説明

電極表面被膜形成剤

【課題】電池の熱安定性を向上させる電極表面被膜形成剤および電池製造方法を提供する。
【解決手段】式(I):


(式中、X1およびX2は同じかまたは異なってハロゲン原子または炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される部分構造を分子内に1個以上有する少なくとも1種の化合物を含む電極表面被膜形成剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリル化合物を用いた電極表面被膜形成剤に関する。
【背景技術】
【0002】
負極にリチウム金属やその合金あるいはリチウムイオンを吸蔵・放出できる化合物を備えたいわゆるリチウムイオン電池はそのエネルギー密度の高さから需要が大幅に拡大している。
【0003】
一方、リチウムイオン電池は、内部・外部ショート、外部発熱などがトリガーとなり発熱し、電池の発火、発煙などが起こることがあり、リチウムイオン電池安全性の向上のために高温での電解液の安定性の向上が求められている。
【0004】
第67回電気化学会(2000年4月4日〜6日、予稿集24頁、2B21)および第41回電池討論会(2000年11月20日〜22日、予稿集296頁、2C10)において、ジフルオロ酢酸メチルエステルがリチウム電池の熱安定性を高めることが報告された。また、本発明者は、特願2000−312293号において、ジメチルジフルオロマロネートがリチウムイオン電池の熱安定性の向上に寄与し得ることを報告した。それによると、通常、電池に用いられる電解液がリチウム金属の融点(180℃)かそれ以下で発熱を開始するのに対し、ジフルオロ酢酸メチルおよびジメチルジフルオロマロネートはリチウム金属共存下にそれぞれ250℃、280℃まで発熱が起こらないことが示された。また、正極活物質であるコバルト酸リチウムの共存下においてもこれらの化合物は300℃まで発熱が起こらないことが示された。この傾向はフッ素原子の導入によって反応性が増大したジフルオロ酢酸メチルおよびジメチルジフルオロマロネートによるリチウム金属やコバルト酸リチウムなどの負極および正極活物質の表面に形成された被膜の影響である可能性が示唆されている。
【0005】
一般的に高い電池性能を得るためにはジフルオロ酢酸メチルやジメチルジフルオロマロネートを通常電解液として用いられている誘電率の高いエチレンカーボネート(EC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、プロピレンカーボネート(PC)および炭酸ジメチル(DMC)などといっしょに混合して用いる必要がある。しかしながら、電解液中のジフルオロ酢酸メチルやジメチルジフルオロマロネートの含有量が低下すると、発熱を抑制する効果が著しく減少するという問題点が発生した。これはリチウム金属とこれら含フッ素エステル化合物によって形成した保護膜がEC、GBL、PCおよびDMCなどの溶媒によって溶かされ、保護膜の一部または大部分がはがれたためであると考えられる。
【0006】
そこで、実用化されている電池に用いられているような誘電率の高い有機溶媒系の非水電解液の共存下でも正極または/および負極の表面上で強固に保護膜として作用し、電池の熱安定性を高める電極表面被膜形成剤が求められている。
【0007】
本発明は、電池構成成分として、熱安定性を高める電極表面被膜形成剤を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、熱安定性の向上した電池の製造方法を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、効果的な電極表面被膜形成剤を得るべく検討を行った結果、ニトリル基を少なくとも1個有する化合物が、熱安定性が高く、電池の熱安定性の向上に寄与し得ることを見い出した。
【0010】
本発明はニトリル基を有する化合物に関するものであり、それらを用いた電極表面被膜形成剤、特に負極表面を保護するための電極表面被膜形成剤としてそれらを使用する電池製造方法に関するものである。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の項1〜項11に関する。
項1. 式(I):
【0012】
【化5】

【0013】
(式中、X1およびX2は同じかまたは異なってハロゲン原子または炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される部分構造を分子内に1個以上有する少なくとも1種の化合物を含む電極表面被膜形成剤。
項2. 式(II):
【0014】
【化6】

【0015】
(式中、X1およびX2は同じかまたは異なってハロゲン原子または炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基を表す。Rはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50の{アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基またはアルキニル基}を表す。)
で表される少なくとも1種の化合物を含む電極表面被膜形成剤。
項3. 式(III):
【0016】
【化7】

【0017】
(式中、Arはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数4〜50のアリール基を表す。)
で表される少なくとも1種の化合物を含む電極表面被膜形成剤。
項4. 式(I)の部分構造もしくは式(IIa)〜(IIIa)の部分構造をその側鎖に1個以上有する含フッ素繰り返し単位を構成要素とする含フッ素ポリマーからなる電極表面被膜形成剤。
【0018】
【化8】

【0019】
(式(I)、(IIa)および(IIIa)において、X1およびX2は同じかまたは異なってハロゲン原子または炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基を表す。R' はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50の{アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基}を表す。Ar' はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子なる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数4〜50のアリーレン基を表す。)
項5. 上記式(I)、(II)および(IIa)においてX1およびX2がともにフッ素原子である項1、2または4記載の電極表面被膜形成剤。
項6. 上記式(I)、(II)および(IIa)においてX1、X2の一方がフッ素原子で、もう一方がトリフルオロメチル基である項1、2または4記載の電極表面被膜形成剤。
項7. 電池作成時または/かつ電池使用時に、電極材料表面に保護膜として作用することを特徴とする項1〜6のいずれかに記載の電極表面被膜形成剤。
項8. 電極がリチウム、リチウムインターカレート化合物またはリチウム合金からなる負極である項7記載の電極表面被膜形成剤。
項9. 項1〜6のいずれかに記載の化合物の少なくとも1種を電解液に添加することを特徴とする電池製造方法。
項10. 項1〜6のいずれかに記載の化合物の少なくとも1種を用いて電池の製造前にあるいは製造過程で負極を処理することを特徴とする電池製造方法。
項11. 負極がリチウム金属、リチウムインターカレート化合物またはリチウム合金である項8または9記載の電池製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電池の熱安定性を向上させ得る電極表面被膜形成剤および電池製造方法が提供できる。これにより、急速な充電時にも安全性が向上し、さらに負極にリチウム金属を用いる安全な電池を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の化合物との比較例であるジメチルジフルオロマロネートの発熱温度、発熱量の測定結果を示す。
【図2】本発明の化合物であるパーフルオロオクタノニトリルの発熱温度、発熱量の測定結果を示す。
【図3】本発明の化合物である3-パーフルオロヘキシルチオベンゾニトリルの発熱温度、発熱量の測定結果を示す。
【図4】本発明の化合物である4-パーフルオロヘキシルベンゾニトリルの発熱温度、発熱量の測定結果を示す。
【図5】本発明の化合物であるベンゾニトリルの発熱温度、発熱量の測定結果を示す。
【図6】本発明の化合物であるスクシノニトリルの発熱温度、発熱量の測定結果を示す。
【図7】本発明の化合物であるペンタフルオロベンゾニトリルの発熱温度、発熱量の測定結果を示す。
【図8】本発明の化合物であるパーフルオロセバコニトリルの発熱温度、発熱量の測定結果を示す。
【図9】本発明の化合物であるα−(ヘプタフルオロプロポキシ)テトラフルオロプロピオニトリルの発熱温度、発熱量の測定結果を示す。
【図10】本発明の化合物である2,2',3,3',5,5',6,6'−オクタフルオロ−4,4'−ビフェニルジカルボニトリルの発熱温度、発熱量の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の電極被膜形成剤は、リチウム一次電池およびリチウム二次電池等の一次電池および二次電池のいずれにも用いることができる。
【0023】
本発明の電極表面被膜剤には、式(I)の部分構造を少なくとも1つ有する化合物、式(II)または(III)で表される化合物、および/または前記式(I)、(IIa)、(IIIa)をその側鎖に有する含フッ素繰り返し単位を構成要素とする含フッ素ポリマーを含む。
【0024】
【化9】

【0025】
(式中、R、X1、X2、Ar、R' 、Ar' は前記に定義したとおりである)。
【0026】
式(II)、(IIa)の構造は、いずれも式(I)の構造が含まれるため、式(I)の構造は式(II)、(IIa)の構造の上位概念に相当する。また、式(I)、(II)、(III),(IIa)、(IIIa)は、いずれもCN基を有する点で共通する。
【0027】
前記式(I)、(II)、(IIa)において、X1およびX2のハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子があげられるが、高い極性効果を引き出し、低い融点および低い粘度を維持するためには、フッ素または塩素原子が好ましく、さらにはフッ素原子が特に好ましい。
【0028】
前記式(II)において、Rはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50の{アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基またはアルキニル基}を表す。
【0029】
前記式(IIa)において、R' はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50の{アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基}を表す。
【0030】
Rで示されるハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50のアルキル基としては、たとえばCH3, C2H5, n-C3H7, n-C4H9, n-C5H11, n-C6H13, シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル, CH2F, CHF2, CF3, CH2Cl, CHCl2, CCl3, CH2Br, CHBr2, CBr3, CH2I, CHI2, CI3, C2H4F, C2H4Cl, CF3CH2, C2F4H, C2F5, C3H6F, C3H6Cl, C3F6H, CF3CF2CH2, (CF3)2CH, C3F7, C4H8F, C4H8Cl, C3F7CH2, C4F9, CH3OCH2, C2H5OCH2, C3H7OCH2, CH3OCH2CH2, CH3OCH2CH2CH2, CH3OCH2CH(CH3), C2H5OCH2CH2, C3H7OCH2CH2, C3H7OCH2CH2CH2, FCH2OCH2, ClCH2OCH2, CH3OCHF, CF3OCF2, CCl3CH2OCH2, CF3CH2OCH2, (CF3)2CHOCH2, CF2HCF2OCH2, CF3CH2OCH2CH2, CF3CFHCF2OCH2, F(CF2)4O(CF2)4, CF3CF2CF(CF3), CF3CF2N(CH3)CF2, CF3CF2SCF2, CF3CF2SOCF2, CF3CF2SO2CF2, NC(CF2)4, NC(CF2)8などが挙げられる。
【0031】
Rで示されるハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50、特に炭素数4〜50のアリール基としては、たとえばC6H5, CH3C6H4, CH3CH2C6H4, (CH3)2C6H3, FC6H4, F2C6H3, F3C6H2, F4C6H, F5C6, ClC6H4, ClFC6H3, ClF2C6H2, Cl2C6H3, Cl2F3C6, BrC6H4, BrF2C6H2, IC6H4, F(CH3)C6H3, F(CH3)2C6H2, CF3C6H4, (CF3)2C6H3, (CF3)3C6H2, (CF3)2C6F3, CH3OC6H4, CF3OC6H4, CF3CF2SC6H4, C3F7SO2C6H4, (CH3)2NC6H4, NCC6H4, NCC6H4CF2CF2, フリル、ピリジルなどが挙げられる。
【0032】
Rで示されるハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50、特に炭素数5〜50のアラルキル基としては、たとえばC6H5CH2, C6H5CH2CH2, CH3C6H4CH2, FC6H4CH2, ClC6H4CH2, BrC6H4CH2, CF3C6H4CH2, FC6H4CH2CH2, C6H5CF2CF2, C3F7SC6H4CF2CF2, C8F17SO2C6H4CF2CF2CF2, CH3OC6H4CH2, CF3OC10H6CH2, (CH3)NC6H4CH2CH2, NCC6H4CH2CH2などが挙げられる。
【0033】
Rで示されるハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50、特に炭素数2〜50のアルケニル基としては、たとえばCH2=CH, CH3CH=CH, C3H7CH=C(CH3), C4F9CH=CH, CF3OC3F7CH=CH, (CF3)2CF(CF2)2CF=CFなどが挙げられる。
【0034】
Rで示されるハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50、特に炭素数2〜50のアルキニル基としてはCH3C≡C, CF3C≡C, C6F13C≡C, CF3O(CF2)8 C≡C, (CF3) 2CF(CF2)2C≡Cなどが挙げられる。
【0035】
前記式(III)において、Arはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子を含むかもしくは含まない炭素数4〜50のアリール基を表し、たとえばC6H5, CH3C6H4, CH3CH2C6H4, (CH3)2C6H3, FC6H4, F2C6H3, F3C6H2, F4C6H, F5C6, ClC6H4, ClFC6H3, ClF2C6H2, Cl2C6H3, Cl2F3C6, BrC6H4, BrF2C6H2, IC6H4, F(CH3)C6H3, F(CH3)2C6H2, CF3C6H4, (CF3)2C6H3, (CF3)3C6H2, (CF3)2C6F3, CH3OC6H4, CF3OC6H4, CF3CF2SC6H4, C3F7SO2C6H4, (CH3)2NC6H4, NCC6H4, NCC6H4CF2CF2, フリル、ピリジルなどが挙げられる。
【0036】
R' で示されるハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50のアルキレン基としては、たとえばCH2, C2H4, n-C3H6, n-C4H8, n-C5H10, n-C6H12, シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン, CHF, CF2, CHCl, CCl2, CHBr, CBr2, CHI, CI2, C2H3F, C2H3Cl, CF2CH2, C2F3H, C2F4, C3H5F, C3H5Cl, C3F5H, CF2CF2CH2, (CF3)2C, C3F6, C4H7F, C4H7Cl, C3F6CH2, C4F8, CH2OCH2, C2H4OCH2, C3H6OCH2, CH2OCH2CH2, CH2OCH2CH2CH2, CH2OCH2CH(CH3), C2H4OCH2CH2, C3H6OCH2CH2, C3H6OCH2CH2CH2, FCHOCH2, ClCHOCH2, CH2OCHF, CF2OCF2, CCl2CH2OCH2, CF2CH2OCH2, (CF3)2COCH2, CFHCF2OCH2, CF2CH2OCH2CH2, CF2CFHCF2OCH2, (CF2)4O(CF2)4, CF2CF2CF(CF3), CF2CF2N(CH3)CF2, CF2CF2SCF2, CF2CF2SOCF2, CF2CF2SO2CF2などが挙げられる。
【0037】
R' で示されるハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50、特に炭素数4〜50のアリーレン基としては、たとえばフリレン基、C6H4, CH3C6H3, CH3CH2C6H3, (CH3)2C6H2, FC6H3, F2C6H2, F3C6H, F4C6, ClC6H3, ClFC6H2, ClF2C6H, Cl2C6H2, Cl2F2C6, BrC6H3, BrF2C6H, IC6H3, F(CH3)C6H2, F(CH3)2C6H, CF3C6H3, (CF3)2C6H2, (CF3)3C6H, (CF3)2C6F2, CH3OC6H3, CF3OC6H3, CF3CF2SC6H3, C3F7SO2C6H3, (CH3)2NC6H3, NCC6H3, NCC6H3CF2CF2, ピリジレンなどが挙げられる。
【0038】
R' で示されるハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50、特に炭素数5〜50のアラルキレン基としては、たとえばC6H4CH2, C6H4CH2CH2, CH2C6H4CH2, FC6H3CH2, ClC6H3CH2, BrC6H3CH2, CF3C6H3CH2, FC6H3CH2CH2, C6H4CF2CF2, C3F7SC6H3CF2CF2, C8F17SO2C6H3CF2CF2CF2, CH3OC6H3CH2, CF3OC10H5CH2, (CH3)NC6H3CH2CH2, NCC6H3CH2CH2などが挙げられる。
【0039】
R' で示されるハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50、特に炭素数2〜50のアルケニレン基としては、たとえばCH=CH, CH3C=CH, C3H7C=C(CH3), C4F9C=CH, CF3OC3F7C=CH, (CF3)2CF(CF2)2C=CFなどが挙げられる。
【0040】
R' で示されるハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数1〜50、特に炭素数2〜50のアルキニレン基としてはCH2C≡C, CF2C≡C, C6F12C≡C, CF3O(CF2)8 C≡C, (CF3) 2CF(CF2)2C≡C などが挙げられる。
【0041】
前記式(IIIa)において、Ar' はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子を含むかもしくは含まない炭素数4〜50のアリーレン基を表し、たとえばフリレン基、C6H4, CH3C6H3, CH3CH2C6H3, (CH3)2C6H2, FC6H3, F2C6H2, F3C6H, F4C6, ClC6H3, ClFC6H2, ClF2C6H, Cl2C6H2, Cl2F2C6, BrC6H3, BrF2C6H, IC6H3, F(CH3)C6H2, F(CH3)2C6H, CF3C6H3, (CF3)2C6H2, (CF3)3C6H, (CF3)2C6F2, CH3OC6H3, CF3OC6H3, CF3CF2SC6H3, C3F7SO2C6H3, (CH3)2NC6H3, NCC6H3, NCC6H3CF2CF2, ピリジレンなどが挙げられる。
【0042】
式(I)の部分構造もしくは式(IIa)〜(IIIa)の部分構造をその側鎖に1個以上有する含フッ素繰り返し単位としては、下記のものが例示される:
【0043】
【化10】

【0044】
(式中、b、c、dは任意の自然数を示す。)
該含フッ素ポリマーは、式(I)、(IIa)、(IIIa)の部分構造を有する繰り返し単位のみからなっていても良いが、該部分構造を有しない繰り返し単位を含んでいても良い。このような式(I)、(IIa)、(IIIa)の部分構造を有しない繰り返し単位としては、−(CF2CF2)−,−(CF2CF(CF3))−,−(CH2CH2)−,−(CH2CH(CH3))−,−(CF2O)−、−(OCF2CF(CF3))−、−(CF2CF2O)−、−(CH2CF2CF2O)−、−(CF2CF2CF2O)−などが例示される。
【0045】
さらに、具体的に前記式(I)、(II)、(IIa)、(III)、(IIIa)により表される化合物としては、R、R' 、Ar' 、X1、X2およびArが下記に示す組み合わせに係わるものが例示されるが、これらに制限されるものではない。
【0046】
【化11】

【0047】
本発明において前記式(I)、(II)、(IIa)、(III),(IIIa)で表されるニトリル化合物の調製方法については、有機合成において用いられている一般的な方法を適宜選択することができ、たとえば、対応するカルボン酸を第一級アミドに変換し、五酸化二リン等の脱水剤を用いることにより合成することができる。
【0048】
本発明の化合物として、パーフルオロオクタノニトリル、3-パーフルオロヘキシルチオベンゾニトリル、4-パーフルオロヘキシルベンゾニトリルが挙げられる。これらの化合物と比較例であるジメチルジフルオロマロネートの発熱温度や発熱量をパーキンエルマー社の示差走査カロリーメーター(DSC7)を用いて測定した。結果を図1〜10に示した。図1〜10は比較例であるジメチルジフルオロマロネートまたは本発明のニトリル化合物と1M LiPF6/EC+DMC=1:1(vol%)電解液を体積比1:1とし、リチウム金属1.3 mgと混合し、DSC測定したものである。これより、ジメチルジフルオロマロネートは213℃付近で大きな発熱が見られるが、本発明の化合物はそれを上回り、たとえばパーフルオロオクタノニトリルの発熱は243℃となり、熱安定性の向上が見られる。これらの結果は、本発明における該化合物がリチウムイオン電池の熱安定性を一層向上させることを示している。
【0049】
このようにリチウム金属存在下で高い熱安定性が得られた理由としては、例えば、パーフルオロオクタノニトリルはニトリル基を有することよりジメチルジフルオロマロネートのエステル基よりもさらに強固な保護膜をリチウム金属表面に作ったといえる。すなわちリチウムに作用するニトリル基を有することによりエステル基よりもリチウムとの相互作用が強くなったということが考えられる。負極としてリチウムインターカレート化合物、すなわち炭素材料あるいは種々の金属酸化物を用いた場合にも、急速充電あるいは過放電により、金属リチウムが析出する場合があるので、これらを用いた電池においても本発明における該化合物は熱安定性、安全性を高める上で有効である。
【0050】
また、正極においても負極と同様に熱安定性、安全性を高める効果が、ジメチルジフルオロマロネートで示されており、本化合物においても同様の効果があると考えられる。正極活物質としてはリチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムチタン酸化物、LiNiO2のNiの一部をCoで置換したLiNi1-xCoxO2、二酸化マンガン、五酸化バナジウム、クロム酸化物などの金属酸化物または二硫化チタン、二硫化モリブデンなどの金属硫化物などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いることができるし、また、2種以上を併用することもできる。これら全般に効果があると考えられるが、特に、安定性の低いリチウムニッケル酸化物に対し、有効であると考えられる。
【0051】
また、これらの化合物によって電極表面に安定な保護膜が形成されることにより、充放電効率が向上し得る。また、リチウム金属のデンドライト現象も安定な保護膜により抑制され得る。
【0052】
本発明の電極表面被膜形成剤に用いられるニトリル基を有する化合物は、単独で用いても良いが、通常用いられている有機溶媒系電解液に対して通常0.1〜80重量%程度、好ましくは1〜50重量%程度、より好ましくは5〜30重量%程度含まれる。
【0053】
本発明において、分子内にニトリル基を有する化合物とともに非水電解液二次電池の電解液として用いられる有機溶媒系電解液としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の鎖状カーボネート等も用いることができる。さらには、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等も用いることができるがこれらに限定されるわけではない。これらは単独でニトリル基を有する化合物と混合して用いても良いし、2種類以上の有機溶媒系電解液を用いてもよい。
【0054】
これらニトリル基を有する化合物を少なくとも1種含む有機溶媒系電解液は下記リチウム塩を溶解した電池の電極表面被膜形成剤として用いてもよいし、特に負極表面被膜形成剤として電池製造前の段階で、あるいは電池を製造する過程で、負極を処理することに用いても良い。負極の処理方法としては、分子内にニトリル基を有する化合物を少なくとも1種含む有機溶媒に負極を浸す方法、あるいは、霧状にして噴霧する方法、ハケなどで負極表面に塗る方法などが例示される。処理の際には、冷却もしくは加熱を行っても良い。
【0055】
リチウムイオン(一次または二次)電池に用いる場合の好ましい電解液は、ニトリル基を有する化合物と有機溶媒を含む上記非水溶媒と、その溶媒に溶解するリチウム塩から構成される。
【0056】
リチウム塩としては、LiPF6, LiPF4(CF3)2, LiPF4(C2F5)2, LiPF4(C3F7)2, LiAsF6, LiBF4, LiClO4, LiCF3SO3, LiC4F9SO3, LiN(CF3SO2)2, LIN(C2F5SO2)2, LiN(C4F9SO2)2, LiN(CF3SO2)(C4F9SO2), LiC(CF3SO2)3等を用いることができる。
【0057】
上記電解質は、リチウムイオン伝導性を有する非水溶液用電解質として、およびこれをポリマーマトリックスで固定したゲル電解質として用いることができる。
【0058】
本発明のリチウムイオン電池は、上記電解液を用いることを特徴としており、その他の条件、例えばリチウムイオン電池の形状や構成要素は特に限定されず、公知の技術を用いることができる。
【0059】
例えば電池の形状としては、円筒型、角型、コイン型、フィルム状等を挙げることができる。
【0060】
負極材料としては、リチウム金属およびその合金、リチウムをドープ・脱ドープできる炭素材料や高分子材料、金属酸化物などが挙げられる。
【0061】
正極材料としては、LiCoO2, LiNiO2, LiMn2O4, LiMnO2などのリチウムと遷移金属の複合酸化物や、高分子材料などが挙げられる。
【0062】
セパレーターとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等の高分子材料の多孔膜や、本発明の電解液を吸蔵して固定化する高分子材料(いわゆるゲル電解質)として用いることができる。
【0063】
集電体の材料としては、銅、アルミ、ステンレススチール、チタン、ニッケル、タングステン鋼、炭素材料などが用いられ、その形状は箔、網、不織布、パンチドメタルなどが挙げられる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例および比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
実施例1
DSC測定はパーキンエルマー製のDSC7を用いた。また、測定用の試料は、チタン製耐圧密閉容器に1M LiPF6/EC+DMC=1:1(vol%)電解液5 μl、ニトリル化合物5 μlをリチウム金属1.3 mgと混合し調整した。昇温速度は5℃/minで行い、発熱反応ピーク温度を測定した。図1は、本発明の化合物との比較例であるジメチルジフルオロマロネートを用いて測定した結果である。また、種々のニトリル化合物を用いて測定した結果を図2〜10に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(III):
【化1】

(式中、Arはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数4〜50のアリール基を表す。)で表される少なくとも1種の化合物を含む電極表面被膜形成剤。
【請求項2】
式(IIIa)の部分構造をその側鎖に1個以上有する含フッ素繰り返し単位を構成要素とする含フッ素ポリマーからなる電極表面被膜形成剤。
【化2】

(式(IIIa)において、Ar' はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子なる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含むかもしくは含まない炭素数4〜50のアリーレン基を表す。)
【請求項3】
電池作成時または/かつ電池使用時に、電極材料表面に保護膜として作用することを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の電極表面被膜形成剤。
【請求項4】
電極がリチウム金属、リチウムインターカレート化合物またはリチウム合金からなる負極である請求項3記載の電極表面被膜形成剤。
【請求項5】
請求項1又は2のいずれかに記載の化合物の少なくとも1種を電解液に添加することを特徴とする電池製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2のいずれかに記載の化合物の少なくとも1種を用いて電池の製造前にあるいは製造過程で負極を処理することを特徴とする電池製造方法。
【請求項7】
負極がリチウム金属、リチウムインターカレート化合物またはリチウム合金である請求項5または6記載の電池製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−222531(P2011−222531A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159838(P2011−159838)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【分割の表示】特願2001−120889(P2001−120889)の分割
【原出願日】平成13年4月19日(2001.4.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】