説明

電気光学装置の駆動方法、電気光学装置および電子機器

【課題】OLED130における特性がばらつきに起因する表示ムラを抑える。
【解決手段】画素回路110は、ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を供給するトランジスター121と、トランジスター121のゲート・ソース間の電圧を保持する保持容量143と、供給された電流に応じた輝度で発光するOLED130と、トランジスター121とOLED130との間に電気的に介挿されたトランジスター126と、走査線12に供給された走査信号に応じて、データ線14に供給されたデータ信号に応じた電位をトランジスター121のゲートノードgに供給するトランジスター122とを含む。OLED130を発光させるとき、トランジスター126のゲートを、走査信号の論理レベルにおけるHレベルとLレベルとの中間電位とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば画素回路が微細化されたときに有効な電気光学装置の駆動方法、電気光学装置および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode、以下「OLED」という)素子などの発光素子を用いた電気光学装置が各種提案されている。この電気光学装置では、上記発光素子や、当該発光素子に電流を供給するための駆動トランジスター、当該電流供給される経路に介挿された発光制御トランジスター、駆動トランジスターのゲート・ソース間の電圧を保持する保持容量などを含む画素回路が、表示すべき画像の画素に対応して設けられる構成が一般的である。
このような構成において、発光制御トランジスターによって電流経路が遮断された状態で、画素の階調レベルに応じた電位が駆動トランジスターのゲートに印加されると、保持容量によって当該電位に応じた電圧が保持される。この後、発光制御トランジスターによって電流経路の遮断が解除されると、発光素子には、保持容量による保持電圧、すなわち駆動トランジスターのゲート・ソース間の電圧に応じた電流が当該駆動トランジスターによって供給される。これにより、当該発光素子は、階調レベルに応じた輝度で発光する(例えば特許文献1参照)。
また、電気光学装置に対して、表示サイズの小型化や表示の高精細化が要求されることが多い。表示サイズの小型化と表示の高精細化とを両立するためには、画素回路を微細化する必要があるので、電気光学装置を例えばシリコン基板に集積する技術も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−316462号公報
【特許文献2】特開2009−288435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、発光制御トランジスターによって電流経路の遮断が解除されたときに発光素子の一端において電位が変化する。このとき、発光素子における電圧−電流特性が画素回路毎にばらついていると、発光素子の一端における電位変化量も画素回路毎に異なる。この電位変化は、駆動トランジスターの寄生容量を介して当該駆動トランジスターのゲートに伝播し、保持容量の電圧を変化させてしまう。特に、画素回路が微細化されたときに、保持容量の容量サイズが必然的に小さくなり、一方で寄生容量が相対的に大きくなるので、保持容量の電圧変化が無視できなくなった。具体的には、複数の発光素子にわたって同じ輝度で発光させようとしても、互いに異なる電流が流れてしまうために、表示の一様性を損なうような表示ムラが発生する。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、発光素子における特性がばらついても、表示の一様性を損なう表示ムラの発生を抑えることが可能な電気光学装置の駆動方法、電気光学装置および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明に係る電気光学装置の駆動方法にあっては、複数の走査線と、複数のデータ線と、複数の走査線と複数のデータ線との交差に対応して設けられた画素回路と、を有し、前記画素回路は、ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を供給する駆動トランジスターと、供給された電流に応じた輝度で発光する発光素子と、前記駆動トランジスターのドレインと前記発光素子との間に電気的に介挿された発光制御トランジスターと、前記駆動トランジスターのゲート・ソース間の電圧を保持する保持容量と、前記走査線に供給された走査信号に応じて、前記データ線に供給されたデータ信号に応じた電位を前記駆動トランジスターのゲートに供給する選択トランジスターと、を含み、前記駆動トランジスター、前記発光制御トランジスターおよび前記発光素子が電源の高位側と低位側との間に直列に接続された電気光学装置の駆動方法であって、前記発光素子を発光させるとき、前記発光制御トランジスターのゲートを、前記走査信号の論理レベルにおいて前記選択トランジスターをオフさせる電位レベルとオンさせる電位レベルとの中間電位としたことを特徴とする。本発明によれば、駆動トランジスターによる電流が発光素子に供給される経路を、発光制御トランジスターによって開通させるとき、すなわち発光素子の発光を開始するとき、駆動トランジスターのドレイン電圧は、発光素子の特性ばらつきに依らずにほぼ一定となる。このため、表示の一様性を損なう表示ムラの発生を抑えることができる。
【0006】
本発明において、前記発光素子を発光させる前に、前記駆動トランジスターのドレインを所定の電位とする構成が好ましい。この構成によれば、発光素子を発光させるときに、駆動トランジスターのドレインは所定電位から飽和電流が流れるドレイン電圧に応じた電位に変化するので、寄生容量を介して駆動トランジスターのゲート電位に与える影響が揃えられる。
この構成において、前記走査信号によって前記選択トランジスターをオンさせて、前記駆動トランジスターのゲートに前記データ線に供給されたデータ信号に応じた電位を供給し、前記走査信号によって前記選択トランジスターをオフさせて、前記発光制御トランジスターのゲートに前記中間電位を供給する態様としても良い。
なお、本発明は、電気光学装置の駆動方法のほか、当該電気光学装置、当該電気光学装置を有する電子機器として概念することも可能である。電子機器としては、典型的にはヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)や電子ビューファイダーのなどの表示装置が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態に係る電気光学装置の構成を示す斜視図である。
【図2】同電気光学装置の構成を示す図である。
【図3】同電気光学装置における画素回路を示す図である。
【図4】同電気光学装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図5】同電気光学装置における駆動トランジスターの動作特性を示す図である。
【図6】実施形態等に係る電気光学装置を用いたHMDを示す斜視図である。
【図7】HMDの光学構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0009】
<全体的な構成>
図1は、実施形態に係る電気光学装置10の構成を示す斜視図である。電気光学装置10は、例えばヘッドマウント・ディスプレイにおいて画像を表示するマイクロ・ディスプレイである。電気光学装置10の詳細については後述するが、複数の画素回路や当該画素回路を駆動する駆動回路などが例えばシリコン基板に形成された有機EL装置であり、画素回路には、電気光学素子の一例であるOLEDが用いられている。
電気光学装置10は、表示部で開口する枠状のケース72に収納されるとともに、FPC(Flexible Printed Circuits)基板74の一端が接続されている。FPC基板74には、半導体チップの制御回路5が、COF(Chip On Film)技術によって実装されるとともに、複数の端子76が設けられて、図示省略された上位回路に接続される。当該上位回路からは、複数の端子76を介してデータ信号が同期信号に同期して供給される。同期信号には、垂直同期信号や、水平同期信号、ドットクロック信号が含まれる。
制御回路5は、電気光学装置10の電源回路と駆動回路の制御回路との機能を有する。すなわち、制御回路5は、同期信号にしたがって生成した各種の制御信号や各種電位を電気光学装置10に供給する。
【0010】
<電気的な構成>
図2は、実施形態に係る電気光学装置10の構成を示す図である。この図に示されるように、電気光学装置10は、走査線駆動回路20と、データ線駆動回路40とに大別される。
このうち、表示部100には、表示すべき画像の画素に対応した画素回路110がマトリクス状に配列されている。詳細には、表示部100において、m行の走査線12が図において横方向に延在して設けられ、また、n列のデータ線14が図において縦方向に延在し、かつ、各走査線12と互いに電気的な絶縁を保って設けられている。そして、m行の走査線12とn列のデータ線14との交差部に対応して画素回路110が設けられている。このため、本実施形態において画素回路110は、縦m行×横n列でマトリクス状に配列されている。
【0011】
ここで、m、nは、いずれも自然数である。走査線12および画素回路110のマトリクスのうち、行(ロウ)を区別するために、図において上から順に1、2、3、…、(m−1)、m行と呼ぶ場合がある。同様にデータ線14および画素回路110のマトリクスの列(カラム)を区別するために、図において左から順に1、2、3、…、(n−1)、n列と呼ぶ場合がある。
なお、同一行において、互いに隣り合う3つの画素回路110は、例えばそれぞれR(赤)、G(緑)、B(青)の画素に対応して、これらの3画素が表示すべきカラー画像の1ドットを表現する。すなわち、本実施形態では、RGBに対応したOLEDの発光によって1ドットのカラーを加法混色で表現する構成となっている。
【0012】
さて、電気光学装置10には、次のような制御信号が制御回路5から供給される。詳細には、電気光学装置10のうち、走査線駆動回路20には制御信号Ctryが供給され、データ線駆動回路40には制御信号Ctrxとデータ信号Vdとが供給される。このうち、制御信号Ctryには、実際には垂直走査を規定する複数の信号、具体的にはパルス信号や、クロック信号、イネーブル信号などの複数の信号が含まれる。また、制御信号Ctrxには、実際には水平走査を規定する複数の信号が含まれる。
【0013】
走査線駆動回路20は、フレームの期間にわたって走査線12を1行毎に順番に走査するための走査信号を、制御信号Ctryにしたがって生成するものである。ここで、1、2、3、…、(m−1)、m行目の走査線12に供給される走査信号を、それぞれGwr(1)、Gwr(2)、Gwr(3)、…、Gwr(m-1)、Gwr(m)と表記している。
走査線駆動回路20は、走査信号Gwr(1)〜Gwr(m)のほか、当該走査信号に同期した複数種類の制御信号を各行について供給するが、図2においては複雑化を避けるために省略している。
なお、フレームの期間とは、電気光学装置10が1カット(コマ)分の画像を表示するのに要する期間をいい、例えば同期信号に含まれる垂直同期信号の周波数が120Hzであれば、その1周期分の8.3ミリ秒の期間である。
【0014】
データ線駆動回路40は、走査線駆動回路20によって走査される1行分の画素回路110に対して、画素の階調レベルに対応した電位のデータ信号Vd(1)〜Vd(n)を、1〜n列目のデータ線を介して供給するものである。
なお、データ線駆動回路40は、例えば事前に制御回路5から制御信号Ctrxに同期して供給されるデータ信号Vdを保持するとともに、走査線12の走査に合わせて各列のデータ線に供給する構成としても良いし、データ線が複数列毎にグループ化される場合には、各グループに対応して供給されたデータ信号Vdをグループに属する複数列のデータ線にそれぞれ順番に供給する構成としても良い。
【0015】
本実施形態では、便宜的に走査線駆動回路20およびデータ線駆動40に分けているが、これらについては、画素回路110を駆動する駆動回路としてまとめて概念することが可能である。
【0016】
<画素回路>
図3を参照して画素回路110について説明する。各画素回路110については電気的にみれば互いに同一構成なので、ここでは、i行j列の画素回路110を例にとって説明する。
なお、iは、画素回路110のマトリクス配列のうち行を一般的に示す場合の記号であって、1以上m以下の整数であり、jは、マトリクス配列のうち列を一般的に示す場合の記号であって、1以上n以下の整数である。
【0017】
図3に示されるように、i行j列の画素回路110には、i行目に対応して、走査信号Gwr(i)のほか、制御信号Gel(i)、Grst(i)、Gcmp(i)が供給される。ここで、制御信号Gel(i)、Grst(i)、Gcmp(i)は、それぞれi行目に対応して走査線駆動回路20によって供給されるものであり、i行目において着目しているj列以外の他の列の画素回路にも共通に供給される。
【0018】
画素回路110は、PチャネルMOS型のトランジスター121〜126と、OLED130と、保持容量141〜143とを含む。
i行j列の画素回路110におけるトランジスター122にあっては、ゲートノードがi行目の走査線12に接続され、ドレインまたはソースノードの一方がj列目のデータ線14に接続され、他方がノードa、すなわち保持容量141の一端と、トランジスター123におけるドレインノードと、保持容量142の一端とにそれぞれ接続されている。保持容量141の他端とトランジスター123のソースノードとはそれぞれ給電線116に接続されている。ここで、給電線116には、画素回路110において電源の高位側となる電位Velが給電される。
【0019】
保持容量142の他端は、保持容量143の一端とトランジスター121のゲートノードgとトランジスター124のドレインノードとトランジスター125のソースノードとにそれぞれ接続されている。保持容量143の他端とトランジスター121のソースノードsとは、それぞれ給電線116に接続され、トランジスター121のドレインノードdは、トランジスター124のソースノードとトランジスター126のソースノードとにそれぞれ接続されている。
【0020】
トランジスター123のゲートノードとトランジスター125のゲートノードとには、i行目の制御信号Grst(i)がそれぞれ共通に供給される。トランジスター124のゲートノードにはi行目の制御信号Gcmp(i)が供給される。トランジスター125のドレインノードは、初期化電位Vrstを供給する給電線117に接続されている。トランジスター126にあっては、ゲートノードにi行目の制御信号Gel(i)が供給され、ドレインノードがOLED130のアノードに接続されている。
なお、トランジスター121が駆動トランジスターに相当し、トランジスター122が選択トランジスターに相当し、トランジスター126が発光制御トランジスターに相当する。また、保持容量143が、トランジスター121のゲート・ソース間の電圧を保持することになる。
【0021】
ここで、保持容量143の容量サイズをCpixと表記している。また、トランジスター121のゲート・ドレイン間には、図において破線で示されるように容量Cgdが寄生する。 なお、本実施形態において電気光学装置10はシリコン基板に形成されるので、トランジスター121〜126の基板電位については、特に図示しないが、電源の高位側の電位Velとなっている。
【0022】
OLED130のアノードは、画素回路110毎に個別に設けられる画素電極である。これに対して、OLED130のカソードは、画素回路110のすべてにわたって共通の共通電極118であり、画素回路110において電源の低位側となる電位Vctに保たれている。
このようにトランジスター121、126およびOLED130は、電源の高位側と低位側との間において直列に接続されている。
【0023】
OLED130は、上記シリコン基板において、アノードと光透過性を有するカソードとで白色有機EL層を挟持した素子である。OLED130の出射側(カソード側)にはRGBのいずれかに対応したカラーフィルターが重ねられる。
このようなOLED130において、アノードからカソードに電流が流れると、アノードから注入された正孔とカソードから注入された電子とが有機EL層で再結合して励起子が生成され、白色光が発生する。このときに発生した白色光は、シリコン基板(アノード)とは反対側のカソードを透過し、カラーフィルターによる着色を経て、観察者側に視認される構成となっている。
【0024】
<動作>
図4を参照して電気光学装置10の動作について説明する。図4は、電気光学装置10の動作を説明するためのタイミングチャートである。
この図に示されるように、走査信号Gwr(1)〜Gwr(m)が順次Lレベルに切り替えられて、1フレームの期間において1〜m行目の走査線12が1水平走査期間(H)毎に順番に走査される。
ここで、i行目でいえば、走査信号Gwr(i)、制御信号Grst(i)、Gcmp(i)は、HレベルおよびLレベルからなる二値的な論理信号である。一方、制御信号Gel(i)の高位側レベルは、走査信号Gwr(i)、制御信号Grst(i)、Gcmp(i)と同じくHレベルであるが、低位側レベルは、HレベルとLレベルとの中間の電位Vemiとなっている。
【0025】
1水平走査期間(H)での動作は、各行の画素回路110にわたって共通である。そこで以下については、i行目が水平走査される走査期間において、特にi行列の画素回路110について着目して動作を説明する。
i行目の動作にあっては、走査信号Gwr(i)がLレベルとなる(c)の書込期間よりも前に、(a)の初期化期間、(b)の補償期間がある。一方、(c)の書込期間の後に、(d)の発光期間となり、この発光期間がほぼ1フレームの期間継続して、再び(a)の初期期間となる。
換言すれば、時間の順でいえば、(発光期間)→初期化期間→補償期間→書込期間→(発光期間)というサイクルの繰り返しとなる。
【0026】
<初期化期間>
i行目において発光期間が終了して制御信号Gel(i)がHレベルとなり、この後、(a)の初期化期間となる。初期化期間では、走査信号Gwr(i)、制御信号Gel(i)がそれぞれHレベルである。また、制御信号Grst(i)がLレベルであり、制御Gcmp(i)がHレベルである。このため、トランジスター122、126がそれぞれオフする。また、トランジスター123、125がオンし、トランジスター126がオフする。トランジスター123のオンによってノードaが電位Velとなるので、保持容量141がリセットされる。また、トランジスター125のオンによってゲートノードgが電位Vrstとなるので、保持容量142、143も初期化される。
なお、トランジスター126がオフしているので、OLED130への電流経路が遮断されている。このため、OLED130には電流が供給されないので、非発光(オフ)状態である。
【0027】
<補償期間>
(a)の初期化期間の後、(b)の補償期間となる。補償期間では、初期化期間と比較して、制御信号Grst(i)がHレベルになり、制御信号Gcmp(i)がLレベルになるので、トランジスター123、125がオフする一方で、トランジスター124がオンする。このため、トランジスター121がダイオード接続状態になるので、電流が、給電線116→トランジスター121→トランジスター124→ゲートノードgという経路で流れる。
したがって、ゲートノードgは、電位Vrstから上昇する。やがて、ゲートノードgが電位(Vel−|Vth|)に至ると、電流が流れなくなる。このため、ゲートノードgは、補償期間において電位(Vel−|Vth|)に飽和する。この飽和時において、保持容量143は、トランジスター121の閾値電圧|Vth|を保持することになる。
【0028】
なお、トランジスター121はPチャネル型であるので、ソースノードの電位を基準とした閾値電圧Vthは負である。このため、高低関係の説明で混乱が生じるのを防ぐために、閾値電圧については、絶対値の|Vth|で表すことにしている。
また、補償期間において、トランジスター121のゲートノードgとドレインノードdとはトランジスター124によって接続状態にあるから、ドレインノードdについても、電位(Vel−|Vth|)に飽和することになる。
【0029】
<書込期間>
(b)の補償期間の後、(c)の書込期間となる。書込期間では、補償期間と比較して走査信号Gwr(i)がLレベルとなり、制御信号Gcmp(i)がHレベルとなるので、トランジスター122がオンする一方で、トランジスター124がオフする。このとき、j列目のデータ線14に供給されるデータ信号Vd(j)は、i行j列の画素の階調レベルに応じた電位Pix(i,j)となっている。このため、ゲートノードgは、補償期間における(Vel−|Vth|)から、ノードaの電位変化分を保持容量141、142、143の容量比に応じて配分した分だけ電位変化することになる。
したがって、保持容量143の保持電圧、すなわちトランジスター121のゲート・ソース間の電圧でみれば、トランジスター121の閾値電圧|Vth|から階調レベルに応じた分だけシフトすることになる。
走査信号Gwr(i)がHレベルになると、書込期間が終了する。これにより、トランジスター121がオフして、ゲートノードgの電位が確定するとともに、トランジスター121のゲート・ソース間もシフト後の電圧に確定する。
一方、トランジスター121のドレインノードdは、書込期間においてフローティング状態になるものの、直前の補償期間における電位(Vel−|Vth|)に寄生容量によって保持される。
【0030】
なお、i行目の書込期間よりも1水平走査期間(H)前においてデータ信号Vd(j)は、1行前の(i−1)行j列の画素の階調レベルに応じた電位Pix(i-1,j)となっている。
【0031】
<発光期間>
書込期間が終了すると、(d)の発光期間になる。この発光期間では、制御信号Gel(i)がHレベルとLレベルとの中間の電位Vemiとなる。このため、トランジスター126は、電位Velに応じた状態となる。
ここで、トランジスター121のドレインノードdは、電位(Vel−|Vth|)から後述するように電位Vovへの変化となり、この電位変化は、トランジスター121のゲート・ドレイン間に寄生する容量Cgdを介して、ゲートノードgの電位を変動させる。ただし、ドレインノードdの電位変化は、OLED130の電圧電流特性に依らずに各画素回路110にわたってほぼ一定であるので、ゲートノードgの電位変動量も画素回路110にわたって均等になる。
なお、OLED130の電流電圧特性が画素回路130にばらつく理由は、有機EL層などの膜厚などの製造上のばらつきや、温度変化、通電による経年変化などである。
【0032】
トランジスター121のゲート・ソース間の電圧は、補償期間における自身の閾値電圧|Vth|から、書込期間において階調レベルに応じた分だけシフトし、さらに、発光期間の開始時において寄生容量Cgdを介したドレインノードdの電位変化によって変動する。しかしながら、発光期間の開始時における変動は、各画素回路110にわたって均等なので無視できる。このため、本実施形態によれば、発光期間にOLED130には、容量Cgdに対し容量Cpixを無視できるほど十分に大きくすることができない構成であっても、
階調レベルに応じた電流がトランジスター121の閾値電圧|Vth|を補償した状態でほぼ供給されることになる。
【0033】
このような動作は、i行j列の画素回路110以外のi行目の他の画素回路110においても時間的に並列して実行される。さらに、このようなi行目の動作は、実際には、1フレームの期間において1、2、3、…、(m−1)、m行目の順番で実行されるとともに、フレーム毎に繰り返される。
したがって、本実施形態によれば、OLED130による特性バラツキや、トランジスター121の特性バラツキによらずに、階調レベルに応じた電流がOLED130に供給されるので、表示の一様性を損なう表示ムラの発生を抑えた高品位な表示が可能になる。
【0034】
<電位Vemi>
上述したようにトランジスター126のゲート電位は、OLED130に電流を供給しないときであればHレベルであるが、OLED130に電流を供給するときであれば、本実施形態では、Lレベルではなく、HレベルとLレベルとの中間の電位Vemiとしている。以下、この電位Vemiについて説明する。
【0035】
図5は、トランジスター121のゲートノードgにOLED130の輝度を最大とする白電位、すなわちゲート・ソース間の電圧の絶対値|Vgs|を最大の電圧Vwhiteとしたときのドレイン電圧Vdsとドレイン電流Idsの特性を示している。なお、トランジスター121はPチャネル型であるので、ドレインからソースに向かう電流を正にとると、ドレインに向かう電流Idsは負になる。混乱が生じるのを防ぐために、ドレイン電流については、絶対値の|Ids|で表すことにしている。一方、ソースを基準としたドレイン電圧Vdsについても、大小関係を説明するために絶対値の|Vds|を用いることにする。
図5に示されるように、ドレイン電圧|Vds|が|Vov|を超えると、ドレイン電流|Ids|がほぼ一定値の飽和電流|Iwhite|になる。
【0036】
ここで、トランジスター126についても同様に飽和電流が流れるゲート・ソース間の電圧をトランジスター121と区別する意味で「’」を付与してVwhite’と表す。また、トランジスター126について飽和電流が流れるドレイン電圧を|Vov’|と表す。
このとき、Vemiは、次式(1)で示される。
Vemi=Vel+Vov+Vwhite’…(1)
なお、Vov、Vwhite’は、トランジスター121、126がPチャネル型であるので負である。また、ここでは説明を簡略化するために、OLED130のカソードの電位Vctを電圧基準のゼロボルトとしている。
【0037】
トランジスター126のゲートが電位Vemiであるので、|Vov’|は有意の値となる。このとき、画素回路110の電源電位Velについては、次のような値とする必要がある。
Vel=Voled−Vov−Vov’…(2)
この式(2)においてVoledは、電流IwhiteがOLED130に流れるときのアノードおよびカソードの間の電圧である。この電圧についても、絶対値の|Voled|で表することする。
【0038】
トランジスター121、126およびOLED130の特性は、実際には上述した理由により画素回路110毎にばらつく。ここで、表示部100におけるm×n個のトランジスター121のうち、ドレイン電圧|Vov|が最大となる値をVov_maxとする。同様に、m×n個のトランジスター126のうち、ドレイン電圧|Vov’|が最大となる値をVov’_maxとし、ゲート・ソース間電圧|Vwhite’|が最大となる値をVwhite’_maxとする。また、m×n個のOLED130のうち、電圧|Voled|が最大となる値をVoled_maxとする。
【0039】
ここで、式(1)については次の式(3)となるように、また、式(2)については次の式(4)となるように、それぞれ設定すれば良いことになる。
Vemi≦Vel+Vov_max+Vwhite’_max…(1)
Vel≧Voled_max−Vov_max−Vov’_max…(2)
【0040】
表示部100をシリコン基板に集積する場合、画素回路110のサイズが微小となる。この場合に、例えばVelが5ボルト(Vctがゼロボルト)であれば、トランジスター121のゲート・ソース間電圧が|0.5V|程度でOLED130の輝度が最大(白)となり、ゲート・ソース間電圧が0VでOLED130の輝度が最小となる(黒)ときがある。このとき、電位Vemiは、トランジスター121、126の特性ばらつきを考慮すれば、電位Vemiは、4.0〜4.5V程度とすれば良い。
【0041】
<応用・変形例>
本発明は、上述した実施形態や応用例などの実施形態等に限定されるものではなく、例えば次に述べるような各種の変形が可能である。また、次に述べる変形の態様は、任意に選択された一または複数を適宜に組み合わせることもできる。
【0042】
<制御回路>
実施形態において、データ信号を供給する制御回路5については電気光学装置10とは別体としたが、制御回路5についても、走査線駆動回路20やデータ線駆動回路40とともに、シリコン基板に集積化しても良い。
【0043】
<基板>
実施形態においては、電気光学装置10をシリコン基板に集積した構成としたが、他の半導体基板に集積した構成しても良い。また、ポリシリコンプロセスを適用してガラス基板等に形成しても良い。いずれにしても、画素回路110が微細化されて、容量Cgdに対し容量Cpixを無視できるほど十分に大きくすることができない構成に有効である。
【0044】
<トランジスターのチャネル型、その他>
上述した実施形態では、画素回路110におけるトランジスター121〜126をPチャネル型で統一したが、Nチャネル型で統一しても良い。また、Pチャネル型およびNチャネル型を適宜組み合わせても良い。ここで、トランジスター126をNチャネル型とする場合、当該トランジスター126をオフさせる電位はLレベルとなる。また、電位Vemiは、LレベルとHレベルとの中間電位になり、上記の例でいえばLレベル寄りの電位範囲となる。
実施形態では、電気光学素子として発光素子であるOLED130を例示したが、例えば無機発光ダイオードやLED(Light Emitting Diode)など、電流に応じた輝度で発光するタイプが適用可能である。
【0045】
<電子機器>
次に、実施形態等や応用例に係る電気光学装置10を適用した電子機器について説明する。電気光学装置10は、画素が小サイズで高精細な表示な用途に向いている。そこで、電子機器として、ヘッドマウント・ディスプレイを例に挙げて説明する。
【0046】
図6は、ヘッドマウント・ディスプレイの外観を示す図であり、図7は、その光学的な構成を示す図である。
まず、図6に示されるように、ヘッドマウント・ディスプレイ300は、外観的には、一般的な眼鏡と同様にテンプル310や、ブリッジ320、レンズ301L、301Rを有する。また、ヘッドマウント・ディスプレイ300は、図7に示されるように、ブリッジ320近傍であってレンズ301L、301Rの奥側(図において下側)には、左眼用の電気光学装置10Lと右眼用の電気光学装置10Rとが設けられる。
電気光学装置10Lの画像表示面は、図7において左側となるように配置している。これによって電気光学装置10Lによる表示画像は、光学レンズ302Lを介して図において9時の方向に出射する。ハーフミラー303Lは、電気光学装置10Lによる表示画像を6時の方向に反射させる一方で、12時の方向から入射した光を透過させる。
電気光学装置10Rの画像表示面は、電気光学装置10Lとは反対の右側となるように配置している。これによって電気光学装置10Rによる表示画像は、光学レンズ302Rを介して図において3時の方向に出射する。ハーフミラー303Rは、電気光学装置10Rによる表示画像を6時方向に反射させる一方で、12時の方向から入射した光を透過させる。
【0047】
この構成において、ヘッドマウント・ディスプレイ300の装着者は、電気光学装置10L、10Rによる表示画像を、外の様子と重ね合わせたシースルー状態で観察することができる。
また、このヘッドマウント・ディスプレイ300において、視差を伴う両眼画像のうち、左眼用画像を電気光学装置10Lに表示させ、右眼用画像を電気光学装置10Rに表示させると、装着者に対し、表示された画像があたかも奥行きや立体感を持つかのように知覚させることができる(3D表示)。
【0048】
なお、電気光学装置10については、ヘッドマウント・ディスプレイ300のほかにも、ビデオカメラやレンズ交換式のデジタルカメラなどにおける電子式ビューファインダーにも適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
10…電気光学装置、12…走査線、14…データ線、20…走査線駆動回路、40…データ線駆動回路、100…表示部、110…画素回路、116…給電線、118…共通電極、121〜126…トランジスター、130…OLED、143…保持容量、300…ヘッドマウント・ディスプレイ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の走査線と、複数のデータ線と、
複数の走査線と複数のデータ線との交差に対応して設けられた画素回路と、
を有し、
前記画素回路は、
ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を供給する駆動トランジスターと、
供給された電流に応じた輝度で発光する発光素子と、
前記駆動トランジスターのドレインと前記発光素子との間に電気的に介挿された発光制御トランジスターと、
前記駆動トランジスターのゲート・ソース間の電圧を保持する保持容量と、
前記走査線に供給された走査信号に応じて、前記データ線に供給されたデータ信号に応じた電位を前記駆動トランジスターのゲートに供給する選択トランジスターと、
を含み、
前記駆動トランジスター、前記発光制御トランジスターおよび前記発光素子が電源の高位側と低位側との間に直列に接続された電気光学装置の駆動方法であって、
前記発光素子を発光させるとき、前記発光制御トランジスターのゲートを、前記走査信号の論理レベルにおいて前記選択トランジスターをオフさせる電位レベルとオンさせる電位レベルとの中間電位とした
ことを特徴とする電気光学装置の駆動方法。
【請求項2】
前記発光素子を発光させる前に、前記駆動トランジスターのドレインを所定の電位とする
ことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置の駆動方法。
【請求項3】
前記走査信号によって前記選択トランジスターをオンさせて、前記駆動トランジスターのゲートに前記データ線に供給されたデータ信号に応じた電位を供給し、
前記走査信号によって前記選択トランジスターをオフさせて、前記発光制御トランジスターのゲートに前記中間電位を供給する
ことを特徴とする請求項2に記載の電気光学装置の駆動方法。
【請求項4】
複数の走査線と、複数のデータ線と、
複数の走査線と複数のデータ線との交差に対応して設けられた画素回路と、
前記画素回路を駆動する駆動回路と、
を有し、
前記画素回路は、
ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を供給する駆動トランジスターと、
供給された電流に応じた輝度で発光する発光素子と、
前記駆動トランジスターのドレインと前記発光素子との間に電気的に介挿された発光制御トランジスターと、
前記駆動トランジスターのゲート・ソース間の電圧を保持する保持容量と、
前記走査線に供給された走査信号に応じて、前記データ線に供給されたデータ信号に応じた電位を前記駆動トランジスターのゲートに供給する選択トランジスターと、
を含み、
前記駆動トランジスター、前記発光制御トランジスターおよび前記発光素子が電源の高位側と低位側との間に直列に接続され、
前記駆動回路は、前記発光素子を発光させるとき、前記発光制御トランジスターのゲートを、前記走査信号の論理レベルにおいて前記選択トランジスターをオフさせる電位レベルとオンさせる電位レベルとの中間電位とする
ことを特徴とする電気光学装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電気光学装置を備える
ことを特徴とする電子機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−88640(P2013−88640A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229473(P2011−229473)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】