説明

電極触媒

【課題】高い触媒活性を与えるとともに、触媒金属の使用量を低減させることができる電極触媒を提供する。
【解決手段】金属粒子の表面に、第1の金属層が配置され、前記第1の金属層の表面に第2の金属層が配置されてなる3層構造の電極触媒粒子であって、前記第1の金属層を構成する金属が、前記金属粒子を構成する金属および前記第2の金属層を構成する金属よりも卑な金属であることを特徴とする、電極触媒粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒、特に燃料電池などの電気化学デバイス用電極触媒に関する。より詳細には、本発明は、触媒活性および触媒成分の利用率を改善しうる電気化学デバイス用電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動して高出力密度が得られる燃料電池が電気自動車用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電極反応による生成物が原理的に水であり、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。特に、固体高分子型燃料電池(PEFC)は、比較的低温で作動することから、電気自動車用電源として期待されている。固体高分子型燃料電池の構成は、一般的には、電解質膜−電極接合体を、セパレータで挟持した構造となっている。電解質膜−電極接合体は、高分子電解質膜が一対の電極触媒層及びガス拡散層(GDL)により挟持されてなるものである。
【0003】
上記したような電解質膜−電極接合体(MEA)を有する固体高分子型燃料電池では、固体高分子電解質膜を挟持する両電極(カソード及びアノード)において、その極性に応じて以下に記す反応式で示される電極反応を進行させ、電気エネルギーを得ている。まず、アノード(水素極)側に供給された燃料ガスに含まれる水素は、触媒成分により酸化され、プロトンおよび電子となる(2H→4H+4e:反応1)。次に、生成したプロトンは、電極触媒層に含まれる固体高分子電解質、さらに電極触媒層と接触している固体高分子電解質膜を通り、カソード(酸素極)側電極触媒層に達する。また、アノード側電極触媒層で生成した電子は、電極触媒層を構成している導電性担体、さらに電極触媒層の固体高分子電解質膜と異なる側に接触しているガス拡散層、セパレータおよび外部回路を通してカソード側電極触媒層に達する。そして、カソード側電極触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する(O+4H+4e→2HO:反応2)。燃料電池では、上述した電気化学的反応を通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。
【0004】
上記電気化学的反応において、アノード側で上記反応1により生成した水素イオン(H)(以下、「プロトン」とも称する)は、水和状態(H)で固体高分子電解質膜を透過(拡散)する。膜を透過したプロトンは、カソードで、ガス拡散層を透過(拡散)した酸素および電子とともに、上記反応2に供される。すなわち、アノードおよびカソードでの反応は、電解質膜に密着した電極触媒層を反応サイトとし、当該電極触媒層内の触媒と固体高分子電解質との界面で進行する。したがって、触媒と高分子電解質との界面が増大し、界面形成が均一化すれば、上記した反応1及び2が、より円滑かつ活発に進行する。
【0005】
固体高分子型燃料電池(PEFC)は、リン酸型燃料電池(PAFC)、アルカリ型燃料電池(AFC)などの他の燃料電池と比較しても常温で起動でき電解質の逸散・保持の問題が少なくメンテナンスが容易である。しかしながら、一般的に、電極触媒層内の触媒としては、導電性担体(カーボンブラックなど)に白金や白金合金を担持したものが用いられているが、電極反応に使用される触媒成分としての白金は資源供給量に問題がある。さらに、白金は高価であり、白金電極のコストは固体高分子型燃料電池システムのコストの約1/4を占めることから、燃料電池システムのコストを低減する観点からも白金触媒量の一層の低減が必要とされている。そのため、触媒活性のさらなる向上が求められている。
【0006】
触媒の酸素還元活性を向上させるために、例えば、特許文献1には、Niのコアと、前記コアを被覆するAuの下地層と、前記下地層を被覆するPtの最表面層から構成される3層のコアシェル構造を有するナノ粒子の電極触媒が開示されている。前記電極触媒の製造においては、まず、NiとAuとの合金をカーボンに担持させたNi−Au/Cを調製し、その後、600℃で熱処理してAuを表面に移動させ、Au/Ni/Cを調製する。次いで、UPD(Under Potential deposition)法を用いてCuを積層し、CuをPtで置換してPt/Au/Ni/Cを得る方法によって当該電極触媒が製造される。上記特許文献1には、このように製造された触媒はPt担持カーボン(Pt/C)触媒よりも高い触媒活性を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0197490号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、白金使用量を削減し、燃料電池システムを低コスト化するためには、さらなる触媒の高活性化が必要である。
【0009】
そこで本発明は、高い触媒活性を与えるとともに、Ptなどの触媒金属の使用量を低減させることができる、燃料電池などの電気化学デバイス用電極触媒として使用される電極触媒粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の問題点を解決すべく鋭意研究を行なった。その結果、金属粒子、第1の金属層、および第2の金属層の3層コアシェル構造を有する電極触媒粒子において、各層を構成する金属間の貴、卑の関係が、特定の関係を満たすように制御することで、触媒活性に優れた電極触媒粒子が得られることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、金属粒子の表面に、第1の金属層が配置され、前記第1の金属層の表面に第2の金属層が配置されてなる3層構造の電極触媒粒子であって、前記第1の金属層を構成する金属が、前記金属粒子を構成する金属および前記第2の金属層を構成する金属よりも卑な金属であることを特徴とする、電極触媒粒子である。
【発明の効果】
【0012】
本発明による電極触媒粒子によれば、最表面層である第2の金属層を構成する金属(触媒金属)の単位面積当たりの触媒活性が向上しうる。そのため、触媒金属の質量当たりの触媒活性(質量比活性)が向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電極触媒粒子の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の電極触媒の製造方法の概略を示す模式図である。
【図3】固体高分子型燃料電池の概略断面図である。
【図4】実施例1、2の電極触媒の調製手順を示すスキームである
【図5】実施例1で調製した電極触媒のTEM写真である。
【図6】実施例1、比較例2で調製した電極触媒のCV特性を表すグラフである。
【図7】実施例1、2、比較例1、2で調製した電極触媒の活性を表す図である。
【図8】実施例1、2、比較例1、2で調製した電極触媒の活性を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
本発明は、金属粒子の表面に、第1の金属層が配置され、前記第1の金属層の表面に第2の金属層が配置されてなる3層構造の電極触媒粒子であって、前記第1の金属層を構成する金属が、前記金属粒子を構成する金属および前記第2の金属層を構成する金属よりも卑な金属であることを特徴とする、電極触媒粒子である。
【0016】
図1は、本発明の電極触媒粒子の代表的な構成を示す模式図である。本発明の電極触媒粒子10は、金属粒子11の表面に、第1の金属層12、第2の金属層13が順に形成された3層構造の粒子であり、ここで最表面層である第2の金属層13を構成する金属は、触媒金属として作用する。
【0017】
触媒金属の単位質量当たりの触媒活性(質量比活性)(A/g)は、下記式で示されるように、触媒金属の単位質量当たりの比表面積(質量比表面積)(m/g)と触媒金属の単位面積当たりの触媒活性(面積比活性)(A/m)に依存する。
【0018】
【数1】

【0019】
コアシェル構造を有する電極触媒粒子においては、単一の触媒金属からなる粒子と比較して、触媒金属の単位質量当たりの表面積(質量比表面積)が向上しうる。これは、電極触媒粒子を構成する金属のうち、表面に露出している触媒金属の原子が反応に関与するためである。例えば、コアがAu、シェルがPtから構成されたコアシェル粒子がカーボン担体に担持された電極触媒(Pt/Au/C)では、Pt粒子が担持されたPt/Cに比べて質量比表面積が向上し、これによって質量比活性が向上することが知られている。
【0020】
一方、触媒金属の質量比活性を高めるためには、質量比表面積を高めるとともに、面積比活性を高めることが重要である。
【0021】
前記特許文献1に記載のPt/Au/Ni/C(従来例)では、コアとシェルとの間に中間層を設けた3層構造のコアシェルとすることで、Pt/Au/Cよりも面積比活性が向上し、高い質量比活性を示すと考えられる。しかしながら、白金の使用量を低減し、燃料電池自動車用電極触媒として低コスト化を図るためには、さらなる触媒活性の向上が求められる。
【0022】
そこで本発明者らは、3層構造を有する触媒粒子において、各層を構成する金属のイオン化列での貴、卑の関係を制御することで、面積比活性が改善しうることを見出した。図1に示す実施形態においては、金属粒子11(例えば、Auからなる)と、第2の金属層13(例えば、Ptからなる)との間に、前記第2の金属層13を構成する金属よりも卑である金属(例えば、Niからなる)から構成される第1の金属層12を導入する。これによって、第2の金属層13を構成する金属(触媒金属)の電子状態が、第1の金属層12を構成する金属の電子状態の影響を受けるため、第1の金属層12を含まない場合と比較して触媒金属の面積比活性が向上しうる。さらに、金属粒子11を構成する金属を、第1の金属層12を構成する金属よりも貴である金属とすることで、さらに面積比活性が向上しうることを見出した。各層を構成する金属のイオン化列での貴、卑の関係を上記のように制御することで面積比活性が向上する理由は明らかではない。しかしながら、金属粒子11を構成する金属の電子状態が第1の金属層12を構成する金属の電子状態を変化させ、この電子状態の変化が、第2の金属層13を構成する金属の電子状態に影響し、最終的に高い面積比活性を与えている可能性がある。さらに、金属粒子11として第1の金属層12を構成する金属よりも貴である金属を用いることで粒子の溶出が抑制できる効果があると考えられる。
【0023】
本発明の電極触媒粒子の形状や大きさは特に制限されず、電極触媒に使用される公知の金属触媒と同様の形状および大きさが使用できる。例えば、前記電極触媒の平均粒子径は、小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため酸素還元活性も高くなり好ましい。したがって、電極触媒粒子の平均粒子径は、例えば1〜30nm、好ましくは1.5〜20nm、より好ましくは2〜10nmである。導電性担体上への担持も容易さなどの観点から1nm以上であることが好ましく、触媒利用率の観点から30nm以下であることが好ましい。なお、本発明による電極触媒粒子の平均粒子径とは、X線回折における回折ピークの半値幅より求められる結晶子径または透過型電子顕微鏡像により調べられる電極触媒粒子の粒子径の平均値により測定することができる。
【0024】
さらに、本願発明の電極触媒粒子は、通電が不要な化学的還元によって製造することができる。そのため、低コストであり、大量調製が可能である。
【0025】
上述の特許文献1には、合金を含むナノ粒子をアニールしてコアシェル粒子を調製し、このコアシェル粒子上に卑金属の単原子層をUPD法を用いてさらに積層し、この単原子層を触媒金属としての貴金属で置換する、電極触媒の製造方法が開示されている。この方法によって、卑金属のコアと貴金属のシェルからなるコアシェル粒子上にさらに触媒金属としての貴金属の単原子層が積層された、3層のコアシェル構造のナノ粒子が製造される。具体的には、卑金属であるNiと貴金属であるAuとの合金を導電性担体であるカーボンに担持させたNi−Au/Cを調製し、その後、H雰囲気下、600℃で熱処理してAuを表面に移動させ、Au/Ni/Cを調製する。その後、UPD法を用いて表面にCuの単原子層を形成してCu/Au/Ni/Cとし、Pt溶液に浸漬することでCuをPtに置換させてPt/Au/Ni/Cを得る。
【0026】
しかしながら、600℃での熱処理が必要であるため、製造工程が増加する。さらに、CuのUPDのような通電を要する電気化学的還元を含むため、電極上でのみ調製可能である。さらにCuをPtで置換する工程も電極上で行なわれるため、低コスト化や大量生産は困難である。
【0027】
一方で本願発明の電極触媒粒子は、通電が不要な化学的還元によって製造することができる。すなわち、熱処理が必要なく、すべての工程をウェットプロセスとすることができ、通電が不要であるため、低コスト化、大量生産が可能になる。
【0028】
以下、本発明の電極触媒粒子の構成部材ごとに説明する。
【0029】
(金属粒子)
金属粒子は、本実施形態の電極触媒粒子の中心部を構成する粒子である。金属粒子の粒子径は、特に限定されないが、例えば0.5〜20nm、好ましくは0.5〜15nm、より好ましくは0.5〜10nmである。
【0030】
前記金属粒子を構成する金属としては、第1の金属層を構成する金属よりも貴であれば特に制限されないが、例えば、Au、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Ag、Cuなどが挙げられる。中でも、Au、Pt、Pdが好ましく、特にAu、Ptが好ましい。これらの金属を用いることで、高い触媒活性が得られうる。また、粒子の溶出を抑制できる。また、上記の金属のうち比較的安価な金属を用いることで低コスト化を図ることができる。前記金属粒子は、単一の金属から構成されていてもよく、2種類以上の金属から構成される複合物(合金)であってもよい。なお、本明細書中、各層を構成する金属間でイオン化傾向のより小さい金属を貴、より大きい金属を卑であるとする。また、本明細書中、前記電極触媒粒子を構成する各層が2種類以上の金属から構成される場合、各層を構成する金属間の貴、卑の関係は、各層の主成分となる金属の間の貴、卑の関係を意味するものとする。
【0031】
(第1の金属層)
第1の金属層は、上記の金属粒子の表面に形成され、後述する第2の金属層との間の中間層を形成する。第1の金属層は、第2の金属層に含まれる触媒金属の使用量を低減させ、前記触媒金属の電子状態に影響を与えることで触媒活性を向上させうる。
【0032】
前記第1の金属層を構成する金属としては、金属粒子を構成する金属および第2の金属層を構成する金属よりも卑であれば特に制限されないが、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、またはAgなどが挙げられ、より好ましくはCr、Ag、Ni、Coであり、特に好ましくはNiである。上記のような金属を用いると、第2の金属層を構成する金属の面積比活性がより向上しうる。特にNiに関しては、基板上に形成したPt薄膜のモデル電極において、Pt薄膜の下地層としてNi膜を形成することでPt薄膜の面積比活性が下地層を設けない場合に比べて大きく向上することが確認されている。前記第1の金属層は、単一の金属から構成されてもよく、2種類以上の金属から構成される複合物(合金)であってもよい。
【0033】
前記第1の金属層の厚みは、特に制限されないが、好ましくは50原子層以下であり、より好ましくは30原子層以下であり、さらに好ましくは10原子層以下である。前記第1の金属層の厚みが上記範囲であれば、前記第1の金属層を構成する金属の電子状態が金属粒子を構成する金属の電子状態の影響を受けてさらに第2の金属層の金属の電子状態を変化させ、高い触媒活性を与えうるために好ましい。加えて、前記第1の金属層の厚みが50原子層以下であれば、電極触媒粒子の粒子径が大きくなりすぎず、十分な比表面積が確保できるため、好ましい。また、前記第1の金属層の厚みは、1原子層以上であることが好ましい。
【0034】
(第2の金属層)
第2の金属層は最表面層であり、触媒成分となる金属(触媒金属)を含む。
【0035】
前記第2の金属層を構成する金属としては、前記第1の金属層を構成する金属よりも貴であれば特に制限されないが、好ましくはPtまたはPtを含む合金である。Ptは燃料電池用電極触媒として高い活性を示し、第2の金属層にPtを含むことによって、第2の金属層を構成する金属の単位面積あたりの活性が向上しうる。Ptと合金化する金属としては、配置される電極における電極反応を促進する機能を有していれば、特に限定されない。合金化する金属は、例えば、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、およびアルミニウムから選択される1以上である。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、好ましくはPtが50原子%超であり、より好ましくは70原子%以上である。
【0036】
前記第2の金属層の厚みは、特に制限されないが、好ましくは50原子層以下であり、より好ましくは30原子層以下であり、さらに好ましくは10原子層以下である。第2の金属層の原子層数を50原子層以下にすることで、第2の金属層を構成する金属の単位質量あたりの比表面積が増加する。そのため、質量あたりの触媒活性を向上させることができる。前記第2の金属層の厚みが薄いほど、第2の金属層を構成する金属の単位質量あたりの表面積が大きくなり、最も好ましくは第2の金属層を構成するすべての金属粒子が表面に露出している状態、すなわち単原子層である。一方、第1の金属層が表面に露出しない単原子層以上の厚みであれば、耐久性の観点から好ましい。
【0037】
さらに、第2の金属層の厚みを50原子層以下にすることで、第2の金属層を構成する金属の電子状態が第1の金属層を構成する金属の電子状態の影響を受けやすくなって第2の金属層を構成する金属の面積比活性がより向上すると考えられる。そのため、質量あたりの触媒活性を向上させる効果が高い。
【0038】
なお、電極触媒粒子を構成する各層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって、または誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)によって測定される各成分の含有量から求めることができる。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、本発明の電極触媒粒子が導電性担体に担持されてなる、電極触媒が提供される。上記電極触媒粒子を担体に担持させた電極触媒は、粉末として取り出し、十分な厚さの燃料電池用の電極触媒層を形成することができる。そのため、高電流密度での電極触媒の利用が可能になる。
【0040】
上記電極触媒粒子の担持量は所望の触媒性能を発揮できる限り特に制限されないが、電極触媒の全量に対して、好ましくは5〜60質量%であり、より好ましくは10〜50質量%である。前記担持量が60質量%以下であると、電極触媒粒子の凝集が抑制でき、導電性担体上での優れた分散度を有効に保持することができ、発電性能の向上効果を有効に発現させることができる利点がある。また、前記電極触媒粒子の担持量が5質量%以上であると、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の発電性能を得ることができ、電極層の厚みを抑制できる。そのため、所望の電池性能を確保するための担持量設計が比較的容易になしうる点で優れている。なお、前記電極触媒粒子(およびその構成成分)の担持量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)によって調べることができる。
【0041】
本発明の電極触媒に用いられる導電性担体としては特に制限されず、公知の導電性担体が使用されうる。好ましくは、前記電極触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有する。また、導電性担体は、集電体として十分な電子導電性を有していることが好ましい。
【0042】
導電性担体の材質としては、酸性雰囲気下で安定であり、電気抵抗が低く、また長さを制御可能である点から、主成分がカーボンである炭素系材料が望ましい。該炭素系材料としては、具体的には、例えば、カーボンブラック、活性炭、コークス、グラファイト、高温(黒鉛化)処理したカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバ、カーボンフィブリル構造体、炭素系多孔材料などが例示できる。上記導電性担体は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。なお、本発明において「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
【0043】
また、導電性担体の形状は、特に制限はないが、球状、柱状、管状のいずれの形状を有していてもよい。導電性担体の大きさもまた、特に制限されない。例えば、導電性担体が球状である場合の、導電性担体の平均粒子径は、特に制限されるものではなく、既存の平均粒子径を採用することができる。担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
【0044】
導電性担体のBET比表面積は、前記電極触媒を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよい。球状の導電性担体の場合には、導電性担体のBET比表面積は、好ましくは5〜2000m/g、より好ましくは50〜1500m/gとするのがよい。前記比表面積が、5m/g以上であると球状の導電性担体上への電極触媒および高分子電解質の分散性が向上し、十分な発電性能が得られる点で優れている。一方、2000m/g以下であると電極触媒および高分子電解質の高い有効利用率を有効に保持することができる点で優れている。
【0045】
次に、本発明の電極触媒の製造方法について、説明する。
【0046】
本発明の電極触媒は、いずれの方法によって製造されてもよいが、代表的な製造方法の一実施形態として、図2に示すような方法が使用されうる。すなわち、本発明の他の形態は、金属粒子の表面に、第1の金属層が配置され、前記第1の金属層の表面に第2の金属層が配置されてなる3層構造の電極触媒粒子の製造方法であって、前記金属粒子を構成する金属のイオンを含む溶液に第1の還元剤を添加して金属粒子を含むコロイド分散液を得る段階と、前記コロイド分散液に、前記第1の金属層を構成する金属であって前記金属粒子を構成する金属および前記第2の金属層を構成する金属よりも卑である金属のイオンと第2の還元剤とを添加し、前記金属粒子の表面上に前記第1の金属層を形成する段階と、前記第1の金属層を形成する段階で得られた溶液に、前記第2の金属層を構成する金属のイオンをさらに添加し、前記第1の金属層の表面に前記第2の金属層を形成して電極触媒粒子を得る段階と、を含む、電極触媒粒子の製造方法を提供する。
【0047】
かかる製造方法によれば、触媒金属の質量比表面積が高く、また面積比活性の高い電極触媒粒子をウェットプロセスで調製することができる。また、通電処理が不要であり、簡素化された製造方法であるため、低コストであり大量生産に適する。また、通電処理が不要であるため、第1の金属層、第2の金属層を積層する段階をカーボンなどの導電性担体上で行なう必要がなく、コアシェル構造の電極触媒粒子を調製した後、導電性担体に担持すればよい。そのため、電極触媒粒子を調製する工程において粒子が導電性担体と接することがなく、各層が粒子の表面の全体に均一に被覆されうる。また、電極触媒粒子を調製する工程において溶液中にカーボンなどの導電性担体が含まれないため、各層を構成する金属の還元析出に伴う色の変化を観察することで反応の進行を確認することができる。
【0048】
以下、工程毎に説明する。なお、以下の工程は室温で行われうるが、これに制限されない。
【0049】
(a)金属粒子を構成する金属のイオンを含む溶液に第1の還元剤を添加して金属粒子を含むコロイド分散液を得る段階
まず、金属粒子を構成する金属をイオンとして含む溶液(溶液A)を調製する。金属粒子を構成する金属については上述した通りである。これらの金属元素を構成元素とする金属塩を準備し、溶媒に溶解させる。このような金属塩としては、溶媒に溶解し、還元剤により還元されうるものであれば特に限定されないが、例えば、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化金属酸などが挙げられる。また、これらの2種以上を併用してもよい。
【0050】
溶媒としては、イオン化合物および還元剤を溶解できるものであれば特に特に制限されないが、水、アルコール類、ケトン類またはエーテル類が例示される。また、これらを2種以上併用してもよい。アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノールまたは2−プロパノールなどが例示される。ケトン類としては、ギ酸メチル、酢酸メチルまたは酢酸エチルなどが例示される。エーテル類としては、メチルエチルエーテルまたはジエチルエーテルなどが例示される。イオン化合物を十分に溶解する観点から、溶媒としては、水が好ましい。純水または超純水を用いることが特に好ましい。
【0051】
金属粒子を構成する金属のイオンを含む溶液(溶液A)に含まれる金属イオンの濃度は、特に制限されないが、例えば、50mM以下であり、好ましくは10mM以下であり、より好ましくは5mM以下であり、さらに好ましくは2.5mM以下である。上記範囲であれば、コロイド調製時に形成されたコロイド粒子の凝集を防止することが可能になる。
【0052】
次いで、第1の還元剤を含む溶液(溶液B)を準備する。
【0053】
第1の還元剤としては、特に制限されないが、特に水に溶解するものが好ましい。例えば、クエン酸類、アスコルビン酸類、カルボン酸類、ヒドラジン、ヨウ化水素、硫化水素、または水素化ホウ素塩などが挙げられる。これらの2種以上を併用してもよい。クエン酸類としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムまたはクエン酸アンモニウムなどのクエン酸塩が挙げられる。アスコルビン酸類としては、例えば、アスコルビン酸、アスコリビン酸ナトリウムまたはアスコルビン酸カリウムなどのアスコルビン酸塩などが挙げられる。カルボン酸類としては、例えば、ギ酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、アスパラギン酸、タンニン酸またはそれらのカルボン酸塩などが挙げられる。水素化ホウ素塩としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化トリホウ素リチウム、水素化トリホウ素カリウム、水素化トリエチルホウ素ナトリウムなどが挙げられる。
【0054】
前記第1の還元剤を含む溶液(溶液B)に用いられる溶媒としては、上記の溶液Aと同様のものを用いることができる。
【0055】
第1の還元剤の添加量としては、金属粒子を構成する金属のイオンを含む溶液(溶液A)中の金属イオンを還元させるのに十分な量であれば特に制限されないが、例えば、金属イオン1モルに対して、好ましくは1〜10モルであり、好ましくは1〜5モルであり、更に好ましくは1〜3モルである。2種以上の還元剤を用いる場合は、これらの合計の添加量が上記範囲であることが好ましい。還元剤の添加量が上記範囲であれば、ナノサイズの金属粒子が好適に得られうる。
【0056】
金属粒子を構成する金属のイオンを含む溶液(溶液A)に、第1の還元剤を含む溶液(溶液B)を加えて攪拌することで、金属粒子のコロイド分散液(溶液C)が得られうる。この際、金属イオンが還元されることによって溶液の色の変化が生じる場合、反応が進行したことを目視で確認することができる。
【0057】
(b)金属粒子の表面に第1の金属層を形成する段階
次いで、前記(a)で得られた金属粒子を含むコロイド分散液(溶液C)に、第1の金属層を構成する金属のイオンおよび第2の還元剤を添加することによって、前記金属粒子の表面に、還元析出によって第1の金属層を形成する。
【0058】
この際、好ましくは、第1の金属層を構成する金属のイオンおよび第2の還元剤をそれぞれ溶媒に溶解させて第1の金属層を構成する金属のイオンを含む溶液(溶液D)および第2の還元剤を含む溶液(溶液E)を調製し、溶液D、溶液Eの順に前記金属粒子を含むコロイド分散液(溶液C)に添加して攪拌する。これによって第1の金属層を構成する金属のイオンが還元され、金属粒子の表面に第1の金属層が形成され、2層構造のコアシェル粒子を含む溶液(溶液F)が得られうる。この際、第1の金属層を構成する金属のイオンが還元されることによって溶液の色の変化が生じ、反応が進行したことを目視で確認することができる。
【0059】
本実施形態によれば、第1の金属層を構成する金属は、金属粒子を構成する金属よりも卑である。そのため、金属粒子が溶解することなく、金属粒子の表面に第1の金属層を形成することができる。
【0060】
前記第1の金属層を構成する金属については上述したものと同様である。金属塩としては、特に制限されないが、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化金属酸などを用いることができる。また、還元剤、溶媒については上記(a)の工程で記載したものと同様のものを用いることができるが、還元剤については、第1の金属層を構成する金属が金属粒子を構成する金属よりも卑であることから、前記(a)の工程で用いたものよりも還元力の強いものを用いるか、添加量を多くすることが好ましい。
【0061】
使用する第1の金属層を構成する金属の量としては特に制限されないが、金属粒子を構成する金属1モルに対して、好ましくは0.01〜3000モルであり、より好ましくは0.1〜750モルであり、さらに好ましくは0.1〜50モルである。上記範囲であれば1原子層〜数原子層の金属層が得られうる。
【0062】
攪拌の温度、時間は特に制限されない。攪拌時間は、好ましくは、5分〜3時間であり、より好ましくは10分〜1時間である。
【0063】
(c)第1の金属層の表面に第2の金属層を形成して電極触媒粒子を得る段階
次いで、第2の金属層を構成する金属のイオンを含む溶液(溶液G)を準備する。第2の金属層を構成する金属については上述の通りである。金属塩としては、例えば、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化金属酸、アンモニウム塩などが挙げられる。例えば、Ptを構成元素とする金属塩としては、特に制限されないが、塩化白金酸(典型的にはその六水和物;H[PtCl]・6HO)、ヘキサアンミン白金塩化物([Pt(NHCl])、ジニトロジアンミン白金(Pt(NO(NH)、ジクロロテトラアンミン白金(典型的にはその一水和物;Pt(NHCl・HO)が挙げられる。好ましくは塩化白金酸が用いられうる。
【0064】
その後、第2の金属層を構成する金属のイオンを含む溶液(溶液G)を、上記(b)の段階で得られた2層構造のコアシェル粒子を含む溶液(溶液F)に添加して攪拌する。攪拌の温度、時間は特に制限されない。攪拌時間は、好ましくは、5分〜3時間であり、より好ましくは10分〜1時間である。本実施形態においては、第2の金属層を構成する金属は第2の金属層を構成する金属よりも貴であるため、第1の金属層の表面の金属が第2の金属層を構成する金属に置換され、3層構造の電極触媒粒子が得られうる。
【0065】
使用する第2の金属層を構成する金属の量としては特に制限されないが、金属粒子を構成する金属1モルに対して、好ましくは0.01〜20000モルであり、より好ましくは0.1〜8500モルであり、さらに好ましくは0.1〜2000モルである。上記範囲であれば1原子層〜数原子層の金属層が得られうる。
【0066】
上述の第1の金属層、第2の金属層の原子層数の制御は、例えば、添加する金属塩の量を制御することで行うことができる。
【0067】
具体的には、第2の金属層の層数を制御する際には、例えば、中心となる金属粒子上に第1の金属層が形成された粒子の粒子径を別試験で測定し、目的層数の第2の金属層が形成された際の粒子径を算出する。この第2の金属層の形成時において第1の金属層を構成する金属が酸化還元電位の差による置換反応によって溶出するが、この現象を考慮した上で必要な第2の金属層を構成する金属の量を算出し、この量の金属を含む金属塩の溶液を添加する。
【0068】
次に、第1の金属層においては、目的の層数を決め、第2の金属層を構成する金属の析出時に溶出する層数を求め、目的の層数に溶出する層数を合わせた層数を与える金属の量を算出し、この量の金属を含む金属塩の溶液を添加することで、制御することができる。
【0069】
(d)導電性担体上に電極触媒粒子を担持させる段階
導電性担体上に電極触媒粒子を担持する工程に関しても、特に制限されるものではなく、従来公知の導電性担体であるカーボン担体(カーボンブラック担体など)に電極触媒粒子を担持させる各種製法を適宜利用することができる。すなわち、電極触媒粒子を導電性担体に担持させる方法としては、特に制限はなく、例えば、導電性担体に予め調製した電極触媒粒子を付着させ、その後焼成して該金属粒子を担持(固定化)してもよい。または、例えば、電極触媒粒子を含有する溶液に導電性担体を加え、混合・撹拌し、電極触媒粒子を該導電性担体に担持させる方法がある。
【0070】
例えば、上記(a)〜(c)で記載したようにして得られた電極触媒粒子を含む溶液(溶液H)に、導電性担体を加えて、例えば、0〜90℃で1〜120時間、攪拌・混合する。次に、この混合物を濾過して、洗浄する。この際、純水を用いて繰り返し洗浄することが好ましい。その後、濾過物を、例えば、室温〜90℃で、例えば30分以上、好ましくは4時間以上乾燥する。
【0071】
上述した方法により製造された電極触媒は、高い質量比活性を有する。このため、本実施形態に係る電極触媒は、燃料電池、二次電池、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素及び/又は水素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等の各種電気化学デバイスに用いられる酸素還元触媒として使用することができる。特に本実施形態に係る電極触媒を含む電解質膜−電極接合体やこれを用いた燃料電池は、優れた性能が得られ、触媒金属の使用量を低減することができる。さらに、本発明に係る電極触媒を用いた固体高分子型燃料電池は、車載用動力源、定置型小型発電器、コジェネレーションシステム等に使用することができる。
【0072】
したがって本発明はまた、本発明による電極触媒を含む電気化学デバイスを提供する。
【0073】
本実施形態の電気化学デバイス用の電解質膜−電極接合体(MEA)は、本発明に係る電極触媒を含む電極触媒層を電解質膜の表面の少なくとも一方の面に備える。ここで、本発明に係る電極触媒は、カソード側電極触媒層およびアノード側電極触媒層に使用されてよい。以下、本実施形態の電極触媒を含む燃料電池について、説明する。
【0074】
図3は、燃料電池の基本構成(単セル構成)を模式的に表した断面概略図である。図3において燃料電池(単セル)20は、電解質膜21の両側(表面及び裏面)に、アノード側電極触媒層22aとカソード側電極触媒層22bとがそれぞれ対向して配置されている。本発明の燃料電池20は、これらアノード側電極触媒層22aとカソード側電極触媒層22bの少なくとも一方に、本発明の電極触媒が用いられていることを特徴とするものである。しかしながら、アノードにおける水素の酸化反応に対してカソードでの還元反応が遅く、価電圧が大きいので、少なくともカソード側電極触媒層22bに使用される形態が、効果が大きく好ましい。
【0075】
さらにアノード側電極触媒層22aとカソード側電極触媒層22bの両側(外側)に、アノード側ガス拡散層(GDL)23aおよびカソード側GDL23bとがそれぞれ対向して配置され、電極−膜接合体(以下、MEAともいう)24を構成している。この各GDL23a、23bの両側(外側)にアノード及びカソードパレータ25a、25bが配置されている。該セパレータ25a、25bの内部にはガス流路(溝)26a、26bが設けられている。このガス流路(溝)26a、26bを通じて、水素含有ガス(例えば、Hガスなど)及び酸素含有ガス(例えば、Airなど)がアノード側及びカソード側のGDL23a、23bを通して電極触媒層22a、22bにそれぞれ供給される。さらに、ガスが外部へ漏洩することを防止するために、電解質膜21の外周領域とセパレータ25a、25bとの間にガスケット27がそれぞれ配置されている。
【0076】
以下、本発明の燃料電池につき、構成要件ごとに説明する。
【0077】
(A)電解質膜
本発明の燃料電池に用いることのできる電解質膜は、高いプロトン伝導性を有していればよい。高いプロトン伝導性を有する膜としては、−SOH基などのイオン交換基を有するモノマーの重合体または共重合体;またはイオン交換基を有するモノマーと他のモノマーとの重合体などの公知の材料からなる膜を用いることができる。かかる電解質膜21の材質としては、具体的には、ポリマー骨格の全部又は一部がフッ素化されたフッ素系樹脂であってイオン交換基を備えた電解質、または、ポリマー骨格にフッ素を含まない芳香族系炭化水素樹脂であってイオン交換基を備えた電解質、などが挙げられる。
【0078】
前記イオン交換基としては、特に制限されないが、−SOH、−COOH、−PO(OH)、−POH(OH)、−SONHSO−、−Ph(OH)(Phはフェニル基を表す)等の陽イオン交換基、−NH、−NHR、−NRR’、−NRR’R’’、−NH等(R、R’、R’’は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基等を表す)等の陰イオン交換基などが挙げられる。
【0079】
前記フッ素系樹脂であってイオン交換基を備えた電解質としては、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン‐テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
【0080】
前記芳香族系炭化水素樹脂であってイオン交換基を備えた電解質としては、具体的には、ポリサルホンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸系ポリマー、架橋ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルサルホンスルホン酸系ポリマー等が好適な一例として挙げられる。
【0081】
高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましい。なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。特に、本発明において、高分子電解質としてナフィオン(登録商標、デュポン社製)等のスルホン酸基を有するものを使用する場合には、EWが600〜1100程度のものを使用することが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、スルホン酸基1モル当たりの乾燥膜重量を表し、小さいほどスルホン酸基の比重が大きいことを意味する。
【0082】
また、高分子電解質の量は、特に制限されない。導電性担体質量(C)に対する前記高分子電解質質量(I)の比(Ionomer/Carbon;I/C)が、0.5〜2.0、より好ましくは0.7〜1.6となるような量であることが好ましい。このような範囲であると、十分なプロトン伝導性およびガス拡散性が達成しうる。なお、上記I/C比は、以下に詳述する触媒インク(スラリー)を作製する際に予め混合する電極触媒層中に含まれる導電性担体質量および電解質固形分を測定しておき、これらの混合比を調整することにより、算出され、また、制御できる。また、電極触媒層を分析して、前記I/Cを求める際の、導電性担体の質量(C)とは、電極触媒の質量から触媒金属粒子の質量を差し引いたものとする。触媒金属粒子の質量は誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって定量することができる。電極触媒層を分析して、前記I/Cを求める際の、電極触媒層中の高分子電解質質量(I)は、19F−NMRによる高分子電解質の構造解析、および、電量滴定によるS原子の定量、の2つを組合せることで定量することができる。
【0083】
電解質膜の膜厚は、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定することができるが、5〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜150μmである。電解質膜の膜厚が5μm以上であると製膜時の強度や燃料電池作動時の耐久性の点から好ましく、300μm以下であると燃料電池作動時の出力特性の点から好ましい。
【0084】
なお、本発明では、燃料電池のアノード及びカソードの両電極間に介在される電解質成分を含有してなる構成部材を、電解質膜と称したが、決してその名称に拘泥されない。燃料電池に用いられる使用目的からみて、例えば、電解質層や電解質などと称される場合であっても、本発明でいう電解質膜に含まれる場合がある。他の構成要件についても同様であり、その名称に拘泥されるものではなく、使用目的に照らしてその同一性を判断すればよい。
【0085】
(B)電極触媒層
本発明の燃料電池に用いることのできるアノード側電極触媒層22aとカソード側電極触媒層22bは、少なくとも一方に、本発明の電極触媒が用いられていることを特徴とするものである。好ましくはカソード側電極触媒層22bに、より好ましくはアノード側電極触媒層22aとカソード側電極触媒層22bの両方に、本発明の電極触媒が用いられているのが望ましい。
【0086】
本実施形態による電極触媒層の厚さは、特に限定されないが、0.1〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜20μmである。電極触媒層の厚さが0.1μm以上であると所望する発電量が得られる点で好ましく、100μm以下であると高出力を維持できる点で好ましい。
【0087】
(C)ガス拡散層(GDL)
ガス拡散層(GDL)23a、23bは、MEA24の構成部材に含めてもよいし、MEA24以外の燃料電池セル20の構成部材としてもよい。GDL23a、23bとしては、特に限定されないが、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を基材とする多孔質基材などが挙げられる。また、GDL23a、23bでも電極触媒層22a、22bと同様に撥水性を高めてフラッディング現象を防ぐために、公知の手段を用いて、前記GDL23a、23bの撥水処理を行ったり、前記GDL23a、23b上に炭素粒子集合体からなる層を形成してもよい。
【0088】
本発明のMEAの構成を有する固体高分子型燃料電池において、電極触媒層22、GDL23および電解質膜21の厚さは、燃料ガスの拡散性などを向上させるには薄い方が望ましいが、薄すぎると十分な電極出力が得られない。従って、所望の特性を有するMEA24、更には固体高分子型燃料電池が得られるように適宜決定すればよい。
【0089】
(D)セパレータ
アノード及びカソードセパレータ25a、25bとしては、カーボンペーパー、カーボンクロス、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製や、ステンレス等の金属製のものなど、特に制限されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。また、前記セパレータ25a、25bは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するために所望の形状に加工されたガス流路(溝)26a、26bが形成されているのが望ましく、従来公知の技術を適宜利用することができる。セパレータ25a、25bの厚さや大きさ、ガス流路溝26a、26bの形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
【0090】
(E)ガスケット
上記ガスケット27は、気体、特に酸素や水素ガスに対して不透過であればよいが、一般的には、ガス不透過材料からなるOリングなどの単一の不透過部により構成されていればよい。さらに、必要に応じて、電解質膜21や酸素極及び燃料極触媒層22a、22bのエッジとの接着を目的とする接着部を設けてなる、接着剤付きのガスシールテープ等のような複合的な構成としてもよい。Oリングやガスシールテープの不透過部を構成する材料は、設置後に所定の圧力がかかった状態で、酸素や水素ガスに対して不透過性を示すものであれば特に制限されない。
【0091】
こうした不透過部を構成する材料のうち、Oリングを構成する材料としては、例えば、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴム等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステル等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0092】
一方、ガスシールテープ等の不透過部を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などが挙げられる。また、ガスシールテープ等の接着部を構成する材料としては、電解質膜21や酸素極及び燃料極触媒層22a、22bと、ガスケット27を密接に接着できるものであれば特に制限されない。例えば、ポリオレフィン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー等のホットメルト系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル、ポリオレフィン等のオレフィン系接着剤などが使用できる。
【0093】
上記ガスケット27の形成方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、電解質膜21上に、あるいは電極触媒層22のエッジを被覆しながら電解質膜21上に、上記接着剤を、5〜30μmの厚みになるように塗布する。その後、上記したようなガス不透過材料を10〜200μmの厚みになるように塗布し、これを25〜150℃で、10秒〜10分間加熱することによって硬化させる方法が使用できる。または、予め、ガス不透過材料をシート状に成形した後に、この不透過膜に接着剤を塗布して、ガスケット27を形成した後、これを電解質膜21上に、あるいはガスケット27の一部を被覆しながら電解質膜21上に、貼り合わせてもよい。この際、不透過部の厚みは、特に制限されないが、15〜40μmが好ましい。また、接着部の厚みは、特に制限されないが、10〜25μmが好ましい。
【0094】
上記ガスケット27については、市販のものを購入して用いてもよい。ここでいう市販のものには、購入者側の仕様(寸法、形状、材料、特性など)に応じてメーカーが製造したような発注品ないし特注品等も含まれるものとする。
【0095】
本発明のMEA24の構成を有する燃料電池において、電極触媒層22、GDL23、および電解質膜21の厚さは、燃料ガスの拡散性などを向上させるには薄い方が望ましいが、薄すぎると十分な電極出力が得られない。従って、所望の特性を有するMEA(燃料電池)が得られるように適宜決定すればよい。
【0096】
また、本発明の燃料電池は、上記の電極触媒層22を内側、GDL23を外側とし、電解質膜21を用い、該電解質膜21を両側から電極触媒層22で挟んで、適当にホットプレスすることによりMEA24を作製することができる。
【0097】
かかるホットプレス条件としては、適当な温度、圧力を設定するのが望ましい。具体的には、130〜200℃、好ましくは140〜160℃に加温し、1MPa〜5MPa、好ましくは2MPa〜4MPaで1〜10分間、好ましくは3〜7分間、ホットプレスするのが望ましい。ホットプレス温度が130℃以上であれば(膜の軟化が見られ、接合が容易である。またホットプレス温度が200℃以下であれば、膜の分解が防げる。また、ホットプレス圧が1MPa以上であれば、接合が容易である。またホットプレス圧が5MPa以下であれば、膜の穴あきなどの不具合が防止できる。更にホットプレス時間が1分間以上であれば、接合が容易である。またホットプレス時間が10分間以下であれば、膜の穴あきなどの不具合が防止できる。また、ホットプレスの際の雰囲気は、MEAに影響を及ぼさない雰囲気で行うのが望ましく、窒素中などの雰囲気で行うのが望ましい。
【0098】
また、本発明の燃料電池の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の製造技術を用いて組み立てることができる。例えば、触媒インクを電解質膜上に塗布・乾燥させた後ホットプレスして、電極触媒層を電解質膜と接合し、得られた接合体をガス拡散層で挟持して、MEAとする方法;触媒インクを、前記ガス拡散層上に塗布・乾燥させて電極触媒層を形成し、これを電解質膜とホットプレスにより接合する方法、などであってもよく各種公知技術を適宜用いて行えばよい。
【0099】
燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
【0100】
前記燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。上述の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。このため、これを用いた燃料電池は、車載性の点から、車両に該燃料電池を適用した場合、特に有利である。
【0101】
特に、前記高分子電解質形燃料電池は、定置用電源の他、搭載スペースが限定される自動車などの移動体用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられるのが特に好ましい。
【実施例】
【0102】
本実施形態の効果を以下の実施例を用いて説明する。ただし、本実施形態の技術的範囲が以下の実施例のみに限定されるわけではない。
【0103】
まず、実施例1、2の電極触媒の調製手順の概略を図4に示す。
【0104】
<実施例1(Pt/Ni/Au/C)>
触媒調製用のビーカーに0.968gの塩化金酸水溶液(9.26wt%)を秤量し、これに10℃以下に冷却した超純水300mLを加えて、溶液A(0.435mM、500mL)とした。
【0105】
別のビーカーに0.31gのクエン酸三ナトリウム二水和物を秤量し、50mLの超純水を加え、超音波により完全に溶解させた。その後、0.1gの水素化ホウ素ナトリウムを加え、溶解させて、溶液Bとした。この溶液Bを25mL秤量し、上記の溶液Aに加えると、溶液の色が黄色から赤紫色へと即座に変化した。この溶液を30分間攪拌を継続し、溶液Cとした。
【0106】
次いで、別のビーカーに0.6gのクエン酸三ナトリウム二水和物を秤量し、50mLの超純水を加え、超音波により完全に溶解させた。その後、0.2gの水素化ホウ素ナトリウムを加え、溶解させ、溶液Eとした。さらに11mL(0.105M)の塩化ニッケル・六水和物水溶液(溶液D)を秤量し、上記赤紫色の溶液Cに加えた。次いで、溶液Eを全量加え、30分間攪拌を継続した。上記手順により、溶液の色が黒色に変化した(溶液F)。
【0107】
次に、6.3mLの塩化白金酸水溶液(30mM)(溶液G)を加え、30分間攪拌を継続した(溶液H)。
【0108】
その後、溶液Hに0.1gのケッチェンブラック(平均粒子径50nm)の分散液を加え、約60時間攪拌を継続し、カーボン担体表面に触媒金属を担持させた。
【0109】
その後、濾過を行い、超純水で3回、十分に洗浄し、60℃で4時間以上乾燥させ、得られた物質を電極触媒とした。
【0110】
<実施例2(Pt/Co/Au/C)>
触媒調製用のビーカーに0.968gの塩化金酸水溶液(9.26wt%)を秤量し、これに10℃以下に冷却した超純水300mLを加えて、溶液A(0.435mM、500mL)とした。
【0111】
別のビーカーに0.31gのクエン酸三ナトリウム二水和物を秤量し、50mLの超純水を加え、超音波により完全に溶解させた。その後、0.1gの水素化ホウ素ナトリウムを加え、溶解させて、溶液Bとした。この溶液Bを25mL秤量し、上記の溶液Aに加えると、溶液の色が黄色から赤紫色へと即座に変化した。この溶液を30分間攪拌を継続し、溶液Cとした。
【0112】
次いで、別のビーカーに0.6gのクエン酸三ナトリウム二水和物を秤量し、50mLの超純水を加え、超音波により完全に溶解させた。その後、0.2gの水素化ホウ素ナトリウムを加え、溶解させ、溶液Eとした。さらに11mL(0.105M)の塩化コバルト六水和物水溶液(溶液D)を秤量し、上記赤紫色の溶液Cに加えた。次いで、溶液Eを全量加え、30分間攪拌を継続した。上記手順により、溶液の色が黒色に変化した(溶液F)。
【0113】
次に、6.3mLの塩化白金酸水溶液(30mM)(溶液G)を加え、30分間攪拌を継続した(溶液H)。
【0114】
その後、溶液Hに0.1gのケッチェンブラック(平均粒子径50nm)の分散液を加え、約60時間攪拌を継続し、カーボン担体表面に触媒金属を担持させた。
【0115】
その後、濾過を行い、超純水で3回、十分に洗浄し、60℃で4時間以上乾燥させ、得られた物質を電極触媒とした。
【0116】
<比較例1(Pt/C)>
触媒調製用のセパラブルフラスコに1.0gのケッチェンブラックと還元剤として40mLのメタノールを加え、前記溶液に0.5wt%のジアミンジニトロ白金硝酸塩水溶液を200g加え、85度に加熱し、6時間攪拌を行った。この際、セパラブルフラスコの上部を還流管に接続し、還流条件下で実施した。その後、濾過を行い、超純水で3回、十分に洗浄し、60℃で4時間以上乾燥させ、得られた物質を電極触媒とした。
【0117】
<比較例2(Pt/Au/C)>
上記実施例1と同様の手順で、溶液Cを調製した。
【0118】
別のビーカーに還元剤を秤量し、超純水を加え、超音波により完全に溶解させて、還元剤溶液を調製した。次に、6.3mLの塩化白金酸水溶液(30mM)を溶液Cに加え、次いで、上記の還元剤溶液を加え、30分間攪拌を継続した。
【0119】
その後、0.1gのケッチェンブラック(平均粒子径50nm)の分散液を加え、約60時間攪拌を継続し、カーボン担体表面に触媒金属を担持させた。
【0120】
その後、濾過を行い、超純水で3回、十分に洗浄し、60℃で4時間以上乾燥させ、得られた物質を電極触媒とした。
【0121】
<透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察>
図5は、実施例1で調製した電極触媒のTEM測定結果を示す写真である。測定は、日立製作所社製の電界放射型透過型電子顕微鏡HF−2000を用いて行った。加速電圧は200kVであった。前処理は懸濁法で行った。図5から、実施例1の電極触媒粒子は約5nmの平均粒子径を有する粒子であることが確認された。
【0122】
<ICP分析>
表1に、実施例1で調製した電極触媒のICP分析結果を示す。ICP分析は、SIIナノテクノロジー社製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置SPS−3500を用いて測定した。前処理は融解法で行った。
【0123】
【表1】

【0124】
上記表1から、Niの担持量が仕込み量よりも大幅に減少していることがわかる。このことから、Ptの析出はNiとPtイオンとの置換反応によるものであることが確認できる。また、実施例1の金属粒子と同様の方法で調製したAuの粒子をケッチェンブラックに担持させたもの(Au/C)のTEM観察(図示せず)から、Auの平均粒子径が約3nmであることが確認された。このAuの平均粒子径と、表1の元素分析結果から、ほぼ1原子層のNiとほぼ2原子層のPtとが存在することがわかった。
【0125】
また、図6(a)に示す実施例1の電極触媒Pt/Ni/Au/CのCV特性から、1.15V(vs.RHE)付近のAuによるピークが図6(b)の比較例2のPt/Au/Cに比べて低減されていることが確認された。このことから、実施例1の電極触媒では表面に露出したAuの面積が小さく、Pt被覆率が大幅に向上していることがわかった。
【0126】
<酸素還元活性評価>
三電極式の電気化学セルを用い、ポテンショスタットとして、北斗電工社製電気化学システムHZ−5000を用いた。作用極として、グラッシーカーボン回転電極(GC−RDE)を用い、実施例および比較例で作製した電極触媒を分散媒に分散させたインクをコーティングして乾燥させた電極を用いた。電極面積は0.196cmであった。対極に白金ワイヤー、参照電極には可逆水素電極を用いた。電解液は0.1M過塩素酸を用い、Oで飽和させた。測定は25℃で行なった。
【0127】
触媒有効表面積(ECA)の算出は、サイクリックボルタンメトリー(CV)により実施した。測定実施前に、500mV/sの電位掃引速度で0〜1.2Vの電位範囲を、20サイクル電位走査を実施した(触媒表面クリーニング処理)。その後、0〜1.2Vの電位範囲を50mV/sの電位掃引速度で3サイクル測定した。このときの3サイクル目のデータを用い、水素吸着の電気量210μC/cmを用いて触媒有効表面積を算出した。
【0128】
酸素還元活性評価に関しては、Koutecky−levich式を用いて算出した。ここで、N雰囲気中での電流をO中での結果から引くことで酸素還元反応に起因しない電流を差し引いた。
【0129】
表2および図7、8に、各実施例および比較例で作成した電極触媒の触媒活性を示す。図7は、それぞれの電極触媒の質量比活性の比較を表すグラフである。図8は、それぞれの電極触媒の白金の質量比表面積(m/g)と面積比活性(μA/cm)とをプロットした図であり、グラフの右上に行くほど質量比活性が高く、高性能であることを表す。なお、従来例の電極触媒の質量比活性は引用文献1の結果から計算によって求めた値である。
【0130】
【表2】

【0131】
表2および図7、8の結果から、本願実施例で調製された電極触媒は、従来用いられているPt/C、Pt/Au/C、Pt/Au/Ni/Cと比較して高い質量比活性を示すことが明らかになった。
【符号の説明】
【0132】
10 電極触媒粒子、
11 金属粒子、
12 第1の金属層、
13 第2の金属層、
20 燃料電池セル、
21 電解質膜、
22 燃料電池電極触媒層、
22a アノード側電極触媒層、
22b カソード側電極触媒層、
23 ガス拡散層、
23a アノードガス拡散層、
23b カソードガス拡散層、
24 電解質膜−電極接合体(MEA)、
25a アノードセパレータ、
25b カソードセパレータ、
26a アノード側ガス流路(溝)、
26b カソード側ガス流路(溝)、
27 ガスケット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子の表面に、第1の金属層が配置され、前記第1の金属層の表面に第2の金属層が配置されてなる3層構造の電極触媒粒子であって、
前記第1の金属層を構成する金属が、前記金属粒子を構成する金属および前記第2の金属層を構成する金属よりも卑な金属であることを特徴とする、電極触媒粒子。
【請求項2】
前記第2の金属層が、50原子層以下の厚みを有する、請求項1に記載の電極触媒粒子。
【請求項3】
前記第2の金属層を構成する金属が、白金を含む、請求項1または2に記載の電極触媒粒子。
【請求項4】
前記第1の金属層を構成する金属が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、もしくはAg、またはこれらの金属の複合物を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極触媒粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極触媒粒子が、導電性担体に担持されてなる、電極触媒。
【請求項6】
請求項5に記載の電極触媒を含む、電気化学デバイス。
【請求項7】
燃料電池である、請求項6に記載の電気化学デバイス。
【請求項8】
金属粒子の表面に、第1の金属層が配置され、前記第1の金属層の表面に第2の金属層が配置されてなる3層構造の電極触媒粒子の製造方法であって、
前記金属粒子を構成する金属のイオンを含む溶液に第1の還元剤を添加して金属粒子を含むコロイド分散液を得る段階と、
前記コロイド分散液に、前記第1の金属層を構成する金属であって前記金属粒子を構成する金属および前記第2の金属層を構成する金属よりも卑である金属のイオンと第2の還元剤とを添加し、前記金属粒子の表面上に前記第1の金属層を形成する段階と、
前記第1の金属層を形成する段階で得られた溶液に、前記第2の金属層を構成する金属のイオンをさらに添加し、前記第1の金属層の表面に前記第2の金属層を形成して電極触媒粒子を得る段階と、
を含む、電極触媒粒子の製造方法。
【請求項9】
前記金属粒子を含むコロイド分散液調製時の前記金属粒子を構成する金属の金属イオン濃度が2.5mM以下である、請求項8に記載の電極触媒粒子の製造方法。
【請求項10】
前記第1の金属層が、50原子層以下の厚みを有する、請求項8または9に記載の電極触媒粒子の製造方法。
【請求項11】
前記第2の金属層を構成する金属が、白金を含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の電極触媒粒子の製造方法。
【請求項12】
前記第1の金属層を構成する金属が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、もしくはAg、またはこれらの複合物を含む、請求項8〜11のいずれか1項に記載の電極触媒粒子の製造方法。
【請求項13】
金属粒子の表面に、第1の金属層が配置され、前記第1の金属層の表面に第2の金属層が配置されてなる3層構造の電極触媒粒子が導電性担体に担持されてなる電極触媒の製造方法であって、
前記金属粒子を構成する金属のイオンを含む溶液に第1の還元剤を添加して金属粒子を含むコロイド分散液を得る段階と、
前記コロイド分散液に、前記第1の金属層を構成する金属であって前記金属粒子を構成する金属および前記第2の金属層を構成する金属よりも卑である金属のイオンと第2の還元剤とを添加し、前記金属粒子の表面上に前記第1の金属層を形成する段階と、
前記第1の金属層を形成する段階で得られた溶液に、前記第2の金属層を構成する金属のイオンをさらに添加し、前記第1の金属層の表面に前記第2の金属層を形成して電極触媒粒子を得る段階と、
前記電極触媒粒子を導電性担体に担持させる段階と、
を含む、電極触媒の製造方法。
【請求項14】
前記導電性担体上に担持させる電極触媒粒子の担持量が5〜60質量%である、請求項13に記載の電極触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−80683(P2013−80683A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221368(P2011−221368)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】