説明

電極/高分子電解質膜接合体の製造方法

【目的】 ポットプレスを行った場合でも細孔が潰れることがなく、電極触媒の利用率が向上された高性能な電極/高分子電解質膜接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【構成】 電極触媒と造孔剤とを混合させて電極を作成する第1ステップと、前記造孔剤を含む電極を、高分子電解質膜の少なくとも片面に接合させる第2ステップと、前記造孔剤を除去して電極内に細孔を形成させる第3ステップとを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は種々の電極反応に使用できる電極/高分子電解質膜接合体(特に、固体高分子型燃料電池)の製造方法に関し、詳しくは電極と高分子電解質膜との接合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】固体高分子型燃料電池は高分子電解質膜(即ち、イオン交換膜)の両面に正極と負極とが配された構造である。従来、イオン交換膜上への電極の形成方法としては以下の2つの方法が知られている。
■ 電極触媒(白金や白金合金等の活性触媒金属粒子、或いはカーボンブラック等の触媒担体に前記活性触媒金属粒子を担持させたもの)と,PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)と,イオン交換体との混合物をイオン交換膜上に塗布又は吹き付けた後、100〜200kg/cm2 の圧力でホットプレスを行なう方法。
■ 前記電極触媒と,PTFEと,イオン交換体との混合物を圧延ローラ等によってシート化し、これをイオン交換膜上に100〜200kg/cm2 の圧力でホットプレスを行ない接合する方法。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記従来の■・■の方法では、電極触媒と,PTFEと,イオン交換体とを混合して電極を作成する工程で、予め電極内に細孔を形成させている。そして、前記細孔を有する電極を、イオン交換膜上に100〜200kg/cm2 の高圧でホットプレスを行うことにより接合しているため、折角電極内に形成させた細孔がホットプレスによって潰れるという問題がある。したがって、ガス拡散通路である電極内の細孔径が小さくなるばかりでなく細孔量(気孔率)も小さくなる。その結果、電極内に反応ガスが十分に拡散することができないため、電極触媒が有効に利用されない、即ち、触媒利用率が低下するという課題を有していた。このような触媒利用率の低下は、特に電極反応物質としてガスを使用する燃料電池において深刻であり、燃料電池の特性の低下を引き起こす要因となる。
【0004】そこで、上記課題を解決するために、低圧でホットプレスを行うことにより電極とイオン交換膜とを接合する方法が提案されているが、この場合は、電極とイオン交換膜との接触が不十分であるため、電極/イオン交換膜間の抵抗が増大し電池特性が低下するという課題が生じる。本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ポットプレスを行った場合でも細孔が潰れることがなく、電極触媒の利用率が向上された高性能な電極/高分子電解質膜接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するため、電極触媒と造孔剤とを混合させて電極を作成する第1ステップと、前記造孔剤を含む電極を、高分子電解質膜の少なくとも片面に接合させる第2ステップと、前記造孔剤を除去して電極内に細孔を形成させる第3ステップとを有することを特徴とする。
【0006】
【作用】上記の本発明方法によれば、造孔剤を含む電極と,高分子電解質膜とを従来のように高圧でポットプレスを行うことにより接合した場合でも、ポットプレスを行う時点では電極内に細孔が形成されていないため、従来のように細孔が潰れることがない。また、造孔剤を含む電極と,高分子電解質膜とを接合させた後に、前記造孔剤を除去しているため、電極内には十分な細孔を確保することができる。その結果、電極のガス拡散性能,及び電極触媒の利用率を向上させることができる。
【0007】
【実施例】
〔実施例〕図1は本発明方法にて製造された電極/高分子電解質膜接合体の一実施例としての固体高分子型燃料電池の概略断面図である。この固体高分子型燃料電池1は、高分子電解質膜としてのイオン交換膜2の両面に電極(電極触媒層シート)3が接合された構造である。図中、4は電極触媒、5はPTFE粒子であり、6は造孔剤としての亜鉛粉末を除去することにより形成された細孔である。
【0008】ここで、上記構成の固体高分子型燃料電池を以下のようにして製造した。先ず、電極(電極触媒層シート)の製造について説明する。触媒担体としてのカーボンブラックに、活性触媒金属粒子としての20wt%白金を担持させて成る電極触媒と,PTFE粒子とを混合し、前記PTFE粒子の含有量が20wt%となるように調整した。次に、この混合物に更に造孔剤としての亜鉛粉末(粒径20μm)を混合し、前記混合物に対して亜鉛粉末の含有量が20wt%となるように調整した。その後、前記混合物と分散媒(有機系溶媒)としてのケロシンとを混合した後、0.5mg/cm2 −Ptとなるように圧延ローラを用いてシート化し、100℃で24時間乾燥させて電極触媒層シートを作成した。続いて、この電極触媒層シートを、イオン交換体としての5wt%ナフィオン溶液(アルドリッチケミカル社)中に浸積することにより、電極触媒層シート中に3mg/cm2 のイオン交換体を含浸させた。しかる後、この電極触媒層シートを真空乾燥することにより、造孔剤を含む電極(電極触媒層シート)を製造した。
【0009】次に、上記造孔剤を含む電極(電極触媒層シート)を、イオン交換膜上に接合する方法について説明する。上記方法にて製造した造孔剤を含む電極(電極触媒層シート)を、イオン交換膜としてのナフィオン117(デュポン社)の両面に200kg/cm2 ,125℃でホットプレスを行うことにより接合し、電極とイオン交換膜との接合体(電極/イオン交換膜接合体)を製造した。
【0010】続いて、前記電極/イオン交換膜接合体に細孔を形成して固体高分子型燃料電池を製造する方法について説明する。上記方法にて製造した電極/イオン交換膜接合体を、強酸水溶液としての塩酸溶液中(濃度1mol/リットル)に浸積した後、更に水洗して電極内に含まれている亜鉛粉末を完全に除去することにより、電極内に十分に細孔が確保された固体高分子型燃料電池を製造した。
【0011】このようにして製造した固体高分子型燃料電池を以下、(A)電池と称する。
〔比較例〕触媒担体としてのカーボンブラックに、活性触媒金属粒子としての20wt%白金を担持させて成る電極触媒と,PTFE粒子とを混合し、前記PTFE粒子の含有量が20wt%となるように調整した。次に、この混合物に更に炭酸水素アンモニウム(NH4 HCO3 )を混合し、前記混合物に対して炭酸水素アンモニウムの含有量が80wt%となるように調整して電極を製造する他は、上記実施例に準じて電池を製造した。
【0012】このようにして製造した固体高分子型燃料電池を以下、(X)電池と称する。
〔実験〕上記本発明の(A)電池と,比較例の(X)電池とを用いて、それぞれの電池特性(電流密度と電池電圧との関係)について調べたので、その結果を図2に示す。
【0013】図2から明らかなように、本発明の(A)電池は比較例の(X)電池に比べて、ガス拡散性能の指針となる限界拡散電流が約2倍に向上していることが認められる。したがって、本発明方法にて製造した(A)電池は、比較例の(X)電池に比べて電池特性が向上することが分かる。これは、本発明の(A)電池では、電極内に細孔が十分に確保されているため、電極のガス拡散性能,及び電極触媒の利用率が向上するからである。これに対して、比較例の(X)電池では、電極とイオン交換膜とを高圧のホットプレスにて接合する際に電極内の細孔が潰れるため、反応ガスが十分に電極内に拡散せず、触媒利用率が低下するためである。
〔その他の事項〕
■ 本発明における造孔剤としては、亜鉛,アルミニウム,クロム,コバルト,錫,鉄,銅,鉛,ニッケル,マグネシウム,或いはこれらの元素を少なくとも1つ以上含む合金や化合物等が好ましい。
■ 前記造孔剤は、有機系溶液に対して難溶解性で、且つ、強酸性水溶液に易溶解性であるものが好ましい。
■ 造孔剤を除去する際に使用する強酸性水溶液としては、塩酸,硫酸,硝酸、或いはこれらを少なくとも1つ以上含む水溶液であることが好ましい。
■ 造孔剤を除去した際に電極内に形成される細孔の大きさは、直径0.1μm〜70μmの範囲内であることが好ましい。
■ 電極触媒としては、白金や白金合金等の活性触媒金属粒子、或いは導電性炭素(例えば、カーボンブラック等)等の触媒担体に前記活性触媒金属粒子を担持させたものが好ましい。
【0014】
【発明の効果】以上説明したように本発明方法によれば、造孔剤を含む電極と,高分子電解質膜とを従来のように高圧でポットプレスを行うことにより接合した場合でも、ホットプレスを行う時点では電極内に細孔が形成されていないため、従来のように細孔が潰れることがない。また、造孔剤を含む電極と,高分子電解質膜とを接合させた後に、前記造孔剤を除去しているため、電極内には十分な細孔を確保することができる。その結果、電極のガス拡散性能,及び電極触媒の利用率を向上させることができるため、工業的に優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法にて製造した固体高分子型燃料電池の概略断面図である。
【図2】本発明の(A)電池と比較例の(X)電池とにおける、電池特性(電流密度と電池電圧との関係)を示すグラフである。
【符号の説明】
1 固体高分子型燃料電池
2 イオン交換膜
3 電極
6 細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 電極触媒と造孔剤とを混合させて電極を作成する第1ステップと、前記造孔剤を含む電極を、高分子電解質膜の少なくとも片面に接合させる第2ステップと、前記造孔剤を除去して電極内に細孔を形成させる第3ステップと、を有することを特徴とする電極/高分子電解質膜接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−203852
【公開日】平成6年(1994)7月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−305
【出願日】平成5年(1993)1月5日
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)