説明

電気セクタ時間飛行型タンデム質量分析計

本発明は、タンデム質量分析を実施する装置および方法を提供する。本発明のタンデム質量分析計(400)は、第1質量分析器(420)および第2質量分析器(430)を備える。少なくとも1つの質量分析器は、飛行時間型質量分析器であり、少なくとも1つの電気セクタ(250、350、450、550)を備える。1つの局面において、本発明のタンデム質量分析計は、以下を備える:イオン供給源;第1質量分析器;第2質量分析器;およびイオン検出器。このイオン供給源は、第1質量分析器とイオン連絡しており;この第1質量分析器は、第2質量分析器とイオン連絡しており;この第2質量分析器は、イオン検出器とイオン連絡しており;そして質量分析器のうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの電気セクタを備える飛行時間型質量分析器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2002年9月24日出願の米国仮出願番号第60/413,406号の優先権を主張し;そして2003年4月24日出願の米国特許出願番号第10/424,351号の一部継続出願であり;そして2003年6月6日出願の米国仮出願番号第60/476,714号の優先権を主張する。これらの開示は、それらの全体が、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、質量分析法の分野にある。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
質量分析の連続相が、単一のデバイス中で実施される、タンデム(または連続)質量分析法は、生体分子を含めた高分子の研究に対して、有意な分析力をもたらした。例えば、タンパク質の研究では、タンデム質量分析法により、複雑な生物学的サンプル中のタンパク質の迅速な同定が可能になった。
【0004】
タンデム質量分析法の威力を考慮して、空間においてタンデムである(イオン飛行経路に沿って連続的に配置された複数の質量分析器を用いる)かまたは時間においてタンデムである(代表的に、イオンの選択的保持および/または通過について少なくとも1つのイオントラップを用いる)かのいずれかの、質量スペクトル分析(MS)の連続相を実施し得る種々の分光計が開発された。
【0005】
時間飛行型(TOF)質量分析器のよく認識されている利点(時間依存的に変化する磁場または電場なしで機能する能力、および小さな時間ウィンドウで広範囲のスペクトル範囲を操作する能力が挙げられる)により、少なくとも1つのTOF質量分析器を有する種々のタンデム質量分析計の開発がもたらされた。Lobodaら,Rapid Communic.Mass Spectrom.14:1047−1057(2000)は、例えば、マトリクス支援レーザー脱着/電離(MALDI)源を有する四重極時間飛行型タンデム質量分析計(Qq−TOF)を記載する。
米国特許出願公報第2002/0195555号および対応する国政特許公開番号第WO02/31491号は、表面増強レーザー脱着/電離(SELDI)プローブに係合するように特に適合された界面を有するQq−TOFタンデムMSを記載する。
【0006】
それにもかかわらず、TOF質量分析器はいくつかの欠点を有する。
【0007】
1つはサイズである。
【0008】
特に、タンデムに配置される場合、複数の自由飛行領域は、相応して大きなデバイスを要求する長いイオン飛行経路を必要とする。次いで、サイズが増大すると、より大きいかまたはより高性能の周辺機器(例えば、真空ポンプ)が必要となり、このことは、全体的なコスト、複雑さを加え、そして系の性能を低下させ得る。
【0009】
別の問題は解像度である。
【0010】
理論的に最適なときには、正確に同じ質量および運動エネルギーを有するイオンは、非常に緻密な一塊のものとして時間飛行型質量分析器の自由飛行領域を移動する。
【0011】
しかし、実際には、TOF質量分析器を用いてこれらの最適な環境を達成することは困難である。いくつかの確率論的要因がからみあって、イオン源において形成されたイオンに対してエネルギー分布を付与する。この分布は、イオンの最初の形成の間のイオン間での不均質性(例えば、それらの熱エネルギー、速度、空間位置、または形成時間の相違)に起因して生じ得る。その結果、同一のイオン一塊は、自由飛行領域において分散し、それゆえ、より広い飛行時間分布でイオン検出器に到達する。このより広い分布は、分光計の解像度を低下させる。
【0012】
これらの問題は、単相質量分析に用いられようが、タンデム質量分析計において1相もしくは複数相として用いられようが、対してTOF質量分析器の解像度に対して制限を付与し、従ってTOF質量分析器の有用性に対して制限を付与する。
【0013】
自由飛行の間のイオンのこの質量依存性分散を相殺することを試みる、一般にイオン集束として公知の種々の技術が記載されている。これらの集束技術(例えば、タイムラグ集束、供給後(post−source)集束、および動的パルス集束)のうちのいくつかは、イオン加速の間の電界を操作する。他の方法としては、飛行経路の長さを変更することによってイオン集束を提供し、その結果、より高いエネルギーイオンが、より長い経路を比例して移動するようにされる、イオンミラーまたはリフレクトロン(reflectron)が挙げられる。しかし、これらの技術は、代表的に、制限された質量範囲にイオンを集束させることに制限されている。
【0014】
別のイオン集束技術は、電気セクタによって提供される、湾曲偏向場(curved deflecting field)を用いる。米国特許第3,576,992号(Moormanら)および同第3,863,068号(Poschenrieder)は、電気セクタを用いたイオン集束技術を記載する。1985年には、Matsudaおよび共同研究者は、複数の電気セクタを取り込んだ時間飛行型質量分析器の利点および好ましい構成の分析を公開した。Sakuraiら,Int.J.Mass Spectrom.Ion Processes 63:273−287(1985)。続いて、同じグループは、4つのセクタ設計のうちの裁量の設計に基づく機器の構築および性能を記載した。Sakuraiら,Int.J.Mass Spectrom.Ion Processes 66:283−290(1985)。
【0015】
特定の利点が実証されているが、いくつかの欠点が、TOF質量分析器における電子セクタの使用を制限している。
【0016】
特に、電気セクタのイオン集束能力は、その電場特性および物理的パラメーターに高度に依存しており、そしてこれらに対して高感度である。これらのパラメーターにおける小さな変動は、そのイオン集束能力に対して大いに影響を与え得る。それゆえ、電子セクタは、所望の結果を得るために構築および設置することが困難である。さらに、構築および設置の後に機械的手段によってこれらのパラメーターを改変または補正することもまた、極めて困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、当該分野には、それにもかかわらず、合理的なサイズにされた箱に入ることにイオン飛行経路が適合され得る少なくとも1つの時間飛行型質量分析器を有するタンデム質量分析計についての必要性が存在する。当該分野には、改善されたイオン集束能力を有するTOFタンデム質量分析計についてのさらなる必要性が存在する。電子セクタのイオン集束能力が、セクタの電場特性および物理的パラメーターにおける小さな変動にそれほど依存せず、これらに対してそれほど高感度ではない、1以上の電子セクタが時間飛行型質量分析に用いられ得るタンデム質量分析計についての必要性が存在する。低減したサイズ、コストおよび改善された性能を有する、タンデム質量分析計についての必要性もまた存在する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(発明の要旨)
本発明は、第1の局面では、タンデム質量分析計を提供することにより、当該分野におけるこれらの必要性および他の必要性を解決する。
【0019】
このタンデム質量分析計は、以下を備える:イオン供給源;第1質量分析器;第2質量分析器;およびイオン検出器。このイオン供給源は、第1質量分析器とイオン連絡しており;この第1質量分析器は、第2質量分析器とイオン連絡しており;この第2質量分析器は、イオン検出器とイオン連絡しており;そして質量分析器のうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの電気セクタを備える時間飛行型質量分析器である。1つの特に有用な実施形態では、この第1質量分析器は、少なくとも1つの電気セクタを備える時間飛行型質量分析器である。
【0020】
さらなる実施形態では、本発明のタンデム質量分析計は、少なくとも1つのゼロ電場領域をさらに有効に備え得、ここで、この少なくとも1つの電気セクタおよび少なくとも1つのゼロ電場領域は、イオン飛行経路を規定する。このタンデム質量分析計は、代表的には、第1質量分析器と第2質量分析器との間に位置し、そして第1質量分析器および第2質量分析器の両方とイオン連絡している、イオン断片化手段を備え得る。
【0021】
本発明のタンデム質量分析計は、第1質量分析器および第2質量分析器の両方とイオン連絡しているイオン選択手段をさらに備え得る。このイオン選択手段は、第1質量分析器によって提供される複数のイオンの中からイオンを選択し得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、イオン選択手段は、第2質量分析器とイオン連絡した開口部、およびこの開口部を横切るイオンビームを掃引するための手段を備える。いくつかの実施形態では、イオン偏向手段は、電場手段を備える。いくつかの実施形態では、イオン選択手段は、複数の連続したイオンゲートを備える。
【0023】
いくつかの実施形態では、イオン供給源は、レーザー脱着/電離手段、化学的電離手段、光電離手段、およびエレクトロスプレー電離手段からなる群から有用に選択され得る。
【0024】
このイオン供給源は、実質的に軸の方向または実質的に直行の方向のいずれかで、パルスイオンビームまたは連続イオンビームからイオンを抽出するための手段を含み得る。さらに、このイオン供給源は、イオン供給源からのイオンパルスを加速するための手段(例えば、イオンの形成に引き続いてパルスを印加し得る電圧パルス手段)を含み得る。
【0025】
このタンデム質量分析計が、電気セクタを有する時間飛行型質量分析器を備える限り、この第1質量分析器は、以下からなる群より選択される分析器を備え得る:電気セクタ時間飛行型質量分析器、線形時間飛行型質量分析器、反射時間飛行型質量分析器、線形イオントラップ、四重極イオントラップ、四重極イオンフィルタ、磁気セクタ質量分析器、イオンサイクロトロン共鳴質量分析器、電気セクタ/磁気セクタ質量分析器、イオントラップ/線形時間飛行型質量分析器、イオントラップ/反射時間飛行型質量分析器、および静電質量分析器。
【0026】
同様に、このタンデム質量分析計が、電気セクタを有する時間飛行型質量分析器を備える限り、この第2質量分析器は、以下からなる群より選択される質量分析器を備え得る:電気セクタ時間飛行型質量分析器、線形時間飛行型質量分析器、反射時間飛行型質量分析器、線形イオントラップ、四重極イオントラップ、四重極イオンフィルタ、磁気セクタ質量分析器、イオンサイクロトロン共鳴質量分析器、電気セクタ/磁気セクタ質量分析器、イオントラップ/線形時間飛行型質量分析器、イオントラップ/反射時間飛行型質量分析器、および静電質量分析器。
【0027】
いくつかの実施形態では、本発明の質量分析計は、2つまたは4つの電気セクタおよび電気セクタの各々を隔てるゼロ電場領域を有する少なくとも1つの時間飛行型質量分析器を備え、この電気セクタおよびゼロ電場領域は、イオン飛行経路を規定する。1つのこのような実施形態では、少なくとも1つの質量分析器は、4つの電気セクタおよび電気セクタの各々を隔てるゼロ電場領域を備える時間飛行型質量分析器であり、電気セクタの各々は、約270度の偏向角を有し、電気セクタおよびゼロ電場領域は、その中でのイオン飛行経路を規定する。
【0028】
複数の電気セクタを有する実施形態では、これらの電気セクタは、対称な配置に配置され得る。
【0029】
さらなる実施形態において、無電界領域は、少なくとも1つの電気セクタの前に置かれ得るか、あるいは、さらに、少なくとも1つの電気セクタの後に置かれ得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、質量分析器の少なくとも1つは、第1の電気セクタの前、最後の電気セクタの後、そして、電気セクタの各々の間に、2つまたは4つの電気セクタおよび無電界領域を備える飛行時間型質量分析器であり、電気セクタおよび無電界領域が、その中にあるイオン飛行経路を規定する。
【0031】
本発明のタンデム質量分析計における電気セクタの飛行時間型質量分析器は、開口部を有する少なくとも1つのHerzogシャントをさらに備え得る:このHerzogシャントは、イオンが開口部を通過するように、電気セクタの入口または出口のいずれかと結合している。一連の実施形態において、Herzogシャントは、電気セクタを収容するハウジング内の開口部である。
【0032】
本発明のタンデム質量分析計は、第1の質量分析器により供給されるイオンの断片化のための手段をさらに備え得る。断片化手段とは、例えば、衝突セルが挙げられ得る。
【0033】
通常、少なくとも1つの電気セクタは、少なくとも1つのイオン光学要素と結合され、ここで、少なくとも1つのイオン光学要素は、電気セクタを出入りするイオンにより受けられる電位を変更する。
【0034】
特定の実施形態において、例えば、イオン光学要素は、電気セクタを出入りするイオンにより受けられる電位を調節可能に変更し得る、少なくとも1つの調節可能なトリム電極を備える。少なくとも1つの調節可能なトリム電極は、通常、電気セクタの入口と出口との間に有用に配置され得る。
【0035】
タンデム質量分析計は、イオンが、調節可能なトリム電極対の間を通過するように配置された、1対の調節可能なトリム電極を備え得、ここで、この対は、電気セクタの入口または出口のいずれかと結合されている。他の実施形態において、デバイスは、複数の調節可能なトリム電極対を備え、各対は、イオンが、調節可能なトリム電極対の間を通過するように配置され、ここで、対は、各電気セクタの各入口および各出口と連結されている。
【0036】
タンデム質量分析計内の、電気セクタの飛行時間型質量分析器は、4つの電気セクタを備え得、各電気セクタが、約270°の偏角を有し、ここで、無電界領域が、各電気セクタを隔離する。
【0037】
一連の実施形態において、イオン源は、パルスイオンビームまたは連続イオンビームから、イオンビームに対して実質的に平行な方向(軸方向)またはビームの方向に対して実質的に直交な方向のいずれかのイオンを抽出するための手段を備える。
【0038】
トリム電極を有する実施形態において、トリム電極の電位は、ソフトウェアプログラムを備え得る制御システムにより制御され得る。
【0039】
別の局面において、本発明は、タンデム質量分析計を提供し、このタンデム質量分析計は、イオン源;第1の質量分析器;第2の質量分析器;およびイオン検出器を備え、ここで、第1の質量分析器は、イオン飛行経路上の実質的に同時に発生する空間位置への、イオンを無収差かつ時間的に収束させ得る。
【0040】
質量分析計は、さらに、第1の質量分析器および第2の質量分析器の両方とイオン連絡する、イオン選択手段を備え得、このイオン選択手段は、第1の質量分析器によって供給される複数のイオンの中からイオンを選択し得る。イオン選択手段は、通常、第2の質量分析器とイオン連絡する開口部、および、この開口部を横切るイオンビームを一掃するための手段を備え得る。イオン偏向手段は、特定の実施形態において、さらに、電界手段を備え得る。
【0041】
これらの実施形態において、質量分析計はさらに、イオン断片化手段を備え得、ここで、イオンは、第1の質量分析の後に断片化される。有用なように、第1の質量分析器は、飛行時間型質量分析器であり、これらとしては、例えば、少なくとも1つの電気セクタを備える飛行時間型質量分析器が挙げられる。
【0042】
さらなる局面において、本発明は、複数のイオンを供給するための手段;第1の質量分析を実施するための手段;第2の質量分析を実施するための手段;および複数のイオンを検出するための手段を備える、タンデム質量分析計を提供する。第1の質量分析を実施するための手段は、イオン飛行経路上の実質的に同時に発生する空間位置に、イオンを無収差かつ時間的に収束させ得る。
【0043】
このようなデバイスはさらに、イオンを選択するための手段を備え得、ここで、イオン選択手段は、第1の質量分析を実施するための手段および第2の質量分析を実施するための手段の両方とイオン連絡する位置にある。このような実施形態において、第1の質量分析を実施するための手段は、イオンを選択するための手段と実質的に同時に発生する位置において、同時発生的に時間的および無収差にイオンを収束させ得る。
【0044】
さらなる一連の実施形態において、この質量分析計は、イオンを断片化するための手段をさらに備え、ここで、イオンは、第1の質量分析を実施するための手段の後に断片化される。この第1の質量分析を実施するための手段は、イオンを断片化するための手段と実質的に同時発生する位置において、同時発生的にイオンを収束させ得る。
【0045】
別の局面において、本発明は、タンデム質量分析を実施するための方法を提供し、この方法は、第1の質量分析器を使用して、イオン源により供給される複数のイオンについて第1の質量分析を実施する工程;第2の質量分析器を使用して、上記複数のイオンの少なくとも1つのサブセットについて、第2の質量分析を実施する工程;ならびにイオン検出器を使用して複数のイオンを検出する工程を包含し、ここで、質量分析器の少なくとも1つは、少なくとも1つの電気セクタを有する飛行時間型質量分析器を備える。
【0046】
これらの方法において、電気セクタの飛行時間型質量分析器はさらに、少なくとも1つの無電界領域を備え、ここで、少なくとも1つの電気セクタおよび少なくとも1つの無電界領域が、イオン飛行経路を規定する。電気セクタの飛行時間型質量分析器は、第1の質量分析器であり得る。
【0047】
別の局面において、本発明は、タンデム質量分析を実施するための方法を提供し、この方法は、以下:第1の質量分析器を使用して、イオン源により供給される複数のイオンの少なくとも1つを、無収差かつ時間的に収束させる工程であって、ここで、イオンが、イオン飛行経路上の実質的に同時発生的な空間位置に、無収差的かつ時間的に収束される、工程;第2の質量分析器を使用して、収束したイオンの少なくとも1つのサブセットについて第2の質量分析を実施する工程;ならびに、イオン検出器を使用して、複数のイオンを検出する工程、を包含する。
【0048】
なおさらなる局面において、本発明は、飛行時間型質量分析器内の1つ以上の電気セクタに近接してトリム電極を有する、本発明のタンデム質量分析計を調整するための方法を提供する。この方法は、以下:
a)以下:
i)少なくとも1つの調節可能なトリム電極に電位をかける工程;
ii)イオン源からのイオンの第1の質量スペクトルを得る工程;および
iii)第1の質量スペクトルからの検出の解像度および/または感度を決定する工程;
によって、第1の設定において、イオン検出の解像度または感度を決定する工程
b)以下:
i)少なくとも1つの調節可能なトリム電極にかけられる電位を調節する工程;
ii)イオン源からのイオンの第2の質量スペクトルを得る工程;および
iii)第2の質量スペクトルからの検出の解像度または感度を決定する工程;
によって、第2の設定において、イオン検出の解像度または感度を決定する工程;ならびに
c)第2の設定において、イオン検出の解像度または感度が改善されるかまたは低下されるかを決定する工程、を包含する。
【0049】
(詳細な説明)
(定義)
本明細書中で使用される場合、特に以下に示される用語は、以下の定義を有する。他に規定されない場合、本明細書中で使用される全ての用語は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解される意味を有する。
【0050】
「イオン源」とは、気相イオンを供給する質量分析計のサブアセンブリをいう。1つの実施形態において、イオン源は、脱離/イオン化プロセスによってイオンを供給する。このような実施形態は、一般に、プローブを問い合せ可能な関係に、そして、大気圧または大気圧下にて、気相イオン分光計の検出器と協調して、位置係合するプローブ境界を備え、イオン源は、図1の参照番号410、図4の参照番号710、図5および15の参照番号110、ならびに、図8の参照番号210によって示される。
【0051】
固相からの分析物を脱離/イオン化するためのイオン化エネルギーの形態としては、例えば、:(1)レーザーエネルギー;(2)高速原子(高速原子衝突において使用される);(3)放射性核種のβ崩壊によって生成される高エネルギー粒子(プラズマ脱離において使用される);および(4)二次イオンを生成する一次イオン(二次イオン質量分析において使用される)が挙げられる。固相分析物についてのイオン化エネルギーの代表的な形態は、レーザー(レーザー脱離/イオン化において使用される)であり、特に、窒素レーザー、Nd−Yagレーザーおよび他のパルスレーザー源である。
【0052】
分析物のためのイオン化エネルギーの他の形態としては、例えば:(1)気相中性子をイオン化する電子;(2)気相、固相または液相の中性子からイオン化を誘導するための強電界;および(3)固相、気相および液相の中性子の化学イオン化を誘導するための、イオン化粒子または電界の中性化学物質との組合せを適用する供給源が挙げられる。
【0053】
「イオン飛行経路」は、質量分析計内において「イオン入口」と「イオン出口」との間でイオンが取る経路を意味する。イオン飛行経路は、図2、図6および図15の参照符号50、52および54、並びに図3および図8の参照符号60により指示する経路など、基準イオンがたどる経路により実証され得る。
【0054】
「イオン飛行経路手段」は、イオン飛行経路を画定する質量分析計の構成部品を意味する。イオン飛行経路手段は、イオン入口およびイオン出口を有し、少なくとも1個の無電解領域、少なくとも1個の電気セクタおよび少なくとも1個のイオン光学素子を備え得る。図6および図15の例示的なイオン飛行経路手段は、自由飛行領域120および125、電気セクタ150、並びにイオン光学素子166および167を備える。図8に示す実施形態のイオン飛行経路手段は、自由飛行領域220、222、224、226および228、電気セクタ250、350、450および550、並びに電気セクタに結合するイオン光学素子を備える。図2の例示的なイオン飛行経路手段は、自由飛行領域120および125、ならびに電気セクタ150を備える。図3に示す実施形態のイオン飛行経路手段は、自由飛行領域220、222、224、226および228ならびに電気セクタ250、350、450および550を備える。
【0055】
「無電解領域」は、イオンが線形または角加速せずに移動することが可能なイオン飛行経路の1以上のセグメントを意味する。無電解領域は、図2、図6および図16に参照符号120および125により指示され、図3および図8に参照符号220、222、224、226および228で指示する。
【0056】
「電気セクタ」は、イオン飛行経路の曲線状偏向領域を画定する質量分析計の構成部品を意味する。電気セクタは、イオンを偏向させて、イオンが角加速により曲線状経路をたどるように構成された電界を間に有する2個の偏向電極を備える。電気セクタは、たとえば参照符号150、250、350、450および550により図示する。
【0057】
「イオン光学素子」は、イオン飛行経路内でイオンに印加される電位を変更するように構成された電気セクタとは別個の質量分析計の構成部品を意味する。イオン光学素子が電気セクタに接続する場合、電位の変更は、イオンが電気セクタに入るか、電気セクタから出るか、または電気セクタを通過する時に、イオンに課される。イオン光学素子は、たとえば図6および図15の参照符号166および167、並びに図8、図10Aおよび図10Bの参照符号266および267により指示される。
【0058】
「イオン検出器」は、イオン飛行経路から出た後のイオンを検出するのに適する質量分析計の構成部品を意味する。到着するイオンの検出は、イオンの飛行時間型を決定するために使用される。図示の目的上、イオン検出器は、図1に参照符号440で指示し、図4に参照符号740で指示し、図6および図15に参照符号180で指示し、ならびに図8に参照符号280で指示する。
【0059】
「トリム電極」は、イオン飛行経路上でイオンに印加される電位を変更するように構成されたイオン光学素子の1以上の構成部品を意味する。いくつかの実施形態において、本発明は、調節可能なトリム電極を備える。実例となるトリム電極は、図1および図10に参照符号160〜163で指示し、図3、図5Aおよび図5Bに参照符号260〜263で指示する。
【0060】
「断片」は、分子イオンの分解から生じるイオンを意味する。断片は、サンプルのイオン化時またはイオン化後に形成され得る。
【0061】
「偏向角度」は、電気セクタのアークがスパンする角度を意味し、該角度上でイオン飛行経路上のイオンが偏向される。たとえば、図2、図6および図15の電気セクタの偏向角度は約180°であり、図3および図8の各電気セクタの偏向角度は約270°である。
【0062】
「イオントラップ」は、イオンをトラップするのに適した構成部品を意味する。イオントラップは、1以上の質量もしくは質量範囲、またはその断片のイオンを選択的にトラップして提供するように構成された電界を使用する。イオントラップは、四重極イオントラップおよび線形イオントラップを含み得る。
【0063】
「ヘルツォグシャント」は、電気セクタの端子電界を制限するのに適する質量分析計内の構成部品または構造を意味する。ヘルツォグシャントは、イオン飛行経路が貫通することを可能にするアパーチャを有する。実例となるヘルツォグシャントは、図2、図6および図15に参照符号170および171で指示され、図3、図8、図10Aおよび図10Bに参照符号270および275で指示される。図15にそれぞれ参照符号370および375〜376で指示される囲いおよびアパーチャも、ヘルツォグシャントとして機能する。
【0064】
「アインツェルレンズ」は、イオンの放射状分布をイオン飛行経路上に収束させるのに適する1以上の電極を備えるイオン光学素子の構成部品である。
【0065】
「解像度」は、類似しているが同じではない質量のイオンを別個の信号として、および/または測定した質量の信号の幅を決定された質量(またはm/z)の比として識別する能力を意味する。
【0066】
「感度」は、スペクトルのノイズ上の信号を検出および識別し、信号を検出するのに必要な最小量のサンプルを確立する能力である。
【0067】
「正確さ」は、キャリブレートされた質量分析計が、イオンの予測質量に近いイオンの質量値を提供する能力を意味する。
【0068】
「スペクトル範囲」は、分析計が質量範囲および/または飛行時間を単一のスペクトル内の所定のサンプルから検出して測定することができる範囲を意味する。質量スペクトルのスペクトル範囲外のイオンは、一般に検出不能である。
【0069】
「タンデム質量分析計」とは、m/zに基づくイオン(イオン混合物中のイオンを含む)の区別または測定の、2つ以上の連続的な段階を実施することが可能な、任意の質量分析計をいう。この語句は、時間直列なm/zに基づくイオンの区別または測定の2つの連続的な段階を実施することが可能な2つの質量分析器を有する、質量分析計を包含する。説明のために、タンデム質量分析計の概略図が、図1において、参照番号400によって示される。
【0070】
「質量分析器」とは、気相のイオンの質量対電荷比(m/z)に変換され得るパラメータを測定するための手段を備える、質量分析計のサブアセンブリをいう。説明のために、質量分析器は、図1において、参照番号420および430によって示され、図4において、参照番号720によって示され、図2において、参照番号500によって示され、図3において、参照番号600によって示され、図5において、参照番号1100および1200によって示され、図6において、参照番号100によって示され、図8において、参照番号200によって示され、そして図15において、参照番号300によって示される。
【0071】
「イオン選択器」とは、複数のイオンから所望の質量のイオンを選択するために適切な、質量分析計装置の構成要素をいう。選択されたイオンは、さらなる質量分析に供され得る。説明のために、イオン選択器は、図5において参照番号1000によって示され、そして図4において、参照番号750によって示される。
【0072】
「イオン断片化器」とは、より大きいイオンを、より小さい二次的な(生成物)イオン断片に断片化するために適切な、質量分析計装置の構成要素をいう。この二次イオンは、さらなる質量分析に供され得る。説明のために、イオン断片化器は、図4において参照番号750によって示される。
【0073】
(本発明の実施形態の説明)
本発明において、タンデム型質量分析計装置は、イオン源、第1質量分析器、第2質量分析器、およびイオン検出器を備える。これらの質量分析器のうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの電気セクタを備える飛行時間型質量分析器(「電気セクタTOF質量分析器」)を備える。本発明のいくつかの有用な実施形態において、第1質量分析器は、電子セクタTOF質量分析器である。
【0074】
本発明のタンデム型質量分析計の実施形態は、2つの質量分析器(本明細書中に示される実施例においてのような)を備えるが、他の実施形態において、本発明のタンデム型質量分析計は、2つ以上の質量分析器を備え、ここで、各質量分析器は、連続的なイオン区別工程またはイオン測定工程を実施し得ることが、理解される。
【0075】
図1を参照すると、本発明のタンデム型質量分析計装置400の斜視図が図示されており、構成要素のサブアセンブリを図示する。装置400は、イオン源410、第1質量分析器420、第2質量分析器430、およびイオン検出器440を備える。各構成要素は、示されるような他の構成要素とイオン連絡しており、これによって、イオンがこれらの構成要素の間で移動することを可能にする。本発明のタンデム型質量分析計に存在するかまたは存在し得る他の構成要素(例えば、さらなる質量分析器、イオン断片化器、イオン選択器など)は、この図には図示されない。
【0076】
イオン源410は、当該分野において公知の、イオンを生成するための手段を備え、比較的小さい体積内で、比較的短い時間内で、複数のイオンを生成するための、当該分野において公知の手段または方法のいずれかを備える。イオンのパルスを発生させて、イオンのパルスが、これらのイオンが比較的小さい体積内で、比較的短い時間内で生成されたかのような外観または挙動を有するようにするための、当該分野において公知の手段または方法のいずれかもまた、備えられる。イオン源410は、連続的な様式またはパルス化された様式でイオンを形成するための手段を備え得る。このイオン源はまた、イオンを濃縮するための手段(例えば、四重極イオントラップまたは線形イオントラップ)を備え得る。特定の実施形態において、イオンのパルスを加速するための手段は、イオンの形成に引き続いて、電圧パルスを発生させるための手段を備える。このイオン源は、イオンの群を、パルス化されたイオンビームまたは連続的なイオンビームから、このビームの方向に対して実質的に直交するかまたは平行な方向で抽出するための手段を備え得る。
【0077】
イオン源410は、例えば、固体表面と相互作用するパルス化されたレーザー、小さい体積内の気体をイオン化させる、パルス化された集束レーザー、または気体もしくは固体表面と相互作用するパルス化された電子線もしくはイオンビームを使用する手段を備え得る。別の実施形態において、イオン源410は、狭いスリットを越えて通過する迅速に掃引される連続的なイオンビームを使用する、イオンのパルスを発生させるための手段を使用し得、ここで、イオンビームがこのスリットを通過する際に、イオンの短時間のパルスが、このスリットを通過するイオンによって生成される。イオン源10は、エレクトロスプレーイオン化、レーザー脱離/イオン化(「LDI」)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(「MALDI」)、表面増強レーザー脱離/イオン化(「SELDI」)、表面増強ニート脱離(「SEND」)、高速原子衝突、表面増強光活性化付着および放出、パルス化イオン抽出、プラズマ脱離、多光子励起、電子衝突イオン化、誘導結合プラズマ、化学イオン化、大気圧化学イオン化、ならびに高熱源イオン化を使用し得るが、これらの使用に限定されない。
【0078】
さらに、イオン源410はまた、1つ以上の質量または質量の範囲のイオン、あるいはそれらからの断片を選択的に生成するための手段を備え得る。このような手段は、本発明のTOF質量分析計を、タンデムの様式で、複数の分析器(磁気セクタ、静電分析器、イオントラップ、四重極イオントラップ、四重極質量フィルタ、およびTOFデバイスが挙げられる)と組み合わせることによって、達成され得る。
【0079】
イオン源410はまた、イオン源からイオン飛行経路へのイオンの抽出または加速のための手段を備え得る。この抽出方法は、イオン源410において生成されるイオンビームに対して平行であっても直交していてもよい。さらに、イオンの抽出または加速は、例えば、電圧パルスの印加によって、イオンの形成に引き続いて起こり得る。
【0080】
サンプルイオンは、引き続いて、第1質量分析器420に入り、この分析器において、サンプルイオンは、分離および分解され得る。特定の有用な実施形態において、第1質量分析器は、好ましくは、電子セクタTOF質量分析器を備える。従って、このような実施形態において、第1質量分析器は、その中での、特徴的かつ時間集中的なイオンの集束を実施し得る。これらのイオンがこの様式で集束される場合、そのイオンビームは、第1質量分析器を出た後に、規定された空間的位置において集束され得る。
【0081】
第1質量分析器は、当業者に公知の質量分析器を備え得る。適切な質量分析器の例としては、電子セクタ飛行時間方質量分析器、線形飛行時間型質量分析器、反射飛行時間型質量分析器、線形イオントラップ、四重極イオントラップ、四重極イオンフィルタ、磁気セクタ質量分析器、イオンサイクロトロン共鳴質量分析器、電気セクタ/磁気セクタ質量分析器、イオントラップ/線形飛行時間型質量分析器、イオントラップ/反射飛行時間型質量分析器、および静電質量分析器が挙げられる。
【0082】
第1質量分析器に連続して、イオンは、第2質量分析器450を使用して、第2質量分析を受け得る。第1質量分析器と同様に、第2質量分析器は、当業者に公知の質量分析器を備え得る。適切な質量分析器の例としては、電子セクタ飛行時間方質量分析器、線形飛行時間型質量分析器、反射飛行時間型質量分析器、線形イオントラップ、四重極イオントラップ、四重極イオンフィルタ、磁気セクタ質量分析器、イオンサイクロトロン共鳴質量分析器、電気セクタ/磁気セクタ質量分析器、イオントラップ/線形飛行時間型質量分析器、イオントラップ/反射飛行時間型質量分析器、および静電質量分析器が挙げられる。
【0083】
第2質量分析器による第2質量分析に続いて、イオン検出器440によって、イオン生成物が検出され、そして記録されて、マススペクトルを作製する。例えば、イオン検出器440は、イオンを検出し、そしてそれらの信号を増幅するための、公知の手段を備える。イオン検出器440はまた、その内部で検出されたイオンを記録するための手段(例えば、コンピュータまたは他の電子装置)を備え得る。
【0084】
本発明のタンデム型質量分析計はまた、1つ以上の質量分析器を、質量分析器420および430に加えて備えて、さらなる質量分析工程を提供し得る。本発明のこれらおよび他のタンデム型質量分析計は、大きい分子(例えば、タンパク質、ペプチド、および他の生体高分子)の分析および同定のために、特に有用である。
【0085】
本発明のタンデム型質量分析計はまた、複数のサンプルイオンの間からの主要なイオンの選択のための、1つ以上のイオン選択器を備え得る。イオン選択器は、タンデム質量分析計の他の構成要素とイオン連絡して適合され得る。特定の有用な実施形態において、イオン選択器は、第1質量分析器を出るイオンを受容するように設定される。
【0086】
本発明のタンデム型質量分析計はまた、イオンを断片化し、これによって二次(生成物)イオンを得るための、1つ以上のイオン断片化器を備え得る。特定の有用な実施形態において、イオン選択器は、第1質量分析器を出るイオンを受容するように設定される。イオン選択器はまた、例えば、質量分析器またはイオン選択器によるイオンの選択工程または濾過工程の後に、イオンを受容するように設定され得る。イオン断片化器の代わりにかまたはそれに加えて、本発明の装置は、イオンが源内でかまたは源の後に崩壊することを可能にするように構成され得る。
【0087】
同様に、イオン検出器440は、イオンを検出器、そしてそれらの信号を増幅するための手段を備え、これらの手段は、公知であり、そして本明細書中では詳細に議論されない。例えば、イオン検出器440は、連続的な電子増幅器、不連続なダイノード電子増幅器、シンチレーションカウンター、ファラデーカップ、光増倍管などを備え得る。イオン検出器440はまた、その中で検出されたイオンを記録するための手段(例えば、コンピュータまたは他の電気装置)を備え得る。
【0088】
上記のように、本発明のタンデム型質量分析計は、電気セクタTOF質量分析器を備える少なくとも1つの質量分析器を備え得る。電気セクタTOF質量分析器は、少なくとも1つの電気セクタ、および代表的に、少なくとも1つの自由飛行領域を備え、その結果、これらの電気セクタおよび自由飛行領域は、イオン飛行経路を規定する。複数の電気セクタが存在するこの質量分析器の特定の有用な実施形態において、各電気セクタは、自由飛行領域によって、隣接する電気セクタから分離される。
【0089】
図2を参照すると、タンデム型質量分析計の質量分析器として使用するために適切な、例示的な電気セクタTOF質量分析器が図示される。イオン飛行経路50によって規定される面を通して見た上断面図で示される質量分析器500は、自由飛行領域120および125、電気セクタ150、およびHerzogシャント170および171を備える。参照番号510は、質量分析器500とイオン連絡しており、そして電気セクタTOF質量分析器500に入るイオンの供給源を示す。本発明のタンデム型質量分析計の文脈において、源510は、例えば、イオン源、先行質量分析器、イオントラップ、イオン選択器、イオン断片化器、または他の適切な源を備え得る。参照番号520は、質量分析器500とイオン連絡しており、電気セクタTOF質量分析器500を出るイオンの行き先を示す。本発明のタンデム型質量分析計の文脈において、源520は、例えば、イオン検出器、連続質量分析器、イオントラップ、イオン選択器、イオン断片化器、または他の適切な源を備え得る。従って、例えば、図1における1つの質量分析器が質量分析器500を備える実施形態において、源510は、イオン源410を表し、そして行き先520は、第2質量分析器430を表す。
【0090】
電気セクタTOF質量分析器500を備える、本発明のタンデム型質量分析計の代表的の作動の間、イオンは、源510によって提供され、自由飛行領域120において分離され、シャント170のアパーチャ175を通過し、そして入り口開口部156を介して入口電気セクタ150に入る。外側の偏向電極154および内側の偏向電極152は、これらの間に偏向電場を提供し、この電場は、音を湾曲した経路に偏向させる。次いで、イオンは、出口開口部158を通って出、シャント171のアパーチャ176を通過し、自由飛行領域125において分離され、そして行き先520に続く。飛行経路50は、参照イオンの経路であり、一方で、飛行経路52および54は、イオン源110を離れるイオンが辿る経路の概略的な表現であり、参照イオンの角度よりわずかに大きいかまたはわずかに小さい角度を有する。質量分析器500の特定の特徴のさらなる詳細は、図8における類似の参照番号に関して、本明細書中以下で議論される。
【0091】
従って、イオン飛行経路は、質量分析器500内で規定され、飛行経路50は代表例である。飛行経路50は、イオン入口540を備え、ここで、源510は、自由飛行領域120と連絡し、飛行経路50に入るイオンを生じる。これに対して、飛行経路50は、イオン出口542をさらに備え、ここで、イオンは、自由飛行領域125に連絡する行先542への到着に際して、飛行経路50を出る。
【0092】
図3に関して、本発明のタンデム質量分析計における電気セクタTOF質量分析器の好ましい実施形態を略上断面図に示す。断面は、基準イオン飛行経路60により画定される平面を通って取る。質量分析器600は、各々が約270°の円弧の曲線状偏向電界を画定する4個の同じ電気セクタ250、350、450および550を備えるTOF質量分析器である。4個の電気セクタの各々には、自由飛行領域、つまり220、222、224、226および228が先行および追随する。電気セクタおよび自由飛行領域の対称配列は、Sakuraiら「Ion Optics For Time−Of−Flight Mass Spectrometers With Multiple Symmetry」、Int.J.of Mass Spectrom.Ion Proc.63、p.273−287(1985)に記載されているように、等時性および空間収束の両方を含むいくつかの利益を提供する。この対称構成は、比較的長い飛行経路60を著しく小さい寸法の空間内にコンパクトに収容し、その結果、質量分光計の全体のサイズを縮小することを可能にするという利益もまた、提供する。好ましい構成では、4個の電気セクタの各々は、各々のセクタにより画定される平面が、他のセクタの平面に対してほぼ平行であり、他のセクタの平面と同一平面であるように配置され、これらの平面の間に自由飛行領域を収容する。
【0093】
参照番号610は、質量分析器600とイオン連絡し、電気セクタTOF質量分析器600に入るイオンの源を示す。本発明のタンデム質量分析計に関連して、源610としては、例えば、イオン源、上述の質量分析器、イオントラップ、イオン選択器、イオン分断器(fragmentor)、または他の好適な源が、挙げられ得る。参照番号620は、質量分析器600とイオン連絡し、電気セクタTOF質量分析器600を出たイオンの行先を示す。本発明のタンデム質量分析計に関連して、源620としては、イオン検出器、連続質量分析器、イオントラップ、イオン選択器、イオン分断器、または他の好適な行先が挙げられ得る。例えば、質量分析器600を備える図1の第1質量分析器420の実施形態において、源610は、従って、イオン源410を表し得、そして行先620は、従って、第2質量分析器430を表す。
【0094】
本発明のタンデム質量分析計の一般的な動作時、源610によって提供されるイオンは、飛行経路60に沿って分離および収束され、行先520に続く。飛行経路60は、イオン入口670およびイオン出口672を備え、4個の電気セクタ(250、350、450および550)並びに5個の自由飛行領域(220、222、224、226および228)により画定され、これらは図示するように配置されて、各々が隣に連絡する。イオンは、イオン源610からイオン入口670を通って飛行経路60に入り、そして自由飛行領域220に入る。これに対して、イオンは、自由飛行領域228から行先620への到着に際して、イオン出口672を介して飛行経路60から出る。質量分析器600の特異的な特徴のさらなる詳細は、本明細書中以下で、図8における参照番号に関して考察される。
【0095】
上述のように、本発明のタンデム質量分析計の電気セクタTOF質量分析器は、飛行時間型質量分析器を備え、この飛行時間型質量分析器は、少なくとも1つの電気セクタを備える。このような本発明に好適な質量分析器の例示的なバージョンを、図2および図3に示す。電気セクタおよび無電界領域の他の好適な組み合わせおよび配置もまた、本発明のタンデム質量分析計における質量分析器として寄与し得る。例えば、好適な電気セクタTOF質量分析器は、1、2または4個の電気セクタを備え得る。複数の電気セクタを備える質量分析器において、電気セクタを無電界領域で分離することが好ましくあり得る。その上、電気セクタおよび無電界領域を、幾何的に対照的な抗性で並列することが所望され得、これらもまた、図2および図3の例によって示される。
【0096】
電気セクタTOF質量分析器は、本発明のタンデム質量分析計に関連して特に有用である特徴を有する。例えば、電気セクタTOF質量分析器は、イオン収束を改善し得、ここで、質量分析器の進入の際の1以上の軸に沿ったイオンビームまたはイオン区画の分散が、排出後には減少されるか、または最小化される。
【0097】
電気セクタTOF質量分析器によるこのようなイオン収束は、空間的(例えば、無収差収束)であり得、ここで、このような収束は、イオン飛行経路に対し側面のイオンビームまたはイオン区画の分散を減少する。イオン収束は、時間的(例えば、時間収束)であり得、ここで、このような収束は、イオンビームまたはイオン区画の、飛行パッチに沿うかまたはこれと平行する、質量依存的分散を減少する。時間収束はまた、飛行時間の間に、異なる質量のイオン区画間の質量解像度の上昇をもたらす。
【0098】
利点はまた、電気セクタTOF質量分析器が、イオン選択器またはイオン分断器にイオンを提供する場合にも、利用され得る。図4を参照して、このようなタンデム質量分析計の実施形態が、概略図を使用して図示される。タンデム質量分析計装置700は、イオン源710、第1質量分析器720、第2質量分析器730、およびイオン検出器740を備える。参照番号750は、構成要素の位置を示し、ここで、構成要素750は、イオン選択手段またはイオン断片化手段を備え得る。好ましい実施形態において、第1質量分析器720は、電気セクタTOF質量分析器を備える。各構成要素は、示すように他の構成要素とイオン連絡し、それにより、イオンのそれらの間の移動を可能にする。本発明のタンデム質量分析計に存在するかまたは存在し得る他の構成要素(例えば、追加の質量分析器、追加のイオン分断器、追加のイオン選択器など)は、この図には示されない。イオン源710およびイオン検出器740の特徴および使用は、本明細書中上述した対応するイオン源410およびイオン検出器440と、実質的に同じであると考えられ得る。
【0099】
第1質量分析器720が電気セクタTOF質量分析器である装置700の実施形態において、サンプルイオンは、イオン源710によって提供され、第1質量分析器に移動する。サンプルイオンは、この第1質量分析工程において、飛行時間によって分離および解析される(例えば、低質量のイオンはより遠く移動し、従って、より大きな質量のイオンよりも第1質量分析器720から排出される)。さらに、この実施形態において、電気セクタTOF質量分析器は、サンプルイオンのイオン収束(例えば、無収差収束および時間収束)を実施し得る。無収差収束および時間収束の両方は、サンプルイオンビームで実施され得る。質量分析器は、最小サイズのイオンビームが、特定のイオン質量すなわち(m/z)について、飛行時間における最小の分散と同時の時点で提供され得るように構成される。
【0100】
質量分析器によるこのようなイオン収束は、本発明のタンデム質量分析計に関連して、幾つかの利点を有する。例えば、分散の減少または最小化(例えば、質量解像度の上昇)、は、改善された質、感度および質量解像度の、質量スペクトル出力をもたらす。別の利点は、本発明の幾つかの有用な実施形態において、電気セクタTOF質量分析器からのイオンが、タンデム質量分析計の1以上の連続した構成要素に提供されることに起因してもたらされる。このような構成要素としては、別の質量分析器、イオントラップ、イオン選択器、イオン分断器、または他の好適な構成要素が挙げられ得る。減少した分散および改善した質量解像度を有する収束イオンビームまたは収束イオン区画を、連続する構成要素に提供することによって、提供されたイオンに対する構成要素のその後の性能もまた、改善される。なお別の実施形態において、タンデム質量分析計における連続する構成要素は、提供されたイオンビームまたはイオン区画のサイズの減少により、サイズ、費用、および性能において減少され得る。例えば、より大きなサンプルイオンビームは、より大きな囲い、より大きな装置などを必要とする。これらの必要は、次に、構成要素またはその周辺装置のサイズ、費用および複雑性、ならびに装置全体のサイズ、費用および複雑性を増し得る。従って、イオンビームまたはイオン区画のサイズの減少は、タンデム質量分析計の構成要素、その周辺装置、または全体の、サイズ、費用および複雑性を減少し得る。
【0101】
本発明の1つの有用な実施形態において、タンデム質量分析計は、イオン選択手段および/またはイオン断片化手段を備え得る。イオン選択器とは、複数のイオンから所望の質量のイオンを選択するために好適な、質量分析計装置の構成要素をいう。イオン分断器とは、より大きなイオンをより小さな二次イオン断片に断片化するために好適な、質量分析計装置の構成要素をいう。これらの二次イオンは、さらなる質量分析に供され得る。いくつかの有用な実施形態において、イオン断片化は、イオン選択工程の後に起こる。
【0102】
上述のように、電気セクタTOF質量分析器を備える第1質量分析器は、第1質量分析器からの排出の際に、特定の空間的位置における最小分散を有する最小サイズのイオンビームを提供するように構成される。代表的な実施形態において、イオン断片化手段またはイオン選択手段として役立つ部分組み立て品構成要素は、この空間位置に配置され得る;従って、断片化手段または選択手段は、最小サイズのイオンビームで作用し得る。小さいイオンビームは、構成要素を同様により小さなサイズにし得、次いで、その性能を上げながら費用を低下させる。幾つかの特定の利点を、特定の構成要素について、以下に記載する。タンデム質量分析計における使用のための同様の利点が、他の好適な構成要素について当業者によって明白となり得、かつ理解され得る。
【0103】
本発明のタンデム質量分析計700の1つの例において、イオン選択器750は、連続する一次イオンの選択のためのイオンゲートを備え得る。これらの連続するイオンゲートは、当該分野で公知であり、パルス化電圧によって制御され得るゲート電極を備える。パルス化電圧に反応するイオンゲートの選択的開門および閉鎖は、サンプルイオンビームからのイオンピークの選択を可能にする。上述のように、本発明の第1質量分析器でのより小さいサンプルイオンビームの提供により、連続するイオンゲート電極が、より互いに近くに位置し得る。結果として、イオンゲートは、より小さな振幅のパルス化電圧を提供することによって制御され得、それにより、改善されたより早いイオンゲートの制御を可能にし、従って、一時イオン選択の効率および選択性を上昇させる。
【0104】
別の例において、本発明のタンデム質量分析計は、サンプルイオンビームを狭いアパーチャを越えて掃引させることにより、サンプルイオンビームからの一次イオン選択を実施し得る。本発明の好ましい実施形態において、このアパーチャは、第1質量分析器と第2質量分析器との間に配置され、両質量分析器とイオン連絡する。図5A〜Cを参照して、イオン選択のこの手段の略図が、図示される。イオン選択器1000は、第1質量分析器1100とイオン連絡し、ここからサンプルイオンビーム1400が提供される。サンプルイオンビームは、複数のイオン1610〜1650を含む。第1質量分析器1100が飛行時間型質量分析器である場合、イオン1610〜1650は、サンプルイオンビーム1400内を、必然的に質量順に移動する(低質量イオンは、より重いイオンより早く到着する)。
【0105】
イオン選択器1000はまた、第2質量分析器1200にイオン連絡する。幾つかの実施形態において、イオン分断器は、イオンをイオン選択器から受け取るように配置され得る。イオン選択器内で、アパーチャ1350は、平面1300内に配置され、その結果、アパーチャ1350を掃引したイオンだけが、イオンセレクタ1000から出られ得、従って、第2質量分析器1200に進入し得る。
【0106】
偏向電極1500および1550は、サンプルイオンビームの両側に配置され、その結果、ビーム内のイオンは、その間を移動し、そして電極の電位に反応し得る。これらの電極は、各電極1500および1550に電位が独立して適用されかつ制御されるように構成される。図5Aに図示されるように、両電極に同じ電位が適用され、その結果、電極1500と1550との間の電位差が本質的に0である場合、正味の電気偏向はその中を通るサンプルビーム内のイオンに課されない。この場合、サンプルイオンビームおよびその中の全てのイオンは、アパーチャ1350から第2質量分析器1200へ通り続け、イオン選択器1000はイオン選択性を提供しない。
【0107】
図5Bにおいて、電極1550に印加されるよりも適切に大きな電位が、電極1500に印加される。従って、それらの間を進行するビーム1400中のイオンの全てに静電力が印加され、その結果、これらのイオンは、電極1550に向かって偏向する。この偏向の結果として、イオン1610〜1650は、開口部1350から離れるように偏向し、そして平面1300に衝突する。従って、イオンは、このシナリオにおいて選択されない。
【0108】
所望の第1の(primary)イオンを選択するための方法は、図5Cに示される。このシナリオにおいて、電極1500と電極1550との間の電位の差異は、時間依存様式で変化する。結果として、イオンビーム1400においてイオンに課せられる静電偏向はまた、時間依存性様式で大きさおよび方向において変化し得、それによって、サンプルイオンビームを「掃引」する。例えば、電極は、電極1500においてより大きな電位で、時間ゼロで開始し得、従って、イオンを電極1550に偏向させる。例えば、時間とともに、電極1500の電位を減少させることによって、電極間の電位の差異および対応する偏向力もまた減少する。結果として、イオンビーム1400は、偏向の大きさが減少するにつれて、電極1500に向かって「掃引」する。電極1500の電位が減少し続け、その結果、電位の極性が反対方向になる場合、イオンビーム1400は、電極1500に向かって偏向するまでその掃引を続ける。
【0109】
イオンビームの先の掃引の間、ビーム1400のイオン1610〜1650は、電極間のイオンの通過のときのビーム1400の角度に本質的に従った方向で平面1300に向かって進む。従って、上記例において、イオン1650(低い質量を有する)は、早い時点で電極1500および1550に達し、従って、電共1550に向かって強く偏向する。この強い偏向の結果として、イオン1650は、開口部1350の十分下で平面1300に衝突する。より遅い時点で到達する場合、より高い質量のイオン1640は、この時点で小さな電位変化に起因して、より小さな力で偏向する。従って、イオン1640は、開口部1350により近い点で平面1300に接する。
【0110】
従って、電極間に本質的に電位の差異がない場合、その点を通過するイオンは、本質的に正味の偏向を受けない。従って、このイオン(この場合、イオン1630)は、開口部1350に向かって進み、通過する。従って、イオン1630は、イオンセレクター1000によって選択され、第2質量分析器1200に向かい続ける。より重いイオン1620および1610がイオン1620の後に電極に達するので、これらのイオンは、電極1500に向かって正味の偏向を受け、従って、開口部1350の他の側面の位置において、平面1300に衝突する。
【0111】
従って、イオンセレクター1000を使用して特定のイオンを選択するために、時間依存性で変化する電位は、電極1500と電極1550との間の電位の差異が本質的にゼロでる時点が電極における所望のイオンの到着と実質的に同時であるように設定される。例えば、所望のイオンの到着時間が既知である場合、傾斜電位の開始時間は、それに従って設定され得る。この方法における他のバリエーションは、当業者によって理解され得、それに従って実行され得る。例えば、開口部1300は、イオンが通過するための偏向角度を必要とするように配置され得る。従って、傾斜電位は、所望のイオンが電極に到達する時間において必要な電位の差異を提供するように設定される。
【0112】
従って、所望の質量のイオンは、偏向電極1550および1500を通る所望のイオンの通過が、偏向が課せられていない電圧と実質的に同時であるように、電圧傾斜パラメーターを設定することによって選択され得る。設定可能なパラメーターとしては、例えば、電圧傾斜プロフィールの形状および/または傾き、電圧傾斜の開始時間、ならびに他の同様なパラメーターが挙げられる。これらのパラメーターは、タンデム質量分析計のイオン飛行経路へのサンプルイオンの侵入の時間および所望のイオンの予期される飛行時間に基づいて設定され得る。この様式において、電圧傾斜とイオンセレクター1000におけるイオンの到着との間のタイミングは、所望のイオンの選択をもたらすために調整され得る。
【0113】
上記の連続的なイオンゲートを用いて、本発明のタンデム質量分析計の第1の質量分析計の向上したイオン集束特性は、第1のイオン選択のこの方法を使用して、第1のイオン選択の向上した選択性および効率を生じ得る。上記のように、第1の質量分析計の電気セクターTOF質量分析計は、本発明のイオン光学素子を調整することによってサンプルイオンの飛行時間および側方分散を最小化するように設定され得、従って、所望のイオンのパーセルのサイズおよび分散を減少する。本発明の向上したイオン集束無しで、イオン飛行経路に関するイオンの側方分散は、十分な量の所望のイオンパーセルをスリットを通させ得ないことによって、またはより大きなスリットを必要とすることによって第1のイオン選択の選択性を減少させることによって、選択の効率を減少させ得る。同時に、増加した質量依存性飛行時間分散は、所望のイオンパーセル内の同じ質量のイオンを異なる偏向電圧に供し得、それによって選択の効率を減少し得る。
【0114】
図4を再び参照して、装置700は、参照番号750によって示されるように、イオンフラグメントを備える。いくつかの有用な実施形態において、イオンフラグメンター750は、衝突セルを備え得る。衝突セルは、当該分野で公知なように、代表的に、タンデム質量分析計須知の減圧チャンバ内で部分的に囲まれた容積である。このセルは、イオンが入ることおよび第2イオンフラグメントが出ることを可能にするための開口部を有する。衝突セルは、衝突して、従って、セルに入る第1のイオンの有意な画分を断片化するために、適切な圧力で気体粒子を含む。しかし、気体は、その侵入および出口開口部を介してセルを逃れ、従って、分析計の減圧チャンバに入る。汚染または外側の衝突を妨げるために、減圧チャンバ内に逃れた気体をポンプで排出し続けるための減圧ポンプが必要である。本発明のタンデム質量分析計700において、第1の質量分析計の電気セクターTOF質量分析計は、上記のような向上したイオン集束によって、小さなサイズのサンプルイオンビームを提供し得る。従って、衝突セル開口部のサイズ、またはセル自体がまた減少され得る。より小さな開口部は、衝突セルからの逃れる気体の量を減少させ得、従って、汚染の無いチャンバを維持するために必要とされるポンプのサイズおよび費用を減少させる。さらに、減少したサイズおよび費用の衝突セルはまた、装置全体の費用を減少させ得る。
【0115】
本発明のタンデム質量分析計の上記例示的な実施形態は、他の実施形態を制限するものでも排除するものでもない。他の構成は、当業者によって明らかであるかまたは想定される。例えば、第1の質量分析計が電気セクターTOF質量分析計を備える実施形態において、第2の質量分析計は、電気セクターTOF質量分析計、線形TOF質量分析計(遅延抽出を伴うかまたは伴わない)、反射TOF質量分析計、TOF質量分析計と組み合わせたイオントラップ(線形または反射)、および当該分野で公知の他の質量分析計が挙げられる。さらに、イオン断片化手段を含む実施形態において、例示的な手段は、衝突セル(上記の通り)、表面誘導解離、レーザ光脱離、電子衝撃誘導解離、および当該分野で公知の他の方法が挙げられ得る。最後に、他の適切な質量分析計、イオンセレクター、イオン源、イオンフラグメンター、およびイオン検出器と組み合わせた少なくとも1つの電子セクターTOF質量分析計を有するタンデム質量分析計が、当業者によって明らかであり得るかまたは想定され得、従って、本発明の範囲内である。
【0116】
上記本発明のタンデム質量分析計の実施形態に加えて、本発明者はまた、本発明の1つ以上の質量分析計として使用され得る改善された電気セクターTOF質量分析計を発見した。これらの改善された電気セクターTOF質量分析計は、上記のまたはそれ以外で当該分野で公知である任意の適切な質量分析計を用いてタンデム質量分析計で使用され得る。あるいは、これらの改善された電気セクターTOF質量分析計は、本発明に従って、タンデム質量分析計において質量分析計として排他的に使用され得る。これらの改善された電気セクターTOF質量分析計の利点および特徴を以下に記載する。
【0117】
改善された電気セクターTOF質量分析計は、1つ以上の電気セクターを備える。少なくとも1つの電気セクターが1つ以上のイオン光学素子と関連する。イオン光学素子は、電気セクターの入り口または出口のいずれかまたは両方に配置され、その結果、光学素子は、関連する電気セクターに入るかまたは出るイオンによって経験する電位を改変する。各イオン光学素子は、少なくとも1つのトリム電極を備え、ここでこのトリム電極の電位は、調節可能である。さらに、各トリム電極は、調節可能なトリム電極および電気セクターの他方に関して独立して調節可能であり得る。従って、各調節可能なトリム電極は、電気セクター自体のより困難な機械的調節または改変を必要とすることなく、電気セクターのイオン集束特性を改変する、さらなる自由度を提供し得る。
【0118】
本発明の別の実施形態において、TOF質量分析計は、対照配置で複数の電気セクターをさらに備える。電気セクターのこの配置は、対応する対称飛行経路内にイオンを偏向し、それによって、圧縮空間においてさらなるイオン集束能力を提供する。少なくとも1つの電気セクターが、1つ以上のイオン光学素子と関連する。各イオン光学素子は、上記のように、少なくとも1つの独立して調節可能なトリム電極を備える。
【0119】
別の局面において、本発明のTOF質量分析計の調節が、得られる質量スペクトルの質量解像度を改善し得る方法が提供される。この調節は、その中に存在する1つ以上のイオン光学素子の調節可能なトリム電極を調節し、それによって、質量分析計のイオン集束特性を改変することによって実行される。質量スペクトルに対する調節の効果を観察および比較することは、所望の質量スペクトルが達成されるまで、さらなるトリム電極調節をガイドするために使用され得る。
【0120】
図6を参照すると、装置100は、上断面図で示されている本発明によるTOF質量分析計を備える。断面は、基準イオンが貫通する飛行経路50により画定される平面を通って取得する。装置100は、イオン源110、自由飛行領域120および125、電気セクタ150、イオン光学素子166および167、ヘルツォグシャント170および171、並びにイオン検出器180を備える。TOF質量分析計の代表的な動作時、イオンは、イオン源110内に生成されて加速され、自由飛行領域120内で分離し、シャント170のアパーチャ175を通過し、イオン光学素子166の対のトリム電極160および161間を通過し、入口開口部156から電気セクタ150に入る。外側および内側偏向電極154および152はそれぞれ、イオンを曲線状経路内に偏向させる偏向電界を間に形成する。次に、イオンは出口開口部158から出て行き、イオン光学素子167の対のトリム電極162および163間を通過し、シャント171のアパーチャ176を通過して、自由飛行領域125内で分離し、そしてイオン検出器180に到達時に検出される。飛行経路50は基準イオンの経路だが、飛行経路52および54は、基準イオンの角度よりわずかに大きいかまたは小さい角度でイオン源110を離れるイオンが取る経路の略図である。
【0121】
したがって、イオン飛行経路は装置100内に画定され、飛行経路50は代表的な実施例である。飛行経路50は、自由飛行領域120に接続するイオン源110が、イオンを飛行経路50に入れるイオン入口40を備える。対応して、飛行経路50はさらにイオン出口42を備え、イオンは、自由飛行領域125に接続するイオン検出器180に到達し、イオン出口42において飛行経路50から出て行く。
【0122】
イオン源110は、当該分野で公知のイオン生成手段を備え、こうした生成手段としては、比較的小さい体積内で比較的短時間で複数のイオンを生成するために当該分野で公知の手段または方法の何れかを含む。また、イオンのパルスを生成するために当該分野で公知の手段または方法であって、イオンのパルスは、イオンが比較的小さい体積内で比較的短時間で生成されたイオンであるような外観を有し、そのようなイオンとして挙動する手段または方法も含まれる。イオン源110は、連続またはパルス状の方法でイオンを形成する手段を含み得る。イオン源は、四重極イオントラップまたは線形イオントラップのように、イオンを濃縮するための手段も含み得る。
【0123】
イオン源110は、たとえば、固体表面と相互作用するパルス化レーザ、小さい体積内で気体をイオンするパルス化収束レーザ、または気体または固体表面と相互作用するパルス化電子またはイオンビームを使用する手段を含む。別の実施例においては、イオン源110は、イオンのパルスを生成するための手段であって、狭いスリット上に渡される連続イオンビームの迅速な掃引を使用し、イオンの短時間のパルスが、イオンビームが通過する時に、スリットを通過するイオンにより生成される手段を使用し得る。イオン源110は、電気スプレーイオン化、レーザ脱離/イオン化(「LDI」)、マトリックス支援レーザ脱離/イオン化(「MALDI」)、表面強化レーザ脱離/イオン化(「SELDI」)、表面強化ニート脱離(「SEND」)、高速原子衝撃、表面強化感光付着および解放、パルス化イオン抽出、プラズマ脱離、多光子イオン化、電子衝撃イオン化、誘導結合プラズマ、化学イオン化、大気圧などを使用するが、これらの使用だけに限らない。
【0124】
さらに、イオン源110は、1以上の質量もしくは質量の範囲またはそこからフラグメントを選択的に提供する手段も含み得る。こうした手段は、本発明のTOF質量分析計を複数の分析器、たとえば磁気セクタ、静電分析器、イオントラップ、四重極イオントラップ、四重極質量フィルタ、およびTOFデバイスと直列に結合することにより得られ得る。
【0125】
イオン源110は、イオン飛行経路のイオン源からイオン入口40までのイオン抽出または加速手段も含む。抽出方法は、イオン源110内に生成されるイオンビームに平行または直角であり得る。さらに、イオンの抽出または加速は、イオンの形成後に、たとえば電圧パルスの印加により行なわれ得る。
【0126】
同様に、イオン検出器180は、イオンを検出して信号を増幅するための手段を備えるが、こうした手段は公知であり、以下で詳細には説明しない。たとえば、イオン検出器180は、連続電子増倍管、分離ダイノード電子増倍管、シンチレーションカウンタ、ファラデーカップ、光電子増倍管などを含み得る。イオン検出器180は、内部で検出されたイオンを記録するための手段、たとえばコンピュータまたはその他の電子装置も含み得る。
【0127】
電気セクタ150は、内側偏向電極152および外側偏向電極154を備える。図7を参照すると、電気セクタ150の入口開口部156は、イオン飛行経路が図の平面にほぼ垂直になるように示されている。図示のとおり、電気セクタは、それぞれ上部および下部マツダプレート190および192をさらに備える。好ましい実施形態においては、両方の偏向電極は、外側電極154が内側電極152より大きい半径を有する円筒状部分である。あるいは、静電プレートは、トロイダルまたは球状部分など、その他の形態に適合し得る。さらに代替的な実施形態は、内側および外側プレートの半径が実質的に同じであり、したがって、トロイダル部分を使用する場合などは上部および下部で収束する電子プレートを含む。マツダプレート190および192は、プレート自体が、電気セクタ150を移動するイオンをさらに閉じ込めるように構成される電極であり、そのため、イオンが電気セクタの上部または下部から出て行くのを防止し、電気セクタのイオン伝達歩留まりを増加させる。
【0128】
再び図6を参照すると、入口のヘルツォグシャント170および出口のヘルツォグシャント171は、電気セクタ150のそれぞれの開口部に配置される。これらのヘルツォグシャントは、電気セクタ内の平均電位とほぼ同じ電位を有する電極である。ヘルツォグシャントの目的は、当該分野で公知のとおり、電気セクタの電界をできるだけその開口部に近く終了させ、理想的な偏向電界に近づけることである。さらに、イオンが、ヘルツォグシャントのアパーチャ175および176を通過する時、アパーチャは、イオンが電気セクタに出入りする時に、イオンの軌跡が比較的狭い範囲になるように選択するのに役立つ。ヘルツォグシャントのアパーチャ175および176の形状は、これらのアパーチャが結合される電気セクタの開口部の形状に適合することが好ましい。たとえば、内側電極152および外側電極154が円筒状部分である実施形態においては、入口開口部156または出口開口部158に結合されるヘルツォグシャントのアパーチャの好ましい形状は、共形的に矩形である。ヘルツォグシャントのアパーチャは、シャントが結合される電気セクタの入口開口部または出口開口部より小さい寸法を有する。
【0129】
イオン光学素子166は、電気セクタ150と結合されて、入口開口部156に配置される。同様に、イオン光学素子167は、出口開口部158に配置される。イオン光学素子166は1対のトリム電極160および161を備え、同様に、素子167はトリム電極162および163を備える。両方の対のトリム電極は、飛行経路50が対のトリム電極の間を通過することを可能にする。特定のイオン光学素子のトリム電極の対は、イオン光学素子が結合する電気セクタの入口または出口の内側電極と外側電極との分離部分より小さい距離で分離されることが好ましい。各々のトリム電極は、調節可能なトリム電極の他のトリム電極、および偏向電極152および154に対して別個に調節可能な電位を有する。したがって、各々の調節可能なトリム電極は、電気セクタ150のイオン収束特性を調節するための追加の自由度を提供する。
【0130】
ヘルツォグシャントのアパーチャと同様に、トリム電極の内縁は、トリム電極が結合する電気セクタの開口部の形状に適合することが好ましい。たとえば、図6に示す実施形態では、トリム電極160の内縁は、外側偏向電極154の内縁の形状に適合することが好ましい。その他のトリム電極の内縁は、それぞれの電気セクタの開口部に相応に適合する。
【0131】
1対のトリム電極(イオン光学素子を形成する)およびヘルツォグシャントが特定の電気セクタの開口部(入口または出口)に結合される実施形態では、内側および外側電気セクタの電極の分離は、上記のとおり、トリム電極の対を分離する距離より大きいことが好ましい。さらに、トリム電極間の分離距離も、トリム電極が結合されるヘルツォグシャントのアパーチャの幅より大きいことが好ましい。
【0132】
トリム電極を備える本発明のイオン光学素子は、イオンが電気セクタに出入りする時に、イオン飛行経路内のイオンに印加される電位を変更する手段を提供する。本発明のトリム電極は、調節可能な電位を提供するための手段を提供する。たとえば、イオン光学素子166および167を電気セクタ150の開口部およびイオン飛行経路50に対して図示のように配置することにより、各々の素子は、イオンが電気セクタ150に出入りする時にイオンに印加される電位に影響を与えることが可能である。したがって、イオン光学素子の電位を調節すると、イオンに印加される電位が相応に変化する。こうした調節は、ヘルツォグシャント170および171または偏向電極152および154の電位を調節することなく行なわれ得る。この方法では、電気セクタ150のイオン光学特性に応じて微妙な調節を容易かつ有利に行なうことができ、電気セクタ自体を直接調節する必要はない。イオン光学素子により得られる利益の例について、以下で説明する。
【0133】
本発明のイオン光学素子は、他のイオン光学特性に著しい影響を与えずに、電気セクタ150の偏向角度を変更するために使用され得る。先行技術の飛行時間型質量分析計の電気セクタは、出入りするイオンに印加される電位を選択的または具体的に変更する何らかの手段を含まない。偏向電極152または154の電位の変更は、全体の電気セクタのイオン光学特性を変化させ、したがって入口開口部156または出口開口部158における電界に限定されない。詳細には、偏向電極152または154を調節すると、電気セクタが選択するように構成されるイオン収束特性およびエネルギー範囲に著しい影響を与えるであろう。本発明のイオン光学素子166および167を調節して、イオンの偏向を増加または減少させると、電気セクタのその他の特性を著しく変更することなく、偏向角度をより微妙に、より容易に調節することが可能である。
【0134】
本発明の装置のイオン光学素子により提供されるもう1つの利益は、電気セクタ150のイオン収束特性を変更することである。たとえば、出口開口部158においてイオン光学素子167を調節することは(等しい非ゼロ電位をトリム電極162および163に印加することにより)、飛行経路54および飛行経路52に類似する飛行経路を有するイオンが、飛行経路の出口42付近を横断または交差する地点の位置を変更するために使用され得る。飛行経路のこうした変更により、電気セクタ150のイオン収束特性が変化し、飛行時間質量スペクトルの感度および/または解像度を改善する。
【0135】
本発明は、少なくとも2種類の利益を提供する。第1の利益は、本発明のイオン光学素子を使用して、電気セクタが設計仕様から予測されるイオン光学特性を有するように、TOF質量分析計内の電気セクタを結合する性能を補正または変更することにより得られる。イオン光学素子をこのように使用すると、電気セクタの製造または機械的構造の誤差または偏差を補正することができる。第2の利益は、本発明を使用しない電気セクタには利用できないイオン光学特性の組合せを使用することにより得られる。さらに、これらの特性は調節可能なので、本発明を組み込むTOF質量分析計の性能は、実際上、従来の電気セクタに基づく構造の理論上の性能を超える。
【0136】
たとえば、上記4つのトリム電極の各々の電位を同じ大きさだけ増加すると、半径方向平面におけるイオンの収束が変化し得る。もう1つの実施例では、イオンビームの小さい偏向が、第1イオン光学素子を使用して電気セクタの入口に印加され、対向する偏向が、第2イオン光学素子を使用して出口に印加される。こうした特定の調節により、電気セクタ上の正味の偏向は変化しないが、イオンが電気セクタを通って取る経路はわずかに変化する。したがって、本発明のTOF質量分析計の全体的な性能は、無電解(たとえば、自由飛行)領域を通る経路長に対する電気セクタ内の有効経路長が変化するために変化し得る。
【0137】
本発明者は、トリム電極の電位を調節することにより、本発明のタンデム質量分析計における質量分析機として使用され得るTOF質量分析計の解像度および他の利点の特性は、質量分析機を備える先の電気セクタに比べて大幅に改善できることを実証した。本発明のトリム電極における電位の調節から生じる他の用途および利点は、当業者により想定され得、そしてこのような用途および利点は、本発明の範囲内である。
【0138】
本発明によるイオン光学素子を使用した調節可能な電位場の形成は、電位の形状に対応する物理的形状に適合する1以上のトリム電極を使用して達成され得る。本発明のトリム電極は、形状が類似するかまたは同等の調節可能な電位も提供し、トリム電極は対応する物理的形状を有する必要はない。こうした電極は、たとえば半導性もしくは伝導性が不十分な材料、または導電性もしくは半導性材料で完全もしくは部分的に被覆された絶縁材料から製造される。上記の導電性または半導性材料は、たとえばフィルムまたはワイヤとして形成され得る。所望の調節可能な電位を生成する任意の形状のトリム電極は、本発明の範囲内であると考えられる。
【0139】
本発明のイオン光学素子は、1対のトリム電極に限定する必要はない。たとえば、3個以上のトリム電極を複数個、イオン光学素子を構成するように、電気セクタの入口または出口に配置し得る。こうした複数のトリム電極は、トリム電極を対向する対で、点対称配列またはその他の適切な配列で配列することができる。上記のように構成されたイオン光学素子内の追加のトリム電極は、イオンに印加される電位を変更する自由度を追加するのみならず、追加の利益も提供する。たとえば、追加のトリム電極は、操作者が、トリム電極に結合された電気セクタに出入りするイオンを電気セクタの平面および全体のイオン飛行経路に垂直な方向に偏向させることを可能にする。垂直偏向に使用するトリム電極は、電気セクタの偏向電極の形状に必ずしも適合しない縁部を有し、また、本発明のトリム電極は特定のどの形状に適合する必要もない。
【0140】
本発明のイオン光学素子は、好ましい実施形態の結合電気セクタの入口および出口の量に配置されるが、電気セクタに対するイオン光学素子のその他の構成および配列は、本発明の範囲内である。
【0141】
イオン光学素子のトリム電極は、好ましくは結合電気セクタの入口または出口付近に配置され、偏向電極に対する間隔は、装置の構造が必要とする電位差を持続するのに十分であるように維持される。同様に、ヘルツォグシャントも、好ましくは結合イオン光学素子および電気セクタに近接して配置する。好ましい実施形態においては、ヘルツォグシャントとトリム電極との間の間隔は、トリム電極と電気セクタの開口部との間の間隔と同じである。しかし、異なる間隔または異なる間隔比を生じる上記構成部品の位置の変動は、本発明の範囲内である。たとえば、トリム電極と電気セクタとの間の距離、またはヘルツォグシャントとトリム電極との間の距離は、本発明の精神から逸脱することなく増加することができる。また、トリム電極の位置は、任意に電気セクタの入口または出口に近接して移動することができる。実際上、トリム電極は、電気セクタの偏向電極間の領域内にさらに移動する場合がある。当業者は、トリム電極の幾何学的形状のこうした変動はすべて、イオンが電気セクタに出入りする時にイオン飛行経路内のイオンが直面する電位を変更するための手段を提供するため、本発明の範囲内である。
【0142】
好ましい実施形態では、所定のイオン光学素子のトリム電極の厚さは、トリム電極を分離する間隔より小さい。しかし、トリム電極の寸法は、この実施形態と広範囲にわたって異なることができ、やはり本発明の範囲内である。たとえば、トリム電極の厚さは、イオン光学素子を通るイオンが移動する距離が、トリム電極の分離間隔、またはさらに電気セクタの分離間隔より大きい点まで増加して良い。好ましい実施形態では、トリム電極の厚さは、結合ヘルツォグシャントの厚さとほぼ同じである。やはり、この関係からの偏差は、本発明の精神の範囲内である。
【0143】
偏向電極、トリム電極、ヘルツォグシャントおよびマツダプレートを含む本発明の電極は、当該分野で公知の材料から製造される。一般に、電極に適する材料としては、金属、合金、複合材料、ポリマー、イオン性固体、電圧が外部源から印加された後のこれらの組合せまたは混合物が挙げられる。本発明の電極は、導電性、半導性、および/または導電性が不十分な材料から製造される。電極は、導電性、半導性、または導電性が不十分な材料、たとえばフィルム、電線などで被覆されるか、またはこうした材料を支持する絶縁材料から製造しても良い。
【0144】
上記のとおり、本発明のイオン光学素子およびトリム電極は各々、材料の組成、構成、配列、形状、電気セクタおよびその他の電極に対する配置などに関して異なる個々の特性を有する。したがって、異なるかまたは類似の特性を有するイオン光学素子およびトリム電極の適切な組合せは、TOF質量分析計の範囲ないで実施することができ、したがって本発明範囲内である。
【0145】
図8に関して、本発明のTOF質量分析計の好ましい実施形態を略上断面図に示す。断面は、基準イオン飛行経路60により画定される平面を通って取る。装置200は、各々が約270°の円弧の曲線状偏向電界を画定する4個の同じ電気セクタ250、350、450および550を備えるTOF質量分析計である。4個の電気セクタの各々には、自由飛行領域、つまり220、222、224、226および228が先行および追随する。電気セクタおよび自由飛行領域の対称配列は、Sakuraiら、Ion Optics For Time−Of−Flight Mass Spectrometers With Multiple Symmetry、Int.J.of Mass Spectrom.Ion Proc.63、pp.273−287(1985年)に記載されているように、等時性および空間収束の両方を含むいくつかの利益を提供する。この対称構成は、比較的長い飛行経路60を著しく小さい寸法の空間内にコンパクトに収容し、その結果、質量分析計の全体のサイズを縮小することを可能にするという利益も提供する。好ましい構成では、4個の電気セクタの各々は、各々のセクタにより画定される平面が、他のセクタの平面に対してほぼ平行であり、他のセクタの平面と同一平面であるように配置され、これらの平面の間に自由飛行領域を収容する。
【0146】
装置200は、イオン源210およびイオン検出器280を備え、これらは共に、図6に示す装置100内の対応する特徴と機能上同じである。同様に、各々の電気セクタ250、350、450および550は、本質的に他の要素と同じであり、本質的に上記の電気セクタ150と同じ機能を有する。したがって、以下の説明はその他の電気セクタに適用されることを理解した上で、電気セクタ250の要素についてのみ触れる。
【0147】
装置200の一般的な動作時、サンプル由来のイオンは、イオン源210内で生成され、イオン源210から抽出され、飛行経路60に沿って分離および収束され、最終的にイオン検出器280に到達して検出される。飛行経路60は、イオン入口70およびイオン出口72を備え、電気セクタ(250、350、450および550)並びに5個の自由飛行領域(220、222、224、226および228)により画定され、これらは図示のように配置されて、各々が隣接する電気セクタおよび領域に接続する。イオンは、イオン源210から出て自由飛行領域220に入ることにより、イオン入口70から飛行経路60に入る。これに対して、イオンは、自由飛行領域228からイオン検出器280に入ることにより、イオン出口72を介して飛行経路60から出て行く。
【0148】
装置200の好ましい実施形態では、自由飛行領域の長さは、パラメーターが指定される「D1」および「D2」で画定され、その値を表1および表3に列挙する。好ましい実施形態では、自由飛行領域222および226の長さは実質的に同じであり、この長さは「D2」の2倍である。また、自由飛行領域224の長さは、自由飛行領域220および228の長さの実質的に2倍であることが好ましく、自由飛行領域220および228の長さは「D1」により画定される。しかし、当業者は、これらの既定値の長さをさらに調節および/または変更して、装置の性能またはその他の所望の特性を変えることができることを理解するであろう。たとえば、それぞれイオン源210およびイオン検出器280と結合する自由飛行領域220および228の長さは、装置に使用されるイオン源および/またはイオン検出器に応じて、上記の既定値の長さから変更することができる。
【0149】
第1電気セクタ250は、内側偏向電極252および外側偏向電極254を備える。電気セクタの入口開口部256は、アパーチャ271を有するヘルツォグシャント270に結合される。同様に、アパーチャ276を有するヘルツォグシャント275は、出口開口部258において電気セクタに結合される。
【0150】
入口256および出口258には、それぞれイオン光学素子266および267も結合される。イオン光学素子266はトリム電極260および261を備え、同様に、イオン光学素子267はトリム電極262および263を備える。この特定の実施形態では、電気セクタ350、450および550は電気セクタ250と同じ要素を備えるため、別個に説明しない。
【0151】
図9は、図8の電気セクタ250に至る入口256の略図であり、イオン飛行経路は、図面の平面にほぼ垂直である。この図は、電気セクタ250の内側偏向電極252と外側偏向電極254との間の空間S、マツダプレート284および285の幅W、電気セクタの偏向電極252および254の高さH、およびマツダプレート284および285と電気セクタの偏向電極252および254との間の間隔Sの寸法を画定する。
【0152】
図10Aは、内側偏向電極252および外側偏向電極254を含む電気セクタ250に対する電気セクタの入口256の上断面図を示す。図9に示すマツダプレートは、図示の目的上省略する。また、この図には、イオン光学素子266(トリム電極260および261を含む)並びにヘルツォグシャント270(ヘルツォグシャントのアパーチャ271を含む)が示されている。値が表1および表3(以下を参照)に列挙されている様々な寸法をこの図に指示する。これらの寸法は、トリム電極の厚さ(T)と、トリム電極の間隔(T)と、トリム電極と偏向電極との間の空間(TE)と、ヘルツォグシャントの厚さ(H)と、トリム電極に対するヘルツォグシャントの間隔(HT)と、ヘルツォグシャントの開口部の高さ(H)と、ヘルツォグシャントの開口部の幅(H)とを含む。
【0153】
図10Bは、電気セクタ250に対する入口256の対応する分解等角図を示し、値が表1および表3(以下参照)に列挙されている様々な寸法が支持されている。図10Aと同様、これらの寸法の値は、図8に示す4個の電気セクタすべてを表すと考えられる。すべての寸法は、特記しない限りインチで示す。
【0154】
様々な実施形態では、イオン光学素子は、アインツェルレンズを含む。先行技術で公知のとおり、アインツェルレンズは、イオンビームを収束するように構成された複数の電極を備える。アインツェルレンズは、上記の調節可能な電極の代わりに、または調節可能な電極と組み合わせて使用することができる。
【0155】
本発明のタンデム質量分析に有用である扇型電場質量分析器は、SIMION7、市販のイオン視覚化モデル化プログラム(SIMION7、P.O.Box2726、Idaho Falls、ID 83403、USA)、次に、性能をテストするように構成されたプロトタイプを使用してモデル化され、性能データを先行技術で報告されている値と比較する。
【0156】
4つのトリム電極を電気セクタに追加すると、各々の電気セクタのイオン光学特性を調整する場合に、さらに4種類までの調節または自由度を提供する。イオン光学をモデル化する時に、これらの自由度のすべてを使用する必要はないか、または望ましくないとも言える。モデルでは、セクタの機械的整列の小さい誤差を補正する必要はなく、こうした調節は不要である。
【0157】
したがって、モデル化の目的上、本願特許出願人は、内側および外側トリム電極上の電位の和および差のみを、分析計を調整する時の調節可能なパラメーターとして使用した。外側トリム電極のすべてに同じ電位を印加し、内側トリム電極のすべてに、さらに別の電位を印加する。本発明は、このパターンで印加される電位に限られず、その他の可能な部分集合(個々のトリム電極以下)は各々、異なる印加電位を有する。
【0158】
(表1)
(モデル化された発明の実施形態の寸法および電位)
【0159】
【表1】

表1に記載の動作電位の集合は、この特定の幾何学的形状において、10kVのイオンに対して最大解像度を生成するモデル化時に見られる多くの組合せの中で最善の組合せである。モデルの調整は、飛行時間に関するすべての一次および二次収差係数の絶対等級の和を最小化することにより実施した。x(イオン飛行経路の平面では、基準イオンの経路に垂直)における偏差および対応する角度αは、この構造では対称ではないため、これらの偏差に関する収差も計算して、和に通常含まれる20項にさらに11項を追加した。最適化に使用した偏差x、α、y、βおよびδの値は0.2mm、0.2°、0.2mm、0.2°および0.001であり、全部で31の収差項を計算に含んだ場合、16,000を超える最適化解像度が得られた。
【0160】
この電位の集合に関するこうした計算の結果は、表2で、サクライ(Sakurai)等の「新奇な飛行時間型質量分析計」(A New Time−Of−Flight Mass Spectrometer)、Int. J ; Mass.Spectrom.Ion Proc.66、p.283−290(1985年)(「サクライI」(「SakuraiI」)に開示されている収差係数と比較し、収差係数の定義は、「サクライI」(「SakuraiI」)、およびサクライ(Sakurai)等の「複数対称の飛行時間型質量分析計に関するイオン光学」(Ion Optics For Time−Of−Flight Mass Spectormeters With Multiple Symmetry)、Int.J.Mass.Spectrom.Ion Proc.63、p.273−287(1985年)(「サラクライII」(「SakuraiII」)に開示されている。
【0161】
(表2)
(収差係数の比較)
【0162】
【表2】

本発明のモデル化された実施形態の収差係数のいくつかは、サクライ(Sakurai)の収差係数に比べて小さく、いくつかは大きいが、ピーク幅LααおよびLαδに最大の影響を与える2つの収差係数は著しく小さく、本発明の全体的な分析計解像度は、先行技術で報告されている解像度より改善される。
【0163】
たとえば、x=y=0.0002メートル、α=β=0. 00349ラジアンおよびδ=0.001の場合、サクライI(SakuraiI)の計算を使用する予測解像度は、表2に列挙する収差係数のみを含み、本来の構造の場合は約19,000であるが、本発明のモデル化された実施形態の場合は30,000を超える。
【0164】
予測解像度は、偏差x、y、α、βおよびδに関して仮定される大きさに依存する。さらに、本発明の場合、飛行時間型分析計の特性は、基準イオン特性から予想される実際の偏差に最善の性能を提供するように調節することができる。たとえば、一般に使用されるマトリックス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)法により生成されるイオンは、平均的に著しく過剰なエネルギーを有し、この余分なエネルギーの平均量はイオンの質量に比例することは十分に公知である。こうした過剰なエネルギーの大きさは、1000ダルトン当たり約1eVである。したがって、巨大タンパク質から形成されるイオンは、この同じ大きさのエネルギー分布で、平均して100eVを超える過剰エネルギーを有する可能性がある。10,000Vの公称エネルギーで動作するMALDI飛行時間型質量分析計は、巨大タンパク質の場合は0.01以上のエネルギー偏差δを有するが、値は、質量が2000ダルトン未満の小ペプチドの場合は0.0002以下であろう。本発明による飛行時間型分析計は、トリム電極を含む様々な要素に印加される電位を変更することにより変更されるイオン光学特性を有する。したがって、本発明は、巨大タンパク質に対して最善の解像度を与える比較的大きいδで、最善の性能になるように分析計を調節するか、またはペプチドに対して最善の性能を当てる小さいδで、最善の解像度になるように調節することを可能にする。さらに、所望の調整条件は、分析計の電極に印加される電位を単に変更することにより得られる。
【0165】
装置200のトリム電極の各々は、他方の調節可能なトリム電極に関して、および電気セクタの偏向電極に関して個々に調節可能な電位を有する。したがって、イオン光学素子は、イオン光学素子が結合される電気セクタに出入りするイオンに印加される電位を特に変更するように構成される。こうした調整の効果は、装置100に関して上記で説明した効果に類似する。したがって、各々の要素およびトリム電極は、電気セクタのイオン収束特性を変更するための追加の自由度を構成する。こうした調節は、飛行経路60の対称構成に関する公知の利益と組み合わせて、質量解像度および/または感度をさらに大幅に制御し、改善することを可能にする。
【0166】
例示的な電気セクタの飛行時間型質量分析計、本発明のタンデム質量分析器に有用である質量分析器(「実際的な実施形態A」または同等に「実施形態A」)は、表3に記載するパラメーターで構成した。
【0167】
(表3)
(実施形態Aの寸法および電位)
【0168】
【表3】

実施形態Aと表示された本発明の装置は、表3の寸法に従って構成し、図8、図9、図10Aおよび図10Bに略図を示す。この実施形態のその他の属性は、以下または表3に特記しない限り、上記の理論上の実施形態に関する上記の属性に類似する。
【0169】
調整可能トリム電極を有する電気セクタ質量分析の特徴および/または利益を実証するため、実施形態Aの電気セクタの飛行時間型質量分析計を使って、代表的な質量分析計による実験を行なった。特記しない限り、サンプルの調製、質量分析計の動作、および飛行時間質量スペクトルの取得は、公知であって、当業者が理解している方法およびプロトコルに従って実施した。実施形態Aの電極の電位は、表3に記載したように印加した。以下の実験および結果は、単に具体的かつ例示的に示すためのものであり、本発明の特徴、利益および用法を制限する意図はない。
【実施例】
【0170】
(実施例1:スペクトル範囲(IgG))
実施例AのTOF電気セクタ質量分析計は、十分に画定された信号を大きいスペクトル範囲上に提供する。スペクトル範囲は質量スペクトルの特性であり、分析計が単一スペクトル内の特定サンプルからの広範な質量を検出および測定する能力を意味する。スペクトル範囲外のイオンは、通常は検出不可能であり、質量スペクトル上に現れない。したがって、質量スペクトルに所定の大きい質量範囲を与える分析計は、比較的小さいスペクトル範囲の場合よりも多数のイオンの検出および測定を可能にする。
【0171】
実施例Aのスペクトル範囲を実証するため、実施形態Aの装置を使用して、金チップ上のシナピン酸(「SPA」)マトリックスにおけるIgGのTOF質量スペクトルを取得した。サンプルは、遅延抽出レーザ脱離/イオン化によりイオン化し、イオンは、250MHzの抽出率で検出した。図11A〜図11Cを参照すると、TOF質量スペクトルの3つの部分が示されており、各々の部分は、その水平軸に沿って倍率を変更した。この質量スペクトルでは、1.3kDa〜146kDaの質量を有するイオンを表す信号を観察した。したがって、この実施例は、実施例Aの装置が、大きいスペクトル範囲で単一の質量スペクトルを提供することができることを実証する。
【0172】
(実施例2:スペクトル範囲および感度(ペプチド))
この実験は、ペプチドサンプルを使って、装置のスペクトル範囲および感度を決定するために実行した。実施例1に記載した方法に類似する方法では、100フェムトモルのウシ血清アルブミン(「BSA」)のトリプシン消化物をSEND−C18チップ(Ciphergen Biosystems(商標)上に調製し、質量スペクトルを取得した。図12A〜図12Hを参照すると、取得された単一質量スペクトルからの8つのタンパク質が示されている。指示されたピークの測定質量および解像度を以下の表4に列挙する。この実験は、個々のペプチドの質量が、単一質量スペクトルで測定した場合と同様、高度の正確さおよび解像度で得られることを実証する。
【0173】
(表4:選択されたペプチドの質量および解像度)
【0174】
【表4】

装置の感度を決定するため、BSA消化物の量を減少させて、実験を繰り返した。以下の表5に列挙するとおり、この装置の感度は、低いフェムトモル量のサンプルタンパク質で開始した場合でも、本来のタンパク質配列の実質的割合を構成する著しい数のペプチドの検出を可能にする。図13Aは、1フェムトモルのBSAの代表的消化物のTOF質量スペクトルを示す。図13Bは、図13Aの質量スペクトルの拡張部分を示す。
【0175】
(表5:ペプチド検出の感度)
【0176】
【表5】

(実施例3:質量の正確さ)
実施例Aの質量の正確さを決定するため、実施形態Aの質量分析計を使用して、ペプチド混合物の8個のサンプルにおける質量スペクトルを取得した。8個のサンプルは、シアノヒドロケイ皮酸(「CHCA」)マトリックス内の単一金チップ上に導入した。表6に列挙した数は、これらの質量スペクトルにより測定した対応するペプチド信号から計算した。以下に示すように、全部で5個のペプチドの正確な質量は、実施例Aの質量分析計装置を使用して取得した。
【0177】
(表6:ペプチド混合物のTOF質量スペクトル(8回の測定値))
【0178】
【表6】

(実施例4:質量解像度)
実施例Aの質量解像度を実証するため、実施形態Aの装置を使用して、アドレノコルチコトロピックホルモン(「ACTH」)の質量を測定した。結果として得られる質量スペクトルを図9に示し、質量スペクトルに表示された各々のピークの質量および解像度を表7に列挙する。
【0179】
(表7:ACTHスペクトルの測定質量および解像度)
【0180】
【表7】

上記の実験およびその結果は、用法、本発明のパラメーターおよび利益の単なる実施例および具体例であると考える。したがって、これらの実験および結果は、本発明の特徴、利益および用法のタイプまたは範囲に関する制限であることを意味するのではない。本発明のその他の用法、用途および利益は、当業者にとっては、本明細書を考察すると明白である。
【0181】
本明細書に記載する装置は、本発明が意図する多くの別法による実施形態の一例に過ぎないと考える。たとえば、これらの実施形態は、電気セクタのすべての入口および出口に配置されたイオン光学素子を示すが、こうした構成は必須ではない。たとえば、1個を超える電気セクタを備えるTOF質量分析計の場合、最初の電気セクタの入口および最後の電気セクタの出口にのみイオン光学素子を配置し、連続する電気セクタ間にはイオン光学素子を配置しないことが望ましい。その他の類似の組合せは、容易に考えることができる。同様に、本発明は、イオン光学素子およびトリム電極の数量、形状、サイズ、相対的位置およびその他の特性が、図6、図7、図8、図9、図10A、図10Bおよび図15に示すものとは異なる別法による実施形態を意図する。
【0182】
さらに、TOF質量分析計内のすべての電気セクタは、幾何学的形状、サイズ、イオン収束またはその他の特性が同じである必要はない。同様に、本発明は、複数の電気セクタおよび自由飛行領域の特定の構成、対称構成さもなければ他の構成に限定されない。
【0183】
また、当業者は、上記のヘルツォグシャントまたはマツダプレートは、使い捨ての要素であることを理解するであろう。当業者は、図15の上断面図に示すように、ヘルツォグシャントまたはマツダプレートを電気セクタまたは飛行時間型質量分析計のセクタの部分的または完全な囲いの中に組み込むことが可能であることも認識するであろう。図15に関して、装置300は、ヘルツォグシャントおよび/またはマツダプレートの機能を組み込む囲い370を備える。囲い370は、イオン飛行経路のそれぞれ入口および出口を可能にするアパーチャ375および376をさらに備える。上記およびその他の実施形態は、本発明の範囲内であり、当業者には明白であり、こうした実施形態の適性は、分析状況または所望の特徴に依存するであろう。
【0184】
本発明のTOF質量分析計は、トリム電極を制御および調節するための電子および/または計算手段も備える。たとえば、コンピュータなどの制御システムは、1個または複数のポートで上の電位を監視および調節するように構成することができる。こうした制御システムは、高度の正確さおよび精度で、調節可能なトリム電極を監視および調節することが可能である。制御システムは、調節可能なトリム電極を制御するように構成されたソフトウェアプログラムをさらに含む。たとえば、ソフトウェアは、特定のサンプルまたは分析用途に適する構成で、調節可能なトリム電極の各々に電位を与えるようにプログラムすることができる。
【0185】
本発明のもう1つの局面では、本発明は、質量スペクトルの質量解像度または感度を改善するために、TOF質量分析計を調製する方法を提供する。TOF質量分析計は、1個または複数のイオン収束電気セクタを備え、その少なくとも1個は、少なくとも1個のイオン光学素子と結合する。各々のイオン光学素子は、少なくとも1個の調節可能な電極を備える。この方法の適切なTOF質量分析計としては、上記の実施形態が挙げられるが、これだけに限らない。
【0186】
一実施形態では、この方法は、本発明の質量分析計を使用して、第1質量スペクトルを決定し、質量スペクトルから第1質量解像度または感度を決定する。電位は、第1質量スペクトルを決定する以前に、少なくとも1個のトリム電極に印加することができる。
【0187】
第1質量の決定後、装置の少なくとも1個のトリム電極の電位を調節する。次に、第2の質量スペクトルを決定し、第2の質量スペクトルから、対応する第2質量解像度または感度を決定する。第1および第2質量スペクトル間の質量解像度または感度の相対的改善または低下を比較することにより、改善または低下は、イオン光学素子に対して間に行なわれる調節と関連付けられる。たとえば、第2スペクトルは、第1スペクトルと比べて高度の質量解像度または感度を実証し、トリム電極を同方向にさらに調節した後、第3質量スペクトルを決定することにより、さらに改善が行なわれる。したがって、対向方向における調節は、第2スペクトルが、間に行なわれる調節の結果として、第1スペクトルと比べて低下したと実証される場合に必要である。
【0188】
さらなる調整は、所望の、または十分な質量解像度または感度が達成されるまで繰り返し行なうことができる。本発明の調整方法を使用すると、特定のサンプルおよび分析用途に応じて、所望の解像度および/または感度を達成することができる。たとえば、質量分析計のトリム電極は、ペプチドサンプルに対する質量スペクトルを決定するために、質量分析計を最適化するように調整することができる。同様に、質量分析計は、その代わりにタンパク質サンプルの質量スペクトルを最適に決定するように調整することができる。当業者は、このように調整すると、任意の適切な基板に応じて最適な設定を行なうことができる。さらに、メーカーおよび/または操作者は、特定の基板タイプに応じて最適な調整設定を事前に決定することができる。こうした設定は、説明書に記載されているか、または装置に応じて予めプログラムすることができる。
【0189】
こうした調整方法、および一般にトリム電極の調節は、上記の制御システムをさらに備える装置を使用することにより、より迅速に、精密に、および/または正確に行なうことができる。制御システムは、たとえば、様々な設定で決定された質量スペクトルの特性を比較するか、および/またはトリム電極の設定を相応に調整するように構成することができる。制御システムは、コンピュータ、電子回路、ソフトウェアプログラム、アルゴリズムなどを備える。上記のように、予め決められた最適化された設定は、装置内に保存されて、ソフトウェアプログラムが、トリム電極を迅速かつ正確に適切な設定に設定するために使用することができる。
【0190】
本明細書に記載するすべての特許、特許文献、およびその他の発行文献は、各々が本明細書に引用されることにより、個々に、かつ特に組み込まれていたものとして、引用により全体を本明細書に援用する。本願特許出願人は、本明細書における引用または様々な言及により、特定の引用が本発明の「先行技術」であることを認めるものではない。
【0191】
特定の実施例を提供して来たが、上記の説明は具体的に示すためのものであり、制限的ではない。上記実施形態の1つまたは複数の特徴は、本発明のその他の実施形態の1つまたは複数の特徴と、何らかの方法で組み合わせることができる。さらに、本発明の多くの変形は、当業者にとって、本明細書を検討すると明白になるであろう。したがって、本発明の範囲は、上記の説明に関して決定されるのではなく、むしろ、添付の請求の範囲および等価なものの範囲に関して決定するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0192】
本発明の上記および他の目的および利点は、添付の図面と組み合せて、以下の詳細な説明を考慮することによって明らかである。ここにおいて、同じパーツは、同じ特徴を指す。
【図1】図1は、本発明のタンデム質量分析計の概略図である。
【図2】図2は、本発明の質量分析器の上面断面概略図である。
【図3】図3は、本発明の質量分析器の上面断面概略図である。
【図4】図4は、本発明のタンデム質量分析計の概略図である。
【図5】図5A〜Cは、本発明のイオン選択手段の概略図である。
【図6】図6は、本発明の質量分析器の上面断面概略図である。
【図7】図7は、図面の平面に対して法線方向のイオン飛行経路を参照する本発明の電気セクタ開口部の概略図である。
【図8】図8は、本発明の別の質量分析器の上面談面外略図である。
【図9】図9は、図面の平面に対して法線方向のイオン飛行経路を参照し、標識された寸法を有する、本発明の電気セクタ開口部の概略図である。
【図10】図10Aおよび10Bは、それぞれ、本発明の電気セクタ開口部の、上面断面概略図および分解等角図である。
【図11】図11A、11Bおよび11Cは、本発明に従う装置を使用して得られるIgG(イムノグロブリンG)の例示的な質量スペクトルの一部である。
【図12−1】図12A〜12Hは、本発明に従う装置を使用する、ウシ血清アルブミンのトリプシン消化の例示的な質量スペクトルの一部である。
【図12−2】図12A〜12Hは、本発明に従う装置を使用する、ウシ血清アルブミンのトリプシン消化の例示的な質量スペクトルの一部である。
【図12−3】図12A〜12Hは、本発明に従う装置を使用する、ウシ血清アルブミンのトリプシン消化の例示的な質量スペクトルの一部である。
【図12−4】図12A〜12Hは、本発明に従う装置を使用する、ウシ血清アルブミンのトリプシン消化の例示的な質量スペクトルの一部である。
【図13】図13Aおよび13Bは、本発明に従う装置を使用する、ウシ血清アルブミンのトリプシン消化の例示的な質量スペクトルの一部である。
【図14】図14は、本発明に従う装置を使用する、副腎皮質刺激ホルモンの例示的な質量スペクトルである。
【図15】図15は、本発明の別の質量分析器の上面断面概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンデム質量分析計であって、以下:
イオン源;
第1質量分析器;
第2質量分析器;および
イオン検出器;
を備え、ここで:
該イオン源は、該第1質量分析器とイオン連絡し;
該第1質量分析器は、該第2質量分析器とイオン連絡し;
該第2質量分析器は、該イオン検出器とイオン連絡し;そして
該質量分析器の少なくとも1つは、少なくとも1つの電気セクタを備えた飛行時間型質量分析器である、
質量分析計。
【請求項2】
前記第1質量分析器が、少なくとも1つの電気セクタを備えた飛行時間型質量分析器である、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記電気セクタ飛行時間型質量分析器が、少なくとも1つの無電界領域をさらに備え、ここで前記少なくとも1つの電気セクタおよび該少なくとも1つの無電界領域が、イオン飛行経路を規定する、請求項1または請求項2に記載の質量分析計。
【請求項4】
イオン断片化手段をさらに備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項5】
前記第1質量分析器と前記第2質量分析器との両方にイオン連絡するイオン選択手段をさらに備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の質量分析計であって、該イオン選択手段が、第1質量分析器によって提供された複数のイオンの中からイオンを選択し得る、質量分析計。
【請求項6】
前記イオン選択手段が、前記第2質量分析器とイオン連絡するアパーチャおよびアパーチャを横切ってイオンビームを掃引させる手段を備える、請求項5に記載の質量分析計。
【請求項7】
前記イオン偏向手段が、電界手段を備える、請求項6に記載の質量分析計。
【請求項8】
前記イオン源が、レーザー脱離/イオン化手段、化学イオン化手段、光イオン化手段、またはエレクトロスプレーイオン化手段からなる群から選択されるイオン化手段を備える、請求項1〜7のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項9】
前記イオン源が、レーザー脱離/イオン化手段を備える、請求項8に記載の質量分析計。
【請求項10】
前記イオン源が、パルス化イオンビームまたは連続イオンビームから、イオンビームの方向に対し実質的に軸方向およびイオンビームの方向に対して実質的に直交方向からなる群から選択される方向で、イオンを抽出する手段を備える、請求項1〜9のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項11】
前記イオン源が、該イオン源からのイオンのパルスを加速する手段を備える、請求項1〜10のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項12】
イオンのパルスを加速する前記手段が、該イオンの形成後にパルスを適用し得る電圧パルシング手段を備える、請求項11に記載の質量分析計。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の質量分析計であって、前記第1質量分析器が、電気セクタ飛行時間型質量分析器、線形飛行時間型分析器、反射飛行時間型分析器、線形イオントラップ、四重極イオントラップ、四重極イオンフィルタ、磁気セクタ質量分析器、イオンサイクロトロン共鳴分析器、電気セクタ/磁気セクタ質量分析器、イオントラップ/線形飛行時間型質量分析器、イオントラップ/反射飛行時間型質量分析器、および静電質量分析器からなる群から選択される質量分析器を備える、質量分析計。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の質量分析計であって、前記第2質量分析器が、電気セクタ飛行時間型質量分析器、線形飛行時間型分析器、反射飛行時間型分析器、線形イオントラップ、四重極イオントラップ、四重極イオンフィルタ、磁気セクタ質量分析器、イオンサイクロトロン共鳴分析器、電気セクタ/磁気セクタ質量分析器、イオントラップ/線形飛行時間型質量分析器、イオントラップ/反射飛行時間型質量分析器、および静電質量分析器からなる群から選択される質量分析器を備える、質量分析計。
【請求項15】
前記第1質量分析器が、飛行時間型質量分析器であり、少なくとも1つの電気セクタを備える、請求項3〜12および請求項14のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項16】
前記第2質量分析器が、飛行時間型質量分析器であり、少なくとも1つの電気セクタを備える、請求項15に記載の質量分析計。
【請求項17】
前記質量分析器の少なくとも1つが、飛行時間型質量分析器であり、該飛行時間型質量分析器は、2つまたは4つの電気セクタおよび各該電気セクタを分離する無電界領域を備え、該電気セクタおよび該無電界領域は、その中にイオン飛行経路を規定する、請求項1〜16のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項18】
前記少なくともの1つ質量分析器が、飛行時間型質量分析器であり、該飛行時間型質量分析器は、4つの電気セクタおよび各該電気セクタを分離する無電界領域を備え、各該電気セクタは約270°の偏向角度を有し、該電気セクタおよび該無電界領域は、その中にイオン飛行経路を規定する、請求項17項に記載の質量分析計。
【請求項19】
前記電気セクタが、対称な配置で配置される、請求項17または請求項18に記載の質量分析計。
【請求項20】
前記質量分析器の少なくとも1つが、飛行時間型質量分析器であり、該飛行時間型質量分析器は、2つまたは4つの電気セクタおよび第1電気セクタの前、最終電気セクタの後、各該電気セクタの間の無電界領域を備え、該電気セクタおよび該無電界領域は、その中にイオン飛行経路を規定する、請求項17〜19のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項21】
アパーチャを有する少なくとも1つのヘルツォグシャントをさらに備える、請求項1〜20のいずれか1項に記載の質量分析器であって、ここで、各ヘルツォグシャントが、前記イオンが該アパーチャを掃引するように、電気セクタの入口または出口のいずれかと結合される、質量分析計。
【請求項22】
前記ヘルツォグシャントが、前記電気セクタを囲むハウジング内のアパーチャである、請求項21に記載の質量分析計。
【請求項23】
前記第1質量分析器および第2質量分析器の両方とイオン連絡するイオン選択手段をさらに備える、請求項1〜22のいずれか1項に記載の質量分析計であって、該イオン選択手段が、該第1質量分析器によって提供された複数のイオンの中からイオンを選択し得る、質量分析計。
【請求項24】
前記イオン選択手段が、複数の連続的イオンゲートを備える、請求項23に記載の質量分析計。
【請求項25】
前記第1質量分析器によって提供されるイオンを断片化するための手段をさらに備える、請求項1〜24のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項26】
イオンを断片化するための前記手段が、衝突セルである、請求項25に記載の質量分析計。
【請求項27】
少なくとも1つの電気セクタが、少なくとも1つの光学素子と結合する、請求項1〜26のいずれか1項に記載の質量分析計であって、各イオン光学素子が、該電気セクタに出入りするイオンに印加される電位を変更する、質量分析計。
【請求項28】
前記イオン光学素子が、アインツェルレンズを備える、請求項27に記載の質量分析計。
【請求項29】
前記イオン光学素子が、電気セクタに出入りするイオンに印加される電位を調節可能に変更し得る少なくとも1つの調節可能なトリム電極を備える、請求項27または請求項28に記載の質量分析計。
【請求項30】
前記イオン源が、レーザー脱離/イオン化手段を備える、請求項1〜29のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項31】
前記イオン源が、1つ以上の質量または質量範囲を選択的に提供する手段を備える、請求項1〜30のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項32】
前記イオン源が、選択された質量または質量範囲の断片を提供する手段をさらに備える、請求項31に記載の質量分析計。
【請求項33】
前記少なくとも1つの調節可能なトリム電極が、電気セクタの入口と出口との間に配置される、請求項29に記載の質量分析計。
【請求項34】
1対の調節可能なトリム電極を備える請求項29または請求項33に記載の質量分析計であって、該対の調節可能なトリム電極は、前記イオンが該対の調節可能なトリム電極間を掃引するように配置され、ここで、該対が電気セクタの入口または出口のいずれかと結合される、質量分析計。
【請求項35】
複数対の調節可能なトリム電極を備える請求項34に記載の質量分析計であって、各々の対は、前記イオンが該対の調節可能なトリム電極間を掃引するように配置され、ここで、1つの対が各電気セクタの各入口および各出口と結合される、質量分析計。
【請求項36】
少なくとも1つの質量分析器が、飛行時間型質量分析器であり、該飛行時間型質量分析器は、4つの電気セクタを備え、各電気セクタが約270°の偏向角度を有し、無電界領域が各電気セクタを分離する、請求項1〜35のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項37】
少なくとも1つの質量分析器が飛行時間型質量分析器である、請求項1〜36のいずれか1項に記載の質量分析計であって、該飛行時間型質量分析器は、複数の電気セクタおよび少なくとも1つの調節可能なトリム電極を備え、該少なくとも1つの調節可能なトリム電極が、第1および第2の対の調節可能なトリム電極を備え、各対が、イオンが該対の調節可能なトリム電極間を掃引するように配置され、ここで、該第1の対が、該イオン飛行経路の入口に最も近い電気セクタの入口に結合され、該第2の対が、該イオン飛行経路の出口に最も近い電気セクタの出口に結合される、質量分析計。
【請求項38】
少なくとも1つの質量分析器が飛行時間型質量分析器である、請求項37に記載の質量分析計であって、該飛行時間型質量分析器は、4つの電気セクタを備え、各電気セクタが約270°の偏向角度を有し、無電界領域が各電気セクタを分離する、質量分析計。
【請求項39】
前記イオン源がレーザー脱離/イオン化手段を備える、請求項38に記載の質量分析計。
【請求項40】
前記イオン源が、化学イオン化手段、電子衝撃イオン化手段、光イオン化手段、またはエレクトロスプレーイオン化手段を備える、請求項38に記載の質量分析計。
【請求項41】
前記イオン源が、1つ以上の質量または質量範囲のイオンを選択的に提供する手段を備える、請求項1〜40のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項42】
前記イオン源が四重極イオントラップを備える、請求項41に記載の質量分析計。
【請求項43】
前記イオン源が、パルス化イオンビームまたは連続イオンビームから、該ビームの方向に対し実質的に軸方向および該ビームの方向に対して実質的に直交方向からなる群から選択される方向で、イオン群を抽出するための手段を備える、請求項1〜42のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項44】
前記イオン源が、該イオン源からのイオンのパルスを加速する手段を備える、請求項1〜43のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項45】
イオンのパルスを加速する前記手段が、該イオンの形成後に電圧パルスを印加し得る電圧パルス化手段を備える、請求項44に記載の質量分析計。
【請求項46】
少なくとも1つの電気セクタが、少なくとも1つのイオン光学素子と結合する、請求項1〜45のいずれか1項に記載の質量分析計であって、該少なくとも1つのイオン光学素子は、電気セクタに出入りするイオンにより印加される電位を調節可能に変更し得る少なくとも1つのトリム電極を備え、そして該少なくとも1つのトリム電極の該電位を調節するように構成された制御システムをさらに備え、ここで、該調節は、電気セクタに出入りするイオンにより印加される該電位を調節可能に変更する、質量分析計。
【請求項47】
前記制御システムが、ソフトウェアプログラムを備える、請求項46に記載の質量分析計。
【請求項48】
タンデム質量分析計であって、以下:
イオン源;
第1質量分析器;
第2質量分析器;および
イオン検出器;
を備え、ここで、該第1質量分析器は、イオンをイオン飛行経路上の実質的に同時空間的配置に無収差収束および時間収束し得る、質量分析計。
【請求項49】
前記第1質量分析器と前記第2質量分析器との両方にイオン連絡するイオン選択手段をさらに備える、請求項48に記載の質量分析計であって、該イオン選択手段が、該第1質量分析器によって提供された複数のイオンの中からイオンを選択し得る、質量分析計。
【請求項50】
前記イオン選択手段が、前記第2質量分析器とイオン連絡するアパーチャおよび該アパーチャを横切ってイオンビームを掃引させる手段を備える、請求項49に記載の質量分析計。
【請求項51】
前記イオン偏向手段が、電界手段をさらに備える、請求項50に記載の質量分析計。
【請求項52】
前記第1質量分析後にイオンを断片化するためのイオン断片化手段をさらに備える、請求項48〜52のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項53】
前記第1質量分析器が、飛行時間型質量分析器である、請求項48〜52のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項54】
前記飛行時間型質量分析器が、少なくとも1つの電気セクタを備える、請求項53に記載の質量分析計。
【請求項55】
タンデム質量分析計であって、以下:
複数のイオンを提供するための手段;
第1質量分析を行うための手段;
第2質量分析を行うための手段;および
複数のイオンを検出するための手段;
を備え、ここで、該第1質量分析を行うための手段は、イオンをイオン飛行経路上の実質的に同時空間的配置に無収差収束および時間収束し得る、質量分析計。
【請求項56】
イオン選択手段をさらに備える、請求項55に記載の質量分析計であって、該イオン選択手段は、前記第1質量分析を行うための手段と前記第2質量分析を行うための手段との両方にイオン連絡して配置される、質量分析計。
【請求項57】
前記第1質量分析を行うための手段が、前記イオン選択手段と実質的に同時な位置における、前記同時イオン収束を可能にする、請求項56に記載の質量分析計。
【請求項58】
イオンを断片化するための手段をさらに備える、請求項55〜57のいずれか1項に記載の質量分析計であって、該イオンは、前記第1質量分析を行うための手段後に断片化される、質量分析計。
【請求項59】
前記第1質量分析を行うための手段が、前記イオンを断片化するための手段と実質的に同時な位置における、前記同時イオン収束を可能にする、請求項58に記載の質量分析計。
【請求項60】
タンデム質量分析を実施するための方法であって、該方法は、以下:
第1質量分析器を用いて、イオン源によって提供される複数のイオンの第1質量分析を行う工程;
第2質量分析器を用いて、該複数のイオンの少なくとも1つの部分集団の第2質量分析を行う工程;および
イオン検出器を用いて複数のイオンを検出する工程;
を包含し、ここで、該質量分析器の少なくとも1つは、少なくとも1つの電気セクタを有する飛行時間型質量分析器を備える、方法。
【請求項61】
前記電気セクタ飛行時間型質量分析器が、少なくとも1つの無電界領域をさらに備え、ここで前記少なくとも1つの電気セクタおよび該少なくとも1つの無電界領域が、イオン飛行経路を規定する、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記電気セクタ飛行時間型質量分析器が、前記第1質量分析器である、請求項60または請求項61に記載の方法。
【請求項63】
タンデム質量分析を実施するための方法であって、該方法は、以下:
第1質量分析器を用いて、少なくともイオン源によって提供された複数のイオンを無収差かつ時間的に収束する工程であって、ここで、該イオンは、イオン飛行経路上の実質的な同時空間位置に無収差かつ時間的に収束される、工程;
第2質量分析計を用いて、該収束されたイオンの少なくとも1つの部分集団の第2質量分析を行う工程;および
イオン検出器を用いて複数のイオンを検出する工程;
を包含する、方法。
【請求項67】
タンデム質量分析計を調整するための方法であって、該方法は、以下:
a)請求項29に記載のタンデム質量分析計により、第1設定でのイオン検出の解像度または感度を、
i)少なくとも1つの調節可能なトリム電極に電位を印加し、
ii)イオンの第1質量スペクトルをイオン源から取得し、そして
iii)検出の解像度または感度を該第1質量スペクトルから決定することにより、
決定する工程;
b)第2設定でのイオン検出の解像度または感度を、
i)少なくとも1個の調節可能なトリム電極に印加した該電位を調節し、
ii)イオンの第2質量スペクトルを該イオン源から取得し、そして
iii)検出の解像度または感度を該第2質量スペクトルから決定することにより、
決定する工程;および
c)イオン検出の解像度または感度が、該第2設定で改善したかまたは低下したかを決定する工程;
を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図12−3】
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【図12−4】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2006−500757(P2006−500757A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501972(P2005−501972)
【出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2003/029950
【国際公開番号】WO2004/030025
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(501497253)サイファージェン バイオシステムズ インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】