説明

電気モータ

【課題】扁平ブラシモータ、特に、冷却ファンモータを提供する。
【解決手段】電気モータは、固定子、回転子、及びブラシ歯車を有する。回転子は、シャフト、シャフトに固定された回転子コア、シャフトに固定された整流子、回転子コア上に巻かれて整流子に電気接続された回転子巻線を含む。ブラシ歯車は、整流子との摺動接触を行うための少なくとも2つの弓形ブラシを含む。整流子及びブラシ歯車は、モータの軸線方向長さを最小にするために回転子コアに形成された空間内に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平ブラシモータ、特に、冷却ファンモータに関する。
【背景技術】
【0002】
冷却ファンは、車両のためのエンジン冷却システムに広く使用されている。冷却ファンは、典型的に直流(DC)ブラシモータによって駆動される。モータの使用寿命を短縮することなくエンジンの他の構成要素のためのより多くの空間を提供するために、モータの軸線方向寸法の低減が望まれている。
【0003】
US6737774Bは、扁平構造を有する冷却ファンモータを開示している。モータは、その内面に磁石が取り付けられたハウジングと、ハウジングの一端を閉じる末端キャップと、シャフトに固定された回転子コアと、回転子コアの外周に保持された回転子巻線と、バッテリから回転子巻線に電力を供給するためのブラシとを有する。整流子は、シャフト、回転子コア、及び回転子巻線の内面によって形成された空間に一部配置される。ブラシは、巻線から軸線方向に離間し、かつ末端キャップに固定されて整流子のセグメントと摺動接触を行う。
【0004】
US5434463は、整流子が回転子コアの本体内に深く延びる凹部に配置された扁平構造のモータを開示している。しかし、このモータの製造は、回転子コアが、互いに積み重ねられたいくつかの異なる積層から形成されて比較的複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US6737774B
【特許文献2】US5434463
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、大量生産での製造が比較的容易である扁平構造を有するモータに対する要望が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様では、本発明は、いくつかの永久磁石固定子極を有する固定子と、少なくとも2つのブラシを備えたブラシ歯車と、シャフト、シャフトに固定された回転子ブラケット、回転子ブラケットに固定されたリング形状回転子コア、シャフトに固定され、かつ回転子コアの内側に配置された整流子、及び回転子コア上に巻かれ、かつ整流子に電気接続された回転子巻線を含む回転子とを含む電気モータを提供し、整流子は、電気絶縁本体と、本体上で離間した複数のセグメントと、セグメントにそれぞれ電気接続された複数の端子とを含み、各端子は、回転子巻線のリードワイヤに係合するための接続部分を有し、回転子ブラケットの半径方向外面は、回転子コアの半径方向内面に圧入される。
【0008】
好ましくは、回転子ブラケットは、回転子コアの一方の軸線方向端部において回転子コアに固定される。
【0009】
好ましくは、回転子ブラケットは、回転子コアに圧入された支持体と、支持体上にオーバーモールドされたオーバーモールド部材とを含む。
【0010】
好ましくは、回転子ブラケットは、少なくとも部分的にオーバーモールド部材に埋め込まれたシャフトスリーブによってシャフトに固定される。
【0011】
好ましくは、整流子の端子は、オーバーモールド部材に部分的に埋め込まれ、接続部分及びセグメントは、オーバーモールド部材の両側に配置される。
【0012】
好ましくは、オーバーモールド部材及び本体は、一体に形成される。
【0013】
代替的に、オーバーモールド部材は、本体の内面に成形される。
【0014】
好ましくは、ブラシは、弓形であり、かつ回転子ブラケット、回転子コア、及び整流子によって形成された環状空間に配置される。
【0015】
好ましくは、少なくとも1つの傾斜開口部が、回転子ブラケットに形成される。
【0016】
好ましくは、モータは、車両のためのエンジン冷却システムのためのファンに組み込まれ、ファンは、ハブと、ハブから外向きに延びる複数のブレードとを有し、ハブは、シャフトにそれと共に回転するように固定される。
【0017】
本発明の実施形態では、回転子ブラケット、回転子コア、及び整流子によって形成された環状空間に弓形ブラシを受け入れることにより、モータの軸線方向寸法を縮小することができ、より長いブラシを使用することができる。回転子ブラケット上の傾斜開口部は、ブラシによって発生した粉末を空間から外に誘導し、整流子上に蓄積する塵を低減する。回転子ブラケットは、支持体及びオーバーモールド部材によって形成されるので、回転子ブラケットの機械的強度を保証することができる。更に、回転子ブラケット及び整流子の本体を一体に形成することができるので、回転子の製造工程が簡単である。整流子の導電端子をオーバーモールド部材に埋め込むことにより、端子のための安定した支持を得ることができる。
【0018】
ここで、本発明の好ましい実施形態を単に一例として添付図面の図を参照して以下に説明する。図では、1つよりも多くの図に出現する同一の構造体、要素、又は部品は、一般的に、それが出現する全ての図において同じ参照番号を用いてラベル付けされる。図に示す構成要素及び特徴部の寸法は、一般的に、呈示の都合及び明瞭性によって選択され、必ずしも縮尺に従って示していない。以下にこのような図を列挙する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による車両のためのエンジン冷却システムのためのファンの図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態による電気モータの図である。
【図3】図2のモータの断面図である。
【図4】図2のモータの一部としてのブラシユニットの図である。
【図5】回転子巻線を省略した図2のモータの一部としての回転子の図である。
【図6】図5の回転子の一部としての整流子の断面図である。
【図7】リードワイヤを省略した第2の実施形態による回転子の断面図である。
【図8】回転子巻線のリードワイヤを示す図7の回転子を上から見た図である。
【図9】第3の実施形態による回転子の図7と類似の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、車両のためのエンジン冷却システムのためのファン10の図である。ファン10は、ハブ11と、ハブ11から外向きに延びる複数のブレード12と、ブレード12の半径方向外側端部を接続する外側リング13とを含む。ハブ11は、ベースプレート14と、ベースプレート14の外周から軸線方向に延びる環状側壁15とを有する。ベースプレート14には、接続孔16が形成される。ベースプレート14及び側壁15は、ファン10を回転させるための電気モータを受け入れるための空間を形成する。
【0021】
図2及び3は、本発明の好ましい実施形態による電気モータ20を示している。モータ20は、好ましくは、固定子26と、ブラシ歯車と、固定子26に回転可能に装着された回転子28とを有するDCブラシモータである。
【0022】
固定子26は、軸線方向に延びる丸いハウジング31と、ハウジング31の内面に固定された複数の永久磁石32とを含む。第1及び第2の末端キャップ33、34は、ハウジング31の開放軸線方向端部を閉じる。ベアリング35、36は、回転子を装着するための末端キャップ33、34に固定される。複数の通気孔37が、第1及び第2の末端キャップ33、34に形成される。通気孔37は、ファン10によって発生された空気流がモータを通って軸線方向に流れ、モータ20を冷却することを可能にする。ブラシ歯車を形成するブラシユニット40は、第2の末端キャップ34に組み付けられる。
【0023】
ブラシユニット40は、図4に示すように、ブラシブラケット41と複数のブラシアセンブリとを含む。ブラシブラケット41は、装着孔43を通じて第2の端部カバー34上に固定される。ブラシブラケット41は、第2の端部カバー34のベアリング36のためのベアリングホルダ39に適合する中心孔44を有する。ブラシアセンブリは、周方向に規則的な間隔でブラシブラケット41上に配置される。各ブラシアセンブリは、ブラシブラケット41に固定された弓形ブラシケージ45を有し、弓形ブラシ46は、移動可能にブラシケージ45に受け入れられ、この実施形態では捩りバネである弾性バネ47の押し付けの下で回転子28の整流子48との摺動接触を行う。好ましくは、永久磁石32によって形成される固定子極の総数は、4、6、又は8である。ブラシアセンブリの総数は、固定子極の総数に等しい。
【0024】
図5は、回転子の構造を示すために巻線を除いた回転子28を示している。回転子28は、シャフト50と、シャフトに固定された円形の回転子ブラケット51と、複数の半径方向外向きに延びる歯53備えたリング形状回転子コア52と、シャフト50に固定された整流子48とを含む。回転子巻線54(図3に示す)は、回転子コア52の歯53の周りに巻かれる。シャフト50は、2つのベアリング35、36によって回転可能に支持され、かつファン10がシャフトと共に回転するようにファン10のハブ11の接続孔16に挿入されてそれに固定される。リング形状回転子コア52は、複数のリング形状回転子積層を軸線方向に積み重ねることによって形成される。回転子ブラケット51は、第1の末端キャップ33に隣接する回転子コアの一方の軸線方向端部において回転子コア52の内面に圧入される。整流子48は、回転子コア52の内側で回転子ブラケット51に隣接して配置される。図6は、整流子48の断面図である。整流子48は、電気絶縁本体55と、本体の外面上で周方向に離間した複数の導電セグメント56とを含む。端子57は、回転子ブラケット51に隣接する各セグメント56の一端から一体的に延びる。各端子57は、回転子巻線54のリードワイヤ(図8に示す)との接続を行うための接続部分58を有する。回転子ブラケット51、リング形状回転子コア52、及び整流子48は、環状空間59を形成する。ブラシ46は、空間59に受け入れられて、外部電力をブラシ46及び整流子48を通じて回転子巻線54に供給することができるように整流子48のセグメント56との摺動接触を行う。ブラシ46を空間59に受け入れることにより、モータ20の軸線方向寸法を縮小することができる。ブラシ46が弓形なので、ブラシは、それが真っ直ぐであった場合よりも長くすることができ、それによってモータの使用寿命が長くなる。
【0025】
好ましくは、回転子ブラケット51は、ブラシ46が摩耗する時に発生する粉末を空間59から外にかつ第1の末端キャップ33の貫通孔61を通じてモータの外に誘導するための誘導構造体として機能する複数の傾斜開口部60を有する。貫通孔61は、半径方向に傾斜開口部とほぼ整列する。貫通孔61の寸法は、傾斜開口部60のそれに等しいか又はそれよりも大きい。誘導構造体は、回転子ブラケット51を超えて延びず、モータ50が扁平でコンパクトな構造を有することを可能にする。
【0026】
図7及び8は、本発明の第2の好ましい実施形態による回転子70を示している。回転子70は、回転子28と同様である。回転子28と比較すると、回転子70の回転子ブラケット51は、電気絶縁オーバーモールド部材71と、孔及びスロットを備えた金属支持体72とを含む。支持体72は、扁平放射状円盤を有し、軸線方向に延びるフランジ73が、円盤の半径方向外側縁部から延びている。円盤は、傾斜開口部60が通過する孔及び/又はスロットを有する。フランジ73は、回転子コア52を保持するために回転子コア52の内面に圧入される。オーバーモールド部材71及び整流子48の本体55は、単一のモノリシック構造体として支持体72とセグメント56の内面とに一体に成形される。整流子48の端子57は、オーバーモールド部材71と本体55の間に部分的に埋め込まれ、一方、接続部分58及びセグメント56は、オーバーモールド部材71の両側に配置される。すなわち、回転子巻線54のリードワイヤ75は、接続部分58を簡単に係合することができる。回転子ブラケットは、整流子本体55の中心孔の中に挿入成形されたシャフトスリーブ74によってシャフト50に固定される。すなわち、シャフトスリーブは、シャフトがスリーブの中に押し込まれる時にシャフトと直接に接触するように、スリーブの少なくとも内面が露出した状態でオーバーモールド部材に埋め込まれる。この実施形態では、回転子ブラケット51は、支持体72及びオーバーモールド部材71によって形成されるので、回転子ブラケット51の機械的強度を保証することができる。回転子70の製造工程は、回転子ブラケット51と整流子48の本体とが一体に形成されるので簡単である。端子57をオーバーモールド部材71に埋め込むことにより、端子57のための安定した支持が提供される。
【0027】
図9は、第3の実施形態によるモータ20の回転子80を示している。回転子80は、回転子70と同様である。回転子80の回転子ブラケット51は、電気絶縁オーバーモールド部材71と金属支持体72とを含む。支持体72のフランジ73が、回転子コア52を保持するためにリング形状回転子コア52の内面に圧入される。回転子80と比較すると、各セグメント56は、別々に形成され、かつその対応する端子57に接触する。整流子は、整流子本体がセグメント56に対して成形された状態で予め形成される。セグメントは、オーバーモールド部材71を成形する前に、好ましくは半田付けによって端子57に接続される。オーバーモールド部材71は、支持体72と整流子48の本体55との内面の上に成形され、整流子48の端子57は、オーバーモールド部材71に部分的に埋め込まれ、一方、接続部分58及びセグメント56は、オーバーモールド部材71の両側に配置される。シャフト50は、オーバーモールド部材71の中心孔に埋め込まれたシャフトスリーブ74によって固定的に支持される。代替的に、オーバーモールド部材は、シャフトに直接に成形することができる。このようにして、整流子を回転子ブラケット51に組み付ける前に、整流子の精度を改善又は保証することができる。
【0028】
代替的に、端子は、回転子ブラケットを整流子とは別に形成することができ、整流子が回転子ブラケットに装着される前に回転子が完全に巻かれて端子に接続されることを可能にする機械的な形式の接続によってセグメントに接続することができる。回転子ブラケット上の位置内への整流子の軸線方向移動は、セグメントを機械的接続によって端子に電気接続させる。1つのそのような機械的接続は、セグメントの各々に形成されたフィンガが、各端子に形成された対応するスロットに圧入されることを含むことができる。
【0029】
本出願の説明及び特許請求の範囲では、動詞「comprise」、「include」、「contain」、及び「have」の各々及びその変形は、包含的な意味で使用され、記述される項目の存在を指定するが、付加的な項目の存在を除外しない。
【0030】
本発明を1つ又はそれよりも多くの好ましい実施形態に関連して説明したが、様々な修正が可能であることは当業者によって認められるべきである。従って、本発明の範囲は、以下に続く特許請求の範囲を参照することによって判断されるものとする。
【0031】
例えば、ブラシアセンブリの総数は、永久磁石又は固定子極の総数と等しくない場合がある。
【符号の説明】
【0032】
20 電気モータ
32 永久磁石
37 通気孔
46 弓形ブラシ
48 整流子
60 傾斜開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータであって、
いくつかの永久磁石固定子極を有する固定子と、
少なくとも2つのブラシを備えたブラシ歯車と、
シャフトと、該シャフトに固定された回転子ブラケットと、該回転子ブラケットに固定されたリング形状回転子コアと、該シャフトに固定されて該回転子コアの内側に配置された整流子と、該回転子コア上に巻かれて該整流子に電気接続された回転子巻線とを含む回転子であって、該整流子が、電気絶縁本体と、該本体上で離間した複数のセグメントと、該セグメントにそれぞれ電気接続された複数の端子とを含み、各端子が、該回転子巻線のリードワイヤに係合するための接続部分を有する前記回転子と、
を含み、
前記回転子ブラケットの半径方向外側の面が、前記回転子コアの半径方向内側の面に圧入される、
ことを特徴とする電気モータ。
【請求項2】
前記回転子ブラケットは、前記回転子コアの一方の軸線方向端部において該回転子コアに固定されることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記回転子ブラケットは、前記回転子コアに圧入された支持体と、該支持体上にオーバーモールドされたオーバーモールド部材とを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモータ。
【請求項4】
前記回転子ブラケットは、少なくとも部分的に前記オーバーモールド部材に埋め込まれたシャフトスリーブによって前記シャフトに固定されることを特徴とする請求項3に記載のモータ。
【請求項5】
前記整流子の前記端子は、前記接続部分及び前記セグメントが前記オーバーモールド部材の両側に配置された状態で該オーバーモールド部材に部分的に埋め込まれることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のモータ。
【請求項6】
前記オーバーモールド部材及び前記本体は、一体的に形成されることを特徴とする請求項3、請求項4、又は請求項5に記載のモータ。
【請求項7】
前記オーバーモールド部材は、前記本体の内面に成形されることを特徴とする請求項3、請求項4、又は請求項5に記載のモータ。
【請求項8】
前記ブラシは、弓形であり、かつ前記回転子ブラケット、前記回転子コア、及び前記整流子によって形成された環状空間に配置されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項9】
少なくとも1つの傾斜開口部が、前記回転子ブラケットに形成されることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項10】
車両のためのエンジン冷却システムのためのファンであって、
ハブと、
前記ハブから外向きに突出する複数のブレードと、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の電気モータと、
を含み、
前記ハブは、前記シャフトにそれと共に回転するように固定される、
ことを特徴とするファン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−55880(P2013−55880A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−207478(P2012−207478)
【出願日】平成24年9月3日(2012.9.3)
【出願人】(502458039)ジョンソン エレクトリック ソシエテ アノニム (90)
【Fターム(参考)】