説明

電気亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】高い白色度を有した電気亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】ベンゾチアゾール、2−メチルベンゾチアゾール、2−アミノベンゾチアゾール、2−ベンゾチアゾロンの1種又は2種以上を合計で0.01〜3mass ppm含有する電気亜鉛めっき浴中で、鋼板を陰極電解処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い白色度を有する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化成処理電気亜鉛めっき鋼板は家電製品、自動車、建材等の広範な用途で使用されている。中でも、近年、無塗装で使用される各種化成処理電気亜鉛めっき鋼板の需要が増大しており、重要な用途分野となっている。この用途では無塗装で使用されるために表面外観に優れることが要求される。優れた表面外観の条件としては、ムラ等の表面欠陥が無いことに加え、白色度が高いことである。そして、各種化成処理後の外観は化成処理前の亜鉛めっきの外観に大きく左右されるため、白色度が高い亜鉛めっき鋼板を得ることが求められている。
【0003】
電気亜鉛めっき処理の条件の適正化を図ることで、白色度の向上を図る技術として特許文献1〜4が開示されている。
特許文献1、2には、無機イオンを添加し、電解処理する亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。
特許文献3には、めっき浴にグリシン、アスパラギン酸、カルボン酸基のいずれかを二つ以上有するカルボン酸またはその塩を添加し、鋼板を電解処理する亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。
特許文献4には、めっき浴に2−ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物を添加し、鋼板を陰極電解処理する亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−195082号公報
【特許文献2】特開平3−294496号公報
【特許文献3】特開平8−74089号公報
【特許文献4】特開2007−297646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2では、めっき皮膜中に無機物が共析し、めっき皮膜の耐食性が劣化するなど、亜鉛めっき本来の特性が変化してしまうという欠点がある。
特許文献3では、電気めっき時に電流効率が大きく低下し、製造コストアップを招く等の問題がある。
特許文献4では、耐食性にも優れ、亜鉛めっき本来の特性が変化することもなく、電気めっき時に電流効率が大きく低下することもなく、特許文献1、2、3の問題は解決される。しかしながら、特許文献4では電気亜鉛めっき浴を3日間程度攪拌することにより2−ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物がめっき浴中で反応してしまい、安定して白色化の効果が発揮されないという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑み、安定して高い白色度を有した電気亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した特許文献4の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた。
ベンゾチアゾール、2−メチルベンゾチアゾール、2−アミノベンゾチアゾール、2−ベンゾチアゾロンの1種又は2種以上(これらをまとめて有機化合物と称することもある)を含有しためっき浴を用いた場合、ベンゾチアゾール、2−メチルベンゾチアゾール、2−アミノベンゾチアゾール、2−ベンゾチアゾロンの1種又は2種以上を含有しないめっき浴を用いた場合と比べて亜鉛めっき結晶の凹凸の深さが小さくなることがわかった。
このメカニズムとしては、上記有機化合物は電解処理時に亜鉛めっき表面に吸着し、亜鉛めっきの結晶成長を阻害し、また二次結晶の発生を促進する。これにより、亜鉛の結晶形態を変化させ、亜鉛めっき結晶の凹凸の深さが小さくなる。このために、凹凸の深い部分での光の吸収が少なく、拡散反射光が増加し、外観上明るく見える(白色度が向上する)、と考えられる。
また、ベンゾチアゾール、2−メチルベンゾチアゾール、2−アミノベンゾチアゾール、2−ベンゾチアゾロンの1種又は2種以上の添加量範囲を限定することにより、安定して白色度の高い電気亜鉛めっき鋼板が得られることもわかった。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]ベンゾチアゾール、2−メチルベンゾチアゾール、2−アミノベンゾチアゾール、2−ベンゾチアゾロンの1種又は2種以上を合計で0.01〜3mass ppm含有する電気亜鉛めっき浴中で、鋼板を陰極電解処理することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安定して白色度の高い電気亜鉛めっき鋼板が得られる。
そして、他の特性が大きく変化してしまう、あるいは電流効率が大きく低下してしまうなどの問題も生じない。
また、めっき処理後だけでなく、電気亜鉛めっき処理後にクロメート型またはクロメートフリー型の各種化成処理(塗布型、反応型、電解型)や更にその上に樹脂被覆処理等を実施した鋼板についても高い白色度を有しており、表面外観に優れた電気亜鉛めっき鋼板が得られることになる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の対象とする電気亜鉛めっき鋼板は、酸性浴を用いて陰極電解処理することにより得られる電気亜鉛めっき鋼板である。性能面(耐食性、加工性、白色度等)と操業面のバランスから、めっき皮膜中の亜鉛含有量の好ましい範囲は98mass%以上である。
【0011】
そして、本発明では、前記電気亜鉛めっき鋼板を陰極電解処理により製造するにあたり、ベンゾチアゾール、2−メチルベンゾチアゾール、2−アミノベンゾチアゾール、2−ベンゾチアゾロンの1種又は2種以上を合計で0.01〜3mass ppm含有する電気亜鉛めっき浴を用いることとする。
【0012】
以下に、本発明の詳細について説明する。
めっき浴中には、以下に示すベンゾチアゾール、2−メチルベンゾチアゾール、2−アミノベンゾチアゾール、2−ベンゾチアゾロンの1種又は2種以上を合計で0.01〜3mass ppm含有する。
電気亜鉛めっき浴中に含有するベンゾチアゾール、2−メチルベンゾチアゾール、2−アミノベンゾチアゾール、2−ベンゾチアゾロンの1種又は2種以上の合計量が0.01mass ppm未満では、白色度の上昇効果が不十分である。一方、3 mass ppmを超えると、安定した白色度が得られない。また、電流効率が大きく低下してしまう。好ましくは0.01〜1.0 mass ppmである。
【0013】
【化1】

【0014】
陰極電解処理は、電気亜鉛めっき浴中に前記有機化合物を前記濃度範囲で含有することを除き、特に限定されない。例えば、電気亜鉛めっき浴としては硫酸浴、塩酸浴あるいは両者の混合などが適用できる。
【0015】
電気亜鉛めっき浴中の亜鉛含有量は、ZnSO4 として1.0mol/L以上が望ましい。1.0mol/L以上であれば、十分に高い白色度が得られる。
【0016】
また、電気亜鉛めっき浴中にはZnイオンの他、添加剤あるいは不純物として硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の伝導度補助剤、Fe、Ni、Pb、Sn、Co等の金属イオン等を含有しても良い。
【0017】
電気亜鉛めっき浴のその他の条件についても特に限定しない。例えば、相対流速は0〜4.0m/secとすることができる。浴温は、定温保持性を考えると、30℃以上が望ましい。pHは特に規定しないが、浴電導度を考慮すると、3.0以下が望ましい。片面当たりの全めっき付着量も特に限定しないが、通常は5〜40g/m2である。電流密度についても特に限定しないが、通常10〜150A/dm2である。
【0018】
なお、電気亜鉛めっき鋼板の製造において通常行われる、電気亜鉛めっき処理(陰極電解処理)を行う前の処理として、鋼板表面を清浄化するための脱脂処理および水洗、さらには、鋼板表面を活性化するための酸洗処理および水洗を施すことができる。これらの前処理に引き続いて電気亜鉛めっき処理(陰極電解処理)を実施する。
脱脂処理および水洗方法は特に限定しない。通常の方法を用いることができる。
酸洗処理においては、硫酸、塩酸、硝酸、及びこれらの混合物等各種の酸が使用できる。中でも、硫酸、塩酸あるいはこれらの混合が望ましい。酸の濃度は特に規定しないが、酸化皮膜の除去能力、過酸洗による肌荒れ防止等を考慮すると、1〜20 mass%程度が望ましい。また、酸洗処理液には、消泡剤、酸洗促進剤、酸洗抑制剤等を含有しても良い。
【0019】
電気亜鉛めっき処理(陰極電解処理)後、耐食性、耐疵付き性、加工性等の各種性能の更なる向上を目的として、クロメート又はクロメートフリー処理(塗布型、反応型、電解型)を行う。更にはその上に樹脂被覆処理等を実施することもできる。化成処理皮膜の種類については特に限定せず、公知の手法を用いることが出来る。例えば、クロメートフリー化成処理液を塗布し水洗することなく鋼板温度として80〜300℃となる加熱乾燥処理を行うクロメートフリー化成処理により形成される。さらに具体的には、第一リン酸、シリカ、及びMn、Mg、V、Zr、Tiなどを含有する処理液をバーコーターで塗布した後、100〜160℃で乾燥させる手法などが用いられる。これら化成処理皮膜は単層でも複層でもよく、複層の場合には複数の化成処理を順次行えばよい。
なお、このような化成処理を施した電気亜鉛めっき鋼板でも本発明の効果が最大限発揮される。化成処理後の鋼板を無塗装で使用する場合、外観は電気亜鉛めっき後(化成処理前)の外観に大きく左右される。このような化成処理後の鋼板を無塗装で使用する場合に、本発明の方法により製造した電気亜鉛めっき鋼板を使用することにより、高い白色度を有することになる。
【0020】
また、本発明の製造方法により製造される電気亜鉛めっき鋼板は、用途に応じて、化成処理皮膜の表面には有機樹脂を含有する単層又は複層の塗膜を形成することができる。この塗膜としては、例えば、ポリエステル系樹脂塗膜、エポキシ系樹脂塗膜、アクリル系樹脂塗膜、ウレタン系樹脂塗膜、フッ素系樹脂塗膜等が挙げられる。また、上記樹脂の一部を他の樹脂で変性した、例えばエポキシ変性ポリエステル系樹脂塗膜等も適用できる。さらに上記樹脂には必要に応じて硬化剤、硬化触媒、顔料、添加剤等を添加することができる。
【0021】
上記塗膜を形成するための塗装方法は特に規定しないが、塗装方法としてはロールコーター塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装等が挙げられる。有機樹脂を含有する塗料を塗装した後、熱風乾燥、赤外線加熱、誘導加熱等の手段により加熱乾燥して塗膜を形成することができる。
ただし、上記表面処理鋼板の製造方法は一例であり、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
常法で製造した板厚0.7mmの冷延鋼板に対して、アルカリでの脱脂処理および酸洗処理を施し、次いで、以下の条件で、かつ、表1に示す条件で、鋼板を陰極として電解処理を行い、電気亜鉛めっき鋼板を製造した。電気亜鉛めっき浴に有機化合物を添加した後、1時間撹拌後又は3日間撹拌後に陰極電解処理を行った。なお、一部のものについては、電気めっき浴中に有機化合物を添加せずに上記の陰極電解処理を実施した。また、片面あたりの亜鉛めっき付着量は、亜鉛めっきを希硫酸で溶解し、溶解液中の亜鉛濃度をICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析装置により測定し、付着量に換算して求めた。
電解条件
有機物含有量、浴温、pH、電流密度:表1に示す
電気亜鉛めっき浴:Zn2+イオンを1.5mol/L含む
相対流速:1.5m/s
電極(陽極):酸化イリジウム電極
以上より得られた電気亜鉛めっき鋼板に対して、以下の測定方法および評価基準に基づき、白色度を測定し評価した。得られた結果を表1に併せて示す。
【0023】
白色度:明度(L値)
分光色差計(日本電色工業(株)製 SD5000)を用いてSCE(正反射光除去)により、白色度を測定し、以下のように評価した。
◎:L値85以上
○:L値82以上、85未満
×:L値82未満
【0024】
【表1】

【0025】
表1より、本発明例では有機化合物を添加した後1時間撹拌後、3日間撹拌後いずれにおいてもL値が高い、すなわち白色度が高い電気亜鉛めっき鋼板が安定して得られているのがわかる。また、本発明例では耐食性にも優れ、亜鉛めっき本来の特性が変化することもなかった。さらに本発明例では電気めっき時に電流効率が大きく低下することもなかった。
一方、比較例では、L値が低い。また、電気亜鉛めっき浴に2−ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物を添加し、鋼板を陰極電解処理した比較例では、3日間撹拌後の白色度が劣っている。これは、2-ベンゾチアゾリルチオ基のチオール基(O-SHの部分)が酸化され、二量体(O-S-S-O)となり、沈殿してしまったため、すなわち、電気亜鉛めっき浴中で反応してしまったためである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の電気亜鉛めっき鋼板は表面外観に優れ、無塗装で問題なく使用することができる。そのため家電製品、自動車、建材等の広範な用途での使用が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゾチアゾール、2−メチルベンゾチアゾール、2−アミノベンゾチアゾール、2−ベンゾチアゾロンの1種又は2種以上を合計で0.01〜3mass ppm含有する電気亜鉛めっき浴中で、鋼板を陰極電解処理することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2013−79421(P2013−79421A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219718(P2011−219718)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】