説明

電気光学装置及び電子機器

【課題】機械的衝撃などにも十分に対応できる保護機能を備え、さらには発光素子の長寿命化を可能にした電気光学装置と、これを備えた電子機器を提供する。
【解決手段】基体200上に第1の電極23、少なくとも一層の機能層(発光層)60を含む素子層、第2の電極50がこの順に形成されてなる電気光学装置1である。第2の電極50を覆って保護部204が設けられている。保護部204は、硬度が異なる少なくとも二つの保護層205、206を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学装置とこの電気光学装置を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと略記する)表示装置などの電気光学装置においては、基板上に陽極、正孔注入層、EL物質などの電気光学物質からなる発光層、及び陰極等が積層された構造のものが知られている。このような有機EL表示装置を構成する有機EL素子では、発光層を形成する電気光学物質の酸素や水分等による劣化や、陰極の酸素や水分等による導電性低下などにより、発光素子として寿命が短くなるといった課題があった。
このような課題を解決する技術として、従来では、例えば発光層や陰極を覆って保護膜を形成する有機EL素子の製法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−111286号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記の有機EL素子の製法によって得られる有機EL素子では、その陰極側を覆う保護膜がSiO やSi からなる一層で構成されている。したがって、例えば機械的衝撃がこの保護膜側に加わった場合、加わった衝撃がそのまま有機EL素子部に伝達されてしまい、素子性能が損なわれるおそれがある。
また、発光層が多数ある場合についての開示がなく、したがってこの技術を、多数の有機EL素子からなる表示部を備えた電気光学装置に適用するのが困難であり、よって電気光学装置における発光素子(有機EL素子)の長寿命化が難しいのが現状である。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、機械的衝撃などにも十分に対応できる保護機能を備え、さらには発光素子の長寿命化を可能にした電気光学装置と、これを備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため本発明の電気光学装置は、基体上に第1の電極、少なくとも一層の機能層を含む素子層、第2の電極がこの順に形成されてなる電気光学装置において、前記第2の電極を覆って保護部が設けられ、前記保護部が、硬度が異なる少なくとも二つの保護層を備えてなることを特徴としている。
この電気光学装置によれば、保護部が、硬度が異なる少なくとも二つの保護層を備えているので、例えば機械的衝撃がこの保護部側に加わった場合、加わった衝撃に対し特に高い硬度の保護層でこれに耐する応力を発揮、また低い高度の保護層で機械的衝撃を吸収緩和する機能を発揮するようになり、したがって保護部が機械的衝撃に対し十分に保護機能を発揮することから、素子性能が損なわれるのを防止することができる。
【0007】
また、前記電気光学装置においては、前記素子層は、前記第1の電極または前記第2の電極から供給されるキャリアが前記素子層を通過することにより機能を発現するものとしてもよい。
キャリアが素子層を通過する場合、少なくとも一部に電子と正孔の存在確率が異なる部分が生成し、その部分の電荷バランスが崩れることがある。このような部分は概して反応性が高く、例えば、酸素や水などと反応して構造欠陥となってしまう。構造欠陥はキャリアの捕捉サイトとなり、素子層の機能の低下の原因となる。このため、酸素や水などの劣化因子から素子層を十分保護する必要があるが、前記保護部により、酸素や水から素子層を保護することが可能になる。
また、キャリアの注入効率は電極の状態に大きな影響を受けるので、適切な注入効率を維持するためには、電極の劣化因子となる酸素や水などから十分に保護する必要があるが、前述したように前記保護部により、酸素や水から電極を保護することも可能になる。
【0008】
また、前記電気光学装置においては、前記第2の電極と前記保護部との間に、該第2の電極の基体上で露出する部位を覆った状態でガスバリア層が設けられてなるのが好ましい。
このようにすれば、ガスバリア層によって酸素や水分の浸入が防止され、これにより酸素や水分による機能層、例えば発光層や電極の劣化等が抑えられ、発光素子の長寿命化が可能になる。
【0009】
また、前記電気光学装置においては、前記基体上に、該基体上に形成された素子層の最外周位置のものの外側部を覆った状態でこれを囲む囲み部材が設けられ、前記第2の電極が、前記囲み部材の外側部を覆った状態に形成されているのが好ましい。
このようにすれば、特に素子層の外側部側が少なくとも囲み部材と第2の電極とによって封止されることにより、酸素や水分の浸入がより良好に防止され、これにより酸素や水分による機能層(例えば発光層)や電極の劣化等が抑えられ、発光素子の長寿命化が可能になる。
【0010】
また、前記電気光学装置においては、前記の硬度が異なる二つの保護層のうちの低い硬度の保護層が第2の電極側に設けられ、高い硬度の保護層が外側に設けられてなるのが好ましい。
このようにすれば、例えば機械的衝撃が保護部側に加わった場合、加わった衝撃に対し外側に位置する高い硬度の保護層がこれに耐する応力を発揮し、さらにこの高い硬度の保護層を伝わった衝撃を内側に位置する低い高度の保護層で吸収緩和するようになり、したがって保護部が機械的衝撃に対しより確実に保護機能を発揮し、素子性能が損なわれるのを防止することができる。
【0011】
なお、この電気光学装置においては、前記の硬度が異なる二つの保護層のうちの低い硬度の保護層が、機械的衝撃に対して緩衝機能を有しているのが好ましい。
このようにすれば、機械的衝撃が保護部側に加わった場合、低い硬度の保護層がこの機械的衝撃に対し緩衝機能を発揮することにより、保護部が機械的衝撃に対し確実に保護機能を発揮するようになり、したがって素子性能が損なわれるのを防止することができる。
【0012】
また、前記電気光学装置においては、前記低い硬度の保護層は、シランカップリング剤またはアルコキシシランを含有してなるのが好ましい。
このようにすれば、第2の電極上にガスバリア層が設けられている場合に、前記低い硬度の保護層のガスバリア層への密着性がより良好になり、したがって機械的衝撃に対する緩衝機能が高くなる。
【0013】
また、前記電気光学装置においては、前記保護部には、前記の硬度が異なる二つの保護層の間に空孔を有してなる多孔質層が設けられているのが好ましい。
このようにすれば、特に多孔質層が多くの空孔を有することによって光取出し効率が高いことから、これを機能層、例えば発光層の直上に配置することにより、発光層からの発光光の出射率を高めて表示特性を向上することができる。
【0014】
また、前記電気光学装置においては、アクティブマトリクス型であるのが好ましい。
このようにすれば、第2の電極を発光素子毎に形成する必要がないことから、微細なパターン形成が不要となり、したがって単純な成膜法で第2の電極を形成することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0015】
また、前記電気光学装置においては、その表面側に前記の硬度が異なる二つの保護層のうちの高い硬度の保護層を有し、この高い硬度の保護層は、表面保護機能を有しているのが好ましい。
このようにすれば、例えば表面保護層として耐圧性や耐摩耗性、光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能を有する層が備えられることにより、機能層(例えば発光層)や電極、さらには低い高度の保護層もこの表面保護層によって保護され、したがって発光素子の素子性能が損なわれるのが防止され、その長寿命化が図られる。
【0016】
本発明の電子機器は、前記の電気光学装置を備えたことを特徴としている。
この電子機器によれば、素子性能が損なわれるのが防止された電気光学装置を備えているので、電子機器自体も信頼性の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のEL表示装置の配線構造を示す模式図である。
【図2】本発明のEL表示装置の構成を模式的に示す平面図である。
【図3】図2のA−B線に沿う断面図である。
【図4】図2のC−D線に沿う断面図である。
【図5】図3の要部拡大断面図である。
【図6】EL表示装置の製造方法を工程順に説明する断面図である。
【図7】図6に続く工程を説明するための断面図である。
【図8】図7に続く工程を説明するための断面図である。
【図9】図8に続く工程を説明するための断面図である。
【図10】図9に続く工程を説明するための断面図である。
【図11】本発明の他のEL表示装置の要部拡大断面図である。
【図12】(a)〜(c)は本発明の電子機器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の電気光学装置の一実施形態として、電気光学物質の一例である電界発光型物質、中でも有機エレクトロルミネッセンス(EL)材料を用いたEL表示装置について説明する。
まず、本実施形態のEL表示装置の配線構造を、図1を参照して説明する。
図1に示すEL表示装置(電気光学装置)1は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下ではTFTと略記する)を用いたアクティブマトリクス型のEL表示装置である。
【0019】
このEL表示装置1は、図1に示すように、複数の走査線101…と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102…と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103…とがそれぞれ配線された構成を有するとともに、走査線101…と信号線102…の各交点付近に、画素領域X…が設けられている。
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路100が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路80が接続されている。
【0020】
さらに、画素領域X各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から共有される画素信号を保持する保持容量113と、該保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT123と、この駆動用TFT123を介して電源線103に電気的に接続したときに該電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極(電極)23と、この画素電極23と陰極(電極)50との間に挟み込まれた機能層110とが設けられている。画素電極23と陰極50と機能層110により、発光素子(有機EL素子)が構成されている。
【0021】
このEL表示装置1によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、該保持容量113の状態に応じて、駆動用TFT123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT123のチャネルを介して、電源線103から画素電極23に電流が流れ、さらに機能層110を介して陰極50に電流が流れる。機能層110は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0022】
次に、本実施形態のEL表示装置1の具体的な構成を図2〜図5を参照して説明する。
本実施形態のEL表示装置1は、図2に示すように電気絶縁性を備えた基板20と、スイッチング用TFT(図示せず)に接続された画素電極が基板20上にマトリックス状に配置されてなる画素電極域(図示せず)と、画素電極域の周囲に配置されるとともに各画素電極に接続される電源線(図示せず)と、少なくとも画素電極域上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部3(図2中一点鎖線枠内)とを具備して構成されたアクティブマトリクス型のものである。なお、本発明においては、基板20と後述するようにこれの上に形成されるスイッチング用TFTや各種回路、及び層間絶縁膜などを含めて、基体と称している。(図3、4中では符号200で示している。)
【0023】
画素部3は、中央部分の実表示領域4(図2中二点鎖線枠内)と、実表示領域4の周囲に配置されたダミー領域5(一点鎖線および二点鎖線の間の領域)とに区画されている。
実表示領域4には、それぞれ画素電極を有する表示領域R、G、BがA−B方向およびC−D方向にそれぞれ離間してマトリックス状に配置されている。
また、実表示領域4の図2中両側には、走査線駆動回路80、80が配置されている。
これら走査線駆動回路80、80は、ダミー領域5の下側に配置されたものである。
【0024】
さらに、実表示領域4の図2中上側には、検査回路90が配置されている。この検査回路90は、EL表示装置1の作動状況を検査するための回路であって、例えば検査結果を外部に出力する検査情報出力手段(図示せず)を備え、製造途中や出荷時の表示装置の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されたものである。なお、この検査回路90も、ダミー領域5の下側に配置されたものである。
【0025】
走査線駆動回路80および検査回路90は、その駆動電圧が、所定の電源部から駆動電圧導通部310(図3参照)および駆動電圧導通部340(図4参照)を介して、印加されるよう構成されている。また、これら走査線駆動回路80および検査回路90への駆動制御信号および駆動電圧は、このEL表示装置1の作動制御を行う所定のメインドライバなどから駆動制御信号導通部320(図3参照)および駆動電圧導通部350(図4参照)を介して、送信および印加されるようになっている。なお、この場合の駆動制御信号とは、走査線駆動回路80および検査回路90が信号を出力する際の制御に関連するメインドライバなどからの指令信号である。
【0026】
また、このEL表示装置1は、図3、図4に示すように基体200上に第1の電極(画素電極23)と本発明における機能層としての発光層60と第2の電極(陰極50)とを備えた発光素子(有機EL素子)を多数形成し、さらにこれらを覆ってガスバリア層30を形成したものである。
なお、本例では機能層を発光層60としてが、本発明における機能層とは、代表的には発光層(エレクトロルミネッセンス層)であるものの、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層などのキャリア注入層またはキャリア輸送層としてもよい。さらには、正孔阻止層(ホールブロッキング層)、電子阻止層(エレクトロン阻止層)であってもよい。
【0027】
基体200を構成する基板20としては、いわゆるトップエミッション型のEL表示装置の場合、この基板20の対向側であるガスバリア層30側から発光光を取り出す構成であるので、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。
【0028】
また、いわゆるバックエミッション型のEL表示装置の場合には、基板20側から発光光を取り出す構成であるので、基板20としては、透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。なお、本実施形態では、ガスバリア層30側から発光光を取り出すトップエミッション型とし、よって基板20としては前記した不透明のもの、例えば不透明のプラスチックフィルムなどが用いられる。
【0029】
また、基板20上には、画素電極23を駆動するための駆動用TFT123などを含む回路部11が形成されており、その上に発光素子(有機EL素子)が多数設けられている。発光素子は、図5に示すように、陽極として機能する画素電極(第1の電極)23と、この画素電極23からの正孔を注入/輸送する正孔輸送層70と、電気光学物質の一つである有機EL物質を備える発光層60と、陰極(第2の電極)50とが順に形成されたことによって構成されたものである。
このような構成のもとに、発光素子はその発光層60において、正孔輸送層70から注入された正孔と陰極50からの電子とが結合することにより、発光光を生じるようになっている。
【0030】
画素電極23は、本実施形態ではトップエミッション型であることから透明である必要がなく、したがって適宜な導電材料によって形成されている。
正孔輸送層70の形成材料としては、例えばポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体など、またはそれらのドーピング体などが用いられる。具体的には、3,4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)[商品名;バイトロン−p(Bytron-p):バイエル社製]の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液などが用いられる。
【0031】
発光層60を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料を用いることができる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。
また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
なお、前記の高分子材料に代えて、従来公知の低分子材料を用いることもできる。
また、必要に応じて、このような発光層60の上に電子注入層を形成してもよい。
【0032】
また、本実施形態において正孔輸送層70と発光層60とは、図3〜図5に示すように基体200上にて格子状に形成された親液性制御層25と有機バンク層221とによって囲まれて配置され、これにより囲まれた正孔輸送層70および発光層60は単一の発光素子(有機EL素子)を構成する素子層となっている。
なお、格子状に形成された親液性制御層25および有機バンク層221にあって、特に最外周を形成する部分、すなわち発光層60の最外周位置のものの外側部を覆った状態でこれを囲む部分が、本発明における囲み部材201となっている。
ここで、囲み部材201については、特にその上部を形成する有機バンク層221における、外側部を形成する面201aの基体200表面に対する角度θが、110度以上となっている。このような角度としたのは、この上に形成する陰極50、さらにはガスバリア層30のステップカバレージ性を良好にし、外側部上での陰極やガスバリア層30の連続性を確保するためである。
【0033】
陰極50は、図3〜図5に示すように、実表示領域4およびダミー領域5の総面積より広い面積を備え、それぞれを覆うように形成されたもので、前記発光層60と有機バンク層221及び囲み部材201の上面、さらには囲み部材201の外側部を形成する面201aを覆った状態で基体200上に形成されたものである。なお、この陰極50は、図4に示すように前記囲み部材201の面201aの外側で基体200の外周部に形成された陰極用配線202に接続されている。この陰極用配線202にはフレキシブル基板203が接続されており、これによって陰極50は、陰極用配線202を介してフレキシブル基板203上の図示しない駆動IC(駆動回路)に接続されたものとなっている。
【0034】
陰極50を形成するための材料としては、本実施形態はトップエミッション型であることから光透過性である必要があり、したがって透明導電材料が用いられる。透明導電材料としてはITOが好適とされるが、これ以外にも、例えば酸化インジウム・酸化亜鉛系アモルファス透明導電膜(Indium Zinc Oxide :IZO/アイ・ゼット・オー)(登録商標))(出光興産社製)等を用いることができる。なお、本実施形態ではITOを用いるものとする。
【0035】
このような陰極50の上には、この陰極50の基体200上で露出する部位を覆った状態でガスバリア層30が設けられている。このガスバリア層30は、その内側に酸素や水分が浸入するのを防止するためのもので、これにより陰極50や発光層60への酸素や水分の浸入を防止し、酸素や水分による陰極50や発光層60の劣化等を抑えるようにしたものである。
【0036】
このガスバリア層30は、例えば無機化合物からなるもので、好ましくは珪素化合物、すなわち珪素窒化物や珪素酸窒化物、珪素酸化物などによって形成されている。ただし、珪素化合物以外でも、例えばアルミナや酸化タンタルなどからなっていてもよい。このようにガスバリア層30が無機化合物で形成されていれば、特に陰極50がITOからなっていることにより、ガスバリア層30とこの陰極50との密着性がよくなり、したがってガスバリア層30が欠陥のない緻密な層となって酸素や水分に対するバリア性がより良好になる。
【0037】
また、このガスバリア層30としては、例えば前記の珪素化合物のうちの異なる層を積層した構造としてもよく、具体的には、陰極50側から珪素窒化物、珪素酸窒化物の順に形成し、あるいは陰極50側から珪素酸窒化物、珪素酸化物の順に形成してガスバリア層30を構成するのが好ましい。また、このような組み合わせ以外にも、組成比の異なる珪素酸窒化物を2層以上積層した場合に、陰極50側の層の酸素濃度がこれより外側の層の酸素濃度より低くなるように構成するのが好ましい。
このようにすれば、陰極50側がその反対側より酸素濃度が低くなることから、ガスバリア層30中の酸素が陰極50を通ってその内側の発光層60に到り、発光層60を劣化させてしまうといったことを防止することができ、これにより発光層60の長寿命化を図ることができる。
【0038】
また、ガスバリア層30としては、積層構造とすることなく、その組成を不均一にして特にその酸素濃度が連続的に、あるいは非連続的に変化するような構成としてもよく、その場合にも、陰極50側の酸素濃度が外側の酸素濃度より低くなるように構成するのが、前述した理由により好ましい。
また、このようなガスバリア層30の厚さとしては、10nm以上、300nm以下であるのが好ましい。10nm未満であると、膜の欠陥や膜厚のバラツキなどによって部分的に貫通孔が形成されてしまい、ガスバリア性が損なわれてしまうおそれがあるからであり、300nmを越えると、応力による割れが生じてしまうおそれがあるからである。
また、本実施形態ではトップエミッション型としていることから、ガスバリア層30は透光性を有する必要があり、したがってその材質や膜厚を適宜に調整することにより、本実施形態では可視光領域における光線透過率を例えば80%以上にしている。
【0039】
ガスバリア層30の外側には、これの上を覆って保護部204が設けられている。この保護部204は、本例では硬度の異なる二つの保護層、すなわちガスバリア層30側に設けられた緩衝層205と、この上に設けられた表面保護層206とから構成されている。
緩衝層205は、前記ガスバリア層30に密着し、かつ外部からの機械的衝撃に対して緩衝機能を有するもので、例えばウレタン系、アクリル系、エポキシ系、ポリオレフィン系などの、柔軟でガラス転移点が低い樹脂材料からなる接着剤によって形成されたものである。また、この緩衝層205は、表面保護層206より硬度が低く形成されたものである。
【0040】
このような緩衝層205としては、その硬度を低くするため、例えば発泡材料を用いることなどによって微細な空孔を有した多孔質体に形成してもよい。このように多孔質体に形成すれば、クッション性が高められて緩衝機能が一層高くなり、また、この緩衝層205を透過する光の取出し効率、すなわち光透過率も高くなり、トップエミッション型にした場合に有利になる。
なお、緩衝層205を形成するための接着剤には、シランカップリング剤またはアルコキシシランを添加しておくのが好ましく、このようにすれば、形成される緩衝層205とガスバリア層30との密着性がより良好になり、したがって機械的衝撃に対する緩衝機能が高くなる。また、特にガスバリア層30が珪素化合物で形成されている場合などでは、シランカップリング剤やアルコキシシランによってこのガスバリア層30の欠陥を修復することができ、したがってガスバリア層30のガスバリア性を高めることができる。
【0041】
表面保護層206は、緩衝層205上に設けられることにより、保護部204の表面側を構成するものであり、耐圧性や耐摩耗性、外部光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能の少なくとも一つを有してなる層である。具体的には、ガラスや高分子層(プラスチックフィルム)、DLC(ダイアモンドライクカーボン)層などによって形成されるもので、前述したように緩衝層205より硬度が高い材料で形成され、あるいは硬度が高くなるよう形成されたことにより、緩衝層205より硬度が高いものとされたものである。なお、ここでいう硬度とは、押し込み硬さとして、一般にプラスチック材料に対して適用されるロックウェル硬さや、反発硬さとして、プラスチック材料やゴム材料などに適用されるショアー硬さ、さらには引っ掻き硬さとして鉱物に適用されるモース硬さなど、種々の試験法による硬さによって規定されるが、本発明においては特に押し込み硬さや反発硬さによって規定される硬さとするのが好ましい。
また、この例のEL表示装置においては、トップエミッション型にする場合に前記表面保護層206、緩衝層205を共に透光性のものにする必要があるが、バックエミッション型とする場合にはその必要はない。
【0042】
前記の発光素子の下方には、図5に示したように回路部11が設けられている。この回路部11は、基板20上に形成されて基体200を構成するものである。すなわち、基板20の表面にはSiO を主体とする下地保護層281が下地として形成され、その上にはシリコン層241が形成されている。このシリコン層241の表面には、SiOおよび/またはSiNを主体とするゲート絶縁層282が形成されている。
【0043】
また、前記シリコン層241のうち、ゲート絶縁層282を挟んでゲート電極242と重なる領域がチャネル領域241aとされている。なお、このゲート電極242は、図示しない走査線101の一部である。一方、シリコン層241を覆い、ゲート電極242を形成したゲート絶縁層282の表面には、SiOを主体とする第1層間絶縁層283が形成されている。
【0044】
また、シリコン層241のうち、チャネル領域241aのソース側には、低濃度ソース領域241bおよび高濃度ソース領域241Sが設けられる一方、チャネル領域241aのドレイン側には低濃度ドレイン領域241cおよび高濃度ドレイン領域241Dが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain )構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域241Sは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール243aを介して、ソース電極243に接続されている。このソース電極243は、前述した電源線103(図1参照、図5においてはソース電極243の位置に紙面垂直方向に延在する)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域241Dは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール244aを介して、ソース電極243と同一層からなるドレイン電極244に接続されている。
【0045】
ソース電極243およびドレイン電極244が形成された第1層間絶縁層283の上層は、例えばアクリル系の樹脂成分を主体とする第2層間絶縁層284によって覆われている。この第2層間絶縁層284は、アクリル系の絶縁膜以外の材料、例えば、SiN、SiO などを用いることもできる。そして、ITOからなる画素電極23が、この第2層間絶縁層284の表面上に形成されるとともに、該第2層間絶縁層284に設けられたコンタクトホール23aを介してドレイン電極244に接続されている。すなわち、画素電極23は、ドレイン電極244を介して、シリコン層241の高濃度ドレイン領域241Dに接続されている。
【0046】
なお、走査線駆動回路80および検査回路90に含まれるTFT(駆動回路用TFT)、すなわち、例えばこれらの駆動回路のうち、シフトレジスタに含まれるインバータを構成するNチャネル型又はPチャネル型のTFTは、画素電極23と接続されていない点を除いて前記駆動用TFT123と同様の構造とされている。
【0047】
画素電極23が形成された第2層間絶縁層284の表面には、画素電極23と、前記した親液性制御層25及び有機バンク層221とが設けられている。親液性制御層25は、例えばSiO などの親液性材料を主体とするものであり、有機バンク層221は、アクリルやポリイミドなどからなるものである。そして、画素電極23の上には、親液性制御層25に設けられた開口部25a、および有機バンク221に囲まれてなる開口部221aの内部に、正孔輸送層70と発光層60とがこの順に積層されている。なお、本実施形態における親液性制御層25の「親液性」とは、少なくとも有機バンク層221を構成するアクリル、ポリイミドなどの材料と比べて親液性が高いことを意味するものとする。
以上に説明した基板20上の第2層間絶縁層284までの層が、回路部11を構成するものとなっている。
【0048】
ここで、本実施形態のEL表示装置1は、カラー表示を行うべく、各発光層60が、その発光波長帯域が光の三原色にそれぞれ対応して形成されている。例えば、発光層60として、発光波長帯域が赤色に対応した赤色用発光層60R、緑色に対応した緑色用発光層60G、青色に対応した青色用有機EL層60Bとをそれぞれに対応する表示領域R、G、Bに設け、これら表示領域R、G、Bをもってカラー表示を行う1画素が構成されている。また、各色表示領域の境界には、金属クロムをスパッタリングなどにて成膜した図示略のBM(ブラックマトリクス)が、例えば有機バンク層221と親液性化制御層25との間に形成されている。
【0049】
次に、本実施形態のEL表示装置1の製造方法の一例を、図6〜図10を参照して説明する。なお、本実施形態においては、電気光学装置としてのEL表示装置1が、トップエミッション型である場合について説明する。また、図6〜図10に示す各断面図は、図2中のA−B線の断面図に対応した図である。
まず、図6(a)に示すように、基板20の表面に、下地保護層281を形成する。次に、下地保護層281上に、ICVD法、プラズマCVD法などを用いてアモルファスシリコン層501を形成した後、レーザアニール法又は急速加熱法により結晶粒を成長させてポリシリコン層とする。
【0050】
次いで、図6(b)に示すように、ポリシリコン層をフォトリソグラフィ法によりパターニングし、島状のシリコン層241、251および261を形成する。これらのうちシリコン層241は、表示領域内に形成され、画素電極23に接続される駆動用TFT123を構成するものであり、シリコン層251、261は、走査線駆動回路80に含まれるPチャネル型およびNチャネル型のTFT(駆動回路用TFT)をそれぞれ構成するものである。
【0051】
次に、プラズマCVD法、熱酸化法などにより、シリコン層241、251および261、下地保護層281の全面に厚さが約30nm〜200nmのシリコン酸化膜によって、ゲート絶縁層282を形成する。ここで、熱酸化法を利用してゲート絶縁層282を形成する際には、シリコン層241、251および261の結晶化も行い、これらのシリコン層をポリシリコン層とすることができる。
【0052】
また、シリコン層241、251および261にチャネルドープを行う場合には、例えば、このタイミングで約1×1012/cm のドーズ量でボロンイオンを打ち込む。
その結果、シリコン層241、251および261は、不純物濃度(活性化アニール後の不純物にて算出)が約1×1017/cm の低濃度P型のシリコン層となる。
【0053】
次に、Pチャネル型TFT、Nチャネル型TFTのチャネル層の一部にイオン注入選択マスクを形成し、この状態でリンイオンを約1×1015/cm のドーズ量でイオン注入する。その結果、パターニング用マスクに対してセルフアライン的に高濃度不純物が導入されて、図6(c)に示すように、シリコン層241及び261中に高濃度ソース領域241Sおよび261S並びに高濃度ドレイン領域241Dおよび261Dが形成される。
【0054】
次に、図6(c)に示すように、ゲート絶縁層282の表面全体に、ドープドシリコンやシリサイド膜、あるいはアルミニウム膜やクロム膜、タンタル膜という金属膜からなるゲート電極形成用導電層502を形成する。この導電層502の厚さは概ね500nm程度である。その後、パターニング法により、図6(d)に示すように、Pチャネル型の駆動回路用TFTを形成するゲート電極252、画素用TFTを形成するゲート電極242、Nチャネル型の駆動回路用TFTを形成するゲート電極262を形成する。また、駆動制御信号導通部320(350)、陰極電源配線の第1層121も同時に形成する。なお、この場合、駆動制御信号導通部320(350)はダミー領域5に配設するものとされている。
【0055】
続いて、図6(d)に示すように、ゲート電極242,252および262をマスクとして用い、シリコン層241,251および261に対してリンイオンを約4×1013/cm のドーズ量でイオン注入する。その結果、ゲート電極242,252および262に対してセルフアライン的に低濃度不純物が導入され、図6(d)に示すように、シリコン層241および261中に低濃度ソース領域241bおよび261b、並びに低濃度ドレイン領域241cおよび261cが形成される。また、シリコン層251中に低濃度不純物領域251Sおよび251Dが形成される。
【0056】
次に、図7(e)に示すように、Pチャネル型の駆動回路用TFT252以外の部分を覆うイオン注入選択マスク503を形成する。このイオン注入選択マスク503を用いて、シリコン層251に対してボロンイオンを約1.5×1015/cm のドーズ量でイオン注入する。結果として、Pチャネル型駆動回路用TFTを構成するゲート電極252もマスクとして機能するため、シリコン層252中にセルフアライン的に高濃度不純物がドープされる。したがって、低濃度不純物領域251Sおよび251Dはカウンタードープされ、P型チャネル型の駆動回路用TFTのソース領域およびドレイン領域となる。
【0057】
次いで、図7(f)に示すように、基板20の全面にわたって第1層間絶縁層283を形成するとともに、フォトリソグラフィ法を用いて該第1層間絶縁層283をパターニングすることにより、各TFTのソース電極およびドレイン電極に対応する位置にコンタクトホールCを形成する。
【0058】
次に、図7(g)に示すように、第1層間絶縁層283を覆うように、アルミニウム、クロム、タンタルなどの金属からなる導電層504を形成する。この導電層504の厚さは概ね200nmないし800nm程度である。この後、導電層504のうち、各TFTのソース電極およびドレイン電極が形成されるべき領域240a、駆動電圧導通部310(340)が形成されるべき領域310a、陰極電源配線の第2層が形成されるべき領域122aを覆うようにパターニング用マスク505を形成するとともに、該導電層504をパターニングして、図8(h)に示すソース電極243、253、263、ドレイン電極244、254、264を形成する。
【0059】
次いで、図8(i)に示すように、これらが形成された第1層間絶縁層283を覆う第2層間絶縁層284を、例えばアクリル系樹脂などの高分子材料によって形成する。この第2層間絶縁層284は、約1〜2μm程度の厚さに形成されることが望ましい。なお、SiN、SiO により第2層間絶縁膜を形成することも可能であり、SiNの膜厚としては200nm、SiO の膜厚としては800nmに形成することが望ましい。
【0060】
次いで、図8(j)に示すように、第2層間絶縁層284のうち、駆動用TFTのドレイン電極244に対応する部分をエッチングにより除去してコンタクトホール23aを形成する。
その後、基板20の全面を覆うように画素電極23となる導電膜を形成する。
そして、この透明導電膜をパターニングすることにより、図9(k)に示すように、第2層間絶縁層284のコンタクトホール23aを介してドレイン電極244と導通する画素電極23を形成すると同時に、ダミー領域のダミーパターン26も形成する、なお、図3、4では、これら画素電極23、ダミーパターン26を総称して画素電極23としている。
【0061】
ダミーパターン26は、第2層間絶縁層284を介して下層のメタル配線へ接続しない構成とされている。すなわち、ダミーパターン26は、島状に配置され、実表示領域に形成されている画素電極23の形状とほぼ同一の形状を有している。もちろん、表示領域に形成されている画素電極23の形状と異なる構造であってもよい。なお、この場合、ダミーパターン26は少なくとも前記駆動電圧導通部310(340)の上方に位置するものも含むものとする。
【0062】
次いで、図9(l)に示すように、画素電極23、ダミーパターン26上、および第2層間絶縁膜上に絶縁層である親液性制御層25を形成する。なお、画素電極23においては一部が開口する態様にて親液性制御層25を形成し、開口部25a(図3も参照)において画素電極23からの正孔移動が可能とされている。逆に、開口部25aを設けないダミーパターン26においては、絶縁層(親液性制御層)25が正孔移動遮蔽層となって正孔移動が生じないものとされている。続いて、親液性制御層25において、異なる2つの画素電極23の間に位置して形成された凹状部にBM(図示せず)を形成する。具体的には、親液性制御層25の前記凹状部に対して、金属クロムを用いスパッタリング法にて成膜する。
【0063】
次いで、図9(m)に示すように、親液性制御層25の所定位置、詳しくは前記BMを覆うように有機バンク層221を形成する。具体的な有機バンク層の形成方法としては、例えばアクリル樹脂、ポリイミド樹脂などのレジストを溶媒に溶解したものを、スピンコート法、ディップコート法などの各種塗布法により塗布して有機質層を形成する。なお、有機質層の構成材料は、後述するインクの溶媒に溶解せず、しかもエッチングなどによってパターニングし易いものであればどのようなものでもよい。
【0064】
続いて、有機質層をフォトリソグラフィ技術、エッチング技術を用いてパターニングし、有機質層にバンク開口部221aを形成することにより、開口部221aに壁面を有した有機バンク層221を形成する。ここで、この有機バンク層221にあたっては、特にその最外周を形成する部分、すなわち前述した本発明における囲み部材201の外側部を形成する面201aについて、その基体200表面に対する角度θを110度以上となるように形成するのが好ましい。このような角度に形成することにより、この上に形成する陰極50、さらにはガスバリア層30のステップカバレージ性を良好にすることができる。
なお、この場合、有機バンク層221は、少なくとも前記駆動制御信号導通部320の上方に位置するものを含むものとする。
【0065】
次いで、有機バンク層221の表面に、親液性を示す領域と、撥液性を示す領域とを形成する。本実施形態においては、プラズマ処理によって各領域を形成するものする。具体的には、該プラズマ処理を、予備加熱工程と、有機バンク層221の上面および開口部221aの壁面ならびに画素電極23の電極面23c、親液性制御層25の上面をそれぞれ親液性にする親インク化工程と、有機バンク層の上面および開口部の壁面を撥液性にする撥インク化工程と、冷却工程とで構成する。
【0066】
すなわち、基材(バンクなどを含む基板20)を所定温度、例えば70〜80℃程度に加熱し、次いで親インク化工程として大気雰囲気中で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(O プラズマ処理)を行う。次いで、撥インク化工程として大気雰囲気中で4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理(CF プラズマ処理)を行い、その後、プラズマ処理のために加熱された基材を室温まで冷却することで、親液性および撥液性が所定箇所に付与されることとなる。
【0067】
なお、このCF プラズマ処理においては、画素電極23の電極面23cおよび親液性制御層25についても多少の影響を受けるが、画素電極23の材料であるITOおよび親液性制御層25の構成材料であるSiO 、TiO などはフッ素に対する親和性に乏しいため、親インク化工程で付与された水酸基がフッ素基で置換されることがなく、親液性が保たれる。
【0068】
次いで、正孔輸送層形成工程によって正孔輸送層70の形成を行う。この正孔輸送層形成工程では、例えばインクジェット法等の液滴吐出法や、スピンコート法などにより、正孔輸送層材料を電極面23c上に塗布し、その後、乾燥処理および熱処理を行い、電極23上に正孔輸送層70を形成する。正孔輸送層材料を例えばインクジェット法で選択的に塗布する場合には、まず、インクジェットヘッド(図示略)に正孔輸送層材料を充填し、インクジェットヘッドの吐出ノズルを親液性制御層25に形成された前記開口部25a内に位置する電極面23cに対向させ、インクジェットヘッドと基材(基板20)とを相対移動させながら、吐出ノズルから1滴当たりの液量が制御された液滴を電極面23cに吐出する。
次に、吐出後の液滴を乾燥処理し、正孔輸送層材料に含まれる分散媒や溶媒を蒸発させることにより、正孔輸送層70を形成する。
【0069】
ここで、吐出ノズルから吐出された液滴は、親液性処理がなされた電極面23c上にて広がり、親液性制御層25の開口部25a内に満たされる。その一方で、撥インク処理された有機バンク層221の上面では、液滴がはじかれて付着しない。したがって、液滴が所定の吐出位置からはずれて有機バンク層221の上面に吐出されたとしても、該上面が液滴で濡れることがなく、弾かれた液滴が親液性制御層25の開口部25a内に転がり込む。
なお、この正孔輸送層形成工程以降は、正孔輸送層70および発光層60の酸化を防止すべく、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの不活性ガス雰囲気で行うのが好ましい。
【0070】
次いで、発光層形成工程によって発光層60の形成を行う。この発光層形成工程では、例えば前記のインクジェット法により、発光層形成材料を正孔輸送層70上に吐出し、その後、乾燥処理および熱処理を行うことにより、有機バンク層221に形成された開口部221a内に発光層60を形成する。この発光層形成工程では、正孔輸送層70の再溶解を防止するため、発光層形成材料に用いる溶媒として、正孔輸送層70に対して不溶な無極性溶媒を用いる。
なお、この発光層形成工程では、前記のインクジェット法によって例えば青色(B)の発光層形成材料を青色の表示領域に選択的に塗布し、乾燥処理した後、同様にして緑色(G)、赤色(R)についてもそれぞれその表示領域に選択的に塗布し、乾燥処理する。
また、必要に応じて、前述したようにこのような発光層60の上に電子注入層を形成してもよい。
【0071】
次いで、図10(n)に示すように、陰極層形成工程によって陰極50の形成を行う。
この陰極層形成工程では、例えば蒸着法等の物理的気相蒸着法によりITOを成膜し、陰極50とする。このとき、この陰極50については、前記発光層60と有機バンク層221及び囲み部材201の上面を覆うのはもちろん、囲み部材201の外側部を形成する面201aについてもこれを覆った状態となるように形成する。
【0072】
なお、以下に陰極50の成膜条件の一例を示す。
成膜装置としてマグネトロンスパッタ装置を用い、ターゲット原料としてInSnOを用いる。真空度を0.4Pa、導入ガスをAr、O として成膜を行い、厚さ100nmのITO膜を作製し、陰極50とする。
【0073】
その後、図10(n)に示すように陰極50を覆って、すなわち基体200上にて露出する陰極50の全ての部位を覆った状態にガスバリア層30を形成し、本発明のEL表示装置(電気光学装置)を得る。ここで、このガスバリア層30の形成方法としては、先にスパッタリング法やイオンプレーティング法等の物理的気相蒸着法で成膜を行い、次いで、プラズマCVD法等の化学的気相蒸着法で成膜を行うのが好ましい。物理的気相蒸着法は、一般にその成膜速度は速いものの、得られる膜に関しては塊や欠陥が多く、緻密さにかけるなどの欠点がある。
一方、化学的気相蒸着法では、欠陥が少なく緻密で良好な膜質のものが得られるものの、一般に成膜速度が遅いといった欠点がある。そこで、初期の成膜については物理的気相蒸着法を採用して例えば必要な膜厚の半分あるいはそれ以上を形成し、後期の成膜において化学的気相蒸着法を用いることにより、先に形成した膜の欠陥を補うようにすれば、全体としてガスバリア性(酸素や水分に対するバリア性)に優れたガスバリア層30を比較的短時間で形成することができる。
【0074】
ここで、このガスバリア層30の形成については、前述したように同一の材料によって単層で形成してもよく、また異なる材料で複数の層に積層して形成してもよく、さらには、単層で形成するものの、その組成を膜厚方向で連続的あるいは非連続的に変化させるようにして形成してもよい。
異なる材料で複数の層に積層して形成する場合、例えば、前述したように物理的気相蒸着法で形成する内側の層(陰極50側の層)を珪素窒化物あるいは珪素酸窒化物などとし、化学的気相蒸着法で形成する外側の層を珪素酸窒化物あるいは珪素酸化物などとするのが好ましい。
【0075】
また、物理的気相蒸着法で内側の層を形成する際、成膜装置内に供給する酸素量を最初は少なくし、以下、連続的あるいは非連続的に増やすことにより、形成するガスバリア層30中の酸素濃度を陰極50側(内側)で低くし、外側ではこれより高くなるように形成してもよい。
なお、ガスバリア層30の形成については単一の成膜法で行ってもよいのはもちろんであり、その場合にも、前述したように酸素濃度を陰極50側(内側)で低くなるように形成するのが好ましい。
【0076】
なお、以下にガスバリア層30の成膜条件の一例を示す。
成膜装置としてECR(電子サイクロン共鳴)プラズマスパッタ装置を用い、ターゲット原料としてSiを用いる。真空度を0.2Pa、導入ガスをAr、O 、N として成膜を行い、厚さ10〜150nmの珪素酸窒化物膜を作製し、ガスバリア層30とする。
【0077】
このようにして基板20上にガスバリア層30までを形成したら、これとは別に、無アルカリガラス(日本電気硝子製OA10、0.5mm厚)からなる表面保護層206を用意する。そして、この表面保護層206に対し、緩衝層205の形成材料として例えば2液硬化型のエポキシ接着剤を、シルクスクリーン印刷法等によって接着面形状にパターン塗布する。
その後、この表面保護層206の緩衝層形成材料側を、別にガスバリア層30までを形成した前記のもののガスバリア層30側に圧着し、必要に応じて加熱を行うことなどにより該材料を硬化させ、緩衝層205とする。これにより、図3、図4に示した、保護部204を有してなるEL表示装置1を得る。
なお、複数個取りの基板上に複数のEL表示装置1を形成したものを用いた場合には、これに対応して複数個の保護部204となる基板(表面保護層206)を用意し、これらを圧着した後、スクライブを行って個々のEL表示装置1を得るようにする。
【0078】
このようにして得られたEL表示装置1にあっては、例えば機械的衝撃が保護部204側に加わった場合、加わった衝撃に対し特に高い硬度の保護層である表面保護層206がこれに耐する応力、例えば耐圧性や耐摩耗性を発揮し、また低い高度の保護層である緩衝層205が機械的衝撃を吸収緩和する機能を発揮するようになり、したがって保護部204が機械的衝撃に対し十分に保護機能を発揮するようになる。よって、EL表示装置1にあっては、素子性能が損なわれるのを確実に防止することができる。
また、特に表面保護層206が耐圧性や耐摩耗性、光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能を有していることにより、発光層60や陰極50、さらにはガスバリア層もこの表面保護層206によって保護することができ、したがって発光素子の長寿命化を図ることができる。
【0079】
また、ガスバリア層30によって酸素や水分の浸入を防止し、酸素や水分による発光層60や陰極50の劣化等を抑えるようにしているので、発光素子の長寿命化を図ることができる。
また、特に発光層60の外側部側を囲み部材201、陰極50、ガスバリア層30によって三重に封止していることにより、酸素や水分の浸入をより確実に防止することができ、したがって酸素や水分による発光層60や陰極50の劣化等を確実に抑え、発光素子の長寿命化を可能にすることができる。
【0080】
また、ガスバリア層30の基体200に接する部分を全て珪素化合物とすることにより、基体200を構成する基板20が樹脂などの水分透過性のものであっても、この基板20上に形成される層間絶縁膜などとともにガスバリア層30で発光素子部分の外側全てを封止することができ、したがって発光素子をより長寿命化することができる。
また、アクティブマトリクス型であることから陰極50やガスバリア層30を発光素子毎に形成する必要がなく、したがってこれら陰極50やガスバリア層30に関して微細なパターン形成が不要となる。よって、これらを単純な成膜法で形成することができることから、生産性の向上を図ることができる。
【0081】
なお、前記EL表示装置1ではトップエミッション型を例にして説明したが、本発明はこれに限定されることなく、バックエミッション型にも、また、両側に発光光を出射するタイプのものにも適用可能である。特にバックエミッション型とした場合、陰極50には透明電極を用いる必要はないが、その場合にも、この陰極50の少なくともガスバリア層30と接する面側を、無機酸化物によって形成するのが好ましい。
このようにすれば、陰極50のガスバリア層30と接する面側が無機酸化物からなっているので、無機化合物あるいは珪素化合物などからなるガスバリア層30との密着性がよくなり、したがってガスバリア層30が欠陥のない緻密な層となって酸素や水分に対するバリア性がより良好になる。
【0082】
また、バックエミッション型、あるいは両側に発光光を出射するタイプのものとした場合、基体200に形成するスイッチング用TFT112や駆動用TFT123については、発光素子の直下ではなく、親液性制御層25および有機バンク層221の直下に形成するようにし、開口率を高めるのが好ましい。
また、前記EL表示装置1では本発明における第1の電極を陽極として機能させ、第2の電極を陰極として機能させたが、これらを逆にして第1の電極を陰極、第2の電極を陽極としてそれぞれ機能させるよう構成してもよい。ただし、その場合には、発光層60と正孔輸送層70との形成位置を入れ替えるようにする必要がある。
【0083】
また、前記実施形態では本発明の電気光学装置にEL表示装置1を適用した例を示したが、本発明はこれに限定されることなく、基本的に第2の電極が基体の外側に設けられるものであれば、どのような形態の電気光学装置にも適用可能である。
また、前記EL表示装置1では、保護部204を表面保護層206と緩衝層205との二層によって構成したが、本発明はこれに限定されることなく、三層以上で保護部204を構成するようにしてもよい。
【0084】
図11は、保護部204を三層で構成した例として、緩衝層205と表面保護層206との間に多孔質層207を配設したEL表示装置を示す図である。多孔質層207は、前記表面保護層206の内面側に貼着されたことにより、該表面保護層206と緩衝層205との間に配設されたもので、例えばアルコキシシランの加水分解物やシリカエアロゲルなどの多孔質構造を有するものから形成されたものである。これらアルコキシシランの加水分解物やシリカエアロゲルなどは、特に光取出効率が良く、したがってトップエミッション型とした場合に、発光素子の直上に配置することで発光素子からの光をより良好に出射させることができる。なお、このような多孔質層207は、多数の空孔を有することによってその見掛け密度が低くなっており、例えば表面保護層206を形成するガラス基板やガスバリア層30を形成する珪素化合物などよりも十分に低い密度のものとなっており、さらには緩衝層205を形成する樹脂などよりも低い密度となっている。
【0085】
このような多孔質層207を形成するには、例えば表面保護層206の一方の側にアルコキシシランの加水分解物やコロイダルシリカなどを塗着し、その後例えば超臨界乾燥処理を行う。このようにして処理を行うことで、多数の微細な空孔を有してなる多孔質層207が得られる。なお、多孔質層207の形成として具体的には、例えばメチルトリエトキシシラン加水分解物を超臨界乾燥(加圧、減圧、加熱)処理することで行う。このようにして得られる多孔質層207は、密度が0.1〜0.3g/cm 、空隙率が85%以上、屈折率が1.0〜1.2となった。
【0086】
そして、このようにして表面保護層206上に多孔質層207を形成したら、前述した場合と同様にしてこの多孔質層207を覆った状態で表面保護層206上に緩衝層205の形成材料を塗布する。
その後、この表面保護層206の緩衝層形成材料側を、前述した場合と同様にしてガスバリア層30までを形成したもののガスバリア層30側に圧着し、必要に応じて加熱を行うことなどにより該材料を硬化させ、緩衝層205とする。これにより、図11に示したEL表示装置を得る。
【0087】
このようにして得られたEL表示装置にあっては、トップエミッション型とした場合、特に多孔質層207が多くの空孔を有することによって光取出し効率が高いことから、これを発光層60の直上に配置することにより、発光層60からの発光光の出射率を高めて表示特性を向上することができる。
【0088】
次に、本発明の電子機器を説明する。本発明の電子機器は、前記のEL表示装置(電気光学装置)を表示部として有したものであり、具体的には図12に示すものが挙げられる。
図12(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図12(a)において、符号1000は携帯電話本体を示し、符号1001は前記のEL表示装置を用いた表示部を示している。
図12(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図12(b)において、符号1100は時計本体を示し、符号1101は前記のEL表示装置を用いた表示部を示している。
図12(c)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図12(c)において、符号1200は情報処理装置、符号1201はキーボードなどの入力部、符号1202は前記のEL表示装置を用いた表示部、符号1203は情報処理装置本体を示している。
図12(a)〜(c)に示すそれぞれの電子機器は、素子性能が損なわれるのが防止された前記EL表示装置(電気光学装置)を有した表示部を備えているので、この電子機器自体も信頼性の高いものとなる。
【符号の説明】
【0089】
1 EL表示装置(電気光学装置)、23 画素電極(第1の電極)、 30 ガスバリア層、50 陰極(第2の電極)、60 発光層(機能層)、 200 基体 201 囲み部材、204 保護部205 緩衝層(保護層) 206 表面保護層(保護層) 207 多孔質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に第1の電極、少なくとも一層の機能層を含む素子層、第2の電極がこの順に形成されてなる電気光学装置において、
前記第2の電極を覆って保護部が設けられ、
前記保護部が、硬度が異なる少なくとも二つの保護層を備えてなることを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
前記素子層は、前記第1の電極または前記第2の電極から供給されるキャリアが前記素子層を通過することにより機能を発現するものであることを特徴とする請求項1記載の電気光学装置。
【請求項3】
前記第2の電極と前記保護部との間に、該第2の電極の基体上で露出する部位を覆った状態でガスバリア層が設けられてなることを特徴とする請求項1又は2記載の電気光学装置。
【請求項4】
前記基体上に、該基体上に形成された素子層の最外周位置のものの外側部を覆った状態でこれを囲む囲み部材が設けられ、
前記第2の電極が、前記囲み部材の外側部を覆った状態に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項5】
前記の硬度が異なる二つの保護層のうちの低い硬度の保護層が第2の電極側に設けられ、高い硬度の保護層が外側に設けられてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項6】
前記の硬度が異なる二つの保護層のうちの低い硬度の保護層が、機械的衝撃に対して緩衝機能を有してなることを特徴とする請求項5記載の電気光学装置。
【請求項7】
前記低い硬度の保護層は、シランカップリング剤またはアルコキシシランを含有してなることを特徴とする請求項5又は6記載の電気光学装置。
【請求項8】
前記保護部には、前記の硬度が異なる二つの保護層の間に空孔を有してなる多孔質層が設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項9】
アクティブマトリクス型である請求項1〜8のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項10】
前記保護部は、その表面側に前記の硬度が異なる二つの保護層のうちの高い硬度の保護層を有し、この高い硬度の保護層は、表面保護機能を有してなることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の電気光学装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−84618(P2013−84618A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−180(P2013−180)
【出願日】平成25年1月4日(2013.1.4)
【分割の表示】特願2009−126591(P2009−126591)の分割
【原出願日】平成14年9月30日(2002.9.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】