説明

電気亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】電流効率の低下を抑え、高い白色度を有する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上が合計で0.01mass ppm未満の電気亜鉛めっき浴中で電気亜鉛めっき処理を行う。次いで、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上を合計で0.01〜3 mass ppm含有する電気亜鉛めっき浴中で亜鉛付着量がめっき層全体の1〜50%となるように電気亜鉛めっき処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色度の高い電気亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気亜鉛めっき鋼板は家電製品、自動車、建材等の広範な用途で使用されている。中でも、近年、無塗装で使用される家電用途向け各種化成処理電気亜鉛めっき鋼板の需要が増大しており、重要な用途分野となっている。この用途では無塗装で使用されるために表面外観に優れることが要求される。優れた表面外観の条件としては、ムラ等の表面欠陥が無いことに加え、白色度が高いことである。そして、各種化成処理後の外観は化成処理前の亜鉛めっきの外観に大きく左右されるため、白色度が高い亜鉛めっき鋼板を得ることが求められている。
【0003】
電気亜鉛めっき条件の適正化を図ることで、白色度の向上を図る技術として特許文献1が挙げられる。特許文献1には、めっき浴に2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物を添加し、鋼板を陰極電解処理する亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-297646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、電気めっき浴中に2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物を添加することにより、僅かながら電流効率は低下する。その為に所定のめっき量を得るための電気量が多くなり、電力費が増大して、結果的に電気亜鉛めっき鋼板の製造コストが上がってしまう。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑み、電流効率の低下を抑え、高い白色度を有する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、白色度が高い亜鉛めっき鋼板を得るべく、鋭意研究を重ねた。そして、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上を合計で0.01〜3mass ppm含有する電気亜鉛めっき浴中で鋼板を陰極電解処理することにより、耐食性を低下させることなく光沢化を生じさせずに、高い白色度を有する電気亜鉛めっき鋼板が得られることを見出し、特許文献1として出願を行った。しかし、上述したように、電流効率が低下し、その結果、電気亜鉛めっき鋼板の製造コストが上がってしまう。
【0008】
そこで、電流効率の低下を抑制しつつ、白色度の高い電気亜鉛めっき鋼板を得るため、さらなる研究を行った。その結果、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物を含有する電気亜鉛めっき浴中で電気亜鉛めっき処理を行う場合に、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上の含有量が合計で0.01mass ppm未満であれば、電流効率が低下しないことを見出した。
【0009】
そして、上記知見をもとに、ア)2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上が合計で0.01mass ppm未満の電気亜鉛めっき浴での電気亜鉛めっき処理と、イ)2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上を合計で0.01〜3 mass ppm含有する電気亜鉛めっき浴での電気亜鉛めっき処理を組み合わせることが電流効率の低下を抑え、高い白色度を有する電気亜鉛めっき鋼板を製造する上で有効と考えた。電流効率の低下を最小限に抑えるためには、上記ア)の電気亜鉛めっき処理でめっき付着量を多くし、上記イ)の電気亜鉛めっき処理でのめっき付着量を相対的に少なくするのが有効である。そこで、上記ア)の電気亜鉛めっき処理でのめっき付着量をめっき層全体の90%、上記イ)の電気亜鉛めっき処理でのめっき付着量をめっき層全体の10%として、どの様な順序で電気亜鉛めっき鋼板を製造するのが電流効率の低下の抑制と高い白色度を有する点から最も有効であるかを調査した。
【0010】
実験の条件は以下の通りである。なお、電流効率および白色度の測定方法、評価は後述する実施例と同様である。
電気めっき条件:相対流速1.5m/s、電流密度:100A/dm2
上記ア)の電気亜鉛めっき処理条件 めっき浴:2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物を含有しない、Zn2+イオン1.5mol/lの硫酸酸性浴(pH2.0、温度50℃)
上記イ)の電気亜鉛めっき処理条件 めっき浴:2-メルカプトベンゾチアゾールのNa塩を0.5 mass ppm含有する、Zn2+イオン1.5mol/lの硫酸酸性浴(pH2.0、温度50℃)
以上より得られた実験結果を表1に示す。
【0011】
【表1】

【0012】
表1から、条件A、すなわち、上記ア)で電気亜鉛めっき処理を実施した後で、その上層に上記イ)で電気亜鉛めっき処理を行う方法が、電流効率の低下を抑制し、白色度の高い亜鉛めっき鋼板を得る点から有効であることがわかった。
【0013】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1] 2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上が合計で0.01mass ppm未満の電気亜鉛めっき浴中で電気亜鉛めっき処理を行った後、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上を合計で0.01〜3 mass ppm含有する電気亜鉛めっき浴中で付着量がめっき層全体の1〜50%となるように電気亜鉛めっき処理を行うことを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[2]前記2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物が2-メルカプトベンゾチアゾール又は2-メルカプトベンゾチアゾールの塩であることを特徴とする[1]の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の濃度を適正に制御することにより、電流効率を大きく低下させることなく、高い白色度を有する電気亜鉛めっき鋼板の製造が得られる。
そして、その結果、表面外観に優れた化成処理電気亜鉛めっき鋼板が得られることになる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の対象とする電気亜鉛めっき鋼板は、酸性浴を用いて電気亜鉛めっき処理することにより得られる鋼板である。性能面(耐食性、加工性、白色度等)と操業面のバランスから、めっき皮膜中の亜鉛含有量の好ましい範囲は98mass%以上である。
【0016】
そして、本発明では、電気亜鉛めっき処理するにあたり、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上が合計で0.01mass ppm未満の電気亜鉛めっき浴中で電気亜鉛めっき処理を行った後、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上を合計で0.01〜3 mass ppm含有する電気亜鉛めっき浴中で付着量がめっき層全体の1〜50%となるように電気亜鉛めっき処理を行うこととする。すなわち、電気亜鉛めっき処理を2工程に分けて実施する。まず、第一工程では、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上が合計で0.01mass ppm未満の電気亜鉛めっき浴中で鋼板を陰極として電解処理して電気亜鉛めっき処理を行う(以下、第一工程と略す)。第二工程では、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上を合計で0.01〜3 mass ppm含有する電気亜鉛めっき浴中で付着量がめっき層全体の1〜50%となるように鋼板を陰極として電解処理して電気亜鉛めっき処理を行う(以下、第二工程と略す)。以上により、電流効率の低下を抑え、高い白色度を有する電気亜鉛めっき鋼板が得られることになる。
【0017】
以下に、本発明の詳細について説明する。
第一工程では、めっき浴中には、以下に示す2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上が合計で0.01mass ppm未満である。
第一工程において、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物を0.01mass ppm以上含有すると、電流効率が低下してしまう。また、第一工程における亜鉛付着量がめっき層全体に対して50%超えとすると、電流効率の低い第二工程における亜鉛付着量の割合が高すぎることがなく、電流効率の低下を招くことがない。さらに、第一工程における亜鉛付着量がめっき層全体に対して99%未満であれば、第二工程における亜鉛付着量の割合が低すぎることがなく、十分な白色度が得られる。よって、第一工程では、亜鉛付着量がめっき層全体の50%超え99%未満となるように電気亜鉛めっき処理を行うことが好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
第二工程では、めっき浴中には、上記に示す2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上を合計で0.01〜3 mass ppm含有する。
第二工程において、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物が0.01mass ppm未満もしくは3mass ppm超えでは十分な白色度が得られない。
また、第二工程における亜鉛付着量がめっき層全体に対して1%未満とすると、十分な白色度が得られない。亜鉛付着量がめっき層全体に対して50%を超えると、電流効率の低い第二工程における亜鉛付着量の割合が高すぎるため、電流効率の低下を招く。よって、第二工程では、亜鉛付着量がめっき層全体の1〜50%となるように電気亜鉛めっき処理を行う。
【0020】
2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物として、以下に示す2-メルカプトベンゾチアゾール又は2-メルカプトベンゾチアゾールの塩を使用することが好ましい。白色度を更に効果的に上昇させることができる。2-メルカプトベンゾチアゾールの塩としては、Na塩、K塩、Zn塩及びCu塩などが例示できる。
【0021】
【化2】

【0022】
電気亜鉛めっき処理は、電気めっき浴中に前記有機化合物を前記濃度範囲で含有し、前述の二段処理することを除き、特に限定されない。例えば、電気めっき浴としては硫酸酸性浴、塩酸酸性浴あるいは両者の混合などが適用できる。電気亜鉛めっき浴中の亜鉛含有量は、ZnSO4として1.0mol/L以上が望ましい。1.0mol/L以上であれば、十分に高い白色度が得られる。また、電気めっき浴中にはZnイオンの他、添加剤あるいは不純物として硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の伝導度補助剤、Fe、Ni、Pb、Sn、Co等の金属イオン等を含有しても良い。電気めっき浴条件についても特に限定しないが、例えば、浴温を30〜70℃、pHを0.5〜4.5、相対流速を0〜4.0m/secとすれば良い。電解電流密度についても特に限定しないが、例えば、10〜150A/dm2とすれば良い。電気亜鉛めっきの付着量についても特に限定しないが、通常は第一工程・第二工程の合計で片面あたり5〜40g/m2 程度である。
【0023】
また、電気亜鉛めっき鋼板の製造においては、通常、電気亜鉛めっき処理を行う前の処理として、鋼板表面を清浄化するための脱脂処理および水洗、さらには、鋼板表面を活性化するための酸洗処理および水洗が施され、これらの前処理に引き続いて電気亜鉛めっき処理を実施する。
脱脂処理および水洗方法は特に限定しない。通常の方法を用いることができる。
酸洗処理においては、硫酸、塩酸、硝酸、及びこれらの混合物等各種の酸が使用できる。中でも、硫酸、塩酸あるいはこれらの混合が望ましい。酸の濃度は特に規定しないが、酸化皮膜の除去能力、過酸洗による肌荒れ防止等を考慮すると、1〜20mass%程度が望ましい。また、酸洗処理液には、消泡剤・酸洗促進剤・酸洗抑制剤等を含有しても良い。
【0024】
電気亜鉛めっき処理後、必要により、耐食性、耐疵付き性、加工性等の各種性能の更なる向上を目的として、クロメート処理又はクロメートフリー処理(塗布型、反応型、電解型)を行う。更にはその上に樹脂被覆処理等を実施することもできる。化成処理皮膜の種類については特に限定せず、公知の手法を用いることが出来る。
なお、これらの処理を施した鋼板についても、本発明の効果は得られることはいうまでもない。特に、これらの処理を施した化成処理鋼板の外観は、無塗装で使用される場合、電気亜鉛めっき後(化成処理前)の外観に大きく左右される。ゆえに、このような化成処理後の鋼板を無塗装で使用する場合に、本発明の方法により製造した電気亜鉛めっき鋼板を使用することにより、高い白色度を有することになる。
【0025】
また、本発明の電気亜鉛めっき鋼板は用途に応じて、化成処理皮膜、さらには、有機樹脂を含有する単層又は複層の塗膜を形成することができる。この塗膜としては、例えば、ポリエステル系樹脂塗膜、エポキシ系樹脂塗膜、アクリル系樹脂塗膜、ウレタン系樹脂塗膜、フッ素系樹脂塗膜等が挙げられる。また、上記樹脂の一部を他の樹脂で変性した、例えばエポキシ変性ポリエステル系樹脂塗膜等も適用できる。さらに上記樹脂には必要に応じて硬化剤、硬化触媒、顔料、その他添加剤等を添加することができる。
【0026】
上記塗膜を形成するための塗装方法は特に規定しないが、塗装方法としてはロールコーター塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装等が挙げられる。有機樹脂を含有する塗料を塗装した後、熱風乾燥、赤外線加熱、誘導加熱等の手段により加熱乾燥して塗膜を形成することができる。
ただし、上記表面処理鋼板の製造方法は一例であり、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
常法で製造した板厚0.7mmの冷延鋼板に対して、アルカリで脱脂処理し、水洗した後、酸洗処理、水洗を施し、次いで、以下の条件で、かつ、表2および化3に示す有機化合物の種類および濃度で、鋼板を陰極として電気亜鉛めっき処理を行った。なお、一部のものについては、電気めっき浴中に有機化合物を添加せずにめっき処理を実施した。また、片面あたりの亜鉛めっき付着量は、亜鉛めっきを希塩酸で溶解し、溶解液中の亜鉛濃度をICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析装置により測定し、付着量に換算して求めた。
電解条件
有機物含有量、電流密度:表2に示す
めっき浴:Zn2+イオン1.5mol/lを含有する硫酸酸性浴
浴温:50℃
pH:2.0
相対流速:1.5m/s
電極(陽極):酸化イリジウム電極
以上より得られた電気亜鉛めっき鋼板に対して、以下の測定方法および評価基準に基づき、白色度評価としての明度(L値)を測定し評価した。また、電流効率を求め、評価した。得られた結果を表2に併せて示す。
【0028】
白色度:明度(L値)
分光色差計(日本電色工業(株)製 SD5000)を用いてSCE(正反射光除去)により、白色度を測定し、以下のように評価した。
<めっきまま>
◎:L値85以上
○:L値82以上85未満
×:L値82未満
電流効率
亜鉛めっき付着量の値と、めっき時に通電した電気量から得られる理論値から、以下の式に従って、電流効率を求めた。
電流効率(%)=(測定により得られた亜鉛めっき付着量)/(理論付着量)×100
◎:電流効率90%以上
○:電流効率85%以上、90%未満
×:電流効率85%未満
【0029】
【表2】

【0030】
【化3】

【0031】
表2より、本発明例ではL値が高い、すなわち白色度が高い電気亜鉛めっき鋼板が効率良く得られているのがわかる。
一方、比較例では、L値が低いか電流効率が低い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の電気亜鉛めっき鋼板は表面外観に優れ、無塗装で問題なく使用される。そのため家電製品、自動車、建材等の広範な用途での使用が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上が合計で0.01mass ppm未満の電気亜鉛めっき浴中で電気亜鉛めっき処理を行った後、2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物の1種又は2種以上を合計で0.01〜3 mass ppm含有する電気亜鉛めっき浴中で亜鉛付着量がめっき層全体の1〜50%となるように電気亜鉛めっき処理を行うことを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記2-ベンゾチアゾリルチオ基を持つ有機化合物が2-メルカプトベンゾチアゾール又は2-メルカプトベンゾチアゾールの塩であることを特徴とする請求項1に記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2013−79422(P2013−79422A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219719(P2011−219719)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】