説明

電気めっき方法

【解決手段】コバルト、ニッケル及び鉄の1種以上の金属のイオン、緩衝剤、導電剤並びにハロゲン化物イオンを含む電気めっき浴により、建浴時の電気めっき浴中の導電剤の濃度を飽和濃度の70〜95%とし、減少した電気めっき浴中のめっき浴成分を、粉体状の金属塩、緩衝剤、導電剤若しくはハロゲン化物塩、又はそれらの1種以上の飽和液若しくは懸濁液として電気めっき浴に添加することにより補給し、補給後の電気めっき浴中の導電剤の濃度を飽和濃度の70〜95%に調整して電気めっきを繰り返す。
【効果】形成されるめっき皮膜に高い均一電着性と良好な外観が与えられるように、電気めっき浴を長期間良好な状態に維持して電気めっきを繰り返すことができ、結果、めっき浴中の金属イオン濃度を低下させるための電解処理等の再生処理を頻繁に行わずに、長期にわたって安定しためっき皮膜を得ることができ、極めて経済的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶性陽極を用いて、高い均一電着性を有するニッケル、コバルト、鉄又はこれらの合金めっき皮膜を与える電気めっき浴により、被めっき物を繰り返し電気めっきする場合において、高い均一電着性及び良好な外観を有するめっき皮膜を長期間安定して形成することができる電気めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高い均一電着性を有するめっき皮膜を形成することができる電気めっき液として、例えば、ニッケル、コバルト又は鉄(以下、これらを総称してニッケル系金属という)の水溶性塩、導電剤、緩衝剤、ハロゲン化物イオン、有機光沢剤などを含有する電気めっき液が知られている(特開昭62−103387号公報(特許文献1)、特開昭62−109991号公報(特許文献2)参照)。
【0003】
このような電気めっき液と可溶性陽極とを用いて電気めっきする場合、陽極電流効率は100%に近いのに対し、陰極電流密度は普通約95%と効率差が生じるため、めっきを続けていくと電気めっき液中のニッケル系金属(ニッケル系金属イオン)が増加していく。このニッケル系金属の濃度が増えすぎると、均一電着性が低下することが知られており、高い均一電着性を維持するために、電気めっき液中で許容範囲以上に増加したニッケル系金属を除去する方法が提案されている(特開平8−53799号公報(特許文献3))。
【0004】
この方法は、陽極液と電気めっき液とを陽イオン交換膜で隔離し、陽極液に不溶性陽極、電気めっき液に陰極をそれぞれ浸漬して電解することによって、電気めっき液中の金属イオンを陰極に金属として析出させて除去する方法である。しかし、この方法では1A/dm2程度の電流密度で1〜2日間めっき設備を休止して処理する必要があり、このような処理を頻繁に実施することは経済的ではない。また、この方法によって電気めっき液を処理しても、長期間電気めっき液を繰り返し使用すると、得られるめっき皮膜の均一電着性が低下する場合がある。
【0005】
更に、電気めっきでは、被めっき物に付随して電気めっき液が槽外へ持ち出される、いわゆる「汲み出し」という現象があり、これによって金属イオン以外の成分濃度も変動する。そのため、繰り返してめっきを実施するためには、汲み出しにより減少した各成分が補給されるが、補給の際に沈殿や結晶が発生する場合がある。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−103387号公報
【特許文献2】特開昭62−109991号公報
【特許文献3】特開平8−53799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、可溶性陽極を用いて、高い均一電着性を有するニッケル、コバルト、鉄又はこれらの合金めっき皮膜を与える電気めっき浴により被めっき物を繰り返し電気めっきする場合において、長期にわたり、形成されるめっき皮膜の均一電着性を高いまま維持し、かつ形成されるめっき皮膜の外観を損なわない電気めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、めっき浴を繰り返し使用する場合において高い均一電着性を維持するには、電気めっき浴中のニッケル系金属イオンの増加を抑制すると共に、導電剤濃度を高濃度で、かつ変動を抑えて維持しつづけることが重要であることが判明した。しかし、電気めっき浴中の導電剤濃度を高濃度に維持する場合、電気めっき浴中に導電剤の沈殿や、結晶化が起こりやすく、導電剤の沈殿や、結晶化が生じると、形成されるめっき皮膜の外観が悪くなることが判明した。
【0009】
そこで、めっき皮膜の均一電着性及び外観を長期間にわたり維持するためには、(1)電気めっき浴中のニッケル系金属イオンの濃度上昇を抑えること、(2)電気めっき浴中の導電剤の濃度を高濃度に維持しつつ、飽和濃度を超えさせないために、導電剤濃度を必要以上に高くしないこと、(3)電気めっき浴中の水分の蒸発によって導電剤の沈殿や結晶化が生じないように、建浴時及びめっき浴成分を補給した後の導電剤濃度を飽和濃度より若干低めに設定すること、がそれぞれ必要であることを知見した。
【0010】
そして、そのためには、めっき浴成分として、コバルト、ニッケル及び鉄から選ばれる1種以上の金属のイオン、緩衝剤、導電剤並びにハロゲン化物イオンを含む電気めっき浴により可溶性陽極又は不溶性陽極を用いて被めっき物を繰り返し電気めっきする場合に、建浴時の電気めっき浴中の導電剤の濃度を飽和濃度の70〜95%とし、めっきを繰り返すことにより減少した電気めっき浴中の各々のめっき浴成分を、上記金属イオンを与える粉体状の金属塩、粉体状の緩衝剤、粉体状の導電剤、ハロゲン化物イオンを与える粉体状のハロゲン化物塩、又は上記金属イオンを与える金属塩、緩衝剤、導電剤、及びハロゲン化物イオンを与えるハロゲン化物塩から選ばれる1種以上が飽和した飽和液若しくは懸濁した懸濁液として電気めっき浴に添加することにより補給すると共に、上記めっき浴成分を補給した後の電気めっき浴中の導電剤の濃度を飽和濃度の70〜95%に調整して電気めっきを繰り返すこと、
特に、陰極となる被めっき物及び陽極が浸漬されてめっきが実施されるめっき本槽と、めっき本槽との間で電気めっき浴が循環可能に連結した循環槽とを設け、循環槽に上記めっき浴成分を補給し、めっき本槽と循環槽との間でめっき浴を循環させて上記めっき浴成分を希釈及び/又は溶解させること、その場合、更に、循環槽からめっき本槽へ電気めっき浴が戻される流路にフィルターを設けて、循環槽からめっき本槽への粉体状のめっき浴成分の流入を抑制しつつめっき浴成分を希釈及び/又は溶解させることが有効であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
即ち、本発明は、
[1] めっき浴成分として、コバルト、ニッケル及び鉄から選ばれる1種以上の金属のイオン、緩衝剤、導電剤並びにハロゲン化物イオンを含む電気めっき浴により可溶性陽極又は不溶性陽極を用いて被めっき物を繰り返し電気めっきする方法であって、建浴時の電気めっき浴中の上記導電剤の濃度をその飽和濃度の70〜95%とし、めっきを繰り返すことにより減少した電気めっき浴中の各々のめっき浴成分を、上記金属イオンを与える粉体状の金属塩、粉体状の緩衝剤、粉体状の導電剤、ハロゲン化物イオンを与える粉体状のハロゲン化物塩、又は上記金属イオンを与える金属塩、緩衝剤、導電剤、及びハロゲン化物イオンを与えるハロゲン化物塩から選ばれる1種以上が飽和した飽和液若しくは懸濁した懸濁液として上記電気めっき浴に添加することにより補給すると共に、上記めっき浴成分を補給した後の電気めっき浴中の上記導電剤の濃度をその飽和濃度の70〜95%に調整して電気めっきを繰り返すことを特徴とする電気めっき方法、
[2] 陰極となる被めっき物及び陽極が浸漬されてめっきが実施されるめっき本槽と、該めっき本槽との間で電気めっき浴が循環可能に連結した循環槽とを設け、該循環槽の電気めっき浴に上記めっき浴成分を補給し、上記めっき本槽と上記循環槽との間で電気めっき浴を循環させて上記めっき浴成分を希釈及び/又は溶解させることを特徴とする[1]記載の電気めっき方法、
[3] 上記循環槽から上記めっき本槽へ電気めっき浴が戻される流路にフィルターを設けて、上記循環槽から上記めっき本槽への粉体状のめっき浴成分の流入を抑制しつつ上記めっき浴成分を希釈及び/又は溶解させることを特徴とする[2]記載の電気めっき方法を提供する。
[4] 上記導電剤が硫酸塩であることを特徴とする[2]又は[3]記載の電気めっき方法
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、形成されるめっき皮膜に高い均一電着性と良好な外観が与えられるように、電気めっき浴を長期間良好な状態に維持して電気めっきを繰り返すことができ、結果、めっき浴中の金属イオン濃度を低下させるための電解処理等の再生処理を頻繁に行わずに、長期にわたって安定しためっき皮膜を得ることができ、極めて経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明は、めっき浴成分として、コバルト、ニッケル及び鉄から選ばれる1種以上の金属のイオン、緩衝剤、導電剤並びにハロゲン化物イオンを含む電気めっき浴により可溶性陽極又は不溶性陽極を用いて被めっき物を繰り返し電気めっきする方法であり、建浴時の電気めっき浴中の上記導電剤の濃度をその飽和濃度の70〜95%とし、めっきを繰り返すことにより減少した電気めっき浴中の各々のめっき浴成分を、上記金属イオンを与える粉体状の金属塩、粉体状の緩衝剤、粉体状の導電剤、ハロゲン化物イオンを与える粉体状のハロゲン化物塩、又は上記金属イオンを与える金属塩、緩衝剤、導電剤、及びハロゲン化物イオンを与えるハロゲン化物塩から選ばれる1種以上が飽和した飽和液若しくは懸濁した懸濁液として上記電気めっき浴に添加することにより補給すると共に、上記めっき浴成分を補給した後の電気めっき浴中の上記導電剤の濃度をその飽和濃度の70〜95%に調整して電気めっきを繰り返す方法である。
【0014】
本発明が対象とする電気めっき浴は、高い均一電着性を示し、ニッケル、コバルト及び鉄から選ばれる1種以上の金属(ニッケル系金属)イオン、緩衝剤、導電剤並びにハロゲン化物イオンを含有する。
【0015】
上記金属(ニッケル系金属)イオンは、ニッケル、コバルト又は鉄の水溶性ニッケル系金属塩により電気めっき浴に含有させることができ、例えば、硫酸塩、スルファミン酸塩、塩化物、臭化物等のハロゲン化物など、具体的には硫酸ニッケル、硫酸第1鉄、硫酸コバルト等の硫酸塩、スルファミン酸ニッケル、スルファミン酸第1鉄、スルファミン酸コバルト等のスルファミン酸塩、臭化ニッケル、塩化ニッケル、塩化第1鉄、塩化コバルト等のハロゲン化物が挙げられ、特に、硫酸ニッケル、硫酸第1鉄、硫酸コバルト等の硫酸塩、スルファミン酸ニッケル、スルファミン酸第1鉄、スルファミン酸コバルト等のスルファミン酸塩が好ましい。これら水溶性ニッケル系金属塩は、電気めっき浴中5〜400g/L、特に5〜200g/Lの濃度で用いることが好ましい。なお、水溶性ニッケル系金属塩としてハロゲン化物を用いた場合、電気めっき浴に後述するハロゲン化物イオンの一部又は全部を同時に含有させることができる。
【0016】
このような水溶性ニッケル系金属塩を含む電気めっき浴には、ニッケル系金属のイオンが含まれるが、ニッケル系金属イオンとして、ニッケルイオン、コバルトイオン又は鉄イオンを単独で含むものであっても、これらを2種以上含むものであってもよい。特に、電気めっき浴中のニッケル系金属イオンの濃度は1〜20g/Lであることが好ましい。
【0017】
緩衝剤としては、リンゴ酸、こはく酸、酢酸、酒石酸、アスコルビン酸、クエン酸、乳酸、ピルビン酸、プロピオン酸、蟻酸等の有機酸、これら有機酸の塩、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、エタノールアミン等のアミン化合物、ホウ酸などが挙げられ、これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。特に、ホウ酸、クエン酸又はそれらの塩が好ましい。電気めっき浴中の緩衝剤の濃度は10〜100g/L、特に20〜80g/Lとすることが好適である。
【0018】
導電剤は、上記水溶性金属塩及び緩衝剤とは別に添加されるものであり、導電剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びアルミニウムから選ばれる金属の水溶性塩が好適である。このようなものとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムのハロゲン化物、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム等の塩化物、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化アルミニウム等の臭化物が挙げられる。また、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム等のスルファミン酸塩、メタンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸カリウム等のメタンスルホン酸塩も好適である。これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。特に、優れた色調のめっき皮膜を得たい場合には、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム等のスルファミン酸塩、メタンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸カリウム等のメタンスルホン酸塩が好ましい。
【0019】
電気めっき浴に含まれる導電剤の建浴時の濃度は、めっき温度における飽和濃度の70〜95%、好ましくは80〜90%である。この濃度が70%未満であると、高い均一電着性が維持できない。また、この濃度が95%を超えると、導電剤を補給した際に電気めっき浴中(特にめっきが実施されるめっき本槽のめっき浴中)に沈殿物や結晶が発生しやすくなる。なお、導電剤としてハロゲン化物を用いた場合、電気めっき浴に後述するハロゲン化物イオンの一部又は全部を同時に含有させることができる。
【0020】
ハロゲン化物イオンは、塩化物イオン、臭化物イオンなどが挙げられるが、めっき外観の均一性、めっき表面形態の観点(特に、めっき皮膜への接着性等に影響する結晶粒子のサイズが塩化物イオンの場合より大きい点)、腐食性の観点などから臭化物イオンが特に好適である。水溶性ニッケル系金属塩としてニッケル系金属のハロゲン化物を用いる場合や導電剤としてハロゲン化物を用いる場合、これらが電気めっき浴中にハロゲン化物イオンを与えることになり、電気めっき浴は、ハロゲン化物イオンを含有する。一方、電気めっき浴中に水溶性ニッケル系金属塩や導電剤からハロゲン化物イオンが与えられない場合には、ハロゲン化物イオンを含有させるために、ハロゲン化物塩である陽極溶解剤を添加する。なお、水溶性ニッケル系金属塩としてニッケル系金属のハロゲン化物を用いる場合や導電剤としてハロゲン化物を用いる場合であっても、陽極溶解剤の添加は可能である。
【0021】
陽極溶解剤としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム等の塩化物、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化アルミニウム等の臭化物などのアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムのハロゲン化物を用いることができる。
【0022】
なお、電気めっき浴中のハロゲン化物イオンの濃度は、水溶性ニッケル系金属塩や導電剤から与えられるものを含めて5〜150g/L、特に10〜100g/Lとすることが好適である。
【0023】
更に、アニオン性界面活性剤等の界面活性剤、サッカリン、ナフタレンジスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ブチンジオール、プロパギルアルコール、クマリン、ホルマリンなどの有機光沢剤を、例えば0.01〜0.5g/Lの濃度で電気めっき浴に添加することも可能である。
【0024】
なお、本発明において電気めっき浴は、酸性であることが好ましく、pHは2〜6、特に3〜5が好適である。
【0025】
上記のようなニッケル系金属イオン、緩衝剤、導電剤及びハロゲン化物イオンを含む電気めっき浴は、高い均一電着性を示すものであり、例えば、ハーリングセルを使用し、陽極板と、陰極板とを距離比5で測定した場合の、下記式で示される均一電着性(T)が35%以上を示すものであることが好ましい。
T(%)=[(P−M)/(P+M−2)]×100
T:均一電着性
P:5(陽極と陰極との距離比)
M:2枚の陰極に析出しためっき皮膜の質量比
【0026】
本発明においては、上述した電気めっき浴にて可溶性陽極、例えば、ニッケル、コバルト、鉄又はそれらの合金、又は不溶性陽極を陽極として用い、例えば、陰極電流密度を0.01〜5A/dm2、めっき温度を10〜70℃として、必要に応じて適宜公知の方法(例えば、エア攪拌、カソードロッキングなど)で攪拌しながら被めっき物を繰り返し電気めっきする。その際、めっきを繰り返すことにより減少した電気めっき浴中の各々のめっき浴成分を、上記金属イオンを与える粉体状の金属塩、粉体状の緩衝剤、粉体状の導電剤、ハロゲン化物イオンを与える粉体状のハロゲン化物塩、又は上記金属イオンを与える金属塩、緩衝剤、導電剤、及びハロゲン化物イオンを与えるハロゲン化物塩から選ばれる1種以上が飽和した飽和液若しくは懸濁した懸濁液として上記電気めっき浴に添加することにより補給する。また、必要に応じて、粉体状の有機光沢剤を添加すること、有機光沢剤を上記飽和液又は懸濁液として添加することも可能である。
【0027】
本発明においては、めっきを繰り返すことにより減少した電気めっき浴中の各々のめっき浴成分の補給を、粉末状のめっき浴成分、めっき浴成分が溶解して飽和状態となった水溶液、又は粉末状のめっき浴成分が水に懸濁した懸濁液(懸濁液はめっき浴成分が飽和しているものが好ましい。)によって行う。粉末状、飽和水溶液、懸濁水溶液のようにめっき浴成分を高濃度で含む状態でめっき浴に補給することにより、補給工程において必要以上に水を添加することがなく、めっき浴の液レベルの上昇を避けることができ、また、補給工程後にめっき浴から水を留去する工程を省略することも可能となる。
【0028】
これら金属イオンを与える金属塩、緩衝剤、導電剤、ハロゲン化物イオンを与えるハロゲン化物塩、及び有機光沢剤として具体的には、建浴時の電気めっき浴中に含まれるものとして各々例示したものを同様に挙げることができるが、特に、建浴時の電気めっき浴中に含まれるものと同一のものを用いることが好ましい。更に、必要に応じて、pHを調整するために、酸又はアルカリ(pH調整剤)の添加も可能である。
【0029】
なお、粉末状のめっき浴成分が水に懸濁した懸濁液、特にめっき浴成分が飽和した懸濁液としてめっき浴成分を補給する場合、各々のめっき浴成分の濃度(懸濁液中の溶解及び非溶解のめっき浴成分の濃度(g/kg))は、通常、電気めっき浴の建浴時の濃度(g/L)の2.8倍以下、好ましくは1.2倍を超えて2.8倍以下、より好ましくは1.21倍以上2.6倍以下である。2.8倍を超えるものは、水の含有量がほとんどないものであり、粉末状のめっき浴成分を添加する場合と実質的に同等といえる。
【0030】
また、ハロゲン化物イオンは、上述した導電剤としてのハロゲン化物及び/又は陽極溶解剤としてのハロゲン化物を用いることにより補給することができるが、建浴時にニッケル系金属のイオンの供給源として水溶性ニッケル系金属ハロゲン化物を用いた場合、水溶性ニッケル系金属ハロゲン化物の代わりに導電剤としてのハロゲン化物及び/又は陽極溶解剤としてのハロゲン化物を所定量添加することにより、ニッケル系金属のイオンを添加することなく、建浴時の電気めっき浴中の水溶性ニッケル系金属塩由来のハロゲン化物イオン分を加味したハロゲン化物イオン濃度に設定することができる。なお、これら導電剤としてのハロゲン化物及び陽極溶解剤としてのハロゲン化物として具体的には、建浴時の電気めっき浴中に含まれるものとして各々例示したものを同様に挙げることができるが、特に、建浴時の電気めっき浴中に含まれるものと同一のものを用いることが好ましい。
【0031】
可溶性陽極を用いる場合、通常、この可溶性陽極からニッケル系金属イオンが供給されるため、金属イオンを与える金属塩を添加することは必ずしも必要ない。しかし、「汲み出し」により減少するニッケル系金属イオンの量が多く、ニッケル系金属イオンが不足してしまう場合には、ニッケル系金属イオンを含む金属塩を添加することができる。水溶性ニッケル系金属塩として具体的には、建浴時の電気めっき浴中に含まれるものとして例示したものを同様に挙げることができるが、特に、ハロゲン化物以外のもの、例えば、硫酸塩、スルファミン酸塩等を用いることが好ましい。
【0032】
本発明においては、めっき浴成分を、陰極となる被めっき物及び陽極が浸漬されてめっきが実施されるめっき本槽のめっき浴に直接添加して混合することも可能である。この場合、めっき浴成分の補給時には電気めっきを停止し、めっき浴成分の補給後に攪拌して、電気めっき浴を十分に均一化してから電気めっきを再開することが好ましい。
【0033】
また、本発明において、めっき浴成分の補給は、陰極となる被めっき物及び陽極が浸漬されてめっきが実施されるめっき本槽と、該めっき本槽との間で電気めっき浴が循環可能に連結した循環槽とを設け、該循環槽の電気めっき浴に上記めっき浴成分を補給し、上記めっき本槽と上記循環槽との間で電気めっき浴を循環させて上記めっき浴成分を希釈及び/又は溶解させることも好ましい。
【0034】
本発明において、めっき浴成分は、濃度がより高い状態で添加されることから、めっき本槽とは別槽の循環槽を設け、この循環槽の電気めっき浴にめっき浴成分を補給し、めっき本槽と循環槽との間で電気めっき浴を循環(例えば、めっき本槽からオーバーフローした電気めっき浴を循環槽に導入し、循環槽からは、ポンプ等の公知の方法でめっき本槽へ電気めっき浴を返送して循環)させることにより、補給されためっき浴成分を、粉体状で存在しているめっき浴成分は溶解させ、また、めっき浴全体で均一となるように希釈することにより、めっき浴を効率的に均一化し、また、めっき浴の状態を安定に保つことができる。この場合も、通常、めっき浴成分の補給時には電気めっきを停止し、めっき浴成分の補給後に電気めっき浴を循環させて、電気めっき浴を十分に均一化してから電気めっきを再開することが好ましい。この循環操作の時間は、通常0.2〜1時間程度である。
【0035】
特に、導電剤が硫酸塩である場合、そのめっき浴への溶解には時間がかかるため、この方法を採用することが好ましい。なお、循環槽にはめっき浴成分の希釈、溶解を促進させるためにエア攪拌、プロペラ攪拌等の機械攪拌を用いることが好適である。
【0036】
この場合、上記循環槽から上記めっき本槽へ電気めっき浴が戻される流路にフィルターを設けることが好ましい。循環槽からめっき本槽への電気めっき浴の返送路にフィルターを設けることにより、循環槽からめっき本槽への粉体状のめっき浴成分の流入を抑制しつつめっき浴成分を希釈及び/又は溶解させることができる。特に、導電剤が硫酸塩である場合、そのめっき浴への溶解には時間がかかるため、この方法を採用することが更に好ましい。
【0037】
めっき浴成分の補給は、汲み出しなどにより減少しためっき槽中の電気めっき浴にめっき浴成分を補充することで可能であるが、めっき浴成分は以下の基準で選択することができ、陰極電流効率と陽極電流効率との差によって生じる所定単位(時間)における金属の増加(IM)と所定単位(時間)における汲み出しなどによって生じる金属の減少(DM)とが、IM≧DMの場合は、緩衝剤及び導電剤のみ、又は緩衝剤、導電剤及び有機光沢剤を用い、IM<DMの場合は、金属イオンを与える金属塩、緩衝剤及び導電剤、又は金属イオンを与える金属塩、緩衝剤、導電剤及び有機光沢剤を用いればよい。なお、上述したとおり、電気めっき浴中に水溶性ニッケル系金属塩や導電剤からハロゲン化物イオンが与えられない場合には、ハロゲン化物イオンを補給するために、ハロゲン化物塩である陽極溶解剤を適宜添加する。
【0038】
また、めっき浴成分の補給量は、(1)めっきを繰り返した後の電気めっき浴(めっき本槽のめっき浴)中のニッケル系金属イオン、緩衝剤、導電剤及びハロゲン化物イオン、更には有機光沢剤のうち必要な成分の濃度を供給前に所定単位(時間等)で定期分析し、その結果に応じて補給量を決定する方法、又は(2)電気めっき浴中の各成分の濃度の増減を、例えばラインテスト(実機試験)において測定し、各成分の変動分から所定単位(時間等)毎における補給量を決定する方法のいずれの方法で決定してもよい。なお、上記所定単位(時間等)は、1〜200h(時間)とすることが好ましい。
【0039】
めっき浴成分を補給した後の電気めっき浴中の導電剤の濃度は、その飽和濃度の70〜95%に調整される。めっき浴成分を補給した後の電気めっき浴中の導電剤の濃度は、めっき浴成分を補給しただけで上記範囲が満たされる場合は、めっき浴成分を補給したままの状態で電気めっきすることが可能であるが、めっき浴成分を補給したままの状態では上記範囲とならない場合には、水を添加する、水を蒸発させて除去する等の方法により濃度が上記範囲内になるように調整することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0041】
[実施例1]
表1に示される電気めっき浴Aをめっき槽に1,000L入れて建浴し、この電気めっき浴中に100dm2の被めっき面を有する被めっき物を入れ、55℃、1A/dm2の条件で20分間めっきする操作を繰り返した。
【0042】
途中、12時間(めっきを36回繰り返したとき)毎に、比重測定法により、ニッケルイオン濃度と硫酸ナトリウム濃度を測定した。この場合、ニッケルイオン濃度は建浴時より増加していたため、表2に示されるめっき浴成分が懸濁した懸濁液(懸濁水溶液)Bを硫酸ナトリウムの総量が建浴時と同じになる量補給し、水分を添加して電気めっき浴の容積を1,000Lに戻して再びめっきを開始した。めっきを500回、1,000回、1,500回、2,000回、2,500回及び3,000回繰り返したときのめっき皮膜の均一電着性とめっき皮膜外観を評価した結果を表3に示す。なお、評価方法は以下のとおりである。
【0043】
均一電着性
めっき浴をハーリングセルに移し、陽極板と、陰極板とを距離比5で測定した場合の、下記式で示される均一電着性(T)が35%以上を示すものを「良」、35未満のものを「不良」とした。
T(%)=[(P−M)/(P+M−2)]×100
T:均一電着性
P:5(陽極と陰極との距離比)
M:2枚の陰極に析出しためっき皮膜の質量比
【0044】
皮膜外観
得られためっき皮膜を目視で観察し、ハルセル(高電流密度部分から低電流密度部分まで観察可能)でのめっき外観が均一で、著しい外観むらがないものを「良」、不均一で、めっき外観むらがあるものを「不良」とした。
【0045】
[実施例2]
懸濁液Bの代わりに表2に示される懸濁液Cを用いた以外は、実施例1と同様にして電気めっきを繰り返し、上記各回におけるめっき皮膜の均一電着性とめっき皮膜外観を評価した。結果を表3に示す。
【0046】
[実施例3]
懸濁液Bの代わりに表2に示される懸濁液Dを用いた以外は、実施例1と同様にして電気めっきを繰り返し、上記各回におけるめっき皮膜の均一電着性とめっき皮膜外観を評価した。結果を表3に示す。
【0047】
[実施例4]
懸濁液Bの代わりに表2に示される懸濁液Eを用いた以外は、実施例1と同様にして電気めっきを繰り返し、上記各回におけるめっき皮膜の均一電着性とめっき皮膜外観を評価した。結果を表3に示す。
【0048】
[実施例5]
懸濁液Bの代わりに表2に示される粉末状のめっき浴成分Fを用いた以外は、実施例1と同様にして電気めっきを繰り返し、上記各回におけるめっき皮膜の均一電着性とめっき皮膜外観を評価した。結果を表3に示す。
【0049】
[実施例6]
表1に示される電気めっき浴Aをめっき槽に1,000L入れて建浴し、この電気めっき浴中に100dm2の被めっき面を有する被めっき物を入れ、55℃、1A/dm2の条件で20分間めっきする操作を繰り返した。
【0050】
途中、67時間(めっきを200回繰り返したとき)毎に、比重測定法により、ニッケルイオン濃度と硫酸ナトリウム濃度を測定した。この場合、ニッケルイオン濃度は建浴時より減少していたため、表2に示されるめっき浴成分が懸濁した懸濁液(懸濁水溶液)Gを硫酸ナトリウムの総量が建浴時と同じになる量補給し、水分を添加して電気めっき浴の容積を1,000Lに戻して再びめっきを開始した。めっきを500回、1,000回、1,500回、2,000回、2,500回及び3,000回繰り返したときのめっき皮膜の均一電着性とめっき皮膜外観を実施例1と同様にして評価した結果を表3に示す。
【0051】
[比較例1]
懸濁液Bの代わりに表1に示される建浴時のめっき浴Aを用いた以外は、実施例1と同様にして電気めっきを繰り返し、上記各回におけるめっき皮膜の均一電着性とめっき皮膜外観を評価した。結果を表3に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき浴成分として、コバルト、ニッケル及び鉄から選ばれる1種以上の金属のイオン、緩衝剤、導電剤並びにハロゲン化物イオンを含む電気めっき浴により可溶性陽極又は不溶性陽極を用いて被めっき物を繰り返し電気めっきする方法であって、建浴時の電気めっき浴中の上記導電剤の濃度をその飽和濃度の70〜95%とし、めっきを繰り返すことにより減少した電気めっき浴中の各々のめっき浴成分を、上記金属イオンを与える粉体状の金属塩、粉体状の緩衝剤、粉体状の導電剤、ハロゲン化物イオンを与える粉体状のハロゲン化物塩、又は上記金属イオンを与える金属塩、緩衝剤、導電剤、及びハロゲン化物イオンを与えるハロゲン化物塩から選ばれる1種以上が飽和した飽和液若しくは懸濁した懸濁液として上記電気めっき浴に添加することにより補給すると共に、上記めっき浴成分を補給した後の電気めっき浴中の上記導電剤の濃度をその飽和濃度の70〜95%に調整して電気めっきを繰り返すことを特徴とする電気めっき方法。
【請求項2】
陰極となる被めっき物及び陽極が浸漬されてめっきが実施されるめっき本槽と、該めっき本槽との間で電気めっき浴が循環可能に連結した循環槽とを設け、該循環槽の電気めっき浴に上記めっき浴成分を補給し、上記めっき本槽と上記循環槽との間で電気めっき浴を循環させて上記めっき浴成分を希釈及び/又は溶解させることを特徴とする請求項1記載の電気めっき方法。
【請求項3】
上記循環槽から上記めっき本槽へ電気めっき浴が戻される流路にフィルターを設けて、上記循環槽から上記めっき本槽への粉体状のめっき浴成分の流入を抑制しつつ上記めっき浴成分を希釈及び/又は溶解させることを特徴とする請求項2記載の電気めっき方法。
【請求項4】
上記導電剤が硫酸塩であることを特徴とする請求項2又は3記載の電気めっき方法。

【公開番号】特開2009−79247(P2009−79247A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248643(P2007−248643)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】