説明

電極積層体およびそれを用いたリチウムイオン二次電池

【課題】リチウムイオン二次電池の寿命特性改善に有効な巻回し型電極積層体を提供する。
【解決手段】上記課題は、第1の帯状金属箔の表面に正極活物質を担持した帯状正極部材と、第2の帯状金属箔の表面に負極活物質を担持した帯状負極部材が、帯状セパレータとともに重ね合わされて巻き回されたリチウムイオン二次電池の電極積層体であって、第1および第2の帯状金属箔の少なくとも一方に引張強さが450〜900MPaと高い金属箔を適用したリチウムイオン二次電池の電極積層体によって達成される。このような高強度帯状金属箔として、ステンレス鋼箔および銅被覆鋼箔が適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リチウムイオン二次電池は一般に、正極、負極の電極同士がセパレータを介して交互に層状に積層された「電極積層体」を有する。本発明は、帯状の正極部材と負極部材が帯状のセパレータとともに重ね合わされて巻き回されたタイプの電極積層体、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、「電極」とは集電体として機能する金属薄板の表面にリチウムイオン二次電池用の正極活物質あるいは負極活物質が担持された状態の板状体をいう。電極を構成する上記の金属薄板の部分を「集電体」と呼ぶ。電極のうち正極活物質を有するものを「正極」、負極活物質を有するものを「負極」と呼ぶ。「箔」とは厚さが100μm以下の薄板を意味する。上記の各帯状部材が巻き回されたタイプの電極積層体を「巻回し型電極積層体」と呼ぶ。
【0003】
リチウムイオン二次電池の巻回し型電極積層体の製造方法としては、通常、第1の帯状金属箔の表面に正極活物質を担持した帯状正極部材と、第2の帯状金属箔の表面に負極活物質を担持した帯状負極部材を、帯状セパレータとともに重ね合せて、巻取りリールによって巻き取る手法が採用される(例えば特許文献1参照)。巻取りリールで巻き取られる各帯状部材(具体的には、帯状正極部材、帯状負極部材および帯状セパレータ)は、それぞれ独立した送給装置によって連続的に供給され、所定の積層順序に重ね合わされた状態で巻き回される。巻き回されて得られた電極積層体において各部材が密着するように、それぞれの帯状部材は所定の張力が付与された状態で巻き回される。その巻き回し時の張力は通常、帯状部材の送給経路に設けられたリールを用いて各帯状部材ごとに調整される。
【0004】
各部材の巻き回し時の張力が小さすぎると、巻き回されて得られた電極積層体において巻きズレが生じやすくなる。また、電池の充放電に伴う活物質層の体積変化に起因して巻き緩みが生じやすくなる。そこで、巻回し型電極積層体の巻き回し時に一定以上の張力を確保する手法が提案されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−57243号公報
【特許文献2】特開平9−73921号公報
【特許文献3】特開2002−50394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来一般的に、リチウムイオン二次電池の電極を構成する集電体としては、正極にアルミニウム箔、負極に銅箔が使用されている。これらの金属箔は強度が低いので、巻回し型電極積層体を作製する際、巻き回し時に付与される張力によって金属箔が変形しやすい。金属箔の変形が大きいと、その表面に存在する活物質層の一部が金属箔から剥離する現象が生じ、これが活物質層/集電体間の界面抵抗を増大させ、出力特性・寿命特性などの電池性能の低下を招く要因となる。また、低強度の金属箔を用いた場合には巻き回し時に金属箔の破断が生じないように張力を低く設定する必要がある。このため充放電サイクルを繰り返すと活物質層の膨張・収縮に起因して集電体が動きやすく、電極積層体には巻き緩みや活物質層の密着性低下が生じやすい。巻き緩みは電極間距離を増大させ、活物質層の密着性低下は活物質層/集電体間の界面抵抗を増大させる。これらは電池容量を低下させる要因となる。
【0007】
本発明は、上記のような従来のリチウムイオン二次電池の巻回し型電極積層体に特有の電池性能低下の問題を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは詳細な検討の結果、リチウムイオン二次電池の電極材料として鋼をベースとした金属箔が適用可能であることを確認した。具体的には正極集電体としてステンレス鋼箔が適用可能であり、負極集電体としてステンレス鋼箔および銅被覆鋼箔が適用可能であることがわかった。上記目的はこのような鋼をベースとした金属箔を集電体に用いることによって実現可能となる。
【0009】
すなわち本発明では、第1の帯状金属箔の表面に正極活物質を担持した帯状正極部材と、第2の帯状金属箔の表面に負極活物質を担持した帯状負極部材が、帯状セパレータとともに重ね合わされて巻き回された構造を有するリチウムイオン二次電池の電極積層体であって、
第1および第2の帯状金属箔の少なくとも一方に引張強さが450〜900MPaの金属箔を適用したリチウムイオン二次電池の電極積層体が提供される。
【0010】
第1の帯状金属箔と第2の帯状金属箔の具体的な組合わせとしては、以下のものが挙げられる。
(1)第1の帯状金属箔がアルミニウム箔、第2の帯状金属箔が引張強さ450〜900MPaの銅被覆鋼箔であるもの。
(2)第1の帯状金属箔がアルミニウム箔、第2の帯状金属箔が引張強さ450〜900MPaかつCr含有量10.5〜30.5質量%のステンレス鋼箔であるもの。
(3)第1の帯状金属箔が引張強さ450〜900MPaのステンレス鋼箔、第2の帯状金属箔が銅箔であるもの。
(4)第1の帯状金属箔がCr含有量10.5〜30.5質量%のステンレス鋼箔、第2の帯状金属箔が銅被覆鋼箔であり、前記第1および第2の帯状金属箔のうち少なくとも一方が引張強さ450〜900MPaの金属箔であるであるもの。
(5)第1の帯状金属箔および第2の帯状金属箔がそれぞれCr含有量10.5〜30.5質量%のステンレス鋼箔であり、前記第1および第2の帯状金属箔のうち少なくとも一方が引張強さ450〜900MPaの金属箔であるもの。
【0011】
上記それぞれの電極積層体は、前記引張強さ450〜900MPaの帯状金属箔(ただし、上記(4)(5)の場合には引張強さ450〜900MPaの帯状金属箔のうち少なくとも1つ)に400MPa以上かつ当該帯状金属箔の引張強さの90%以下の張力が付与された状態で巻き回されたものであることが、より好ましい。
【0012】
また本発明では、上記(1)〜(5)のいずれかの電極積層体を用いたリチウムイオン二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池の巻回し型電極積層体に高強度な金属箔からなる集電体を適用するので、その金属箔を用いた電極においては巻き回し時の金属箔の弾性変形が小さいため活物質層の密着性が高く維持される。また、巻き回し時に上記高強度な金属箔の張力を高めることで、電極積層体には強い締め付け力を付与することができる。そのため、充放電の繰り返しによっても巻き緩みや活物質層の剥離が生じにくく、良好な電池性能がより長期にわたって維持される。したがって本発明は巻回し型電極積層体を用いたリチウムイオン二次電池の性能向上に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】銅被覆鋼箔の断面構造を模式的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では第1の帯状金属箔の表面に正極活物質を担持した帯状正極部材と、第2の帯状金属箔の表面に負極活物質を担持した帯状負極部材が、帯状セパレータとともに重ね合わされて巻き回された構造を有するリチウムイオン二次電池の電極積層体、すなわち巻回し型電極積層体を対象とする。各構成部材の積層順序や、セパレータの種類、電池ケースに収納された使用形態については従来一般的な例に従うことができる。しかし、本発明の電極積層体は上記第1、第2の帯状金属箔の少なくとも一方に高強度な材料を使用する点で従来のものと構造を異にする。
【0016】
〔帯状金属箔の引張強さ〕
本発明に従うリチウムイオン二次電池の電極積層体においては、正極、負極の少なくとも一方の集電体に、引張強さが450〜900MPaと高い帯状金属箔を適用する。ここで、引張強さは帯の長手方向に測定した値が採用される。
【0017】
引張強さが高い金属箔は一般に剛性も高いので、巻き回し時の張力による弾性変形が抑制される。弾性変形が小さいと、金属箔と、その金属箔の表面に付着している活物質層との界面に働くせん断力が小さくなるので、活物質層が部分的に金属箔から剥離する現象が抑えられ、従来よりも良好な活物質密着性を有する状態で巻き取ることができる。この密着性の向上は界面抵抗の低下に寄与し、電池性能の向上につながる。引張強さが従来のアルミニウム箔や銅箔よりも大幅に高い金属箔を適用すれば、巻き回し時の張力を従来より高めた場合でも、弾性変形を従来より抑制することが可能となる。
【0018】
また、巻き回しに供する正極用および負極用の帯状金属箔のうち、少なくともいずれか一方の帯状金属箔を引張強さの高いものとすれば、その帯状金属箔には巻き回し時に高い張力を付与することができる。その高い張力によって、巻き終えて完成した巻回し型電極積層体には強い締め付け力が付与され、巻き緩みや巻きズレに対する抵抗力が増大する。リチウムイオン二次電池は充放電時に活物質層の体積変動を伴う。充放電を繰り返す過程で活物質層の膨張によって巻き緩みが生じると、結果的に巻回し型電極積層体における平均電極間距離が増大する。また、充放電に伴う巻き緩みや巻きズレの発生は金属箔(集電体)から活物質層が部分的に剥離する現象を招く要因となる。したがって、強い締め付け力が付与された巻回し型電極積層体は巻き緩みや巻きズレに伴う電池性能の低下を引き起こしにくい。
【0019】
さらに、引張強さが高い金属箔を使用すると、活物質層を形成する際のロールプレスにおいて高い圧下力を付与しても箔の塑性変形(中伸び)が生じにくい。ロールプレスでの圧下力を高めると活物質層の密度を高めることができるので、電極の体積当たりの充放電容量を増大させることができる。
【0020】
種々検討の結果、上述の弾性変形を低減したり、張力を増大させて巻き緩みや巻きズレに対する抵抗力が増大させるためには、正極、負極の少なくとも一方の集電体に、引張強さ450MPa以上の帯状金属箔を適用することが極めて有効である。500MPa以上、あるいは600MPa以上の帯状金属箔を適用することが一層好ましい。
【0021】
一方、引張強さが過剰に高い帯状金属箔を生産することはコスト増を招き好ましくない。また、一般に高強度材料は弾性変形領域が少なく耐折れ性に劣るため、過度に高強度化すると取扱いが困難となる。種々検討の結果、帯状金属箔の引張強さは900MPa以下とすればよい。
【0022】
〔適用可能な帯状金属箔〕
リチウムイオン二次電池の集電体となる帯状金属箔として、正極には従来一般的なアルミニウム箔の他、ステンレス鋼箔が適用可能であることがわかった。また負極には従来一般的な銅箔の他、ステンレス鋼箔および銅被覆鋼箔が適用可能であることがわかった。これらの帯状金属箔の厚さは3〜100μmの範囲で設定すればよい。上記のうちステンレス鋼箔および銅被覆鋼箔において引張強さ450〜900MPaを実現することができる。以下にステンレス鋼箔および銅被覆鋼箔について説明する。
【0023】
〔ステンレス鋼箔〕
ステンレス鋼とは、JIS G0203:2009の番号3801に示されているように、Cr含有量10.5質量%以上、C含有量1.2質量%以下として耐食性を向上させた合金鋼である。ただし、リチウムイオン二次電池の電解液中で正極または負極の集電体として長期間使用するためにはある程度高い耐食性を有する鋼種を採用することが有利となる。発明者らの検討によれば、Cr含有量が10.5質量%以上のオーステナイト系またはフェライト系ステンレス鋼が適用することが好ましい。ただし、Cr含有量が過度に高くなると加工性が低下し、箔のコスト増を招くので、Cr含有量は要求される耐食性レベルに応じて30.5質量%以下の範囲で設定すればよい。製造性およびコストの面からは、Cr含有量は26.0質量%以下とすることがより好ましく、20.0質量%以下が一層好ましい。
具体的な成分組成範囲は以下のものが例示できる。
【0024】
オーステナイト系ステンレス鋼種;
質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜4.0%、Mn:0.001〜2.5%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:6.0〜28.0%、Cr:10.5〜30.5%、Mo:0〜7.0%、Cu:0〜3.5%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.1%、N:0〜0.3%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物。
【0025】
フェライト系ステンレス鋼鋼種;
質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.2%、Mn:0.001〜1.2%、P:0.001〜0.04%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0〜0.6%、Cr:10.5〜30.5%、Mo:0〜2.5%、Cu:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜5.0%、N:0〜0.025%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物。
【0026】
規格鋼種の中では、例えばJIS G4305:2005に規定されるオーステナイト系またはフェライト系の化学組成を有する鋼種を適用することができる。
【0027】
〔銅被覆鋼箔〕
負極の集電体としては上記のステンレス鋼の他、銅被覆鋼箔を適用することができる。図1に銅被覆鋼箔の断面構造を模式的に示す。銅被覆鋼箔10は、鋼基材1を芯材とし、その両面にそれぞれ銅被覆層2を有している。銅被覆層2は、電気銅めっきや、クラッド圧延によって形成することができる。電気銅めっきによる場合には、電気銅めっき鋼板を圧延して所定厚さの箔とする方法や、あらかじめ箔にまで圧延した鋼箔の表面に電気銅めっきを施す方法が適用できる。クラッド圧延による場合は、芯材となる鋼板あるいは鋼箔の両面に銅板あるいは銅箔を重ねてクラッド圧延し、必要に応じてさらに圧延することにより所定厚さの箔とすればよい。
【0028】
芯材となる鋼基材としては、普通鋼やステンレス鋼が適用できる。普通鋼としては例えば以下の成分組成範囲を例示することができる。
普通鋼;
質量%で、C:0.001〜0.15%、Si:0.001〜0.1%、Mn:0.005〜0.6%、P:0.001〜0.05%、S:0.001〜0.5%、Al:0.001〜0.5%、Ni:0.001〜1.0%、Cr:0.001〜1.0%、Cu:0〜0.1%、Ti:0〜0.5%、Nb:0〜0.5%、N:0〜0.05%、残部Feおよび不可避的不純物。
規格鋼種の中では、例えばJIS G3141:2009に規定される冷延鋼板(鋼帯を含む)を素材とするものが適用できる。
【0029】
銅被覆鋼箔の鋼基材として用いるステンレス鋼としては、上述のオーステナイト系またはフェライト系の成分組成範囲のものが適用できるが、フェライト系鋼種の場合にはCr含有量の下限を10.5質量%まで拡張することができる。
【0030】
銅被覆層の片面当たりの平均膜厚tCuがあまり薄くなると下地の鋼基材まで貫通する欠陥(めっきの場合は主としてピンホール欠陥)が存在しやすく、従来の銅箔と同等の表面特性を得ようとするうえでは不利となる。tCuは0.002μm以上を確保することが望ましい。また、鋼基材に普通鋼を適用する場合には、耐食性の観点からtCuを0.02μm以上とすることがより好ましい。一方、銅被覆層を過剰に形成させることは不経済となる。通常、片面当たりの平均膜厚tCuは5.0μm以下とすればよい。なお、銅被覆層の膜厚は箔の両面において必ずしも同じとする必要はなく、それぞれの表面側でtCuが0.002〜5.0μmより好ましくは0.02〜5.0μmの範囲に収まっていれば好適である。
【0031】
両面の銅被覆層の膜厚を含めた銅被覆鋼箔の平均厚さをtとするとき、それぞれの表面側の銅被覆層においてtCu/tが0.3以下であることが望ましい。tCu/tが0.3を超えると板厚に占める軟質な銅被覆層の割合が大きくなって、帯状金属箔としての引張強さを450MPa以上とするためには圧延率を相当に高める必要があるなど製造上の制約が大きくなる。また、活物質を担持させるためのロールプレスにおいて銅被覆層が塑性変形しやすくなり箔の形状不良(中伸び)を引き起こす要因となる。tCu/tは0.2以下、あるいはさらに0.1以下とすることがより好ましい。
【0032】
なお、銅被覆鋼箔の製造工程に関して、本出願人らは特願2011−133556号に開示した。当該開示に従えば本発明で適用対象となる銅被覆鋼箔が好適に製造できる。
【0033】
〔巻回し型電極積層体の製造〕
本発明に従う電極積層体は、少なくとも1つの帯状金属箔に引張強さが450〜900MPaと高いものを適用することを除き、基本的に従来一般的な巻き取り方法(例えば特許文献1)によって製造することができる。ただし、引張強さが高い帯状金属箔(ここでは「高強度帯状金属箔」という)を適用することによるメリットを十分に発揮させるためには、当該高強度帯状金属箔に付与する巻き回し時の張力を高めることが望ましい。上述のように巻き回しに供する帯状部材のうち少なくとも1つに高い張力を付与することができれば、巻き終えて完成した巻回し型電極積層体に強い締め付け力を付与することが可能となり、それによって巻き緩みや巻きズレに対する抵抗力が増大する。種々検討の結果、巻き緩みや巻きズレに対する抵抗力を十分に付与するためには、高強度帯状金属箔に対して400MPa以上の張力を付与した状態で巻き回すことが極めて効果的である。ただし、その張力による箔の塑性変形を防止し、かつ弾性変形も過剰にならないように配慮する必要がある。発明者らの検討によれば、引張強さ450〜900MPaの高強度帯状金属箔に付与する巻き回し時の張力は、当該高強度帯状金属箔の引張強さの90%以下の応力範囲とすることが好ましい。
【実施例】
【0034】
〔帯状金属箔〕
集電体用の金属箔として以下の帯状金属箔を用意した。
・アルミニウム箔; 厚さ20μm、引張強さ100MPaに調整された、従来のリチウムイオン二次電池の正極集電体に使用実績のあるもの。
・銅箔; 厚さ20μm、引張強さ220MPaに調整された、従来のリチウムイオン二次電池の負極集電体に使用実績のあるもの。
・ステンレス鋼箔A; JIS G4305:2005に規定されるオーステナイト系ステンレス鋼SUS304の組成を満たし、厚さ20μm、引張強さ800MPaに調整されたもの。
・ステンレス鋼箔F; JIS G4305:2005に規定されるフェライト系ステンレス鋼SUS430の組成を満たし、厚さ20μm、引張強さ800MPaに調整されたもの。
・銅被覆鋼箔P; 鋼基材としてJIS G3141:2009に規定される冷延鋼板を素材とするものを使用して、その両面に電気銅めっき層を形成し、圧延する手法により、片面当たりの銅被覆層の平均膜厚tCu、トータル厚さt、および引張強さを所定の値(表1中に記載)に調整したもの。ただし、両面の銅被覆層の平均膜厚は均等とした。
・銅被覆鋼箔C; 鋼基材としてJIS G3141:2009に規定される冷延鋼板を素材とするものを使用して、その両面に銅板あるいは銅箔を重ね合わせてクラッド圧延する工程を経ることにより、片面当たりの銅被覆層の平均膜厚tCu、トータル厚さt、および引張強さを所定の値(表1中に記載)に調整したもの。ただし、両面の銅被覆層の平均膜厚は均等とした。
【0035】
〔帯状正極部材〕
正極活物質(コバルト酸リチウム(LiCoO2))91質量部、導電材(グラファイト)6質量部、バインダー(PVdF)3質量部からなる混合物をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリーとし、このスラリーを上記帯状金属箔のうち正極に使用する箔(表1中に記載)の両面に均等に塗布したのち乾燥させて塗膜層とし、ロールプレスにより塗膜層を高密度化して活物質層とする手法により、正極活物質を表面に担持した帯状正極部材を得た。各帯状正極部材の活物質層の厚さおよび密度は同等とした。
【0036】
〔帯状負極部材〕
負極活物質(人造黒鉛)90質量部、バインダー(PVdF)10質量部からなる混合物をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリーとし、このスラリーを上記帯状金属箔のうち負極に使用する箔(表1中に記載)の両面に均等に塗布したのち乾燥させて塗膜層とし、ロールプレスにより塗膜層を高密度化して活物質層とする手法により、負極活物質を表面に担持した帯状負極部材を得た。各帯状負極部材の活物質層の厚さおよび密度は同等とした。
【0037】
〔巻回し型電極積層体〕
帯状正極部材1本、帯状負極部材1本、および厚さ25μmの微多孔性ポリプロピレンからなる帯状セパレータ2本を、帯状正極部材と帯状負極部材の間に1本の帯状セパレータが介在するように4層に重ね合わせてリールに巻き取る従来一般的な手法により巻回し型電極積層体を作製した。ただし、巻き回し時に帯状正極部材および帯状負極部材に付与する張力(巻取張力)は種々変化させた。各帯状部材の幅は56mmである。帯状セパレータには2本とも100MPaの張力(各例共通)を付与した。帯状正極部材と帯状負極部材の組合せおよび付与した張力の値は表1中に示してある。各巻回し型電極積層体は最大外径が17mmとなるように共通のサイズとした。
【0038】
〔リチウムイオン二次電池〕
電解液として、エチレンカーボネートとジエチレンカーボネートを1:1の体積比で混合した溶媒中にLiPF6を1mol/L濃度で溶解させた液を用意した。上記の巻回し型電極積層体と電解液が鉄製の電池缶に収容され封止された構造のリチウムイオン二次電池を作製した。巻回し型電極積層体の負極集電体は電池缶に電気的に接続され、正極集電体は電池缶から絶縁された極板に電気的に接続されている。
【0039】
〔電池性能の評価〕
各電池について、活物質が有する理論容量(mAh)を計算により求めた。次に、理論容量(mAh)/5(h)で示される電流値を用いて完全充電した後、同じ電流値で放電を行った。このときの放電容量を各電池の電池容量(mAh)とした。引き続き、1.0CmAの一定の充電率で完全充電した後、1.0CmAの一定の放電率で放電するサイクルを繰り返し、5サイクル目の活物質層単位体積当たりの放電容量Q5(mAh)および200サイクル目の活物質層単位体積当たりの放電容量Q200(mAh)を測定した。試験温度は25℃である。ここで、充電率および放電率は下記(1)式および(2)式によって表される。
充電率(CmA)=電池容量(mAh)/充電時間(h) …(1)
放電率(CmA)=電池容量(mAh)/放電時間(h) …(2)
電池性能の評価は、下記(3)式で定義される放電容量比率によって行った。
放電容量比率(%)=Q200(mAh)/Q5(mAh)×100 …(3)
放電容量比率の値が大きいほど、電池寿命に優れると評価される。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
従来例No.1は高強度帯状金属箔を適用していない従来の巻回し型電極積層体を用いたものである。本発明例であるNo.3、5、7、13は正極および負極の少なくとも一方の集電体に引張強さが450MPa以上の高強度帯状金属箔を適用し、巻取張力を従来例No.1と同等としたものであるが、いずれも放電容量維持率が従来例No.1より向上した。これは、高強度帯状金属箔において巻き回し時の張力に起因する弾性変形が抑制されたことにより当該集電体表面での活物質層の密着性が向上したためであると考えられる。それ以外の本発明例は正極および負極の少なくとも一方の集電体に引張強さが450MPa以上の高強度帯状金属箔を適用し、かつその高強度帯状金属箔の少なくとも一方に400MPa以上の高い巻取張力を付与したものである。これらの例では放電容量維持率が更に向上した。これは、巻回し型電極積層体に強い締め付け力が付与されたことにより充放電サイクルを繰り返す過程での巻き緩みや巻きズレの発生が抑制されたためであると考えられる。
【符号の説明】
【0042】
1 鋼基材
2 銅被覆層
10 銅被覆鋼箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の帯状金属箔の表面に正極活物質を担持した帯状正極部材と、第2の帯状金属箔の表面に負極活物質を担持した帯状負極部材が、帯状セパレータとともに重ね合わされて巻き回されたリチウムイオン二次電池の電極積層体であって、
第1の帯状金属箔がアルミニウム箔、第2の帯状金属箔が引張強さ450〜900MPaの銅被覆鋼箔であるリチウムイオン二次電池の電極積層体。
【請求項2】
第1の帯状金属箔の表面に正極活物質を担持した帯状正極部材と、第2の帯状金属箔の表面に負極活物質を担持した帯状負極部材が、帯状セパレータとともに重ね合わされて巻き回されたリチウムイオン二次電池の電極積層体であって、
第1の帯状金属箔がアルミニウム箔、第2の帯状金属箔が引張強さ450〜900MPaかつCr含有量10.5〜30.5質量%のステンレス鋼箔であるリチウムイオン二次電池の電極積層体。
【請求項3】
第1の帯状金属箔の表面に正極活物質を担持した帯状正極部材と、第2の帯状金属箔の表面に負極活物質を担持した帯状負極部材が、帯状セパレータとともに重ね合わされて巻き回されたリチウムイオン二次電池の電極積層体であって、
第1の帯状金属箔が引張強さ450〜900MPaかつCr含有量10.5〜30.5質量%のステンレス鋼箔、第2の帯状金属箔が銅箔であるリチウムイオン二次電池の電極積層体。
【請求項4】
当該電極積層体は、前記引張強さ450〜900MPaの帯状金属箔に400MPa以上かつ当該帯状金属箔の引張強さの90%以下の張力が付与された状態で巻き回されたものである請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の電極積層体。
【請求項5】
第1の帯状金属箔の表面に正極活物質を担持した帯状正極部材と、第2の帯状金属箔の表面に負極活物質を担持した帯状負極部材が、帯状セパレータとともに重ね合わされて巻き回されたリチウムイオン二次電池の電極積層体であって、
第1の帯状金属箔がCr含有量10.5〜30.5質量%のステンレス鋼箔、第2の帯状金属箔が銅被覆鋼箔であり、前記第1および第2の帯状金属箔のうち少なくとも一方が引張強さ450〜900MPaの金属箔であるリチウムイオン二次電池の電極積層体。
【請求項6】
第1の帯状金属箔の表面に正極活物質を担持した帯状正極部材と、第2の帯状金属箔の表面に負極活物質を担持した帯状負極部材が、帯状セパレータとともに重ね合わされて巻き回されたリチウムイオン二次電池の電極積層体であって、
第1の帯状金属箔および第2の帯状金属箔がそれぞれCr含有量10.5〜30.5質量%のステンレス鋼箔であり、前記第1および第2の帯状金属箔のうち少なくとも一方が引張強さ450〜900MPaの金属箔であるリチウムイオン二次電池の電極積層体。
【請求項7】
当該電極積層体は、前記引張強さ450〜900MPaの帯状金属箔のうち少なくとも1つに400MPa以上かつ当該帯状金属箔の引張強さの90%以下の張力が付与された状態で巻き回されたものである請求項5または6に記載のリチウムイオン二次電池の電極積層体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の電極積層体を用いたリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2013−114825(P2013−114825A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258351(P2011−258351)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】