説明

電極用バインダー組成物

【課題】イオン導電性、耐酸化性および密着性のすべてに優れる電極用バインダー材料を提供すること。
【解決手段】上記の課題は、重合体および液状媒体を含有する蓄電デバイスの電極用バインダー組成物であって、前記重合体が、該重合体の100質量部に対してフッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位の5〜50質量部と不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の1〜10質量部とを含有し、そして前記電極用バインダー組成物を120℃において1時間乾燥して得られる固形物について、エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)からなる混合溶媒(EC;DEC=1:2(体積比))を溶媒として70℃、24時間の条件で測定した溶媒不溶分の割合が70質量%を超えることを特徴とするによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用バインダー組成物に関する。
上記バインダー組成物は特定の重合体を含有し、イオン導電性および密着性に優れ、蓄電デバイスの電極用のバインダー材料として好適なものである。上記バインダー組成物は、さらに耐酸化性にも優れるから、蓄電デバイスの正極を形成するために特に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の駆動用電源として、電圧が高く、高いエネルギー密度を有する蓄電デバイスが要求されている。特にリチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタなどは、高電圧・高エネルギー密度の蓄電デバイスとして期待されている。
このような蓄電デバイスに使用される電極は、通常、活物質粒子と、電極バインダーとして機能する重合体粒子との混合物を集電体表面へ塗布・乾燥することにより製造される。電極に使用される重合体粒子に要求される特性としては、活物質粒子同士の結合能力および活物質粒子と集電体との結着能力や、電極を巻き取る工程における耐擦性、その後の裁断などによっても塗布された電極用組成物層(以下、単に「活物質層」ともいう。)から活物質の微粉などが発生しない粉落ち耐性などを挙げることができる。重合体粒子がこれらの種々の要求特性を満足することにより、得られる電極の折り畳み方法、捲回半径の設定などの蓄電デバイスの構造設計の自由度が高くなり、デバイスの小型化を達成することができる。なお、上記の活物質粒子同士の結合能力および活物質粒子と集電体との結着能力、ならびに粉落ち耐性については、性能の良否がほぼ比例関係にあることが経験上明らかになっている。従って本明細書では、以下、これらを包括して「密着性」という用語を用いて表す場合がある。
【0003】
電極バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの、イオン導電性および耐酸化性に優れる含フッ素系有機重合体を使用することが有利である。しかしながら、フッ素原子を含有する有機重合体は、一般に、密着性に乏しいため、得られる電極の機械的強度および耐久性に問題がある。そこで、有機重合体のイオン導電性および耐酸化性を維持しつつ、密着性を向上する技術が種々検討され、提案されている。
例えば、特許文献1には、PVDFとゴム系高分子とを併用することにより、負極用バインダーのリチウムイオン導電性および耐酸化性と、密着性とを両立しようとする技術が提案されている。特許文献2には、PVDFを特定の有機溶媒へ溶解し、これを集電体表面上に塗布した後、低温で溶媒を除去する工程を経ることによって密着性を向上しようとする技術が提案されている。さらに特許文献3には、フッ化ビニリデン共重合体からなる主鎖に、フッ素原子を有する側鎖を有する構造の電極バインダーの適用によって、密着性を向上しようとする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−3529号公報
【特許文献2】特開2010−55847号公報
【特許文献3】特開2002−42819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、含フッ素系有機重合体とゴム系高分子とを併用する特許文献1の技術によると、密着性は向上するものの、有機重合体のイオン導電性が減殺されるとともに耐酸化性が大きく損なわれるため、これを用いて製造される蓄電デバイスは、充放電を繰り返すこと、あるいは過充電することによって電極の内部抵抗が上昇し、電池特性が不可逆的に劣化してしまうという問題がある。一方、電極バインダーとして含フッ素系有機重合体のみを使用する特許文献2および3の技術によると、密着性のレベルは未だ不十分である。
このように、従来技術においては、イオン導電性および耐酸化性と、密着性との双方に優れる電極用バインダー材料は知られていない。特に、有機重合体からなるバインダーを正極に適応する場合には、正極反応の酸化性にも耐え得る高度の耐酸化性が要求されることとなるため、イオン導電性、耐酸化性および密着性のすべてが実用レベルに達している正極用バインダー材料は、未だ知られていない。
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、イオン導電性、耐酸化性および密着性のすべてに優れる電極用バインダー材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的および利点は、
重合体および液状媒体を含有する蓄電デバイスの電極用バインダー組成物であって、
前記重合体が、該重合体の100質量部に対して
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位の5〜50質量部と
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の1〜10質量部と
を含有し、そして
前記電極用バインダー組成物を120℃において1時間乾燥して得られる固形物について、エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)からなる混合溶媒(EC;DEC=1:2(体積比))を溶媒として70℃、24時間の条件で測定した溶媒不溶分の割合が70質量%を超えることを特徴とする、前記電極用バインダー組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電極用バインダー組成物は、イオン導電性に優れ、高度の密着性を有する電極を製造することができる。本発明の電極用バインダー組成物を用いて製造された電極を備える蓄電デバイスは、充放電の繰り返しまたは過充電によっても電極の内部抵抗が上昇する程度が少ないから、充放電特性に優れる。
本発明の電極用バインダー組成物は、さらに耐酸化性にも優れるから、蓄電デバイスの正極を形成するために特に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で得られた重合体粒子のDSCチャート。
【図2】合成例1で得られた重合体粒子のDSCチャート。
【図3】合成例2で得られた重合体粒子のDSCチャート。
【図4】合成例3で得られた重合体粒子のDSCチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変型例も含むものとして理解されるべきである。
【0010】
1.電極用バインダー組成物
本発明の電極用バインダー組成物は、上記のとおり、
重合体および液状媒体を含有する蓄電デバイスの電極用バインダー組成物であって、
前記重合体が、該重合体の100質量部に対して
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位の5〜50質量部と
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の1〜10質量部と
を含有し、そして
前記電極用バインダー組成物を120℃において1時間乾燥して得られる固形物について、エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)からなる混合溶媒(EC;DEC=1:2(体積比))を溶媒として70℃、24時間の条件で測定した溶媒不溶分の割合(以下、「EC/DEC不溶分」ともいう。)が70質量%を超えることを特徴とする。
近年の電子機器の長寿命化に伴い、その駆動用電源である蓄電デバイスについても寿命の長いことが要求されるようになってきており、従来にも増して充放電特性を改良することが要求されている。具体的には、以下の2つの特性が要求される。1つ目には、蓄電デバイスに対して充放電を多数回繰り返して行った場合でも、電極の内部抵抗が上昇しないことが要求されている。2つ目の要求としては、蓄電デバイスを過充電した場合でも、電極の内部抵抗が上昇しないことが要求されている。このような特性を表す指標の1つとして「抵抗上昇率」を挙げることができる。抵抗上昇率の小さい蓄電デバイスは、繰り返し充放電耐性および過充電耐性の双方に優れるから、充放電特性に優れることとなる。
従来技術における含フッ素系有機重合体は、イオン導電性および耐酸化性に優れるため、従来から電極に多用されていたが、近年における抵抗上昇率に対する過酷な要求を満足するものではなかった。そこで、従来技術においては、含フッ素系有機重合体に対して種々のモディファイをすることによって、得られる蓄電デバイスの抵抗上昇率を向上しようとする検討が行われているが、未だその目的は十分には達成されていない。
【0011】
本願発明者らは、上記事情に鑑みて検討を重ねた結果、上記したような特定の重合体を含有し、且つEC/DEC不溶分が特定の範囲にある電極用バインダー組成物が、上記目的に適うことを見い出して、本発明に到ったのである。
本発明の電極用バインダー組成物を120℃において1時間乾燥して得られる固形物について測定したEC/DEC不溶分は70質量%を超える。このEC/DEC不溶分は、本発明の電極用バインダー組成物中に含有されるバインダー成分が電解液に対して過度に溶解しないことを担保するための要件であり、このことによって、得られる蓄電デバイスが充放電を繰り返しても、あるいは過充電を行っても、電極の内部抵抗が上昇せず、従ってその蓄電特性が損なわれることがないこととなる。電極用バインダー組成物のEC/DEC不溶分が特定の範囲にあることによって蓄電デバイスの抵抗上昇率が減少する理由は未だ詳らかではないが、本発明者らは以下のように推察している。
EC:DEC=1:2(体積比)のEC/DEC混合溶媒は、蓄電デバイスに用いられる電解液のモデルとして、一般的に使用されているものである。従って、EC/DEC不溶分が70質量%を超えるということは、得られる蓄電デバイスにおいて電解液と接触したバインダー成分が過度に溶解しないことを意味する。バインダー成分が過度に溶解しないことにより、バインダーは初期の物理的構造および化学的性質を実質的に維持することができ、その結果、蓄電デバイスの初期性能が維持されるのであろう。
そして本発明者らは、70℃、24時間の条件で測定したEC/DEC不溶分が、蓄電デバイスの抵抗上昇率と相関することを経験的に見出したのである。
しかしながら、バインダー成分は、電極活物質同士および活物質と集電体とを結着する機能を有するから、バインダー成分が電解液をある程度通過させることにより、電極活物および集電体と電解液とが接触して電池反応をするための反応点数および反応面積を確保しなければならない。このような観点も加味すると、EC/DEC不溶分は、好ましくは75〜98質量%であり、より好ましくは80〜95質量%である。
【0012】
本発明におけるEC/DEC不溶分は、以下のようにして測定することができる。
先ず、電極用バインダー組成物の約10gを適当な容器(例えばシャーレ)へ取り、120℃で1時間乾燥して成膜する。得られた膜のうちの1gを正確に秤り採り、これを密閉容器中でエチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)からなる混合溶媒(EC:DEC=1:2(体積比))の100mL中に浸積する。次いでこの全体を、70℃において24時間、振幅30mmおよび振幅周波数30回/分の条件で振とうする。振とう後の液を300メッシュの金網で濾過して不溶分を除去した後、混合溶媒を留去して得られる残存物(溶解分)の重量(Y(g))を測定する。そしてこの値を下記数式(1)に代入することによって、EC/DEC不溶分を求めることができる。
EC/DEC不溶分(%)={(1−Y)/1}×100 (1)
このような範囲のEC/DEC不溶分は、本発明の電極用バインダー組成物に含有される重合体の組成によってコントロールすることができる。このことについては後述する。
以下、本発明の電極用バインダー組成物が含有する各成分について詳細に説明する。以下の説明における「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含する概念である。「(メタ)アクリロニトリル」などの類似用語も、これと同様に理解されるべきである。
【0013】
1.1 重合体
本発明の電極用バインダー組成物に含有される重合体は、該重合体の100質量部に対して
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位の5〜50質量部と
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の1〜10質量部と
を含有する。
上記フッ素原子を有する単量体としては、例えばフッ素原子を有するオレフィン化合物、フッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。フッ素原子を有するオレフィン化合物としては、例えばフッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどを挙げることができる。フッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば下記一般式(1)で表される化合物、(メタ)アクリル酸3[4〔1−トリフルオロメチル−2,2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピルなどを挙げることができる。
【0014】
【化1】

【0015】
(一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rはフッ素原子を含有する炭素数1〜18の炭化水素基である。)
上記一般式(1)中のRとしては、例えば炭素数1〜12のフッ化アルキル基、炭素数6〜16のフッ化アリール基、炭素数7〜18のフッ化アラルキル基などを挙げることができ、炭素数1〜12のフッ化アルキル基であることが好ましい。上記一般式(1)中のRの好ましい具体例としては、例えば2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン−2−イル基、β−(パーフルオロオクチル)エチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル基、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル基、1H,1H,9H−パーフルオロ−1−ノニル基、1H,1H,11H−パーフルオロウンデシル基、パーフルオロオクチル基などを挙げることができる。フッ素原子を有する単量体としては、これらのうち、フッ素原子を有するオレフィン化合物が好ましく、特に好ましくはフッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
上記フッ素原子を有する単量体は、1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0016】
上記不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの、モノカルボン酸またはジカルボン酸を挙げることができ、これらから選択される1種以上を使用することができる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸およびメタクリル酸から選択される1種以上を使用することが好ましく、特にアクリル酸が好ましい。
本発明の電極用バインダー組成物に含有される重合体は、
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位および不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位のほかに、これらと共重合可能な他の不飽和単量体に由来する繰り返し単位をさらに有していてもよい。
このような他の不飽和単量体としては、例えば多官能性単量体、不飽和カルボン酸エステル(ただし上記フッ素原子を有する単量体に該当するものを除く。以下、本明細書において単に「不飽和カルボン酸エステル」というとき、上記フッ素原子を有する単量体に該当するものを除いたものを意味する。)、α,β−不飽和ニトリル化合物およびその他の単量体を挙げることができる。
【0017】
上記多官能性単量体は、重合性二重結合を2つ以上有する単量体であり、例えば多価アルコールの(ポリ)(メタ)アクリル酸エステル、共役ジエン化合物およびその他の多官能単量体を好ましく使用することができる。その具体例としては、上記多価アルコールの(ポリ)(メタ)アクリル酸エステルとして、例えば(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールなど;
上記共役ジエン化合物として、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエンなどを;
上記その他の多官能単量体として、例えばジビニルベンゼンなどを、それぞれ挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
【0018】
不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸エステルを好ましく使用することができ、これらの例としては、例えば(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のシクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルなどを挙げることができる。これらの具体例としては、上記(メタ)アクリル酸のアルキルエステルとしては、炭素数1〜10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを好ましく例示することができ、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシルなどを;
上記(メタ)アクリル酸のシクロアルキルエステルとして、例えば(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどを;
上記(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルとして、例えば(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどを、それぞれ挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルであることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルから選択される1種以上を使用することがより好ましい。
【0019】
上記α,β−不飽和ニトリル化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどを挙げることができ、これらから選択される1種以上を使用することができる。これらのうち、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルから選択される1種以上が好ましく、特にアクリロニトリルが好ましい。
上記その他の単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;
(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどの不飽和カルボン酸のアルキルアミド;
不飽和ジカルボン酸の酸無水物;
アミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミドなどの不飽和カルボン酸のアミノアルキルアミドなどを挙げることができ、これらから選択される1種以上を使用することができる。
【0020】
本発明の電極用バインダー組成物に含有される重合体は、
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を、重合体の全質量に対して5〜50質量部有するが、この値は15〜40質量部であることが好ましく、20〜30質量部であることがより好ましい。
上記重合体は、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位を、重合体の全質量に対して1〜10質量部有するが、この値は2.5〜7.5質量部であることが好ましい。
上記重合体における他の不飽和単量体に由来する繰り返し単位の、重合体の全質量に対する好ましい含有割合は、不飽和カルボン酸がアクリル酸を含む場合と、これを含まない場合とで異なり、それぞれ以下のとおりとすることが好ましい。
【0021】
(1)不飽和カルボン酸がアクリル酸を含む場合
多官能性単量体:好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは2.5質量部以下、これを含まなくともかまわない。
不飽和カルボン酸エステル:好ましくは50〜90質量部、より好ましくは60〜90質量部、さらに好ましくは65〜80質量部、これを含むことが好ましい。
α,β−不飽和ニトリル化合物:好ましくは25質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、最も好ましくはα,β−不飽和ニトリル化合物を使用しないこと。
その他の単量体:好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、最も好ましくはその他の単量体を使用しないこと。
(2)不飽和カルボン酸がアクリル酸を含まない場合
多官能性単量体:好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜5質量部、さらに好ましくは0.25〜2.5質量部、これを含むことが好ましい。
不飽和カルボン酸エステル:好ましくは40〜90質量部、より好ましくは50〜80質量部、さらに好ましくは55〜75質量部、これを含むことが好ましい。
α,β−不飽和ニトリル化合物:好ましくは25質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、最も好ましくはα,β−不飽和ニトリル化合物を使用しないこと。
その他の単量体:好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、最も好ましくはその他の単量体を使用しないこと。
上記(1)の場合におけるアクリル酸の割合は、不飽和カルボン酸の全量に対して、60質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがより好ましい。
各単量体に由来する繰り返し単位の含有割合を上記のように設定することにより、EC/DEC不溶分を上記の所定範囲に設定することができ、そしてこのことにより、得られる蓄電デバイスの抵抗上昇率を低くすることができ、好ましい。
【0022】
1.1.1 ポリマーアロイ
本発明の電極用バインダー組成物に含有される重合体としては、
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位および不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位を有する重合体を1段階重合で合成して得られる共重合体であってもよいが、
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体Aと、
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位を有する重合体Bと、
を含有する重合体の複合体であることが、得られる電極の耐酸化性と密着性とを同時に発現することができることから好ましい。
上記重合体の複合体としては、ポリマーアロイであることが好ましい。
「ポリマーアロイ」とは、「岩波 理化学辞典 第5版.岩波書店」における定義によれば、「2成分以上の高分子の混合あるいは化学結合により得られる多成分系高分子の総称」であって「異種高分子を物理的に混合したポリマーブレンド、異種高分子成分が共有結合で結合したブロックおよびグラフト共重合体、異種高分子が分子間力によって会合した高分子錯体、異種高分子が互いに絡み合ったIPN(Interpenetrating Polymer Network)など」をいう。しかしながら、本発明の電極用バインダー組成物に含有される重合体としてのポリマーアロイとは、「異種高分子成分が共有結合によって結合していないポリマーアロイ」を意味するものであり、ポリマーブレンド、高分子錯体またはIPN(相互侵入高分子網目)と称されるものである。本発明におけるポリマーアロイとしては、高分子錯体からなる重合体またはIPNからなる重合体であることが好ましく、IPNからなる重合体であることがより好ましい。
【0023】
ポリマーアロイを構成する重合体Aは、イオン導電性に優れるとともに、結晶性樹脂のハードセグメントが凝集して、主鎖にC−H…F−Cのような疑似架橋点を与えているものと考えられる。このためバインダー樹脂として重合体Aを単独で用いると、そのイオン導電性および耐酸化性は良好であるものの、密着性および柔軟性が不十分であるため密着性は低い。一方、ポリマーアロイを構成する重合体Bは、密着性および柔軟性には優れるものの、耐酸化性が低いから、これをバインダー樹脂として単独で電極(特に正極)に使用した場合には、充放電を繰り返し、あるいは過充電することによって酸化分解して変質するため、抵抗上昇率の低い蓄電デバイスを得ることができない。
しかしながら、重合体Aおよび重合体Bを含有するポリマーアロイを使用することにより、イオン導電性および耐酸化性と、密着性とを同時に発現することができ、抵抗上昇率の低い蓄電デバイスを与える電極を製造することが可能となる。ポリマーアロイが重合体Aと重合体Bのみからなる場合、より耐酸化性を向上させることができ、好ましい。
このようなポリマーアロイは、JIS K7121に準拠する示差走査熱量測定(DSC)によって測定した場合、−50〜250℃の温度範囲において吸熱ピークを1つしか有さないものであることが好ましい。この吸熱ピークの温度は、−30〜+30℃の範囲にあることがより好ましい。
ポリマーアロイを構成する重合体Aは、これが単独で存在する場合には、一般的に−50〜250℃に吸熱ピーク(融解温度)を有する。また、ポリマーアロイを構成する重合体Bは、重合体Aとは異なる吸熱ピーク(ガラス転移温度)を有することが一般的である。このため、重合体中において重合体Aおよび重合体Bが、例えばコア−シエル構造のように相分離して存在する場合、−50〜250℃において2つの吸熱ピークが観察されるはずである。しかし、−50〜250℃における吸熱ピークが1つのみである場合には、該重合体はポリマーアロイであると推定することができる。
さらに、ポリマーアロイである重合体の有する1つのみの吸熱ピークの温度が−30〜+30℃の範囲にある場合、該重合体は活物質層に対してより良好な柔軟性と粘着性とを付与することができ、従って密着性をより向上させることができることとなり、好ましい。
【0024】
1.1.2 重合体A
本発明の電極用バインダー組成物が好ましく含有するポリマーアロイである重合体は、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体Aを含有する。このフッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位は、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する繰り返し単位のみからなることが好ましい。
重合体Aは、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位のほかに、他の不飽和単量体に由来する繰り返し単位をさらに有していてもよい。ここで、他の不飽和単量体としては、上記で説明した多官能性単量体、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステル、α,β−不飽和ニトリル化合物およびその他の単量体を使用することができる。
この重合体Aにおける、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位の含有割合は、重合体Aの全質量に対して、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。この場合のフッ素原子を有する単量体は、そのすべてがフッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。重合体Aのさらに好ましい態様は、以下のとおりである、すなわち、
重合体Aにおけるフッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位の含有割合が、重合体Aの全質量に対して、好ましくは50〜99質量%であり、さらに好ましくは80〜98質量%であり;
四フッ化エチレンに由来する繰り返し単位の含有割合が、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは1〜30質量%であり、さらに好ましくは2〜20質量%である;そして
六フッ化プロピレンに由来する繰り返し単位の含有割合は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは1〜30質量%であり、さらに好ましくは2〜25質量%である。
重合体Aは、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する繰り返し単位のみからなるものであることが、最も好ましい。
【0025】
1.1.3 重合体B
本発明の電極用バインダー組成物が好ましく含有するポリマーアロイである重合体は、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位を有する重合体Bを含有する。重合体Bは、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位のほかに、他の不飽和単量体に由来する繰り返し単位をさらに有していてもよい。ここで、他の不飽和単量体としては、上記で説明した多官能性単量体、不飽和カルボン酸エステル、α,β−不飽和ニトリル化合物およびその他の単量体を使用することができる。
一般的に重合体Bのような成分は、密着性は良好であるが、イオン導電性および耐酸化性が不良であると考えられており、従来から正極には使用されてこなかった。しかし本発明は、このような重合体Bを、重合体Aと共にポリマーアロイ粒子として使用することにより、良好な密着性を維持しつつ、十分なイオン導電性および耐酸化性を発現することに成功したものである。
重合体Bにおける不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の、重合体Bの全質量に対する含有割合は、0.05〜20質量部であることが好ましく、0.1〜15質量部とすることがより好ましく、0.5〜5質量部とすることがさらに好ましい。
重合体Bにおける不飽和カルボン酸以外の各単量体に由来する繰り返し単位の、重合体Bの全質量に対する含有割合は、不飽和カルボン酸がアクリル酸を含む場合と、これを含まない場合とで異なり、それぞれ以下のとおりとすることが好ましい。
【0026】
(1)不飽和カルボン酸がアクリル酸を含む場合
多官能性単量体:好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、これを含まなくともかまわない。
不飽和カルボン酸エステル:好ましくは50〜90質量部、より好ましくは60〜90質量部、さらに好ましくは65〜80質量部、これを含むことが好ましい。
α,β−不飽和ニトリル化合物:好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下、最も好ましくはα,β−不飽和ニトリル化合物を使用しないこと。
その他の単量体:好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、最も好ましくはその他の単量体を使用しないこと。
(2)不飽和カルボン酸がアクリル酸を含まない場合
多官能性単量体:好ましくは0.05〜15質量部、より好ましくは0.5〜10質量部、さらに好ましくは1〜5質量部、これを含むことが好ましい。
不飽和カルボン酸エステル:好ましくは50〜90質量部、より好ましくは60〜80質量部、これを含むことが好ましい。
α,β−不飽和ニトリル化合物:好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下、最も好ましくはα,β−不飽和ニトリル化合物を使用しないこと。
その他の単量体:好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、最も好ましくはその他の単量体を使用しないこと。
上記(1)の場合におけるアクリル酸の割合は、不飽和カルボン酸の全量に対して、60質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがより好ましい。
【0027】
1.1.4 ポリマーアロイの合成
本発明の電極用バインダー組成物に好ましく含有されるポリマーアロイである重合体は、上記のような構成をとるものである限り、その合成方法は特に限定されるものではないが、例えば公知の乳化重合工程またはこれを適宜に組み合わせることによって、容易に合成することができる。
例えば先ず、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体Aを、公知の方法によって合成し、次いで
該重合体Aに、重合体Bを構成するための単量体を加え、重合体Aからなる重合体粒子の編み目構造の中に、前記単量体を十分吸収させた後、重合体Aの編み目構造の中で、吸収させた単量体を重合して重合体Bを合成する方法により、ポリマーアロイを容易に製造することができる。このような方法によってポリマーアロイを製造する場合、重合体Aに、重合体Bの単量体を十分に吸収させることが必須である。吸収温度が低すぎる場合または吸収時間が短すぎる場合には単なるコアシェル型の重合体または表層の一部のみがIPN型の構造である重合体となり、本発明におけるポリマーアロイを得ることができない場合が多い。ただし、吸収温度が高すぎると重合系の圧力が高くなりすぎ、反応系のハンドリングおよび反応制御の面から不利となり、吸収時間を過度に長くしても、さらに有利な結果が得られるわけではない。
上記のような観点から、吸収温度は、30〜100℃とすることが好ましく、40〜80℃とすることがより好ましく;
吸収時間は、1〜12時間とすることが好ましく、2〜8時間とすることがより好ましい。このとき、吸収温度が低い場合には吸収時間を長くすることが好ましく、吸収温度が高い場合には短い吸収時間で十分である。吸収温度(℃)と吸収時間(h)を乗じた値が、おおむね120〜300(℃・h)、好ましくは150〜250(℃・h)の範囲となるような条件が適当である。
【0028】
重合体Aの編み目構造の中に重合体Bの単量体を吸収させる操作は、乳化重合に用いられる公知の媒体中、例えば水中で行うことが好ましい。
ポリマーアロイ中の重合体Aの含有量は、ポリマーアロイ100質量%中、3〜60質量%であることが好ましく、5〜55質量%であることがより好ましく、10〜50質量%であることがさらに好ましく、特に20〜40質量%であることが好ましい。ポリマーアロイが重合体Aを前記範囲で含有することにより、イオン導電性および耐酸化性と、密着性とのバランスがより良好となる。また、各単量体に由来する繰り返し単位の含有割合が上記の好ましい範囲にある重合体Bを用いた場合には、ポリマーアロイが重合体Aを前記範囲で含有することにより、該ポリマーアロイ全体の各繰り返し単位の含有割合を上述の好ましい範囲に設定することが可能となり、このことによりEC/DEC不溶分が適切な値となるから、その結果、得られる蓄電デバイスの抵抗上昇率が十分に低いものとなる。
【0029】
1.1.5 重合体の製造方法(乳化重合の条件)
本発明における重合体の製造、すなわち、
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位および不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位に由来する繰り返し単位を有する重合体を1段階重合で合成する場合の該重合、
重合体Aの重合、ならびに
重合体Aの存在下における重合体Bの重合
は、それぞれ、公知の重合開始剤、分子量調節剤、乳化剤(界面活性剤)などの存在下で行うことができる。
上記重合開始剤としては、例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性重合開始剤;
過酸化ベンゾイル、ラウリルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性重合開始剤;
重亜硫酸ナトリウム、鉄(II)塩、三級アミンなどの還元剤と、過硫酸塩や有機過酸化物などの酸化剤との組合せからなるレドックス系重合開始剤などを挙げることができる。これらの重合開始剤は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
重合開始剤の使用割合は、使用する単量体の合計(重合体粒子を一段階重合で合成する場合においては使用する単量体の合計、重合体Aの製造においては重合体Aを導く単量体の合計、重合体Aの存在下に重合体Bを重合する場合においては重合体Bを導く単量体の合計。以下同じ。)100質量部に対して、0.3〜3質量部とすることが好ましい。
【0030】
上記分子量調節剤としては、例えばクロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素;
n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドテジルメルカプタン、チオグリコール酸などのメルカプタン化合物;
ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン化合物;
ターピノーレン、α−メチルスチレンダイマーなどのその他の分子量調節剤を挙げることができる。これらの分子量調節剤は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
分子量調節剤の使用割合は、使用する単量体の合計100質量部に対して、5質量部以下とすることが好ましい。
上記乳化剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤などを挙げることができる。
上記アニオン性界面活性剤としては、例えば高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの硫酸エステルなどを;
上記ノニオン性界面活性剤としては、例えばポリエチレングリコールのアルキルエステル、ポリエチレングリコールのアルキルエーテル、ポリエチレングリコールのアルキルフェニルエーテルなどを、それぞれ挙げることができる。
【0031】
両性界面活性剤としては、例えば
アニオン部分が、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩またはリン酸エステル塩などからなり、そして
カチオン部分が、アミン塩、第4級アンモニウム塩などからなるものを挙げることができる。このような両性界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルベタイン、ステアリルベタインなどのベタイン化合物;
ラウリル−β−アラニン、ラウリルジ(アミノエチル)グリシン、オクチルジ(アミノエチル)グリシンなどのアミノ酸タイプの界面活性剤などを挙げることができる。
上記フッ素系界面活性剤としては、例えば
フルオロブチルスルホン酸塩、フルオロアルキル基を有するリン酸エステル、フルオロアルキル基を有するカルボン酸の塩、フルオロアルキルエチレンオキシド付加物などを挙げることができる。このようなフッ素系界面活性剤の市販品としては例えばエフトップEF301、EF303、EF352((株)トーケムプロダクツ製);
メガファックF171、F172、F173(DIC(株)製);
フロラードFC430、FC431(住友スリーエム(株)製);
アサヒガードAG710、サーフロンS−381、S−382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106、サーフィノールE1004、KH−10、KH−20、KH−30、KH−40(旭硝子(株)製);フタージェント250、251、222F、FTX−218((株)ネオス製)などを挙げることができる。乳化剤としては、上記のうちから選択される1種または2種以上を使用することができる。
乳化剤の使用割合は、使用する単量体の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部とすることが好ましく、0.02〜5質量部とすることがさらに好ましい。
【0032】
乳化重合は適当な水性媒体中で行うことが好ましく、特に水中で行うことが好ましい。この水性媒体中におけるモノマーの合計の含有割合は、10〜50質量%とすることができ、20〜40質量%とすることが好ましい。
乳化重合の条件としては、重合温度40〜85℃において重合時間2〜24時間とすることが好ましく、重合温度50〜80℃において重合時間3〜20時間とすることがさらに好ましい。
【0033】
1.2 液状媒体
本発明の電極用バインダー組成物は、さらに液状媒体を含有する。
上記液状媒体は、水を含有する水性媒体であることが好ましい。この水性媒体は、水以外に少量の非水媒体を含有することができる。このような非水媒体としては、例えばアミド化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。このような非水媒体の含有割合は、水性媒体の全部に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である、水性媒体は、非水媒体を含有せずに水のみからなるものであることが最も好ましい。
本発明の電極用バインダー組成物は、媒体として水性媒体を使用し、好ましくは水以外の非水媒体を含有しないことにより、環境に対する悪影響を与える程度が低く、取扱作業者に対する安全性も高い。この点、有機溶媒を媒体として含有する組成物は、廃棄処理の手間およびコストの問題が生じ、可燃性などの特性に起因して防火性保存設備が必要となり、取扱いにも特別の熟練および配慮が必要となる不利益が生ずる。
【0034】
1.3 電極用バインダー組成物
本発明の電極用バインダー組成物は、上記のような重合体が上記のような液状媒体中に分散されたスラリー状またはラテックス状であることが好ましい。
重合体は水性媒体中において粒子状であることが好ましい。水性媒体中における重合体の平均粒子径(Da)は、50〜400nmの範囲にあることが好ましく、100〜250nmの範囲にあることがより好ましい。重合体粒子の平均粒子径が前記範囲にあることにより、組成物自体の安定性が向上するとともに、得られる電極における、電極活物質同士の結着性および集電体と電極活物質層との間の密着性がさらに良好となる。
重合体粒子の平均粒子径は、光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて行われる。このような粒度分布測定装置としては、たとえば、コールターLS230、LS100、LS13 320(以上、Beckman Coulter.Inc製)、FPAR−1000(大塚電子(株)製)などを挙げることができる。これらの粒度分布測定装置は、重合体粒子の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とすることができる。従って、これらの粒度分布測定装置によって測定された粒度分布は、電極用バインダー組成物中に含まれる重合体粒子の分散状態の指標とすることができる。なお、重合体粒子の平均粒子径は、電極用バインダー組成物を用いて電極用スラリーを調製した後にも、該電極用スラリーを遠心分離して活物質粒子を沈降させた後、その上澄み液を上記の粒度分布測定装置によって測定する方法によっても測定することができる。
【0035】
本発明の電極用バインダー組成物は、重合体が粒子状で水性媒体に分散されたラテックス状であることが好ましい。本発明の電極用バインダー組成物としては、重合体を合成(重合)し、好ましくは反応を停止した後の重合反応混合物を、必要に応じて混合物の液性を調整した後、これをそのまま本発明の電極用バインダー組成物として用いることが特に好ましい。従って、本発明の電極用バインダー組成物は、重合体および液状媒体(好ましくは水性媒体)のほかに、乳化剤、重合開始剤またはその残滓、界面活性剤、中和剤などの、乳化重合に通常用いられる成分またはその残滓といった他の成分を含有することができる。これら他の成分の含有割合としては、他の成分の合計質量が組成物の固形分量に対する割合として、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
電極用バインダー組成物の固形分濃度(組成物中の液状媒体以外の成分の合計質量が、組成物の全質量に対して占める割合)としては、20〜60質量%であることが好ましく、25〜50質量%であることがより好ましい。
電極用バインダー組成物の液性としては、中性付近であることが好ましく、pH6.0〜8.5であることがより好ましく、特にpH7.0〜8.0であることが好ましい。組成物の液性の調整には、公知の水溶性の酸または塩基を用いることができる。酸としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などを;
塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水などを、それぞれ挙げることができる。
本発明の電極用バインダー組成物は、上記した重合体、液状媒体、乳化重合に通常用いられる成分およびその残滓、ならびに液性調整のための酸または塩基以外の他の成分を含有しないことが好ましい。
上記のような本発明の電極用バインダー組成物は、例えばリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタなどの電気化学デバイスの電極材料として好適に用いることができる。電極用バインダー組成物は、リチウムイオン二次電池の正極の材料として用いた場合に本発明の有利な効果が最大限に発揮されることから、この態様が特に好ましい。
【0036】
2 電極用スラリー
上記の如き、本発明の電極用バインダー組成物を用いて電極用スラリーを製造することができる。
電極用スラリーとは、これを集電体の表面に塗布した後、乾燥して、集電体上に活物質層を形成するために用いられる分散液であり、本発明の上記のような電極用バインダー組成物と、活物質と、を少なくとも含有し、必要に応じてこれら以外のその他の成分を含有していてもよい。
【0037】
2.1 活物質
活物質は、目的とする蓄電デバイスの種類などに応じて適宜選択される。
リチウムイオン二次電池の正極を形成するための電極用スラリー(正極用スラリー)の場合、活物質(正極活物質)としては、例えばLi1+x(ただし、MはCo、NiおよびMnから選択される少なくとも1種、NはAlおよびSnから選択される少なくとも1種、Oは酸素原子を表し、x、y、zは、それぞれ0.10≧x≧0、4.00≧y≧0.85、2.00≧z≧0の範囲の数である)で表される複合金属酸化物、例えばコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウムなどを挙げることができるほか、
オリビン構造を有するリチウム原子含有酸化物を好適に使用することができる。
上記のオリビン構造を有するリチウム原子含有酸化物は、下記一般式(1)
Li1−x(XO) (1)
(式(1)中、MはMg、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、A1、Ga、GeおよびSnよりなる群から選択される金属のイオンの少なくとも1種であり;
Xは、Si、S、PおよびVよりなる群から選択される少なくとも1種であり;
xは数であり、0<x<1の関係を満たす。)
で表され、そしてオリビン型結晶構造を有する化合物である。上記式(1)におけるxは、MおよびXの価数に応じて、式(1)全体の価数が0価となるように選択される。
上記オリビン構造を有するリチウム原子含有酸化物は、金属元素Mの種類によって電極電位が異なる。従って、金属元素Mの種類を選択することにより、電池電圧を任意に設定することができる。オリビン構造を有するリチウム原子含有酸化物の代表的なものとしては、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、Li0.90Ti0.05Nb0.05Fe0.30Co0.30Mn0.30POなどを挙げることができる。これらのうち、特にLiFePOは、原料となる鉄化合物の入手が容易であるとともに安価であるため、好ましい。また、上記の化合物中のFeイオンをCoイオン、NiイオンまたはMnイオンに置換した化合物も、上記各化合物と同じ結晶構造を有するので、正極活物質として同様の効果を有する。
【0038】
リチウムイオン二次電池の負極を形成するための電極用スラリー(負極用スラリー)の場合、活物質(負極活物質)としては、例えば炭素材料、カーボンなどを好適に用いることができる。上記炭素材料としては有機高分子化合物、コークス、ピッチなどを焼成して得られる炭素材料を例示することができ、該炭素材料の前駆体である有機高分子化合物としては、例えばフェノール樹脂、ポリアクリロニトリル、セルロースなどを挙げることができる。上記カーボンとしては、例えば人造グラファイト、天然グラファイトなどを挙げることができる。
電気二重層キャパシタ用の電極を形成するための電極用スラリーの場合、活物質としては、例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、ハードカーボン;
コークス、ピッチなどを焼成して得られる炭素材料;
ポリアセン系有機半導体(PAS)などを用いることができる。
活物質は粒子状であることが好ましく、その平均粒子径(Db)は、0.4〜10μmの範囲であることが好ましく、0.5〜7μmの範囲であることがより好ましい。
【0039】
2.2 その他の成分
上記電極用スラリーは、前述した成分以外に、必要に応じてその他の成分を含有することができる、このようなその他の成分としては、例えば導電付与剤、水、非水系媒体、増粘剤などを挙げることができる。
【0040】
2.2.1 導電付与剤
上記導電付与剤の具体例としては、リチウムイオン二次電池においてはカーボンなどが;
ニッケル水素二次電池においては、正極では酸化コバルトが:
負極ではニッケル粉末、酸化コバルト、酸化チタン、カーボンなどが、それぞれ用いられる。上記両電池において、カーボンとしては、グラファイト、活性炭、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレンなどを挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラックまたはファーネスブラックを好ましく使用することができる。導電付与剤の使用割合は、活物質粒子100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1〜15質量部であり、特に2〜10質量部であることが好ましい。
電気二重層キャパシタ用の電極を形成するための電極用スラリーの場合には、導電付与剤を含有しないことが好ましい。
【0041】
2.3.2 水
上記電極用スラリーは、さらに水を含有することができる。水を含有することにより、電極用スラリーの安定性が良好となり、電極を再現性よく製造することが可能となる。水は、電極用スラリー(特に正極用スラリー)で一般的に使用されている高沸点溶剤(たとえば、N−メチルピロリドンなど)と比較して蒸発速度が速く、溶媒除去時間の短縮による生産性の向上、粒子のマイグレーションの抑制などを期待することができる。
本発明の電極用バインダー組成物が液状媒体として水を含有するものである場合、電極用スラリーにおける水は、電極用バインダー組成物から持ち込まれる水のみからなっていてもよく、あるいは電極用バインダー組成物から持ち込まれる水と新たに追加される水との合計であってもよい。
【0042】
2.3.3 非水系媒体
上記電極用スラリーは、その塗布性を改善する観点から、80〜350℃の標準沸点を有する非水系媒体を含有することができる。このような非水系媒体の具体例としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド化合物;
トルエン、キシレン、n−ドデカン、テトラリンなどの炭化水素;
2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、ラウリルアルコールなどのアルコール;
メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロンなどのケトン;
酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのエステル;
o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジンなどのアミン化合物;
γ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトンなどのラクトン;
ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルホキシド・スルホン化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。これらの中でも、重合体粒子の安定性、電極用スラリーを塗布する際の作業性などの点から、N−メチルピロリドンを使用することが好ましい。
しかしながら電極用スラリーは、環境負荷の低減、作業者の安全確保および管理コストの低減の観点から、非水系媒体を含有しないことが好ましい。
【0043】
2.2.4 増粘剤
上記電極用スラリーは、その塗工性を改善する観点から、増粘剤を含有することができる。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース化合物;
上記セルロース化合物のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;
ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸などのポリカルボン酸;
上記ポリカルボン酸のアルカリ金属塩;
ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール系(共)重合体;
(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸などの不飽和カルボン酸と、ビニルエステルとの共重合体の鹸化物などの水溶性ポリマーなどを挙げることができる。これらの中でも特に好ましい増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩などである。
これら増粘剤の市販品としては、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩として、例えばCMC1120、CMC1150、CMC2200、CMC2280、CMC2450(以上、ダイセル化学工業(株)製)などを挙げることができる。
電極用スラリーにおける増粘剤の使用割合としては、電極用スラリーの全固形分量に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは0.1〜15質量%であり、さらに好ましくは0.5〜10質量%である。
【0044】
2.3 電極用スラリーの製造方法
電極用スラリーは、活物質100質量部に対して、本発明の電極用バインダー組成物が、固形分換算で0.1〜10質量部含有されていることが好ましく、0.3〜4質量部含有されていることがより好ましい。電極用バインダー組成物の含有割合、固形分換算で0.1〜10質量部であることにより、良好な密着性が発現され、その結果、得られる蓄電デバイスの抵抗上昇率をより低くすることができる。
電極用スラリーは、本発明の電極用バインダー組成物と、上記のような活物質と、必要に応じて用いられる他の成分と、を混合することにより調製される。これらを混合するための手段としては、例えばボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどの公知の混合装置を利用することができる。
電極用スラリーの調製は減圧下で行うことが好ましく、これにより、得られる活物質層内に気泡が生じることを防止することができる。減圧の程度としては、絶対圧として、5.0×10〜5.0×10Pa程度とすることが好ましい。
正極用スラリーを製造するための混合撹拌は、スラリー中に活物質粒子の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度としては、少なくとも100μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散することが好ましい。分散の程度は粒ゲージにより測定可能である。
上記のような電極用スラリーは、本発明の電極用バインダー組成物を含有することにより、活物質相互間および活物質−集電体間の密着性の高い活物質層を有する電極を形成することができ、また、このような電極を備える蓄電デバイスは抵抗上昇率が十分に低いものである。
【0045】
3 電極
本発明における電極は、本発明の電極用バインダー組成物から調製された電極用スラリーを用いて製造することができる。
本発明における電極は、
集電体と、
前記集電体の表面上に、上記で説明した電極用スラリーを塗布して乾燥する工程を経て形成された活物質層と
を備える。塗膜の乾燥後、好ましくはプレス加工が行われる。
【0046】
3.1 集電体
集電体としては、例えば金属箔、エッチング金属箔、エキスパンドメタルなどを用いることができる。これらの材料の具体例としては、例えばアルミニウム、銅、ニッケル、タンタル、ステンレス、チタンなどの金属を挙げることができ、目的とする蓄電デバイスの種類に応じて適宜選択して用いることができる。
例えばリチウムイオン二次電池の正極を形成する場合、集電体としては上記のうちのアルミニウムを用いることが好ましい。この場合、集電体の厚みは、5〜30μmとすることが好ましく、8〜25μmとすることがより好ましい。
一方、リチウムイオン二次電池の負極を形成する場合、集電体としては上記のうちの銅を用いることが好ましい。この場合、集電体の厚みは、5〜30μmとすることが好ましく、8〜25μmとすることがより好ましい。
さらに、電気二重層キャパシタ用の電極を形成する場合、集電体としては上記のうちのアルミニウムまたは銅を用いることが好ましい。この場合、集電体の厚みは、5〜100μmとすることが好ましく、10〜70μmとすることがよりに好ましく、特に15〜30μmとすることが好ましい。
【0047】
3.2 活物質層の形成
電極における活物質層は、上記のような集電体の表面上に、電極用スラリーを塗布して乾燥する工程を経ることにより、形成される。
集電体上への電極用スラリーの塗布方法としては、例えばドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法などの適宜の方法を適用することができる。
塗膜の乾燥処理は、好ましくは20〜250℃、より好ましくは50〜150℃の温度範囲において、好ましくは1〜120分間、より好ましくは5〜60分間の処理時間で行われる。
乾燥後の塗膜は、好ましくはプレス加工に供される。このプレス加工を行うための手段としては、例えばロールプレス機、高圧スーパープレス機、ソフトカレンダー、1トンプレス機などを挙げることができる。プレス加工の条件は、用いる加工機の種類ならびに活物質層の所望の厚みおよび密度に応じて、適宜に設定される。
活物質層の好ましい厚みおよび密度は、その用途により異なる。
リチウムイオン二次電池負極の場合、厚みが40〜100μmであり、密度が1.3〜1.9g/cmであることが好ましく;
リチウムイオン二次電池正極の場合、厚みが40〜100μmであり、密度が2.0〜5.0g/cmであることが好ましく;そして
電気二重層キャパシタ用電極の場合、厚みが50〜200μmであり、密度が0.9〜1.8g/cmであることが好ましい。
【0048】
4 蓄電デバイス
本発明における蓄電デバイスは、上記のような電極を備える。
本発明における蓄電デバイスは、上記のような電極が、電解液を介して対向電極と相対し、好ましくはセパレータの存在によって隔離された構造を有する。
その造方法としては、例えば、2つの電極(正極および負極の2つ、またはキャパシタ用電極の2つ)をセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、適宜の形状であることができる。
上記電解液は、目的とする蓄電デバイスの種類に応じて適宜選択して用いられる。電解液としては、適当な電解質が溶媒中に溶解された溶液が用いられる。
リチウムイオン二次電池を製造する場合には、電解質としてリチウム化合物が用いられる。具体的には、例えばLiClO、LiBF、LiI、LiPF、LiCFSO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、LiCHSO、LiCSO、Li(CFSONなどを挙げることができる。この場合の電解質濃度は、好ましくは0.5〜3.0モル/Lであり、より好ましくは0.7〜2.0モル/Lである。
電気二重層キャパシタを製造する場合には、電解質として例えばテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートなどが用いられる。この場合の電解質濃度は、好ましくは0.5〜3.0モル/Lであり、より好ましくは0.7〜2.0モル/Lである。
【0049】
リチウムイオンキャパシタを製造する場合における電解質の種類および濃度は、リチウムイオン二次電池の場合と同じである。
上記いずれの場合であっても、電解液に用いられる溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどのカーボネート;
γ−ブチロラクトンなどのラクトン;
トリメトキシシラン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル;
ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;
1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソランなどのオキソラン誘導体;
アセトニトリル、ニトロメタンなどの窒素含有化合物;
ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステルなどのエステル;
ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどのグライム化合物;
アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;
スルホランなどのスルホン化合物;
2−メチル−2−オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン誘導体;
1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、2,4−ブタンスルトン、1,8−ナフタスルトンなどのスルトン化合物などを挙げることができる。
【0050】
このような蓄電デバイスは、活物質層における活物質相互間および活物質−集電体間の密着性が高く、しかも抵抗上昇率が十分に低いから、多数回の繰り返し使用や過充電に耐えるものである。従って、この蓄電デバイスは、電気自動車、バイブリッドカー、トラックなどの自動車に搭載される二次電池またはキャパシタとして好適であるほか、AV機器、OA機器、通信機器などに用いられる二次電池、キャパシタとしても好適である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0052】
実施例1
<電極用バインダー組成物の調製および評価>
(1)重合体Aの合成
電磁式撹拌機を備えた内容積約6Lのオートクレーブの内部を十分に窒素置換した後、脱酸素した純水2.5Lおよび乳化剤としてパーフルオロデカン酸アンモニウム25gを仕込み、350rpmで撹拌しながら60℃まで昇温した。次いで、単量体であるフッ化ビニリデン(VDF)70%および六フッ化プロピレン(HFP)30%からなる混合ガスを、内圧が20kg/cmに達するまで仕込んだ。重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネートを20%含有するフロン113溶液25gを窒素ガスを使用して圧入し、重合を開始した。重合中は内圧が20kg/cmに維持されるようVDF60.2%およびHFP39.8%からなる混合ガスを逐次圧入して、圧力を20kg/cmに維持した。また、重合中は撹拌および加熱を継続して反応温度を60℃に維持した。さらに、重合が進行するに従って重合速度が低下するため、3時間経過後に、先と同じ重合開始剤溶液の同量を窒素ガスを使用して圧入し、さらに3時間反応を継続した。その後、加熱を止めて反応液の冷却を開始すると同時に撹拌を停止した。次いで、反応系の圧力を開放して未反応の単量体を放出して反応を停止することにより、重合体Aの微粒子を40%含有する水系分散体を得た。
得られた重合体Aについて19F−NMRにより分析した結果、各単量体の質量組成比はVDF/HFP=21/4であった。
また、得られた重合体Aについて、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子(株)製、形式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から求めた数平均粒子径は140nmであった。
【0053】
(2)ポリマーアロイ粒子の合成(重合体Bの重合)
容量7Lのセパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、上記(1)で得られた重合体Aの微粒子を含有する水系分散体1,600g(重合体A換算で25部に相当)、乳化剤「アデカリアソープSR1025」(商品名、(株)ADEKA製)0.5部、メタクリル酸メチル(MMA)30部、アクリル酸2−エチルヘキシル(EHA)40部、メタクリル酸(MAA)1部およびアクリル酸(AA)5部ならびに水130部を順次仕込み、70℃で3時間攪拌して重合体Aに単量体を吸収させた。次いで油溶性重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.5部を含有するテトラヒドロフラン溶液20mLを添加し、75℃に昇温して3時間反応を行い、さらに85℃で2時間反応を行った。その後、冷却した後に反応を停止し、2.5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調節することにより、重合体粒子を40%含有する水系分散体(バインダー組成物)を得た。
【0054】
(3)ポリマーアロイ粒子の評価
上記で得られた水系分散体について、粒度分布測定装置「FPAR−1000」)を用いて測定した粒度分布から求めた数平均粒子径は250nmであった。
また、得られた重合体粒子を示差走査熱量計(DSC)によって測定したところ、熔解温度Tmは観察されず、単一のガラス転移温度Tgが−2℃に観測されたことから、得られた重合体粒子はポリマーアロイ粒子であると考えられる。
さらに、得られた水系分散体のEC/DEC不溶分を、以下のようにして測定した。
得られた水系分散体の約10gを直径8cmのテフロン(登録商標)シャーレへ取り、120℃で1時間乾燥して成膜した。得られた膜(重合体)のうちの1gを正確に秤り採り、これを密閉容器中でエチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)からなる混合溶媒(EC:DEC=1:2(体積比))の100mL中に浸積して、70℃において24時間、振幅30mmおよび振幅周波数30回/分の条件で振とうした。振とう後の液を300メッシュの金網で濾過して不溶分を除去した後、混合溶媒を留去して得られた残存物(溶解分)の重量(Y(g))を測定した。この値を下記数式(1)に代入して求めた重合体粒子の不溶分(EC/DEC不溶分)は74%であった。
EC/DEC不溶分(%)={(1−Y)/1}×100 (1)
【0055】
<活物質粒子の調製>
市販のリン酸鉄リチウム(LiFePO)をめのう乳鉢で粉砕し、ふるいを用いて分級することにより、粒子径(D50値)が0.5μmである活物質粒子を調製した。
【0056】
<正極用スラリーの調製>
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス(株)製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に増粘剤(商品名「CMC1120」、ダイセル化学工業(株)製)1部(固形分換算)、上記<活物質粒子の調製>で調製した活物質粒子100質量部、アセチレンブラック5部および水68部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。次いで、上記<バインダー組成物の調製>で調製したバインダー組成物を、該組成物中に含有される重合体粒子が第1表に記載の量(部)となるように加え、さらに1時間攪拌してペーストを得た。得られたペーストに水を加えて固形分濃度を50%に調整した後、攪拌脱泡機((株)シンキー製、商品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1,800rpmで5分間、さらに真空下(約5.0×10Pa)において1,800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、正極用スラリーを調製した。
【0057】
<正極および蓄電デバイスの製造および評価>
(1)正極の製造
アルミニウム箔からなる集電体の表面に、上記で調製した正極用スラリーを、乾燥後の膜厚が100μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥した。その後、膜(活物質層)の密度が1.9g/cmになるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、正極を得た。
【0058】
(2)負極の製造
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス(株)製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)4部(固形分換算)、負極活物質としてグラファイト100部(固形分換算)、N−メチルピロリドン(NMP)80部を投入し、60rpmで1時間撹拌を行った。その後、さらにNMP20部を投入した後、撹拌脱泡機((株)シンキー製、製品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、次いで1,800rpmで5分間、さらに真空下において1,800rpmで1.5分間撹拌・混合することにより、負極用スラリーを調製した。
銅箔からなる集電体の表面に、上記で調製した負極用スラリーを、乾燥後の膜厚が150μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥した。その後、膜の密度が1.5g/cmとなるようにロールプレス機を使用してプレス加工することにより、負極を得た。
【0059】
(3)リチウムイオン電池セルの組立て
露点が−80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、上「(2)負極の製造」において製造した負極を直径16.16mmに打ち抜き成型したものを、2極式コインセル(宝泉(株)製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード(株)製、商品名「セルガード#2400」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、前記「(1)正極の製造」において製造した正極を直径15.95mmに打ち抜き成型したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン電池セル(蓄電デバイス)を組み立てた。
ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート(EC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)からなる混合溶媒(EC:EMC=1:1(質量比))中にLiPFを1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
【0060】
(4)蓄電デバイスの評価(耐久性の評価)
上記で製造した電池セルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)とした(エージング充放電)。
上記エージング充放電後のセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。この充電状態のセルについてEIS測定(“Electrochemical Inpedance Spectroscopy”、「電気化学インピーダンス測定」)を行い、初期の抵抗値EISaを測定した。
次に、初期の抵抗値EISaを測定したセルを60℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にてさらに充電を開始し、電圧が4.4Vになった時点で引き続き定電圧(4.4V)にて24時間充電を続行した(過充電の加速試験)。その後、この充電状態のセルを25℃の恒温槽に入れてセル温度を25℃に低下してから再びEIS測定を行い、熱ストレスおよび過充電ストレス印加後の抵抗値であるEISbを測定した。
上記の各測定値を下記式(2)に代入して求めた抵抗上昇率は、20%であった。
抵抗上昇率(%)=(EISb−EISa)÷EISa×100 (2)
【0061】
この抵抗上昇率が50%以下であるとき、耐久性は良好であると評価することができ、15%以下であるとき耐久性は極めて良好であると評価することができる。
なおEIS測定は、英国ソーラトロン社製の高性能電気化学測定システム(高性能ポテンショスタット/ガルバノスタット(型番SI1287)と周波数応答アナライザー(型番1252A)とを組合せたシステム。組合わせ後の型番は12528WB型)を用いて得た測定結果を、ZPlot交流測定解析ソフトウェアにより解析する方法によった。
上記測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値を示す。例えば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、「10C」とは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
【0062】
実施例2〜8および比較例1〜6
<バインダー組成物の調製>
上記実施例1の「(1)重合体Aの合成」において、単量体ガスの組成と乳化剤量を適宜に変更したほかは実施例1と同様にして、第1表に示す組成の重合体Aの微粒子を含有する水系分散体を調製し、該水系分散体の固形分濃度に応じて水を減圧除去または追加することにより、固形分濃度40%の水系分散体を得た。
次いで実施例1の「(2)ポリマーアロイ粒子の合成」において、上記の水系分散体を固形分換算で第1表に記載の量だけ用い、各単量体の種類および仕込み量(部)をそれぞれ第1表のとおりとし、さらに乳化剤の使用量を適宜変量することによって、第1表に記載の数平均粒子径を有する重合体粒子を含有する水系分散体(バインダー組成物)をそれぞれ得た。
得られた微粒子について行ったDSC測定(ポリマーアロイであるか否か)およびEC/DEC不溶分測定の結果を、第1表に合わせて示した。
【0063】
<活物質粒子の調製>
上記実施例1の「活物質粒子の調製」において、使用したふるいの目開きを適宜変更することにより、第1表に記載の粒子径(D50値)を有する活物質粒子を調製した。
<正極用スラリーの調製>
活物質粒子およびバインダー組成物として、それぞれ上記で調製したものを第1表に記載した量だけ用いたほかは、実施例1における「正極用スラリーの調製」と同様にして正極用スラリーを調製した。
<正極および蓄電デバイスの製造および評価>
上記で得た各材料を使用したほかは、実施例1と同様にして正極および蓄電デバイスを製造し、評価した。
評価結果は、第1表に示した。
【0064】
実施例9
<電極用バインダー組成物の調製>
容量7リットルのセパラブルフラスコに、水150部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を仕込み、セパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した。
一方、別の容器に、水60部、乳化剤としてエーテルサルフェート型乳化剤(商品名「アデカリアソープSR1025」、(株)ADEKA製)を固形分換算で0.8部ならびにモノマーとして2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)20部、アクリロニトリル(AN)10部、メチルメタクリレート(MMA)25部、2−エチルヘキシルアクリレート(EHA)40部およびアクリル酸5部を加え、十分に攪拌して上記モノマーの混合物を含有するモノマー乳化液を調製した。
その後、上記セパラブルフラスコの内部の昇温を開始し、当該セパラブルフラスコの内部の温度が60℃に到達した時点で、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5部を加えた。そして、セパラブルフラスコの内部の温度が70℃に到達した時点で、上記で調製したモノマー乳化液の添加を開始し、セパラブルフラスコの内部の温度を70℃に維持したままモノマー乳化液を3時間かけてゆっくりと添加した。その後、セパラブルフラスコの内部の温度を85℃に昇温し、この温度を3時間維持して重合反応を行った。3時間後、セパラブルフラスコを冷却して反応を停止した後、アンモニウム水を加えてpHを7.6に調整することにより、重合体粒子を30%含有する水系分散体(バインダー組成物)を得た。
上記で得られた水系分散体について、実施例1と同じようにして評価したところ、数平均粒子径は110nmであった。また、ガラス転移温度は−2℃に一つだけ観測された。さらに、EC/DEC不溶分は73%であった。
【0065】
<正極用スラリーの調製>
バインダー組成物として、上記で調製したバインダー組成物を第1表に記載した量だけ用いたほかは実施例1と同様にして正極用スラリーを調製した。
<正極および蓄電デバイスの製造および評価>
上記で得た各材料を使用したほかは、実施例1と同様にして正極および蓄電デバイスを製造し、評価した。
評価結果は、第1表に示した。
【0066】
実施例10および11
<バインダー組成物の調製>
各単量体の種類および仕込み量(部)をそれぞれ第1表のとおりとしたほかは上記実施例9と同様にして、第1表に記載の数平均粒子径を有する重合体粒子を含有する水系分散体(バインダー組成物)をそれぞれ得た。
得られた微粒子についてEC/DEC不溶分測定の結果を、第1表に合わせて示した。
<活物質粒子の調製>
上記実施例1の「活物質粒子の調製」において、使用したふるいの目開きを適宜変更することにより、第1表に記載の粒子径(D50値)を有する活物質粒子を調製した。
<正極用スラリーの調製>
活物質粒子およびバインダー組成物として、それぞれ上記で調製したものを第1表に記載した量だけ用いたほかは、実施例1における「正極用スラリーの調製」と同様にして正極用スラリーを調製した。
<正極および蓄電デバイスの製造および評価>
上記で得た各材料を使用したほかは、実施例1と同様にして正極および蓄電デバイスを製造し、評価した。
評価結果は、第1表に示した。
なお、実施例9〜11の<バインダー組成物の調製>において合成した重合体粒子は、「重合体B」ではなく本発明所定の重合体そのものであるが、第1表では表作成の便宜上「重合体B」の欄に記載した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
第1表における各成分の略称は、それぞれ以下の意味である。
[重合体Aのモノマー]
VDF:フッ化ビニリデン
HFP:六フッ化プロピレン
TFE:四フッ化エチレン
[重合体Bのモノマー]
−含フッ素モノマー−
TFEMA:メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル
TFEA:アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル
HFIPA:アクリル酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル
−不飽和カルボン酸−
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
−多官能性モノマー−
DVB:ジビニルベンゼン
TMPTMA:トリメタクリル酸トリメチロールプロパン
AMA:メタクリル酸アリル
−不飽和カルボン酸エステル−
MMA:メタクリル酸メチル
BMA:メタクリル酸ブチル
EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
BA:アクリル酸ブチル
EA:アクリル酸エチル
−不飽和ニトリル−
AN:アクリロニトリル
[ポリマーアロイであるか否か?]
○:ポリマーアロイである。
×:ポリマーアロイでない。
第1表における「−」の表記は、当該欄に該当する単量体を使用しなかったか、あるいは当該欄所定の測定を行わなかったことを示す。
【0070】
上述のとおり、重合体粒子がポリマーアロイであることは、DSCチャートから推定した。
上記実施例1で得られた重合体粒子のDSCチャートを図1に示した。
また、下記の合成例1〜3でそれぞれ合成した重合体粒子のDSCチャートを、図2〜4にそれぞれ示した。
【0071】
合成例1
上記実施例1の「(1)重合体Aの合成」において、単量体ガスの組成を変更したほかは実施例1と同様にして、フッ化ビニリデン(VDF)に由来する構成単位80%および六フッ化プロピレン(HFP)に由来する構成単位20%からなる組成の重合体Aの微粒子を含有する水系分散体を得た(これに引き続く「(2)ポリマーアロイ粒子の合成」は行わなかった。)。
【0072】
合成例2
容量7Lのセパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、乳化剤「アデカリアソープSR1025」(商品名、(株)ADEKA製)1.0部、メタクリル酸メチル(MMA)30部、アクリル酸2−エチルヘキシル(EHA)40部およびメタクリル酸(MAA)5部ならびに水145部水130部を順次仕込んだ。次いで油溶性重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.5部を含有するテトラヒドロフラン溶液20mLを添加し、75℃に昇温して3時間反応を行い、さらに85℃で2時間反応を行った。その後、冷却した後に反応を停止し、2.5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調節することにより、重合体粒子を40%含有する水系分散体を得た。
【0073】
合成例3
上記実施例1の「(2)ポリマーアロイ粒子の合成」において、重合体Aの微粒子を含有する水系分散体1,600g(重合体A換算で25部に相当)に乳化剤「アデカリアソープSR1025」(商品名、(株)ADEKA製)0.5部を加えた後、温度を75℃に昇温後、メタクリル酸メチル(MMA)30部、アクリル酸2−エチルヘキシル(EHA)40部、メタクリル酸(MAA)5部、水130部およびアゾビスイソブチロニトリル0.5部をほぼ同時に加えて重合を開始し、75℃で3時間、次いで85℃で2時間反応を行ったほかは、実施例1と同様にして重合体粒子40%を含有する水系分散体を得た。
【0074】
図2は重合体Aのみの場合に、
図3は重合体Bのみの場合に、
図4は重合体Aおよび重合体Bの混合物に、それぞれ該当し、そして
図1が重合体Aおよび重合体Bからなるポリマーアロイ粒子に該当する。
図2には重合体Aの熔解温度Tmが、図3には重合体Bのガラス転移温度Tgが、それぞれ観測された。
図4では、重合体Aの熔解温度Tmおよび重合体Bのガラス転移温度Tgが双方とも観測されたことから、本重合体粒子が重合体Aおよび重合体Bの混合物であると考えられるのに対して、
図1を見ると、重合体Aの熔解温度Tmおよび重合体Bのガラス転移温度Tgはいずれも観測されず、重合体AのTmとも重合体BのTgとも異なる温度に単一の新しいガラス転移温度Tgが発生していることから、この重合体粒子はポリマーアロイであるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体および液状媒体を含有する蓄電デバイスの電極用バインダー組成物であって、
前記重合体が、該重合体の100質量部に対して
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位の5〜50質量部と
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の1〜10質量部と
を含有し、そして
前記電極用バインダー組成物を120℃において1時間乾燥して得られる固形物について、エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)からなる混合溶媒(EC;DEC=1:2(体積比))を溶媒として70℃、24時間の条件で測定した溶媒不溶分の割合が70質量%を超えることを特徴とする、前記電極用バインダー組成物。
【請求項2】
前記重合体が、該重合体の100質量部に対して、
重合性二重結合を2つ以上有する単量体に由来する繰り返し単位を0.01〜10質量部をさらに含有するものである、請求項1に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項3】
前記重合体における不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位が、
アクリル酸に由来する繰り返し単位を含むものである、請求項1に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項4】
前記重合体におけるフッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位が、
フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する繰り返し単位である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項5】
前記重合体が前記組成物中で粒子として分散しており、
該重合体粒子の平均粒子径(Da)が50〜400nmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項6】
蓄電デバイスの正極を形成するために用いられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電極用バインダー組成物を用いて製造されたことを特徴とする、蓄電デバイスの電極。
【請求項8】
請求項7に記載の電極を備えることを特徴とする、蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−37883(P2013−37883A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172935(P2011−172935)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】