説明

電歪センサ

【課題】素子の変形により電気的変化を生じるセンサであって、時間が経過しても感度が低下しないセンサを提供する。
【解決手段】電歪素子の変形により静電容量変化を生じる電歪センサ(40)において、第1の電歪材料層(1)およびその両面に各々配置された一対の電極(3a、3b)より構成される第1の電歪素子(10)と、第2の電歪材料層(11)およびその両面に各々配置された一対の電極(13a、13b)より構成される第2の電歪素子(20)と、これら電歪素子間に挟持された基材(25)とを含む受感部(30)を設ける。受感部(30)は、外力の作用を受けることにより変形である。第1および第2の電歪材料層(1、11)の静電容量をそれぞれ測定可能なように、各電極に引出し線(5a、5b、15a、15b)が接続される。第1および第2の電歪材料層(1、11)は、10μm以下の厚みおよび20以上の比誘電率を各々有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電歪センサに関し、より詳細には、バイモルフ構造を有する電歪素子を用いたセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療、福祉、ロボット産業などの様々な分野において、小型で軽量、かつ可撓性のセンサに対する要望が高まってきている。
【0003】
かかるセンサとして、従来、非水系固体電解質を用いたセンサが提案されている(特許文献1を参照のこと)。非水系固体電解質を用いたセンサは、高分子成分およびイオン液体を含む非水系固体電解質膜の両面に電極を形成した素子をセンサの受感部に用いたものであって、外力の作用を受けて素子が変形すると、固体電解質膜中のイオンが移動し、電荷の偏りが生じることで、電圧を発生するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−258008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の非水系固体電解質を用いたセンサでは、当初、素子の変形によりイオンが移動することにより電圧を生じるものの、移動したイオンは、時間の経過と共に平衡状態に向かって動くため、素子が変形状態を維持していても、電圧が低下していくこととなる。具体的には、15分程度の時間が経過すると電圧が低下し始めることが認められる。このため、素子の変形時にすみやかにセンサ計測を行なわなければならず、時間が経過すると、センサの感度が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、素子の変形により電気的変化を生じるセンサであって、時間が経過しても感度が低下しないセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、バイモルフ構造を有する電歪素子をセンサの受感部に用いるという着想を独自に得、更なる鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の1つの要旨によれば、電歪素子の変形により静電容量変化を生じる電歪センサであって、
第1の電歪材料層および第1の電歪材料層の両面に各々配置された一対の電極より構成される第1の電歪素子と、第2の電歪材料層および第2の電歪材料層の両面に各々配置された一対の電極より構成される第2の電歪素子と、第1および第2の電歪素子間に挟持された基材とを含む受感部を有し、
受感部は、外力の作用を受けることにより変形可能であり、
第1の電歪材料層の一対の電極間における第1の静電容量および第2の電歪材料層の一対の電極間における第2の静電容量をそれぞれ測定可能なように、各電極に引出し線が接続され、
第1および第2の電歪材料層は、10μm以下の厚みおよび20以上の比誘電率を各々有する、電歪センサが提供される。
【0009】
本発明の上記電歪センサは、第1の電歪材料層およびその両面に各々配置された一対の電極より構成される第1の電歪素子と、第2の電歪材料層およびその両面に各々配置された一対の電極より構成される第2の電歪素子と、これら電歪素子間に挟持された基材とを含む受感部を用いたものである。かかる受感部は、バイモルフ構造を有する電歪素子(より詳細には、2つの電歪素子を基材を介して接合した構造体)である。
【0010】
本発明の上記電歪センサによれば、上記受感部を用いているので、受感部が外力の作用を受けることにより変形したときに、第1の電歪素子の変形に応じて第1の静電容量が変化し、また、第2の電歪素子の変形に応じて第2の静電容量が変化する。第1および第2の電歪素子は、それらの間に基材が存在するために異なる変形を生じ、よって、第1および第2の静電容量の変化も異なることとなる。この相違を利用することにより、第1および第2の静電容量の測定値から、受感部に対する外力の作用の大きさを検知することができる。そして、本発明の上記電歪センサによれば、第1および第2の電歪材料層が、10μm以下の厚みおよび20以上の比誘電率を各々有するので、第1および第2の静電容量を比較的大きくすることができ、第1および第2の静電容量の各測定値から、受感部に対する外力の作用の大きさを精度良く求めることができ、その結果、小型で軽量、かつ可撓性のセンサを実現することが可能となった。かかる本発明の電歪センサは、受感部が変形状態を維持している限り、各静電容量の値は変化しないので、時間が経過してもセンサの感度が低下することはないという利点を有する。
【0011】
本発明の1つの態様において、受感部に外力が作用していない状態下で、第1および第2の電歪素子は、互いに略等しい電歪材料層厚さおよび比誘電率ならびに電極面積を有する。かかる態様によれば、第1および第2の電歪素子が等価な条件を有するので、受感部に対する外力の作用の大きさを比較的簡単に算出することができる。なお、本発明において、2つの数値が「互いに略等しい」とは、これら数値の平均値に対する、これら数値の差の絶対値の割合が10%以下、好ましくは0〜5%であることを意味する。
【0012】
本発明の1つの態様において、受感部が一端にて固定され、電歪センサは、受感部の各電極に接続された引出し線を通じて第1および第2の静電容量を測定する測定部と、測定部から第1および第2の静電容量の各測定データを受け取り、該各測定データから、受感部の他端での変位量を算出する演算部とを更に有する。かかる態様における電歪センサは、センサシステムとしても理解され得、受感部に測定部および演算部を組み合わせて用いることにより、一端で固定された受感部が外力の作用を受けて変形したときの他端での変位量を電気的信号処理により算出することができる。よって、本発明の電歪センサは変位センサとして利用可能である。
【0013】
本発明の上記態様において、演算部は、第1および第2の静電容量の各測定データから、第1および第2の電歪材料層の少なくとも一方の比誘電率を算出し、比誘電率の算出データから、受感部の周囲温度を算出する機能を更に有していてよい。電歪材料層の静電容量は、温度依存性を示すので、第1および第2の静電容量の測定値から、受感部の周囲温度を検知することができる。よって、本発明の電歪センサは温度センサとしても利用可能である。
【0014】
しかしながら、本発明の電歪センサは、測定部および演算部を必ずしも予め有していなくてよい。例えば、別途、静電容量を測定可能な任意の測定器を用いて、受感部の各電極に接続された引出し線を通じて第1および第2の静電容量を測定し、その測定値から、受感部の他端での変位量および必要な場合には受感部の周囲温度をマニュアルで(即ち、ユーザ自身が)算出してもよい。よって、この場合にも、本発明の電歪センサは変位センサとして利用可能であり、また、温度センサとしても利用可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電歪素子の変形により静電容量変化を生じる電歪センサであって、時間が経過しても感度が低下しない電歪センサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の1つの実施形態における電歪センサを示す概略断面図であって、図1(a)は受感部に外力が作用していない状態(無負荷状態)、図1(b)は受感部に外力が作用している状態(負荷状態)を示す。
【図2】本発明の1つの実施形態における電歪センサの使用方法を説明するための図であって、変形後の電歪材料層1の幾何的配置を示す図である。
【図3】電歪材料P(VDF−TrFE−CFE)の比誘電率の温度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の2つの実施形態における電歪センサについて、以下、図面を参照しながら詳述する。
【0018】
(実施形態1)
本実施形態は、受感部を有する電歪センサを、外部(いわゆる外付け)の静電容量測定器に接続して用いる態様に関する。
【0019】
図1を参照して、本実施形態の電歪センサ40は、第1の電歪材料層1および第1の電歪材料層1の両面に各々配置された一対の電極3a、3bより構成される第1の電歪素子10と、第2の電歪材料層11および第2の電歪材料層11の両面に各々配置された一対の電極13a、13bより構成される第2の電歪素子20と、第1および第2の電歪素子10、20間に挟持された基材25とを含む受感部30を有する。第1の電歪材料層1の一対の電極3a、3b間における第1の静電容量Cおよび第2の電歪材料層11の一対の電極13a、13b間における第2の静電容量Cをそれぞれ測定可能なように、各電極3a、3b、13a、13bには引出し線5a、5b、15a、15bが接続される。
【0020】
電歪素子10、20において、第1の電歪材料層1の厚さdおよび第2の電歪材料層11の厚さdは、いずれも10μm以下とし、例えば1〜10μmとし得る。第1の電歪材料層1の比誘電率εr1および第2の電歪材料層11の比誘電率εr2は、いずれも20以上とし、例えば40〜50とし得る。厚さが厚く、比誘電率が小さいと、静電容量は小さく、例えば数十pFとなり、浮遊容量にまぎれてしまって、静電容量を精度良く測定することが困難になる。これに対し、厚さ10μm以下および比誘電率20以上とすると、例えば電極面積100mm以上で、静電容量は1nF以上となり、静電容量の変化量は100pF以上となるので、高精度のセンサが実現される。
【0021】
電歪素子10、20において、電歪材料層1、11は、高分子電歪材料から形成される。高分子電歪材料は、永久双極子を有し、かつ、20以上の比誘電率を示す高分子材料であれば、特に限定されない。高分子電歪材料の例としては、P(VDF−TrFE−CFE)、P(VDF−TrFE−CTFE)、P(VDF−TrFE−CDFE)、P(VDF−TrFE−HFA)、P(VDF−TrFE−HFP)、P(VDF−TrFE−VC)、P(VDF−TrFE−VF)などのターポリマーが挙げられる(Pはポリを、VDFはビニリデンフルオライドを、TrFEはトリフルオロエチレンを、CFEはクロロフルオロエチレンを、CTFEはクロロトリフルオロエチレンを、CDFEはクロロジフルオロエチレンを、HFAはヘキサフルオロアセトンを、HFPはヘキサフルオロプロピレンを、VCはビニルクロライドを、VFはビニルフルオライドを意味する)。なかでも、P(VDF−TrFE−CFE)が、大きな歪みが得られる点で特に好ましい。電歪材料層1、11は、使用する高分子電歪材料および厚さが、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0022】
また、電歪素子10、20において、一対の電極3a、3bは、互いに略等しい面積Sを有するものとし、一対の電極13a、13bは、互いに略等しい面積Sを有するものとする。一対の電極3a、3bの面積Sおよび一対の電極13a、13bの面積Sは、特に限定されないが、いずれも、例えば100mm以上、好ましくは100〜1000mmとし得る。電極3a、3b、13a、13bは、静電容量C、Cを適切に測定し得るように、電歪材料層1、11の各面をそれぞれ全面被覆していることが好ましい。電極3a、3b、13a、13bの厚さは、適宜設定してよいが、例えば20nm〜10μm程度とし得る。
【0023】
電極3a、3b、13a、13bは、電極として機能し得る限り、任意の適切な導電性材料から形成してよい。かかる導電性材料の例としては、Ni(ニッケル)、Pt(白金)、Pt−Pd(白金−パラジウム合金)、Al(アルミニウム)、Au(金)、Au−Pd(金パラジウム合金)などの金属材料、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)、PPy(ポリピロール)、PANI(ポリアニリン)などの有機導電性材料などが挙げられる。このうち、有機導電性材料は、クラックが導入され難いので好ましい。電極3a、3b、13a、13bは、使用する導電性材料および厚さが、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0024】
電歪素子10、20間に挟持される基材25の面積は、一対の電極3a、3bの面積Sおよび一対の電極13a、13bの面積Sと同等以上とする(図示する態様では、基材25の周縁部が電歪素子10、20で覆われずに露出しているが、このことは本発明に必須ではない)。基材25の厚さは適宜設定してよいが、例えば数μm〜100μm程度とし得る。
【0025】
基材25は、任意の適切な可撓性材料から形成してよい。かかる可撓性材料の例としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、セロファン、塩化ビニル、ポリイミド、ポリエステルなどが挙げられる。また、基材25は、上述したような電歪材料から形成してもよい。
【0026】
受感部30は、全体として可撓性を有し、外力の作用を受けることにより変形可能である。受感部30に外力が作用する限り、受感部30をどのように配置して用いてもよいが、典型的には、図示するように、受感部30をその一端30aにて固定し、他端30bをフリーにして、受感部30の他端30bに外力が効率的に作用するように用いられる(図1(b)に示す態様では、受感部30の他端30b付近に対して、矢印Aにて示す方向に外力を作用させている)。しかしながら、受感部30への外力の作用の仕方は、これに限定されず、例えば、電歪素子10、20のいずれかの面に亘って外力が作用してもよい。
【0027】
そして、受感部30の電歪素子10、20が変形することにより、静電容量C、Cがそれぞれ変化する。電歪素子10、20は、それらの間に基材25が存在するために異なる変形を生じる。例えば、図1(b)に示すように受感部30が曲がった場合には、基材25の片面側にある電歪素子10は縮むように変形し、もう片面側にある電歪素子20は伸びるように変形する。この結果、静電容量C、Cは異なる変化を示すこととなる。
【0028】
次に、かかる電歪センサ40の製造方法について説明する。
【0029】
まず、2つの電歪素子10、20を準備する。
電歪素子10は、電歪材料層1と、電歪材料層1の両面に各々配置された2つの電極3a、3bとにより構成される。このような電歪素子10は、例えば以下のようにして作製可能である。電歪材料層1の両面に電極3a、3bを形成する。電極材料に金属材料を用いる場合には、蒸着またはスパッタリングなどによって電極を形成できる。電極材料に有機導電性材料を用いる場合には、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷、刷毛塗布などによって電極を形成できる。図示するように、電極3a、3bは電歪材料層1の全面にそれぞれ形成されることが好ましい。
電歪素子20は、電歪材料層11と、電歪材料層11の両面に各々配置された2つの電極13a、13bとにより構成される。このような電歪素子20は、電歪素子10と同様にして作製可能である。
【0030】
次に、基材25の両面に、上記のようにして得られた電歪素子10、20を接合させる。この接合は、例えば、熱硬化型または紫外線硬化型などの接着剤を用いて実施できる。
【0031】
以上により、受感部30が作製される。しかしながら、受感部30の作製方法はかかる例に限定されず、例えば、基材25の上に電極3a、13aを予め形成しておき、その電極3a、13aの上に電歪材料を塗布またはキャスティングすることにより電歪材料層1、11をそれぞれ形成し、更に、その電歪材料層1、11の上に電極3b、13bをそれぞれ形成してもよい。
【0032】
加えて、受感部30の電極3a、3b、13a、13bに引出し線5a、5b、15a、15bをそれぞれ接続する。引出し線5a、5b、15a、15bの接続は、任意の適切なタイミングで実施してよく、電歪素子10、20を基板25に接合する前および後のいずれであってもよい。
【0033】
以上のようにして、電歪センサ40が製造される。電歪センサ40は、静電容量を測定可能な任意の測定器に引出し線5a、5b、15a、15bを接続し、受感部30の一端30aを壁面31に固定して使用される。かかる静電容量測定器としては、例えば、市販のLCRメータを使用できるほか、インバータを組み込んだ発振回路を用い、その周波数に基づいて静電容量を測定する方法や、一方の電極から一定時間に亘って一定電流を流しこみ、その時の電極間の電圧変化に基づいて静電容量を測定する方法などを採用した測定器を用いることができる。
【0034】
電歪センサ40は、受感部30に可撓性の(柔らかい)電歪素子10、20および基材25を用いているため、耐衝撃性が高く、壊れにくいという利点がある。また、かかる電歪素子10、20を用いた電歪センサ40は、小型で軽量であるという利点もある。
【0035】
次に、電歪センサ40の使用方法(動作)の例について説明するが、本発明の電歪センサは、かかる使用方法に限定されるものではない。
【0036】
・変位センサとしての使用
電歪センサ40は、変位量を測定する変位センサとして使用することができる。電歪センサ40は、受感部30に外力が作用していない状態(無負荷状態)では、図1(a)に示す形態を取っており、受感部30に外力を作用させると(負荷状態)、図1(b)に示すように変形する。このときの、受感部30の他端30bにおける変位量xは、変形後の電歪材料層1の静電容量Cおよび電歪材料層11の静電容量Cを測定することにより算出することができる。以下、その方法についてより詳細に説明する。
【0037】
図1(a)を参照して、電歪素子10、20において、厚さd、d、電極面積S、S、比誘電率εr1、εr2はそれぞれ異なっていてもよいが、受感部30の他端30bでの変位量(および後述する受感部30の周囲温度)の算出を簡単にするためには、互いに略等しいことが好ましい。この使用例においては、受感部に外力が作用していない状態下で、d=d=d、S=S=S、εr1=εr2=ε(T)とする。なお、比誘電率εr1、εr2は温度依存性があるが、電歪材料層1、11に同じ材料を使用すれば、同じ温度特性を示す。本明細書において、任意温度T(℃)での比誘電率εをε(T)にて示すものとする。
【0038】
このとき、静電容量測定器を用いて(後述する実施形態2では測定部により)、電歪材料層1の静電容量Cおよび電歪材料層11の静電容量C(C=C=C)を測定しておいてよい。
【0039】
ここで、受感部30に外力が作用していない状態での、受感部30の周囲温度TがT(℃)であるとすると、以下の式(1)が成立し、静電容量Cを測定すれば、比誘電率ε(T)を算出することができる。
【数1】

式中、
は、温度Tでの、変形前の電歪材料層1の静電容量C(F)および電歪材料層11の静電容量C(F)
εは、真空の誘電率(=8.854×10−12F/m)
ε(T)は、温度T(℃)での、電歪材料層1、11の比誘電率(−)
Sは、電極3a、3b、13a、13bの面積(m
dは、電歪材料層1、11の初期厚さ(m)
をそれぞれ意味する。
【0040】
次に、図1(b)を参照して、受感部30に外力を矢印Aにて示す方向に作用させると、可撓性の受感部30は外力に応じて変形し、典型的には図示するように円弧状に、第1の電歪素子10を内側に、第2の電歪素子20を外側にして湾曲する。この結果、電歪材料層1の厚さdがΔdだけ増加し(d=d+Δd)、電歪材料層11の厚さdがΔdだけ減少した(d=d−Δd)ものと仮定する。厚さd、dに対して電極面積S、Sは十分大きいため、電極面積S、Sは変化しないと見なせる(S=S=S)。
【0041】
ここで、受感部に外力が作用している状態での、受感部30の周囲温度Tを任意温度T(℃)(上記温度Tと同じであっても、ΔTだけ異なっていてもよい)とすると、以下の式(2)、(3)が成立し、これらから以下の式(4)が導かれる。
【0042】
【数2】

式中、
’は、温度T(℃)での、変形後の電歪材料層1の静電容量C(F)
’は、温度T(℃)での、変形後の電歪材料層11の静電容量C(F)
ε(T)は、温度T(℃)での、電歪材料層1、11の比誘電率(−)
Δdは、電歪材料層1、11の厚さの変化量(m)
をそれぞれ意味し、その他の記号は特に断りのない限り上記の通りである(以下も同様とする)。
【0043】
よって、式(4)より、変形後の静電容量C’、C’の値を静電容量測定器(後述する実施形態2では測定部)により測定すれば、Δdが算出される。このことは、変形後の周囲温度T(℃)がどのような温度であっても(換言すれば、温度Tが変形前の温度Tと同じであるか、ΔTだけ異なっているかにかかわらず)同様に当て嵌まる。
【0044】
そして、電歪材料層1の長さ方向の歪みsは、厚さ方向の歪みの1/2と考えて差し支えないので、以下の式(5)が導かれる。
【数3】

式中、
は、電歪材料層1の変形による長さ方向の歪み(−)
を意味する。
【0045】
次に、図1(b)を参照して、受感部30の他端30bにおける変位量xは、電歪材料層1の変形側端部における変位量xおよび電歪材料層11の変形側端部における変位量xに等しいとみなして差し支えない。
【0046】
電歪材料層1に着目し、厚さd=dおよび長さL=Lであった電歪材料層1が、図2に示すように、上記のように厚さd=d+Δdに変化した上、電歪材料層1の中心線上にて長さLを保持したままで内側曲率半径Rおよび中心角θで円弧状に変形したと仮定する。更に、変形前の電歪材料層1の中心線が直線BDに一致すると仮定し、直線BDの長さをLと仮定する。かかる仮定の下、電歪材料層1の変位量xは、直角三角形CDBの辺CDの長さに一致することとなる。図2に示す幾何的配置から角度θ’=θ/2であるので、θ/2が十分に小さいとき、変位量xは以下の式(6)のように近似できる。
【0047】
【数4】

式中、
は、電歪材料層1の変形側端部における変位量(m)
は、電歪材料層1の初期長さ(m)
θは、円弧状に湾曲した電歪材料層1の中心角(−)
をそれぞれ意味する。
【0048】
他方、電歪材料層1の変形による長さ方向の歪みsは、電歪材料層1の長さの変化量ΔLが、電歪材料層1の変形後の内側円弧長さと外側円弧長さの差に等しいと仮定した場合、以下の式(7)で示される。
【0049】
【数5】

式中、
は、電歪材料層1の変形による長さ方向の歪み(−)
は、電歪材料層1の初期長さ(m)
ΔLは、電歪材料層1の長さの変化量(m)
Rは、電歪材料層1の変形後の内側曲率半径(m)
dは、電歪材料層1の初期厚さ(m)
Δdは、電歪材料層1の厚さの変化量(m)
θは、円弧状に湾曲した電歪材料層1の中心角(−)
をそれぞれ意味する。
【0050】
そして、上記の式(6)、(7)よりθを消去して、以下の式(8)が導かれる。
【数6】

【0051】
歪みsは、この式(8)で表わされると共に、上記の式(5)によっても表わされることから、式(5)、(8)よりsを消去して、以下の式(9)が導かれ、Δdがdに比べて十分に小さいとき、以下の式(10)で近似される。
【数7】

【0052】
よって、式(9)および(10)より、上記の式(4)より算出されるΔdを用いれば、電歪材料層1の変形側端部における変位量xが算出され、ひいては、受感部30の他端30bにおける変位量xが算出される。
【0053】
以上、電歪材料層1に着目したが、電歪材料層11に着目すれば、同様にして、以下の式(9’)が導かれ、式(10’)で近似される。
【数8】

式中、
は、電歪材料層11の変形側端部における変位量(m)、
は、電歪材料層11の変形による長さ方向の歪み(−)
dは、電歪材料層11の初期厚さ(m)
Δdは、電歪材料層11の厚さの変化量(m)
をそれぞれ意味する。
【0054】
よって、式(9’)および(10’)より、上記の式(4)より算出されるΔdを用いれば、電歪材料層1の変形側端部における変位量xが算出され、ひいては、受感部30の他端30bにおける変位量xが算出される。
【0055】
電歪材料層1、11のいずれに着目するにせよ、式(10)および式(10’)の右辺は等しくなる。よって、上記の式(4)より算出されるΔdを用いれば、以下の式(11)より、受感部30の他端30bにおける変位量xを算出することができる。
【数9】

【0056】
・温度センサとしての使用
電歪センサ40は、温度を測定する温度センサとして使用することができる。上述の通り、電歪センサ40は、受感部30に外力が作用していない状態(無負荷状態)では、図1(a)に示す形態を取っており、受感部30に外力を作用させると(負荷状態)、図1(b)に示すように変形する。このときの、受感部30の周囲温度Tは、変形後の電歪材料層1の静電容量Cおよび電歪材料層11の静電容量Cを測定することにより算出(または推定)することができる。以下、その方法についてより詳細に説明する。
【0057】
受感部に外力が作用している状態での、受感部30の周囲温度Tが未知温度T(℃)であるとする。上記の式(2)、(3)は、以下の式(12)、(13)に変形される。
【数10】

【0058】
よって、式(12)、(13)より、静電容量C’、C’の値を測定し、上記の式(4)よりΔdが算出されれば、ε(T)を算出することができる。ε(T)を算出するのに、式(12)、(13)のいずれによってもよく、多少の差が生じても誤差範囲である。
【0059】
電歪材料の比誘電率は、材料組成によって異なる温度依存性を示す。例えば、電歪材料としてP(VDF−TrFE−CFE)を用いた場合、その比誘電率の温度特性は表1および図3に示す通りである。図3から理解されるように、比誘電率は、少なくとも0〜50℃の温度範囲において直線近似が可能である(図3中に示す回帰直線に関し、xは温度(℃)、yは比誘電率(−)、Rは決定係数を意味する)。
【0060】
【表1】

【0061】
よって、式(12)および/または(13)から、比誘電率ε(T)が算出されれば、これを図3中に示す回帰直線式に代入して、変形後の受感部30の周囲温度T(℃)を算出することができる。図3に示すグラフそのものから、変形後の受感部30の周囲温度T(℃)を目視で見積もってもよい。
【0062】
以上より、電歪センサ40は、変位センサとして使用可能であり、また、温度センサとしても使用可能である。かかる電歪センサ40は、小型で軽量、かつ可撓性のセンサであり、時間が経過してもセンサの感度が低下しないという利点がある。
【0063】
(実施形態2)
本実施形態は、電歪センサが、受感部に加えて、静電容量測定部および演算部を予め有している(内蔵している)態様に関する。
【0064】
本実施形態の電歪センサは、実施形態1にて図1を参照して上述した受感部30に加えて、受感部30の電極3a、3bに接続された引出し線5a、5bを通じて電歪材料層1の静電容量Cを測定し、および電極13a、13bに接続された引出し線15a、15bを通じて電歪材料層11の静電容量Cを測定する測定部(図1に示さず)と、測定部から静電容量C、Cの各測定データを受け取り、該各測定データから、受感部30の他端30bでの変位量を算出する演算部(図1に示さず)とを更に有する。
【0065】
かかる測定部には、静電容量を測定可能な任意の適切な方法を採用してよく、例えば、インバータを組み込んだ発振回路を用い、その周波数に基づいて静電容量を測定する方法や、一方の電極から一定時間に亘って一定電流を流しこみ、その時の電極間の電圧変化に基づいて静電容量を測定する方法などを採用できる。
【0066】
また、演算部は、例えばプロセッサ、メモリ、その他の電気信号処理を行なうために使用される部材を用いて適宜構成することができる。演算部における演算方法は、実施形態1にて受感部30の他端30bにおける変位量xを算出する方法および受感部30の周囲温度を算出する方法について詳述したのと同様のステップに従って実施することができるが、これに限定されない。
【0067】
更に、本実施形態の電歪センサは、各部材(受感部、測定部、演算部など)の動作を制御する制御部や、各種データを視覚的に表示するディスプレイなどのインタフェースなどを備えていてもよい。
【0068】
以上、本発明の2つの実施形態における電歪センサおよびその使用方法について詳述したが、本発明は種々の改変が可能であろう。
【0069】
例えば、実施形態1および2では、変位および温度を感知するために、電歪センサを所定の条件(例えばd=d=d、εr1=εr2=ε(T)、S=S=Sなど)下にて使用する場合について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されず、第1および第2の静電容量の測定値から、受感部に対する外力の作用の大きさを検知する限り、任意の適切な条件下にて、様々な物理量を検知するために使用可能である。
【0070】
よって、本発明の電歪センサは、変位センサおよび温度センサのほか、種々のセンサに利用可能である。本発明の電歪センサは、例えば、位置センサ、速度センサ、加速度センサ、圧力センサ、角度センサ、流速センサ、歪みセンサ、曲げセンサ、触覚センサなどとして利用可能である。具体的には、変位または位置センサは、ロボットや機械の制御または緊急停止などの用途に使用され得る。速度または加速度センサは、エアバッグ作動等の自動車、ゲーム機コントローラ、携帯電話または携帯情報端末、各種ロボット、手ぶれ防止等のためのカメラ、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)、構造物の振動検知装置などの用途に使用され得る。圧力センサは、侵入物検出、ロードセル、障害物検出、衝突時等の非常作動、マイク、ソナー、カメラ等の精密機器スイッチ、電子楽器等のキーボード、MEMSなどの用途に使用され得る。角度センサは、ポテンショメータ、ロータリーエンコーダなどの用途に使用され得る。流速センサは、風速計、水流計、発電機などの用途に使用され得る。歪みセンサは、荷重計などの用途に使用され得る。曲げセンサは、人工筋肉などの用途に使用され得る。触覚センサは、人工皮膚などの用途に使用され得る。温度センサは、温度計、種々の装置の温度制御または緊急停止などの用途に使用され得る。
【実施例】
【0071】
本実施例は、図1〜3を参照して上述した実施形態1の実施例である。
【0072】
まず、電歪材料層として、厚さ12μm、幅10.6mm、長さ20mmのP(VDF−TrFE−CFE)から成る層を用い、その両面にAlを蒸着して、厚さ20nmのAl電極をそれぞれ形成して、電歪素子を得た。かかる電歪素子を2つ作製し、厚さ38μmのPETから成る基材を、熱硬化型の接着剤を用いて接合した。これにより、受感部を作製し、本実施例の電歪センサを得た。
次に、電歪センサの受感部の2つの電歪素子の各一対の電極にそれぞれ引出し線を接続し、受感部の一端を壁面に熱硬化型の接着剤を用いて接合し、図1(a)に示すように、壁面から受感部を吊り下げた。
【0073】
受感部の周囲温度20℃にて、受感部に外力が作用していない状態で、基材の両側に位置する電歪材料層の静電容量C、Cを測定すると、いずれも7.40nF(C)であった。ここで、上記の式(1)から比誘電率ε(20℃)を求めたところ、約47であった。
【0074】
その後、受感部の周囲温度を変化させずに、図1(b)に示すように、受感部の他端30b付近に対して、矢印Aにて示すように横方向に押圧力を加えることによって外力を作用させた。これにより、受感部は円弧状に曲がり、図2に示す中心角θは15°であった。この状態のまま、基材の両側に位置する電歪材料層の静電容量C、Cを測定すると、内側の電歪材料層の静電容量は7.39nF(C’(20℃))であり、外側の電歪材料層の静電容量は7.41nF(C’(20℃))であった。
【0075】
ここで、上記の式(4)より、電歪材料層の厚さの変化量Δdを求めたところ、約0.016μmであった。これは、電歪材料層の厚みd=12μmに対して0.016μm変化したことを意味する。そして、上記の式(5)より、電歪材料層の長さ方向の歪みs(=s)を求めたところ、約0.00067であった。また、上記の式(11)より、受感部の他端における変位量xを求めたところ、11mmであった。
【0076】
次に、このように受感部を曲げた状態を維持しながら、周囲温度を30℃(ΔT=10℃)として、基材の両側に位置する電歪材料層の静電容量C、Cを測定すると、内側の電歪材料層の静電容量は7.69nF(C’(30℃))であり、外側の電歪材料層の静電容量は7.71nF(C’(30℃))であった。なお、このときの静電容量の温度による変化量は、先の静電容量の測定値より0.3nF(=C’(30℃)−C’(20℃)=C’(30℃)−C’(20℃))となり、静電容量の温度による変化割合は約4%となる。
【0077】
ここで、上記の式(12)、(13)より、電歪材料層の比誘電率ε(30℃)を求めたところ、いずれも約49であった。
【0078】
図3より、比誘電率49に対応する温度は、約30℃であることがわかる。これにより、本実施例の電歪センサで感知された温度が、実際の周囲温度にほぼ等しいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の電歪センサは、特に制限されるものではないが、変位センサおよび温度センサとして利用され得、更に、例えば位置センサ、速度センサ、加速度センサ、圧力センサ、角度センサ、流速センサ、歪みセンサ、曲げセンサ、触覚センサなどとして幅広く利用され得る。
【符号の説明】
【0080】
1、11 電歪材料層
3a、3b、13a、13b 電極
5a、5b、15a、15b 電極
10、20 電歪素子
25 基材
30 受感部
30a 一端
30b 他端
31 壁面
40 電歪センサ
A 外力の作用方向
、d 厚さ
、L 長さ
x、x、x 変位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電歪素子の変形により静電容量変化を生じる電歪センサであって、
第1の電歪材料層および第1の電歪材料層の両面に各々配置された一対の電極より構成される第1の電歪素子と、第2の電歪材料層および第2の電歪材料層の両面に各々配置された一対の電極より構成される第2の電歪素子と、第1および第2の電歪素子間に挟持された基材とを含む受感部を有し、
受感部は、外力の作用を受けることにより変形可能であり、
第1の電歪材料層の一対の電極間における第1の静電容量および第2の電歪材料層の一対の電極間における第2の静電容量をそれぞれ測定可能なように、各電極に引出し線が接続され、
第1および第2の電歪材料層は、10μm以下の厚みおよび20以上の比誘電率を各々有する、電歪センサ。
【請求項2】
受感部に外力が作用していない状態下で、第1および第2の電歪素子は、互いに略等しい電歪材料層厚さおよび比誘電率ならびに電極面積を有する、請求項1に記載の電歪センサ。
【請求項3】
受感部が一端にて固定され、電歪センサは、受感部の各電極に接続された引出し線を通じて第1および第2の静電容量を測定する測定部と、測定部から第1および第2の静電容量の各測定データを受け取り、該各測定データから、受感部の他端での変位量を算出する演算部とを更に有する、請求項1または2に記載の電歪センサ。
【請求項4】
演算部は、第1および第2の静電容量の各測定データから、第1および第2の電歪材料層の少なくとも一方の比誘電率を算出し、比誘電率の算出データから、受感部の周囲温度を算出する機能を更に有する、請求項3に記載の電歪センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−29457(P2013−29457A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166874(P2011−166874)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】