説明

電気二重層用電極活物質の製造方法および電気二重層キャパシタ

【課題】電極単位体積当たりの静電容量を高めた電気二重層用電極活物質の製造方法および電気二重層キャパシタに関する。
【解決手段】石炭系重質油、石油系重質油及びそれらからなる樹脂を熱処理して得られるタールのうちから選ばれた1または2以上のタールを由来とするメソフェーズピッチと、炭素微粒子とを混合してなる混合物を有機溶剤で抽出処理するときの抽出残分を電極活物質に用いることを特徴とする。また、上記の電気二重層キャパシタ電極活物質の製造方法によって得られ、炭素に対する水素の原子比(H/C)が0.35〜0.42の範囲内に、さらに比表面積が5〜65m/gの範囲内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極単位体積当たりの静電容量を高めた電気二重層用電極活物質の製造方法および電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、蓄電デバイスの一種であり、導電材料からなる電極の界面にイオンを吸脱着させることで電気を充放電する。イオンは電極界面に吸着することから、導電材料として高比表面積の活性炭等の多孔質炭素材料が主に使用されている。電気二重層キャパシタは、これまで、小型電子部品用永久電源として商品化されてきたが、近年、ハイブリッド自動車(HEV)用電源としても使用が検討されており、HEV用とでは、低価格化と高性能化、特に単位体積当たりの高容量化が望まれている。
【0003】
かかる高性能化要求に対し、電気二重層キャパシタの電極活物質として使用される多孔質炭素材料に関してさまざまな提案がなされており、その中でも、炭素材料を賦活したものを電極活物質として用いる技術が数多く提案されてきた。例えば、椰子殻炭等を水蒸気存在下1000℃程度で加熱し、水成ガス化を用いて賦活する水蒸気賦活法が提案されている。しかしながら、この方法は一般に多孔質炭素材料の歩留が低い。また、比表面積を高めると、水蒸気賦活炭の嵩密度が低下し、体積当たりの高容量化が困難になる。
【0004】
また、アルカリ金属酸化物を酸化剤に用いるアルカリ賦活法が知られている。この方法で、例えば3000〜4500m/g程度の高い比表面積を持つ活性炭が得られるが、この方法は、副生アルカリ金属が高反応性を持つことによる反応器の腐食や安全性の点で工業生産上の課題がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
これに対して、特定の処理を施した炭素材料を用いて賦活処理する技術も開示されている。例えば、熱処理前のピッチ類に2〜3環の軽沸点油を添加剤として混合・成形した後、ピッチ成形体を得、ついで、添加剤を選択的に溶解する溶剤で軽沸点油のみを抽出除去した後、酸化剤を用いて不融化し、得られる不融性の多孔性のピッチ成形体に炭化・賦活処理を施す方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。この方法によれば、不融化した多孔性のピッチ系前躯体(ピッチ成形体)において、ピッチ中の成分の多様化が促進され、微細孔表面に難黒鉛化性炭素前躯体層が優先的に存在し、炭素化、ならびに賦活過程において、これら難黒鉛化性炭素前躯体層が優先的に消失して、比較的低い賦活処理レベルメでより黒鉛リッチの微細構造が形成され、この黒鉛リッチの微細構造、比較的低い電気抵抗を有し比較的高い密度の電気二重層キャパシタ材料として有効に機能するものと推定されている。しかしながら、上記の製造方法により得られる炭素材は、溶剤を用いた抽出処理によって、ピッチは殆ど溶解せず、添加剤のみを抽出することで、元来非多孔質であるピッチ成形体を多孔質化し、さらに、炭化・賦活処理によってより多孔質化するものであるため、前記した他の賦活処理技術の場合と同様に、炭素材の嵩密度が低下し、体積当たりの高容量化が困難になるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平02―252227号公報
【特許文献2】特開平11―214270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の賦活処理を伴う電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法では、特許文献2のものを含め、電極単位体積当たりの高容量化を得ることが困難である。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、安価で且つ電極単位体積当たりの静電容量が高い電気二重層キャパシタを得ることができる電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法および電気二重層キャパシタ用電極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法は、石炭系重質油、石油系重質油及びそれらからなる樹脂を熱処理して得られるタールのうちから選ばれた1または2以上のタールを由来とするメソフェーズピッチと、炭素微粒子とを混合してなる混合物を有機溶剤で抽出処理するときの抽出残分を電極活物質に用いることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法は、好ましくは、前記有機溶剤が、トルエンまたはトルエンと同等以上の前記メソフェーズピッチ溶解力を有する溶剤であることを特徴とする。さらに、本発明に係る電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法は、好ましくは、前記の有機溶剤が、少なくともテトラヒドロフラン、ピリジンまたはキノリンを含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る電気二重層キャパシタは、上記の電気二重層キャパシタ電極活物質の製造方法によって得られ、炭素に対する水素の原子比(H/C)が0.35〜0.42の範囲内にある電気二重層キャパシタ用電極活物質を用いることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る電気二重層キャパシタは、上記の電気二重層キャパシタ電極活物質の製造方法によって得られ、比表面積が5〜65m/gの範囲内にある電気二重層キャパシタ用電極活物質を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のような本発明によれば、従来技術のような賦活処理を必要とせず、電極単位体積当たりの静電容量が高い電気二重層キャパシタを得ることができる。また、本発明の電気二重層キャパシタ電極活物質の製造方法を用いた電気二重層キャパシタでも、同様の効果を好適に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態におけるシート電極の充電電圧と容量密度の関係を表したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電気二重層用電極活物質の製造方法および電気二重層キャパシタの実施例を図面を参照して説明する。なお、背景技術や課題で既に説明した内容と共通の前提事項は適宜省略する。
【0016】
本実施の形態に係る電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法は、石炭系重質油、石油系重質油及びそれらからなる樹脂を熱処理して得られるタールのうちから選ばれた1または2以上のタールを由来とするメソフェーズピッチと、炭素微粒子とを混合してなる混合物を有機溶剤で抽出処理するときの抽出残分を電極活物質に用いるものである。
【0017】
[メソフェーズピッチ]
本実施形態で使用するメソフェーズピッチは、
(1)石炭系重質油
(2)石油系重質油
(3)(1)(2)の一方または双方の重質油からなる樹脂
を熱処理して得られるタールのうちから選ばれた1または2以上のタール由来のメソフェーズピッチが好ましい。また、これらのメソフェーズピッチをさらに熱処理して得られるメソフェーズピッチであってもよい。なお、重質油やタール油は、一次キノリン不溶分(QI)と呼ばれる成分を含む場合がある。この一次QIは、不純物を含むことがあるため、高純度の電極活物質を得る観点からは、一次QIを予め遠心分離あるいは精密ろ過器で除去した後、熱処理によってメソフェーズピッチ製造するのが好ましい。
【0018】
[炭素微粒子]
本実施形態で使用する炭素微粒子は、その種類を限定するものでないが、蓄熱した炉の中でガスの燃焼と分解を繰り返して製造した炭素微粒子であるサーマルブラック(以下、TCBとする)を用いることが好ましい。また、炭素微粒子を単体で使用するだけでなく、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーとも呼ばれる直径がナノメートルオーダーの繊維状の炭素材料である気相成長繊維(VGCF)と混合して使用することもできる。
【0019】
[有機溶剤]
本実施形態で使用する有機溶剤は、その種類を限定するものでないが、電極用活物質を用いて非水系電気二重層キャパシタを構成したとき、電極用活物質から電解液への油分の溶出を避ける必要があることから、トルエンまたはトルエンと同等以上の、重質油等の炭素前駆体溶解力を有する溶剤を用いることが好ましい。このようなトルエンと同等以上の炭素前駆体溶解力を有する有機溶剤として、窒素含有複素環化合物であるキノリン、ピリジン、テトラハイドロフラン(THF)等を挙げることができる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、また、混合して用いても良い。
ここで、抽出残分となる例えばトルエン不溶分(以下TI)とはJIS K 2425で定義されるものとする。キノリン不溶分以下QI)、その他の溶剤不溶分についても、上記JIS K 2425の分析法に準ずるものとする。
【0020】
[抽出処理]
有機溶剤を使って炭素前駆体を抽出処理するには、適宜の方法を用いることができ、例えば、ソックスレー抽出法を用いることができる。
また、有機溶剤を使って炭素前駆体を抽出処理するに際し、予め、適宜の方法で粉砕した炭素前駆体を用いてもよい。
また、有機溶剤を使って炭素前駆体を抽出処理するに際し、加熱して抽出温度を高くすると、溶解速度や溶解力を上げるうえで好ましい。
また、抽出処理を多段階で行なってもよく、例えば、トルエンで抽出した後、さらに、溶解力の強い例えばキノリン等で抽出してもよい。
【0021】
抽出処理後の抽出残分を回収するには、適宜の分離方法を用いることができ、例えば、遠心分離、ろ過法などが使用される。
【0022】
得られる電極活物質は、熱処理による脱溶剤を行なってもよい。例えば、不活性雰囲気下、300〜400℃に加熱してもよく、さらにまた、酸等で洗浄し、重金属等の不純物を除去してもよい。
また、電極活物質は、用途に応じ、適宜の方法で粉砕・分級等を行い、粒度を調整してもよい。
【0023】
以上説明した本実施の形態例に係る電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法によれば、電極単位たて席当たりの静電容量が高い電気二重層キャパシタを得ることができる。また、このとき、従来技術のような賦活処理を必要としない。
【0024】
[電気二重層キャパシタ]
本実施の形態に係る電気二重層キャパシタは、上記の電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法によって得られ、炭素に対する水素の原子比(H/C)が0.35〜0.42の範囲内で、且つ、BET比表面積が5〜65m/gにある電気二重層キャパシタ用電極活物質である。本実施の形態例に係る電気二重層キャパシタは、特に非水系電気二重層キャパシタ用途に適している。
【0025】
[実施例]
以下、本実施の形態例に係る電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法および電気二重層キャパシタの実施例を説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものでない。
【0026】
(実施例―1)
(電極活物質の調製)
活性炭前駆体として用いるコールタール系メソフェーズピッチ(以下、CTPmpとする)はメソフェーズ含有量が100%である。炭素微粒子としてサーマルブラック(以下、TCBとする)をディスクミルで解粒したものを用いる。
解粒したTCBとCTPmpを、質量比で5〜10:90〜95の比で取り、攪拌羽根付きの加熱槽で、230℃で5時間、攪拌混合した。つづいて、この混合物を冷却し、ペレット状にした。さらにこのペレットを32メッシュ以下に粉砕した後、混合物粉末20gに対し、200gのピリジン中、60℃で6時間煮沸した。煮沸後、遠心分離機でピリジン溶液を除いた後、新たにピリジンを加えて、ピリジンが着色しなくなるまで上記操作を繰り返した。その後、残渣を回収し、真空中、110℃で6時間乾燥し、活物質―1を得た。
【0027】
(シート電極の調製)
活物質、三井デュポンフルオロケミカル社製PTFE−J(登録商標)およびライオン製ケッチェンブラックEC600JD(登録商標)を重量比8:1:1で混合・分散し、シート化して厚み100μmのシート電極を得た。シート電極は、直径16mmφの円盤状に打ち抜き、120℃で8時間減圧乾燥した。
【0028】
(テストセルの調製)
市販のガラス繊維製ろ紙をセパレータに用い、上記シートを用いて2極式のテストセルを組んだ。テストセルには、宝泉製HSフラットセルを用いた。電解液は、富山薬品工業株式会社製の1モル/kgトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオーブルマイド(TEMABF)を含有するスルホランとエチルメチルカーボネート混合溶液を用いた。シート電極は、充放電前に、電解質液を減圧下3時間含浸させた。
【0029】
(静電容量の測定)
上記2極式セルで、充放電装置としてナガノ製充放電装置(BTS2004W)を用い、所定電圧を印加し、100mA/gで5回充放電させ、5回目の放電工程の電流―電圧曲線の傾きから静電容量を測定した。なお、所定電圧は、2.7V、3.0V、3.3V、3.6V、4.0Vに設定して測定した。
【0030】
(静電容量の算出)
テストセルに装入されたシート電極の重量W(g)とし、充放電電流IをI=100mA/g*Wと設定した。
次式で、静電容量C(単位:F)を求めた。
C=I*(T2−T1)/(V1−V2)
V1:充電電圧80%となる値(単位:V)
V2:充電電圧40%となる値(単位:V)
T1:V1における時間(単位:sec)
T2:V2における時間(単位:sec)
I:放電電流(単位:A)
得られた静電容量Cを正負極のシート電極体積(含浸工程前に測定する)の和で割って体積毎静電容量(単位体積当たりの静電容量 単位:F/cc)を算出した。これらの結果を図1に示す。以下の他の実施例についても同様である。
【0031】
(実施例―2)
実施例―1で使用したサーマルブラック(TCB)に対し、気相成長繊維(VGCF)とCTPmpを加熱、攪拌混合し、ピリジンで煮沸処理した残渣を回収し、真空中、110℃で6時間乾燥し、活物質―2を得た。得られた活物質―2は実施例―1と同様に処理し、測定評価した。
【0032】
(比較例−1)
実施例―1で使用したTCBを使用せずにCTPmpを加熱、攪拌し、ピリジンで煮沸処理した残渣を回収し、真空中、110℃で6時間乾燥し、比較活物質―1を得た。
得られた比較活物質―1は実施例―1と同様に処理し、測定評価した。
【0033】
(測定評価)
図1は、実施例1,2及び比較例1における、充電電圧と容量密度の関係を表したグラフである。このグラフからは、充電電圧2.7V〜4.0Vの範囲において、実施例1,2の容量密度は、比較例1の容量密度より高くなることが判る。すなわち、実施例1,2の活物質を利用し電気二重層キャパシタとするとこで、電極単位体積当たりの静電容量が高い電気二重層キャパシタを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭系重質油、石油系重質油及びそれらからなる樹脂を熱処理して得られるタールのうちから選ばれた1または2以上のタールを由来とするメソフェーズピッチと、炭素微粒子とを混合してなる混合物を有機溶剤で抽出処理するときの抽出残分を電極活物質に用いることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶剤が、トルエン、テトラヒドロフラン、ピリジンまたはキノリンを含むことを特徴とする請求項1に記載の電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法によって得られ、炭素に対する水素の原子比(H/C)が0.35〜0.42の範囲で、且つ、比表面積が5〜65m/gの範囲にある電気二重層キャパシタ用活物質を用いることを特徴とする電気二重層キャパシタ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−216635(P2012−216635A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80092(P2011−80092)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)
【Fターム(参考)】