説明

電極触媒の製造方法

【課題】比較的安価で資源量も比較的多い材料を用いて得ることができ、また、酸性電解質中で高電位下においても使用することができる高活性な電極触媒を製造する方法を提供する。
【解決手段】以下の第一材料および以下の第二材料を含有する混合物を超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において連続的に水熱反応させて得られる電極触媒の前駆体を、以下の第二材料が炭素材料に変化する条件にて焼成する工程を含む電極触媒の製造方法:
第一材料は、4A族元素および5A族元素からなる群より選択される1種以上の金属元素と、水素、窒素、塩素、炭素、硼素、硫黄および酸素からなる群より選択される1種以上の非金属元素とで構成される金属化合物であり、
第二材料は、炭素材料前駆体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電極触媒は、電極(特に電極の表面部位)に担持される固体触媒であり、例えば水の電解装置、有機物の電解装置、燃料電池などの電気化学システムに用いられている。酸性電解質中で用いられる電極触媒としては、貴金属が挙げられる。貴金属の中でも特に白金は、酸性電解質中で、高電位であっても、安定であるため、広く用いられている。
【0003】
しかし、白金は高価格で、資源量も限られているため、比較的安価で、資源量が比較的多い材料からなる電極触媒が求められている。
【0004】
比較的安価で酸性電解質中で用いることができる電極触媒としては、炭化タングステンが知られている(非特許文献1参照)。また、高電位での使用時に溶解し難い電極触媒としては、酸化ジルコニウムからなる電極触媒が知られている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】米山宏ら、「電気化学」第41巻、第719頁(1973年)
【非特許文献2】Yan Liuら、「Electrochemical and Solid−State Letters」8(8)、2005、A400〜402
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の炭化タングステンからなる電極触媒は高電位において溶解してしまうという問題があり、また、酸化ジルコニウムからなる電極触媒は、取り出せる電流値が少なく、これらの電極触媒は、電極触媒としての使用に十分に耐えうるものではない。本発明の目的は、比較的安価で資源量も比較的多い材料を用いて得ることができ、また、酸性電解質中で高電位下においても使用することができる高活性な電極触媒を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討した結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記の手段を提供する。
<1> 以下の第一材料および以下の第二材料を含有する混合物を超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において連続的に水熱反応させて得られる電極触媒の前駆体を、以下の第二材料が炭素材料に変化する条件にて焼成する工程を含む電極触媒の製造方法:
第一材料は、4A族元素および5A族元素からなる群より選択される1種以上の金属元素と、水素、窒素、塩素、炭素、硼素、硫黄および酸素からなる群より選択される1種以上の非金属元素とで構成される金属化合物であり、
第二材料は、炭素材料前駆体である。
<2> 以下の第一材料を超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において連続的に水熱反応させて得られる反応物と以下の第二材料とを混合して得られる電極触媒の前駆体を、以下の第二材料が炭素材料に変化する条件にて焼成する工程を含む電極触媒の製造方法:
第一材料は、4A族元素および5A族元素からなる群より選択される1種以上の金属元素と、水素、窒素、塩素、炭素、硼素、硫黄および酸素からなる群より選択される1種以上の非金属元素とで構成される金属化合物であり、
第二材料は、炭素材料前駆体である。
<3> 第一材料における前記金属元素が、ZrまたはTiである前記<1>または<2>のいずれかに記載の方法。
<4> 前記焼成の雰囲気が、無酸素の雰囲気である<1>〜<3>のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸性電解質中で高電位下においても使用することができ、高い活性を示す電極触媒を得ることができる。しかも、比較的安価で資源量も比較的多い材料を用いて電極触媒を得ることができ、本発明は工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】連続的に水熱反応を行うための反応装置(流通式反応装置)の概要を示す模式図。
【図2】流通式反応装置における反応器の概要を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第一の発明)
本発明の電極触媒の製造方法は、以下の第一材料および以下の第二材料を含有する混合物を、超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において連続的に水熱反応させて得られる電極触媒の前駆体を、以下の第二材料が炭素材料に変化する条件にて焼成する工程を含む。
ここで、第一材料は、4A族元素および5A族元素からなる群より選択される1種以上の金属元素と、水素、窒素、塩素、炭素、硼素、硫黄および酸素からなる群より選択される1種以上の非金属元素とで構成される金属化合物であり、
第二材料は、炭素材料前駆体である。
【0012】
(第二の発明)
本発明の電極触媒の製造方法は、以下の第一材料を超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において連続的に水熱反応させて得られる反応物と、以下の第二材料とを混合して得られる電極触媒の前駆体を、以下の第二材料が炭素材料に変化する条件にて焼成する行程を含む。
ここで、第一材料は、4A族元素および5A族元素からなる群より選択される1種以上の金属元素と、水素、窒素、塩素、炭素、硼素、硫黄および酸素からなる群より選択される1種以上の非金属元素とで構成される金属化合物であり、
第二材料は、炭素材料前駆体である。
【0013】
上記の本発明によれば、比較的安価で資源量も比較的多い材料を用いて電極触媒を得ることができ、また、酸性電解質中で、例えば、0.4V以上という比較的高い電位下においても、比較的高い活性を示す電極触媒が得られる。
【0014】
本発明の方法で使用される第一材料は、4A族元素および5A族元素からなる群より選択される1種以上の金属元素と、水素、窒素、塩素、炭素、硼素、硫黄および酸素から選択される1種以上の非金属元素とで構成される金属化合物である。第一材料の金属化合物における金属元素は、4A族元素の金属元素または5A族元素の金属元素であることが好ましく、Zr、Ti、TaまたはNbであることがより好ましく、ZrまたはTiであることがさらにより好ましく、Tiであることがとりわけ好ましい。また、前記金属化合物における好ましい非金属元素は、水素、塩素および酸素から選択される1種以上の非金属元素である。金属元素がZrである場合の金属化合物としては、たとえば水酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウムなどがあげられる。また、金属元素がTiである場合の金属化合物としては、たとえば水酸化チタン、四塩化チタン、メタチタン酸、オルソチタン酸、硫酸チタン、チタンアルコキシドなどがあげられる。
【0015】
本発明の方法で使用される第二材料は炭素材料前駆体である。炭素材料前駆体は、焼成により炭素材料に変化させることができる。炭素材料前駆体としては、例えばグルコース、フルクトース、スクロース、セルロース、ハイドロプロピルセルロースなどの糖類、ポリビニルアルコールなどのアルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類、アクリルニトリル、ポリアクリルニトリルなどのニトリル類、コラーゲン、ケラチン、フェリチン、ホルモン、ヘモグロビン、アルビミンなどの各種タンパク質、グリシン、アラニン、メチオニンなどのアミノ酸等の生体物質、アスコルビン酸、クエン酸、ステアリン酸などがあげられる。第二材料は、上記の材料の中でも、酸素を有する材料であることが好ましい。
【0016】
上記の第一の発明においては、上記第一材料および上記第二材料を含有する混合物を、超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において連続的に水熱反応させて電極触媒の前駆体が得られる。第一の発明では、第二材料として酸素を有する材料を用いると、得られた電極触媒の前駆体は、M−O−C結合(ここで、Mは4A族元素および5A族元素からなる群より選択される1種以上の金属元素であり、Oは酸素であり、Cは炭素である。)を持つことができる。より高活性な電極触媒を得る観点で、電極触媒の前駆体は、M−O−C結合を持つことが好ましい。この場合、M−O−C結合の強度は大きいことが好ましい。具体的に、M−O−C結合強度は好ましくは0.015以上であり、より好ましくは0.020以上である。
【0017】
上記の第二の発明においては、上記第一材料を超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において連続的に水熱反応させて得られる反応物と、上記第二材料とを混合して、電極触媒の前駆体が得られる。
【0018】
上記混合には、ボールミル、V型混合機、攪拌機等の、工業的に通常用いられている装置を用いることができる。このときの混合は、乾式混合、湿式混合のいずれによってもよい。また、湿式混合の後には、炭素材料前駆体が分解しない程度の温度で乾燥を行ってもよい。
【0019】
なお、水の超臨界点は、374℃、22MPaである。本発明において、超臨界状態の水とは、温度374℃以上かつ圧力22MPa以上である条件下の水のことを意味する。また、本発明において、亜臨界状態の水とは、温度250℃以上である条件下の水のことを意味し、かつ圧力20MPa以上であることが好ましい。また、本発明において、水熱反応を行うための反応装置としては、連続式(流通式)の反応装置を用いる。
【0020】
以下に、本発明において連続的に水熱反応を行うための反応装置について、図面を参照しながら説明する。図1は、連続的に水熱反応を行うための流通式反応装置の概要を示す図である。水タンク11,21は、水を供給するためのタンクである。原料タンク22は、原料スラリーを供給するためのタンクである。弁110,210,220を開けることにより、これらのタンクから液が供給される。上記の第一の発明の場合、上記原料スラリーは第一材料および第二材料を含有する混合物のスラリーまたは水溶液であり、また、上記の第二の発明の場合、上記原料スラリーは第一材料のスラリーまたは水溶液である。送液ポンプ13の駆動により水タンク11から加熱器14に液が送られ、送液ポンプ23の駆動により水タンク21または原料タンク22から加熱器24に液が送られる。
【0021】
加熱器24では、原料スラリーを予備的に加熱することができる。予備加熱の温度は、好ましくは100℃〜330℃であり、より好ましくは150℃〜300℃である。第一の発明においては、第一材料および第二材料を含有する混合物を予備的に加熱することが好ましい。この場合、第二材料が酸素を有する材料であることがより好ましい。第一材料と、酸素を有する材料である第二材料とを含有する混合物を予備的に加熱することにより、得られる電極触媒の前駆体のM−O−C結合強度をより大きくすることができる。それゆえ、さらにより高活性な電極触媒が得られる。この混合物の予備加熱により、混合物の水熱反応が部分的に行われてもよい。
【0022】
加熱器14と加熱器24に送られたそれぞれの液は、混合部30で混合され、主に反応器40内で水熱反応する。図2は、反応器の概要を示す図である。反応器40内には、内部配管41とその配管を加熱する加熱器44があり、内部配管41は外部の配管に接続されている。水熱反応後、生成したスラリーは、冷却器51により冷却され、背圧弁53を通過して、回収容器60で回収される。
【0023】
図1において、弁110と、弁210(または弁220)とを開け、送液ポンプ13,23を動かし、さらに、背圧弁53を開閉することにより、これら送液ポンプ13,23から背圧弁53までの配管内の圧力を調節することができる。また加熱器14,24および反応器40内の加熱器44の温度を調節することにより、超臨界状態または亜臨界状態の水を得ることができる。
【0024】
より具体的には、送液ポンプ13,23を駆動させ、背圧弁53を用いて配管内の圧力を適宜調節して、加熱器14,24および反応器40内の加熱器44の温度を適宜調節して、反応器内の水を超臨界状態または亜臨界状態になるように調整する。原料タンク22から原料スラリーを送ると、混合部30以降の配管内で水熱反応が行われ、水熱反応物が生成し、生成したスラリーを回収容器60で回収することができる。また、原料スラリーを原料タンク22から送る前後に、水タンク21から水を送り、配管の予備加熱、配管の洗浄などを行うことも可能である。水熱反応後、生成したスラリーについて、フィルター52を用いて、粗大粒子の除去を行うことなどにより、スラリー中の粒子の粒度を調整してもよい。
【0025】
また、反応器40内の内部配管41の長さを調節することで、反応時間を調節することができる。内部配管41の形状として、例えば、ジグザグ状、らせん状など、種々の形状を選択使用することにより、内部配管41の長さを調整することができる。
【0026】
配管、内部配管の材質は、原料スラリーの種類や、水熱反応の温度、圧力などの条件に基づき、適切な材料を選択すればよいが、材料としては、例えばSUS316などのステンレス鋼や、ハステロイ、インコネルなどのニッケル合金、あるいはチタン合金をあげることができる。通過する液の特性に応じて、金などの耐食性の高い材料で配管の内面の一部または全部をライニングしてもよい。
【0027】
回収容器60で回収された水熱反応の生成スラリーについては、固液分離、洗浄、乾燥して、粉末状態で電極触媒の前駆体として用いてもよいし、スラリー状態で用いてもよい。
【0028】
上記の第一の発明の場合、上記水熱反応物が電極触媒の前駆体として用いられる。蒸気の第二の発明の場合、上記水熱反応物と上記第二材料との混合物が電極触媒の前駆体として用いられる。
【0029】
前記電極触媒の前駆体を、第二材料が炭素材料に変化する条件にて焼成することにより本発明における電極触媒が得られる。焼成の雰囲気としては、電極触媒を効率的に合成するために無酸素の雰囲気であることが好ましく、コストの観点から無酸素の雰囲気は、窒素雰囲気であることが好ましい。この焼成の際に用いられる炉は、雰囲気を制御することができる炉であればよく、例えば、管状電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、ローラーハース炉、ロータリー炉などがあげられる。焼成は、回分式で行われてもよいし、連続式で行われてもよい。また電極触媒の前駆体を静置した状態で焼成する静止式で焼成してもよいし、電極触媒の混合前駆体を流動状態として焼成する流動式で焼成してもよい。
【0030】
焼成温度は、炭素材料前駆体の種類および焼成雰囲気の種類を考慮して適宜設定すればよいが、炭素材料前駆体が炭素材料に変化する温度、すなわち炭素材料前駆体が分解し炭化する温度で行えばよく、焼成温度として、具体的には、例えば400℃〜1100℃、好ましくは、500℃〜1000℃、より好ましくは500℃〜900℃、さらにより好ましくは700℃〜900℃である。電極触媒のBET比表面積は、焼成温度制御により、制御することができる。なお、本発明において、第二材料が炭素材料に変化する条件とは、第二材料が分解することにより炭化して炭素材料になりうる条件のことを意味する。
【0031】
焼成の際の昇温速度は、実用的な範囲であれば特に限定されるものではなく、通常10℃/時間〜600℃/時間、好ましくは50℃/時間〜500℃/時間であり、このような昇温速度で、前記焼成温度まで昇温して、0.1時間〜24時間、好ましくは1時間〜12時間程度、保持して焼成を行えばよい。
【0032】
本発明における電極触媒の炭素量としては、好ましくは0.1質量%以上50質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上45質量%以下、さらにより好ましくは3質量%以上40質量%以下、特に好ましくは15質量%以上35質量%以下である。本発明において、炭素量としてはイグロス値を用い、具体的には、電極触媒をアルミナ坩堝にいれ、大気雰囲気で1000℃で3時間焼成を行ったときに、次の式により算出される炭素量の値を用いる。
炭素量(質量%)=(W−W)/W×100
(ここで、Wは焼成前の電極触媒質量、Wは焼成後の質量である。)
【0033】
上述の本発明の方法により得られた電極触媒は、酸性電解液中で、高電位下においても使用することができ、高い活性を示すことのできる電極触媒である。
【0034】
本発明において、電極触媒のBET比表面積は、15m/g以上500m/g以下であることが好ましく、より好ましくは、50m/g以上300m/g以下である。BET比表面積をこのように設定することで、活性をより高めることができる。
【0035】
本発明において、電極触媒の以下の式(1)により求めた炭素被覆率は、0.05以上0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.1以上0.3以下である。
炭素被覆率=炭素量(質量%)/BET比表面積(m/g) (1)
【0036】
本発明において、電極反応を促進するために、電極触媒の仕事関数値は2eV以上6eV以下であることが好ましく、より好ましくは3eV以上5eV以下である。仕事関数値として、理研計器(株)製の光電子分光装置「AC−2」を用い、光量測定500nW、測定エネルギー4.2eV〜6.2eVの条件で測定し、電流検出時のエネルギー値を用いることができる。
【0037】
また、本発明は、チタンおよび酸素を含む金属化合物と、該化合物の表面の少なくとも一部を被覆する炭素材料とから構成され、BET比表面積が15m/g以上500m/g以下である電極触媒であることが好ましい。該電極触媒を電気化学システムの電極触媒として用いることで、より大きな酸素還元電流を取り出すことが可能となる。また、チタンは、資源量が豊富でもあり、このことは、燃料電池などの電気化学システムの普及もしくは大型化などに、有利にはたらく。
【0038】
本発明の方法により得られる電極触媒の使用により、電極触媒を含有する電極触媒組成物を得ることもできる。電極触媒組成物は、通常、分散媒を有する。電極触媒組成物は、電極触媒を分散媒に分散させて得ることができる。分散媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパールなどのアルコール類やイオン交換水などの水等があげられる。
【0039】
分散の際には、分散剤を用いてもよい。分散剤としては、例えば硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸、オキシ塩化ジルコニウムなどの水溶性ジルコニウム塩、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリカルボン酸ナトリウムなどの界面活性剤、エピカテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレードなどのカテキン類があげられる。
【0040】
電極触媒組成物は、イオン交換樹脂を含有していてもよい。イオン交換樹脂を含有する場合は、電極触媒組成物は、燃料電池用として特に好適である。イオン交換樹脂としては、ナフィオン(デュポン社の登録商標)などのフッ素系イオン交換樹脂、スルホン化されたフェノールホルムアルデヒド樹脂などの炭化水素系イオン交換樹脂などのカチオン交換樹脂があげられる。
【0041】
電極触媒組成物は、導電材を含有してもよい。導電材としてはカーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、導電性酸化物、導電性酸化物繊維または導電性樹脂などがあげられる。また、電極触媒組成物は、Pt、Ru等の貴金属や、Ni、Fe、Co等の遷移金属を含有することもできる。これらの貴金属、遷移金属を含有する場合には、その含有割合は、微量(例えば、電極触媒100質量部に対して、0.1質量部〜10質量部程度)であることが好ましい。
【0042】
本発明において、電極触媒は、電気化学システムに用いることができ、好ましくは燃料電池用の電極触媒として、より好ましくは固体高分子形燃料電池用の電極触媒として、よりさらに好ましくは固体高分子形燃料電池のカソード部の電極触媒として用いることができる。
【0043】
本発明における電極触媒は、酸性電解質中において可逆水素電極電位に対して0.4V以上の電位で好適に使用することができ、かつ比較的高活性であるために、例えば電気化学システムにおいて、電極に担持され、酸素を還元するために用いられる酸素還元触媒として有用である。酸素還元触媒として用いる場合の電位の好適な上限は、電極触媒の安定性にもより、酸素発生する電位である1.6V程度まで使用可能である。1.6Vを越えると、酸素発生と同時に電極触媒が表面から除々に酸化されて、電極触媒が完全に酸化物になって、失活してしまうこともある。電位が0.4V未満では、電極触媒の安定性という観点では好適とはいえるものの、酸素還元触媒という観点からは有用性に乏しいこともある。
【0044】
電極触媒組成物は、カーボンクロス、カーボンペーパー等の電極に担持させて、酸性電解質中での水の電気分解、有機物の電気分解などに用いることもできる。また、固体高分子形燃料電池やリン酸形燃料電池等の燃料電池を構成する電極に担持させて用いることもできる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0046】
なお、各実施例における評価方法は以下の通りである。
(1)BET比表面積(m2/g)は、窒素吸着法により求めた。
(2)結晶構造は、粉末X線回折装置を用いて解析した。
(3)炭素量としては、得られた電極触媒をアルミナ坩堝にいれ、箱型炉にて大気雰囲気で1000℃で3時間焼成したとき、次の式により算出される炭素量の値(イグロス値)を用いた。
炭素量(質量%)=(W−W)/W×100
(ここで、Wは焼成前の電極触媒質量、Wは焼成後の質量である。)
(4)炭素被覆率は次の式にて算出した。
炭素被覆率=炭素量(質量%)/BET比表面積(m2/g)
(5)試料のM−O−C結合強度は、フーリエ変換赤外分光法で求めた。装置としてフーリエ変換赤外分光光度計(ジャスコエンジニアリング(株)製、装置名FT/IR−460PLUS)を用い、ATRアタッチメントを用いた。分解能は4cm-1であり、積算回数は32回である。M−O−C結合強度は、1600cm−1の吸光度の強度値(ここでバックグラウンドの値は除去されている)である。
【0047】
製造例1:第一材料(Ti含有化合物)の調製
硫酸チタン(IV)水溶液(関東化学(株)製、硫酸チタン12質量%に希釈)と、NH水(関東化学(株)製、4質量%に希釈)とを用いて、これらの中和を行い、得られた沈殿物をろ過、洗浄して、第一材料(Ti含有化合物)を得た。この第一材料を、pHが10.5に調整されたNH水に1質量%の濃度で分散させTi含有化合物スラリーを得た。
【0048】
製造例2:第一材料(Zr含有化合物)の調製
オキシ塩化ジルコニウム(和光純薬製)を純水に溶解して得た水溶液(オキシ塩化ジルコニウム8質量%)と、NH水(関東化学(株)製、4質量%に希釈)とを用いて、これらの中和を行い、得られた沈殿物をろ過・洗浄して、第一材料(Zr含有化合物)を得た。粉末X線回折測定の結果、この第一材料は、水酸化ジルコニウムであることがわかった。この第一材料を、pHが10.5に調整されたNH水に、第一材料が1質量%となる濃度で分散させ、Zr含有化合物スラリーを得た。
【0049】
製造法3:第一材料(Zr含有化合物)の調製
水酸化ジルコニウム(第一稀元素製、R型水酸化ジルコニウム)を第一材料として用いた。この第一材料を、pHが10.5に調整されたNH3水に、第一材料が1質量%となる濃度で分散させ、Zr含有化合物スラリーを得た。
【0050】
実施例1
〔電極触媒の調製〕
第一材料のスラリーとして、製造例1により得られたTi含有化合物スラリーを用いた。第二材料として、グルコース(和光純薬製)を用いた。Ti含有化合物スラリー1200mLにグルコース12gを添加して得られた混合物を、図1で示すことができる流通反応装置の原料タンク22に入れた。水タンク11,21に水を入れ、送液ポンプ13,23を駆動させて、弁110、210を開けて、これらの水の送液を開始した。ここで、送液ポンプ13における液の流速を16.7mL/分に、送液ポンプ23における液の流速を3.33mL/分に調節した。背圧弁53を用いて、配管内圧力を30MPaに調節した。加熱器14を400℃に、加熱器24を250℃に、反応器40内の加熱器44の温度を350℃に調節した。定常状態における混合部30の液温を測定したところ380℃であり、混合部30の水が超臨界状態の水であることを確認した。その後、弁210を閉め、弁220を開けることにより、液供給タンクを水タンク21から原料タンク22に切り替えた。原料タンク22から原料スラリーを供給した。加熱器24出口の液温は、250℃であった。水熱反応を行い、回収容器60にて、生成スラリーを回収した。回収した生成スラリーをろ過により固液分離し、60℃、3時間の条件で乾燥して、電極触媒の前駆体を得た。該前駆体を、アルミナ製ボートに入れ、内容積13.4Lの管状型電気炉〔(株)モトヤマ製〕中で、窒素ガスを1.5L/分の流量で流通させながら、昇温速度300℃/時間で室温(約25℃)から800℃まで昇温し、800℃で1時間保持することにより該前駆体を焼成して、電極触媒1を得た。得られた電極触媒1は、炭素で被覆された酸化チタンであった。電極触媒1のBET比表面積は75m2/g、炭素量は15質量%、炭素被覆率は0.2、結晶形は正方晶系(アナターゼ)であった。
【0051】
〔電気化学システムでの評価〕
電極触媒1を0.02g秤量し、純水5mLとイソプロピルアルコール5mLの混合溶媒に添加し、これに超音波を照射して懸濁液とした。この懸濁液20μLをグラッシーカーボン電極〔6mm径、電極面積は28.3mm2〕に塗布し、乾燥して、その上に「ナフィオン(登録商標)」〔デュポン社製、固形分濃度5質量%の十倍希釈サンプル〕を13μL塗布し、乾燥した後、さらに真空乾燥機にて1時間処理をすることで電極触媒1をグラッシーカーボン電極上に担持させた修飾電極を得た。この修飾電極を濃度0.1モル/Lの硫酸水溶液中に浸漬し、室温、大気圧下、酸素雰囲気および窒素雰囲気において、銀塩化銀電極電位に対して−0.25〜0.75V(可逆水素電極電位換算0.025〜1.025V)の走査範囲で、50mV/sの走査速度で電位をサイクルした。サイクルごとの各電位における電流値を比較し、電極安定性を確認したところ、走査電位範囲内で電流値の変動はなく、サイクルごとの各電位における電流値は安定していた。また、可逆水素電極電位に対して0.4Vの電位での酸素雰囲気と窒素雰囲気の電流値を比較することにより、酸素還元電流を求めたところ、酸素還元電流は、電極の単位面積当たりで2409μA/cm2であった。
【0052】
実施例2
〔電極触媒の調製〕
第一材料のスラリーとして、製造例2により得られたZr含有化合物スラリーを用いた。第二材料として、グルコース(和光純薬製)を用いた。Zr含有化合物スラリー600mLにグルコース6gを添加して得られた混合物を、図1で示すことができる流通反応装置の原料タンク22に入れた。水タンク11,21に水を入れ、送液ポンプ13,23を駆動させて、弁110、210を開けて、これらの水の送液を開始した。ここで、送液ポンプ13における液の流速を16.7mL/分に、送液ポンプ23における液の流速を6.66mL/分に調節した。背圧弁53を用いて、配管内圧力を30MPaに調節した。加熱器14を400℃に、加熱器24を250℃に、反応器40内の加熱器44の温度を350℃に調節した。定常状態における混合部30の液温を測定したところ380℃であり、混合部30の水が超臨界状態の水であることを確認した。その後、弁210を閉め、弁220を開けることにより、液供給タンクを水タンク21から原料タンク22に切り替えた。原料タンク22から原料スラリーを供給した。加熱器24出口の液温は、250℃であった。水熱反応を行い、回収容器60にて、生成スラリーを回収した。回収した生成スラリーをろ過により固液分離し、60℃、3時間の条件で乾燥して、電極触媒の前駆体を得た。該前駆体を、アルミナ製ボートに入れ、内容積13.4Lの管状型電気炉〔(株)モトヤマ製〕中で、窒素ガスを1.5L/分の流量で流通させながら、昇温速度300℃/時間で室温(約25℃)から800℃まで昇温し、800℃で1時間保持することにより該前駆体を焼成して、電極触媒2を得た。得られた電極触媒2は、炭素で被覆された酸化ジルコニウムであった。電極触媒のBET比表面積は116m2/g、炭素量は8.5質量%、炭素被覆率は0.07、結晶形は正方晶系と斜方晶系の混相であった。
【0053】
〔電気化学システムでの評価〕
電極触媒1に代えて、電極触媒2を用いた以外は実施例1と同様にして、電気化学システムでの評価を行ったところ、走査電位範囲内で電流値の変動はなく、サイクルごとの各電位における電流値は安定していた。また、可逆水素電極電位に対して0.4Vの電位での酸素雰囲気と窒素雰囲気の電流値を比較することにより、酸素還元電流を求めたところ、酸素還元電流は、電極の単位面積当たりで1219μA/cm2であった。
【0054】
比較例1
実施例1の電極触媒に代えて、市販の酸化ジルコニウム粉末(第一希元素製、RC−100、炭素量0%、BET比表面積106m2/g、炭素被覆率0)を用いた以外は実施例1と同様にして、電気化学システムでの評価を行った。可逆水素電極電位に対して0.4Vの電位での酸素雰囲気と窒素雰囲気の電流値を比較することにより、酸素還元電流を求めたところ、酸素還元電流は、電極の単位面積当たりで1.5μA/cm2であった。
【0055】
実施例3
〔電極触媒の調製〕
第一材料のスラリーとして、製造例3により得られたZr含有化合物スラリーを用いた。第二材料として、グルコース(和光純薬製)を用いた。Zr含有化合物スラリー175gにグルコース2.6gを添加して得られた混合物を、図1で示すことができる流通反応装置の原料タンク22に入れた。水タンク11に水を入れ、送液ポンプ13、23を駆動させて、弁110、220を開けて、原料スラリーと水の送液を開始した。ここで、送液ポンプ13における液の流速を8mL/分に、送液ポンプ23における液の流速を3.4mL/分に調節した。配管内圧力を20MPaに調節した。この圧力は亜臨界条件である。加熱器14を400℃に、加熱器24を250℃に、反応器40内の加熱器44の温度を350℃に調節して、水熱反応を行い、回収容器60にて、生成スラリーを回収した。回収した生成スラリーを、遠心分離により、固液分離し、得られた沈殿物を60℃で乾燥して、電極触媒の前駆体を得た。前記遠心分離には遠心分離装置(株式会社久保田製作所製、型番Model9912)を用い、生成スラリーの遠心分離を3000rpmで10分間行った。得られた電極触媒の前駆体のM−O−C結合強度は0.176であった。該前駆体を、アルミナ製ボートに入れ、内容積13.4Lの管状型電気炉〔(株)モトヤマ製〕中で、窒素ガスを1.5L/分の流量で流通させながら、昇温速度300℃/時間で室温(約25℃)から800℃まで昇温し、800℃で1時間保持することにより該前駆体を焼成して、電極触媒3を得た。得られた電極触媒3は、炭素で被覆された酸化ジルコニウムであった。電極触媒3のBET比表面積は119m2/g、炭素量は20.9質量%、炭素被覆率は0.18、結晶形は正方晶系と斜方晶系の混相であった。
【0056】
電極触媒1に代えて、電極触媒3を用いた以外は実施例1と同様にして、電気化学システムでの評価を行ったところ、走査電位範囲内で電流値の変動はなく、サイクルごとの各電位における電流値は安定していた。また、可逆水素電極電位に対して0.4Vの電位での酸素雰囲気と窒素雰囲気の電流値を比較することにより、酸素還元電流を求めたところ、酸素還元電流は、電極の単位面積当たりで2920μA/cm2であった。
【0057】
実施例4
〔電極触媒の調製〕
加熱器24の電源を入れなかった以外は、実施例3と同様にして、電極触媒の前駆体を得た。この場合も亜臨界の条件である。得られた電極触媒の前駆体のM−O−C結合強度は0.075であった。該前駆体の焼成を、実施例3と同様にして行い、電極触媒4を得た。得られた電極触媒4は、炭素で被覆された酸化ジルコニウムであった。電極触媒4のBET比表面積は113m2/g、炭素量は8.5質量%、炭素被覆率は0.08、結晶形は正方晶系と斜方晶系の混相であった。
【0058】
〔電気化学システムでの評価〕
電極触媒1に代えて、電極触媒4を用いた以外は実施例1と同様にして、電気化学システムでの評価を行ったところ、走査電位範囲内で電流値の変動はなく、サイクルごとの各電位における電流値は安定していた。また、可逆水素電極電位に対して0.4Vの電位での酸素雰囲気と窒素雰囲気の電流値を比較することにより、酸素還元電流を求めたところ、酸素還元電流は、電極の単位面積当たりで261μA/cm2であった。
【符号の説明】
【0059】
11,21・・・水タンク、22・・・原料タンク、13,23・・・送液ポンプ、14,24・・・加熱器、30・・・混合部、40・・・反応器、41・・・内部配管、44・・・加熱器、51・・・冷却器、52・・・フィルター、53・・・背圧弁、60・・・回収容器、110,210,220・・・弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の第一材料および以下の第二材料を含有する混合物を超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において連続的に水熱反応させて得られる電極触媒前駆体を、以下の第二材料が炭素材料に変化する条件にて焼成する工程を含む電極触媒の製造方法:
第一材料は、4A族元素および5A族元素からなる群より選択される1種以上の金属元素と、水素、窒素、塩素、炭素、硼素、硫黄および酸素からなる群より選択される1種以上の非金属元素とで構成される金属化合物であり、
第二材料は、炭素材料前駆体である。
【請求項2】
以下の第一材料を超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において連続的に水熱反応させて得られる反応物と以下の第二材料とを混合して得られる電極触媒の前駆体を、以下の第二材料が炭素材料に変化する条件にて焼成する工程を含む電極触媒の製造方法:
第一材料は、4A族元素および5A族元素からなる群より選択される1種以上の金属元素と、水素、窒素、塩素、炭素、硼素、硫黄および酸素からなる群より選択される1種以上の非金属元素とで構成される金属化合物であり、
第二材料は、炭素材料前駆体である。
【請求項3】
第一材料における前記金属元素が、ZrまたはTiである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記焼成の雰囲気が、無酸素の雰囲気である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−25232(P2011−25232A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142401(P2010−142401)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発 要素技術開発 酸化物系非貴金属触媒(Ti系酸化物を中心とした4族、5族化合物によるPEFC用非白金電極触媒とその生産技術の開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】