説明

電気レオロジーゲルおよびその製造方法

【課題】印加電圧が低くなっても、大きく、かつ安定した剪断応力を発現できる電気レオロジーゲルおよびその製造方法の実現。
【解決手段】ゲル骨格中にシリコーンオイルが分散し、該シリコーンオイル中に電気レオロジー粒子が配列していることを特徴とする電気レオロジーゲル、および電気レオロジー粒子をシリコーンオイルに分散させる分散工程と、シリコーンオリゴマーと架橋剤を添加し、均一化して混合物(I)を得る添加工程(I)と、該混合物に触媒を添加し、均一化して混合物(II)を得る添加工程(II)と、該混合物(II)を型に流し入れる型入れ工程と、電圧を印加し、さらに前記シリコーンオリゴマーを硬化させる硬化工程とを有することを特徴とする電気レオロジーゲルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気レオロジーゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電圧を印加することにより見かけの粘度(以下、単に「粘度」という。)が上昇する、いわゆる電気レオロジー(以下、「ER」という。)効果を発現するER流体が知られている。ER流体は、印加する電圧を変化させることによってその粘度を可逆的かつ自由に変えることができ、しかも電圧の変化に対する応答性に優れていることから、このER流体を一対の電極間に配したER素子の形態で、クラッチ、バルブ、ダンパ、アクチュエータ、ロボット制御、振動制御などの電子部品などに使用することが期待されている。
【0003】
このようなER流体には、印加電圧の変化に伴って、安定した剪断応力の変化(すなわち、ER効果)が求められている。
しかし、ER流体は、通常、シリコーンオイル等の電気絶縁性分散媒中に分散相粒子(ER粒子)が分散した形態であるため、長期間静置しておくとER粒子が沈降・凝集してしまい、剪断応力にバラツキが生じ、安定したER効果が得られにくかった。
【0004】
そこで、ER粒子の沈降・凝集を防止するために、35〜90wt%のER粒子を含有させたERゲルが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。これによれば、電界による剪断応力のコントロール性を向上させ、安定したER効果を示すことができる。
ところで、近年では、ER素子を用いた電子部品の小型化が進んでおり、ER流体へ印加する電圧が低くなる傾向にある。従って、ER流体には、より小さな印加電圧でも大きな剪断応力を発現できることが求められている。
【特許文献1】特開2005−255701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のERゲルでは、印加電圧が低くなるに連れて剪断応力が十分に発現しにくかった。
【0006】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、印加電圧が低くなっても、大きく、かつ安定した剪断応力を発現できる電気レオロジーゲルおよびその製造方法の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、ゲル骨格を形作る物質を硬化させて架橋構造(ゲル骨格)を形成させる前に、電気レオロジーゲルの原料を混合した混合物に電圧を印加することにより、混合物中で分散していた電気レオロジー粒子が電界に沿って配列することを見出した。さらに、電気レオロジー粒子が配列すると、印加電圧が低くなっても、大きく、かつ安定した剪断応力を発現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の電気レオロジーゲルは、ゲル骨格中にシリコーンオイルが分散し、該シリコーンオイル中に電気レオロジー粒子が配列していることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の電気レオロジーゲルの製造方法は、電気レオロジー粒子をシリコーンオイルに分散させる分散工程と、シリコーンオリゴマーと架橋剤を添加し、均一化して混合物(I)を得る添加工程(I)と、該混合物に触媒を添加し、均一化して混合物(II)を得る添加工程(II)と、該混合物(II)を型に流し入れる型入れ工程と、電圧を印加し、さらに前記シリコーンオリゴマーを硬化させる硬化工程とを有することを特徴とする。
また、前記混合物(I)を型に流し入れた後に、前記触媒を添加してもよい。
【0010】
さらに、前記硬化工程の後に、前記シリコーンオイルの一部を除去する除去工程を有することが好ましい。
また、前記硬化工程において、0.1〜7kV/mmの電圧を印加することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、印加電圧が低くなっても、大きく、かつ安定した剪断応力を発現できる電気レオロジーゲルおよびその製造方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の電気レオロジーゲル(以下、「ERゲル」という。)は、ゲル骨格中にシリコーンオイルが分散し、該シリコーンオイル中に電気レオロジー粒子(以下、「ER粒子」という。)が配列している。
【0013】
<ゲル骨格を形成する物質>
ゲル骨格を形成する物質としては、例えば、ポリシロキサン架橋体、アクリル酸エステル系ポリマー架橋体、ポリスチレン系架橋体などが挙げられる。これらの中では、特に電気絶縁性が優れ、その骨格内に電気絶縁性媒体であるシリコーンオイルを多量に保持可能であるポリシロキサン架橋体が好ましい。ポリシロキサン架橋体としては、シリコーンオリゴマーと不飽和基含有化合物(架橋剤)とのヒドロシリル化反応生成物が、製造の容易性から好ましい。
【0014】
ここで、ポリシロキサン架橋体を構成するシリコーンオリゴマーとは、例えばシロキサン鎖のケイ素原子に結合した水素原子を持つジアルキルポリシロキサンであって、下記式(1)で示される化合物が例示できる。
【0015】
【化1】

【0016】
式(1)中、各Rは互いに独立して置換もしくは無置換の炭素数1〜18のアルキル基、炭素数7〜21のアラルキル基、または、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を示す。また、nは0〜500の整数である。
【0017】
で示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ドデシル基などの無置換のものや、トリフルオロプロピル基、クロロプロピル基などのハロゲン化アルキル基、2−シアノエチル基のようなシアノアルキル基が例示できる。アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基などを例示でき、アリール基としては、フェニル基、トルイル基、ナフチル基などを例示できる。
これらの中では、Rはいずれもメチル基であることが好ましく、また、nは10〜200であることが好ましい。特に好ましくは、下記式(1−1)の化合物である。
【0018】
【化2】

【0019】
ポリシロキサン架橋体を構成する架橋剤としては、シリコーンオリゴマーとヒドロシリル化反応し、ポリシロキサン架橋体を構成可能なものであれば制限はなく、例えば下記式(2)で示される不飽和基を3つ以上含有する化合物が挙げられる。
【0020】
【化3】

【0021】
式(2)中、Rは水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜18のアルキル基、または、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を示し、好ましくは水素原子またはメチル基である。
は炭素数1〜18のアルキレン基、炭素数7〜21のアリールアルキレン基の他、ヘテロ原子数1〜6で炭素数1〜12のヘテロ原子含有アルキレン基、または、直接結合を示し、好ましくは、メチレン基や、ヘテロ原子数1〜6で炭素数1〜12のヘテロ原子含有アルキレン基(アルキレン基中の炭素原子の一部がO、S、Nなどで置き換えられたもの)である−CHO−、−CHOCH−、−CHOCHCH−、−CHOCHCHOCH−が例示できる。
【0022】
このような架橋剤の具体例を以下に示す。
【0023】
【化4】

【化5】

【0024】
ヒドロシリル化反応は、反応速度の温度依存性が大きいことから、シリコーンオリゴマーと架橋剤とを室温以下で混合し、その後加熱して反応を進行させることができる。これはヒドロシリル化反応の大きな利点であって、これらを適度な粘性で混合し、成形した後加熱すれば、一挙に所望の形状の重合物が得られる。この場合の加熱温度としては、50〜150℃が好ましく、60〜120℃がより好ましい。
【0025】
ヒドロシリル化反応を行う際には、触媒を使用するのが好ましい。触媒としては、例えば白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムやその化合物などが挙げられる。これらの中では、特に白金または白金化合物が適していて、具体例としては、白金、塩化白金酸の他、アルミナ、シリカ、カーボンブラックなどの担体に固体白金を担持させたもの、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ホスフィン錯体、白金−ホスファイト錯体、白金アルコラート触媒が挙げられる。白金触媒の場合は、白金として、通常、シリコーンオリゴマーと架橋剤の合計100質量部に対して、0.0001〜0.05質量部配合されるのが好ましい。
【0026】
なお、ヒドロシリル化の進行が早すぎると、得られるERゲルの初期粘度が高くなることがあるので、そのような場合には硬化遅延剤を添加して初期粘度を調整してもよい。
硬化遅延剤としては、オルガノリン化合物、ベンゾトリアゾール化合物、ニトリル化合物、ハロゲン化炭素化合物、アセチレン化合物、スルホキシド化合物、アミン化合物、及びマレイン酸エステルを挙げることが出来る。これらの中でも、アセチレン化合物、ニトリル化合物、及びマレイン酸エステルが好ましい。硬化遅延剤を添加する場合、シリコーンオリゴマーと架橋剤の合計100質量部に対して、0.0001〜1.0質量部配合されるのが好ましい。
【0027】
また、ヒドロシリル化反応が進行して得られるポリシロキサン架橋体の架橋密度は、上記式(1)で示されるシリコーンオリゴマーの分子量によりある程度決定されるが、シリコーンオリゴマーと架橋剤とは、下記式(3)に従っている。この場合、特に、下記式(3)の下限が0.8で上限が1.2である場合に、ERゲルとして適した架橋密度が得られる。
なお、下記式(3)において化合物(1)とはシリコーンオリゴマーであり、化合物(2)とは架橋剤である。
【0028】
【数1】

【0029】
本発明において、ゲル骨格を形成する物質がポリシロキサン架橋体である場合、その含有量は、ERゲル100質量%中、3〜65質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。ER粒子の含有量の下限値が上記値より小さくなると、ERゲルの流動性が高くなり、例えばERゲルを制御素子として用いる場合、シール構造にする必要がある。一方、ER粒子の含有量の上限値が上記値より大きくなると、相対的にER粒子の含有量が減り、十分なER効果が得られにくくなる。
【0030】
<シリコーンオイル>
シリコーンオイルは、絶縁破壊電圧、体積抵抗率などの電気的特性に優れ、物理的、化学的に安定なため、長期にわたって安定した電気特性を発揮することができ、かつ、難燃性にも優れる物質である。そのため、本発明においては、電気絶縁性媒体として用いられる。
シリコーンオイルとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、フェニル変性シリコーンオイルが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。フッ素変性シリコーンオイルとしては、例えば、トリフルオロプロピル基(CF−)を有するポリシロキサン、ノナフルオロヘキシル基(C−)を有するポリシロキサン、環状型ポリシロキサン化合物などがある。
【0031】
このようなシリコーンオイルの動粘度には特に制限はないが、25℃において1〜10万mm/sが好ましく、5〜5000mm/sがより好ましい。動粘度が1mm/s未満では、ERゲルの保存安定性が不十分となる場合がある。一方、動粘度が10万mm/sを超えると、後述するERゲルの製造工程においてこれを撹拌する際に気泡を巻き込み、この気泡が抜けなくなり、取扱性が低下する場合がある。
【0032】
シリコーンオイルの含有量は、ERゲル100質量%中、1〜55質量%が好ましく、2〜40質量%がより好ましい。ER粒子の含有量の下限値が上記値より小さくなると、ERゲルが硬くなりすぎる傾向にある。一方、ER粒子の含有量の上限値が上記値より大きくなると、シリコーンオイルが滲出する場合がある。
【0033】
<ER粒子>
ER粒子としては、上述したシリコーンオイルと共に使用され、ER効果を発現可能なものであれば特に制限はないが、例えばシリカゲル、セルロール、でんぷん、大豆カゼイン、ポリスチレン系イオン交換樹脂などのような粒子の表面に水を吸着保有する固体粒子や、カーボン粒子などがある。その他には、有機高分子化合物からなる芯体と、電気半導体性無機物粒子からなる表層とから形成された電気レオロジー流体用複合粒子(以下、「ER複合粒子」という。)、または、ER複合粒子の表層に親和性表面処理が施され、電気絶縁性媒体との親和性が高められている電気レオロジー流体用複合粒子(以下、「親和性ER複合粒子」という。)も使用可能であり、これらを使用すると安定したER効果を発現し、保存安定性にも優れたERゲルが得られる。これらER複合粒子および親和性ER複合粒子の詳細および製造方法は、例えば、特開2001−026793公報、特開平10−121084号公報、特開平09−079404号公報などに記載されている。
また、ER粒子の粒子径としては、1〜50μmの範囲が好ましい。
【0034】
ER粒子の含有量は、ERゲル100質量%中、35〜90質量%が好ましく、45〜85質量%がより好ましい。ER粒子の含有量の下限値が上記値より小さくなると、相対的にゲル骨格を形成する物質(ポリシロキサン架橋体)やシリコーンオイルの含有量が増えるため、十分なER効果が得られにくくなる。一方、ER粒子の含有量の上限値が上記値より大きくなると、ERゲルが硬くなりすぎる傾向にある。
【0035】
<製造方法>
ここで、本発明のERゲルの製造方法について説明する。
本発明のERゲルの製造方法は、ER粒子をシリコーンオイルに分散させる分散工程と、シリコーンオリゴマーと架橋剤を添加し、均一化して混合物(I)を得る添加工程(I)と、該混合物に触媒を添加し、均一化して混合物(II)を得る添加工程(II)と、該混合物(II)を型に流し入れる型入れ工程と、電圧を印加し、さらにシリコーンオリゴマーを硬化させる硬化工程とを有する。また、硬化工程の後にシリコーンオイルの一部を除去する除去工程を設けてもよい。
【0036】
(分散工程)
分散工程は、上述したER粒子をシリコーンオイルに分散させて混合溶液を得る工程である。分散方法としては、公知の方法を用いることができる。
なお、ER粒子やシリコーンオイルは吸湿性が高いため、空気中の水分などを吸収しやすい。そこで、ER粒子をシリコーンオイルに分散させた後、これらを脱水するのが好ましい。脱水方法としては、例えば減圧しながら加熱する方法や、Nガスを送入する方法などが挙げられる。
【0037】
(添加工程)
添加工程(I)は、分散工程で得られた混合溶液に、上述したシリコーンオリゴマーと架橋剤を添加し、均一化して混合物(I)を得る工程である。
また、添加工程(II)は、添加工程(I)で得られた混合物(I)に、上述した触媒や必要に応じて硬化遅延剤を添加し、均一化して混合物(II)を得る工程である。
添加方法や均一化方法としては、公知の方法を用いることができる。特に均一化するに際しては、プロペラミキサーを用いるのが好ましい。
本発明においては、添加工程(I)と添加工程(II)は同時に行っても構わない。
【0038】
(型入れ工程)
型入れ工程は、添加工程で得られた混合物(II)を、型に流し入れる工程である。型に流し入れる方法としては、公知の方法を用いることができる。
本工程に用いる型は、例えば、図1に示すように型10の両側(上端と下端)に配置された一対の電極11と枠12を有しており、混合物(II)は一対の電極11と枠12とで形成されるキャビティーに注入される。なお、型としては、図2に示すような櫛歯電極13が、型の片側(上端または下端のいずれか一方)に配置された型を用いてもよい。
このような型の形状については特に制限されず、得られるERゲルが所望の形状となるように予め型の形状を設計すればよい。さらに、本発明においては、本工程で用いた型をそのまま後述するER素子として使用することも可能であり、特に複雑な形状の素子や、小さな素子などの場合に好適である。このような場合は、型に備わる電極がそのままER素子の電極となる。
枠の材質としては、絶縁性の材料であれば特に制限されないが、例えばシリコーン樹脂、ポリ4フッ化エチレン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド等の樹脂や、ガラス、アルミナ等の無機材料などが挙げられる。中でもシリコーン樹脂、ポリアセタール樹脂が好ましい。
【0039】
本発明においては、添加工程(I)で得られる混合物(I)を型に流し入れた後に、触媒を添加してもよい。この場合、型の中で混合物(II)が得られることとなる。
【0040】
(硬化工程)
硬化工程は、電極を介して混合物(II)に電圧を印加し、さらにシリコーンオリゴマーを硬化させる工程である。混合物(II)に電圧を印加することにより、図3に示すようにシリコーンオイル中でER粒子14が電界に沿って配列した状態を形成する。さらにこの状態でシリコーンオリゴマーを硬化させることで、ゲル骨格中にシリコーンオイルが分散し、該シリコーンオイル中にER粒子が配列したERゲルが得られる。
なお、混合物(I)に触媒を添加した時点で硬化反応は徐々に進行するが、本発明においては、硬化工程で行う硬化を本硬化とする。
【0041】
混合物(II)に電圧を印加する際には、室温で行うのが好ましい。加熱しながら電圧を印加すると、ER粒子が十分に配列しないうちに硬化反応が進行してしまうので、ER粒子が配列したERゲルが得られにくくなる。印加電圧は、0.1〜7kV/mmが好ましく、0.2〜5kV/mmがより好ましく、0.5〜2kV/mmがさらに好ましい。電圧の下限値が上記値より低くなるとER粒子が電界に沿って配列しにくくなり、シリコーンオイル中で分散しやすくなる。結果、得られるERゲルを長期間静置すると、ER粒子が凝集しやすくなる傾向にある。一方、電圧の上限値が上記値より高くなると絶縁破壊が生じる場合がある。
【0042】
シリコーンオリゴマーを硬化させる方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。特に、硬化の際に熱をかけると硬化反応が進行しやすくなるので好ましい。硬化時間は5〜300分が好ましく、30〜120分がより好ましい。また、硬化温度は20〜200℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0043】
本工程においては、硬化(本硬化)の前に混合物(II)に電圧を印加すれば、硬化が終了するまで電圧を印加してもよく、印加しなくても構わない。ただし、硬化の前では電圧を印加せず、硬化が終了した後で電圧を印加すると、ER粒子は配列せず、シリコーンオイル中で分散したままの状態となるので、電圧は少なくとも硬化の前に印加するものとする。
なお、上述したように、混合物(I)に触媒を添加した時点で硬化反応は徐々に進行するが、本硬化の前に混合物(II)に電圧を印加すれば、触媒を添加した時点で硬化反応が進行しても、ER粒子が配列したERゲルが得られる。
【0044】
(除去工程)
除去工程は、ERゲルからシリコーンオイルの一部を除去する工程である。本工程を設けることにより、シリコーンオイルがERゲルの表面に滲み出るのを抑制できる(ブリードアウトの抑制)。また、特にシリコーンオイルの含有量を低減させるのに有用であり、含有量を制御できるので、ERゲルを適度に硬く調整することが可能となり、剪断応力が高まる。
除去方法としては、ERゲルに油取り紙を巻く方法、ERゲルに油取り紙を巻き(又は敷き)、かつ遠心分離する方法、減圧下または加圧下にて圧搾または吸引する方法、低沸点溶剤(例えば脂肪族炭化水素、フッ素系溶剤など)にERゲルを浸し、シリコーンオイルを抽出する方法などが挙げられる。
【0045】
本工程で除去されるシリコーンオイルの量は、全シリコーンオイル100質量%中の5〜80質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましい。除去されるシリコーンオイルの量が5質量%未満であると、ERゲルからシリコーンオイルがブリードアウトしたり、ERゲルの硬さが不十分となり高い剪断応力が発現しにくくなったりする。一方、80質量%を越えても、剪断応力は飽和状態となるため、除去効果が頭打ちとなる。また、ERゲルが硬くなりすぎる場合もある。
【0046】
このように、本発明のERゲルの製造方法によれば、シリコーンオリゴマーを硬化させて架橋構造(ゲル骨格)を形成させる前に、混合物(II)に電圧を印加することにより、図3に示すようにER粒子14が電界に沿って配列した状態のERゲルが得られる。その結果、印加電圧が低くなっても、大きくかつ安定した剪断応力が発現できる。
さらに、ER粒子は電圧を印加することにより、図4に示すように、電極付近に集まりやすくなるため、剪断応力がより高まると推測される。すなわち、本発明によれば、ER粒子が電極付近に集まりつつ、電界に沿って配列した後にシリコーンオリゴマーが本硬化されるので、印加電圧が低くなっても、大きな剪断応力を発現できるERゲルが得られる。
なお、電極として図2に示すような櫛歯電極13を備えた型を用いてERゲルを製造する場合は、ER粒子は図5に示すように配列することとなる。
【0047】
本発明のERゲルは、例えば一対の電極間に配したER素子の形態で使用される。該電極の陰極の表面には離型剤が被覆される場合が多い。そして、このようなER素子は、例えばクラッチ、バルブ、ダンパ、アクチュエータ、ロボット制御、振動制御など、従来検討されている様々なERデバイスに使用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[実施例1]
<ERゲル原料である混合溶液Aの製造方法:分散工程>
まず、以下のようにして、ERゲルに使用するER粒子を製造した。
アンチモンドーピング酸化錫(石原産業社製、「SN−100P」、電気伝導度:1.0×10Ω−1/cm)30gと、水酸化チタン(石原産業社製、一般名:含水チタン、C−II、電気伝導度:9.1×10−6Ω−1/cm)10gと、アクリル酸ブチル300gと、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート100gと、重合開始剤(アゾビスイソバレロニトリル)2gとを混合し、混合物を得た。
得られた混合物を、第三リン酸カルシウム25gを分散安定剤として含む水1800ml中に分散し、60℃で1時間撹拌下に懸濁重合を行い、得られた生成物を酸処理し、水洗後、脱水乾燥し、無機・有機複合粒子を得た。この粒子200gに鉄フタロシアニン(山陽色素社製、「P−26」)1.5gを加え、ボールミルにて50時間複合化処理を行い、次いでこれをジェット気流処理機(三井鉱山社製、「メカノハイブリッド」)を用いて周速100m/秒で30分間ジェット気流処理を行い、ER複合粒子を得た。
【0049】
次いで、窒素導入管、温度計、撹拌装置を備えた2Lのセパラブルフラスコに、ジメチルシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、「SH−200(100)」、室温(25℃)における動粘度が100mm/s、比重0.97/25℃、屈折率1.402/25℃)400gを仕込み、先に得られたER複合粒子600gを分散させ、窒素気流下で110〜120℃に加熱し、3時間撹拌することで、ER複合粒子の脱水を行った。得られた脱水ER複合粒子の溶液を混合溶液Aとする。
【0050】
<離型剤Aの製造方法>
24質量部のプラスサイズL−6637G(互応化学社製、アクリル樹脂の30質量%エタノール溶液アニオン性ポリマーであり、溶質(固形分)換算で酸価150mgKOH/gのもの。)を、73質量部のエチルアルコールに投入し、室温にて撹拌して溶解させた。次いで、下記の化学式(4)で表されるアミノ基含有ポリシロキサン3質量部を添加し、室温で撹拌混合した。
【0051】
【化6】

【0052】
さらに、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら、80℃で加熱還流を3時間行い、複合高分子のエタノール溶液を得た。得られた複合高分子溶液に下記測定条件においてpHが8となるように2−アミノ2−プロパノールを添加および撹拌した。
得られた混合物にエチルアルコールを添加して下記の測定方法による固形分を50質量%に調整した。これを離型剤Aとして使用した。
(pH測定条件)
複合高分子溶液並びに2−アミノ2−プロパノール溶液の混合物、及び混合溶媒(エチルアルコール/水=1/10(質量比))との質量比が5/95の混合物を調整し、pH(25℃)を測定した。
(固形分測定条件)
試料1gをアルミ皿に取り、105℃の電気炉内に1時間置いた後の残分を固形分とした。
【0053】
<ERゲルの製造方法:両側電極ERゲル素子>
ERゲルを製造する際に用いる型として、図1に示すような、一対の電極(ERゲルの摺動面と接する上部アルミ板11aと、ERゲルが固定される下部アルミ板11b)11とポリアセタール樹脂製のブロック枠12を有する型を用いた。下部アルミ板11bの表面には、ERゲルを固定するため、剪断応力に対して垂直方向に延びた凹状溝を配置し、上部アルミ板11aには、上述の方法で得られた離型剤Aを硝子棒で塗布し、次いで100℃、5分の条件で離型化処理を行った。
なお、型はそのまま両側電極ERゲル素子として用いた。
【0054】
上述のようにして得られた混合溶液Aを撹拌下、室温で5分間減圧脱気した後、式(1−1)で示される化合物と、式(2−1)で示される化合物と、白金触媒Aと、LTV用硬化遅延剤(東レ・ダウコーニング社製)とをプロペラミキサーで均一に混合し、混合物(II)を得た(添加工程(I)、(II))。
ポリアセタール樹脂製のブロックを用い上下を電気的に絶縁し、間隔dが0.5mmに保たれた上述の一対の電極(アルミ板)11の間(すなわち、枠12の内)に、先に得られた混合物(II)を流し入れた(型入れ工程)。
次いで、アルミ板間に0.5kV/mmの電圧を印加しながら室温で10分間予備硬化させた後、100℃で60分間加熱処理し、シート状のERゲル(ERゲルシート)を得た(硬化工程)。
その後、上部アルミ板を取り外し、ERゲル表面に油取り紙を乗せ、室温下で7日間、ERゲルより滲みでてくるジメチルシリコーンオイルを除去した(除去工程)。ジメチルシリコーンオイルを除去することで、ERゲルシート表面は乾いており、オイルの滲みは認められなかった。
なお、白金触媒Aとは、白金濃度が12.0質量%である白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を、SH−200(10)(東レ・ダウコーニング社製、室温(25℃)における動粘度が10mm/sのジメチルポリシロキサン)で、白金濃度0.3質量%に希釈することで得られたものである。
以上の配合比率を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
<評価>
(ERゲル特性評価1:剪断応力の評価)
ERゲル特性評価には図6に示すERゲル特性評価装置20を用いた。ERゲル特性評価装置20には、一対の電極11(上部アルミ板11aと下部アルミ板11b)と、該電極11に挟持されたERゲルシート15よりなる両側電極ERゲル素子16を支持する基部21と、モーター22と、マイクロメーター23と、ロードセル24と、渦電流式変位計25と、高圧電源26と、アンプ27と、動歪み計28と、A/Dインターフェイス29と、記録装置30とを有している。
両側電極ERゲル素子16を、下部アルミ板電極11bは基部21に固定し、上部アルミ板11aはスライドできるようにERゲル特性評価装置20に設置した。ERゲルシート15に0kV/mm、0.5kV/mm、1.0kV/mm、1.5kV/mmの電圧を印加した状態で上部アルミ板11aを600μmスライドさせ、この時の上部アルミ板11aの変位量(スライドした長さ)を渦電流式変位計25により確認し、剪断応力をロードセル24により測定した。各電圧における剪断応力を表2に示す。
【0057】
(ERゲル特性評価2:ER粒子の配列性の評価)
ERゲルシート表面におけるER粒子の配列評価を、以下のようにして行った。
ERゲルシート表面の中央部および端部について、CCDデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、「VHX−600」)を使用し、一片が50μmの格子(セル)内に存在するER粒子の個数を数えた。セルは中央部と端部にて各々12個設け、各セルについてER粒子の個数を数え、その平均値と標準偏差を求めた。結果を表3に示す。
【0058】
[実施例2]
硬化工程において、アルミ板間に印加する電圧を1.5kV/mmにした以外は、実施例1と同様にしてERゲルシートを作製し、評価を行った。結果を表2、3に示す。
【0059】
[比較例1]
硬化工程において、アルミ板間に電圧を印加しなかった以外は、実施例1と同様にしてERゲルシートを作製し、評価を行った。結果を表2、3に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
表2より明らかなように、ERゲルシートに電圧を印加しない0kV/mmの場合は、剪断応力は発生せず、上部アルミ板はスライドしやすいことが分かった。一方、電圧を印加すると、電圧が大きくなるに連れて剪断応力が増加し、ER効果が発現されていることが分かった。特に、アルミ板間に電圧を印加して作製した実施例のERゲルシートは、アルミ板間に電圧を印加せずに作製した比較例のERゲルシートに比べて、比べ著しく大きな剪断応力が発生した。これは、ER粒子が電界に沿って配列したためと考えられる。
また、表3より明らかなように、実施例のERゲルシートの表面には、比較例のERゲルシートに比べて多くのER粒子が存在しており、ER粒子の分散の偏りが小さく、均一性が高いことが分かった。これは、ER粒子が電極付近に集まったことによるものと考えられる。
【0063】
[実施例3]
<混合溶液A、離型剤Aの製造方法>
実施例1と同様にして、混合溶液A、離型剤Aを製造した。
<ERゲルの製造方法:片側電極ERゲル素子>
ERゲルを製造する際に用いる型として、図7に示すように、ベークライト板17と、ERゲルの摺動面と接する上部アルミ板18とでERゲルシート15を挟持する片側電極ERゲル素子19が得られるような型を用いた。ベークライト板17の表面には、図2に示すような銅製の対向電極13がエッチング法により形成されており、上部アルミ板18には、上述の方法で得られた離型剤Aを硝子棒で塗布し、100℃、5分の条件で離型化処理が施されている。
なお、型はそのまま片側電極ERゲル素子として用いた。
【0064】
混合溶液Aを撹拌下、室温で5分間減圧脱気した後、式(1−1)で示される化合物と、式(2−1)で示される化合物と、白金触媒Aとをプロペラミキサーで均一に混合し混合物(II)を得た(添加工程(I)、(II))。
厚さ0.5mmのシリコーン枠を用いて、上述したベークライト板17と上部アルミ板18の間に、先に得られた混合物(II)を流し入れた(型入れ工程)。
次いで、ベークライト板17上の対向電極13間に1.0kV/mmの電圧を印加しながら室温で10分間予備反応させた後、100℃で60分間加熱処理し、シート状のERゲル(ERゲルシート)を得た(硬化工程)。
その後、上部アルミ板を取り外し、ERゲル表面に油取り紙を乗せ、室温下で5日間、ERゲルより滲みでてくるジメチルシリコーンオイルを除去した(除去工程)。ジメチルシリコーンオイルを除去することで、ERゲルシート表面は乾いており、オイルの滲みは認められなかった。
なお、白金触媒Aと、各成分の配合比率は実施例1と同様である。
【0065】
<評価>
実施例1と同様にして、剪断応力とER粒子の配列性の評価を行った。結果を表4、5に示す。
なお、剪断応力の評価の際には、ベークライト板を基部に固定し、上部アルミ板をスライドできるようにER特性評価装置1に設置した。
【0066】
[比較例2]
硬化工程において、ベークライト板上の対向電極に電圧を印加しなかった以外は、実施例3と同様にしてERゲルシートを作製し、評価を行った。結果を表4、5に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
表4より明らかなように、ERゲルシートに電圧を印加しない0kV/mmの場合は、剪断応力は発生せず、上部アルミ板はスライドしやすいことが分かった。一方、電圧を印加すると、電圧が高くなるに連れて剪断応力が増加し、ER効果が発現されていることが分かった。特に、ベークライト板上の対向電極に電圧を印加して作製した実施例のERゲルシートは、ベークライト板上の対向電極に電圧を印加せずに作製した比較例のERゲルシートに比べて、著しく大きな剪断応力が発生した。これは、ER粒子が電界に沿って配列したためと考えられる。
また、表5より明らかなように、実施例のERゲルシートの表面には、比較例のERゲルシートに比べて多くのER粒子が存在しており、ER粒子の分散の偏りが小さく、均一性が高いことが分かった。これは、ER粒子が電極付近に集まったことによるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】型入れ工程において用いる型の一例を示す斜視図である。
【図2】電極の一例を示す図である。
【図3】シリコーンオイル中のER粒子の配列の一例を示す縦断面図である。
【図4】シリコーンオイル中のER粒子の配列の他の例を示す縦断面図である。
【図5】シリコーンオイル中のER粒子の配列の他の例を示す縦断面図である。
【図6】ER特性評価で用いたER特性評価装置の概略図である。
【図7】実施例3で用いた型を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0071】
10:型、11:電極、11a:上部アルミ板、11b:下部アルミ板、12:枠、13:櫛歯電極、14:ER粒子、15:ERゲルシート、16:両側電極ERゲル素子、17:ベークライト板、18:上部アルミ板、19:片側電極ERゲル素子、20:ERゲル特性評価装置、21:基部、22:モーター、23:マイクロメーター、24:ロードセル、25:渦電流式変位計、26:高圧電源、27:アンプ、28:動歪み計、29:A/Dインターフェイス、30:記録装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル骨格中にシリコーンオイルが分散し、該シリコーンオイル中に電気レオロジー粒子が配列していることを特徴とする電気レオロジーゲル。
【請求項2】
電気レオロジー粒子をシリコーンオイルに分散させる分散工程と、シリコーンオリゴマーと架橋剤を添加し、均一化して混合物(I)を得る添加工程(I)と、該混合物に触媒を添加し、均一化して混合物(II)を得る添加工程(II)と、該混合物(II)を型に流し入れる型入れ工程と、電圧を印加し、さらに前記シリコーンオリゴマーを硬化させる硬化工程とを有することを特徴とする電気レオロジーゲルの製造方法。
【請求項3】
前記混合物(I)を型に流し入れた後に、前記触媒を添加することを特徴とする請求項2に記載の電気レオロジーゲルの製造方法。
【請求項4】
前記硬化工程の後に、前記シリコーンオイルの一部を除去する除去工程を有することを特徴とする請求項2または3に記載の電気レオロジーゲルの製造方法。
【請求項5】
前記硬化工程において、0.1〜7kV/mmの電圧を印加することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の電気レオロジーゲルの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−266407(P2008−266407A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109200(P2007−109200)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】