説明

電気刺激装置および電極リード

【課題】電極リードの体内への挿入、体内の所定位置への固定、体内からの抜去を容易に行えるようにする。
【解決手段】柔軟性のある長尺体で作られた電極リードと、電極リードに供給する刺激信号を生成する刺激装置とを備えて生体内に留置される電気刺激装置である。電極リードは、生体内の神経および/または筋肉を刺激する刺激電極と、刺激電極が生体に露出するように固定するボディとを備える。さらに、ボディの表面に配置されるとともに、生分解性材料で形成された所定長の係止部をさらに備える。また、刺激装置は、刺激電極と電気的に接続され、該刺激電極に刺激信号を印加する刺激回路を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体を電気刺激する電気刺激装置および電気刺激装置を構成する電極リードに関し、特に、生体内に完全に植え込まれて使用される電気刺激装置および電極リードに関する。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、痛み治療において、従来の薬物療法、神経ブロック療法あるいは外科的療法に効果を示さない場合や、副作用などによりその治療が継続できない場合に、神経を電気刺激することにより痛みを緩和する電気刺激療法が効果を挙げている。電気刺激療法の1つである脊髄電気刺激療法は、脊髄を介して脳へ伝播する痛みを緩和するために、脊髄を電気刺激する刺激療法である。
【0003】
脊髄電気刺激療法では、通常、電気刺激による疼痛緩和の有効性を確かめるために、24時間から数週間のトライアル期間が設けられる。トライアル期間では、一般的に、背中側から穿刺して脊髄を覆う脊髄硬膜の外側にある硬膜外腔に刺激電極を留置した後、この刺激電極が含まれる電極リードを体外の刺激装置と接続して様々な刺激パターンの下で疼痛緩和の程度が調べられる。この期間においては電気刺激装置の植え込みは行われていない。このトライアル期間において所定の効果が認められた場合にのみ、電気刺激装置の植え込み(以下、「本植え込み」という)が実施される。
【0004】
電気刺激装置の本植え込みを行う場合には、トライアル期間に留置された電極リードが抜去された後、再び硬膜外腔に新たな刺激電極が留置され、この刺激電極が含まれる電極リードが皮下トンネルを通って腰部や腹部、あるいは胸部に導かれる。そして、電極リードが電気刺激装置と接続されて皮下に植え込まれる。
【0005】
ところで、トライアル期間中や本植え込み後において、患者の体の動きに伴って電極リードが引っ張られ、刺激電極の位置が植え込み当初の位置からずれる、という問題があった。刺激電極の位置がずれると、十分な疼痛緩和の効果が得られなかったり、痛みとは関係ない部位に刺激が感じられたりして、患者にしびれ等の不快を与えてしまう。そのため、電極リードの植え込みを再度行わなければならない場合があった。
【0006】
この問題を解決するために、硬膜外腔内に配置される部分、すなわち先端側部分をらせん状に形成した電極リードが考えられた。この電極リードは、らせん状に形成された部分(以下、「らせん構造部」という)で硬膜外腔内壁を圧迫することにより、電極リードの引っ張りに起因する刺激電極の位置ずれを防止している(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特許公告平3−41191号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の電極リードは、上述したように、らせん構造部が硬膜外腔内に位置するように生体内に植え込まれている。硬膜外腔内は、疎ではあるが、脂肪組織や結合組織、血管を含んでおり、らせん構造部にも次第に絡みつくように組織や血管が形成される。そのため、電極リードを生体から抜去する際には、らせん構造部が通過する硬膜外腔内の血管や組織、あるいはらせん構造部に絡みついた血管や組織を傷つけないようにする必要があり、電極リードの抜去が大変困難な作業となっていた。
【0009】
この点、電極リードにスタイレットを挿入してらせん構造部を直線状に変形させれば、血管や組織を傷つけないように抜去することもできる。しかしながら、らせん構造部は硬膜外腔により形状がほぼ固定されているので、らせん構造部をスタイレットが通過できない可能性が高い。その上、無理矢理通過させた場合に、電極リードのボディをスタイレットが突き破ってしまうというおそれもある。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、体内への挿入、体内の所定位置への固定、体内からの抜去が容易な電気刺激装置および電極リードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の電気刺激装置は、柔軟性のある長尺体で作られた電極リードと、電極リードに供給する刺激信号を生成する刺激装置とを備えて生体内に留置されるものである。
【0012】
電極リードは、生体内の神経および/または筋肉を刺激する刺激電極と、この刺激電極が生体に露出するように固定するボディとを備える。さらに、ボディの表面に配置されるとともに、生分解性材料で形成された所定長の係止部を備える。
【0013】
刺激装置は、刺激電極と電気的に接続され、この刺激電極に刺激信号を印加する刺激回路を備える。
【0014】
本発明の上述した構成によれば、電極リードが柔軟な長尺体でできているので、略直線状に変形可能である。この状態で、電極リードの生体内への植え込みが行われる。そして、生体の管腔内に刺激電極が配置された状態では、所定長の係止部の少なくとも一部が生体内の管腔外に配置される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電気刺激装置を生体内に植え込んだ際に、係止部で生体内の組織を圧迫することができる。その結果、電極リードの植え込み位置を確実に保持することができる。
また、電極リードを略直線状に変形させることができるので、電極リードの体内への植え込みを容易に行うことができる。
さらに、係止部が生分解性材料でできているので、生体への植え込みから所定の期間が経過すると、係止部が組織に吸収されてなくなる。そのため、このとき以降における電極リードの生体からの抜去を容易に行うことができる。
このように、本発明によれば、電極リードの生体内への挿入、生体内の所定位置への固定、生体内からの抜去を容易に行うことができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る電気刺激装置の全体を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る刺激回路の機能を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る電気刺激装置を生体内に植え込む手順(その1)を説明するための説明図である。
【図4】本発明の電気刺激装置を生体内に植え込む手順(その2)を説明するための説明図である。
【図5】本発明の電気刺激装置を生体内に植え込む手順(その3)を説明するための説明図である。
【図6】本発明の電気刺激装置を生体内に植え込む手順(その4)を説明するための説明図である。
【図7】本発明の変形例(その1)に係る電気刺激装置の一部を示す説明図である。
【図8】本発明の変形例(その2)に係る電気刺激装置の一部を示す説明図である。
【図9】本発明の変形例(その3)に係る電気刺激装置の一部を示す斜視図である。
【図10】本発明の変形例(その4)に係る電気刺激装置の一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態例について説明する。以下に述べる実施の形態例は、本発明の好適な具体例である。そのため、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかしながら、本発明の範囲は、下記の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。例えば、以下の説明で挙げる各パラメータの数値的条件は好適例に過ぎず、説明に用いた各図における寸法、形状および配置関係も概略的なものである。
【0018】
以下の手順で説明を行う。
<実施形態例>
1.電気刺激装置の構成
2.刺激回路の構成
3.電気刺激装置の植え込み手順
<変形例>
【0019】
<実施形態例>
本発明の実施形態の例を、図1〜6を参照して説明する。
[1.電気刺激装置の構成]
まず、本発明の電気刺激装置の構成について図1を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電気刺激装置の全体を示す斜視図である。
【0020】
電気刺激装置101は、生体に植え込み可能に構成されており、電気的な刺激信号(以下、「電気的刺激信号」という)により、生体内における脊髄の神経等を刺激するものである。この電気刺激装置101には、神経等を刺激するための電極リード102と、この電極リード102に電気的刺激信号を供給する刺激装置103とが設けられている。
【0021】
まず、電極リード102について説明する。
電極リード102は、神経等を刺激するための4つの刺激電極108と、電極リード102を生体内に配置した際に各刺激電極108が生体に対して剥き出しになるように固定するボディ104とを備える。さらに、ボディ104上に固定され、電極リード102が生体内に植え込まれた際の植え込み位置を保持する係止部105を備える。ここでは、刺激電極108の数を4つとしたが、これはあくまでも一例であって、刺激電極108の数は任意に設定できるものである。
【0022】
刺激電極108は、導電性があって生体適合性がある素材、例えばプラチナやプラチナ合金(例えば、プラチナ90%/イリジウム10%合金)等の素材でできており、中空の略円筒状に形成されている。刺激電極108の外径は、例えば、脊髄の神経を刺激する際には、脊髄硬膜と脊柱背側との距離が約5mmの硬膜外腔に植え込まれることになるので、約1〜3mmであることが好ましい。また、刺激電極108の内径は、後述するスタイレット用ルーメン106の直径よりも長く設定する必要がある。これは、刺激電極108でスタイレット用ルーメン106を塞がないようにするためである。
【0023】
各刺激電極108には、4本の導線(不図示)の一端(先端112側の端部)がそれぞれ電気的に接続されている。そして、これら導線の各他端が、後述する刺激装置103の刺激回路113とそれぞれ電気的に接続されている。なお、これら4本の導線は、ボディ104内部に完全に埋め込まれている。
【0024】
ボディ104は、柔軟性があって、かつ生体適合性がある素材、例えばシリコーンやポリウレタン等の樹脂素材が略円筒形状に形成された長尺体109から作られる。この長尺体109には、基端111に開口して先端112付近まで連通する略円筒形状の孔が軸方向に開けられている。この孔が、スタイレット120を挿入するためのスタイレット用ルーメン106である。そのため、スタイレット用ルーメン106の直径は、スタイレット120の直径とほぼ等しいか、それより少し長い必要がある。
【0025】
このようなスタイレット用ルーメン106を電極リード102に形成したことにより、電気刺激装置101を生体内に植え込む際に、スタイレット120を利用できる。その結果、電気刺激装置101の体内への植え込みをより容易に行うことができるとともに、刺激電極108の生体内への配置の正確性をより向上させることができる。
【0026】
また、長尺体109の外径は、刺激電極108の外径とほぼ等しく形成される。長尺体109の軸方向の長さは、例えば、硬膜外腔から脊髄の神経を刺激する場合は、刺激電極108が硬膜外腔内で安定的に配置されるように硬膜外腔内に3椎体分の長さ以上挿入される電極リードの長さプラス15cm程度かそれよりも長く設定される必要がある。この長さは、後述する硬膜外針のスリットを基端111の付近で引き裂くための余剰部分(以下、「余剰部分」という)を含んだ長さである。
【0027】
このように形成されたボディ104の基端111付近の表面には、刺激装置103が固定されている。そして、ボディ104の中間部、すなわち刺激電極108と刺激装置103とがそれぞれ配置される位置の間には、ボディ104の軸方向の長さが所定長となるように形成された係止部105が設けられている。
【0028】
係止部105は、電気刺激装置101が生体内に植え込まれた際に、管腔外の筋肉、結合組織あるいは脂肪などの組織を圧迫して電極リード102の植え込み位置を保持するものである。この係止部105は、生体への植え込みから数週間経過すると、当該生体内の組織に吸収される生分解性材料でできている。生分解性材料は、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノンおよびこれらの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種類を含んで形成される。
【0029】
この係止部105は、ボディ104の軸方向に所定の間隔をあけて配置された複数の係止片105aよりなる。これら係止片105aは、ボディ104の径方向(以下、「当該径方向」という)に突出したリング状に形成されている。そして、各係止片105aの内径はボディ104の外径と等しく、各係止片105aの内壁にはボディ104の表面が密着している。また、各係止片105aの当該径方向の厚みは、生体内の組織を圧迫するのに十分な厚みに設定されている。そのため、ボディ104の表面と各係止片105aとの間には段差が生じる。これにより、電気刺激装置101が生体内に植え込まれた際に、各係止片105aそれぞれで当該生体の組織を圧迫することができる。その結果、電極リード102の植え込み位置を確実に保持することができる。なお、係止部105の当該径方向の断面の形状は、椀形や円形、矩形等どのような形状であってもよい。
【0030】
次に、刺激装置103について説明する。
刺激装置103は、筐体107およびこの筐体107に収納・固定された刺激回路113を備えている。
筐体107は、比較的硬く、生体適合性がある金属や樹脂、例えばチタンやエポキシ等、あるいはセラミック等の素材でできており、略円筒形状に形成されている。筐体107の一端面は、ボディ104の基端111付近の表面に固定されている。また、この筐体107には、一端面から他端面に貫通する孔がその軸方向に2つ開けられている。これら2つの孔が縫合孔114であり、この縫合孔114は、刺激装置103を生体に縫い付けるための糸が通される。
【0031】
刺激回路113は、回路基板上にカスタムICなどの小型な部品を実装した回路であり、電気的刺激信号を生成する。この刺激回路113は、生成した電気的刺激信号を各刺激電極108に独立して供給するように、ボディ104に埋め込まれている各導線(不図示)と電気的に接続されている。なお、刺激回路113の電気的な構成については、図2にて後述する。
【0032】
[2.刺激回路の構成]
次に、刺激装置103に収納された刺激回路113の機能について図2を参照して説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る刺激回路の機能を示すブロック図である。
【0033】
刺激回路113は、充電池309と、コイル部212と、充電部308と、通信部302とを含む。さらに、刺激パラメータ設定部304と、電極構成設定部305と、発振部306と、制御部303と、スイッチ部307とを備える。
【0034】
充電池309は、例えばリチウムイオン電池等の充電可能な電池である。図2に図示はしていないが、この充電池309は、蓄積している電力を、刺激回路113を構成する各ブロックに供給している。
【0035】
コイル部212は、例えばコイルとコンデンサで構成される共振回路である。コイル部212は、充電池309の充電を行う場合、図示しない体外のコントローラから送信される充電用の電磁波を受信する。そして、この受信に伴ってコイル部212から発生する交流電流が充電部308に出力される。また、コイル部212は図示しない体外のコントローラから送信される、所定の情報が載せられた電磁波を受信し、受信した電磁波が当該コイル部212から通信部302に出力される。
【0036】
充電部308は、整流回路を内蔵し、コイル部212から出力された交流電流を直流電流に変換して電力を取得する。そして、取得した電力で充電池309の充電を行う。
【0037】
通信部302は、コイル部212が受信した電磁波を復調し、電磁波に載せられている情報を取り出す。そして、取り出した情報を制御部303を介して刺激パラメータ設定部304および電極構成設定部305に出力する。刺激パラメータ設定部304に出力される情報は、電気的刺激信号の刺激強度に関する情報(以下、「刺激パラメータ」という)であり、電極構成設定部305に出力される情報は、電極構成に関する情報(以下、「電極構成情報」という)である。電気的刺激信号の刺激強度は、当該電気的刺激信号のパルス電圧、パルス電流、パルス幅あるいは周波数により決定されるので、刺激パラメータはこれらパルス電圧等の値を示す信号である。また、電極構成情報は、電気的刺激信号の極性を変更するための情報と、電気的刺激信号を出力する刺激電極108をスイッチ部307に選択させるための情報とを含む信号である。
【0038】
刺激パラメータ設定部304は、通信部302から入力される刺激パラメータに基づいて、発振部306で発生する電気的刺激信号の刺激強度を変更するための刺激強度変更信号を生成する。
【0039】
電極構成設定部305は、通信部302から入力される電極構成情報に基づいて、発振部306で発生する電気的刺激信号を出力する刺激電極108を選択するための電極構成選択信号を生成する。なお、刺激パラメータ設定部304から出力される刺激強度変更信号は発振部306に出力され、電極構成設定部305から出力される電極構成選択信号はスイッチ部307に出力される。
【0040】
発振部306は、刺激パラメータ設定部304から入力される刺激強度変更信号に基づいて、電気的刺激信号を生成してスイッチ部307に出力する。
【0041】
スイッチ部307は、電極構成設定部305から入力される電極構成選択信号に基づいて、発振部306から入力される電気的刺激信号を出力する刺激電極108を決定する。なお、制御部303は、例えばマイクロコンピュータ等であり、刺激回路113の各ブロックを制御する。
【0042】
[3.電気刺激装置の植え込み手順]
次に、この電気刺激装置101で、例えば、硬膜外腔から脊髄の神経の電気刺激を行う手順の一例について図3〜6を参照して説明する。
図3〜6は、背中付近を示す人体の縦断面図である。
【0043】
まず、医師は、患者の痛みの分布状況に基づき、予め目標とする脊髄の刺激部位を決定する。そして、図3に示すように、X線透視下で患者の背中側から穿刺して、分割式あるいはスリット付きの硬膜外針406(以下、「硬膜外針406」という)を硬膜外腔405まで挿入する。この硬膜外針406が硬膜外腔405に挿入される位置は、一般的に、目標とする刺激部位から脊椎403における3椎体以上低位が選ばれる。
【0044】
次に、電極リード102に形成されたスタイレット用ルーメン106(図1を参照)に、スタイレット120を完全に挿入する。そして、図4に示すように、スタイレット120が挿入された電極リード102の先端112を硬膜外針406に通し、当該電極リード102を生体404内に挿入する。そして、スタイレット120の基端を軸方向に押すことにより、電極リード102が硬膜外腔405内に挿入される。
【0045】
続いて、さらにスタイレット120の基端を軸方向に押して、硬膜外腔405内に電極リード102を上向させ、電極リード102の刺激電極108を目標とする刺激部位の近くに位置させる。
【0046】
そして、電極リード102およびスタイレット120を生体404内に挿抜することで刺激電極108の位置を少しずつ移動させながら、不図示の体外のコントローラを操作して神経刺激を行う。このとき、刺激装置103では、医師の操作に基づいて、所定の強度の電気的刺激信号が生成され、生成された電気的刺激信号が刺激電極108に出力されて、当該刺激電極108の位置に近い部分の神経刺激が行われる。そして、医師は、患者の神経刺激に対する反応を聞きながら、最適な刺激電極108の位置を決定する。
【0047】
このとき、係止部105は、硬膜外針406内に位置しているため、この係止部105による硬膜外腔405の外にある生体404の周辺組織の圧迫は行われていない。これにより、医師は容易に電極リード102およびスタイレット120を生体404内に挿抜することができる。
【0048】
次に、医師は、硬膜外針の刺入部を中心に小切開を行った後、図5に示すように、決定した最適な位置から刺激電極108が移動しないように電極リード102とスタイレット120を保持しながら、電極リード102のスタイレット用ルーメン106にスタイレット120が通った状態で硬膜外針406を生体404から抜く。このとき、係止部105は、硬膜外腔405の外にある生体404の周辺組織内に位置し、この係止部105によって周辺組織が圧迫されている。これにより、電極リード102が動かないようにすることができ、刺激電極108の位置を、決定した最適な位置に保持することができる。そして、硬膜外針406のスリット部分を引き裂いて、硬膜外針406を電極リード102の表面から取り去る。このとき、体から突出しているボディ104の一部(以下、「突出部」という)が、図1にて説明した、硬膜外針406を生体404から抜くための余剰の長さに相当する。
【0049】
続いて、スタイレット120を電極リード102のスタイレット用ルーメン106から取り出す。そして、図6に示すように、背中側の電極リード102の突出部をらせん状に巻いた後に、この突出部および刺激装置103を、小切開の皮下に植え込みを行う。
【0050】
そして、電気刺激装置101が生体404に完全に植え込まれた状態で固定されるようにするため、刺激装置103の縫合孔114に糸(不図示)を通し、刺激装置103を生体404の組織に縫いつけ、その後に切開部を縫合する。この処置は、刺激装置103が生体404内で移動しないように、あるいは、電気刺激装置101の挿入口から感染症等を起こさないようにするためのものである。
【0051】
ところで、電気刺激装置101の植え込みが完了してから数週間経過すると、生分解性材料で形成された係止部105が生体404の組織に吸収され、係止部105による組織の圧迫がなくなる。しかしながら、このときは植え込み完了時よりも生体404の組織が成長しており、当該組織によりボディ104が圧迫や癒着された状態となっている。このため、係止部105が生体に吸収された後も、成長した組織によって電極リード102の刺激電極108の位置を、最適な位置に保持することができる。
【0052】
また、電気刺激装置101を生体内から抜去する時期(植え込みから数週間以降)には、もちろん電極リード102から係止部105が組織に吸収されてなくなっているので、電極リード102を抜去する際に係止部105が組織に引っかかることがなくなる。これにより、電気刺激装置101の生体内からの抜去を容易に行うことができる。
【0053】
<変形例>
なお、上述した実施形態では図1に示すように複数のリング状の係止片105aよりなる係止部105をボディ104の表面に配置した。しかしながら、この係止部105の代わりに、図7に示すような網目状に形成した係止部455をボディ104上に配置するように構成してもよい。
【0054】
この係止部455は、係止部105と同様の生分解性材料でできており、その網目の形が矩形となる角目網地状に形成されている。そのため、電気刺激装置101が生体内に植え込まれた際に、係止部455が生体内の組織を圧迫し、いかなる方向に電極リード102が動いたとしても係止部455が組織に必ず引っかかるようにすることができる。これにより、電極リード102の刺激電極108の植え込み位置をより確実に保持できる、という効果がある。なお、図7に示す例では係止部455の形状を角目網地状としたがこれに限られない。例えば、菱目網地状や千鳥型網地状、亀甲型網地状等どのような網地状であっても同様の効果を奏することはいうまでもない。
【0055】
また、この係止部455の代わりに、図8に示す係止部475を備えるような構成としても、図7にて説明した上記効果を得ることができる。
【0056】
係止部475は略半球状に形成された複数の係止片475aを有しており、これら複数の係止片475aの底面がボディ104の表面に接着されている。また、各係止片475aが互いに接触しないように配置されていることが好ましい。例えば、図8に示すように、係止片475aが、ボディ104の軸方向および周方向それぞれにおいて、所定の間隔を開けて複数個配置されるように構成すればよい。なお、係止片475aの配置は、図8に示した配置に限られるものではなく、例えばランダムな配置であってもよいことはいうまでもない。
【0057】
また、上述した実施形態において、図9に示すように、基端111を含むボディ104の一部を刺激装置503に貫通させるように、この刺激装置503に固定してもよい。これにより、刺激装置503の表面から、ボディ104の基端111に開口するスタイレット用ルーメン106を露出させることができ、スタイレット120の挿入をより容易に行うことができる。
【0058】
この刺激装置503は、刺激装置103(図1を参照)の筐体107の代わりに、筐体507を有する。
筐体507は、比較的硬く、生体適合性がある金属や樹脂、例えばチタンやエポキシ等、あるいはセラミック等の素材でできており、略円筒形状であり、その両端面の中心を貫通する略円筒形状の孔が開けられている。この孔の直径は、ボディ104の外径とほぼ等しく、ボディ104の基端111から所定の位置までの部分が当該孔に収納・固定される。
【0059】
上述した実施形態において、電極リードと刺激装置とを着脱可能とする構成にしてもよい。以下、これを実現するための具体的な構成について説明する。
【0060】
図10に示すように、ボディ104の基端111側に連続して、後述する刺激装置603のコネクタ部607と結合可能なコネクタ部605がさらに設けられている。コネクタ部605は、4つのコネクタピン608を備えており、これら4つのコネクタピン608は、4つの刺激電極108(図1を参照)とそれぞれ電気的に接続されている。各コネクタピン608と各刺激電極108との接続は、ボディ104に完全に埋め込まれた4本の導線(不図示)によってなされている。
【0061】
刺激装置603は、刺激装置103(図1を参照)の筐体107の代わりに筐体606を備えている。この筐体606には、コネクタ部607が設けられている。コネクタ部607は、コネクタ部605と結合可能となるように形成されている。そして、コネクタ部607がコネクタ部605と結合された場合に、コネクタ部605のコネクタピン608が刺激回路113と電気的に接続され、刺激回路113が刺激電極108と電気的に接続される。
【0062】
このように、電極リードと刺激装置が着脱可能に形成した。そのため、電気刺激装置を生体に植え込む際に、電極リードだけをまず植え込むことができる。これにより、電極リードの植え込みに使用する硬膜外針を引き裂くことなく、電極リードから抜き去ることができる。その結果、硬膜外針を引き裂くための余剰部分をボディに設ける必要がなくなり、電気刺激装置101よりも、ボディの軸方向の長さを短くすることができる。
【0063】
その上、上述したように、電極リードの植え込みに使用する硬膜外針を引き裂くことなく、電極リードから抜き去ることができるので、植え込みの際に使用する硬膜外針は、分割式やスリット付きのものでなくてもよいことはいうまでもない。
【0064】
また、上述した実施形態では、4つの刺激電極よりも基端側のボディにのみ係止部を設けるような構成としたが、4つの刺激電極よりも先端側のボディおよび/または4つの刺激電極の間のボディに係止部をさらに設けるような構成としてもよい。
【0065】
また、上述した各実施形態では、刺激装置の筐体を略円筒形状としたが、刺激装置の植え込み部位の解剖学的形状にフィットした筐体形状とすることで、植え込み部位の患者の違和感をより小さくすることが可能である。
【0066】
また、上述した実施形態では、生体内に電極リードを挿入する際に、硬膜外針に直接電極リードを通す形態としたが、予めピールアウェイシースの内部に硬膜外針を通した状態で一体化された穿刺針で穿刺した後に、ピールアウェイシースを残して硬膜外針を抜き去り、このピールアウェイシースに電極リードを通す形態としてもよい。これにより、ピールアウェイシース抜去の際に容易に引き裂くことができ、また引き裂きの際の引っ張り等の電極リードに対する負担を小さくすることが可能である。
【0067】
また、上述した実施形態では、電源として充電池を用いたが、充電池の代わりに一次電池を用いてもよいし、あるいは、充電池の代わりにキャパシタを用いて、体外のコントローラから常に給電を受けながら作動させてもよい。
【0068】
以上、本発明の各実施形態の例について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含むことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0069】
101…電気刺激装置、102…電極リード、103,503,603…刺激装置、104…ボディ、105,455,475…係止部、105a,475a…係止片、106…スタイレット用ルーメン、107,507,606…筐体、108…刺激電極、109…長尺体、111…基端、112…先端、113…刺激回路、114…縫合孔、120…スタイレット、212…コイル部、302…通信部、303…制御部、304…刺激パラメータ設定部、305…電極構成設定部、306…発振部、307…スイッチ部、308…充電部、309…充電池、403…脊椎、404…生体、405…硬膜外腔、406…硬膜外針、605,607…コネクタ部、608…コネクタピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性のある長尺体で作られた電極リードと、前記電極リードに供給する刺激信号を生成する刺激装置とを備えて生体内に留置される電気刺激装置であって、
前記電極リードは、
生体内の神経および/または筋肉を刺激する刺激電極と、
前記刺激電極が生体に露出するように固定するボディと、
前記ボディの表面に配置されるとともに、生分解性材料で形成された所定長の係止部と、を備え、
前記刺激装置は、
前記刺激電極と電気的に接続され、該刺激電極に前記刺激信号を印加する刺激回路を備える
電気刺激装置。
【請求項2】
前記所定長の係止部は複数の係止片よりなる
請求項1に記載の電気刺激装置。
【請求項3】
前記複数の係止片が前記電極リードの軸方向に所定の間隔をあけて設けられている
請求項2に記載の電気刺激装置。
【請求項4】
前記係止片はリング状であってその内壁と前記ボディの表面とが密着している
請求項3に記載の電気刺激装置。
【請求項5】
前記複数の係止片それぞれが、接触しないように、電極リードの全周に亘って配置された
請求項2または3に記載の電気刺激装置。
【請求項6】
前記刺激電極は、前記生体の管腔の中に留置された際に、前記所定長の係止部の少なくとも一部が前記管腔の外に位置するように構成されている
請求項1〜5のいずれかに記載の電気刺激装置。
【請求項7】
前記所定長の係止部を形成する生分解性材料が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノンおよびこれらの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種類を含む
請求項1〜6のいずれかに記載の電気刺激装置。
【請求項8】
前記所定長の係止部は、前記電極リードの軸に対して垂直方向に突出している
請求項1〜7のいずれかに記載の電気刺激装置。
【請求項9】
前記電極リードおよび前記刺激装置は、前記電極リードと前記刺激装置を着脱可能に接続するコネクタ部をそれぞれ備え、
前記電極リードと前記刺激装置とがそれぞれのコネクタ部で接続されると、前記電極リードの前記刺激電極と、前記刺激装置の前記刺激回路とが電気的に接続される
請求項1〜8のいずれかに記載の電気刺激装置。
【請求項10】
前記所定長の係止部は網目状であって、該所定長の係止部で前記ボディの表面が覆われている
請求項1に記載の電気刺激装置。
【請求項11】
柔軟性のある長尺体で作られた電極リードであって、
生体内の神経および/または筋肉を刺激する刺激電極と、
前記ボディの表面に配置されるとともに、生分解性材料で形成された所定長の係止部と、を備える
電極リード。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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