説明

電気加熱装置

【課題】自動車用加熱装置の電力を指定された電力に一致させる。
【解決手段】設定値と実効値との比較に基づく再調整によって、動作条件が絶え間なく変化する中で、電力を指定された要求電力に補正する。この目的のため、加熱装置を流れる全電流を、例えばホールセンサによって測定し、規定の車内電圧を乗じることによって、瞬間的な消費電力(実効値)を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の電気加熱装置に関する。詳細には、本発明は、車室の暖房および空調のための十分な廃熱が駆動装置によって発生しない自動車に特に適する電気加熱装置、に関する。例えば、電気駆動車あるいはハイブリッド駆動車の場合である。
【背景技術】
【0002】
このような加熱装置は、自動車の室内に必要な熱を提供するのみならず、自動車の個々のシステム部分において実行されるプロセスのための熱を利用可能にする、または、少なくとも、例えば車両の二次電池を予熱するための必要な熱を提供するうえで適したものでなければならない。
【0003】
最新の技術として、いわゆる抵抗加熱素子またはPTC(正温度係数)加熱素子をこの目的に使用できることが知られている。これらは自己制御型であり、なぜなら、加熱が進むにつれて抵抗が大きくなり、同じ電圧に対して流れることのできる電流量が小さくなるためである。したがって、PTC加熱素子の自己制御特性により、過熱が防止される。
【0004】
したがって、PTC加熱素子は、上記のタイプの車両(すなわち車室の空調あるいは暖房のための十分な廃熱が駆動装置によって発生しない車両)の車室を暖めるために特に使用されるラジエータにおいて、しばしば使用される。ハイブリッド車の場合、(例えば信号での停止時や渋滞時に)内燃エンジンが動作していないとき、PTC加熱装置を補助ヒータとして使用することもできる。
【0005】
車室内の空気は、PTC抵抗加熱素子を利用して直接的に加熱される(温風ヒータ)、または、ラジエータ内を温水が流れる温水回路を介して間接的に加熱される(温水暖房)。いずれの場合も、流れる流体(すなわち液体媒体または気体媒体、好ましくは水または空気)が、加熱素子によって直接加熱される。
【0006】
複数の加熱素子を備えた、自動車用の電気PTCヒータの例は、特許文献1から知られている。1つの加熱素子の加熱電力をPWM制御によって連続的に調整できるが、それ以外のすべての加熱素子については、完全に2値的にオン/オフを切り替えるのみである。
【0007】
自動車の加熱装置の場合、周囲条件および動作条件(特に、車内電圧(on-board electrical voltage)と、流体の温度および流速)が絶え間なく変化する中で、電気加熱装置の加熱電力を、指定された電力にできる限り正確に一致させることが望ましい。
【0008】
この点において、PTC抵抗加熱素子を使用する場合、自動車の高電圧範囲(すなわち数百ボルトの範囲)ではPTCの挙動が周囲条件および動作条件に大きく依存するという問題が存在する。この問題は、特に電気駆動装置を備えた車両に関連し、なぜなら、そのような車両では車内電圧が500ボルトにも達するためであり、これは自動車の電圧としては高電圧範囲に入る。
【0009】
公称条件(一定の車内電圧と、例えば、温風ヒータの場合の特定の流速での空気温度0℃)のみに基づき、低電圧(自動車の低電圧範囲、例えば約12Vあるいは約24V)において有用に機能するコントローラは、自動車の高電圧範囲において要求電力に正確に対応するには不適切である。
【0010】
特に高電圧範囲では、車内電圧Uの変動が大きく影響する。12Vの車載電源システム(on-board supply systems)では、電圧の変動(例えば最大で12.5V)は、加熱電力に対して小さく影響するにすぎない。電力P=U×Iを左右するのは、本質的には電流Iである(自動車の高電圧範囲におけるよりも影響度が相当に高い)である。しかしながら、例えば350Vあるいは400Vの車載電源システムでは、状況は異なる。低電流Iにおいて、この範囲では通常である±50V程度の電圧変動は、得られる加熱電力に大きく影響する。さらには、PTC加熱素子に使用される材料(例えば、チタン酸バリウムをベースとするセラミックに類似する材料)の場合、自動車の高電圧範囲においては半導体効果(semiconductor effect)が存在し、抵抗は温度のみならず電圧にも依存する。
【0011】
PTCの抵抗は温度に強く依存するため、電気加熱装置の制御においては、周囲温度(流れる媒体の温度)および流速の変化あるいは変動も考慮しなければならず、なぜなら、これらのパラメータは熱の発生、したがってヒータ素子の動作温度に決定的に影響するためである。
【0012】
したがって、PTCベースの加熱装置のための電力コントローラであって、自動車の高電圧範囲において正確に動作するコントローラは、変化する周囲温度および動作条件に対応して補正する機能が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】独国特許第19845401号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、自動車用の電気加熱装置と、電気加熱装置の制御方法であって、周囲条件および動作条件が変化する中でも、加熱電力を指定された要求電力に補正することができ、補正された状態を経時的に維持できる制御方法、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、請求項1の特徴を備えた電気加熱装置と、請求項14の特徴を備えた方法とによって解決される。
【0016】
本発明の第1の態様によると、特に、電気推進装置を備えた自動車用の電気加熱装置を提供する。この加熱装置は、加熱装置を流れる電流によって加熱電力を調整する制御装置、を備えている。この加熱装置は、さらに、全加熱電流を測定する装置、を備えている。さらには、この加熱装置は、瞬間的な加熱電力を、測定された全加熱電流と、自動車の車内電圧とから計算する計算装置、を有する。制御装置によって調整される加熱電力を、瞬間的な加熱電力および設定値に基づいて再調整する。
【0017】
本発明の第2の態様によると、自動車用の電気加熱装置を制御する方法であって、加熱装置を流れる電流によって加熱電力が調整される、方法、を提供する。この方法は、全加熱電流を測定するステップ、をさらに含んでいる。さらに、この方法は、測定された全加熱電流と、自動車の車内電圧とから、瞬間的な加熱電力を計算するステップと、調整される加熱電力を瞬間的な加熱電力および設定値に基づいて再調整するステップと、を含んでいる。
【0018】
本発明の具体的な方法は、自動車の加熱装置の加熱電力として、例えば周囲パラメータおよび動作パラメータの定義済みの公称条件に基づいて予備的に調整された加熱電力を、それに続く閉ループ制御回路において、指定された要求電力に補正することである。この目的のため、全加熱電流を絶え間なく測定する。加熱装置の瞬間的な加熱電力を、全加熱電流と車内電圧とに基づいて求める。設定値からの瞬間的な加熱電力の逸脱量に基づいて、再調整を行う。したがって、本発明によると、周囲条件が変化し、ヒータ素子の特性が非線形であっても、指定された要求電力をできる限り正確に継続的に満たすことができるように、電気加熱装置が制御される。
【0019】
全加熱電流の測定には、ホールセンサを使用することが好ましい。これにより、単純で費用効果が高く安定的な電流測定が確保され、電磁環境適合性(EMC)に関連する問題が回避される。これと比較して、自動車の高電圧範囲において分路を使用して電流を測定する方法では、大きな干渉が生じ、実用的な測定は不可能である。車内電圧が、自動車の高電圧範囲の数百ボルトである自動車の加熱装置の場合、低電圧範囲にある制御回路にホールセンサが直接組み込まれる。したがって、高電圧範囲で使用される電流測定値は、低電圧範囲における処理用にただちに利用可能である。さらには、低電圧の制御回路と、高電圧範囲にある負荷回路との間の所定の絶縁が維持されている。
【0020】
好ましい実施形態によると、本加熱装置は、設定値からの瞬間的な加熱電力の逸脱量を求めるための比較器、をさらに備えている。再調整は、設定値からの瞬間的な加熱電力の逸脱量が最小であるように、この比較器をベースに行われる。
【0021】
加熱装置は、連続的または小さいステップ間隔で調整できる少なくとも1つの加熱素子を有する電気加熱ステージを備えていることが好ましい。
【0022】
好ましい実施形態によると、本電気加熱装置は、それぞれが少なくとも1つのヒータ素子を備えている1つまたは複数のさらなる電気加熱ステージ、をさらに備えている。これらのさらなる電気加熱ステージは、それぞれ、0と最大電力との間でのみ切り替えることのできる、いわゆる2値加熱ステージ(binary heating stage)であることが好ましい。各加熱素子の加熱電力は、加熱ステージの電流(加熱素子を流れる電流)を通じて、制御装置によって個別に調整することができる。このような制御コンセプトにより、2値加熱ステージを使用してより大きな電力段を制御する複合型の制御が達成される。小さい方の加熱ステージは、微調整のみを目的として連続的または小さいステップ間隔で(準連続的に)切り替えられる。このようにすることで、高電圧範囲において、加熱回路の単純な制御によって(例えばPWM信号によって)、例えばEMC(電磁環境適合性)エミッションあるいはワイヤバウンド干渉(wirebound interference)に起因する重大な干渉の発生が回避される。
【0023】
制御装置によるさらなる加熱ステージの切り替えを使用して、消費電力を設定値に補正できることが好ましい。
【0024】
好ましい実施形態によると、本加熱装置は、車内電圧が規定の固定値として格納されている不揮発性メモリ、を有する。この不揮発性メモリは、プログラマブルな読み取り専用メモリ、好ましくはEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)であることがさらに好ましい。EEPROMには、ソフトウェアまたはファームウェアにおいて車内電圧が保存される。
【0025】
好ましい代替実施形態によると、車内電圧は、メッセージとして自動車の通信インタフェースを介して加熱装置に伝えられる。通信インタフェースは、車載バス(例えば、CAN(コントローラエリアネットワーク)バスあるいはLIN(ローカル相互接続ネットワーク)バス)であることが好ましい。
【0026】
さらなる好ましい代替実施形態によると、車内電圧は、加熱装置において直接測定される。この測定は、回路基板上で、すなわち高電圧側で行われることが好ましい。測定は、1回のみ、または所定の間隔で行うことができる。
【0027】
さらなる好ましい実施形態においては、第1の加熱ステージの加熱電力は、加熱素子を流れる電流の変調によって小さいステップ間隔で調整することができる。「小さいステップ間隔で」とは、複数のステップにおいて段階的に調整できることを意味し、この場合、ステップの数は、最初のステップにおける電力差が、加熱ステージの達成可能な全電力と比較して小さくなるように選択する。この目的のため、割当てテーブルが不揮発性メモリに格納されていることが好ましい。さらには、この不揮発性メモリは、好ましい実施形態によると、車内電圧が固定値として格納されている不揮発性メモリに統合されていることが好ましい。これに関して、特に、EEPROMまたは他のプログラマブルな読み取り専用メモリを使用することができる。しかしながら、割当てテーブル用に、このタイプの不揮発性メモリを個別に設けることも可能である。その場合、車内電圧を別の方法で利用できるようにすることもできる。
【0028】
割当てテーブルにおいては、複数の規定の電力段(公称定格電力)のそれぞれに、規定の公称車内電圧下で加熱素子を制御するための対応する時間長が割り当てられている。好ましい実施形態の例によると、第1の加熱ステージの全電力は、500〜999Wの範囲内(例:750W)である。しかしながら、例えば1000W以上も可能である。この実施形態の例においては、規定の電力段の数は、5〜9個の範囲(例:7または8個)である。制御装置は、小さいステップ間隔で調整可能な加熱ステージの加熱電力を調整する。この調整は、対応する時間長を不揮発性メモリから取得し、加熱ステージを流れる電流を、指定されている固定のサイクルフレームのうちその時間長だけオンに切り替える(通電する)ことによる。したがって、PWM(パルス幅変調)のコンセプトで動作するコントローラが使用される。好ましい実施形態によると、対応する時間長(例えばミリ秒単位)は、指定されているサイクルフレーム(固定のサイクルフレーム)内の値として割当てテーブルに直接格納されている。サイクルフレームとは、電流の通電状態および非通電状態の変更を周期的に繰り返すための持続時間(期間)である。あるいは、従来のパルス幅変調と同様に、デューティ比(%)を格納することも可能である。デューティ比(マーク/スペース比)は、サイクルフレームのうち電流がオンに切り替えられている(電流が通電される)持続時間の割合を指定する。
【0029】
自動車の高電圧範囲におけるPTC加熱素子のように、発生する電力がマーク/スペース比に対して非線形的に増大する加熱素子においては、上述したように、割当てテーブルを利用する修正されたPWMを使用して制御する方法は、特に適している。この場合、マーク/スペース比と電力との関係が単一の比例係数値によって与えられる単純な線形電力制御は、不可能である。したがって、さらなる好ましい実施形態によると、割当てテーブルを使用し、割当てテーブルにおいては、電力段の電力値と、対応する時間長との間の関係が非線形である。これにより、加熱素子の非線形性が、区間ごとの線形直線として表現される。
【0030】
最初の方で説明したように、本発明の好ましい実施形態は、流体を加熱する電気加熱装置に関する。この点において、自動車産業では、温風ヒータおよび温水ヒータが好まれる。
【0031】
車内電圧は、自動車の高電圧範囲、特に、200V〜500Vの範囲内であることが好ましい。例えば、電気推進装置を備えた車両の場合、車内電圧は、通常では約300V〜350Vである。
【0032】
好ましい実施形態によると、加熱素子は、PTC(正温度係数)加熱素子である。
【0033】
さらには、再調整は、好ましい実施形態によると、マイクロコントローラを備えている閉ループ制御装置を利用して実施される。この好ましい実施形態によると、閉ループ制御は、低電圧側のマイクロコントローラにおいて実現されている。
【0034】
本発明のさらなる有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0035】
以下では、本発明について、添付の図面に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】自動車の高電圧範囲のための温風ヒータの例を示しており、電子部品を内蔵している。
【図2】電子部品を内蔵した高電圧温風ヒータの回路基板の概略的な構造を示しており、電子制御手段および電力スイッチが取り付けられている。
【図3】本発明の実施形態による電気加熱装置の概略的な基本構造を示している。
【図4】本発明の実施形態による電気加熱装置の構造のさらなる細部を示している。
【図5】本発明の実施形態による、第1の加熱ステージを制御するための割当てテーブルの例を示している。
【図6】PWM/2値による複合型の小さいステップ間隔での電力制御/電力調整の例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、好ましくは温風ヒータまたは温水ヒータとして形成することのできる、自動車用の調整可能な電気ヒータに関する。
【0038】
図1は、本発明による加熱装置100の例の外側構造を示している。この図は、電子部品を内蔵した、自動車の高電圧範囲のための温風ヒータを一例として示している。個々の加熱素子は、図面の右側のハウジングフレームに組み込まれている。内蔵された電子制御手段は、左側の端子ボックスの中に位置している。
【0039】
電子部品の外側構造の細部は、図2に示してある。図2は、サンドイッチ形状における電子手段のモジュール構造を示しており、さまざまなモジュールが回路基板210を介して相互に接続されている。さまざまなモジュールとは、特に、電子制御手段220および電力スイッチ230である。電子制御手段220は、本発明による開ループ制御および閉ループ制御のための構成要素を備えている。特に、本発明による制御装置の構成部品としての電力スイッチ230を使用して、加熱ステージの加熱素子を流れる制御下の電流のオン/オフを切り替えることによって加熱電力を直接調整する。加熱素子それぞれに電力スイッチが割り当てられている。例示的な実施形態による電子手段の構造のさらなる細部については、後から図4を参照しながら説明する。
【0040】
図3は、本発明による加熱装置の概略構造の例を示している。図示した例では、加熱装置は4つの加熱ステージ1〜4を備えている。これら4つの加熱ステージは、第1の加熱ステージ330と、(図示した例においては3つの)さらなる加熱ステージ335とを備えている。本発明によると、第1の加熱ステージ330は、連続的または小さいステップ間隔で(準連続的に)制御することができる。他の加熱ステージ335は2値制御型の加熱ステージであり、これらの電力は、0と最大値との間で切り替えることができるのみである。一連の電力スイッチ320は、加熱ステージの直接的な制御を提供する。これらの電力スイッチはそれぞれ加熱ステージの1つに割り当てられている。電力スイッチを制御するため、好ましい実施形態によるとマイクロコントローラとして実施されている電子制御手段310が採用されている。
【0041】
この場合、加熱電力の最初の調整は、動作パラメータおよび周囲パラメータの公称条件を想定して、要求電力に従って行うことができる。製造業者によって設定される公称条件の例として、車内電圧が例えば350Vであり、温風ヒータの場合に空気温度が0℃であると想定する。さらに、公称条件は、規定の流速も含んでいる(例えば、空気の流速300kg/時、または液体媒体の10L/分)。指定された要求電力を公称条件下で満たすために必要な制御パラメータは、製造業者が設定する。この設定は、例えば、EEPROM内のファームウェアまたはソフトウェアの形で行うことができる。
【0042】
動作条件と、変化する周囲条件とに対する補正として、最初のステップで設定された電力(公称値)を、再調整によって正確な要求電力に合わせる。この目的のため、電子制御手段310に閉ループ制御装置が組み込まれており、これにより、制御装置によって設定された加熱電力を再調整するための閉ループ制御回路が形成される。あるいは、本発明の範囲内で、閉ループ制御装置を個別のハードウェアとして設けることも可能である。閉ループ制御装置は、再調整のため、車内電圧350の値と、加熱装置によって消費される電力の指定された設定値370と、全加熱電流360の測定値とを必要とする。全加熱電流は、電流の変調(例:PWM)によって制御される加熱ステージの電流の値として、1つまたは複数のサイクルフレーム全体にわたり平均した値を含んでいる。この平均計算は、マイクロコントローラ内のソフトウェアによって行うことができる。
【0043】
車内電圧350は、さまざまな方法で利用可能にすることができる。
【0044】
好ましい実施形態によると、車内電圧は、固定値として例えばEEPROMに格納することができる。この点において、車内電圧として、あらかじめ設定された公称値を使用する。このタイプの実施形態は、特に高い費用効果で実施することができる。しかしながら、欠点として、動作時に車内電圧と公称値との間の逸脱量が考慮されないため、加熱電力の瞬間的な実効値を正確に求めることができない。
【0045】
これに代えて、車両における車内電圧350を、加熱装置の回路基板上で直接測定することができる。したがって、動作時に車内電圧が変化するたびに、現在の値を極めて迅速に提供できるため、上述した実施形態の欠点を排除することができる。しかしながら、この実施形態の欠点として、そのための電圧測定装置がヒータに設けられるため、コストが増大する。
【0046】
さらなる代替形態として、自動車の車載ネットワークからメッセージとして車載バスを介して提供することが可能である。車内電圧350は、車両において絶え間なく取得され、車載電源システムを介して利用可能である。この実施形態は妥協的な形態であり、直接測定するよりも経済的であるが、変化が考慮されるまでに時間がかかる。この実施形態では、車内電圧350の更新値は200〜300ミリ秒(ms)ごとにのみ利用できる。
【0047】
閉ループ制御装置310は、要求される加熱電力370を、例えば車両の車載ネットワークから車載バス(例えばLINバスまたはCANデータバス)を介して受け取る。これらの要求電力は、例えば、車載電源システムのその時点で利用可能なパワーリザーブ(power reserve)ができる限り完全に利用されるように、自動的に定義することができる。要求電力は、空調装置の操作パネルを介して運転者が指定することもできる。
【0048】
あるいは、要求電力370の代わりに所望の温度を指定することも可能である。この温度は、例えば、車両の特定の部分の温度(例えば、室内の温度、あるいは流れる媒体の温度)である。要求温度220は、電子制御手段220によって要求電力370に変換される。
【0049】
最初に、車内電圧350および全加熱電流360を利用して、消費電力(実効値)を求める。この目的のため、測定された電流360(必要であれば時間的に適切に平均した、例えば1つまたは複数のサイクルフレーム全体にわたり平均した電流)に、車内電圧を乗じる。全加熱電力の実効値は、次の等式によって与えられる。
P=U×I
【0050】
この等式によると、ある構成要素によって消費される電力P(この場合、加熱装置100の加熱ステージの合計)は、構成要素に印加される電圧Uと、構成要素を流れる全電流Iの積に等しい。次いで、このようにして求めた加熱装置100の瞬間的な全電力の実効値を、閉ループ制御装置に実施されている比較器によって、指定された要求電力(設定値)と比較する。この比較に基づいて、制御装置が起動し、加熱電力の設定を適切に調整することによって消費電力を補正する。好ましい実施形態においては、設定される新しい加熱電力(公称値)は、前の段階で設定された公称値に、設定値の逸脱量を加えた、または減じた値である。この補正は、まず最初に、第1の加熱ステージ330を連続的または準連続的に設定することによって行われる。さらに、加熱電力の補正調整において、さらなる2値加熱ステージ335のオン/オフを必要に応じて切り替えることができる。
【0051】
このようにすることで、閉ループ制御回路における再調整において、加熱電力の規定の公称値が絶え間なく補正される。ここに説明したコンセプトによって、ヒータには、つねに設定値に近づくように電力の再調整が行われる。さらには、再調整を利用することで、時間とともに変化する要求電力を適切に定義することにより、車両内で利用可能な最大のパワーリザーブがつねに使用されるようにすることもできる。
【0052】
図4は、本発明による制御可能な加熱装置の主たる要素を詳しく示している。図4に示した実施形態によると、この加熱装置は、自動車の高電圧範囲420の電源電圧を有する負荷回路と、低電圧範囲430の動作電圧を有する制御回路とを備えている。両方の範囲は、互いに電気的に確実に絶縁されていなければならない(基本絶縁)。特に、プリント基板440上の高電圧および低電圧は、互いに絶縁されている。電流の測定(加熱装置を流れる全電流の測定)は、この場合には特に単純な方式であり、電気絶縁に影響を及ぼすことなく、ホールセンサ400を利用して電磁手段によって行われる(間接的な電流測定)。
【0053】
マイクロコントローラ310は、測定値と、システム内で指定されている固定値(例えば、車内電圧、あるいはPWMによる第1の加熱ステージの準連続的な電力制御のための割当てテーブル)とを処理する。EEPROM410は、このタイプのシステムパラメータのための記憶装置として一例として示したものである。この実施形態においては、加熱ステージ330,335(それぞれPTC加熱素子として表してある)それぞれに対する制御素子のグループ320は、個別に制御可能な電力スイッチを備えており、これら電力スイッチは、好ましくはIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)電力スイッチとして具体化されている。高電圧範囲において動作するIGBT電力スイッチは、IGBTドライバによって制御され、IGBTドライバは、低電圧側のマイクロコントローラ310から制御信号を受け取る。すべてのIGBTドライバおよびIGBTスイッチングトランジスタを有するスイッチグループ320は、共通のハウジングに収容されていることが好ましい。
【0054】
以下では、本発明による例示的な開ループ制御および閉ループ制御のコンセプトについて、詳しく説明する。小さいステップ間隔で(準連続的に)制御可能な加熱ステージの電力を制御するための特殊な例示的な実施形態について、図5に示した割当てテーブル500を参照しながら説明する。
【0055】
制御は、主としてPWM(パルス幅変調)に基づく方法を使用して行われるが、特に、非線形特性を有する加熱素子(例えばPTC素子)の使用を容易にするために修正されている。図5の例において、最大電力750Wは、第1の加熱ステージをオンに切り替えたままにすることによって達成される(図6のステージ1(最大750W)を参照)。すなわち、制御の時間長は、サイクルフレームの長さ、言い換えれば100%のマーク/スペース比(デューティ比)に等しい。あるいは、第1の加熱ステージをオフに切り替えた状態で、750Wの電力の第2の2値加熱ステージをオンに切り替えたままにすることによっても達成できる。この制御コンセプトについては、後から図6を参照しながらさらに説明する。EEPROMには、(図5の例においては、図6のステージ1のための)8つの電力段を有する個別のマップが格納されている。
【0056】
従来のPWMでは、要求される電力に比例するマーク/スペース比が使用される。例えば、要求電力が、加熱ステージの最大消費電力の50%である場合、固定されたサイクルフレーム内で、50%のマーク/スペース比による制御が行われる。このタイプの制御(要求電力に比例するマーク/スペース比)は、電力がマーク/スペース比に線形依存する場合に用いられる。しかしながら、自動車の高電圧範囲では、この関係は成立しない。約350Vで使用されるPTC加熱素子では、一般的な例として、公称条件下で40%のマーク/スペース比によって公称電力の80%がすでに達成される。しかしながら、マーク/スペース比と公称電力との間の関係は、例えば図5に示したような、まったく異なる非線形的な値をとることもある。
【0057】
本発明に示す特殊な制御コンセプトでは、従来のPWMとは異なり、個々の電力段と、サイクルフレーム内での対応する通電時間とを、加熱装置の電子制御手段の中に固定値として格納しておく。好ましい実施形態によると、この格納は、設定する電力と、そのために要求される通電持続時間とを指定する一対の値を複数含んだテーブル(割当てテーブル)の形で行われる。
【0058】
図5は、このタイプの割当てテーブル500の単純な例を示している。左側の列510には、制御可能な個々の電力段(公称条件に対応する公称電力)が固定値として格納されている。図示したテーブル500から一例として理解できるように、この例では、加熱ステージの(通電したままによる)最大消費電力は750Wである。加熱電力を100W未満の小さいステップ間隔で(準連続的に)調整できるように、0〜750Wの範囲が8つの段に分割されている。
【0059】
テーブル500の右側の列520には、公称電力段それぞれに割り当てられている制御時間(単位:ミリ秒)が格納されている。加熱ステージの制御は、要求される電力に応じて、割り当てられている時間長だけ加熱ステージを作動させる、すなわち、その時点の車内電圧において電流の流れをオンに切り替えることによって、行われる。従来のPWMと同様に、新しいサイクルフレームにおいても通電を繰り返す。固定値として指定されているサイクルフレームの長さは、この例においては170msである。しかしながら、サイクルフレームの長さは、本発明において重要ではない。まったく異なるサイクルフレーム長さ(例えば、150msあるいは200ms)、さらには大きさのオーダーがまったく異なるサイクルフレームも、可能である。
【0060】
このようにすることで、割当てテーブルに格納される、要求される加熱電力と、サイクルフレームあたりの通電持続時間との間の関係を、必要に応じて決めることができる。したがって、特に、高電圧範囲におけるPTC加熱素子の非線形性を補正することができる。この目的のため、対応する通電時間を製造業者があらかじめ実験的に求めて、EEPROM410に格納する。公称電力と、実験的に求めた対応する通電時間は、所定の公称条件、具体的には、規定の車内電圧(例:350V)と加熱素子付近の固定の周囲温度(例:0℃)とに対応する。このように値のテーブルがあらかじめ定義されているため、このタイプの制御では、変化する動作パラメータに対する補正は行われず、特に、温度補正は行われず、これにより、実際には最大で約30%の公差につながる。準連続的な加熱ステージの電力段のこのような単純かつ安定的な制御におけるこの欠点は、本発明によると、上述したように設定値と実効値との比較に基づいて絶え間なく再調整することにより、良好な近似として補正される。なお、実際の動作では、実際の周囲条件および他の動作パラメータ(例えば、車内電圧および流速)についても、公称条件からの逸脱量が絶え間なく変化する。
【0061】
自動車の高電圧範囲での車載電源システムにおける通常の電圧変動の大きさは、100Vのオーダーである。電気自動車の公称電圧は、例えば350Vである。バッテリの充電後には車内電圧が約380Vまで上昇することがあり、放電時には約280Vまで降下しうる。車載電源システム上の公称電圧が異なる(例えば400V)電気自動車も、対応する変動が発生する。ハイブリッド車の場合、公称電圧は約288Vであり、最大車内電圧が約350V、最小電圧が約200Vである。
【0062】
本発明による閉ループ制御は、印加される実際の加熱電力が監視されるため、12Vの車載電源システムにおいても原則として使用することができる。しかしながら、12Vの車載電源システムにおける電圧変動(例えば最大で12.5V)は、加熱電力に与える影響はわずかである。本質的には、大きく影響するのは電流レベルである(自動車の高電圧範囲におけるよりも影響が相当に大きい)。
【0063】
したがって、制御装置による電力段の調整は、公称条件に対応する公称電力に基づいて行う。実際の加熱電力を電力設定値に近づける処理は、閉ループ制御回路における再調整を通じて行われる。この場合、実際の電力と電力設定値との間の、比較器によって求められる差が最小になるように、その差に従って公称電力のオン/オフを切り替える。
【0064】
さらには、上述した制御コンセプトの範囲内で、より高い全加熱電力を小さいステップ間隔で制御することも可能である。この目的のため、図3および図4を参照しながら上述したように、小さいステップ間隔で制御可能な第1の加熱ステージと、さらなる2値加熱ステージとの組合せを使用する。
【0065】
図6は、一例として、このような組合せを利用しての、0〜6000Wの間の電力値の制御を示している。合計で4つの加熱ステージが設けられている。第1の(準連続的な)加熱ステージは、この例では、最大消費電力が750Wである。2値加熱ステージの消費電力は、第2の加熱ステージが750W、第3の加熱ステージが1500W、第4の加熱ステージが3000Wである。
【0066】
0〜750Wの範囲内では、上述したような小さいステップ間隔での制御は、第1の加熱ステージのみを使用することによって可能である。それに続く750W〜1500Wの範囲(同じく750Wの範囲)内では、第2の加熱ステージが2値的にオンに切り替えられるのに対して、第1の加熱ステージは、この範囲内では上記のコンセプトに従って細かい制御を提供する。それに続く750Wの範囲(1500W〜2250W)では、同様にして、第3の加熱ステージがオンに切り替わり、第2の加熱ステージは再びオフに切り替わる。それに続く、2250W〜3000Wの範囲では、第2および第3の2値加熱ステージが同時にオンに切り替わる。3000Wからは、第4の加熱ステージがオンに切り替わったままとなり、3000W以下の範囲について上述した方法と同様に、6000Wまでの範囲全体の加熱電力を、合計で64ステップ(段階的な折れ線における「点」に対応する)による小さいステップ間隔で制御することができる。ただし、ステップの数(この例では、750Wまでの1つの加熱ステージにおける8個、8×750W=6000Wをカバーする全範囲において8×8=64個)は、説明上の一例にすぎない。好ましくは50以上のステップ、例えば50〜100のステップを使用する。しかしながら、100以上のステップ、あるいはさらに多くのステップ数(例えば約200ステップ)も可能である。使用するステップが多いほど、調整可能な加熱電力の調整単位が細かくなる。
【0067】
このタイプの制御コンセプトでは、PWMの周期的処理(cycling)が要求されるのは、電力範囲が最も小さい第1の加熱ステージのみであり、より高い電力範囲においては単純な2値制御が行われる。PWMは、微調整の閉ループ制御において使用されるのみである。このようにすることで、EMCエミッションによる高電圧範囲における干渉の大部分が回避される。準連続的な加熱ステージの周期的処理の周波数は、EMC/リプル電流に関してさらに最適化される。一般的には、ステップの調整単位が細かいほど、高電圧の車載電源システムにおける干渉も小さくなる。
【0068】
以上要約すると、本発明は、特に電気推進装置を備えた自動車のための、閉ループ制御可能な電気加熱装置に関する。動作条件が絶え間なく変化する中で、設定値と実効値との比較に基づく再調整により、電力を指定された要求電力に補正する。この目的のため、加熱装置を通過する全電流を例えばホールセンサによって測定し、規定の車内電圧を乗ずることによって、瞬間的な消費電力(実効値)を求める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に電気推進装置を備えた自動車用の電気加熱装置であって、
前記加熱装置を流れる電流によって加熱電力を調整する制御装置(230,320)、
を備えている、電気加熱装置において、
全加熱電流(360)を測定する装置と、
測定された前記全加熱電流(360)と、前記自動車の車内電圧(350)とから、瞬間的な加熱電力を計算する計算装置(310)と、
前記制御装置(230,320)によって調整される前記加熱電力が、前記瞬間的な加熱電力および設定値(370)に基づいて再調整されることと、
を特徴とする、電気加熱装置。
【請求項2】
前記全加熱電流(360)を測定する前記装置がホールセンサ(400)を備えている、
請求項1に記載の電気加熱装置。
【請求項3】
少なくとも1つの加熱素子を有する第1の電気加熱ステージ(330)、
を備えており、
前記第1の電気加熱ステージ(330)の加熱電力を、前記制御装置(230,320)によって連続的に調整する、または小さいステップ間隔で調整することができる、
請求項1または請求項2に記載の電気加熱装置。
【請求項4】
それぞれが少なくとも1つの加熱素子を有する1つまたは複数のさらなる電気加熱ステージ(335)、
をさらに備えており、
前記さらなる電気加熱ステージ(335)それぞれの加熱電力が、0と最大電力との間でのみ切り替え可能であり、
前記加熱電力を、前記電気加熱ステージ(330,335)の前記制御装置(230,320)により、前記加熱ステージそれぞれを流れる電流によって個別に調整できる、
請求項3に記載の電気加熱装置。
【請求項5】
前記車内電圧(350)が、前記自動車の通信インタフェースを通じてメッセージとして前記加熱装置に送信される、
請求項1から請求項4のいずれかに記載の電気加熱装置。
【請求項6】
前記通信インタフェースが車載バスである、
請求項5に記載の電気加熱装置。
【請求項7】
前記車内電圧(350)が前記加熱装置において測定される、
請求項1から請求項4のいずれかに記載の電気加熱装置。
【請求項8】
前記第1の電気加熱ステージ(330)の前記加熱電力を、前記第1の電気加熱ステージ(330)を流れる電流の変調によって小さいステップ間隔で調整することができ、
前記加熱装置が、割当てテーブル(500)を格納する第2の不揮発性メモリ(410)をさらに備えており、前記割当てテーブル(500)が、前記第1の電気加熱ステージ(330)を作動させる時間長(520)を、複数の所定の電力段(510)の各電力段に割り当てており、
前記第1の電気加熱ステージ(330)の前記加熱電力を調整する前記制御装置(230,320)が、前記第1の電気加熱ステージ(330)を流れる電流を、指定されているサイクルフレームの中で、前記割当てテーブル(500)において電力段(510)に割り当てられている前記時間長(520)だけ通電する、
請求項3から請求項7のいずれかに記載の電気加熱装置。
【請求項9】
前記割当てテーブル(500)に格納されている前記時間長(520)と、前記第1の電気加熱ステージの、対応する前記電力段(510)の電力値との間の依存関係が、非線形である、
請求項8に記載の電気加熱装置。
【請求項10】
流体を加熱するのに適している、
請求項1から請求項9のいずれかに記載の電気加熱装置。
【請求項11】
前記設定値(370)からの、前記瞬間的な加熱電力の逸脱量を求めるための比較器(310)、
をさらに備えており、
前記再調整が、前記設定値(370)からの、前記瞬間的な加熱電力の前記逸脱量を最小にする、
請求項1から請求項10のいずれかに記載の電気加熱装置。
【請求項12】
前記加熱素子がPTC加熱素子である、
請求項1から請求項11のいずれかに記載の電気加熱装置。
【請求項13】
前記再調整がマイクロコントローラ(310)によって実施される、
請求項1から請求項12のいずれかに記載の電気加熱装置。
【請求項14】
自動車用の電気加熱装置を制御する方法であって、
加熱電力が前記加熱装置を流れる電流によって調整される、
方法において、
全加熱電流(360)を測定するステップと、
測定された前記全加熱電流(360)と、前記自動車の車内電圧(350)とから、瞬間的な加熱電力を計算するステップと、
調整される前記加熱電力を、前記瞬間的な加熱電力および設定値(370)に基づいて再調整するステップと、
を特徴とする、方法。
【請求項15】
前記加熱装置が、少なくとも1つの加熱素子を有する第1の電気加熱ステージ(330)を備えており、
前記設定のステップが、前記第1の電気加熱ステージ(330)を連続的に、または小さいステップ間隔で調整する、
請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207472(P2011−207472A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−48986(P2011−48986)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(501324823)エーベルスパッヒャー・カテム・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディットゲゼルシャフト (23)
【Fターム(参考)】