説明

電気光学装置、画像処理装置および電子機器

【課題】 電気光学素子の実際の特性に適合した補正を補正テーブルを必要とせずに実現する。
【解決手段】 複数の電気光学素子12の各々は階調が階調データG0によって指定される。平均値算定部42は、複数の電気光学素子12の各々に過去に指定された階調の平均値を電気光学素子12ごとに算定する。変数設定部52は、操作子20に対する操作に応じて変数A0と変数γとを設定する。補正値算定部54は、平均値算定部42が算定した平均値Xと、複数の電気光学素子12の平均値Xの最大値Xpと、変数設定部52が設定した変数A0および変数γとを含む演算式「A=A0・{1−(X/Xp)γ}」によって補正値Aを演算する。駆動回路14は、階調データG0と補正値算定部54が算定した補正値Aとに応じた階調で各電気光学素子12を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオード(以下「OLED(Organic Light Emitting Diode)」という)素子など各種の電気光学素子の階調を補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電気光学素子を配列した電気光学装置が各種の電子機器の表示装置や露光装置として従来から提案されている。各電気光学素子の階調の特性(例えば、電気光学素子に付与された電気エネルギの大小と実際の電気光学素子の階調との関係)は、各々が駆動された時間長や頻度あるいは駆動時の階調など過去における様々な駆動の状況に応じて経時的に変化する。したがって、例えば、複数の電気光学素子に同じ階調が指定された場合であっても、過去に高い頻度で高階調で駆動されていた電気光学素子ほど実際には低階調となるといった具合に、各電気光学素子の階調にバラツキ(いわゆる焼き付き)が生じ得る。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば特許文献1には、各電気光学素子に指定される階調を、その電気光学素子の特性の変化の大小に応じた補正値に基づいて補正する構成が開示されている。この構成においては、過去に指定された階調の積算値が電気光学素子ごとに算定され、予め作成された補正テーブルからその積算値に対応する補正値が選択されて階調の補正に利用される。
【特許文献1】特許第3230498号公報(図1および図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、各電気光学素子に過去に指定された階調とその電気光学素子の特性の変化との関係は必ずしも固定的ではなく、電気光学装置が使用されてきた環境(例えば温度)など様々な要因によって相違する。しかしながら、特許文献1に開示された構成においては、各電気光学素子の階調の積算値に対応した補正値が予め固定的に補正テーブルに設定されている。したがって、電気光学装置が実際に使用される環境を補正値に反映させることはできず、各電気光学素子の実際の特性に適合した補正を実現することは困難であるという問題がある。
【0005】
さらに、特許文献1の構成においては、階調の積算値に対応した補正値を含む補正テーブルが必要となるから、電気光学装置の回路規模が肥大化するとともに製造コストが増大するという問題もある。また、画像の多階調化にともなって階調の積算値が多様化すると、その各々に対応する補正値の個数が増大して補正テーブルはさらに大容量となるから、以上の問題はいっそう深刻となる。本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電気光学素子の実際の特性に適合した補正を補正テーブルを必要とせずに実現するという課題の解決を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明に係る電気光学装置は、各々の階調が階調データによって指定される複数の電気光学素子と、複数の電気光学素子の各々に過去に指定された階調の平均値を電気光学素子ごとに算定する平均値算定手段(例えば図1の平均値算定部42)と、操作子に対する操作に応じて変数を設定する変数設定手段(例えば図1の変数設定部52)と、平均値算定手段が算定した平均値と変数設定手段が設定した変数とを含む演算式によって補正値を算定する補正値算定手段(例えば図1の補正値算定部54)と、階調データと補正値算定手段が算定した補正値とに応じた階調で各電気光学素子を駆動する駆動手段(例えば図1の補正部56および駆動回路14、または図4の駆動回路14)とを具備する。なお、本発明において平均値算定手段が算定する平均値は、相加平均および相乗平均の何れであってもよい。
【0007】
この構成によれば、補正値の算定に適用される変数が操作子への操作に応じて調整されるから、利用者は、各電気光学素子の階調を実際に視認しながら操作子を操作することで補正値を好適な数値に調整することができる。したがって、補正値が補正テーブルに固定的に設定された従来の構成と比較して、各電気光学素子の実際の特性に合致した効果的な補正を実現することができる。例えば、電気光学装置が使用される環境(例えば温度)など様々な要因に応じた態様で電気光学素子の特性が変化していく場合であっても、各環境で使用されてきた電気光学装置にとって最適な補正値を選定することができる。また、補正値が演算式に基づいて算定されるから、補正値を特定するための補正テーブルを不要とすることができる。
【0008】
なお、本発明における電気光学素子とは、電流の供給や電圧の印加といった電気エネルギの付与によって階調が制御される要素である。電気光学素子の典型例であるOLED素子はその特性の経時的な変化(劣化)が特に問題となる。したがって、OLED素子を電気光学素子として採用した電気光学装置(発光装置)に本発明は特に好適に採用される。ただし、本発明における電気光学素子はこれに限定されない。
また、本発明の「複数の電気光学素子」は、電気光学装置が備える総ての電気光学素子である必要はない。例えば、電気光学装置が備える総ての電気光学素子のうち特定の領域の電気光学素子に対して局所的に特性の劣化が発生し得るような場合(例えば特定の領域に高階調の画像が固定的に表示されるような場合)には、この領域に属する複数の電気光学素子のみが本発明に係る補正の対象とされた構成としてもよい。この構成も当然に本発明の範囲に含まれる。
【0009】
本発明の具体的な態様において、演算式は、平均値算定手段によって算定された平均値が複数の電気光学素子のなかで最小である電気光学素子の補正値が、複数の電気光学素子の各々について補正値算定手段が算定する補正値のなかで最小となるように決定される。この態様における駆動手段は、例えば、平均値が最小である電気光学素子(すなわち特性の劣化の程度が最小である電気光学素子)の特性と合致するように他の電気光学素子の階調を補正値に応じて上昇させる。ただし、この構成においては、過去において頻繁に高階調で駆動されて劣化した電気光学素子(すなわち階調の平均値が大きい電気光学素子)がさらに高階調で駆動されることになるから、この電気光学素子の劣化がいっそう進行する結果となる。したがって、より望ましい態様において、演算式は、平均値算定手段によって算定された平均値が複数の電気光学素子のなかで最大である電気光学素子の補正値が、複数の電気光学素子の各々について補正値算定手段が算定する補正値のなかで最小となるように決定される。この態様における駆動手段は、例えば、平均値が最大である電気光学素子の特性(実階調)と合致するように他の電気光学素子の階調を補正値に応じて低下させる。この態様によれば、各電気光学素子の特性の劣化を抑制することができる。
【0010】
本発明の好適な態様において、変数設定手段は、平均値算定手段によって算定された平均値が階調の最低値であるときの当該電気光学素子の補正値A0と、平均値算定手段が算定する平均値Xに関する指数γとの少なくとも一方を変数として設定する。この態様によれば、過去における階調の平均値と電気光学素子の特性の劣化の程度との実際の関係に合致した補正量Aを算定することができる。
【0011】
より具体的な態様において、補正値算定手段は、平均値算定手段が各電気光学素子について算定する平均値Xと平均値Xのなかの最大値Xpとを含む以下の演算式(1)によって当該電気光学素子の補正値Aを算定する
A=A0・{1−(X/Xp)γ} ……(1)
【0012】
本発明に係る電気光学装置は各種の電子機器に利用される。この電子機器の典型例は、電気光学装置を表示装置として利用した機器である。この種の電子機器としては、パーソナルコンピュータや携帯電話機などがある。もっとも、本発明に係る電気光学装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光線の照射によって感光体ドラムなどの像担持体に潜像を形成するための露光装置(露光ヘッド)としても本発明の電気光学装置を適用することができる。
【0013】
本発明は、複数の電気光学素子の各々が階調データおよび補正値に応じた階調で駆動される電気光学装置に使用される画像処理装置としても特定される。この画像処理装置は、複数の電気光学素子の各々に過去に指定された階調の平均値を電気光学素子ごとに算定する平均値算定手段と、操作子に対する操作に応じて変数を設定する変数設定手段と、平均値算定手段が算定した平均値と変数設定手段が設定した変数とを含む演算式によって補正値を算定する補正値算定手段とを具備する。この発明によっても、本発明の電気光学装置と同様の効果が奏される。なお、本発明の画像処理装置は、画像の処理に専用されるDSP(Digital Signal Processor)などのハードウェアによって実現されてもよいし、CPU(Central Processing Unit)などのコンピュータとこれによって実行されるプログラムとの協働によって実現されてもよい。
【0014】
本発明の望ましい態様に係る画像処理装置は、補正値算定手段が各電気光学素子について算定した補正値に基づいて当該電気光学素子の階調データを補正する補正手段(例えば図1の補正部56)をさらに具備する。この態様によれば、各電気光学素子を駆動するための駆動回路に階調データを補正するための機能を持たせる必要がないから、補正の機能を持たない従来の駆動回路を電気光学装置に流用することができる。ただし、階調データを補正する機能は駆動回路に設けられてもよい。
【0015】
複数の電気光学素子の各々が階調データおよび補正値に応じた階調で駆動される電気光学装置に使用される画像処理方法としても特定される。この画像処理方法は、複数の電気光学素子の各々に過去に指定された階調の平均値を電気光学素子ごとに算定する平均値算定過程と、操作子に対する操作に応じて変数を設定する変数設定過程と、平均値算定過程で算定した平均値と変数設定過程で設定した変数とを含む演算式によって補正値を算定する補正値算定過程とを含む。
また、本発明は、コンピュータを以上の各態様に係る画像処理装置として機能させるためのプログラムとしても特定される。このプログラムは、複数の電気光学素子の各々に過去に指定された階調の平均値を電気光学素子ごとに算定する平均値算定処理と、操作子に対する操作に応じて変数を設定する変数設定処理と、平均値算定処理で算定した平均値と変数設定処理で設定した変数とを含む演算式によって補正値を算定する補正値算定処理とをコンピュータに実行させる。なお、このプログラムは、コンピュータが可読な記録媒体(例えば光ディスク)に格納された形態で利用者に提供されてコンピュータにインストールされるほか、通信網を介した配信の形態でサーバ装置から提供されてコンピュータにインストールされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<A:電気光学装置の構成>
図1は、本発明の実施形態に係る電気光学装置の構成を示すブロック図である。この電気光学装置Dは、各種の電子機器に搭載されて画像を表示する表示装置であり、図1に示すように、電気光学パネル10と操作子20と画像処理装置30とを含む。
【0017】
操作子20は、利用者が電気光学装置Dを操作するための入力機器であり、利用者による操作に応じた信号を出力する。例えば操作子20は、利用者によって押下される操作ボタンや利用者によって回転される操作ツマミを含む。なお、操作子20は、画像処理装置30や電気光学パネル10との間で赤外線を送受信するリモコンに設置されてもよい。
【0018】
電気光学パネル10は、縦m行×横n列のマトリクス状に配列された複数の電気光学素子12と(mおよびnは自然数)、各電気光学素子12を駆動する駆動回路14とを含む。駆動回路14は、画像処理装置30から電気光学素子12ごとに供給される階調データG1に応じた電流を生成して各電気光学素子12に供給する。階調データG1は、各電気光学素子12の階調を指定するためのデジタルデータである。本実施形態においては、階調データG1の数値(階調値)が大きいほど白色に近い高階調が指定される場合(すなわち階調データG1の数値が小さいほど黒色に近い低階調が指定される場合)を想定する。
【0019】
各電気光学素子12は、相互に対向する陽極と陰極との間隙に有機EL(ElectroLuminescent)材料の発光層を介在させた構造のOLED素子であり、駆動回路14から供給される電流に応じた階調(輝度)で発光する。
【0020】
この種の電気光学素子12には、所定の電流が供給されたときの実際の階調(以下「実階調」という)が過去における駆動の状況に応じて経時的に変化するという特性がある。ここで、図2は、電気光学素子12に対して過去に指定された階調の相加平均(以下「平均階調値」という)Xと電気光学素子12の実階調との関係を示すグラフである。なお、同図の横軸に示された平均階調値Xbは、過去に連続して黒色の階調のみが指定された場合の平均階調値X(平均階調値Xが取り得る理論的な最小値(ゼロ))であり、平均階調値Xwは、過去に連続して白色の階調のみが指定された場合の平均階調値X(平均階調値Xが取り得る理論的な最大値)である。一方、平均階調値Xpは、電気光学パネル10の実際の使用中に総ての電気光学素子12について算定した平均階調値Xの最大値であり、平均階調値Xsは、電気光学パネル10の使用中に総ての電気光学素子12について算定した平均階調値Xの最小値である。つまり、電気光学パネル10の総ての電気光学素子12の平均階調値Xは、最小値Xsから最大値Xpまでの範囲内の数値となる。
【0021】
図2に示すように、平均階調値Xが大きいほど電気光学素子12の実階調の低下は大きい。つまり、過去において高階調で駆動された回数が多い電気光学素子12ほど特性の劣化の程度が大きい。したがって、複数の電気光学素子12に対して同じ階調が指定されたとしても、各電気光学素子12の実階調は各々の過去における平均階調値Xに応じて相違し、この実階調のバラツキが利用者に表示のムラとして認識される。本実施形態においては、このような階調のムラを抑制するために、各電気光学素子12に指定される階調が画像処理装置30によって補正される。より具体的には、平均階調値Xが最大値Xpである電気光学素子12(すなわち、過去に高い頻度で高階調が指定された結果として総ての電気光学素子12のなかで最も実階調が低下した電気光学素子12)の実階調と合致するように、その他の電気光学素子12に指定される階調が引き下げられる。
【0022】
例えばいま、図2に示すように、平均階調値Xが最大値Xpである電気光学素子12の実階調を「Gp」とし、平均階調値Xが最大値Xpよりも小さい「X1」である電気光学素子12に着目する。平均階調値X1の電気光学素子12に指定される階調は、その実階調が「Ga」から「Gp」まで「Δ」だけ低下するように補正される。
【0023】
このような補正は、各電気光学素子12の平均階調値Xに応じた補正値Aを当該電気光学素子12の本来の階調から減算することによって実現される。図3は、各電気光学素子12の平均階調値Xとその電気光学素子12に設定される補正値Aとの関係を示すグラフである。図2を参照して説明したように、本実施形態においては、劣化の程度が最大である電気光学素子12の特性に他の電気光学素子12の特性を合わせ込む方法で補正が実施される。したがって、図3に示すように、平均階調値Xが小さい電気光学素子12(すなわち実階調の低下の程度が少ない電気光学素子12)ほど補正値Aは大きい数値とされる。一方、実階調の低下の程度が最大である電気光学素子12(つまり平均階調値Xが最大値Xpである電気光学素子12)について補正は不要であるから、最大値Xpに対応する補正値Aは最小値(ゼロ)である。
【0024】
任意の平均階調値Xについて以上の条件を満たす補正値Aは以下の式(1)で近似的に表現される。
A=A0{1−(X/Xp)γ} ……(1)
式(1)における「A0」は、図3に示すように、平均階調値Xが階調の最低値Xb(ゼロ)であるときの補正値Aに相当する。また、式(1)における「γ」は、平均階調値Xの指数である。平均階調値Xと補正値Aとの関係を表す曲線の形状(特に曲率)は「γ」に応じて決定される。
【0025】
以上の式(1)によって算定された補正値Aに基づいて各電気光学素子12の階調を補正すれば、総ての電気光学素子12の実階調は、平均階調値Xが最大値Xpである電気光学素子12の実階調に略一致する。したがって、特性の経時的な変化に起因した各電気光学素子12の階調のバラツキは有効に抑制される。
【0026】
図1の画像処理装置30は、外部から入力される画像信号によって電気光学素子12ごとに指定すされる階調に以上の補正を実施する手段である。この補正後の階調を指定する階調データG1が電気光学パネル10の駆動回路14に出力される。なお、本実施形態においては画像処理装置30が電気光学パネル10とは別体として構成された場合を例示するが、画像処理装置30が電気光学パネル10に設置された構成(例えば画像処理装置30が駆動回路14に内蔵された構成)としてもよい。
【0027】
図1に示す入出力回路32は、電気光学装置Dが搭載された電子機器のCPUなど各種の上位装置から供給される画像信号を受信し、この画像信号を階調データ検出部34およびタイミング検出部36の各々に出力する。画像信号は、各電気光学素子12の階調を指定する階調データG0が所定の周期でシリアルに配列されたデジタル信号である。
【0028】
階調データ検出部34は、入出力回路32によって供給される画像信号から各電気光学素子12の階調データG0を順次に抽出してメモリ制御部40と補正部56とに出力する。一方、タイミング検出部36は、入出力回路32によって供給される画像信号から所定の周期のドットクロック信号DCKを抽出してメモリ制御部40に出力する。
【0029】
図1のメモリ48は、メモリ制御部40による制御のもとに各種の情報を不揮発的に記憶する手段である。メモリ48としては、例えばEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)が好適に採用される。一方、メモリ制御部40は、平均値算定部42と平均値読出部44とを含む。このうち平均値算定部42は、各電気光学素子12の平均階調値Xを電気光学素子12ごとに算定する手段である。平均値算定部42が算定した平均階調値Xは順次にメモリ48に書き込まれる。図1には、縦m行×横n列に配列された電気光学素子12の各々について平均階調値X(X11ないしXmn)がメモリ48に格納された様子が図示されている。平均値算定部42による平均階調値Xの算定とメモリ48への格納とはドットクロック信号DCKに同期して順次に実行される。
【0030】
図1に示すように、メモリ48には、電気光学素子12ごとの平均階調値Xのほかにサンプル数Sが格納される。平均値算定部42は、ひとつの電気光学素子12の階調データG0が階調データ検出部34から供給されると、その電気光学素子12の平均階調値Xとサンプル数Sとをメモリ48から読み出す。そして、平均値算定部42は、ここで読み出した平均階調値Xおよびサンプル数Sの乗算値と階調データG0との加算値をサンプル数Sに「1」を加算した数値で除算し、この除算値を新たな平均階調値Xとしてメモリ48に上書きする。この平均階調値Xは次回の平均階調値Xの算定に使用される。また、平均値算定部42は、メモリ48に格納された総ての平均階調値Xを更新するたびに(すなわち総ての電気光学素子12について平均階調値Xを算定するたびに)、メモリ48に記憶されたサンプル数Sを「1」だけインクリメントする。
【0031】
図1の平均値読出部44は、平均値算定部42が各電気光学素子12について算定した平均階調値Xをメモリ48から読み出して順次に出力する手段である。さらに、平均値読出部44は、メモリ48に記憶された総ての平均階調値Xのなかから最大値Xp(図2参照)を探索し、この最大値Xpをメモリ48から読み出して補正値算定部54に出力する。平均階調値Xおよび最大値Xpの読出と出力とはドットクロック信号DCKに同期して順次に実行される。
【0032】
一方、変数設定部52は、操作子20から供給される信号に基づいて式(1)の変数A0と変数γとを決定する手段である。例えば、変数設定部52は、操作子20の操作ボタンが押下されている時間長あるいは操作子20の操作ツマミが回転された角度に応じて変数A0や変数γを決定する。したがって、変数A0および変数γは利用者による操作に応じた数値に設定される。変数設定部52が設定した変数A0および変数γは補正値算定部54に出力される。
【0033】
補正値算定部54は、平均値算定部42が各電気光学素子12について算定して平均値読出部44が読み出した平均階調値Xおよび最大値Xpと、変数設定部52が決定した変数A0および変数γとを式(1)に代入することによって当該電気光学素子12の補正値Aを演算する手段である。ここで算定された補正値Aは補正部56に出力される。図3から理解されるように、補正値算定部54によって算定される補正値Aは、平均階調値Xが大きいほど小さい数値となり、利用者によって指定される変数A0や変数γが大きいほど大きい数値となる。
【0034】
補正部56は、階調データ検出部34から供給される各電気光学素子12の階調データG0を、その電気光学素子12について補正値算定部54が算定した補正値Aに基づいて補正する手段である。より具体的には、補正部56は、階調データG0が指定する階調から補正値Aを減算し、この減算値を階調データG1(=G0−A)として駆動回路14に出力する。駆動回路14は、階調データG1に応じた電流を当該電気光学素子12に供給する。したがって、各電気光学素子12の階調は、平均階調値Xが最大値Xpである電気光学素子12の階調に近づくように変数A0や変数γに応じて均等化される。
【0035】
以上に説明したように、本実施形態においては、各電気光学素子12の補正値Aの算定に適用される変数(A0・γ)が利用者による操作子20への操作に応じて調整されるから、利用者は、電気光学パネル10によって実際に表示された画像を視認しながら操作子20を操作することで補正値Aを調整することができる。したがって、電気光学装置Dが過去に使用されてきた環境に拘わらず、実際の電気光学パネル10の特性に最も適合した補正値Aによって最適な補正が実現され、この結果として各電気光学素子12の輝度のムラを有効に解消することができる。
【0036】
また、本実施形態においては、式(1)の演算によって補正値Aが算定されるから、補正値Aを特定するための補正テーブルを電気光学装置Dに保持させる必要はない。また、補正テーブルを利用する従来の構成においては、画像の多階調化にともなって階調の積算値が多様化すると、その各々に対応する補正値を含む補正テーブルがさらに大容量になるという問題があるが、補正テーブルが不要である本実施形態においてこの問題は原理的に生じ得ない。さらに、各電気光学素子12に過去に指定された階調の平均値(平均階調値X)がメモリ48に格納されるから、例えば特許文献1のように過去の階調の積算値がメモリ48に記憶される構成と比較して、電気光学素子12ごとにメモリ48に格納される数値(平均値や積算値)のビット数が低減され、これによりメモリ48の容量を低減することができる。以上のように本実施形態においては電気光学装置Dに要求される記憶の容量を低減することができるから、電気光学装置Dの回路規模の縮小や製造コストの低減が実現される。
【0037】
<B:変形例>
以上に例示した形態には様々な変形を加えることができる。具体的な変形の態様を例示すれば以下の通りである。なお、以下の各態様を適宜に組み合わせてもよい。
【0038】
(1)変形例1
以上の形態においては、画像処理装置30の補正部56によって階調データG0が補正される構成を例示したが、階調データG0を補正する機能が画像処理装置30に搭載されている必要は必ずしもない。すなわち、各電気光学素子12を補正値Aに応じた階調で駆動する機能を駆動回路14が備えていれば、図4に示すように補正部56は画像処理装置30から省略される。この構成においては、補正値算定部54によって算定された補正値Aと階調データ検出部34によって抽出された階調データG0とが駆動回路14に入力される。
【0039】
また、以上の形態においては、階調データG0が補正値Aに応じて補正される構成を例示したが、各電気光学素子12に指定された階調そのものが補正される構成は必ずしも必要ではない。例えば、図4に例示したように補正部56が画像処理装置30から省略された構成においては、駆動回路14から各電気光学素子12に供給される電流の基準となる電圧(以下「基準電圧」という)を補正値Aに応じて補正する構成としてもよい。この構成の駆動回路14は、階調データ検出部34が出力する階調データG0に応じたレベルの電流を基準電圧に基づいて生成する一方、この基準電圧を、補正値算定部54から供給される補正値Aに応じて電気光学素子12ごとに変化させる。この構成によっても、各電気光学素子12を補正値Aに応じた階調で駆動することができる。
【0040】
さらに、以上の形態においては、補正値Aに応じたレベル(より厳密には、補正値Aに基づく補正後の階調データG1に対応したレベル)の電流が各電気光学素子12に供給される構成を例示した。この構成においては、各電気光学素子に供給される電流のレベルが補正値Aに応じて補正されるということができる。しかしながら、補正値Aに基づく補正の対象は適宜に変更される。例えばいま、電気光学素子12が駆動される時間長を制御することで多階調を表現する方式(すなわちパルス幅変調によって各電気光学素子12の階調を制御する方式)の駆動回路14が採用された構成を想定する。この構成においては、各電気光学素子12の駆動の時間長が、補正値算定部54から供給される補正値Aに基づいて調整される。なお、この構成においては、例えば、図1に示したように画像処理装置30の補正部56から供給される補正後の階調データG1に基づいて各電気光学素子12の駆動の時間長が制御される。あるいは、図4に示したように画像処理装置30から補正部56が省略された構成のもとで、駆動回路14が、階調データG0と補正値Aとに応じて各電気光学素子12の駆動の時間長を決定してもよい。
【0041】
以上に例示したように、本発明の好適な態様においては、各電気光学素子12が階調データG0と補正値Aとに応じた階調で駆動される。そして、この態様においては、各電気光学素子12の階調に補正値Aを反映させるための具体的な方法や構成は任意である。
【0042】
(2)変形例2
以上の形態においては、式(1)の変数A0と変数γとが利用者によって指定される構成を例示したが、このうち一方の変数のみが操作子20への操作に応じて制御され、他方の数値は予め定められている構成としてもよい。また、補正値Aを算定するための演算式が式(1)に限定されないことはもちろんである。すなわち、本発明の好適な態様においては、各電気光学素子12の平均階調値Xと操作子20に対する操作に応じて決定された変数とに応じて補正値Aが演算される構成であれば足りる。
【0043】
また、以上の形態においては、本来の階調から減算されるべき数値が補正値Aとして算定される構成を例示したが、補正値Aの技術的な意義やその算定の方法は、この補正値Aに基づく具体的な補正の方法に応じて適宜に変更される。例えば、以上の形態においては、平均階調値Xが最大値Xpである電気光学素子12の実階調と合致するように他の電気光学素子12の実階調を低下させる構成を例示したが、これとは逆に、平均階調値Xが最小値Xsである電気光学素子12の実階調と合致するようにその他の電気光学素子12の実階調を上昇させる構成としてもよい。この構成においては、階調データG0に加算されるべき数値が補正値Aとして算定され、階調データG0と補正値Aとの加算によって階調データG1が生成される。また、補正の具体的な処理は補正値Aの加算や減算には限定されない。例えば、階調データG0で指定される階調に対する補正値Aの乗算または除算によって新たな階調が算定される構成としてもよい。
【0044】
(3)変形例3
以上の形態においては、電気光学素子12としてOLED素子を例示したが、本発明における電気光学素子はこの例示に限定されない。例えば、無機EL材料からなる発光層を含む発光素子やLED(Light Emitting Diode)素子なども電気光学素子として採用される。また、照明装置(バックライト)からの照射光を変調して出射する液晶装置や、プラズマの放電により発光する発光素子が配列されたプラズマ装置など様々な機器を本発明の電気光学装置として採用することができる。すなわち、各々の階調が制御される複数の電気光学素子を備えた電気光学装置であれば、各電気光学素子の具体的な構造や階調を制御する方法の如何を問わず、以上の形態と同様に本発明を適用することができる。
【0045】
<C:応用例>
次に、本発明に係る電気光学装置を利用した電子機器について説明する。図5は、以上に説明した形態の電気光学装置Dを表示装置として採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての電気光学装置Dと本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002(図1や図4の操作子20に相当する)が設けられている。キーボード2002に所定の操作が与えられると、図1の変数設定部52は、この操作に応じた変数A0および変数γを決定する。
【0046】
図6に、以上の形態に係る電気光学装置Dを適用した携帯電話機の構成を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001(図1や図4の操作子20に相当する)およびスクロールボタン3002、ならびに表示装置としての電気光学装置Dを備える。スクロールボタン3002が操作されると、電気光学装置Dに表示される画面がスクロールされる。
【0047】
図7に、以上の形態に係る電気光学装置Dを適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)の構成を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての電気光学装置Dを備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が電気光学装置Dに表示される。
【0048】
図6の携帯電話機3000における操作ボタン3001や図7の携帯情報端末4000における操作ボタン4001に所定の操作が与えられると、電気光学装置Dの変数設定部52は、この操作に応じた変数A0および変数γを決定する。
【0049】
なお、本発明に係る電気光学装置が適用される電子機器としては、図5から図7に示したもののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンタ、スキャナ、複写機、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。また、本発明に係る電気光学装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光書込み型のプリンタや電子複写機といった画像形成装置においては、用紙などの記録材に形成されるべき画像に応じて感光体を露光する書込みヘッドが使用されるが、この種の書込みヘッドとしても本発明の電気光学装置は利用される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る電気光学装置の構成を示すブロック図である。
【図2】平均階調値と実階調との関係を示すグラフである。
【図3】平均階調値と補正値との関係を示すグラフである。
【図4】変形例に係る電気光学装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明に係る電子機器(パーソナルコンピュータ)の具体的な形態を示す斜視図である。
【図6】本発明に係る電子機器(携帯電話機)の具体的な形態を示す斜視図である。
【図7】本発明に係る電子機器(携帯情報端末)の具体的な形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
D……電気光学装置、10……電気光学パネル、12……電気光学素子、14……駆動回路、20……操作子、30……画像処理装置、32……入出力回路、34……階調データ検出部、36……タイミング検出部、40……メモリ制御部、42……平均値算定部、44……平均値読出部、48……メモリ、52……変数設定部、54……補正値算定部、56……補正部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々の階調が階調データによって指定される複数の電気光学素子と、
前記複数の電気光学素子の各々に過去に指定された階調の平均値を電気光学素子ごとに算定する平均値算定手段と、
操作子に対する操作に応じて変数を設定する変数設定手段と、
前記平均値算定手段が算定した平均値と前記変数設定手段が設定した変数とを含む演算式によって補正値を算定する補正値算定手段と、
前記階調データと前記補正値算定手段が算定した補正値とに応じた階調で前記各電気光学素子を駆動する駆動手段と
を具備する電気光学装置。
【請求項2】
前記演算式は、前記平均値算定手段によって算定された平均値が前記複数の電気光学素子のなかで最大である電気光学素子の補正値が、前記複数の電気光学素子の各々について前記補正値算定手段が算定する補正値のなかで最小となるように決定される
請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項3】
前記変数設定手段は、前記平均値算定手段によって算定された平均値が階調の最低値であるときの補正値A0と、前記平均値算定手段が算定する平均値Xに関する指数γとの少なくとも一方を前記変数として設定する
請求項1または請求項2に記載の電気光学装置。
【請求項4】
前記補正値算定手段は、前記平均値算定手段が各電気光学素子について算定する平均値Xと前記平均値Xのなかの最大値Xpとを含む以下の演算式(1)によって当該電気光学素子の補正値Aを算定する
A=A0・{1−(X/Xp)γ} ……(1)
請求項3に記載の電気光学装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れかに記載の電気光学装置を具備する電子機器。
【請求項6】
複数の電気光学素子の各々が階調データおよび補正値に応じた階調で駆動される電気光学装置に使用される画像処理装置であって、
前記複数の電気光学素子の各々に過去に指定された階調の平均値を電気光学素子ごとに算定する平均値算定手段と、
操作子に対する操作に応じて変数を設定する変数設定手段と、
前記平均値算定手段が算定した平均値と前記変数設定手段が設定した変数とを含む演算式によって補正値を算定する補正値算定手段と
を具備する画像処理装置。
【請求項7】
前記補正値算定手段が各電気光学素子について算定した補正値に基づいて当該電気光学素子の階調データを補正する補正手段
を具備する請求項6に記載の画像処理装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−72056(P2007−72056A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257555(P2005−257555)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】