説明

電気メッキ方法

【課題】生産性を低下させることなく、摺動面に保油用の穴部を適切な面積率で得ることのできる方法を提供する。
【解決手段】Niを主成分とする表面層を有する被処理物にCr及びMoの合金メッキ処理を施す電気メッキ方法において、メッキ浴1Lあたり、Crイオンを130〜151g、Moイオンを21〜26g、硫酸を2.7〜3.1g、メタンジスルホン酸を2.0〜5.0g含むメッキ浴を用い、電流密度と浴温とをパラメータとする領域において、電流密度が25A/dm及び浴温が47.5℃の点Aと、25A/dm及び62.5℃の点Bと、65A/dm及び62.5℃の点Cと、65A/dm及び57.5℃の点Dと、50A/dm及び57.5℃の点Eと、35A/dm及び50.0℃の点Fと、35A/dm及び47.5℃の点Gとで囲まれた範囲内の電流密度及び浴温でメッキ処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気メッキ方法に関し、金属材料の表面処理の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、メッキ槽内において、メッキ金属のイオンを含むメッキ浴に電極と被処理物とを浸漬し、これらの電極と被処理物との間に電気を通電することにより被処理物の表面にメッキ金属の皮膜を析出させる電気メッキが周知である。
【0003】
特に、近年は、自動車のエンジン周りの部品等が軽量化のためアルミニウム等の軽合金部材で製造され、その軽合金部材の耐摩耗性(硬質化)や潤滑性あるいは耐食性を向上させるために、ニッケル系メッキやクロム系メッキが電気メッキで施されることが多くなっている。
【0004】
ところで、自動車のエンジンにおいては、例えば冷間始動時や高負荷時は、温度上昇に伴って潤滑油の粘性が下がる等して、油膜が薄くなり、その結果、オイル切れを起こして摺動面の焼き付きの可能性が大きくなる問題がある。この問題に対処するため、摺動面の保油性を高める目的で、摺動面を前述のように電気メッキした後に逆電処理をして保油用のクラックをメッキ面に形成したり、フォトエッチングをして保油用の凹部をメッキ面に形成したり、あるいは工具を用いた機械加工をして所定方向に延びる保油用の凹溝をメッキ面に形成することが行われている。
【0005】
また、特許文献1には、摺動部材の表面層を下層側の主層と上層側の副層とで構成し、下層側の主層に、摺動面側(上層側)に開口してオイル溜りとして機能する空洞部を形成する技術が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−17884(段落0015)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記の対処法にはそれぞれ次のような問題が残っている。まず、逆電処理やフォトエッチングあるいは機械加工をする方法は、いずれもメッキ後に追加して行うものであるから、製造工程が長くなり、生産性が低下する不具合がある。加えて、逆電処理の場合は、保油用クラックの面積率の制御が困難という問題もある。一方、特許文献1の技術では、下層のほうにオイル溜りが形成されるので、上層のほうで相手部材と接触する摺動開始初期においては、依然として焼き付きの可能性がある。
【0008】
そこで、本発明者等は、生産性を低下させることなく、摺動面に保油用の穴部を適切な面積率で得ることのできる方法を開発しようと鋭意研究検討を重ねた結果、所定条件の下で、ニッケルを主成分とする表面層を有する被処理物にクロム及びモリブデンの合金メッキ処理を電気メッキで施した場合に、十分満足な結果が得られるという知見を得て、本発明を完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明では次のような手段を用いる。なお、以下の本発明の開示において、図面で使用した符号を参考までに付記する。
【0010】
すなわち、本願の請求項1に記載の発明は、ニッケルを主成分とする表面層60を有する被処理物50にクロム及びモリブデンの合金メッキ処理を施す電気メッキ方法であって、メッキ浴1リットルあたり、クロムイオンを130〜151g、モリブデンイオンを21〜26g、硫酸を2.7〜3.1g、メタンジスルホン酸を2.0〜5.0g含むメッキ浴を用い、電流密度と浴温とをパラメータとする領域において、電流密度が25A/dm及び浴温が47.5℃の点Aと、電流密度が25A/dm及び浴温が62.5℃の点Bと、電流密度が65A/dm及び浴温が62.5℃の点Cと、電流密度が65A/dm及び浴温が57.5℃の点Dと、電流密度が50A/dm及び浴温が57.5℃の点Eと、電流密度が35A/dm及び浴温が50.0℃の点Fと、電流密度が35A/dm及び浴温が47.5℃の点Gとで囲まれた範囲内の電流密度及び浴温でメッキ処理することを特徴とする。
【0011】
次に、本願の請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の電気メッキ方法であって、前記被処理物50は、アルミニウム合金の基材上にニッケルを主成分とする下地メッキ層60を形成したものであることを特徴とする。
【0012】
次に、本願の請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の電気メッキ方法であって、前記下地メッキ層60は、表面がショットブラスト処理により所定の表面粗さに設定されたアルミニウム合金の基材上に形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
まず、本願の請求項1に記載の発明によれば、ニッケル(Ni)を主成分とする表面層60(例えばNiP等)を有する被処理物50にクロム(Cr)及びモリブデン(Mo)の合金メッキ処理を電気メッキで施すことを基本とするが、その場合に、メッキ浴の組成を、130〜151g/Lのクロムイオン、21〜26g/Lのモリブデンイオン、2.7〜3.1g/Lの硫酸、2.0〜5.0g/Lのメタンジスルホン酸を含むものとし、かつ、電流密度と浴温とをパラメータとする2次元マップにおいて、座標が25A/dm及び47.5℃の点Aと、25A/dm及び62.5℃の点Bと、65A/dm及び62.5℃の点Cと、65A/dm及び57.5℃の点Dと、50A/dm及び57.5℃の点Eと、35A/dm及び50.0℃の点Fと、35A/dm及び47.5℃の点Gとで囲まれた範囲内にある電流密度及び浴温でメッキ処理すると、図1に模式的に示すように、得られたメッキ面10に多数の微細な穴部20…20が10〜20%という適切な面積率で点在的に形成されることが見出されたものである。
【0014】
この作用メカニズムは必ずしも明らかではないが、被処理物50の表面層60に含まれるニッケル、メッキ浴に含まれるクロム及びモリブデンの各金属の標準電極電位の高低が影響しているものと考えられる。図2を参照して説明する。
【0015】
すなわち、一般に、金属イオン(Mn+)が金属(M)に還元されて析出するまでには、まずメッキ浴中の金属イオン(Mn+)が陰極である被処理物50の表面まで移動し、移動した金属イオンが陰極(被処理物50)から電子を受け取って金属原子(M)となり、そして該金属原子が被処理物50の表面層60を構成する金属の結晶格子に組み込まれる、という各段階を経ることになる。
【0016】
本発明の場合は、金属イオン(Mn+)としてクロムイオンとモリブデンイオンとの2種類があり、両イオン共、電気メッキ時の通電の電圧勾配によって被処理物50の表面まで移動することになる。ここで、被処理物50の表面層60を構成するニッケルの標準電極電位がマイナス(−)0.23であるのに対し、クロムの標準電極電位はマイナス(−)0.71、モリブデンの標準電極電位はマイナス(−)0.20である。つまり、これら3種類の金属のうち、モリブデンが最もイオンになり難く、クロムが最もイオンになり易い。逆にいえば、モリブデンが最もメッキ皮膜として析出し易く、クロムが最もメッキ皮膜として析出し難いことになる。
【0017】
すると、まず被処理物50の表面まで移動したクロムイオンとモリブデンイオンとでは、モリブデンイオンのほうがクロムイオンよりも電子を受け取る速度が速く、局所的にモリブデンの析出が起こり易くなる。ここで、局所的といったのは、モリブデンの析出が起こり易くなるか否かは、他にも、メッキ浴組成の各成分の分布ムラ、被処理物50の表面層60を構成する各成分の分布ムラ、被処理物50の表面層60の粗さ(凹凸)等で影響され、必ずしも常にモリブデンの析出が起こり易くなるわけではないからである。
【0018】
そして、モリブデンの析出が起こった箇所では、モリブデンよりもニッケルのほうがイオンになり易いので、被処理物50の表面層60からニッケルが電子を放出しニッケルイオンとなってメッキ浴中に溶出する傾向が大きくなる。つまりモリブデンとニッケルとの置換が起き、これが原因となってメッキ浴組成のバランスが局所的に崩れ、メッキ浴中の水(HO)の酸化還元反応が引き起こされて、被処理物50の表面に析出したモリブデンが酸化され、不導体皮膜であるモリブデンの酸化皮膜30が形成されることになる。この結果、この酸化皮膜30が形成された箇所では電気メッキ処理が機能しなくなり、その後のクロム及びモリブデンの合金皮膜40の成長が抑制され、メッキ面10に穴部20…20として残存するものと考察される。
【0019】
これに対し、クロムの析出が起こった箇所では、クロムよりもニッケルのほうがイオンになり難いので、被処理物50の表面層60からニッケルが電子を放出しニッケルイオンとなってメッキ浴中に溶出する傾向は小さい。したがって、メッキ浴組成のバランスが保たれ、被処理物50の表面にクロムの酸化皮膜が形成されることがなく、電気メッキ処理が正常に機能して、その後もクロム及びモリブデンの合金皮膜40の成長が続くことになる。
【0020】
ここで、メッキ浴中のクロムイオンとモリブデンイオンとの配合割合が、メッキ面10に残存する穴部20…20の面積率に影響を及ぼすこととなる。本発明では、130〜151g/Lのクロムイオン、すなわち2.5〜2.9mol/Lのクロムイオンと、21〜26g/Lのモリブデンイオン、すなわち0.21〜0.27mol/Lのモリブデンイオンとの配合割合となっている。これは、1個のモリブデンイオンに対し、およそ9〜14個のクロムイオンがメッキ浴中に最初に存在することを意味している。そして、この配合割合のときに、穴部20…20の面積率が10〜20%という、摺動面の保油用として適切な値となる。
【0021】
したがって、メッキ浴中に最初に存在するモリブデンイオンの数が前記より少ないと、メッキ面10における穴部20…20の面積率が10%を下回って摺動面の保油量が不足する。一方、メッキ浴中に最初に存在するモリブデンイオンの数が前記より多いと、メッキ面10における穴部20…20の面積率が20%を上回って摺動面の耐摩耗性(硬質化)が低下する。
【0022】
また、本発明では、2.7〜3.1g/Lの硫酸と、2.0〜5.0g/Lのメタンジスルホン酸とをメッキ浴中に含んでいるが、いずれも、これらの数値を下回ると、メッキ浴におけるクロム及びモリブデンの溶解度が低下し、逆にこれらの数値を上回っても、メッキ浴におけるクロム及びモリブデンの溶解度がそれほど上がらない。
【0023】
また、本発明では、図3に示したように、電流密度と浴温とをパラメータとする領域において、電流密度が25A/dm及び浴温が47.5℃の点Aと、電流密度が25A/dm及び浴温が62.5℃の点Bと、電流密度が65A/dm及び浴温が62.5℃の点Cと、電流密度が65A/dm及び浴温が57.5℃の点Dと、電流密度が50A/dm及び浴温が57.5℃の点Eと、電流密度が35A/dm及び浴温が50.0℃の点Fと、電流密度が35A/dm及び浴温が47.5℃の点Gとで囲まれた範囲内に属する電流密度及び浴温でメッキ処理をするが、この範囲外の条件でメッキ処理をしても、そもそもクロム及びモリブデンの合金皮膜40が析出しないか、又はクロム及びモリブデンの合金皮膜が析出しても穴部20…20が生成しなくなる。
【0024】
例えば、図3に(●)で示したように、電流密度が20A/dm及び浴温が60.0℃の点や、電流密度が50A/dm及び浴温が50.0℃の点、あるいは電流密度が60A/dm及び浴温が50.0℃の点では、クロム及びモリブデンの合金皮膜40が析出しない。また、図3に(×)で示したように、電流密度が20A/dm及び浴温が50.0℃の点や、電流密度が20A/dm及び浴温が55.0℃の点、あるいは電流密度が40A/dm及び浴温が50.0℃の点、電流密度が50A/dm及び浴温が55.0℃の点、電流密度が60A/dm及び浴温が55.0℃の点では、クロム及びモリブデンの合金皮膜40は析出するが穴部20…20が生成しない。
【0025】
これらに対し、図3に(○)で示したように、電流密度が30A/dm及び浴温が50.0℃の点や、電流密度が30A/dm及び浴温が55.0℃の点、あるいは電流密度が30A/dm及び浴温が60.0℃の点、電流密度が40A/dm及び浴温が55.0℃の点、電流密度が40A/dm及び浴温が60.0℃の点、電流密度が50A/dm及び浴温が60.0℃の点、電流密度が60A/dm及び浴温が60.0℃の点では、摺動面の耐摩耗性(硬質化)を図るのに十分な、60〜150μmの厚みのクロム及びモリブデンの合金皮膜40が得られると共に、摺動面の潤滑性を図るのに適切な、10〜20%の面積率の穴部20…20が得られる。
【0026】
なお、前記点A〜Gの座標は、前記知見に基き、点(○)と点(●)との中央の値、あるいは点(○)と点(×)との中央の値を選択したものである。
【0027】
本発明では、クロムイオンは、例えば三酸化クロム(CrO)の添加でメッキ浴に含ませることができる。また、モリブデンイオンは、例えばモリブデンの塩(NaMoO・2HO)の添加で供給することができる。
【0028】
次に、本願の請求項2に記載の発明によれば、前記被処理物50として、アルミニウム合金の基材上にニッケルを主成分とする下地メッキ層60を形成したものを用いるから、アルミニウム合金製の部材の耐摩耗性(硬質化)や耐食性が向上されつつ、摺動面の保油性が高められ、焼き付きの問題が低減されることになる。
【0029】
その場合に、ニッケルを主成分とする下地メッキ層60(例えばNiP等)は、例えば無電解ニッケルメッキの手法でアルミニウム合金の基材上に形成することができる。
【0030】
さらに、アルミニウム合金の基材と、ニッケルを主成分とする下地メッキ層との間に、亜鉛(Zn)を主成分とする下地メッキ層を施してもよい。
【0031】
その場合に、亜鉛を主成分とする下地メッキ層は、例えばアルミニウムと亜鉛との置換の手法でアルミニウム合金の基材上に形成することができる。すなわち、アルミニウムの標準電極電位はマイナス(−)1.66、亜鉛の標準電極電位はマイナス(−)0.76であって、アルミニウムのほうがイオンになり易く、亜鉛のほうが析出し易いのである。
【0032】
次に、本願の請求項3に記載の発明によれば、前記下地メッキ層60を、表面がショットブラスト処理により所定の表面粗さに設定されたアルミニウム合金の基材上に形成するから、ニッケルを主成分とする表面層60の粗さ(凹凸)がアルミニウム合金の基材の表面粗さに応じて調整されて、穴部20…20の分布が制御されることになる。
【0033】
その場合に、ショットブラスト処理としては、例えばダブルテーブル式ショットブラストマシンを用いて行うことができる。以下、実施例を通して本発明をさらに詳しく説述する。
【実施例】
【0034】
(1)メッキ浴の調製
メッキ浴1リットルあたり、三酸化クロム(CrO)を250〜290gのうちの1つの値、モリブデンの塩(NaMoO・2HO)を55〜65gのうちの1つの値、硫酸を2.7〜3.1gのうちの1つの値、メタンジスルホン酸を2.0〜5.0gのうちの1つの値づつ含むメッキ浴を組み合わせをいろいろと変えて複数調製した。
【0035】
(2)ショットブラスト処理
ダブルテーブル式ショットブラストマシンを用い、テーブル回転が120Hz、運転時間が1分の条件で、アルミニウム合金の基材の表面を、鋳鉄又は鋳鋼製の研掃材(投射材)でショットブラスト処理した。
【0036】
(3)亜鉛を主成分とする下地メッキ処理
表面をショットブラスト処理したアルミニウム合金の基材上に、亜鉛を主成分とする下地メッキ層を、置換液温度が15〜25℃、反応時間が20〜40秒の条件で、アルミニウムと亜鉛とを置換する手法で形成した。
【0037】
(4)ニッケルを主成分とする下地メッキ処理
亜鉛を主成分とする下地メッキ層を形成したアルミニウム合金の基材上に、ニッケルを主成分とする下地メッキ層を、液量が600L、ニッケル濃度が6g/L、温度が85〜92℃、pHが4.8〜5.0、反応時間が20〜25分の条件で、無電解ニッケルメッキの手法で形成した。
【0038】
(5)クロム及びモリブデンの合金メッキ処理(電気メッキ)
前記のように調製したメッキ浴に、鉛(Pb)電極と、ニッケルを主成分とする下地メッキ層を形成したアルミニウム合金の基材とを浸漬し、鉛電極を陽極(+)とし、アルミニウム合金の基材を陰極として、これらの電極と基材との間に電気を通電した。電流密度及び浴温の条件は、30A/dm及び50.0℃、30A/dm及び55.0℃、30A/dm及び60.0℃、40A/dm及び55.0℃、40A/dm及び60.0℃、50A/dm及び60.0℃、60A/dm及び60.0℃のうちのいずれか1つとして、メッキ浴組成と前記電流密度及び浴温条件との組み合わせをいろいろと変えて電気メッキを行った。
【0039】
(6)摩擦摩耗試験
電気メッキで得られたクロム及びモリブデンの合金皮膜40の摩擦摩耗試験(性能試験及び耐久試験)を、ボール・オン・ディスク・フリクション・テスタを用いて行った。性能試験では図4に示すようにモード燃費相当の負荷を与え、耐久試験では図5に示すようにさらに大きな荷重を作用させた。
【0040】
すなわち、性能試験では、図4に示すように、荷重(実線:左目盛)を126N、42N、63N、21Nで変化させ、周速(破線:右目盛)を1m/s、10m/s、5m/sで変化させて、潤滑油の油温が40℃、給油量が100μL/分の条件で、合金皮膜40をボール・オン・ディスク・フリクション・テスタにかけた。その場合、図4に示すサイクルを3回繰り返した。
【0041】
また、耐久試験では、図5に示すように、荷重(実線:左目盛)を252Nで一定させ、周速(破線:右目盛)を2m/s、5m/sで変化させて、性能試験と同じ潤滑油を用い、潤滑油の油温が40℃、給油量が100μL/分の条件で、合金皮膜40をボール・オン・ディスク・フリクション・テスタにかけた。その場合、図5に示すサイクルを12回繰り返した。
【0042】
そして、前述したように、図4に示すサイクルを3回繰り返した後、図5に示すサイクルを12回繰り返すというセットを5セット連続して行い、摩耗量と摩擦特性とを測定した。本発明に係るクロム及びモリブデンの合金皮膜40の実施例は、平均して、摩耗量が6.3μm、摩擦特性(摩擦係数μ)が0.11であった。これに対し、従来のガス軟窒化処理した鉄系部品の比較例は、平均して、摩耗量が15.7μm、摩擦特性(摩擦係数μ)が0.14であった。
【0043】
この結果から、本発明に係るクロム及びモリブデンの合金皮膜40の実施例は、従来品に比べて、摩耗量を半減する効果を有し、摩擦を低減させる効果を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上、具体例を挙げて詳しく説明したように、本発明は、生産性を低下させることなく、摺動面に保油用の穴部を適切な面積率で得ることが可能な技術であるから、金属材料の表面処理の技術分野において広範な産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る電気メッキ方法で得られるメッキ面を模式的に示す概略平面図である。
【図2】本発明に係る電気メッキ方法の作用メカニズムを説明するためのメッキ面の概略拡大断面図である。
【図3】本発明に係る電気メッキ方法で採用される電流密度及び浴温の条件の説明図である。
【図4】本発明の実施例に係る性能試験の条件を示すタイムチャートである。
【図5】本発明の実施例に係る耐久試験の条件を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0046】
10 メッキ面
20 穴部
30 モリブデンの酸化皮膜
40 クロム及びモリブデンの合金皮膜
50 被処理物
60 表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを主成分とする表面層を有する被処理物にクロム及びモリブデンの合金メッキ処理を施す電気メッキ方法であって、
メッキ浴1リットルあたり、クロムイオンを130〜151g、モリブデンイオンを21〜26g、硫酸を2.7〜3.1g、メタンジスルホン酸を2.0〜5.0g含むメッキ浴を用い、
電流密度と浴温とをパラメータとする領域において、電流密度が25A/dm及び浴温が47.5℃の点と、電流密度が25A/dm及び浴温が62.5℃の点と、電流密度が65A/dm及び浴温が62.5℃の点と、電流密度が65A/dm及び浴温が57.5℃の点と、電流密度が50A/dm及び浴温が57.5℃の点と、電流密度が35A/dm及び浴温が50.0℃の点と、電流密度が35A/dm及び浴温が47.5℃の点とで囲まれた範囲内の電流密度及び浴温でメッキ処理することを特徴とする電気メッキ方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載の電気メッキ方法であって、
前記被処理物は、アルミニウム合金の基材上にニッケルを主成分とする下地メッキ層を形成したものであることを特徴とする電気メッキ方法。
【請求項3】
前記請求項2に記載の電気メッキ方法であって、
前記下地メッキ層は、表面がショットブラスト処理により所定の表面粗さに設定されたアルミニウム合金の基材上に形成されたものであることを特徴とする電気メッキ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−53365(P2010−53365A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216079(P2008−216079)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】