説明

電気めっき用治具

【課題】カケや傷およびめっき未着などの治具接触跡を発生させることなく均一な電解表面処理ができる構造であって、かつ通電極部材の製作コストを低減でき、さらには通電部材の表面積を極めて小さくすることで余分なめっき皮膜の析出を防止することができるめっき治具ならびにめっき方法を提供する。
【解決手段】被めっき品への電気的接触を構成する通電部材と、前記被めっき品がわずかに移動可能な状態に保持される保持部材をと備えためっき用治具であって、前記通電部材は前記被めっき品を挿入する開口部を形成した板状の導電材からなり、前記開口部の断面とその近傍を除いた大部分の平面が絶縁体で被覆されるとともに、前記保持部材は少なくとも表面が絶縁体であって、前記被めっき品が前記通電部材の前記開口部に動作可能に保持されるよう前記通電部材に取り付けられることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品や電子部品などの表面に電着塗装や金属めっきなどの表面処理を施すために用いられるめっき治具およびめっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械部品や電子部品などの表面には、電気特性や耐久性などを向上させる目的として、金属めっきや電着塗装などの表面処理が施されることがある。特に半導体部品や高精度モーターなど高信頼性を求められる機器については、その性能の向上とともに、内部に搭載される部品の品質要求も高まっており、中でも電気特性や耐候性を大きく左右する表面処理については高い品質を求められている。
【0003】
従来、電子部品などの小物部品は、めっき処理専用容器に製品を投入し、めっき液中で回転させながら電解めっきを行ういわゆるバレルめっき法が広く用いられている。この場合、一度に大量の品物をめっき処理できるという利点があるが、一方で品物同士が回転運動によって互いに干渉しあい、品物にキズや変形などの不良を発生させ、製造工程における歩留まりを悪化させるという慢性的な課題を有している。またバレルめっき法においては、品物への通電はバレル内部に設けられた負電極より品物同士を介して全ての品物に通電するため、通電効率は品物形状に依存し、また接触と離脱を繰り返しながら通電を行うため、めっき効率が悪く、所望のめっき厚を確保するのに時間がかかるという課題を有している。
【0004】
これに対して、めっき処理治具に設けられた通電用フックに品物を引っ掛けて、めっき液中で電解めっきを行ういわゆるラックめっき法は、製品同士が干渉しないためキズや変形を発生しないことや、常時品物に対して通電がなされている状態なので、めっき析出効率が良いという利点を備えている一方で、製品の取り付けに時間がかかるなど生産性に欠けることや、専用治具に設けられた通電用フックと品物の接触部(通電部)ではめっき液の流動が行き届かず、めっき未着やめっきムラなどを発生させることがある。このような品物を半導体部品や高精度モーターなどに搭載し使用した場合、使用される環境によってはキズ部分やめっき未着部分から素材の腐食が起こり、錆の発生や電気特性の低下などを引き起こす可能性がある。よって表面処理業界では、これらの問題を解決すべく種々の取り組みがなされており、次に示す文献では電解用回転治具および電解表面処理方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−291274号公報
【0006】
文献によれば、2次元的に区画形成された被処理品を収容する収容部を複数備えた導電材料から構成される通電フレームと、前記通電フレームの両側を夫々覆う平面を備えた落下防止部材と、前記落下防止部材の平面に直交するように設けられた導電材料からなる回転軸とを備えた治具であって、前記回転軸と前記通電フレームとは電気接続されるとともに、前記治具は前記回転軸の回りに回転可能に設けられていることを特徴とする電解用回転治具が提案されている。
【0007】
また、前記電解用回転治具において、前記通電フレームは、格子状、互いに外接した円もしくは多角形状、及び同心円状で周方向に区画された形状の内のいずれかの一つの形状に配置されている電解用回転治具であるとしている。また、前記いずれか一つの電解用回転治具において、前記落下防止部材は、回転中心を備えた円形,矩形,または多角形の板形状を備えており、多孔質又はメッシュ形状の蓋部材からなり、前記蓋部材に設けられた孔及びメッシュ形状の間隔は、前記収容部に収容される製品よりも小さな寸法を備えているとしている。また前記蓋部材は合成樹脂製又は金属メッシュ製でもよいとしている。また前記落下防止部材は、互いに離して配置された線材群もしくは前記収容部の内側に向かって突出した突起群を備え、前記線材群の間隔は、前記収容部に収容される製品よりも小さな寸法を備え、前記突起群は収容される製品の外形よりも、内側に延在しているとしており、前記線材及び突起群は導体又は絶縁材であってもよいとしている。
【0008】
さらに、前記いずれか一つの電解用回転治具を用いた電解表面処理方法であって、前記収容部に製品を収容し、電解液中で、前記回転軸を水平にして、前記電解液中で、前記治具を前記回転軸の回りに回転させるとともに、当該回転軸を介して前記通電フレームに通電して、前記被処理品と、前記フレームとの接触点を移動させながら前記被処理品に電解表面処理を施すことを特徴とする電解表面処理方法が得られるとしており、前記落下防止部材が導体からなる場合には、前記落下防止部材にも通電して前記被処理品に電解表面処理を施すことを特徴とする電解表面処理方法が提案されている。さらに、本発明によれば、電解液を収容する容器と、前記電解用回転治具と、前記電解用回転治具の両側の落下防止部材の少なくとも一方に対して間隔をおいて配置された対極を備え、前記電解用回転治具は前記回転軸の周りに回転可能で且つ前記回転軸を介して前記通電フレームに通電可能に設けられるとともに、前記回転軸が前記対極に対して垂直となり、且つ前記通電フレーム面が前記対極に対して略平行になるようにように配置されていることを特徴とする電解表面処理装置が提案されている。
【0009】
図3は従来の技術を示す正面図であり、図を参照しながら詳細な構成について以下に記す。
めっき治具101は格子状に配置された帯状の金属板材からなる通電フレーム102とその前面及び裏面を覆う落下防止部材としての多孔質の絶縁材料からなる蓋部材103とを備え、更に、蓋部材103及び通電フレーム102の形成する平面に直交するように、めっき治具101をその回りに回転可能とする回転軸104が設けられている。通電フレーム102は、格子に規定される空間が、角型の被めっき品2の収容区画となっている。この四角の区画の寸法は、品物よりも若干大きく、品物が回転軸に平行な軸の周りで若干移動可能である。図示の例においては、数十個の区画しか示されていないが、品物と治具の大きさにより、実際は数百個の区画が形成されている。通電フレーム102は、この例においては、帯状の金属板から形成されているが、勿論金属線材や細い金属棒材を用いてもよい。また、蓋部材103の内壁間の距離は、被めっき品2の厚さよりは大きいが、この品物の厚み2倍よりも小さくなるように設計されている。また、蓋部材103に設けられる複数の孔は、品物が蓋部材103よりも外にはみ出さない大きさであるならばどのような大きさであってもよく、また,強度を低下させないものであるならば、多数形成されていても良い。蓋部材103の固定は、蓋部材103自身が互いに嵌合する構成であっても、蓋部材103の直交する方向に、両側を貫通するように、ボルトを通すとともに、蓋部材103間にスペーサを介して固定してもよく、また、両側からクリップ等で固定してもよくその固定手段には限定されないことが記載されている。
【0010】
これらの構成によって、被めっき品2に対し連続的にかつ効率よく均一な電解表面処理が可能な電解用回転治具を提供することができるとしている。また被めっき品にかけや傷の発生がない電解用回転治具を提供することができるとしている。またこれらの電解用回転治具を用いれば、連続的に接点を移動することが可能であり、被処理品に治具跡を残すことがない電解用回転治具を提供することができるとしている。さらに、前述した電解用回転治具を使用し電解表面処理方法と電解表面処理装置とを提供することができるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように従来技術の特徴は、導電性材料からなる区画整理された通電フレーム102の収容部に被めっき品2を挿入し、落下防止の目的である蓋部材103によって、被めっき品2が通電フレーム102からの脱落が無いように規制した状態で、通電フレーム102の中心部に設けられた導電性材料からなる回転軸104を駆動させ、尚且つ回転軸104を介して通電フレーム102に電気的導通状態とし、めっき液中で電解めっきを行うものである。通電フレーム102の収容部に挿入された被めっき品2は回転運動によって通電フレーム102と蓋部材103とで形成された区域の中で自在に移動し、通電フレーム102と被めっき品2の接点位置を次々と変化させながら通電を行い、治具跡を残すことなくめっきを行うことができる。
【0012】
しかしながら、従来の技術には次のような課題がある。
通電フレーム102は格子状に配置された帯状の金属板からなる構造であり、その格子形状を形成するためには金属板の板金加工、溶接加工あるいはロウ付け加工などを行って帯状の金属板を曲げたり接合したりする必要がある。また金属線や金属棒材などの材料を用いた場合においても、格子形状を形成するためには難易度の高い板金加工や溶接加工が必要であり、これは格子形状が多角形になるほど、あるいは格子形状の数が増加するほどその加工難易度は上がり、通電フレーム102の製作コストが増大するという課題を有している。
【0013】
また通電フレーム102は格子状に配置された帯状の金属板からなる構造であり、その格子形状を維持するためにある程度の強度を有する材料を使用しなければならないと推測される。仮に通電フレーム102の機械的強度が弱く、格子形状に変形や歪が生じた場合、被めっき品2との通電フレーム102の間に保たれるべき隙間が変化して、被めっき品2の電解処理に必要な通電状態が変化するだけでなく、その変形の程度によっては、被めっき品2の挿入自体に不具合を生じることも懸念される。また被めっき品2を多数装着した場合には、被めっき品2の重量および回転時の動的荷重も加算されることは明らかであり、被めっき品2の重量が重いほど、あるいはめっき治具101の回転が速いほど、通電フレーム102にかかる応力は増大すると推測され、これらは通電フレーム102にひずみや変形を生じるだけでなく、最悪の場合は通電フレーム102の破損につながることも懸念される。よって、通電フレーム102には、被めっき品2を保持規制するための適度な機械的強度を持たせる必要があり、このことは通電フレーム102を構成する材料が金属線材であっても金属棒であっても同様である。
【0014】
通電フレーム102の機械的強度を確保するために、例えば先行技術のような帯状の金属板であれば、板幅や板厚を増やすことが必要であるが、それは同時に通電フレーム102の表面積を増大させることにつながる。また金属線材や金属棒材を使用する場合は、その直径や辺の寸法などを増やすことで機械的強度を確保することができるが、同様に通電フレーム102の表面積を増大させることは避けられないと考えられる。通電フレーム102が被めっき品2を正確に且つ多数保持しつつ、めっき液中で回転運動に耐えるためには、表面積の大きな帯状の金属板や金属線材、あるいは金属棒材が必要であるといえる。
【0015】
このように通電フレーム102の表面積が増大することは、特に電気めっきの場合、被めっき品2に析出するめっき皮膜の他に、通電フレーム102にもめっき皮膜が析出することにつながり、余分なめっき皮膜コストが発生するという課題を有している。これは、めっきの種類が例えば金めっきなど、高価なものであるほど深刻な問題であり、余分なめっき皮膜コストによって製造原価を圧迫することが懸念される。よって通電フレーム102などのように被めっき品2に対し接触的に給電を行う通電部材においては、めっき皮膜コストを下げるため、その表面積を極力小さくすることが望ましいと考えられる。
【0016】
すなわち、本発明の目的は、被めっき品に対して、カケや傷およびめっき未着などの治具接触跡を発生させることなく均一な電解表面処理ができる構造であって、かつ通電極部材の製作コストを低減でき、さらには通電部材の表面積を極めて小さくすることで余分なめっき皮膜の析出を防止することができるめっき治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために本発明のめっき治具は、被めっき品への電気的接触を構成する通電部材と、前記被めっき品がわずかに移動可能な状態に保持される保持部材をと備えためっき用治具であって、前記通電部材は前記被めっき品を挿入する開口部を形成した板状の導電材からなり、前記開口部の断面とその近傍を除いた大部分の平面が絶縁体で被覆されるとともに、前記保持部材は少なくとも表面が絶縁体であって、前記被めっき品が前記通電部材の前記開口部に動作可能に保持されるよう前記通電部材に取り付けられることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
以上のように本発明のめっき治具によれば、通電部材は板状の導電材料に開口部を形成するだけであり、慣用の加工方法であるレーザー穴あけ加工や金属エッチング加工によって、容易に高精度な開口部形状を形成することができ、従来技術に記載されている通電フレームのように、格子形状を形成するための金属板の板金加工、溶接加工あるいはロウ付け加工などを行って帯状の金属板を曲げたり接合したりする必要がない。また金属線や金属棒材などの材料を用いて格子形状を形成するための難易度の高い板金加工や溶接加工が必要ない。また、格子形状が多角形になるほど、あるいは格子形状の数が増加するほどその加工難易度は上がり、通電フレームの製作コストが増大するという課題も、板状の導電材にレーザー加工および金属エッチング加工で多角穴を形成することで解決できる。よって通電部材のコストを大幅に削減することができ、ひいては被めっき品の製造コストを低減することができる。
【0019】
また本発明のめっき治具によれば、被めっき品の外形輪郭が四角形などの単純形状でなく、曲線を含むなど複雑な形状であったとしても、その輪郭に合った適正な通電部材の開口部を、レーザー加工やエッチング加工によっていかなる形状にも容易に形成することができる。これによって従来の通電フレームでは対応できなかった複雑な形状の被めっき品に対しても効率的にめっき処理することができる。
【0020】
また本発明のめっき治具は、板状の導電材料よりなる通電部材に取り付けられる保持部材によって、めっき治具の機械的強度を保ち、被めっき品を保持する構成であるため、通電部材そのものに機械的強度を求める必要が無い。これは、通電フレーム102の表面積を縮小するために、使用する金属材料の寸法を縮小させた場合に懸念される、通電フレーム102の機械的強度不足や通電状態の変化、あるいは被めっき品2の挿入不具合などの問題を全て解決することができる。これによって、薄い板状の導電材に形成された開口部断面とその近傍部分以外を露出しないようにし、被めっき品に電気的接触を構成するために必要な最低限の表面のみがめっき液中で露出されるため、従来の技術が抱えていた、被めっき品2に析出するめっき皮膜の他に、通電フレーム102にもめっき皮膜が析出し、余分なめっき皮膜コストが発生するという課題を解決することができる。
【0021】
すなわち、本発明のめっき治具によって、被めっき品に対して、カケや傷およびめっき未着などの治具接触跡を発生させることなく均一な電解表面処理ができる構造であって、かつ通電極部材の製作コストを低減でき、さらには通電部材の表面積を極めて小さくすることで余分なめっき皮膜の析出を防止することができるという優れた効果を発揮するめっき治具の提供ができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図1のa−a´断面図である。
【図3】従来の技術を示す代表図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0023】
以下本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。
図1および図2において、通電部材1はステンレス、銅合金、ニッケル合金など、導電性を有する金属材料で形成されている。通電部材1はその厚みが0.5mm〜5mm程度の薄い板状の金属材料で構成されており、めっき処理の対象となる被めっき品2のサイズや仕様によって適宜変更される。通電部材1には被めっき品2がわずかに動作可能に挿入されるための開口部3が形成されており、開口部3の大きさは、被めっき品2の外形寸法よりも約5〜20%程度大きい寸法に形成されている。これは通電部材1の厚みと同様に、めっき処理の対象となる被めっき品2のサイズや仕様によって適宜変更される。
【0024】
通電部材1に形成される開口部3の断面とその近傍を除く大部分の平面は、塩化ビニルやポリカーボネイトなどの絶縁体4によって被覆されている。通電部材1と絶縁体4の固定は、耐薬品性や耐熱性のある接着材で接着固定されており、今回は1液性室温乾燥型のシリコーンシーラントを用いて接着固定した。このように絶縁体4で被覆することにより、めっき液5の中に露出する被めっき品2への電気的接触を構成する部位を極めて小さくすることができる。
【0025】
本実施の形態においては、通電部材1と絶縁体4の隙間にめっき液が進入することをほぼ完全に遮断するために接着固定の構成としたが、使用するめっき液や条件によっては通電部材1と絶縁体4が脱着できるようにゴムパッキンなどを挟み込んでネジ止めするなどの方法をとることもできる。
【0026】
次に保持部材6は通電部材1の両側に固定されており少なくとも片側が脱着自在に取り付けられている。これによって被めっき品2の挿入と取り出しが行える構成となっている。保持部材6には通電部材1に形成された開口部3と略同様の保持部材開口部7が形成され、挿入される被めっき品2に対し、めっき液5の流動が良好に行えるようになっている。また保持部材開口部7の一部には突起部8が設けられており、挿入する被めっき品2がめっき処理中に脱落しないように、通電部材1の両側に設けられる保持部材6の突起部8によって被めっき品2を隙間をもって脱落規制するストッパーの役割を果たしている。
【0027】
本実施例においては保持部材開口部7の一部に設けられた突起部8によって被めっき品を脱落規制する構成としているが、被めっき品2が通電部材1の開口部3から脱落しないような形状であれば突起8に限らずどのような形状でもかまわない。本発明のめっき治具10は、以上のような構造であるため、電気的接触を構成する通電部材1と、被めっき品2が保持部材6によってわずかに移動可能な状態に保持されるようになっている。
【0028】
次に本発明のめっき治具10を用いためっき方法について説明する。本来、めっき処理にはめっき皮膜を析出させる工程の前に、素材表面を洗浄したり、研磨、活性化するなどの前処理を行うことが一般的であり、さらにめっき処理の後には、薬品を洗い流す洗浄工程や、被めっき品を乾燥させる工程などが設けられているが、本発明の趣旨より、めっき皮膜析出工程のみ説明し、前後処理については省略する。
【0029】
めっき治具10を構成する通電部材1の開口部3には被めっき品2が挿入されている。図中では、開口部3などの構造を説明するために、4箇所ある開口部のうち1箇所のみ被めっき品2を記載しているが、実際には全ての開口部3に被めっき品2を挿入することが望ましい。めっき治具10は下方に設けられた2個の保持ロール11上に載せられており、2個の保持ロール11の端部に設けられたガイド部によって保持ロール11の軸方向への移動が規制されている。この保持ロール11は内部にベアリングやブッシュを使用するなどして滑らかに回転することが望ましく、これによってめっき治具10を滑らかに回転可能な状態に取り付けることができる。
【0030】
次にめっき治具10の上方にはモータ18およびプーリ20a、20b、ベルト21などによって回転する駆動ロール12が設けられており、めっき治具10と駆動ロール12との摩擦力によってめっき治具10に回転駆動力が与えられる構成となっている。それぞれの部品は、筐体19に取り付けられており、回転装置13を構成している。
【0031】
駆動ロール12はできるだけ摩擦力の大きい材質が望ましく、例えばウレタンゴムやシリコンゴムなどが適している。駆動ロール12は回転駆動力をめっき治具10にさらに安定して伝達するため、めっき治具10に対して駆動ロール12を押さえつける構成としてもよい。また、2個の保持ロール11を上方に持ち上げるようにし、めっき治具10を駆動ロール12に相対的に押さえつける構造でも同様の作用が得られる。また、めっき治具10に対して、上方が駆動ロール、下方が保持ロールという制約は特に無いため、図面に記載の限りではない。
【0032】
また2個の保持ロール11と駆動ロール12に囲まれた範囲からめっき治具10を脱着自在にするために、駆動ロール12と2個の保持ロール11のいずれかは移動または取り外し可能に設けられていることが望ましい。これによって、被めっき品2を収納しためっき治具10を容易に回転装置13に脱着することができる。
【0033】
回転装置13には送電プレート14が設けられており、その一端はめっき電源(図示せず)などの直流電源に配線15を介して接続され、さらにもう一端はめっき治具10の外周部に露出している通電部材1の外周部と電気的接触状態になるように構成されている。送電プレート14はステンレスや銅合金、鉄−ニッケル合金などの導電性を有する材料からなり、めっき治具10が回転装置13によって回転運動している場合においても、そのバネ性を利用してめっき治具10の外周に露出している通電部材1の外周部と常に密着状態にあり、電解めっきに必要な電流を安定して通電部材1に供給し続けることができる構造となっている。
【0034】
本発明の実施の形態では送電プレート14を金属板としているが、例えば金属ワイヤーや、編組線、あるいは金属棒などを用いてもよく、また材料自体のバネ性を利用して通電部材1の外周部に密着させる方法のほかに、スプリングなどを利用して強制的に通電部材1の外周部に押さえつける方法もあるなど、実施例の構成に限定されるものではない。また、通電部材1の外周部に送電プレート14を接触させる方法のほかに、通電部材1の一部にボルトなどを用いて直接配線接続してもよいが、この場合、めっき治具10の回転によって配線15にねじれが生じ、配線切断などのトラブルが起こることが懸念されるが、めっき治具10の回転方向を右回転左回転交互に行うことによって解決できる。さらには、配線途中にロータリーコネクターなどを利用することもできる。
【0035】
以上のような本発明のめっき治具10を回転装置13に装着した状態でめっき処理タンク16に投入し電解めっきを行う。めっき処理タンク16内部には処理に必要なめっき液5が貯蓄されており、必要に応じて攪拌機(図示せず)によって処理液の攪拌が行われている。処理タンクには陽極17が設けられ、めっき電源(図示せず)などの直流電源に配線によって接続されており、電解めっきに必要な電流を加えることができる構造になっている。
【0036】
このめっき処理タンク16の中に回転装置13に取り付けられた状態のめっき治具10を浸漬する。さらに電流を加えながら回転装置13の駆動ロール12を回転させ、めっき治具10を回転動作させる。めっき治具10を構成する通電部材1に形成された開口部3の寸法は、保持部材6に形成された保持部材開口部7の寸法よりもわずかに小さく形成しており、すなわち通電部材1の開口部3が保持部材開口部7よりもわずか内側に飛び出す構成とすることで、被めっき品2が通電部材1の開口部3に動作可能に収容されている時、被めっき品2は保持部材開口部7よりも優先的に通電部材1の開口部3断面と接触することができるようになっている。
【0037】
さらにめっき治具10が回転し、収容された被めっき品2は回転運動と被めっき品2に働く重力によって通電部材1の開口部3断面との接触位置を次々と変化させながら電解めっき処理されていく。これによって被めっき品2の表面にめっき未着部分を生じることなく効率よく通電しめっきすることができると同時に、被めっき品はめっき治具10に隙間をもって収容された状態にあって、わずかに動作するだけなので、キズやカケ変形といった不具合を解決することができる。
【0038】
また本発明のめっき治具において、通電部材1は板状の導電材料に開口部3を形成するだけであり、慣用の加工方法であるレーザーによる穴あけ加工や金属エッチング加工によって、容易に高精度な開口部形状を形成することができ、従来技術に記載されている通電フレーム102のような格子形状を形成するための金属板の板金加工、溶接加工あるいはロウ付け加工などを行って帯状の金属板を曲げたり接合したりする必要がない。
【0039】
また金属線や金属棒材などの材料を用いて格子形状を形成するための難易度の高い板金加工や溶接加工が必要ない。また、格子形状が多角形になるほど、あるいは格子形状の数が増加するほどその加工難易度は上がり、通電フレームの製作コストが増大するという課題も、板状の導電材にレーザー加工および金属エッチング加工で多角穴を形成することによって解決できる。
【0040】
尚、開口部3の形状は直線的であっても非直線的であってもその形状は自在であり、たとえばノコギリ刃のようなギザギザ形状の開口部3にして、被めっき品2と通電部材1との接触面積を極力小さくすることもできる。これによれば、通電跡やめっき未着に対し、さらに有利となる通電状態が得られる。
【0041】
また本発明のめっき治具によれば、被めっき品の外形輪郭が四角形などの単純形状でなく、曲線を含むなど複雑な形状であったとしても、その輪郭に合った適正な通電部材の開口部を、レーザー加工やエッチング加工によっていかなる形状にも容易に形成することができる。これによって従来の通電フレームでは対応できなかった複雑な形状の被めっき品に対しても効率的にめっき処理することができる。
【0042】
以上のように本発明のめっき治具構成によれば、通電部材1の製作を容易にし、コストを大幅に削減することができ、ひいては被めっき品2の製造コストを低減することができる。
【0043】
さらに本発明のめっき治具10では、通電部材1に形成される開口部3の断面とその近傍を除く大部分の平面を、塩化ビニルやポリカーボネイトなどの絶縁体4によって被覆することによって、めっき液中に露出する被めっき品2への電気的接触を構成する部位を極めて小さくすることができる。
【0044】
また通電部材1は取り付けられる保持部材6によって、機械的強度を保ち、被めっき品2を保持する構成であるため、通電部材1そのものに機械的強度を求める必要が無く、極力厚みの薄い材料を使用することができる。これによれば、従来の技術のように、通電フレームの表面積を縮小するために、使用する金属材料の寸法を縮小させた場合に懸念される、通電フレーム102の機械的強度不足や通電状態の変化、あるいは被めっき品2の挿入不具合などの問題を全て解決することができる。これによって、通電部材1に形成された開口部3の断面とその近傍部分以外を露出しないように絶縁体4で被覆し、被めっき品2に電気的接触を構成するために必要な最低限の表面のみがめっき液中で露出されるため、従来の技術が抱えていた、被めっき品2に析出するめっき皮膜の他に、通電フレーム102にもめっき皮膜が析出することによる余分なめっき皮膜コストが発生するという重大な課題を解決することができる。
【0045】
すなわち本発明によれば、品物に対して、カケや傷およびめっき未着などの治具接触跡を発生させることなく均一な電解表面処理ができる構造であって、かつ通電極部材の製作コストを低減でき、さらには通電部材の表面積を極めて小さくすることで余分なめっき皮膜の析出を防止することができるという優れた効果を発揮するめっき治具の提供ができる。
【0046】
本実施の形態では、被めっき品2を四角形形状とし、めっき治具10を円形としているが被めっき品2の形状やめっき仕様によって変更可能である。
【0047】
まためっき処理に限らず、電着塗装や電解洗浄など、めっき液中で電解処理を行う工程に応用することも可能である。
【0048】
まためっき治具10は回転治具に1個だけでなく、複数取り付けられるようにし、製造能力を向上させることもできる。また、回転装置13はめっき処理タンク16に常設してめっき治具10のみを脱着する構造にすることで作業者への負担が低減するなど、本発明の思想に逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のめっき治具は、被めっき品に対して、カケや傷およびめっき未着などの治具接触跡を発生させることなく均一な電解表面処理が構造であって、かつ通電極部材の製作コストを低減でき、さらには通電部材の表面積を極めて小さくすることで余分なめっき皮膜の析出を防止することが必要な場合のめっき治具として利用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 通電部材
2 被めっき品
3 開口部
4 絶縁体
5 めっき液
6 保持部材
7 保持部材開口部
8 突起部
10 めっき治具
11 保持ロール
12 駆動ロール
13 回転装置
14 送電プレート
15 配線
16 めっき処理タンク
17 陽極
18 モータ
19 筐体
20a、20b プーリ
21 ベルト
101 従来のめっき治具
102 通電フレーム
103 蓋部材
104 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき品への電気的接触を構成する通電部材と、前記被めっき品がわずかに移動可能な状態に保持される保持部材をと備えためっき用治具であって、前記通電部材は前記被めっき品を挿入する開口部を形成した板状の導電材からなり、前記開口部の断面とその近傍を除いた大部分の平面が絶縁体で被覆されるとともに、前記保持部材は少なくとも表面が絶縁体であって、前記被めっき品が前記通電部材の前記開口部に動作可能に保持されるよう前記通電部材に取り付けられることを特徴とする電気めっき用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−106019(P2011−106019A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282179(P2009−282179)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(592013244)株式会社山口製作所 (2)