変化をなるべく抑制する観点で、0.01μm〜100μm程度が好ましく、0.1μm〜50μm程度がより好ましい。
【0079】
規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状導電性部材32が膜構造である場合、一層で使用することもできるし、複数層を積層して使用することもできる。この際の層の数も、層間や電極間のリチウムイオンの移動を阻害しない状態であれば、特に制限されず、好ましくは2〜20程度、より好ましくは2〜5程度である。
【0080】
規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状導電性部材32に、電極活物質(12a、14a)を弾性保持する方法としても特に制限はされず、従来公知の知見を参照し、あるいは組み合わせて行うことができるが、以下に好適な方法を例示する。
【0081】
例えば、規則的に通孔を設けてなる構造を有する網目状導電性部材32を用意する。そして、その網目状導電性部材32上に電極活物質(12a、14a)を配置する。そして、電極作成装置などのローラーを使用して、網目状導電性部材32上に配置された電極活物質(12a、14a)を埋め込む。または、電極活物質(12a、14a)を溶液(例えば、N−メチルピロリドンなど)に添加し、ゾルを作製する。その中に、網目状導電性部材32を含浸し、引き上げて、乾燥させる。その他、網目状導電性部材32の片面を減圧して反対側から粒子を吸着・弾性保持させる方法も可能である。
【0082】
本発明の電極は、上記電極活物質以外に、後述する電解質やイオン伝導性を高めるための支持塩(リチウム塩)等をさらに含んでもよい。支持塩(リチウム塩)としては、以下に制限されないが、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10l10、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON、ビスペンタフルオロエチルスルホニルイミドリチウム(LiBETI)等が挙げられる。可塑剤である有機溶媒(エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類)に支持塩を溶解した形態であってもよい。
【0083】
[電解質層]
電解質層13を構成する電解質としては、液体電解質またはポリマー電解質が用いられうる。
【0084】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられうる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が例示される。また、支持塩(リチウム塩)としては、LiBETI等の電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。
【0085】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない真性ポリマー電解質に分類される。
【0086】
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0087】
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜が挙げられる。
【0088】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。したがって、電解質層が真性ポリマー電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0089】
ゲル電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0090】
このように本発明の第1によれば、電極活物質を、弾性を有する部材によって弾性保持することにより、電極活物質が大きく体積変化しても、弾性を有する部材が弾性変形することでその変化に追随する。そのことにより、その電極活物質と弾性を有する部材の密着性が低下せず、体積変化が繰り返し行われても、電極は、電極活物質を確実に弾性保持することができる。
【0091】
本発明の第1の電極を用いて単電池を製造する方法も、従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合わせて行うことができる。無論、下記の方法に制限されない。
【0092】
上記のように電極を作製した後、正極と負極が電解質層を介して対向するように積層させることにより、単電池を作製するとよい。
【0093】
<本発明の第2>
本発明の電極を用いてなるリチウムイオン二次電池の種類は、特に制限されないが、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。また、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得るものである。積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。
【0094】
本発明の第2は、本発明の第1の電極を用いてなる点に特徴を有する。したがって、本発明の第1の電極を用いてなるリチウムイオン二次電池を構成する、電極以外の他の部材は従来公知のものを用いることができる。以下、簡単にリチウムイオン二次電池の構成について説明する。
【0095】
図7は、積層型の非双極型リチウムイオン二次電池(以下、単に「リチウムイオン二次電池」とも称する)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。なお、図7では、正極12および負極14いずれもが本発明の第1の電極を用いているが、負極14のみが本発明の第1の電極を用いてもよいし、正極12のみが本発明の第1の電極を用いてもよい。好ましくは、少なくとも負極14は、本発明の第1の電極である。
【0096】
図7に示すように、リチウムイオン二次電池10では、電池外装材22にラミネートフィルムを用いて、その周辺部の全部を熱融着にて接合する。かようにして発電要素17を収納し密封した構成を有する。発電要素17の具体的な構成要素は以下の通りである。
【0097】
発電要素17は、正極12と、電解質層13と、負極14が複数積層された構成を有する。この際、一の正極12と一の負極14とが、電解質層13を介して向き合うように、積層されている。電解質層13は、セパレータに電解液が含浸されてなる。
【0098】
これにより、正極12、電解質層13、および負極14は、一つの単電池16を構成し、発電要素17中で単電池層16として形成される。なお、単電池層16の積層数に特に制限はなく、例えば、好ましくは5〜40層、より好ましくは10〜30層である。
【0099】
また、上記の電極(正極12、負極14)と導通される正極タブ18および負極タブ19が、正極端子リード20および負極端子リード21を介して電極(正極12、負極14)に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられている。これにより正極タブ18および負極タブ19は、上記ラミネートフィルムの周辺部の熱融着にて接合された部位より上記の電池外装材22の外部に露出される構造を有している。
【0100】
以下、本実施形態の負極以外の構成要素について説明する。なお、本発明の第1で説明した構成要素と重複する構成要素については、説明を割愛する。
【0101】
[タブ(正極タブおよび負極タブ)]
電池外部に電流を取り出す目的で、電極に電気的に接続されたタブ(正極タブ18および負極タブ19)が電池外装材の外部に取り出されている。具体的には、図7に示すように正極11に電気的に接続された正極タブ18と負極14に電気的に接続された負極タブ19とが、電池外装材22であるラミネートシートの外部に取り出される。
【0102】
タブ(正極タブ18および負極タブ19)を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用のタブとして従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。タブの構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム、銅などが好ましい。なお、正極タブ18と負極タブ19とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。
【0103】
[正極および負極端子リード]
正極端子リード20および負極端子リード21に関しても、必要に応じて使用する。負極14から出力電極端子となる正極タブ18および負極タブ19を直接取り出す場合には、正極端子リード20および負極端子リード21は用いなくてもよい。
【0104】
正極端子リード20および負極端子リード21の材料は、公知のリチウムイオン二次電池で用いられる端子リードを用いることができる。なお、電池外装材22から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
【0105】
[電池外装材]
電池外装材22としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素17を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。本発明では、高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるラミネートフィルムが望ましい。
【0106】
本発明の第2においては、電極活物質を柔軟な材料で弾性保持することによって、電極活物質の膨脹収縮の体積変化に対応することができる。したがって、本発明の電極をリチウムイオン二次電池に適用しても、充放電時の電極活物質の膨脹収縮に起因する、電極活物質の崩壊や電極からの電極活物質の脱落を抑制する。そして、ひいては、サイクル特性が向上したリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0107】
本発明の第2のリチウムイオン二次電池の製造方法としては、本発明の第1の電極を用いれば、従来公知の知見を参照し、あるいは組み合わせて行うことができる。
【0108】
例えば、本発明の第1の電極を作製した後、正極と負極がセパレータを介して対向するように積層させることにより、単電池を作製するとよい。そして、単電池の数が所望の数となるまでセパレータおよび電極の積層を繰り返す。そして、各正極と負極を束ねてリードを溶接して、この発電要素を正負極のリードを取り出した構造にて、アルミニウムのラミネートフィルムバッグに収めて、注液機により電解液を注液して、減圧下で端部をシールしてリチウムイオン二次電池とすることができる。
【0109】
なお、本発明の第2のリチウムイオン二次電池に用いられる電極は、すべてが本発明の第1の電極でなくてもよく、その場合は、従来公知の電極を従来公知の方法で製造して、それを組み合わせればよい。まず、活物質、導電剤およびバインダなどの電極材料を含む電極スラリーの混合物をスラリー粘度調製溶媒に分散して正極活物質スラリーおよび負極活物質スラリーを調製し、集電体の両面に上記スラリーを塗布する。スラリー粘度調製溶媒としては、特に制限されることはないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などが挙げられる。スラリーはホモジナイザーまたは混練装置などを用いて溶媒および固形分よりインク化される。スラリーを集電体に塗布するための塗布手段も特に限定されないが、例えば、自走型コータ、ドクターブレード法、スプレー法などの一般に用いられる手段が採用されうる。かようにして、従来の電極を作製することができる。
【0110】
<本発明の第3>
本発明の第3は、本発明の第2のリチウムイオン二次電池を用いた、組電池である。
【0111】
[組電池]
本実施形態の電池は、複数電気的に接続されて組電池とされてもよい。図8は、本実施形態の電池から構成される組電池の代表的な実施形態の外観図であって、図8Aは組電池の平面図であり、図8Bは組電池の正面図であり、図8Cは組電池の側面図である。
【0112】
図8に示すように、組電池300は、第1実施形態のリチウムイオン二次電池が複数、直列および並列に接続されて装脱着可能な組電池250が形成されている。そして、この組電池250をさらに複数、直列および並列に接続している。これにより、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した組電池300を形成することもできる。
【0113】
作成した装脱着可能な組電池250は、バスバーのような電気的な接続手段を用いて相互に接続し、この組電池250は接続治具310を用いて複数段積層される。何個の電池を接続して組電池250を作成するか、また、何段の組電池250を積層して組電池300を作製するかは、搭載される車両(電気自動車など)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0114】
本発明の第3においては、電極活物質を柔軟な材料で弾性保持することによって、電極活物質の膨脹収縮の体積変化に対応することができる。したがって、本発明の電極をリチウムイオン二次電池に適用しても、充放電時の電極活物質の膨脹収縮に起因する、電極活物質の崩壊や電極からの電極活物質の脱落を抑制する。そして、ひいては、サイクル特性が向上したリチウムイオン二次電池およびそれを積層してなる組電池を提供することができる。
【0115】
<本発明の第4>
本発明の第4は、本発明の第2のリチウムイオン二次電池または本発明の第3の組電池をモータ駆動用電源として搭載した、車両である。
【0116】
[車両]
本実施形態の電池は、例えば上述した組電池の形態で、車両に搭載されうる。車両に搭載された電池は、例えば、車両のモータを駆動する電源として用いられうる。
【0117】
図9は、図8に示す組電池を搭載した車両の概念図である。
【0118】
図9に示すように、組電池300を電気自動車400のような車両に搭載するには、電気自動車400の車体中央部の座席下に搭載する。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができるからである。なお、組電池300を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームでも良い。以上のような組電池300を用いた電気自動車400は長期間使用しても十分な出力を提供しうる。さらに、燃費、走行性能に優れた電気自動車、ハイブリッド自動車を提供できる。
【0119】
本発明の第4においては、電極活物質を柔軟な材料で弾性保持することによって、電極活物質の膨脹収縮の体積変化に対応することができる。したがって、本発明の電極をリチウムイオン二次電池に適用しても、充放電時の電極活物質の膨脹収縮に起因する、電極活物質の崩壊や電極からの電極活物質の脱落を抑制する。そして、ひいては、サイクル特性が向上したリチウムイオン二次電池および/またはそれを積層してなる組電池を搭載する車両を提供することができる。
【符号の説明】
【0120】
12a 正極活物質、
14a 負極活物質、
30 網目状部材、
31 導電部材、
32 網目状導電性部材、
12、 正極(正極活物質層)、
13、 電解質層、
14、 負極(負極活物質層)、
16、 単電池(単電池層)、
17、 発電要素、
18、 正極タブ、
19、 負極タブ、
20、 正極端子リード、
21、 負極端子リード、
22、 電池外装材、
250 小型の組電池、
300 組電池、
310 接続治具、
400 電気自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質と、
前記電極活物質を弾性保持する網目状導電性部材と
を含む電極。
【請求項2】
前記網目状導電性部材が、電極の体積変化を抑制する電極。
【請求項3】
前記網目状導電性部材が、三次元網目構造または規則的に通孔を設けてなる弾性部材である請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記網目状導電性部材が、高分子材料を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
前記高分子材料が、熱可塑性エラストマーを含む請求項4に記載の電極。
【請求項6】
前記電極活物質が、少なくとも粒子状の負極活物質である請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
前記負極活物質が、Al、Si、Ge、Sn、Pb、In、Znおよびこれらを含む合金からなる群より選択される少なくとも1種である請求項6に記載の電極。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電極を用いてなるリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウムイオン二次電池を用いた組電池。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウムイオン二次電池または請求項10に記載の組電池をモータ駆動用電源として搭載した車両。

【図1】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−192255(P2010−192255A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35552(P2009−35552)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】