電気刺激装置およびそれを用いた電気刺激方法
【課題】脊髄に電気的刺激を付与することにより、パーキンソン症候群などの神経変性疾患に伴う運動症状を改善することができる電気刺激装置および電気刺激方法を提供すること。
【解決手段】この発明の電気刺激装置は、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置であって、第1電極対と第2電極対とを、電気刺激が付与される電気刺激対象を挟んで対称的に配置して、前記第1電極対および前記第2電極対の各電極から、5Hz〜130Hzの周波数の電流を、10msec〜400msecのパルス持続時間で電気刺激を付与して、パーキンソン症候群などの神経変性疾患に伴う運動症状を改善することができる。
【解決手段】この発明の電気刺激装置は、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置であって、第1電極対と第2電極対とを、電気刺激が付与される電気刺激対象を挟んで対称的に配置して、前記第1電極対および前記第2電極対の各電極から、5Hz〜130Hzの周波数の電流を、10msec〜400msecのパルス持続時間で電気刺激を付与して、パーキンソン症候群などの神経変性疾患に伴う運動症状を改善することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気刺激装置およびそれを用いた電気刺激方法に関するものである。更に詳細には、この発明は、脊髄に留置することができる電気刺激装置およびそれを脊髄硬膜外腔に留置して、脊髄に電気的刺激を付与することにより、パーキンソン症候群などの神経変性疾患に伴う運動症状を改善することができる電気刺激方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン症候群は、原因不明の神経変性疾患であり、臨床的には振戦、筋固縮、動作緩慢、姿勢反射障害、歩行障害などの症状を呈する疾患群を含んでいる。このうち、パーキンソン病は、薬物療法や定位脳手術(深部脳刺激療法)が治療法として存在するが、病状の進行とともに、運動症状に対する効果は減退し、日常生活動作も徐々に制限されていく。また、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症ならびに多系統委縮症などのパーキンソン症候群は、現時点では、有効な治療法が全くなく、症状の進行とともに体動が困難となり、発症後の平均生存期間も5年ないし7年と報告されている。
【0003】
パーキンソン症候群では、大脳基底核、視床ならびに大脳皮質を含む神経回路において神経活動の異常を来し、これにより運動症状を発現すると考えられている。頸髄から腰髄レベルの背側硬膜外腔に電極を留置する脊髄刺激療法は、これまで疼痛の治療として広く行われてきた。しかしながら、この脊髄刺激療法をパーキンソン症候群の運動症状改善を目的として行われた事例はこれまで報告されていない。
【0004】
この脊髄刺激療法は、頸髄レベルの腹側および背側硬膜外腔に刺激電極を2本ずつ計4本留置し、上記神経回路から下降する脊髄前索及び上記回路へ上行する脊髄後索を電気刺激することにより、上記神経回路及び関連部位の障害を間接的に是正する作用を有している。留置した4本の電極からはそれぞれ電圧は0.5〜3.0ボルト、刺激頻度5〜130Hz、刺激幅0.06〜0.3msecの条件で電気刺激が行われている。硬膜外腔への電極挿入は、背部から経皮的に挿入して行われる。また、前胸部皮下にパルス発生器を埋め込み、硬膜外電極と体内で連結させて電流を供給する仕組みになっている。
【0005】
さらに、特許文献1には、脊髄後索に電気・磁気刺激を与える方法の開示がされており、特許文献2には、電気的刺激により脳電位を変化させる方法が開示されている。しかし、これらの特許文献に記載の電気刺激方法は、いずれも、周波数、パルス幅が異なり、歩行改善についての記述はもちろんのこと、示唆も一切されていない。
【0006】
また、非特許文献1には、脊髄後索の硬膜外電気刺激がパーキンソン病の治療につながる可能性を述べているものがあるが、脳内の血流分布の変化については記載も、示唆も一切されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-130424号公報
【特許文献2】特開2004-358078号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Science: Vol. 323, No. 5921, Pages 1578-1582 (2009.03.20)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、パーキンソン病の病状の進行とともに減退する運動症状を改善する方法を鋭意検討・研究した結果、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置を用いた高位脊髄刺激療法が、かかる運動症状改善効果があることを見出して、この発明を完成するに至った。
【0010】
したがって、この発明の目的は、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置であって、に対して、第1電極対と第2電極対とを、電気刺激を付与する対象を挟んで対称的に配置することからなる電気刺激装置を提供することである。
【0011】
この発明は、第1電極対と第2電極対を脊髄を挟んで右側の腹側及び背側の硬膜外腔と左側の腹側及び背側の硬膜外腔に対称的に留置することができる電気刺激装置を提供することを目的としている。この電気刺激装置は、パーキンソン症候群などの神経変性疾患に伴う運動症状を改善することができるとともに、埋め込み式であるから、体外から電気刺激を与えることができ、操作性に優れている。
【0012】
また、この発明は、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置を用いて、パーキンソン症候群などの神経変性疾患に伴う運動症状を改善することができる電気刺激方法を提供することを目的としている。
【0013】
さらに、この発明は、第1電極対を右側の腹側及び背側の硬膜外腔に、また第2電極対を、第1電極を留置した反対側の左側の腹側及び背側の硬膜外腔に第1電極と対称的に留置することからなる電気刺激方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、この発明は、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置を提供する。
【0015】
この発明は、第1電極対と第2電極対とを脊髄を挟んで脊髄に対称的に留置することができる電気刺激装置を提供する。また、この電気刺激装置は埋め込み式にして外部からの操作性を挙げることができる。
【0016】
この発明は、第1電極対を右側の腹側及び背側の硬膜外腔に、また第2電極対を、第1電極を留置した反対側の左側の腹側及び背側の硬膜外腔に第1電極と対称的に留置することからなる電気刺激方法を提供する。
【0017】
この発明は、第1電極対および第2電極対の各電極から、10 msec〜400 msec、好ましくは50 msec〜 200 msec、より好ましくは60 msec〜100 msecのパルス持続時間、5 Hz〜130 Hz、好ましくは30 Hz〜120 Hz、より好ましくは50 Hz 〜100 Hzのパルス頻度で電気刺激をすることが可能な電気刺激装置を提供する。
【0018】
また、この発明は、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置を用いて、パーキンソン症候群などの神経変性疾患または類似疾患もしくは脳・脊髄障害などに伴う運動症状を改善することができる電気刺激方法を提供する。
【0019】
この発明は、第1電極対および第2電極対の各電極から、5 Hz〜130 Hz、好ましくは30 Hz〜120 Hz、より好ましくは50 Hz 〜100 Hzの周波数の電流を、10 msec〜400 msec、好ましくは50 msec〜 200 msec、より好ましくは60 msec〜100 msecのパルス持続時間の電気刺激をすることからなる電気刺激方法を提供する。
【0020】
この発明は、運動、特に姿勢や歩行の制御に関連する脊髄神経路を刺激し、その下行路への刺激効果としての運動実行系の促進と上行路への刺激効果としての大脳皮質−基底核回路の是正により運動症状を改善することからなる電気刺激方法を提供する。
【0021】
この発明は、パーキンソン症候群(パーキンソン病,進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症など)、脊髄小脳変性症、ジストニア、脳性まひ、脳卒中、その他の原因にも基づく脳・脊髄障害などの様々な神経疾患に起因する運動症状を改善することからなる電気刺激方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
この発明に係る脊髄電気刺激方法は、比較的低侵襲的な療法であって、運動機能が損なわれた疾患に対して有用な特性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、頸椎単純写真側面像であり、この発明の電気刺激装置の電極を腹側ならびに背側硬膜外腔に留置した図である。
【図2】図2は、頸部コンピューター断層写真水平断であり、この発明の電気刺激装置の電極を腹側ならびに背側硬膜外腔に留置した図である。
【図3】図3は、単一光子放射断層写真であり、脳表面の血流低下部位を画像化したものである。この発明の電気刺激を行う以前において、全般的な脳血流の低下を示す図である。
【図4】図4は、単一光子放射断層写真であり、脳表面の血流低下部位を画像化したものである。この発明の電気刺激を行うことによって、前頭葉における血流低下が改善されたことを示す図である(矢印)。
【図5】図5は、単一光子放射断層写真であり、脳深部の血流増加部位を画像化したものである。この発明の電気刺激を行う以前における脳血流分布を示す図である。
【図6】図6は、単一光子放射断層写真であり、脳深部の血流増加部位を画像化したものである。この発明の電気刺激を行うことによって、視床における血流が増加したことを示す図である(矢印)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明に係る電気刺激装置は、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とからなる4電極から構成されていて、体内に埋め込んで留置できるようになっている。この電気刺激装置は、体内に留置して、脊髄に電気刺激を与えることによって、パーキンソン病などの神経変性疾患の病状の進行とともに減退する運動症状を改善することができるという。
【0025】
この発明の電気刺激装置は、第1電極対を右側の腹側及び背側の硬膜外腔に、また第2電極対を、第1電極を留置した反対側の左側の腹側及び背側の硬膜外腔に第1電極とは対称的に留置するのがよい。
【0026】
この発明の電気刺激装置は、第1電極対および第2電極対の各電極から、10 msec〜400 msec、好ましくは50 msec〜 200 msec、より好ましくは60 msec〜100 msecのパルス持続時間、5 Hz〜130 Hz、好ましくは30 Hz〜120 Hz、より好ましくは50 Hz 〜100 Hzのパルス頻度で電気刺激を与えることができるように構成するのがよい。
【0027】
この発明の電気刺激装置の第1電極対を右側の腹側及び背側の硬膜外腔に、また第2電極対を、第1電極を留置した反対側の左側の腹側及び背側の硬膜外腔に第1電極とは対称的に留置するとともに、各電極から上記パルス頻度で上記パルス持続時間で電気刺激を付与することによって、パーキンソン病などの神経変性疾患に伴う運動症状の減退を改善することができる。
【0028】
上述したようなこの発明の電気刺激方法によって、脊髄の前索および後索を刺激し逆行性ならびに順行性に大脳基底核の回路を是正することによって運動症状を改善することができる。したがって、この発明の電気刺激方法は、パーキンソン症候群(パーキンソン病,進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症など)、脊髄小脳変性症、ジストニア、脳性まひ、脳卒中、その他の原因にも基づく脳・脊髄障害などの様々な神経疾患に起因する運動症状の改善に有効である。
【0029】
この発明に係る電気刺激方法によってその運動症状が改善できる神経変性疾患についてここに説明する。なお、説明を簡潔にするために、主に進行性核上性麻痺を神経変性疾患の例にあげて説明することにする。
【0030】
進行性核上麻痺は、歩行障害、姿勢反射障害を中心とするパーキンソニズム、核上性外眼筋麻痺、ならびに認知症により特徴付けられる孤発性神経変性疾患である。この障害の臨床的特徴は、無動、固縮、姿勢不安定、ならびに歩行困難からなる体軸性パーキンソニズムという症状であり、その結果生じる不安定さから頻繁に転倒することになる。またこの疾患に対する薬物及び外科的療法は限られている。
【0031】
薬物療法に対して抵抗性を示す姿勢不安定性ならびに歩行困難という症状は、進行性核上性麻痺と進行期パーキンソン病に共通の症状である。最近、脊髄後索の高周波電気刺激によって、パーキンソン病の動物モデルの歩行運動が回復したとの報告がなされた。電気生理学的データによると、内側毛帯−視床系を介した特定の体性感覚経路の変調ならびに脊髄刺激による脳幹覚醒系の活性が歩行運動開始の挙動に寄与することが示唆されている。
【0032】
脳幹運動領域の一部である橋脚被蓋核(PPN)もまた体性筋ならびに歩行運動を調節する役割を果たしている。PPNを含む脳幹網様体から出力する線維は、網様体脊髄路の前索を下降し、その後、脊髄前角の運動ニューロンに結合している。低周波でPPNを電気刺激すると、パーキンソン病および進行性核上性麻痺の患者における体位不安定を改善すると報告されている。
【0033】
したがって、本発明者らは、これらの先行技術の結果から、脊髄前索ならびに後索を電気刺激すると、進行性核上性麻痺の患者の姿勢不安定性と歩行困難を改善できるのではないかとの仮説を立てて、頸髄の電気刺激により進行性核上性麻痺の患者の姿勢不安定性と歩行困難を改善できることを確認した。
【実施例1】
【0034】
(患者)
米国の国立神経疾患・脳卒中協会ならびに進行性核上性麻痺学会の臨床診断基準に合致した4名の患者についてインフォームドコンセントを基に下記実験を実施した。この患者らの臨床特性は下表1に示すとおりであった。すべての患者は、核上性外眼筋麻痺、顕著な姿勢不安定性ならびに頻繁な転倒に代表される神経病学的特徴を示していた。また、すべての患者には運動症状に対してレボドーパ(levodopa)/カルビドーパ(carbidopa)ならびにアマンタジン(amantadine)を投与したが、明白な症状改善効果は認められず、椅子からの起立時や歩行時には絶えず介助が必要だった。なお本研究は所属機関の倫理委員会の承認のもとに実施した。
【0035】
【表1】
【0036】
(手術)
埋め込み式電気刺激装置を全身麻酔下での1回の手術で留置した。それぞれ電圧発生部分の長さが3mmで間隔を6mm開けて配置した4個のシリンダー状接触点を持つ電極(PISCES Quad model 3847-45)を、背部正中に皮膚切開を行い、第2頸椎(C2)椎体レベルの硬膜外腔に経皮的に4本留置した。これら4本の電極のうち、2本の電極は腹側硬膜外腔に対称的に配置し、別の2本の電極は背側硬膜外腔に対称的に配置した(図1および図2)。パルス発生器(Synergy model 7427V)は前胸部皮下に2個留置した。腹側ならびに背側硬膜外腔の右側と左側に配置した電極の導線は同側の前胸部皮下のパルス発生器に各々結合した。
【0037】
(電気刺激および臨床評価)
電気刺激は、術後2日目から体外式刺激プログラマー(N’Vision)を用いて行った。各患者は、評価バッテリーを用いて1人の評価者(YB)にて盲検的に評価した。評価は、手術前1週間および手術後1週間、手術後3ならびに6ヶ月後に行った。評価バッテリーは、臨床医ならびに患者に基づく症状の評価および副作用発現の有無から構成された。また評価バッテリーは、進行性核上性麻痺(PSP)スケール、Part II (知能検査)、Part III (球症状検査)、Part IV (外眼筋運動検査)、Part V (四肢運動症状検査)、Part VI (歩行・体軸症状検査)およびADL (Schwab and England Activities of Daily Living)評価を含んでいた。他の尺度としては、10メートル歩行経過時間ならびにテクネシウム99標識メチルシステイネート・ダイマー・シングル・フォトン・エミッション脳血流断層写真(99mTc-ECD SPECT)検査による局所脳血流分析が含まれていた。
【0038】
(統計分析)
手術前(基準値)、手術後1週間、手術後3ならびに6ヶ月の時点における臨床症状の差は、反復測定分散分析を用いて評価した。時間(観察期間)ならびに治療持続状態(電気刺激)は独立した変数として考慮した。本実験の統計分析では、多重分析のためのタイプIエラー率膨張を避けるためにボンフェローニ(Bonferroni)補正を採用し、有意差レベルをp<0.008に設定した。追跡事後分析にはTukeyテストを使用した。
【0039】
(結果)
1.刺激パラメーターの決定
頸髄への電気刺激は、腹側ならびに背側硬膜外腔に埋め込んだ4本の電極を用いて開始した。まず、歩行症状に対する効果を、パルス持続時間を短時間(60μ秒未満)、中時間(60〜200μ秒)または長時間(200μ秒超)、また周波数を低周波数(50Hz未満)、中周波数(50〜100Hz)もしくは高周波数(100Hz超)に組み合わせて設定したパラメーターに基づいて評価した。刺激の効果の前根への拡散ならびに後索への過剰刺激を避けるために、刺激電圧を2.0ボルト以下に設定して調節した。種々のパルス持続時間と周波数との組み合わせからなる刺激パラメーターのうち、4名全ての被検者についての非盲検的評価においてより可視的な改善が認められたのは、中周波数及び中持続時間の刺激条件による10メートル歩行時間であった。この結果から、本実験では、評価バッテリーは、パルス持続時間を100μ秒、周波数を70Hzに設定した刺激パラメーターで評価した。
【0040】
2.電気刺激の効果
歩行症状、ADLならびに10メートル歩行時間に対する電気刺激の効果は下表2に示す通りであった。電気刺激の平均振幅は1,8V(1.7−2.0V)、刺激パラメーターは実験期間中一定に保持した。PSPスケールの全スコアは、基準値から1週間で15%(p<0.001)、6か月で12%(p<0.002)の改善を認めた。歩行運動ならびに体軸症状に関連したサブスコア解析では、基準値から1週間で38%(p<0.001)、6か月で30%(p<0.001)の改善を認めた。知能検査、球症状検査、外眼筋運動検査および四肢運動症状検査についてのサブスコア解析では基準値と手術後との間で差異はなかった。
【0041】
【表2】
【0042】
ADLスコアは、基準値から1週間で27%(p<0.001)の改善を認めた。手術後6か月では、ADLスコアは基準値から20%(p<0.002)の改善を認めたが、統計学的に有意差はなかった(p<0.010)。
【0043】
10メートル歩行の平均時間の基準値は25.0秒であった。手術後は、基準値から1週間で24%(18.6秒、p<0.001)、6か月で20%(20.1秒、p<0.001)の短縮を認めた。
【0044】
4.脳潅流の評価
99mTc-ECD SPECT検査は、術前と術後6か月目に行った。術後6か月目の検査は刺激状態で行った。SPECTイメージはイージーZ−スコアシステムを用いて自動的に標準化した。術後6か月の検査で、全ての被検者において前頭前野における潅流低下の改善と視床における潅流増加が観察された(図3,図4,図5および図6。
【0045】
5.副作用
本実験中、2名の被検者が転倒して頭部に打撲傷を負ったが、頭蓋内における外傷性変化や、刺激装置の損傷は認められなかった。また、手術操作に伴う合併症や処置に関連する副作用は認められなかった。さらに術後においても永続的後遺症を呈する重篤な副作用は見られなかった。
【0046】
(考察)
本実験においては、様々な薬物治療によっても改善が困難な姿勢不安定性や歩行困難などの体軸症状を示す進行性核上性麻痺患者において、頸髄の電気刺激は姿勢や歩行を顕著に改善した。また、その改善効果は術後6か月にわたり持続したことを示した。術後、歩行時間もまた顕著に改善し、その効果は6か月間持続していた。電気刺激に伴う姿勢不安定性ならびに歩行困難の顕著な改善に対し、知能検査、球症状検査、外眼筋運動検査および四肢運動症状検査については術後改善が認められなかった。また外眼筋運動障害は術後3か月の時点において悪化が観察された。姿勢不安定性及び歩行困難の症状改善とともに、ADLも改善したが、術後6か月目での改善度に統計学的有意差は認められなかった。
【0047】
頸髄電気刺激による姿勢不安定性ならびに歩行困難の症状改善に対する作用機序についてはいくつかの説明が考えられる。姿勢ならびに歩行運動に関する神経機構については十分に解明されていない。哺乳動物における実験データでは、基底核ならびに網様体脊髄路が、体位制御ならびに自発歩行運動の遂行に関する基本的な神経回路であることが示唆されている。加えて、大脳皮質、基底核、視床ならびに小脳から構成される大脳皮質−基底核ループは、自発運動のプログラム生成に関与している。進行性核上性麻痺では、中枢神経系の広範囲わたる病変の存在が証明されているが、特に,脳幹における障害の優位性が観察される。臨床病理学的研究では、脳幹のPPNにおける病変とその下行路である脊髄前索における神経機能障害が、進行性核上性麻痺における姿勢不安定性と歩行障害に寄与していることが示唆されている。したがって、腹側硬膜外腔に配置された電極からの電気刺激は、前索を介してPPNを含む脊髄網様体の神経回路を活性化している可能性が示唆される。一方、進行性核上性麻痺における中枢神経病変は大脳皮質、視床ならびに小脳歯状核にも認められ、神経放射線学的検査におけるこれら部位での代謝能低下所見は大脳皮質−基底核ループでの機能異常に関連していることが示唆されている。パーキンソン病モデル動物を用いて後索刺激による歩行運動の改善効果を評価した上述の研究では、背側硬膜外腔に留置した電極からの刺激により、後索から内側毛帯−視床系と脳幹部覚醒系を介した間接的な大脳皮質−基底核ループの是正により歩行運動が改善された可能性を示唆している。
【0048】
上述したような姿勢制御ならびに自発歩行に関与している脳神経回路の機能的変化に加えて、頸髄の電気刺激は、脳血流の増加を惹起する作用を有する。脳のグルコース代謝を測定するポジトロン・エミッション断層撮影検査では、頸髄後索の電気刺激が視床における神経細胞の活性化を促すとともに、大脳皮質の運動ならび感覚領域において脳血流の増加を促すことを示している。本実験のデータにおいて、前頭葉の運動皮質における低潅流の改善ならびに視床における潅流増加の所見は網様体脊髄路ならびに内側毛帯−視床系路に対する刺激効果を介した大脳皮質−基底核ループの神経細胞活性を反映していると考える。
【0049】
パーキンソン病患者に対する頸髄後索の電気刺激の研究では,歩行障害を含む運動症状の改善作用は確認されなかったが、パーキンソン病モデル動物では歩行運動の改善が証明されている。相違する研究結果からは、脊髄後索刺激による歩行運動の改善は大脳皮質−基底核回路の是正に伴うものではなく、脳幹部覚醒系の活性化により惹起された一時的な驚愕反応を捉えたものである可能性も示唆される。一方、本実験で適用した刺激強度閾値で驚愕反応は観察されなかったにもかかわらず、パーキンソン病モデル動物の研究結果と一致して、頸髄電気刺激により進行性核上性麻痺患者における姿勢不安定性ならびに歩行困難に対する有意な改善が認められた。従って、腹側と背側の硬膜外腔に留置した電極からの脊髄刺激によって姿勢不安定性や歩行困難などの体軸症状の改善が得られた本実験の結果から、脊髄刺激による姿勢や歩行運動の改善には、脊髄後索から内側毛帯−視床系を介した大脳皮質−基底核回路の是正だけではなく、脊髄前索を介した網様体脊髄路とPPNにおける神経機能の回復効果が必要と考えられる。
【0050】
要約すると、頸髄前索ならびに後索の電気刺激は、これまで有用な治療方法が全くなかった進行性核上性麻痺の姿勢不安定性ならびに歩行困難に対して持続的な改善効果をもたらした。この発明に係る頸髄の電気刺激は、これまで行われてきた定位的脳外科手術に比べてより低侵襲的な治療法であり、運動障害を伴ういずれの疾患に対しても潜在的に有用な特性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明は、第1電極対ならびに第2電極対から構成される4電極からなる電気刺激装置をより低侵襲的に高位の腹側ならびに背側硬膜外腔に埋め込んで頸髄への電気刺激を付与することによって、パーキンソン症候群等の神経変性疾患などに伴う姿勢不安定性ならびに歩行困難等の運動症状を改善することができる。したがって、この発明はパーキンソン症候群(パーキンソン病,進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症など)以外にも、脊髄小脳変性症、ジストニア、脳性まひ、脳卒中、その他の原因にも基づく脳・脊髄障害などの様々な神経疾患に起因する運動症状の改善に有用であり、かかる神経疾患などの治療に有用である。
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気刺激装置およびそれを用いた電気刺激方法に関するものである。更に詳細には、この発明は、脊髄に留置することができる電気刺激装置およびそれを脊髄硬膜外腔に留置して、脊髄に電気的刺激を付与することにより、パーキンソン症候群などの神経変性疾患に伴う運動症状を改善することができる電気刺激方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン症候群は、原因不明の神経変性疾患であり、臨床的には振戦、筋固縮、動作緩慢、姿勢反射障害、歩行障害などの症状を呈する疾患群を含んでいる。このうち、パーキンソン病は、薬物療法や定位脳手術(深部脳刺激療法)が治療法として存在するが、病状の進行とともに、運動症状に対する効果は減退し、日常生活動作も徐々に制限されていく。また、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症ならびに多系統委縮症などのパーキンソン症候群は、現時点では、有効な治療法が全くなく、症状の進行とともに体動が困難となり、発症後の平均生存期間も5年ないし7年と報告されている。
【0003】
パーキンソン症候群では、大脳基底核、視床ならびに大脳皮質を含む神経回路において神経活動の異常を来し、これにより運動症状を発現すると考えられている。頸髄から腰髄レベルの背側硬膜外腔に電極を留置する脊髄刺激療法は、これまで疼痛の治療として広く行われてきた。しかしながら、この脊髄刺激療法をパーキンソン症候群の運動症状改善を目的として行われた事例はこれまで報告されていない。
【0004】
この脊髄刺激療法は、頸髄レベルの腹側および背側硬膜外腔に刺激電極を2本ずつ計4本留置し、上記神経回路から下降する脊髄前索及び上記回路へ上行する脊髄後索を電気刺激することにより、上記神経回路及び関連部位の障害を間接的に是正する作用を有している。留置した4本の電極からはそれぞれ電圧は0.5〜3.0ボルト、刺激頻度5〜130Hz、刺激幅0.06〜0.3msecの条件で電気刺激が行われている。硬膜外腔への電極挿入は、背部から経皮的に挿入して行われる。また、前胸部皮下にパルス発生器を埋め込み、硬膜外電極と体内で連結させて電流を供給する仕組みになっている。
【0005】
さらに、特許文献1には、脊髄後索に電気・磁気刺激を与える方法の開示がされており、特許文献2には、電気的刺激により脳電位を変化させる方法が開示されている。しかし、これらの特許文献に記載の電気刺激方法は、いずれも、周波数、パルス幅が異なり、歩行改善についての記述はもちろんのこと、示唆も一切されていない。
【0006】
また、非特許文献1には、脊髄後索の硬膜外電気刺激がパーキンソン病の治療につながる可能性を述べているものがあるが、脳内の血流分布の変化については記載も、示唆も一切されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-130424号公報
【特許文献2】特開2004-358078号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Science: Vol. 323, No. 5921, Pages 1578-1582 (2009.03.20)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、パーキンソン病の病状の進行とともに減退する運動症状を改善する方法を鋭意検討・研究した結果、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置を用いた高位脊髄刺激療法が、かかる運動症状改善効果があることを見出して、この発明を完成するに至った。
【0010】
したがって、この発明の目的は、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置であって、に対して、第1電極対と第2電極対とを、電気刺激を付与する対象を挟んで対称的に配置することからなる電気刺激装置を提供することである。
【0011】
この発明は、第1電極対と第2電極対を脊髄を挟んで右側の腹側及び背側の硬膜外腔と左側の腹側及び背側の硬膜外腔に対称的に留置することができる電気刺激装置を提供することを目的としている。この電気刺激装置は、パーキンソン症候群などの神経変性疾患に伴う運動症状を改善することができるとともに、埋め込み式であるから、体外から電気刺激を与えることができ、操作性に優れている。
【0012】
また、この発明は、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置を用いて、パーキンソン症候群などの神経変性疾患に伴う運動症状を改善することができる電気刺激方法を提供することを目的としている。
【0013】
さらに、この発明は、第1電極対を右側の腹側及び背側の硬膜外腔に、また第2電極対を、第1電極を留置した反対側の左側の腹側及び背側の硬膜外腔に第1電極と対称的に留置することからなる電気刺激方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、この発明は、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置を提供する。
【0015】
この発明は、第1電極対と第2電極対とを脊髄を挟んで脊髄に対称的に留置することができる電気刺激装置を提供する。また、この電気刺激装置は埋め込み式にして外部からの操作性を挙げることができる。
【0016】
この発明は、第1電極対を右側の腹側及び背側の硬膜外腔に、また第2電極対を、第1電極を留置した反対側の左側の腹側及び背側の硬膜外腔に第1電極と対称的に留置することからなる電気刺激方法を提供する。
【0017】
この発明は、第1電極対および第2電極対の各電極から、10 msec〜400 msec、好ましくは50 msec〜 200 msec、より好ましくは60 msec〜100 msecのパルス持続時間、5 Hz〜130 Hz、好ましくは30 Hz〜120 Hz、より好ましくは50 Hz 〜100 Hzのパルス頻度で電気刺激をすることが可能な電気刺激装置を提供する。
【0018】
また、この発明は、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置を用いて、パーキンソン症候群などの神経変性疾患または類似疾患もしくは脳・脊髄障害などに伴う運動症状を改善することができる電気刺激方法を提供する。
【0019】
この発明は、第1電極対および第2電極対の各電極から、5 Hz〜130 Hz、好ましくは30 Hz〜120 Hz、より好ましくは50 Hz 〜100 Hzの周波数の電流を、10 msec〜400 msec、好ましくは50 msec〜 200 msec、より好ましくは60 msec〜100 msecのパルス持続時間の電気刺激をすることからなる電気刺激方法を提供する。
【0020】
この発明は、運動、特に姿勢や歩行の制御に関連する脊髄神経路を刺激し、その下行路への刺激効果としての運動実行系の促進と上行路への刺激効果としての大脳皮質−基底核回路の是正により運動症状を改善することからなる電気刺激方法を提供する。
【0021】
この発明は、パーキンソン症候群(パーキンソン病,進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症など)、脊髄小脳変性症、ジストニア、脳性まひ、脳卒中、その他の原因にも基づく脳・脊髄障害などの様々な神経疾患に起因する運動症状を改善することからなる電気刺激方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
この発明に係る脊髄電気刺激方法は、比較的低侵襲的な療法であって、運動機能が損なわれた疾患に対して有用な特性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、頸椎単純写真側面像であり、この発明の電気刺激装置の電極を腹側ならびに背側硬膜外腔に留置した図である。
【図2】図2は、頸部コンピューター断層写真水平断であり、この発明の電気刺激装置の電極を腹側ならびに背側硬膜外腔に留置した図である。
【図3】図3は、単一光子放射断層写真であり、脳表面の血流低下部位を画像化したものである。この発明の電気刺激を行う以前において、全般的な脳血流の低下を示す図である。
【図4】図4は、単一光子放射断層写真であり、脳表面の血流低下部位を画像化したものである。この発明の電気刺激を行うことによって、前頭葉における血流低下が改善されたことを示す図である(矢印)。
【図5】図5は、単一光子放射断層写真であり、脳深部の血流増加部位を画像化したものである。この発明の電気刺激を行う以前における脳血流分布を示す図である。
【図6】図6は、単一光子放射断層写真であり、脳深部の血流増加部位を画像化したものである。この発明の電気刺激を行うことによって、視床における血流が増加したことを示す図である(矢印)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明に係る電気刺激装置は、1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とからなる4電極から構成されていて、体内に埋め込んで留置できるようになっている。この電気刺激装置は、体内に留置して、脊髄に電気刺激を与えることによって、パーキンソン病などの神経変性疾患の病状の進行とともに減退する運動症状を改善することができるという。
【0025】
この発明の電気刺激装置は、第1電極対を右側の腹側及び背側の硬膜外腔に、また第2電極対を、第1電極を留置した反対側の左側の腹側及び背側の硬膜外腔に第1電極とは対称的に留置するのがよい。
【0026】
この発明の電気刺激装置は、第1電極対および第2電極対の各電極から、10 msec〜400 msec、好ましくは50 msec〜 200 msec、より好ましくは60 msec〜100 msecのパルス持続時間、5 Hz〜130 Hz、好ましくは30 Hz〜120 Hz、より好ましくは50 Hz 〜100 Hzのパルス頻度で電気刺激を与えることができるように構成するのがよい。
【0027】
この発明の電気刺激装置の第1電極対を右側の腹側及び背側の硬膜外腔に、また第2電極対を、第1電極を留置した反対側の左側の腹側及び背側の硬膜外腔に第1電極とは対称的に留置するとともに、各電極から上記パルス頻度で上記パルス持続時間で電気刺激を付与することによって、パーキンソン病などの神経変性疾患に伴う運動症状の減退を改善することができる。
【0028】
上述したようなこの発明の電気刺激方法によって、脊髄の前索および後索を刺激し逆行性ならびに順行性に大脳基底核の回路を是正することによって運動症状を改善することができる。したがって、この発明の電気刺激方法は、パーキンソン症候群(パーキンソン病,進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症など)、脊髄小脳変性症、ジストニア、脳性まひ、脳卒中、その他の原因にも基づく脳・脊髄障害などの様々な神経疾患に起因する運動症状の改善に有効である。
【0029】
この発明に係る電気刺激方法によってその運動症状が改善できる神経変性疾患についてここに説明する。なお、説明を簡潔にするために、主に進行性核上性麻痺を神経変性疾患の例にあげて説明することにする。
【0030】
進行性核上麻痺は、歩行障害、姿勢反射障害を中心とするパーキンソニズム、核上性外眼筋麻痺、ならびに認知症により特徴付けられる孤発性神経変性疾患である。この障害の臨床的特徴は、無動、固縮、姿勢不安定、ならびに歩行困難からなる体軸性パーキンソニズムという症状であり、その結果生じる不安定さから頻繁に転倒することになる。またこの疾患に対する薬物及び外科的療法は限られている。
【0031】
薬物療法に対して抵抗性を示す姿勢不安定性ならびに歩行困難という症状は、進行性核上性麻痺と進行期パーキンソン病に共通の症状である。最近、脊髄後索の高周波電気刺激によって、パーキンソン病の動物モデルの歩行運動が回復したとの報告がなされた。電気生理学的データによると、内側毛帯−視床系を介した特定の体性感覚経路の変調ならびに脊髄刺激による脳幹覚醒系の活性が歩行運動開始の挙動に寄与することが示唆されている。
【0032】
脳幹運動領域の一部である橋脚被蓋核(PPN)もまた体性筋ならびに歩行運動を調節する役割を果たしている。PPNを含む脳幹網様体から出力する線維は、網様体脊髄路の前索を下降し、その後、脊髄前角の運動ニューロンに結合している。低周波でPPNを電気刺激すると、パーキンソン病および進行性核上性麻痺の患者における体位不安定を改善すると報告されている。
【0033】
したがって、本発明者らは、これらの先行技術の結果から、脊髄前索ならびに後索を電気刺激すると、進行性核上性麻痺の患者の姿勢不安定性と歩行困難を改善できるのではないかとの仮説を立てて、頸髄の電気刺激により進行性核上性麻痺の患者の姿勢不安定性と歩行困難を改善できることを確認した。
【実施例1】
【0034】
(患者)
米国の国立神経疾患・脳卒中協会ならびに進行性核上性麻痺学会の臨床診断基準に合致した4名の患者についてインフォームドコンセントを基に下記実験を実施した。この患者らの臨床特性は下表1に示すとおりであった。すべての患者は、核上性外眼筋麻痺、顕著な姿勢不安定性ならびに頻繁な転倒に代表される神経病学的特徴を示していた。また、すべての患者には運動症状に対してレボドーパ(levodopa)/カルビドーパ(carbidopa)ならびにアマンタジン(amantadine)を投与したが、明白な症状改善効果は認められず、椅子からの起立時や歩行時には絶えず介助が必要だった。なお本研究は所属機関の倫理委員会の承認のもとに実施した。
【0035】
【表1】
【0036】
(手術)
埋め込み式電気刺激装置を全身麻酔下での1回の手術で留置した。それぞれ電圧発生部分の長さが3mmで間隔を6mm開けて配置した4個のシリンダー状接触点を持つ電極(PISCES Quad model 3847-45)を、背部正中に皮膚切開を行い、第2頸椎(C2)椎体レベルの硬膜外腔に経皮的に4本留置した。これら4本の電極のうち、2本の電極は腹側硬膜外腔に対称的に配置し、別の2本の電極は背側硬膜外腔に対称的に配置した(図1および図2)。パルス発生器(Synergy model 7427V)は前胸部皮下に2個留置した。腹側ならびに背側硬膜外腔の右側と左側に配置した電極の導線は同側の前胸部皮下のパルス発生器に各々結合した。
【0037】
(電気刺激および臨床評価)
電気刺激は、術後2日目から体外式刺激プログラマー(N’Vision)を用いて行った。各患者は、評価バッテリーを用いて1人の評価者(YB)にて盲検的に評価した。評価は、手術前1週間および手術後1週間、手術後3ならびに6ヶ月後に行った。評価バッテリーは、臨床医ならびに患者に基づく症状の評価および副作用発現の有無から構成された。また評価バッテリーは、進行性核上性麻痺(PSP)スケール、Part II (知能検査)、Part III (球症状検査)、Part IV (外眼筋運動検査)、Part V (四肢運動症状検査)、Part VI (歩行・体軸症状検査)およびADL (Schwab and England Activities of Daily Living)評価を含んでいた。他の尺度としては、10メートル歩行経過時間ならびにテクネシウム99標識メチルシステイネート・ダイマー・シングル・フォトン・エミッション脳血流断層写真(99mTc-ECD SPECT)検査による局所脳血流分析が含まれていた。
【0038】
(統計分析)
手術前(基準値)、手術後1週間、手術後3ならびに6ヶ月の時点における臨床症状の差は、反復測定分散分析を用いて評価した。時間(観察期間)ならびに治療持続状態(電気刺激)は独立した変数として考慮した。本実験の統計分析では、多重分析のためのタイプIエラー率膨張を避けるためにボンフェローニ(Bonferroni)補正を採用し、有意差レベルをp<0.008に設定した。追跡事後分析にはTukeyテストを使用した。
【0039】
(結果)
1.刺激パラメーターの決定
頸髄への電気刺激は、腹側ならびに背側硬膜外腔に埋め込んだ4本の電極を用いて開始した。まず、歩行症状に対する効果を、パルス持続時間を短時間(60μ秒未満)、中時間(60〜200μ秒)または長時間(200μ秒超)、また周波数を低周波数(50Hz未満)、中周波数(50〜100Hz)もしくは高周波数(100Hz超)に組み合わせて設定したパラメーターに基づいて評価した。刺激の効果の前根への拡散ならびに後索への過剰刺激を避けるために、刺激電圧を2.0ボルト以下に設定して調節した。種々のパルス持続時間と周波数との組み合わせからなる刺激パラメーターのうち、4名全ての被検者についての非盲検的評価においてより可視的な改善が認められたのは、中周波数及び中持続時間の刺激条件による10メートル歩行時間であった。この結果から、本実験では、評価バッテリーは、パルス持続時間を100μ秒、周波数を70Hzに設定した刺激パラメーターで評価した。
【0040】
2.電気刺激の効果
歩行症状、ADLならびに10メートル歩行時間に対する電気刺激の効果は下表2に示す通りであった。電気刺激の平均振幅は1,8V(1.7−2.0V)、刺激パラメーターは実験期間中一定に保持した。PSPスケールの全スコアは、基準値から1週間で15%(p<0.001)、6か月で12%(p<0.002)の改善を認めた。歩行運動ならびに体軸症状に関連したサブスコア解析では、基準値から1週間で38%(p<0.001)、6か月で30%(p<0.001)の改善を認めた。知能検査、球症状検査、外眼筋運動検査および四肢運動症状検査についてのサブスコア解析では基準値と手術後との間で差異はなかった。
【0041】
【表2】
【0042】
ADLスコアは、基準値から1週間で27%(p<0.001)の改善を認めた。手術後6か月では、ADLスコアは基準値から20%(p<0.002)の改善を認めたが、統計学的に有意差はなかった(p<0.010)。
【0043】
10メートル歩行の平均時間の基準値は25.0秒であった。手術後は、基準値から1週間で24%(18.6秒、p<0.001)、6か月で20%(20.1秒、p<0.001)の短縮を認めた。
【0044】
4.脳潅流の評価
99mTc-ECD SPECT検査は、術前と術後6か月目に行った。術後6か月目の検査は刺激状態で行った。SPECTイメージはイージーZ−スコアシステムを用いて自動的に標準化した。術後6か月の検査で、全ての被検者において前頭前野における潅流低下の改善と視床における潅流増加が観察された(図3,図4,図5および図6。
【0045】
5.副作用
本実験中、2名の被検者が転倒して頭部に打撲傷を負ったが、頭蓋内における外傷性変化や、刺激装置の損傷は認められなかった。また、手術操作に伴う合併症や処置に関連する副作用は認められなかった。さらに術後においても永続的後遺症を呈する重篤な副作用は見られなかった。
【0046】
(考察)
本実験においては、様々な薬物治療によっても改善が困難な姿勢不安定性や歩行困難などの体軸症状を示す進行性核上性麻痺患者において、頸髄の電気刺激は姿勢や歩行を顕著に改善した。また、その改善効果は術後6か月にわたり持続したことを示した。術後、歩行時間もまた顕著に改善し、その効果は6か月間持続していた。電気刺激に伴う姿勢不安定性ならびに歩行困難の顕著な改善に対し、知能検査、球症状検査、外眼筋運動検査および四肢運動症状検査については術後改善が認められなかった。また外眼筋運動障害は術後3か月の時点において悪化が観察された。姿勢不安定性及び歩行困難の症状改善とともに、ADLも改善したが、術後6か月目での改善度に統計学的有意差は認められなかった。
【0047】
頸髄電気刺激による姿勢不安定性ならびに歩行困難の症状改善に対する作用機序についてはいくつかの説明が考えられる。姿勢ならびに歩行運動に関する神経機構については十分に解明されていない。哺乳動物における実験データでは、基底核ならびに網様体脊髄路が、体位制御ならびに自発歩行運動の遂行に関する基本的な神経回路であることが示唆されている。加えて、大脳皮質、基底核、視床ならびに小脳から構成される大脳皮質−基底核ループは、自発運動のプログラム生成に関与している。進行性核上性麻痺では、中枢神経系の広範囲わたる病変の存在が証明されているが、特に,脳幹における障害の優位性が観察される。臨床病理学的研究では、脳幹のPPNにおける病変とその下行路である脊髄前索における神経機能障害が、進行性核上性麻痺における姿勢不安定性と歩行障害に寄与していることが示唆されている。したがって、腹側硬膜外腔に配置された電極からの電気刺激は、前索を介してPPNを含む脊髄網様体の神経回路を活性化している可能性が示唆される。一方、進行性核上性麻痺における中枢神経病変は大脳皮質、視床ならびに小脳歯状核にも認められ、神経放射線学的検査におけるこれら部位での代謝能低下所見は大脳皮質−基底核ループでの機能異常に関連していることが示唆されている。パーキンソン病モデル動物を用いて後索刺激による歩行運動の改善効果を評価した上述の研究では、背側硬膜外腔に留置した電極からの刺激により、後索から内側毛帯−視床系と脳幹部覚醒系を介した間接的な大脳皮質−基底核ループの是正により歩行運動が改善された可能性を示唆している。
【0048】
上述したような姿勢制御ならびに自発歩行に関与している脳神経回路の機能的変化に加えて、頸髄の電気刺激は、脳血流の増加を惹起する作用を有する。脳のグルコース代謝を測定するポジトロン・エミッション断層撮影検査では、頸髄後索の電気刺激が視床における神経細胞の活性化を促すとともに、大脳皮質の運動ならび感覚領域において脳血流の増加を促すことを示している。本実験のデータにおいて、前頭葉の運動皮質における低潅流の改善ならびに視床における潅流増加の所見は網様体脊髄路ならびに内側毛帯−視床系路に対する刺激効果を介した大脳皮質−基底核ループの神経細胞活性を反映していると考える。
【0049】
パーキンソン病患者に対する頸髄後索の電気刺激の研究では,歩行障害を含む運動症状の改善作用は確認されなかったが、パーキンソン病モデル動物では歩行運動の改善が証明されている。相違する研究結果からは、脊髄後索刺激による歩行運動の改善は大脳皮質−基底核回路の是正に伴うものではなく、脳幹部覚醒系の活性化により惹起された一時的な驚愕反応を捉えたものである可能性も示唆される。一方、本実験で適用した刺激強度閾値で驚愕反応は観察されなかったにもかかわらず、パーキンソン病モデル動物の研究結果と一致して、頸髄電気刺激により進行性核上性麻痺患者における姿勢不安定性ならびに歩行困難に対する有意な改善が認められた。従って、腹側と背側の硬膜外腔に留置した電極からの脊髄刺激によって姿勢不安定性や歩行困難などの体軸症状の改善が得られた本実験の結果から、脊髄刺激による姿勢や歩行運動の改善には、脊髄後索から内側毛帯−視床系を介した大脳皮質−基底核回路の是正だけではなく、脊髄前索を介した網様体脊髄路とPPNにおける神経機能の回復効果が必要と考えられる。
【0050】
要約すると、頸髄前索ならびに後索の電気刺激は、これまで有用な治療方法が全くなかった進行性核上性麻痺の姿勢不安定性ならびに歩行困難に対して持続的な改善効果をもたらした。この発明に係る頸髄の電気刺激は、これまで行われてきた定位的脳外科手術に比べてより低侵襲的な治療法であり、運動障害を伴ういずれの疾患に対しても潜在的に有用な特性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明は、第1電極対ならびに第2電極対から構成される4電極からなる電気刺激装置をより低侵襲的に高位の腹側ならびに背側硬膜外腔に埋め込んで頸髄への電気刺激を付与することによって、パーキンソン症候群等の神経変性疾患などに伴う姿勢不安定性ならびに歩行困難等の運動症状を改善することができる。したがって、この発明はパーキンソン症候群(パーキンソン病,進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症など)以外にも、脊髄小脳変性症、ジストニア、脳性まひ、脳卒中、その他の原因にも基づく脳・脊髄障害などの様々な神経疾患に起因する運動症状の改善に有用であり、かかる神経疾患などの治療に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置であって、第1電極対と第2電極対とを、電気刺激が付与される電気刺激対象を挟んで対称的に配置することを特徴とする電気刺激装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気刺激装置であって、前記電気刺激装置が埋め込み式であることを特徴とする電気刺激装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気刺激装置であって、前記電気刺激対象が頸髄であることを特徴とする電気刺激装置。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の電気刺激装置であって、前記第1電極対および前記第2電極対の各電極から、5 Hz〜130 Hz、好ましくは30 Hz〜120 Hz、より好ましくは50 Hz 〜100 Hzの周波数の電流を、10 msec〜400 msec、好ましくは50 msec〜 200 msec、より好ましくは60 msec〜100 msecのパルス持続時間で電気刺激をすることを特徴とする電気刺激装置。
【請求項5】
1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置であって、第1電極対と第2電極対とを、電気刺激が付与される電気刺激対象を挟んで対称的に配置された電気刺激装置を用いて、前記第1電極対および前記第2電極対の各電極から、5 Hz〜130 Hz、好ましくは30 Hz〜120 Hz、より好ましくは50 Hz 〜100 Hzの周波数の電流を、10 msec〜400 msec、好ましくは50 msec〜 200 msec、より好ましくは60 msec〜100 msecのパルス持続時間の間電気刺激をすることを特徴とする電気刺激方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電気刺激方法であって、前記電気刺激対象が頸髄であることを特徴とする電気刺激方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の電気刺激方法であって、神経変性疾患または類似疾患もしくは障害などに伴う運動症状を改善することを特徴とする電気刺激方法。
【請求項8】
請求項5、6または7に記載の電気刺激方法であって、脊髄の前索ならびに後索を刺激し逆行性ならびに順行性に大脳皮質−基底核の回路を是正することによって運動症状を改善することを特徴とする電気刺激方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の電気刺激方法であって、前記神経疾患が、パーキンソン症候群(パーキンソン病,進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症など)、脊髄小脳変性症、ジストニア、脳性まひ、脳卒中、その他の原因にも基づく脳・脊髄障害などの様々な神経疾患であることを特徴とする電気刺激方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか1項に記載の電気刺激方法であって、前記運動症状が姿勢不安定性または歩行困難であることを特徴とする電気刺激方法。
【請求項11】
1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置を電気刺激を付与する電気刺激対象に留置するとともに、前記電気刺激対象に対して電気刺激を与えることにより、神経変性疾患または類似疾患もしくは障害などに伴う運動症状を改善することを特徴とする運動症状改善方法。
【請求項12】
請求項11に記載の運動症状改善方法であって、前記電気刺激対象を挟んで対称的に埋め込んで配置されていることを特徴とする運動症状改善方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の運動症状改善方法であって、前記電気刺激対象が頸髄であることを特徴とする運動症状改善方法。
【請求項14】
請求項11、12または13に記載の運動症状改善方法であって、前記第1電極対および前記第2電極対の各電極から、5 Hz〜130 Hz、好ましくは30 Hz〜120 Hz、より好ましくは50 Hz 〜100 Hzの周波数の電流を、10 msec〜400 msec、好ましくは50 msec〜 200 msec、より好ましくは60 msec〜100 msecのパルス持続時間で電気刺激を付与することを特徴とする運動症状改善方法。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか1項に記載の運動症状改善方法であって、脊髄の前索ならびに後索を刺激し逆行性ならびに順行性に大脳皮質−基底核の回路を是正することによって運動症状を改善することを特徴とする運動症状改善方法。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれか1項に記載の運動症状改善方法であって、前記神経疾患が、パーキンソン症候群(パーキンソン病,進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症など)、脊髄小脳変性症、ジストニア、脳性まひ、脳卒中、その他の原因にも基づく脳・脊髄障害などの様々な神経疾患であることを特徴とする運動症状改善方法。
【請求項1】
1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置であって、第1電極対と第2電極対とを、電気刺激が付与される電気刺激対象を挟んで対称的に配置することを特徴とする電気刺激装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気刺激装置であって、前記電気刺激装置が埋め込み式であることを特徴とする電気刺激装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気刺激装置であって、前記電気刺激対象が頸髄であることを特徴とする電気刺激装置。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の電気刺激装置であって、前記第1電極対および前記第2電極対の各電極から、5 Hz〜130 Hz、好ましくは30 Hz〜120 Hz、より好ましくは50 Hz 〜100 Hzの周波数の電流を、10 msec〜400 msec、好ましくは50 msec〜 200 msec、より好ましくは60 msec〜100 msecのパルス持続時間で電気刺激をすることを特徴とする電気刺激装置。
【請求項5】
1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置であって、第1電極対と第2電極対とを、電気刺激が付与される電気刺激対象を挟んで対称的に配置された電気刺激装置を用いて、前記第1電極対および前記第2電極対の各電極から、5 Hz〜130 Hz、好ましくは30 Hz〜120 Hz、より好ましくは50 Hz 〜100 Hzの周波数の電流を、10 msec〜400 msec、好ましくは50 msec〜 200 msec、より好ましくは60 msec〜100 msecのパルス持続時間の間電気刺激をすることを特徴とする電気刺激方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電気刺激方法であって、前記電気刺激対象が頸髄であることを特徴とする電気刺激方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の電気刺激方法であって、神経変性疾患または類似疾患もしくは障害などに伴う運動症状を改善することを特徴とする電気刺激方法。
【請求項8】
請求項5、6または7に記載の電気刺激方法であって、脊髄の前索ならびに後索を刺激し逆行性ならびに順行性に大脳皮質−基底核の回路を是正することによって運動症状を改善することを特徴とする電気刺激方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の電気刺激方法であって、前記神経疾患が、パーキンソン症候群(パーキンソン病,進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症など)、脊髄小脳変性症、ジストニア、脳性まひ、脳卒中、その他の原因にも基づく脳・脊髄障害などの様々な神経疾患であることを特徴とする電気刺激方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか1項に記載の電気刺激方法であって、前記運動症状が姿勢不安定性または歩行困難であることを特徴とする電気刺激方法。
【請求項11】
1対の電極からなる第1電極対と別の1対の電極からなる第2電極対とから構成される4電極からなる電気刺激装置を電気刺激を付与する電気刺激対象に留置するとともに、前記電気刺激対象に対して電気刺激を与えることにより、神経変性疾患または類似疾患もしくは障害などに伴う運動症状を改善することを特徴とする運動症状改善方法。
【請求項12】
請求項11に記載の運動症状改善方法であって、前記電気刺激対象を挟んで対称的に埋め込んで配置されていることを特徴とする運動症状改善方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の運動症状改善方法であって、前記電気刺激対象が頸髄であることを特徴とする運動症状改善方法。
【請求項14】
請求項11、12または13に記載の運動症状改善方法であって、前記第1電極対および前記第2電極対の各電極から、5 Hz〜130 Hz、好ましくは30 Hz〜120 Hz、より好ましくは50 Hz 〜100 Hzの周波数の電流を、10 msec〜400 msec、好ましくは50 msec〜 200 msec、より好ましくは60 msec〜100 msecのパルス持続時間で電気刺激を付与することを特徴とする運動症状改善方法。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか1項に記載の運動症状改善方法であって、脊髄の前索ならびに後索を刺激し逆行性ならびに順行性に大脳皮質−基底核の回路を是正することによって運動症状を改善することを特徴とする運動症状改善方法。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれか1項に記載の運動症状改善方法であって、前記神経疾患が、パーキンソン症候群(パーキンソン病,進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症など)、脊髄小脳変性症、ジストニア、脳性まひ、脳卒中、その他の原因にも基づく脳・脊髄障害などの様々な神経疾患であることを特徴とする運動症状改善方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2012−125465(P2012−125465A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280691(P2010−280691)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】
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