説明

電気めっき装置およびめっき方法

【課題】 厚膜めっき膜の高い電着均一性およびそのめっき速度と共に高品位の膜質が簡便に得られる電気めっき装置およびめっき方法を提供する。
【解決手段】 めっき槽11にめっき液12が充填され、アノードホルダ13とカソードホルダ14間にめっき液噴射ノズル15と多孔遮蔽板16が配置される。被めっき物17は固定治具18と共にカソードホルダ14に保持される。めっき液噴射ノズル15の噴出口15aから吐出するめっき液噴流19は多孔噴射板16に斜め方向から孔部16aに噴射される。孔部16aで曲げられためっき液噴流19が被めっき物17に供給される。めっき液12はオーバーフロー槽20、排出管21を通り噴射ポンプ22に戻り、再び噴射ポンプ22から流量調節器23、噴射めっき液供給ライン24を通りめっき液噴射ノズル15に送られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気めっき装置およびそれを用いためっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの製造分野においてめっき金属膜を形成する方法が種々に採用されるようになってきている。半導体パッケージ、インターポーザ―基板あるいは回路配線基板等(以下、実装部材ともいう)に半導体チップを実装するため、その配線、電極等からなる接続端子の間を電気接続するバンプ形成が電気めっきで行われる。また、多層構造の実装部材において配線層間を接続するビアホールやスルーホールの導電化が電気めっきあるいは無電解めっきでなされる。半導体チップ内の配線形成にあっても、半導体ウェーハの表面に設けられた微細なトレンチやビアホール、レジスト開口部に金属膜がめっき法により形成される。また、めっき法により形成される金属膜は配線の防食あるいは表面保護にも適用される。
【0003】
半導体デバイス製造分野に用いられる電気めっき装置では、上述した実装部材や半導体ウェーハのような被めっき物へのめっき膜の電着均一性およびめっき速度を向上させる手法が種々に検討され、提示されている(例えば、特許文献1,2参照)。電着均一性を高める簡便な手法として、めっき浴の中において、対向配置の被めっき物と陽極との間に孔を有する絶縁体の電流調整板(以下、遮蔽板ともいう)が配置される。めっき高速性を得る簡便な手法として、高電流密度の使用あるいはめっき液を被めっき物の表面に噴射するジェット流法等が採用される。
【0004】
通常、電流密度を上げることはめっき速度を上げるが、被めっき物のめっき厚分布を悪くするように影響し、電着均一性を低下させる。逆に電流密度を下げるとめっき速度が下がると共に被めっき物の電着均一性は向上する。そこで、めっき膜の電着均一性の向上とめっき速度の向上の両立を図るために、特許文献1では、電流密度を高めに設定すると共に、そのめっき厚分布への影響を低減するように2枚の遮蔽板を被めっき物と陽極との間に並行に配置することが開示されている。同様に、特許文献2では、被めっき物の表面にめっき液を噴射するジェット流法と遮蔽板とを併用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−293114号公報
【特許文献2】特開2011−26708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば半導体デバイス特性の半導体ウエーハレベルでの通電検査あるいはバーンインテストのような信頼性検査において、その接続端子に弾性接触するプローブのコンタクトピン(以下、接触子という)をめっき技術の電鋳法で形成することが必要になってきている。半導体デバイスは高集積化、高密度化、高機能化、多機能化(以下、これ等をまとめて高性能化ともいう)し、それに伴って接続端子は微細になり多端子化、狭ピッチ化している。しかし、検査装置のプローブヘッドに取り付けられる従来の針状の接触子では、その素材となる金属膜のエッチング加工等の加工精度に限界が生じている。接続端子を探針する接触子の多ピン化、狭ピッチ化が困難になってきているからである。これは、FPDのような表示デバイスを含め高性能化する電子デバイスに共通する。
【0007】
接触子を電鋳法で形成する場合、数十μmになる厚膜めっき膜の高い電着均一性と共に高品位の膜質を得ることが必要になる。ここで、電着均一性は被めっき物におけるめっき厚分布の均一性のことであり、めっき膜の高品位の膜質は主にそのバネ性能のことになる。バネ性能は同じ金属であってもめっき膜の多結晶粒径あるいはその組成等に強く依存する。また、この電鋳法では、プローブの生産性を損なわないようなめっき速度の確保が必要になる。
【0008】
しかしながら、従来の電気めっき装置およびめっき方法では、上述したような要件を満たすめっき膜を電鋳法で形成することは難しい。特許文献1,2に提示されている電気めっきでは、電着均一性の向上とめっき速度の向上とをある程度に両立させることができるものの、高品位の膜質を有するめっき膜を形成することは現状では困難である。
【0009】
本発明は、上述の事情等に鑑みてなされたもので、例えば数十μmになる厚膜めっき膜の高い電着均一性およびそのめっき速度と共に高品位の膜質が簡便に得られる電気めっき装置およびめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明にかかる電気めっき装置は、めっき液が充填されるめっき槽と、前記めっき液の中で陽極となるアノードホルダおよび被めっき物を保持し陰極となるカソードホルダと、前記アノードホルダから前記カソードホルダに向かってこれ等の間に順に配置される絶縁体からなるめっき液噴射ノズルおよび絶縁体からなる平板状の多孔遮蔽板と、を有し、前記めっき液噴射ノズルは、前記めっき槽内のめっき液に浸漬され、前記多孔遮蔽板の平板面に対して斜め方向から前記多孔遮蔽板に設けられている複数の孔に向かってめっき液を噴射するように構成され、前記多孔遮蔽板は、前記めっき槽内のめっき液中において、前記めっき液噴射ノズルから噴射されるめっき液が前記複数の孔を通りその噴流方向を変えて前記被めっき物の表面に供給されるように構成されている。
【0011】
そして、本発明にかかるめっき方法は、前記電気めっき装置を用いためっき方法であって、表面にレジストマスクが形成された被めっき物をその裏面側から固定治具に取り付けて、めっき液とほぼ同じ温度の純水中に前記固定治具を浸漬した後、前記被めっき物が取り付けられた固定治具を前記カソードホルダに装着して、被めっき物をめっき液中に浸漬し、前記めっき液中に配置されたアノードホルダと、前記カソードホルダに通電しながら、前記めっき液噴射ノズルを用いて前記多孔遮蔽板の平板面に対して斜め方向から、前記多孔遮蔽板に設けられている複数の孔に向かってめっき液を噴射して、前記被めっき物の表面の所定領域に選択的にめっき膜を形成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、数十μmまたはそれ以上の厚膜めっき膜が高い電着均一性および生産性を損なわないめっき速度のもとに形成できる。更に、そのめっき膜において、例えばその多結晶粒が均一化し、優れたバネ性能を可能にする高品位の膜質が簡便に得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態にかかる電気めっき装置の模式的な断面説明図。
【図2】本発明の実施形態にかかる電気めっき装置に使用されるめっき液噴射ノズルの形状例を示すカソード側からみた透視図。
【図3】本発明の実施形態にかかる電気めっき装置に使用される多孔遮蔽板の形状例を示すアノード側からみた透視図。
【図4】本発明の実施形態にかかる電気めっき装置に使用される多孔遮蔽板の被めっき物との配置関係を示し、(a)はそれ等の側断面図、(b)はアノード側からとなる(a)に記した透視T方向の透視図。
【図5】本発明の実施形態にかかるめっき方法の説明に供する工程フロー図。
【図6】本発明の比較例における遮蔽板を示すアノード側からみた透視図。
【図7】本発明の実施例におけるめっき金属膜の評価結果を示した表。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好適な実施形態について図1ないし図5を参照して説明する。ここで、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なる。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の電気めっき装置では、めっき槽11内にはめっき液12がめっき浴として充填される。そのめっき浴では、例えば鉛直状態に配置される陽極からなるアノードホルダ13からこのアノードホルダに対設される陰極となるカソードホルダ14間にアノードホルダ側から順に、めっき液噴射ノズル15、およびメッキ電流径路でかつめっき液が通る複数の孔を穿設した多孔遮蔽板16が配置されるようになっている。そして、板状の被めっき物17は固定治具18に取り付けられてカソードホルダ14に保持されるようになっている。
【0016】
ここで、図1に示すように、めっき液噴射ノズル15は、実質的にめっき電流を乱さないように主たる電流径路の外側でめっき浴中に浸漬され、めっき槽11内においてその上方あるいは下方に配置される。そして、めっき液噴射ノズル15の先端にある噴出口15aは、めっき電流の電流径路側に斜め方向に、すなわち多孔遮蔽板に垂直な方向に対して傾斜した方向にめっき液を吐出しめっき液噴流19を形成するようになっている。また、板状の多孔遮蔽板16は板状の被めっき物17にほぼ平行になるように取り付けられる。
【0017】
いずれにしても、噴出口15aから吐出するめっき液噴流19は、多孔噴射板16の平板面に対し斜め方向から多孔噴射板16に設けられた複数の孔部16aに噴射されるようになっている。そして、孔部16aを通過しその方向が曲げられためっき液噴流19は、例えば渦流めっき液となって被めっき物17に供給される。このようにして、めっき浴においてめっき液と被めっき物17の界面領域に形成されるいわゆる電気2重層あるいは金属イオンの拡散層は擾乱されてなくなる。
【0018】
そして、被めっき物17の表面に金属イオンの補給が円滑になされめっき速度が向上する。また、被めっき物17の表面におけるめっき温度は安定的にめっき浴温度にされる。更に、被めっき物17に析出するめっき金属膜の多結晶粒径が均一化される。合金の析出においては、その共析が安定的に起こるようになり、所望の合金組成が容易に得られるようになる。
【0019】
上記被めっき物17に供給されためっき液は、多孔遮蔽板16の上方に設けられた孔部16a、多孔遮蔽板16とめっき槽11の間隙を流路としてアノード側に還流する。めっき槽11の貯留量以上になっためっき液12はオーバーフロー槽20に溢流しその排出管21を通り噴射ポンプ22に戻るようになっている。そして、噴射ポンプ22から流量調節器23および噴射めっき液供給ライン24を通りめっき液噴射ノズル15に噴射めっき液が送液されるようになっている。ここで、流量調節器23はめっき液噴射ノズル15に送られる流量を適宜に調節する。また、めっき液噴射ノズル15に供給される噴射めっき液中の不純物を取り除くように、めっき液フィルタ25が噴射めっき液供給ライン24に設けられてもよい。
【0020】
なお、図示しないが、めっき浴は例えばヒーター等による加熱を通して所要のめっき温度になるように制御される。ここで、めっき浴の加熱部はめっき槽11に連通する別のところに配置され、噴射めっき液供給ライン24とは別系統のめっき液供給ラインを通してめっき液補給されるようになっていてもよい。
【0021】
上記アノードホルダ13は、例えばニッケル(Ni)、鉄(Fe)、金(Au)、銅(Cu)等あるいは合金のめっき金属チップを例えばチタン(Ti)バスケットに充填し、このTiバスケット全体を液透過性のアノードバッグで包み、それをめっき浴に浸漬する構造になっている。ここで、チタンバスケットは、めっき浴の組成によってはその不溶性を確保するために表面に白金めっきが施される構造になる。そして、アノードホルダ13にはめっき電源の整流器(図示せず)の陽極側が電気接続するようになっている。
【0022】
カソードホルダ14はめっき浴に不溶の絶縁体からなり、被めっき物17を固定する固定治具18が装着され保持される構造になっている。ここで、カソードホルダ14にはめっき電源の整流器(図示せず)の陰極側が電気接続し、固定治具18に接続され被めっき物17に通電されるようになっている。なお、このカソードホルダ14は、例えばエアシリンダー機構(図示せず)に連結して被めっき物17を上下方向に搖動可能になっているとよい。
【0023】
めっき液噴射ノズル15はめっき浴に不溶の絶縁体からなる。この好適な絶縁体として塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂が挙げられる。めっき液噴射ノズル15の形状は種々のものが適用される。図1では、めっき液噴射ノズル15は、その先端にある噴出口15aが互いに連通し、めっき槽内において上下に分岐して配置される構造になる。その他に、図2(a)に示すように、めっき液噴射ノズル15は、2つの噴出口15aが槽内において左右に配置される構造になっていてもよい。この場合も、左右に位置する2つの噴出口15aは、めっき電流の電流径路側に斜め方向にめっき液を吐出し、そのめっき液噴流19を多孔噴射板16の孔部16aに向かって噴射する。
【0024】
図2(b)の例では、めっき液噴射ノズル15は矩形環状に形成され、その4隅のところに噴出口15aが形成された構造になっている。この場合も、4つの噴出口15aは、めっき電流の電流径路側に斜め方向にめっき液を吐出するようになり、4つの噴出口15aから吐出して形成されるめっき液噴流19は多孔噴射板16の孔部16aに当たるようになる。
【0025】
図2(c)の例では、めっき液噴射ノズル15は円環状に形成され、所定の4箇所のところに噴出口15aが形成された構造になっている。この場合も、図2(b)で説明したのと同様に、めっき電流の電流径路側に斜め方向にめっき液を吐出するようになる。その他に種々の形状が考えられるが、例えば三角環状あるいは多角環状のめっき液噴射ノズル15であっても構わない。
【0026】
多孔遮蔽板16は、めっき液噴射ノズル15と同様にめっき浴に不溶の絶縁体からなる。このような絶縁体としては塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂が好適に用いられる。従来技術で説明したように、多孔遮蔽板16は、めっき浴中の金属イオンの電流径路を調整し、被めっき物17の表面近傍における電気力線を調節してめっき厚分布を向上させる。そこで、板状で矩形、円形等の被めっき物17の面形状に合わせて、適宜な孔部16aが形成される。
【0027】
そして、多孔遮蔽板16は、その肉厚が例えば0.5mm〜50mm程度の範囲で適宜に形成されている。また、孔部16aはその平面形状を円形にすると好適である。その他に、三角形、矩形、多角形等になるようにしても構わない。これ等の孔部16aは、多孔遮蔽板16に上述した被めっき物17の被めっき領域におけるめっき膜の電着均一性が向上するように適宜な大きさおよび配列にすればよい。例えば円形の場合の口径は、被めっき物17の寸法あるいは多孔遮蔽板16の肉厚に合わせ、例えばΦ0.5mm〜10mm程度の範囲で適宜に設定され、所定のピッチに配列される。
【0028】
次に、例えば被めっき物17の平面形状が方形例えば正方形になる場合の具体的な多孔遮蔽板16について、図3を参照して説明する。判り易くするために孔部16aの無いところに斜線が施されている。図3(a)および(b)の例では、例えばΦ5mm程度の孔部16aが平面最稠密に7mm程度のピッチで配列される。そして、図に示すような被めっき面領域と同じ形状パターンの菱形ドーナツ状のマスキング部16bが形成されてめっき液噴流領域16dを画成している。ここで、マスキング部16bの幅は例えば50mm程度に設定され、それにより画成される開口の寸法は被めっき物17の一辺の寸法に合わせて決められる。例えば被めっき物17の一辺の寸法が3インチとなる場合には、60mm程度に設定される。
【0029】
図4は多孔遮蔽板16と被めっき物17の相対位置関係を示している。ここで、図4(a)に示すように多孔遮蔽板16と被めっき物17の離間距離Lは適宜に設定される。そして、図4(b)に示しているように、菱形ドーナツ状パターンのマスキング部16bは、正方形である被めっき物17の被めっき面領域において、電界集中の生じ易いその角部17aの4隅に向かう電気力線を弱めるようにめっき液噴流領域16dを配置する。このめっき液噴流領域16dは被めっき面領域17と同じか又は類似のパターン形状にして被めっき面領域17の垂直方向を軸として所定角度例えば90度回転させ角部16eを被めっき面領域の角部17aからずらせている。このようにして、多孔遮蔽板16は、めっき浴中の金属イオンの電流径路を調整し、被めっき物17の表面におけるめっき厚分布を向上させる。
【0030】
図4(b)の透視した位置関係では、マスキング部16bは、その開口の中心が被めっき物17の中央部にくるように配置されているが、上記位置関係は少しずれていてもよい。いずれにしても、マスキング部16bは、被めっき物17の角部を遮るように形成され、上述したのと同様にその角部に向かう電気力線を弱め、被めっき物17の表面におけるめっき厚分布を向上させるようになっていればよい。また、マスキング部16bは、被めっき物17の正方形以外の三角形、矩形、多角形の形状に合わせた種々のパターン形状にすることができる。
【0031】
そして、図3(b)に示した多孔遮蔽板16では、菱形ドーナツ状パターンのマスキング部16bの内周辺に隣接する一部の孔部が塞がれて遮蔽孔部16cになっている。この遮蔽孔部16cは、図4(b)の透視した位置関係から判るように、被めっき物17の4隅の角部に最も近いところに形成される。この遮蔽孔部16cにより、上述した電界集中の生じ易いそれ等の角部に向かう電気力線が微調節される。
【0032】
図3(a)、(b)に示した多孔遮蔽板16では、はじめに所定の肉厚の矩形板の全体に亘り一定ピッチに所要寸法の孔部16aが形成される。その後に被めっき物17の形状に合わせてマスキング部16bが形成され、更にめっき厚分布に合わせて微調節用の遮蔽孔部16cが形成される。ここで、マスキング部16bはめっき浴不溶の素材、例えば塩化ビニル系樹脂製ボードが貼着されて形成される。また、遮蔽孔部16cは、所定の箇所の孔部16がめっき浴不溶の素材により塞がれてなる。
【0033】
これに対して、図3(c)の例では、めっき浴不溶の多孔遮蔽板16において、例えば菱形状に区画する一点鎖線Mの内側領域に、孔径5mm程度の孔部16aが形成される。この場合、一点鎖線Mの外側領域は全体が遮蔽部となる。ここで、一点鎖線Mの外側領域の遮蔽部は、図3(a)、(b)で説明したように、被めっき物17の角部を遮り、その角部に向かう電気力線を弱めてめっき厚分布を向上させる。
【0034】
図3(a)、(b)の場合には、図1に示しためっき浴中において、多孔遮蔽板16のマスキング部16bの外側に形成されている孔部16aを通るめっき液12の還流があった。これに対して、図3(c)の場合には、一点鎖線Mの外側領域は全体が遮蔽部となり、上述したような還流は起こらない。そこで、図1でも説明しためっき槽11と多孔遮蔽板16の間隙を大きくして、めっき液12の還流を生じ易くする。あるいは、例えば、めっき液12が溢流するオーバーフロー槽20がカソードホルダ14側に配置されるめっき槽11の構造にしても構わない。
【0035】
次に、本発明の実施形態にかかるめっき方法の一例について説明する。このめっき法ではアディティブ法あるいはサブトラクティブ法であれ、被めっき物17に所定のパターンのレジストマスクが用いられる。このレジストマスクはめっき液に不溶な感光性樹脂からなる。図5に示すステップS1において、被めっき物17を固定治具18に装着する。ここで、被めっき物17はその表面あるいは裏面にスパッタリング法あるいは無電解めっき法により給電層が形成され、更に必要な領域に所定パターンのレジストマスクが形成されている。マスクから露出した導電部が被めっき面になる。なお、被めっき物17は例えばガラス、セラミックス、シリコン等の矩形素材からなる。そして、上記装着では、例えば被めっき物17の裏面の給電層が固定治具18の通電部に電気接続するようになる。
【0036】
次に、ステップS2の前処理液に浸漬する工程において、被めっき物17を固定治具18に取り付けた状態で、例えばpH3〜5程度の酸性の化学薬液に浸漬し搖動する。このステップS2において、図示しないがレジストマスクを形成するフォトリソグラフィ工程において発生していた有機系残渣物を除去すると共に、給電層の表面に形成されている酸化物を除去する。
【0037】
次に、ステップS3の純水洗浄の工程において、被めっき物17を固定治具18に取り付けた状態で、常温の純水で洗浄する。その後に、ステップS4の予備加熱槽に浸漬する工程において、これ等の被めっき物17を一定温度に制御された純水液に所定の時間浸漬する。ここで、純水液の温度はめっき槽11におけるめっき浴の温度とほぼ同じであり、めっき液の温度±10℃以内の範囲である。例えば35℃〜45℃の温度範囲で設定される。この温度は、固定治具18と共に被めっき物17をめっき槽11のめっき浴に浸漬する時にめっき浴温度と同程度になればよい。なお、予備加熱槽に浸漬する時間は1分〜5分程度である。
【0038】
上記ステップS4の予備加熱槽に浸漬する工程において、その表面に形成されているレジストマスクは、その熱膨張による被めっき物17との密着性が劣化することなくその貼着が安定した状態になる。
【0039】
次に、めっき工程になるステップS5において、被めっき物17を固定治具18に固定した状態で図1に示したようなめっき槽11のカソードホルダ14の通電部に電気接続するように装着し、めっき浴に浸漬する。続いて、めっき工程のS6において、アノードホルダ13およびカソードホルダ14をそれぞれめっき電源に電気接続して、所要の電流を流し、被めっき面に所要の膜厚のめっき金属膜を電着する。なお、このめっき工程では、図1ないし図4で説明したような電気めっき装置を用いる。
【0040】
ここで、ステップS4の予備加熱槽に浸漬する工程を経た被めっき物17では、上述したようにレジストマスクの密着性劣化はない。また、レジストマスク中にめっき液が浸み込み膨潤することもない。このため、被めっき物17の表面の所定領域に安定した選択的めっき膜の形成が可能になる。その他に、Ni系合金以外のパラジウム(Pd)系合金であっても上記めっき速度が適正な範囲になる。
【0041】
そして、めっき金属膜が例えばNi基合金のような合金からなる場合、めっき速度は0.4μm/min〜0.5μm/minの範囲になるようにすると好適である。このような範囲であると、所望の合金析出が容易になる。ここで、めっき速度が0.4μm/min未満であると、厚膜のめっき形成時間は1時間以上になり、めっき浴中におけるレジストマスクの劣化によりめっき液純度が低下して生産性が損なわれるようになる。そして、めっき速度が0.5μm/minを超えてくると、Ni基合金の共析が不安定になる。Ni基合金としてはNi−Fe、Ni−マンガン(Mn)、Ni−コバルト(Co)、Ni−パラジウム(Pd)等が挙げられる。
【0042】
ここで、電鋳法により接触子を製造する場合には、めっき厚20μm〜30μm程度の例えばNi基合金が電着される。上記めっき速度であると、所要のめっき厚は1時間以内で得られ、その充分な生産性が確保できる。
【0043】
ステップS5およびS6のめっき工程においては、高品位の膜質およびめっき膜の高い電着均一性が得られるように、めっき液噴射ノズル15および多孔遮蔽板16が配置される。多孔遮蔽板16では、図3および図4で説明したように最適な孔部16aが形成されている。そして、好適なめっき液噴流19が孔部16aに対してめっき液噴射ノズル15により噴射され、孔部16aを通過しためっき液が被めっき物17の表面に供給される。このために、めっき液噴流19が被めっき物17表面に孔部16aを通過しないで直接供給される場合に較べて、めっき浴中におけるレジストマスクあるいはその密着性等の劣化は低減する。そして、例えばめっき液の劣化による生産性の低下は抑制される。
【0044】
上記めっき工程では、図4で示した多孔遮蔽板16と被めっき物17の離間距離は10mm〜50mm程度の範囲に適宜に設定される。その他に、めっき中において従来技術の場合と同様にカソードホルダ14を多孔遮蔽板16の平板面に並行に所定の速度で搖動してもよい。
【0045】
次に、めっき工程を終了すると固定治具18をカソードホルダ14から脱着し、ステップS7の純水洗浄の工程において、被めっき物17および固定治具18を洗浄する。その後、ステップS8の乾燥工程において、全体に窒素あるいはエアーブロー乾燥を施し、固定治具18から被めっき物17を取り外す。
【0046】
その後は、図示しないが、例えば接触子を電鋳法で作製する場合には、レジストマスクおよび被めっき物17の母型部分を除去して所要形状のめっき金属膜からなる接触子に加工することになる。
【0047】
本実施形態の電気めっき装置では、めっき槽11のめっき浴中において、めっき液噴射ノズル15からめっき液噴流19を多孔遮蔽板16の複数の孔部16aに噴射する。そして、複数の孔部16aを通り抜けてその方向が曲げられためっき液が被めっき物17の表面に供給されるようになっている。このような構成にすることにより、被めっき物17の表面に析出するめっき金属膜は、高い電着均一性およびそのめっき速度と共に高品位の膜質が生産性を損なうことなく得られ、また、それ等を両立させる制御が可能になる。
【0048】
また、本実施形態のめっき方法では、本実施形態の電気めっき装置を用い、レジストマスクを貼着した被めっき物17に選択的にめっき金属膜を形成する。ここで、めっき浴中でのレジストマスクのマスク性は安定的に維持され、高い再現性のめっき金属膜が選択的に電着できるようになる。
【0049】
そして、Ni基合金の電着では、合金析出において高品位の膜質が容易に得られる。例えば接触子を電鋳する場合に必要なばね性能に優れた組成、多結晶粒を有する合金膜が得られる。
【実施例】
【0050】
次に、実施例により本発明の効果について図6および図7も参照して具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例、比較例)
実施例および比較例のめっき金属膜の形成では、図1に模式的に示した電気めっき装置において、アノードホルダ13、めっき液噴射ノズル15およびカソードホルダ14のめっき槽11内での配置関係は同じになるようにした。但し、めっき液噴射ノズル15は図2(a)で説明した構造であり、左右方向から被めっき物17に向かってめっき液噴流が吐出するようにした。ここで、被めっき物17は一辺が3インチ(76.2mm×76.2mm)の正方形のガラス基板である。また、アノードホルダ13とカソードホルダ14の離間距離は90mm〜200mm範囲で適宜に設定した。そして、多孔遮蔽板16は肉厚が10mmであり、その孔部16aをΦ5mmの円形にした。
【0052】
実施例1および実施例2では、それぞれ図3(a)、図3(b)で説明した多孔遮蔽板17がめっき液噴射ノズル15と被めっき物17の間に配置される。これに対し、比較例1では、遮蔽板は全く配置されない。比較例2では、図6(a)に示す遮蔽板26をアノードホルダ13のめっき液噴射ノズル15側に面するところで接触するように配置した。図6(a)の遮蔽板26では、肉厚および材質は多孔遮蔽板16と同じである。但し、その所定の位置に一辺が25mm〜30mmになる1つの矩形開口部26cが形成されている。
【0053】
比較例3では、図6(b)に示す遮蔽板26を実施例の場合と同様にめっき液噴射ノズル15と被めっき物17の間に配置した。この遮蔽板26は、図3(a)で説明した多孔遮蔽板16の場合と同じ孔部26a、マスキング部26bを有する。但し、更にマスキング部26bの内側に図6(a)と同様な矩形開口部26cが設けられた構造になっている。これは、めっき液噴射ノズル15から噴射されるめっき液噴流19の一部が矩形開口部26cを通りその方向を変えることなくめっき物17表面に直接供給される構造になる。
【0054】
その他、多孔遮蔽板16あるいは遮蔽板26と被めっき物17の離間距離は25mmと一定にした。また、めっき液噴射ノズル15からのめっき液噴流19の噴流量およびアノードホルダ13およびカソードホルダ14間のめっき電流については、図7にまとめて示した通りである。
【0055】
上記実施例および比較例のめっき金属膜の評価結果を図7の表に示している。ここで、めっき膜厚分布の結果およびめっき膜質として光学顕微鏡による表面観察から得た結果をまとめている。なお、被めっき物17の評価サンプル数はそれぞれ45枚であり、各被めっき物17の表面における9つの等間隔位置の評価結果である。図7に示すめっき膜厚の平均値は、5枚の評価サンプルの全ての測定値から算出した平均値であり、その分布はその平均値からの膜厚バラツキにより算出した値となっている。また、光学顕微鏡による表面観察からめっきくもりが全く生じない場合を結晶粒が均一とし、めっきくもりが少しでも生じたサンプルがある場合に結晶粒が不均一と評価した。
【0056】
(評価)
図7示すように、実施例1では、めっき膜厚の平均値は36.8μmでその膜厚バラツキは±7.5%であり、実施例2の場合の平均値は23.8μmに対してその膜厚バラツキは±5.0%になった。通常、めっき膜厚を厚くするとその膜厚バラツキは増大する。電鋳法による接触子の形成では、必要とされる膜厚は20μm〜30μmであり、この場合の膜厚バラツキは10%以下と充分な規格内の数値に収まる。これに対して、比較例1乃至3では、めっき膜厚の平均値が20μm程度と実施例の場合より小さくても、その膜厚バラツキは20〜50%と大きくなる。
【0057】
また、その膜質の一部の評価となる結晶粒評価でも、実施例1,2ではめっきくもりは生じないで結晶粒が均一になるのに対して、比較例1乃至3ではめっきくもりが観察され、結晶粒の不均一が生じる。このめっきくもりは、めっき液噴射ノズル15からのめっき液噴流19が直接に被めっき物17の表面に噴射される場合に生じることを確認している。
【0058】
なお、図7には示していないが、実施例1,2における平均的なめっき速度は0.45μm/minであった。これに対して、比較例1における平均的めっき速度は0.3μm/minであり、比較例2,3における平均的めっき速度は共に0.5μm/minとなった。
【0059】
これ等の結果から、本実施形態の電気めっき装置およびそれを用いためっき方法は、数十μmの厚膜におけるめっき膜の高い電着均一性と高品位性を向上させるのに好適であることが確かめられた。そして、特に合金のめっき膜の形成においてその効果が顕著になることが確認された。
【0060】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0061】
上記実施形態では、電気めっき装置は水平におかれためっき槽11内においてアノードホルダ13、カソードホルダ14等が鉛直方向に配置される場合について説明されている。その他に、めっき槽11、めっき液噴射ノズル15、多孔遮蔽板16も含めて種々の方向に配置される電気めっき装置が可能である。
【符号の説明】
【0062】
11…めっき槽、12…めっき液、13…アノードホルダ、14…カソードホルダ、15…めっき液噴射ノズル、15a…噴出口、16,26…多孔遮蔽板、16a,26a…孔部、16b,26b…マスキング部、16c…遮蔽孔部、16d…めっき液噴流領域、16e…角部、17…被めっき物、17a…角部、18…固定治具、19…めっき液噴流、20…オーバーフロー槽、21…排出管、22…噴射ポンプ、23…流量調節器、24…噴射めっき液供給ライン、25…めっき液フィルタ、26c…矩形開口部、S1〜S8…めっき工程における主要ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液が充填されるめっき槽と、
前記めっき槽内に配置され前記めっき液の中で陽極となるアノードホルダと、
前記めっき槽内で前記アノードホルダに対設され被めっき物を保持し陰極となるカソードホルダと、
前記アノードホルダから前記カソードホルダの間に前記アノードホルダ側から順に配置される絶縁体からなるめっき液噴射ノズルと、
絶縁体からなり複数の孔が穿設された平板状の多孔遮蔽板と、を有し、
前記めっき液噴射ノズルは、前記めっき槽内のめっき液に浸漬され、前記多孔遮蔽板の平板面に対して斜め方向から前記複数の孔に向かってめっき液を噴射するように構成され、
前記多孔遮蔽板は、前記めっき槽内のめっき液中において、前記めっき液噴射ノズルから噴射されるめっき液が前記複数の孔を通りその噴流方向を変えて前記被めっき物の表面に供給されるように構成されていることを特徴とする電気めっき装置。
【請求項2】
前記多孔遮蔽板は、平板状に形成されている前記被めっき物を前記めっき液中で電気めっきする際に、前記被めっき物の周縁の角部の領域に集中するめっき電流を遮るようになっていることを特徴とする請求項1に記載の電気めっき装置。
【請求項3】
前記被めっき物は角部を有する被めっき面領域を有し、
前記多孔遮蔽板は前記被めっき面領域に平行に配置され、前記被めっき面領域と同形状で角部を有するパターンであってめっき電流径路となるめっき液噴流領域を画成し、前記めっき液噴流領域内に前記噴射されためっき液が通る複数の孔を形成しており、かつ前記めっき液噴流領域の角部が前記被めっき面領域の角部に対して前記めっき面領域に垂直な方向を軸として所定角度ずれていることを特徴とする請求項2に記載の電気めっき装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の電気めっき装置を用いためっき方法であって、
表面にレジストマスクが形成された前記被めっき物をその裏面側から固定治具に取り付けて、前記めっき液とほぼ同じ温度の純水中に前記固定治具を浸漬した後、
前記被めっき物が取り付けられた固定治具を前記カソードホルダに装着して、前記被めっき物を前記めっき液中に浸漬し、前記アノードホルダと、前記カソードホルダに通電しながら、
前記めっき液噴射ノズルを用いて前記多孔遮蔽板の平板面に対して斜め方向から、前記多孔遮蔽板に設けられている複数の孔に向かって前記めっき液を噴射して、前記被めっき物の表面の所定領域に選択的にめっき膜を形成することを特徴とするめっき方法。
【請求項5】
前記めっき膜は、Ni基合金からなり、そのめっき速度が0.4μm/min〜0.5μm/minの範囲になるように形成されることを特徴とする請求項4に記載のめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−112842(P2013−112842A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259163(P2011−259163)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000177690)山一電機株式会社 (233)