説明

電気めっき装置及び電気めっき方法

【課題】従来に比べて、被めっき物の表面に均一にめっき皮膜を形成できるようにした電気めっき装置及び電気めっき方法を提供する。
【解決手段】めっき層内には、下面側に陰極板7及び側に回転部8を有し、陰極板7の上面は凹凸面7aで形成される。被めっき物12を陰極板7と回転部8の間に挟持し、陰極及び陽極間に電流を供給して前記被めっき物12の表面に前記めっき皮膜を形成する際、回転部8は回転可能に支持されている。また凹凸面7aの凸部の頂部表面は湾曲面で形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来に比べて、被めっき物の表面に均一にめっき皮膜を形成できる電気めっき装置及び電気めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、例えばバレルめっき法にて、被めっき物の表面にめっき皮膜を形成していた。バレルめっき法では、回転籠の中に、給電用の電極を設けるとともに被めっき物を配置し、回転籠を回転させながら、被めっき物の表面にめっき皮膜を形成する。この方法では、被めっき物が給電用の電極に接触したときに電流が供給され、めっき皮膜が形成される。
【0003】
しかしながら、バレルめっき法では、以下の問題点があった。
まず、被めっき物がめっき液中に浮遊した状態では、被めっき物に対して給電されないので、被めっき物に安定してめっき皮膜を形成できなかった。
【0004】
またバレルめっき法では、被めっき物同士が密着したり、被めっき物が電極面に対して不動支持され、被めっき物の所定部分が電極面に常に密着した状態を保つことがあった。かかる場合、被めっき物の密着面にはめっき液が供給されないため、被めっき物の表面に均一なめっき皮膜を形成できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−8518号公報
【特許文献2】特開平5−117897号公報
【特許文献1】特開平11−92994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された発明には、めっき槽内に陽極と陰極とを備え、陰極には受け皿部が形成され、前記受け皿部上に被めっき物を載置して成る電気めっき装置が開示されている。
【0007】
また特許文献2に記載された発明には、陰極を構成する回転容器と、回転容器内に設けられた陽極とを有して構成され、前記回転容器を回転させることで、遠心力で回転容器の側壁に被めっき物を付着させる電気めっき装置が開示されている。
【0008】
また特許文献3に記載された発明には、陰極を有する回転可能なめっき槽と、めっき槽内に設けられた陽極とを有し、前記めっき槽を回転させながら被めっき物にめっき皮膜を形成する電気めっき装置が開示されている。また特許文献3には、めっき槽の回転と停止を繰り返すことで、被めっき物の位置を変化させて、凝集を起こりにくくするとの記載がある(特許文献3の[0015]欄等)。
【0009】
しかしながら、上記した特許文献に記載された発明では、十分に被めっき物のめっき液中への浮遊を抑制できないものと考えられる。また、被めっき物は、めっき槽の回転により遠心力を受けて陰極に付着し陰極の所定箇所に固定された状態を保ち、このため、各被めっき物間や陰極との間の密着面にめっき液を適切に供給できないのではと考えられる。また特許文献3に記載のように、めっき槽の回転と停止を繰り返すことで被めっき物の位置を変える方法では制御が困難になるものと考えられる。
【0010】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、従来に比べて、被めっき物の表面に均一にめっき皮膜を形成できるようにした電気めっき装置及び電気めっき方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、めっき槽と、前記めっき槽内に設けられた陽極及び陰極とを有し、被めっき物の表面にめっき皮膜を形成するための電気めっき装置において、
前記めっき層内には、少なくとも一方が前記陰極を構成する下面板及び上面板を有し、前記下面板及び前記上面板の少なくとも一方の対向面は凹凸面から成り、
前記被めっき物を前記陰極及び前記凹凸面に当接させた状態で前記下面板及び上面板の間に挟持し、両極間に電流を供給して前記被めっき物の表面に前記めっき皮膜を形成する際、相対的に平面運動するように、前記上面板及び前記下面板の少なくとも一方が平面運動可能に支持されており、
前記凹凸面を構成する凸部の頂部表面が湾曲面を有して形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
あるいは本発明は、めっき槽と、前記めっき槽内に設けられた陽極及び陰極とを有し、被めっき物の表面にめっき皮膜を形成するための電気めっき方法において、
前記めっき槽内には、少なくとも一方が前記陰極を構成する下面板及び上面板を備え、前記下面板及び前記上面板の少なくとも一方の対向面は、頂部表面に湾曲面が形成された凸部を有する凹凸面から成り、
めっき液中で、前記被めっき物を、前記下面板及び前記上面板の間に挟持し、前記陰極及び凹凸面に当接させた状態で、前記上面板及び前記下面板を相対的に平面運動させながら、両極間に電流を供給して前記被めっき物の表面に前記めっき皮膜を形成することを特徴とするものである。
【0013】
本発明では、被めっき物を、下面板と上面板の間に挟持するため、従来のように被めっき物がめっき液中に浮遊することを抑制できる。また相対的に平面運動するように、少なくとも上面板及び下面板の一方を平面運動させ、さらに本発明では、上面板及び下面板の少なくとも一方の対向面を頂部表面に湾曲面が形成された凸部を有する凹凸面で形成しているため、被めっき物を効果的に回転させながら移動させることができ、また凹部にもめっき液を供給でき、めっき液の流動性(攪拌効果)を高めることができる。以上により、被めっき物に対する安定した給電と、めっき液の流動性により、従来に比べて、被めっき物の表面に均一なめっき皮膜を形成しやすく出来る。
【0014】
また本発明では、前記凸部の表面は、上面と、側壁面と、前記上面及び前記側壁面間を繋ぐ前記湾曲面の曲面部とを有して構成され、前記曲面部から前記上面にかけて前記頂部表面が構成されていることが好ましい。また本発明では、前記頂部の表面全体が湾曲面で形成されていることがより好ましい。これにより、被めっき物をスムースに回転させながら移動させることができ、めっき液の流動性(攪拌効果)をより効果的に高めることができる。
【0015】
また本発明では、前記凹凸面の隣り合う前記凸部間の間隔は、前記被めっき物の直径よりも小さいことが好ましい。これにより、より効果的に、被めっき物を回転させながら移動させることができる。
【0016】
また本発明では、前記上面板は液透過性であることが好ましい。これにより上面板を介してめっき液が下面板と上面板の間の全域に流れ込みやすくなり、めっき液の流動性(攪拌効果)を高めることができ、より効果的に、被めっき物の表面に均一なめっき皮膜を形成できる。
【0017】
また本発明では、前記上面板の対向面には、液透過性で且つ前記上面板より軟らかい軟質膜が設けられていることが好ましい。これにより上面板を介してめっき液が下面板と上面板の間の全域に流れ込みやすくなり、めっき液の流動性(攪拌効果)を高めることができる。また、被めっき物を確実に下面板と上面板間に挟持できる。更に下面板と上面板間に押圧力を加えて、被めっき物を下面板と上面板間に挟持したときの被めっき物に対するダメージを低減することが出来る。
【0018】
また本発明では、前記下面板及び前記上面板のうち、少なくとも一方が回転板であり、前記回転板の回転軸は中心からずれていることが好ましい。これにより、被めっき物全体の回転移動をより効果的に促進できる。よって、被めっき物全体に対してより安定してめっき液を供給でき、より効果的に、被めっき物の表面に均一なめっき皮膜を形成できる。
【0019】
本発明では、前記陰極の前記対向面が前記凹凸面で形成されていることが好ましい。このとき、前記下面板は固定された陰極板であり、前記上面板が平面運動可能に支持されていることが好ましい。これにより簡単な機構の電気めっき装置を構成できる。また容易に、可動側である上面板を上記したように液透過性としたり上面板の対向面に軟質膜を設けることができ、めっき液の流動性(攪拌効果)をより効果的に高めることができる電気めっき装置を実現できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電気めっき装置及び電気めっき方法によれば、従来に比べて、被めっき物の表面に均一にめっき皮膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態の電気めっき装置の模式図、
【図2】本実施形態のめっき形成部の部分拡大断面図、
【図3】本実施形態のめっき形成部を平面から見た透視図、
【図4】めっき物の断面図(一例)、
【図5】(a)は、本実施形態、(b)は比較例を示し、本実施形態のほうが比較例よりも優れている点を説明するための陰極板及び被めっき物の概念図、
【図6】本実施形態における凸部の拡大縦断面図、
【図7】本実施形態における陰極板の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は本発明の電気めっき装置の模式図、図2はめっき形成部の部分拡大断面図、図3は、めっき形成部を平面から見た透視図、図4は、めっき物の断面図、図5(a)は、本実施形態、図5(b)は比較例を示し、本実施形態のほうが比較例よりも優れている点を説明するための陰極板及び被めっき物の概念図、図6は、図6は本実施形態における凸部の拡大縦断面図、図7は、本実施形態における陰極板の平面図、である。
【0023】
図1に示すように電気めっき装置1を構成するめっき槽2内には、陽極板3及びめっき形成部4が設けられる。
【0024】
図1,図2に示すように、めっき形成部4は、陰極側給電板5と、支持台6と、陰極板(下面板)7と、回転部8とを有して構成される。図2に示すように回転部8は回転板(上面板)10と軟質膜9とで構成される。図2に示すように、支持台6の内部には、給電用コイルバネ11が設けられる。給電用コイルバネ11の下部は、陰極側給電板5に当接し、給電用コイルバネ11の上部は、陰極板7に当接している。
【0025】
この実施形態では、陰極板7は固定部である。また図2に示すように陰極板7の上面(回転部8に対する対向面)は凹凸面7aとなっている。たとえば、凹凸面7aはフォトリソグラフィ技術を用いて形成できる。陰極板7は例えば、ステンレスで形成されるが、ステンレス以外の導電板で形成されてもよい。
【0026】
また、回転板10は、液透過性であることが好ましい。具体的には多孔質であることが好適である。例えば回転板10は発泡ガラスや多孔セラミックスで形成される。回転板10に形成される孔径は200〜300μm程度である。
【0027】
軟質膜9は、回転板10の下面(陰極板7との対向面)10aに貼着されている。軟質膜9は液透過性の多孔質で且つ回転板10より軟らかい例えばフェルト(不織布)で形成される。軟質膜9の厚みは2mm程度である。
【0028】
図2に示すように、陰極板7と回転部8との間に、被めっき物12が挟持されている。被めっき物12は例えば黄銅球であるが、材質や形状を限定するものではない。
【0029】
図1に示すように、支持台6の上面には、陰極板7を載置するための凹部6aが設けられ、陰極板7を凹部6a内に載置したとき、陰極板7よりも上方に飛び出す側壁6bが設けられている。この側壁6bの陰極板7の上面(凹凸面7aであるときは凸部の上面)からの突出量は、被めっき物12を陰極板7上に配置したときに、被めっき物12の最上部が側壁6bの上面と同等か、あるいは、被めっき物12の最上部が側壁6bの上面から若干飛び出すように調整される。
【0030】
図3に示すように回転部8及び陰極板7はいずれも円形状で形成されるが、特に平面形状を限定するものではない。ただし、少なくとも側壁6bに囲まれた被めっき物12の移動平面領域が円形状となるように形成したほうが、被めっき物12の移動を阻害せずに、被めっき物12をスムースに移動させることができて好適である。
【0031】
図1,図3に示すように回転部8の上面8bには、回転軸15が取り付けられている。この実施形態では、回転軸15は、回転部8の中心8cに設けられず、中心8cからずれた位置に設けられる。回転部8は、回転軸15を回転中心として平面内にて回転可能に支持されている。
【0032】
本実施形態では図2、図5(a)、図6(a)に示すように、陰極板7の上面に形成された凹凸面7aを構成する凸部30の頂部表面30aは、凸状の湾曲面で形成されている。ここで「頂部」とは、凸部30の裾部から高さ方向に離れた先端領域(裾部を除く領域)を示し、この実施形態では上方部分を示す。なお、図6(a)の実施形態では、裾部表面30bを含めて、凸部30の表面全体が連続した曲面状で形成されている。
【0033】
図1に示すように、めっき槽2中にめっき液20を入れ、このめっき液20中に、陽極板3及びめっき形成部4を浸漬させる。このとき、図2,図3に示すように、多数個の被めっき物12を陰極板7と回転部8の間に挟持し、前記被めっき物12を陰極板7の凹凸面7aと軟質膜9の表面とに当接させた状態でめっき液中に浸漬させる。被めっき物12の個数を限定しないが、側壁6bで仕切られた被めっき物12の移動平面領域に占める被めっき物12の占有率(各被めっき物12の最大断面積の和/移動平面領域の面積)が大きくなりすぎると、各被めっき物12の移動を阻害し、また各被めっき物12に対するめっき液20の流動性が悪化するので、占有率を30〜60%程度に調整するのがよい。続いて、回転部8を回転させながら陰極板7と陽極板3間に電流を供給する。これにより、被めっき物12の表面12aに例えばNiめっき皮膜16を形成する。
【0034】
例えばめっき形成部4がめっき槽2に対して着脱可能に支持されていれば、めっき形成部4を電気めっき装置1から取り外し、このめっき形成部4を別の電気めっき装置のめっき槽2にセッティングすることで、簡単に、複数のめっき皮膜を積層めっきすることが可能になる。なお、陰極板7と回転部8と、その間に挟持された被めっき物12とを一つのユニットとして取り外し自由に支持されていれば、このユニットを別の電気めっき装置に移動させることで複数のめっき皮膜を積層めっきするようにしてもよい。図4に示す形態では、Niめっき皮膜16の表面16aには例えばAuめっき皮膜17が形成されている。
【0035】
本実施形態では、被めっき物12を、陰極板7と回転部8との間に挟持しているので、従来のように、被めっき物12が陰極板7から離れてめっき液20中に浮遊してしまう現象を抑制することが出来る。また、回転部8を回転させることで被めっき物12は、同じ場所に留まらず、回転しながら側壁6bに囲まれた平面領域内を移動しやすくなる。図2には被めっき物12が回転している様子を矢印Aで示している。このように被めっき物12が同じ場所に留まるよりも回転移動することで、被めっき物12に対するめっき液20の流動性が高まる。また特に、被めっき物12が回転しながら移動することで、被めっき物12同士の密着や被めっき物12の陰極板7あるいは回転部8への密着を効果的に抑制できる。
【0036】
更に本実施形態では、陰極板7の表面は凹凸面7aで形成されているから、回転部8を回転させたときに、被めっき物12と陰極板7間に適度な摩擦が生じ、被めっき物12をより効果的に回転させながら移動させることが出来る。また、凹凸面7aの凹部内にもめっき液20が供給される。
【0037】
特に本実施形態では、図5(a)に示すように、凹凸面7aの凸部30の頂部表面30aを湾曲面で形成しているため、効果的に、被めっき物12を回転させながら移動させることが出来る。
【0038】
図5(b)は、比較例である。図5(b)では、凹凸部7aの凸部30の上面30dは略水平面で形成され、高さ方向に垂直あるいは傾斜して延びる側壁面30cと前記上面30dとの間に角部30eが形成されている。図5(b)に示す形態の場合、図5(b)の実線に示すように、被めっき物12が各凸部30の間に位置する状態から、点線に示すように前記被めっき物12が回転しながら移動するときに、角部30eの存在により前記被めっき物12のスムースな移動を阻害しやすく最悪の場合、被めっき物12が各凸部30の間に嵌まって移動できなくなる場合がある。また被めっき物12が移動するとき角部30eにて被めっき物12の表面が傷つく恐れもある(被めっき物12よりも陰極板7のほうが硬質である)。
【0039】
これに対して図5(a)に示す本実施形態のように、凸部30の頂部表面30aを湾曲面で形成することで、図5(a)の実線に示すように、被めっき物12が各凸部30の間に位置する状態から、点線に示すように前記被めっき物12が回転しながら移動するときに、前記被めっき物12が曲面状の頂部表面30aを伝ってスムースに移動することが可能になる。
【0040】
以上により、被めっき物12に対する安定した給電と、めっき液20の流動性(攪拌効果)の向上により、従来に比べて、被めっき物12の表面に均一なめっき皮膜を形成することが可能になる。
【0041】
本実施形態では図6(b)に示すように、凸部30には略水平面の上面30dと高さ方向に垂直あるいは傾斜して延びる側壁面30cが設けられ、前記上面30dと側壁面30cとの間に湾曲面の曲面部32が形成されている形態であってもよい。かかる場合、曲面部32から上面30dにかけて頂部表面30aが構成される。ただし、被めっき物12のスムースな移動の促進及び形成の容易性から図6(a)に示すように頂部表面30aの全体を湾曲面で形成することが好適である。
【0042】
なお本実施形態では、頂部表面30aの形状は図6のものに限定されない。本実施形態では被めっき物12の回転移動をスムースにすべく頂部表面30aが湾曲面を有して構成された形態であれば図6に示す形態以外のものも含まれる。
【0043】
本実施形態では、例えばフォソリソグラフィ技術を用いて陰極板7の上面に凹凸面7aを形成した後、機械研磨により凸部30の頂部表面30aを曲面状に形成することが可能になる。
【0044】
また図5(a)に示すように、各凸部30間の間隔L1は、被めっき物12の直径L2に比べて小さいことが好適である。ここで各凸部30間の間隔L1とは、凸部30の高さ方向の略中心での間隔を示す。間隔L1が直径L2よりも大きいと、凸部30,30間の凹部31内に入り込んだ被めっき物12が前記凹部31内から抜け出にくくなる。このため本実施形態のように、間隔L1を直径L2より小さくすることで、被めっき物12を回転させながら、よりスムースに平面内にて移動させることが可能になり、めっき液の流動性(攪拌効果)を高めることができる。
【0045】
なお本実施形態では、陰極板7に形成された凹凸面7aの凹凸深さ(凸部30の上面から凹部31の底面までの深さ)や、間隔L1は、数十μm〜数百μm程度である。例えば凹凸深さは100μm程度、間隔L1は200μm程度である。
【0046】
図7(a)には、陰極板7の上面に形成された凹凸面7aの平面形態が示されている。図7(a)に示す実施形態では、複数の凸部30が、ドット状に形成されている(図7(a)には2箇所のみ符号30を付した)。例えば凸部30の平面は略円形である。また図7(a)に示すように、凸部30をドット状で形成することで、凸部30の頂部表面30aを略球面状で形成することができる。
【0047】
また図7(b)にように、凸部30を網目状に形成することも可能である。ただし、凸部30を網目状にすると複数の凹部31が夫々分離した状態で形成され(図7(b)には2箇所にのみ符号31を付した)、各凹部31内にめっき液20が滞留しやすくなる。これに対して、図7(a)のように、複数の凸部30をドット状に形成することで、各凸部30の周囲に位置する凹部31が連続して繋がり、めっき液20を凹部31内に適切に流動させることができ、めっき液20の流動性(攪拌効果)を高めることができ好適である。
【0048】
また、図2に示す実施形態では、回転部8が液透過性で形成される。例えば回転部8を構成する回転板10及び軟質膜9は、共に多孔質である。このため、図2の矢印Bに代表的に示すようにめっき液20は、回転部8を介して、陰極板7と回転部8の間の全域に流れ込みやすくなる。すなわち、陰極板7と回転部8の間の外周領域のみならず中央領域にも適切にめっき液20を流し込むことが可能である。よってめっき液20の流動性(攪拌効果)をより効果的に高めることが出来る。また、図2では、回転板10の下面に軟らかい軟質膜9を設けているが、これにより、被めっき物12を確実に陰極板7と回転部8の間に挟持できる。また、陰極板7と回転部8の間に押圧力を与えて、被めっき物12を陰極板7と回転部8の間に挟持するが、このとき、被めっき物12と軟質膜9とが当接する部分では、軟質膜9が潰れて押圧力をある程度吸収するため、押圧力を加えたことによる被めっき物12に対するダメージを低減することができる。
【0049】
また図1,図3に示すように回転部8の回転軸15は中心8cからずれた位置にある。よって回転部8は偏心回転する。これにより、回転部8を回転させたときに遠心力が大きくなり多数個の被めっき物12全体の移動を効果的に促進できる。またこのとき被めっき物12に対して、もみすり動作が作用することで、各被めっき物12を効果的に回転させながら移動させることが出来る。
【0050】
なお図2に示す実施形態では、陰極板7の上面が凹凸面7aで形成されているが、それに代えて、回転部8の下面が凹凸面となっていてもよい。また、陰極板7及び回転部8の各対向面が夫々、凹凸面となっていてもよい。また、陰極板7は下面板側でなく、上面板側に、あるいは両方に、設けられてもよい。また図2では、陰極板7が固定側であるが、陰極板7を回転させることも出来る。ただし配線の関係や簡単な機構とすべく、陰極板7を固定した下面板とし、前記陰極板7の上面を凹凸面7aとし、上面板を回転板としたほうが好ましい。被めっき物12の表面にめっき皮膜を形成するには、被めっき物12を陰極板7に当接させなければならない。また、凹凸面7aとしたことの効果を発揮するには被めっき物12を凹凸面7aに当接させなければならない。このため、本実施形態では、陰極板7の上面を凹凸面7aとすることで、回転部8側を凹凸面とする制約は無くなり、めっき液20の流動性(攪拌効果)を更に高めるべく、回転部8を液透過性としたり軟質膜9を設ける等、設計の自由度を高めることができる。
【0051】
また、図2では、回転部8は、回転板10と軟質膜9との積層構造で構成されているが、回転板10のみで構成されるものであってもよい。
【0052】
また上記した実施形態では、回転部8を平面内にて回転させる構成であるが、それ以外の構成であってもよい。本実施形態では、相対的に平面運動するように、上面板及び下面板の少なくとも一方が平面運動する形態であればよい。例えば、上面板が平面内にて直線的に往復移動するような形態でもよい。また上面板及び下面板の双方が平面運動する形態でもよい。ただし、このとき、相対的に平面運動させるべく、例えば、上面板及び下面板を逆向きに平面運動させる。
【0053】
また、本実施形態のめっき装置1を用いてめっき皮膜が形成された被めっき物12を例えば電気接点として使用することができるが、被めっき物12の用途については特に限定しない。
【符号の説明】
【0054】
1 電気めっき装置
2 めっき槽
3 陽極板
4 めっき形成部
7 陰極板
7a 凹凸面
8 回転部
9 軟質膜
10 回転板
12 被めっき物
15 回転軸
16,17 めっき皮膜
20 めっき液
30 凸部
30a 頂部表面
31 凹部
32 曲面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき槽と、前記めっき槽内に設けられた陽極及び陰極とを有し、被めっき物の表面にめっき皮膜を形成するための電気めっき装置において、
前記めっき層内には、少なくとも一方が前記陰極を構成する下面板及び上面板を有し、前記下面板及び前記上面板の少なくとも一方の対向面は凹凸面から成り、
前記被めっき物を前記陰極及び前記凹凸面に当接させた状態で前記下面板及び上面板の間に挟持し、両極間に電流を供給して前記被めっき物の表面に前記めっき皮膜を形成する際、相対的に平面運動するように、前記上面板及び前記下面板の少なくとも一方が平面運動可能に支持されており、
前記凹凸面を構成する凸部の頂部表面が湾曲面を有して形成されていることを特徴とする電気めっき装置。
【請求項2】
前記凸部の表面は、上面と、側壁面と、前記上面及び前記側壁面間を繋ぐ前記湾曲面の曲面部とを有して構成され、前記曲面部から前記上面にかけて前記頂部表面が構成されている請求項1記載の電気めっき装置。
【請求項3】
前記頂部の表面全体が湾曲面で形成されている請求項2記載の電気めっき装置。
【請求項4】
前記凹凸面の隣り合う前記凸部間の間隔は、前記被めっき物の直径よりも小さい請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電気めっき装置。
【請求項5】
前記上面板は液透過性である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電気めっき装置。
【請求項6】
前記上面板の対向面には、液透過性で且つ前記上面板より軟らかい軟質膜が設けられている請求項5記載の電気めっき装置。
【請求項7】
前記下面板及び前記上面板のうち、少なくとも一方が回転板で構成されており、前記回転板の回転軸は中心からずれている請求項1ないし6のいずれかに1項に記載の電気めっき装置。
【請求項8】
陰極板の対向面が前記凹凸面で形成されている請求項1ないし7のいずれか1項に記載の電気めっき装置。
【請求項9】
前記下面板は固定された陰極板であり、前記上面板が平面運動可能に支持されている請求項1ないし8のいずれか1項に記載の電気めっき装置。
【請求項10】
めっき槽と、前記めっき槽内に設けられた陽極及び陰極とを有し、被めっき物の表面にめっき皮膜を形成するための電気めっき方法において、
前記めっき槽内には、少なくとも一方が前記陰極を構成する下面板及び上面板を備え、前記下面板及び前記上面板の少なくとも一方の対向面は、頂部表面に湾曲面が形成された凸部を有する凹凸面から成り、
めっき液中で、前記被めっき物を、前記下面板及び前記上面板の間に挟持し、前記陰極及び凹凸面に当接させた状態で、前記上面板及び前記下面板を相対的に平面運動させながら、両極間に電流を供給して前記被めっき物の表面に前記めっき皮膜を形成することを特徴とする電気めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−122209(P2011−122209A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281232(P2009−281232)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)