説明

電極用合金粉末およびその製造法

【課題】アルカリ蓄電池の充放電の繰り返しによる容量の低下を抑制する。
【解決手段】水素吸蔵合金および磁性体クラスタを含み、水素吸蔵合金が、Niを20〜70重量%含み、磁性体クラスタが、金属ニッケルを含み、磁性体クラスタの平均粒径が、8nm〜10nmである電極用合金粉末。電極用合金粉末の製造法は、水素吸蔵合金を含む原料粉末を、水酸化ナトリウムをA重量%含む100℃以上の水溶液とB分間接触させる活性化工程を含み、AおよびBは、2410≦A×B≦2800を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金を含む電極用合金粉末に関し、詳しくは、電極用合金粉末に含まれる磁性体クラスタの改良に関する。本発明の電極用合金粉末は、アルカリ蓄電池の負極などに用いられる。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、充放電に伴い、水素を可逆的に吸蔵および放出する能力を有する。水素吸蔵合金は、理論容量密度がカドミウムより大きく、亜鉛電極のように、デンドライトの形成もない。よって、水素吸蔵合金は、アルカリ蓄電池の負極材料として期待されている。
【0003】
水素吸蔵合金を含むニッケル水素蓄電池は、近年、電気自動車などの動力電源としても注目を集めている。よって、ニッケル水素蓄電池の出力特性や保存特性の向上に対する要望は大きい。
【0004】
ニッケル水素蓄電池の負極には、主にCaCu5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金が用いられている。例えばMmNi5(Mmは希土類元素の混合物)のNiの一部をCo、Mn、Al、Cuなどで置換した合金が広く用いられている。
製造後の水素吸蔵合金は、活性化工程を経た後に、電極用合金粉末として用いられる。そこで、活性化工程に関する多くの提案がなされている。例えば、ニッケルを含む水素吸蔵合金粉末を、90℃以上で、水酸化ナトリウムを30〜80重量%含む水溶液に浸漬する活性化工程が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−256301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、金属ニッケルを含む磁性体の含有量が3〜9重量%であり、導電性が高く、アルカリ電解液中で腐食されにくく、初期の充放電サイクルにおいて優れた電極活性を示す電極用合金粉末を効率よく得ることができる。しかし、電極活性は、金属ニッケルを含む磁性体の含有量だけでなく、磁性体クラスタの粒径にも大きく影響されると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、充放電の繰り返しによる電極活性の低下を顕著に抑制する観点から、磁性体クラスタの平均粒径を制御することを提案する。
すなわち、本発明は、水素吸蔵合金および磁性体クラスタを含み、水素吸蔵合金は、Niを20〜70重量%含み、磁性体クラスタは、金属ニッケルを含み、磁性体クラスタの平均粒径は、8nm〜10nmである、電極用合金粉末を提案する。
【0008】
電極用合金粉末における磁性体クラスタの含有量は、2.8重量%〜4.2重量%が好適である。
【0009】
水素吸蔵合金は、例えばCaCu5型の結晶構造を有するが、これに限定されない。水素吸蔵合金がCaCu5型の結晶構造を有する場合、水素吸蔵合金は、さらに、希土類元素の混合物と、Coと、Mnと、Alとを含むことが好ましい。また、水素吸蔵合金におけるCoの含有量は6重量%以下が好適である。
【0010】
本発明は、また、上記の電極用合金粉末を含む負極を含むアルカリ蓄電池(ニッケル水素蓄電池)に関する。
【0011】
本発明は、また、水素吸蔵合金を含む原料粉末を、水酸化ナトリウムをA重量%含む100℃以上の水溶液とB分間接触させる活性化工程を含み、水素吸蔵合金が、Niを20〜70重量%含み、AおよびBが、2410≦A×B≦2800を満たす電極用合金粉末の製造法に関する。
【0012】
ここで、A値は42≦A≦47を満たすことが好ましい。
B値は52≦B≦59を満たすことが好ましい。
【0013】
原料粉末の平均粒径は、5〜30μmが好適である。
活性化工程を行う前に、原料粉末を水と混合して湿らせる工程を行い、湿った状態の原料粉末を、上記の水酸化ナトリウム水溶液と接触させることが好ましい。
原料粉末を水と混合して湿らせる工程には、水素吸蔵合金の粗粒子を、水の存在下で、平均粒径5〜30μmに粉砕する工程が挙げられる。
【0014】
なお、活性化工程を経た合金粉末は、水洗することが望ましい。水洗は、水洗に用いられた水のpHが9以下になるまで行うことが望ましい。水洗された合金粉末は、水中で酸化剤と混合して酸化することが望ましい。酸化は、合金粉末を分散させたpH7以上の水中に酸化剤を投入して行うことが好ましい。例えば、合金粉末を分散させたpH7以上の水中に、撹拌しながら過酸化水素水を投入する。投入される過酸化水素の量は、原料粉末100重量部あたり、0.005〜1重量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電極用合金粉末は、金属ニッケルを含む磁性体クラスタの平均粒径が好適範囲に制御されている。よって、水素の吸蔵および放出に対する合金粉末の活性が長期にわたり維持される。これは、磁性体クラスタによる水素分子の解離および水素原子の結合に対する触媒作用が維持されるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例に係る電極用合金粉末の磁化曲線の一例である。
【図2】実施例に係る電極用合金粉末の断面TEM写真である。
【図3】図2の断面TEM写真において観測される磁性体クラスタの粒径の変化を示す処理画像である。
【図4】表層部の厚さ方向における磁性体クラスタの粒径分布を示す図である。
【図5】実施例に係るニッケル水素蓄電池の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の電極用合金粉末は、水素吸蔵合金および磁性体クラスタを含み、水素吸蔵合金は、Niを20重量%〜70重量%含み、磁性体クラスタは、金属ニッケルを含む。ここで、磁性体クラスタの平均粒径は8nm〜10nmである。
Ni含有量が20重量%未満の水素吸蔵合金は、水素吸蔵合金としての役割を果たさない。水素吸蔵合金におけるNi含有量が70重量%を超えると、水素平衡圧が高くなる傾向が顕著となり、電池の出力低下を招く。
【0018】
磁性体クラスタは、水素吸蔵合金を含む原料粉末を、アルカリ水溶液に浸漬すると生成する。原料粉末には、Niを20〜70重量%含む水素吸蔵合金粉末を用いることができる。なお、磁性体クラスタとは、金属状態のニッケルを主成分とする強磁性物質を意味する。
【0019】
金属状態のニッケルは、電極用合金粉末の表層部に偏析しており、結晶あるいは非晶質の状態で凝集している。すなわち、本発明の電極用合金粉末は、核と表層部とを有し、核は水素吸蔵合金を含み、表層部は磁性体クラスタを含む。水素吸蔵合金を含む核は、磁性体クラスタを含む表層部で均一に被覆されていることが望ましい。
【0020】
磁性体クラスタの粒径は、表層部の内側から外側に向かって、徐々に大きくなっていることが好ましい。換言すれば、表層部の内側から外側に向かって、粒径の大きな磁性体クラスタが、徐々に多くなり、粒径の小さな磁性体クラスタが、徐々に少なくなることが好ましい。
【0021】
粒径の小さい磁性体クラスタ、特に粒径が8〜10nmの磁性体クラスタは、水素吸蔵合金が水素を吸蔵する際に触媒として作用する。よって、粒径の小さい磁性体クラスタは、水素吸蔵合金を含む核の近傍に偏在していることが好ましい。この場合、水素吸蔵合金による水素の受け渡しが容易となり、電極用合金粉末による水素の吸蔵能力および放出能力が最適化される。
【0022】
以上より、粒径8nm〜10nmの磁性体クラスタの量は、表層部の内側から外側に向かって、徐々に減少していることが好ましい。粒径8nm〜10nmの磁性体クラスタの量は、表層部の内側から外側に向かって、単調に減少していることが好ましいが、平均的に減少する傾向を有するだけでもよい。
【0023】
磁性体クラスタの粒径は、電極用合金粉末の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察することにより測定できる。このとき、断面TEM写真を画像処理することで、磁性体クラスタの粒径の分布を求めることができる。画像処理においては、磁性体クラスタを完全に包囲する円を求め、その円の直径を磁性体クラスタの粒径として求める。
【0024】
磁性体クラスタの平均粒径は、例えば以下の方法で求めることができる。
まず、電極用合金粉末の磁化曲線を求める。磁化曲線は、印加した磁場の強さ(H)と誘起された磁化(M)との関係を示す。
磁化曲線は、印加した磁場(H)内において、誘起された磁化(M)を測定することにより求める。得られる磁化(M)(emu/g)、すなわち単位体積中の原子磁気モーメントの総和は、次式(1):M=Σ{μf(d)L(α)}
で表される。ここで、μはニッケルの比透磁率を表す。
【0025】
式(1)中、f(d)は、磁性体クラスタの直径dの分布関数である。直径dの標準偏差をσとすると、f(d)は、次式(2):f(d)=1/{(2π)1/2ln(σ)}×exp{−(ln(d)−ln(dm))2/(2(ln(σ))2)}
で表される。なお、dmはdのメディアン径(最も頻度の大きい直径)である。
【0026】
式(1)中、L(α)は、飽和磁化Msと測定された磁化MNiとの比を表す関係式である。L(α)は、次式(3):L(α)=coth(α)−1/α
で表される。ここで、α=μH/KBT、μ=(MNi4π/3)×(d/2)3であり、coth(α)は、双曲線関数(coth(α)={(eα +e)/(eα −e)})である。μはニッケルの比透磁率、KBはボルツマン定数、Tは絶対温度、MNiはニッケルの磁化を、それぞれ示す。
【0027】
式(1)と、測定データである磁化曲線とのフィッティングを行うことにより、磁化曲線と式(1)とが一致するようなμの実験値を求めることができる。磁性体クラスタの数をnとすると、n値は、次式(4): n=μN/MsMmol
で表される。ここで、Nはアボガドロ数であり、Mmolは磁性体のモル重量(金属ニッケル1molあたりの重量)であり、Msは飽和磁化である。
【0028】
磁性体クラスタの平均粒径daverageは、次式(5):daverage=Σ{d×f(d)}/n
より得ることができる。
【0029】
磁性体クラスタの平均粒径daverageの求め方は、例えば、参考文献1(Magnetic Properties of LaNi3.55Mn0.4Al0.3Co0.75-xFex Compounds before and after electrochemical cycles, Journal of Magnetism and Magnetic Materials, vol.242-245 (2002), p850-853)に記載されており、当業者であれば一義的に求めることができる。
【0030】
磁性体クラスタの平均粒径が8nm未満になり、もしくは10nmを超えると、充放電の繰り返しにより、合金粉末の活性が低下しやすくなる。よって、合金粉末を含む電極の容量低下が大きくなる。
【0031】
電極用合金粉末における磁性体クラスタの含有量は、2.8重量%〜4.2重量%が好適である。磁性体クラスタの含有量が2.8重量%未満になり、もしくは4.2重量%を超えると、磁性体クラスタの平均粒径の制御が困難になる場合がある。
【0032】
電極用合金粉末における磁性体クラスタの含有量は、例えば10kOeの磁場における電極用合金粉末の飽和磁化から求められる。磁性体クラスタには、金属コバルトなどが含まれる場合もあるが、飽和磁化は、全て金属ニッケルに基づくものと仮定する。そして、飽和磁化に相当する金属ニッケル量を磁性体クラスタの量と定義する。
【0033】
水素吸蔵合金は、CaCu5型(すなわちAB5型)の結晶構造を有することが好ましい。なかでも、MmNi5(Mm:ミッシュメタル)をベースとする水素吸蔵合金が好ましい。なお、Mmは、希土類元素の混合物である。Mmは、40〜50%のCeおよび20〜40%のLaを含み、さらにPrおよびNdを含む。Aサイトには、希土類元素の他に、例えばニオブ、ジルコニウム等が存在する。Bサイトには、Niの他に、例えばCo、Mn、Al等が存在する。ただし、Coは高価であるため、低価格化を図る観点から、水素吸蔵合金のCoの含有量を6重量%以下に抑えることが好ましい。
【0034】
本発明に適した水素吸蔵合金の組成は、例えばLa0.8Nb0.2Ni2.5Co2.4Al0.1、La0.8Nb0.2Zr0.03Ni3.8Co0.7Al0.5、MmNi3.65Co0.75Mn0.4Al0.3、MmNi2.5Co0.7Al0.8、Mm0.85Zr0.15Ni1.0Al0.80.2などである。
【0035】
金属ニッケルを含む磁性体クラスタは、Niを20〜70重量%含有する水素吸蔵合金を含む原料粉末を、水酸化ナトリウム水溶液と接触させる活性化工程により生成する。原料粉末には、例えば上述の様々な水素吸蔵合金粉末を用いることができる。ただし、磁性体クラスタの平均粒径を好適範囲に制御するには、水素吸蔵合金粉末の活性化工程を厳密に制御することが要求される。活性化工程の条件を適正に制御することにより、水素吸蔵合金の腐食反応と溶出反応の進行が制御され、磁性体クラスタの粒径分布が最適化される。
【0036】
具体的には、活性化工程に用いる水酸化ナトリウム水溶液は、100℃以上であることを要する。また、水酸化ナトリウム水溶液における水酸化ナトリウム濃度をA重量%、水酸化ナトリウム水溶液と原料粉末との接触時間をB分間とするとき、AおよびBは、2410≦A×B≦2800を満たす必要がある。
【0037】
通常、水素吸蔵合金の活性化工程には、水酸化カリウム水溶液が用いられる。水酸化カリウム水溶液を用いれば、短時間で迅速に、水素吸蔵合金の活性化が進行する。一方、水酸化ナトリウム水溶液は、水酸化カリウム水溶液よりも、活性化の進行が遅い。しかし、水溶液の温度、水酸化ナトリウム濃度および合金粉末と水溶液との接触時間を適正に制御すれば、水酸化ナトリウム水溶液を用いた方が、電極用合金粉末の性能は向上する。なお、本発明で用いる水酸化ナトリウム水溶液は、NaOHの外に、適正量(NaOHの1molあたり0.07mol未満)の他のアルカリ(KOH、LiOH等)を含んでいてもよい。
【0038】
A×B値が2410未満になり、もしくは2800を超えると、充放電を繰り返すことにより合金粉末の活性が急激に低下する。よって、合金粉末を含む電極の容量低下が大きくなる。これは、活性化工程で生成する磁性体クラスタの平均粒径が、適正範囲外(8nm未満もしくは10nm超)となるためである。A×B値の範囲は2410≦A×B≦2550であることが好ましい。
【0039】
水酸化ナトリウム水溶液の温度が、100℃未満では、活性化に長時間を要する上、磁性体クラスタの粒径制御も困難になる。
【0040】
水酸化ナトリウム水溶液における水酸化ナトリウム濃度を表すA値は、42≦A≦47を満たすことが好ましい。A値が小さくなりすぎると、活性化工程に要する時間が長くなり、生産性が低下する。また、磁性体クラスタの生成も進行しにくい。一方、A値が大きくなりすぎると、磁性体クラスタの平均粒径の制御が困難になる。
【0041】
水素吸蔵合金からなる原料粉末と水酸化ナトリウム水溶液との接触時間を表すB値は52≦B≦59を満たすことが好ましい。B値が小さくなりすぎると、磁性体クラスタの生成が進行しにくい。一方、B値が大きくなりすぎると、生産性が低下し、磁性体クラスタの平均粒径の制御も困難になる。
【0042】
原料粉末の平均粒径は、5〜30μmが好適である。平均粒径が5μm未満になると、合金粉末の水素吸蔵量が小さくなる傾向がある。一方、平均粒径が30μmを超えると、比表面積の減少により、高率放電特性が低下する傾向がある。
【0043】
活性化工程の途中で水素吸蔵合金が酸化されるのを防止し、活性化の効果を高める観点から、活性化工程は、最初から最後まで一貫して湿式で行うことが好ましい。すなわち、水素吸蔵合金は、常に水で濡れた状態であることが好ましい。
【0044】
例えば、鋳造法などで得られた水素吸蔵合金の粗粒子は、水の存在下で、平均粒径5μm〜30μmになるまで粉砕する。その後、水分で湿った状態の水素吸蔵合金粉末を、水酸化ナトリウム水溶液と接触させることが好ましい。また、水素吸蔵合金の粗粒子の粉砕を乾式で行い、活性化工程を行う直前に水素吸蔵合金に水を添加して湿らせてもよい。また、アトマイズ法などで得られた水素吸蔵合金に、活性化工程を行う直前に水を添加して湿らせてもよい。
【0045】
活性化工程を経た合金粉末は、水洗することが望ましい。水洗は洗浄に用いた水のpHが9以下になってから終了することが好ましい。洗浄に用いた水のpHが9より高い状態で水洗を終了すると、合金粉末の表面に不純物が残存する場合がある。水洗は、合金粉末を攪拌しながら行うことが望ましい。
【0046】
水洗後の合金粉末は、少量の水素を吸蔵している場合がある。よって、水素を除去し、合金を安定化させる観点から、合金粉末に酸化剤を添加してもよい。合金粉末を酸化剤で処理することで、合金中に吸蔵された水素を化学的に取り出すことができる。酸化は、合金粉末を分散させたpH7以上の水中に酸化剤を投入して行うことが好ましい。酸化剤には、例えば、過酸化水素水を用いることができる。過酸化水素は、水素と反応しても水しか生成しない点で好ましい。酸化剤の量は、原料粉末100重量部あたり、0.005〜1重量部が好ましい。合金中の水素が除去されると、合金粉末を大気中に暴露しても、酸素と水素との反応はほとんど起こらない。よって、合金粉末の発熱が抑制され、生産工程の安全性が向上する。
【0047】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
《実施例1》
(i)水素吸蔵合金の調製
Mm、Ni、Mn、AlおよびCoの単体を所定の割合で混合した。得られた混合物を、高周波溶解炉で溶解し、組成がMmNi4.1Mn0.4Al0.3Co0.4の水素吸蔵合金のインゴットを作製した。インゴットは、アルゴン雰囲気下、1060℃で10時間加熱した。加熱後のインゴットは粗粒子に粉砕した。得られた粗粒子を、湿式ボールミルを用いて水の存在下で75μm以下に粉砕し、平均粒径20μmの水素吸蔵合金からなる原料粉末を得た。
【0048】
(ii)合金の活性化
原料粉末を、水酸化ナトリウムをA重量%含む所定温度(T℃)の水溶液とB分間接触させた。表1に示すように、A値は20〜49の範囲で変化させ、B値は35〜130の範囲で変化させた。
【0049】
(iii)洗浄
活性化工程の後、合金粉末を温水で洗浄し、脱水後、乾燥した。洗浄は、使用後の温水のpHが9以下になるまで行った。その結果、不純物が除去された状態の電極用合金粉末を得た。
【0050】
(iv)磁性体クラスタの含有量
磁性体クラスタの含有量は、試料振動型磁力計(東英工業(株)製の小型全自動振動試料型磁力計VSM−C7−10A)を用いて測定した。具体的には、10kOeの磁場における電極用合金粉末の飽和磁化を求め、飽和磁化に相当する金属ニッケル(すなわち磁性体クラスタ)量を求め、磁性体クラスタの含有量を算出した。
【0051】
(v)磁性体クラスタの平均粒径
まず、磁化曲線を求め、次に上記式(1)と磁化曲線とのフィッティングを行い、μ値を求めた。フィッティングで得られた磁化曲線の一例を図1に示す。+マークは実測値を示し、実線はフィッティング曲線を示す。μ値を上記式(4)に代入し、磁性体クラスタの数nを求めた。n値を上記式(5)に代入し、磁性体クラスタの平均粒径daverageを求めた。
【0052】
(vi)磁性体クラスタの断面観察
電極用合金粉末を、エポキシ系樹脂と混合して、ペーストを得た。このペーストを、シリコンウェハ上に塗布し、さらに同様のシリコンウェハをペースト上に載せて、ペーストをシリコンウェハで挟持した。その後、5時間放置し、エポキシ系樹脂を硬化させた。次に、シリコンウェハで挟持されたペーストの断面が得られるように、挟持体を機械研磨した。得られた研磨面で、GATAN社製のPIPS691によるイオンミリングを行い、測定試料を得た。得られた試料の研磨面を、高分解能透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製のH-9000UHR)を用いて観察した。加速電圧は300kVに設定した。得られた断面TEM写真(500000倍)の一例を図2に示す。
【0053】
(vii)断面TEM写真の画像処理
図2の断面TEM写真において、電極用合金粉末の表層部を3つの領域(A〜C)に区分した。各領域では、金属状態のニッケルからなる磁性体クラスタの領域(クラスタ領域)と、金属酸化物からなる領域(酸化物領域)とを観測することができた。クラスタ領域では、酸化物領域よりも結晶格子間隔が狭くなっている。そのため、断面TEM写真において、クラスタ領域は暗く、酸化物領域は明るく映し出された。ここで、暗いクラスタ領域を完全に包囲する円を、クラスタ領域相当円(以下、相当円という)と定義する。相当円の直径は、磁性体クラスタの最大径に相当する。相当円の直径は、磁性体クラスタの粒径と見なすことができる。
【0054】
図3に相当円の分布を示す。図4に表層部の厚さ方向における磁性体クラスタの粒径分布を示す。図4の横軸は水素吸蔵合金と表層部との境界(0nm)から外側に向かう距離を示す。横軸0〜80nmは領域A、80〜160nmは領域B、160〜240nmは領域Cに相当する。縦軸は各粒径の磁性体クラスタの存在比率を示す。領域A〜Cにおける各粒径の磁性体クラスタの存在比率を、それぞれ横軸40nm、120nmおよび200nmにプロットした。
【0055】
図3および図4より、粒径8〜10nmの磁性体クラスタの量は、表層部の内側から外側に向かって、単調に減少していることがわかる。粒径5〜7nmの磁性体クラスタの量も、表層部の内側から外側に向かって、単調に減少しているが、減少の度合いは顕著ではない。粒径11nm以上の磁性体クラスタについては、単調減少の傾向は見られない。
【0056】
水酸化ナトリウム水溶液の温度(T℃)、A値、B値、A×B値、電極用合金粉末における磁性体クラスタの含有量、および、磁性体クラスタの平均粒径を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
(viii)水素吸蔵合金電極の作製
所定の電極用合金粉末100重量部に対して、カルボキシメチルセルロース(エーテル化度0.7、重合度1600)0.15重量部、カーボンブラック0.3重量部およびスチレンブタジエン共重合体0.7重量部を加え、さらに水を添加して練合し、ペーストを得た。このペーストを、ニッケルメッキを施した鉄製パンチングメタル(厚み60μm、孔径1mm、開孔率42%)からなる芯材の両面に塗着した。ペーストの塗膜は、乾燥後、芯材とともにローラでプレスした。こうして、厚み0.4mm、幅35mm、容量2200mAhの水素吸蔵合金電極(負極)を得た。負極の長手方向に沿う一端部には、芯材の露出部を設けた。
【0059】
(ix)ニッケル水素蓄電池の作製
長手方向に沿う一端部に幅35mmの芯材の露出部を有する容量1500mAhの焼結式ニッケル正極を用い、図5に示すような4/5Aサイズで公称容量1500mAhのニッケル水素蓄電池を作製した。具体的には、正極11と負極12とを、セパレータ13を介して捲回し、柱状の極板群20を作製した。極板群20では、正極合剤11aを担持しない正極芯材11bの露出部と、負極合剤12aを担持しない負極芯材12bの露出部とを、それぞれ反対側の端面に露出させた。セパレータ13には、ポリプロピレン製の不織布(厚み100μm)を用いた。正極芯材11bが露出する極板群20の端面21には正極集電板18を溶接した。負極芯材12bが露出する極板群20の端面22には、負極集電板19を溶接した。正極リード18aを介して封口板6と正極集電板18とを導通させた。その後、負極集電板19を下方にして、極板群20を円筒形の有底缶からなる電池ケース15に収容した。負極集電板19と接続された負極リード19aを、電池ケース15の底部と溶接した。電池ケース15に電解液を注液した後、周縁にガスケット17を具備する封口板6で、電池ケース15の開口部を封口し、電池を完成させた。なお、電解液には、比重1.3の水酸化カリウム水溶液に、40g/Lの濃度で水酸化リチウムを溶解させたものを用いた。
【0060】
(x)電池の評価
得られたニッケル水素蓄電池のサイクル寿命を容量維持率で評価した。具体的には、電池を25℃環境下で、10時間率(150mA)で15時間充電し、5時間率(300mA)で、電池電圧が1.0Vになるまで放電するサイクルを繰り返した。そして、2回目のサイクルで得られた放電容量に対する、200サイクル目の放電容量の割合を百分率で求め、容量維持率とした。結果を表1に示す。
【0061】
表1より、下記が確認できる。
〈i〉磁性体クラスタの平均粒径が8nm〜10nmの範囲では、良好な容量維持率が得られるが、この範囲を外れると、容量維持率が急激に低下する。
〈ii〉磁性体クラスタの含有量が2.8重量%〜4.2重量%の範囲では、好適な平均粒径の磁性体クラスタが得られやすい。しかし、磁性体クラスタの含有量が3重量%〜4.2重量%であっても、磁性体クラスタの平均粒径が8nm〜10nmの範囲を外れると、容量維持率は急激に低下する。
〈iii〉好適な平均粒径の磁性体クラスタを得るには、A×B値を2410〜2800の範囲内に制御することが有効である。また、A値を42〜47、B値を52〜59の範囲内に制御することが極めて有効である。
【0062】
《実施例2》
水素吸蔵合金の組成を下記a〜eに変更したこと以外、実施例1−4と同様の操作を行い、電極用合金粉末を得た。すなわち、活性化工程の条件は、A=44、B=55、A×B=2420とした。
〈a〉La0.8Nb0.2Ni2.5Co2.4Al0.1
〈b〉La0.8Nb0.2Zr0.03Ni3.8Co0.7Al0.5
〈c〉MmNi3.65Co0.75Mn0.4Al0.3
〈d〉MmNi2.5Co0.7Al0.8
〈e〉Mm0.85Zr0.15Ni1.0Al0.80.2
【0063】
次に、得られた電極用合金粉末を用いて、実施例1と同様にして、ニッケル水素蓄電池を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2に示すように、様々な水素吸蔵合金を用いた場合にも、磁性体クラスタの平均粒径が8nm〜10nmであれば、同様に優れた容量維持率が得られている。
【0066】
《実施例3》
水素吸蔵合金の調製において、合金の粗粒子を、乾式ボールミルを用いて粉砕し、原料粉末を得たこと以外、実施例1と同様の操作を行って、平均粒径20μmの原料粉末を得た。得られた原料粉末を用いたこと以外、実施例1−4と同様の操作を行い、電極用合金粉末を得た。すなわち、活性化工程の条件は、A=44、B=55、A×B=2420とした。
【0067】
次に、得られた電極用合金粉末を用いて、実施例1と同様にして、ニッケル水素蓄電池を作製し、同様に評価した。結果を以下に示す。
磁性体クラスタの含有量3.56重量%
磁性体クラスタの平均粒径8.48nm
電池の容量維持率98%
上記結果より、本発明の効果は、水素吸蔵合金の粉砕方法によって制限されないことがわかる。
【0068】
《実施例4》
活性化工程後の合金の洗浄を、使用後の温水のpHが11になった時点で終了したこと以外、実施例1−4と同様の操作を行い、電極用合金粉末を得た。すなわち、活性化工程の条件は、A=44、B=55、A×B=2420とした。
【0069】
次に、得られた電極用合金粉末を用いて、実施例1と同様にして、ニッケル水素蓄電池を作製し、同様に評価した。結果を以下に示す。
磁性体クラスタの含有量3.66重量%
磁性体クラスタの平均粒径8.40nm
電池の容量維持率86%
上記結果は、pH が高い状態で水洗を終了した場合には、合金表面に希土類元素の水和物もしくは酸化物が残存する可能性があることを示している。容量維持率が他の実施例に比べて低下したのは、充放電を繰り返す間に残存した水和物や酸化物が電解液中に溶出したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、例えばアルカリ蓄電池に用いられる水素吸蔵合金電極などに好適な電極用合金粉末を提供するものである。本発明は、良好なサイクル寿命が要求されるアルカリ蓄電池の分野において特に有用である。本発明は、例えば、小型携帯機器要電源、ハイブリッド自動車用電源などの分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
6 封口板
11 正極
11a 正極合剤
11b 正極芯材
12 負極
12a 負極合剤
12b 負極芯材
13 セパレータ
15 電池ケース
17 ガスケット
18 正極集電板
18a 正極リード
19 負極集電板
19a 負極リード
20 極板群
21、22 極板群の端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金を含む原料粉末を、水酸化ナトリウムをA重量%含む100℃以上の水溶液とB分間接触させる活性化工程を含み、
前記水素吸蔵合金が、Niを20〜70重量%含み、
AおよびBが、2410≦A×B≦2800を満たす、電極用合金粉末の製造法。
【請求項2】
42≦A≦47を満たす、請求項1記載の電極用合金粉末の製造法。
【請求項3】
52≦B≦59を満たす、請求項1記載の電極用合金粉末の製造法。
【請求項4】
前記原料粉末の平均粒径が、5〜30μmである、請求項1記載の電極用合金粉末の製造法。
【請求項5】
前記活性化工程を行う前に、前記原料粉末を水と混合して湿らせる工程を行い、湿った状態の原料粉末を、前記水溶液と接触させる、請求項1記載の電極用合金粉末の製造法。
【請求項6】
前記原料粉末を水と混合して湿らせる工程が、前記水素吸蔵合金の粗粒子を、水の存在下で、平均粒径5〜30μmに粉砕する工程である、請求項5記載の電極用合金粉末の製造法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−182687(P2010−182687A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68768(P2010−68768)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【分割の表示】特願2006−249453(P2006−249453)の分割
【原出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】