説明

電極装置及び殺菌方法

【課題】放電によるアークを小さくでき、放電により生ずる圧力波のエネルギーを大きくできて、殺菌対象物を効率的に殺菌できる電極装置などを提供する。
【解決手段】間隔gを隔てて配置された正負の電極4;5からなる放電電極部6と、非電解質液7と、非電解質液7を収容するとともに放電電極部6を非電解質液7中に位置させた状態に保持する容器(密閉容器8)とを備えた。また、放電電極部6と非電解質液7を収容した容器(密閉容器8)とを液体41中に入れ、放電電極部6の電極4;5に電圧を印加して電極4;5間で放電を生じさせ、放電により生じた圧力波によって殺菌対象物中の菌を殺菌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌対象物を効率的に殺菌可能な電極装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
液体貯留槽内の液体中に放電用電極と殺菌対象物とを挿入して液体中で放電させ、放電により生じた圧力波で殺菌対象物を殺菌する技術が知られている(特許文献1など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−248866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した技術では、水道水のような電解質溶液中で放電を行うため、放電によるアークが大きくなってしまって、放電により生ずる圧力波のエネルギーが小さくなってしまうため、殺菌対象物を効率的に殺菌できない。
本発明は、放電によるアークを小さくでき、放電により生ずる圧力波のエネルギーを大きくできて、殺菌対象物を効率的に殺菌できる電極装置などを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る殺菌装置は、間隔を隔てて配置された正負の電極からなる放電電極部と、非電解質液と、非電解質液を収容するとともに放電電極部を非電解質液中に位置させた状態に保持する容器とを備えたので、放電電極部が非電解質液中にあるため、放電によるアークを小さくでき、放電により生ずる圧力波のエネルギーを大きくできて、殺菌対象物を効率的に殺菌できる。また、放電電極部の周囲が非電解質液であり、かつ、放電電極部及び非電解質液が密閉容器で密閉状態に覆われているため、電気が密閉容器の外の液体に漏れず、安全性にも優れる。
本発明に係る殺菌方法は、殺菌対象物と、上記請求項1に記載の放電電極部及び非電解質液を収容した容器とを液体中に入れ、放電電極部の電極に電圧を印加して電極間で放電を生じさせ、放電により生じた圧力波によって殺菌対象物中の菌を殺菌するので、殺菌対象物を効率的に殺菌できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】殺菌装置を示す図(実施形態1)。
【図2】密閉容器と放電電極部と非電解質液との関係を示す図(実施形態1)。
【図3】殺菌装置を示す図(実施形態2)。
【図4】容器と放電電極部と非電解質液との関係を示す図(実施形態3)。
【図5】殺菌装置を示す図(実施形態3)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
図1に示すように、殺菌装置1は、電極装置2と、電源装置3とを備える。
【0008】
電極装置2は、間隔(放電ギャップ)gを隔てて配置された正負の電極4;5からなる放電電極部6と、非電解質液7と、非電解質液7を密閉状態に収容するとともに放電電極部6を非電解質液7中に位置させた状態に保持する密閉容器8とを備える。
【0009】
電極4;5は、電極構成体4A;5Aの一端により形成される。電極構成体4A;5Aは、例えば線径2mm〜3mm程度の銅線のような導体線の周囲がビニル樹脂などの樹脂で被覆された線径4mm〜5mm程度のいわゆる被覆線により形成され、この場合、電極4;5は、被覆線の一端において露出する導体線の一端により形成されることになる。一端が正の電極4となる電極構成体4Aの他端には正極端子4aが設けられ、一端が負の電極5となる電極構成体5Aの他端には負極端子5aが設けられる。
【0010】
図2に示すように、密閉容器8は、容器本体8Aと、円筒水密部材8Bと、開閉キャップ8Cと、放電電極部6の電極間の間隔を維持する間隔維持手段11とを備える。容器本体8Aは、例えば、断面楕円あるいは断面正円の円柱形状の収容空間を有した円柱形状に形成され、円柱の両端に相当する位置に互いに平行に対向する一対の壁部8a;8aを有する。一対の壁部8a:8aにはそれぞれ密閉容器8の内外に貫通する貫通孔9;9が形成される。各貫通孔9は、一本の直線である同一の中心軸9aを中心とした円孔に形成される。貫通孔9内には、貫通孔9と同心状の円筒水密部材8Bが取り付けられる。容器本体8Aにおける円柱の周面に相当する位置には、密閉容器8の内外に貫通する注入口10が設けられ、この注入口10は、当該注入口10を開閉するための開閉キャップ8Cにより開閉自在である。密閉容器8は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの改質ポリオレフィン、その他の合成樹脂により形成される。容器本体8Aは、断面四角や断面三角などの角柱形状の収容空間Sを有した角柱形状、その他の形状に形成されたものでもよい。即ち、非電解質液7を密閉状態に収容するとともに放電電極部6を非電解質液7中に位置させた状態に保持できる形状であればよい。
【0011】
直線状態の電極構成体4A;5Aの一端(電極)側を直線状態から直角に折り曲げることにより、互いに直角関係なL字状の一端部を形成する。折り曲げられた部分4B;5B(以下、電極部という)を一端(電極)から円筒水密部材8Bの筒孔8D経由で密閉容器8内に挿入して、電極部4B;5Bが押し込めなくなるまで電極部4B;5Bを密閉容器8内に押し込んだ後に、電極部4B;5Bと直角をなす直線部4C;5Cを接着剤や接着テープなどで密閉容器8の壁部8a;8aの外面8b;8bに固定することにより、電極間の間隔が放電ギャップとなる所定の間隔gに維持される。即ち、密閉容器8の円柱形状の円柱の長さa−(電極部4B;5Bの長さb×2)=所定の間隔gとなるので、所望の所定の間隔gを得るための電極部4B;5Bの長さbを決め、電極部4B;5Bと直角をなす直線部4C;5Cを密閉容器8の壁部8a;8aの外面8b;8bに固定することで、放電電極部の間隔(放電ギャップ)gが維持される。つまり、当該密閉容器8の場合、直線部4C;5Cが接着剤などにより固定される両端部の壁部8a;8aが、放電電極部6の間隔(放電ギャップ)gを維持するための間隔維持手段11として機能する。間隔gは、例えば1cm程度に設定される。その後、注入口10を介して密閉容器8内に非電解質液7を入れ、放電電極部6を非電解質液7中に浸す。非電解質液7としては、例えば、純水,絶縁油等を用いることができる。以上により、非電解質液7を密閉状態に収容するとともに放電電極部6を非電解質液7中に位置させた状態に保持する密閉容器8を備えた電極装置2が得られる。
【0012】
電源装置3は、昇圧装置12、パルスパワー出力装置13を備える。
昇圧装置12は、電源電圧入力部14A、図外の変圧器を備えた昇圧回路15、出力部14を備える。
昇圧回路15は、電源電圧入力部14Aに接続された電源ケーブル14C経由で例えば三相交流200V電源電圧を入力して例えば直流20kV〜50kVの電圧を生成し、生成した直流20kV〜50kVの電圧を出力部14より出力する。出力部14は、正極端子14aと負極端子14bとを備える。
【0013】
パルスパワー出力装置13は、入力端子16、充電回路17、出力部としての電極接続部18を備える。入力端子16は、正極端子16aと負極端子16bとを備える。電極接続部18は、正極端子18aと負極端子18bとを備える。充電回路17は、正極線17a、負極線17b、コンデンサ20、スイッチ21;22を備える。正極線17aには、スイッチ21とスイッチ22とが直列に接続される。正極線17aの一端が入力端子16の正極端子16aに接続され、正極線17aの他端が電極接続部18の正極端子18aに接続される。負極線17bの一端が入力端子16の負極端子16bに接続され、負極線17bの他端が電極接続部18の負極端子18bに接続される。コンデンサ20は、正極線17aにおけるスイッチ21とスイッチ22との間の接続点と負極線17bとに接続される。即ち、コンデンサ20は、正極線17a及び負極線17bに並列接続される。スイッチ21は昇圧装置12から供給された電圧をコンデンサ20に充電させるためのスイッチ、スイッチ22はコンデンサ20に充電された電荷を放電させて電極接続部18経由で電極装置2に出力させるためのスイッチである。図示しないが、充電回路17は接地(アース)されている。
【0014】
電極構成体4A;5Aと電源装置3とを電気的に接続するための接続体30は、接続ケーブル31と、接続ケーブル31の一端に設けられた入力側コネクタ32と、接続ケーブル31の他端に設けられた出力側コネクタ33とを備える。入力側コネクタ32は、電源装置3の電極接続部18の正極端子18a及び負極端子18bの各々に接続される正極端子32a及び負極端子32bを備える。出力側コネクタ33は、電極構成体4Aの正極端子4aに接続される正極端子33a及び電極構成体5Aの負極端子5aに接続される負極端子33bを備える。
【0015】
次に、殺菌装置1を用いた殺菌方法を説明する。上部開放の容器19内に水道水のような液体41を入れる。接続体30の入力側コネクタ32と電源装置3の電極接続部18とを電気的に接続するとともに、接続体30の出力側コネクタ33と電極構成体4A;5Aとを電気的に接続する。電極装置2の非電解質液7と放電電極部6とが密閉状態に収容された密閉容器8を容器19内の液体41中に入れ、電極装置2を図外の支持装置で支持させ、電極装置2の密閉容器8を液体41中に保持する。食品、薬品などの殺菌対象物を密閉状態に収納した密閉バッグ45を支持装置46で吊るして液体41中の放電電極部6の近傍に位置させる。電源装置3のスイッチ21、スイッチ22をともに非導通の状態としておいて、電源装置3を電源ケーブル14Cを介して交流200V電源に電気的に接続することで、電源ケーブル14Cを経由して昇圧装置12に交流200V電源が供給され、交流200Vが昇圧回路15で例えば直流20kV〜50kVに昇圧される。そして、スイッチ21を導通すると、コンデンサ20に電荷が蓄積される。コンデンサ20に電荷が蓄積された後に、スイッチ22を導通する。これにより電極装置2の放電電極部6の電極4;5に電圧が印加されて電極4;5間で放電を生じ、当該放電により生じた圧力波により密閉バッグ45内の細菌を死滅させることができる。
【0016】
本発明の電極装置2によれば、非電解質液7を密閉状態に収容するとともに放電電極部6を非電解質液7中に位置させた状態に保持する密閉容器8を備え、放電電極部6が非電解質液7中にあるため、放電によるアークを小さくでき、放電により生ずる圧力波のエネルギーを大きくできて、殺菌対象物を効率的に殺菌できる。
また、放電電極部6の周囲が非電解質液7であり、かつ、放電電極部6及び非電解質液7が密閉容器8で密閉状態に覆われているため、電気が密閉容器8の外の液体41に漏れず、安全性にも優れる。
【0017】
実施形態2
実施形態1の電極構成体4A;5Bの代わりに図3に示すような電極構成体70を用いてもよい。電極構成体70は、例えば、+電極のような一方電極としての棒状の内部導体73と、内部導体73の外周囲を被覆する筒状の絶縁体74と、絶縁体74の外周囲に設けられた−電極のような他方電極としての外部導体75とにより構成される。すなわち、電極構成体70は、内部導体73と絶縁体74と外部導体75とが同軸状に配置された構成の同軸電極である。外部導体75は、内部導体73の中心線に沿った方向に間隔を隔てて設けられた複数の浮遊電極76;76・・・を構成する。浮遊電極とは、電源側と電気的に絶縁された電極のことである。絶縁体74の先端74tより突出して露出する内部導体73の先端部73tとこの先端部73tに最も近い浮遊電極76の先端部76tとで放電を生じさせる先端側放電ギャップ77が形成され、互いに対向する浮遊電極76同士の端部76sと端部76sとで放電を生じさせる中間側放電ギャップ78が形成される。中間側放電ギャップ78は複数形成される。先端側放電ギャップ77、中間側放電ギャップ78が維持された内部導体73と複数の浮遊電極76とにより放電電極部6が形成される。この電極構成体70を用いる場合、放電電極部6と非電解質液7とを密閉状態に収容可能な密閉容器8を用いればよい。動作及び効果は実施形態1と同じである。
【0018】
実施形態3
実施形態1;2では、非電解質液7を密閉状態に収容するとともに放電電極部6を非電解質液7中に位置させた状態に保持する密閉容器8を用いたが、図4;5に示すように、非電解質液7を収容するとともに放電電極部6を非電解質液7中に位置させた状態に保持する上部開放の容器80を用いてもよい。容器80としては、例えば、密閉容器8と同様の材料により形成された底板と4方の壁板とからなる直方体形状のものを用いればよい。そして、実施形態1で説明したように、容器80の互いに平行に対向する一対の壁部8a;8aには、貫通孔9;9、円筒水密部材8B;8Bが設けられ、電極構成体4A;5Aの電極部4B;5Bが円筒水密部材8Bの筒孔8D経由で容器80内に設置され、直線部4C;5Cが接着剤や接着テープなどで容器80の壁部8a;8aの外面8b;8bに固定され、電極4;5間の間隔が放電ギャップとなる所定の間隔gに維持される。その後、容器80の上部開口81を介して容器80内に非電解質液7を入れ、放電電極部6を非電解質液7中に浸す。このように、非電解質液7を収容するとともに放電電極部6を非電解質液7中に位置させた状態に保持した容器80を容器19内の液体41中に入れ、電極装置2を図外の支持装置で支持させ、電極装置2の密閉容器8を液体41中に保持する。この場合、容器80内の非電解質液7中に容器19内の液体41が入り込まないように、容器80の上部開口81を容器19内の液体41の液面より上方に位置させる。この場合、簡単な容器80を用いることができるので、非電解質液7を密閉状態に収容するとともに放電電極部6を非電解質液7中に位置させた状態に保持する容器のコストを低減できる。
尚、図4;5では、電極構成体4A;5Aを用いた電極装置2を容器80に設置した例を示したが、電極構成体70を用いた電極装置2を容器80に設置してもよいことはもちろんである。
【0019】
尚、本発明は、殺菌対象物として血液製剤を封入したバッグや瓶のような血液製剤封入容器中の菌を殺菌する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0020】
2 電極装置、4;5 電極、6 放電電極部、7 非電解質液、8 密閉容器、
80 容器、g 間隔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔を隔てて配置された正負の電極からなる放電電極部と、非電解質液と、非電解質液を収容するとともに放電電極部を非電解質液中に位置させた状態に保持する容器とを備えたことを特徴とする電極装置。
【請求項2】
殺菌対象物と、上記請求項1に記載の放電電極部及び非電解質液を収容した容器とを液体中に入れ、放電電極部の電極に電圧を印加して電極間で放電を生じさせ、放電により生じた圧力波によって殺菌対象物中の菌を殺菌することを特徴とする殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−125528(P2011−125528A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287615(P2009−287615)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(502210600)株式会社マリウス (7)
【出願人】(502281127)株式会社ファテック (83)
【Fターム(参考)】