電気ニッケルめっき液およびめっき方法
【課題】素体の浸食や、絶縁不良の発生を抑制することができ、めっきされる部分にのみ効率よくニッケルめっきを施すことができるめっき液およびめっき方法を提供する。
【解決手段】本実施形態に係るめっき液は、セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、ニッケルイオンと、0.3mol/L以下のアンモニウムイオンとを含み、pHが5より高く7未満であり、アルカリ金属のイオン濃度が0.03mol/L以下であることを特徴とする。
【解決手段】本実施形態に係るめっき液は、セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、ニッケルイオンと、0.3mol/L以下のアンモニウムイオンとを含み、pHが5より高く7未満であり、アルカリ金属のイオン濃度が0.03mol/L以下であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品に好適に使用される電気ニッケルめっき液およびこのめっき液を用いるめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタやそれらの複合体からなるセラミック電子部品の製造において、Niの電気めっきが用いられている。例えば、内部電極を備えるセラミック電子部品の表面に、銀、銅等の導電ペーストを塗布して焼成して下地電極を形成した後に、この下地電極表面に選択的に電気バレルめっきでNi層およびSn層からなる端子電極が形成されている。
【0003】
このNi層の電気めっきには、従来から例えばワット浴や塩化物浴が用いられている。ワット浴とは、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分とし、水酸化ナトリウム(NaOH)によりpHが4〜5に調整されためっき液であり、40〜60℃の温度で使用されるものである。塩化物浴とは、塩化ニッケル、ホウ酸、硫酸ナトリウムを主成分とし、水酸化ナトリウムによりpHが4〜5に調整されためっき液であり、40から60℃の温度で使用されるものである。
【0004】
従来、バリスタ、サーミスタなどの半導体部品は耐薬品性が乏しく、ワット浴や塩化物浴に代表されるニッケルのめっき液により素体が大きく浸食(エッチング)されてしまうという問題があった。また、LTCC、チップコンデンサでも近年の小型化、高性能化に伴い、素体の耐薬品性が乏しくなり、同様の問題が発生するようになっている。そこで、特許文献1に示すように、めっき液中にキレート剤を添加してpHを例えば4〜9にして素体の浸食を抑制する方法が取られている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−193285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のめっき液を用いた場合においても、例えばコンデンサ等のセラミック電子部品では、絶縁不良が発生するという問題があった。これは、キレート剤及びめっき液の特定の成分が下地電極のフリット(ガラス成分)を溶解し、めっき液が下地電極を通って内部電極の露出している素体に達して内部電極の間の素体を溶解し、内部電極と素体との間で発生している熱応力を開放してクラックが発生することによるものと考えられる。
【0007】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、素体の浸食や、絶縁不良の発生を抑制することができる電気ニッケルめっき液およびめっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の電気ニッケルめっき液は、セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、ニッケルイオンと、0.3mol/L以下のアンモニウムイオンとを含み、pHが5より高く7未満である。アルカリ金属のイオン濃度が0.03mol/L以下であることを特徴とする。
【0009】
上記構成の本発明では、アルカリ金属のイオン濃度が0.03mol/L以下に抑えられていることから、絶縁不良や素体のエッチングが抑制される。また、pHを5より高く7未満に調整することにより、めっき液による素体の劣化を抑制することができる。pHが5未満の場合はめっき液による素体のエッチングが顕著であり、またpH7未満にするとキレート剤を添加することなくめっき液を構成することが出来る。さらに、アンモニウムイオンの濃度が0.3mol/L以下と低くすることにより、絶縁不良や、素体の浸食を抑制することができる。
【0010】
アンモニウムイオンの濃度は、好ましくは0.01mol/L以上である。これにより、素体の浸食がさらに抑制される。
【0011】
硫酸イオンはできるだけ含まないことが好ましく、その濃度は0.01mol/L以下であることが好ましい。これにより、素体の浸食がさらに抑制される。例えば、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケル以外のものを用いることが好ましく、例えば塩化ニッケルが好適に用いられる。
【0012】
アンモニア以外のキレート剤はできるだけ含まないことが好ましく、その濃度が0.05mol/L以下であることが好ましい。これにより、下地電極のフリットの溶解が抑制され、めっき後の絶縁不良が削減される。
【0013】
ニッケルイオンの濃度が1mol/L以下、0.1mol/L以上であることが好ましい。キレート剤を基本的に含まないでpHを5〜7にするためには、上記のようにNiイオン濃度が低いことが好ましい。
【0014】
本発明は、Znを含有する素体を備えるセラミック電子部品に適用される場合、効果が顕著である。Znを含む素体は、素体の耐薬品性が乏しいため、従来のめっき液による処理では素体の腐食が大きく、絶縁不良などの不具合が生じる場合があるが、本発明により、不具合を抑制することができる。
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明の電気ニッケルめっき液は、セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、塩化ニッケルと、ホウ酸と、アンモニアとを含み、pHが5より高く7未満である。
【0016】
上記構成によれば、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケルではなく塩化ニッケルを用いることにより、素体の浸食が抑制される。また、pHの調整のために水酸化ナトリウムではなくアンモニアを用いることにより、アルカリ金属のイオンの存在に起因する絶縁不良や素体の浸食が抑制される。ホウ酸は、pHの変動を抑制する緩衝剤として用いられる。
【0017】
本発明に係るめっき方法は、上述した電気ニッケルめっき液で、セラミック電子部品にニッケルを電気めっきするものである。これにより、めっき液による素体の腐食や、絶縁不良の発生が抑制される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のめっき液およびめっき方法によれば、ニッケルイオンと、所定の濃度のアンモニウムイオンを含むめっき液を用い、かつ、めっき液中のアルカリ金属等のイオン濃度を所定の濃度以下に抑制することにより、めっき液による素体の腐食や、絶縁不良の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0020】
<セラミック電子部品の例>
図1は、本発明による電気めっき処理の対象となるセラミック電子部品の一例を示す斜視図である。図2は、図1のII−II線における断面図である。
【0021】
セラミック電子部品1は、セラミックスからなる素体2と、素体2内に形成された複数の内部電極3とを含む積層体4を有し、換言すれば、素体2と内部電極3が積層された単位構造10を少なくとも1つ備えたものである。より具体的には、積層体4の一方の側面に露出した端部を有する内部電極3と、積層体4の他方の側面に露出した端部を有する内部電極3とが交互に積層されている。積層体4の両側面には、それらの側面を覆うように下地電極5,5が設けられており、各下地電極5は、積層体4の一方の側面から露出した内部電極3の群、あるいは積層体4の他方の面から露出した内部電極3の群に電気的に接続されている。
【0022】
セラミック電子部品1の素体2はセラミックス、具体的には、半導体セラミックス又は誘電体セラミックスからなる。半導体セラミックス、誘電体セラミックスのいずれの場合にも、素体2にはZnが含まれることがある。半導体セラミックスでは、バリスタ、サーミスタなどの主成分として、また、誘電体では、焼結助剤としてZnが好ましく用いられる。特に後者では、LTCCの小型化に伴い薄層化が進み、このためにさらに焼結温度が低下しており、使用例が増えている。
【0023】
内部電極3には、素体2との間での確実なオーミック接触を可能とする点から、例えば、Ag、Pd、Ni、Cu、またはAlを主成分とする材料が用いられるが、特に材料に限定はない。
【0024】
下地電極5は、例えば、積層体4の側面への導電性ペーストの塗布および焼成により得られる。下地電極5を形成するための導電性ペーストとしては、主として、ガラス粉末(フリット)と、有機ビヒクル(バインダー)と、金属粉末とを含むものが挙げられ、導電性ペーストの焼成により、有機ビヒクルは揮散し、最終的にガラス成分および金属成分を含む下地電極5が形成される。なお、導電性ペーストには、必要に応じて、粘度調整剤、無機結合剤、酸化剤等種々の添加剤を加えてもよい。例えば、下地電極5は、金属成分としてAg、Cu、および、Znを含む。
【0025】
図3に示すように、セラミック電子部品1の下地電極5,5の表面に、さらに、電気めっきにより端子電極7,7が形成される。これらの端子電極7,7と、例えば、配線基板上の電極とがはんだ等により接合される。各端子電極7は、例えば、下地電極5側から積層形成されたNi層7aおよびSn層7bを含む2層構造を有する。Ni層7aは、Sn層7bと下地電極5との接触を防止して、Snによる下地電極5の腐食を防止するバリアメタルとして機能するものであり、その厚さは例えば2μm程度である。また、Sn層7bは、はんだの濡れ性を向上させる機能を有するものであり、その厚さは例えば4μm程度とされる。
【0026】
<めっき液>
本実施形態に係るめっき液およびめっき方法は、上述したNi層7aのようなセラミック電子部品の電極の形成に好適に用いられる。以下、本実施形態に係るめっき液およびめっき方法について説明する。
【0027】
本実施形態の電気ニッケルめっき液は、ニッケルイオンと、0.3mol/L以下のアンモニウムイオンとを含み、pHが5より高く7未満である。
【0028】
このうち、ニッケルイオンの濃度は1mol/L以下、0.1mol/L以上であることが好ましい。キレート剤を基本的に含まないでpHを5〜7にするためには、上記のようにNiイオン濃度が低いことが好ましい。
【0029】
アンモニウムイオンの濃度が0.3mol/L以下と低くしたのは、絶縁不良や、素体の浸食を抑制するためである。アンモニウムイオンは、塩化アンモニウムのような導電性塩、クエン酸アンモニウムのようなキレート剤、アンモニア、TMAHのようなpH調整剤に含まれる。ただし、アンモニウムイオンを完全に含まないよりは、これらのイオン濃度が0.01mol/L以上であることが好ましい。これにより、素体の浸食が抑制されることが以下の実施例で見出されているからである。
【0030】
また、pHを5より高く7未満に調整することにより、めっき中の素体の腐食を抑制できる。
【0031】
また、めっき液による素体の腐食を小さくするには、めっき液の温度はできるだけ低いことが好ましく、例えば室温で使用される。
【0032】
本実施形態に係るめっき液中への不要な成分として、アルカリ金属のイオンが挙げられる。アルカリ金属のイオンはできるだけ含まないことが好ましく、イオン濃度が0.03mol/L以下であることが好ましい。これにより、絶縁不良や素体のエッチングが抑制される。
【0033】
アルカリ金属イオンは、硫酸ナトリウムのような導電性塩、クエン酸ナトリウムのようなキレート剤、水酸化ナトリウムのようなpH調整剤に含まれることから、本実施形態に係るめっき液にはできるだけこれらの成分を使用しないことが好ましい。
【0034】
また、めっき液中には硫酸イオンはできるだけ含まないことが好ましく、その濃度は0.01mol/L以下であることが好ましい。これにより、素体の浸食がさらに抑制される。例えば、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケル以外のものを用いることが好ましく、例えば塩化ニッケルが好適に用いられる。
【0035】
さらに、めっき液中にはアンモニア以外のキレート剤はできるだけ含まないことが好ましく、その濃度が0.05mol/L以下であることが好ましい。これにより、下地電極のフリットの溶解が抑制され、めっき後の絶縁不良が削減される。
【0036】
上述した条件を満たす電気ニッケルめっき液の一例は、塩化ニッケルと、ホウ酸と、アンモニアとを含み、pHが5より高く7未満に調整されためっき液が挙げられる。このように、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケルではなく塩化ニッケルを用いることにより、素体の浸食が抑制される。また、pHの調整のために水酸化ナトリウムではなくアンモニアを用いることにより、アルカリ金属のイオンの存在に起因する絶縁不良や素体の浸食が抑制される。ホウ酸は、pHの変動を抑制する緩衝剤として用いられる。
【0037】
本実施形態に係るめっき液には、必要に応じて光沢剤や界面活性剤などの公知の添加剤を含んでいてもよいが、これらの場合においても、上述した条件を満たすように添加剤の種類を選択し、またその量を調整することが好ましい。
【0038】
本実施形態に係るめっき方法は、上述した電気ニッケルめっき液で、セラミック電子部品にニッケルを電気めっきするものである。めっき方法として、例えばバレルめっきを用いることができる。必要に応じて空気攪拌、カソード遥動、ポンプなどによるめっき液の流動の方法で攪拌することができる。
【0039】
めっき条件としては、公知の条件を用いることができる。陽極としては、ニッケル金属が通常使用されるが、場合によっては白金めっきをしたチタン板などの不溶性電極も使用できる。浴温度は、好ましくは10℃〜30℃である。陰極電流密度や、めっき時間等のめっき条件は、要求されるニッケル層の膜厚等に応じて当業者の適宜決定できる事項である。本実施形態に係るめっき方法によれば、めっき液による素体の腐食や、絶縁不良の発生が抑制される。
【0040】
本実施形態に係るめっき液およびめっき方法は、Znを含有する素体を備えるセラミック電子部品に好ましく用いることができる。Znを含む場合には、素体の耐薬品性が乏しくなることから、本実施形態に係るめっき液の効果が一層顕著になるからである。
【0041】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
チタン酸ストロンチウムを主組成とし、ZnOを2%含む素体で作成した1608サイズのコンデンサチップ1000個を、300mLの容量をもつバレルめっき装置でめっきを行った。メディアとしてΦ1.2のスチールメディアを80mL添加し、バレルの回転数20rpmで電流値1.5Aで室温で1時間めっきを行った。めっき液の組成は下記表1の実験番号1のとおりである。主組成は塩化ニッケル、ホウ酸であり、アンモニアでpH調整を行っている。めっき後のチップを10個抜き取り、SEMの断面観察より素体表面の腐蝕層の厚さを評価すると平均で0.7μmであった。まためっき後のチップを100個抜き取り絶縁抵抗を測定すると、絶縁不良(IR不良)の数は0/100であった。
【0043】
次にこのめっき液に硫酸ナトリウムを添加して上記と同じ評価を行った(実験番号2〜11)。硫酸ナトリウム量の増加とともに絶縁不良、腐蝕距離が増加していることがわかる。Naイオン濃度と絶縁不良、腐蝕距離の関係を図4、5に示す。Naイオン濃度が0.03mol/Lを超えたところで絶縁不良、腐蝕距離共に増加していることがわかる。
【0044】
絶縁不良チップの断面を解析すると電極間にクラックが発生していることが確認された。またクラックの部分から劈開して電極表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で解析した結果を図6に示す。図6には、クラックが発生した部分(Crack area)と、クラックの発生していない部分(Flesh area)における解析結果を上下に併記してある。図6に示す結果から、クラックの原因はめっき液中のナトリウムイオンがめっき中に端子電極の周辺に移動して高アルカリ領域を形成し、この液が下地電極のボイドを通って内部電極が露出している素体面に達し、素体を溶解して、内部電極と素体の間に発生している熱応力を解放してクラックが発生すると考えられる。
【0045】
【表1】
【実施例2】
【0046】
次に実験番号1のめっき液に塩化アンモニウムを添加して実施例1と同じ評価を行った(実験番号13〜18)。なお、実験番号12のめっき液は、実験番号1のめっき液と同じものである。塩化アンモニウム量の増加とともに絶縁不良、腐蝕距離が増加していることがわかる。アンモニウムイオン濃度と絶縁不良、腐蝕距離の関係を図7、8に示す。アンモニウムイオン濃度が0.3mol/Lを超えたところで絶縁不良、腐蝕距離共に増加していることがわかる。
【実施例3】
【0047】
次に実験番号1のめっき液にキレート剤としてクエン酸アンモニウムを添加して実施例1と同じ評価を行った(実験番号20〜24)。なお、実験番号19のめっき液は、実験番号1のめっき液と同じものである。クエン酸アンモニウム量の増加とともに絶縁不良、腐蝕距離が増加していることが解る。キレートイオン濃度と絶縁不良、腐蝕距離の関係を図9,10に示す。キレートイオン濃度が0.05moL/Lを超えたところで絶縁不良が増加していることがわかる。
【実施例4】
【0048】
実施例1のpH調整を炭酸Niで行い、アルカリメタルを含まないめっき液を作成し、実施例1と同じ評価を行った(実験番号25)。この場合絶縁不良は発生しないが、腐食距離は増加している。微量のアンモニウムイオンがあるほうが素体の腐蝕が小さいことが解る。
【実施例5】
【0049】
次に実験番号1のめっき液に硫酸Niを添加して実施例1と同じ評価を行った(実験番号27〜30)。なお、実験番号26のめっき液は、実験番号1のめっき液と同じものである。ここでめっき液中のNiイオン濃度が不変になるように塩化Ni量を調整している。硫酸Ni量の増加とともに腐蝕距離が増加していることがわかる。硫酸イオン濃度と腐蝕距離の関係を図11に示す。硫酸イオン濃度が0.1moL/Lを超えたところで腐蝕距離が増加していることがわかる。
【0050】
上述した実施例1〜5に示すように、めっき液中に素体及び電極のフリット(ガラス成分)の溶解を促進するカチオン(アルカリ金属、アンモニウムイオン)、アニオン(硫酸イオン)、及びキレート剤をほとんど含まないので、めっき後の素体の浸食が小さく、絶縁不良の発生を大幅に低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタ、それらの複合部品からなるセラミック電子部品のめっき処理に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】セラミック電子部品の概略構造を示す斜視図である。
【図2】図1のII-II線の断面図である。
【図3】セラミック電子部品の下地電極の外側にめっきにより端子電極が形成された構造を示す概略断面図である。
【図4】めっき液中のNaイオン濃度と絶縁(IR)不良との関係を示す図である。
【図5】めっき液中のNaイオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【図6】クラックの部分から劈開して電極表面をTOFSIMSで解析した結果を示す図である。
【図7】めっき液中のアンモニウムイオン濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図8】めっき液中のアンモニウムイオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【図9】めっき液中のキレート剤濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図10】めっき液中のキレート剤濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図11】めっき液中の硫酸イオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1,9…セラミック電子部品、2…素体、3…内部電極、4…積層体(焼結体)、5…下地電極、7…端子電極、7a…Ni層、7b…Sn層、10…単位構造。
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品に好適に使用される電気ニッケルめっき液およびこのめっき液を用いるめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタやそれらの複合体からなるセラミック電子部品の製造において、Niの電気めっきが用いられている。例えば、内部電極を備えるセラミック電子部品の表面に、銀、銅等の導電ペーストを塗布して焼成して下地電極を形成した後に、この下地電極表面に選択的に電気バレルめっきでNi層およびSn層からなる端子電極が形成されている。
【0003】
このNi層の電気めっきには、従来から例えばワット浴や塩化物浴が用いられている。ワット浴とは、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分とし、水酸化ナトリウム(NaOH)によりpHが4〜5に調整されためっき液であり、40〜60℃の温度で使用されるものである。塩化物浴とは、塩化ニッケル、ホウ酸、硫酸ナトリウムを主成分とし、水酸化ナトリウムによりpHが4〜5に調整されためっき液であり、40から60℃の温度で使用されるものである。
【0004】
従来、バリスタ、サーミスタなどの半導体部品は耐薬品性が乏しく、ワット浴や塩化物浴に代表されるニッケルのめっき液により素体が大きく浸食(エッチング)されてしまうという問題があった。また、LTCC、チップコンデンサでも近年の小型化、高性能化に伴い、素体の耐薬品性が乏しくなり、同様の問題が発生するようになっている。そこで、特許文献1に示すように、めっき液中にキレート剤を添加してpHを例えば4〜9にして素体の浸食を抑制する方法が取られている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−193285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のめっき液を用いた場合においても、例えばコンデンサ等のセラミック電子部品では、絶縁不良が発生するという問題があった。これは、キレート剤及びめっき液の特定の成分が下地電極のフリット(ガラス成分)を溶解し、めっき液が下地電極を通って内部電極の露出している素体に達して内部電極の間の素体を溶解し、内部電極と素体との間で発生している熱応力を開放してクラックが発生することによるものと考えられる。
【0007】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、素体の浸食や、絶縁不良の発生を抑制することができる電気ニッケルめっき液およびめっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の電気ニッケルめっき液は、セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、ニッケルイオンと、0.3mol/L以下のアンモニウムイオンとを含み、pHが5より高く7未満である。アルカリ金属のイオン濃度が0.03mol/L以下であることを特徴とする。
【0009】
上記構成の本発明では、アルカリ金属のイオン濃度が0.03mol/L以下に抑えられていることから、絶縁不良や素体のエッチングが抑制される。また、pHを5より高く7未満に調整することにより、めっき液による素体の劣化を抑制することができる。pHが5未満の場合はめっき液による素体のエッチングが顕著であり、またpH7未満にするとキレート剤を添加することなくめっき液を構成することが出来る。さらに、アンモニウムイオンの濃度が0.3mol/L以下と低くすることにより、絶縁不良や、素体の浸食を抑制することができる。
【0010】
アンモニウムイオンの濃度は、好ましくは0.01mol/L以上である。これにより、素体の浸食がさらに抑制される。
【0011】
硫酸イオンはできるだけ含まないことが好ましく、その濃度は0.01mol/L以下であることが好ましい。これにより、素体の浸食がさらに抑制される。例えば、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケル以外のものを用いることが好ましく、例えば塩化ニッケルが好適に用いられる。
【0012】
アンモニア以外のキレート剤はできるだけ含まないことが好ましく、その濃度が0.05mol/L以下であることが好ましい。これにより、下地電極のフリットの溶解が抑制され、めっき後の絶縁不良が削減される。
【0013】
ニッケルイオンの濃度が1mol/L以下、0.1mol/L以上であることが好ましい。キレート剤を基本的に含まないでpHを5〜7にするためには、上記のようにNiイオン濃度が低いことが好ましい。
【0014】
本発明は、Znを含有する素体を備えるセラミック電子部品に適用される場合、効果が顕著である。Znを含む素体は、素体の耐薬品性が乏しいため、従来のめっき液による処理では素体の腐食が大きく、絶縁不良などの不具合が生じる場合があるが、本発明により、不具合を抑制することができる。
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明の電気ニッケルめっき液は、セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、塩化ニッケルと、ホウ酸と、アンモニアとを含み、pHが5より高く7未満である。
【0016】
上記構成によれば、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケルではなく塩化ニッケルを用いることにより、素体の浸食が抑制される。また、pHの調整のために水酸化ナトリウムではなくアンモニアを用いることにより、アルカリ金属のイオンの存在に起因する絶縁不良や素体の浸食が抑制される。ホウ酸は、pHの変動を抑制する緩衝剤として用いられる。
【0017】
本発明に係るめっき方法は、上述した電気ニッケルめっき液で、セラミック電子部品にニッケルを電気めっきするものである。これにより、めっき液による素体の腐食や、絶縁不良の発生が抑制される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のめっき液およびめっき方法によれば、ニッケルイオンと、所定の濃度のアンモニウムイオンを含むめっき液を用い、かつ、めっき液中のアルカリ金属等のイオン濃度を所定の濃度以下に抑制することにより、めっき液による素体の腐食や、絶縁不良の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0020】
<セラミック電子部品の例>
図1は、本発明による電気めっき処理の対象となるセラミック電子部品の一例を示す斜視図である。図2は、図1のII−II線における断面図である。
【0021】
セラミック電子部品1は、セラミックスからなる素体2と、素体2内に形成された複数の内部電極3とを含む積層体4を有し、換言すれば、素体2と内部電極3が積層された単位構造10を少なくとも1つ備えたものである。より具体的には、積層体4の一方の側面に露出した端部を有する内部電極3と、積層体4の他方の側面に露出した端部を有する内部電極3とが交互に積層されている。積層体4の両側面には、それらの側面を覆うように下地電極5,5が設けられており、各下地電極5は、積層体4の一方の側面から露出した内部電極3の群、あるいは積層体4の他方の面から露出した内部電極3の群に電気的に接続されている。
【0022】
セラミック電子部品1の素体2はセラミックス、具体的には、半導体セラミックス又は誘電体セラミックスからなる。半導体セラミックス、誘電体セラミックスのいずれの場合にも、素体2にはZnが含まれることがある。半導体セラミックスでは、バリスタ、サーミスタなどの主成分として、また、誘電体では、焼結助剤としてZnが好ましく用いられる。特に後者では、LTCCの小型化に伴い薄層化が進み、このためにさらに焼結温度が低下しており、使用例が増えている。
【0023】
内部電極3には、素体2との間での確実なオーミック接触を可能とする点から、例えば、Ag、Pd、Ni、Cu、またはAlを主成分とする材料が用いられるが、特に材料に限定はない。
【0024】
下地電極5は、例えば、積層体4の側面への導電性ペーストの塗布および焼成により得られる。下地電極5を形成するための導電性ペーストとしては、主として、ガラス粉末(フリット)と、有機ビヒクル(バインダー)と、金属粉末とを含むものが挙げられ、導電性ペーストの焼成により、有機ビヒクルは揮散し、最終的にガラス成分および金属成分を含む下地電極5が形成される。なお、導電性ペーストには、必要に応じて、粘度調整剤、無機結合剤、酸化剤等種々の添加剤を加えてもよい。例えば、下地電極5は、金属成分としてAg、Cu、および、Znを含む。
【0025】
図3に示すように、セラミック電子部品1の下地電極5,5の表面に、さらに、電気めっきにより端子電極7,7が形成される。これらの端子電極7,7と、例えば、配線基板上の電極とがはんだ等により接合される。各端子電極7は、例えば、下地電極5側から積層形成されたNi層7aおよびSn層7bを含む2層構造を有する。Ni層7aは、Sn層7bと下地電極5との接触を防止して、Snによる下地電極5の腐食を防止するバリアメタルとして機能するものであり、その厚さは例えば2μm程度である。また、Sn層7bは、はんだの濡れ性を向上させる機能を有するものであり、その厚さは例えば4μm程度とされる。
【0026】
<めっき液>
本実施形態に係るめっき液およびめっき方法は、上述したNi層7aのようなセラミック電子部品の電極の形成に好適に用いられる。以下、本実施形態に係るめっき液およびめっき方法について説明する。
【0027】
本実施形態の電気ニッケルめっき液は、ニッケルイオンと、0.3mol/L以下のアンモニウムイオンとを含み、pHが5より高く7未満である。
【0028】
このうち、ニッケルイオンの濃度は1mol/L以下、0.1mol/L以上であることが好ましい。キレート剤を基本的に含まないでpHを5〜7にするためには、上記のようにNiイオン濃度が低いことが好ましい。
【0029】
アンモニウムイオンの濃度が0.3mol/L以下と低くしたのは、絶縁不良や、素体の浸食を抑制するためである。アンモニウムイオンは、塩化アンモニウムのような導電性塩、クエン酸アンモニウムのようなキレート剤、アンモニア、TMAHのようなpH調整剤に含まれる。ただし、アンモニウムイオンを完全に含まないよりは、これらのイオン濃度が0.01mol/L以上であることが好ましい。これにより、素体の浸食が抑制されることが以下の実施例で見出されているからである。
【0030】
また、pHを5より高く7未満に調整することにより、めっき中の素体の腐食を抑制できる。
【0031】
また、めっき液による素体の腐食を小さくするには、めっき液の温度はできるだけ低いことが好ましく、例えば室温で使用される。
【0032】
本実施形態に係るめっき液中への不要な成分として、アルカリ金属のイオンが挙げられる。アルカリ金属のイオンはできるだけ含まないことが好ましく、イオン濃度が0.03mol/L以下であることが好ましい。これにより、絶縁不良や素体のエッチングが抑制される。
【0033】
アルカリ金属イオンは、硫酸ナトリウムのような導電性塩、クエン酸ナトリウムのようなキレート剤、水酸化ナトリウムのようなpH調整剤に含まれることから、本実施形態に係るめっき液にはできるだけこれらの成分を使用しないことが好ましい。
【0034】
また、めっき液中には硫酸イオンはできるだけ含まないことが好ましく、その濃度は0.01mol/L以下であることが好ましい。これにより、素体の浸食がさらに抑制される。例えば、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケル以外のものを用いることが好ましく、例えば塩化ニッケルが好適に用いられる。
【0035】
さらに、めっき液中にはアンモニア以外のキレート剤はできるだけ含まないことが好ましく、その濃度が0.05mol/L以下であることが好ましい。これにより、下地電極のフリットの溶解が抑制され、めっき後の絶縁不良が削減される。
【0036】
上述した条件を満たす電気ニッケルめっき液の一例は、塩化ニッケルと、ホウ酸と、アンモニアとを含み、pHが5より高く7未満に調整されためっき液が挙げられる。このように、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケルではなく塩化ニッケルを用いることにより、素体の浸食が抑制される。また、pHの調整のために水酸化ナトリウムではなくアンモニアを用いることにより、アルカリ金属のイオンの存在に起因する絶縁不良や素体の浸食が抑制される。ホウ酸は、pHの変動を抑制する緩衝剤として用いられる。
【0037】
本実施形態に係るめっき液には、必要に応じて光沢剤や界面活性剤などの公知の添加剤を含んでいてもよいが、これらの場合においても、上述した条件を満たすように添加剤の種類を選択し、またその量を調整することが好ましい。
【0038】
本実施形態に係るめっき方法は、上述した電気ニッケルめっき液で、セラミック電子部品にニッケルを電気めっきするものである。めっき方法として、例えばバレルめっきを用いることができる。必要に応じて空気攪拌、カソード遥動、ポンプなどによるめっき液の流動の方法で攪拌することができる。
【0039】
めっき条件としては、公知の条件を用いることができる。陽極としては、ニッケル金属が通常使用されるが、場合によっては白金めっきをしたチタン板などの不溶性電極も使用できる。浴温度は、好ましくは10℃〜30℃である。陰極電流密度や、めっき時間等のめっき条件は、要求されるニッケル層の膜厚等に応じて当業者の適宜決定できる事項である。本実施形態に係るめっき方法によれば、めっき液による素体の腐食や、絶縁不良の発生が抑制される。
【0040】
本実施形態に係るめっき液およびめっき方法は、Znを含有する素体を備えるセラミック電子部品に好ましく用いることができる。Znを含む場合には、素体の耐薬品性が乏しくなることから、本実施形態に係るめっき液の効果が一層顕著になるからである。
【0041】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
チタン酸ストロンチウムを主組成とし、ZnOを2%含む素体で作成した1608サイズのコンデンサチップ1000個を、300mLの容量をもつバレルめっき装置でめっきを行った。メディアとしてΦ1.2のスチールメディアを80mL添加し、バレルの回転数20rpmで電流値1.5Aで室温で1時間めっきを行った。めっき液の組成は下記表1の実験番号1のとおりである。主組成は塩化ニッケル、ホウ酸であり、アンモニアでpH調整を行っている。めっき後のチップを10個抜き取り、SEMの断面観察より素体表面の腐蝕層の厚さを評価すると平均で0.7μmであった。まためっき後のチップを100個抜き取り絶縁抵抗を測定すると、絶縁不良(IR不良)の数は0/100であった。
【0043】
次にこのめっき液に硫酸ナトリウムを添加して上記と同じ評価を行った(実験番号2〜11)。硫酸ナトリウム量の増加とともに絶縁不良、腐蝕距離が増加していることがわかる。Naイオン濃度と絶縁不良、腐蝕距離の関係を図4、5に示す。Naイオン濃度が0.03mol/Lを超えたところで絶縁不良、腐蝕距離共に増加していることがわかる。
【0044】
絶縁不良チップの断面を解析すると電極間にクラックが発生していることが確認された。またクラックの部分から劈開して電極表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で解析した結果を図6に示す。図6には、クラックが発生した部分(Crack area)と、クラックの発生していない部分(Flesh area)における解析結果を上下に併記してある。図6に示す結果から、クラックの原因はめっき液中のナトリウムイオンがめっき中に端子電極の周辺に移動して高アルカリ領域を形成し、この液が下地電極のボイドを通って内部電極が露出している素体面に達し、素体を溶解して、内部電極と素体の間に発生している熱応力を解放してクラックが発生すると考えられる。
【0045】
【表1】
【実施例2】
【0046】
次に実験番号1のめっき液に塩化アンモニウムを添加して実施例1と同じ評価を行った(実験番号13〜18)。なお、実験番号12のめっき液は、実験番号1のめっき液と同じものである。塩化アンモニウム量の増加とともに絶縁不良、腐蝕距離が増加していることがわかる。アンモニウムイオン濃度と絶縁不良、腐蝕距離の関係を図7、8に示す。アンモニウムイオン濃度が0.3mol/Lを超えたところで絶縁不良、腐蝕距離共に増加していることがわかる。
【実施例3】
【0047】
次に実験番号1のめっき液にキレート剤としてクエン酸アンモニウムを添加して実施例1と同じ評価を行った(実験番号20〜24)。なお、実験番号19のめっき液は、実験番号1のめっき液と同じものである。クエン酸アンモニウム量の増加とともに絶縁不良、腐蝕距離が増加していることが解る。キレートイオン濃度と絶縁不良、腐蝕距離の関係を図9,10に示す。キレートイオン濃度が0.05moL/Lを超えたところで絶縁不良が増加していることがわかる。
【実施例4】
【0048】
実施例1のpH調整を炭酸Niで行い、アルカリメタルを含まないめっき液を作成し、実施例1と同じ評価を行った(実験番号25)。この場合絶縁不良は発生しないが、腐食距離は増加している。微量のアンモニウムイオンがあるほうが素体の腐蝕が小さいことが解る。
【実施例5】
【0049】
次に実験番号1のめっき液に硫酸Niを添加して実施例1と同じ評価を行った(実験番号27〜30)。なお、実験番号26のめっき液は、実験番号1のめっき液と同じものである。ここでめっき液中のNiイオン濃度が不変になるように塩化Ni量を調整している。硫酸Ni量の増加とともに腐蝕距離が増加していることがわかる。硫酸イオン濃度と腐蝕距離の関係を図11に示す。硫酸イオン濃度が0.1moL/Lを超えたところで腐蝕距離が増加していることがわかる。
【0050】
上述した実施例1〜5に示すように、めっき液中に素体及び電極のフリット(ガラス成分)の溶解を促進するカチオン(アルカリ金属、アンモニウムイオン)、アニオン(硫酸イオン)、及びキレート剤をほとんど含まないので、めっき後の素体の浸食が小さく、絶縁不良の発生を大幅に低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタ、それらの複合部品からなるセラミック電子部品のめっき処理に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】セラミック電子部品の概略構造を示す斜視図である。
【図2】図1のII-II線の断面図である。
【図3】セラミック電子部品の下地電極の外側にめっきにより端子電極が形成された構造を示す概略断面図である。
【図4】めっき液中のNaイオン濃度と絶縁(IR)不良との関係を示す図である。
【図5】めっき液中のNaイオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【図6】クラックの部分から劈開して電極表面をTOFSIMSで解析した結果を示す図である。
【図7】めっき液中のアンモニウムイオン濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図8】めっき液中のアンモニウムイオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【図9】めっき液中のキレート剤濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図10】めっき液中のキレート剤濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図11】めっき液中の硫酸イオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1,9…セラミック電子部品、2…素体、3…内部電極、4…積層体(焼結体)、5…下地電極、7…端子電極、7a…Ni層、7b…Sn層、10…単位構造。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、
ニッケルイオンと、
0.3mol/L以下のアンモニウムイオンとを含み、
pHが5より高く7未満であり、アルカリ金属のイオン濃度が0.03mol/L以下であることを特徴とする、
電気ニッケルめっき液。
【請求項2】
前記アンモニウムイオンの濃度が、0.01mol/L以上である、
請求項1記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項3】
硫酸イオンの濃度が0.01mol/L以下である、
請求項1又は2に記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項4】
ニッケルイオンの濃度が1mol/L以下である、
請求項1〜3のいずれかに記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項5】
アンモニア以外のキレート剤の濃度が0.05mol/L以下である、
請求項1〜4のいずれかに記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項6】
Znを含有する素体を備えるセラミック電子部品に適用される、
請求項1〜5のいずれかに記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項7】
セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、
塩化ニッケルと、
ホウ酸と、
アンモニアとを含み、
pHが5より高く7未満である、
電気ニッケルめっき液。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの電気ニッケルめっき液で、セラミック電子部品にニッケルを電気めっきする、めっき方法。
【請求項1】
セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、
ニッケルイオンと、
0.3mol/L以下のアンモニウムイオンとを含み、
pHが5より高く7未満であり、アルカリ金属のイオン濃度が0.03mol/L以下であることを特徴とする、
電気ニッケルめっき液。
【請求項2】
前記アンモニウムイオンの濃度が、0.01mol/L以上である、
請求項1記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項3】
硫酸イオンの濃度が0.01mol/L以下である、
請求項1又は2に記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項4】
ニッケルイオンの濃度が1mol/L以下である、
請求項1〜3のいずれかに記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項5】
アンモニア以外のキレート剤の濃度が0.05mol/L以下である、
請求項1〜4のいずれかに記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項6】
Znを含有する素体を備えるセラミック電子部品に適用される、
請求項1〜5のいずれかに記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項7】
セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、
塩化ニッケルと、
ホウ酸と、
アンモニアとを含み、
pHが5より高く7未満である、
電気ニッケルめっき液。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの電気ニッケルめっき液で、セラミック電子部品にニッケルを電気めっきする、めっき方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−7172(P2010−7172A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171588(P2008−171588)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]