電気化学インピーダンス分光法を使用するその場電池診断方法
【課題】電池のような電力貯蔵用の電気化学システムの内部状態を推定する方法を提供する。
【解決手段】調査する電気化学システムと同じ種類の電気化学システムの様々な内部状態についてSoCおよび電気化学インピーダンスを求める。次に、電気化学インピーダンスモデルをSoCおよび複数のパラメータの関数として定義する。様々な内部状態について得られた電気化学インピーダンス測定値を調整することによってこれらのパラメータを較正する。調査したシステムの電気化学インピーダンスZを求め、電気化学インピーダンスZに適用されたモデルを使用してシステムのSoCを推定する。
【解決手段】調査する電気化学システムと同じ種類の電気化学システムの様々な内部状態についてSoCおよび電気化学インピーダンスを求める。次に、電気化学インピーダンスモデルをSoCおよび複数のパラメータの関数として定義する。様々な内部状態について得られた電気化学インピーダンス測定値を調整することによってこれらのパラメータを較正する。調査したシステムの電気化学インピーダンスZを求め、電気化学インピーダンスZに適用されたモデルを使用してシステムのSoCを推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池(鉛、Ni−MH、Liイオンなど)のような電力貯蔵用の電気化学システムの内部状態を推定する方法に関する。この方法は、電池を、固定または搭載する用途において、特に電池の動作時に管理できるようにする。
【背景技術】
【0002】
電池は、ハイブリッドまたは電気車輌用途の場合において最も重大な構成要素の1つである。これらの用途の適切な運用は、様々な動的要求レベル同士を最もうまく兼ね合わせて電池を動作させることを目的とするスマート電池管理システム(BMS)に基づいている。このBMSには、充電状態(SoC)および健全状態(SoH)についての厳密で信頼できる知識が必要である。
【0003】
電池の充電状態(SoC)は、電池の利用可能な容量に対応し、製造業者によって指定される電池の公称容量に対する割合、すなわち所与の条件の下での測定が可能であるときそのように測定された電池の総容量に対する割合で表される。SoCが分かれば、電池が、次の再充電の前に、あるいは電池が次の放電の前に電力を吸収できるようなるまで、所与の電流で電力の供給を継続することができる時間を推定することができる。この情報は、電池を使用するシステムの動作を条件付ける。
【0004】
電池の寿命の間、電池の性能は、電池が使用されている間に生じる物理的および化学的変動のために、電池が使用不能になるまで徐々に低下する傾向がある。健全状態(SoH)は電池の消耗状態を表す。このパラメータは、電池の寿命中の時間tにおける電池の総容量に対応し、寿命開始時に求められる総容量に対する割合で表され、製造業者によって指定される公称容量または所与の条件の下で寿命開始時に測定される容量と等価である。
【0005】
車輌のSoCおよびSoHを厳密でかつ確実に推定すると、たとえば、車輌管理者が、電池エネルギーポテンシャルの使用に関してとても用心深く振る舞うことがなくなるか、あるいはその逆である。充電状態を誤って診断すると、可能な走行距離を過大評価し、運転者が困った状況に陥る可能性がある。これらの指標を適切に推定すると、電池の安全装置の特大化(batterysafety oversizing)が回避され、それによって、搭載重量を抑え、したがって、消費燃料を抑えることができる。SoCおよびSoHを推定することによって、車輌の総コストが削減される。したがって、正しいSoCおよびSoH診断手段によって、車輌の動作範囲全体にわたって、効率的で信頼できる長期的な電池容量管理が保証される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池の充電状態(SoC)および健全状態(SoH)を推定するいくつかの方法が公知である。
【0007】
たとえば、公知のクーロンカウンティング法およびブックキーピング法がある。しかし、これらの方法では、自己放電などの現象を無視することによって推定誤差が生じる。SoC指標として無負荷電圧が測定される公知の方法もある。たとえば内部抵抗の推定のような他の指標を使用することも公知の方法(米国特許第6191590号明細書、欧州特許第1835297号明細書)である。
【0008】
この2つの方法は、まず、SoCが、静的マップまたは分析的関数依存性によって測定可能であるかあるいは容易に推定可能な1つ以上の数量(電位、内部抵抗)に関連付けられることを特徴とする。しかし、これらの依存性は実際には、BMSにおいて通常考慮されるものよりもずっと複雑であり、SoC推定誤差を生じさせることが多い。
【0009】
他の手法は、他の分野で公知の推定技術を使用する数学的電池モデルに基づく手法である。特に、米国特許出願公開第2007/0035307号明細書には、数学的電池モデルを使用して電池の状態変数およびパラメータをサービスデータ(電圧U、電流I、T)から推定する方法を記載している。この数学的モデルは、複数の数学的サブモデルを有し、より高速な応答を可能にすることを特徴とする。サブモデルは、RCモデルと呼ばれ、制限された周波数範囲に関連する等価電気回路型のモデルである。
【0010】
場合によってはより有望な方法は、SoCによってパラメータ化された数量をインピーダンス分光法(EIS)によって測定することに基づく。たとえば、米国特許出願公開第2007/0090843号明細書では、容量/誘導遷移に関連する周波数f±をEISによって求めることを目的としている。鉛電池とNi−Cd電池およびNi−MH電池について、周波数f±とSoCとの相関が提示される。同様な手法としては、酸鉛対に関する多周波数電気化学インピーダンス分光法に基づく自動車電池テスタSpectro CA−12(Cadex Electronics Inc.、カナダ)を発展させる等価電気回路であり、米国特許第6778913号明細書に記載されたようにSoCによって各構成要素がパラメータ化された要素の等価電気回路によるEISスペクトルのモデル化に基づく手法がある。EISスペクトルは等価電気回路によって近似され、各構成要素の変化がSoCによってパラメータ化される。同様に、米国特許第6037777号明細書では、充電状態および他の電池特性が、鉛電池または他のシステムの複素インピーダンス/アドミッタンスの実部および虚部を測定することによって判定される。RCモデルの使用は欧州特許第880710号明細書にも記載されており、電極の所および電解液中における電気化学的および物理的現象についての説明が、RCモデルの発展をサポートする働きをし、このモデルによって、電池の温度が、外部測定値に対して厳密に上昇するようにシミュレートされる。
【0011】
国際公開第2009/036444号で公知のSoH推定方法に関しては、電極の劣化反応を観測するために市販の要素に基準電極が導入される。しかし、この方法は多くの器具、特に要素に基準電極を挿入する器具が必要であるとともに、電池のより複雑な電気管理が必要である。
【0012】
仏国特許出願公開第2874701号明細書は、一時的な電気的摂動を使用して、得られた応答を基準応答と比較する方法を説明している。しかし、この方法では、この種の摂動の後の応答変動が非常に遅いLiイオン型要素を実現するのがより困難であり、したがって、厳密なSoH測定を実施することができない。
【0013】
インピーダンス分析は文献にも記載されている。U.Troltzschら(Electrochimica Acta 51、2006年、1664−1672頁)は、要素の健全状態を確保するために、電気モデルによるインピーダンスの調整を組み合わせたインピーダンス分光法を使用する方法を説明している。しかし、この技術は、該要素を測定に使用するのを停止することを必要とする。
【0014】
したがって、本発明の目的は、等価電気回路によるモデル化なしに電池などの電力貯蔵用の電気化学システムの内部状態を推定する代替方法を提供することである。この方法は、インピーダンスをたとえばSoCおよびパラメータの関数として定義するのを可能にする電気化学インピーダンスモデルに直接基づいている。これらのパラメータは、事前に様々な内部状態に関して得られた電気化学インピーダンス測定値を調整することによって較正される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、電力貯蔵用の少なくとも第1の電気化学システムの内部状態を推定する方法であって、第1の電気化学システムの内部状態に関する少なくとも1つの特性が電気化学インピーダンス測定値から推定される方法において、
第1の電気化学システムと同じ種類の少なくとも第2の電気化学システムの様々な内部状態について、第2のシステムの内部状態に関する特性を測定し、少なくとも1つの周波数で第2の電気化学システムの電気化学インピーダンスを測定する段階と、
電気化学インピーダンスモデルを特性およびパラメータの関数として定義し、内部状態に関して得られた電気化学インピーダンス測定値を調整することによってパラメータを較正する段階と、
少なくとも1つの周波数について第1の電気化学システムの電気化学インピーダンスZを求める段階と、
モデルおよび電気化学インピーダンスZを使用して電気化学システムの内部状態に関する特性を推定することによって第1の電気化学システムの内部状態を推定する段階と、を含むことを特徴とする方法に関する。
【0016】
本発明によれば、電気化学システムの内部状態に関する特性は、
i.特性の初期値を選択する段階と、
ii.モデルを初期値に適用して、少なくとも1つの周波数について第1のシステムの電気化学インピーダンスZmをモデル化する段階と、
iii.モデル化された電気化学インピーダンスZmが測定された電気化学インピーダンスZに対応するように値を調整する段階と、
によって推定することができる。
【0017】
本発明によれば、電気化学インピーダンスモデルは、
i.第1の電気化学システムと同じ種類の電気化学システム上で得られる代表的なインピーダンス線図の曲線形状を選択する段階と、
ii.曲線形状を再現できるようにする数式によってモデルを定義する段階と、
を実行することによって構成することができる。
【0018】
次式のような種類のモデルを使用することができる。
【0019】
【数1】
【0020】
上式で、
Zm:電気化学インピーダンス、
ω:周波数、
x:曲線によって形成される半円の数、
a、b、ck、dk、およびnk:第1の電気化学システムの内部状態に関する特性に応じて較正すべきモデルのパラメータである。
【0021】
様々な内部状態は、第1の電気化学システムと同じ種類の電力貯蔵用の第2の電気化学システムの促進劣化によって得ることができる。これらの様々な内部状態は、第1の電気化学システムと同じ種類であり、互いに異なる内部状態を有する1組の第2の電気化学システムを選択することによって得ることもできる。
【0022】
本発明によれば、電気化学システムの内部状態に関する特性である、システムの充電状態(SoC)、システムの健全状態(SoH)の少なくとも1つを算出することができる。
【0023】
電気化学インピーダンスは、電気化学システム内を流れる電流に電気信号を加えることによって得られる電気インピーダンス線図を測定することによって様々な周波数について求めることができる。したがって、電気インピーダンス線図は、電気化学システムに正弦波電流摂動を印加し、電気化学システムの端子の所で誘導正弦波電圧を測定することによって測定することができる。電気インピーダンス線図は、電気化学システム上の、いくつかの正弦波電流の重ね合わせの形またはホワイトノイズの形で電流摂動を印加し、電気化学システムの端子の所で誘導される正弦波電圧を測定することによって測定することも可能である。最後に、電気化学インピーダンスは、電圧信号および電流信号を時間の関数として処理することを含む非侵襲的方法を使用して得られる電気インピーダンス線図を測定することによっていくつかの周波数について求めることもできる。
【0024】
本発明によれば、電気化学システムは、静止するあるいは動作させられることができ、電気化学システムは、電池またはパックの要素であってよい。
【0025】
本発明によれば、電池パックの少なくとも1つの要素の欠陥を、電池パックの少なくとも1つの要素の機能状態(SoF)を判定することによって検出することが可能である。
【0026】
本発明は、電力貯蔵用の電気化学システムの内部状態を推定するシステムであって、
電気化学システムの電気化学インピーダンスを測定または推定する手段を含む少なくとも1つの検出器(G)と、
まず電気化学システムと同じ種類の少なくとも第2の電気化学システムの様々な内部状態についての測定手段によって較正される電気化学インピーダンスモデルを、特性の関数として記憶できるようにするメモリと、
モデルを使用して電気化学システムの内部状態に関する特性を算出する手段と、
を有するシステムにも関する。
【0027】
本発明は、本発明による電池の内部状態を推定するシステムを有するスマート電池管理または充電/放電システムにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】電池に適用される本発明による方法のフローチャートである。
【図2】様々なSoC値に関するインピーダンス線図である。
【図3】SoCが約50%である電池のインピーダンス線図(ナイキスト線図)である。
【図4】電圧U(V単位)をノルム充電容量SoCの関数として示す図である。
【図5A】実際に測定されたSoC値(SoCr)をインピーダンス式を解くことによってモデル化されたSoC値(SoCm)の関数として示す図である。
【図5B】実際に測定されたSoC値(SoCr)をインピーダンス式および電圧式を解くことによってモデル化されたSoC値(SoCm)の関数として示す図である。
【図6】C6/LiFePO4型の市販の電池について、25℃の温度でいくつかの充電状態に関して得られたインピーダンス同士の比較を示すボード線図である。
【図7】C6/LiFePO4型の市販の電池を実験的に測定することによって得られたインピーダンススペクトルを、数学的モデルに従って行われた調整の予測値に重ねたボード線図である。
【図8A】すべてのSoCについて数学的モデルによるインピーダンス調整によって得られたパラメータ(d2)を示す図である。
【図8B】SoCの関数としてのパラメータ(d2)(円)と、7次の多項式による値の予測(線)とを示す図である。
【図9】SoCが約50%である電池の他のインピーダンス線図(ナイキスト線図)である。
【図10】実際に測定されたSoC値(SoCr)を、本発明によるモデルによってモデル化されたSoC値(SoCm)の関数として示す図である。
【図11】電池のいくつかの要素に適用される本発明による方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明による方法は、輸送用途で使用される(牽引用蓄電池)あるいは再生可能なエネルギーの貯蔵に使用される、事前に識別されたモデルおよび技術の電池またはパックのセルの充電状態または健全状態を測定できるようにする。提案される原則は、BMSによって実現されるSoCおよびSoHの推定を向上させる。なぜなら、これらのデータは直接測定することができないからである。
【0030】
この方法は、場合によっては、車輌上で実現されるか、あるいはネットワークに接続された間欠的な電力生成システムに関連するエネルギー貯蔵に使用され、システムの電極の端子の所の電気インピーダンスを、非侵襲的に温度を調節しながら測定することによって、電池、特にLiイオン電池の充電状態(SoC)および健全状態(SoH)を定量的に求めるのを可能にする。
【0031】
この方法のフローチャートが図1に示されている。本発明による方法は以下の段階を含む。
段階E1:1組の電池(Bat.)に実験室試験を実施して、電気インピーダンス(Z)を周波数、SoC、SoH、およびTの関数として測定する。
段階E2:インピーダンスZのモデル(mod.)を定義し較正する。
段階E3:定義され較正されたモデルを検知器(G)に使用して技術およびモデルが段階E1と同じである電池(BatE)の内部状態を推定する。この検知器は、特に、インピーダンスを求める装置(IMP)とモデル(mod.)を実現する計算ユニット(CALC)とを有する。
【0032】
これらの段階について以下のパラグラフで詳しく説明する。
【0033】
E1−電気化学インピーダンス線図をSoC、SoH、およびTの関数として測定する段階
この段階は、電気化学インピーダンス(Z)を周波数、SoC、SoH、および任意に温度Tの関数として測定できるようにする実験室試験を実行するから成る。したがって、SoC(図2)、SoH、および/またはTの少なくとも1つの関数として電気化学インピーダンス線図(Z)が得られる。図2の各軸は、ミリオーム(mOhms)単位で表されたインピーダンスの虚部Im(Z)と、ミリオーム単位で表されたインピーダンスの実部Re(Z)と、%で表された充電状態SoCを表している。
【0034】
一般に、調査した電気化学システムと同じ種類の少なくとも第2の電気化学システムの様々な内部状態について、第2のシステムの内部状態に関する特性(SoC、SoH)が測定され、様々な周波数でこの第2の電気化学システムの電気的応答が測定される。
【0035】
一実施形態によれば、所与の種類の電池(BatE)およびこの電池の所与の用途について、同じ種類の電池(Bat.)を使用する。次に、この電池の様々な充電状態および健全状態に関して電気的応答測定を行う。選択された用途を表す促進劣化を実施してこの電池の様々な健全状態を得ることができる。たとえば、電池は、実験室において、車輌型搭載用途をシミュレートする促進劣化プロトコルを受ける。
【0036】
インピーダンス線図測定は、ガルバノスタットによって電池に(好ましくは)電流正弦波摂動を印加し、端子の所で誘導正弦波電圧を測定することによって得ることができる。他の実施形態によれば、摂動は、いくつかのまたはすべての周波数応答を同時に分析できるようにする単純な正弦波摂動の形ではなく、いくつかの正弦波の重ね合わせの形または場合によってはホワイトノイズ(同じ信号にすべての周波数が重なる)の形で印加することができる。
【0037】
インピーダンス線図をSoCの関数として測定することは、SoC範囲全体にわたって、あるいは用途によって使用される範囲に相当するSoC範囲内で行うことができる。
【0038】
用途における使用温度範囲内の温度を含むインピーダンス線図の変動を測定することもできる。
【0039】
充電および/または劣化の各状態において、電気化学システムの電気インピーダンスZは、ガルバノスタットによって電流摂動を印加することによって測定される。
【0040】
(実部ReZおよび虚部ImZの)複素数量Zは、ナイキスト線図の形で表すことができ、この場合、Im(Z)はReZの関数であり、各点は周波数に対応する。このような線図が、図2にSoCの関数として示され、図3にも示されている。したがって、高速現象(高周波数に対する内部抵抗)の応答と、電極の所の反応のような中間現象の応答と、低速現象(ワールブルグインピーダンスによって表される低周波数媒体中のイオン拡散)の応答が区別される。これらの様々な現象は、程度の差はあるがSoCおよびSoHに敏感である。したがって、インピーダンス応答は、充電状態および劣化状態の関数として変化する。しかし、各効果を分離するのは困難である。
【0041】
調査した電池と同じ種類の第2の電池の使用について説明した。各々が、異なる充電状態と健全状態の少なくとも一方を有する同じ種類の1組の電池を使用することも可能である。
【0042】
E2−インピーダンス線図モデルの定義
この段階では、インピーダンスを所与の充電状態SoC、所与の健全状態SoH、および任意に所与の温度についての周波数(ω)の関数としてモデル化できるようにする数式を定義する。このモデル化段階は、
i.所定のSoCについてのインピーダンス線図(Z)を選択し、この線図を表す曲線の形状を決定することと、
ii.この曲線形状を再現することのできる数式、すなわちモデルを定義することと、
iii.測定によって得られたインピーダンス線図上でモデルを調整するようにモデルのパラメータを較正すること、を含む。
【0043】
所与のTに、所定のSoCについてインピーダンス線図を選択する。たとえば、図3は、SoCが約50%である電池に関するインピーダンス線図を示している。この線図の曲線の形状は、電池のインピーダンス線図の特徴を示している。実際には、このインピーダンス線図は、少なくとも1つの半円を有する曲線を形成する。
【0044】
そのような曲線は以下のような数式によってモデル化することができる。
【0045】
【数2】
【0046】
上式で、Zはインピーダンスであり、ωは周波数であり、xは観測される半円の数であり、a、b、ck、dk、およびnkはモデルのパラメータである。3つの円がある場合、モデルは1+1+3+3+3=11個のパラメータを有する。すべてのパラメータは、SoC、場合によってはSoHおよび温度T、または場合によっては要素の組成(電極材料、電解液など)のような他の変数vの関数である。したがって、一般に、モデルのパラメータはpによって示され、次式が得られる。
【0047】
【数3】
【0048】
fは、たとえば多項式関数である。
【0049】
次に、電気インピーダンスモデルを、電池の各状態SoC、SoH、および温度(T)に対応する試験の各インピーダンス線図上で較正する。この較正は、パラメータa、b、ck、dk、およびnkに値を割り当てることから成る。
【0050】
各パラメータをNL25(非線形最小二乗)型アルゴリズムによる非線形回帰によって較正する。このアルゴリズムは、調整パラメータを変更することによってモデルの予測値と実験測定値との差を最小化できるようにする。
【0051】
E3−上記の関係を使用して電気化学システムの内部状態を推定する段階
調査した電気化学システムの電気インピーダンスを様々な周波数について求める。したがって、電気インピーダンス線図は、以下の方法のうちの1つを使って測定される。
−電気化学システム内を流れる電流に電気信号を加えることによって電気インピーダンス線図を測定する、
−電気化学システムに正弦波電流摂動を印加し、電気化学システムの端子の所で誘導正弦波電圧を測定する、または
−電気化学システム上の、いくつかの正弦波の重ね合わせの形またはホワイトノイズの形で電流摂動を印加し、電気化学システムの端子の所で誘導正弦波電圧を測定することによって電気インピーダンス線図を測定する。
−この電気化学線図に対して自由または動作電流信号処理を使用する。仏国特許出願第10/00778号に記載された方法を使用することができる。この方法は、追加的な信号を重ねることなく電気化学システムの電気インピーダンスを求める非侵襲的な方法である。この方法によれば、電圧および電流をシステムの端子の所で時間の関数として求め、これらの測定値を周波数信号に変換する。次に、これらの周波数信号をいくつかのセグメントにする少なくとも1回のセグメント化が行われる。電流信号のパワースペクトル密度ΨIおよび電圧信号と電流信号のクロスパワースペクトル密度ΨIVを各セグメントについて求める。最後に、パワースペクトル密度ΨIの平均とクロスパワースペクトル密度ΨIVの平均との比を算出することによって電気化学システムの電気インピーダンスを求める。
【0052】
SoCの初期値および場合によってはSoHおよびTの値を選択する。
【0053】
次に、段階2で構成された電気インピーダンスモデルを1つまたは複数の初期値に印加することによって、モデル化されたインピーダンスと求められたインピーダンスを線図上で比較する。次に、モデル化されたインピーダンス線図が測定されたインピーダンス図に対応するまでパラメータ(SoC、SoH、T)の初期値を調整する。
【0054】
測定値とモデルとの差の二乗の和を最小化することが原則であるNL2S(非線形最小二乗)アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムを使用することができる。
【0055】
このアルゴリズムでは、モデル化されたインピーダンス線図と測定されたインピーダンス線図との差は以下のように算出することができる。
【0056】
【数4】
【0057】
上式で、Sは最小化すべき複数の差の二乗の和であり、Yは調整すべきすべての測定値で構成されたサイズNのベクトルであり、Ycalcは、予測されたすべての測定値で構成されたサイズNのベクトルである。
【0058】
このように最適化プロセスによって求められた1つまたは複数の値は、電気化学システムの内部状態の推定値を構成する。
【0059】
本発明によれば、前の段階で得られたモデルが、電力貯蔵用の電気化学システムの内部状態を推定するシステムにおいて、
−インピーダンス測定システム(IMP)が、段階1で説明した方法を同じように使用することができ、かつ仏国特許出願第10/00778号に記載されたシステムなどのインピーダンス推定システムで置き換えることができる、電気化学システムの電気化学インピーダンスを測定または推定する手段を含む少なくとも1つの検出器(G)と、
−様々な内部状態を測定することによって初めに較正される電気化学インピーダンスモデルを特性の関数として記憶できるようにするメモリと、
−ソフトウェア手段(CALC)であって、
・測定システムに組み込まれない場合にインピーダンスを算出する手段、
・モデルによって電気化学システムの内部状態に関する特性を算出する最適化手段(OPT)などの手段を有するソフトウェア手段
を有するシステムで使用される。
【0060】
本発明は、上述のように電池または要素の内部状態を推定するシステムを有するスマート電池管理システムにも関する。
【0061】
このスマート管理システムは、電池充電または放電システムであってもよい。
【0062】
変形例
一実施形態によれば、電気化学インピーダンスは、複数ではなく1つの周波数について測定される。この周波数は低周波数から選択されることが好ましい。
【0063】
他の実施形態によれば、SoCの関数として(わずかに)変化する他の変数が使用される。有利なことに、電池端子での電圧が使用される。図4は、電圧U(V単位)をノルム充電容量SoCの関数として示している。各点は測定値を表している。曲線は多項式型の調整を表している。Redlich−KisterまたはMargoules型の熱力学方程式によってこれらの測定点を調整することも可能である。
【0064】
これによってU=f(SoC、T)型の数式が得られる。
【0065】
この実施形態によれば、インピーダンス線図モデルのパラメータは、以下の系を解くことによって求められる。
【0066】
【数5】
【0067】
NL2S型(非線形二乗)のアルゴリズムを使用してこの系を解くこともできる。
【0068】
図5Aおよび5Bはこの実施形態の利点を示している。図5Aは、実際に測定されたSoC値(SoCr)を、インピーダンス式を解くことによってモデル化されたSoC値(SoCm)の関数として示している。図5Bは、実際に測定されたSoC値(SoCr)を、インピーダンス式および電圧式を解くことによってモデル化されたSoC値(SoCm)の関数として示している。図5Bにより適切な調整が示されている。
【0069】
したがって、本発明による方法は、Liイオン要素の充電状態または健全状態を判定する信頼できる手段を得るのを可能にする。この方法は、すべての技術に適用することができ、分散関数として変化することのできるモデルのパラメータが計算に含められる(かつ厳密には設定されない)。最後に、この方法によれば、温度および電池のインピーダンス応答に影響を与える可能性のある任意のパラメータを考慮することが可能である。
【0070】
一例として、本発明による方法の段階は、2つの異なる2つのLiイオン電池または蓄電池技術、すなわち、LFP/C技術(LFPはリン酸鉄をベースとする陽極を示し、Cは黒鉛をベースとする陰極を示す)およびNCO/C技術(NCOは、ニッケルをベースとする陽極を示す)に適用される。
【0071】
例1:化学組成LFP/Cの要素の場合
段階1
図6は、ωがHz単位の周波数を表し、Pが度単位の位相を表し、Zがオーム単位の電気化学インピーダンス係数を表すボード線図である。この線図は、C/LFP型電池上のいくつかの充電状態について求められたインピーダンス同士を比較できるようにする。これらのインピーダンスは、異なる周波数の連続的な正弦波信号を使用して得られた。インピーダンスは、そうではなく、たとえば電池充電/放電信号にホワイトノイズを重ねることによって得ることもできる。
【0072】
この線図では、インピーダンス同士が重なっておらず、充電容量の関数として変化していることに留意されたい。
【0073】
段階2
これらの差は、本発明によって、以下の数式によってこのインピーダンス線図の曲線上でインピーダンスモデルを調整することによって定量化することができる。
【0074】
【数6】
【0075】
上式で、a、b、c1、d1、n1、c2、d2、n2は、実験値に従って調整すべきパラメータである。
【0076】
この調整数量は、ナイキスト線図またはボード線図によってSoCおよび温度について試験することができ、図7では、三角形(Pによって示される位相)および菱形(Zによって示されるインピーダンス係数)は実験値を表し、実線は調整済みの値を表している。予測値と測定値がすべて重ねられており、適切に選択されたモデルおよび適切に推定されたパラメータを用いた調整を示していることに留意されたい。
【0077】
SoCおよびTの関数として実験的に求められたすべてのインピーダンスの体系的な調整後、第2の半円に関するパラメータc2、d2、およびn2のみがSoCの関数として変化する。パラメータd2に関するSoC依存性が図8Aに示されている。パラメータのSoC依存性を調整するために多項式関数が使用される。d2の場合、7次の多項式による調整によって、図8Bに示されている道に従う数式を得ることができる。電池の充電状態にかかわらず、他のパラメータを一定にすることができる。
【0078】
最後に、SoCの関数として実行されるすべての調整によって、電池のインピーダンスを摂動周波数およびSoCの関数として予測するモデルを得ることができる。
【0079】
段階3
段階1および2で試験したのと同じ技術およびモデルであり、既知のSoCを有する電池について検討する。この電池の電気インピーダンスは、段階1および2に記載されたように測定値によって求められるか、あるいは仏国特許出願第10/00778号に記載された方法に従って求められる。本発明による、モデルに基づく最適化アルゴリズムは、実験測定値によって電池のSoCを推定できるようにする(この検証電池に関する例は図5Aに示されている)。
【0080】
有利なことに、SoCの関数としての要素の電圧(図4)はSoCに関してより高い精度を得るために使用することができる(この検証電池に関する例は図5Bに示されている)。
【0081】
例2:化学組成NCO/Cの要素の場合
この新しい例では、様々な電池技術に関する、本発明による方法のロバスト性を試験することができる。NCO/C技術の50%SoCを有するインピーダンス線図(ナイキスト線図)が図9に示されている。この曲線の形状は、モデルを次式のように定義できる3つの半円の畳み込みを示している。
【0082】
【数7】
【0083】
上式で、a、b、c1、d1、n1、c2、d2、n2、c3、d3、n3は、実験値に従って調整されるパラメータである。
【0084】
前述の例のように進行することによって、このモデルは、インピーダンス線図上で周波数、充電状態、および温度として調整され、SoC、温度、および周波数の関数としてインピーダンスモデルが得られる。
【0085】
同一の化学組成を有し既知のSoCを有する他の要素と、前述のモデルとを使用すると、所与のTで、この要素の電気インピーダンスを求めることによってこの要素のSoCを算出することが可能である。図10は、実際に測定されたSoC値(SoCr)を、モデルによってモデル化されたSoC値(SoCm)の関数として示している。本発明による方法を使用して求められたSoC値は実際のSoCに非常に近いと考えられる。
【0086】
いくつかのセルのパックを構成する電池に関連して本発明を説明した。電気化学システムは、本発明の範囲から逸脱せずにパックの要素であってよい(図11を参照されたい。BatElはパックの要素BatEを示し、添え字1、2、、、mはそれぞれ要素番号1、2、、、mを指している)。
【0087】
実際には、セルの内部状態の既存の指標は、パックの各要素に関して得られる電流、電圧、および表面温度の測定値に基づいている。
【0088】
Liイオンパックの性能のより細かな管理をしてパックの寿命を延ばし、パックの欠陥を予想するには、車輌に搭載されたLiイオン電池パックの状態を各要素または適切に選択された、いくつかの要素の規模で個々に診断することも必要になることもある。
【0089】
本発明の方法によって、各要素の充電状態(SoC)の厳密な情報により、最も弱っているセルが制限的なセルであると判定して、パックのバランス(図11のEQUIL)をより適切にとることができ、さらに、電池管理システム(BMS)ではいつでも利用可能な電力をSoCから算出することができる。
【0090】
本発明の方法による各要素の健全状態(SoH)の推定によっても、パックのバランスをより適切にとり、したがって、寿命を延ばすことができ、この指標は、時間tにおける充電状態に関する電池の残留容量を示し、それによって、最初のパックを特大にする必要も、パックの使用を控える必要もなくなる。
【0091】
本発明の方法によって、要素の欠陥(SoF機能状態)を検出すると、障害が生じて電池が停止するかあるいは劣化することなしに、欠陥のあるモジュールを使用不能にすることによって劣化モード動作に切り替えることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池(鉛、Ni−MH、Liイオンなど)のような電力貯蔵用の電気化学システムの内部状態を推定する方法に関する。この方法は、電池を、固定または搭載する用途において、特に電池の動作時に管理できるようにする。
【背景技術】
【0002】
電池は、ハイブリッドまたは電気車輌用途の場合において最も重大な構成要素の1つである。これらの用途の適切な運用は、様々な動的要求レベル同士を最もうまく兼ね合わせて電池を動作させることを目的とするスマート電池管理システム(BMS)に基づいている。このBMSには、充電状態(SoC)および健全状態(SoH)についての厳密で信頼できる知識が必要である。
【0003】
電池の充電状態(SoC)は、電池の利用可能な容量に対応し、製造業者によって指定される電池の公称容量に対する割合、すなわち所与の条件の下での測定が可能であるときそのように測定された電池の総容量に対する割合で表される。SoCが分かれば、電池が、次の再充電の前に、あるいは電池が次の放電の前に電力を吸収できるようなるまで、所与の電流で電力の供給を継続することができる時間を推定することができる。この情報は、電池を使用するシステムの動作を条件付ける。
【0004】
電池の寿命の間、電池の性能は、電池が使用されている間に生じる物理的および化学的変動のために、電池が使用不能になるまで徐々に低下する傾向がある。健全状態(SoH)は電池の消耗状態を表す。このパラメータは、電池の寿命中の時間tにおける電池の総容量に対応し、寿命開始時に求められる総容量に対する割合で表され、製造業者によって指定される公称容量または所与の条件の下で寿命開始時に測定される容量と等価である。
【0005】
車輌のSoCおよびSoHを厳密でかつ確実に推定すると、たとえば、車輌管理者が、電池エネルギーポテンシャルの使用に関してとても用心深く振る舞うことがなくなるか、あるいはその逆である。充電状態を誤って診断すると、可能な走行距離を過大評価し、運転者が困った状況に陥る可能性がある。これらの指標を適切に推定すると、電池の安全装置の特大化(batterysafety oversizing)が回避され、それによって、搭載重量を抑え、したがって、消費燃料を抑えることができる。SoCおよびSoHを推定することによって、車輌の総コストが削減される。したがって、正しいSoCおよびSoH診断手段によって、車輌の動作範囲全体にわたって、効率的で信頼できる長期的な電池容量管理が保証される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池の充電状態(SoC)および健全状態(SoH)を推定するいくつかの方法が公知である。
【0007】
たとえば、公知のクーロンカウンティング法およびブックキーピング法がある。しかし、これらの方法では、自己放電などの現象を無視することによって推定誤差が生じる。SoC指標として無負荷電圧が測定される公知の方法もある。たとえば内部抵抗の推定のような他の指標を使用することも公知の方法(米国特許第6191590号明細書、欧州特許第1835297号明細書)である。
【0008】
この2つの方法は、まず、SoCが、静的マップまたは分析的関数依存性によって測定可能であるかあるいは容易に推定可能な1つ以上の数量(電位、内部抵抗)に関連付けられることを特徴とする。しかし、これらの依存性は実際には、BMSにおいて通常考慮されるものよりもずっと複雑であり、SoC推定誤差を生じさせることが多い。
【0009】
他の手法は、他の分野で公知の推定技術を使用する数学的電池モデルに基づく手法である。特に、米国特許出願公開第2007/0035307号明細書には、数学的電池モデルを使用して電池の状態変数およびパラメータをサービスデータ(電圧U、電流I、T)から推定する方法を記載している。この数学的モデルは、複数の数学的サブモデルを有し、より高速な応答を可能にすることを特徴とする。サブモデルは、RCモデルと呼ばれ、制限された周波数範囲に関連する等価電気回路型のモデルである。
【0010】
場合によってはより有望な方法は、SoCによってパラメータ化された数量をインピーダンス分光法(EIS)によって測定することに基づく。たとえば、米国特許出願公開第2007/0090843号明細書では、容量/誘導遷移に関連する周波数f±をEISによって求めることを目的としている。鉛電池とNi−Cd電池およびNi−MH電池について、周波数f±とSoCとの相関が提示される。同様な手法としては、酸鉛対に関する多周波数電気化学インピーダンス分光法に基づく自動車電池テスタSpectro CA−12(Cadex Electronics Inc.、カナダ)を発展させる等価電気回路であり、米国特許第6778913号明細書に記載されたようにSoCによって各構成要素がパラメータ化された要素の等価電気回路によるEISスペクトルのモデル化に基づく手法がある。EISスペクトルは等価電気回路によって近似され、各構成要素の変化がSoCによってパラメータ化される。同様に、米国特許第6037777号明細書では、充電状態および他の電池特性が、鉛電池または他のシステムの複素インピーダンス/アドミッタンスの実部および虚部を測定することによって判定される。RCモデルの使用は欧州特許第880710号明細書にも記載されており、電極の所および電解液中における電気化学的および物理的現象についての説明が、RCモデルの発展をサポートする働きをし、このモデルによって、電池の温度が、外部測定値に対して厳密に上昇するようにシミュレートされる。
【0011】
国際公開第2009/036444号で公知のSoH推定方法に関しては、電極の劣化反応を観測するために市販の要素に基準電極が導入される。しかし、この方法は多くの器具、特に要素に基準電極を挿入する器具が必要であるとともに、電池のより複雑な電気管理が必要である。
【0012】
仏国特許出願公開第2874701号明細書は、一時的な電気的摂動を使用して、得られた応答を基準応答と比較する方法を説明している。しかし、この方法では、この種の摂動の後の応答変動が非常に遅いLiイオン型要素を実現するのがより困難であり、したがって、厳密なSoH測定を実施することができない。
【0013】
インピーダンス分析は文献にも記載されている。U.Troltzschら(Electrochimica Acta 51、2006年、1664−1672頁)は、要素の健全状態を確保するために、電気モデルによるインピーダンスの調整を組み合わせたインピーダンス分光法を使用する方法を説明している。しかし、この技術は、該要素を測定に使用するのを停止することを必要とする。
【0014】
したがって、本発明の目的は、等価電気回路によるモデル化なしに電池などの電力貯蔵用の電気化学システムの内部状態を推定する代替方法を提供することである。この方法は、インピーダンスをたとえばSoCおよびパラメータの関数として定義するのを可能にする電気化学インピーダンスモデルに直接基づいている。これらのパラメータは、事前に様々な内部状態に関して得られた電気化学インピーダンス測定値を調整することによって較正される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、電力貯蔵用の少なくとも第1の電気化学システムの内部状態を推定する方法であって、第1の電気化学システムの内部状態に関する少なくとも1つの特性が電気化学インピーダンス測定値から推定される方法において、
第1の電気化学システムと同じ種類の少なくとも第2の電気化学システムの様々な内部状態について、第2のシステムの内部状態に関する特性を測定し、少なくとも1つの周波数で第2の電気化学システムの電気化学インピーダンスを測定する段階と、
電気化学インピーダンスモデルを特性およびパラメータの関数として定義し、内部状態に関して得られた電気化学インピーダンス測定値を調整することによってパラメータを較正する段階と、
少なくとも1つの周波数について第1の電気化学システムの電気化学インピーダンスZを求める段階と、
モデルおよび電気化学インピーダンスZを使用して電気化学システムの内部状態に関する特性を推定することによって第1の電気化学システムの内部状態を推定する段階と、を含むことを特徴とする方法に関する。
【0016】
本発明によれば、電気化学システムの内部状態に関する特性は、
i.特性の初期値を選択する段階と、
ii.モデルを初期値に適用して、少なくとも1つの周波数について第1のシステムの電気化学インピーダンスZmをモデル化する段階と、
iii.モデル化された電気化学インピーダンスZmが測定された電気化学インピーダンスZに対応するように値を調整する段階と、
によって推定することができる。
【0017】
本発明によれば、電気化学インピーダンスモデルは、
i.第1の電気化学システムと同じ種類の電気化学システム上で得られる代表的なインピーダンス線図の曲線形状を選択する段階と、
ii.曲線形状を再現できるようにする数式によってモデルを定義する段階と、
を実行することによって構成することができる。
【0018】
次式のような種類のモデルを使用することができる。
【0019】
【数1】
【0020】
上式で、
Zm:電気化学インピーダンス、
ω:周波数、
x:曲線によって形成される半円の数、
a、b、ck、dk、およびnk:第1の電気化学システムの内部状態に関する特性に応じて較正すべきモデルのパラメータである。
【0021】
様々な内部状態は、第1の電気化学システムと同じ種類の電力貯蔵用の第2の電気化学システムの促進劣化によって得ることができる。これらの様々な内部状態は、第1の電気化学システムと同じ種類であり、互いに異なる内部状態を有する1組の第2の電気化学システムを選択することによって得ることもできる。
【0022】
本発明によれば、電気化学システムの内部状態に関する特性である、システムの充電状態(SoC)、システムの健全状態(SoH)の少なくとも1つを算出することができる。
【0023】
電気化学インピーダンスは、電気化学システム内を流れる電流に電気信号を加えることによって得られる電気インピーダンス線図を測定することによって様々な周波数について求めることができる。したがって、電気インピーダンス線図は、電気化学システムに正弦波電流摂動を印加し、電気化学システムの端子の所で誘導正弦波電圧を測定することによって測定することができる。電気インピーダンス線図は、電気化学システム上の、いくつかの正弦波電流の重ね合わせの形またはホワイトノイズの形で電流摂動を印加し、電気化学システムの端子の所で誘導される正弦波電圧を測定することによって測定することも可能である。最後に、電気化学インピーダンスは、電圧信号および電流信号を時間の関数として処理することを含む非侵襲的方法を使用して得られる電気インピーダンス線図を測定することによっていくつかの周波数について求めることもできる。
【0024】
本発明によれば、電気化学システムは、静止するあるいは動作させられることができ、電気化学システムは、電池またはパックの要素であってよい。
【0025】
本発明によれば、電池パックの少なくとも1つの要素の欠陥を、電池パックの少なくとも1つの要素の機能状態(SoF)を判定することによって検出することが可能である。
【0026】
本発明は、電力貯蔵用の電気化学システムの内部状態を推定するシステムであって、
電気化学システムの電気化学インピーダンスを測定または推定する手段を含む少なくとも1つの検出器(G)と、
まず電気化学システムと同じ種類の少なくとも第2の電気化学システムの様々な内部状態についての測定手段によって較正される電気化学インピーダンスモデルを、特性の関数として記憶できるようにするメモリと、
モデルを使用して電気化学システムの内部状態に関する特性を算出する手段と、
を有するシステムにも関する。
【0027】
本発明は、本発明による電池の内部状態を推定するシステムを有するスマート電池管理または充電/放電システムにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】電池に適用される本発明による方法のフローチャートである。
【図2】様々なSoC値に関するインピーダンス線図である。
【図3】SoCが約50%である電池のインピーダンス線図(ナイキスト線図)である。
【図4】電圧U(V単位)をノルム充電容量SoCの関数として示す図である。
【図5A】実際に測定されたSoC値(SoCr)をインピーダンス式を解くことによってモデル化されたSoC値(SoCm)の関数として示す図である。
【図5B】実際に測定されたSoC値(SoCr)をインピーダンス式および電圧式を解くことによってモデル化されたSoC値(SoCm)の関数として示す図である。
【図6】C6/LiFePO4型の市販の電池について、25℃の温度でいくつかの充電状態に関して得られたインピーダンス同士の比較を示すボード線図である。
【図7】C6/LiFePO4型の市販の電池を実験的に測定することによって得られたインピーダンススペクトルを、数学的モデルに従って行われた調整の予測値に重ねたボード線図である。
【図8A】すべてのSoCについて数学的モデルによるインピーダンス調整によって得られたパラメータ(d2)を示す図である。
【図8B】SoCの関数としてのパラメータ(d2)(円)と、7次の多項式による値の予測(線)とを示す図である。
【図9】SoCが約50%である電池の他のインピーダンス線図(ナイキスト線図)である。
【図10】実際に測定されたSoC値(SoCr)を、本発明によるモデルによってモデル化されたSoC値(SoCm)の関数として示す図である。
【図11】電池のいくつかの要素に適用される本発明による方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明による方法は、輸送用途で使用される(牽引用蓄電池)あるいは再生可能なエネルギーの貯蔵に使用される、事前に識別されたモデルおよび技術の電池またはパックのセルの充電状態または健全状態を測定できるようにする。提案される原則は、BMSによって実現されるSoCおよびSoHの推定を向上させる。なぜなら、これらのデータは直接測定することができないからである。
【0030】
この方法は、場合によっては、車輌上で実現されるか、あるいはネットワークに接続された間欠的な電力生成システムに関連するエネルギー貯蔵に使用され、システムの電極の端子の所の電気インピーダンスを、非侵襲的に温度を調節しながら測定することによって、電池、特にLiイオン電池の充電状態(SoC)および健全状態(SoH)を定量的に求めるのを可能にする。
【0031】
この方法のフローチャートが図1に示されている。本発明による方法は以下の段階を含む。
段階E1:1組の電池(Bat.)に実験室試験を実施して、電気インピーダンス(Z)を周波数、SoC、SoH、およびTの関数として測定する。
段階E2:インピーダンスZのモデル(mod.)を定義し較正する。
段階E3:定義され較正されたモデルを検知器(G)に使用して技術およびモデルが段階E1と同じである電池(BatE)の内部状態を推定する。この検知器は、特に、インピーダンスを求める装置(IMP)とモデル(mod.)を実現する計算ユニット(CALC)とを有する。
【0032】
これらの段階について以下のパラグラフで詳しく説明する。
【0033】
E1−電気化学インピーダンス線図をSoC、SoH、およびTの関数として測定する段階
この段階は、電気化学インピーダンス(Z)を周波数、SoC、SoH、および任意に温度Tの関数として測定できるようにする実験室試験を実行するから成る。したがって、SoC(図2)、SoH、および/またはTの少なくとも1つの関数として電気化学インピーダンス線図(Z)が得られる。図2の各軸は、ミリオーム(mOhms)単位で表されたインピーダンスの虚部Im(Z)と、ミリオーム単位で表されたインピーダンスの実部Re(Z)と、%で表された充電状態SoCを表している。
【0034】
一般に、調査した電気化学システムと同じ種類の少なくとも第2の電気化学システムの様々な内部状態について、第2のシステムの内部状態に関する特性(SoC、SoH)が測定され、様々な周波数でこの第2の電気化学システムの電気的応答が測定される。
【0035】
一実施形態によれば、所与の種類の電池(BatE)およびこの電池の所与の用途について、同じ種類の電池(Bat.)を使用する。次に、この電池の様々な充電状態および健全状態に関して電気的応答測定を行う。選択された用途を表す促進劣化を実施してこの電池の様々な健全状態を得ることができる。たとえば、電池は、実験室において、車輌型搭載用途をシミュレートする促進劣化プロトコルを受ける。
【0036】
インピーダンス線図測定は、ガルバノスタットによって電池に(好ましくは)電流正弦波摂動を印加し、端子の所で誘導正弦波電圧を測定することによって得ることができる。他の実施形態によれば、摂動は、いくつかのまたはすべての周波数応答を同時に分析できるようにする単純な正弦波摂動の形ではなく、いくつかの正弦波の重ね合わせの形または場合によってはホワイトノイズ(同じ信号にすべての周波数が重なる)の形で印加することができる。
【0037】
インピーダンス線図をSoCの関数として測定することは、SoC範囲全体にわたって、あるいは用途によって使用される範囲に相当するSoC範囲内で行うことができる。
【0038】
用途における使用温度範囲内の温度を含むインピーダンス線図の変動を測定することもできる。
【0039】
充電および/または劣化の各状態において、電気化学システムの電気インピーダンスZは、ガルバノスタットによって電流摂動を印加することによって測定される。
【0040】
(実部ReZおよび虚部ImZの)複素数量Zは、ナイキスト線図の形で表すことができ、この場合、Im(Z)はReZの関数であり、各点は周波数に対応する。このような線図が、図2にSoCの関数として示され、図3にも示されている。したがって、高速現象(高周波数に対する内部抵抗)の応答と、電極の所の反応のような中間現象の応答と、低速現象(ワールブルグインピーダンスによって表される低周波数媒体中のイオン拡散)の応答が区別される。これらの様々な現象は、程度の差はあるがSoCおよびSoHに敏感である。したがって、インピーダンス応答は、充電状態および劣化状態の関数として変化する。しかし、各効果を分離するのは困難である。
【0041】
調査した電池と同じ種類の第2の電池の使用について説明した。各々が、異なる充電状態と健全状態の少なくとも一方を有する同じ種類の1組の電池を使用することも可能である。
【0042】
E2−インピーダンス線図モデルの定義
この段階では、インピーダンスを所与の充電状態SoC、所与の健全状態SoH、および任意に所与の温度についての周波数(ω)の関数としてモデル化できるようにする数式を定義する。このモデル化段階は、
i.所定のSoCについてのインピーダンス線図(Z)を選択し、この線図を表す曲線の形状を決定することと、
ii.この曲線形状を再現することのできる数式、すなわちモデルを定義することと、
iii.測定によって得られたインピーダンス線図上でモデルを調整するようにモデルのパラメータを較正すること、を含む。
【0043】
所与のTに、所定のSoCについてインピーダンス線図を選択する。たとえば、図3は、SoCが約50%である電池に関するインピーダンス線図を示している。この線図の曲線の形状は、電池のインピーダンス線図の特徴を示している。実際には、このインピーダンス線図は、少なくとも1つの半円を有する曲線を形成する。
【0044】
そのような曲線は以下のような数式によってモデル化することができる。
【0045】
【数2】
【0046】
上式で、Zはインピーダンスであり、ωは周波数であり、xは観測される半円の数であり、a、b、ck、dk、およびnkはモデルのパラメータである。3つの円がある場合、モデルは1+1+3+3+3=11個のパラメータを有する。すべてのパラメータは、SoC、場合によってはSoHおよび温度T、または場合によっては要素の組成(電極材料、電解液など)のような他の変数vの関数である。したがって、一般に、モデルのパラメータはpによって示され、次式が得られる。
【0047】
【数3】
【0048】
fは、たとえば多項式関数である。
【0049】
次に、電気インピーダンスモデルを、電池の各状態SoC、SoH、および温度(T)に対応する試験の各インピーダンス線図上で較正する。この較正は、パラメータa、b、ck、dk、およびnkに値を割り当てることから成る。
【0050】
各パラメータをNL25(非線形最小二乗)型アルゴリズムによる非線形回帰によって較正する。このアルゴリズムは、調整パラメータを変更することによってモデルの予測値と実験測定値との差を最小化できるようにする。
【0051】
E3−上記の関係を使用して電気化学システムの内部状態を推定する段階
調査した電気化学システムの電気インピーダンスを様々な周波数について求める。したがって、電気インピーダンス線図は、以下の方法のうちの1つを使って測定される。
−電気化学システム内を流れる電流に電気信号を加えることによって電気インピーダンス線図を測定する、
−電気化学システムに正弦波電流摂動を印加し、電気化学システムの端子の所で誘導正弦波電圧を測定する、または
−電気化学システム上の、いくつかの正弦波の重ね合わせの形またはホワイトノイズの形で電流摂動を印加し、電気化学システムの端子の所で誘導正弦波電圧を測定することによって電気インピーダンス線図を測定する。
−この電気化学線図に対して自由または動作電流信号処理を使用する。仏国特許出願第10/00778号に記載された方法を使用することができる。この方法は、追加的な信号を重ねることなく電気化学システムの電気インピーダンスを求める非侵襲的な方法である。この方法によれば、電圧および電流をシステムの端子の所で時間の関数として求め、これらの測定値を周波数信号に変換する。次に、これらの周波数信号をいくつかのセグメントにする少なくとも1回のセグメント化が行われる。電流信号のパワースペクトル密度ΨIおよび電圧信号と電流信号のクロスパワースペクトル密度ΨIVを各セグメントについて求める。最後に、パワースペクトル密度ΨIの平均とクロスパワースペクトル密度ΨIVの平均との比を算出することによって電気化学システムの電気インピーダンスを求める。
【0052】
SoCの初期値および場合によってはSoHおよびTの値を選択する。
【0053】
次に、段階2で構成された電気インピーダンスモデルを1つまたは複数の初期値に印加することによって、モデル化されたインピーダンスと求められたインピーダンスを線図上で比較する。次に、モデル化されたインピーダンス線図が測定されたインピーダンス図に対応するまでパラメータ(SoC、SoH、T)の初期値を調整する。
【0054】
測定値とモデルとの差の二乗の和を最小化することが原則であるNL2S(非線形最小二乗)アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムを使用することができる。
【0055】
このアルゴリズムでは、モデル化されたインピーダンス線図と測定されたインピーダンス線図との差は以下のように算出することができる。
【0056】
【数4】
【0057】
上式で、Sは最小化すべき複数の差の二乗の和であり、Yは調整すべきすべての測定値で構成されたサイズNのベクトルであり、Ycalcは、予測されたすべての測定値で構成されたサイズNのベクトルである。
【0058】
このように最適化プロセスによって求められた1つまたは複数の値は、電気化学システムの内部状態の推定値を構成する。
【0059】
本発明によれば、前の段階で得られたモデルが、電力貯蔵用の電気化学システムの内部状態を推定するシステムにおいて、
−インピーダンス測定システム(IMP)が、段階1で説明した方法を同じように使用することができ、かつ仏国特許出願第10/00778号に記載されたシステムなどのインピーダンス推定システムで置き換えることができる、電気化学システムの電気化学インピーダンスを測定または推定する手段を含む少なくとも1つの検出器(G)と、
−様々な内部状態を測定することによって初めに較正される電気化学インピーダンスモデルを特性の関数として記憶できるようにするメモリと、
−ソフトウェア手段(CALC)であって、
・測定システムに組み込まれない場合にインピーダンスを算出する手段、
・モデルによって電気化学システムの内部状態に関する特性を算出する最適化手段(OPT)などの手段を有するソフトウェア手段
を有するシステムで使用される。
【0060】
本発明は、上述のように電池または要素の内部状態を推定するシステムを有するスマート電池管理システムにも関する。
【0061】
このスマート管理システムは、電池充電または放電システムであってもよい。
【0062】
変形例
一実施形態によれば、電気化学インピーダンスは、複数ではなく1つの周波数について測定される。この周波数は低周波数から選択されることが好ましい。
【0063】
他の実施形態によれば、SoCの関数として(わずかに)変化する他の変数が使用される。有利なことに、電池端子での電圧が使用される。図4は、電圧U(V単位)をノルム充電容量SoCの関数として示している。各点は測定値を表している。曲線は多項式型の調整を表している。Redlich−KisterまたはMargoules型の熱力学方程式によってこれらの測定点を調整することも可能である。
【0064】
これによってU=f(SoC、T)型の数式が得られる。
【0065】
この実施形態によれば、インピーダンス線図モデルのパラメータは、以下の系を解くことによって求められる。
【0066】
【数5】
【0067】
NL2S型(非線形二乗)のアルゴリズムを使用してこの系を解くこともできる。
【0068】
図5Aおよび5Bはこの実施形態の利点を示している。図5Aは、実際に測定されたSoC値(SoCr)を、インピーダンス式を解くことによってモデル化されたSoC値(SoCm)の関数として示している。図5Bは、実際に測定されたSoC値(SoCr)を、インピーダンス式および電圧式を解くことによってモデル化されたSoC値(SoCm)の関数として示している。図5Bにより適切な調整が示されている。
【0069】
したがって、本発明による方法は、Liイオン要素の充電状態または健全状態を判定する信頼できる手段を得るのを可能にする。この方法は、すべての技術に適用することができ、分散関数として変化することのできるモデルのパラメータが計算に含められる(かつ厳密には設定されない)。最後に、この方法によれば、温度および電池のインピーダンス応答に影響を与える可能性のある任意のパラメータを考慮することが可能である。
【0070】
一例として、本発明による方法の段階は、2つの異なる2つのLiイオン電池または蓄電池技術、すなわち、LFP/C技術(LFPはリン酸鉄をベースとする陽極を示し、Cは黒鉛をベースとする陰極を示す)およびNCO/C技術(NCOは、ニッケルをベースとする陽極を示す)に適用される。
【0071】
例1:化学組成LFP/Cの要素の場合
段階1
図6は、ωがHz単位の周波数を表し、Pが度単位の位相を表し、Zがオーム単位の電気化学インピーダンス係数を表すボード線図である。この線図は、C/LFP型電池上のいくつかの充電状態について求められたインピーダンス同士を比較できるようにする。これらのインピーダンスは、異なる周波数の連続的な正弦波信号を使用して得られた。インピーダンスは、そうではなく、たとえば電池充電/放電信号にホワイトノイズを重ねることによって得ることもできる。
【0072】
この線図では、インピーダンス同士が重なっておらず、充電容量の関数として変化していることに留意されたい。
【0073】
段階2
これらの差は、本発明によって、以下の数式によってこのインピーダンス線図の曲線上でインピーダンスモデルを調整することによって定量化することができる。
【0074】
【数6】
【0075】
上式で、a、b、c1、d1、n1、c2、d2、n2は、実験値に従って調整すべきパラメータである。
【0076】
この調整数量は、ナイキスト線図またはボード線図によってSoCおよび温度について試験することができ、図7では、三角形(Pによって示される位相)および菱形(Zによって示されるインピーダンス係数)は実験値を表し、実線は調整済みの値を表している。予測値と測定値がすべて重ねられており、適切に選択されたモデルおよび適切に推定されたパラメータを用いた調整を示していることに留意されたい。
【0077】
SoCおよびTの関数として実験的に求められたすべてのインピーダンスの体系的な調整後、第2の半円に関するパラメータc2、d2、およびn2のみがSoCの関数として変化する。パラメータd2に関するSoC依存性が図8Aに示されている。パラメータのSoC依存性を調整するために多項式関数が使用される。d2の場合、7次の多項式による調整によって、図8Bに示されている道に従う数式を得ることができる。電池の充電状態にかかわらず、他のパラメータを一定にすることができる。
【0078】
最後に、SoCの関数として実行されるすべての調整によって、電池のインピーダンスを摂動周波数およびSoCの関数として予測するモデルを得ることができる。
【0079】
段階3
段階1および2で試験したのと同じ技術およびモデルであり、既知のSoCを有する電池について検討する。この電池の電気インピーダンスは、段階1および2に記載されたように測定値によって求められるか、あるいは仏国特許出願第10/00778号に記載された方法に従って求められる。本発明による、モデルに基づく最適化アルゴリズムは、実験測定値によって電池のSoCを推定できるようにする(この検証電池に関する例は図5Aに示されている)。
【0080】
有利なことに、SoCの関数としての要素の電圧(図4)はSoCに関してより高い精度を得るために使用することができる(この検証電池に関する例は図5Bに示されている)。
【0081】
例2:化学組成NCO/Cの要素の場合
この新しい例では、様々な電池技術に関する、本発明による方法のロバスト性を試験することができる。NCO/C技術の50%SoCを有するインピーダンス線図(ナイキスト線図)が図9に示されている。この曲線の形状は、モデルを次式のように定義できる3つの半円の畳み込みを示している。
【0082】
【数7】
【0083】
上式で、a、b、c1、d1、n1、c2、d2、n2、c3、d3、n3は、実験値に従って調整されるパラメータである。
【0084】
前述の例のように進行することによって、このモデルは、インピーダンス線図上で周波数、充電状態、および温度として調整され、SoC、温度、および周波数の関数としてインピーダンスモデルが得られる。
【0085】
同一の化学組成を有し既知のSoCを有する他の要素と、前述のモデルとを使用すると、所与のTで、この要素の電気インピーダンスを求めることによってこの要素のSoCを算出することが可能である。図10は、実際に測定されたSoC値(SoCr)を、モデルによってモデル化されたSoC値(SoCm)の関数として示している。本発明による方法を使用して求められたSoC値は実際のSoCに非常に近いと考えられる。
【0086】
いくつかのセルのパックを構成する電池に関連して本発明を説明した。電気化学システムは、本発明の範囲から逸脱せずにパックの要素であってよい(図11を参照されたい。BatElはパックの要素BatEを示し、添え字1、2、、、mはそれぞれ要素番号1、2、、、mを指している)。
【0087】
実際には、セルの内部状態の既存の指標は、パックの各要素に関して得られる電流、電圧、および表面温度の測定値に基づいている。
【0088】
Liイオンパックの性能のより細かな管理をしてパックの寿命を延ばし、パックの欠陥を予想するには、車輌に搭載されたLiイオン電池パックの状態を各要素または適切に選択された、いくつかの要素の規模で個々に診断することも必要になることもある。
【0089】
本発明の方法によって、各要素の充電状態(SoC)の厳密な情報により、最も弱っているセルが制限的なセルであると判定して、パックのバランス(図11のEQUIL)をより適切にとることができ、さらに、電池管理システム(BMS)ではいつでも利用可能な電力をSoCから算出することができる。
【0090】
本発明の方法による各要素の健全状態(SoH)の推定によっても、パックのバランスをより適切にとり、したがって、寿命を延ばすことができ、この指標は、時間tにおける充電状態に関する電池の残留容量を示し、それによって、最初のパックを特大にする必要も、パックの使用を控える必要もなくなる。
【0091】
本発明の方法によって、要素の欠陥(SoF機能状態)を検出すると、障害が生じて電池が停止するかあるいは劣化することなしに、欠陥のあるモジュールを使用不能にすることによって劣化モード動作に切り替えることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力貯蔵用の少なくとも第1の電気化学システムの内部状態を推定する方法であって、前記第1の電気化学システムの内部状態に関する少なくとも1つの特性が電気化学インピーダンス測定値から推定される方法において、
前記第1の電気化学システムと同じ種類の少なくとも第2の電気化学システムの様々な内部状態について、前記第2のシステムの内部状態に関する前記特性を測定し、少なくとも1つの周波数で前記第2の電気化学システムの電気化学インピーダンスを測定する段階と、
電気化学インピーダンスモデルを前記特性およびパラメータの関数として定義し、前記内部状態に関して得られた前記電気化学インピーダンス測定値を調整することによって前記パラメータを較正する段階と、
少なくとも1つの周波数について前記第1の電気化学システムの電気化学インピーダンスZを求める段階と、
前記モデルおよび電気化学インピーダンスZを使用して前記電気化学システムの内部状態に関する前記特性を推定することによって前記第1の電気化学システムの前記内部状態を推定する段階と、を含む方法。
【請求項2】
前記電気化学システムの前記内部状態に関する前記特性は、
i.前記特性の初期値を選択する段階と、
ii.前記モデルを前記初期値に適用して、少なくとも1つの周波数について前記第1のシステムの電気化学インピーダンスZmをモデル化する段階と、
iii.前記モデル化された電気化学インピーダンスZmが前記測定された電気化学インピーダンスZに対応するように前記値を調整する段階と、によって推定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気化学インピーダンスモデルは、
i.前記第1の電気化学システムと同じ種類の電気化学システム上で得られる代表的なインピーダンス線図の曲線形状を選択する段階と、
ii.前記曲線形状を再現できるようにする数式によって前記モデルを定義する段階と、を実行することによって構成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
次式のような種類のモデルが使用され、
【数1】
上式で、
Zm:電気化学インピーダンス、
ω:周波数、
x:前記曲線によって形成される半円の数、
a、b、ck、dk、およびnk:前記第1の電気化学システムの前記内部状態に関する前記特性に応じて較正すべきモデルのパラメータである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
様々な前記内部状態は、前記第1の電気化学システムと同じ種類の電力貯蔵用の第2の電気化学システムの促進劣化によって得られる、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
様々な前記内部状態は、前記第1の電気化学システムと同じ種類であり、異なる内部状態を有する1組の第2の電気化学システムを選択することによって得られる、請求項1から4のいずれか1項に方法。
【請求項7】
前記電気化学システムの前記内部状態に関する前記特性である、前記システムの充電状態(SoC)、前記システムの健全状態(SoH)の少なくとも1つが算出される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記電気化学インピーダンスは、前記電気化学システム内を流れる電流に電気信号を加えることによって得られる電気インピーダンス線図を測定することによって様々な周波数について求められる、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記電気インピーダンス線図は、前記電気化学システムに正弦波電流摂動を印加し、前記電気化学システムの端子の所で誘導正弦波電圧を測定することによって測定される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記電気インピーダンス線図は、前記電気化学システム上の、いくつかの正弦波の重ね合わせの形またはホワイトノイズの形で電流摂動を印加し、前記電気化学システムの前記端子の所で誘導正弦波電圧を測定することによって測定される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記電気化学インピーダンスは、電圧信号および電流信号を時間の関数として処理することを含む非侵襲的方法を使用して得られる電気インピーダンス線図を測定することによっていくつかの周波数について求められる、請求項1から10のいずれか1項に方法。
【請求項12】
前記電気化学システムは、静止するかあるいは動作させられる、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記電気化学システムは、電池またはパックの要素である、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
電池パックの少なくとも1つの要素の欠陥が、前記電池パックの少なくとも1つの要素の機能状態(SoF)を判定することによって検出される、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
電力貯蔵用の電気化学システムの内部状態を推定するシステムであって、
前記電気化学システムの電気化学インピーダンスを測定または推定する手段を含む少なくとも1つの検出器(G)と、
前記電気化学システムと同じ種類の少なくとも第2の電気化学システムの様々な内部状態についての測定手段によって初めに較正される電気化学インピーダンスモデルを、前記特性の関数として記憶できるようにするメモリと、
前記モデルを使用して前記電気化学システムの内部状態に関する特性を算出する手段と、を有するシステム。
【請求項16】
請求項15に記載の前記電池の内部状態を推定するシステムを有するスマート電池管理または充電/放電システム。
【請求項1】
電力貯蔵用の少なくとも第1の電気化学システムの内部状態を推定する方法であって、前記第1の電気化学システムの内部状態に関する少なくとも1つの特性が電気化学インピーダンス測定値から推定される方法において、
前記第1の電気化学システムと同じ種類の少なくとも第2の電気化学システムの様々な内部状態について、前記第2のシステムの内部状態に関する前記特性を測定し、少なくとも1つの周波数で前記第2の電気化学システムの電気化学インピーダンスを測定する段階と、
電気化学インピーダンスモデルを前記特性およびパラメータの関数として定義し、前記内部状態に関して得られた前記電気化学インピーダンス測定値を調整することによって前記パラメータを較正する段階と、
少なくとも1つの周波数について前記第1の電気化学システムの電気化学インピーダンスZを求める段階と、
前記モデルおよび電気化学インピーダンスZを使用して前記電気化学システムの内部状態に関する前記特性を推定することによって前記第1の電気化学システムの前記内部状態を推定する段階と、を含む方法。
【請求項2】
前記電気化学システムの前記内部状態に関する前記特性は、
i.前記特性の初期値を選択する段階と、
ii.前記モデルを前記初期値に適用して、少なくとも1つの周波数について前記第1のシステムの電気化学インピーダンスZmをモデル化する段階と、
iii.前記モデル化された電気化学インピーダンスZmが前記測定された電気化学インピーダンスZに対応するように前記値を調整する段階と、によって推定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気化学インピーダンスモデルは、
i.前記第1の電気化学システムと同じ種類の電気化学システム上で得られる代表的なインピーダンス線図の曲線形状を選択する段階と、
ii.前記曲線形状を再現できるようにする数式によって前記モデルを定義する段階と、を実行することによって構成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
次式のような種類のモデルが使用され、
【数1】
上式で、
Zm:電気化学インピーダンス、
ω:周波数、
x:前記曲線によって形成される半円の数、
a、b、ck、dk、およびnk:前記第1の電気化学システムの前記内部状態に関する前記特性に応じて較正すべきモデルのパラメータである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
様々な前記内部状態は、前記第1の電気化学システムと同じ種類の電力貯蔵用の第2の電気化学システムの促進劣化によって得られる、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
様々な前記内部状態は、前記第1の電気化学システムと同じ種類であり、異なる内部状態を有する1組の第2の電気化学システムを選択することによって得られる、請求項1から4のいずれか1項に方法。
【請求項7】
前記電気化学システムの前記内部状態に関する前記特性である、前記システムの充電状態(SoC)、前記システムの健全状態(SoH)の少なくとも1つが算出される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記電気化学インピーダンスは、前記電気化学システム内を流れる電流に電気信号を加えることによって得られる電気インピーダンス線図を測定することによって様々な周波数について求められる、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記電気インピーダンス線図は、前記電気化学システムに正弦波電流摂動を印加し、前記電気化学システムの端子の所で誘導正弦波電圧を測定することによって測定される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記電気インピーダンス線図は、前記電気化学システム上の、いくつかの正弦波の重ね合わせの形またはホワイトノイズの形で電流摂動を印加し、前記電気化学システムの前記端子の所で誘導正弦波電圧を測定することによって測定される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記電気化学インピーダンスは、電圧信号および電流信号を時間の関数として処理することを含む非侵襲的方法を使用して得られる電気インピーダンス線図を測定することによっていくつかの周波数について求められる、請求項1から10のいずれか1項に方法。
【請求項12】
前記電気化学システムは、静止するかあるいは動作させられる、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記電気化学システムは、電池またはパックの要素である、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
電池パックの少なくとも1つの要素の欠陥が、前記電池パックの少なくとも1つの要素の機能状態(SoF)を判定することによって検出される、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
電力貯蔵用の電気化学システムの内部状態を推定するシステムであって、
前記電気化学システムの電気化学インピーダンスを測定または推定する手段を含む少なくとも1つの検出器(G)と、
前記電気化学システムと同じ種類の少なくとも第2の電気化学システムの様々な内部状態についての測定手段によって初めに較正される電気化学インピーダンスモデルを、前記特性の関数として記憶できるようにするメモリと、
前記モデルを使用して前記電気化学システムの内部状態に関する特性を算出する手段と、を有するシステム。
【請求項16】
請求項15に記載の前記電池の内部状態を推定するシステムを有するスマート電池管理または充電/放電システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−73256(P2012−73256A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−210562(P2011−210562)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210562(P2011−210562)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】
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