説明

電気光学素子基板および同基板の製造方法

【課題】正孔輸送層および電子ブロック層を溶液塗布法で一括に製膜し、発光層をIJ法やNP法で製膜して、画素毎の発光輝度ムラが無い有機EL素子を容易に製造可能にしている。
【解決手段】隔壁3が形成された基板とインク吸収層付き支持体を圧着し、隔壁3上にインク吸収層4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子の製造に適用して好適な電気光学素子基板および同基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット(IJ)法を用いた成膜技術が注目されている。IJ法は、用いるヘッドの解像度に応じて微少なインクを所望の位置に吐出することが可能であることから、微細なパターンの形成や、所望の膜厚を備えた薄膜の形成が容易であるという特徴を有する。この特徴を利用し、IJ法は微細な塗り分けが必要な有機EL素子やカラーフィルタの製造などに利用されている。
【0003】
有機EL素子をIJ法で作製する場合、正孔輸送層、電子ブロック層、発光層の3層を製膜することが多い。発光層は画素(色毎)により塗り分けが必要であり、蒸着の場合は蒸着する画素以外をマスクプレートで覆う必要があるが、IJ法の場合はマスクプレートは必要なく、3色同時に塗工することが可能である。但し、IJ法ではIJヘッドのノズル毎に吐出量バラツキを持っている問題がある。このバラツキにより画素ごとに膜厚バラツキが生じ、そのため発光輝度ムラが発生してしまう。その輝度ムラの調整方法として、ノズル毎の吐出量バラツキをあらかじめ把握し、そのデータを用いて画素毎の吐出量を揃える方法がある。IJ法で3層製膜する場合は3層ともムラ調整が必要であり、ムラ調整をすることにより時間と材料を大幅にロスしてしまう。
【0004】
発光層以外の層(正孔輸送層、電子ブロック層)は画素により塗り分ける必要はなく、全画素同一インクで製膜することが可能である。塗り分けを行わない場合、全画素を一括に製膜する溶液塗布法としてはスプレーコート法等がある。スプレーコート法では正孔輸送層材料や電子ブロック層材料を含んだインクをスプレーノズルから基板に塗布し、正孔輸送層、電子ブロック層を一括製膜できる。
【0005】
発光層以外の2層を溶液塗布法で製膜後、発光層をIJ法やノズルプリント(NP)法で製膜する方法が考えられる。IJ法の場合、隣接画素との混色を防ぐため隔壁に撥液性を持たせる必要がある。
【0006】
ただ、隔壁に撥液性がある基板に正孔輸送層、電子ブロック層を溶液塗布法で製膜を行うと隔壁上に塗布されたインクが画素へランダムに流入し画素ごとに塗工量ムラが発生してしまう。そこでスプレーコートを行う際にマスクプレートを用いて製膜したい画素を選択的に形成する方法が提案されている(特許文献1)。
【0007】
しかし、この方法ではマスクプレートを用いるため、隔壁とマスクプレートとのアライメント作業が必要となり、高解像度隔壁パターンになるほど作業が煩雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−345176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように従来では発光素子の薄膜形成において発光輝度ムラに対する製造上の問題があった。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みなされたもので、表示面を構成する画素毎の発光輝度ムラを抑制した発光素子を容易に製造可能な電気光学素子基板および同基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、正孔輸送層および電子ブロック層を溶液塗布法で一括に製膜し、発光層をIJ法やNP法で製膜して、画素毎の発光輝度ムラが無い有機EL素子を容易に製造可能にしている。
【0012】
すなわち、本発明は、基板と、前記基板上に形成された第一電極および前記第一電極を区切る隔壁と、前記隔壁間の前記第一電極上に形成された有機発光材料を含む機能層および前記機能層上に形成された第二電極とを有する電気光学素子基板であって、前記隔壁は撥液性を有し、前記隔壁上にインク吸収層を形成していることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、基板と、前記基板上に形成された第一電極および前記第一電極を区切る隔壁と、前記隔壁間の前記第一電極上に形成された有機発光材料を含む機能層および前記機能層上に形成された第二電極とを有する電気光学素子基板の製造方法であって、前記隔壁上にインク吸収層を形成する工程と、前記第一電極上に機能膜1を製膜する工程と、前記機能膜1上に機能膜2を製膜する工程とを備えていることを特徴とする。
【0014】
また、上記電気光学素子基板の製造方法において、インク吸収層はインク吸収層が形成されたフィルムと隔壁が形成された基板を圧着して形成することを特徴とする。
【0015】
また、上記電気光学素子基板の製造方法において、機能膜1は正孔輸送層、電子ブロック層であり、正孔輸送物質や電子ブロック物質を含んだ溶液を溶液塗布法を用いて製膜することを特徴とする。
【0016】
また、上記電気光学素子基板の製造方法において、機能膜2は発光層であり、有機発光材料を含むインクをインクジェット法又はノズル法を用いて製膜することを特徴とする。
【0017】
また、上記電気光学素子基板の製造方法において、機能膜2の上に電子輸送層を蒸着法を用いて製膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、正孔輸送層および電子ブロック層を溶液塗布法で一括に製膜し、発光層をIJ法やNP法で製膜することで、画素毎の発光輝度ムラが無い有機EL素子を製造できる。
【0019】
本発明によれば、インク吸収層を設けることにより、溶液塗布法により機能膜1を形成する際、隔壁上に塗布されたインクが画素内へ流入することなく吸収されることで、画素間の膜厚ムラが低減し、発光輝度ムラが無い電気光学基板を提供することができる。
【0020】
また、インク吸収層を設けることにより、機能層2をIJ法又は、NP法で製膜する際に、隣接する画素と混色を防ぐ効果もある。
【0021】
また、インク吸収層を圧着して形成することで、隔壁上だけに選択してインク吸収層を形成することができる。
【0022】
また、溶液塗布法を用いて機能膜1を製膜することで、ムラ調整等が必要なく、均一な膜厚を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子基板の構成を示す断面模式図。
【図2】上記実施形態に係るIJ装置の全体の構成例を示す図。
【図3】上記実施形態に係る吐出ノズルを用いた装置の概略図。
【図4】上記実施形態に係る吐出ノズルの断面拡大図。
【図5】上記実施形態に係る正孔輸送層の面内36点の膜厚バラツキを示す図。
【図6】上記実施形態に係るインク吸収樹脂層の有無による機能層の膜厚バラツキを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0025】
本発明の実施形態は、正孔輸送層および電子ブロック層を溶液塗布法で一括に製膜し、発光層をIJ法やNP法で製膜して、画素毎の発光輝度ムラが無い有機EL素子を容易に製造可能にしている。
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る電気光学素子基板の形成方法を説明する。ここでは、有機EL素子の構成を図1を参照して説明する。
【0027】
有機EL素子は基板上に形成される。基板としては透光性基板1が好適である。透光性基板1としては、ガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。プラスチック製のフィルムを用いると、巻取りにより高分子EL素子の製造が可能となり、安価にディスプレイパネルを提供できる。
【0028】
プラスチック製のフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等を用いることができる。また、これらのフィルムには、水蒸気バリア性、酸素バリア性を示す酸化ケイ素といった金属酸化物、窒化ケイ素といった酸化窒化物やポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物からなるバリア層を必要に応じて設けることが好ましい。
【0029】
また、本発明の実施形態で用いる検査用基板は上記の透光性基板1を用いることができる。
【0030】
透光性基板1の上には、陽極として、パターニングされた画素電極2が設けられる。画素電極2の材料としては、ITO(インジウム錫複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アルミニウム複合酸化物等の透明電極材料等が使用できる。なお、低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性があることなどからITOを用いることが好ましい。ITOはスパッタ法により透光性基板上に形成されて、フォトリソグラフィ法によりパターニングされライン状の画素電極2となる。
【0031】
ライン状の画素電極2を形成後、隣接する画素電極2の間に感光性材料を用いて、フォトリソグラフィ法により隔壁3を形成する。
【0032】
基板及び検査用基板上には、ライン状の隔壁3が設けられ、この隔壁3に囲まれた領域は膜が形成させる領域となる。
【0033】
隔壁3を形成する感光性材料としては、ポジ型レジスト、ネガ型レジストのどちらであってもよいが、絶縁性を備えている必要がある。隔壁が十分な絶縁性がない場合には隔壁を通じて隣り合う画素電極に電流が流れてしまい表示不良が発生してしまう。具体的にはポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系、フルオレン系といったものが挙げられるがこれに限定するものではない。また、有機EL素子の表示品位を上げる目的で、光遮光性の材料を感光性材料に含有させてもよい。
【0034】
本発明における隔壁3は、厚みが0.5〜5.0μmにあることが望ましい。隔壁3を隣接する画素電極間に設けることによって、各画素電極上に印刷された正孔輸送インクの広がりを抑え、また透明導電膜端部からのショート発生を防ぐことができる。隔壁が低すぎるとショートの防止効果が得られないことがあり注意が必要である。
【0035】
隔壁3が形成された基板とインク吸収層付き支持体を圧着し、隔壁3上にインク吸収層4を形成する。インク吸収層付き支持体は支持体の上にインク吸収層が形成されたものである。支持体には、プラスチックフィルムが代表的に使用される。具体的には、アセテートフィルム、三酢酸セルローズフィルム、ナイロンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリイミドフィルム、セロハンなどがあり、現状では機械的、電気的、物理的、化学的特性、加工性など総合的な観点から見て、ポリエステルフィルムが多く用いられており、特に、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが多く用いられている。
【0036】
インク吸収材としては、無機微粒子を主成分としている。無機微粒子としては例えば、シリカ微粒子、コロイダルシリカ、二酸化チタン、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、雲母、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、擬ベーマイト、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、アルミナ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化イットリウム等が挙げられる。
【0037】
圧着方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の各種ラミネート技法、並びにラミネート装置をいずれも好適に採用することができる。通常のラミネート技法、並びにラミネート装置を用いて、圧着させることができる。
【0038】
隔壁3間の画素電極2上に正孔輸送層5を形成する。形成される正孔輸送層5の体積低効率は発光効率の点から1×106Ω・cm以下のものが好ましい。
【0039】
正孔輸送物質を溶解または分散させる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、テトラクロロエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルコキシアルコール等の極性溶媒が上げられる。
【0040】
上記により隔壁3、インク吸収層(インク吸収樹脂層)4まで形成した基板1に対して、溶液塗布法により正孔輸送物質を含んだインクを吐出し、正孔輸送層5を形成する。
【0041】
溶液塗布法は例えば、浸漬法、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、デイップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、スリットコート法などが挙げられる。スプレーコート法が好適である。
【0042】
正孔輸送層5形成後、前述のスプレーコート法により電子ブロック性物質を含むインクを吐出して電子ブロック層6を形成する。電子ブロック層は、正孔輸送層5から有機発光層7へ注入された電子がそのまま陰極へ通過することを防ぐため電子をブロックするための層であり、電子ブロック性物質で構成される。
【0043】
電子ブロック性物質としては、例えば、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(以下PVKともいう。)、ポリ(パラ−フェニレンビニレン)、カルバゾールビフェニル(以下、CBPとも言う。)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチル)―1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(以下NPDとも言う。)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(以下TPDともいう。)、4,4’−ビス(10−フェノチアジニル)ビフェニルや、2,4,6−トリフェニル−1,3,5−トリアゾール、ポリフルオレン誘導体、トリフェニルアミンとフルオレンの共重合体などを挙げることができる。
【0044】
電子ブロック層を形成するインクの溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解し等が挙げられる。また正孔輸送層を形成するインクとしての粘度は3〜10cpsの範囲内で、表面張力は25〜35mN/mの範囲内であることも好ましい。上記溶媒によれば、材料の溶解度が大きいため、インク作成後の内容物の析出を防ぐことができる。
【0045】
電子ブロック層6形成後、IJ法かNP法により有機発光材料を含むインクを吐出して、有機発光層7を形成する。有機発光層7は電流を通すことにより発光する層であり、有機発光層を形成する有機発光材料は、例えば、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’―ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の発光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系の高分子材料が挙げられる。
【0046】
有機発光層7を形成するインクの溶媒としては、シメン、テトラリン、クメン、デカリン、ジュレン、シクロヘキシルベンゼン、ジヘキシルベンゼン、テトラメチルベンゼン、及びジブチルベンゼン等が挙げられる。沸点が220℃以上、室温での蒸気圧が0.10〜10mmHgであると更に好ましい。また正孔輸送層を形成するインクとしての粘度は3〜20cpsの範囲内で、表面張力は25〜35mN/mの範囲内であることも好ましい。上記溶媒を用いることで、吐出に適した粘度に調整できるため、機能層形成が容易となる。上記溶媒によれば、材料の溶解度が大きいため、インク作成後の内容物の析出を防ぐことができる。また、IJ法またはNP法を用いた機能層形成において、溶媒の揮発、或いは内容物の析出による吐出時の目詰まりや飛行曲がりを防ぎ、安定した吐出を実現するためには、材料の溶解度が大きく、高沸点及び又は低蒸気圧の溶媒が望ましい。
【0047】
図2は、本発明の実施形態において適用されるインクジェット(IJ)装置の全体構成例を示す外形図である。IJ装置20は、IJヘッド21を複数配列したIJヘッドユニット22、基板を載せる搬送ステージ23、IJヘッドの吐出を制御するIJヘッドコントローラ24、IJヘッドユニット22のIJヘッド状態を管理するIJヘッド管理装置25等により構成されている。
【0048】
本発明に用いるIJヘッド及びインクを吐出するためのノズルは、複数のノズルが配置された構成のものであれば適用可能であるが、一列に配置されたノズルが、複数の組み合わされているものを用いる。この場合、各相のノズルは各々異なったタイミングでインクを吐出される。例えば、ノズルA相、ノズルB相、ノズルC相(以下A相、B相、C相と記す)の同じ行からインクが吐出されるタイミングはA、B、Cの順でずれる。この方式(以下、シェアウェーブモードと記載)では各ノズルの間隔、例えばA層〜B層、B層〜C層を狭め、高密度なIJヘッドとすることができるために、高精細な吐出パターン形成が必要有機EL素子の製造に適している。
【0049】
以下、シェアウェーブモードのヘッドを用いて基板の所望の場所に吐出を行う時の、吐出パターン情報形成方法を説明する。前記IJヘッドコントローラーは、IJヘッドを駆動し、IJヘッドパラメータ情報と吐出パターンが格納されている。IJヘッドパラメータ情報は、IJヘッドを駆動させるための情報である。吐出パターン情報は、IJヘッドの位置情報を引数として、特定のノズルの吐出についての情報が格納されている。吐出を行う際にIJヘッドコントローラーから各ノズルに吐出パターン情報が転送され、吐出を行うことが可能である。
【0050】
また、上記IJヘッドコントローラーのIJヘッドを駆動させるためのIJヘッドパラメータ情報には、IJヘッドごとに最適の電圧値のパラメータを設定できることが好ましい。全てのIJヘッドの駆動電圧を同じ値に設定すると、IJヘッドからの吐出量が個体差により変わるため、基板内にインクを均一に吐出することができなくなるおそれがある。IJヘッドごとに最適の電圧値のパラメータを設定できるようにすることによって、IJヘッドごとの吐出量を制御することが可能となり、各セルの吐出量を調整することができる。
【0051】
位置情報を認識、または計測し、これを出力する手段は、予め入力された基板のサイズ、隔壁パターンのピッチ、画素部のパターン等の基板のパラメータと、IJヘッド及びノズルの位置情報と、吐出装置の基板の置き台の移動量等のパラメータ(以下、合わせて吐出パターン情報と記載)から、ノズルから基板上に吐出されるインクの着弾位置を算出する。あるいは、吐出装置に設置されたカメラによって、基板表面の画像を取得し、処理し、インクの着弾位置を算出することもできる。
【0052】
基板上の隔壁パターンに対してIJヘッド及びノズルの位置が算出した後、この情報を基に、インクの着弾位置が、目的とする隔壁開口部の位置であるか否かをプログラムにより処理判断する。着弾位置が目的とする隔壁開口部に該当する場合のみ有効なノズルとして認識され、そうではないノズルからは吐出されない。
【0053】
IJヘッドのノズルのうち、基板の開口部の直上部にあたるノズルについては有効と判断され、それ以外のノズルは無効と判断され、吐出パターン情報を生成する。
【0054】
隔壁で囲まれ発光する領域に上記方法で機能インクを吐出し発光層を形成する。
【0055】
次に、NP法を説明する。
【0056】
吐出ノズル装置の構成について、一例を図3にて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
図3において、インク供給タンク31に入っているインク32は、インク供給チューブ33を通って、吐出ヘッドを構成する吐出ノズル21aへ供給される。インク供給タンク31は、タンク内を加圧することでインク32を吐出ノズル21aへ流すことができる。インク供給タンク31と吐出ノズル21aとの間にはインク流量を測定するための流量計35を備えている。流量調整コントローラ36を用いることで加圧力を制御し流量を制御することができる。また、流量計35の値を流量調整コントローラ36に転送して、その値により加圧力を制御することができる。
【0058】
吐出ノズル21aと可動ステージ23aとは相対的に位置が固定されており、また基板1aは、可動ステージ23aに固定されている。可動ステージ23aはYまたはY’の方向に動くことができる。吐出ノズル21aはXまたは、X’の方向に動くことができる。また、可動ステージ23aはθ方向へも動くことができる。
【0059】
可動ステージ23aと吐出ノズル21aはそれぞれの位置情報により同期して制御される。これらの制御により、基板1a上の上記隔壁の間に上記インクが精度良く塗工され、画素が形成される。また、流量調整コントローラ36を可動ステージ23aと吐出ノズル21aの位置情報と同期して制御することで、可動ステージ23aの位置によりインク吐出量を調整することが可能である。
【0060】
図4に吐出ノズルの断面図を示し詳細に説明する。インク32は、インク供給チューブ33から円柱や直方体状のケース21bに入る。ケース21bはSUS等の金属が一般的であるが、インク耐性があればどのようなものを用いても構わない。ケース内部はマニホールドとなっており、直径5ミクロンから20ミクロン程度の微小な穴の空いたノズル21aから基板1aと垂直に吐出される。ノズル21aはポリイミド等のフィルムが一般的だが、精度良く穴をあけることができればどのようなものでも構わない。
【0061】
ノズル21aから吐出されるインクはインク乾燥によるノズル詰まりや飛行曲がりを考慮すると連続して吐出し続ける方が好ましい。そのため、吐出したくない部分等をマスキングしたりダミーパターンを設けたりすることがあるが、パネルとして問題なければどのような方法をとっても構わない。ノズル法の場合、有効領域と無効領域を同じインクで塗工することが容易である。
【0062】
有機発光層7を形成後、電子輸送層を形成する。電子輸送層の材料としては、2−(4−ビフィニルイル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、オキサジアゾール誘導体やビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリノラート)ベリリウム錯体、トリアゾール化合物等を用いることができる。 これらの材料は無機材料であればスパッタ法、CVD法等を用いて形成することができる。
【0063】
電子輸送層形成後、陰極層8を画素電極のラインパターンと直交するラインパターンで形成する。陰極層8の材料としては、有機発光層7の発光特性に応じたものを使用でき、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウムなどの金属単体やこれらと金、銀などの安定な金属との合金などが挙げられる。また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。陰極層の形成方法としてはマスクを用いた真空蒸着法による形成方法が挙げられる。
【0064】
最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップ9と接着剤10を用いて密閉封止し、有機ELディスプレイパネルを得ることができる。また、透光性基板が可撓性を有する場合は封止剤と可撓性フィルムを用いて封止を行ってもよい。
【0065】
なお、本発明の実施形態に係る有機EL素子では陽極である画素電極と陰極層の間に陽極層側から正孔輸送層と電子ブロック層と有機発光層を積層した構成であるが、陽極層と陰極層の間において正孔輸送層、有機発光層以外に正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層といった層を必要に応じ選択した積層構造をとることができる。また、これらの層を形成する際には正孔輸送層や電子ブロック層、有機発光層と同様の形成方法が使用できる。
【0066】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0067】
基板サイズを2種類で行った。サイズ1は約400mm×320mmサイズのガラス基板の上にスパッタ法を用いてITO(インジウム−錫酸化物)薄膜を形成し、フォトリソグラフィ法と酸溶液によるエッチングでITO膜をパターニングして、画素電極を形成した。画素電極のラインパターンは、線幅60μm、スペース60μmでラインが約355mm角の中に約2880×540形成されるパターンとした。
【0068】
サイズ2は約100mm×80mmサイズのガラス基板の上にスパッタ法を用いてITO(インジウム−錫酸化物)薄膜を形成し、フォトリソグラフィ法と酸溶液によるエッチングでITO膜をパターニングして、画素電極を形成した。画素電極のラインパターンは、線幅70μm、スペース60μmでラインが約7.6mm角の中に約590×159形成されるパターンとした。
【0069】
次に、隔壁を以下のように形成した。まず、画素電極を形成したガラス基板上にポリイミド系のレジスト材料を全面スピンコートした。スピンコートの条件を150rpmで5秒間回転させた後、500rpmで20秒間回転させ1回コーティングとし、隔壁の高さを3.5μmとした。全面に塗布したフォトレジスト材料に対し、フォトリソ法により画素電極の間にマトリックスパターンを有する隔壁を形成した。この隔壁は、撥液性を有している。両サイズともマトリックスサイズは130μm(バンク幅60μm)×390μm(バンク幅80μm)である。
【0070】
次に、隔壁上にインク吸収層を形成した。インク吸収層付き支持体は、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに50umの膜厚でインク吸収層が形成されたものを用いた。
【0071】
ラミネート機設定をローラー温度を70℃、回転スピードを0.2m/min、ローラー圧力を0.3MPaとし、インク吸収層付き支持体と隔壁まで形成した基板を圧着した。
【0072】
次に、正孔輸送インクとしてPEDOT/PSS(ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン)/(ポリスチレンスルフォネート)溶液であるバイトロンP CH−8000(エイチ・シー・スタルク社製)を用いて調液しインクの固形分濃度1.5%、粘度15mPa・s、蒸気圧1.1kPaのインクを用意した。インク及び版を用いて湿度45%、温度25℃の条件下において、スプレーコート法にて基板全面に正孔輸送層を形成した。その後、画素領域外の不要部をウエスで拭き取り、200℃、30分大気中で乾燥を行い正孔輸送層を形成した。このときの膜厚は50nmとなった。
【0073】
インク吸収層の効果の確認として、インク吸収層を形成したものとしないものを2種類作製し、正孔輸送物質を含むインクをスプレーコートし正孔輸送膜製膜した。図5には正孔輸送層の膜厚を面内36ポイントで計測した結果を示す。この結果から、インク吸収層を形成することで膜厚Rangeを5分の1倍に低減することが確認できる。図6にインク吸収樹脂層の有無による機能層の膜厚バラツキが発生する概略図を示す。インク吸収層を設けることにより、機能膜1を形成する際、隔壁上に塗布されたインクが画素内へ流入することなく吸収されることで、画素間の膜厚ムラが低減できると推測できる。
【0074】
次に、電子ブロック物質を溶剤に塗工インクの濃度が1.0重量%となるように溶解させ、電子ブロック層形成用塗工インクを調製した。ここで電子ブロック物質とは、ポリフルオレン誘導体からなる電子ブロック物質を示す。インク溶剤組成は、シクロヘキシルベンゼン(沸点237.5℃)を99重量%とした。このときインクの表面張力はプレート法により測定したところ、約34.3mN/mであった。粘度はE型粘度計で測定したところ9.2mPa/s(25℃)であった。蒸気圧は0.975mmHg(67.5℃)であった。
【0075】
次に、正孔輸送層まで形成された有効領域にスプレーコート法でインクを吐出した後、N2オーブンによって200℃、60分で電子ブロック層を形成した。この時の電子ブロック層の膜厚は20nmであった。
【0076】
次に、有機発光材料を溶剤に塗工インクの濃度が1.0重量%となるように溶解させ、発光層形成用塗工インクを調製した。ここで高分子蛍光体とは、ポリ(パラフェニレンビニレン)誘導体からなる発光材料を示す。インク溶剤組成は、シクロヘキシルベンゼンを99重量%とした。このときインクの表面張力はプレート法により測定したところ、約35mN/mであった。
【0077】
次に、電子ブロック層まで形成された基板にIJ法でインクを吐出した後、N2オーブンによって130℃10分の焼成を行い発光層を形成した。この時の発光層の膜厚は80nmであった。
【0078】
その上にCa、Alからなる陰極層を画素電極のラインパターンと直交するようなラインパターンで抵抗加熱蒸着法によりマスク蒸着して形成した。最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機ELディスプレイパネルを作製した。これにより得られた有機EL素子基板の表示部の周辺部には各画素電極に接続されている陽極側の取り出し電極と、陰極側の取り出し電極があり、これらを電源に接続することにより、得られた有機EL素子基板の点灯表示確認を行い、発光状態のチェックを行った。その結果、全面で発光輝度ムラが無い有機EL素子基板が得られた。
【符号の説明】
【0079】
1…透光性基板、2…画素電極、3…隔壁、4…インク吸収層(インク吸収樹脂層)、5…正孔輸送層、6…電子ブロック層、7…有機発光層、8…陰極層、9…ガラスキャップ、10…接着剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された第一電極および前記第一電極を区切る隔壁と、前記隔壁間の前記第一電極上に形成された有機発光材料を含む機能層および前記機能層上に形成された第二電極とを有する電気光学素子基板であって、
前記隔壁は撥液性を有し、前記隔壁上にインク吸収層を形成していることを特徴とする電気光学素子基板。
【請求項2】
基板と、前記基板上に形成された第一電極および前記第一電極を区切る隔壁と、前記隔壁間の前記第一電極上に形成された有機発光材料を含む機能層および前記機能層上に形成された第二電極とを有する電気光学素子基板の製造方法であって、
前記隔壁上にインク吸収層を形成する工程と、前記第一電極上に機能膜1を製膜する工程と、前記機能膜1上に機能膜2を製膜する工程とを備えていることを特徴とする電気光学基板の製造方法。
【請求項3】
前記インク吸収層はインク吸収層付き支持体と隔壁が形成された基板を圧着して形成することを特徴とする請求項2に記載の電気光学素子基板の製造方法。
【請求項4】
前記機能膜1は正孔輸送層、および電子ブロック層であり、正孔輸送物質や電子ブロック物質を含んだ溶液を溶液塗布法を用いて製膜することを特徴とする請求項2に記載の電気光学素子基板の製造方法。
【請求項5】
前記機能膜2は発光層であり、有機発光材料を含むインクをインクジェット法又はノズル法を用いて製膜することを特徴とする請求項2に記載の電気光学素子基板の製造方法。
【請求項6】
前記機能膜2の上に電子輸送層を蒸着法を用いて製膜することを特徴とする請求項2または請求項5に記載の電気光学素子基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−204329(P2012−204329A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71063(P2011−71063)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】