説明

電気刺激電極組立体

【課題】電極をより確実に血管壁に接触させることができる電気刺激電極組立体を提供する。
【解決手段】血管内に留置される電気刺激電極組立体1は、電極面12Aを露出させた電極部12が外周面に設けられた絶縁性の本体11と、弾性体からなり、基端部31b、32bが本体に固定された付勢部材31、32と、付勢部材の先端部31a、32aが固定されたスタイレット20とを備え、本体とスタイレットとの相対位置を調節することにより、付勢部材を、本体の軸線方向に見て血管の内壁に沿い、電極面が内壁に接触するよう付勢する第一の形状と、本体の長手方向に沿う第二の形状とに可逆的に変形可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内に留置される電気刺激電極組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織に電気的刺激を与えて治療を行う刺激発生装置が知られている。このような刺激発生装置の例としては、例えば、心臓ペースメーカー、植え込み型除細動装置、神経刺激装置、疼痛緩和装置、てんかん治療装置、および筋肉刺激装置等を挙げることができる。
通常、これらの刺激発生装置は、生体内の刺激対象組織の付近に配置される電極リード(電気刺激電極組立体)を備えている。
【0003】
このような電極リードとして、例えば、特許文献1には、電極が形成された少なくとも1つの腕部を有する電極支持体を備え、この腕部を、例えば頸部迷走神経などの生体組織に巻き付けて装着するようにした生体植え込み用電極リードが記載されている。
【0004】
また、より低い侵襲で神経を刺激するために、刺激されるべき神経に隣接して位置する血管内に電極リードを配置し、血管壁越しに電気的刺激を与えることも提案されている。特許文献2には、このような用途に用いられる電極リードが記載されている。この電極リードでは、電極はフレキシブルなリード本体に取り付けられており、リード本体の形状保持力により血管壁に接触させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−67978号公報
【特許文献2】特表2010−516383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の電極リードでは、リード本体の形状保持力のみで電極を血管壁に接触させるため、絶えず変化する血管壁の形状によっては電極が血管壁に十分に密着できない可能性があり、電気的刺激を与える際の刺激対象神経における電流密度の低下につながる懸念がある。電流密度が低下すると、電気刺激時に電気刺激エネルギーを増大させなければならなくなる。このため過大な電気エネルギーを血液に通電することとなり血栓の形成につながるおそれがある。
【0007】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、電極をより確実に血管壁に接触させることができる電気刺激電極組立体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気刺激電極組立体は、血管内に留置される電気刺激電極組立体であって、電極面を露出させた電極部が外周面に設けられた絶縁性の本体と、弾性体からなり、長手方向における第一の端部が前記本体に固定された付勢部材と、前記付勢部材の第二の端部が固定された形状調節部材とを備え、前記本体と前記形状調節部材との相対位置を調節することにより、前記付勢部材を、前記本体の軸線方向に見て前記血管の内壁に沿い、前記電極面が前記内壁に接触するよう付勢する第一の形状と、前記本体の長手方向に沿う第二の形状とに可逆的に変形可能であることを特徴とする。
【0009】
前記本体は、内腔を有する管状に形成されており、前記形状調節部材は、前記内腔に進退可能に挿通されてもよい。
また、前記形状調節部材は、前記本体が進退可能に挿通されたシースであってもよい。
【0010】
本発明の他の電気刺激電極組立体は、血管内に留置される電気刺激電極組立体であって、電極面を露出させた電極部が外周面に設けられた絶縁性の本体と、弾性体からなり、少なくとも一部が前記本体外に位置する露出領域となるように、前記本体に沿って配置された付勢部材とを備え、前記付勢部材の端部を前記本体に対して進退させることにより、前記露出領域を、前記本体の軸線方向に見て前記血管の内壁に沿い、前記電極面が前記内壁に接触するよう付勢する第一の形状と、前記本体の外周面に沿う第二の形状とに可逆的に変形可能であることを特徴とする。
【0011】
本発明の電気刺激電極組立体は、前記電極部および前記付勢部材の少なくとも一方にX線透視下で視認可能なマーカーが取り付けられていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気刺激電極組立体によれば、電極をより確実に血管壁に接触させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一実施形態の電気刺激電極組立体を示す斜視図である。
【図2】(a)は、同電気刺激電極組立体を本体の軸線方向に見た図であり、(b)および(c)はその変形例である。
【図3】同電気刺激電極組立体の使用時の一形態を示す斜視図である。
【図4】本発明の第二実施形態の電気刺激電極組立体を示す斜視図である。
【図5】同電気刺激電極組立体の変形例を示す斜視図である。
【図6】同電気刺激電極組立体の変形例を示す斜視図である。
【図7】同電気刺激電極組立体の変形例を示す斜視図である。
【図8】同電気刺激電極組立体の変形例を示す斜視図である。
【図9】(a)は、同電気刺激電極組立体の変形例を示す斜視図であり、(b)はその使用時の一形態を示す斜視図である。
【図10】本発明の第三実施形態の電気刺激電極組立体を示す斜視図である。
【図11】同電気刺激電極組立体の使用時の一形態を示す斜視図である。
【図12】同電気刺激電極組立体の変形例を示す斜視図である。
【図13】同電気刺激電極組立体の使用時の一形態を示す斜視図である。
【図14】本発明の変形例の電気刺激電極組立体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第一実施形態について、図1から図3を参照して説明する。
図1は、本実施形態の電気刺激電極組立体(以下、単に「電極組立体」と称する。)1を示す斜視図である。電極組立体1は、血管内に留置されて迷走神経等の所定の対象組織に対して血管壁越しに電気刺激を与えるものであり、電極を有する本体部10と、本体部10に対して進退可能に取り付けられたスタイレット(形状調節部材)20と、本体部10およびスタイレット20に取り付けられた付勢部30とを備えている。
【0015】
本体部10は、管状に形成された絶縁性の本体11と、本体11の先端側外周面に設けられた電極部12と、基端側に設けられたコネクタ13とを有する。本体11は、電気絶縁性を有する材料で内腔を有する管状に形成されている。本体11の材料としては、生体適合性に優れたものが好ましく、例えば、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、およびフッ素樹脂等を挙げることができる。フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。本体11の表面には、血栓防止コーティングが施されてもよい。
【0016】
電極部12は、本体11の先端側外周面の一部のみに導電性の電極面12Aを露出させている。電極部における電極の設置個数は適宜設定できる。本実施形態では、正極14と負極15との2つの電極が電極部12に設けられており、それぞれ図示しない配線によってコネクタ13と接続されている。電極の材料としては、生体適合性に優れた金属材料が好ましく、例えば、白金イリジウム合金等の貴金属材料を挙げることができる。
本体11の外周面における電極面12Aの露出角度(本体11を軸線方向に見たときに電極面12Aが露出する領域に対応する中心角)が小さすぎると、電気刺激のために大きな電圧が必要となる。また、電極面12Aの露出角度が大きすぎると、他の周辺組織に電気が漏れやすくなる。電極組立体1が上大静脈に留置されて迷走神経を刺激する場合、電気が漏れることにより、横隔神経を刺激するため、電極面12Aの露出角度には制限が存在する。また、露出角度が大きすぎると、電極と血液が接触しやすくなり、迷走神経に対向する血管組織よりも、血液を経由して電気エネルギーが流れ、迷走神経を刺激しにくくなる。本実施形態では、これらの事情を考慮し、電極面12Aの露出角度を180度以下に設定している。
【0017】
コネクタ13は、電気刺激を発生する刺激発生装置と接続される部位であり、接続される機器に応じて適宜公知の構成を採用することができる。
電極組立体1と接続される刺激発生装置としては、心臓ペースメーカー、除細動装置、神経刺激装置、疼痛緩和装置、てんかん治療装置、または筋肉刺激装置等で従来から用いられているものが挙げられる。刺激発生装置には、生体に植え込まれるものや、体外に装着されるものがあるが、いずれの場合も、電極駆動用電源(バッテリー)、治療用の刺激信号を発生するための電気回路、およびコネクタ13と接続される接続部を有している。
【0018】
スタイレット20は、ステンレス等の金属や樹脂等で形成され、一定の可撓性と、軸線方向に進退可能な程度の剛性とを有する部材である。スタイレット20の先端は、本体11に形成された挿通口16から本体11の内腔に挿通され、本体11の先端開口17から突出している。
【0019】
付勢部30は、弾性体からなる一対の付勢部材31、32を有する。各付勢部材は、後述する変形操作に応じて第一の形状と第二の形状とに可逆的に変形可能な可撓性と、留置される血管壁の変形に抗して一定の形状を保持可能な程度の剛性とを有しており、例えばニッケルチタン製の超弾性ワイヤ等を用いて好適に形成することができる。必要に応じて付勢部材の表面を生体適合性樹脂で被覆したり、血栓防止のためのコーティング等を施したりしてもよい。
付勢部材31、32の先端部(第二の端部)31a、32aは、固定部材33によってスタイレット20の先端側に固定されており、基端部(第一の端部)31b、32bは、固定部材34によって本体11のうち電極部12よりも基端側の外周面に固定されている。付勢部材の固定方法には特に制限はなく、カシメや接着等の公知の方法を適宜選択することができる。したがって、上述の固定部材を用いずに固定されても構わない。
【0020】
付勢部材31、32は、スタイレット20の先端と本体11の先端とが接近した状態で、図1に示すような第一の形状を呈するように形状のくせ付けがされている。第一の形状を呈する付勢部材31および32は、本体11の軸線方向に見て、図2(a)に示すように所定の半径を有する略円形であり、かつ当該円形状の円周上に本体11が位置し、電極面12Aが当該円形状の外側に向いている。上記所定の半径は、電極組立体1が留置される部位(留置部位)の血管径によって異なり、留置部位の半径よりも若干大きく設定される。
なお、付勢部材31及び32の第一の形状は、上述の略円形に限られず、例えば、図2(b)に示すような楕円形や、図2(c)に示すような三角形等の多角形でもよい。第一の形状の具体的態様は、留置部位の血管形状を考慮して適宜決定してよい。基本的には、留置部位の血管の半径よりも第一の形状の径方向の最大寸法が若干大きくなるように設定するとよい。図2(b)および図2(c)に示す変形例では、血管を楕円形状や三角形状と類似の形状に変形させることにより、その固定力を増加させやすいというメリットがある。
【0021】
上記のように構成された電極組立体1の留置時の動作について、迷走神経を刺激対象組織として上大静脈に留置する場合の例で説明する。
まず術者は、経皮的または皮膚に切開を加えたのちに内頚静脈または鎖骨下静脈を穿刺してガイドワイヤーを静脈内に留置する。次に、ガイドワイヤーに沿ってイントロデューサーやガイドシース等の管状部材を挿入し、管状部材の先端を迷走神経が並行する血管内壁の近傍に位置させる。
【0022】
次に、この管状部材内に、電極組立体1を先端側から挿入する。このとき術者は、スタイレット20を押し込んで、本体11に対して前進させる。すると、スタイレット20に固定された付勢部材31、32の先端部31a、32aが基端部31b、32bから離間し、図3に示すように、付勢部材31、32が本体11およびスタイレット20に沿う略直線状の第二の形状に変形する。これにより、管状部材の中にスムーズに挿入することができる。
【0023】
管状部材に電極組立体1を挿入した後、術者は、電極組立体1を前進させて、管状部材の先端開口から上大静脈の内部に突出させる。固定部材34が管状部材の外に出たところで、術者はスタイレット20を本体11に対して後退するように手元側に引く。すると、付勢部材31、32の先端部31a、32aが基端部31b、32bに接近し、付勢部材31、32が血管の内壁に沿う第一の形状に復帰して血管壁に接触する。付勢部材31、32は、接触した血管壁に押されるため、若干弾性変形したりすることもあるが、その剛性により、少なくとも血管の内壁に沿う状態を保持する。これにより、付勢部30は血管壁と接触して電極部12の電極面12Aが血管壁に密着するように本体部10を付勢し、電極組立体1の留置中、電極面12Aと血管の内壁との接触状態を良好に保持する。
また、電極部12を含む本体部10、スタイレット20、および付勢部30は、いずれも血管の内壁に沿って設置されるため、留置部位における血液の流れが阻害されにくく、電極組立体1の留置に起因する血栓の発生が抑制される。
【0024】
電極組立体1の留置後、コネクタ13を刺激発生装置に接続して、刺激発生装置から予め設定された電気刺激バルスを印加する。これにより、電極部12から放出された電気刺激エネルギーが血管壁越しに迷走神経に伝達され、間接的に電気刺激されて治療が行われる。
治療が終了した等により電極組立体1を抜去する際は、再びスタイレット20を本体11に対して前進させ、付勢部材31、32を第二の形状に変形させる。これにより、付勢部30が血管の内壁に引っかかることなく、スムーズに電極組立体1を抜去することができる。
【0025】
以上説明したように、本発明の電極組立体1によれば、電極部12が設けられた本体部10とは別に、電極部12を血管壁に密着するように付勢する付勢部30を備えるため、電極部12の電極をより確実に血管壁に接触させて血管壁越しの電気刺激を好適に行うことができる。
【0026】
また、付勢部30の付勢部材31、32は、第一の端部が本体11に固定され、第二の端部がスタイレット20に固定されているため、本体11に対してスタイレット20を進退させることにより第一の端部と第二の端部との距離を変化させて、上述した第一の形状および第二の形状に可逆的に変形させることができる。したがって、留置および抜去の動作時に付勢部が血管の内壁と干渉しにくく、留置および抜去をスムーズに行うことができる。
【0027】
さらに、本体11とスタイレット20との相対位置を調節することにより、付勢部材31、32の第一の形状の曲率半径を微調節することができる。これにより、留置部位の血管径に鑑みて最適な曲率半径に調節することができ、血管への負荷を抑えつつ、留置中の電極組立体1の確実な保持を行うことができる。
【0028】
次に、本発明の第二実施形態について、図4から図9を参照して説明する。本実施形態の電極組立体41と上述の電極組立体1との異なるところは、付勢部材の取付態様である。なお、以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0029】
図4は、電極組立体41の先端側を示す拡大斜視図である。電極組立体41は、管状の本体42が進退可能に挿通される管状のシース(形状調節部材)43を備えている。本体42およびシース43は、本体11と同様の材料で形成することができる。本体42に挿通口はなく、スタイレット20は本体42の基端側の開口(不図示)から挿入され、スタイレット20の先端は本体42の先端部に固定されている。
スタイレット20を本体42の基端開口から挿入しているため、図4に示すように、シース43は基端側に2つの開口を有し、コネクタ13は、スタイレット20の軸線からオフセットした位置に設けられている。
【0030】
付勢部材31、32の先端部31a、32aは、固定部材44により本体42の先端部に固定されている。付勢部材31、32の基端部31b、32bは、固定部材45によりシース43に固定されている。すなわち、本実施形態では、第一の端部と第二の端部の位置関係が第一実施形態と逆転しており、先端部が第一の端部に相当し、基端部が第二の端部に相当する。各端部の固定位置は、電極部12がシース43外に露出した状態において、付勢部材31、32が第一の形状となるように設定されている。
【0031】
上記のように構成された電極組立体41においては、スタイレット20(不図示)を介して本体42をシース43に対して進退させることで、付勢部材31、32を第一の形状と第二の形状とに可逆的に変形させることができる。
【0032】
本実施形態の電極組立体41においては、本体42をシース43に対して進退させることで、付勢部材31、32の先端部と基端部との距離を変化させることができる。これにより、第一実施形態の電極組立体1同様、留置時における電極面の血管壁への密着と、スムーズな留置および抜去とを両立させることができる。
【0033】
本実施形態の電極組立体は、各構成を変更することにより様々な変形例とすることができる。
図5に示す変形例の電極組立体41Aでは、付勢部材の形状が異なっている。上述の付勢部材31、32では、第一の形状であるときに、第一の端部と第二の端部との間に1つの湾曲点が存在していたが、この変形例における付勢部材46、47は、第一の形状であるときに、第一の端部と第二の端部との間に2つの湾曲点を有している。すなわち、一方の付勢部材46では、先端側の湾曲点46aにより、本体42の先端側から電極部12を上に見たときに左側に突出する第一付勢部46Aが形成され、基端側の湾曲点46bにより、本体42の先端側から電極部12を上に見たときに右側に突出する第二付勢部46Bが形成されている。同様に、他方の付勢部材47も、先端側の湾曲点47aおよび基端側の湾曲点47bを有するが、第一付勢部47Aおよび第二付勢部47Bは、付勢部材46と反対の方向に突出している。そして、付勢部材46と付勢部材47とは、中間部で交差している。
これにより、電極部12を付勢する円弧状の領域と血管壁との接触面積を増加させることができ、より確実に電極部12を血管壁に密着させることができる。
なお、この変形例では、付勢部材の第一の形状を安定させるために、付勢部材46、47が交差する部位を、溶接や接着等により固定してもよい。
【0034】
図6に示す変形例の電極組立体51では、さらにシースが二重になっており、付勢部材が二対取り付けられている。
シース52は、より大径の第二シース53に進退可能に挿通されている。シース52の先端側は縮径されて内径が小さくされている。シース52に挿通された本体54は、先端部54Aがテーパー状に拡径されており、シース52内に進入できなくなっている。また、電極部12より基端側にも拡径部54Bを有し、拡径部54Bは、シース52の先端から突出することができない。
付勢部材46、47の基端部を固定する固定部材55は、先端側が拡径されており、第二シース53内に完全に進入しないようになっている。二組目の付勢部材56、57は、先端部が固定部材55によりシース52に固定され、基端部が固定部材58により第二シース53に固定されている。付勢部材56、57により、電極面の血管壁への付勢を補助する補助付勢部が形成されている。
【0035】
電極組立体51では、スタイレット20(不図示)を介して本体54を前進させると、まず本体54がシース52に対し前進して拡径部54Bとシース52の先端部とが接触し、その後本体54とシース52とが一体となって第二シース53に対して前進する。これにより、二対の付勢部材を第二の形状に変形させることができる。
本体54を後退させると、まず本体54がシース52に対し後退して先端部54Aとシース52の先端部とが接触し、その後本体54とシース52とが一体となって第二シース53に対して後退する。これにより、二対の付勢部材が第一の形状に復帰することができる。また、先端側が拡径された固定部材55によりシース52の過剰な後退が防止される。
このように、シースが二重構造であっても、スタイレットを介した本体の進退操作だけですべてのシースを進退させて二対の付勢部材の形状を調節することが可能である。また、本体54の先端部54Aはテーパー状に拡径されているため、血流を阻害しにくく、留置中の血栓の発生を抑えることができる。
【0036】
本変形例においてはシースが3重以上に構成されてもよいし、付勢部材が3対以上設けられてもよい。ただし、シースや付勢部材の数が多すぎると、付勢部のスムーズな変形操作が困難となる点に注意する。
また、図7に示すように、テーパー状の先端部54Aや固定部材55に代えて、径方向外側に向かって延びる係合突起59を本体54やシース52に設けて本体とシースとを一体に進退させる構造を実現してもよい。
【0037】
図8に示す変形例は、短い間隔で多数回湾曲された波状構造を有する一対の付勢部材60、61を含む付勢部62を備える例である。付勢部62において、電極部12を血管壁に向かって付勢するための円弧状領域を形成するための大きな湾曲態様は、概ね付勢部30と同様である。このようにすると、付勢部材が血管壁に対して滑りにくくなり、より安定して電極部を保持することができる。波状構造に代えて、コイル状構造を有する付勢部材を用いても同様の効果を得ることができるが、波状構造やコイル状構造を構成する単位構造の大きさが大きすぎると、血栓形成を惹起する可能性があるため、注意する。また、波状構造の折返し点は、鋭利になりすぎないよう、曲線状に形成されるのが好ましい。
【0038】
図9に示す変形例は、付勢部の一部が面状に形成された例である。付勢部63は、円筒を軸線に平行に割ったハーフパイプ状の接触部64と、接触部64と本体42およびシース43とを接続、可逆的に変形可能な可撓性部材65とを備えている。接触部64は本体11と同様の材料で形成することができる。この変形例では、付勢部63全体が、付勢部材として機能する。
この変形例では、本体42をシース43に対して前進させると、可撓性部材65が本体42に沿うように変形し、図9(a)に示す第一の形状から図9(b)に示す第二の形状に変形する。接触部64は、線状の付勢部材に比して血管壁との接触面積が大きく、より安定して電極部を保持することができる。
【0039】
第二実施形態においては、本体にスタイレットが挿入され、スタイレットの操作を介して本体がシースに対して進退される例を説明したが、本体を、スタイレットと同程度の剛性を有する絶縁性材料で形成することにより、スタイレットを備えない構成とすることも可能である。
【0040】
次に、本発明の第三実施形態について、図10から図13を参照して説明する。本実施形態の電極組立体71と上述の電極組立体との異なるところは、付勢部材を直接操作して形状を変化させる点である。
【0041】
図10は、電極組立体71を示す斜視図である。本体72は、本体11と概ね同様の管状構造を有し、外周面に電極部12が設けられている。本体72の先端部には、付勢部材75が挿通される挿通口73A、73Bが形成されている。2箇所の挿通口73A、73Bは、本体72の長手方向において略同一位置となるように、本体72の外周面の周方向に並べて設けられている。本体72の基端側には、付勢部材75の端部を本体外に露出させるための開口74A、74Bが設けられている。
【0042】
付勢部材75は、付勢部材31等と同様の材料で形成されているが、付勢部材31等よりも長く、両端部がそれぞれ開口74A、74Bから突出している。付勢部材75の中間部は、本体72の内腔を通って本体に沿うように配置され、一方の挿通口73Aから本体外に出て、他方の挿通口73Bから再び本体72の内腔に入っている。付勢部材75の中間部のうち、本体外に露出した一部の部位(以下、「露出領域」と称する。)は、本体72の周方向において、本体72の軸線を挟んで電極面12Aが露出した部位と対向している。
【0043】
上記のように構成された電極組立体71を血管内に留置する際は、術者は露出領域が本体72の外周面に沿う程度まで付勢部材75の端部を引くと、付勢部材75が第二の形状となり、管状部材への導入や留置位置までのデリバリーをスムーズに行うことができる。
電極部12が留置位置に到達したら、術者は付勢部材75の端部を先端側に前進させて押し込む。このとき、一方の端部を固定しながら他方の端部を押し込んでもよいし、両方の端部を押し込んでもよい。すると、図11に示すように、露出領域の長さが増加し、本体72の軸線を挟んで電極面12Aと対向する位置に付勢部材75からなるループ76が形成される。これにより、露出領域は本体72の軸線方向に見て血管の内壁に沿う略円形となり、電極面が血管壁に接触するように付勢する第一の形状となる。
ループ76の径は、付勢部材端部の押し込み量を増減することにより調節可能であり、術者は留置部位の平常時における血管径より若干大きくなる程度にループ76の径を調節する。ループ径の調節後、術者はクリップ等により付勢部材75の両端部を本体72に対して固定し、調節されたループ76の一部が留置中に本体72の内腔に移動することを防止する。
【0044】
本実施形態の電極組立体71においては、付勢部材75の端部を本体72に対して後退させると、露出領域が本体72の外周面に沿う第二の形状になり、端部を本体72に対して前進させると、露出領域がループ76を形成し、留置に適した第一の形状となる。したがって、付勢部材を第一の形状と第二の形状とに可逆的に変形させることで、スムーズな導入・デリバリーと、確実な留置とを両立させることができる。
【0045】
また、付勢部材75の端部の前進量を調節することによりループ76の径を調節することができるので、留置する血管の部位等に応じてループ76の径を最適な大きさに設定して血管等に対する負荷を抑えつつ、確実に留置することができる。
【0046】
本実施形態の電極組立体において、ループの形状は、電極面が血管壁に好適に接触するよう付勢できるものであれば、図11に示したものの他にも様々な形状を取ることができる。
例えば、図12に示す変形例のように、露出領域が本体72の軸線と直交する方向に延びず、かつ互いに交差するように複数組設けられてもよい。このような構成であっても、付勢部材75の両端部を本体72に対して前進させることで、図13に示すような複数のループ77が形成され、電極面(不図示)を血管壁に向かって好適に付勢して接触させることができる。この他にもループの個数、形状、およびこれらを規定する挿通口の位置および個数等は、電極面を留置部位の血管壁に好適に接触させるという目的に鑑みて、適宜設定することが可能である。
本変形例においては、交差するループが異なる付勢部材で形成されるように2本の付勢部材を有し、これら付勢部材の一方の端部を本体の先端部に固定しておいてもよい。
【0047】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0048】
例えば、図14に示す変形例のように、付勢部材31、32にX線透視下において良好に視認可能なマーカー77が取り付けられてもよい。X線透視下で本発明の電極組立体を留置する場合、電極部や付勢部材が手前を向いているか奥に向いているのかの判断は容易ではないが、マーカー77を取り付けることで、術者の混乱を防ぎ、より短時間で安全な留置を行うことができる。マーカー77の材質としては、金や白金等の貴金属を好適に用いることができる。また、マーカー77を、付勢部材に代えて電極部の近傍に設けることで、電極面の向きを容易に判断できるようにすることも可能である。
【0049】
また、上述の第一および第二実施形態においては、本体と形状調節部材とが、一方が他方に進退可能に挿通された例を説明したが、これに代えて、本体と形状調節部材とが並走するように配置されてもよい。この場合は、本体および形状調節部材の一方にガイドを設け、他方を当該ガイドに挿通することで、他方を一方に沿って好適に進退させることができる。
同様に、第三実施形態のように付勢部材を直接進退させる場合は、本体にガイドを設け、付勢部材をガイドに挿通することにより、本体に挿通せずに本体に沿って付勢部材を配置することも可能である。この場合、本体は管状に形成されなくてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1、41、51、71 電気刺激電極組立体
11、42、54、72 本体
12 電極部
12A 電極面
20 スタイレット(形状調節部材)
31、32、46、47、60、61、75 付勢部材
31a、32a 先端部(第二の端部)
31b、32b 基端部(第一の端部)
43、52 シース(形状調節部材)
46a、47a 先端部(第一の端部)
46b、47b 基端部(第二の端部)
63 付勢部(付勢部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内に留置される電気刺激電極組立体であって、
電極面を露出させた電極部が外周面に設けられた絶縁性の本体と、
弾性体からなり、長手方向における第一の端部が前記本体に固定された付勢部材と、
前記付勢部材の第二の端部が固定された形状調節部材と、
を備え、
前記本体と前記形状調節部材との相対位置を調節することにより、前記付勢部材を、
前記本体の軸線方向に見て前記血管の内壁に沿い、前記電極面が前記内壁に接触するよう付勢する第一の形状と、
前記本体の長手方向に沿う第二の形状と、
に可逆的に変形可能であることを特徴とする電気刺激電極組立体。
【請求項2】
前記本体は、内腔を有する管状に形成されており、前記形状調節部材は、前記内腔に進退可能に挿通されていることを特徴とする請求項1に記載の電気刺激電極組立体。
【請求項3】
前記形状調節部材は、前記本体が進退可能に挿通されたシースであることを特徴とする請求項1に記載の電気刺激電極組立体。
【請求項4】
血管内に留置される電気刺激電極組立体であって、
電極面を露出させた電極部が外周面に設けられた絶縁性の本体と、
弾性体からなり、少なくとも一部が前記本体外に位置する露出領域となるように、前記本体に沿って配置された付勢部材と、
を備え、
前記付勢部材の端部を前記本体に対して進退させることにより、前記露出領域を、
前記本体の軸線方向に見て前記血管の内壁に沿い、前記電極面が前記内壁に接触するよう付勢する第一の形状と、
前記本体の外周面に沿う第二の形状と、
に可逆的に変形可能であることを特徴とする電気刺激電極組立体。
【請求項5】
前記電極部および前記付勢部材の少なくとも一方にX線透視下で視認可能なマーカーが取り付けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電気刺激電極組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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