説明

電極用バインダー組成物

【課題】従来の電極用バインダー組成物では、該組成物から得られる電極の剥離強度が必ずしも十分に満足できるものではない場合があった。
【解決手段】下記の測定方法により求められるゲル分率が80%以上である電極用バインダーと溶剤とを含み、且つ、25℃で0.1%のひずみを与えたときの動的粘弾性を表すtanδが0.4以上100以下である電極用バインダー組成物。
<ゲル分率の測定方法>
電極用バインダー0.5重量部とトルエン87重量部とを40℃で混合したときに、混合に供したバインダーの重量(0.5重量部)と、得られた混合物中に残存する固体のバインダーの重量とから、以下の式により求める。
得られた混合物中に残存する固体のバインダーの重量
ゲル分率(%)=――――――――――――――――――――――――――×100
溶解に供したバインダーの重量

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用バインダーを含む組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電極用バインダーとしてポリフッ化ビニリデンと、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンとを含む電極用バインダー組成物が記載されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−163031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電極用バインダー組成物では、該組成物から得られる電極の剥離強度が必ずしも十分に満足できるものではない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記[1]〜[7]記載の発明を含む。
[1]下記の測定方法により求められるゲル分率が80%以上である電極用バインダーと溶剤とを含み、且つ、25℃で0.1%のひずみを与えたときの動的粘弾性を表すtanδが0.4以上100以下である電極用バインダー組成物。
<ゲル分率の測定方法>
電極用バインダー0.5重量部とトルエン87重量部とを40℃で混合したときに、混合に供したバインダーの重量(0.5重量部)と、得られた混合物中に残存する固体のバインダーの重量とから、以下の式により求める。
得られた混合物中に残存する固体のバインダーの重量
ゲル分率=――――――――――――――――――――――――――×100
溶解に供したバインダーの重量
[2]電極用バインダーがアクリル系バインダーである[1]記載の組成物。
[3]溶剤がN−メチル−2−ピロリドンである[1]又は[2]記載の組成物。
【0006】
[4][1]〜[3]のいずれか一項記載の組成物を製造する製造方法であって、電極用バインダーと溶剤とを混合する工程と、得られた混合物に機械的剪断力を加える工程とを含むことを特徴とする組成物の製造方法。
[5]得られた混合物に機械的剪断力を加える工程が、7×10〜8×10(1/s)の剪断速度で該混合物を攪拌することにより行われることを特徴とする[4]記載の組成物の製造方法。
【0007】
[6][1]〜[3]のいずれか一項記載の組成物と、電極活物質又は略球状粒子とを含有する電極用塗料
[7][1]〜[3]のいずれか一項記載の組成物を用いて得られる電極。
[8][7]記載の電極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物によれば、優れた剥離強度を有するリチウムイオン二次電池用電極が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[電極用バインダー]
本発明の組成物に含まれる電極用バインダー(以下「バインダー」という場合がある。)は、例えば、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル(架橋性基含有品を含む)等が挙げられる。中でも、アクリル系バインダーが好ましい。アクリル系バインダーは、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、架橋性基含有ビニルモノマー及び酸性基含有ビニルモノマーからなる群から選ばれる1以上のモノマーを重合させて得られる。
【0010】
((メタ)アクリル酸エステル)
本明細書中、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステル及びメタアクリル酸エステルの総称をいう。ここで、(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル等の炭素数1〜16のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル;メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸プロピル、メタアクリル酸ブチル、メタアクリル酸ヘキシル、メタアクリル酸オクチル、メタアクリル酸ラウリル等の炭素数1〜16のアルキル基を有するメタアクリル酸アルキルエステルが挙げられ、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、より好ましくは(メタ)アクリル酸ブチルが挙げられる。
【0011】
バインダーを得るために使用する(メタ)アクリル酸エステルの量は、全モノマー量100重量部に対し、例えば20〜95重量部であり、好ましくは20〜50重量部であり、より好ましくは20〜30重量部である。
本明細書中、「全モノマー量」とは、バインダーを得るために使用する(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、架橋基含有ビニルモノマー、酸性基含有ビニルモノマー及びその他のモノマーの合計量をいう。
【0012】
(アクリロニトリル)
バインダーを得るために使用するアクリロニトリルの量は、全モノマー量100重量部に対し、例えば1〜50重量部であり、好ましくは10〜50重量部であり、より好ましくは30〜50重量部である。
【0013】
(架橋性基含有ビニルモノマー)
架橋性基とは、加熱条件下や、酸性又はアルカリ性の条件下等において架橋反応を起こすことが可能な官能基であり、例えば、メトキシメチルカルバモイル基、エトキシメチルカルバモイル基、プロポキシメチルカルバモイル基、ブトキシメチルカルバモイル基、イソブトキシメチルカルバモイル基、t−ブトキシメチルカルバモイル基等の炭素数3〜6のアルコキシメチルカルバモイル基;グリシジル基;メチロールカルバモイル基;等が挙げられる。
架橋性基含有ビニルモノマーとしては、例えば、N−n−ブトキシメチルアクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタアクリル酸グリシジル、N−メチロールアクリルアミド等が挙げられ、好ましくはメタアクリル酸グリシジルが挙げられ、より好ましくメタアクリル酸グリシジルが挙げられる。
バインダーを得るために使用する架橋性基含有ビニルモノマーの量は、全モノマー量100重量部に対し、例えば1〜5重量部である。
【0014】
(酸性基含有ビニルモノマー)
酸性基としては、−COOH等が挙げられる。
酸性基含有ビニルモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、2−アクリロイルオキシエチルサクシネート、2−メタアクリロイルオキシエチルサクシネート、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシエチルメタアクリレート等が挙げられ、好ましくはアクリル酸及びメタアクリル酸が挙げられ、より好ましくはアクリル酸が挙げられる。
バインダーを得るために使用する酸性基含有ビニルモノマーの量は、全モノマー量100重量部に対し、例えば1〜50重量部であり、好ましくは30〜50重量部である。
【0015】
(その他のモノマー)
バインダーは、さらに、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、架橋基含有ビニルモノマー及び酸性基含有ビニルモノマーとは異なるその他のモノマーを重合させて得てもよい。その他のモノマーとしては、例えば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジオクチル、マレイン酸ジラウリル等の炭素数1〜16のアルキル基を有するマレイン酸ジアルキルエステル;フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジオクチル、フマル酸ジラウリル等の炭素数1〜16のアルキル基を有するフマル酸ジアルキルエステル;イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジヘキシル、イタコン酸ジオクチル、イタコン酸ジラウリル等の炭素数1〜16のアルキル基を有するイタコン酸ジアルキルエステル等が挙げられる。
また、例えばスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等のスチレン系モノマー等も挙げられる。
バインダーを得るために使用するその他のモノマーの量は、全モノマー量100重量部に対し、例えば0〜50重量部であり、好ましくは0〜40重量部であり、より好ましくは0重量部である。
【0016】
[バインダーの製造方法]
上記のモノマーを溶液重合又は乳化重合させて得られる。好ましくは、乳化重合させて得られる。
【0017】
(溶液重合)
溶液重合は、後述する溶剤の存在下、上記のバインダーを得るために使用する各モノマーと重合開始剤(好ましくは、油溶性アゾ重合開始剤)とを混合することにより実施される。
重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2‘−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等の油溶性アゾ重合開始剤が挙げられる。
重合開始剤の使用量は、上記のバインダーを得るために使用する各モノマーの合計量に対して0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜1重量%である。
溶剤の使用量は、上記のバインダーを得るために使用する各モノマーの合計1重量部に対して0.6〜9重量部、好ましくは1〜4重量部である。
溶液重合の温度は、30〜120℃、好ましくは50〜100℃である。重合するための混合時間は、通常0.5分〜24時間程度の範囲である。
【0018】
(乳化重合)
乳化重合は、水の存在下、上記のバインダーを得るために使用する各モノマーと界面活性剤と重合開始剤(好ましくは、過硫酸塩)とを混合することにより実施される。
界面活性剤としては、アクアロン(登録商標)HS−10(第一工業製薬)、アクアロン(登録商標)KH−10(第一工業製薬)、アデカリアソープ(登録商標)SE−10N(ADEKA)、アデカリアソープ(登録商標)SR−10(ADEKA)、ラテムル(登録商標)PD−104(花王)、エレミノール(登録商標)JS−20(三洋化成工業)、アントックスSAD(日本乳化剤)などのアニオン性反応性界面活性剤が挙げられる。
界面活性剤の使用量は、上記のバインダーを得るために使用する各モノマーの合計量に対して0.5〜30重量%、好ましくは1〜15重量%である。
重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩が挙げられる。
重合開始剤の使用量は、上記のバインダーを得るために使用する各モノマーの合計量に対して0.01〜1重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%である。
水の使用量は、上記のバインダーを得るために使用する各モノマーの合計1重量部に対して0.1〜99重量部、好ましくは0.8〜20重量部である。
乳化重合の温度は、20〜95℃、好ましくは40〜80℃である。重合するための混合時間は、通常0.5分〜24時間程度の範囲である。
【0019】
[バインダーの含有量]
本発明の組成物におけるバインダーの含有量は、例えば、本発明の組成物100重量部に対して、1〜40重量部であり、好ましくは3〜15重量部である。
【0020】
[溶剤]
溶剤としては、好ましくは非水溶剤が挙げられる。非水溶剤としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル溶剤;N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等の含窒素極性溶剤などが挙げられる。好ましくは含窒素極性溶剤であり、より好ましくはN−メチル−2−ピロリドンである。これらは単独又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
0.1%のひずみを与えたときの動的粘弾性は、tanδ=損失弾性率/貯蔵弾性率という式で表わされ、数値が大きいと粘性的で、小さいと弾性的であることを意味する。すなわち、tanδが小さく弾性的な電極用バインダーを使用すると、電極用バインダーを含む組成物は分散不良となり、塗膜性状の悪化に繋がる。
tanδ(損失正接)は、例えば、アントンパール社製レオメーターMCR301を用いて歪分散測定することによって求めることができる。
本発明の組成物は、歪分散測定において、25℃で0.1%のひずみを与えたときのtanδが0.4以上100以下である。
【0022】
[本発明の組成物の製造方法]
本発明の組成物は、電極用アクリル系バインダーと溶剤とを混合する工程を含む方法により製造されるが、上記0.1%のひずみを与えたときのtanδの値を0.4以上に調整するために、得られた混合物に機械的剪断力を加える工程を更に含むことが好ましい。
得られた混合物に機械的剪断力を加える工程は、7×10〜8.0×10(1/s)の剪断速度で該混合物を攪拌することにより行われることが好ましい。
【0023】
[電極]
本発明の電極(以下「電極」という場合がある。)は、本発明の組成物を用いて得られる。電極は、例えば、乾電池、圧電素子用センサー、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池及び燃料電池などの正極及び負極に用いることができる。
【0024】
[電極用塗料]
本発明の電極用塗料は、集電体に電極活物質が塗付された状態の電極や、略球状粒子が電極表面に塗付された状態の電極を与え得るものであり、本発明の組成物と、電極活物質又は略球状粒子を含有し、電極活物質を含有する場合においてはさらに導電材を含有することが好ましい。
【0025】
(電極活物質)
電極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる活物質が好ましく用いられる。電極活物質には正極活物質と負極活物質とがある。
【0026】
正極活物質としては、金属複合酸化物、特にリチウム及び鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの少なくとも1種類以上の金属を含有する金属複合酸化物等が挙げられ、好ましくは、LiMO(但し、Mは1種以上の遷移金属、好ましくはCo、MnまたはNiの少なくとも一種を表し、1.10>x>0.05である)、または、Li(式中、Mは1種以上の遷移金属、好ましくはMnを表し、1.10>x>0.05である。)を含んだ活物質が挙げられ、例えばLiCoO、LiNiO、LiNiCo(1−y)(式中、1.10>x>0.05、1>y>0である。)、LiMnで表される複合酸化物等が挙げられる。
【0027】
負極活物質としては、各種の珪素酸化物(SiO等)、炭素質物質、金属複合酸化物等が挙げられ、好ましくは、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、MCMB、ピッチ系炭素繊維、ポリアセンなどの炭素質材料;A(式中、AはLi、MはCo、Ni、Al、Sn及びMnから選択された少なくとも一種、Oは酸素原子を表し、x、y、zはそれぞれ1.10≧x≧0.05、4.00≧y≧0.85、5.00≧z≧1.5の範囲の数である。)で表される複合金属酸化物やその他の金属酸化物などが挙げられる。
【0028】
(略球状粒子)
略球状粒子は、電極活物質以外の無機粉末、有機粉末又はこれらの混合物のいずれから選ばれるものである。本発明において、略球状粒子は、真球状粒子を含むものであり、粒子のアスペクト比(粒子の長径/粒子の短径)が1以上1.5以下の範囲の値である粒子が挙げられる。粒子のアスペクト比は、電子顕微鏡写真により測定することができる。
【0029】
上記有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン;ポリメタクリレート等の有機物からなる粉末が挙げられる。該有機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0030】
上記の無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機物からなる粉末が挙げられ、具体的に例示すると、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、または炭酸カルシウム等からなる粉末が挙げられる。該無機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの無機粉末の中でも、化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。
【0031】
本発明において、略球状粒子の数平均粒径(直径)は、好ましくは0.01〜2μm、より好ましくは0.01〜1μm、さらに好ましくは0.01〜0.5μmである。ここで、数平均粒径は、走査型電子顕微鏡写真から測定される値を用いることができる。具体的には、該写真に撮影されている略球状粒子から任意に50個抽出し、それぞれの粒径を測定して、その平均値を用いればよい。
【0032】
本発明の塗料中の電極活物質又は略球状粒子とバインダーとの含有量の比は、重量比で、たとえば100:0.1〜100:30であり、好ましくは100:0.5〜100:20であり、より好ましくは100:0.5〜100:10である。
【0033】
(導電材)
導電材としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、活性炭等の導電性カーボン;天然黒鉛、熱膨張黒鉛、鱗状黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛系導電材;気相成長炭素繊維等の炭素繊維;アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金等の金属微粒子あるいは金属繊維;酸化ルテニウムあるいは酸化チタン等の導電性金属酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子が挙げられる。
少量で効果的に導電性が向上する点で、カーボンブラック、アセチレンブラック及びケッチェンブラックが好ましい。
導電材の含有量は、電極活物質100重量部に対し、例えば、0〜50重量部程度であり、好ましくは、0〜30重量部程度である。
【0034】
本発明の塗料中の固形分に対する溶剤の量は特に制限されず、集電体への塗布を行いやすい性状が得られる様な量とすればよい。固形分に対する溶剤の量は、重量基準で、好ましくは1〜1000倍、より好ましくは2〜500倍、更に好ましくは3〜300倍、更により好ましくは5〜200倍になるように配合する。
【0035】
[集電体]
集電体の材料としては、例えば、ニッケル、アルミニウム、チタン、銅、金、銀、白金、アルミニウム合金又はステンレス等の金属、例えば、炭素素材又は活性炭繊維に、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、銅、スズ、鉛又はこれらの合金をプラズマ溶射又はアーク溶射することによって形成されたもの、例えば、ゴム又はスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)など樹脂に導電材を分散させた導電性フィルムなどが挙げられる。
集電体の形状としては、例えば、箔、平板状、メッシュ状、ネット状、ラス状、パンチング状若しくはエンボス状であるもの又はこれらを組み合わせたもの(例えば、メッシュ状平板など)等が挙げられる。
集電体表面にエッチング処理により凹凸を形成させてもよい。
【0036】
[電極]
本発明の電極(以下「電極」という場合がある。)は、バインダーを含有する。電極は、例えば、乾電池、圧電素子用センサー、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池及び燃料電池などの正極及び負極に用いることができる。
【0037】
本発明の電極は、例えば、本発明の電極用塗料のうち電極活物質を含有するものを、集電体にドクターブレード法などで塗布又は浸漬し乾燥する方法や、本発明の電極用塗料のうち電極活物質を含有するものを混練、成形、乾燥させて得たシートを集電体表面に導電性接着剤等を介して接合した後にプレス及び熱処理乾燥する方法や、バインダーと、上記の電極活物質とからなる混合物を集電体上に成形した後、得られたシート状の成形物を一軸又は多軸方向に延伸処理する方法などにより得ることができる。
【0038】
また、本発明の電極は、公知の電極や上記の方法により得られる本発明の電極等の任意の電極に、さらに本発明の電極用塗料のうち略球状粒子を含有するものを塗布又は浸漬し乾燥する方法により得られる電極も含まれる。
【0039】
[リチウムイオン二次電池]
本発明の電極を有するリチウムイオン二次電池について以下に説明する。リチウムイオン二次電池とは、例えば、正極、負極、電解液及びセパレータ等を含み、正極及び負極の両極においてリチウムの酸化・還元が行われ、電気エネルギーを貯蔵、放出する電池である。
【0040】
(電解液)
本発明のリチウムイオン電池で用いる電解液としては、例えばリチウム塩を有機溶剤に溶解させた非水電解液などが挙げられる。リチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCF、LiC(SOCF、Li10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlClなどのうち1種または2種以上の混合物が挙げられる。
リチウム塩として、これらの中でもフッ素を含むLiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、およびLiC(CFSOからなる群から選ばれた少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0041】
電解液で用いる有機溶剤としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、または上記の有機溶剤にフッ素置換基を導入したものを用いることができるが、通常はこれらのうちの2種以上を混合して用いる。
【0042】
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極とを分離し、電解液を保持する役割を担うもので、大きなイオン透過度を持ち、且つ機械的強度を持つ絶縁性の膜が用いられる。
セパレータとしては、例えば、ビスコースレーヨン又は天然セルロースなどの抄紙、セルロースやポリエステル等の繊維を抄紙して得られる混抄紙、電解紙、クラフト紙、マニラ紙、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリエステル不織布、ガラス繊維、多孔質ポリエチレン、多孔質ポリプロピレン、多孔質ポリエステル、アラミド繊維、ポリブチレンテレフタレート不織布、パラ系全芳香族ポリアミド、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとの共重合体、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂などの不織布又は多孔質膜等が挙げられる。
セパレータとしては、シリカなどのセラミック粉末粒子と前記結合剤とからなる成形物であってもよい。該成形物は通常、作用極及び対極と一体成形される。また、ポリエチレンやポリプロピレンなどを用いたセパレータについては、親水性を向上させるために界面活性剤やシリカ粒子を混合させてもよい。さらに、セパレータには、アセトン等の有機溶剤、ジブチルフタレート(DBP)等の可塑剤等が含有されていてもよい。
【0043】
セパレータとして、プロトン伝導型ポリマーを用いてもよい。
セパレータとしては、特に電解紙、ビスコースレーヨン又は天然セルロースの抄紙、クラフト紙、マニラ紙、セルロース又はポリエステルの繊維を抄紙して得られる混抄紙、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリエステル不織布、マニラ麻シート、ガラス繊維シート等が好ましい。
セパレータの孔径は、通常、0.01〜10μm程度である。セパレータの厚さは、通常、1〜300μm程度、好ましくは5〜30μm程度である。
セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。特に、ポリオレフィン多孔質膜とポリエステル樹脂多孔質膜とからなるセパレータが好適である。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。例中の部及び%は、特に断らないかぎり重量基準を意味する。また、以下の実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲が下記実施例に限定されることではない。
【0045】
(水性エマルション(1)の製造)
還流冷却器、温度計、撹拌翼、窒素吹き込み口を備えたガラス製重合容器に、イオン交換水230部と界面活性剤アクアロン(登録商標)HS−10(5部)を仕込んだ。得られた混合物を撹拌しながら、そこにメタクリル酸メチル:ブチルアクリレート:アクリル酸=23:69:8のモノマー混合液を仕込んだ。モノマー混合液を仕込んだ後、昇温及び窒素置換を開始した。過硫酸カリウム0.2部を加え、75℃に昇温し、5時間重合を行った。反応終了後、冷却を行い、150μm相当のポリエステルメッシュにて濾過し、水性エマルション(1)を得た。
【0046】
実施例1(組成物(1)の製造)
テフロン(登録商標)製の容器に、水性エマルション(1)を添加した後、120℃のオーブン内で12時間真空乾燥させ、水分を除去した。乾燥後の樹脂(1)8部をN−メチル−2−ピロリドン192部に添加し、60℃まで昇温し溶解させた。
得られた組成物を、攪拌機(プライミクス製、商品名:T.K.フィルミックス(登録商標))を用い、1.8×10(1/s)の剪断速度で攪拌して組成物(1)を得た。
【0047】
(樹脂のゲル分率測定)
テフロン(登録商標)製の容器に組成物(1)を投入し、溶剤を除去し乾燥させた。乾燥後の樹脂0.5部を100mlのトルエンに添加し、40℃で3時間還流した後、網目の大きさが45μmの金網でろ過を行った。
得られたろ液を乾燥させ、トルエンに溶解した樹脂量(W1(部))を測定した。樹脂のトルエンに対するゲル分率を下記の式で算出した。
ゲル分率=100×[仕込み樹脂量(0.5部)−W1]/仕込み樹脂量(0.5部)
【0048】
(tanδの測定)
組成物(1)を固形分が3wt%になるようにN−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」という場合がある)で希釈し、当該溶液の歪分散測定を、アントンパール社製レオメーターMCR301にて行った。測定冶具はCP50−1−SN21306を使用し、測定距離は0.097mmとした。
【0049】
(電極用塗料(1)及び電極(1)の製造)
活物質(組成:Li1.04Ni0.47Mn0.48Fe0.05、結晶構造:R−3m、BET比表面積:8.5m/g、平均一次粒子径:200nm)92部、組成物(1)3部(固形分量で)及び導電材(電気化学工業社製、商品名:HS100)5部を混合し、さらにNMP100部を加え、攪拌機(プライミクス製、商品名:T.K.フィルミックス(登録商標))によって剪断し、電極用塗料(1)を得た。得られた電極用塗料(1)をテスター産業株式会社自動塗工装置I型 PI−1210を用いて、ベーカー式アプリケーターにより厚さ20μmのアルミ製の集電体上に10milで塗布し、120℃で2時間乾燥させて電極(1)を得た。
【0050】
(電解液の作製)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比率30:35:35で混合して電解液溶剤とし、さらに電解質としてLiPFを添加し、LiPFの濃度が1mol/Lである電解液を得た。
【0051】
(剥離強度評価)
電極(1)を幅2.5cmの短冊状に切断し、電極(1)のリチウムイオン二次電池電極用組成物(1)側の面と、ガラスエポキシ樹脂板とを両面テープで貼り付け、小型卓上試験機(島津社製、商品名:EZ Test EZ−L)を用いて180度剥離させた。そのときの力の大きさを電極(1)の幅(2.5cm)で割った値を剥離強度とした。
【0052】
(塗膜性状評価)
アルミ製の集電体上へ電極用塗料(1)を塗布した時、凝集物やかすれ等の有無を目視にて確認した。凝集物又はかすれが確認されなかったものを○、確認されたものを×とした。
【0053】
(耐電解液性評価)
組成物(1)をアルミカップに添加し、減圧下120℃で12時間乾燥させフィルム状にした後、2cm×2cmの四角形に切断した。当該フィルムを24時間電解液溶剤(エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=30:35:35)に浸漬した。その後、フィルムの状態を目視で確認し溶解したものを×、溶解しなかったものを○とした。
【0054】
比較例1
還流冷却器、温度計、撹拌翼、窒素吹き込み口を備えたガラス製四つ口フラスコにNMP130部を仕込み、窒素置換を行いながら80℃まで昇温させた後、メタクリル酸メチル23部、ブチルアクリレート69部、メタクリル酸8部、NMP100部及び2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)0.5部の混合液を3時間で滴下した。滴下終了後、7時間攪拌した。攪拌終了後、冷却、濾過を行い得られたアクリル系重合体組成物を用いて、実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0055】
比較例2
実施例1において、攪拌機を用いた剪断を行わない以外は実施例1と同様にして組成物を得、実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0056】
比較例3
PVDF−NMP溶液(クレハ製、#9130)を用いて、実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0057】
【表1】

*「測定不可1」:剥離強度が弱すぎて測定不可。
「測定不可2」:きれいにシート化できず測定不可。
【0058】
実施例2
(水性エマルション(2)の製造)
実施例1において、モノマー混合液としてアクリル酸ブチル:アクリロニトリル:アクリル酸:メタアクリル酸グリシジル=23:28:45:4のモノマー混合液を用いること以外は、水性エマルション(1)の製造と同様にして水性エマルション(2)を得た。
【0059】
(組成物(2)の製造)
実施例1において、水性エマルション(1)に替えて水性エマルション(2)を用いる以外は、組成物(1)の製造と同様にして組成物(2)を得た。
【0060】
(電極用塗料(2)の製造)
組成物(2)に、略球状粒子としてアルミナ粒子(平均粒子径;0.3μm)を、バインダー6部に対して100部となるように加えて混合し、さらにNMP317部を加え、攪拌機(プライミクス製、商品名:T.K.フィルミックス(登録商標))によって剪断し、10(1/s)の粘度が100mPa・sとなる電極用塗料(2)を得た。
【0061】
実施例3
(電極用塗料(3)の製造)
実施例2において、NMPの使用量を163部にする以外は、電極用塗料(2)の製造と同様にして電極用塗料(3)を得た。
【0062】
比較例4
実施例2において、攪拌機を用いた剪断を行わない以外は実施例2の電極用塗料(2)の製造と同様にして、電極用塗料(4)を作製する。
【0063】
比較例5
実施例3において、攪拌機を用いた剪断を行わない以外は実施例3の電極用塗料(3)の製造と同様にして、電極用塗料(5)を作製する。
【0064】
実施例4
(電極の製造)
電極用塗料(2)をドクターブレード法により電極〔黒鉛/スチレン−1,3−ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロース(重量比100/1.5/1)を銅箔に塗布することにより製造された市販の負極〕上に塗布し、120℃で30分乾燥し、電極を作製する。
【0065】
実施例5
(電極の製造)
実施例4において、電極用塗料(2)に替えて電極用塗料(3)を用いる以外は、実施例4と同様にして電極を作製する。
【0066】
比較例6、7
実施例4において、電極用塗料(2)に替えて電極用塗料(4)及び電極用塗料(5)をそれぞれ用いる以外は、実施例4と同様にして電極を作製する。しかし、得られる電極の塗布面は不均一であり、上記の方法により剥離強度を測定することは困難である。
【0067】
実施例6
(リチウムイオン二次電池の製造)
実施例4で得られる電極を、ポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーターを介在させて、互いに活物質が対向し、外装容器底面に正極として用いるリチウム箔が接触するように配置し、コイン型外装容器中に収納する。この容器中にエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを溶媒に、電解質としてLiPFを溶解した電解液注入し、コイン型電池を製造する。
【0068】
実施例7
実施例6において、実施例4で得られる電極に替えて実施例5で得られる電極を用いる以外は、実施例6と同様にしてコイン型電池を製造する。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の組成物によれば、優れた剥離強度を有するリチウムイオン二次電池用電極が得られる。また、本発明の組成物は塗膜性状や耐電解液性にも優れており、リチウムイオン二次電池用電極用の塗料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の測定方法により求められるゲル分率が80%以上である電極用バインダーと溶剤とを含み、且つ、25℃で0.1%のひずみを与えたときの動的粘弾性を表すtanδが0.4以上100以下である電極用バインダー組成物。
<ゲル分率の測定方法>
電極用バインダー0.5重量部とトルエン87重量部とを40℃で混合したときに、混合に供したバインダーの重量(0.5重量部)と、得られた混合物中に残存する固体のバインダーの重量とから、以下の式により求める。
得られた混合物中に残存する固体のバインダーの重量
ゲル分率=――――――――――――――――――――――――――×100
溶解に供したバインダーの重量
【請求項2】
電極用バインダーがアクリル系バインダーである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
溶剤がN−メチル−2−ピロリドンである請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載の組成物を製造する製造方法であって、
電極用バインダーと溶剤とを混合する工程と、得られた混合物に機械的剪断力を加える工程とを含むことを特徴とする組成物の製造方法。
【請求項5】
得られた混合物に機械的剪断力を加える工程が、7×10〜8×10(1/s)の剪断速度で該混合物を攪拌することにより行われることを特徴とする請求項4記載の組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項記載の組成物と、電極活物質又は略球状粒子とを含有する電極用塗料
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項記載の組成物を用いて得られる電極。
【請求項8】
請求項7記載の電極を有するリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2012−253002(P2012−253002A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247137(P2011−247137)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】