電気伝導性を有するC12A7系酸化物融液又はガラス材料及びそれらの製造方法
【課題】ガラス基板やプラスチック基板上に薄膜を低温で大面積で形成できるなどの有用性も期待できる、低い仕事関数を持ちながら導電性を有し、かつ非晶質である酸化物材料を提供する。
【解決手段】C12A7系酸化物の組成を有し、電子濃度2×1018/cm3以上2.3×1021/cm3以下を包接する、C12A7系酸化物を溶媒とし電子を溶質とする溶媒和からなる融液であり、金属的な電気伝導性を示す導電性酸化物融液、あるいは非晶質固体物質であり、また半導体的な電気伝導性を示す導電性酸化物ガラス。このガラス材料は、仕事関数が3.0〜4.1eVであり、上記融液を酸素分圧1Pa以下の還元雰囲気中で非晶質の固体が形成される冷却速度で冷却凝固することにより得られる。
【解決手段】C12A7系酸化物の組成を有し、電子濃度2×1018/cm3以上2.3×1021/cm3以下を包接する、C12A7系酸化物を溶媒とし電子を溶質とする溶媒和からなる融液であり、金属的な電気伝導性を示す導電性酸化物融液、あるいは非晶質固体物質であり、また半導体的な電気伝導性を示す導電性酸化物ガラス。このガラス材料は、仕事関数が3.0〜4.1eVであり、上記融液を酸素分圧1Pa以下の還元雰囲気中で非晶質の固体が形成される冷却速度で冷却凝固することにより得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気伝導性を有するC12A7系酸化物の融液又はガラス材料及びそれらの製
造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイエナイトは、酸化物イオン包接アルミノケイ酸塩のことであり、その結晶構造は立方
晶系に属し、化学組成はCa12Al14-xSixO33+0.5x (0≦x≦4)で示される。
【0003】
マイエナイト型化合物は、12CaO・7Al2O3(以下、「C12A7」と記す)で表
わされる代表組成を有し、三次元的に連結された、直径約0.4nmの空隙(ケージ)か
ら構成される特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は正電荷を帯びており
、単位格子当たり12個のケージを形成する。このケージの1/6は、結晶の電気的中性
条件を満たすため、酸素イオンによって占められているが、この酸素イオンは、骨格を構
成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を持つことから、特に、フリー酸素イオン
又はフリー酸素と呼ばれている。以上のことから、C12A7結晶は、[Ca24Al28O
64]4+・2O2-と表記される(非特許文献1)。
【0004】
C12A7中のCaの一部をK、Na、Li、Mg、Ba、Srなどのアルカリ金属又は
アルカリ土類金属で置換することができる。また、Alの一部をGeなどのイオン半径が
0.5〜0.8Å程度の金属元素で置換することができる。本明細書中において、C12
A7及びその成分のCa,Alを一部置換した化合物を含めてC12A7系酸化物という
。
【0005】
細野らは、セメントの構成成分であるC12A7化合物を、H2雰囲気中で熱処理してケ
ージ(籠)の中にO2-イオンの代わりにH-イオンを包接させ、紫外光やX線を照射する
ことにより、ケージ中に電子を包接させて、永続的な導電性を室温で誘起できることを見
いだした(特許文献1)。
【0006】
この包接された電子はケージに緩く束縛されていて、結晶中を自由に動くことができるの
で、本来は絶縁体であるマイエナイト型化合物のC12A7結晶に導電性を付与すること
に細野らは成功した。また、細野らは、マイエナイト型化合物であるC12A7結晶をア
ルカリ土類金属やチタンの蒸気中で還元処理を行うことで金属的な導電性が生じることを
見出した(特許文献2、3)。チタンの蒸気中での還元処理の場合、C12A7結晶の表
面に堆積したTi金属とC12A7結晶中のフリー酸素イオンが反応し、C12A7結晶
の表面にTiOxが形成される。この時、C12A7結晶のケージ中の酸素がはき出され
、ケージ中には電子が残る。すなわち、ケージ中のフリー酸素が電子に置換さる。
【0007】
エレクトライド(electride;電子化物)とは、J.Dyeによって初めて合成されたイ
オン性化合物であり(非特許文献2)、酸素イオンが酸化物結晶中で陰イオン位置を占有
するように、エレクトライドでは電子が特定の結晶学的な陰イオン位置を占有することで
陰イオンとしての役割を担っている。フリー酸素イオンを電子で置換したC12A7(C
12A7:e-)では、電子はケージ内のフリー酸素イオン位置を占め、ケージ内に多く
の電子密度分布を持つ。このことから、C12A7:e-もエレクトライドの一種と考え
ることができる。
【0008】
化学量論組成のC12A7は、キャリア電子が存在しないため電気的絶縁体であり、その
伝導度は通常の装置では測れないほど低く、10-10Scm-1以下である。C12A7の
フリー酸素イオンを電子で置き換えることで包接電子濃度を増やしていくと、導電率が急
激に増大するだけでなく、その温度依存性が、正の活性化エネルギーを示す半導体的挙動
から、負の傾きを示す金属的挙動まで変化し、室温においても1500Scm-1もの大き
な電気伝導度を示すようになる。C12A7:e-は、安定な無機骨格中に電子が包接さ
れているため、室温・大気中でも安定である。
【0009】
一般に仕事関数の低い化合物は、二次電子放出性能が高い。C12A7:e-は、金属カ
リウムと同程度の約2.4eVの低い仕事関数を有することから蛍光管の陰極材料等の電
子放出素子材料、有機EL素子等の電子注入電極材料、熱電子発電素子等としての応用、
又は包接されている電子の還元力を利用した還元剤としての応用が期待されている(非特
許文献3〜5、特許文献4)。
【0010】
特許文献5〜8には、導電性マイエナイト化合物の製造方法が開示されている。特に、特
許文献8には、原料を1415℃以上、好ましくは1550℃〜1650℃で溶融して酸
素分圧10Pa以下の雰囲気で保持した後、低酸素分圧の雰囲気中又は大気雰囲気中で冷
却して、又は徐冷して凝固させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4219821号公報(WO2003/089373)
【特許文献2】特許第4245608号公報(WO2005/000741)
【特許文献3】WO2007/060890
【特許文献4】特開2009−203126号公報
【特許文献5】特許第4111931号公報(特開2005−314196号公報)
【特許文献6】特開2006−327894号公報
【特許文献7】特開2010−132467号公報
【特許文献9】特許第4641946号公報(WO2005/077859)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】F.M.Lea et al.,The Chemistry of Cement and Concrete,2nd ed.,p.52,Edward Arnold&Co.,London,(1956)
【非特許文献2】J.L.Dye,et al.,J.Phys.Chem.84,1096(1980)
【非特許文献3】Y.Toda,et al.,Adv.Mater.,19,3564,(2007)
【非特許文献4】宮川 仁 他、表面科学、Vol.29,No.1,pp.2−9,(2008)
【非特許文献5】S.Matsuishi,et al.,Chem.Mater.,21,2589,(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
酸化物は、そのガラスのような非晶質(アモルファス)状態では、半導体特性を持ちなが
ら低い仕事関数を得ることは非常に難しいとされている。遷移金属を含有する化合物、例
えばV2O5等は、そのガラス状態では半導体的な電気伝導性が得られているが、その酸化
物のガラス状態の仕事関数は約5.0eVと非常に高い。このような高い仕事関数を持つ
材料は有機EL素子の正孔輸送層として使われているが、低い仕事関数が要求される電子
輸送層として使われている酸化物の非晶質材料はこれまで見出されていない。優れた安定
性を持つアモルファス酸化物では電子伝導性を有し、かつ低い仕事関数を持つ半導体は実
現されていない。
【0014】
マイエナイト型化合物である電気伝導性C12A7は、典型元素を主成分とし、約2.4
eVという極めて低い仕事関数もつことから、冷電子放出源や有機EL素子のための電子
注入電極、又は化学反応を利用した還元剤としての応用が期待されている。
【0015】
しかしながら、マイエナイト型化合物での導電性(電子密度×移動度)はケージが三次元
的に繋がっている構造を有する結晶質においてのみ実現されており、ガラス材料などの非
晶質状態では実現されていない。電子を含有するケージが絶縁性の結晶によって隔てられ
ると、電子がケージ間を容易に移動出来なくなるため、移動度が減少する。この移動度の
減少により、種々の結晶及び非晶質酸化物を含むマイエナイト型化合物の導電性は低下す
ると考えられる。特にマイエナイト型化合物中に占めるC12A7結晶の割合が80%以
下になると導電性は極めて低くなると考えられてきた。よって、マイエナイト型化合物の
非晶質材料の工業的な応用は殆んど試されていない状況である。
【0016】
低い仕事関数を持ちながら導電性を有し、かつ非晶質である酸化物材料が開発されれば、
有機EL素子や太陽電池などの電子注入層及び電子放出材料等で期待される。また、非晶
質の材料では、結晶質では実現し難いガラス基板やプラスチック基板上に薄膜を大面積に
、かつ結晶化のための加熱が必要ないことから低温で形成できるなどの有用性が期待でき
る。よって、本発明は、導電性であるとともに非晶質である、低い仕事関数のC12A7
系酸化物材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、マイエナイト型化合物からなる新しい種類の非晶質酸化物半導体(以下、「C
12A7エレクトライドガラス」という場合がある)を提供する。この「C12A7エレ
クトライドガラス」は、これまでの遷移金属を含む系のように、電子が特定の金属の軌道
に属さず、ケージ状の構造中の空間に電子がトラップされており、絶縁性非晶質マトリッ
クス中の格子間電子に基づく新しい種類の非晶質半導体である。
【0018】
本発明者は、電子を濃度2×1018/cm3以上、2.3×1021/cm3以下の高濃度で
包接した結晶C12A7エレクトライド原料を、酸素分圧が1Pa以下の低酸素雰囲気下
で加熱して融解すると金属的な電気伝導性を有する融液が形成されることを見出した。こ
の融液は、C12A7系酸化物を溶媒とし、結晶C12A7エレクトライド中と類似のケ
ージに包接された電子をそのまま溶質とする溶媒和であるとみなせる。
【0019】
また、その融液を急冷(quenching)して非晶質固体物質を形成することにより半導体特性
を示すエレクトライドガラスを製造することが可能であることを見出した。この非晶質固
体物質は、C12A7系酸化物を溶媒とし、融液中の電子をそのまま溶質とする溶媒和で
あるとみなせる。
【0020】
具体的には、本発明者らは、C12A7化合物のエレクトライドガラスがn型非晶質半導
体であり、室温で10-9S/cm以上、10-1S/cm以下の電気伝導度を示し、3.0
〜4.1eV程度の低い仕事関数を有することを見出した。なお、本明細書において仕事
関数は、紫外光電子分光法により測定した値をいう。
【0021】
また、結晶質C12A7エレクトライドのバルクを原料とし、10GPa以上の静水圧又
は衝撃圧力を加えることで大量にC12A7エレクトライドガラス粉末が得られることを
見出した。
【0022】
また、結晶質C12A7エレクトライドのバルクをターゲットとし、酸素分圧1Pa以下
の還元雰囲気中で気相蒸着法によって薄膜のC12A7エレクトライドガラスが得られる
ことを見出した。
【0023】
さらに、このC12A7エレクトライドガラスは3.0〜4.1eV以下の低い仕事関数
によって電子放出素子として適する。また、有機半導体層へ低電圧で電子を注入出来る電
子注入層として適する。
【0024】
すなわち、本発明は、(1)C12A7系酸化物の組成を有し、電子濃度2×1018/c
m3以上、2.3×1021/cm3以下を包接する、C12A7系酸化物を溶媒とし、電子
を溶質とする溶媒和からなる融液であり、金属的な電気伝導性を示すことを特徴とする導
電性酸化物融液、である。
【0025】
また、(2)C12A7系酸化物の組成を有し、電子濃度2×1018/cm3以上、2.
3×1021/cm3以下を包接する、C12A7系酸化物を溶媒とし、電子を溶質とする
溶媒和からなる非晶質固体物質であり、半導体的な電気伝導性を示すことを特徴とする導
電性酸化物ガラス、である。
【0026】
また、(3)室温で10-9S・cm-1以上、10-1S・cm-1以下の電気伝導性を示すこ
とを特徴とする上記(2)の導電性酸化物ガラス、である。
【0027】
また、(4)仕事関数が3.0〜4.1eVであることを特徴とする上記(2)の導電性
酸化物ガラス、である。
【0028】
また、(5)上記(2)〜(4)のいずれかの導電性酸化物ガラスからなる電子放出素子
材料、である。
【0029】
また、(6)上記(2)〜(4)のいずれかの導電性酸化物ガラスからなる電子注入電極
材料、である。
【0030】
また、(7)上記(2)〜(4)のいずれかの導電性酸化物ガラスからなる還元材料、で
ある。
【0031】
さらに、本発明は、(8)C12A7系酸化物原料を融解する方法において、電子を2x
1018cm-3以上含有するC12A7系酸化物を用い、該原料を酸素分圧1Pa以下の還
元雰囲気中で1200℃以上に加熱融解することを特徴とする上記(1)の導電性酸化物
融液の製造方法、である。
【0032】
また、本発明は、(9)上記(1)の導電性酸化物融液を酸素分圧1Pa以下の還元雰囲
気中で非晶質の固体が形成される冷却速度で冷却凝固することを特徴とする上記(2)〜
(4)のいずれかの導電性酸化物ガラスの製造方法、である。
【0033】
また、本発明は、(10) 電子を2x1018cm-3以上含有する結晶C12A7系酸化
物のバルク体に10GPa以上の圧力を加えて該バルク体を非晶質化することを特徴とす
る上記(2)〜(4)のいずれかの導電性酸化物ガラスの製造方法、である。
【0034】
また、本発明は、(11)電子を2x1018cm-3以上含有する結晶C12A7系酸化物
をターゲットとし酸素分圧1Pa以下の還元雰囲気中で気相蒸着法によって、非晶質の薄
膜を成膜することを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれかの導電性酸化物ガラスの製
造方法、である。
【発明の効果】
【0035】
本発明により、セメントの構成成分であるC12A7という石灰(CaO)とアルミナ(Al2O3)
というありふれた原料物質を用いて、原料物質を融かす雰囲気を制御することで、電子が
溶質となる高温溶液が実現し、また、この高温溶液を冷却して固体化する雰囲気を制御す
ることで、固体のエレクトライドガラス材料が得られた。このエレクトライドガラス材料
は、n型半導体の特性を示しながら低い仕事関数を持つ。エレクトライドガラス材料は、
エレクトライドの結晶に比べ、非晶質であることにより低温で大面積化が容易であり、高
温・空気中での安定性がより優れ、電子放出特性も優れている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】C12A7エレクトライドの融液とガラス材料の構造モデル図。
【図2】電気伝導性C12A7を低酸素分圧の還元雰囲気下で融解して製造した融液の温度と電気伝導度との関係を示すグラフ。
【図3】電気伝導性C12A7を低酸素分圧の還元雰囲気下で融解して製造した融液を急冷凝固して得られたガラス試料のX線回折パータン。
【図4】電気伝導性C12A7を低酸素分圧の還元雰囲気下で融解して製造した融液を急冷凝固して得られたガラス試料とそのガラス試料を熱処理した後の温度と電気伝導度との関係を示すグラフ。
【図5】出発物質(電気伝導性C12A7)の電子濃度に対する溶融−急冷凝固により得られた非晶質C12A7、溶融−徐冷凝固により得られた結晶質C12A7、の各電子濃度の関係を示すグラフ。
【図6】電気伝導性C12A7を低酸素分圧の還元雰囲気下で融解して製造した融液を急冷凝固して得られたガラス試料を紫外光電子分光法により測定した仕事関数を示すグラフ。
【図7】電気伝導性C12A7を低酸素分圧の還元雰囲気下で融解して製造した融液を急冷凝固して得られたガラス試料の仕事関数と電子濃度との関係を示すグラフ。
【図8】実施例1で得られたC12A7エレクトライドガラス材料のTG/DTAプロファイルを示すグラフ。
【図9】実施例1で得られたC12A7エレクトライドガラス材料の電子放出特性を示す加速電圧と電流密度との関係を示すグラフ。
【図10】電気伝導性C12A7を低酸素分圧の還元雰囲気下で融解し、融液を急冷凝固する装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1に、C12A7エレクトライドの融液とガラス材料の構造モデルを示す。図1Aに示
す結晶のC12A7は、ナノサイズの籠(ケージ)が立体的に繋がった構造をしており、
この籠の中の酸素イオンを種々の方法で引き抜いて、図1Bに示すように、籠の中に電子
を入れると、電子はトンネル効果で籠の壁を通り抜けて隣の籠に移ることができ、結果と
して絶縁体を良伝導体、すなわち、C12A7:e-(C12A7エレクトライド)に変
えることができる。
【0038】
図1Cに示すように、電子を籠の中に入れた結晶のC12A7エレクトライドを、酸素ガ
スを取り除いた還元性雰囲気で加熱して溶融(melting)して融液(メルト)を形成する
と、空の籠が潰れて密な網状構造を形成するが、電子を包接した籠はそのまま残りサイズ
が小さくなる。融液の籠に捕捉された電子の波動関数が、金属的伝導性をもたらす。この
融液の電気伝導度は通常の電子を含まないC12A7のそれよりも2〜4桁も大きく、し
かも伝導度が金属のように温度上昇とともに減少する。これらの現象は、C12A7エレ
クトライドの電子が高温の融液中にもそのまま溶けているからであり、その電子はC12A7
結晶のようなナノサイズの籠によって囲まれて安定化されている。このC12A7エレク
トライドの融液は、C12A7融液が溶媒、電子が溶質である溶媒和と言える。
【0039】
C12A7エレクトライドの融液は、電気化学的に安定であり、還元されにくい。よって
、例えば、通常の液体金属(水銀やガリウムなど)では不可能な電解合成の高温溶媒とし
て使用できる。
【0040】
次に、図1Dに示すように、上記の溶媒和電子を含んだ高温の融液を、急冷してC12A
7エレクトライドガラス材料を作製できる。ガラス状態では、籠の中の電子は、構造の不
規則性により、異なった捕捉ポテンシャルを持つ。ガラス材料中の大部分の電子は、籠中
に捕捉されてすぐそばの電子と逆磁気(diamagnetic)状態(bipolaron)を形成する。一方、
少数の電子(〜1018cm-3)は、格子間サイトに捕捉され、Ca+2イオンと配位しCa
O中のF+−様中心と類似の常磁性状態を形成する。
【0041】
得られたC12A7エレクトライドガラス材料は、黒褐色で、融液ほどには金属的に電気
は流ないものの、結晶と同様に高濃度の電子が存在し、普通の透明なガラス材料(窓やコ
ップ;室温での導電率は10-11Scm-1以下)と比べると数ケタ以上高い伝導度を示す
半導体である。これは、通常の半導体や金属では構成元素の軌道に属する電子によって電
気伝導が起きることに対し、結晶と同じように、ナノサイズの籠の中にある電子、すなわ
ち、隙間の位置を占める電子によるホッピング(hopping)伝導性を有していることを大き
な特徴とする新しいタイプの半導体である。
【0042】
従来、有機EL素子の電子注入層は、仕事関数が小さく、かつ光透過性の良好な電子材料
を用いて構成されている。このような電子注入材料としては、例えばLi2O、Cs2O、
LiFやCaF2等のアルカリ金属酸化物、アルカリ金属フッ化物、アルカリ土類金属酸
化物、アルカリ土類フッ化物が挙げられる。本発明のC12A7エレクトライドガラス材
料は、仕事関数が3.0〜4.5eVであるのでこれらに代替する材料として用いること
ができる。また、電子放出素子等として有用である。また、ガラス材料は水に溶けると電
子が放出されるので、水中で使える還元材料として有効であり、水を溶媒とする有機合成
反の(例えば、ピナコールカップリング反応)に利用できる。
【0043】
さらに、本発明のC12A7エレクトライドガラス材料は、同程度の電子濃度を持つ結晶
質のC12A7エレクトライドに比べて高温での耐酸化性が優れている。熱処理されてい
ないC12A7エレクトライドガラス材料を真空中、約850℃程度以下の温度で熱処理
することにより電気伝導性を大きくすることができる。
【0044】
本発明では、金属的な電気伝導性を有する融液を製造するために融解する原料として、C
12A7:e-(C12A7エレクトライド)を用いることができる。さらに、マイエナ
イト型化合物の結晶格子の骨格と骨格により形成されるケージ構造が保持される範囲内の
組成で、C12A7の骨格又はケージ中の陽イオン又は陰イオンの一部又は全てが他の陽
イオン又は陰イオンで置換されたC12A7と同型化合物を用いることができる。以下、
同型化合物を含めすべて、単にC12A7エレクトライドと呼ぶことにする。
【0045】
C12A7エレクトライドとしては、単結晶、又は多結晶のいずれでもよい。単結晶は、
例えば、チョクラルスキー法(CZ法)又はフローティングゾーン法(FZ法)により作製で
きる。多結晶は原料粉末の焼結により作製できる。C12A7エレクトライドは、上述の
特許文献や非特許文献で開示されている公知の方法を用い、C12A7化合物を高温(例
えば、700〜1100℃)で還元処理することにより得ることができる。具体的には、
Ti、Caなどの還元性の強い金属単体とC12A7化合物を一緒にした状態で、真空中
において、高温還元処理をすればよい。
【0046】
絶縁体のC12A7の融点は約1450℃である。C12A7エレクトライドの融点は絶
縁体のC12A7よりも約200℃低いことが分かった。C12A7エレクトライド中の
電子は、1200℃以上の高温、酸素雰囲気中では不安定であり、固体のC12A7化合
物は、高温熱処理により、電子は容易に酸素イオンに置換される。この特性を踏まえて、
C12A7エレクトライドの単結晶、又は多結晶中の電子が酸素イオンと置換されないよ
うな低酸素分圧の還元性雰囲気下でC12A7エレクトライドの融点まで加熱を続けると
電子が酸素イオンに置換されない状態で融解することができるので、C12A7エレクト
ライドからなり、伝導度が温度上昇に伴って減少する金属的な電気伝導性を有する融液を
製造することができる。C12A7エレクトライドを加熱融解するのに好ましい温度は約
1200℃〜1650℃、より好ましくは、約1200℃〜1400℃である。
【0047】
C12A7エレクトライド原料の融解容器としては、酸素分圧を1Pa以下に制御可能で
、C12A7エレクトライドの融点以上に加熱できる装置を用いる。C12A7エレクト
ライド単結晶の融点は1250℃であるのに対して、絶縁体のC12A7単結晶の融点は
1415℃である。したがって、C12A7エレクトライド原料は低い温度で溶融できる
利点がある。
【0048】
この融液を非晶質の固体が形成される冷却速度で凝固させて固体化することによりC12
A7エレクトライドガラス材料が得られる。急冷方式としては、溶射法、アトマイズ法、
圧延急冷法、ハンマーアンビル法、スパッタリング等の気相蒸着法、などその方式は限定
されない。銅等の熱伝導性の良い金属製単ロールや双ロールを用いると104〜106℃/s
ec程度の急冷速度が容易に得られるので望ましい。この方法によれば薄片状の固化体が得
られるのでこの薄片を粉末化して使用することができる。また、ノズルを用いてメルトス
ピンニングにより細線を形成するか、噴霧ノズルを用いてアトマイズにより粉末を形成す
ることも可能である。粉末は、インクジェット法などにより塗布して用いることができる
。
【0049】
図10に、本発明のC12Aエレクトライドガラス材料を製造するのに適する製造装置の
一例を示す。この装置は、大気から密閉したシリカガラス製の円筒型チャンバー1の中心
部に丸棒状や角棒状の原料棒Rを円筒型チャンバー1の上方の支持具(図示せず)に吊下
棒4で吊下し、円筒型チャンバー1の外の四方から赤外線Uを原料棒Rの下端部に照射し
て加熱して下端部に融液Mを形成する方式である。
【0050】
このような、原料吊下加熱方式を用いることで融液Mの温度分布を小さくすることができ
る。また、この加熱方式は、抵抗加熱方式でよく使われる坩堝を使用しない為、坩堝から
混入する不純物が無く、純粋なC12Aエレクトライド融液を作製することが出来る。円
筒型チャンバー1内の下部には、酸素ゲッターとなる材料で作製したチューブTをその中
心軸を垂直方向にして設置する。チューブTの内径は、融液Mが落下中にチューブTの内
壁に接触しない大きさとする。
【0051】
低酸素分圧の還元性雰囲気は、円筒型チャンバー1内に不活性ガスを流しながら酸素ゲッ
ター(気相中の酸素分子と反応し、これを吸着固定する材料)を熱することで調製される
。用いる酸素ゲッターは、Ti又はSiCなどが好ましい。
【0052】
原料Rを吊下した後、Arなどの不活性ガスを円筒型チャンバー1内にフローしながら酸
素ゲッターとして設置したチューブTを加熱する。加熱部の排気側には酸素センサー(図
示せず)を設置し酸素分圧を測定する。このように酸素ゲッターを加熱することで、円筒
型チャンバー1内の酸素分圧を1Pa以下の低酸素分圧から10-4Pa程度以下、さらに
は最低10-19Paの極低酸素分圧まで制御できる。
【0053】
酸素分圧を調整した後、四方から照射した赤外線Uが集中する位置まで原料Rを下げて原
料Rを加熱する。原料Rの加熱部の温度は、シリカガラス管2の熱電対投入口11から熱
電対を加熱部に接触するように投入して測定する。原料Rの電気伝導度は、シリカガラス
管2の電気伝導度測定用電極投入口12から高温電気伝導率測定装置のMo電極を融液M
に挿入して測定する。
【0054】
また、C12A7エレクトライド融液を、低酸素分圧の還元性雰囲気のまま、より急速に
冷却凝固するために、図10に示すように、加熱融解部の円筒型チャンバー1と急冷凝固
用双ローラー3を設置したチャンバー5を気密を保って連結する。こうすることにより、
C12A7エレクトライド融液の製造工程から急冷凝固の工程まで、低酸素分圧の還元性
雰囲気を保ったままでC12A7エレクトライドガラス材料を作製することができる。こ
の方法で、ローラーの回転速度は100〜1000rpm程度でよく、得られた固化体は
、黒色であり、厚さ0.05〜0.2mm、長さ1〜10mm程度の薄い物質を得ること
ができる。
【0055】
また、結晶のC12A7エレクトライドのバルク体を金属管に詰めて10GPa以上の圧
力をプレス装置で加える方法や、銃撃による衝撃圧力を加えてガラス化することもできる
。
【0056】
また、結晶のC12A7エレクトライドのバルク体をターゲットとし、該ターゲットを酸
素分圧1Pa以下の還元雰囲気中でスパッタリングする方法によって薄膜状のエレクトラ
イドガラスを成膜することもできる。
【実施例1】
【0057】
[結晶のC12A7エレクトライドのバルク体試料の調製]
チョクラルスキー法(CZ法)により作製したC12A7単結晶を5mm×5mm×50m
mに切り出し、これを5gのTi金属片とともに石英ガラス管中に真空封入し、電気炉中
で1100℃に加熱した。
【0058】
C12A7単結晶中の酸素イオンに置換した電子量は、電気炉中で1100℃に保持する
時間とともに増加した。保持時間を24時間とした時、電子濃度2×1021/cm3を含
む電気伝導性C12A7単結晶試料を得た。電子濃度は、光吸収スペクトルを測定し、2
.8eV付近の吸光度ピークの値と電子濃度との関係から求めた。
【0059】
[試料の融解]
上記により得られた電子を高濃度に含むC12A7エレクトライド試料の表面に付着した
TiOxを研磨紙を用いて除去した後、試料を図10に示す加熱溶融装置のシリカガラス
製の円筒型チャンバー内に吊下した。本実施例では、赤外線を四方から試料の下端部に照
射して加熱する方式を用いた。
【0060】
試料を吊下した後、Arガスを一分当り200ml以下の流量で円筒型チャンバー内にフ
ローしながら酸素ゲッターとして設置したSiCチューブを加熱した。SiCチューブは
、SiC粉末を成形焼結したものである。加熱部の排気側には酸素センサーを設置し酸素
分圧を測定した。このように酸素ゲッターを加熱することで、酸素分圧を10-19Paに
制御した。
【0061】
上記のように融解雰囲気の酸素分圧を制御した後、四方から照射した赤外線が集中する位
置まで試料を下げて試料の下端部を加熱した。試料の下端部の温度は、熱電対を該下端部
に接触させて測定した。試料の電気伝導度は、高温電気伝導度測定装置のMo電極を融液
に挿入して測定した。
【0062】
絶縁体のC12A7の融点は1415℃である。一方、上記のC12A7エレクトライド
単結晶の融点は1250℃であった。この融点の差は、マイエナイト型化合物の結晶格子
の骨格を形成しているケージの中に包接されているフリー酸化物イオンと電子との包接安
定性の差から説明される。
【0063】
[C12A7エレクトライド融液の電気伝導性]
図2に、得られた融液の電気伝導度と約1200℃〜1500℃の範囲の融液の温度との
関係を示す。比較例として、絶縁性のC12A7を酸素分圧105Paの酸素雰囲気中で1
480℃以上で融解した結果を示す。絶縁体のC12A7融液は温度の上昇に伴って電気
伝導度が上昇する傾向を示しており、一定電圧下で時間の経過に伴い伝導度が低下するイ
オン伝導性の特徴を示した。これに対し、本実施例の融液は、温度の上昇に伴って電気伝
導度が低下する傾向を持ち、オーミック特性を示す金属的電気伝導性の特徴を示した。
【実施例2】
【0064】
[C12A7エレクトライドガラス材料の調製]
上記の方法で得られたC12A7エレクトライド融液からエレクトライドガラス材料を製
造する為に、図10に示す装置を用いて、シリカガラス製の円筒型チャンバー内と同じ酸
素分圧1Pa以下の還元雰囲気下で銅製双ローラーの中心に融液を落下し急冷凝固した。
ローラーの回転速度は500rpmとした。冷却速度は約106/secと見積もられる。得
られた固化体は、黒色であり、厚さ2.1mm、長さ約10mm程度の薄い物質であった
。重さは2.05gであった。図3に、得られた固化体のX線回折パータンを示す。広い
範囲の角度でブロードなピークを示す典型的な非結晶質のハローパターンであった。この
ことから、C12A7エレクトライド融液を急冷凝固して得られた固化体は非晶質である
ことが示された。
【0065】
図4に、上記で得られたC12A7エレクトライドガラス材料の測定温度27℃から65
0℃までの電気伝導度の測定結果を示す。比較例の絶縁性C12A7を大気のような高酸
素分圧雰囲気下で融解した後、急冷して得られたガラス材料の電気伝導度は測定限界の1
0-10S・cm-1以下である為、測定不能であった。一方、本実施例のC12A7エレク
トライド融液から低酸素分圧の還元性雰囲気下で得られたC12A7エレクトライドガラ
ス材料は室温で10-9S・cm-1の電気伝導度を示し、測定温度の上昇に伴い電気伝導度
が増加し、650℃で電気伝導度が10-3S・cm-1程度の半導体的な電気伝導性を示し
た。また、急冷して得られたガラス材料を石英管を用いて真空封入して後、650℃で熱
処理することで室温の電気伝導度は2×10-3S・cm-1を示した。
【0066】
実施例1で得られたC12A7エレクトライドガラス材料は同程度の電子濃度を持つ結晶
質のC12A7エレクトライドに比べて高温での耐酸化性が優れている。図8に、実施例
1で得られたC12A7エレクトライドガラス材料のTG/DTAプロファイル(80%-He/
20%O2ガス流、加熱速度20K/min)を示す。図8に示されるように、結晶質のC12A7エ
レクトライドは400℃から酸化されるが(非特許文献5)、本発明のC12A7エレク
トライドガラス材料は550℃から酸化される。この優れた耐酸化性は、様々なプロセス
の適用が容易になり、大面積化がより簡単になる。
【実施例3】
【0067】
融解雰囲気の酸素分圧を10-4Paにした以外は実施例1と同様の条件で融液を調製した
。図2に、得られたC12A7エレクトライド融液の電気伝導度と融液の温度との関係を
示す。実施例1と同様に、得られたC12A7エレクトライド融液は、温度の上昇に伴っ
て電気伝導度が減少する傾向を持ち、オーミック特性を示す金属的電気伝導性の特徴を示
した。
【実施例4】
【0068】
電子濃度が異なる6種のC12A7エレクトライド試料を出発物質とし、実施例1と同様
にそれぞれを10-19Paの極低酸素分圧の還元性雰囲気下で融解した後、融解した部分
だけを双ロールの間隙に落下させ、急冷凝固することによりC12A7エレクトライドガ
ラスの固化体を得た。比較例として、冷却速度だけを103/sec程度に変えて徐冷凝固す
ることにより結晶質のC12A7エレクトライドの固化体を得た。
【0069】
出発物質、非晶質の固化体、結晶質の固化体の3種類の試料について、ヨウ素滴定法によ
って電子濃度を求めた。出発物質の電子濃度に対して、それぞれの試料の電子濃度との関
係を図5に示す。最も高い電子濃度を持つ出発物質の電子濃度は1.7×1021/cm3
であった。これを原料として溶融−急冷凝固して作製した非晶質の固化体は1.1×10
21/cm3の電子濃度であり、溶融−徐冷凝固して作製した結晶質の固化体は1.2×1
021/cm3の電子濃度であった。これは、融液の中には少なくても1.2×1021/c
m3以上の電子濃度が存在していたことを示唆する。
【0070】
図5に示されるように、1.0×1021/cm3以下の電子を包接した多結晶C12A7
エレクトライドを出発物質に用い、10-19Paの極低酸素分圧の還元性雰囲気下で融解
して作製した非晶質の固化体及び結晶質の固化体のそれぞれの電子濃度は出発物質のそれ
とほぼ等しいものであった。したがって、出発物質の電子濃度に応じた電子濃度の電気伝
導性を有し、かつ非晶質のC12A7エレクトライドを製造できることが分かる。
【0071】
[C12A7エレクトライドガラス材料の仕事関数]
ヨウ素滴定法によって電子濃度が1.1×1021/cm3であったガラス材料の仕事関数
は紫外線光電子分光分析により仕事関数を測定した。図6に示されるように、紫外線光電
子分光の測定の際に起きるガラス試料の表面でチャジーアップが起きる為に、試料に直流
バイアス電圧を印加した。その印加バイアスを変化させて得られたスペクトルのカットオ
フのシフト値を、印加バイアスが0Vの時を仕事関数とした。これによって得られた仕事
関数は3.0eVを示した。エレクトライド結晶の仕事関数、2.4eVに比べやや高い
値であるが、非晶質であることにより大面積化が容易であり、高温・空気中での安定性が
より優れている。
【0072】
電子濃度が異なるC12A7エレクトライド試料を出発物質とし、実施例1と同様にそれ
ぞれを10-19Paの極低酸素分圧の還元性雰囲気下で融解した後、融解した部分だけを
双ロールの間隙に落下させ、急冷凝固することにより得られたガラス材料の仕事関数を大
気中光電子分光法を用いて測定した。図7に示されるように、ガラス材料の電子濃度が低
下することで仕事関数は増加する傾向が分かる。
【0073】
[C12A7エレクトライドガラス材料の電子放出特性]
C12A7エレクトライドガラス材料は、裏面に白金電極を形成し、もう一方の表面に、
表面から0 . 0 5 m m 離れた位置に銅電極を設置し、銅電極をプラス極として、室
温で、両電極間に、加速電圧を印加した。その結果、図9に示されるように、加速電圧が
3kV付近から、電流が流れ始めた。これにより、本発明のガラス材料が電子放出材料と
して機能する事が分かった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
C12A7エレクトライドガラス材料は、軽金属ベースの材料であり、溶解プロセスのガ
ラス質副産物としてスラグの代表的な成分である。C12A7エレクトライド融液は、金
属的導電性を示し、また電気伝導性を示すC12A7エレクトライドガラス材料は、酸化
物溶融物及び酸化物ガラス材料の新しい用途をもたらす。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気伝導性を有するC12A7系酸化物の融液又はガラス材料及びそれらの製
造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイエナイトは、酸化物イオン包接アルミノケイ酸塩のことであり、その結晶構造は立方
晶系に属し、化学組成はCa12Al14-xSixO33+0.5x (0≦x≦4)で示される。
【0003】
マイエナイト型化合物は、12CaO・7Al2O3(以下、「C12A7」と記す)で表
わされる代表組成を有し、三次元的に連結された、直径約0.4nmの空隙(ケージ)か
ら構成される特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は正電荷を帯びており
、単位格子当たり12個のケージを形成する。このケージの1/6は、結晶の電気的中性
条件を満たすため、酸素イオンによって占められているが、この酸素イオンは、骨格を構
成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を持つことから、特に、フリー酸素イオン
又はフリー酸素と呼ばれている。以上のことから、C12A7結晶は、[Ca24Al28O
64]4+・2O2-と表記される(非特許文献1)。
【0004】
C12A7中のCaの一部をK、Na、Li、Mg、Ba、Srなどのアルカリ金属又は
アルカリ土類金属で置換することができる。また、Alの一部をGeなどのイオン半径が
0.5〜0.8Å程度の金属元素で置換することができる。本明細書中において、C12
A7及びその成分のCa,Alを一部置換した化合物を含めてC12A7系酸化物という
。
【0005】
細野らは、セメントの構成成分であるC12A7化合物を、H2雰囲気中で熱処理してケ
ージ(籠)の中にO2-イオンの代わりにH-イオンを包接させ、紫外光やX線を照射する
ことにより、ケージ中に電子を包接させて、永続的な導電性を室温で誘起できることを見
いだした(特許文献1)。
【0006】
この包接された電子はケージに緩く束縛されていて、結晶中を自由に動くことができるの
で、本来は絶縁体であるマイエナイト型化合物のC12A7結晶に導電性を付与すること
に細野らは成功した。また、細野らは、マイエナイト型化合物であるC12A7結晶をア
ルカリ土類金属やチタンの蒸気中で還元処理を行うことで金属的な導電性が生じることを
見出した(特許文献2、3)。チタンの蒸気中での還元処理の場合、C12A7結晶の表
面に堆積したTi金属とC12A7結晶中のフリー酸素イオンが反応し、C12A7結晶
の表面にTiOxが形成される。この時、C12A7結晶のケージ中の酸素がはき出され
、ケージ中には電子が残る。すなわち、ケージ中のフリー酸素が電子に置換さる。
【0007】
エレクトライド(electride;電子化物)とは、J.Dyeによって初めて合成されたイ
オン性化合物であり(非特許文献2)、酸素イオンが酸化物結晶中で陰イオン位置を占有
するように、エレクトライドでは電子が特定の結晶学的な陰イオン位置を占有することで
陰イオンとしての役割を担っている。フリー酸素イオンを電子で置換したC12A7(C
12A7:e-)では、電子はケージ内のフリー酸素イオン位置を占め、ケージ内に多く
の電子密度分布を持つ。このことから、C12A7:e-もエレクトライドの一種と考え
ることができる。
【0008】
化学量論組成のC12A7は、キャリア電子が存在しないため電気的絶縁体であり、その
伝導度は通常の装置では測れないほど低く、10-10Scm-1以下である。C12A7の
フリー酸素イオンを電子で置き換えることで包接電子濃度を増やしていくと、導電率が急
激に増大するだけでなく、その温度依存性が、正の活性化エネルギーを示す半導体的挙動
から、負の傾きを示す金属的挙動まで変化し、室温においても1500Scm-1もの大き
な電気伝導度を示すようになる。C12A7:e-は、安定な無機骨格中に電子が包接さ
れているため、室温・大気中でも安定である。
【0009】
一般に仕事関数の低い化合物は、二次電子放出性能が高い。C12A7:e-は、金属カ
リウムと同程度の約2.4eVの低い仕事関数を有することから蛍光管の陰極材料等の電
子放出素子材料、有機EL素子等の電子注入電極材料、熱電子発電素子等としての応用、
又は包接されている電子の還元力を利用した還元剤としての応用が期待されている(非特
許文献3〜5、特許文献4)。
【0010】
特許文献5〜8には、導電性マイエナイト化合物の製造方法が開示されている。特に、特
許文献8には、原料を1415℃以上、好ましくは1550℃〜1650℃で溶融して酸
素分圧10Pa以下の雰囲気で保持した後、低酸素分圧の雰囲気中又は大気雰囲気中で冷
却して、又は徐冷して凝固させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4219821号公報(WO2003/089373)
【特許文献2】特許第4245608号公報(WO2005/000741)
【特許文献3】WO2007/060890
【特許文献4】特開2009−203126号公報
【特許文献5】特許第4111931号公報(特開2005−314196号公報)
【特許文献6】特開2006−327894号公報
【特許文献7】特開2010−132467号公報
【特許文献9】特許第4641946号公報(WO2005/077859)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】F.M.Lea et al.,The Chemistry of Cement and Concrete,2nd ed.,p.52,Edward Arnold&Co.,London,(1956)
【非特許文献2】J.L.Dye,et al.,J.Phys.Chem.84,1096(1980)
【非特許文献3】Y.Toda,et al.,Adv.Mater.,19,3564,(2007)
【非特許文献4】宮川 仁 他、表面科学、Vol.29,No.1,pp.2−9,(2008)
【非特許文献5】S.Matsuishi,et al.,Chem.Mater.,21,2589,(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
酸化物は、そのガラスのような非晶質(アモルファス)状態では、半導体特性を持ちなが
ら低い仕事関数を得ることは非常に難しいとされている。遷移金属を含有する化合物、例
えばV2O5等は、そのガラス状態では半導体的な電気伝導性が得られているが、その酸化
物のガラス状態の仕事関数は約5.0eVと非常に高い。このような高い仕事関数を持つ
材料は有機EL素子の正孔輸送層として使われているが、低い仕事関数が要求される電子
輸送層として使われている酸化物の非晶質材料はこれまで見出されていない。優れた安定
性を持つアモルファス酸化物では電子伝導性を有し、かつ低い仕事関数を持つ半導体は実
現されていない。
【0014】
マイエナイト型化合物である電気伝導性C12A7は、典型元素を主成分とし、約2.4
eVという極めて低い仕事関数もつことから、冷電子放出源や有機EL素子のための電子
注入電極、又は化学反応を利用した還元剤としての応用が期待されている。
【0015】
しかしながら、マイエナイト型化合物での導電性(電子密度×移動度)はケージが三次元
的に繋がっている構造を有する結晶質においてのみ実現されており、ガラス材料などの非
晶質状態では実現されていない。電子を含有するケージが絶縁性の結晶によって隔てられ
ると、電子がケージ間を容易に移動出来なくなるため、移動度が減少する。この移動度の
減少により、種々の結晶及び非晶質酸化物を含むマイエナイト型化合物の導電性は低下す
ると考えられる。特にマイエナイト型化合物中に占めるC12A7結晶の割合が80%以
下になると導電性は極めて低くなると考えられてきた。よって、マイエナイト型化合物の
非晶質材料の工業的な応用は殆んど試されていない状況である。
【0016】
低い仕事関数を持ちながら導電性を有し、かつ非晶質である酸化物材料が開発されれば、
有機EL素子や太陽電池などの電子注入層及び電子放出材料等で期待される。また、非晶
質の材料では、結晶質では実現し難いガラス基板やプラスチック基板上に薄膜を大面積に
、かつ結晶化のための加熱が必要ないことから低温で形成できるなどの有用性が期待でき
る。よって、本発明は、導電性であるとともに非晶質である、低い仕事関数のC12A7
系酸化物材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、マイエナイト型化合物からなる新しい種類の非晶質酸化物半導体(以下、「C
12A7エレクトライドガラス」という場合がある)を提供する。この「C12A7エレ
クトライドガラス」は、これまでの遷移金属を含む系のように、電子が特定の金属の軌道
に属さず、ケージ状の構造中の空間に電子がトラップされており、絶縁性非晶質マトリッ
クス中の格子間電子に基づく新しい種類の非晶質半導体である。
【0018】
本発明者は、電子を濃度2×1018/cm3以上、2.3×1021/cm3以下の高濃度で
包接した結晶C12A7エレクトライド原料を、酸素分圧が1Pa以下の低酸素雰囲気下
で加熱して融解すると金属的な電気伝導性を有する融液が形成されることを見出した。こ
の融液は、C12A7系酸化物を溶媒とし、結晶C12A7エレクトライド中と類似のケ
ージに包接された電子をそのまま溶質とする溶媒和であるとみなせる。
【0019】
また、その融液を急冷(quenching)して非晶質固体物質を形成することにより半導体特性
を示すエレクトライドガラスを製造することが可能であることを見出した。この非晶質固
体物質は、C12A7系酸化物を溶媒とし、融液中の電子をそのまま溶質とする溶媒和で
あるとみなせる。
【0020】
具体的には、本発明者らは、C12A7化合物のエレクトライドガラスがn型非晶質半導
体であり、室温で10-9S/cm以上、10-1S/cm以下の電気伝導度を示し、3.0
〜4.1eV程度の低い仕事関数を有することを見出した。なお、本明細書において仕事
関数は、紫外光電子分光法により測定した値をいう。
【0021】
また、結晶質C12A7エレクトライドのバルクを原料とし、10GPa以上の静水圧又
は衝撃圧力を加えることで大量にC12A7エレクトライドガラス粉末が得られることを
見出した。
【0022】
また、結晶質C12A7エレクトライドのバルクをターゲットとし、酸素分圧1Pa以下
の還元雰囲気中で気相蒸着法によって薄膜のC12A7エレクトライドガラスが得られる
ことを見出した。
【0023】
さらに、このC12A7エレクトライドガラスは3.0〜4.1eV以下の低い仕事関数
によって電子放出素子として適する。また、有機半導体層へ低電圧で電子を注入出来る電
子注入層として適する。
【0024】
すなわち、本発明は、(1)C12A7系酸化物の組成を有し、電子濃度2×1018/c
m3以上、2.3×1021/cm3以下を包接する、C12A7系酸化物を溶媒とし、電子
を溶質とする溶媒和からなる融液であり、金属的な電気伝導性を示すことを特徴とする導
電性酸化物融液、である。
【0025】
また、(2)C12A7系酸化物の組成を有し、電子濃度2×1018/cm3以上、2.
3×1021/cm3以下を包接する、C12A7系酸化物を溶媒とし、電子を溶質とする
溶媒和からなる非晶質固体物質であり、半導体的な電気伝導性を示すことを特徴とする導
電性酸化物ガラス、である。
【0026】
また、(3)室温で10-9S・cm-1以上、10-1S・cm-1以下の電気伝導性を示すこ
とを特徴とする上記(2)の導電性酸化物ガラス、である。
【0027】
また、(4)仕事関数が3.0〜4.1eVであることを特徴とする上記(2)の導電性
酸化物ガラス、である。
【0028】
また、(5)上記(2)〜(4)のいずれかの導電性酸化物ガラスからなる電子放出素子
材料、である。
【0029】
また、(6)上記(2)〜(4)のいずれかの導電性酸化物ガラスからなる電子注入電極
材料、である。
【0030】
また、(7)上記(2)〜(4)のいずれかの導電性酸化物ガラスからなる還元材料、で
ある。
【0031】
さらに、本発明は、(8)C12A7系酸化物原料を融解する方法において、電子を2x
1018cm-3以上含有するC12A7系酸化物を用い、該原料を酸素分圧1Pa以下の還
元雰囲気中で1200℃以上に加熱融解することを特徴とする上記(1)の導電性酸化物
融液の製造方法、である。
【0032】
また、本発明は、(9)上記(1)の導電性酸化物融液を酸素分圧1Pa以下の還元雰囲
気中で非晶質の固体が形成される冷却速度で冷却凝固することを特徴とする上記(2)〜
(4)のいずれかの導電性酸化物ガラスの製造方法、である。
【0033】
また、本発明は、(10) 電子を2x1018cm-3以上含有する結晶C12A7系酸化
物のバルク体に10GPa以上の圧力を加えて該バルク体を非晶質化することを特徴とす
る上記(2)〜(4)のいずれかの導電性酸化物ガラスの製造方法、である。
【0034】
また、本発明は、(11)電子を2x1018cm-3以上含有する結晶C12A7系酸化物
をターゲットとし酸素分圧1Pa以下の還元雰囲気中で気相蒸着法によって、非晶質の薄
膜を成膜することを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれかの導電性酸化物ガラスの製
造方法、である。
【発明の効果】
【0035】
本発明により、セメントの構成成分であるC12A7という石灰(CaO)とアルミナ(Al2O3)
というありふれた原料物質を用いて、原料物質を融かす雰囲気を制御することで、電子が
溶質となる高温溶液が実現し、また、この高温溶液を冷却して固体化する雰囲気を制御す
ることで、固体のエレクトライドガラス材料が得られた。このエレクトライドガラス材料
は、n型半導体の特性を示しながら低い仕事関数を持つ。エレクトライドガラス材料は、
エレクトライドの結晶に比べ、非晶質であることにより低温で大面積化が容易であり、高
温・空気中での安定性がより優れ、電子放出特性も優れている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】C12A7エレクトライドの融液とガラス材料の構造モデル図。
【図2】電気伝導性C12A7を低酸素分圧の還元雰囲気下で融解して製造した融液の温度と電気伝導度との関係を示すグラフ。
【図3】電気伝導性C12A7を低酸素分圧の還元雰囲気下で融解して製造した融液を急冷凝固して得られたガラス試料のX線回折パータン。
【図4】電気伝導性C12A7を低酸素分圧の還元雰囲気下で融解して製造した融液を急冷凝固して得られたガラス試料とそのガラス試料を熱処理した後の温度と電気伝導度との関係を示すグラフ。
【図5】出発物質(電気伝導性C12A7)の電子濃度に対する溶融−急冷凝固により得られた非晶質C12A7、溶融−徐冷凝固により得られた結晶質C12A7、の各電子濃度の関係を示すグラフ。
【図6】電気伝導性C12A7を低酸素分圧の還元雰囲気下で融解して製造した融液を急冷凝固して得られたガラス試料を紫外光電子分光法により測定した仕事関数を示すグラフ。
【図7】電気伝導性C12A7を低酸素分圧の還元雰囲気下で融解して製造した融液を急冷凝固して得られたガラス試料の仕事関数と電子濃度との関係を示すグラフ。
【図8】実施例1で得られたC12A7エレクトライドガラス材料のTG/DTAプロファイルを示すグラフ。
【図9】実施例1で得られたC12A7エレクトライドガラス材料の電子放出特性を示す加速電圧と電流密度との関係を示すグラフ。
【図10】電気伝導性C12A7を低酸素分圧の還元雰囲気下で融解し、融液を急冷凝固する装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1に、C12A7エレクトライドの融液とガラス材料の構造モデルを示す。図1Aに示
す結晶のC12A7は、ナノサイズの籠(ケージ)が立体的に繋がった構造をしており、
この籠の中の酸素イオンを種々の方法で引き抜いて、図1Bに示すように、籠の中に電子
を入れると、電子はトンネル効果で籠の壁を通り抜けて隣の籠に移ることができ、結果と
して絶縁体を良伝導体、すなわち、C12A7:e-(C12A7エレクトライド)に変
えることができる。
【0038】
図1Cに示すように、電子を籠の中に入れた結晶のC12A7エレクトライドを、酸素ガ
スを取り除いた還元性雰囲気で加熱して溶融(melting)して融液(メルト)を形成する
と、空の籠が潰れて密な網状構造を形成するが、電子を包接した籠はそのまま残りサイズ
が小さくなる。融液の籠に捕捉された電子の波動関数が、金属的伝導性をもたらす。この
融液の電気伝導度は通常の電子を含まないC12A7のそれよりも2〜4桁も大きく、し
かも伝導度が金属のように温度上昇とともに減少する。これらの現象は、C12A7エレ
クトライドの電子が高温の融液中にもそのまま溶けているからであり、その電子はC12A7
結晶のようなナノサイズの籠によって囲まれて安定化されている。このC12A7エレク
トライドの融液は、C12A7融液が溶媒、電子が溶質である溶媒和と言える。
【0039】
C12A7エレクトライドの融液は、電気化学的に安定であり、還元されにくい。よって
、例えば、通常の液体金属(水銀やガリウムなど)では不可能な電解合成の高温溶媒とし
て使用できる。
【0040】
次に、図1Dに示すように、上記の溶媒和電子を含んだ高温の融液を、急冷してC12A
7エレクトライドガラス材料を作製できる。ガラス状態では、籠の中の電子は、構造の不
規則性により、異なった捕捉ポテンシャルを持つ。ガラス材料中の大部分の電子は、籠中
に捕捉されてすぐそばの電子と逆磁気(diamagnetic)状態(bipolaron)を形成する。一方、
少数の電子(〜1018cm-3)は、格子間サイトに捕捉され、Ca+2イオンと配位しCa
O中のF+−様中心と類似の常磁性状態を形成する。
【0041】
得られたC12A7エレクトライドガラス材料は、黒褐色で、融液ほどには金属的に電気
は流ないものの、結晶と同様に高濃度の電子が存在し、普通の透明なガラス材料(窓やコ
ップ;室温での導電率は10-11Scm-1以下)と比べると数ケタ以上高い伝導度を示す
半導体である。これは、通常の半導体や金属では構成元素の軌道に属する電子によって電
気伝導が起きることに対し、結晶と同じように、ナノサイズの籠の中にある電子、すなわ
ち、隙間の位置を占める電子によるホッピング(hopping)伝導性を有していることを大き
な特徴とする新しいタイプの半導体である。
【0042】
従来、有機EL素子の電子注入層は、仕事関数が小さく、かつ光透過性の良好な電子材料
を用いて構成されている。このような電子注入材料としては、例えばLi2O、Cs2O、
LiFやCaF2等のアルカリ金属酸化物、アルカリ金属フッ化物、アルカリ土類金属酸
化物、アルカリ土類フッ化物が挙げられる。本発明のC12A7エレクトライドガラス材
料は、仕事関数が3.0〜4.5eVであるのでこれらに代替する材料として用いること
ができる。また、電子放出素子等として有用である。また、ガラス材料は水に溶けると電
子が放出されるので、水中で使える還元材料として有効であり、水を溶媒とする有機合成
反の(例えば、ピナコールカップリング反応)に利用できる。
【0043】
さらに、本発明のC12A7エレクトライドガラス材料は、同程度の電子濃度を持つ結晶
質のC12A7エレクトライドに比べて高温での耐酸化性が優れている。熱処理されてい
ないC12A7エレクトライドガラス材料を真空中、約850℃程度以下の温度で熱処理
することにより電気伝導性を大きくすることができる。
【0044】
本発明では、金属的な電気伝導性を有する融液を製造するために融解する原料として、C
12A7:e-(C12A7エレクトライド)を用いることができる。さらに、マイエナ
イト型化合物の結晶格子の骨格と骨格により形成されるケージ構造が保持される範囲内の
組成で、C12A7の骨格又はケージ中の陽イオン又は陰イオンの一部又は全てが他の陽
イオン又は陰イオンで置換されたC12A7と同型化合物を用いることができる。以下、
同型化合物を含めすべて、単にC12A7エレクトライドと呼ぶことにする。
【0045】
C12A7エレクトライドとしては、単結晶、又は多結晶のいずれでもよい。単結晶は、
例えば、チョクラルスキー法(CZ法)又はフローティングゾーン法(FZ法)により作製で
きる。多結晶は原料粉末の焼結により作製できる。C12A7エレクトライドは、上述の
特許文献や非特許文献で開示されている公知の方法を用い、C12A7化合物を高温(例
えば、700〜1100℃)で還元処理することにより得ることができる。具体的には、
Ti、Caなどの還元性の強い金属単体とC12A7化合物を一緒にした状態で、真空中
において、高温還元処理をすればよい。
【0046】
絶縁体のC12A7の融点は約1450℃である。C12A7エレクトライドの融点は絶
縁体のC12A7よりも約200℃低いことが分かった。C12A7エレクトライド中の
電子は、1200℃以上の高温、酸素雰囲気中では不安定であり、固体のC12A7化合
物は、高温熱処理により、電子は容易に酸素イオンに置換される。この特性を踏まえて、
C12A7エレクトライドの単結晶、又は多結晶中の電子が酸素イオンと置換されないよ
うな低酸素分圧の還元性雰囲気下でC12A7エレクトライドの融点まで加熱を続けると
電子が酸素イオンに置換されない状態で融解することができるので、C12A7エレクト
ライドからなり、伝導度が温度上昇に伴って減少する金属的な電気伝導性を有する融液を
製造することができる。C12A7エレクトライドを加熱融解するのに好ましい温度は約
1200℃〜1650℃、より好ましくは、約1200℃〜1400℃である。
【0047】
C12A7エレクトライド原料の融解容器としては、酸素分圧を1Pa以下に制御可能で
、C12A7エレクトライドの融点以上に加熱できる装置を用いる。C12A7エレクト
ライド単結晶の融点は1250℃であるのに対して、絶縁体のC12A7単結晶の融点は
1415℃である。したがって、C12A7エレクトライド原料は低い温度で溶融できる
利点がある。
【0048】
この融液を非晶質の固体が形成される冷却速度で凝固させて固体化することによりC12
A7エレクトライドガラス材料が得られる。急冷方式としては、溶射法、アトマイズ法、
圧延急冷法、ハンマーアンビル法、スパッタリング等の気相蒸着法、などその方式は限定
されない。銅等の熱伝導性の良い金属製単ロールや双ロールを用いると104〜106℃/s
ec程度の急冷速度が容易に得られるので望ましい。この方法によれば薄片状の固化体が得
られるのでこの薄片を粉末化して使用することができる。また、ノズルを用いてメルトス
ピンニングにより細線を形成するか、噴霧ノズルを用いてアトマイズにより粉末を形成す
ることも可能である。粉末は、インクジェット法などにより塗布して用いることができる
。
【0049】
図10に、本発明のC12Aエレクトライドガラス材料を製造するのに適する製造装置の
一例を示す。この装置は、大気から密閉したシリカガラス製の円筒型チャンバー1の中心
部に丸棒状や角棒状の原料棒Rを円筒型チャンバー1の上方の支持具(図示せず)に吊下
棒4で吊下し、円筒型チャンバー1の外の四方から赤外線Uを原料棒Rの下端部に照射し
て加熱して下端部に融液Mを形成する方式である。
【0050】
このような、原料吊下加熱方式を用いることで融液Mの温度分布を小さくすることができ
る。また、この加熱方式は、抵抗加熱方式でよく使われる坩堝を使用しない為、坩堝から
混入する不純物が無く、純粋なC12Aエレクトライド融液を作製することが出来る。円
筒型チャンバー1内の下部には、酸素ゲッターとなる材料で作製したチューブTをその中
心軸を垂直方向にして設置する。チューブTの内径は、融液Mが落下中にチューブTの内
壁に接触しない大きさとする。
【0051】
低酸素分圧の還元性雰囲気は、円筒型チャンバー1内に不活性ガスを流しながら酸素ゲッ
ター(気相中の酸素分子と反応し、これを吸着固定する材料)を熱することで調製される
。用いる酸素ゲッターは、Ti又はSiCなどが好ましい。
【0052】
原料Rを吊下した後、Arなどの不活性ガスを円筒型チャンバー1内にフローしながら酸
素ゲッターとして設置したチューブTを加熱する。加熱部の排気側には酸素センサー(図
示せず)を設置し酸素分圧を測定する。このように酸素ゲッターを加熱することで、円筒
型チャンバー1内の酸素分圧を1Pa以下の低酸素分圧から10-4Pa程度以下、さらに
は最低10-19Paの極低酸素分圧まで制御できる。
【0053】
酸素分圧を調整した後、四方から照射した赤外線Uが集中する位置まで原料Rを下げて原
料Rを加熱する。原料Rの加熱部の温度は、シリカガラス管2の熱電対投入口11から熱
電対を加熱部に接触するように投入して測定する。原料Rの電気伝導度は、シリカガラス
管2の電気伝導度測定用電極投入口12から高温電気伝導率測定装置のMo電極を融液M
に挿入して測定する。
【0054】
また、C12A7エレクトライド融液を、低酸素分圧の還元性雰囲気のまま、より急速に
冷却凝固するために、図10に示すように、加熱融解部の円筒型チャンバー1と急冷凝固
用双ローラー3を設置したチャンバー5を気密を保って連結する。こうすることにより、
C12A7エレクトライド融液の製造工程から急冷凝固の工程まで、低酸素分圧の還元性
雰囲気を保ったままでC12A7エレクトライドガラス材料を作製することができる。こ
の方法で、ローラーの回転速度は100〜1000rpm程度でよく、得られた固化体は
、黒色であり、厚さ0.05〜0.2mm、長さ1〜10mm程度の薄い物質を得ること
ができる。
【0055】
また、結晶のC12A7エレクトライドのバルク体を金属管に詰めて10GPa以上の圧
力をプレス装置で加える方法や、銃撃による衝撃圧力を加えてガラス化することもできる
。
【0056】
また、結晶のC12A7エレクトライドのバルク体をターゲットとし、該ターゲットを酸
素分圧1Pa以下の還元雰囲気中でスパッタリングする方法によって薄膜状のエレクトラ
イドガラスを成膜することもできる。
【実施例1】
【0057】
[結晶のC12A7エレクトライドのバルク体試料の調製]
チョクラルスキー法(CZ法)により作製したC12A7単結晶を5mm×5mm×50m
mに切り出し、これを5gのTi金属片とともに石英ガラス管中に真空封入し、電気炉中
で1100℃に加熱した。
【0058】
C12A7単結晶中の酸素イオンに置換した電子量は、電気炉中で1100℃に保持する
時間とともに増加した。保持時間を24時間とした時、電子濃度2×1021/cm3を含
む電気伝導性C12A7単結晶試料を得た。電子濃度は、光吸収スペクトルを測定し、2
.8eV付近の吸光度ピークの値と電子濃度との関係から求めた。
【0059】
[試料の融解]
上記により得られた電子を高濃度に含むC12A7エレクトライド試料の表面に付着した
TiOxを研磨紙を用いて除去した後、試料を図10に示す加熱溶融装置のシリカガラス
製の円筒型チャンバー内に吊下した。本実施例では、赤外線を四方から試料の下端部に照
射して加熱する方式を用いた。
【0060】
試料を吊下した後、Arガスを一分当り200ml以下の流量で円筒型チャンバー内にフ
ローしながら酸素ゲッターとして設置したSiCチューブを加熱した。SiCチューブは
、SiC粉末を成形焼結したものである。加熱部の排気側には酸素センサーを設置し酸素
分圧を測定した。このように酸素ゲッターを加熱することで、酸素分圧を10-19Paに
制御した。
【0061】
上記のように融解雰囲気の酸素分圧を制御した後、四方から照射した赤外線が集中する位
置まで試料を下げて試料の下端部を加熱した。試料の下端部の温度は、熱電対を該下端部
に接触させて測定した。試料の電気伝導度は、高温電気伝導度測定装置のMo電極を融液
に挿入して測定した。
【0062】
絶縁体のC12A7の融点は1415℃である。一方、上記のC12A7エレクトライド
単結晶の融点は1250℃であった。この融点の差は、マイエナイト型化合物の結晶格子
の骨格を形成しているケージの中に包接されているフリー酸化物イオンと電子との包接安
定性の差から説明される。
【0063】
[C12A7エレクトライド融液の電気伝導性]
図2に、得られた融液の電気伝導度と約1200℃〜1500℃の範囲の融液の温度との
関係を示す。比較例として、絶縁性のC12A7を酸素分圧105Paの酸素雰囲気中で1
480℃以上で融解した結果を示す。絶縁体のC12A7融液は温度の上昇に伴って電気
伝導度が上昇する傾向を示しており、一定電圧下で時間の経過に伴い伝導度が低下するイ
オン伝導性の特徴を示した。これに対し、本実施例の融液は、温度の上昇に伴って電気伝
導度が低下する傾向を持ち、オーミック特性を示す金属的電気伝導性の特徴を示した。
【実施例2】
【0064】
[C12A7エレクトライドガラス材料の調製]
上記の方法で得られたC12A7エレクトライド融液からエレクトライドガラス材料を製
造する為に、図10に示す装置を用いて、シリカガラス製の円筒型チャンバー内と同じ酸
素分圧1Pa以下の還元雰囲気下で銅製双ローラーの中心に融液を落下し急冷凝固した。
ローラーの回転速度は500rpmとした。冷却速度は約106/secと見積もられる。得
られた固化体は、黒色であり、厚さ2.1mm、長さ約10mm程度の薄い物質であった
。重さは2.05gであった。図3に、得られた固化体のX線回折パータンを示す。広い
範囲の角度でブロードなピークを示す典型的な非結晶質のハローパターンであった。この
ことから、C12A7エレクトライド融液を急冷凝固して得られた固化体は非晶質である
ことが示された。
【0065】
図4に、上記で得られたC12A7エレクトライドガラス材料の測定温度27℃から65
0℃までの電気伝導度の測定結果を示す。比較例の絶縁性C12A7を大気のような高酸
素分圧雰囲気下で融解した後、急冷して得られたガラス材料の電気伝導度は測定限界の1
0-10S・cm-1以下である為、測定不能であった。一方、本実施例のC12A7エレク
トライド融液から低酸素分圧の還元性雰囲気下で得られたC12A7エレクトライドガラ
ス材料は室温で10-9S・cm-1の電気伝導度を示し、測定温度の上昇に伴い電気伝導度
が増加し、650℃で電気伝導度が10-3S・cm-1程度の半導体的な電気伝導性を示し
た。また、急冷して得られたガラス材料を石英管を用いて真空封入して後、650℃で熱
処理することで室温の電気伝導度は2×10-3S・cm-1を示した。
【0066】
実施例1で得られたC12A7エレクトライドガラス材料は同程度の電子濃度を持つ結晶
質のC12A7エレクトライドに比べて高温での耐酸化性が優れている。図8に、実施例
1で得られたC12A7エレクトライドガラス材料のTG/DTAプロファイル(80%-He/
20%O2ガス流、加熱速度20K/min)を示す。図8に示されるように、結晶質のC12A7エ
レクトライドは400℃から酸化されるが(非特許文献5)、本発明のC12A7エレク
トライドガラス材料は550℃から酸化される。この優れた耐酸化性は、様々なプロセス
の適用が容易になり、大面積化がより簡単になる。
【実施例3】
【0067】
融解雰囲気の酸素分圧を10-4Paにした以外は実施例1と同様の条件で融液を調製した
。図2に、得られたC12A7エレクトライド融液の電気伝導度と融液の温度との関係を
示す。実施例1と同様に、得られたC12A7エレクトライド融液は、温度の上昇に伴っ
て電気伝導度が減少する傾向を持ち、オーミック特性を示す金属的電気伝導性の特徴を示
した。
【実施例4】
【0068】
電子濃度が異なる6種のC12A7エレクトライド試料を出発物質とし、実施例1と同様
にそれぞれを10-19Paの極低酸素分圧の還元性雰囲気下で融解した後、融解した部分
だけを双ロールの間隙に落下させ、急冷凝固することによりC12A7エレクトライドガ
ラスの固化体を得た。比較例として、冷却速度だけを103/sec程度に変えて徐冷凝固す
ることにより結晶質のC12A7エレクトライドの固化体を得た。
【0069】
出発物質、非晶質の固化体、結晶質の固化体の3種類の試料について、ヨウ素滴定法によ
って電子濃度を求めた。出発物質の電子濃度に対して、それぞれの試料の電子濃度との関
係を図5に示す。最も高い電子濃度を持つ出発物質の電子濃度は1.7×1021/cm3
であった。これを原料として溶融−急冷凝固して作製した非晶質の固化体は1.1×10
21/cm3の電子濃度であり、溶融−徐冷凝固して作製した結晶質の固化体は1.2×1
021/cm3の電子濃度であった。これは、融液の中には少なくても1.2×1021/c
m3以上の電子濃度が存在していたことを示唆する。
【0070】
図5に示されるように、1.0×1021/cm3以下の電子を包接した多結晶C12A7
エレクトライドを出発物質に用い、10-19Paの極低酸素分圧の還元性雰囲気下で融解
して作製した非晶質の固化体及び結晶質の固化体のそれぞれの電子濃度は出発物質のそれ
とほぼ等しいものであった。したがって、出発物質の電子濃度に応じた電子濃度の電気伝
導性を有し、かつ非晶質のC12A7エレクトライドを製造できることが分かる。
【0071】
[C12A7エレクトライドガラス材料の仕事関数]
ヨウ素滴定法によって電子濃度が1.1×1021/cm3であったガラス材料の仕事関数
は紫外線光電子分光分析により仕事関数を測定した。図6に示されるように、紫外線光電
子分光の測定の際に起きるガラス試料の表面でチャジーアップが起きる為に、試料に直流
バイアス電圧を印加した。その印加バイアスを変化させて得られたスペクトルのカットオ
フのシフト値を、印加バイアスが0Vの時を仕事関数とした。これによって得られた仕事
関数は3.0eVを示した。エレクトライド結晶の仕事関数、2.4eVに比べやや高い
値であるが、非晶質であることにより大面積化が容易であり、高温・空気中での安定性が
より優れている。
【0072】
電子濃度が異なるC12A7エレクトライド試料を出発物質とし、実施例1と同様にそれ
ぞれを10-19Paの極低酸素分圧の還元性雰囲気下で融解した後、融解した部分だけを
双ロールの間隙に落下させ、急冷凝固することにより得られたガラス材料の仕事関数を大
気中光電子分光法を用いて測定した。図7に示されるように、ガラス材料の電子濃度が低
下することで仕事関数は増加する傾向が分かる。
【0073】
[C12A7エレクトライドガラス材料の電子放出特性]
C12A7エレクトライドガラス材料は、裏面に白金電極を形成し、もう一方の表面に、
表面から0 . 0 5 m m 離れた位置に銅電極を設置し、銅電極をプラス極として、室
温で、両電極間に、加速電圧を印加した。その結果、図9に示されるように、加速電圧が
3kV付近から、電流が流れ始めた。これにより、本発明のガラス材料が電子放出材料と
して機能する事が分かった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
C12A7エレクトライドガラス材料は、軽金属ベースの材料であり、溶解プロセスのガ
ラス質副産物としてスラグの代表的な成分である。C12A7エレクトライド融液は、金
属的導電性を示し、また電気伝導性を示すC12A7エレクトライドガラス材料は、酸化
物溶融物及び酸化物ガラス材料の新しい用途をもたらす。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C12A7系酸化物の組成を有し、電子濃度2×1018/cm3以上、2.3×1021/
cm3以下を包接する、C12A7系酸化物を溶媒とし、電子を溶質とする溶媒和からな
る融液であり、金属的な電気伝導性を示すことを特徴とする導電性酸化物融液。
【請求項2】
C12A7系酸化物の組成を有し、電子濃度2×1018/cm3以上、2.3×1021/
cm3以下を包接する、C12A7系酸化物を溶媒とし、電子を溶質とする溶媒和からな
る非晶質固体物質であり、半導体的な電気伝導性を示すことを特徴とする導電性酸化物ガ
ラス。
【請求項3】
室温で10-9S・cm-1以上、10-1S・cm-1以下の電気伝導性を示すことを特徴とす
る請求項2記載の導電性酸化物ガラス。
【請求項4】
仕事関数が3.0〜4.1eVであることを特徴とする請求項2記載の導電性酸化物ガラ
ス。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の導電性酸化物ガラスからなる電子放出素子材料。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれかに記載の導電性酸化物ガラスからなる電子注入電極材料。
【請求項7】
請求項2〜4のいずれかに記載の導電性酸化物ガラスからなる還元材料。
【請求項8】
C12A7系酸化物原料を融解する方法において、原料として電子を2×1018cm-3以
上含有するC12A7系酸化物を用い、該原料を酸素分圧1Pa以下の還元雰囲気中で1
200℃以上に加熱融解することを特徴とする請求項1記載の導電性酸化物融液の製造方
法。
【請求項9】
請求項1記載の導電性酸化物融液を酸素分圧1Pa以下の還元雰囲気中で非晶質の固体が
形成される冷却速度で冷却凝固することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の導
電性酸化物ガラスの製造方法。
【請求項10】
電子を2×1018cm-3以上含有する結晶C12A7系酸化物のバルク体に10GPa
以上の圧力を加えて該バルク体を非晶質化することを特徴とする請求項2〜4のいずれか
に記載の導電性酸化物ガラスの製造方法。
【請求項11】
電子を2×1018cm-3以上含有する結晶C12A7系酸化物をターゲットとし酸素分
圧1Pa以下の還元雰囲気中で気相蒸着法によって、非晶質の薄膜を成膜することを特徴
とする請求項2〜4のいずれかに記載の導電性酸化物ガラスの製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の方法で得られた導電性酸化物ガラスを真空中で熱処理
することにより電気伝導性を大きくすることを特徴とする導電性酸化物ガラスの製造方法
。
【請求項1】
C12A7系酸化物の組成を有し、電子濃度2×1018/cm3以上、2.3×1021/
cm3以下を包接する、C12A7系酸化物を溶媒とし、電子を溶質とする溶媒和からな
る融液であり、金属的な電気伝導性を示すことを特徴とする導電性酸化物融液。
【請求項2】
C12A7系酸化物の組成を有し、電子濃度2×1018/cm3以上、2.3×1021/
cm3以下を包接する、C12A7系酸化物を溶媒とし、電子を溶質とする溶媒和からな
る非晶質固体物質であり、半導体的な電気伝導性を示すことを特徴とする導電性酸化物ガ
ラス。
【請求項3】
室温で10-9S・cm-1以上、10-1S・cm-1以下の電気伝導性を示すことを特徴とす
る請求項2記載の導電性酸化物ガラス。
【請求項4】
仕事関数が3.0〜4.1eVであることを特徴とする請求項2記載の導電性酸化物ガラ
ス。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の導電性酸化物ガラスからなる電子放出素子材料。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれかに記載の導電性酸化物ガラスからなる電子注入電極材料。
【請求項7】
請求項2〜4のいずれかに記載の導電性酸化物ガラスからなる還元材料。
【請求項8】
C12A7系酸化物原料を融解する方法において、原料として電子を2×1018cm-3以
上含有するC12A7系酸化物を用い、該原料を酸素分圧1Pa以下の還元雰囲気中で1
200℃以上に加熱融解することを特徴とする請求項1記載の導電性酸化物融液の製造方
法。
【請求項9】
請求項1記載の導電性酸化物融液を酸素分圧1Pa以下の還元雰囲気中で非晶質の固体が
形成される冷却速度で冷却凝固することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の導
電性酸化物ガラスの製造方法。
【請求項10】
電子を2×1018cm-3以上含有する結晶C12A7系酸化物のバルク体に10GPa
以上の圧力を加えて該バルク体を非晶質化することを特徴とする請求項2〜4のいずれか
に記載の導電性酸化物ガラスの製造方法。
【請求項11】
電子を2×1018cm-3以上含有する結晶C12A7系酸化物をターゲットとし酸素分
圧1Pa以下の還元雰囲気中で気相蒸着法によって、非晶質の薄膜を成膜することを特徴
とする請求項2〜4のいずれかに記載の導電性酸化物ガラスの製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の方法で得られた導電性酸化物ガラスを真空中で熱処理
することにより電気伝導性を大きくすることを特徴とする導電性酸化物ガラスの製造方法
。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−40088(P2013−40088A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179866(P2011−179866)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載日;平成23年6月30日 掲載アドレス;http://www.sciencemag.org/ http://www.sciencemag.org/content/333/6038.toc http://www.sciencemag.org/content/333/6038/71.full.html http://www.sciencemag.org/content/333/6038/71/DC1 http://www.sciencemag.org/content/suppl/2011/06/29/333.6038.71.DC1/Kim−SOM.pdf http://www.sciencemag.org/content/suppl/2011/06/29/333.6038.71.DC1.html 掲載日;平成23年7月29日 掲載アドレス;http://www.supera.titech.ac.jp/topics/index.html 掲載日;平成23年7月1日 掲載アドレス;http://wwwold.titech.ac.jp/tokyo−tech−in−the−news/j/archives/2011/07/9909843199.html
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載日;平成23年6月30日 掲載アドレス;http://www.sciencemag.org/ http://www.sciencemag.org/content/333/6038.toc http://www.sciencemag.org/content/333/6038/71.full.html http://www.sciencemag.org/content/333/6038/71/DC1 http://www.sciencemag.org/content/suppl/2011/06/29/333.6038.71.DC1/Kim−SOM.pdf http://www.sciencemag.org/content/suppl/2011/06/29/333.6038.71.DC1.html 掲載日;平成23年7月29日 掲載アドレス;http://www.supera.titech.ac.jp/topics/index.html 掲載日;平成23年7月1日 掲載アドレス;http://wwwold.titech.ac.jp/tokyo−tech−in−the−news/j/archives/2011/07/9909843199.html
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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