説明

電気伝導性熱可塑性ポリマーのためのマスターバッチ、マスターバッチを調製するための方法及びその使用

本発明は、0wt%を超え70wt%までの、DBP吸収が少なくとも200ml/100gであるカーボンブラックと、熱可塑性ポリマーと、場合によりさらなる添加物とを含むマスターバッチを調製するための方法であって、ランダムな順序で連続して、又は、同時に、高い温度で、液体媒体、カーボンブラック及び熱可塑性ポリマー、並びに、場合によりそのような添加物を混合する工程(但し、液体媒体が最終的には、カーボンブラック及び熱可塑性ポリマーの総重量に基づいて、0wt%を超え80wt%までの量で存在する)、続いて、この組成物を冷却し、ペレット化する工程、液体媒体を溶媒による抽出によって分離する工程、及び、組成物を乾燥する工程を含む方法を提供する。加えて、電気伝導性の熱可塑性ポリマー組成物を調製するために好適なマスターバッチ、及び、電気伝導性の熱可塑性ポリマー組成物を調製するための方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気伝導性熱可塑性ポリマーのためのマスターバッチ、マスターバッチを調製するための方法及びその使用に関する。より具体的には、本発明は、多量の電気伝導性カーボンブラックと、熱可塑性ポリマーとを含有するマスターバッチ、マスターバッチを調製するための方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの用途では、良好な電気伝導性を熱可塑性ポリマー組成物に与えることが所望される。その一例が、完成した車両に粉末塗装層を1回の工程で施すことができるように、車両のプラスチック部品が金属部品のように電気伝導性であることが所望される自動車産業である。
【0003】
熱可塑性ポリマー組成物に電気伝導性を与えるために、小さい粒子を熱可塑性ポリマー組成物に加えることができる(例えば、比較的大きい多孔性を有するカーボンブラック粒子など)。
【0004】
カーボンブラック及び熱可塑性ポリマーのマスターバッチを得ることが産業界では望まれている。そのようなマスターバッチは、比較的多量のカーボンブラック粒子を含有し、所望される電気伝導性の熱可塑性ポリマー組成物を作製するために最終使用者によって熱可塑性ポリマーにより簡単に希釈することができる。従って、マスターバッチの使用は、ダスチングを伴うことなく、カーボンブラックをより取り扱い易くし、かつ、カーボンブラックの容易な適量使用(dosing)及びポリマーにおけるカーボンブラックの均一かつ迅速な分散を可能にする。
【0005】
これまでに公知であるマスターバッチは一般に、その成分を、押出機の助けをかりて溶融混合することによって調製される。
【0006】
特開平07−011064は、導電性カーボンブラック及びポリオレフィン熱可塑性樹脂を、樹脂の融解温度を超える温度で混練し、冷却後に成形することによる電気伝導性のポリオレフィンマスターバッチの調製を開示する。この方法によってポリオレフィンに導入され得るカーボンブラックの量は15wt%〜40wt%の間であると述べられる。しかしながら、実施例では、達成された最大含有量が30wt%である。
【0007】
しかしながら、大きい多孔性を有するカーボンブラック粒子は、大きい使用量で熱可塑性ポリマーに簡単に加えることができない。これは、そのようなカーボンブラックの添加は、粘度が大きすぎる熱可塑性ポリマー組成物を生じさせるか、又は、乾燥した(粉末状の)熱可塑性ポリマー組成物さえも生じさせるからである。カーボンブラック粒子の固着もまた生じる可能性があり、このことがポリマーマトリックス中におけるこの粒子の均一な分散を不可能にする。
【0008】
特開2002−322366は、電気伝導性の熱可塑性ポリマーを、カーボンブラックをそれに加えることによって作製するための方法を開示する。この方法は、カルボン酸添加物を、カーボンブラックがカルボン酸により被覆されるように少ない量でカーボンブラックに加え、続いて、被覆されたカーボンブラックを熱可塑性ポリマーと溶融混練する工程を包含する。18wt%までの量のカーボンブラックを含有する組成物が、イソフタル酸をカルボン酸添加物として使用する実施例において調製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07−011064
【特許文献2】特開2002−322366
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、70wt%までの、DBP吸収が少なくとも200ml/100gであるカーボンブラックと、熱可塑性ポリマーと、場合によりさらなる添加物とを含むマスターバッチを調製するための方法であって、下記の工程:
・ランダムな順序で連続して、又は、同時に、高い温度で、液体媒体、カーボンブラック及び熱可塑性ポリマー、並びに、場合によりそのような添加物を混合する工程であって、液体媒体が最終的には、カーボンブラック及び熱可塑性ポリマーの総重量に基づいて、0wt%を超え、80wt%までの量で存在する、工程;
・続いて、前記組成物を冷却し、ペレット化する工程、
・前記液体媒体を溶媒による抽出によって分離する工程、及び
・前記組成物を乾燥する工程
を含む方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
加えて、本発明は、上記方法によって得ることができるマスターバッチを提供する。
【0012】
本発明の方法によって得ることができるマスターバッチは、特開平07−011064によって開示されるなどの最新技術の溶融混練方法によって調製されるマスターバッチの特性とは異なる特性を有することが見出された。従って、本発明のマスターバッチは、熱可塑性ポリマーにおいてより良好に分散可能であること、取り扱いがより容易であること(より少ない粉塵含有量)、及び、それほど砕けやすくないことが見出された。
【0013】
その上、本発明は、40wt%〜70wt%の、DBP吸収が少なくとも200ml/100gであるカーボンブラックと、60wt%〜30wt%の熱可塑性ポリマーと、場合によりさらなる添加物とを含む、電気伝導性の熱可塑性ポリマー組成物を調製するために好適なマスターバッチを提供する。
【0014】
最後に、本発明は、マスターバッチを上記方法に従って作製する工程、及び、続いて、このマスターバッチを熱可塑性ポリマーと混合する工程を含む、電気伝導性の熱可塑性ポリマー組成物を調製するための方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ペレット化することによって、いくつかの方法を含めて、例えば、組成物を押出すること、組成物を粉砕すること、又は、組成物を切断することなどを含めて、組成物の粒状物を作製するためのそれぞれの方法が意味される。
【0016】
DBP吸収はカーボンブラックの多孔性についての値であり、ASTM D2414に従うジブチルフタラート油吸収を表す。
【0017】
規則的なペレット形状及びペレットのより低い破砕性のために、熱可塑性ポリマーへのマスターバッチの容易な適量使用が達成される。
【0018】
液体媒体は、カーボンブラックがマスターバッチに取り込まれた後、事実上すべてのカーボンブラック粒子が液体媒体及びポリマーによって完全に取り囲まれるような量で少なくとも使用される。一般に、液体媒体は、組成物全体の量に基づいて、0wt%を超え、80wt%までの量で使用され、好ましくは10wt%〜70wt%の量で使用され、一層より好ましくは20wt%〜70wt%の量で使用される。液体媒体は、熱可塑性ポリマーの融点に耐えることができなければならず(このことは、一般には液体媒体が、180℃を超える沸点を有しなければならないこと、好ましくは200℃を超える沸点を有しなければならないこと、より好ましくは250℃を超える沸点を有しなければならないことを意味する)、また、熱可塑性ポリマーから溶媒による抽出によって容易に分離可能でなければならない。加えて、液体媒体は、熱可塑性ポリマーが周囲温度において液体媒体に溶解しないように、又は、周囲温度において液体媒体中で膨潤しないようにしなければならない。
【0019】
液体媒体の好適な例は、フタル酸エステル、例えば、ジ−C−C10−アルキルフタラート(例えば、ジメチルフタラート、ジブチルフタラート、ジオクチルフタラート、ジイソブチルフタラート、ジイソノニルフタラート)、ブチルベンジルフタラート及びポリグリコールフタラートなど;アミン、例えば、(エトキシル化)脂肪酸アミンなど;アミド、例えば、(エトキシル化)脂肪酸アミドなど;トリエチルホスファート、トリクレシルホスファート;アセチルトリブチルシトラート;ジオクチルアジパート;エポキシ化されたダイズ油及びグリコール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール及びポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ヘキシレングリコール、1,5−ペンタンジオール、グリセロール);グリコールのモノエーテル、ジエーテル及びエステル;C8−C12アルコール;パラフィン;ダイズ油に限定されない。
【0020】
一般には、液体媒体と混合可能であることのほかに、抽出のための使用される溶媒は比較的揮発性でなければならず、すなわち、100℃未満の沸点を有しなければならず、或いは、熱可塑性ポリマーがこの溶媒において可溶性又は膨潤可能であってはならない。抽出溶媒の好適な例が、C−Cアルカン(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン)、塩素化アルカン(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)である。
【0021】
先行技術の教示に準拠する代わりに、上記方法を使用することによって、実質的により大きいカーボンブラック含有量を含有するマスターバッチを作製することが可能であること、及び、(カーボンブラック及び熱可塑性ポリマーの総量に基づいて)70wt%までの量が容易に得られ得ることが見出された。好ましい実施形態において、カーボンブラックの量は40wt%〜60wt%である。
【0022】
好ましい実施形態において、溶媒及び液体媒体は、それらが互いに容易に分離でき、これによってそれらが再使用可能であるように選ばれる。溶媒及び液体媒体を互いに分離するための方法が当業者には公知であり、その方法には、蒸留、デカンテーション、液層分離が含まれる。別の実施形態において、より低い温度で固化し、これによって溶媒から、例えば、ろ過によって固体として分離することができる液体媒体を使用することができる。
【0023】
マスターバッチ又は熱可塑性ポリマー組成物に加えることができる添加物には、酸化防止剤、オゾン亀裂防止剤、劣化防止剤(antidegradant)、UV安定剤、架橋助剤(coagent)、抗真菌剤、帯電防止剤、顔料、色素、カップリング剤、分散助剤、発泡剤、滑剤、プロセス油、充填剤、補強剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0024】
好ましい実施形態における本発明のカーボンブラックは、DBP吸収が250ml/100gを超え、一層より好ましくは300ml/100gを超える。カーボンブラックの好ましい例が、Ketjenblack EC300J及びKetjenblack EC600JDである。
【実施例】
【0025】
(比較のための)調製例1〜7
実施例1
10gのカーボンブラック(Ketjenblack EC600JD、これはDBP吸収が550ml/100gである)及び10gのポリプロピレン(HC101 BF、Borealisから得られる)を50gのエルクアミド(Armoslip E、Akzo Nobelから得られる)の存在下で混合した。混合物を、(当業者には公知であるような)純ポリプロピレンの加工と同等な様式で混合チャンバーにおいて250℃の温度で処理した。混合物を室温に冷却した後、固体物質を1mmの粒子に粉砕し、エルクアミドを沸騰n−ヘプタンにより抽出した。続いて、組成物を110℃で30分間乾燥し、高真空を加えて、残留する微量の抽出溶媒を蒸発させた。得られた粒子の組成は、重量に基づいて、48wt%のカーボンブラック、48wt%のポリプロピレン及び4wt%のエルクアミドを含有することが計算された。
【0026】
実施例2(比較例)
実施例1を、エルクアミドを添加することなく繰り返した。得られた混合物はあまりにも乾燥し、また、粉末状であったので、250℃で処理することができなかった。
【0027】
実施例3
実施例1を繰り返した。しかし、エルクアミドの代わりに、ダイズ油(Lidlのスーパーマーケットから得た)を使用した。得られた粒子は、47.5wt%のカーボンブラック、47.5wt%のポリプロピレン及び5wt%のダイズ油を含有することが計算された。
【0028】
実施例4
10gのカーボンブラック(Ketjenblack EC600JD)及び20gのポリアミド6(Akulon F223−D、DSMから得られる)を50gのエルクアミド(Armoslip E、Akzo Nobelから得られる)の存在下で混合した。混合物を、純ポリアミドの加工と同等な様式で混合チャンバーにおいて250℃の温度で処理した。混合物を室温に冷却した後、固体物質を1mmの粒子に粉砕し、エルクアミドを沸騰n−ヘプタンにより抽出した。続いて、組成物を110℃で30分間乾燥し、高真空を加えて、残留する微量の抽出溶媒を蒸発させた。得られた粒子は、30wt%のカーボンブラック、60wt%のポリアミド及び10wt%のエルクアミドを含有することが計算された。
【0029】
実施例5
実施例4を、20gの代わりに10gのポリアミドを用いて繰り返した。45wt%のカーボンブラック、45wt%のポリアミド及び10wt%のエルクアミドを含有する粒子を作製することができた。
【0030】
実施例6
10gの、多孔性が360ml/gであるカーボンブラック(Chezacarb A+、Chempetrolから得られる)と、30gのPP(Moplen HP500N、Basellから得られる)とを、Haake MiniextruderタイプCTW5において20gのジイソデシルフタラート(DIDP)と混合した(250℃の温度及び100rpmで)。冷却後、固体物質を1mmの粒子に粉砕し、沸騰ジクロロメタンにより抽出した。得られた粒子は、24wt%のカーボンブラック、73wt%のPP及び3wt%のDIDPを含有することが計算された。
【0031】
実施例7
実施例6を、20gの代わりに10gのDIDPを用いて繰り返した。
得られた粒子は、24wt%のカーボンブラック、73wt%のPP及び3wt%のDIDPを含有することが計算された。
【0032】
(比較のための)適用実施例I〜IV
実施例I(ポリマー物品を調製するためのマスターバッチの使用)
実施例1のマスターバッチを使用して、導電性ポリプロピレン物品を作製した。マスターバッチを、50rpmで稼動するHaake混合チャンバーを230℃で30分間使用して、3wt%のカーボンブラックを含有するまでポリプロピレン(Moplen HP500N、Basellから得られる)により希釈した。得られたポリプロピレンポリマーを圧縮成形によって190℃で2mmのシートに圧縮し、その抵抗率を、ASTM D257に従って測定した。結果が表1に示される。
【0033】
実施例II(比較例)
実施例1の場合と同じ組成物の導電性ポリプロピレン物品を、純カーボンブラック(Ketjenblack EC600JD)を実施例1のマスターバッチの代わりに使用して作製した。
【0034】
実施例III
実施例6で得られたサンプルを、50rpmで稼動するHaake混合チャンバーを230℃で30分間使用して、5wt%のカーボンブラックを含有するように、Moplen HP500N(Basellから得られる)で希釈した。得られたポリマーを圧縮成形によって190℃で2mmのシートに圧縮し、得られた物品の抵抗率を、ASTM D257に従って測定した。結果が表1に示される。
【0035】
実施例IV(比較例)
実施例IIIの場合と同じ組成物の導電性ポリプロピレン物品を、純カーボンブラック(Chezacarb A+)を実施例6のマスターバッチの代わりに使用して作製した。
【表1】

【0036】
上記の表において、1014Ω.cm〜1015Ω.cmの程度である純ポリプロピレンの抵抗率と比較した場合、同じ有益な導電性を有する電気伝導性ポリプロピレンが、本発明のマスターバッチを使用すること、及び、純カーボンブラックを使用することの両方によって調製され得ることを認めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0wt%を超え70wt%までの、DBP吸収が少なくとも200ml/100gであるカーボンブラックと、熱可塑性ポリマーと、場合によりさらなる添加物とを含むマスターバッチを調製するための方法であって、下記の工程:
・ランダムな順序で連続して、又は、同時に、高い温度で、液体媒体、カーボンブラック及び熱可塑性ポリマー、並びに、場合により前記添加物を混合する工程であって、液体媒体がカーボンブラック及び熱可塑性ポリマーの総重量に基づいて最終的に0wt%を超え80wt%までの量で存在する、工程、
・続いて、前記組成物を冷却し、ペレット化する工程、
・前記液体媒体を溶媒による抽出によって分離する工程、及び
・前記組成物を乾燥する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記溶媒及び前記液体媒体が互いに容易に分離され得るように選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒及び/又は前記液体媒体が再使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
マスターバッチを請求項1から3のいずれか一項に従って作製する工程、及び、続いて、前記マスターバッチを熱可塑性ポリマーと混合する工程を含む、電気伝導性の熱可塑性ポリマー組成物を調製するための方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載される方法によって得ることができるマスターバッチ。
【請求項6】
40wt%〜70wt%の、DBP吸収が少なくとも200ml/100gであるカーボンブラックと、60wt%〜30wt%の熱可塑性ポリマーと、場合によりさらなる添加物とを含む、電気伝導性の熱可塑性ポリマー組成物を調製するために好適なマスターバッチ。

【公表番号】特表2011−528744(P2011−528744A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519141(P2011−519141)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059325
【国際公開番号】WO2010/010074
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】